説明

排気部を用いる有機気相ジェット成長法

有機気相ジェット成長法のためのシステム及び方法が提供され、隣接するノズル間に排気部が配置される。排気部はノズル内及びノズルと基板との間の圧力蓄積を低減することができ、改善された堆積プロファイル、解像度、及び改善されたノズル間の均一性をもたらす。排気部は周囲真空と流体連通してよく、又は真空源と直接接続されてよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明はDOE SSLにより与えられたContract No.DEFC26−04NT42273の下で米国政府の支援でなされた。
【0002】
請求の範囲に記載されている発明は、大学−企業共同研究契約に基づき、一つ以上の以下の団体によって、それらを代表して、及び/又はそれらに関連してなされた:プリンストン大学、南カリフォルニア大学、及びUniversal Display Corporation。前記契約は、請求の範囲に記載されている発明がなされた日及びそれ以前に有効であったもので、請求の範囲に記載されている発明は前記契約の範囲内で行なわれた活動の結果としてなされた。
【0003】
本発明は、有機発光装置(OLED)に関し、より詳細には有機気相ジェット成長法を用いる基板上部への材料の堆積のためのシステム及び方法に関する。
【背景技術】
【0004】
有機材料を用いるオプトエレクトロニック装置は、多くの理由でますます望まれつつある。そのような装置を作るために使用される多くの材料は比較的高価ではなく、有機オプトエレクトロニック装置は無機装置に対してコスト的に有利である可能性を有する。さらに、例えばそれらの柔軟性等、有機材料の固有の性質によって、例えば柔軟基板上での作製等特定の用途に良く適するものとなり得る。有機オプトエレクトロニック装置の例としては、有機発光装置(OLED)、有機光トランジスタ、有機光電池、及び有機光検出器が挙げられる。OLEDに関して、有機材料は従来材料に対して性能の有利さを有し得る。例えば、有機発光層が発光する波長は一般的に適切なドーパントで容易に調節され得る。
【0005】
ここで、用語「有機」は有機オプトエレクトロニック装置を作製するのに用いられ得るポリマー材料並びに低分子有機材料を含む。「低分子」はポリマーではない任意の有機材料を示し、「低分子」は実際かなり大きくてもよい。低分子はある状況下では繰り返し単位を含んでよい。例えば、置換基として長鎖アルキル基を用いても、分子が「低分子」に分類されないことはない。低分子は、例えばポリマー主鎖のペンダント基として、または主鎖の一部としてポリマー内部に組み込まれてもよい。低分子は、デンドリマーのコア部分として使われてもよく、前記デンドリマーはコア部分に接して構築された一連の化学的殻からなる。デンドリマーのコア部分は蛍光またはリン光低分子発光体であってよい。デンドリマーは「低分子」であってよく、現在OLEDの分野で使用される全てのデンドリマーが低分子であると考えられる。一般的に、低分子は単一の分子量を持つ明確な化学式を有するのに対して、高分子は分子と分子とで異なる場合がある化学式及び分子量を有する。ここで、「有機」はヒドロカルビルリガンド及びヘテロ原子で置換されたヒドロカルビルリガンドの金属錯体を含む。
【0006】
OLEDは装置を横切って電圧が印加されるとき光を放出する有機薄膜を使用する。OLEDは、フラットパネルディスプレイ、照明、及びバックライト等の用途において使用するため益々興味深い技術となりつつある。幾つかのOLED材料、及び構成は米国特許第5,844,363号明細書、米国特許第6,303,238号明細書、及び米国特許第5,707,745号明細書に記述され、それらはその全てが参照によってここに組み込まれる。
【0007】
OLED装置は一般的に(常にではないが)少なくとも一つの電極を通して光を放出することを意図し、一つ以上の透明電極が有機オプトエレクトロニック装置において実用的であり得る。例えば、酸化インジウムスズ(ITO)等の透明電極材料が底部電極として使用されてよい。その全体が参照によって組み込まれる米国特許第5,703,436号明細書、及び米国特許第5,707,745号明細書に開示されるような透明上部電極が使用されてもよい。底部電極からのみ光を放出することを意図する装置において、上部電極は透明である必要はなく、高い導電性を有する厚く反射性の金属層から構成されてよい。同様に、上部電極からのみ光を放出することを意図する装置において、底部電極は不透明及び/又は反射性であってよい。電極が透明である必要がない場合、厚い層を使用すると良好な導電性が提供され、反射性電極を使用することで、背部の透明電極に向かって光を反射することによって、他の電極を通過して放射される光の量を増大させ得る。完全に透明な装置が作製されてもよく、双方の電極が透明である。側部放射OLEDも作製されてよく、そのような装置において一つ又は双方の電極が不透明又は反射性であってよい。
【0008】
ここで「上部」は基板から最も離れていることを意味し、一方で「底部」は基板に最も近いことを意味する。例えば、二つの電極を有する装置に関して、底部電極は基板に最も近い電極であり、概して作製される第1電極である。底部電極は二つの表面を有し、底部表面は基板に最も近く、上部表面は基板から最も離れている。第1層が第2層の「上部に堆積された」と記載されるとき、第1層は基板から離れて堆積される。第1層が第2層と「物理的に接触する」と明記されない限り、第1層と第2層との間に他の層があってよい。例えば、たとえその間に様々な有機層が存在したとしても、カソードはアノードの「上部に堆積された」と記載されてよい。
【0009】
ここで「溶液処理可能」ということは、溶液又は懸濁形態のどちらかで、液体媒体に溶解されることができ、分散されることができ、又は輸送されることができ、及び/又は液体媒体から沈殿されることができることを意味する。
【0010】
ここで、当業者によって一般的に理解されるであろうように、第1の「最高被占分子軌道」(HOMO)又は「最低空分子軌道」(LUMO)エネルギーレベルは、もしも第1のエネルギーレベルが真空エネルギーレベルに近い場合、第2のHOMO又はLUMOエネルギーレベルよりも「大きい」又は「高い」。イオン化ポテンシャル(IP)は真空レベルに対して負のエネルギーとして測定されるので、より高いHOMOエネルギーレベルはより小さな絶対値(より小さな負であるIP)を有するIPに対応する。同様に、より高いLUMOエネルギーレベルは、より小さな絶対値(より小さな負であるEA)を有する電子親和力(EA)に対応する。上方に真空レベルがある従来のエネルギーレベルダイアグラムでは、材料のLUMOエネルギーレベルが同じ材料のHOMOエネルギーレベルよりも高い。「より高い」HOMO又はLUMOエネルギーレベルは、「より低い」HOMO又はLUMOエネルギーレベルと比較して、そのようなダイアグラム上部に近い位置にみられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5,844,363号明細書
