説明

振動検出装置及び振動検出方法

【課題】電力供給を遮断した状態の機械装置に付加された振動を電気的に且つ高精度に検出可能で且つ小型で安価な振動検出装置及び振動検出方法を提供すること。
【解決手段】外部からの電力供給を遮断した状態における機械装置1の振動を電気的に検出する振動検出装置は、キャパシタ又は2次電池からなる電源手段87と、機械装置に所定振動レベル以上の振動が付加されたときに、その振動をMEMSスイッチを介して検出する振動検出手段92と、振動検出手段により検出された振動の有無を振動履歴として電気回路を介して記憶する振動履歴記憶手段93と、外部から機械装置に電力が供給された状態で、振動履歴記憶手段に記憶した振動履歴の有無から振動発生を判定する振動履歴判定手段と、振動履歴判定手段により振動発生を判定した場合に、機械装置の起動を禁止する起動停止手段とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動検出装置及び振動検出方法に関し、特に外部からの電力供給を遮断した状態における機械装置に付加された振動を電気的に検出し、電力供給を再開した後に振動の有無を判定するものに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、工作機械などの機械装置において、機械装置の複製、又は許可の無い転売や法律で輸出を禁止している国への輸出を防止する必要がある。それ故、機械装置の設置場所からの移動を検出する為に、振動センサ、方位センサやGPSなどを利用する技術がある。この技術は、電源を外して設置場所からの機械装置の移動を検出すると、再度電源に接続して機械装置へ電力供給した際の機械装置の起動を禁止するものである。この技術は、メーカや販売店の担当者がその禁止を解除しない限り使用できないようにする。
【0003】
例えば、特許文献1の振動検出装置は、振動検出手段と、振動履歴記憶手段と、起動禁止手段などを有している。振動検出手段は、鍾とコイルバネと近接スイッチなどで構成されている。振動履歴記憶手段は、レバーとバネなどで構成されている。この振動検出装置は、電力供給が遮断された状態で機械装置に振動が付加された場合に、所定の振動レベル以上で振動した場合レバーが鍾を係止するものである。鍾が移動したことを近接スイッチで検出することで機械的に振動を検出する。
【特許文献1】特開2003−35595号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記の振動検出装置は、機械的に振動を検出する構成であるため、鍾、レバー、バネなどの構成部品が多数必要となる。それ故、振動検出装置が大型化し、製造コストがかかる。この振動検出装置は、工作機械とは別体に設ける必要がある。それ故、設置スペースが余分に必要になる。振動検出の感度は、鍾の振動方向に依存する。それ故、機械装置の振動方向を考慮に入れて、振動検出装置を設置しなければ、鍾の振動方向と直交する方向に機械装置に振動が付加され、十分に振動を検出することができないという問題がある。
【0005】
本発明の目的は、電力供給を遮断した状態の機械装置に付加された振動を電気的に且つ高精度に検出可能な振動検出装置及び振動検出方法を提供すること、小型で且つ安価な振動検出装置及び振動検出方法を提供すること、などである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の振動検出装置は、外部からの電力供給を遮断した状態における機械装置の振動を電気的に検出する振動検出装置において、キャパシタ又は2次電池からなる電源手段と、前記機械装置に所定振動レベル以上の振動が付加されたときに、その振動をMEMSスイッチを介して検出する振動検出手段と、前記振動検出手段により検出された振動の有無を振動履歴として電気回路を介して記憶する振動履歴記憶手段と、外部から前記機械装置に電力が供給された状態で、前記振動履歴記憶手段に記憶した振動履歴の有無から振動発生を判定する振動履歴判定手段と、前記振動履歴判定手段により前記振動発生を判定した場合に、前記機械装置の起動を禁止する起動停止手段と、を備えたことを特徴としている。
【0007】
