説明

接着剤組成物およびカバーレイフィルム

【課題】
耐熱性に優れる接着剤硬化物及び該硬化物を用いたカバーレイフィルム、並びにそれらの製造に有用な接着剤組成物を提供する。
【解決手段】
(A)エポキシ樹脂、
(B)カルボン酸で変性された架橋アクリロニトリル−ブタジエンゴム、
(C)硬化剤、
(D)硬化促進剤、及び
(E)無機充填剤
を含有する接着剤組成物;該組成物の硬化物であって、硬化エポキシ樹脂からなる連続相と、該連続相中の該(B)成分からなる平均粒径が1μm以下の分散相とを有し、貯蔵弾性率が85℃で200MPa以上である上記硬化物;並びに電気絶縁性フィルム層と、該フィルム層上に設けられた前記組成物からなる接着剤層とを有するカバーレイフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱性に優れる接着剤硬化物および該硬化物を用いたカバーレイフィルム、ならびにそれらの製造に有用な接着剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
電子回路の高密度化や電子機器の小型化に伴い、より薄型で柔軟性を付加した材料として、従来使用されてきたリジット銅張積層板に代わって、フレキシブル銅張積層板が広く使用されるようになってきており、その市場規模は年々拡大している。
【0003】
このフレキシブル銅張積層板の銅箔を加工して配線パターンを形成した後、その配線パターン形成面を被覆して保護するために、接着剤の付いたポリイミドフィルム等の電気絶縁性フィルム(カバーレイフィルム)が使用される。これらのフレキシブル銅張積層板とカバーレイフィルム(以下、フレキシブル銅張積層板等という)に求められる特性としては、例えば、電気絶縁性フィルムと銅箔との間の接着性、耐熱性、耐溶剤性、電気特性(耐マイグレーション性)、寸法安定性、保存安定性、難燃性等が挙げられる。
【0004】
近年、フレキシブル銅張積層板等には、プリント基板の高密度化のために異方導電性フィルム(ACF)の実装等による高温、高圧の負荷がかかることが多く、また該フレキシブル銅媒積層板等は自動車用電子機器への搭載も検討されているので、該フレキシブル銅張積層板等の耐熱性の一層の向上が特に求められている。
【0005】
フレキシブル銅張積層板に関しては、従来使用されてきたポリイミドフィルムと銅箔とを接着剤で張り合わせた3層フレキシブル銅張積層板に代わって、接着剤を用いないことで高耐熱性を実現した2層フレキシブル銅張積層板が急速に普及しつつある。一方、カバーレイフィルムに関しては、ポリイミドフィルムにエポキシ樹脂系接着剤を塗布しB段階化した材料を、2層フレキシブル銅張積層板と組み合わせて用いること等が試みられているが、このカバーレイフィルムでは耐熱性が未だ不十分である。
【0006】
その他にも、カバーレイフィルム用の接着剤として、エポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、硬化促進剤、およびカルボン酸で変性されたアクリロニトリル−ブタジエンゴム(以下、NBRという)を含有するエポキシ樹脂系接着剤組成物が広く使用されている。しかしながら、カルボン酸で変性されたNBRはガラス転移点(Tg)が−50℃付近であるので、エポキシ樹脂等と十分に混合し組成物を硬化させた場合でも、得られる硬化物の強度は該NBRの影響を受け、その結果として、該硬化物では耐熱性が不十分である。
【0007】
また、特定構造を有するエポキシ樹脂、硬化剤、イオン補足剤、および平均粒径が1μm以下のコアシェル型の架橋ゴムを配合したエポキシ樹脂組成物ならびに該組成物を用いたカバーレイフィルムが提案されているが(特許文献1)、その耐熱性はやはり不十分である。
【0008】
【特許文献1】特開2003−213082号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、耐熱性に優れる接着剤硬化物および該硬化物を用いたカバーレイフィルム、ならびにそれらの製造に有用な接着剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記課題を解決するために、
(A)エポキシ樹脂、
(B)カルボン酸で変性された架橋アクリロニトリル−ブタジエンゴム、
