説明

接着剤

【課題】 耐熱性、耐油性、耐加水分解性に優れた接着剤ならびに接着シートの提供を課題としている。また、シート片が接着シートにより接着されて形成されており油浸モーターなどの油浸機器に好適に用いられる絶縁紙の提供をさらなる課題としている。
【解決手段】 エポキシ樹脂とポリアミド樹脂とを含有し、前記エポキシ樹脂とポリアミド樹脂が重量で(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=20/80〜80/20となる比率で含有されていることを特徴とする接着剤を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂が用いられてなる接着剤、接着シートならびに該接着シートにより接着されて形成されて油浸モーターなどの油浸機器に用いられている絶縁紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、モーターのステーターとしては、例えば、エナメル線が一定方向に巻き束ねられて長円形状の輪体にされた巻き線コイルと、該巻き線コイルを保持し得るように円筒形状の内側面にこの円筒形状の中心軸と平行な方向に延在するスロット溝を所定間隔で複数備えた磁性体コアとを用い、前記スロット溝に前記巻き線コイルを嵌入させて保持させたものが広く用いられている。このようなモーターのステーターには、相の異なる磁界を同時に発生させ得るように複数の巻き線コイルが用いられる。また、前記巻き線コイルは、磁界を円周方向に滑らかに変化させるべく一相の磁界を発生させる巻線コイルと他相の磁界を発生させる巻線コイルが互いに一部を重ね合わせて磁性体コアに装着される。すなわち、異なる電流が流れる巻線コイルが互いに重なり合って配されている。
この巻き線コイルが重なり合う部分の絶縁性を高めることが求められる場合には、異なる相の巻き線コイルとの間に絶縁紙(相間絶縁紙)が使用されている。また、この絶縁紙は、磁性体コアや巻き線コイルの形状などから三次元構造などが必要な場合には、単一のシート片で形成することが困難であるため、複数のシート片を用いて、シート片どうしを接着させて形成されている。
また、このような絶縁紙は、一次巻線と二次巻線とが重なり合った状態で磁性コアに巻回されるトランスなどにおいても用いられたりしている。
【0003】
ところで、近年、油浸モーターなどと呼ばれるモーターが電気自動車などに用いられるようになってきている。
この油浸モーターや、あるいは、トランス内などで用いられる絶縁紙は、油に浸漬されたりあるいは油が付着した状態で用いられ、しかも、エナメル線のジュール熱やモーターの摩擦熱などの発熱により高温状態で用いられることから、絶縁性のみならず、耐熱性、耐油性が求められている。また、油浸機器の油中には、通常、微量の水分が含まれることが知られており、耐湿熱性(耐加水分解性)も求められている。
例えば、巻き線がUL規格における耐熱グレードFのものが用いられる場合などでは、通常、原材料シートも高い耐熱性を有するものが用いられ、特許文献1には、全芳香族ポリアミドのシートを相間絶縁紙として用いることが記載されている。
【0004】
この全芳香族ポリアミドは、高い電気絶縁性を有するとともに、融点が400℃以上と耐熱性の面でも優れた特性を有する。しかし、全芳香族ポリアミドと同等以上の耐熱性を有する接着剤は、実用化されていない。しかも従来の接着剤は、高温状態において加水分解を起こし易く使用中に接着性が損なわれるおそれがある。
したがって、前述のような三次元構造の相間絶縁紙を製造すべく接着剤を用いる場合には、この接着剤の耐熱性、耐加水分解性などにより絶縁紙の耐久性が左右されることとなる。
【0005】
このことに対して、より接着個所を減少させることも考え得るが、全芳香族ポリアミドは、価格が高いため、例えば、原材料シートから複雑な形状を切り出そうとすると製品に使用することができない部分が多く生じてしまうこととなる。
【0006】
したがって、絶縁紙の製造コストの点から接着個所を減少させることも困難である。
この全芳香族ポリアミドを用いた油浸モーター用相間絶縁紙に用いられる場合のごとく、優れた耐熱性、耐油性、耐加水分解性が求められる用途において、従来の接着剤は、その要望を十分満足させることが困難であるという問題を有している。
【0007】