【特許文献2】米国特許第6,303,238号明細書
【特許文献3】米国特許第5,707,745号明細書
【特許文献4】米国特許第5,703,436号明細書
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
発明の概要
OVJDに関するシステム及び方法が提供され、隣接するノズル間には排気部が存在する。排気部はノズル開口領域及びノズルと基板との間における圧力を低減すると考えられ、解像度及び堆積プロファイルが改善される。排気部は、例えば真空チャンバ内部で作られる真空等、周囲真空と流体連通してよい。それは、同様に真空源に直接接続されてよい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】別個の電子輸送層、正孔輸送層、及び発光層、並びに他の層を有する有機発光装置を示す。
【図2】別個の電子輸送層を持たないインバーテッド有機発光装置を示す。
【図3】堆積ノズルに隣接して配置された排気部を有するOVJD装置の側面図である。
【図4A】ノズルブロック内に配置された排気部を有するOVJD装置の概略的な前面図である。
【図4B】二つのノズル及び排気部を有するノズルブロックの概略的な上面図である。
【図5A】ノズルブロック中のノズル及び排気部の例示的配置の概略的上面図を示す。
【図5B】ノズルブロック中のノズル及び排気部の例示的配置の概略的上面図を示す。
【図5C】ノズルブロック中のノズル及び排気部の例示的配置の概略的上面図を示す。
【図5D】ノズルブロック中のノズル及び排気部の例示的配置の概略的上面図を示す。
【図5E】ノズルブロック中のノズル及び排気部の例示的配置の概略的上面図を示す。
【図5F】ノズルブロック中のノズル及び排気部の例示的配置の概略的上面図を示す。
【図6A】真空チャンバの周囲真空と流体連通する排気部を有するOVJD装置の概略的な側面図である。
【図6B】独立した真空源に直接接続された排気部を有するOVJD装置の概略的な側面図である。
【図6C】真空チャンバの排出源に直接接続された排気部を有するOVJD装置の概略的な側面図である。
【図7】OVJDシステムのシミュレーションにおける境界条件を示す。
【図8】様々なOVJDシステムをモデル化するのに用いられた例示的なメッシュを示す。
【図9】様々なメッシュノードに対する例示的なシミュレーション結果を示す。
【図10A】排気部を持たない単一のノズルシステムのシミュレーションおける、速度に関するシミュレーション結果を示す。
【図10B】排気部を持たない単一のノズルシステムのシミュレーションおける、圧力に関するシミュレーション結果を示す。
【図10C】排気部を持たない単一のノズルシステムのシミュレーションおける、温度に関するシミュレーション結果を示す。
【図10D】排気部を持たない単一のノズルシステムのシミュレーションおける、全フラックスに関するシミュレーション結果を示す。
【図11A】OVJDシステムでノズルから排出された窒素キャリアガスのシミュレーションにおける、未処理の堆積プロファイルを示す。
【図11B】OVJDシステムでノズルから排出された窒素キャリアガスのシミュレーションにおける、正規化された堆積プロファイルを示す。
【図12】様々なノズル−基板分離に関するシミュレートされた堆積プロファイルを示す。
【図13】図12に関して用いられた分離に関する結果(FWHM)を示す。
【図14A】近接するノズルの間に配置された排気部を持たない、異なる材料を射出する多数ノズルのシミュレーションにおける速度を示す。
【図14B】近接するノズルの間に配置された排気部を持たない、異なる材料を射出する多数ノズルのシミュレーションにおける圧力を示す。
【図14C】近接するノズルの間に配置された排気部を持たない、異なる材料を射出する多数ノズルのシミュレーションにおける温度を示す。
【図14D】図14A−14Cで説明される同じシミュレーションにおける材料1に関する全フラックスを示す。
【図14E】図14A−14Cで説明される同じシミュレーションにおける材料2に関する全フラックスを示す。
【図15】排気部を有するマルチノズルシステムに関するシミュレートされた堆積プロファイルを示す。
【図16A】近接するノズルの間に配置された排気部を有する、異なる材料を射出する多数ノズルのシミュレーションにおける速度を示す。
【図16B】近接するノズルの間に配置された排気部を有する、異なる材料を射出する多数ノズルのシミュレーションにおける圧力を示す。
【図16C】近接するノズルの間に配置された排気部を有する、異なる材料を射出する多数ノズルのシミュレーションにおける温度を示す。
【図16D】図16A−16Cで説明される同じシミュレーションにおける材料1に関する全フラックスを示す。
【図16E】図16A−16Cで説明される同じシミュレーションにおける材料2に関する全フラックスを示す。
【図17A】様々なキャリアガスを用いたマルチノズルノズルブロックから射出される材料のシミュレートされた堆積プロファイルに関する未処理データを示す。
【図17B】様々なキャリアガスを用いたマルチノズルノズルブロックから射出される材料のシミュレートされた堆積プロファイルに関する正規化されたデータを示す。
【図18】排気部を有するシステムにおける様々なノズル−基板分離(separation)での、三つの材料を堆積する五つのノズルに関するシミュレートされた堆積プロファイルを示す。
【図19】様々な流速に関する、近接するノズル間に排気部を有するマルチノズルシステムに関するシミュレーション結果を示す。
【図20】様々な直径を有する単一のノズルに関するシミュレートされた堆積プロファイルを示す。
【図21】図20と同じシミュレーションに関する堆積された材料のFWHMを示す。
【図22A】単一ノズルシミュレーションにおける速度を示す。
【図22B】単一ノズルシミュレーションにおける圧力を示す。
【図22C】単一ノズルシミュレーションにおける温度を示す。
【図22D】単一ノズルシミュレーションにおける全フラックスを示す。
【図23】様々なノズル−基板分離での図22A〜22Dと同じシミュレーションにおける堆積プロファイルを示す。
【図24A】単一ノズルシミュレーションにおける速度を示す。
【図24B】単一ノズルシミュレーションにおける圧力を示す。
【図24C】単一ノズルシミュレーションにおける温度を示す。
【図24D】単一ノズルシミュレーションにおける全フラックスを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
一般的に、OLEDはアノードとカソードとの間に配置され、電気的に接続された少なくとも一つの有機層を備える。電流が印加されるとき、有機層内部に、アノードは正孔を放出し、カソードは電子を放出する。放出された正孔及び電子は各々逆に帯電した電極に向かって移動する。電子及び正孔が同じ分子上に局在化するとき、励起されたエネルギー状態を有する局在化した電子−正孔対である「エキシトン」が形成される。エキシトンが発光機構を介して緩和するとき、光が放出される。同じケースでは、エキシトンはエキシマー又はエキシプレックス上に局在化されてよい。熱緩和等の非放射機構が起こってもよいが、一般的には好ましくないと考えられる。
