説明

接合剤とこれを用いた静電チャックの給電部及びその製造方法

【課題】静電チャックの給電部を製造するにあたり、セラミックスと金属との接合部に亀裂を生じない緻密な接合層を形成できる接合剤と、当該接合剤を用いた静電チャックの給電部及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】タングステンと活性銀ロウと有機バインダとから構成され、かつ、有機バインダを加熱除去した後に、タングステンを20体積%〜50体積%含有し、残部が活性銀ロウからなる接合剤である。この接合剤を、ベース材1、内部電極2、誘電体3が順に配置されたセラミックス構造体の穴4に装填し、金属電極5を挿入して加熱接合することで、静電チャックの給電部を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は静電チャック等を製造する際にセラミックスと金属とを接合するために用いる接合剤と、これを用いた静電チャックの給電部及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
静電チャックは、ベース材の上に誘電体層を設け、誘電体層に電圧を印加し、誘電体層に載せたウエハ等の被吸着体と誘電体との間に発生する静電吸着力によってウエハを吸着するものである。静電チャック用の材料としては、耐摩耗性の高いセラミックスが多く用いられている。静電チャックは、誘電体とベース材となる絶縁体で構成されるが、誘電体に電圧を印加するためには、誘電体とベース材の中間に内部電極を設け、この内部電極に電圧を印加する必要がある。誘電体とベース材に挟まれた内部電極に電圧を印加するためには、静電チャックの側面で導通を取るのが簡便な方法であるが、誘電体側に生じるリーク電流が大きくなる等の問題がある。この問題を解決するためには、誘電体と反対側のベース材の底面(露出面)から内部電極に至る穴を設け、その穴に金属電極を入れて内部電極と導通が取れるように接合することが必要となる。
【0003】
セラミックスと金属とを接合する場合、接合剤として活性銀ロウを用いることによって接合体を得ることができる。しかしながら、活性銀ロウによる接合では、活性銀ロウの融点以上の温度で熱処理し、活性銀ロウを溶融させることが必要であるため、セラミックスと活性銀ロウの熱膨張係数の違いから、接合時に熱応力が発生し亀裂が発生する問題から生じる。特に、上述のようにベース材のセラミックスに設けた穴の中に金属を接合する場合、拘束された構造での接合となるため、穴の角部などに応力が集中しやく、亀裂の発生を抑制することは極めて困難である。
【0004】
セラミックスと金属との接合において、熱膨張差による熱応力を緩和する方法として従来様々な方法が検討されている。
【0005】
特許文献1には、モリブデン粉末、タングステン粉末及びセラミックス粉末の中から選ばれた1種又は2種以上の混合物からなる熱膨張低減剤を用いて活性ロウ材の熱膨張を低減する技術が開示されている。
【0006】
特許文献2には、熱応力を軽減するべく、Agが60〜80質量%、Cuが20〜40質量%からなる合金80〜98質量%と、Ti若しくはTiの水素化物1〜10質量%と、比表面積が2000〜10000cm/gのMo又はW粒子1〜10質量%とからなるセラミックス−金属接合用ロウ材が開示されている。
【0007】
特許文献3には、ロウ材が工具を破損するという問題点を解消するべく、ダイヤモンド及び/又は立方晶窒化硼素を20容量%以上含有する焼結体部が、接合層を介して工具母材に直接接合されている硬質焼結体切削工具において、前記接合層が、該接合層全体に対して2〜15質量%の、W又はMoの少なくとも一方からなる粒子と、該接合層全体に対して1〜10質量%の、Ti又はZrの少なくとも一方と、Ag又はCuの少なくとも一方からなる残部と、不可避不純物と、からなる硬質焼結体切削工具が開示されている。
【0008】
特許文献4には、MoやW等の高融点金属粉末の影響でロウ材表面に凹凸やボイドが発生しやすく、そのためロウ材表面の凹凸やボイドに大気中の水分が浸入してロウ材に腐食を発生させてしまいやすいという問題点を解消するべく、セラミックスと金属との接合面をTi、Zr、Hfの少なくとも一種を含有するAg−Cu合金からなるロウ材で接合したセラミックス−金属接合構造であって、前記ロウ材は前記接合面の中央領域のみにMo又はWが含有されているセラミックス−金属接合構造が開示されている。
【0009】