【特許文献1】特開平9−023601号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐熱性、耐油性、耐加水分解性に優れた接着剤ならびに接着シートの提供を課題としている。また、本発明は、シート片が接着シートにより接着されて形成されており油浸モーターなどの油浸機器に好適に用いられる絶縁紙の提供をさらなる課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を行った結果、エポキシ樹脂とポリアミド樹脂とを所定の比率で含有させることにより接着剤を耐熱性、耐油性、耐加水分解性に優れたものとし得ることを見出し本発明の完成に到ったのである。
【0010】
すなわち、接着剤にかかる請求項1記載の発明は、エポキシ樹脂とポリアミド樹脂とを含有し、前記エポキシ樹脂とポリアミド樹脂が重量で(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=20/80〜80/20となる比率で含有されていることを特徴としている。
【0011】
また、接着剤にかかる請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において前記エポキシ樹脂が、エポキシ当量450〜3300g/eqのビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂であり、しかも、前記ポリアミド樹脂が、アミド基部位の少なくとも一部がメトキシメチル化されたメトキシメチル化ポリアミド樹脂であることを特徴としている。
【0012】
また、接着シートにかかる請求項3記載の発明は、請求項1または2に記載の接着剤が用いられてなることを特徴している。
【0013】
さらに、絶縁紙にかかる請求項4記載の発明は、絶縁紙により絶縁される電気絶縁部の少なくとも一部が油に浸漬されている油浸機器に用いられる前記絶縁紙であって、少なくとも一片のシート片が用いられて形成されており、しかも、前記シート片の表面どうしが請求項3に記載の接着シートにより接着されて形成されていることを特徴としている。
【0014】
また、絶縁紙にかかる請求項5記載の発明は、請求項4記載の発明において、全芳香族ポリアミドが表面に用いられており、油浸モーターの相間絶縁紙として用いられることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、エポキシ樹脂とポリアミド樹脂とが重量で(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=20/80〜80/20となる比率で含有されていることから、接着剤を耐熱性、耐油性、耐加水分解性に優れたものとさせ得る。
また、エポキシ樹脂とポリアミド樹脂とが重量で(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=20/80〜80/20となる比率で含有されていることから、接着剤を適度な靱性を備えたものとすることができ、種々の部材に対する優れた接着力を有するものとすることができる。
【0016】
しかも、前記エポキシ樹脂が、エポキシ当量450〜3300g/eqのビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂であり、前記ポリアミド樹脂が、アミド基部位の少なくとも一部がメトキシメチル化されたメトキシメチル化ポリアミド樹脂である場合には、接着剤の耐熱性、耐油性、耐加水分解性をさらに優れたものとさせ得る。
【0017】
また、上記のような接着剤が用いられてなる接着シートは、加温によるタック性の向上が容易で、仮接着などの作業を容易に実施することができる。
【0018】
さらに、少なくとも一片のシート片の表面どうしが接着されて形成された絶縁紙に、このような接着シートが用いられる場合には、この接着個所に優れた耐熱性、耐油性、耐加水分解性が付与される。したがって、絶縁紙により絶縁される電気絶縁部の少なくとも一部が油に浸漬されている油浸機器などに好適に用いることができる。
しかも、シート片どうしの接合により形成されることから、三次元構造など種々の形態を容易に形成できる。また、絶縁紙を形成するシートを原料シートから無駄なく切り出すことができる。したがって、絶縁紙をより製造容易で低コストなものとさせ得る。
