説明

排気ガス浄化用触媒

【課題】排気ガス浄化用触媒が低温で且つ空燃比リーン雰囲気に包まれている状態であっても、該触媒雰囲気が空燃比リーンから空燃比リッチに移行した過渡期にNOxを効率良く浄化できるようにする。
【解決手段】排気ガス浄化用触媒は、基材1上に、Rh触媒層3と、該Rh触媒層3よりも下側に配置された非Rh触媒層2とを備え、Rh触媒層3は、各々種類が異なるRh触媒を含有する複数の層3a〜3cを積層してなり、上層3aは下層3b,3cよりも、290℃未満の温度において排気ガスの空燃比がリーンからリッチに変化したときのNOx浄化速度が大きい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化用触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車においては、その排気ガスが環境負荷となることから、触媒の排気ガス浄化率の向上が求められ、また、省エネ等の観点から低燃費化も求められている。低燃費化のために、エンジンの燃焼効率の向上が図られ、また、エンジンとモータとを駆動源として併用するハイブリッド化も行なわれている。
【0003】
ハイブリッド自動車に関しては、エンジンを専ら発電機として使用し、その電力をモータによる自動車の駆動に利用するシリーズ方式、モータによる駆動とエンジンによる駆動とを組み合わせるパラレル方式等が知られている。いずれにしても、始動と停止とが頻繁に繰り返されるのがハイブリッド自動車におけるエンジンの特徴である。そして、エンジン停止時においては、燃料噴射を停止させてからエンジンの回転が停止するまでの間に、空気のみがいずれかの気筒を通過して排気系に流入し、その空気に排気ガス浄化用触媒が晒される。その結果、その触媒は、空燃比リーンの雰囲気に包まれ且つ低温状態で次のエンジン始動を迎えることになる。そのため、触媒によるNOx(窒素酸化物)浄化が進みにくくなり、エンジン再始動時の大気中へ排出されるNOxが増加するという問題点がある。
【0004】
同様の問題は、エンジンだけを駆動源とする自動車においてもみられ、さらに、減速運転時に燃料カットを実施する場合、燃料カット中は、空気のみがエンジン排気系に送られる状態となるから、排気ガス浄化用触媒はその蓄積酸素量が増加し且つ低温状態になる。また、低燃費化のために空燃比リーンでエンジンを始動するケース(リーンスタート)においても、排気ガス浄化用触媒は、低温且つリーン雰囲気に包まれた状態になるから、同様の問題がある。
【0005】
これに対して、特許文献1には、エンジンのリーンスタートにおける排気ガス浄化性能を高めるべく、ZrとPrとの複合酸化物にPdを担持させてなる排気ガス浄化用触媒を採用することが記載されている。
【0006】
ところで、NOxの浄化に有効な触媒金属はRhであることが知られている。そのため、三元触媒においては、基材(触媒担体)上にPt及び/又はPdを含有する触媒層を設け、該触媒層の上にRhを含有するRh触媒層を設ける構成とされることがある(特許文献2)。この構成において、Rhをさらに下側の触媒層に設けることによってNOx浄化性を高めることが考えられる。そのような触媒を開示するものとして特許文献3がある。これは、基材上に、Pd及びRhを含有するアルミナ層からなる第1コート層と、この第1コート層の上に設けられた、Rhを固定した酸化セリウム粒子と活性アルミナ粒子とからなる第2コート層とを備えたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−68728号公報
【特許文献2】特開2006−263582号公報
【特許文献3】特開平03−56137号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、Rhを下側触媒層に設けるだけ、或いは上側触媒層と下側触媒層の両層にRhを設けるだけでは、触媒がリーン雰囲気に包まれている場合は、空燃比リッチの排気ガスが触媒に流入しても、高いNOx浄化性は期待することができず、特に低温時のNOx浄化性は低い。
【0009】
本発明者の研究によれば、Rh触媒による排気ガス浄化性能は、そのRhを担持する酸化物担体によって相違し、異種の酸化物担体に担持されたRh触媒を組み合わせると、NOx浄化性能が高まることがわかった。しかし、従来は異種Rh触媒の組み合わせについて検討は十分になされておらず、異種Rh触媒の組み合わせがNOx浄化性能に及ぼす効果についての報告もないのが現状である。
