説明

接着剤組成物、及びそれを用いた積層体、並びに二次電池

【課題】 本発明は、熱融着性フィルムと金属箔の接着において高い接着強度を有し、長期間電解質溶液に浸漬されても接着強度を高レベルで維持できる積層体を形成できる、接着剤組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】 下記(A)〜(C)を含有する接着剤組成物であって、カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、粘着付与剤(B)との合計100重量%中に、前記エラストマー(A)を20〜90重量%、前記粘着付与剤(B)を10〜80重量%含み、前記エラストマー(A)中のカルボキシル基1モルに対して、前記粘着付与剤(B)中のカルボキシル基が0〜8モルであり、前記エラストマー(A)中のカルボキシル基と前記粘着付与剤(B)中のカルボキシル基との合計1モルに対して、カルボジイミド基が0.3〜10モルとなる範囲でポリカルボジイミド(C)を、含む接着剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用の電池容器の形成に好適な積層体に関する。詳しくは、熱融着性フィルムと金属箔との接着において高い接着強度を有し、長時間電解質に浸漬されても接着強度を高レベルで維持できる積層体に関する。
本発明は、前記のような二次電池容器用の積層体の形成に好適な接着剤組成物に関する。
また、本発明は、前記のような二次電池容器用の積層体を用いてなる二次電池に関する。
さらに詳しくは、本発明は、非水電解質二次電池用の積層体、前記積層体形成用の接着剤組成物、及び前記積層体を用いてなる非水電解質二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、携帯型パソコン等の電子機器の急速な成長により、軽量かつ小型の非水電解質二次電池の需要が増大している。なかでも、より軽量コンパクト化が可能な、アルミニウム箔に代表される金属箔を含むラミネートフィルムを用いてなる、袋状やトレイ状の電池容器を用いたものが注目を集めている。
【0003】
袋状やトレイ状の電池容器を用いた電池は、多くの場合、以下のようにして得る。
工程1: 袋状やトレイ状の電池容器に用いられる積層体を形成する。電池容器用積層体は、一般に、外装部材/金属箔/熱融着樹脂フィルムを積層した形態のものであり、各構成部材は接着剤により接着されている。
工程2: 前記積層体を用い、前記熱融着樹脂フィルムを内層とする、少なくとも一方の端が空いた状態の袋やトレイを形成する。
工程3: 前記袋や前記トレイに、電池本体、前記電池本体の正極・負極にそれぞれ接続されてなる複数の電極端子(前記電極端子の他の端部は前記袋や前記トレイから突出するように配する)、及び電解質を入れる。
工程4: そして、袋状の場合は、開放端近傍の前記熱融着樹脂フィルム同士を対向させ、開放端から電極端子の他の端部を袋外に突出させた状態で前記熱融着樹脂フィルムで挟み、開放端近傍を熱融着させることにより、電池本体及び電解質等を密封する。
トレイ状の場合は、トレイ縁部の前記熱融着樹脂フィルムに、平板状の積層体を構成する熱融着樹脂フィルムを対向させ、トレイ縁部からトレイ外部に電極端子の他の端部を突出させた状態で前記熱融着樹脂フィルムで挟み、トレイ縁部を熱融着させることにより、電池本体及び電解質等を密封する。
【0004】
従って、電池容器用積層体のうち、金属箔と熱融着樹脂フィルムとを貼り合わせるための接着剤には、主に以下の性能が要求される。
(1) 金属箔と熱融着樹脂フィルムとの接着強度が大きいこと。
(2) 上記の接着剤層が耐電解液性を有していること。即ち、電解質を電池容器内に密封しても、金属箔と熱融着樹脂フィルムとの接着強度が維持できること。
例えば、リチウム電池の電解質溶液は、六フッ化リン酸リチウムのようなリチウム塩と、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート等の溶剤とを含む。
電池容器に電解質溶液を入れると、電解質溶液が熱融着樹脂フィルムを通り抜け、接着剤層に達すし、熱融着樹脂フィルムと金属箔との接着力低下を引き起こす。さらに、電池容器外部から電解質溶液に水分が浸入すると、六フッ化リン酸リチウムのようなリチウム塩と水とが反応し、フッ酸が発生する。発生したフッ酸は熱融着樹脂フィルム及び接着剤層を通り抜け、金属箔にまで到達し、金属箔を腐食させ、この腐食が熱融着樹脂フィルムと金属箔との接着力を著しく低下させる。
そこで、熱融着樹脂フィルムと金属箔とを貼りあわせる接着剤層には、電解質溶液に対する耐性が求められる。
中でも耐電解液性は、電池の使用される用途が民生用途であるか、車載用途であるかにより要求される耐久性レベルが異なり、車載用途においてはより優れた耐電解液性が求められる。
【0005】
特許文献1(特開2001−236932号公報)には、金属箔とオレフィン系樹脂層との間に、受酸層であるハイドロタルサイトを含有する変性オレフィン系樹脂層を設けてなる電池の包材が開示されている。変性オレフィン系樹脂としては、無水マレイン酸ポリプロピレンが開示されている。
しかし、特許文献1に記載される接着剤は使用される樹脂の融点が高いため高温にして溶融しないと十分な接着力が発現せず、高温にすることで熱融着樹脂フィルムが劣化してしまうという問題があった。
【0006】
特許文献2(特開2003−123708号公報)には、酸変性熱可塑性エラストマー(A)及びカップリング剤(B)を含有する接着剤組成物を用い、未延伸ポリプロピレンフィルムと、ナイロンフィルムがラミネートされてなるアルミニウム箔とを貼り合わせ、未延伸ポリプロピレンフィルム/接着剤層/アルミニウム箔/ナイロンフィルムという構成の積層体を得、前記積層体を包装材として用い二次電池を得る旨、開示されている。さらに接着剤組成物に粘着付与剤を含み得ることも開示されている。
【0007】
さらに、特許文献3(WO2004/041954号パンフレット)には、カルボキシル基含有熱可塑性エラストマー(A)、ポリオレフィンポリオール(B)、粘着付与剤(C)及び多官能イソシアネート(D)を含有する接着剤組成物が開示されている。そして、前記接着剤を用いて、アルミニウム箔やポリエチレンテレフタレートフィルムと、未延伸ポリプロピレンフィルムとを貼り合わせ旨記載されている。
また、特許文献4(特開2005−063685号公報)にも同様の接着剤が開示され、前記接着剤を用いて、アルミニウム箔と熱可塑性樹脂フィルムとを貼り合わせて、前記熱可塑性樹脂フィルムを内層とする電池ケース用包装材料として用い得る旨記載されている。
しかし、特許文献2〜4に記載される接着剤は、比較的低温のエージング温度で十分な接着強度を発現するが、長期の耐電解液試験では十分な接着強度を維持することができないという問題があった。