(C)硬化剤、
(D)硬化促進剤、および
(E)無機充填剤
を含有してなる接着剤組成物、
を提供する。
【0011】
本発明は第二に、前記接着剤組成物の硬化物であって、硬化エポキシ樹脂からなる連続相と、該連続相中の該(B)カルボン酸で変性された架橋アクリロニトリル−ブタジエンゴムからなる平均粒径が1μm以下の分散相とを有し、貯蔵弾性率が85℃で200MPa以上である上記硬化物、を提供する。
【0012】
本発明は第三に、電気絶縁性フィルム層と、該フィルム層上に設けられた前記接着剤組成物からなる接着剤層とを有するカバーレイフィルム、を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の組成物を硬化させて得られる硬化物は、耐熱性に優れるだけでなく、剥離強度、半田耐熱性等にも優れている。特に、前記硬化物が硬化エポキシ樹脂からなる連続相と、該連続相中のカルボン酸で変性された架橋NBRからなる平均粒径が1μm以下の分散相とを有し、貯蔵弾性率が85℃で200MPa以上である実施形態では、該硬化物は耐熱性が顕著に優れたものとなる。したがって、本発明の組成物からなる接着剤層を有するカバーレイフィルムは、前記と同様の特性を有するので、特にフレキシブル銅張積層板等に好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
<接着剤組成物>
以下、本発明の接着剤組成物を構成する各成分について詳細に説明する。本明細書中で室温とは25℃を意味する。また、不揮発性成分とは、本発明の組成物を硬化させて得られる硬化物を構成する不揮発性有機成分および不揮発性無機固体成分であり、具体的には主として下記(A)〜(E)成分であり、場合によって加えられる成分をも含むが、該接着剤組成物が有機溶剤を含む場合には、通常、有機溶剤は不揮発性成分に含まれない。
【0015】
〔(A)エポキシ樹脂〕
(A)成分であるエポキシ樹脂は、1分子中に少なくとも平均2個以上のエポキシ基を有するものである。また、このエポキシ樹脂は、例えば、シリコーン、ウレタン、ポリイミド、ポリアミド等で変性されていてもよく、また、分子骨格中に、臭素原子、リン原子、硫黄原子、窒素原子等を含んでいてもよい。
【0016】
本成分のエポキシ樹脂のポリスチレン換算の重量平均分子量は、特に限定されないが、組成物の接着性や硬化物の耐熱性等の観点から、360〜20,000の範囲内にあることが好ましい。また、該エポキシ樹脂のエポキシ当量は、組成物の接着性や硬化物の耐熱性等の観点から、180〜10,000の範囲内にあることが好ましい。
【0017】
本成分のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、あるいはこれらに水素添化したもの;フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等のグリシジルエーテル系エポキシ樹脂;ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステル、ダイマー酸グリシジルエステル等のグリシジルエステル系エポキシ樹脂;トリグリシジルイソシアヌレート、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン等のグリシジルアミン系エポキシ樹脂;エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化大豆油、CTBN変性エポキシ樹脂等の線状脂肪族エポキシ樹脂;NBR変性エポキシ樹脂等が挙げられ、好ましくは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂である。これらの市販品としては、例えば、商品名で、エピコート828(ジャパンエポキシレジン製、一分子中のエポキシ基:2個)、エピクロン830(大日本インキ化学工業製、一分子中のエポキシ基:2個)、エピコート154(ジャパンエポキシレジン製、一分子中のエポキシ基:2個以上)、EOCN103S(日本化薬製、一分子中のエポキシ基:2個以上)等が挙げられる。
【0018】