機械装置に対して外部から電力供給を遮断した状態では、キャパシタ又は2次電池からなる電源手段により、振動検出手段と振動履歴記憶手段に電力が供給される。振動検出手段は、MEMSスイッチを介して機械装置に付加された所定振動レベル以上の振動を検出する。振動履歴記憶手段は、電気回路を介して振動検出手段により検出された振動の有無を振動履歴として記憶する。
【0008】
外部から電力が供給された状態で、振動履歴判定手段が、振動履歴記憶手段に記憶した振動履歴の有無から振動発生を判定する。この振動履歴判定手段により振動を発生したと判定した場合に、起動停止手段が機械装置の起動を禁止する。従って、一度電力供給が遮断されてから再度電力が供給されるまでの間に所定振動レベル以上の振動が発生した場合、機械装置が再起動するのを禁止する。
【0009】
請求項2の振動検出装置は、請求項1の発明において、前記振動履歴記憶手段はフリップ・フロップを備え、外部からの電力供給を遮断した時に、前記フリップ・フロップにリセット信号を供給するリセット信号発生手段を設けたことを特徴としている。
【0010】
請求項3の振動検出装置は、請求項1の発明において、前記振動履歴記憶手段は、前記振動検出手段によりONされるフォトダイオードと、このフォトダイオードに連動するフォトトランジスタと、このフォトトランジスタに直列接続された抵抗とを備えたことを特徴としている。
【0011】
請求項4の振動検出方法は、外部からの電力供給を遮断した状態における機械装置の振動を電気的に検出する振動検出方法において、前記機械装置に所定振動レベル以上の振動が付加されたときに、その振動をMEMSスイッチを介して検出する振動検出工程と、前記振動検出工程において検出された振動の有無を振動履歴として電気回路を介して記憶する振動履歴記憶工程と、外部から前記機械装置に電力が供給された状態で、前記振動履歴記憶工程において記憶した振動履歴の有無から振動発生を判定する振動履歴判定工程と、前記振動履歴判定工程において前記振動発生を判定した場合に、前記機械装置の起動を禁止する起動停止工程と、を備えたことを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
請求項1の発明によれば、前記のような構成を有するため、電力供給が遮断された状態でも、機械装置に付加された所定振動レベル以上の振動を確実に検出し且つ記憶することができる。振動検出手段はMEMSスイッチを介して振動を電気的に検出するので、振動を高精度に検出可能である。本発明の振動検出装置は複数の電子部品から構成することができるので、小型な構成にすることができる。振動検出装置を既存の電子部品を用いて製作することができるため、振動検出装置を安価に製作可能である。
【0013】
請求項2の発明によれば、前記振動履歴記憶手段はフリップ・フロップを備え、外部からの電力供給を遮断した時に、前記フリップ・フロップにリセット信号を供給するリセット信号発生手段を設けたので、リセット信号発生手段によりフリップ・フロップの振動履歴をリセットすることができる。
【0014】
請求項3の発明によれば、前記振動履歴記憶手段は、前記振動検出手段によりONされるフォトダイオードと、このフォトダイオードに連動するフォトトランジスタと、このフォトトランジスタに直列接続された抵抗とを備えたので、フォトダイオードがONし、フォトトランジスタを介して抵抗に所定の電流が流れ続けることで、振動履歴を記憶することができる。
請求項4の発明によれば、請求項1と同様の効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための最良の形態について実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0016】
先ず、本発明の振動検出装置が適用される工作機械1について説明する。
図1に示す工作機械1は、ワークと工具とが相対移動することで、ワークに所望の機械加工(例えば、「穴空け」、「切削」等)を施すことができる数値制御方式のマシニングセンタである。この工作機械1(機械装置に相当する)は、基台となる鉄製のベース2と、このベース2の上部に固定した、ワークの切削加工を行う機械本体3と、ベース2に固定され、機械本体3及びベース2の上部を覆う箱状のスプラッシュカバー4とを備えている。
