説明

排ガス浄化触媒とその製造方法、および、排ガス浄化フィルタとその製造方法、および、排ガス浄化装置

【課題】原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化触媒とその製造方法、および、排ガス浄化フィルタとその製造方法、および、排ガス浄化装置を提供することを目的とする。
【解決手段】銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む第1触媒と、アルカリ金属元素を含む第2触媒と、アルカリ土類金属元素を含む第3触媒とを、耐熱性を有する無機酸化物に担持することにより、PMを効率良く酸化燃焼することができるようになるだけでなく、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた触媒を得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ディーゼルエンジンの排ガスに含まれる粒子状物質(以下PMと記す)を燃焼するための排ガス浄化触媒とその製造方法、および、排ガス浄化フィルタとその製造方法、および、排ガス浄化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被処理ガスと触媒とを接触させて空気を浄化する方法において、固定床式の場合の触媒金属飛散対策は、特許文献1に開示されているように、触媒の後段に触媒飛散防止網を設けて飛散した触媒粒子を捕集するという方法が取られている。また、移動層式の場合は、特許文献2に開示されているように、ガス処理能力が低下してしまうがガス処理速度を1.5m/s以下に下げて触媒飛散量を低減させる方法が取られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特公昭59−29286号公報(第4頁、第4図および第5図)
【特許文献2】特開平8−24623号公報(第6頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような従来の触媒飛散対策は、飛散してしまった触媒粒子を網やフィルタで物理的に捕集することは可能であるが、網やフィルタでは捕集できないようなイオン状態の金属などの原子または分子レベルでの飛散対策はなされていなかったため、空気とともに金属イオンなどが大気へ放出されてしまうという課題があった。
【0005】
そこで本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化触媒とその製造方法、および、排ガス浄化フィルタとその製造方法、および、排ガス浄化装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そして、この目的を達成するために、本発明は、耐熱性を有する無機酸化物を触媒担体とし、銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む第1触媒と、アルカリ金属元素を含む第2触媒と、アルカリ土類金属元素を含む第3触媒と、からなる排ガス浄化触媒としたものであり、これにより所期の目的を達成するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む第1触媒と、アルカリ金属元素を含む第2触媒と、アルカリ土類金属元素を含む第3触媒とを、耐熱性を有する無機酸化物に担持することにより、第1触媒は強固な結合を有する酸化物となり、第3触媒を添加することにより第2触媒を固定化することができるため、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減できるという効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明実施の形態2に記載の排ガス浄化装置の概念図
【図2】本発明実施例に記載の金属飛散試験の評価方法の概念図
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の請求項1に記載の排ガス浄化触媒は、銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む第1触媒と、アルカリ金属元素を含む第2触媒と、アルカリ土類金属元素を含む第3触媒とを、耐熱性を有する無機酸化物に担持することを特徴とする排ガス浄化触媒である。
【0010】
これにより、PMを効率良く酸化燃焼することができるようになるだけでなく、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化触媒を得ることができる。
【0011】
また、ここに示す排ガス浄化触媒は、触媒に含まれている酸素原子をPMに与えてPMを酸化させ、酸素原子が欠乏した触媒は排ガス中の酸素によって容易に酸化されて元の状態に戻るサイクルを繰り返して、PMを連続的に酸化燃焼することができる。