特許文献5には、セラミックス部材と金属部材の接合方法であって、凹部と凸部を嵌合する構造での異種接合の場合はコーナー部に残留応力が集中しやすく、クラックが発生するという問題点を解消するべく、凹部を有するセラミックス部材と、前記凹部に嵌合する凸部を有する金属部材と、前記セラミックス部材の凹部底面部と前記金属部材の凸部先端部とを接合し、かつ、前記金属部材の先端部と側面部との間のコーナーを覆う硬ロウ材と粒子状の物質を含み多孔質である第1の接合剤と、前記セラミックス部材の凹部側面部と前記金属部材の凸部側面部とを接合する硬ロウ材を含む第2の接合剤とを有する接合部材が開示されている。
【0010】
しかしながら、特許文献1〜4のように平面での接合を目的とした従来の技術では、静電チャックの給電部を製造すると接合部に亀裂が生じるという問題を解決することはできない。また、特許文献5に開示された技術のように、多孔質なロウ材部を設けることにより熱応力を緩和する方法では、接合部の強度が低下するなどの問題を解決することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平03−080160号公報
【特許文献2】特開平11−343179号公報
【特許文献3】特開平11−188510号公報
【特許文献4】特開平11−335184号公報
【特許文献5】特開2004−273736号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明が解決しようとする課題は、静電チャックの給電部を製造するにあたり、セラミックスと金属との接合部に亀裂を生じない緻密な接合層を形成できる接合剤と、当該接合剤を用いた静電チャックの給電部及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
発明者らは、鋭意研究開発の結果、タングステンと活性銀ロウと有機バインダとから構成される接合剤を使用することに着目し、有機バインダを加熱除去した後のタングステンと活性銀ロウとの配合が、タングステン20〜50体積%で残部が活性銀ロウとなる場合には亀裂が発生せず、かつ緻密な接合部が得られることを発見した。
【0014】
本発明の要旨は以下のようになる。
(1)セラミックスと金属とを接合する接合剤であって、タングステンと活性銀ロウと有機バインダとから構成され、かつ、有機バインダを加熱除去した後に、タングステンを20体積%〜50体積%含有し、残部が活性銀ロウからなる接合剤。
(2)ベース材、内部電極、誘電体が順に配置されたセラミックス構造体のベース材の露出面から内部電極に至る穴が形成され、その穴の内部に、(1)に記載の接合剤を介して金属電極が接合されている静電チャックの給電部。
(3)ベース材、内部電極、誘電体が順に配置されたセラミックス構造体のベース材の露出面から内部電極に至る穴が形成され、その穴の内部に金属電極が接合されている静電チャックの給電部の製造方法において、前記穴の内部に、(1)に記載の接合剤を装填し、前記金属電極を挿入して加熱接合する静電チャックの給電部の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の接合剤を用いて製造された静電チャックの給電部には、亀裂が発生しない。また、接続部が緻密であるため、接合強度に優れるとともに信頼性があり、量産可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】給電部を有する静電チャックの一例を示す。
【図2】金属電極接合部に生じた亀裂を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
第1の実施形態は、セラミックスと金属とを接合する接合剤であって、タングステンと活性銀ロウと有機バインダとから構成され、かつ、有機バインダを加熱除去した後に、タングステンを20体積%〜50体積%含有し、残部が活性銀ロウからなる接合剤である。
【0018】
この本発明による接合剤は、タングステン粉末と活性銀ロウ粉末と有機バインダとを混合することによって得られる。これらを混合してペースト状とすることで流動性の高い接合剤が得られ、静電チャックに設けた穴に金属電極を挿入した際の狭い隙間にも接合剤を密に充填することが可能となる。接合剤にタングステン粉末と活性銀ロウ粉末だけを混合したものを用いた場合、穴と金属電極の狭い隙間に接合剤を密に充填することができないため、緻密な接合部を得ることは困難である。また、穴と金属電極の隙間にタングステン粉末を充填し、その上から活性銀ロウを溶融させる方法では、タングステン粉末の間に活性銀ロウを浸透させることが困難であり、緻密な接合部を得ることができない。
