説明

接合方法

【課題】金属部材同士の突合部を金属部材の表面側及び裏面側から摩擦攪拌を行うとともに金属部材の気密性及び水密性を向上させることが可能な接合方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係る接合方法は、一対の金属部材の端面同士を突き合わせて被接合金属部材1を形成する突合工程と、被接合金属部材1の突合部J1に対して被接合金属部材1の表面Aから摩擦攪拌を行う第一本接合工程と、突合部J1に対して被接合金属部材1の裏面Bから摩擦攪拌を行う第二本接合工程と、突合部J1に対して被接合金属部材1の側面から溶接を行う溶接接合工程と、を含み、第一本接合工程で形成された表面側塑性化領域W1と、第二本接合工程で形成された裏面側塑性化領域W2とを重複させるとともに、溶接接合工程において、表面側塑性化領域W1及び裏面側塑性化領域W2を溶接金属で密閉することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摩擦攪拌を利用した金属部材の接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属部材同士を接合する方法として、摩擦攪拌接合(FSW=Friction Stir Welding)が知られている。摩擦攪拌接合は、回転ツールを回転させつつ金属部材同士の突合部に沿って移動させ、回転ツールと金属部材との摩擦熱により突合部の金属を塑性流動させることで、金属部材同士を固相接合させるものである。なお、回転ツールは、円柱状を呈するショルダ部の下端面に攪拌ピン(プローブ)を突設してなるものが一般的である。
【0003】
ここで図12は、一対の金属部材に摩擦攪拌接合を施した従来の接合方法を示した斜視図である。図12に示すように、接合すべき金属部材101,101の肉厚が図示しない回転ツールの攪拌ピンの長さよりも大きい場合には、金属部材101の表面102側から摩擦攪拌接合を行った後に、裏面103側からも摩擦攪拌接合を行う場合がある。
即ち、従来の接合方法は、金属部材101,101の突合部104(二点鎖線)に沿って表面102及び裏面103の両側から摩擦攪拌接合を行い、摩擦攪拌接合によって形成された塑性化領域105,106の厚さ方向の中央部分が接触するように接合するものである。これにより、突合部104においては、隙間なく接合することができる。
【0004】
【特許文献1】特開2005−131666号公報(図7参照)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の接合方法は、図12に示すように、塑性化領域105,106において、一方の側面107から他方の側面108に連続するトンネル状の空洞欠陥(以下、トンネル状空洞欠陥109という)が生じる可能性がある。トンネル状空洞欠陥109は、突合部104の微細な隙間を充填するためにメタルが不足したり、摩擦攪拌によってバリが発生したりすることにより生じるものである。かかる空洞欠陥109は、金属部材101,111の水密性及び気密性を低下させる一因となっていた。
【0006】
このような観点から本発明は、金属部材同士の突合部を金属部材の表面側及び裏面側から摩擦攪拌を行うとともに金属部材の気密性及び水密性を向上させることが可能な接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決する本発明に係る接合方法は、一対の金属部材の端面同士を突き合わせて被接合金属部材を形成する突合工程と、前記被接合金属部材の突合部に対して前記被接合金属部材の表面から摩擦攪拌を行う第一本接合工程と、前記突合部に対して前記被接合金属部材の裏面から摩擦攪拌を行う第二本接合工程と、前記突合部に対して前記被接合金属部材の側面から溶接を行う溶接接合工程と、を含み、第一本接合工程で形成された表面側塑性化領域と、第二本接合工程で形成された裏面側塑性化領域とを重複させるとともに、前記溶接接合工程において、前記表面側塑性化領域及び前記裏面側塑性化領域を溶接金属で密閉することを特徴とする。
【0008】