【0015】
OLEDのより詳細な記述は、Forrestらの米国特許第7,061,011号明細書、及びForrestらの米国特許出願公開第2006/0279204号明細書に見ることができ、各々はその全体が参照によってここに組み込まれる。
【0016】
図1は有機発光装置100を示す。図は必然的に原寸どおりではない。装置100は、基板110、アノード115、正孔注入層120、正孔輸送層125、電子阻止層130、発光層135、正孔阻止層140、電子輸送層145、電子注入層150、保護層155、及びカソード160を含んでよい。カソード160は、第1の導電層162及び第2の導電層164を有する化合物カソードである。装置100は前述の各層を順に堆積することによって作製されてよい。
【0017】
図2は逆(inverted)OLED200を示す。装置は、基板210、カソード215、発光層220、正孔輸送層225、及びアノード230を含む。装置200は、前述の各層を順に堆積することによって作製されてよい。最も一般的なOLED構成はアノード上方に堆積されたカソードを有し、装置200はアノード230の下方に堆積されたカソード215を有するので、装置200は「逆」OLEDであると呼ばれてよい。装置100に関して記述されたものと同様の材料が、装置200の対応する層において使用されてよい。図2は、如何にある層が装置100の構造から省略されてよいかの一例を提供する。
【0018】
一般的に、アノードとカソードとの間のOLED層は有機物である。アノードの材料の例としてはITO、IZO、及びAlZnOが挙げられる。カソードの材料の例としては、ITO、IZO、及びITOを備えるMg:Agが挙げられる。正孔輸送層の有機材料の例としては、α−NPD、TPD、及びF−TCNQでドープされたm−MTDATAが挙げられる。発光層の有機材料の例としては、Ir(ppy)、DCM、DMQA、Alq、CBP、及びmCPが挙げられる。さらなる詳細及び実施例は、Thompsonらの米国特許第6,303,238号明細書で提供され、その全体が参照によって組み込まれる。電子輸送層の有機材料の例としては、Alq、及びLiでドープされたBPhenが挙げられる。正孔注入層の有機材料の例としては、CuPc、PEDOT:PSS、及びMTDATAが挙げられる。保護層の有機材料の例としては、CuPc、BCP、及び金属フタロシアニンが挙げられる。多くの他の有機材料がOLEDの様々な層での使用に関してこの分野で知られており、ここに記述される概念及び装置で使用されてよい。
【0019】
図1及び2に説明される単一の層構造は、非制限的な例によって提供されるが、本発明の実施形態は幅広い他の構造と共に使用されてよいことが理解される。記載される特定の材料及び構造は本質的に例示であり、他の材料及び構造が使用されてよい。機能的OLEDが記載される様々な層を異なる方法で組み合わせることによって達成されてよく、又は層は設計、性能、及びコスト因子に基づき、全体的に省略されてよい。明示されていない他の層が含まれてもよい。明示されていない他の材料が使用されてよい。ここで提供される多くの例が単一材料を含むとして様々な層を記述するが、ホストとドーパントの混合物、又はより一般的には混合物等の、材料の組み合わせが使用されてよいことは理解される。層は様々な副層を有してもよい。ここで様々な層に与えられる名は、厳しい限定を意図していない。例えば、装置200において、正孔輸送層225は正孔を輸送し発光層220内部に正孔を注入し、正孔輸送層又は正孔注入層として記述されてよい。一つの実施形態において、OLEDはカソードとアノードとの間に配置された「有機層」を有すると記載されてよい。この有機層は単一の層を含んでよく、又は例えば図1及び2に関して、記載された異なる有機材料の多数の層をさらに含んでよい。
【0020】
本発明の実施形態に従って作製された装置は、フラットパネルディスプレイ、コンピュータモニタ、テレビ、広告掲示板、屋内又は屋外照明及び/又は信号用の光、ヘッドアップディスプレイ、完全に透明なディスプレイ、フレキシブルディスプレイ、レーザープリンタ、電話、携帯電話、携帯情報端末(PDA)、ラップトップコンピュータ、デジタルカメラ、カムコーダ、ファインダ、マイクロ−ディスプレイ、車両、大面積壁、劇場又はスタジアムスクリーン、又は標識を含む、広範囲の消費者製品に組み込まれてよい。パッシブマトリックス、及びアクティブマトリックスを含む、様々な制御機構が本発明により作製される装置を制御するのに使用されてよい。多くの装置は、例えば18℃から30℃、より好ましくは室温(20−25℃)等、人間にとって心地よい温度範囲での使用が意図される。
【0021】
ここで記載される材料及び構造は、OLED以外の装置に用途を有してよい。例えば、有機太陽電池及び有機光検知器等の他のオプトエレクトロニック装置はこの材料及び構造を使用してよい。より一般的には、有機トランジスタ等の有機装置が、この材料及び構造を使用してよい。
【0022】
OLED又は他の同様の装置において層を堆積する一つの方法は、基板に向かってキャリアガス及び有機蒸気の流れを管理するため一つ以上のノズルが使用される、有機気相ジェット成長法(organic vapor jet deposition)(OVJD)である。OVJDは、2002年9月4日に出願された米国特許出願公開第10/233,470号明細書、及び2003年4月23日に出願された米国特許出願公開第10/422,269号明細書にさらなる詳細が記載され、各々の開示はその全体が参照によって組み込まれる。
【0023】
OVJDが、ピクセルのパターニングされた層等、パターニングされた層を堆積するために使用されるとき、材料が各ノズルによって堆積される領域を制御することが望ましいだろう。例えば、ピクセル層を堆積するとき、各ピクセルが同じ形状及び面積を有することが望ましい。一般的には、堆積された材料が、ピクセルが堆積されるべき領域を超えて広がることは望ましくない。特定の例として、例えばフルカラーピクセルが近接する領域に赤、緑、及び青ピクセルを堆積することによって形成されるとき等、もしも異なる材料が近接するノズルから放出される場合、異なる材料が、それらが堆積されるとき、混合又は重なり合うことのないことが好ましい。キャリアガス及び/又は有機気相の粒子がOVJDの一つ以上のノズルから放出されるとき、その一部が基板又はその上に有機材料が堆積された他の層に対して正確に垂直ではない可能性がある速度範囲で放出される場合がある。これは堆積材料の「広がり」、すなわち基板の望ましくない領域に堆積された材料、をもたらす可能性がある。
【0024】