このような点において、油浸機器のなかでも絶縁紙に特に高い耐熱性、耐油性、耐加水分解性が要望され、しかも高価な全芳香族ポリアミドが用いられる油浸モーターの相間絶縁紙においては、上述したような絶縁紙の接着個所に優れた耐熱性、耐油性、耐加水分解性が付与することができ、絶縁紙をより製造容易で低コストなものとさせ得るという効果をより顕著なものとさせ得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に、本発明の好ましい実施の形態について油浸モーターの相間絶縁紙を例に説明する。
この油浸モーター用相間絶縁紙は、原材料シートから切り出された複数のシート片が接着シートにより接着されて形成されている。
【0020】
この原材料シートとして図1に示すように内層1となるポリエチレンナフタレートシートの両面に、アクリル樹脂層2を介して、表面層3となる全芳香族ポリアミド不織布が積層されたものが用いられている。
【0021】
前記内層1に用いるポリエチレンナフタレートシートは、帝人デュポンフイルム社から「テオネックス」、SKC社から「スカイネックス」の商品名にて市販されているものを使用することができ、要すれば、前記ポリエチレンナフタレートシートに代えてポリエチレンテレフタレート、ポリイミド、ナイロン、ポリフェニレンスルフィド(PPS)およびこれらに変性組成を導入したフィルムを用いることもでき、例えば、前記ポリエチレンテレフタレートシートは、東レ社から「ルミラー」、三菱化学ポリエステルフイルム社から「ダイヤホイル」の商品名にて市販されているものを使用することができる。これらの内層1に用いるシートは、通常、厚さ25〜250μmのものを用いることができる。
【0022】
前記アクリル樹脂層2のアクリル樹脂としては、例えば、下記一般式(1)で表されるモノマーのホモポリマーあるいはこのモノマーを含む2元以上のコポリマーを例示することができる。
CH2=C(R1)−COOR2・・・(1)
(なお、式中のR1は、水素または低級アルキル基で、R2は、炭素数1〜12のアルキル基である)
具体的には、ポリアクリル酸メチル、ポリアクリル酸エチル、ポリアクリル酸ブチルなどのポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチルなどのポリメタクリル酸エステル、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、エチレン−アクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、アクリル酸エステル−塩化ビニル共重合体、アクリル酸エステル−アクリル酸共重合体、メタクリル酸エステル−塩化ビニル共重合体、スチレン−メタクリル酸エステル−ブタジエン共重合体、メタクリル酸エステル−アクリロニトリル共重合体などを単独または複数組み合わせたものを用いることができる。
中でも、ポリアクリル酸ブチル(PAB)をポリイソシアネートで架橋されるものを用いることが好ましい。
【0023】
また、このアクリル樹脂としては、前記アクリル酸ブチル(PAB)にテルペンフェノールを添加してポリイソシアネートで架橋されるものがさらに好ましい。このようなアクリル樹脂を用いることで、油浸モーターの運転中など、例えば、120〜180℃もの高温条件下で、水分を含有した油に浸漬された場合などにおいても、このアクリル樹脂が前記表面層の全芳香族ポリアミド不織布や、前記内層のポリエチレンナフタレートシートとアクリル樹脂層との間で層間剥離することなく絶縁紙を良好な状況に維持させ得る。
このような効果をより顕著なものとし得る点において、前記テルペンフェノールは、アクリル酸ブチル100重量部に対して、1〜30重量部含有されることが好ましい。
なお、アクリル樹脂層2の厚みとしては、通常5〜40μmである。
【0024】
前記表面層3に用いる全芳香族ポリアミド不織布としては、例えば、Dupont社から「ノーメックスペーパー」などとして市販のもの、あるいは全芳香族アラミド紙などと呼ばれるものを用いることが好ましい。また、この全芳香族ポリアミド不織布は、例えば、厚さ50μm〜125μmのものを用いることができる。また、前記全芳香族ポリアミド不織布として、全芳香族ポリアミド繊維とロックウール、ガラス繊維、パルプなどとの混合品なども用いることができる。
【0025】
本実施形態の油浸モーター用相間絶縁紙に用いられるシート片は、このような原料シートから打ち抜き加工などの一般的な手段により製造することができる。
【0026】
また、このシート片どうしの接着には接着シートが用いられる。この接着シートには、エポキシ樹脂とポリアミド樹脂とが含有されており、これら、エポキシ樹脂とポリアミド樹脂とは、重量で(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=20/80〜80/20となる比率で接着シートに含有されている。