かかる接合方法によれば、表面側塑性化領域及び裏面側塑性化領域を重複させているので、突合部において未塑性化領域のない被接合金属部材を形成することができるとともに、被接合金属部材の側面に露出するトンネル状空洞欠陥については溶接により溶接金属で密閉するため、被接合金属部材の気密性及び水密性を高めることができる。
【0009】
また、本接合方法では、前記溶接接合工程の前に、前記被接合金属部材の側面の前記突合部に沿って凹溝を形成する凹溝形成工程を含み、前記溶接接合工程の際に、前記凹溝に前記溶接金属を充填することが好ましい。
【0010】
かかる接合方法によれば、被接合金属部材の側面側に酸化皮膜が形成されていたとしても、凹溝を形成する際に除去することができる。
【0011】
また、本接合方法では、前記凹溝の幅は、前記表面側塑性化領域及び前記裏面側塑性化領域の幅よりも小さいことが好ましい。
【0012】
かかる接合方法によれば、凹溝を形成する作業手間を低減することができるとともに、溶接金属の充填量を小さくすることができるため、材料コストの低減を図ることができる。
【0013】
また、本接合方法では、前記溶接接合工程において、前記溶接金属のうち前記被接合金属部材の側面から突出した部分を切除する切除工程を含むことが好ましい。
【0014】
かかる接合方法によれば、側面から突出した溶接金属を切除することにより、仕上がり面を平滑に成形することができる。なお、溶接金属のうち被接合金属部材の側面から突出した部分を以下、肉盛部ともいう。
【0015】
また、本接合方法では、摩擦攪拌を行う回転ツールの挿入予定位置に予め下穴を形成することが好ましい。かかる接合方法によれば、回転ツールを押し込む際の圧入抵抗を低減することができる。これにより、摩擦攪拌接合の精度を高めるとともに、迅速に接合作業を行うことができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る接合方法によれば、金属部材同士の突合部を金属部材の表面側及び裏面側から摩擦攪拌を行うとともに金属部材の気密性及び水密性を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明に係る接合方法は、図1に示すように、第一金属部材1a及び第二金属部材1bの端面同士を突き合わせてなる被接合金属部材1の突合部J1に対して、被接合金属部材1の表面A及び裏面Bから摩擦攪拌をするとともに、両側面に形成された凹溝K,Kに溶接金属Tを充填することを特徴とするものである。まず、被接合金属部材1、摩擦攪拌の際に用いるタブ材及び回転ツールについて詳細に説明する。
【0018】
被接合金属部材1は、図2に示すように、略同等の形状からなる第一金属部材1a及び第二金属部材1bの端面同士を突き合わせて形成されている。第一金属部材1a及び第二金属部材1bは、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、チタン、チタン合金、マグネシウム、マグネシウム合金など摩擦攪拌可能な金属材料からなる。第一金属部材1a及び第二金属部材1bの形状・寸法に特に制限はないが、少なくとも突合部J1における厚さ寸法を同一にすることが望ましい。
【0019】
第一タブ材2および第二タブ材3は、図2に示すように、被接合金属部材1の突合部J1を挟むように配置されるものであって、それぞれ、被接合金属部材1に添設され、両側面に現れる継ぎ目(境界線)を覆い隠す。第一タブ材2及び第二タブ材3の材質に特に制限はないが、本実施形態では、被接合金属部材1と同一組成の金属材料で形成している。また、第一タブ材2および第二タブ材3の形状・寸法にも特に制限はないが、本実施形態では、その厚さ寸法を突合部J1における被接合金属部材1の厚さ寸法と同一にしている。
【0020】
次に、図3を参照して、仮接合に用いる回転ツールF(以下、「仮接合用回転ツールF」という。)および本接合に用いる回転ツールG(以下、「本接合用回転ツールG」という。)を詳細に説明する。
【0021】