【0012】
第1触媒は銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む酸化物とすることにより、触媒に含まれている酸素原子の放出と、排ガス中の酸素によって酸化されて元の状態に戻るサイクルとを繰り返して、第2触媒がPMを連続的に酸化燃焼する効果を促進させることができる。
【0013】
第2触媒はアルカリ金属元素を含むことにより、PMに対して高い燃焼活性を有する。
【0014】
第3触媒はアルカリ土類金属元素を含むことにより、第2触媒を固定化することができる効果を有する。
【0015】
また、銅は2価と1価の価数をとり、銅の酸化物としては、CuO(2価)とCuO(1価)が存在し、2価から1価へ変化する際に原子間の酸素をPMに与えて酸化させることができる。1価へと還元された酸化銅は排ガス中の酸素によって容易に酸化され2価の状態に戻るため、この繰り返しによってPMを連続的に酸化燃焼することができるようになる。
【0016】
また、バナジウムは1価、2価、3価、4価、5価と多くの価数をとり、バナジウムの酸化物としては、VO(1価)、V(2価)、V(3価)、V(4価)、V(5価)が存在し、低価数へ変化する際に原子間の酸素をPMに与えて酸化させることができる。低価数へと還元された酸化バナジウムは排ガス中の酸素によって容易に酸化されるため、この繰り返しによってPMを連続的に酸化燃焼することができるようになる。
【0017】
また、モリブデンは2価、3価、4価、5価、6価と多くの価数をとり、モリブデンの酸化物としては、MoO(2価)、Mo(3価)、MoO(4価)、Mo(5価)、MoO(6価)が存在し、低価数へ変化する際に原子間の酸素をPMに与えて酸化させることができる。低価数へと還元された酸化モリブデンは排ガス中の酸素によって容易に酸化されるため、この繰り返しによってPMを連続的に酸化燃焼することができるようになる。
【0018】
また、銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも二種以上の金属元素からなる複合酸化物は、第2触媒の活性を高める作用を有するので、PMを効率良く酸化燃焼することができるようになるだけでなく、第1触媒は強固な結合を有する複合酸化物となるため金属原子が固定化され、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化触媒となる。
【0019】
また、銅とバナジウムとの複合酸化物は種々存在するが、特にCuVの結晶構造は非常に安定化するため、原子間の酸素を安定的にPMに与えて酸化させることができるようになる。
【0020】
また、触媒の担体としては、耐熱性を有する無機酸化物が好ましく、アルミナ、チタニア、シリカ、セリア、または、ジルコニアなどを用いることができる。これらは比表面積が大きいため、無機酸化物表面に担持される排ガス浄化触媒の表面積が増大し、PMとの接触確率を向上させることができるため、PMを効率良く酸化燃焼することができるようになるだけでなく、耐熱性が高いため長期間高温排ガスに暴露されても排ガス浄化触媒が安定化した状態を維持できるようになる。
【0021】
本発明の請求項2に記載の排ガス浄化触媒は、第3触媒がアルカリ土類金属の硫酸塩を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒である。
【0022】
アルカリ土類金属の硫酸塩にはアルカリ金属、特にその硫酸塩を固定化する効果があるため、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化触媒を得ることができる。
【0023】
本発明の請求項3に記載の排ガス浄化触媒は、アルカリ土類金属の硫酸塩が硫酸マグネシウムを含むことを特徴とする排ガス浄化触媒である。
【0024】
アルカリ土類金属の硫酸塩の中でも硫酸マグネシウムは、アルカリ金属、特にその硫酸塩を固定化する効果があるため、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化触媒を得ることができる。
【0025】
本発明の請求項4に記載の排ガス浄化触媒製造方法は、耐熱性を有する無機酸化物に、銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む第1触媒を担持する第1工程と、アルカリ金属元素を含む第2触媒とアルカリ土類金属元素を含む第3触媒とを担持する第2工程と、からなることを特徴とする排ガス浄化触媒製造方法である。
【0026】
これにより、耐熱性を有する無機酸化物の表面に第1触媒が担持され、さらにそこに第2触媒および第3触媒が担持された排ガス浄化フィルタとなるので、PMを効率良く酸化燃焼することができるようになるだけでなく、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化触媒を得ることができる。
