説明

捺染物の製造方法および捺染用インクセット

【課題】生地の風合いを損なうことなく、高品位で堅牢な画像を有する捺染物を効率よく製造すること。
【解決手段】以下の工程を含む、捺染物の製造方法:
(1)多価金属塩と、0.01〜1質量%のポリアクリルアミドおよび/またはポリエチレンオキシドとを含み、表面張力が40mN/m以上である前処理剤を、布帛に塗布する工程;および
(2)前記工程に引き続き、顔料、水分散性樹脂、水、および水溶性有機溶剤を含む捺染インクジェット用顔料インクを、インクジェット記録法により前記布帛に付与する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録法を用いた捺染物の製法方法および捺染用インクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
繊布、不繊布などの布帛に、文字、絵、図柄などの画像を捺染する方法として、スクリーン捺染法やローラー捺染法の他に、近年では、コンピュタで画像処理して実質無版で捺染できる捺染インクジェット方法が注目されている。
布帛に対しインクジェット記録法で印字を行なう場合、一般に、インクの吸収性を付与してインク中の色材の滲みを防止するために、布帛への前処理が必要となる。
【0003】
引用文献1は、染料の高い染着を目的として、ポリマー(ポリアクリルアミド等)からなるインク受容体を有するインクジェット染色用布帛を開示する。
引用文献2は、布帛に対し滲みのない高濃度画像を形成するために、特定の分子量の水溶性樹脂(ポリエチレンオキシド)を布帛に対し1〜30質量%付着させたインクジェット捺染用布帛を開示する。
【特許文献1】特開2002−275769号公報
【特許文献2】特開平8−127982号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来技術によれば、前処理は布帛の浸漬(パッド処理)等により行なわれ、捺染印刷に先立ち、多量に付着した前処理剤を乾燥させるとともに、繊維の立毛(毛羽)を抑制するための乾燥工程(通常は、数十秒間の熱プレス)が必要である。また、多量に付着した前処理剤に埃等が付着しやすく、あるいは布帛表面に前処理剤の跡が残る(跡汚れまたは跡残り)こともあり、さらには生地の風合いが低下するという弊害もあった。
本発明は、上記従来技術の問題点を解決することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面によれば、以下の工程を含む、捺染物の製造方法が提供される。
(1)多価金属塩と、0.01〜1質量%のポリアクリルアミドおよび/またはポリエチレンオキシドとを含み、表面張力が40mN/m以上である前処理剤を、布帛に塗布する工程;および
(2)前記工程に引き続き、顔料、水分散性樹脂、水、および水溶性有機溶剤を含む捺染インクジェット用顔料インクを、インクジェット記録法により前記布帛に付与する工程。
【0006】
別の本発明の一側面によれば、以下を含む捺染用インクセットが提供される。
多価金属塩と、0.01〜1質量%のポリアクリルアミドおよび/またはポリエチレンオキシドとを含み、表面張力が40mN/m以上である前処理剤;および
顔料、水分散性樹脂、水、および水溶性有機溶剤を含む捺染インクジェット用顔料インク。
【発明の効果】
【0007】
本発明の捺染物の製造方法では、多価金属塩と、0.01〜1質量%のポリアクリルアミドおよび/またはポリエチレンオキシドとを含有する前処理剤を使用する。この前処理剤は、特定量のポリアクリルアミドおよび/またはポリエチレンオキシドを含むために、塗布により均一に薄く、跡汚れなく布帛に付与することができる。したがって、前処理後の乾燥工程(熱プレス等)が不要であり、乾燥工程を設けることなく引き続き捺染印刷を行なうことができるので、効率のよい製造が可能となる。また、前処理剤の塗布量を制御することができるので、得られた捺染物の風合いが損なわれることもない。
さらに、この前処理剤は多価金属塩を含むので、この多価金属塩が顔料を凝集させて顔料インクの滲みを防止し、かつ、インクの発色性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明に係る捺染物(捺染印刷物)の製造方法は、布帛に対する前処理剤の塗布工程(1)と、捺染インクジェット用顔料インク(以下、単に「インク」ともいう。)による画像形成工程(2)とを含む。