そのような広がりを低減又は防止するために、排気部は堆積ノズルの近傍に配置されてよい。図3A−3Bは一つのそのような構成を示す。排気部300は第1ノズル310及び第2ノズル320の近傍に配置される。以下に説明するように、排気部300は真空チャンバのための排出源又は独立の真空源等の真空源と流体連通してよい。装置が真空チャンバ内部に配置される場合等周囲真空と流体連通してもよい。材料は基板110に向かってノズル310、320から放出され、所定の領域315に堆積されてよい。排気部300は、ノズル間に局在化された真空を形成することによって、ノズル出口領域、及びノズルと基板との間の圧力を減少し、堆積領域上の解像度及び制御を増加する。したがって、堆積された材料は解像度プロファイル330を有してよい。比較の目的で、排気部がないことにつながるであろう例示的堆積プロファイル340も示される。
【0025】
図3Bは図3Aに説明されるノズル及び排気部の概略的上面図を示す。排気部300が図3A−3Bに示される方法で二つのノズル310、320に近接して配置されるとき、二つのノズルの「間」と記載され得る。
【0026】
排気部が一つ以上のノズルの隣に配置されるとき、それはノズル近傍の領域に局在的な真空を作るだろう。ここで「局在化された真空」とは、周囲又は雰囲気領域と比較して圧力が低い領域を示す。このように、たとえ排気部とノズルとが例えば真空チャンバ内で操作されたとしても、局在化された真空がノズル間に形成され得る。たとえ排気部が周囲真空と接続していたとしても、より高い圧力がノズルからの材料の放出によって形成されるので、この効果は起こり得る。排気部が真空源に接続される構成において、真空源の強度は形成される局在化された真空の程度を調整するために調節されてよい。
【0027】
OVJDを実行するために、有機蒸気を輸送する非反応性キャリアガスはノズル310、320から放出される。ここで「非反応性」キャリアガスとは、ガスが、通常有機気相蒸着と関連する条件の下で、運ばれる及び/又は堆積される材料と反応しないことを示すと理解される。キャリアガス及び有機蒸気は基板110の表面に衝突し、有機材料の薄層が基板上に堆積される。排気部300はノズルの間に局所的な真空を形成し、有機材料がそこを通って移動し基板上に堆積される領域の圧力を低減し得る。これは、堆積のプロファイルの改良に繋がり得る。排気部が真空源と流体連通する構成において、真空源は局所化された真空を提供するよう活性化されてよい。
【0028】
ある構成において、図4Aに示されるような複数のノズルを有するノズルブロックが使用されてよい。ノズル410は、ノズルブロック400内部に所定の構成で配置される。一つ以上の排気部420がノズルブロックに配置されてもよい。例えば、排気部420は他の方法では固体ノズルブロック400を通じて伸びる通路であってよく、したがって近接するノズル間の領域を周囲真空に接続する。排気部420は真空源と流体連通されるか又は直接接続されてもよい。
【0029】
ノズルブロックは様々な構成において多数のノズル及び/又は排気部を含んでよい。ノズル及び排気部の数及び間隔は、堆積される材料、所定の堆積パターン、又は他の基準に依存してよい。図5A−5Fは、ノズルブロック内のノズル及び排気部の例示的構成の概略的な上面図を示す。ノズル510及び真空源520は、アレイが好ましいであろうが、任意のパターンで配列されてよい。ここで、ノズルがグリッド等繰り返しのパターンで配列される場合、ノズルは「アレイ」に構成される。OLEDを堆積する等、ある用途に関して、他の構成が使用されてよいが、長方形アレイ(すなわち、ノズル及び/又は排気部によって画定される外側の周が長方形)が好ましいだろう。排気部は図5Aに示されるように近接するノズルの各対の間に配置されるか、又は排気部は図5Bに示されるように複数のノズルを有して近接して配置されてよい。ある構成では、排気部530はノズルブロックの最外領域に配置されてよい。図5Cは線形、又は「一次元」ノズルアレイを示す。図5D−5Fは、使用され得る、さらなる例示的な構成を示す。図5Fに示されるように、排気部は任意の所定の断面を有してよく、単一の排気部が複数のノズルに近接し得るようにする。説明されたもの以外の構成が使用されてよい。
【0030】
排気部は真空源と流体連通してよい。もしも装置が真空チャンバ内部に配置される場合、排気部はチャンバの排出源によって生成された周囲真空と流体連通してよい。図6Aは排気部を有するOVJD装置の概略図であり、排気部は真空チャンバの周囲真空と流体連通する。真空チャンバ620内部に配置されたノズルブロック600はブロック内のノズル間に排気部610を有してよい。排出源630は真空チャンバ620内部に所定の真空を生成するために使用されてよい。排気部610は真空チャンバ620内部に生成された周囲真空と流体連通してよく、ジェット間の領域内に局所化された真空を生成する。
【0031】
線形ノズルアレイにおいて、ノズル間の領域はアレイの「前(front)」及び「後(back)」(すなわち、図4Aに説明されるアレイ内のページ(page)の外側及び内部)を介して周囲真空と流体連通する。しかしながら、圧力の蓄積は、近接するノズル間、及びおおよそ線形アレイによって画定された平面内の領域をなおもたらし得る。例えば、図4Bを参照すると、二つのノズル410を有するノズルブロック400が示される。ブロックの前後の領域(440、445)は周囲真空である。ノズル410間の領域450は、したがって、周囲真空「と流体連通する」と記載されてよい。前述のように、領域450と領域440、445との間の流路はここで使用されるような排気部ではない。圧力蓄積は、材料がノズルから放出されるとき、領域450内で発生し得る。したがって、圧力蓄積を低減するために領域450の上方に排気部420を提供することが望ましいだろう。排気部420がノズルブロック400を通じて垂直な排気部であることが好ましいだろう。ここで、それが、排気部が存在しないときには存在しないであろう、空間の領域と周囲真空との間の流路を提供するとき、排気部は「周囲真空と流体連通する」と記載される。このように、図4A及び4Bの排気部は、ノズルブロック400の前後に周囲真空と流体連通しないが、ノズルブロック上方で周囲真空と流体連通する。
【0032】
一般的に、排気部は、多くの非排気部構成において存在するような、基板に平行な、ノズルの下部の領域から基板の端部へと伸びる流路を含まない。例えば、図10A−10D及び14A−14Eにおいてシミュレートされたシステムは、各ノズルの先端から基板の各端部への流路を含むが、これらの流路は排気部とは考えられない。対照的に、図16A−16E及び24A−24Dにおいてシミュレートされるシステムは、図10A−D及び14A−Eと同様の非排気部流路を有するが、ノズルブロックを通る流路の形態のさらなる排気部を有する。排気部はノズルブロックを通って垂直又は部分的に垂直な通路であることが好ましい。排気部は、例えば、ノズルブロックを通るチャンネル、ノズルブロック内部に堆積された管、又は任意の他の構造体であってもよい。