【0027】
本発明の請求項5に記載の排ガス浄化触媒製造方法は、銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む第1溶液に、耐熱性を有する無機酸化物を含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで、焼成することにより第1触媒を担持する第1工程と、アルカリ金属元素とアルカリ土類金属元素とを含む第2溶液に、前記第1工程で調製した粉体を含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで、焼成することにより、第2触媒と第3触媒とを担持する第2工程と、からなることを特徴とする排ガス浄化触媒製造方法である。
【0028】
これにより、耐熱性を有する無機酸化物の表面に第1触媒が担持され、さらにそこに第2触媒および第3触媒が担持された排ガス浄化触媒を製造することができるので、PMに対して高い燃焼活性を有する第2触媒と、第2触媒の活性を高める作用を有する第1触媒との組み合わせとなり、PMを効率良く酸化燃焼することができるようになるだけでなく、第3触媒を添加することにより第2触媒を固定化することができるため、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化触媒を得ることができる。
【0029】
また、各工程の焼成温度としては、排ガス浄化触媒は600℃程度の排ガスに曝される可能性があるため、製造時に600℃以上で焼成するのが好ましく、さらには、あまり高温で焼成すると触媒の表面積が小さくなり触媒活性が低下してしまうので800℃以下で焼成するのが好ましい。
【0030】
本発明の請求項6に記載の排ガス浄化触媒製造方法は、第2溶液がアルカリ土類金属の硫酸塩を含むことを特徴とする排ガス浄化触媒製造方法である。
【0031】
アルカリ土類金属の硫酸塩にはアルカリ金属、特にその硫酸塩を固定化する効果があるため、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化触媒を得ることができる。
【0032】
本発明の請求項7に記載の排ガス浄化触媒製造方法は、アルカリ土類金属の硫酸塩が硫酸マグネシウムを含むことを特徴とする排ガス浄化触媒製造方法である。
【0033】
アルカリ土類金属の硫酸塩の中でも硫酸マグネシウムは、アルカリ金属、特にその硫酸塩を固定化する効果があるため、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化触媒を得ることができる。
【0034】
本発明の請求項8に記載の排ガス浄化フィルタは、耐熱性を有する無機酸化物を触媒担体とし、銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む第1触媒と、アルカリ金属元素を含む第2触媒と、アルカリ土類金属元素を含む第3触媒と、からなる排ガス浄化触媒を、三次元構造体に担持したことを特徴とする排ガス浄化フィルタである。
【0035】
これにより、耐熱性を有する無機酸化物の表面に第1触媒が担持され、さらにそこに第2触媒および第3触媒が担持された排ガス浄化フィルタとなるので、PMを効率良く酸化燃焼することができるようになるだけでなく、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化フィルタを得ることができる。
【0036】
また、ここに示す三次元構造体とは、三次元構造を有するものであり、触媒を含む液体などを付着させることができるものであれば特に限定されるものではないが、PMを効率良く酸化燃焼するためには、触媒を担持する面積を増やす必要があるので、表面積の大きなハニカム構造体などを用いることが好ましい。
【0037】
また、三次元構造体の材質としては、排ガス温度が600℃を超える場合もあるので、耐熱性を有するセラミック、例えば、コージェライト、アルミナ、炭化珪素など、または、耐熱性を有する金属、例えば、ステンレスを用いるのが好ましい。
【0038】
これにより、長期に渡って排ガスに暴露されることになる排ガス浄化フィルタの耐熱性が確保できる。
【0039】
本発明の請求項9に記載の排ガス浄化フィルタは、第3触媒がアルカリ土類金属の硫酸塩を含むことを特徴とする排ガス浄化フィルタである。
【0040】
アルカリ土類金属の硫酸塩にはアルカリ金属、特にその硫酸塩を固定化する効果があるため、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化フィルタを得ることができる。
【0041】
本発明の請求項10に記載の排ガス浄化フィルタは、アルカリ土類金属の硫酸塩が硫酸マグネシウムを含むことを特徴とする排ガス浄化フィルタである。
【0042】