【0017】
図1、図2に示すように、ベース2はY軸方向(図1の紙面直交方向)に長い略直方体状に形成してある。ベース2の下部の四隅に高さ調節が可能な脚部2aを夫々設け、これら4本の脚部2aを工場等の床面に設置することにより、工作機械1を所定の設置場所に設置する。
【0018】
スプラッシュカバー4の内側に機械本体3とその加工領域を設けた。スプラッシュカバー4の前面に開口部(図示外)を設け、その開口部に1対のスライド式の開閉扉5,6を設けてある。
【0019】
この開閉扉5,6は、その略中央に、矩形状のガラス窓部5a,6aを夫々設けている。開閉扉5は、その右端部に取手部5bを設けている。開閉扉6は、その左端部に取手部6bを設けてある。これら取手部5b,6bを互いに離れる方向に開くことにより開口部を開口し、作業者はベース2の上部に固定したテーブル(図示略)に対してワークの着脱を行う。
【0020】
正面開口部の右側に、工作機械1を操作する正面視長方形状の操作パネル80を設けてある。この操作パネル80は、テンキーと各種操作スイッチを備えたキーボード81とディスプレイ82を有する。ディスプレイ82は、設定画面又は実行動作を表示するためのものであり、キーボード81の上方に設けてある。
【0021】
作業者は、この操作パネル80のディスプレイ82を確認しながらキーボード81を操作することによって、ワークの加工を実行するための加工プログラムや、工具情報、各種パラメータ等を夫々設定する。
【0022】
次に、機械本体3について説明する。
図2に示すように、機械本体3は、コラム5と、主軸ヘッド7と、主軸9と、工具交換装置(ATC)20と、テーブル10とを備えている。コラム5は、ベース2の後部上のコラム座部4の上面に固定され且つ鉛直上方に延びている。主軸ヘッド7は、コラム5の前面に沿って昇降可能に設けてある。主軸ヘッド7は、その内部に主軸9を回転可能に支持している。
【0023】
自動工具交換装置20は、主軸ヘッド7の右側に設けられ、主軸9の先端に装着される工具付きの工具ホルダを加工プログラムに基づいて自動的に交換する。テーブル10をベース2の上部に設け、このテーブル10にワークを着脱可能に固定する。コラム5の背面側に、箱状の制御ボックス6を設けてある。この制御ボックス6の内側に、工作機械1の動作を制御する数値制御装置50(図3参照)を設けてある。
【0024】
次に、テーブル10の移動機構について説明する。
図2、図3に示すように、テーブル10は、サーボモータからなるX軸モータ71及びY軸モータ72により、X軸方向(機械本体3の左右方向)及びY軸方向(機械本体3の奥行き方向)に移動駆動される。この移動機構は以下の構成からなる。テーブル10の下側に直方体状の支持台12を設けてある。その支持台12の上面にX軸方向に沿って延びる1対のX軸送りガイドを設け、1対のX軸送りガイド上にテーブル10を移動可能に支持してある。
【0025】
支持台12をベース2の上部に設け、そのベース2の長手方向に沿って延びる1対のY軸送りガイド上に移動可能に支持してある。テーブル10は、ベース2上に設けたY軸モータ72によりY軸送りガイドに沿ってY軸方向に移動駆動される。テーブル10は、支持台12上に設けたX軸モータ71によりX軸送りガイドに沿ってX軸方向に移動駆動される。
【0026】
前記X軸送りガイドに、テレスコピック式に収縮するテレスコピックカバー13,14がテーブル10の左右両側に設けてある。前記Y軸送りガイドには、テレスコピックカバー15とY軸後ろカバーとが、支持台12の前後に夫々設けてある。前記X軸送りガイドとY軸送りガイドは、テレスコピックカバー13,14,15とY軸後ろカバーによって常に覆われている。そのため、加工領域から飛散する切粉や、クーラント液の飛沫等が各軸送りガイド上に落下するのを防止できる。
【0027】
次に、主軸ヘッド7の昇降機構について説明する。
図2に示すように、主軸ヘッド7は、コラム5の前面側で上下方向に延びるガイドレールに対してリニアガイドを介して昇降自在に支持されている。主軸ヘッド7は、コラム5の前面側の上下方向に延びる送りネジに対してナットで連結されている。その送りネジをZ軸モータ73(図2参照)によって正逆方向に回転駆動することで、主軸ヘッド7が上下方向に昇降駆動される。