布帛としては、綿、絹、羊毛、麻、ナイロン、ポリエステル、レーヨン等の任意の天然・合成繊維からなる布帛を用いることができる。
【0009】
前処理剤は、多価金属塩と、0.01〜1質量%のポリアクリルアミドおよび/またはポリエチレンオキシドとを含有する。
多価金属塩は、インク中の顔料を凝集させるとともに水分散性樹脂(樹脂エマルジョン)を析出させて、布帛上にインクの膜を形成させる作用を有する。
多価金属塩は、2価以上の多価金属イオンとアニオンから構成される。2価以上の多価金属イオンとしては、たとえば、Ca2+、Mg2+、Cu2+、Ni2+、Zn2+、Ba2+が挙げられる。アニオンとしては、Cl、NO、CHCOO、I、Br、ClOが例示できる。塩として具体的には、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸銅、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、塩化カルシウムなどが挙げられる。これらは水和物であってもよい。
【0010】
これらの金属塩は、単独で使用しても、複数種を混合して用いてもよい。
多価金属塩の前処理剤中の濃度は、インクの膜を適切に形成する観点から1〜25質量%程度であることが好ましい。25質量%を超えてあまり多く入れすぎても、それ以上の効果を期待できない。
【0011】
前処理剤には、ポリアクリルアミドおよび/またはポリエチレンオキシドを配合する。この2種類の樹脂は、以下に述べる様々な効果を奏することができる。
(1)この2種類の樹脂は、ローラー等による塗布を行なっても、従来の前処理剤のように多量に転写しすぎてしまうことがなく、適正量の前処理剤を均一に薄く付与することを可能とする。その結果、ベタ画像であっても、むらのない高品位な画像が形成でき、かつ、風合いのよい捺染物を得ることができる。
(2)この2種類の樹脂は、洗濯により容易に除去されるため、布帛全面に広範囲に前処理剤を適用することもできる。
【0012】
ポリアクリルアミドおよび/またはポリエチレンオキシドは、0.01〜1質量%という少ない量で前処理剤に含まれることも、本発明の特徴の一つである。これにより、上記前処理剤の跡残りや風合い低下の問題がないことに加え、布帛へのインクの定着を阻害することもなく、堅牢性を向上させることができる。このポリマーの配合量は、0.03〜0.5質量%であることがより好ましい。
【0013】
ポリアクリルアミドおよびポリエチレンオキシドの重量平均分子量は、30万より大きく1500万以下であることが好ましく、100万〜700万であることがより好ましい。このポリマーの分子量が30万以下であると、布帛への前処理剤の付着量が過剰になる恐れがあり、1500万を超えると、布帛への塗布が困難になり、塗布むらの発生や作業効率低下の恐れがある。
【0014】
前処理剤は、水を含む水性溶液であるが、粘度調整と保湿効果の観点から、水溶性有機溶剤を添加することができる。前処理剤に使用できる水溶性有機溶剤は、後述するインクに配合される水溶性有機溶剤と同様である。この水溶性有機溶剤が含まれる場合は、前処理剤中に0.1〜20質量%の範囲で含まれることが好ましく、0.5〜10質量%の範囲であることがより好ましい。前処理剤に水溶性有機溶剤が含まれる場合は、ポリアクリルアミドおよび/またはポリエチレンオキシドを水溶性有機溶剤に分散させてから水と混合することが、均一な溶液を得るために好ましい。
さらに前処理剤には、防腐剤、粘度調製剤、酸化防止剤、界面活性剤などの、一般的にインクに配合される添加剤を任意で加えてもよい。
【0015】
前処理剤の表面張力は、40mN/m以上であり、50mN/m以上であることが好ましく、60mN/m以上であることがより好ましい。前処理剤の表面張力が40mN/m未満であると、前処理剤中の多価金属塩が布帛内部に速やかに浸透してしまい、インクに対する作用が不充分となる恐れがある。さらに、インクが布帛に付着した際に、インクの表面張力を低下させて、インクの浸透を促進してしまうために好ましくない。表面張力の上限値に特に限定はないが、布帛への濡れ性の観点から、65mN/m以下であることが好ましい。