図3の(a)に示す仮接合用回転ツールFは、工具鋼など被接合金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部F1と、このショルダ部F1の下端面F11に突設された攪拌ピン(プローブ)F2とを備えて構成されている。仮接合用回転ツールFの寸法・形状は、被接合金属部材1の材質や厚さ等に応じて設定すればよいが、少なくとも、後記する第一本接合工程で用いる本接合用回転ツールG(図3の(b)参照)よりも小型にする。このようにすると、本接合よりも小さな負荷で仮接合を行うことが可能となるので、仮接合時に摩擦攪拌装置に掛かる負荷を低減することが可能となり、さらには、仮接合用回転ツールFの移動速度(送り速度)を本接合用回転ツールGの移動速度よりも高速にすることも可能になるので、仮接合に要する作業時間やコストを低減することが可能となる。
【0022】
ショルダ部F1の下端面F11は、塑性流動化した金属を押えて周囲への飛散を防止する役割を担う部位であり、本実施形態では、凹面状に成形されている。ショルダ部F1の外径Xの大きさに特に制限はないが、本実施形態では、本接合用回転ツールGのショルダ部G1の外径Yよりも小さくなっている。
【0023】
攪拌ピンF2は、ショルダ部F1の下端面F11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンF2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンF2の外径の大きさに特に制限はないが、本実施形態では、最大外径(上端径)Xが本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Yよりも小さく、かつ、最小外径(下端径)Xが攪拌ピンG2の最小外径(下端径)Yよりも小さい。攪拌ピンF2の長さLは、突合部J1(図3の(b)参照)における被接合金属部材1の厚さtの3〜15%とすることが望ましいが、少なくとも、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の長さLよりも小さくすることが望ましい。
【0024】
図3の(b)に示す本接合用回転ツールGは、工具鋼など金属部材1よりも硬質の金属材料からなり、円柱状を呈するショルダ部G1と、このショルダ部G1の下端面G11に突設された攪拌ピン(プローブ)G2とを備えて構成されている。
【0025】
ショルダ部G1の下端面G11は、仮接合用回転ツールFと同様に、凹面状に成形されている。攪拌ピンG2は、ショルダ部G1の下端面G11の中央から垂下しており、本実施形態では、先細りの円錐台状に成形されている。また、攪拌ピンG2の周面には、螺旋状に刻設された攪拌翼が形成されている。攪拌ピンG2の長さLは、突合部J1(図2の(c)参照)における被接合金属部材1の肉厚tの1/2以上3/4以下となるように設定することが望ましく、より好適には、1.01≦2L/t≦1.10という関係を満たすように設定することが望ましい。
【0026】
以下に本実施形態に係る接合方法を詳細に説明する。本実施形態に係る接合方法は、(1)突合工程、(2)仮接合工程、(3)第一本接合工程、(4)第二本接合工程、(5)凹溝形成工程、(6)溶接接合工程を含むものである。なお、説明における上下前後左右は、図1の矢印に従う。
【0027】
(1)突合工程
突合工程は、第一金属部材1a及び第二金属部材1bの両端面を突き合わせて被接合金属部材1を形成する突合工程と、被接合金属部材1の両側面にタブ材を配置するタブ材配置工程とを含むものである。
【0028】
突合工程では、図2の(a)〜(c)に示すように、第一金属部材1aと第二金属部材1bの両端面11a及び11bを突き合わせて被接合金属部材1を形成する。図2の(c)に示すように、第一金属部材1aの表面12aと第二金属部材1bの表面12bとを面一にするとともに、第一金属部材1aの裏面13aと第二金属部材1bの裏面13bとを面一に形成する。さらに、図3の(b)に示すように、第一金属部材1aの一方の側面14aと第二金属部材1bの一方の側面14bとを面一にするとともに、第一金属部材1aの他方の側面15aと第二金属部材1bの他方の側面15bとを面一にする。第一金属部材1a及び第二金属部材1bの突合せ面には突合部J1が形成されている。