【0008】
特許文献5(WO2009/087776号パンフレット)には、酸変性ポリプロピレンなどのカルボキシル基含有ポリオレフィン樹脂と多官能イソシアネートとを含有する接着剤組成物が開示されており、粘着付与剤の利用が開示されている。
また、特許文献6(特開2010−092703号公報)にも同様の接着剤が開示され、前記接着剤を用いて、アルミニウム箔と熱可塑性樹脂フィルムとを貼り合わせて、前記熱可塑性樹脂フィルムを内層とする電池ケース用包装材料として用い得る旨記載されている。
しかし、特許文献5、6に記載される接着剤は、耐電解液試験後の接着力の保持率は向上するが、樹脂の融点が高いために低温のエージングでは高い接着強度が得られず、高い接着強度を得るためには特許文献1と同様に高温での処理が必要となり、熱融着樹脂フィルムが劣化してしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−236932号公報
【特許文献2】特開2003−123708号公報
【特許文献3】WO2004/041954号パンフレット
【特許文献4】特開2005−063685号公報
【特許文献5】WO2009/087776号パンフレット
【特許文献6】特開2010−092703号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、熱融着性フィルムと金属箔の接着において高い接着強度を有し、長期に亘り電解質溶液に浸漬されても接着強度を高レベルで維持できる積層体を形成できる、接着剤組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、下記(A)〜(C)を含有する接着剤組成物であって、カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、粘着付与剤(B)との合計100重量%中に、前記エラストマー(A)を20〜90重量%、前記粘着付与剤(B)を10〜80重量%含み、
前記エラストマー(A)中のカルボキシル基1モルに対して、前記粘着付与剤(B)中のカルボキシル基が0〜8モルであり、
前記エラストマー(A)中のカルボキシル基と前記粘着付与剤(B)中のカルボキシル基との合計1モルに対して、カルボジイミド基が0.3〜10モルとなる範囲でポリカルボジイミド(C)を、含む、接着剤組成物に関し、
前記カルボジイミド(C)は、構造中にイソシアネート基を有することが好ましい。
【0012】
また、本発明は、接着剤層を介して、金属箔と熱融着性フィルムとが積層されてなる積層体であって、
前記接着剤層が、前記発明のいずれか記載の接着剤組成物から形成された接着剤層である、積層体に関し、金属箔側に他のシート状部材がさらに積層されてなることが好ましい。
【0013】
さらに本発明は、金属箔又は熱融着性フィルムの一方の面に、前記発明のいずれか記載の接着剤組成物を塗工し、未硬化の接着剤層を形成し、
前記未硬化の接着剤層の表面に、熱融着性フィルム又は金属箔を重ね、
前記未硬化の接着剤層を硬化し、金属箔と熱融着性フィルムとを貼り合わせることを特徴とする、金属箔と熱融着性フィルムとの積層体の製造方法に関する。
【0014】
また、本発明は、電池本体と、前記電池本体の正極と負極にそれぞれ接合されてなる複数の端子と、電池容器と、電解質とを具備する二次電池であって、
前記電池容器が、接着剤層を介して、金属箔と熱融着性フィルムとが積層されてなる積層体を用い、前記熱融着性フィルムが前記電解質に接するものであり、
前記熱融着性フィルムの一部の熱融着によって、前記複数の端子の他の端部を前記電池容器から突出させた状態で、前記電池本体と前記複数の端子と電解質とを前記電池容器内部に密封してなり、
前記接着剤層が、前記発明のいずれか記載の接着剤組成物から形成された接着剤層である、二次電池に関し、電池容器を形成する積層体は、金属箔側に他のシート状部材をさらに具備する積層体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の接着剤組成物により、高い接着強度で熱融着性フィルムと金属箔とを貼り合わせた積層体を得ることができる。そして、前記積層体が電解質溶液に浸漬されてもその接着強度を高レベルで維持でき、耐電解液性に優れた二次電池用容器を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明で使用されるカルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)について説明する。
本発明における「熱可塑性エラストマー」とは、加硫処理を行わなくても、その成形品が常温でゴム弾性を有する樹脂、すなわち熱可塑性樹脂にしてかつゴム弾性を有する物を指す。化学構造的にはABA型のブロックまたは(A−B)n型のマルチブロック構造を有するものが一般的である。
【0017】
前記熱可塑性エラストマーは、耐電解液性および耐熱性が優れるという理由から、ポリスチレン構造を分子中に有しているものが好ましく、具体例としてはスチレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン−エチレンプロピレンブロック共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、スチレンーイソプレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレン−ブチレン−スチレンブロック共重合体、スチレン−エチレンプロピレン−スチレン共重合体等が挙げられる。以下、ポリスチレン単位を有するブロック共重合体をスチレン系エラストマーという。
【0018】
前記スチレン系熱可塑性エラストマーは、後述の粘着付与剤(B)との相溶解性や溶剤への溶解性が良く、金属基材への接着強度が優れる点から、構造中にカルボキシル基を有することが重要である。熱可塑性エラストマーへのカルボキシル基の導入方法としては、熱可塑性エラストマーを製造するためのモノマーの重合の際に、適量のマレイン酸や無水マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸や前記不飽和カルボン酸の無水物を共重合させる方法や、熱可塑性エラストマーを合成した後に、適量のマレイン酸や無水マレイン酸等のエチレン性不飽和カルボン酸や前記不飽和カルボン酸の無水物と過酸化物を用いてグラフト化反応させる方法が一般的である。
【0019】
本発明で使用されるカルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)で重合に使用されるモノマーとしてエチレン性不飽和カルボン酸の無水物を使用した場合、接着剤として使用する際にカルボン酸の無水物の状態で使用しても良いし、これらを水やアルコール、アミンなどで開環させた状態で使用しても良い。
