説明

排気ガス浄化用触媒

【課題】ゼオライトに吸着されたHC成分の脱離温度を高め、低温域でのHC成分の排出を抑制することが可能な排気ガス浄化用触媒を提供することを目的とする。
【解決手段】エンジンの排気通路に配設される排気ガス浄化用触媒3であって、ハニカム状担体と、前記ハニカム状担体のセル壁5表面に形成された触媒層6とを備え、前記触媒層6が、ゼオライト11と、ジルコニウム(Zr)及びアルカリ土類金属を含むZr系複合酸化物12とを含有することを特徴とする排気ガス浄化用触媒を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガスに含まれる炭化水素(HC)等を浄化する排気ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンから排出される排気ガスを浄化する排気ガス浄化用触媒は、例えば、エンジン排気マニホールドの直下に配設されていることが多い。このことは、エンジンの始動時等の排気ガス温度が低いときには、排気通路に設けられた排気ガス浄化用触媒に含まれる触媒貴金属が充分に活性化しておらず、HCや一酸化炭素(CO)の酸化反応、又は窒素酸化物(NOx)の還元反応等による排気ガスの浄化が起こりにくいためである。かかる位置に排気ガス浄化用触媒を配設することによって、可能な限り早期に排気ガス浄化用触媒中の触媒貴金属を活性化させることができ、HC等の未燃排気ガスの浄化を早期に開始させることができる。
【0003】
しかしながら、かかる位置に排気ガス浄化用触媒を配設しても、エンジン始動後、数秒から20秒くらいの間は、排気ガス浄化用触媒中の触媒貴金属がHC成分を酸化できる温度に到達していないため、排気ガスを充分に浄化できないという問題があった。
【0004】
この問題を解決するために、HC成分を吸着するゼオライトを含有した排気ガス浄化用触媒が知られている。ゼオライトは、結晶構造内に数Å〜数十Åの範囲において所定サイズの細孔を有し、該細孔にHC成分を吸着でき、ゼオライトを温めると、その吸着したHC成分を脱離することが知られている。ゼオライトを含有するによって、エンジン始動直後は、排気ガス中のHC成分をゼオライトが吸着する。そして、排気ガス浄化用触媒が温められると、ゼオライトに吸着されていたHC成分が徐々に脱離して、活性化された触媒貴金属によって浄化される。
【0005】
このようなHC成分を一時的に吸着する排気ガス浄化用触媒の一例としては、例えば、特許文献1に、担体上にゼオライトを主成分とする第1触媒層と、その上に酸化還元能を備えた貴金属触媒を主成分とする第2触媒層を設けてなる触媒が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、ゼオライト吸着剤、Ag、Cu、Co、Ni、SrおよびMgの少なくとも1種を含む脱離温度向上成分および燃焼触媒活性成分を含む触媒組成物Aと、前記ゼオライト吸着剤および燃焼触媒活性成分を含む触媒組成物Bとの混合体が、ハニカム担体上に担持されている排気ガス浄化用触媒が開示されている。
【0007】
特許文献3には、排気ガス流路の上流側から下流側に向かって、Mg、Ca、Sr及びBaからなる群から選ばれるアルカリ土類金属とZrとを含むZr酸化物を有する水素富化手段、NOx触媒、及びゼオライトを含む炭化水素吸着材層を有するHCトラップ触媒を順次配置してなる排気ガス浄化システムを開示している。
【特許文献1】特開平2−56247号公報
【特許文献2】特開2004−8855号公報
【特許文献3】特開2002−364343号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようなHC成分を一時的に吸着する排気ガス浄化用触媒は、触媒貴金属がHC成分を浄化できる温度に到達するまで、HC成分が吸着されていることが求められる。すなわち、HC成分の脱離温度の高い排気ガス浄化用触媒が求められる。
【0009】
特許文献1に記載されているゼオライトは、約60℃以下の低温でHC成分を吸着できるものの、排気ガス温度が250℃程度となったときに、吸着していたHC成分の大半が脱離される。この250℃程度の排気ガス温度では、排気ガス浄化用触媒中の触媒貴金属が充分に活性化されておらず、脱離したHC成分を充分に浄化できなかった。
【0010】