また、ビスフェノールA型エポキシ樹脂の分子中のベンゼン環に臭素原子が結合した臭素化エポキシ樹脂も、硬化物の難燃性が向上するので有効である。この臭素化エポキシ樹脂の市販品としては、臭素含有率が高いものと低いものの2種類があり、例えば、商品名で、エピコート5050(ジャパンエポキシレジン製、一分子中のエポキシ基:2個)、エピコート5046(ジャパンエポキシレジン製、一分子中のエポキシ基:2個)である。
【0019】
さらに、反応性リン化合物を用いて、エポキシ樹脂にリン原子を結合させたリン含有エポキシ樹脂も難燃性を付与する材料として有効である。このリン含有エポキシ樹脂中のリン含有率は、優れた難燃性を硬化物に付与できるので、3〜4質量%であることが好ましい。リン含有エポキシ樹脂としては、例えば、9,10−ジヒドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキシド(三光(株)製、商品名:HCA)、あるいはこの化合物のリン原子に結合した活性水素原子をヒドロキノンで置換した化合物(三光(株)製、商品名:HCA-HQ)を、前記エポキシ樹脂と反応させて得られる化合物等が挙げられる。これらの市販品としては、例えば、商品名で、FX305(東都化成(株)製、リン含有率:3質量%、一分子中のエポキシ基:2個)、エピクロンEXA9710(大日本インキ化学工業(株)製、リン含率:3質量%、一分子中のエポキシ基:2個)等が挙げられる。
【0020】
(A)成分のエポキシ樹脂は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0021】
〔(B)カルボン酸で変性された架橋NBR〕
(B)成分であるカルボン酸で変性された架橋NBRは、硬化物に従来と同水準の剥離強度、半田耐熱性等を付与し、かつ優れた耐熱性をも付与するものである。
【0022】
この架橋NBRの1次粒子の平均粒径は、特に限定されないが、硬化物中で本成分が平均粒径1μm以下の分散相を形成し易いので、通常、100nm以下である。
【0023】
架橋NBRがカルボン酸で変性されることにより導入されるカルボキシル基は、分子鎖末端に存在しても、分子鎖非末端に存在してもよい。
【0024】
本成分のカルボン酸で変性された架橋NBRにおいて、少なくとも含有されるアクリロニトリルおよびブタジエンの含有量ならびに上述のとおりカルボン酸で変性されることにより導入されるカルボキシル基の含有量は、いずれも特に限定されないが、好ましくは以下のとおりである。アクリロニトリル含有量は、通常、10〜35質量%である。ブタジエン含有量は、通常、65〜85質量%である。カルボキシル基含有量は、通常、0.1〜10質量%であり、硬化物をカバーレイフィルムに適用した場合に、流れ性、半田耐熱性および安定性がより優れたものとなるので、好ましくは0.5〜1質量%である。
【0025】
このカルボン酸で変性された架橋NBRは、如何なる方法で製造されたものであってもよく、通常、アクリロニトリルと、ブタジエンと、重合性不飽和二重結合を有するカルボン酸モノマーとを共重合させて製造するが、その共重合段階で架橋性モノマーを添加して部分的に架橋させたもの等である。必要に応じて、架橋後に粒子状にしたものであってもよい。前記重合性不飽和二重結合を有するカルボン酸モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等が挙げられ、好ましくはアクリル酸、メタクリル酸、より好ましくはアクリル酸である。
【0026】
本成分のカルボン酸で変性された架橋NBRの具体例としては、例えば、商品名で、XER-91(JSR製)等が挙げられる。
【0027】
(B)成分の配合量は、特に限定されないが、(A)成分100質量部に対して、通常、20〜100質量部であり、好ましくは25〜75質量部、より好ましくは30〜60質量部である。かかる範囲を満たすと、硬化物が後述の好ましい相構造を形成し易くなる(即ち、硬化物において、硬化エポキシ樹脂が連続相を形成し、架橋NBRが平均粒径1μm以下の分散相を形成し易くなる)ので、該硬化物は、従来と同水準の剥離強度、半田耐熱性等を有し、さらにより優れた耐熱性をも有するものとなる。
【0028】
(B)成分のカルボン酸で変性された架橋NBRは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0029】