【0020】
本発明で使用されるカルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の酸価は、0.05〜30(mgCH3ONa/g)であることが好ましく、さらに好ましくは0.1〜25.0(mgCH3ONa/g)であり、特に1〜25(mgCH3ONa/g)であることが好ましい。カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の酸価が0.05(mgCH3ONa/g)よりも低い時は、本発明の接着剤組成物に含まれる他の成分との相溶性が悪化したり、金属基材との十分な接着強度が得られないおそれがあり、30(mgCH3ONa/g)よりも高い時はエラストマー(A)の粘弾性が損なわれてしまうおそれがある。
【0021】
本発明で使用されるカルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)は、エラストマー(A)中にスチレン単位が5〜60重量%含まれることが好ましく、さらに好ましくは10〜40重量%である。カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)のスチレン単位が5重量%よりも少ない時は、十分な粘弾性が得られない恐れがあり、スチレン単位が60重量%よりも多い時は、溶剤への溶解性が著しく低下し溶液安定性を損ねてしまうおそれがある。
【0022】
本発明で使用されるカルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の市販品としては、例えば、旭化成株式会社製のタフテックMシリーズや、クレイトンポリマージャパン株式会社製のクレイトンFGシリーズ等が挙げられる。これは単独で使用しても良いし、2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。
【0023】
次に、本発明で使用される粘着付与剤(B)について説明する。本発明において、粘着付与剤(B)は金属箔と熱融着性フィルム間の高度な接着強度を付与するために使用される。
本発明で使用される粘着付与剤(B)としては、ポリテルペン樹脂、ロジン系樹脂、脂肪族系石油樹脂、脂環族系石油樹脂、共重合系石油樹脂および水添石油樹脂等が挙げられ、接着強度を向上させる目的で用いられる。これらは単独で用いても良いし、2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。
【0024】
前記ポリテルペン系樹脂の具体例としては、α−ピネン重合体、β−ピネン重合体およびこれらとフェノールあるいはビスフェノールAとの共重合体などが挙げられ、市販品としては、例えば、ヤスハラケミカル株式会社製のYSレジンPX、YSレジンA、YSポリスターT等が挙げられる。
【0025】
前記ロジン系樹脂としては、天然ロジン、重合ロジンおよびこれらのエステル誘導体などが挙げられ、市販品としては、例えば、荒川化学工業株式会社製のペンセルA、スーパーエステルA、パインクリスタルKR−85、KR−612、KR−614、KE−100、KE−311、KE−359、KE−604等が挙げられる。
【0026】
前記脂肪族系石油樹脂としては、一般に石油のC5留分より合成される樹脂である。市販品としては、例えば、トーネックス株式会社製のエスコレッツ、日本ゼオン株式会社製のクイントン、グッドイヤー社製のウィングダック等が挙げられる。
【0027】
前記脂環族系石油樹脂としては、一般に石油のC9留分より合成される樹脂である。市販品としては、例えば、丸善石油化学株式会社製のマルカレッツ等がある。
【0028】
前記共重合石油樹脂としては、一般に石油のC5/C9を共重合した樹脂である。市販品としては、例えば、東邦化学工業株式会社のトーホーハイレジン等がある。
【0029】
前記水添石油樹脂としては、上記の粘着付与剤樹脂を水素添加したものである。市販品としては、例えば、荒川化学工業株式会社製のアルコン、ヤスハラケミカル株式会社製のクリアロン、トーネックス株式会社のエスコレッツ等がある。
【0030】
本発明で使用される粘着付与剤(B)の軟化点は、60〜160℃であることが好ましく、80〜150℃であることがより好ましい。粘着付与剤(B)の軟化点が60℃よりも低い時は、十分な接着強度向上の効果が得られないおそれがある。また、粘着付与剤(B)の軟化点が160℃よりも高い時は、接着剤の凝集力を損ない接着強度が低下してしまうおそれがある。
【0031】
本発明で使用される粘着付与剤(B)の酸価は、0〜150mgKOH/gであることが好ましく、0〜100mgKOH/gであることがより好ましい。ラミネートに使用する熱融着樹脂フィルムの種類によっては、カルボキシル基を有する粘着付与剤を使用した方がラミネート直後から高い接着強度が得られる場合がある。一方、酸価が大きすぎると、接着剤に使用されるトルエン等に溶解しにくくなったり、接着剤を構成する他の成分、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー(A)との相溶性が悪くなったりする。従って、粘着付与剤(B)の酸価は0〜150mgKOH/gであることが好ましい。
【0032】
本発明の接着剤組成物は、前記カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と粘着付与剤(B)の合計100重量%中に、前記エラストマー(A)を20〜90重量%、前記粘着付与剤(B)を10〜80重量%含むことが重要であり、前記エラストマー(A)を30〜80重量%、前記粘着付与剤(B)を20〜70重量%含むことが好ましい。
【0033】
前記カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の含有量が20重量%より少ない場合、接着剤の凝集力が不足し十分な接着強度が得られないおそれがある。また、カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の含有量が90重量%より多い場合、溶液粘度が高くなりすぎて塗工性が悪化してしまうおそれがある。
【0034】
一方、粘着付与剤(B)の含有量が10重量%より少ない場合、粘着付与剤(B)の添加による十分な接着強度向上の効果が得られなくなるおそれがある。また、粘着付与剤(B)の含有量が80重量%より多い場合、接着剤層の凝集力が不足し十分な接着強度が得られないおそれがある。
【0035】
さらに、本発明の接着剤組成物は、前記カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)中のカルボキシル基1モルに対して、前記粘着付与剤(B)中のカルボキシル基の量が0〜8モルであることが重要であり、0〜4.5モルであることが好ましい。