また、特許文献2によれば、SrやBa等の脱離温度向上成分の使用により、高級炭化水素の脱離温度を上昇させることができることが記載されている。しかしながら、SrやBa等の脱離温度向上成分は、SrやBa等を含有する溶液を用いてゼオライトに担持させていることから、ゼオライトに担持されている脱離温度向上成分は、SrOやBaO等のアルカリ土類金属の酸化物であると推察される。このようなアルカリ土類金属の酸化物は、排気ガスの空燃比がリッチ状態の場合には炭酸塩化合物となり、一方、排気ガスの空燃比がリーン状態の場合には硝酸塩化合物となる。したがって、エンジンを停止するときの排気ガスの空燃比に応じて、脱離温度向上成分の化合物種が異なり、脱離温度向上成分の化合物種によっては、次のエンジン始動時に脱離温度の向上を充分に果たせない場合がある。
【0011】
特許文献3によれば、リーンバーン条件下において、排気ガス中のNOx及びHCをより効率的に浄化しうることが記載されている。しかしながら、Zr酸化物を有する水素富化手段と、ゼオライトを含む炭化水素吸着材層を有するHCトラップ触媒とが、NOx触媒を介する離間した配置であることから、Zr酸化物がゼオライトに直接作用して、ゼオライトのHC脱離温度を向上させるとは考えられない。さらに、水素富化手段で用いられるZr酸化物は、水素を生成する機能を有するものであって、ゼオライトのHC脱離温度を向上させるものではない。
【0012】
本発明は、吸着されたHC成分の脱離温度の高い排気ガス浄化用触媒を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の排気ガス浄化用触媒は、エンジンの排気通路に配設される排気ガス浄化用触媒であって、ハニカム状担体と、ハニカム状担体のセル壁表面に形成された触媒層とを備え、前記触媒層が、ゼオライトと、ジルコニウム(Zr)及びアルカリ土類金属を含むZr系複合酸化物とを含有することを特徴とする。
【0014】
この構成によれば、Zr系複合酸化物が、アルカリ土類金属を含むので、塩基性が高い。この塩基性の高いZr系複合酸化物が、触媒層に接触したHC成分に作用することによって、排気ガス中のHC成分をゼオライトに吸着されやすい状態に変化させることができる。そして、ゼオライトに吸着されやすい状態に変化したHC成分が、近傍のゼオライトに強固に吸着される。また、Zr系複合酸化物は、アルカリ土類金属単体と比較して、排気ガスの空燃比によって、化学種が変化しにくいので、排気ガスの空燃比にかかわらず、排気ガス中のHC成分をゼオライトに吸着されやすい状態に変化させることができる。
【0015】
従って、排気ガスの空燃比にかかわらず、HC成分がゼオライトに強固に吸着されるので、吸着されたHC成分の脱離温度の高い排気ガス浄化用触媒が得られる。
【0016】
このことは、触媒層に接触したHC成分が、塩基性の高いZr系複合酸化物によって、カルバニオンに変化し、そのカルバニオンがゼオライトのルイス酸点と結合するためであると考えられる。
【0017】
また、前記触媒層が、前記ゼオライトと前記Zr系複合酸化物とを含有する混合物からなることが好ましい。この構成によれば、ゼオライトとZr系複合酸化物とが近接している状態の触媒層を容易に形成される。また、このような触媒層は、Zr系複合酸化物によって、ゼオライトに吸着されやすい状態に変化したHC成分が、Zr系複合酸化物に近接するゼオライトに吸着されやすい。
【0018】
また、前記触媒層が、前記セル壁表面に形成された、ゼオライトを含有するゼオライト層と、該ゼオライト層表面に形成された、前記Zr系複合酸化物を含有する酸化物層とからなることが好ましい。この構成によれば、ゼオライト層上に酸化物層が積層されていることより、HC成分の多くが、酸化物層内のZr系複合酸化物に接触してから、ゼオライト層内のゼオライトに吸着されるので、HC成分がゼオライトにより強固に吸着される。したがって、吸着されたHC成分の脱離温度をより高めることができる。
【0019】
また、前記Zr系複合酸化物における、ZrOと前記アルカリ土類金属の酸化物との合計量に対する前記アルカリ土類金属の酸化物の含有率が、1質量%以上であることが好ましい。この構成によれば、高温時のHC脱離量のより多い排気ガス浄化用触媒が得られる。
【0020】