【0033】
圧力蓄積はノズル−基板分離が小さいほどより表れ、以下に記載されるような高解像度膜を堆積するのに望ましいだろう。この領域の隣接するノズル間に排気部を提供することによってこの圧力蓄積を減少することができると考えられる。この領域において排気部が基板に対しておおよそ垂直(すなわち、ノズルに平行)であることが好ましいだろう。排気部は、例えばノズルブロックを通る、ノズルから離れたチャンネル末端において周囲真空に接続するチャンネルを備えてよい。図4Aに示されるように、チャンネルはノズルブロック頂部において周囲真空と接続してよく、又はノズルブロックの一つ以上の側部で周囲真空と接続してよい。図3−5において説明されるもののような排気部が、ノズルブロックが基板に近接しているとき、引き起こされる圧力効果を減少し得る。
【0034】
排気部は、例えばパイプ、チューブ、又は他の同様の構造体によって、図6B及び6Cにおいて示されるように、真空源に直接接続されてもよい。図6Bにおいて、排気部610は独立の(すなわち、排出源630と分離している)真空源640と流体連通し、及び直接接続される。直接接続は、例えばパイプ、チューブ、又は真空源と排気部との間の接続を周囲真空から分離する他の構造体を介してなされてよい。同様に、図6Cにおいて、排気部は排出源630と直接接続される。図6A−6Cに示される特定の構成が例示的であり、真空源及び排気部の他の配列が使用されてよいことは理解される。単一の排気部のみが説明されているが、例えば図5A−5Fに示されるような、他の排気部の構成に関して同様の構造が使用されてよい。例えば、排気部が複数のノズルブロックを通過する経路を備える場合、各経路は真空源に接続されてよい。
【0035】
図6B及び6Cに示されるような構成は、真空チャンバ620内に形成される電流がノズル間に形成される局所化された真空に影響することを防ぐために使用されてよい。排出源630が真空チャンバ620から材料を取り除き、一方で材料はノズルブロック600から放出されるので、真空チャンバ内に、特にノズルブロック600と基板110との間の領域に、様々な圧力勾配が形成され得る。もしも排気部610が周囲真空の代わりに真空源に直接接続される場合、局所化された真空はノズル間に形成され得る。そのような構成によって形成された局所化された真空は、周囲真空中の他の材料の動き又は変化によって変わることがなさそうなので、より矛盾がない、又は制御可能な結果を与えるだろう。排気部の使用はノズル−ノズル均一性の改良も可能にすることができ、基板上の堆積層に使用されるノズルの数又は構成と独立に均一で予測可能な堆積を可能にし得る。
【0036】
OVJDシステムによって製造された膜の解像度は、ノズル開口部のサイズ、ノズル間隙、及びノズル−基板分離によって影響され得る。ここで「解像度」はサイズ、間隙、及び材料が堆積される領域の形状を示す。概して、高解像度−すなわち、より小さく、より明確に画定された堆積領域−が好ましい。例えば、OLEDを製造するのに使用されるとき、各ノズルが単一のピクセルを堆積するために使用されるノズルのアレイを使用することは有効であり得る。より高い解像度のディスプレイを実現するためには、ピクセルが小さく、明確に画定され、隣接するピクセル間の最小の分離を有することが好ましい。
【0037】
高解像度を実現するために、約2ミクロンから約20ミクロン、より好ましくは約2ミクロンから約10ミクロン、のノズル−基板分離を使用することが好ましい。小さなノズル−基板分離は、放出された材料の拡散による広がりを低減するために好ましいだろう。ノズル−基板分離は、基板の上部表面から、そこから材料が放出されるノズル開口部までの距離を示す。約2ミクロンから約50ミクロンの直径を有する、より好ましくは直径約2ミクロンから約10ミクロンであるノズル開口部が使用されてよい。ノズル−基板分離及びノズル直径は関連し得る。例えば、ノズル開口部が大きいと、ノズルの詰まり、基板の損傷、又は好ましくない圧力蓄積を防止するために、大きなノズル−基板分離が必要とされ得る。このように、ノズル直径dはノズル基板sに対してd/sが約1.0から約2.5であるように選択されることが好ましい。
【0038】
堆積された膜の解像度が、ノズルから放出される材料の流速によって影響される可能性もある。一般的に、ジェットが使用されない場合、流速が低いことが好ましい。約1.0m/sから約100m/s、より好ましくは約0.01m/sから約10m/s、の速度に対応する流速が好ましい。ノズル開口部周囲の圧力蓄積を防止するには流速が低いことが好ましい。好ましい速度は、ノズルから放出されるときの放出された材料の温度に関連して、及び/又は温度から決定されてよい。一般的に、高温の材料には速度が大きいことが好ましい。所定の速度がおおよそ室温と比較して概算されてよい。速度(1.0m/s)×T/300から(100m/s)×T/300、より好ましくは(0.01m/s)×T/300から(10m/s)×T/300に対応する流速が使用されてよく、Tはケルビンで表した放出された材料の温度である。
【0039】
キャリアガス速度は、バルク流れ速度が少なくとも分子の熱速度のオーダーであるように増加されてよく、本質的に一方向の材料の「ジェット」を形成する。数学的な用語では、この条件はノズルの軸方向の平均速度(バルク流れ速度)が少なくともノズルの軸と垂直な方向における平均絶対速度(熱的速度)のオーダーであるとき、達成される。好ましくは、ノズルの軸方向の平均速度は、少なくともノズルの軸に垂直な方向の平均絶対速度と同じである。用語「絶対」速度は、それらの方向における平均速度は約ゼロであり得るので、ノズルの軸に垂直な方向の平均速度に関して使用される(特定の速度で左に動く全ての分子に関して、同じ速度で右に動く他の分子が存在し得る)。基板温度、リアクタ圧力、及びノズルの幾何学的形状の適切な条件の下で、もしもノズル−基板分離がキャリアガスの分子平均自由工程よりも小さい場合は、約1ミクロンの解像度を有する明確な端部を有するピクセルのアレイがジェット堆積で実現できる。さらに、一方向流のため、より重いキャリアガスの使用により、よりよい堆積の方向性及びその後のより明確なピクセルを提供することができる。ジェット構成が使用されるとき、放出された材料が速度約100m/sから約400m/sと等しい流速を有することが好ましいだろう。これらの速度は、前述のように、放出された材料の温度に基づき調整されてもよい。
【0040】
ノズル間隔、すなわち一つのノズルの開口部のおおよそ中心から他のノズルの開口部のおおよそ中心までの距離、は堆積された層の解像度に影響し得る。高解像度を実現するために、約50ミクロンから約100ミクロンのノズル間隔が好ましい。一般的に、ノズル間隔が広いほど、隣接するノズルから放出される材料の混合を防止する。
【0041】
OVJD中基板に向かって移動するとき、一つ以上のノズルから放出される材料の挙動をモデル化するために、以下の式が使用されてよい。
【0042】
【数1】