【0028】
次に、主軸9について説明する。
図2に示すように、主軸9は主軸ヘッド7の上部に設けた主軸モータ74により回転駆動される。主軸9の先端側部分には、先端に向かって拡径するホルダ取付穴(図示略)が設けてある。図2に示すように、自動工具交換装置20は、工具付きの工具ホルダを複数格納する工具マガジン21と、主軸9から取り外された工具ホルダと主軸9に取り付ける工具ホルダとを把持して搬送するための工具交換アーム22等を備えている。工具マガジン21は、工具ホルダを支持する複数の工具ポットと、それら工具ポットを工具マガジン21内で搬送する搬送機構とを備えている。
【0029】
次に、数値制御装置50の電気的構成について説明する。
図3に示すように、数値制御装置50は、CPU51とROM52とRAM53からなるマイクロコンピュータと、入力インターフェース54と、入出力インターフェース55とを備えている。入力インターフェース54には、操作パネル80のキーボード81が電気的に夫々接続されている。前記ROM52には、種々の制御プログラムが格納されている。前記RAM53には、ワークの加工中に取得した種々の加工負荷等表示用データを格納するデータ記憶エリアと種々のワークメモリが設けられている。
【0030】
入出力インターフェース55には、X軸駆動回路61と、Y軸駆動回路62と、Z軸駆動回路63と、主軸モータ8を駆動する主軸駆動回路64と、操作パネル80のディスプレイ82を駆動するためのCRT駆動回路65と、噴射ノズルや工具のセンター穴にクーラント液を供給するポンプ75,76を駆動するポンプ駆動回路67,68と、工作機械に付加された振動を検出する振動検出回路85が夫々電気的に接続されている。
【0031】
X軸駆動回路61には、エンコーダ71a付きのX軸モータ71が接続されている。Y軸駆動回路62には、エンコーダ72a付きのX軸モータ72が接続されている。Z軸駆動回路63には、エンコーダ73a付きのZ軸モータ73が接続されている。主軸駆動回路64には、エンコーダ74a付きのZ軸モータ74が接続されている。
【0032】
数値制御装置50のCPU51からの制御信号に基づいて、X軸駆動回路61とY軸駆動回路62とZ軸駆動回路63がX軸モータ71とY軸モータ72とZ軸モータ73を夫々駆動することにより、テーブル10を所望の位置に移動させ、主軸ヘッド7を高さ方向に所望の位置に移動させることができる。
【0033】
次に、前記工作機械1に装備する振動検出装置について説明する。
この振動検出装置は、外部からの電力供給を遮断した状態において工作機械に発生した振動を電気的に検出する装置であり、この振動検出装置は、振動検出回路85と、この振動検出回路85が電気的に接続された数値制御装置50とで構成されている。
【0034】
図4に示すように、この振動検出回路85は、AC/DCコンバータ86と、キャパシタ87と、MEMSスイッチ92と、フリップ・フロップ93と、ワンショット回路94などから同一基板上に回路構成される。この振動検出回路85は、工作機械1の制御ボックス6の内部に組み込まれ、外部からの電力供給が遮断された状態において、工作機械1に付加された振動を電気的に検出し記憶するものである。
【0035】
AC/DCコンバータ86(以下、コンバータという)は、外部の工場電源から振動検出回路85に供給される交流電力を、例えば、DC3V〜5Vの直流電力に整流し、電力信号線89を介して、ワンショット回路94と、MEMSスイッチ92と、フリップ・フロップ93とに供給する。コンバータ86とキャパシタ87は、順方向ダイオード88を介して接続されている。このダイオード88は、キャパシタ87からコンバータ86側への電流の逆流を防止する為のものである。尚、このコンバータ86を省略して、外部に設けられたコンバータで整流された直流電力を直接供給しても良い。
【0036】