【0027】
前記エポキシ樹脂としては、エポキシ当量450〜3300g/eqのビスフェノールAタイプのもののように常温で固形のものが好ましく、特に、シート片どうしの接着時において、シート片どうしの仮接着も容易で、良好な接着作業性が得られやすい点ならびに本接着時に、全芳香族ポリアミド不織布に対する好適な濡れを示す溶融粘度とさせ易い点から軟化点60〜100℃のものが好ましく、例えば、このような軟化温度のエポキシ樹脂として、エポキシ当量が450〜1000g/eqのビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂を用いることが特に好ましい。なお、前記軟化点とは、JIS K 7234により求められる値を意図しており、前記エポキシ当量とはJIS K 7236により求められる値を意図している。
このような、エポキシ樹脂としては、ジャパンエポキシレジン社から、商品名「エピコート1001」、「エピコート1002」、「エピコート1003」、「エピコート1004」などとして市販のものを用いることができる。
【0028】
また、前記ポリアミド樹脂としては、エポキシとの混合や、発泡剤の混合、更にはこれらを混合させた樹脂組成物をシート化させてモータ磁性部材接着用加熱発泡シートを製造する際の作業性を良好なるものとし得る点において6−ナイロン樹脂を原料として、これにホルムアルデヒドとメタノールを反応させて化学的に変性し、アルコールに可溶にしたポリアミド樹脂が好適である。また、このような6−ナイロン樹脂をホルムアルデヒドとメタノールを反応させて化学的に変性したポリアミド樹脂は、アミド基部位をメトキシメチル化されており、耐熱性、耐加水分解性に優れ、しかも柔軟であることから、接着シート(接着剤)を優れた靱性を備えたものとし得る。
このようなメトキシメチル化ポリアミドとしては、アミド基の25〜35%をメトキシメチル化させたものを好適に用いることができ、例えば、長瀬ケムテックス社から、商品名「トレジン」として市販のものを用いることができる。
【0029】
また、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂以外に前記接着シートに含有される成分としては、イミダゾール系などのエポキシ硬化剤や、反応性希釈剤、硬化促進剤、フィラー、カップリング剤、触媒、加工助剤、各種安定剤、顔料などの添加剤を例示することができる。
このうち、エポキシ硬化剤の添加量は、樹脂組成物に含有されるエポキシ樹脂の量と、エポキシ当量とから計算されるエポキシ基の数に対して、エポキシ硬化剤の活性水素の数が前記エポキシ基の数に対して0.8〜1.2倍となる量とされることが好ましく、0.9〜1.1倍となる量とされることがさらに好ましい。
【0030】
このようなエポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、その他添加剤などを用いて、接着シートを形成させるには、エポキシ樹脂とポリアミド樹脂とをそれぞれ別々に溶剤に溶解させて混合するなどして所定の割合となるように混合し、この混合溶液に硬化剤や充填材などの添加剤を添加して離型処理が施されたセパレーターフィルム上に塗布・乾燥するなどすればよい。また、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂の溶解に用いる溶剤としては、例えば、トルエン/メタノール=50/50(重量比)溶液などを用いることができる。
また、この接着シートが油浸モーター用相間絶縁紙のシート片の接着に用いられる場合には接着シートの厚さは、通常、10〜50μmとされるが、安定した接着力を発生させるためには接着シートの厚さは、20〜40μmとされるのが好ましい。
【0031】
また、このような接着シートを用いて油浸モーター用相間絶縁紙を形成させるには、油浸モーター用相間絶縁紙の原シートに上記のようにして製造した接着シートを熱ラミネートして仮接着させる。その後、この接着シートがラミネートされた原シートから所定形状のシート片を打ち抜きなどにより切り出してこれらシート片どうしあるいは接着シートがラミネートされていないシート片との接着を熱プレスなどを用いて実施するなどすればよい。
【0032】