【0019】
本発明において有機バインダとしては、セルロース系樹脂等の樹脂成分をエタノール等のアルコール、芳香族炭化水素等の有機溶媒、あるいはテレピン油の油成分と混合したものを用いることが好ましい。これらの有機バインダ成分は、加熱除去した際、炭素等の残留成分が残らず、また、接合のため活性銀ロウが溶融する温度よりも低温で分解、除去され、活性銀ロウが溶融して接合される温度で残留成分が残らないものである。炭素等の残留成分が生成するようなバインダ成分を用いると、残留成分が接合部に欠陥として残ったり、活性銀ロウと残留成分が反応して化合物を接合層内部に形成し、接合部の強度を低下させる原因となる。
【0020】
すなわち、接合温度以下で分解し、かつ残留成分のない有機バインダにタングステン粉末と活性銀ロウ粉末を混合したものが本発明の接合剤である。つまり、有機バインダを加熱除去した後の本発明の接合剤は、タングステンと活性銀ロウとからなる。ただし、これは、タングステンと活性銀ロウのほかに、有機バインダの残留成分や不可避的不純物が不純物レベル(3質量%以下)で含有されうることも含む概念である。
【0021】
(成分の数値限定理由)
有機バインダを加熱除去した後にタングステン粉末が20〜50体積%となるようにした理由は、20体積%未満の場合、接合剤の熱膨張率が大きいため、接合剤の活性銀ロウ成分を熱処理により溶融した後の冷却過程で静電チャックの誘電体あるいはベース材との熱膨張差に起因する熱応力が大きくなり、静電チャックにクラックが生じてしまい、50体積%を超える場合、タングステン粉の間を埋める活性銀ロウ成分が少ないため、緻密な接合部を得ることができないためである。
【0022】
タングステン粉末としては、平均粒径が1〜100μmのものを用いることが好ましい。1μm未満の粉末を用いた場合、有機バインダと活性銀ロウ粉、タングステン粉を混合して得られるペースト状の接合剤の粘度が高くなるため、接合剤が静電チャックの穴と金属電極の隙間に密に充填されにくくなり、接合後に欠陥が残りやすくなるためである。また、100μmより大きい粉末を用いた場合、穴と金属電極の隙間に対して粉末が大きすぎるため充填され難くなるためである。また、平均粒径の異なる2種類のタングステン粉末を用いることが好ましい。これは大きい粉末の隙間に小さい粉末が充填されることで、充填率が向上するため、接合剤を密に充填することが可能となり、接合後の接合部も緻密になるためである。
【0023】
活性銀ロウとしては、銀、銅あるいはチタンを混合した銀合金粉末を用いることができる。接合時の熱応力を低減するためには、接合温度を低くすることが好ましいことから、低融点の合金が得られる組成である、銀60〜80質量%、銅20〜40質量%、チタン1〜10質量%の合金を用いることが好ましい。また、合金の融点が800℃以下となる銀68〜75質量%、銅25〜32質量%、チタン1〜5質量%の合金を用いることにより、850℃以下の低温で接合できるため、更に好ましい。
【0024】
(第2の実施形態)
第2の実施形態は、ベース材、内部電極、誘電体が順に配置されたセラミックス構造体のベース材の露出面から内部電極に至る穴が形成され、その穴の内部に、第1の実施形態において説明した接合剤を介して金属電極が接合されている静電チャックの給電部である。
【0025】
静電チャックは、図1に示すようにベース材1、内部電極2、誘電体3が順に配置された構造を有する。この静電チャックに給電部を形成するにあたり、ベース材1に底面(露出面)から内部電極2に至る穴4を形成する。この際、穴4は内部電極2が穴の端面もしくは側面に露出するように形成する。穴4の形状は、穴4の内部に挿入する金属電極5の形状に合わせ、例えば円筒状の金属電極を使用する場合は円筒状の穴を形成する。この際、金属電極5と穴4の内壁の隙間にペースト状の接合剤が容易に充填されるように、隙間が100μm以上となるように穴4を形成することが好ましい。また、接合剤の厚みが厚くなると発生する熱応力も大きくなるため、隙間が500μm以下になるように穴4を形成することが好ましい。
【0026】
次に、金属電極5により構成される給電部と誘電体3とを穴4を通じて接合する。接合の方法としては、穴4にペースト状の接合剤を装填する。接合剤の量は、金属電極5を挿入した際、穴4と金属電極5及び誘電体3との隙間を埋めるのに十分な量とする。接合剤を穴4に装填した後、金属電極5を穴4に挿入し、金属電極5を誘電体3側に向け押し込んで設置する。これにより、接合剤を穴4と金属電極5及び誘電体3との間隙に隙間なく充填することが可能となる。