ここで、被接合金属部材1の表面を表面A、裏面を裏面B、一方の側面を第一側面C、他方の側面を第二側面Dとする。
【0029】
タブ材配置工程では、図2の(a)及び(b)に示すように、被接合金属部材1の両側面に露出する突合部J1に沿って、第一タブ材2及び第二タブ材3を配置する。第一タブ材2は、図2の(b)に示すように、第一タブ材2の当接面21が第二側面Dに当接するように配置される。第二タブ材3は、第二タブ材3の当接面31が第一側面Cに当接するように配置される。第一タブ材2及び第二タブ材3の表面及び裏面は、被接合金属部材1の表面A及び裏面Bと面一に形成されている。また、図2の(a)に示すように、被接合金属部材1と第一タブ材2との突合せ面には突合部J2が形成され、被接合金属部材1と第二タブ材3との突合せ面には突合部J3が形成されている。
【0030】
本実施形態においては、第一タブ材2と被接合金属部材1とで形成された入り隅部2a,2aを溶接によって仮接合する。これにより、第一タブ材2と被接合金属部材1を摩擦攪拌する際の目開きを防止することができる。同様に、第二タブ材3と被接合金属部材1とで形成された入り隅部3a,3aを溶接によって仮接合する。
突合工程が終了したら、タブ材を仮接合した被接合金属部材1を図示せぬ摩擦攪拌装置の架台に載置し、クランプ等の治具を用いて移動不能に拘束する。
【0031】
(2)仮接合工程
仮接合工程は、突合部J2,突合部J1及び突合部J3に沿って摩擦攪拌を行う仮接合工程と、第二タブ材3の表面に下穴を形成する下穴形成工程とを含むものである。
【0032】
仮接合工程では、図4に示すように、一の仮接合用回転ツールFを一筆書きの移動軌跡(ビード)を形成するように移動させて、突合部J2,J1,J3に対して連続して摩擦攪拌を行う。即ち、摩擦攪拌の開始位置Sに挿入した仮接合用回転ツールFの攪拌ピンF2(図3の(a)参照)を途中で離脱させることなく終了位置Eまで移動させる。
なお、本実施形態では、第一タブ材2に摩擦攪拌の開始位置Sを設け、第二タブ材3に終了位置Eを設けているが、開始位置Sと終了位置Eの位置を限定する趣旨ではない。
【0033】
仮接合工程は、まず、第一タブ材2の適所に設けた開始位置Sの直上に仮接合用回転ツールFを位置させ、続いて、仮接合用回転ツールFを右回転させつつ下降させて攪拌ピンF2を開始位置Sに押し付ける。攪拌ピンF2の全体が第一タブ材2に入り込み、かつ、ショルダ部F1の下端面F11の全面が第一タブ材2の表面22に接触したら、図4に示すように、仮接合用回転ツールFを回転させつつ始点s2に向けて相対移動させる。
【0034】
始点s2まで連続して摩擦攪拌を行ったら、始点s2で仮接合用回転ツールFを離脱させずにそのまま突合部J2に沿って接合用回転ツールFを移動させ、突合部J2を摩擦攪拌する。仮接合用回転ツールFを右回転させた場合には、仮接合用回転ツールFの進行方向の左側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、仮接合用回転ツールFの進行方向の右側に被接合金属部材1が位置するように始点s2と終点e2の位置を設定することが望ましい。このようにすると、被接合金属部材1側に接合欠陥が発生し難くなるので、高品質の接合体を得ることが可能となる。
【0035】
ちなみに、仮接合用回転ツールFを左回転させた場合には、仮接合用回転ツールFの進行方向の右側に微細な接合欠陥が発生する虞があるので、仮接合用回転ツールFの進行方向の左側に被接合金属部材1が位置するように始点と終点の位置を設定することが望ましい。具体的には、図示は省略するが、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の終点e2の位置に始点を設け、仮接合用回転ツールFを右回転させた場合の始点s2の位置に終点を設ければよい。
【0036】
仮接合用回転ツールFが終点e2に達したら、仮接合用回転ツールFを離脱させずに、一旦第一タブ材2側に入り込ませて、始点s1まで移動させる。仮接合用回転ツールFが始点s1に達したら、突合部J1に沿って仮接合用回転ツールFを移動させ、突合部J1の全長に亘って連続して摩擦攪拌を行う。