前記粘着付与剤(B)由来のカルボキシル基が8.0より大きいと、他の成分との相溶性が悪化し十分な接着強度が得られなかったり、ポリカルボジイミド(C)とカルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)との反応率が低下してしまうため、十分な耐電解液性が得られない恐れがある。
【0036】
本発明の接着剤組成物は、前記カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)や粘着付与剤(B)と反応する硬化性成分として、ポリカルボジイミド(C)を含む。
【0037】
本発明で使用されるポリカルボジイミド(C)は、一般的に芳香族系ないし脂肪族系のジイソシアネートおよび/またはトリイソシアネートを、末端封止剤の存在下または非存在下において脱二酸化炭素を伴う縮合反応を行うことにより製造される。この時使用されるイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、水添キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMHDI)、1,12−ジイソシアネートドデカン(DDI)、ノルボルナンジイソシアネート(NBDI)、及び2,4−ビス−(8−イソシアネートオクチル)−1,3−ジオクチルシクロブタン(OCDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(HMDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)およびこれらから誘導された化合物、即ち、前記ジイソシアネートヌレート体、トリメチロールプロパンアダクト体、ビウレット型、イソシアネート残基を有するプレポリマー(ジイソシアネートとポリオールから得られる低重合体)、イソシアネート残基を有するウレトジオン体、アロファネート体、若しくはこれらの複合体等が挙げられ、これらを単独で使用しても良いし、2種以上を任意に組み合わせても使用しても良い。
【0038】
本発明で使用されるポリカルボジイミド(C)の市販品としては、例えば、日清紡ケミカル株式会社製のカルボジライトシリーズなどが挙げられる。
【0039】
本発明で使用されるポリカルボジイミド(C)のカルボジイミド基の官能基量は、1〜10mmol/gの範囲が好ましい。ポリカルボジイミド(C)のカルボジイミド基の官能基量が1mmol/gより少ないと、十分な架橋量を得ることができず、電解液耐性が悪化するおそれがある。また、ポリカルボジイミド(C)のカルボジイミド基の官能基量が10mmol/gより多いものは、ポリカルボジイミド(C)の製造時にゲル化が起こりやすく、製造上困難である。
【0040】
本発明の接着剤組成物は、前記カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)由来のカルボキシル基と粘着付与剤(B)由来のカルボキシル基の合計1モルに対して、カルボジイミド基の量が0.3〜10モルとなる範囲でポリカルボジイミド(C)を含むことが重要であり、カルボジイミド基の量は好ましくは0.6〜6モルである。(以下、カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)のカルボキシル基と粘着付与剤(B)のカルボキシル基の合計に対するポリカルボジイミド(C)の全カルボジイミド基の当量比をNCN/COOH比と呼ぶ。)
NCN/COOH比が0.3未満では、カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と粘着付与剤(B)の反応による架橋構造が不足し、耐電解液性が不足する。一方、NCN/COOH比が10より大きいと、カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)および粘着付与剤(B)とのカルボキシル基との反応が早すぎるため、粘度上昇が早くなり、接着剤組成物としてのポットライフ(使用可能時間)が非常に短くなってしまうおそれがある。
【0041】
本発明で使用されるポリカルボジイミド(C)は、構造中にイソシアネート基を有するものが、アルミニウム箔との接着強度が向上するという点で好ましい。
【0042】
本発明で使用されるポリカルボジイミド(C)中に含まれるイソシアネート基の官能基量は0.1〜3.0mgKOH/gの範囲が好ましく、更に好ましくは0.5〜3.0mgKOH/gの範囲である。ポリカルボジイミド(C)のイソシアネート基の官能基量が0.1mmol/gより少ないと、十分な接着強度向上の効果が得られないおそれがある。また、ポリカルボジイミド(C)のイソシアネート基の官能基量が3.0mmol/gより多い場合、相対的に1分子中のカルボジイミド基の量が少なくなるため、十分な耐電解液性が得られない恐れがある。
【0043】
本発明の接着剤組成物において、上記カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、粘着付与剤(B)の他に、接着剤用として公知の添加剤を配合しても良い。各種添加剤は、ポリカルボジイミド(C)と共に配合することもできるし、ポリカルボジイミド(C)の配合に先んじて配合することもできる。
【0044】
本発明で使用される公知の添加剤として、硬化反応を促進させたい場合、公知の反応促進剤を使用することができる。この場合、ポリカルボジイミド(C)の配合に先んじて配合することが好ましい。
本発明で使用される反応促進剤としては、たとえば、ジブチルチンジアセテート、ジブチルチンジラウレート、ジオクチルチンジラウレート、ジブチルチンジマレート等金属系触媒;1 ,8−ジアザ−ビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7、1,5−ジアザビシクロ(4,3,0)ノネン−5、6−ジブチルアミノ−1,8−ジアザビシクロ(5,4,0)ウンデセン−7等の3級アミン;トリエタノールアミンのような反応性3級アミン等が挙げられる。これらは単独で使用しても良いし、2種以上を任意に組み合わせて使用しても良い。
【0045】
本発明で使用される反応促進剤の配合量としては、上記カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)、粘着付与剤(B)の合計100重量部に対して、0.001〜0.2重量部の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.005〜0.1重量部である。反応促進剤の添加量が0.001重量部未満であると、硬化反応の十分な促進効果が得られない恐れがあり、0.2重量部よりも大きいと、硬化反応が早すぎるため接着剤のポットライフを損ねてしまう恐れがある。