アルカリ土類金属の硫酸塩の中でも硫酸マグネシウムは、アルカリ金属、特にその硫酸塩を固定化する効果があるため、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化フィルタを得ることができる。
【0043】
本発明の請求項11に記載の排ガス浄化フィルタ製造方法は、三次元構造体に耐熱性を有する無機酸化物を担持する第1工程と、銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む第1触媒を担持する第2工程と、アルカリ金属元素を含む第2触媒とアルカリ土類金属元素を含む第3触媒とを担持する第3工程と、からなることを特徴とする排ガス浄化フィルタ製造方法である。
【0044】
これにより、三次元構造体の表面に耐熱性を有する無機酸化物が担持され、耐熱性を有する無機酸化物の表面に第1触媒が担持され、さらにそこに第2触媒および第3触媒が担持された排ガス浄化フィルタとなるので、PMを効率良く酸化燃焼することができるようになるだけでなく、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化フィルタを得ることができる。
【0045】
本発明の請求項12に記載の排ガス浄化フィルタ製造方法は、耐熱性を有する無機酸化物を含むスラリーに三次元構造体を含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで、焼成することにより耐熱性を有する無機酸化物を担持する第1工程と、銅元素とバナジウム元素とを含む水溶液に、前記第1工程で得られた三次元構造体を含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで、焼成することにより第1触媒を担持する第2工程と、セシウム元素とマグネシウム元素とを含む水溶液に、前記第2工程で得られた三次元構造体を含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで、焼成することにより第2触媒と第3触媒とを担持する第3工程と、からなることを特徴とする排ガス浄化フィルタ製造方法である。
【0046】
これにより、三次元構造体の表面に耐熱性を有する無機酸化物が担持され、耐熱性を有する無機酸化物の表面に銅とバナジウムとの複合酸化物が担持され、さらにそこへセシウム元素とマグネシウム元素を含む化合物が担持された排ガス浄化フィルタとなるので、PMを効率良く酸化燃焼することができるようになるだけでなく、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化フィルタを得ることができる。
【0047】
また、各工程の焼成温度としては、排ガス浄化フィルタは600℃程度の排ガスに曝される可能性があるため、製造時に600℃以上で焼成するのが好ましく、さらには、あまり高温で焼成すると触媒の表面積が小さくなり触媒活性が低下してしまうので800℃以下で焼成するのが好ましい。
【0048】
本発明の請求項13に記載の排ガス浄化装置は、前記排ガス浄化フィルタを配置したことを特徴とする排ガス浄化装置である。
【0049】
前記の排ガス浄化フィルタは、耐熱性を有する無機酸化物を触媒担体とし、銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む第1触媒と、アルカリ金属元素を含む第2触媒と、アルカリ土類金属元素を含む第3触媒と、からなる排ガス浄化触媒を、三次元構造体に担持したことを特徴とする排ガス浄化フィルタであるので、PMを効率良く酸化燃焼することができるようになるだけでなく、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させた排ガス浄化装置を得ることができる。
【0050】
本発明の請求項14に記載の排ガス浄化装置は、三次元構造体がディーゼルパティキュレートフィルタであることを特徴とする排ガス浄化装置である。
【0051】
ディーゼルパティキュレートフィルタ(以下DPFと記す)はPM捕集効率が優れているため、排ガス中に含まれる粒子径の小さなPMまでも捕集することができ、排ガスを浄化することができる。
【0052】
また、DPFは非常に大きな表面積を有しているため、触媒担持量を増やすことができ、PMを効率良く酸化燃焼することができる。
【0053】
本発明の請求項15に記載の排ガス浄化装置は、三次元構造体の材質が耐熱性を有するセラミック、または、耐熱性を有する金属であることを特徴とする排ガス浄化装置である。
【0054】
これにより、長期に渡って排ガスに暴露されることになる排ガス浄化フィルタの耐熱性が確保できる。
【0055】
また、排ガス温度が600℃を超える場合もあるので、耐熱性を有するセラミックとしてはコージェライト、アルミナ、炭化珪素など、耐熱性を有する金属としてはステンレスを用いるのが好ましい。
【0056】
本発明の請求項16に記載の排ガス浄化装置は、貴金属元素を有する排ガス酸化フィルタをさらに配置したことを特徴とする排ガス浄化装置である。