【0037】
仮接合用回転ツールFが終点e1に達したら、一旦第二タブ材3に入り込ませて、始点s3まで仮接合用回転ツールFを離脱させずに摩擦攪拌を継続し、突合部J3の摩擦攪拌に移行する。仮接合用回転ツールFが終点e3に達したら第二タブ材3の内部に設定した終了位置Eまで仮接合用回転ツールFを移動させて、第二タブ材3から仮接合用回転ツールFを離脱させる。
なお、本実施形態では、被接合金属部材1の突合部J1の延長線上に終了位置Eを設けている。ちなみに、終了位置Eは、後記する第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM1でもある。また、本実施形態では、前記したように仮接合のルートを設定したがこれに限定されるものではなく、他のルートであっても構わない。
【0038】
下穴形成工程では、図3の(b)に示すように、第一本接合工程における摩擦攪拌の開始位置SM1に下穴P1を形成する。即ち、下穴形成工程は、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の挿入予定位置に下穴P1を形成する工程である。これにより、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の挿入抵抗(圧入抵抗)を低減することができる。
下穴P1の形態に特に制限はないが、本実施形態では、円筒状としている。下穴P1の最大穴径Zは、本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の最大外径(上端径)Yよりも小さく形成されている。
【0039】
(3)第一本接合工程
第一本接合工程では、被接合金属部材1の突合部J1に対して、本接合用回転ツールGを用いて表面Aから本格的に摩擦攪拌する。
第一本接合工程では、図5の(a)〜(c)に示すように、開始位置SM1に形成した下穴P1に本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンG2を途中で離脱させることなく終了位置EM1まで移動させる。なお、本実施形態では、第二タブ材3に摩擦攪拌の開始位置SM1を設け、第一タブ材2に終了位置EM1を設けているが、開始位置SM1と終了位置EM1の位置を限定する趣旨ではない。
【0040】
図5の(a)〜(c)を参照して第一本接合工程をより詳細に説明する。
まず、図5の(a)に示すように、下穴P1(開始位置SM1)の直上に本接合用回転ツールGを位置させ、続いて、本接合用回転ツールGを右回転させつつ下降させて攪拌ピンG2の先端を下穴P1に挿入する。攪拌ピンG2を下穴P1に入り込ませると、攪拌ピンG2の周面(側面)が下穴P1の穴壁に当接し、穴壁から金属が塑性流動化する。このような状態になると、塑性流動化した金属を攪拌ピンG2の周面で押し退けながら、攪拌ピンG2が圧入されることになるので、圧入初期段階における圧入抵抗を低減することが可能となり、また、本接合用回転ツールGのショルダ部G1が第二タブ材3の表面32に当接する前に攪拌ピンG2が下穴P1の穴壁に当接して摩擦熱が発生するので、塑性流動化するまでの時間を短縮することが可能となる。
【0041】
攪拌ピンG2の全体が第二タブ材3に入り込み、かつ、ショルダ部G1の下端面G11の全面が第二タブ材3の表面32に接触したら、図5の(b)に示すように、摩擦攪拌を行いながら被接合金属部材1の突合部J1の一端に向けて本接合用回転ツールGを相対移動させ、さらに、突合部J3を横切らせて突合部J1に突入させる。本接合用回転ツールGを移動させると、その攪拌ピンG2の周囲にある金属が順次塑性流動化するとともに、攪拌ピンG2から離れた位置では、塑性流動化していた金属が再び硬化して塑性化領域W1(以下、「表面側塑性化領域W1」という。)が形成される。
【0042】
被接合金属部材1への入熱量が過大になる虞がある場合には、本接合用回転ツールGの周囲に水を供給するなどして冷却することが望ましい。なお、被接合金属部材1の突合部J1の隙間に冷却水が入り込むと、接合面に酸化皮膜を発生させる虞があるが、本実施形態においては、仮接合工程を実行して被接合金属部材1の突合部J1の目地を閉塞しているので、突合部J1の隙間に冷却水が入り込み難く、したがって、接合部の品質を劣化させる虞がない。