【0046】
本発明の接着剤組成物は、金属箔と熱融着性フィルムとの積層に好適に使用される。
金属箔の金属としては、アルミニウム、銅、ニッケル等が挙げられる。これらの金属箔は、各種表面処理を施したものであっても良い。表面処理の例としては、例えば、サンドブラスト処理、研磨処理などの物理的処理や蒸着による脱脂処理、エッチング処理、カップリング剤やコーティング剤を塗布するプライマー処理などの化学処理がある。
熱融着性フィルムとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィンフィルムが挙げられ、特に未延伸のフィルムが好適に用いられる。
【0047】
本発明の接着剤組成物を用いてなる積層体は、例えば、以下のようにして得ることができる。
金属箔(又は熱融着性フィルム)の一方の面に、本発明の接着剤組成物を塗工し、溶剤を揮散させ(乾燥させ)、未硬化の接着剤層を形成し、60〜150℃、加圧下に前記未硬化の接着剤層の表面に、熱融着性フィルム(又は金属箔)を重ねた後、40〜80℃で3〜7日程度静置し、接着剤層を十分硬化させ(エージングとも称する)、金属箔と熱融着性フィルムとを貼り合わせる。
接着剤組成物の塗工には、コンマコーター等の一般的な塗工機を用いることができる。また、乾燥硬化時の硬化接着剤層の厚み(量)は、1〜30g/m2程度であることが好ましい。
【0048】
なお、金属箔は、他方の面(本発明の接着剤組成物から形成される接着剤層が接していない面)に、他のシート状部材を具備することができる。
他のシート状部材は、予め接着剤組成物(本発明の接着剤組成物と同じであってもよいし、異なっていてもよい)を用いて、金属箔に積層されていてもよいし、本発明の接着剤組成物を用いて金属箔と熱融着性フィルムとの積層体を得た後、金属箔に他のシート状部材を積層することもできる。
用いられる他のシート状部材としては、ポリエステル樹脂やポリアミド樹脂(ナイロン)等の延伸フィルム等が挙げられ、この他のシート状部材は、積層体が電池容器となる際、外装部材となる。
【0049】
本発明の接着剤組成物を用いて、金属箔と熱融着性フィルムとを貼り合わせてなる積層体を用いてなる二次電池用電池容器について説明する。本発明の接着剤組成物を用いてなる積層体は、二次電池、特に非水電解質二次電池の電池容器の形成に好適に用いられる。
二次電池は、電池本体と、前記電池本体の正極と負極にそれぞれ接合されてなる複数の端子と、電池容器と、電解質とを具備する。前記電池容器は、本発明の接着剤組成物から形成される接着剤層を介して、金属箔と熱融着性フィルムとが積層されてなる積層体から得られるものであり、前記熱融着性フィルムが前記電解質に接する。
【0050】
電池容器には、袋状用の容器のパウチタイプと、金型を用いて平板状の積層体を成型加工してなるトレイ状容器タイプとがある。袋状用の容器の一形態が、特開2007−2794381号公報の図8に例示される。また、トレイ状容器の一形態が同公報の図9に示され、他の形態が図2に示される。本発明の接着剤組成物を用いてなる積層体は、袋状、トレイ状、両方のタイプの容器の形成に使用できる。いずれの場合も、熱融着性フィルムが内側を向くように配し、複数の端子の先端部を外部に突出した状態で、熱融着性フィルムの一部を熱融着し、電池本体及び電解質溶液を密封する。
【0051】
電解質溶液は、熱融着性プラスチックシートから金属箔に向かって浸透し始めるが、本発明の接着剤組成物から形成された接着剤層は、電解質溶液に対する耐性に優れているので、熱融着性プラスチックシートと金属箔との間の接着強度は低下せず、液漏れ等の問題が発生しない。
【実施例】
【0052】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、以下の実施例は本発明の権利範囲を何ら制限するものではない。なお、実施例中における各評価は下記の方法に従った。なお、実施例中、部は重量部、%は重量%、水酸基価はmgKOH/g、酸価はmgCHONa/g、またはmgKOH/gをそれぞれ示す。
【0053】
<主剤1>
カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)として旭化成工業株式会社製SEBSタフテック M1913(スチレン含量30重量%、酸価10mgCHONa/g):85部と、粘着付与剤(B)として荒川化学工業株式会社製ロジンエステル パインクリスタル KE−100(軟化点100℃、酸価6mg/KOH):15部とを容器に入れ、トルエン/メチルエチルケトン=8/2の混合溶剤で希釈して50℃で3時間加熱攪拌し、主剤1の溶液(固形分30%)を得た。
【0054】
<主剤2>
カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)として旭化成工業株式会社製SEBSタフテック M1913(スチレン含量30重量%、酸価10mgCHONa/g):23部と、粘着付与剤(B)として荒川化学工業株式会社製完全水添C9樹脂 アルコン P−140(軟化点140℃、酸価なし):77部とを容器に入れ、トルエン/メチルエチルケトン=8/2の混合溶剤で希釈して50℃で3時間加熱攪拌し、主剤2の溶液(固形分30%)を得た。
【0055】
<主剤3>
カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)としてクレイトンポリマー株式会社製SEBS クレイトンFG−1901G(スチレン含量30重量%、酸価11mgCHONa/g):82部と、粘着付与剤(B)としてトーネックス株式会社製水添化ジシクロペンタジエン樹脂 エスコレッツ 5320(軟化点125℃、酸価なし):67部とを容器に入れ、トルエン/メチルエチルケトン=8/2の混合溶剤で希釈して50℃で3時間加熱攪拌し、主剤3の溶液(固形分30%)を得た。
【0056】
<主剤4>
カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)としてクレイトンポリマー株式会社製SEBS クレイトンFG−1901G(スチレン含量30重量%、酸価11mgCHONa/g):60部と、粘着付与剤(B)として荒川化学工業株式会社製ロジンエステル パインクリスタル KR−50M(軟化点150℃、酸価95mgKOH/g):40部とを容器に入れ、トルエン/メチルエチルケトン=8/2の混合溶剤で希釈して50℃で3時間加熱攪拌し、主剤4の溶液(固形分30%)を得た。
【0057】
<主剤5>
カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)として旭化成工業株式会社製SEBSタフテック M1911(スチレン含量30重量%、酸価2mgCHONa/g):60部と、粘着付与剤(B)として荒川化学工業株式会社製完全水添C9樹脂 アルコン P−140(軟化点140℃、酸価なし):40部とを容器に入れ、トルエン/メチルエチルケトン=8/2の混合溶剤で希釈して50℃で3時間加熱攪拌し、主剤5の溶液(固形分30%)を得た。