【0057】
貴金属元素を有する排ガス酸化フィルタを配置することにより、排ガスに含まれる一酸化炭素(以下COと記す)や炭化水素類(以下HCと記す)などを二酸化炭素(以下COと記す)へ、一酸化窒素(以下NOと記す)を二酸化窒素(以下NOと記す)へと酸化することができる。
【0058】
本発明の請求項17に記載の排ガス浄化装置は、排ガス酸化フィルタを排ガス浄化フィルタの前段に配置したことを特徴とする排ガス浄化装置である。
【0059】
排ガス酸化フィルタが排ガスに含まれる一酸化炭素や炭化水素類などを二酸化炭素へと酸化することにより酸化熱が発生し、後段の排ガス浄化フィルタへ流入する排ガス温度が上昇するため、排ガス浄化フィルタに堆積したPMがより燃焼しやすくなるという効果を奏する。
【0060】
また、排ガス酸化フィルタの作用により生成したNOはPMに対して高い酸化力を有するため、排ガス浄化フィルタに堆積したPMがより燃焼しやすくなるという効果を奏する。
【0061】
本発明の請求項18に記載の排ガス浄化装置は、排ガス酸化フィルタがフロースルーのハニカム構造であることを特徴とする排ガス浄化装置である。
【0062】
ハニカム構造体は非常に大きな表面積を有しているため、触媒担持量を増やすことができるので、フィルタを通過する排ガス中のCOやHCなどをCOへ、NOをNOへと効率よく酸化することができる。
【0063】
また、排ガス中のPMは後段の排ガス浄化フィルタで捕集して、排ガス浄化触媒の作用により酸化燃焼させるため、前段の排ガス酸化フィルタはPM捕集効率の低いフロースルーのハニカム構造体を用いるのが好ましい。
【0064】
本発明の請求項19に記載の排ガス浄化装置は、排ガス酸化フィルタの材質が耐熱性を有するセラミック、または、耐熱性を有する金属であることを特徴とする排ガス浄化装置である。
【0065】
これにより、長期に渡って排ガスに暴露されることになる排ガス酸化フィルタの耐熱性が確保できる。
【0066】
また、排ガス温度が600℃を超える場合もあるので、耐熱性を有するセラミックとしてはコージェライト、アルミナ、炭化珪素など、耐熱性を有する金属としてはステンレスを用いるのが好ましい。
【0067】
本発明の請求項20に記載の排ガス浄化装置は、貴金属元素が白金、パラジウム、ロジウムからから選ばれる少なくとも一種以上の元素を含むことを特徴とする排ガス浄化装置である。
【0068】
これにより、排ガス中のHC、CO、NOなどのガス成分を効率良く酸化することができる。
【0069】
また、貴金属元素はアルミナ、チタニア、シリカ、セリア、または、ジルコニアなどの耐熱性を有する無機酸化物を担体とすることが好ましい。アルミナなどに貴金属を担持することにより、貴金属の劣化を抑制し、また、貴金属を高分散に担持することができるという効果を得ることができる。
【0070】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0071】
(実施の形態1)
本発明に記載の排ガス浄化フィルタおよびその製造方法について説明する。
【0072】
三次元構造体としてのコージェライト製DPFを、耐熱性を有する無機酸化物としてのチタニアを分散させた第1液に含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで焼成することにより製造したチタニア担持コージェライト(以下TiO/Cdと記す)を、硫酸銅五水和物および酸化硫酸バナジウムn水和物を含む第2液に含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで、焼成することにより、TiO/Cd表面にCuVを主成分とする第1触媒を担持させた(以下CuV/TiO/Cdと記す)。次に、CuV/TiO/Cdを硫酸セシウムおよび硫酸マグネシウムを含む第3液に含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで、焼成することにより、CuV/TiO/Cd表面に硫酸セシウムを含む第2触媒、および、硫酸マグネシウムを含む第3触媒を担持させた(以下CsMg/CuV/TiO/Cdと記す)。
【0073】
前述の方法により調製されたCsMg/CuV/TiO/Cdは、比表面積の大きなチタニアを触媒担体としているため排ガス浄化触媒の表面積が増大し、PMとの接触確率が向上するため、PMを効率良く酸化燃焼することができるようになるだけでなく、チタニアは耐熱性が高いため、長期間高温排ガスに暴露されても安定した状態を維持できる。
【0074】
また、第1触媒であるCuVは、第2触媒であるCsMgの活性を高める作用を有するので、PMを効率良く酸化燃焼することができる。
【0075】
また、第2触媒として硫酸セシウムを担持しているため、PMを効率良く酸化燃焼することができる。
【0076】