〔(C)硬化剤〕
(C)成分である硬化剤は、エポキシ樹脂の硬化剤として従来使用されてきたものであれば特に限定されない。この硬化剤としては、例えば、ポリアミン系硬化剤、酸無水物系硬化剤、フェノール樹脂系硬化剤等が挙げられる。ポリアミン系硬化剤としては、例えば、ジエチレントリアミン、テトラエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン等の脂肪族アミン系硬化剤;イソホロンジアミン等の脂環式アミン系硬化剤;ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン(DDS)、フェニレンジアミン等の芳香族アミン系硬化剤;ジシアンジアミド等が挙げられる。酸無水物系硬化剤としては、例えば、無水フタル酸、ピロメリット酸無水物、トリメリット酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。フェノール樹脂系硬化剤としては、例えば、フェノールノボラック樹脂(昭和高分子社製、商品名:ショウノールBRG-558)、トリアジン系フェノール樹脂(大日本インキ社製、商品名:LA4055、窒素原子を含有した難燃性樹脂)等が挙げられる。これらの中でも、硬化剤としては、芳香族アミン系、フェノール樹脂系が、接着剤組成物の反応性および接着性や、硬化物の耐熱性の観点から好ましい。
【0030】
(C)成分の配合量は、特に限定されないが、(A)成分100質量部に対して、通常、1〜80質量部であり、好ましくは3〜60質量部である。
【0031】
(C)成分の硬化剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0032】
〔(D)硬化促進剤〕
(D)成分である硬化促進剤は、(A)エポキシ樹脂と(C)硬化剤との反応を促進するものであれば、特に限定されない。この硬化促進剤としては、例えば、イミダゾール化合物、トリオルガノホスフィン、ホスホニウム塩、第三級アミン、ホウフッ化物、オクチル酸塩等が挙げられる。イミダゾール化合物としては、例えば、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、およびこれらの化合物のエチルイソシアネート化合物、2−フェニルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシメチルイミダゾール等が挙げられる。トリオルガノホスフィンとしては、例えば、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリス(p−メチルフェニル)ホスフィン、トリス(p−メトキシフェニル)ホスフィン、トリス(p−エトキシフェニル)ホスフィン、トリフェニルホスフィン・トリフェニルボレート、テトラフェニルホスフィン・テトラフェニルボレート等のトリオルガノホスフィン類等が挙げられる。ホスホニウム塩としては、例えば、第四級ホスホニウム塩等が挙げられる。第三級アミンとしては、例えば、トリエチレンアンモニウム・トリフェニルボレート等、およびそのテトラフェニルホウ素酸塩が挙げられる。ホウフッ化物としては、例えば、ホウフッ化亜鉛、ホウフッ化錫、ホウフッ化ニッケル等が挙げられる。オクチル酸塩としては、例えば、オクチル酸錫、オクチル酸亜鉛等が挙げられる。これらの中でも、ホウフッ化物が好ましい。
【0033】
(D)成分の配合量は、特に限定されないが、(A)成分100質量部に対して、通常、0.1〜30質量部であり、好ましくは1〜20質量部であり、特に好ましくは1〜5質量部である。
【0034】
(D)成分の硬化促進剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0035】
〔(E)無機充填剤〕
(E)成分である無機充填剤は、硬化物の難燃性の補助、剥離強度(硬化後の接着剤の凝集剥離)の向上、耐吸湿性の安定化等を目的として配合される成分である。この無機充填剤は、カバーレイフィルムに従来使用されてきたものであれば特に限定されないが、難燃助剤としても作用するものが好ましい。
【0036】