なお、本実施形態においては、本発明の接着剤の効果をより顕著に奏させ得る点において、接着剤を接着シートの形態で用い、この接着シートにより、複数のシート片が接着されて形成された油浸モーター用相間絶縁紙を例に説明したが、本発明においては、接着剤の用途を油浸モーター用相間絶縁紙に限定するものではなく、剤形を接着シートに限定するものでもない。
【実施例】
【0033】
次に実施例を挙げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1〜8、比較例1〜12)
(実施例1)
エポキシ樹脂として、ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1004(エポキシ当量875〜975g/eq、軟化点97℃)」を用い、ポリアミド樹脂としてN−メトキシメチル化されたカプロラクタム・アジピン酸・ヘキサメチレンジアミン・ラウリルラクタム重縮合物であるナガセケムテックス社製の商品名「G550」を用い、これらエポキシ樹脂とポリアミド樹脂とを重量で(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=60/40となる比率でトルエン/メタノール=50/50(重量比)溶液に溶解させて、この溶液中に、溶液中のエポキシ樹脂とポリアミド樹脂との合計量100重量部に対して、30重量部の充填材(粉末石英:龍森社製「クリスタライトCR5−2101」)、3重量部の硬化剤(1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール:四国化成工業社製「キュアゾール2E4MZ−CN」)とを混合した。次いで、この混合物を横型塗工機を用いてセパレーターフィルムに塗布して、105℃×2分の乾燥を行い、厚さ30μmの接着シートを作製した。
【0034】
(接着強度評価用試料の作製)
(せん断接着力測定用試料・・・図2参照)
内層125μm厚さのポリエチレンナフタレートシートの両面にアクリル樹脂層(30μm)を介して、50μm厚さの全芳香族ポリアミド不織布(デュポン社製、商品名「ノーメックスペーパー」)を備えている絶縁紙を用いて幅10mm、長さ100mmの短冊状シート片を作製した。この短冊状シート片の長手方向端部から約10mmの区間に実施例1の接着シートを仮接着し、新たな短冊状シート片をこの接着シートが仮接着された部分のみが重なり合うようにして接着シートが仮接着された短冊状シート片に重ね合わせて、熱プレスにて140℃×5秒の本接着を行い、せん断接着力測定用試料を作製した。
【0035】
(剥離力測定用試料・・・図3参照)
内層125μm厚さのポリエチレンナフタレートシートの両面にアクリル樹脂層(30μm)を介して、50μm厚さの全芳香族ポリアミド不織布(デュポン社製、商品名「ノーメックスペーパー」)を備えている絶縁紙を用いて幅10mm、長さ150mmの短冊状シート片を作製した。この短冊状シート片の長手方向端部から約50mmの区間に実施例1の接着シートを仮接着し、新たな短冊状シート片をこの接着シートが仮接着された短冊状シート片に重ね合わせて、熱プレスにて140℃×5秒の本接着を行い、剥離力測定用試料を作製した。
【0036】
(実施例2)
ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1004」と、ナガセケムテックス社製の商品名「G550」との比率を重量で60/40に代えて(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=50/50とした以外は実施例1と同様に接着シートを作製し接着強度評価用試料を作製した。
【0037】
(実施例3)
ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1004」と、ナガセケムテックス社製の商品名「G550」との比率を重量で60/40に代えて(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=40/60とした以外は実施例1と同様に接着シートを作製し接着強度評価用試料を作製した。
【0038】
(実施例4)
ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1004」に代えて、ビスフェノールFタイプのエポキシ樹脂であるジャパンエポキシレジン社製「エピコート4004P」を用いた以外は実施例3と同様に接着シートを作製し接着強度評価用試料を作製した。
【0039】