前処理剤の粘度(23℃において、1分間かけて剪断応力を0Paから10Paに増加させたときの粘度)は、3〜300mPs・sであることが好ましく、6〜150mPs・sであることがより好ましい。
【0016】
前処理剤の布帛への付与は、塗布により行なわれる。ここで「塗布」とは、スプレー法、浸漬法、あるいはインクジェット法などではなく、各種ローラーあるいはスキージ等の付着器具を用いて、布帛に付着器具を接触させて行なう塗布を意味する。この塗布は、1回でもよいし、同じ場所に数回重ねて行なうことができる。
前処理剤を塗布する箇所は、布帛全面でも良いし、画像形成領域のみに限定してもよい。前処理剤の布帛への塗布量は、30〜200g/mであることが好ましく、80〜150g/mであることがより好ましい。
【0017】
工程(1)の前処理後に、インクジェット記録法によりインクを印刷する印刷工程(2)を行なう。インクジェットプリンタは、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよく、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドからインクの液滴を吐出させ、吐出されたインク液滴を、前処理剤が塗布された布帛上に付着させるようにする。
【0018】
インクは、顔料、水分散性樹脂、水、および水溶性有機溶剤を含む捺染用顔料インクである。
顔料は、当該技術分野で一般に用いられているものを任意に使用することができる。
顔料の平均粒径は100〜500nmであることが好ましい。顔料の平均粒径が100nm未満の場合は隠蔽力が不充分となる傾向がみられ、500nmを超える場合は吐出安定性が不充分となる傾向にある。
【0019】
具体的には、白色顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、酸化アンチモン、酸化ジルコニウムなどの無機顔料が挙げられる。無機顔料以外に、中空樹脂微粒子や、高分子微粒子を使用することもできる。
なかでも、隠蔽力の観点から、酸化チタンを使用することが好ましい。酸化チタンの平均粒径も、同様に100〜500nmであることが好ましい。酸化チタンを使用する場合は、光触媒作用を抑制するために、アルミナやシリカで表面処理されたものを使用することが好ましい。表面処理量は、顔料中に5〜20質量%程度であることが好ましい。
【0020】
色顔料としては、たとえば、アゾ系、フタロシアニン系、染料系、縮合多環系、ニトロ系、ニトロソ系等の有機顔料(ブリリアントカーミン6B、レーキレッドC、ウォッチングレッド、ジスアゾイエロー、ハンザイエロー、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、アルカリブルー、アニリンブラック等);コバルト、鉄、クロム、銅、亜鉛、鉛、チタン、バナジウム、マンガン、ニッケル等の金属類、金属酸化物および硫化物、ならびに黄土、群青、紺青等の無機顔料、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラック類を用いることができる。
【0021】
これらの顔料は、いずれか1種が単独で用いられるほか、2種以上が組み合わせて使用されてもよい。
顔料の配合量は、使用する顔料の種類によっても異なるが、必要な発色を確保する等の観点から、インク中に1〜30質量%程度含まれていることが好ましく、1〜15質量%であることがより好ましい。
【0022】
インク中に顔料を安定に分散させるために、高分子分散剤や界面活性剤に代表される公知の顔料分散剤を使用することが好ましい。
高分子分散剤としては、たとえば市販品として、日本ルーブリゾール(株)製のソルスパースシリーズ(ソルスパース20000、27000、41000、41090、43000、44000)、ジョンソンポリマー社製のジョンクリルシリーズ(ジョンクリル57、60、62、63、71、501)、第一工業製薬(株)製のポリビニルピロリドンK−30、K−90等が挙げられる。
界面活性剤としては、たとえば、花王(株)製デモールシリーズ(デモールN、RN、NL、RNL、T−45、P、EP)などのアニオン性界面活性剤、花王(株)製エマルゲンシリーズ(エマルゲンA−60、A−90、A−500、B−40、L−40、420)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。