無機充填剤の具体例としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化モリブデン等の金属酸化物等;ホウ酸亜鉛、ホウ酸マグネシウム等のホウ酸化合物等が挙げられる。これらの中でも、難燃助剤として作用するので、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物;二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化モリブデン等の金属酸化物等が好ましく、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが特に好ましい。
【0037】
これらの無機充填剤の樹脂マトリックスへの密着性や耐水性を向上させ、硬化物の耐熱性、耐吸湿性等を向上させるために、該無機充填剤の表面が、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤等により疎水化処理されていることが好ましい。
【0038】
(E)成分の配合量は、特に限定されないが、組成物中の不揮発性成分の合計100質量部に対して、好ましくは5〜60質量部、より好ましくは10〜50質量部である。かかる範囲を満たすことにより、得られる組成物の接着性や硬化物の耐熱性がより良好なものとなる。
【0039】
(E)成分の無機充填剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0040】
〔その他の成分〕
上記(A)〜(E)成分以外にも、その他の成分を添加してもよい。その具体例としては、ハロゲンフリーのリン系難燃剤、NBR加硫剤等が挙げられる。リン系難燃剤としては、例えば、商品名で、SP-703(四国化成製)等が挙げられる。NBR加硫剤としては、例えば、酸化亜鉛(ZnO)等が挙げられる。
【0041】
・(B)成分以外のゴム
さらに、本発明の組成物には、硬化物の耐熱性を損なわない範囲で、(B)成分以外のゴムを併用してもよい。(B)成分以外のゴムとしては、例えば、アクリルゴムやNBR等が挙げられる。このNBRの具体例としては、カルボン酸で変性された非架橋NBR(例えば、日本ゼオン社製のニッポール1072(商品名))、水素添加したNBR(例えば、日本ゼオン社製のゼットポール2020(商品名))等の非架橋NBR等が挙げられる。このアクリルゴムとしては、例えば、カルボン酸で変性されたアクリルゴム(共同薬品製の03-72-23(商品名))等が挙げられる。これらの(B)成分以外のゴムは、各々、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0042】
これらの(B)成分以外のゴムは、硬化物中の硬化エポキシ樹脂が連続層を形成し、(B)カルボン酸で変性された架橋NBRが平均粒径1μm以下に分散するのを妨げない範囲で配合することができ、具体的には、(A)成分100質量部に対して、通常、0〜10質量部である。
【0043】
・有機溶剤
上記(A)〜(E)成分、および場合によって加えられる成分は、そのまま用いても、有機溶剤に溶解または分散させ、該組成物を溶液または分散液(以下、単に「溶液」という)として調製して用いてもよい。この有機溶剤としては、例えば、N,N−ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン(MEK)、N,N−ジメチルホルムアミド、シクロヘキサノン、N−メチル−2−ピロリドン、トルエン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、THF、アセトン等が挙げられ、好ましくは、MEK、トルエンである。
【0044】
これらの有機溶剤は、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0045】
上記有機溶剤を含む接着剤組成物中の不揮発性成分の合計濃度は、通常、10〜45質量%であり、好ましくは20〜40質量%である。この濃度がかかる範囲を満たすと、接着剤組成物は電気絶縁性フィルム等の基材への塗布性が良好なものとなるので、塗工時にムラを生じることがなく作業性に優れ、かつ環境面、経済性等にも優れたものとなる。
【0046】
〔調製方法〕