【0043】
突合部J1の他端まで本接合用回転ツールGを相対移動させたら、摩擦攪拌を行いながら突合部J2を横切らせ、そのまま終了位置EM1に向けて相対移動させる。本接合用回転ツールGが終了位置EM1に達したら、図5の(c)に示すように、本接合用回転ツールGを回転させつつ上昇させて攪拌ピンG2を終了位置EM1から離脱させる。
【0044】
(4)第二本接合工程
第二本接合工程では、被接合金属部材1の突合部J1に対して、本接合用回転ツールGを用いて裏面Bから本格的に摩擦攪拌する。
まず、第一本接合工程が終了したら、図示しない摩擦攪拌装置から被接合金属部材1を一旦外し、図1に示す前後方向の軸に沿って半回転させて裏面Bを上方に向けた状態にして、再度固定する。なお、第二本接合工程に先だって、第二タブ材3の裏面33に下穴P2を形成する。
【0045】
第二本接合工程では、図6の(a)〜(c)に示すように、第二タブ材3に設定した開始位置SM2に形成した下穴P2に右回転させた本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2を挿入(圧入)し、挿入した攪拌ピンG2を途中で離脱させることなく終了位置EM2まで移動させる。なお、本実施形態では、第二タブ材3に摩擦攪拌の開始位置SM2を設け、第一タブ材2に終了位置EM2を設けているが、開始位置SM2と終了位置EM2の位置を限定する趣旨ではない。
【0046】
第二本接合工程は、第一本接合工程と略同等であるため、重複する部分については説明を省略する。第二本接合工程では、摩擦攪拌によって裏面側塑性化領域W2が形成される。第二本接合工程では、図6の(b)及び(c)に示すように、表面側塑性化領域W1と裏面側塑性化領域W2とが重複するように摩擦攪拌を行う。即ち、表面側塑性化領域W1の深さW1dと裏面側塑性化領域W2の深さW2dとの和は、被接合金属部材1の厚さtよりも大きくなるように形成されている。これにより、突合部J1の隙間を全て摩擦攪拌することができるため、被接合金属部材1の気密性及び水密性を高めることができる。
なお、第二本接合工程を行う前に、前記した仮接合工程を行って、突合部J1,J2,J3を仮接合してもよい。
【0047】
第二本接合工程が終了したら、図7に示すように、第一タブ材2及び第二タブ材3を被接合金属部材1から切除する。被接合金属部材1の表面側塑性化領域W1及び裏面側塑性化領域W2には、トンネル状空洞欠陥R及び酸化皮膜Uが形成されている。トンネル状空洞欠陥Rは、第一側面Cから第二側面Dに連通する空洞欠陥であって、本実施形態においては本接合用回転ツールGを右回転させているため、本接合用回転ツールGの進行方向左側に形成される。即ち、表面側塑性化領域W1には、第二金属部材1bにトンネル状空洞欠陥Rが形成されている。また、裏面側塑性化領域W2には、第一金属部材1aにトンネル状空洞欠陥Rが形成されている。トンネル状空洞欠陥Rの両端は、第一側面C及び第二側面Dに露出している。
【0048】
酸化皮膜Uは、本接合用回転ツールGが突合部J2及びJ3を通過する際に、タブ材と被接合金属部材1との間に存する酸化皮膜を被接合金属部材1側に巻き込むため、塑性化領域の両端側に形成される。酸化皮膜Uは、本実施形態においては、本接合用回転ツールGを右回転させているため、裏面側塑性化領域W2においては、第一側面C上の第一金属部材1a及び第二側面D上の第二金属部材1bに形成されている。また、表面側塑性化領域W1においては、第一側面C上の第二金属部材1b及び第二側面D上の第一金属部材1aに形成されている。
【0049】
(5)凹溝形成工程
凹溝形成工程では、被接合金属部材1の第一側面C及び第二側面Dにおいて、突合部J1に沿って凹溝K,Kを形成する。凹溝Kは、後記する溶接接合工程において、溶接金属を充填させる凹部である。凹溝Kは、本実施形態においては公知のエンドミル等を用いて、一定の幅Ka、深さKbで裏面Bから表面Aに亘って連続して形成されている。
【0050】