また、第3触媒として、硫酸セシウムを固定化する効果がある硫酸マグネシウムを担持しているため、硫酸セシウムの飛散量を低減させることができる。
【0077】
(実施の形態2)
本発明に記載の排ガス浄化装置について図1を参照しながら説明する。
【0078】
図1に示すように、本発明に記載の排ガス浄化装置は、フィルタケース1の中に、排ガス浄化触媒が担持された炭化珪素製の排ガス浄化フィルタ2と、排ガス浄化フィルタ2の前段に、フロースルーのハニカム構造をした白金担持コージェライト製の排ガス酸化フィルタ3とが設けられている。
【0079】
ディーゼルエンジンから排出された排ガス中のPM4は排ガス浄化フィルタ2で捕集され、それと同時に排ガス浄化フィルタ2に担持された排ガス浄化触媒と接触する。捕集されて排ガス浄化触媒と接触したPM4は、酸化されて二酸化炭素となって排出される。この捕集と燃焼を随時行うことによって、排ガス浄化フィルタ2はPM4の堆積で目詰まりしてしまうことなく、排ガスを連続的に浄化することができる。
【0080】
このとき、排ガス浄化フィルタ2は耐熱性を有する無機酸化物の表面に銅とバナジウムとの複合酸化物が担持され、さらにそこへセシウム元素とマグネシウム元素を含む化合物が担持された排ガス浄化フィルタとなっているので、PMを効率良く酸化燃焼することができるようになるだけでなく、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させたフィルタを得ることができる。
【0081】
また、排ガス浄化フィルタ2の前段に、白金担持コージェライト製の排ガス酸化フィルタ3を配置することにより、排ガス酸化フィルタ3が排ガスに含まれるCOやHCなどをCOへと酸化することにより酸化熱が発生し、後段の排ガス浄化フィルタへ流入する排ガス温度が上昇するため、排ガス浄化フィルタに堆積したPMがより燃焼しやすくなる。
【0082】
さらに、排ガス酸化フィルタ3の作用により生成したNOはPMに対して高い酸化力を有するため、排ガス浄化フィルタに堆積したPMがより燃焼しやすくなる。
【実施例】
【0083】
以下、本発明の実施例について説明する。
【0084】
本発明に記載の排ガス浄化フィルタおよびその製造方法について説明する。
【0085】
三次元構造体としてのコージェライト製ハニカムを、耐熱性を有する無機酸化物としてのチタニアを分散させた第1液に含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで焼成することにより製造したチタニア担持コージェライト(以下TiO/Cdと記す)を、硫酸銅五水和物および酸化硫酸バナジウムn水和物を含む第2液(Cu:V=1:2)に含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで800℃で焼成することにより、TiO/Cd表面にCuVを主成分とする第1触媒を担持させた(以下CuV/TiO/Cdと記す)。なお、CuVの生成はX線回折装置(XRD)により確認した。次に、CuV/TiO/Cdを硫酸セシウムおよび硫酸マグネシウムを含む第3液(Cs:Mg=1:1または1:0.5または1:0)に含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで700℃で焼成することにより、CuV/TiO/Cd表面に硫酸セシウムを含む第2触媒、および、硫酸マグネシウムを含む第3触媒を担持させた(以下CsMg/CuV/TiO/Cdと記す)。なお、硫酸セシウムおよび硫酸マグネシウムの存在はXRDにより確認した。
【0086】
前述の方法により調製されたCsMg/CuV/TiO/Cdは、比表面積の大きなチタニアを触媒担体としているため排ガス浄化触媒の表面積が増大し、PMとの接触確率が向上するため、PMを効率良く酸化燃焼することができるようになるだけでなく、チタニアは耐熱性が高いため、長期間高温排ガスに暴露されても安定した状態を維持できる。
【0087】
また、第1触媒はほぼCuVの形になっており、CuVは強固な結合を有するため、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させることができるだけでなく、第2触媒の活性を高める作用を有するので、PMを効率良く酸化燃焼することができる。
【0088】
また、第2触媒として、アルカリ金属の硫酸塩のうちPMに対して最も高い燃焼活性を示す硫酸セシウムを担持しているため、PMを効率良く酸化燃焼することができる。
【0089】
また、第3触媒として、アルカリ金属の硫酸塩を固定化する効果がある硫酸マグネシウムを担持しているため、硫酸セシウムの飛散量を低減させることができる。
【0090】
(比較例)