上記の(A)〜(E)成分、および場合によって加えられるその他の成分は、如何なる手段で混合されてもよいが、通常、例えば、ポットミル、ボールミル、ホモジナイザー、スーパーミル等を用いて混合される。この際、各成分の混合条件は、特に限定されないが、組成物を硬化させて得られる硬化物が下記の好ましい相構造を形成するように混合されることが望ましい。
【0047】
〔相構造〕
前記組成物を硬化させて得られる硬化物は、硬化エポキシ樹脂が連続相となり、カルボン酸で変性された架橋NBRが分散相となる構造を形成している。この連続相は硬化物の耐熱性の向上に特に寄与し、分散相は硬化物の柔軟性の向上に特に寄与する。この分散相の平均粒径は、通常、1μm以下であり、好ましくは0.1〜0.8μmである。かかる範囲を満たすと、ゴム成分が硬化物中に均一に分散し、硬化エポキシ樹脂が連続相となる。また、前記硬化物の85℃における貯蔵弾性率は、好ましくは200MPa以上である。これら分散相の平均粒径および硬化物の貯蔵弾性率が、同時にかかる範囲を満たすと、硬化物が特に優れた耐熱性、剥離強度および半田耐熱性を併有するものとなる。
【0048】
<カバーレイフィルム>
上記組成物は、カバーレイフィルムの製造に用いることができる。
【0049】
・構成
本発明の接着剤組成物の硬化物からなる接着剤層を有するカバーレイフィルムの構成は、電気絶縁性フィルム層と、該フィルム層上に設けられた接着剤層とを有するものである。具体的には、例えば、電気絶縁性フィルム層と接着剤層とを有する2層構造;電気絶縁性フィルム層と接着剤層と離型材層とを有する3層構造が挙げられる。この接着剤層の厚さは、使用目的により任意の厚さを選択できるが、乾燥状態で、通常、5〜45μmであり、好ましくは5〜35μm、特に好ましくは15〜25μmである。
【0050】
電気絶縁性フィルム層を構成する電気絶縁性フィルムとしては、通常、フレキシブル銅張積層板およびカバーレイフィルムに用いられるものであれば、特に限定されない。その具体例としては、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム、ポリエステルフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリエーテルエーテルケトンフィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルム、アラミドフィルム;ガラス繊維、アラミド繊維、ポリエステル繊維等をベースにして、これにマトリックスとなるエポキシ樹脂やポリエステル樹脂やジアリルフタレート樹脂を含浸して、フィルム状またはシート状にして銅箔と貼り合わせたもの等が挙げられ、耐熱性、寸法安定性、機械特性(弾性率、伸び等)等の点から、ポリイミドフィルム、ポリパラバン酸フィルム、ポリフェニレンスルフィドフィルムが好ましく、ポリイミドフィルムが特に好ましい。
【0051】
この電気絶縁性フィルム層の厚さは、使用目的により任意の厚さを選択してよいが、通常、12.5〜75μmであり、好ましくは12.5〜50μm、特に好ましくは12.5〜25μmである。また、接着剤層との密着性向上、フィルム表面の洗浄、寸法安定性の向上等のために、このフィルムの片面または両面に、低温プラズマ処理、コロナ放電処理、サンドブラスト処理等の表面処理を施してもよい。
【0052】
離型材層を構成する離型材としては、前記接着剤層の形状を損なうことなく剥離できるものであれば、特に限定されない。その具体例としては、ポリエチレン(PE)フィルム、ポリプロピレン(PP)フィルム、ポリメチルペンテン(TPX)フィルム;シリコーン離型材付きPEフィルムおよびPPフィルム;PE樹脂コート紙、PP樹脂コート紙、TPX樹脂コート紙等が挙げられる。この離型材の厚さは、任意の厚さでよいが、フィルムでは13〜75μm、紙では50〜200μmが好ましい。
【0053】
〔製造方法〕
次に、本発明のカバーレイフィルムの製造方法について、好ましい実施形態である有機溶剤を用いた3層構造のカバーレイフィルムを一例として説明する。
【0054】