多価金属塩を含む前処理剤との相互作用を考慮すると、顔料分散剤はアニオン性であることが好ましい。
【0023】
これらの顔料分散剤は、複数種を組み合わせて使用することもできる。
顔料分散剤を使用する場合のインク中の配合量は、その種類によって異なり特に限定はされないが、一般に、有効成分(固形分量)の質量比で顔料1に対し、0.005〜0.5の範囲で使用されることが好ましい。
【0024】
さらに、顔料表面を親水性官能基で修飾した自己分散顔料を使用することもできる。市販品としては、たとえば、キャボット社製CAB−O−JETシリーズ(CAB−O−JET200、300、250C、260M、270Y)、オリエント化学(株)製CW−1、CW−2が挙げられる。
顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料を使用してもよい。
【0025】
顔料のバインダーとなる水分散性樹脂としては、インクジェットヘッドへの材質適合性の観点から、アニオン性樹脂を用いることが好ましい。アニオン性樹脂が有するアニオン性基は、前処理剤を使用した際の多価金属塩の作用による析出のしやすさから、カルボキシ基が好ましい。
【0026】
好ましくは、布帛のような伸縮しやすい基材に対してインク膜の破断、ひび割れを防ぎ、洗濯・摩擦堅牢度を確保するために、皮膜伸度400〜1000%の樹脂が用いられ、より好ましくは皮膜伸度400〜850%の樹脂が用いられる。
また、多価金属塩との接触により樹脂が析出しやすく、隠蔽性や洗濯・摩擦堅牢度を向上させる観点から、ゼータ電位(mV)の絶対値が40以上であるとの特性を備えたアニオン性樹脂を用いることが好ましい。
さらに、摩擦堅牢度を高め且つ膜の風合いを確保する観点から、抗張力20〜50N/mmの樹脂を用いることが好ましく、抗張力30〜45N/mmの樹脂であることが一層好ましい。
【0027】
好ましい樹脂としてはたとえば、市販品として、第一工業製薬(株)製のスーパーフレックスシリーズのなかのスーパーフレックス460、470、610、700;楠本化学(株)製のNeoRezシリーズのなかのNeoRez R−9660、R−9637、R−940;(株)アデカ製アデカボンタイターシリーズのなかのアデカボンタイターHUX−380、290Kなどが挙げられる。これらは、ウレタン骨格を有するアニオン性樹脂である。
【0028】
水分散性樹脂は、複数種を組み合わせて用いることもできる。その配合量は、インク中に質量比で、顔料1に対し0.5〜2.5の範囲であることが好ましい。これにより、水分散性樹脂の配合効果を適切に発揮させることができる。すなわち、質量比で顔料1に対し0.5未満であると、充分な洗濯・摩擦堅牢度が確保できない恐れがあるとともに、前処理剤に含まれる多価金属塩との相互作用によって析出する樹脂量が少なくなるため、充分な隠蔽力を確保できない恐れがある。一方、2.5を超えると、インクの粘度に影響を与えて印字性を阻害する恐れがある。
【0029】
水は、粘度調整の観点から、インク中に、20〜80質量%含まれていることが好ましく、30〜70質量%含まれていることがより好ましい。
【0030】
水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解可能な有機化合物が用いられる。たとえば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブタノール、2−メチル−2−プロパノール等の低級アルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール等のグリコール類;グリセリン;アセチン類(モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン);トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノプロピルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコール類の誘導体;トリエタノールアミン、1−メチル−2−ピロリドン、β−チオジグリコール、スルホランを用いることができる。平均分子量200、300、400、600等の平均分子量が190〜630の範囲にあるポリエチレングリコール、平均分子量400等の平均分子量が200〜600の範囲にあるジオール型ポリプロピレングリコール、平均分子量300、700等の平均分子量が250〜800の範囲にあるトリオール型ポリプロピレングリコール、等の低分子量ポリアルキレングリコールを用いることもできる。