【0010】
以上を踏まえ、本発明は、排気ガス浄化用触媒が低温で且つ空燃比リーン雰囲気に包まれている状態であっても、空燃比リッチの排気ガスが流入してきた過渡期にNOxを効率良く浄化できるようにして、例えば、エンジン始動時に大気中にNOxが未浄化のまま排出される量を低減する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明では、上記課題を解決するために、基材上の非Rh触媒層の上側にRh触媒層が設けられている排気ガス浄化用触媒において、そのRh触媒層を各々Rhを含有し且つNOx浄化速度が異なる複数の触媒層の積層構造にした。
【0012】
すなわち、ここに開示する排気ガス浄化用触媒は、基材上に、触媒金属としてRhを含有するRh触媒層を備え、該Rh触媒層よりも下側にRh以外の触媒金属を含有する非Rh触媒層が設けられていて、
上記Rh触媒層は、各々Rhを含有する複数の層を積層してなり、上側の層になるほど、290℃未満の温度において排気ガスの空燃比がリーンからリッチに変化したときのNOx浄化速度が大きいことを特徴とする。
【0013】
従って、排気ガス浄化用触媒が空燃比リーンの雰囲気に包まれ且つ温度が低い状態にあっても、Rh触媒層の排気ガスに晒される上側の層では、空燃比リッチの排気ガスが当該触媒に流入すると、雰囲気の空燃比がリーンからリッチに変化することに伴って、NOxが比較的高い効率で浄化される。これに伴って、触媒反応熱が上側の層から相対的にNOx浄化速度が小さい下側の層に伝わることによって、該下側の層でもNOxが浄化され易くなる。
【0014】
つまり、このようなRh触媒層であれば、Rh触媒層全体で平均したNOx浄化速度が単層型のRh触媒層と同じであっても、上側の層でNOxが効率良く浄化され、その反応熱によって下側の層の活性化が促進されるから、単層側のRh触媒層に比べて、空燃比がリーンからリッチに変化した過渡期のNOx浄化率が高くなる。
【0015】
しかも、上述の如くRh触媒層でNOxが効率良く浄化されることによって、その下側の非Rh触媒層に拡散する排気ガスのNOx濃度が低くなり、該非Rh触媒層におけるHC及びCOの酸素による酸化浄化が進み易くなる。つまり、NOxよりも酸素の方がHC及びCOの酸化浄化に良く働くから、NOx濃度が高くなるほど、HC、COの浄化に不利になるところ、Rh触媒層でNOxの浄化が進むから、非Rh触媒層ではNOx濃度が低くなり、HC、COの浄化が進み易くなる。
【0016】
好ましい実施形態では、上記Rh触媒層における最上層は、活性アルミナ粒子にZrとLaとを含有するZrLa系複合酸化物が担持されてなるZrLa系/Al複合粒子を備え、該複合粒子にRhが担持されており(Rh/ZrLa系/Al触媒)、
上記Rh触媒層における上記最上層よりも下側の層は、Zr、La、及びCe以外の希土類金属Rを含有し且つRhを担持したZrLaR系複合酸化物粒子(Rh/ZrLaR系触媒)と、Ce及びZrを含有し且つRhを担持したCeZr系複合酸化物粒子(Rh/CeZr系触媒)との少なくとも一方を備えている。この場合、ZrLaR系複合酸化物は酸素イオン伝導性化合物であり、CeZr系複合酸化物は酸素吸蔵放出能を有する化合物である。
【0017】
すなわち、本発明者の研究によると、290℃未満の温度において排気ガスの空燃比がリーンからリッチに変化したときのNOx浄化速度は、上記3種類のRh触媒のなかでは、Rh/ZrLa系/Al触媒が最も大きく、次に大きいのはRh/ZrLaR系触媒であり、これにRh/CeZr系触媒が続く。
【0018】
上記Rh/ZrLa系/Al触媒は、活性アルミナの比表面積が大きいことから、Rhの高分散化が図れ、RhによるNOxの吸着、浄化に有利になっていると考えられる。また、ZrLa系複合酸化物は、各々酸化物が塩基性を示すZr及びLaを含有するため、NOxの吸着に有利になる。また、Rhを活性アルミナに直接担持した触媒材の場合は、高温に晒される使用が長年続くと、Rhが活性アルミナに固溶して失活していくが、Rh/ZrLa系/Al触媒の場合は、Rhの少なくとも一部は活性アルミナに直接担持されず、ZrLa系複合酸化物を介して活性アルミナに担持されているから、上記高温失活も抑制される。