【0058】
<主剤6>
カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)として旭化成工業株式会社製SEBSタフテック M1911(スチレン含量30重量%、酸価2mgCHONa/g)を55部、粘着付与剤(B)としてヤスハラケミカル株式会社製水添テルペン樹脂 クリアロン P−85(軟化点85℃、酸価なし)を45部とを容器に入れ、トルエン/メチルエチルケトン=8/2の混合溶剤で希釈して50℃で3時間加熱攪拌し、主剤6の溶液(固形分30%)を得た。
【0059】
<主剤7>
カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)として旭化成工業株式会社製SEBSタフテック M1911(スチレン含量30重量%、酸価2mgCHONa/g):55部と、粘着付与剤(B)として荒川化学工業株式会社製ロジンエステル パインクリスタル KE−100(軟化点100℃、酸価6mg/KOH):45部とを容器に入れ、トルエン/メチルエチルケトン=8/2の混合溶剤で希釈して50℃で3時間加熱攪拌し、主剤7の溶液(固形分30%)を得た。
【0060】
<主剤8>
カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)として旭化成工業株式会社製SEBSタフテック M1943(スチレン含量20重量%、酸価10mgCHONa/g):60部と、粘着付与剤(B)として荒川化学工業株式会社製完全水添C9樹脂 アルコン P−140(軟化点140℃、酸価なし):40部とを容器に入れ、トルエン/メチルエチルケトン=8/2の混合溶剤で希釈して50℃で3時間加熱攪拌し、主剤8の溶液(固形分30%)を得た。
【0061】
<主剤9>
粘着付与剤(B)として荒川化学工業株式会社製完全水添C9樹脂 アルコン P−140(軟化点140℃、酸価なし)を100部とを容器に入れ、トルエン/メチルエチルケトン=8/2の混合溶剤で希釈して50℃で3時間加熱攪拌し、主剤9の溶液(固形分30%)を得た。
【0062】
<主剤10>
カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)として旭化成工業株式会社製SEBSタフテック M1943(スチレン含量20重量%、酸価10mgCHONa/g):100部を容器に入れ、トルエン/メチルエチルケトン=8/2の混合溶剤で希釈して50℃で3時間加熱攪拌し、主剤10の溶液(固形分30%)を得た。
【0063】
<主剤11>
カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)として旭化成工業株式会社製SEBSタフテック H1051(スチレン含量20重量%、酸価なし):60部と、粘着付与剤(B)として荒川化学工業株式会社製ロジンエステル パインクリスタル KE−100(軟化点100℃、酸価6mgKOH/g):40部とを容器に入れ、トルエン/メチルエチルケトン=8/2の混合溶剤で希釈して50℃で3時間加熱攪拌し、主剤11の溶液(固形分30%)を得た。
【0064】
<主剤12>
カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)として旭化成工業株式会社製SEBSタフテック M1943(スチレン含量20重量%、酸価10mgCHONa/g):60部と、粘着付与剤(B)として荒川化学工業株式会社製ロジンエステル パインクリスタル KE−85(軟化点85℃、酸価170mgKOH/g):40部とを容器に入れ、トルエン/メチルエチルケトン=8/2の混合溶剤で希釈して50℃で3時間加熱攪拌し、主剤12の溶液(固形分30%)を得た。
【0065】
<硬化剤1>
ポリカルボジイミド(C)として、日清紡ケミカル株式会社製カルボジライトV−03(カルボジイミド基の官能基量4.6mmol/g、イソシアネート基の官能基量0mmol/g)をトルエンで希釈して固形分50%の溶液としたものを硬化剤1とする。
【0066】
<硬化剤2>
ポリカルボジイミド(C)として、日清紡ケミカル株式会社製カルボジライトV−01(カルボジイミド基の官能基量3.2mmol/g、イソシアネート基の官能基量2.3mmol/g)をトルエンで希釈して固形分50%の溶液としたものを硬化剤2とする。
【0067】
<硬化剤3>
ポリカルボジイミド(C)として、日清紡ケミカル株式会社製カルボジライトV−07(カルボジイミド基の官能基量5.0mmol/g、イソシアネート基の官能基量0.1mmol/g)をトルエンで希釈して固形分50%の溶液としたものを硬化剤3とする。
【0068】
<硬化剤4>
ポリカルボジイミド(C)として、日清紡ケミカル株式会社製カルボジライトV−05(カルボジイミド基の官能基量3.8mmol/g、イソシアネート基の官能基量2.0mmol/g)をトルエンで希釈して固形分50%の溶液としたものを硬化剤4とする。
【0069】
<硬化剤5>
ポリカルボジイミド(C)として、ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンとのアダクト体(カルボジイミド基の官能基量0mmol/g、イソシアネート基の官能基量4.0mmol/g)をトルエンで希釈して固形分50%の溶液としたものを硬化剤5とする。
【0070】
<実施例1〜9>、<比較例1〜7>
表1、2に示すNCN/COOH比となるように、各種主剤溶液と硬化剤溶液を配合し、トルエンで希釈して固形分20%に調整した溶液を接着剤溶液とし、後述する方法に従って、アルミニウム箔と未延伸ポリプロピレンフィルムの積層体を得、初期剥離強度、電解液に7日間および14日間浸漬した後の剥離強度を求めた。
【0071】
なお、比較例6で使用した硬化剤はカルボジイミド基を含有せずイソシアネート基を含有するため、比較例6においてのみ、NCO/COOH比が表2中のNCN/COOH比の欄に記載された値となるように配合を行った。
【0072】
【表1】

【0073】
【表2】

【0074】
表1中に示す略語は以下の通り。
<カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)>
・タフテックM1911:旭化成工業株式会社製SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン、スチレン含量30重量%、酸価:2(mgCHONa/g)
・タフテックM1913:旭化成工業株式会社製SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン、スチレン含量30重量%、酸価:10(mgCHONa/g))