【0043】
これらの式は、ノズル内及びノズルと基板との間の領域内の速度場(数2)、圧力P、温度T、濃度C、粘度μ、熱伝導性k、密度ρ、及び拡散率Dを記述する。それらは、以下に記述されるように、所定の解像度を実現するために使用され得る値を予想する特定のモデルを形成するために使用されてよい。
【0044】
【数2】

【0045】
ここで記述される様々な実施形態は例示のみを目的とするものであり、本発明の範囲を制限することを意図しないことは理解される。例えばここで記載される多くの材料及び構造は、本発明の精神から逸脱することなく、他の材料及び構造と置き換えられてよい。本発明がなぜ作用するかという様々な理論は制限を意図するものではないことが理解される。例えば、電荷移動に関する理論は、制限を意図しない。
【0046】
材料の定義
ここで、短縮形は以下の材料を示す。
CBP: 4,4’−N,N−ジカルバゾール−ビフェニル
m−MTDATA: 4,4’、4”−トリス(3−メチルフェニルフェニル
アミノ)トリフェニルアミン
Alq: 8−トリス−ヒドロキシキノリンアルミニウム
BPhen: 4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン
n−BPhen: n−ドープBPhen(リチウムでドープされる)
−TCNQ: テトラフルオロ−テトラシアノ−キノジメタン
p−MTDATA: p−ドープされたm−MTDATA(F−TCNQで
ドープされる)
Ir(ppy): トリス(2−フェニルピリジン)イリジウム
Ir(ppz): トリス(1−フェニルピラゾラト,N,C(2’)
イリジウム(III)
BCP: 2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−
フェナントロリン
TAZ: 3−フェニル−4−(1’−ナフチル)−
5−フェニル−1,2,4−トリアゾール
CuPc: 銅フタロシアニン
ITO: インジウムスズ酸化物
NPD: N,N’−ジフェニル−N−N’−
ジ(1−ナフチル)−ベンジジン
TPD: N,N’−ジフェニル−N−N’−
ジ(3−トリル)−ベンジジン
BAlq: アルミニウム(III)ビス(2−メチル−8−
ヒドロキシキノリナト)4−フェニルフェノラート
mCP: 1,3−N,N−ジカルバゾール−ベンゼン
DCM: 4−(ジシアノエチレン)−6−(4−ジメチル
アミノスチリル−2−メチル)−4H−ピラン
DMQA: N,N’−ジメチルキナクリドン
PEDOT:PSS: ポリスチレンスルホン酸塩とポリ(3,4−
エチレンジオキシチオフェン)の水懸濁液
【0047】
実験
本発明の特定の代表的な実施形態が、如何にそのような実施形態がなされるかを含んで、記述される。特定の方法、材料、条件、プロセスパラメータ、装置等は必然的に本発明の範囲を制限しないことは理解される。
【0048】
上述の方程式を用いてシミュレーションが形成され、図7に示される境界条件を用いて解かれた。基板の温度は十分低く、基板直上の気相内の有機材料の濃度は0と近似され得ると仮定された。すなわち、堆積された材料の再蒸発はないと仮定された。図8は、シミュレーションを形成するのに用いられたメッシュである。メッシュは、ノズル810及びノズル810と基板800との間に定義された。モデルは、Femlabを用いて構築され、数値的に解かれた。図8に示された例示的なメッシュは、10μmのノズル開口部と210μmの基板幅をさらに仮定する。図9に示されるように、サンプルデータはシミュレーションに使用する適切な数のノードを決定するため作成された。対称軸910が参考のため示される。約1500ノード以上の結果ではばらつきはなかった。したがって、後続のモデルは約1500ノードを使用した。
【0049】
図10A−10Dは、単一ノズルのシミュレーションにおける、各々速度、圧力、温度、及び全フラックス(拡散及び対流を含む)を示す。シミュレーションは、バックグラウンド圧力133Pa、及び入口流速6.5×10−6sccm(約1.0m/sの速度に対応)の窒素キャリアガスを用いた。図10Dに見られるように、基板表面のフラックスは、分離に直接比例する。表面における材料の蓄積(厚み)は時間に応じて定められたフラックスによって与えられるので、基板表面におけるフラックスは堆積形状を決定するのに利用されてよい。
【0050】
図11A−11Bは、10ミクロンノズルから流速6.5×10−4sccm(1104)、6.5×10−5sccm(1105)、6.5×10−6sccm(1106)で、バックグラウンド圧力1torrで、放出された窒素キャリアガスに関する堆積プロファイル(すなわち、表面フラックス)を示す。これらの流速は、各々約100m/s、10m/s、及び1.0m/sの速度に対応する。図から分かるように、流速が大きいと、圧力差が大きいことに起因して、表面フラックスが低減され得る。より高い流速において、圧力の前線蓄積(foreline buildup)もあり得る。これは、一般的に流速が低いと解像度が高くなるであろうことを示す。
【0051】
図12は、ノズル−基板分離が10ミクロン(1210)、20ミクロン(1220)、及び40ミクロン(1240)での堆積プロファイルを示す。図13は同じ分離に関する半値全幅(FWHM)の結果を示す。拡散分散に関する空間及び時間が減少するので、解像度はノズル−基板分離を小さくすることで改善され得る。これらの結果は、Shteinらの「Direct mask−free patterning of molecular semiconductors using organic vapor jet printing,」、J.Appl.Phys.,v.96,No.8,October 15、2004、と一致している。結果として得られるFWHMは、マルチノズルシステムにおいてノズル間隙を決定するのに使用され得る。
【0052】
図14A−14Cは、隣接するノズル間に配置された排気部なしでの、様々な材料を放出する複数ノズルシステムのシミュレーションにおける速度、圧力、及び温度を示す。図14Dは、材料1に関する全フラックスを示す。図14Eは、材料2に関する全フラックスを示す。各材料の拡散率は、所定の温度及び圧力においておおよそ等しかった(すなわち、シミュレーション空間全体で圧力及び温度は変わるけれども、拡散率はそれに従って変わる)。シミュレーションは、バックグラウンド圧力133Pa、及び各ノズルにおいて入口流速6.5×10−6sccm(約1.0m/sの速度に対応)の窒素キャリアガスを用いた。図14Bと図10Bとを比較することによって見られるように、マルチノズル構成においてより大きな圧力蓄積が起こる。
【0053】
図15は、ノズルの各隣接する対の間に排気部を有するマルチノズルシステムに関する堆積プロファイルを示す。五つのノズルから堆積された三つの材料(1512、1522、1532)に関するプロファイルが示される。同じ構成であるが排気部を有さないプロファイルが参考のため示される(1511、1521、1531)。ノズル間隔60ミクロン(1550)は、FWHMから決定された。図15は、近接するノズルの間の排気部が圧力の変化を低減し、したがって拡散率/フラックスの変化を低減することを示す。図16A−16Cは、排気部が隣接するノズルの各対の間に配置される、様々な材料を放出する複数ノズルシステムのシミュレーションの、速度、圧力、及び温度を示す。図16Dは、材料1に関する全フラックスを示す。図16Eは材料2の全フラックスを示す。各材料の拡散率は、所定の温度及び圧力においてほぼ等しかった。シミュレーションは、バックグラウンド圧力133Pa、及び各ノズルにおいて入口流速6.5×10−6sccm(約1.0m/sの速度に対応)の窒素キャリアガスを用いた。図14A−14Eの比較、特に図16Bと14Bとの比較、から分かるように、圧力の蓄積は排気部を有する構成において大幅に低減される。圧力蓄積におけるこの相違は、図15において説明される堆積プロファイルにおける相違を説明すると考えられる。
【0054】
図17A−17Bは、キャリアガスとして窒素及びヘリウムを用いてマルチノズルノズルブロックから放出される材料に関する堆積プロファイルを示す。プロット1710、1720、及び1730は、キャリアガスとしてヘリウムを用いる、各々材料1、2、及び3を示す。プロット1711、1721、及び1731は、キャリアガスとして窒素を用いる、各々材料1、2、及び3を示す。規格化されたデータは、図17Bに示される。これらの結果は、キャリアガスの分子量及びバックグラウンド圧力が堆積プロファイルに殆ど影響しないことを示す。分子量及びバックグラウンド圧力の双方が減少されるとき、フラックスの大きさは増加する。これは、対流により除去された材料が少ないことに起因するようだ。
【0055】
図18は、隣接するノズルの各対間に排気部を有する、ノズル−基板分離が10及び20ミクロンにおける、三つの材料を堆積する五つのノズルに関するシミュレートされた堆積プロファイルを示す。シミュレーションは、バックグラウンド圧力133Pa、及び各ノズルにおいて入口流速6.5×10−5sccm(約1.0m/sの速度に対応)の窒素キャリアガスを用いた。シミュレートされた材料に関して、減少した質量は、全ての拡散率に関して同じであると仮定された。堆積プロファイルは、分離10ミクロン(各々1811、1821、1831)及び20ミクロン(各々1812、1822、1832)において、材料1、2、及び3のシミュレートされた堆積を示す。これらの結果は、分離距離を最小化することは、堆積された材料のFWHMを最小化し得ることを示し、ノズル間の間隔がより大きいことが好ましいことを示す。
【0056】
図19は、流速が1.0m/s及び1000m/sの速度に相当する、隣接するノズル間に排気部を有するマルチノズルシステムのシミュレーションを示す。シミュレーションはバックグラウンド圧力133Pa及び全ての拡散率にわたって一定に減少する質量を仮定した。堆積プロファイルは、流速6.5×10−3sccm(各々1910、1920、1930)、及び流速6.5×10−6sccm(各々1916、1926、1936)において、材料1、2、及び3に関して示される。これらの流速は、各々ノズル速度1000m/s及び1.0m/sに相当する。図19に示される結果は、排気部を有するマルチノズルシステムにおいて、一般的に堆積速度が大きいと堆積プロファイルは望ましくない結果となることを示す。
【0057】
図20は、バックグラウンド圧力133Pa及び流速が1.0m/sに相当する、直径が異なる単一ノズルの堆積プロファイルを示す。ノズル直径10ミクロン(2010)、50ミクロン(2050)、及び70ミクロン(2070)に対する堆積プロファイルが示される。図21は、各々流速が100m/s及び1.0m/sの速度に相当する、流速6.5×10−4sccm(2140)及び6.5×10−6sccm(2160)における、ノズルサイズが10、30、50、及び70ミクロンでの堆積された材料のFWHMを示す。図20−21で説明される結果は、一般的にノズルサイズが大きいと解像度が減少し、流速が大きくても解像度が減少することを示す。
【0058】
図22A−22Dは、70ミクロンの開口部を有する単一ノズルにおける、各々速度、圧力、温度、及び全フラックスを示す。シミュレーションは、バックグラウンド圧力133Pa、及び流速6.5×10−4sccm(100m/sの速度に対応)を仮定した。図23はノズル−基板分離20ミクロン(2320)、及び40ミクロン(2340)における同じシミュレーションに関する堆積プロファイルを示す。シミュレーション結果は、単一ノズルシステムにおいて、基板−ノズル分離が小さいと解像度がよくなり堆積形状がより明確になるであろうことを示す。
【0059】
図24A−24Dは、ノズル−基板分離20ミクロンにおける、70ミクロンの開口部を有する単一ノズルにおける、各々速度、圧力、温度、及び全フラックスを示す。シミュレーションは、バックグラウンド圧力133Pa、及び流速6.5×10−4sccm(100m/sの速度に対応)を仮定した。
【0060】
上述のシミュレーション結果は、OVJDシステムにおける最大解像度が最小のノズル−基板分離において実現され得ることを示す。堆積層の解像度はキャリアガスの流速を相対的に低くすることによって高められ得る。高解像度を実現するのに望ましいと考えられる低い流速において、キャリアガスは堆積プロファイルに対して大きな役割を持たない。例えば、一般的にキャリアガスの分子量は堆積プロファイルに影響しない。結果は、隣接するノズル間に排気部を提供することで堆積プロファイルと堆積層の解像度が改善され得ることをさらに示す。
【0061】
上述のシミュレーションは線形であり、ノズルの一次元アレイに関するものであるが、結果は任意のノズルアレイに一般化することができる。例えば、線形マルチノズルシミュレーションは、環形アレイ(すなわち、中心ノズルの回りに線形アレイを回転させることによって形成されるアレイ)に関して正確な結果を与える。結果は、少なくとも長方形アレイに関して期待されるであろう結果の一次近似も提供し、シミュレーションは堆積プロファイル及び解像度の傾向を任意のノズルアレイに関して正確に予測する。
【0062】
本発明は特定の例及び好ましい実施形態に関して記述されたが、本発明がそれらの例及び実施形態に制限されないことは理解される。したがって、クレームに記載された本発明は、当業者には明確である、ここに記載された特定の例及び好ましい実施形態からの変更を含む。
【符号の説明】
【0063】
100 有機発光装置
110、210 基板
115、230 アノード
120 正孔注入層
125、225 正孔輸送層
130 電子阻止層
135、220 発光層
140 正孔阻止層
145 電子輸送層
150 電子注入層
155 保護層
160、215 カソード
200 逆OLED