【0019】
上記ZrLa系複合酸化物としては、金属としてZrとLaのみを含有するものに限らず、さらに、Ce以外の希土類金属Rを含有するもの、或いは、Sr、Ca、Mgのようなアルカリ土類金属を含有するものを採用してもよい。アルカリ土類金属を含有するケースでは、塩基性サイトが増加し、NOxの吸着、浄化に有利になる。
【0020】
上記Rh/ZrLaR系触媒の希土類金属R、或いは上記Rh/ZrLa系/Al触媒のZrLa系複合酸化物が含有することができる希土類金属Rとしては、Y、Pr、Nd等を採用することが好ましい。
【0021】
上記Rh/CeZr系触媒のCeZr系複合酸化物としては、金属としてCeとZrのみを含有するものに限らず、Ndのような、Ce以外の希土類金属を含有するものであってもよい。
【0022】
また、別の好ましい実施形態では、上記Rh触媒層における最上層は、Zr、La、及びCe以外の希土類金属Rを含有し且つRhを担持した上述のZrLaR系複合酸化物粒子(Rh/ZrLaR系触媒)を備え、
上記Rh触媒層における上記最上層よりも下側の層は、Ce及びZrを含有し且つRhを担持した上述のCeZr系複合酸化物粒子(Rh/CeZr系触媒)を備えている。
【0023】
上記非Rh触媒層は、活性アルミナ粒子と、Ce及びZrを含有する酸素吸蔵放出能を有するCeZr系複合酸化物粒子とを含有し、該活性アルミナ粒子及びCeZr系複合酸化物粒子各々に、上記触媒金属としてPdが担持されていることが好ましい。このようなPd触媒層であれば、排気ガス中のHC及びCOが効率良く浄化される。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、基材上にRh触媒層と該Rh触媒層よりも下側に配置された非Rh触媒層とを備え、上記Rh触媒層は、各々Rhを含有する複数の層を積層してなり、上側の層になるほど、290℃未満の温度において排気ガスの空燃比がリーンからリッチに変化したときのNOx浄化速度が大きいから、当該排気ガス浄化用触媒が空燃比リーンの雰囲気に包まれ且つ温度が低い状態にあっても、空燃比リッチの排気ガスが当該触媒に流入したときのNOx浄化性に優れ、例えば、エンジン始動時に大気中にNOxが未浄化のまま排出される量を低減する上で有利になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】排気ガス浄化用触媒の層構造の一例を示す断面図である。
【図2】排気ガス浄化用触媒の層構造の別の例を示す断面図である。
【図3】NOx浄化性能評価装置の一部を示す断面図である。
【図4】NOx浄化性能評価フロー図である。
【図5】NOx浄化性能評価試験における空燃比、NOx濃度及びNOx浄化速度の経時変化の一例を示すグラフ図である。
【図6】各種サンプル触媒のNOx浄化速度の測定結果を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0027】
図1は自動車のエンジンの排気通路に配設される排気ガス浄化用触媒の層構造の一例を示す。同図において、1は基材としてのハニカム担体のセル壁、2はセル壁1の表面に形成された非Rh触媒層、3は非Rh触媒層2の上に重ねられたRh触媒層である。Rh触媒層3は、排気ガスに直接晒される第1層(上層)3aと、第1層3aの下側に設けられた第2層(中間層)3bと、第2層3bの下側に設けられた第3層(下層)3cとの三層構造になっている。
【0028】
非Rh触媒層2は、Rhを触媒金属として含有しない触媒層であり、本実施形態では、Pdを触媒金属とする2種類のPd触媒を含有する。すなわち、活性アルミナ粒子にPdを担持してなるPd/Al触媒と、Ce及びZrを含有する酸素吸蔵放出能を有するCeZr系複合酸化物粒子にPdが担持されてなるPd/CeZr系触媒の2種類である。このPd/Al触媒とPd/CeZr系触媒とがバインダと共に混合されてセル壁1に担持されて、非Rh触媒層2が形成されている。
【0029】
Rh触媒層3の第1層3a〜第3層3cは、いずれもRhを触媒金属とするRh触媒を含有するが、それらRh触媒は、Rhを担持する酸化物の種類が相違する。そのため、第1層3a〜第3層3cは、各々の特定条件下(290℃未満の温度において排気ガスの空燃比がリーンからリッチに変化したとき)のNOx浄化速度が相違する。その特定条件の具体的内容については後述する。そして、当該NOx浄化速度の大小関係は、第1層3aのRh触媒が最も大きく、次に大きいのが第2層3bのRh触媒であり、その次が第3層3cのRh触媒になっている。