・タフテックM1943:旭化成工業株式会社製SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン、スチレン含量20重量%、酸価:10(mgCHONa/g))
・タフテックH1052:旭化成工業株式会社製SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン、スチレン含量20重量%、酸価:0(mgCHONa/g))
・クレイトンFG−1901G:クレイトンポリマー社製SEBS(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン、スチレン含量30重量%、酸価:11(mgCHONa/g)
【0075】
<粘着付与剤(B)>
・KE−100:荒川化学工業株式会社製ロジンエステル、パインクリスタルKE−100、軟化点:100℃、酸価:6(mgKOH/g)
・KR−50M:荒川化学工業株式会社製ロジンエステル、パインクリスタルKR−50M、軟化点:150℃、酸価:95(mgKOH/g)
・KE−85:荒川化学工業株式会社製ロジンエステル、パインクリスタルKE−85、軟化点:85℃、酸価:170(mgKOH/g)
・P−140:荒川化学工業株式会社製完全水添C9樹脂、アルコンP−140、軟化点:140℃、酸価:0(mgKOH/g)
・P−85:ヤスハラケミカル株式会社製水添テルペン樹脂、クリアロンP−85、軟化点:85℃、酸価:0(mgKOH/g)
・5320:トーネックス株式会社製水添ジシクロペンタジエン樹脂、エスコレッツ5320、軟化点:125℃、酸価:0(mgKOH/g)
【0076】
<ポリカルボジイミド(C)またはポリイソシアネート>
・カルボジライトV−03:日清紡ケミカル株式会社製、カルボジイミド基:4.6mmol/g、イソシアネート基:0mmol/g
・カルボジライトV−01:日清紡ケミカル株式会社製、カルボジイミド基:3.2mmol/g、イソシアネート基:2.3mmol/g
・カルボジライトV−07:日清紡ケミカル株式会社製、カルボジイミド基:5.0mmol/g、イソシアネート基:0.1mmol/g
・カルボジライトV−05:日清紡ケミカル株式会社製、カルボジイミド基:3.8mmol/g、イソシアネート基:2.0mmol/g
・HDI−TMP:ヘキサメチレンジイソシアネートのトリメチロールプロパンとのアダクト体
【0077】
<性能試験>
(アルミニウム箔/未延伸ポリプロピレンラミネートフィルムの作製)
厚み50μmのアルミニウム箔の片面に実施例および比較例の各接着剤を塗布し、100℃、1分間乾燥し(乾燥時接着剤量:2〜3g/m)、前記接着剤層に厚み30μmの未延伸ポリプロピレンフィルム(以下CPPと呼ぶ)を重ね合わせ、60℃に設定した2つのロール間を通過させ、積層体を得た。その後、得られた積層体を40℃、7日間の硬化(エージング)を行い、接着剤層を十分硬化させた。こうして、得られたアルミニウム箔/CPPラミネートフィルムを、以下「Al/CPP積層フィルム」と呼ぶ
【0078】
(接着強度)
[25℃剥離試験]
前記Al/CPP積層フィルムを、25℃、湿度65%の環境下で6時間静置後、それぞれ200mm×15mmの大きさに切断し、ASTM−D1876−61の試験法に準じ、引張り試験機を用いて、25℃、湿度65%の環境下で、荷重速度300mm/分でT型剥離試験をおこなった。アルミニウム箔/CPP間の剥離強度(N/15mm巾)を5個の試験片の平均値で示す。
【0079】
[耐電解液試験]
前記Al/CPP積層フィルムを、25℃、湿度65%の環境下で2週間静置後、それぞれ200mm×15mmの大きさに切断し、この試験片を電解液[6フッ化リン酸リチウムをエチレンカーボネート/ジエチルカーボネート/ジメチルカーボネート=1/1/1(容積比)に溶解し、1mol/lの6フッ化リン酸リチウム溶液としたもの]に85℃で7日間および14日間浸漬させた。その後、試験片を取り出し約10分程度流水で洗浄し、ペーパーワイパーで水を十分に拭き取った後に十分に水分を乾燥させた。
こうして得られた試験片を、ASTM−D1876−61の試験法に準じ、引張り試験機を用いて、25℃、湿度65%の環境下で、荷重速度300mm/分でT型剥離試験をおこなった。アルミニウム箔/CPP間の剥離強度(N/15mm巾)を5個の試験片の平均値で示す。
得られた積層フィルムの評価結果を表3〜4に示す。
【0080】
<評価基準>
[25℃剥離試験]
◎ 実用上優れる:7N/15mm以上
○ 実用域:5〜7N/15mm
△ 実用下限:2〜5N/15mm
× 実用不可:2N/15mm未満
【0081】
[耐電解液試験]
◎ 実用上優れる:耐電解液試験前後で剥離強度の保持率が90%以上
○ 実用域:耐電解液試験前後で剥離強度の保持率が60%〜90%
△ 実用下限:耐電解液試験前後で剥離強度の保持率が20%〜60%
× 実用不可:耐電解液試験前後で剥離強度の保持率が20%未満、もしくはデラミネート
【0082】
【表3】

【0083】
【表4】

【0084】
表4に示すように、比較例1は、カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)を含有しないため、接着剤の弾性が発現せず、接着強度が著しく低下した。
【0085】
比較例2は、粘着付与剤(B)を含有しないため、接着剤の凝集力が不足し、接着強度が著しく低下した。
【0086】
比較例3は、ポリカルボジイミド(C)を含有しないため、カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)および/または粘着付与剤(B)との架橋構造が形成されず、接着強度および耐電解液性が著しく低下した。
【0087】
比較例4は、カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)がカルボキシル基を含有しないため、接着剤組成物の他の成分との相溶性が悪化し、接着剤層の粘弾性が悪化し、また、ポリカルボジイミド(C)との架橋構造が形成されなかったことから接着強度が著しく悪化した。
【0088】
比較例5は、粘着付与剤(B)由来のカルボキシル基1モルに対して、カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)由来のカルボキシル基の量が15.0モルよりも高くなるように配合されているため、ポリカルボジイミド(C)とカルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)との反応による架橋構造が不足し、接着強度および耐電解液性が著しく悪化した。
【0089】