このことは、Zr系複合酸化物の塩基性がより高まるので、HC成分をカルバニオンに変化させやすく、HC成分がゼオライトにより強固に吸着されるためであると考えられる。
【0021】
また、前記ゼオライトと前記Zr系複合酸化物との合計量に対する前記Zr系複合酸化物の含有率が、1〜50質量%であることが好ましい。この構成によれば、ゼオライトの相対量が多いので、HC吸着量のより多い排気ガス浄化用触媒が得られる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、排気ガスの空燃比にかかわらず、HC成分がゼオライトに強固に吸着されるので、吸着されたHC成分の脱離温度が高い排気ガス浄化用触媒が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の実施形態に係る排気ガス浄化用触媒について説明する。
【0024】
図1は、本実施形態に係る排気ガス浄化用触媒を備えた触媒コンバータ1を模式的に示す断面図である。触媒コンバータ1は、エンジンに接続される排気通路に配置され、この触媒コンバータ1において排気ガス中に含まれる炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)及び窒素酸化物(NOx)が浄化されて排出されるように構成されている。この触媒コンバータ1は、耐熱容器2の中に浄化触媒(排気ガス浄化用触媒)3が内蔵されることにより構成されている。なお、図示を省略しているが、耐熱容器2には、浄化触媒3の温度を検出する温度センサが設けられていてもよい。
【0025】
図2は、浄化触媒3の一部を拡大して示す断面図である。浄化触媒3は、隔壁で区画した多数のセルを有する略円柱状のハニカム状担体のセル壁5表面に触媒層6が形成されることにより構成され、排気ガスは上流側から下流側に向かってセルを通過する間にそのセル表面に形成された触媒層6中に拡散して、触媒層6に含まれる触媒貴金属と接触することにより有害成分(HC,CO,NOx)を浄化させるようになっている。
【0026】
前記浄化触媒3は、そのハニカム状担体として、例えば、コージェライト製のセラミック担体、あるいはステンレス鋼製のメタル担体を用いることができる。また、浄化触媒3の触媒層6は、ゼオライト、及びジルコニウム(Zr)とアルカリ土類金属とを含むZr系複合酸化物等がセル壁の表面にコーティングされることにより形成されている。すなわち、触媒層6は、ゼオライトとZr系複合酸化物とを含有し、ゼオライトの少なくとも一部とZr系複合酸化物の少なくとも一部とが近接している。また、触媒層6に含まれる材料としては、本発明の効果を損なわない範囲で、ゼオライト及びZr系複合酸化物以外に、従来から触媒材料として用いられているもの、例えば、アルミナ、Ceを含む複合酸化物からなる酸素吸蔵材、硫黄(S)成分による被毒の抑制のためのニッケル(Ni)、及びリン(P)成分による被毒の抑制のためのバリウム(Ba)等を含んでいてもよい。
【0027】
次に、触媒層6の具体的構成について説明する。図3は、セル壁5上に形成されている触媒層6を模式的に示す断面図である。触媒層6としては、図3(a)に示すように、ゼオライト11とZr系複合酸化物12とを含む混合物からなる触媒層や、図3(b)に示すように、ゼオライト11を含有する吸着材層上にZr系複合酸化物12を含有する酸化物層を積層してなる触媒層等が挙げられる。なお、触媒層6としては、ゼオライト11とZr系複合酸化物12とを含み、ゼオライト11の少なくとも一部とZr系複合酸化物12の少なくとも一部とが近接していればよく、上記2つの構成に限定されない。また、触媒層6には、触媒貴金属13が含有されていてもよく、例えば、前記ゼオライト11又は前記Zr系複合酸化物12等に触媒貴金属13が担持されていてもよい。さらに、触媒層6としては、ゼオライト11とZr系複合酸化物12とを含む吸着層と、前記吸着層より排気ガス下流側に形成された、触媒貴金属を含有する三元触媒層とからなっていてもよい。
【0028】
前記ゼオライト11としては、HC成分が吸着される多数の細孔を有するものであれば、特に限定されなく用いられ、例えば、β−ゼオライト、MFI−ゼオライト(ZSM−5)及び超安定化Y(USY)−ゼオライト等が挙げられる。また、ケイバン(SiO/Al)比が、20〜100であるものが好ましい。
【0029】