【0030】
図2は別の実施形態に係る排気ガス浄化用触媒の層構造を示す。この触媒も、セル壁1の表面に非Rh触媒層2が形成され、該非Rh触媒層2の上にRh触媒層3が形成されている。但し、非Rh触媒層2は図1のケースと同じであるが、Rh触媒層3は、図1のケースとは違って、排気ガスに直接晒される第1層(上層)3aと、第1層3aの下側に設けられた第2層(下層)3bの二層構造になっている。この第1層3a及び第2層3b各々もRh触媒を含有するが、それらRh触媒は、Rhを担持する酸化物の種類が相違し、上記特定条件下のNOx浄化速度は、第1層3aのRh触媒の方が第2層3bのRh触媒よりも大きくなっている。
【0031】
本発明の重要な特徴は、上記Rh触媒層3がNOx浄化速度の相違する複数の層で構成されていることにある。以下、具体的に説明する。
【0032】
<各種Rh触媒のNOx浄化速度>
測定に供するサンプル触媒(Rh触媒)として、Rhを担持する酸化物の種類が異なる次の5種類を準備した。
【0033】
[サンプル触媒の調製]
−Rh/ZrLaO/Al触媒−
これは、上述のRh/ZrLa系/Al触媒の一種であって、活性アルミナ粒子にZrとLaとを含有するZrLa複合酸化物が担持されてなるZrLaO/Al複合粒子を備え、該複合粒子にRhが担持されてなるものである。その調製法は次のとおりである。
【0034】
硝酸ジルコニウム及び硝酸ランタンの混合溶液に活性アルミナ粉末を分散させ、これにアンモニア水を加えて沈殿を生成した。得られた沈殿物を濾過、洗浄し、200℃で2時間保持する乾燥、並びに500℃に2時間保持する焼成を行なうことにより、ZrLa系/Al複合粒子(粉末)を得た。その組成は、ZrO:La:Al=38:2:60(質量比)である。このZrLa系/Al複合粒子(粉末)にRhを蒸発乾固法にて担持させた。この蒸発乾固にはRh溶液として硝酸Rh水溶液を採用した。
【0035】
得られたRh/ZrLaO/Al触媒をハニカム担体に担持させてサンプル触媒とした。担体1L当たりのRh/ZrLaO/Al触媒の担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)である。
【0036】
−Rh/ZrLaYO触媒−
これは、上述のRh/ZrLaR系触媒の一種であって、Zr、La及びYを含有するZrLaY複合酸化物粒子にRhが担持されてなるものである。その調製法は次のとおりである。
【0037】
硝酸ジルコニル溶液と硝酸ランタンと硝酸イットリウムとをイオン交換水に溶かす。この硝酸塩溶液に28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより、共沈物を得る。この共沈物を遠心分離法で水洗した後、空気中において150℃の温度で一昼夜乾燥させ、粉砕した後、空気中において500℃の温度に2時間保持する焼成を行なうことにより、ZrLaY複合酸化物の粉末を得る。その組成は、ZrO:La:Y=84:6:10(質量比)である。このZrLaY複合酸化物粉末にRhを先のRh触媒と同様の蒸発乾固法にて担持させた。
【0038】
得られたRh/ZrLaYO触媒をハニカム担体に担持させてサンプル触媒とした。担体1L当たりのRh/ZrLaYO触媒の担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)である。
【0039】
−Rh/ZrLaNdO触媒−
これは、上述のRh/ZrLaR系触媒の一種であって、Zr、La及びNdを含有するZrLaNd複合酸化物粒子にRhが担持されてなるものである。その調製法は、硝酸イットリウムに代えて、硝酸ネオジムを採用することが相違するだけで、先のRh/ZrLaYO触媒と同じである。得られたRh/ZrLaNdO触媒をハニカム担体に担持させてサンプル触媒とした。ZrLaNd複合酸化物粉末の組成は、ZrO:La:Nd=84:6:10(質量比)であり、担体1L当たりのRh/ZrLaNdO触媒の担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)である。
【0040】
−Rh/ZrLaPrO触媒−