キャパシタ87(電源手段に相当する)は、電力信号線89とグランドに接続されている。このキャパシタ87は、例えば、大容量の電気二重層コンデンサである。コンバータ86を介して電力が供給されている間は、このキャパシタ87は充電される。電力供給が遮断されたときに、キャパシタ87がフリップ・フロップ93とワンショット回路94に駆動電力を供給する。尚、キャパシタ87の代わりに、ニッカド電池やニッケル水素電池、リチウムイオン電池などの2次電池を使用しても良い。
【0037】
MEMSスイッチ92(振動検出手段に相当する)は、外部からの振動に応じて振動する薄膜状の可動電極92aと、キャパシタ側電極92bと、薄膜状のグランド側電極92cを有する。可動電極92aの一端は、フリップ・フロップ93に接続されている。可動電極92aの他端は、振動が無い状態ではキャパシタ側電極92bに接触し、振動が付加されるとキャパシタ側電極92bとグランド側電極92cとの間を揺動する。
【0038】
所定振動レベル以上の振動が付加された場合に、可動電極92aがグランド側電極92cに接触すると、MEMSスイッチ92がONに切り替わる。それ故、このスイッチ92は、OFF状態では「H」レベルを出力し、ON状態では「L」レベルを出力する。この出力は、フリップ・フロップ93のクロック端子CKに入力される。尚、この振動検出回路85において、「H」レベルの電圧値は電源電圧であり、「L」レベルの電圧値は0Vである。
【0039】
フリップ・フロップ93(振動履歴記憶手段に相当する)は、MEMSスイッチ92により検出された振動の有無を振動履歴として電気回路を介して記憶するものである。入力端子Dには、ダイオード88を介してコンバータ86が接続されている。クロック端子CKにはMEMSスイッチ92が接続され、リセット端子Rにはワンショット回路94が接続され、出力端子Qには数値制御装置50の入出力インターフェース55に接続されている。このフリップ・フロップ93は、MEMSスイッチ92が振動を検出すると「H」レベルを出力し、振動が無い場合は「L」レベルを出力する。
【0040】
ワンショット回路94(リセット信号発生手段に相当する)は、フリップ・フロップ93をリセットするものである。ワンショット回路94の入力側は、コンバータ86に接続され、出力側はフリップ・フロップ93のリセット端子Rに接続される。コンバータ86からの電力供給が遮断されると、ワンショット回路94がパルス信号(リセット信号)をフリップ・フロップ93に送信する。このワンショット回路94は、工作機械1の起動時にCPU51が入力信号Bをアンプ96を介してワンショット回路94に入力する場合、パルス信号を送信する。
【0041】
次に、この振動検出回路85の作用について説明する。尚、この作用の説明には振動検出方法の一部の説明を含む。
図5のタイムチャートに示すように、工場電源から電力供給が遮断されると、ワンショット回路94が、この遮断を検出して自動的にパルス信号をフリップ・フロップ93のリセット端子Rに送信し、フリップ・フロップ93をリセットする。つまり、出力端子Qが直前の状態に関わらず「L」レベルになる。フリップ・フロップ93の入力端子Dは、外部から電力供給が遮断されても、キャパシタ87の充電電力により、常時「H」レベルが入力される。クロック端子CKには、MEMSスイッチ92から「H」レベルが入力される。
【0042】
工作機械1に振動が付加されると、MEMSスイッチ92の可動電極92aが振動する。この振動が所定振動レベル以上になると、可動電極92aがグランド側電極92cに接触する。MEMSスイッチ92がONして、「L」レベルをフリップ・フロップ93のクロック端子CKに送信する(振動検出工程に相当する)。そして、この信号がトリガーとなり、フリップ・フロップ93の出力端子Qの出力が「L」レベルから「H」レベルに切り変わる。出力端子Qの出力が「H」レベルになると、クロック端子CKへの入力信号が「L⇔H」を繰り返しても、出力端子Qの出力は、入力端子Dに「H」レベルが入力されている限り、「H」レベルの状態を保持する(振動履歴記憶工程に相当する)。
【0043】
次に、数値制御装置50のマイクロコンピュータが実行する起動停止制御について、図6のフローチャートに基づいて説明する。尚、図中Si(i=1,2・・・)は各ステップを示す。尚、この起動停止制御の説明には、振動検出方法の残部についての説明を含む。