【0027】
次に、接合剤中の有機バインダを除去するために、熱処理を施す。熱処理は、有機バインダ成分が完全に分解し、除去される温度で行う。また、熱処理は、大気中、Arなどの不活性ガス雰囲気中、あるいは真空中で行う。金属電極の酸化を防ぐためには、不活性ガス雰囲気中あるいは真空中で行うことが好ましい。
【0028】
有機バインダを除去した後、接合剤による接合を実現するために熱処理を施す。この接合のための熱処理は、接合剤中の活性銀ロウの融点以上で実施するが、活性銀ロウが溶融して接合するのに適した粘度となる融点より50〜100℃高い温度で実施することが好ましい。接合のための熱処理は、不活性ガス雰囲気中あるいは真空中で行うが、接合後の接合部分の空隙を減らすためには真空中で行うことが好ましい。また、上述した有機バインダを分解、除去するための熱処理と接合のための熱処理は同一工程の熱処理で行うこともできる。
【0029】
以上の方法により、亀裂が発生せず接合部が緻密な給電部を形成することが可能である。そして、この給電部を介して誘電体3に電圧を印加することで、誘電体3に載せたSiウエハ8等の被吸着体と誘電体3との間に発生する静電吸着力によってSiウエハ8を吸着することが可能となる。
【実施例】
【0030】
ベース材にアルミナ、誘電体に酸化チタンを添加したアルミナを用いて作製した静電チャックに、ベース材側から内部電極に達する径8.5mm、深さ5mmの穴を形成した。この穴に、銀70.1質量%、銅27.9質量%、チタン2.0質量%の合金粉からなる活性銀ロウ粉末と、タングステン粉と、テレピン油、石油ナフサ及びセルロース樹脂からなる有機バインダとを混合したものを装填し、径8mm、高さ4.5mmのチタン製電極を穴に挿入して給電部を形成した。これを真空中600℃で熱処理した後、真空中850℃で30分熱処理して接合を行った。
【0031】
得られた給電部の部分を切断し、断面を鏡面研磨した後、走査型電子顕微鏡により観察してクラックの有無を確認するとともに、接合部の空隙の断面積を測定することにより空隙率を測定した。
【0032】
有機バインダを加熱除去した後のタングステンと活性銀ロウの配合を変えた場合の、各給電部の接合部分の亀裂の有無及び接合部の空隙率を表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
有機バインダを加熱除去した後のタングステンの体積%が20、30、35、40、50の実施例1〜5では、給電部の接合部分には亀裂は生じなかった。
【0035】
しかし、有機バインダを加熱除去した後のタングステンの体積%が15の比較例1では、給電部の接合部分には亀裂が生じた(図2の符号8が亀裂)。また、有機バインダを加熱除去した後のタングステンの体積%が55の比較例2では、給電部の接合部分に36%の空隙が生じた。
【符号の説明】
【0036】
1 ベース材
2 内部電極
3 誘電体
4 穴
5 金属電極
6 接合剤
7 亀裂
8 Siウエハ(被吸着体)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
セラミックスと金属とを接合する接合剤であって、
タングステンと活性銀ロウと有機バインダとから構成され、かつ、有機バインダを加熱除去した後に、タングステンを20体積%〜50体積%含有し、残部が活性銀ロウからなる接合剤。
【請求項2】
ベース材、内部電極、誘電体が順に配置されたセラミックス構造体のベース材の露出面から内部電極に至る穴が形成され、その穴の内部に、請求項1に記載の接合剤を介して金属電極が接合されている静電チャックの給電部。
【請求項3】
ベース材、内部電極、誘電体が順に配置されたセラミックス構造体のベース材の露出面から内部電極に至る穴が形成され、その穴の内部に金属電極が接合されている静電チャックの給電部の製造方法において、
前記穴の内部に、請求項1に記載の接合剤を装填し、前記金属電極を挿入して加熱接合する静電チャックの給電部の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2012−206917(P2012−206917A)
【公開日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−75682(P2011−75682)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【Fターム(参考)】