これは、上述のRh/ZrLaR系触媒の一種であって、Zr、La及びPrを含有するZrLaPr複合酸化物粒子にRhが担持されてなるものである。その調製法は、硝酸イットリウムに代えて、硝酸プラセオジムを採用することが相違するだけで、先のRh/ZrLaYO触媒と同じである。得られたRh/ZrLaPrO触媒をハニカム担体に担持させてサンプル触媒とした。ZrLaPr複合酸化物粉末の組成は、ZrO:La:Pr=84:6:10(質量比)であり、担体1L当たりのRh/ZrLaPrO触媒の担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)である。
【0041】
−Rh/CeZrNdO触媒−
これは、上述のRh/CeZr系触媒の一種であって、Ce、Zr及びNdを含有するCeZrNd複合酸化物粒子にRhが担持されてなるものである。その調製法は、当該複合酸化物を得る出発原料を硝酸セリウムと硝酸ジルコニル溶液と硝酸ネオジムとする他は先のRh/ZrLaYO触媒と同じである。得られたRh/CeZrNdO触媒をハニカム担体に担持させてサンプル触媒とした。CeZrNd複合酸化物粉末の組成は、CeO:ZrO:Nd=10:80:10(質量比)であり、担体1L当たりのRh/CeZrNdO触媒の担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)である。
【0042】
[NOx浄化速度の測定]
図3にNOx浄化速度を測定するためのNOx浄化性能評価装置の要部構成を示す。この評価装置は、サンプル触媒11の設置部を有するガス流通管12を備え、設置したサンプル触媒11に模擬排気ガスを流通させるようになっている。サンプル設置部の入口及び出口にそれぞれNOx濃度検出手段13が設けられている。
【0043】
図4に上記評価装置を用いたNOx浄化性能の評価フローを示す。サンプル触媒11をガス流通管12のサンプル設置部に設置する(ステップS1)。サンプル設置部のサンプル触媒11に空燃比(A/F)がリッチ(例えば、ストイキ)である模擬排気ガスを流しつつ、設置部内温度を室温から評価温度(例えば、250℃)まで上昇させる(ステップS2)。
【0044】
次に、模擬排気ガスの空燃比をリーン(例えば、A/F=20)に切り替え、サンプル触媒11の上流側と下流側のNOx濃度の検出を開始する(ステップS3)。空燃比をリーンに切り替えてから所定時間(例えば30秒)が経過したときに、空燃比をリッチに切り替える(ステップS4)。次いで、リッチに切り替えてから所定時間(例えば30秒)が経過したときに、空燃比をリーンに切り替える(ステップS5)。ステップS4とS5とを必要に応じて適宜回数繰り返す。
【0045】
そうして、空燃比リッチ期間におけるNOx浄化速度とNOx浄化量とを求める(ステップS6)。この場合のNOx浄化速度は、所定時間での下流側NOx濃度の減少変化量であり、例えば、空燃比リッチ期間全体での最大NOx浄化速度又は平均NOx浄化速度、或いは該リッチ期間中の所定期間(例えば、前半期間、後半期間又は中間期間等)での最大NOx浄化速度又は平均NOx浄化速度を求める。この場合のNOx浄化量は、空燃比リッチ期間全体又は上記所定期間に浄化されたNOxの積算量である。上記ステップS4とS5とを繰り返して実行するときは、各空燃比リッチ期間における上記NOx浄化速度及びNOx浄化量を求めて、それらの平均値をとる。
【0046】
上記ステップS1〜S6を評価すべき各温度(例えば、250℃〜400℃の50℃刻み)に関して実行する(ステップS7)。各評価温度でのNOx浄化速度及びNOx浄化量に基いて当該触媒の性能を評価する(ステップS8)。
【0047】
図5の(a)には空燃比(A/F)の変化と下流側NOx濃度の変化の一例が示されている。サンプル触媒11では、空燃比がリーンであるときのNOxの浄化性が低いが、空燃比がリッチになると、NOxの浄化が急に進むようになる。そのため、空燃比がリーンからリッチに変化すると、下流側NOx濃度が減少していき、リッチからリーンに変化すると、下流側NOx濃度が急に高くなる。図5の(b)に示すように、NOx浄化速度は、空燃比がリーンからリッチに切り替えられるたびに急激に高くなり、時間の経過とともに、低下していく。
【0048】
[NOx浄化速度の測定結果]