三次元構造体としてのコージェライト製ハニカムを、耐熱性を有する無機酸化物としてのチタニアを分散させた第1液に含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで焼成することにより製造したチタニア担持コージェライト(以下TiO/Cdと記す)を、硫酸セシウム、硫酸銅五水和物および酸化硫酸バナジウムn水和物を含む溶液(Cs:Cu:V=0.75:1:2)に含浸した後に、乾燥、次いで800℃で焼成することにより、TiO/Cd表面にセシウム、銅およびバナジウムからなる複合酸化物を担持させた(以下CsCuV/TiO/Cdと記す)。
【0091】
(評価例1)
次に、本発明に記載の排ガス浄化フィルタの金属飛散試験を行った。その評価方法の概念図を図2に示す。
【0092】
実施例に記載した方法で作製したハニカム形状のCsMg/CuV/TiO/Cdを、直径20mm、長さ20mmにカットしたものを排ガス浄化フィルタサンプル5とし、内径20mmのガラス管6の中に入れ、排ガス浄化フィルタサンプル5の後方に約0.4gの石英ウール7を詰め、排ガス浄化フィルタサンプル5が中心にくるように加熱管状炉8にセットした。排ガス浄化フィルタサンプル5の中心付近のセルに熱電対9を差し込み、排ガス浄化フィルタサンプル5の表面温度を測定できるようにした後、排ガス浄化フィルタサンプル5表面が600℃になるように加熱した。
【0093】
次に、一酸化炭素150ppm、プロピレン50ppm、一酸化窒素500ppm、二酸化硫黄1ppm、酸素8vol%、二酸化炭素8vol%、水分10vol%となるように混合ガスを調製し、サンプル1に対してSV値50000h―1で14時間ガスを流通させた。
【0094】
次に、14時間のガス流通操作後の石英ウール7を取り出し、石英ウール7に付着した成分を王水により溶解させ、その溶液中の金属イオン濃度を誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)により測定し、そこから金属飛散量(μg/m)を算出した。その結果を表1に示す。
【0095】
【表1】

【0096】
表1の結果より、バナジウムの飛散量は49から31μg/mとなり約40%低減され、セシウムの飛散量は230から61μg/mとなり約75%低減された。
【0097】
このセシウム飛散量の低減は硫酸マグネシウムによる効果であり、第3触媒として、アルカリ金属の硫酸塩を固定化する効果がある硫酸マグネシウムを担持したため、特に硫酸セシウムの飛散量を低減させることができたと考えられる。
【0098】
(評価例2)
次に、本発明に記載の排ガス浄化フィルタのカーボン燃焼活性試験を行った。その試験方法を説明する。
【0099】
実施例に記載した方法で作製したCsMg/CuV/TiO/Cdを0.04gと、カーボンブラック0.01gとを乳鉢で1時間粉砕混合した粉末を、示差熱熱重量同時測定装置(TG−DTA)を用いて5℃/minで昇温したときの重量変化を測定した。カーボン燃焼活性は、200℃のときの重量を100%とし、10%重量減少時の温度を比較することにより評価した。その結果を表2に示す。
【0100】
【表2】

【0101】
表2の結果より、Mg/Cs比が0〜1の範囲ではカーボン燃焼活性にはほとんど差がないことがわかり、いずれも高いカーボン燃焼活性を有していることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明にかかる排ガス浄化触媒は、銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む第1触媒と、アルカリ金属元素を含む第2触媒と、アルカリ土類金属元素を含む第3触媒とを、耐熱性を有する無機酸化物に担持することを特徴とする排ガス浄化触媒とすることにより、PMを効率良く酸化燃焼することができるようになるだけでなく、原子または分子レベルでの触媒金属飛散を低減させることができる排ガス浄化触媒として有用である。
【符号の説明】
【0103】
1 フィルタケース
2 排ガス浄化フィルタ
3 排ガス酸化フィルタ
4 PM
5 排ガス浄化フィルタサンプル
6 ガラス管
7 石英ウール
8 加熱管状炉
9 熱電対

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む第1触媒と、アルカリ金属元素を含む第2触媒と、アルカリ土類金属元素を含む第3触媒とを、耐熱性を有する無機酸化物に担持することを特徴とする排ガス浄化触媒。
【請求項2】
第3触媒がアルカリ土類金属の硫酸塩を含むことを特徴とする請求項1に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項3】
アルカリ土類金属の硫酸塩が硫酸マグネシウムを含むことを特徴とする請求項2に記載の排ガス浄化触媒。
【請求項4】
耐熱性を有する無機酸化物に、銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む第1触媒を担持する第1工程と、アルカリ金属元素を含む第2触媒とアルカリ土類金属元素を含む第3触媒とを担持する第2工程と、からなることを特徴とする排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項5】
銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む第1溶液に、耐熱性を有する無機酸化物を含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで、焼成することにより第1触媒を担持する第1工程と、アルカリ金属元素とアルカリ土類金属元素とを含む第2溶液に、前記第1工程で調製した粉体を含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで、焼成することにより、第2触媒と第3触媒とを担持する第2工程と、からなることを特徴とする請求項4に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項6】
第2溶液がアルカリ土類金属の硫酸塩を含むことを特徴とする請求項5に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項7】
アルカリ土類金属の硫酸塩が硫酸マグネシウムを含むことを特徴とする請求項6に記載の排ガス浄化触媒の製造方法。
【請求項8】
耐熱性を有する無機酸化物を触媒担体とし、銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む第1触媒と、アルカリ金属元素を含む第2触媒と、アルカリ土類金属元素を含む第3触媒と、からなる排ガス浄化触媒を、三次元構造体に担持したことを特徴とする排ガス浄化フィルタ。
【請求項9】
第3触媒がアルカリ土類金属の硫酸塩を含むことを特徴とする請求項8に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項10】
アルカリ土類金属の硫酸塩が硫酸マグネシウムを含むことを特徴とする請求項8または9に記載の排ガス浄化フィルタ。
【請求項11】
三次元構造体に耐熱性を有する無機酸化物を担持する第1工程と、銅、バナジウム、または、モリブデンから選ばれる少なくとも一種以上の金属元素を含む第1触媒を担持する第2工程と、アルカリ金属元素を含む第2触媒とアルカリ土類金属元素を含む第3触媒とを担持する第3工程と、からなることを特徴とする排ガス浄化フィルタの製造方法。
【請求項12】
耐熱性を有する無機酸化物を含むスラリーに三次元構造体を含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで、焼成することにより耐熱性を有する無機酸化物を担持する第1工程と、銅元素とバナジウム元素とを含む水溶液に、前記第1工程で得られた三次元構造体を含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで、焼成することにより第1触媒を担持する第2工程と、セシウム元素とマグネシウム元素とを含む水溶液に、前記第2工程で得られた三次元構造体を含浸し、余剰液を除去した後、乾燥、次いで、焼成することにより第2触媒と第3触媒とを担持する第3工程と、からなることを特徴とする請求項11に記載の排ガス浄化フィルタの製造方法。
【請求項13】
請求項8乃至10いずれかに記載の排ガス浄化フィルタを配置したことを特徴とする排ガス浄化装置。
【請求項14】
三次元構造体がディーゼルパティキュレートフィルタであることを特徴とする請求項13に記載の排ガス浄化装置。
【請求項15】
三次元構造体の材質が耐熱性を有するセラミック、または、耐熱性を有する金属であることを特徴とする請求項13または14に記載の排ガス浄化装置。
【請求項16】
貴金属元素を有する排ガス酸化フィルタをさらに配置したことを特徴とする請求項13乃至15いずれかに記載の排ガス浄化装置。
【請求項17】
排ガス酸化フィルタを排ガス浄化フィルタの前段に配置したことを特徴とする請求項13乃至16いずれかに記載の排ガス浄化装置。
【請求項18】
排ガス酸化フィルタがフロースルーのハニカム構造であることを特徴とする請求項16または17に記載の排ガス浄化装置。
【請求項19】
排ガス酸化フィルタの材質が耐熱性を有するセラミック、または、耐熱性を有する金属であることを特徴とする請求項16乃至18いずれかに記載の排ガス浄化装置。
【請求項20】
貴金属元素が白金、パラジウム、ロジウムからから選ばれる少なくとも一種以上の元素を含むことを特徴とする請求項16乃至19いずれかに記載の排ガス浄化装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−158669(P2010−158669A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−275131(P2009−275131)
【出願日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】