【0031】
これらの水溶性有機溶剤は単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。
水溶性有機溶剤は、粘度調整と保湿効果の観点から、インク中に1〜80質量%含まれていることが好ましく、10〜60質量%であることがより好ましい。
【0032】
その他、インクには、上記の成分に加え、任意に、湿潤剤(保湿剤)、表面張力調整剤(界面活性剤)、消泡剤、定着剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等を適宜含有させることができる。
湿潤剤としては、多価アルコール類を使用することができる。表面張力調整剤として、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤、または高分子系、シリコーン系、フッ素系の界面活性剤を使用できる。
【0033】
この界面活性剤を配合することにより、インクジェット方式でインクを安定に吐出させることができ、かつ、インクの浸透を適切に制御することができるために好ましい。その添加量は、界面活性剤の種類によっても異なるが、インク中に0.1〜10質量%の範囲であることが好ましい。この範囲を超えて界面活性剤を多く配合すると、インクの表面張力を低下させ、その結果布帛上でのインクの浸透が速くなりすぎて、隠蔽性や発色性を妨げる恐れがある。
【0034】
具体的には、アニオン性界面活性剤としては、花王(株)製エマールシリーズ(エマール0、10、2F、40、20C)、ネオペレックスシリーズ(ネオペレックスGS、G−15、G−25、G−65)、ペレックスシリーズ(ペレックスOT−P、TR、CS、TA、SS−L、SS−H)、デモールシリーズ(デモールN、NL、RN、MS)が挙げられる。
カチオン性界面活性剤としては、たとえば、花王(株)製アセタミンシリーズ(アセタミン24、86)、コータミンシリーズ(コータミン24P、86P、60W、86W)、サニゾールシリーズ(サニゾールC、B−50)が挙げられる。
【0035】
非イオン性界面活性剤としては、エアプロダクツ社製サーフィノールシリーズ(サーフィノール104E、104H、420、440、465、485)などのアセチレングリコール系界面活性剤や、花王(株)製エマルゲンシリーズ(エマルゲン102KG、103、104P、105、106、108、120、147、150、220、350、404、420、705、707、709、1108、4085、2025G)などのポリオキシエチレンアルキルエーテル系界面活性剤が挙げられる。
両性界面活性剤としては、花王(株)製アンヒトールシリーズ(アンヒトール20BS、24B、86B、20YB、20N)などが挙げられる。
【0036】
インクの粘度やpHを調整するために、インクに電解質を配合することもできる。電解質としては、たとえば、硫酸ナトリウム、リン酸水素カリウム、クエン酸ナトリウム、酒石酸カリウム、ホウ酸ナトリウムが挙げられ、2種以上を併用してもよい。硫酸、硝酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化アンモニウム、トリエタノールアミン等も、インクの増粘助剤やpH調整剤として用いることができる。
【0037】
酸化防止剤を配合することにより、インク成分の酸化を防止し、インクの保存安定性を向上させることができる。酸化防止剤としては、たとえば、L−アスコルビン酸、L−アスコルビン酸ナトリウム、イソアスコルビン酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、亜二チオン酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウムを用いることができる。
【0038】