図6に上記評価装置を用いた上記5種類の供試材のNOx浄化速度の測定結果を示す。このNOx浄化速度は、上記空燃比リッチ期間における最大値である。空燃比リーン及びリッチの各模擬排気ガスの組成は表1のとおりである。模擬排気ガスは、空燃比リッチ時にはストイキの組成となるようにし、このストイキの模擬排気ガスにOを0.3%分追加することにより、空燃比がリーン(A/F=20)になるようにした。模擬排気ガス流量はSV値が60000h−1になるようにした。
【0049】
【表1】

【0050】
図6によれば、NOx浄化速度は、290℃未満の温度では、Rh/ZrLaO/Al触媒が最も大きく、次に大きいのがRh/ZrLaYO触媒及びRh/ZrLaNdO触媒であり、その次にRh/ZrLaPrO触媒が大きく、Rh/CeZrNdO触媒が最も小さくなっている。
【0051】
この結果を踏まえ、表2に示す実施例1〜5及び比較例1〜3の排気ガス浄化用触媒を調製し、そのNOx浄化性能を評価した。
【0052】
【表2】

【0053】
<実施例1〜5及び比較例1〜3>
−実施例1−
非Rh触媒層2は、上述のPd/Al触媒とPd/CeZr系触媒とを混合して含有する構成とした。Pd/Al触媒としては、Laを4質量%含有する活性アルミナ粒子にPdを蒸発乾固法で担持したものを採用した。担体1L当たりの担持量は45g(そのうちのPd担持量は4.3g)である。Pd/CeZr系触媒としては、組成がCeO:ZrO:Nd=23:67:10(質量比)であるCeZrNd複合酸化物粒子にPdを蒸発乾固法で担持したものを採用した。担体1L当たりの担持量は35g(そのうちのPd担持量は0.3g)である。
【0054】
Rh触媒層3は図1に示す三層構造とした。第1層3aのRh触媒としては上述のRh/ZrLaO/Al触媒を採用した。担体1L当たりの担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)である。第2層3bのRh触媒としては上述のRh/ZrLaYO触媒を採用した。担体1L当たりの担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)である。第3層3cのRh触媒としては上述のRh/CeZrNdO触媒を採用した。担体1L当たりの担持量は60g(そのうちのRh担持量は0.25g)である。従って、図6から明らかなように、290℃未満の温度でのNOx浄化速度は、第1層3aのRh触媒が最も大きく、これに第2層3bのRh触媒及び第3層3cのRh触媒が順に続いている。
【0055】
−実施例2−
非Rh触媒層は実施例1と同じ構成にした。Rh触媒層3は図2に示す二層構造とした。第1層3aのRh触媒としては上述のRh/ZrLaO/Al触媒を採用した。担体1L当たりの担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)である。第2層3bには、上述のRh/ZrLaYO触媒とRh/CeZrNdO触媒とを混合して配置した。Rh/ZrLaYO触媒の担体1L当たりの担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)であり、Rh/CeZrNdO触媒の担体1L当たりの担持量は60g(そのうちのRh担持量は0.25g)である。従って、290℃未満の温度でのNOx浄化速度は、第1層3aのRh触媒の方が第2層3bのRh触媒混合物よりも大きい。
【0056】
−実施例3−
非Rh触媒層は実施例1と同じ構成にした。Rh触媒層3は図2に示す二層構造とした。第1層3aのRh触媒としては上述のRh/ZrLaO/Al触媒を採用した。担体1L当たりの担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)である。第2層3bのRh触媒としては、上述のRh/ZrLaYO触媒を採用した。担体1L当たりの担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)である。従って、290℃未満の温度でのNOx浄化速度は、第1層3aのRh触媒の方が第2層3bのRh触媒よりも大きい。
【0057】
−実施例4−