前記Zr系複合酸化物12は、後述のように、ゼオライト11に吸着されているHCの脱離温度を高める性能を有するものである。また、前記Zr系複合酸化物12としては、Zrとアルカリ土類金属とを含むものであれば、特に限定なく用いられる。アルカリ土類金属としては、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、ストロンチウム(Sr)及びバリウム(Ba)が挙げられ、Ca及びSrが好ましく用いられる。Zr系複合酸化物の具体例としては、例えば、ZrとSrとの酸化物からなるZrSr複合酸化物やZrとCaとの酸化物からなるZrCa複合酸化物等が挙げられる。
【0030】
また、前記Zr系複合酸化物12における、ZrOとアルカリ土類金属の酸化物との合計量に対するアルカリ土類金属の酸化物の含有率が、1質量%以上であることが好ましい。また、前記含有率が高いほど、Zr系複合酸化物12の塩基性が高まるので、HC脱離温度が高まり、高温時におけるHC脱離量が多くなる点で好ましいが、Zr系複合酸化物の結晶構造が崩壊されやすくなる。よって、前記含有率の上限値は、Zr系複合酸化物の製造限界により定まる。例えば、ZrSr複合酸化物の場合、ZrOとSrOとの合計量に対するSrOの含有率が約15質量%(ZrとSrとの合計量に対するSrの含有率が約21.0モル%)が、製造限界であり、前記含有率の上限値である。
【0031】
Zr系複合酸化物12は、例えば、以下のようにして調製される。Zrの硝酸塩とSrの硝酸塩とを所定量、イオン交換水等に溶解させ、アンモニア共沈法による複合酸化物前駆体を調製する。そして、この複合酸化物前駆体を水洗し、所定の温度で加熱乾燥させ、最後に焼成することにより、Zr系複合酸化物12が得られる。なお、Zr系複合酸化物12の中には、ZrOやアルカリ土類金属の酸化物の他、他の金属酸化物が含まれているものであってもよい。
【0032】
また、ゼオライト11とZr系複合酸化物12との合計量に対するZr系複合酸化物12の含有率が、1〜50質量%であることが好ましい。前記含有率が少なすぎると、Zr系複合酸化物12を含有する効果が発揮できない傾向があり、また多すぎると、ゼオライト11の量が減ってしまうので、HC成分の最大吸着量が減少してしまう。
【0033】
触媒層6は、例えば、以下のようにして調製される。
【0034】
図3(a)に示すようなゼオライト11とZr系複合酸化物12とを含有する混合物からなる触媒層の場合、ゼオライト11、Zr系複合酸化物12、水及びバインダ原料とを混合してスラリーを生成する。そして、このスラリーをハニカム状担体上にコーティングして、エアブローにより余分なスラリーを除去した後、乾燥、焼成する。このようにして、ハニカム状担体のセル壁5上に、ゼオライト11とZr系複合酸化物12とを含有する混合物の焼成物からなる触媒層6を形成する。
【0035】
また、図3(b)に示すような吸着材層上に酸化物層を積層してなる触媒層の場合、まず、ゼオライト11、水及びバインダ原料とを混合して吸着材層形成用スラリーを生成する。そして、この吸着材層形成用スラリーをハニカム状担体上にコーティングして、エアブローにより余分なスラリーを除去した後、乾燥、焼成する。このようにして、ハニカム状担体のセル壁5上に吸着材層を形成する。次に、Zr系複合酸化物12、水及びバインダ原料とを混合して酸化物層形成用スラリーを生成する。そして、この酸化物層形成用スラリーを、吸着材層を形成させたハニカム状担体上にコーティングして、エアブローにより余分なスラリーを除去した後、乾燥、焼成する。このようにして、ハニカム状担体のセル壁5上に、吸着材層上に酸化物層を積層してなる触媒層6を形成する。
【0036】
なお、この触媒層6の層厚等は、スラリーの粘度や濃度等により調整可能である。また、バインダ原料としては、例えば、硝酸ジルコニルやアルミナゾル等を用いることができ、焼成条件としては、450〜550℃の温度で、大気中にて1〜3時間程度保持するのが好ましい。
【0037】
触媒層6に含まれるZr系複合酸化物12は、ゼオライト11に吸着されているHCの脱離温度を高める性能(HC脱離温度を向上させる性能)を有する。この性能を発揮するメカニズムは、次のように推測される。図4は、HC脱離温度を向上させるメカニズムを示す説明図である。
【0038】