この起動停止制御は、工作機械1に対する外部からの電力供給が遮断された後に再び電力が供給された時に実行される。先ず、この起動停止制御は、外部からの電力供給が遮断された工作機械1に再度電力供給を開始したときに開始されると、最初に工作機械1が起動する(S1)。
【0044】
次に、フリップ・フロップ93の出力を確認する(S2)。具体的には、出力端子Qの出力が「H」レベルか否かを判定し、この振動履歴の有無から振動発生を判定する。このとき、電力供給遮断中に振動が発生していた場合は、フリップ・フロップ93の出力が「H」レベルとなる。そこで、S2ではフリップ・フロップ93の出力が「H」レベルか否か判定し、その判定がYesの場合はS3へ移行する。他方、「L」レベルの場合は、この制御を終了して工作機械1の起動状態が維持される。振動発生有りと判定した場合(S2;Yes)は、S3において工作機械1の自動運転起動を停止しS4に移行する。尚、S2が振動履歴判定手段及び振動履歴判定工程に相当し、S3が起動停止手段及び起動停止工程に相当する。
【0045】
S4において、ディスプレイ82にパスワード入力と表示され、キーボード81を操作してパスワードを入力すると、S5に移行する。S5において、入力されたパスワードが正しいか否かを判定する。パスワードが正しいと判定したときは(S5;Yes)、S7に移行する。パスワードが正しくないと判定したときは(S5;No)、ディスプレイ82に警告メッセージを表示し(S6)、再度パスワード入力を要求する(S4)。
【0046】
パスワードが正しい場合には、S7において工作機械1の自動運転起動停止を解除し、警告メッセージがディスプレイ82に表示されている場合は警告メッセージを解除する。そして、S8に移行し、CPU51から入力信号Bを送信し、ワンショット回路94からパルス信号をフリップ・フロップ93に送信し、フリップ・フロップ93をリセットする。その後、この処理を終了する。
【0047】
次に、以上説明した振動検出装置の作用、効果について説明する。
工作機械1に対して外部から電力供給を遮断した状態では、キャパシタ87により、MEMSスイッチ92とフリップ・フロップ93とワンショット回路94に電力が供給される。MEMSスイッチ92が工作機械1に付加された所定振動レベル以上の振動を検出する。フリップ・フロップ93は、電気回路を介してMEMSスイッチ92により検出された振動の有無を振動履歴として記憶する。
【0048】
従って、電力供給が遮断された状態でも、工作機械1に付加された所定振動レベル以上の振動を確実に検出し且つ記憶することができる。MEMSスイッチ92が振動を電気的に検出するので、この振動検出回路85は振動を高精度に検出可能である。振動検出回路85が複数の電子部品から構成するので、振動検出回路85が小型なものになる。振動検出回路85を既存の電子部品を用いて小型に製作することが可能であるから、振動検出回路85を安価に製作することができる。
【0049】
外部から電力が供給された状態では、CPU51により、フリップ・フロップ93に記憶した振動履歴の有無から振動発生を判定する。このCPU51により振動を発生したと判定した場合に、CPU51により工作機械1の起動を禁止する。従って、工作機械1を別の場所に移動させる為に、一旦外部からの電力供給が遮断されて再び電力が供給されるまでの間に、工作機械1の移動などにより、所定振動レベル以上の振動が発生した場合、工作機械1の再起動が禁止される。
【0050】
外部からの電力供給を遮断した時に、フリップ・フロップ93にリセットする為のパルス信号を供給するワンショット回路94を設けたので、フリップ・フロップ93により振動履歴が記憶され、ワンショット回路94により、フリップ・フロップ93の振動履歴をリセットすることができる。
【実施例2】
【0051】
前記実施例1の振動検出回路85を部分的に変更した例について説明する。但し、前記実施例1と同様の構成要素には同様の符号を付して説明を省略する。
図7に示すように、振動検出回路85Aは、AC/DCコンバータ86Aとキャパシタ87AとMEMSスイッチ92Aとフォトカプラ103と複数の抵抗102,107などから同一基板上に回路構成される。AC/DCコンバータ86Aとキャパシタ87Aとダイオード88Aは、前記実施例1と同様なので説明は省略する。