防腐剤を配合することにより、インクの腐敗を防止して保存安定性を向上させることができる。防腐剤としては、たとえば、5−クロロ−2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−メチル−4−イソチアゾリン−3−オン、2−n−オクチル−4−イソチアゾリン−3−オン、1,2−ベンゾイソチアゾリン−3−オン等のイソチアゾロン系防腐剤;ヘキサヒドロ−1,3,5−トリス(2−ヒドロキシエチル)−s−トリアジン等のトリアジン系防腐剤;2−ピリジンチオールナトリウム−1−オキシド、8−オキシキノリン等のピリジン・キノリン系防腐剤;ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム等のジチオカルバメート系防腐剤;2,2−ジブロモ−3−ニトリロプロピオンアミド、2−ブロモ−2−ニトロ−1,3−プロパンジオール、2,2−ジブロモ−2−ニトロエタノール、1,2−ジブロモ−2,4−ジシアノブタン等の有機臭素系防腐剤;p−ヒドロキシ安息香酸メチル、p−ヒドロキシ安息香酸エチル、ソルビン酸カリウム、デヒドロ酢酸ナトリウム、サリチル酸を用いることができる。
【0039】
以上のような必須成分および必要に応じて任意成分を含むインクの表面張力は、30〜50mN/mであることが好ましい。インクの浸透を制御するためには、インクの表面張力を制御して、布帛への浸透速度を調節する必要がある。インクの表面張力が30mN/m未満であると、インクの浸透速度が速くなり、布帛表面でインク膜を充分に形成することができない。さらに、低表面張力のインクの場合、布帛はインクを吸収、浸透させやすいため、顔料が布帛繊維内部に浸透し、下地の布の色を隠蔽することができなくなる。一方、インクの表面張力が50mN/mより大きいと、インクジェットノズルからの吐出性が低下するため好ましくない。
【0040】
インクの粘度は、適宜調節することができるが、たとえば吐出性の観点から、1〜30mPa・sであることが好ましい。この粘度は、23℃において、1分間かけて剪断応力を0Paから10Paに増加させたときのインク粘度である。
【0041】
本発明に係る捺染インクセットは、上述の前処理剤とインクとを組み合わせたものである。このセットを使用することにより、画像が高品位であるとともに風合いの良い捺染物を効率よく製造することができる。
【実施例】
【0042】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。以下の記載において、特に断りのない限り、%は質量%、部は質量部を示す。
以下の実施例において、表面張力は、協和界面化学(株)製プレート式表面張力計「CBVP−Z型」を用いて測定した。
【0043】
<前処理剤の調製>
表1に示した組成の各前処理剤を調製した。表1に示した各成分の配合量は、固形分量である。使用した各成分の詳細は、以下のとおりである。
ポリアクリルアミド(1)(ダイヤニトリックス(株)製「アクリパーズM−2000A」、分子量450万)
ポリアクリルアミド(2)(ダイヤニトリックス(株)製「アクリパーズM−2000H」、分子量650万)
ポリエチレンオキシド(1)(明成化学工業(株)製「アルコックスE−160」、分子量350万〜400万)
ポリエチレンオキシド(2)(明成化学工業(株)製「アルコックスE−30」、分子量30万〜50万)
酢酸ビニル共重合体(酢酸ビニル・アクリル酸エステル共重合エマルジョン(日信化学(株)製「ビニブラン1245L」)
ポリビニルアルコール(電気化学工業(株)製「デンカポバールB−24」)
カルボキシメチルセルロース(和光純薬工業(株)製試薬)
ポリビニルピロリドン(日本触媒(株)製「K−90」)
界面活性剤「サーフィノール465」(アセチレングリコールエチレンオキシド、エア・プロダクツ・アンド・ケミカルズ社製)
【0044】
【表1】

【0045】
<白顔料分散体の調製>
白色顔料として酸化チタン「R62N」(堺化学工業(株)製)250g、顔料分散剤として「デモールEP」(花王(株)製)10g(有効成分で2.5g)を用い、イオン交換水740gと混合し、ビーズミル((株)シンマルエンタープライゼス製、DYNO−MILL KDL A型)を用いて、0.5mmΦのジルコニアビーズを充填率80%、滞留時間2分で分散し、白顔料分散体(顔料分25%)を得た。