非Rh触媒層は実施例1と同じ構成にした。Rh触媒層3は図2に示す二層構造とした。第1層3aのRh触媒としては上述のRh/ZrLaO/Al触媒を採用した。担体1L当たりの担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)である。第2層3bのRh触媒としては、上述のRh/CeZrNdO触媒を採用した。担体1L当たりの担持量は60g(そのうちのRh担持量は0.25g)である。従って、290℃未満の温度でのNOx浄化速度は、第1層3aのRh触媒の方が第2層3bのRh触媒よりも大きい。
【0058】
−実施例5−
非Rh触媒層は実施例1と同じ構成にした。Rh触媒層3は図2に示す二層構造とした。第1層3aのRh触媒としては上述のRh/ZrLaYO触媒を採用した。担体1L当たりの担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)である。第2層3bのRh触媒としては、上述のRh/CeZrNdO触媒を採用した。担体1L当たりの担持量は60g(そのうちのRh担持量は0.25g)である。従って、290℃未満の温度でのNOx浄化速度は、第1層3aのRh触媒の方が第2層3bのRh触媒よりも大きい。
【0059】
−比較例1−
これは、実施例1,2に対応する比較例であり、非Rh触媒層は実施例1と同じ構成にした。Rh触媒層3は単層構造とした。すなわち、Rh触媒として、上述のRh/ZrLaO/Al触媒とRh/ZrLaYO触媒とRh/CeZrNdO触媒との混合物を採用した。担体1L当たりの担持量は、Rh/ZrLaO/Al触媒が30g(そのうちのRh担持量は0.1g)、Rh/ZrLaYO触媒が30g(そのうちのRh担持量は0.1g)、Rh/CeZrNdO触媒が60g(そのうちのRh担持量は0.25g)である。
【0060】
−比較例2−
これは、実施例3に対応する比較例であり、非Rh触媒層は実施例1と同じ構成にした。Rh触媒層3は図2に示す二層構造とした。第1層3aのRh触媒としては上述のRh/ZrLaYO触媒を採用した。担体1L当たりの担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)である。第2層3bのRh触媒としては、上述のRh/ZrLaO/Al触媒を採用した。担体1L当たりの担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)である。従って、290℃未満の温度でのNOx浄化速度は、実施例3とは逆に、第1層3aのRh触媒の方が第2層3bのRh触媒よりも小さい。
【0061】
−比較例3−
これは、実施例4に対応する比較例であり、非Rh触媒層は実施例1と同じ構成にした。Rh触媒層3は図2に示す二層構造とした。第1層3aのRh触媒としては上述のRh/CeZrNdO触媒を採用した。担体1L当たりの担持量は60g(そのうちのRh担持量は0.25g)である。第2層3bのRh触媒としては、上述のRh/ZrLaO/Al触媒を採用した。担体1L当たりの担持量は30g(そのうちのRh担持量は0.1g)である。従って、290℃未満の温度でのNOx浄化速度は、実施例4とは逆に、第1層3aのRh触媒の方が第2層3bのRh触媒よりも小さい。
【0062】
<NOx浄化性能の評価>
実施例1〜5及び比較例1〜3の各排気ガス浄化用触媒について、先に説明した評価方法により、上記表1の模擬排気ガスを用いて、250℃での最大NOx浄化速度及びリッチ期間全体で積算したNOx浄化量を測定した。結果は表2に示されている。
【0063】
実施例1,2と比較例1とは、触媒の材料構成は同じであるが、実施例1,2ではRh触媒層を三層構造又は二層構造にしているのに対して、比較例1では混合層にしている点で相違する。これらを比較すると、NOx浄化速度及びNOx浄化量は、実施例1,2の方が比較例1よりも格段に大きい。これから、Rh触媒層を、排気ガスに直接晒される第1層に290℃未満の温度でのNOx浄化速度が最も大きいRh触媒を配置した多層構造することが、NOxの浄化に効果的であることが推察される。
【0064】
実施例1と実施例2とは、Rh/ZrLaYO触媒とRh/CeZrNdO触媒とを、前者では第2層と第3層とに分けて配置しているのに対して、後者は混合している点で相違する。両者を比較すると、NOx浄化速度及びNOx浄化量は、実施例1の方が実施例2よりも大きい。これから、第1層より下側の層に関しても、NOx浄化速度が大きいRh触媒を上側に配置することが、NOxの浄化に効果的であることがわかる。