まず、予め(A)〜(E)成分と場合によって加えられるその他の成分と有機溶剤とを混合して調製した接着剤組成物(溶液状態)を、リバースロールコーター、コンマコーター等を用いて電気絶縁性フィルム片面に塗布する。この接着剤組成物を塗布したフィルムをインラインドライヤーに通して80〜160℃で2〜10分間加熱処理して、接着剤組成物中の有機溶剤を除去することにより、接着剤組成物を半硬化状態とする。次いで、このフィルムの接着剤組成物の塗布面と離型材とを、ロールラミネータで圧着させ積層して、カバーレイフィルムとする。離型材は使用に際して剥離される。なお、「半硬化状態」とは、組成物が乾燥した状態、乃至、その一部において硬化反応が進行している状態を意味する。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0056】
〔実施例、比較例〕
接着剤組成物の各成分には、表1に示す種類を、同表に示す配合量(質量部)で用いて、混合物を調製した。この混合物を、MEK/トルエンの混合溶剤に溶解させ、均一になるように攪拌して混合させ、不揮発性成分の合計濃度が35質量%の接着剤組成物(溶液状態)を調製した。
【0057】
次に、この接着剤組成物(溶液状態)を、ポリイミドフィルム(東レデュポン社製、商品名:カプトンV、厚さ:25μm)上に、乾燥後の厚さが25μmとなるようにアプリケータを用いて塗布した。その後、送風オーブン内で、90℃、10分の加熱乾燥条件でMEKおよびトルエンを除去することにより、該接着剤組成物を半硬化状態とし、カバーレイフィルムを得た。このカバーレイフィルムを用いて、下記の測定・評価方法に従って、特性の評価を行った。
【0058】
〔測定・評価方法〕
1.剥離強度
JIS C6481に準拠して、厚さ35μmの電解銅箔(ジャパンエナジー製)の光沢面とカバーレイフィルムの接着剤層とをプレス装置(加工条件;温度:160℃、圧力:50kg/cm、時間:40分)を用いて貼り合わせた後、150℃で4時間かけてアフターキュアを行い、試験サンプルを作製した。このサンプルを幅1cm、長さ15cmの大きさに切断して試験片とし、その試験片のポリイミドフィルム面を固定し、25℃の条件下で、電解銅箔を90度の方向に50mm/分の速度で連続的に引き剥がしたときの荷重の最低値を測定し剥離強度(N/cm)とした。
【0059】
2.半田耐熱性(常態・吸湿)
前記「1.剥離強度」の項で作製した試験サンプルを25mm角に切断して試験片を作製した。半田耐熱性(常態)は、その試験片を半田浴上に30秒間浮かべた後、該試験片の外観を目視により確認し、膨れ、剥がれ等の有無を調べた。半田浴の温度を変えて、この操作を繰り返し、該サンプルに膨れ、剥がれ等が生じない最高温度(℃)を測定した。また、半田耐熱性(吸湿)は、前記半田耐熱性(常態)測定と同様にして作製した試験片を、温度40℃、相対湿度90%の雰囲気下で24時間放置した後、その試験片を半田浴上に30秒間浮かべた後、該試験片の外観を目視により確認し、膨れ、剥がれ等の有無を調べた。半田浴の温度を変えて、この操作を繰り返し、該サンプルに膨れ、剥がれ等が生じない最高温度(℃)を測定した。
【0060】
3.相構造
前記「1.剥離強度」の項で作製した試験サンプルの電解銅箔をエッチング処理により除去した接着剤付フィルムを酸化オスミウムで染色した後、透過型電子顕微鏡(日本電子製、商品名:JEM-1010)を用いて硬化物の相構造を観察した。この硬化物の透過型電子顕微鏡観察により、硬化エポキシ樹脂が連続相、架橋NBRが平均粒径1μm以下の分散相を形成していることを確認した。
【0061】
4.耐熱性(貯蔵弾性率)
前記接着剤溶液を、厚さ35μmの電解銅箔(ジャパンエナジー製)の光沢面に、乾燥後の厚さが25μmとなるようにアプリケータを用いて塗布した。その後、送風オーブン内で、90℃、10分の加熱乾燥条件で、該接着剤溶液中のMEKおよびトルエンを除去することにより、該接着剤組成物を半硬化状態とした。該接着剤組成物塗布面に厚さ35μmの電解銅箔(ジャパンエナジー社製)の光沢面を接着させ、160℃×50kgf/cm2×40分の条件にてプレス加工し、さらに160℃×3時間アフターキュアーを行った。その次に、前記電解銅箔を全面エッチング処理して除去することにより、貯蔵弾性率測定用接着剤硬化物フィルムを作製した。次いで、このフィルムを用いて、粘弾性測定装置(ティーエーインスツルメント社製、商品名:RSAIII)により、引張測定モード、周波数:5Hz、昇温速度:10℃/分の条件で、85℃における貯蔵弾性率(MPa)を測定した。この貯蔵弾性率が高い程、硬化物の膜強度は高く、耐熱性が優れると評価される。