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一つ以上の非反応性キャリアガスを提供し、各非反応性キャリアガスが堆積される有機材料を輸送する段階と、
堆積される有機材料を輸送する段階と、
一つ以上のキャリアガスを基板に向かって放出する、複数のノズルを使用する段階と、
第1の複数のノズルと第2の複数のノズルとに隣接して配置された排気部を提供する段階と、を含み、
前記排気部が第1のノズルと第2のノズルとの間に局在化された真空を生成するよう構成された、
基板上に材料を堆積する方法
【請求項2】
前記排気部は周囲真空と流体連通している、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記排気部は真空源に直接接続される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記真空源は真空チャンバのための排出源である、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記真空源は独立した真空源である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
第1の複数のノズルと、第1のノズルに直接隣接する複数のノズルの各々との間に排気部が提供される段階をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記基板が前記複数のノズルから2ミクロンから20ミクロン分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記基板が前記複数のノズルから2ミクロンから10ミクロン分離される、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
開口部が直径2ミクロンから50ミクロンである各ノズルからキャリアガスが放出される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
開口部が直径2ミクロンから10ミクロンである各ノズルからキャリアガスが放出される、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記キャリアガスが直径dを有するノズル開口部から複数のノズルの各々から放出され、
ノズルは基板から距離s分離され、
比d/sは1.0から2.5である、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記キャリアガスが速度0.01m/sから10m/sで放出される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記キャリアガスが速度1.0m/sから100m/sで放出される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記キャリアガスが速度(0.01m/s)×T/300から(10m/s)×T/300で放出され、Tはケルビンで表されたノズルから放出されたときのキャリアガスの温度である、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
複数のノズルがノズルブロック内に配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
前記排気部が複数のノズルの少なくとも一つよりも、ノズルブロックの中心近くに配置される、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
ノズルブロックが線形ノズルブロックである、請求項15に記載の方法。
【請求項18】
複数のノズルが2次元アレイに配置された、請求項15に記載の方法。
【請求項19】
複数のノズルの各々からキャリアガスのジェットを放出することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
前記キャリアガスは速度100m/sから400m/sで放出される、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
前記キャリアガスが速度(100m/s)×T/300から(400m/s)×T/300で放出され、Tはケルビンで表されたノズルから放出されたときのキャリアガスの温度である、請求項19に記載の方法。
【請求項22】
ノズル間隔が50ミクロンから85ミクロンである、請求項1に記載の方法。
【請求項23】
基板と、
基板上に配置された複数のノズルであって、各ノズルが、
基板上に堆積される材料源;及び
ノズルを通過して基板へと材料を輸送するのに利用されるキャリアガス源;
と流体連通する複数のノズルと、
第1の複数のノズルと第2の複数のノズルとに隣接して配置される排気部と、を含み、
前記排気部は第1ノズルと第2ノズルとの間に局在化された真空を形成するよう構成された、システム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3A】
image rotate