(実施例5)
ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1004」と、ナガセケムテックス社製の商品名「G550」との比率を重量で60/40に代えて(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=20/80とした以外は実施例1と同様に接着シートを作製し接着強度評価用試料を作製した。
【0040】
(実施例6)
ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1004」と、ナガセケムテックス社製の商品名「G550」との比率を重量で60/40に代えて(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=80/20とした以外は実施例1と同様に接着シートを作製し接着強度評価用試料を作製した。
【0041】
(実施例7)
ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1004」に代えて、フェノールノボラックタイプのエポキシ樹脂であるジャパンエポキシレジン社製「エピコート154」を用いた以外は実施例3と同様に接着シートを作製し接着強度評価用試料を作製した。
【0042】
(実施例8)
ジャパンエポキシレジン社製「エピコート1004」に代えて、フェノールノボラックタイプのエポキシ樹脂であるジャパンエポキシレジン社製「エピコート828」)を用いた以外は実施例3と同様に接着シートを作製し接着強度評価用試料を作製した。
【0043】
(比較例1)
実施例1の接着シートに代えて液状の接着剤であるポリアクリル酸ブチルを用い、接着条件を150℃×30秒とした以外は、実施例1と同様に接着強度評価用試料を作製した。
【0044】
(比較例2)
実施例1の接着シートに代えてスチレン−ブタジエン−スチレンゴムが用いられた接着シート(日東電工社製、商品名「M5205」)を用い、接着条件を150℃×5秒とした以外は、実施例1と同様に接着強度評価用試料を作製した。
【0045】
(比較例3)
実施例1の接着シートに代えてポリエステル接着シート(日東シンコー社製、商品名「FB−ML11A」)を用い、接着条件を150℃×5秒とした以外は、実施例1と同様に接着強度評価用試料を作製した。
【0046】
(比較例4)
実施例1の接着シートに代えて液状の接着剤であるフェノキシ樹脂(東都化成社製、商品名「YP−50」)を用い、接着温度を200℃×30秒とした以外は、実施例1と同様に接着強度評価用試料を作製した。
【0047】
(比較例5)
実施例1の接着シートに代えて液状の接着剤であるフェノキシ樹脂(東都化成社製、商品名「FX−281S」)を用い、接着温度を200℃×30秒とした以外は、実施例1と同様に接着強度評価用試料を作製した。
【0048】
(比較例6)
実施例1の接着シートに代えてポリプロピレン樹脂が用いられている接着シート(東セロ社製、商品名「QE−060」)を用い、接着温度を150℃×30秒とした以外は、実施例1と同様に接着強度評価用試料を作製した。
【0049】
(比較例7)
実施例1の接着シートに代えてエチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂が用いられている接着シート(東セロ社製、商品名「VE−300」)を用い、接着温度を180℃×30秒した以外は、実施例1と同様に接着強度評価用試料を作製した。
【0050】
(比較例8)
実施例1の接着シートに代えてポリエチレン樹脂が用いられている接着シート(東セロ社製、商品名「NE−058」)を用い、接着温度を180℃×30秒とした以外は、実施例1と同様に接着強度評価用試料を作製した。
【0051】
(比較例9)
ポリアミド樹脂を用いずに(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=100/0の比率とした以外は実施例1と同様に接着シートを作製し接着強度評価用試料を作製した。(※接着条件が異なるようであればその旨ご記載願います。)
【0052】
(比較例10)
エポキシ樹脂を用いずに(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=0/100の比率とした以外は実施例1と同様に接着シートを作製し接着強度評価用試料を作製した。
【0053】
(比較例11)