エンジンから排気ガスが排出されると、排気ガス中のHC成分が浄化触媒3の触媒層6に接触する。触媒層6中のZr系複合酸化物12は、アルカリ土類金属を含むので、塩基性が強い。よって、塩基性の強いZr系複合酸化物12が、触媒層6に接触したHC成分に作用することによって、炭素上に負電荷を有するカルバニオンが発生する。具体的には、例えば、HC成分であるオレフィンが、触媒層6に接触すると、図4(a)に示すように、オレフィンのアリル位のHが、Hとして引き抜かれ、アリルカルバニオンとなる。
【0039】
カルバニオンは、炭素上に負電荷を有するので、図4(b)に示すように、ゼオライト11のルイス酸点(Al)と相互作用して、引き付けられる。この相互作用によって、Zr系複合酸化物12は、ゼオライト11へのHC成分の吸着を強化している。したがって、ゼオライト11に吸着されたHC成分の脱離温度が高まると推定される。
【0040】
また、図4では、HC成分として、オレフィン(ブテン)を例示したが、オレフィンに限らず、HC成分であれば、Zr系複合酸化物12によって、炭素上に負電荷を有するカルバニオンが発生し、上記メカニズムと同様に作用し、HC成分の脱離温度が高まると推定される。
【0041】
また、Zr系複合酸化物12における、アルカリ土類金属の酸化物の含有率が高いと、塩基性がより高まるので、HC成分をカルバニオンに変化させやすく、HC成分がゼオライト11により強固に吸着されると推察される。
【0042】
また、Zr系複合酸化物12ではなく、アルカリ土類金属単体であっても、塩基性が強いので、上記メカニズムと同様の効果を達成できるように思われるが、アルカリ土類金属単体では、排気ガスの空燃比によって、酸化物、炭酸塩化合物、硝酸塩化合物と化学種が変化しやすい。これに対して、Zr系複合酸化物12は、排気ガスの空燃比にかかわらず安定であるので、上記のHC脱離温度を向上させる性能を充分に発揮できると考えられる。
【0043】
なお、Zr系複合酸化物12単独では、HC成分の吸着は見られない。このことからも、Zr系複合酸化物12は、ゼオライト11のHC脱離温度向上に作用することがわかる。
【0044】
以上のように、本発明に係る浄化触媒は、吸着されたHC成分の脱離温度が高いので、脱離されたHC成分は、充分に加熱されて活性化された触媒貴金属によって、浄化することができる。
【実施例】
【0045】
以下に、本発明の実施形態である浄化触媒3の実施例について説明するが、本発明は実施例に何ら限定されるものではない。
【0046】
[実施例A]
まず、浄化触媒のHC脱離温度特性を検討した。
【0047】
(実施例1)
本実施例のハニカム状担体としては、直径25.4mm、長さ50mm、セル壁4mil、セル数400cpsi(1平方インチあたりのセル数が400)のコージェライト製の担体を用いた。
【0048】
次に、ZrSr複合酸化物を調製した。具体的には、まず、イオン交換水に、Zrの硝酸塩とSrの硝酸塩とを所定量溶解させた。そして、その溶液に、アンモニアにより調整した塩基性溶液を滴下することによって、各金属元素を含む沈殿を生成させ、ろ過、水洗、乾燥、500℃で2時間の焼成を行った。そうすることによって、ZrSr複合酸化物を調製した。ここで、Zrの硝酸塩とSrの硝酸塩とをイオン交換水に溶解させる所定量は、得られるZrSr複合酸化物において、ZrとSrとの合計量に対するSrの含有率が6.25モル%(ZrOとSrOとの合計量に対するSrOの含有率が5.31質量%)となるようにした。ここで得られたZrSr複合酸化物は、以下、ZrSr複合酸化物(Sr/Zr+Sr=6.25モル%)とも記載する。
【0049】
一方、ゼオライトとしてβ−ゼオライト(ゼオリスト製、ケイバン比40)を用いた。
【0050】
そして、得られたZrSr複合酸化物を、β−ゼオライト、水及びバインダ原料である硝酸ジルコニアとともに混合してスラリーを生成した。このスラリーをハニカム状担体上にコーティングして、エアブローにより余分なスラリーを除去し、乾燥させた後、500℃で2時間の焼成を行った。そうすることによって、ハニカム状担体のセル壁5上に、β−ゼオライトとZrSr複合酸化物とを含む混合物からなる触媒層6を形成した。ここで、β−ゼオライトとZrSr複合酸化物との混合比は、β−ゼオライトとZrSr複合酸化物との合計量に対するZrSr複合酸化物の含有率が25質量%となるようにした。また、ハニカム状担体1リットル当たりの触媒層6の担持量が、160g/Lとなるようにした。