凹溝Kを設けることで、後記する溶接接合を行う際に、溶接金属を好適に充填させることができるとともに、酸化皮膜U(図7参照)を取り除くことができる。凹溝Kの幅Ka及び深さKbは、酸化皮膜Uの大きさ(範囲)に応じて適宜設定すればよい。また、凹溝Kの幅Kaと、裏面側塑性化領域W2の幅Waは、Ka<Waとなるように形成されるのが好ましい。これにより、溶接接合の際に溶接金属を充填する範囲を小さくすることができるため、作業効率を高めることができる。なお、凹溝Kは、本実施形態においては、断面視矩形に形成したがこれに限定されるものではなく他の形状であってもよい。
【0051】
(6)溶接接合工程
溶接接合工程は、図9に示すように、第二側面D及び第一側面C(図8参照)に形成された凹溝Kに対して溶接接合を行う溶接接合工程と、肉盛部を切除する切除工程(以下、肉盛部切除工程ともいう)とを含む。
溶接接合工程では、TIG溶接、MIG溶接などによって肉盛溶接接合を行って、凹溝Kに溶接金属Tを充填させる。これにより、凹溝Kを溶接金属Tで確実に密閉するとともに、接合箇所の強度を高めることができる。また、第一側面Cから第二側面Dに連続するトンネル状空洞欠陥Rが形成されたとしても、凹溝Kに溶接金属Tが充填されることによりトンネル状空洞欠陥Rを分断し、被接合金属部材1中に封入することができる。なお、溶接材料は、被接合金属部材1と異なっていてもよいが、本実施形態においては同一の材料を用いている。
【0052】
なお、溶接接合工程を行ったとしても、被接合金属部材1の表面A及び裏面Bに酸化皮膜Uが残存する場合には、酸化皮膜Uに対して溶接を行い、溶接金属Tで密閉してもよい。
【0053】
肉盛部切除工程は、図10に示すように、溶接接合工程で充填された溶接金属Tのうち、第一側面C又は第二側面Dの表面から突出する部分(肉盛部T’)を切除する工程である。かかる肉盛部T’を切除することにより、第一側面C又は第二側面Dの表面を平滑に成形することができる。
【0054】
以上説明した本発明に係る接合方法によれば、表面側塑性化領域W1及び裏面側塑性化領域W2を重複させることで、突合部J1の隙間を全て摩擦攪拌することができるとともに、被接合金属部材1の両側面に露出するトンネル状空洞欠陥Rについては溶接金属Tで密閉するため、被接合金属部材1の気密性及び水密性を高めることができる。
【0055】
また、摩擦攪拌の際に被接合金属部材1に形成される酸化皮膜Uは、凹溝形成工程で切除されるため、被接合金属部材1の気密性及び水密性をより高めることができる。また、凹溝Kに溶接金属Tを充填させることで、突合部J1の接合強度を高めることができる。
【0056】
以上本発明の最良の実施形態について説明したが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、適宜変更が可能である。
例えば、第一本接合工程と第二本接合工程とで異なる形態の本接合用回転ツールGを用いてもよい。例えば図11の(a)および(b)に示すように、第一本接合工程で用いる本接合用回転ツールGの攪拌ピンG2の長さLと第二本接合工程で用いる本接合用回転ツールG’の攪拌ピンG2’の長さLの和を、突合部J1における被接合金属部材1の肉厚t以上に設定してもよい。なお、攪拌ピンG2,G2’の長さL,Lが、それぞれ肉厚t未満であることは言うまでもない。このようにすれば、第一本接合工程で形成された表面側塑性化領域W1の深部が、第二本接合工程で使用する本接合用回転ツールG’の攪拌ピンG2’によって再び摩擦攪拌されることになるので、表面側塑性化領域W1の深部に接合欠陥が連続的に形成されていたとしても、当該接合欠陥を分断して不連続にすることが可能となり、ひいては、接合部における気密性や水密性を向上させることが可能となる。
【0057】
また例えば、本実施形態においては、被接合金属部材1の側面に凹溝Kを形成したが、凹溝Kを形成せずに溶接接合工程を行ってもよい。即ち、図7に示すように、第二本接合工程を終えた段階で、第一側面C及び第二側面Dに露出する表面側塑性化領域W1及び裏面側塑性化領域W2に対してTIG溶接等を行った後、肉盛部を切除してもよい。これにより、トンネル状空洞欠陥R及び酸化皮膜Uを溶接金属で密閉することができるため、水密性及び気密性を高めることができる。