【図3B】
image rotate

【図4A】
image rotate

【図4B】
image rotate

【図5A】
image rotate

【図5B】
image rotate

【図5C】
image rotate

【図5D】
image rotate

【図5E】
image rotate

【図5F】
image rotate

【図6A】
image rotate

【図6B】
image rotate

【図6C】
image rotate

【図11B】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10A】
image rotate

【図10B】
image rotate

【図10C】
image rotate

【図10D】
image rotate

【図11A】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14A】
image rotate

【図14B】
image rotate

【図14C】
image rotate

【図14D】
image rotate

【図14E】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16A】
image rotate

【図16B】
image rotate

【図16C】
image rotate

【図16D】
image rotate

【図16E】
image rotate

【図17A】
image rotate

【図17B】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22A】
image rotate

【図22B】
image rotate

【図22C】
image rotate

【図22D】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24A】
image rotate

【図24B】
image rotate

【図24C】
image rotate

【図24D】
image rotate


【公表番号】特表2010−513719(P2010−513719A)
【公表日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−542771(P2009−542771)
【出願日】平成19年11月13日(2007.11.13)
【国際出願番号】PCT/US2007/023910
【国際公開番号】WO2008/088446
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(591003552)ザ、トラスティーズ オブ プリンストン ユニバーシティ (68)
【出願人】(509119061)ザ・リージェンツ・オブ・ザ・ユニバーシティ・オブ・ミシガン (14)
【Fターム(参考)】