【0051】
(実施例2)
ZrSr複合酸化物の代わりに、ZrCa複合酸化物を用いたこの以外、実施例1と同様である。
【0052】
ここで用いたZrCa複合酸化物は、以下のように調製した。具体的には、まず、イオン交換水に、Zrの硝酸塩とCaの硝酸塩とを所定量溶解させた。そして、その溶液に、アンモニアにより調整した塩基性溶液を滴下することによって、各金属元素を含む沈殿を生成させ、ろ過、水洗、乾燥、500℃で2時間の焼成を行った。そうすることによって、ZrCa複合酸化物を調製した。ここで、Zrの硝酸塩とCaの硝酸塩とをイオン交換水に溶解させる所定量は、得られるZrCa複合酸化物において、ZrとCaとの合計量に対するCaの含有率が6.5モル%(ZrOとCaOとの合計量に対するCaOの含有率が2.9質量%)となるようにした。
【0053】
(実施例3)
ZrとSrとの比率を変えたZrSr複合酸化物を用いた以外、実施例1と同様である。
【0054】
ここで用いたZrSr複合酸化物は、ZrとSrとの合計量に対するSrの含有率が10.88モル%(ZrOとSrOとの合計量に対するSrOの含有率が9.31質量%)となるように、Zrの硝酸塩とSrの硝酸塩とをイオン交換水に溶解させたこと以外、実施例1と同様に調製した。ここで得られたZrSr複合酸化物は、以下、ZrSr複合酸化物(Sr/Zr+Sr=10.88モル%)とも記載する。
【0055】
(実施例4)
β−ゼオライト、水及びバインダ原料である硝酸ジルコニアとともに混合してゼオライト層形成用スラリーを生成した。このゼオライト層形成用スラリーをハニカム状担体上にコーティングして、エアブローにより余分なスラリーを除去し、乾燥させた後、500℃で2時間の焼成を行った。そうすることによって、ハニカム状担体のセル壁5上に、ゼオライト層が形成された。
【0056】
次に、ZrSr複合酸化物(Sr/Zr+Sr=10.88モル%)、水及びバインダ原料とを混合して酸化物層形成用スラリーを生成した。この酸化物層形成用スラリーを、ゼオライト層を形成させたハニカム状担体上にコーティングして、エアブローにより余分なスラリーを除去した後、500℃で2時間の焼成を行った。そうすることによって、ゼオライト層上にZrSr複合酸化物層を形成した。
【0057】
以上より、ハニカム状担体のセル壁5上に、ゼオライト層上にZrSr複合酸化物層を積層してなる触媒層6を形成した。
【0058】
ここで、β−ゼオライトの担持量とZrSr複合酸化物の担持量との比は、β−ゼオライトとZrSr複合酸化物との合計量に対するZrSr複合酸化物の含有率が25質量%となるようにした。また、ハニカム状担体1リットル当たりの触媒層6の担持量が、160g/Lとなるようにした。
【0059】
(比較例)
β−ゼオライト、水及びバインダ原料である硝酸ジルコニアとともに混合してゼオライト層形成用スラリーを生成した。このスラリーをハニカム状担体上にコーティングして、エアブローにより余分なスラリーを除去し、乾燥させた後、500℃で2時間の焼成を行った。そうすることによって、ハニカム状担体のセル壁5上に、ゼオライト層が形成された。ここで、ハニカム状担体1リットル当たりのゼオライト層の担持量が、160g/Lとなるようにした。
【0060】
[HC脱離温度特性]
実施例1〜4及び比較例に係る浄化触媒は、以下のようにして、HC脱離温度特性を評価した。
【0061】
まず、得られた各浄化触媒にトルエンを飽和するまで吸着させた。具体的には、各浄化触媒をそれぞれ耐熱容器の中に配設することによって、触媒コンバータを作製した。そして、浄化触媒の温度を50℃に加熱したまま、触媒コンバータの下流側でのトルエン濃度が2000ppmCとなるまで、触媒コンバータの上流側から、トルエン濃度2000ppmCの気体を流入した。そうすることによって、トルエンを飽和するまで浄化触媒に吸着させた。
【0062】
トルエンを飽和するまで吸着させた後、触媒コンバータの上流側から、トルエンを含まない気体を流入した。その際、浄化触媒の温度を30℃/分間の速度で昇温させ、触媒コンバータの下流側から排出される気体のトルエン濃度(脱離トルエン濃度)を測定した。
【0063】