【0052】
MEMSスイッチ92A(振動検出手段に相当する)は、振動により揺動可能な薄膜状の可動電極92dと、薄膜状のグランド側電極92eとを有する。可動電極92dの一端は、電力信号線を介してフォトダイオード104のカソードと、フォトトランジスタ106のコレクタに接続されている。可動電極92dは、振動が付加されていない状態では、グランド側電極92eに非接触状態である。所定振動レベル以上の振動が工作機械1に付加されると、可動電極92dがグランド側電極92eに接触する。抵抗102は、MEMSスイッチ92AがONした時にグランドに流れる電流を制限する為のものである。
【0053】
フォトカプラ103は、MEMSスイッチ92AによりONされるフォトダイオード104と、このフォトダイオード104に連動するフォトトランジスタ106を備えている。フォトダイオード104のアノードは、抵抗102を介してキャパシタ87Aとダイオード88Aに接続されている。フォトダイオード104のカソードは、MEMSスイッチ92Aの可動電極92dと、フォトトランジスタ106のコレクタに接続される。フォトトランジスタ106のエミッタには、抵抗107が直列接続されている。数値制御装置50がフォトトランジスタ106のエミッタに接続され、抵抗107の出力電圧Aを検出する。
【0054】
次に、この振動検出回路85Aの作用について説明する。尚、この説明は、振動検出方法の一部の説明を含む。
工作機械1に振動が付加されると、MEMSスイッチ92Aの可動電極92dが振動する。この振動が所定振動レベル以上になると、可動電極92dがグランド側電極92eに接触し、フォトダイオード104が通電状態となり発光する。このフォトダイオード104の発光により、フォトトランジスタ106がONし、フォトトランジスタ106がコレクタからエミッタに向けて通電可能な状態になる(振動検出工程に相当する)。
【0055】
この状態では、可動電極92dがグランド側電極92eから離間すると、MEMSスイッチ92Aには電流が流れなくなる。ここで、フォトトランジスタ106がONしているので、この電流はフォトトランジスタ106のコレクタ・エミッタ間を流れる。従って、MEMSスイッチがOFFすると、キャパシタ87Aと抵抗102とフォトダイオード104とフォトトランジスタ106と抵抗107から閉回路が形成される。
【0056】
MEMSスイッチ92Aが、振動によりON/OFFを繰り返してもフォトカプラ103のON状態は維持される。このため、工作機械1が安定した状態に配置され、振動が納まっても上記の閉回路は維持される。この閉回路には、キャパシタ87Aから抵抗102,107で制限された電流が閉回路を流れる(振動履歴記憶工程に相当する)。尚、振動履歴記憶手段は、フォトダイオード104と、フォトトランジスタ106と、抵抗107とから構成される。
【0057】
次に、数値制御装置50により実行される起動停止制御について、図8のフローチャートに基づいて説明する。尚、図6の起動停止制御と同じステップには、同じステップ番号を付して説明を省略する。また、この起動停止制御の説明は、振動検出方法の残部についての説明を含む。
【0058】
S2Aにおいて、数値制御装置50は、フォトトランジスタ106と抵抗107の間の出力電圧Aを検出する。具体的には、出力電圧Aが発生しているか否かを判定し、この振動履歴の有無から振動発生を判定する。工作機械1への電力供給を遮断した状態で、工作機械1を別の場所に移動させる為に振動が発生すると、フォトカプラ103のON状態は維持され、抵抗107に電流が流れ続けているため、出力電圧Aが「H」となる。
S2Aの判定により、出力電圧Aが発生している場合(S2;Yes)、S3へ移行する。出力電圧Aが0Vの場合(S2;No)、この制御を終了して工作機械1の起動状態が維持される。
【0059】
S8Aにおいて、数値制御装置50は、フォトカプラ103をOFFする為に、CPU51から入力信号Bを送信する。この入力信号Bは、インバータ108を介してキャパシタ87Aの出力側を瞬間的に0V、又はフォトダイオード104の閾値電圧以下に設定する。従って、フォトダイオード104に電流が流れなくなり、フォトトランジスタ106がOFFし、フォトカプラ103はOFF状態になる。その他の構成、作用及び効果は前記実施例1と同様である。