【0065】
実施例3と比較例2とは、触媒の材料構成は同じであるが、NOx浄化速度が大きいRh/ZrLaO/Al触媒を実施例3では上側の第1層に配置しているのに対して、比較例3では下側の第2層に配置している点で相違する。両者を比較すると、NOx浄化速度及びNOx浄化量は、実施例3の方が比較例2よりも大きい。このことからも、排気ガスに直接晒される第1層にNOx浄化速度が大きいRh触媒を配置することが、NOxの浄化に有利であることがわかる。
【0066】
実施例4と比較例3の関係も、触媒の材料構成が同じで、Rh触媒層の第1層と第2層とが逆になっているケースである。その両者で逆に配置されているNOx触媒は、Rh/ZrLaO/Al触媒とRh/CeZrNdO触媒である。このケースでも、NOx浄化速度が大きいRh/ZrLaO/Al触媒を第1層に配置した実施例4の方が、Rh/CeZrNdO触媒を第1層に配置した比較例3よりも、NOx浄化速度及びNOx浄化量が大きくなっている。
【0067】
実施例5は、NOx浄化速度が大きいRh/ZrLaYO触媒を第1層に、相対的にNOx浄化速度が小さいRh/CeZrNdO触媒を第2層に配置したケースである。第1層にRh/ZrLaO/Al触媒を配置した実施例4と比べると、NOx浄化速度は実施例4の方が大きいが、NOx浄化量は実施例5の方が大きくなっている。これから、Rh/ZrLaYO触媒は、Rh/ZrLaO/Al触媒に比べて、空燃比がリーンからリッチに変化したときのNOx浄化速度は小さいものの、空燃比リッチ状態が継続するときのNOx浄化速度の低下率が小さい(NOx浄化率が大きく低下しない)ということができる。
【符号の説明】
【0068】
1 ハニカム担体のセル壁(基材)
2 非Rh触媒層
3 Rh触媒層
3a 第1層
3b 第2層
3c 第3層
11 サンプル触媒
12 ガス流通管
13 NOx濃度検出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に、触媒金属としてRhを含有するRh触媒層を備え、該Rh触媒層よりも下側にRh以外の触媒金属を含有する非Rh触媒層が設けられている排気ガス浄化用触媒において、
上記Rh触媒層は、各々Rhを含有する複数の層を積層してなり、上側の層になるほど、290℃未満の温度において排気ガスの空燃比がリーンからリッチに変化したときのNOx浄化速度が大きいことを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項2】
請求項1において、
上記Rh触媒層における最上層は、活性アルミナ粒子にZrとLaとを含有する複合酸化物が担持されてなる複合粒子を備え、該複合粒子にRhが担持されており、
上記Rh触媒層における上記最上層よりも下側の層は、Zr、La、及びCe以外の希土類金属Rを含有し且つRhを担持したZrLaR系複合酸化物粒子と、Ce及びZrを含有し且つRhを担持したCeZr系複合酸化物粒子との少なくとも一方を備えていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項3】
請求項1において、
上記Rh触媒層における最上層は、Zr、La、及びCe以外の希土類金属Rを含有し且つRhを担持したZrLaR系複合酸化物粒子を備え、
上記Rh触媒層における上記最上層よりも下側の層は、Ce及びZrを含有し且つRhを担持したCeZr系複合酸化物粒子を備えていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
上記非Rh触媒層は、活性アルミナ粒子と、Ce及びZrを含有するCeZr系複合酸化物粒子とを含有し、該活性アルミナ粒子及びCeZr系複合酸化物粒子各々に、上記触媒金属としてPdが担持されていることを特徴とする排気ガス浄化用触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−217950(P2012−217950A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87482(P2011−87482)
【出願日】平成23年4月11日(2011.4.11)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】