比較例6は、ポリカルボジイミド(C)として、カルボジイミド基を含有しないポリイソシアネートを使用したため、耐電解液性が著しく悪化した。
【0090】
比較例7は、カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)および粘着付与剤(B)のカルボキシル基に比して過量のポリカルボジイミド(C)を配合したので、両者の反応が早すぎて接着剤調製時に著しい粘度の増加が起こり、接着剤の塗工および評価ができなかった。
【0091】
一方、表3に示す実施例1〜9は、カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)として、酸価が0.05〜30.0mgCHONa/gで共重合体中にスチレン単位が5〜60重量%含まれるカルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー、粘着付与剤(B)として軟化点が60〜160℃、酸価が0〜150mgKOH/gの粘着付与剤、及びポリカルボジイミド(C)として、カルボジイミド基の官能基量が1.0〜10.0mmol/gの範囲であるポリカルボジイミドを、それぞれ好適な量を含有するので、初期接着力、エージング後の接着力、耐湿熱性試験後の接着力をすべてバランスよく満たしていた。
【0092】
中でも実施例9がすべての試験で高い性能を示した。
実施例9の接着剤は、カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)の含有量が30〜80重量%の好適範囲であり、さらに粘着付与剤(B)の含有量が20〜70%の好適範囲であったため、好適範囲外の実施例1、2、3と比較すると接着強度が良好であった。
また、実施例9の接着剤は、粘着付与剤(B)由来のカルボキシル基1モルに対して、前記カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)由来のカルボキシル基の量が0〜4.5モルという好適範囲であったため、好適範囲外の実施例4と比較してカルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と粘着付与剤(B)のカルボキシル基とポリカルボジイミド(C)との反応により得られる架橋構造が最適な範囲となり、接着強度および耐電解液性が良好であった。
また、実施例9の接着剤は、ポリカルボジイミド(C)がNCN/COOH比=0.6〜6.0/1という好適な配合比で配合されているため、実施例5、6と比較すると、接着強度、耐電解液性が優れていた。
また、実施例9の接着剤は、ポリカルボジイミド(C)がイソシアネート基を含有しているため、ポリカルボジイミド(C)がイソシアネート基を含有していない実施例7、8と比較すると、接着強度が高く、それに伴い電解液耐性が優れていた。このイソシアネート基による接着強度の向上効果は実施例1と3の比較でも見て取れ、ポリカルボジイミド(C)がイソシアネート基を含有している実施例3の方が、イソシアネート基を含有していない実施例1よりも接着強度が優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の接着剤を用いれば、ポリオレフィン系樹脂と金属を高強度で接着することができ、耐薬品性に優れた積層体を得ることができる。このような特性を利用して、特に本発明の接着剤を用いることでポリオレフィン系樹脂/金属間の接着強度、耐電解液性の優れたポリオレフィン系樹脂非水電解質二次電池用ソフトパックを形成することができる。
本発明の接着剤を用いてなる非水電解質二次電池用ソフトパックは、非水電解質二次電池の安全性、寿命延長に寄与することが出来る。このような非水電解質二次電池の高品質化は、非水電解質二次電池の普及につながり、新規エネルギー材料としてエネルギーの高効率利用という観点から環境保全に寄与することにもなる。
【0094】
その他、本発明に係る接着剤組成物は、非水電解質二次電池用ソフトパックの他に、建築、医療、自動車など各種産業分野において、高接着強度、耐薬品性が求められるポリオレフィン系樹脂を用いた材料用の接着剤として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)〜(C)を含有する接着剤組成物であって、
カルボキシル基含有スチレン系熱可塑性エラストマー(A)と、粘着付与剤(B)との合計100重量%中に、前記エラストマー(A)を20〜90重量%、前記粘着付与剤(B)を10〜80重量%含み、
前記エラストマー(A)中のカルボキシル基1モルに対して、前記粘着付与剤(B)中のカルボキシル基が0〜8モルであり、
前記エラストマー(A)中のカルボキシル基と前記粘着付与剤(B)中のカルボキシル基との合計1モルに対して、カルボジイミド基が0.3〜10モルとなる範囲でポリカルボジイミド(C)を、
含む接着剤組成物。
【請求項2】
前記カルボジイミド(C)が構造中にイソシアネート基を有することを特徴とする請求項1記載の接着剤組成物。
【請求項3】
接着剤層を介して、金属箔と熱融着性フィルムとが積層されてなる積層体であって、
前記接着剤層が、請求項1又は2記載の接着剤組成物から形成された接着剤層である、積層体。
【請求項4】
金属箔側に他のシート状部材がさらに積層されてなる、請求項3記載の積層体。
【請求項5】
金属箔又は熱融着性フィルムの一方の面に、
請求項1又は2記載の接着剤組成物を塗工し、未硬化の接着剤層を形成し、
前記未硬化の接着剤層の表面に、熱融着性フィルム又は金属箔を重ね、
前記未硬化の接着剤層を硬化し、金属箔と熱融着性フィルムとを貼り合わせることを特徴とする、金属箔と熱融着性フィルムとの積層体の製造方法。
【請求項6】
電池本体と、前記電池本体の正極と負極にそれぞれ接合されてなる複数の端子と、電池容器と、電解質とを具備する二次電池であって、
前記電池容器が、接着剤層を介して、金属箔と熱融着性フィルムとが積層されてなる積層体を用い、前記熱融着性フィルムが前記電解質に接するものであり、
前記熱融着性フィルムの一部の熱融着によって、前記複数の端子の他の端部を前記電池容器から突出させた状態で、前記電池本体と前記複数の端子と電解質とを前記電池容器内部に密封してなり、
前記接着剤層が、請求項1又は2記載の接着剤組成物から形成された接着剤層である、二次電池。
【請求項7】
電池容器を形成する積層体が、金属箔側に他のシート状部材をさらに具備する積層体である、請求項6記載の二次電池。

【公開番号】特開2012−180459(P2012−180459A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−44575(P2011−44575)
【出願日】平成23年3月2日(2011.3.2)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】