【0062】
【表1】

注)配合量の単位は質量部
【0063】
なお、表中、(A)〜(E)成分およびその他の成分は、以下のとおりである。
【0064】
・(A)エポキシ樹脂
(1)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エピコート828、ジャパンエポキシレジン製、一分子中のエポキシ基:2個)
(2)ビスフェノールA型エポキシ樹脂(商品名:エピコート828EL、ジャパンエポキシレジン製、一分子中のエポキシ基:2個)
(3)臭素含有エポキシ樹脂(商品名:エピコート5046、ジャパンエポキシレジン製、一分子中のエポキシ基:2個)
(4)臭素含有エポキシ樹脂(商品名:エピコート5050、ジャパンエポキシレジン製、一分子中のエポキシ基:2個)
(5)キレート変性エポキシ樹脂(商品名:EP-49-20、旭電化製、一分子中のエポキシ基:2個以上)
(6)NBR変性エポキシ樹脂(商品名:EPR-50-30、旭電化製、一分子中のエポキシ基:2個以上)
(7)オルトクレゾールノボラック型エポキシ樹脂(商品名:EOCN-103S、日本化薬製、一分子中のエポキシ基:2個以上)
・(B)架橋NBR
(1)カルボン酸で変性された架橋NBR(商品名:XER-91、JSR製)
・(C)硬化剤
(1)フェノールノボラック樹脂(商品名:BRG-558、大日本インキ化学製)
(2)ジアミン系硬化剤(4,4'−ジアミノジフェニルスルホン(DDS))
・(D)硬化促進剤
(1)イミダゾール系硬化促進剤(商品名:2E4MZ、四国化成工業製)
(2)ホウフッ化錫(ステラケミカル製)
・(E)無機充填剤
(1)水酸化アルミニウム(商品名:ハイジライトH43STE、昭和電工製)
・その他の成分
(1)コアシェル型架橋ブタジエン(商品名:EXL2655、ロームアンドハ−ス製)
(2)コアシェル型架橋アクリルゴム(商品名:EXL2314、ロームアンドハ−ス製)
(3)非架橋型水素添加NBR(商品名:ゼットポール2020、日本ゼオン製)
(4)非架橋型カルボキシル基含有NBR(商品名:PNR-1H、JSR製、高純度品)
(5)芳香族リン酸エステルアミド(リン系難燃剤、商品名:SP-703、四国化成工業製)
(6)酸化亜鉛(NBR加硫剤、ZnO)
【0065】
<評価>
実施例で調製した組成物は、請求項1の要件を満足するものであって、その硬化物乃至カバーレイフィルムは、剥離強度および半田耐熱性に優れており、さらに85℃での貯蔵弾性率が200MPa以上であり、耐熱性に優れていた。
一方、比較例で調製した組成物は、請求項1の要件のうち、必須成分である(B)成分を含有しないものであって、その硬化物乃至カバーレイフィルムは、剥離強度、半田耐熱性および高温での耐熱性の少なくとも一種の特性が、実施例で調製したものに比べて劣っていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、
(B)カルボン酸で変性された架橋アクリロニトリル−ブタジエンゴム、
(C)硬化剤、
(D)硬化促進剤、および
(E)無機充填剤
を含有してなる接着剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の接着剤組成物の硬化物であって、硬化エポキシ樹脂からなる連続相と、該連続相中の該(B)カルボン酸で変性された架橋アクリロニトリル−ブタジエンゴムからなる平均粒径が1μm以下の分散相とを有し、貯蔵弾性率が85℃で200MPa以上である上記硬化物。
【請求項3】
電気絶縁性フィルム層と、該フィルム層上に設けられた請求項1に記載の接着剤組成物からなる接着剤層とを有するカバーレイフィルム。
【請求項4】
前記電気絶縁性フィルム層がポリイミドフィルム層である請求項3に係るカバーレイフィルム。

【公開番号】特開2006−169446(P2006−169446A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−366842(P2004−366842)
【出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】