【0058】
また、溶接接合工程は、本実施形態では被接合金属部材1の両面に行ったが、どちらか一方に行うだけでもよい。また、仮接合用回転ツールF及び本接合用回転ツールGの回転方向や進行方向は、前記した形態に限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明の実施形態に係る接合方法を示した斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る被接合金属部材及びタブ材を示した図であって、(a)は、斜視図、(b)は、平面図、(c)は、(b)のI−I線断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る回転ツールを示した側面図であって、(a)は、仮接合用回転ツール、(b)は、本接合用回転ツールを示す。
【図4】本発明の実施形態に係る仮接合工程を示した平面図である。
【図5】本発明の実施形態に係る第一本接合工程を示した図4のII−II線断面図であって、(a)は、開始位置、(b)は、中間位置、(c)は、終了位置を示す。
【図6】本発明の実施形態に係る第二本接合工程を示した断面図であって、(a)は、開始位置、(b)は、中間位置、(c)は、終了位置付近を示す。
【図7】本発明の実施形態に係る第二本接合工程の終了後を示した斜視図である。
【図8】本発明の実施形態に係る凹溝形成工程を示した斜視図である。
【図9】本発明の実施形態に係る溶接接合工程を示した正面図である。
【図10】本発明の実施形態に係る図9のIII−III線断面図である。
【図11】回転ツールの変形例を示した側面図である。
【図12】従来の接合方法を示した斜視図である。
【符号の説明】
【0060】
1 被接合金属部材
1a 第一金属部材
1b 第二金属部材
2 第一タブ材
3 第二タブ材
A 表面
B 裏面
C 第一側面
D 第二側面
F 仮接合用回転ツール
G 本接合用回転ツール
J1 突合部
K 凹溝
P1 下穴
T 溶接金属
W1 表面側塑性化領域
W2 裏面側塑性化領域
本接合工程の開始位置
本接合工程の終了位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の金属部材の端面同士を突き合わせて被接合金属部材を形成する突合工程と、
前記被接合金属部材の突合部に対して前記被接合金属部材の表面から摩擦攪拌を行う第一本接合工程と、
前記突合部に対して前記被接合金属部材の裏面から摩擦攪拌を行う第二本接合工程と、
前記突合部に対して前記被接合金属部材の側面から溶接を行う溶接接合工程と、を含み、
第一本接合工程で形成された表面側塑性化領域と、第二本接合工程で形成された裏面側塑性化領域とを重複させるとともに、
前記溶接接合工程において、前記表面側塑性化領域及び前記裏面側塑性化領域を溶接金属で密閉することを特徴とする接合方法。
【請求項2】
前記溶接接合工程の前に、前記被接合金属部材の側面の前記突合部に沿って凹溝を形成する凹溝形成工程を含み、
前記溶接接合工程の際に、前記凹溝に前記溶接金属を充填することを特徴とする請求項1に記載の接合方法。
【請求項3】
前記凹溝の幅は、前記表面側塑性化領域及び前記裏面側塑性化領域の幅よりも小さいことを特徴とする請求項2に記載の接合方法。
【請求項4】
前記溶接接合工程において、前記溶接金属のうち前記被接合金属部材の側面から突出した部分を切除する切除工程を含むことを特徴とする請求項1乃至請求項3に記載の接合方法。
【請求項5】
摩擦攪拌を行う回転ツールの挿入予定位置に予め下穴を形成することを特徴とする請求項1乃至請求項4に記載の接合方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2009−101401(P2009−101401A)
【公開日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−277349(P2007−277349)
【出願日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】