【0046】
<白インクの調製>
水分散性樹脂としてウレタン樹脂(第一工業製薬(株)製「スーパーフレックス460」、固形分38%)26.3部、上記白顔料分散体40部、界面活性剤(エアプロダクツ社製「サーフィノール465」)1部、1,3−プロパンジオール20部、およびイオン交換水12.7部を混合し、5μmのメンブレンフィルターで粗粒子を除去して、白インクを作成した。得られたインクの粘度は6mPa・s(ハーケ社製応力制御式レオメータRS75(コーン角度1°、直径60mm)で測定)であり、表面張力は、35.4mN/mであった。
【0047】
上記前処理剤と白インクを用いて、次のように捺染印刷を行った。
布帛として綿100%の黒色Tシャツを用い、これに前処理剤を、ポリエチレンスポンジローラーを用いてA3サイズの大きさで、非印字部となる箇所にも全面に塗布した。前処理剤の塗布量(表1)は、容器とローラーと前処理剤の合計質量を、塗布前と塗布後で測定し、両者の差を平方メートル当たりに換算して塗布量とした。
【0048】
前処理剤がまだ乾いていない状態で引き続き(熱処理等を行なうことなく)、マスターマインド社製テキスタイルプリンタ「MMP813BT」を用いて1440dpi×1440dpi、90mm×90mmのベタ印刷を行って、160℃で1分間の熱処理を行った。
【0049】
得られた捺染物の評価を、次のように行った。
<画像むら>
布帛繊維の毛羽立ちによる画像むらを、次の基準に従って目視で評価した。
A:画像むらがなく、均一なベタ画像が得られた。
B:画像むらがやや目立つ。
C:画像むらが顕著である。
【0050】
<洗濯堅牢度>
三洋電機(株)製全自動洗濯機ASW−45A1型を用いて、各捺染物を冷水で40分間洗濯して、画像の剥がれの有無を目視で観察した。
A:画像が全く剥がれない。
B:画像の一部(面積で半分未満)が剥がれる。
C:画像の半分以上が剥がれる。
【0051】
<前処理剤跡の汚れ(残り)>
非印字部における前処理剤の跡残りについて、目視で評価した。
A:前処理剤の跡がほぼ目立たない。
B:前処理剤の跡が若干目立つ。
C:前処理剤の跡が明らかに目立つ。
【0052】
<生地の風合い>
非画像部(前処理剤塗布部)の生地の風合いを、手指で触って官能的に評価した。
A:生地本来の風合いを維持しており、生地のやわらかさがそのまま残っている。
B:生地本来の風合いがやや損なわれ、生地がやや硬くなっている。
C:生地本来の風合いが損なわれ、生地が硬くなっている。
【0053】
<画像の滲み>
ベタ画像の境界部における滲みの有無を目視で観察した。
A:画像の滲みがなく鮮明である。
B:境界線がやや鮮明性に欠ける。
C:画像が滲み、鮮明ではない。
得られた結果を、表1に併せて示す。
【0054】
実施例では、適正量の前処理剤を塗布することができ、生地の風合いを損なうことなく、高品位で堅牢な画像を形成することができた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程を含む、捺染物の製造方法:
(1)多価金属塩と、0.01〜1質量%のポリアクリルアミドおよび/またはポリエチレンオキシドとを含み、表面張力が40mN/m以上である前処理剤を、布帛に塗布する工程;および
(2)前記工程に引き続き、顔料、水分散性樹脂、水、および水溶性有機溶剤を含む捺染インクジェット用顔料インクを、インクジェット記録法により前記布帛に付与する工程。
【請求項2】
前記前処理剤の布帛への塗布量が、30〜200g/mである、請求項1記載の捺染物の製造方法。
【請求項3】
多価金属塩と、0.01〜1質量%のポリアクリルアミドおよび/またはポリエチレンオキシドとを含み、表面張力が40mN/m以上である前処理剤;および
顔料、水分散性樹脂、水、および水溶性有機溶剤を含む捺染インクジェット用顔料インク;を含む捺染用インクセット。

【公開番号】特開2009−299240(P2009−299240A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156891(P2008−156891)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000250502)理想科学工業株式会社 (1,191)
【Fターム(参考)】