【0060】
次に、前記実施例を部分的に変更する変更例について説明する。
1]前記実施例1,2において、振動履歴記憶手段は、フリップ・フロップ93やフォトカプラ103及び抵抗107などに限らず、工作機械1への振動発生の有無を電気的に記憶するものであれば良い。
【0061】
2]前記実施例1,2は工作機械1に本発明を適用する場合を例として説明したが、工作機械1以外の種々の機械装置にも本発明を適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の実施例1に係る数値制御式工作機械の正面図である。
【図2】数値制御式工作機械の機械本体の斜視図である。
【図3】数値制御装置のブロック図である。
【図4】振動検出回路のブロック図である。
【図5】振動検出回路の作動を説明するタイムチャート図である。
【図6】起動停止制御のフローチャート図である。
【図7】実施例2に係る振動検出回路のブロック図である。
【図8】起動停止制御のフローチャート図である。
【符号の説明】
【0063】
1 工作機械
50 数値制御装置
51 CPU
85,85A 振動検出回路
87,87A キャパシタ
92,92A MEMSスイッチ
93 フリップ・フロップ
94 ワンショット回路
103 フォトカプラ
104 フォトダイオード
106 フォトトランジスタ
107 抵抗

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からの電力供給を遮断した状態における機械装置の振動を電気的に検出する振動検出装置において、
キャパシタ又は2次電池からなる電源手段と、
前記機械装置に所定振動レベル以上の振動が付加されたときに、その振動をMEMSスイッチを介して検出する振動検出手段と、
前記振動検出手段により検出された振動の有無を振動履歴として電気回路を介して記憶する振動履歴記憶手段と、
外部から前記機械装置に電力が供給された状態で、前記振動履歴記憶手段に記憶した振動履歴の有無から振動発生を判定する振動履歴判定手段と、
前記振動履歴判定手段により前記振動発生を判定した場合に、前記機械装置の起動を禁止する起動停止手段と、
を備えたことを特徴とする振動検出装置。
【請求項2】
前記振動履歴記憶手段はフリップ・フロップを備え、
外部からの電力供給を遮断した時に、前記フリップ・フロップにリセット信号を供給するリセット信号発生手段を設けたことを特徴とする請求項1に記載の振動検出装置。
【請求項3】
前記振動履歴記憶手段は、前記振動検出手段によりONされるフォトダイオードと、このフォトダイオードに連動するフォトトランジスタと、このフォトトランジスタに直列接続された抵抗とを備えたことを特徴とする請求項1に記載の振動検出装置。
【請求項4】
外部からの電力供給を遮断した状態における機械装置の振動を電気的に検出する振動検出方法において、
前記機械装置に所定振動レベル以上の振動が付加されたときに、その振動をMEMSスイッチを介して検出する振動検出工程と、
前記振動検出工程において検出された振動の有無を振動履歴として電気回路を介して記憶する振動履歴記憶工程と、
外部から前記機械装置に電力が供給された状態で、前記振動履歴記憶工程において記憶した振動履歴の有無から振動発生を判定する振動履歴判定工程と、
前記振動履歴判定工程において前記振動発生を判定した場合に、前記機械装置の起動を禁止する起動停止工程と、
を備えたことを特徴とする振動検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−151741(P2010−151741A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−332614(P2008−332614)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000005267)ブラザー工業株式会社 (13,856)
【Fターム(参考)】