図5及び図6は、浄化触媒の温度と脱離トルエン濃度との関係を示したグラフである。横軸は、浄化触媒の温度(℃)を示し、縦軸は、脱離トルエン濃度(ppmC)を示す。なお、実施例1の結果は、図5のグラフ21に示し、実施例2の結果は、図5のグラフ22に示し、実施例3の結果は、図6のグラフ24に示し、実施例4の結果は、図6のグラフ25に示し、比較例の結果は、図5のグラフ23に示す。
【0064】
図5から、ゼオライトとZr系複合酸化物とを含む触媒層が形成された実施例1及び実施例2は、Zr系複合酸化物を含まない触媒層を形成された比較例と比較して、高温時、例えば、300℃以上で浄化触媒から脱離するトルエン量が多いことがわかる。このことから、実施例1及び実施例2は、比較例より、トルエンの脱離温度が高いことがわかる。
【0065】
さらに、図6から、ゼオライト層上にZrSr複合酸化物層を積層した触媒層が形成された実施例4は、ゼオライトとZrSr複合酸化物とを含む混合物の焼結物からなる触媒層が形成された実施例3より、高温時での脱離トルエン量が多いことがわかる。このことは、ゼオライト層上にZrSr複合酸化物層が積層されていることより、トルエンの多くが、ZrSr複合酸化物に接触してから、ゼオライトに吸着されることによると考えられる。
【0066】
また、ゼオライトとZr系複合酸化物とを含む触媒層が形成された実施例1〜4は、浄化触媒から脱離する総トルエン量に対する300℃以上で浄化触媒から脱離するトルエン量の比率が、15%以上と高い。これらに対して、Zr系複合酸化物を含まない触媒層が形成された比較例は、浄化触媒から脱離する総トルエン量に対する300℃以上で浄化触媒から脱離するトルエン量の比率が、1.5%と低い。すなわち、実施例1〜4は、高温時、300℃以上で浄化触媒から脱離するトルエン量が比較例より多い。
【0067】
また、ゼオライト層上にZrSr複合酸化物層を積層した触媒層が形成された実施例4は、浄化触媒から脱離する総トルエン量に対する300℃以上で浄化触媒から脱離するトルエン量の比率が、46.1%と非常に高い。
【0068】
[実施例B]
次に、浄化触媒の300℃以上でのHC脱離量に対するZr系複合酸化物の組成の影響を検討した。
【0069】
Zr系複合酸化物として、ZrOとSrOとの合計量に対するSrOの含有率が所定の比率となるように調製したZrSr複合酸化物を用いたこと以外、実施例Aと同様にして、浄化触媒を調製した。
【0070】
図7は、300℃以上でのトルエン脱離量に対するZrSr複合酸化物の組成の影響を示したグラフである。横軸は、ZrOとSrOとの合計量に対するSrOの含有率(質量%)を示し、縦軸は、300℃以上でのトルエン脱離量を示す。なお、ゼオライトとZrSr複合酸化物とを含む混合物からなる触媒層を形成した浄化触媒の結果は、グラフ31に示し、ゼオライト層上にZrSr複合酸化物層を積層した触媒層を形成した浄化触媒の結果は、グラフ32に示した。
【0071】
グラフ31から、ZrOとSrOとの合計量に対するSrOの含有率が高いほど、300℃以上でのトルエン脱離量が多くなることがわかる。このことは、SrOの含有率が高いほど、ZrSr複合酸化物の塩基性がより高まるので、トルエンをカルバニオンに変化させやすく、トルエンがゼオライトにより強固に吸着されるためであると考えられる。
【0072】
なお、SrOの含有率が高いほど、ZrSr複合酸化物の結晶構造が崩壊されやすくなり、ZrOとSrOとの合計量に対するSrOの含有率が約15質量%(ZrとSrとの合計量に対するSrの含有率が約21.0モル%)が、製造限界である。
【0073】
さらに、グラフ31とグラフ32とを比較することによって、ゼオライト層上にZrSr複合酸化物層を積層した触媒層が形成された浄化触媒は、ゼオライトとZrSr複合酸化物とを混合してなる触媒層が形成された浄化触媒より、高温時での脱離トルエン量が多いことがわかる。
【0074】
[実施例C]
次に、浄化触媒のHC吸着量に対する、ゼオライトとZr系複合酸化物との含有比の影響を検討した。
【0075】
Zr系複合酸化物として、ZrSr複合酸化物(Sr/Zr+Sr=6.25モル%)を用い、ゼオライトとZrSr複合酸化物との含有比が所定の比率となるようにしたこと以外、実施例Aと同様にして、浄化触媒を調製した。
【0076】
図8は、トルエン吸着量に対するゼオライトとZrSr複合酸化物との含有比の影響を示したグラフである。横軸は、β−ゼオライトとZrSr複合酸化物との合計量に対するZrSr複合酸化物の含有率(質量%)を示し、縦軸は、トルエン吸着量を示す。なお、ゼオライトとZrSr複合酸化物とを含む混合物からなる触媒層を形成した浄化触媒の結果は、グラフ41に示し、ゼオライト層上にZrSr複合酸化物層を積層した触媒層を形成した浄化触媒の結果は、グラフ42に示した。
【0077】
グラフ41から、β−ゼオライトとZrSr複合酸化物との合計量に対するZrSr複合酸化物の含有率が低いほど、トルエンの吸着量が多くなることがわかる。このことは、ゼオライト量が減ることによると考えられる。このことから、β−ゼオライトとZrSr複合酸化物との合計量に対するZrSr複合酸化物の含有率が50質量%以上であることが好ましいことがわかる。
【0078】
さらに、グラフ41とグラフ42とを比較することによって、ゼオライト層上にZrSr複合酸化物層を積層した触媒層が形成された浄化触媒は、ゼオライトとZrSr複合酸化物とを含む混合物からなる触媒層が形成された浄化触媒より、トルエン吸着量が多いことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【図1】本実施形態に係る排気ガス浄化用触媒を備えた触媒コンバータ1を模式的に示す断面図である。
【図2】浄化触媒3の一部を拡大して示す断面図である。
【図3】セル壁5上に形成されている触媒層6を模式的に示す断面図である。
【図4】HC脱離温度を向上させるメカニズムを示す説明図である。
【図5】浄化触媒の温度と脱離トルエン濃度との関係を示したグラフである。
【図6】浄化触媒の温度と脱離トルエン濃度との関係を示したグラフである。
【図7】300℃以上でのトルエン脱離量に対するZrSr複合酸化物の組成の影響を示したグラフである。
【図8】トルエン吸着量に対するゼオライトとZrSr複合酸化物との含有比の影響を示したグラフである。
【符号の説明】
【0080】
1 触媒コンバータ
2 耐熱容器
3 浄化触媒
5 セル壁
6 触媒層
11 ゼオライト
12 Zr系複合酸化物
13 触媒貴金属

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気通路に配設される排気ガス浄化用触媒であって、
ハニカム状担体と、前記ハニカム状担体のセル壁表面に形成された触媒層とを備え、
前記触媒層が、ゼオライトと、ジルコニウム(Zr)及びアルカリ土類金属を含むZr系複合酸化物とを含有することを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記触媒層が、前記ゼオライトと前記Zr系複合酸化物とを含有する混合物からなる請求項1記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記触媒層が、前記セル壁表面に形成された、前記ゼオライトを含有するゼオライト層と、該ゼオライト層表面に形成された、前記Zr系複合酸化物を含有する酸化物層とからなる請求項1に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記Zr系複合酸化物における、ZrOと前記アルカリ土類金属の酸化物との合計量に対する前記アルカリ土類金属の酸化物の含有率が、1質量%以上である請求項1〜3のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用触媒。
【請求項5】
前記ゼオライトと前記Zr系複合酸化物との合計量に対する前記Zr系複合酸化物の含有率が、1〜50質量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の排気ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−125707(P2009−125707A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−305915(P2007−305915)
【出願日】平成19年11月27日(2007.11.27)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】