実施例8と同じエポキシ樹脂とポリアミド樹脂とを用い、これらを重量で(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=10/90の比率とした以外は実施例8と同様に接着シートを作製し接着強度評価用試料を作製した。
【0054】
(比較例12)
実施例8と同じエポキシ樹脂とポリアミド樹脂とを用い、これらを重量で(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=90/10の比率とした以外は実施例8と同様に接着シートを作製し接着強度評価用試料を作製した。
【0055】
(評価)
(初期接着力測定)
各実施例、比較例にて作製した接着強度評価用試料を図4に示すように上下にチャックが配された引張り試験機を用いて初期接着力を測定した。
せん断接着力の測定においては、引張り試験機のチャック間を100mmとして、測定用試料の接着部がチャック間の略中央部に位置するようにして測定用試料の両端をチャックに挟んで、しかも、チャッキング方向を上下のチャックで90度旋回させた状態にして、50mm/分の引張り速度で引張り試験を実施した。
剥離力については、接着させた2枚のシート片の内、一方のシート片を支持板に接着させて下方のチャックに支持板に接着させたシート片の端部を支持板ごとチャッキングし、他方のシート片を上方にめくり上げてその端部を上方のチャックにてチャッキングさせ300mm/分の引張り速度で180度引き剥がしを行った。
【0056】
(耐熱性)
150℃のギアオーブン中にて各実施例、比較例にて作製した接着強度評価用試料を加熱老化させた後に、自然放冷により常温に戻し、上記の接着力(せん断接着力及び剥離力)測定を実施し、初期値に対する残率が50%以下となるまでに要した加熱老化時間を測定した。
【0057】
(耐油性)
150℃の油中に各実施例、比較例にて作製した接着強度評価用試料を1000時間浸漬させた後取り出し、自然放冷により常温に戻して、上記の接着力測定を実施した。
【0058】
(耐加水分解性)
150℃、0.48MPaの加圧蒸気中に各実施例、比較例にて作製した接着強度評価用試料を48時間保持し、自然放冷により常温に戻して、上記の接着力測定を実施した。
【0059】
(作業性)
(タック性)
接着シート(接着剤)の表面タック性を指触にて確認し、接着シートとシート片との仮止め作業などに適したタック性を有しているかどうかを確認した。
(フロー性)
接着強度評価用試料の端部における接着シート(接着剤)のはみ出し、ならびに端部に触れた時にベタツキが感じるか否かを確認した。
【0060】
(判定)
各評価項目について結果が良好なる順に「◎」、「○」、「△」、「×」の判定を行った。以下に、その判定基準を示す。
(初期接着力)
◎:「せん断接着力が200N以上、且つ、剥離力が5N/cm以上」
○:「せん断接着力が200N以上、且つ、剥離力が3N/cm以上5N/cm未満」
△:「せん断接着力が100N以上200N未満、且つ、剥離力が3N/cm以上5N/cm未満」
×:「せん断接着力が100N未満、または、剥離力が3N/cm未満」
【0061】
(耐熱性)1000h後の残率が
◎:「せん断接着力の残率ならびに、剥離力の残率がともに80%以上」
○:「せん断接着力の残率が80%以上、且つ、剥離力の残率が50%以上80%未満」、または「せん断接着力が50%以上80%未満、且つ、剥離力が80%以上」
△:「せん断接着力が50%以上80%未満、且つ、剥離力が50%以上80%未満」
×:「せん断接着力が50%未満、または、剥離力が50%未満」
【0062】
(耐油性)1000h後の残率が
◎:「せん断接着力の残率ならびに、剥離力の残率がともに80%以上」
○:「せん断接着力の残率が80%以上、且つ、剥離力の残率が50%以上80%未満」、または「せん断接着力が50%以上80%未満、且つ、剥離力が80%以上」
△:「せん断接着力が50%以上80%未満、且つ、剥離力が50%以上80%未満」
×:「せん断接着力が50%未満、または、剥離力が50%未満」
【0063】
(耐加水分解性)「100h」後の残率が
◎:「せん断接着力の残率ならびに、剥離力の残率がともに80%以上」
○:「せん断接着力の残率が80%以上、且つ、剥離力の残率が50%以上80%未満」、または「せん断接着力が50%以上80%未満、且つ、剥離力が80%以上」
△:「せん断接着力が50%以上80%未満、且つ、剥離力が50%以上80%未満」
×:「せん断接着力が50%未満、または、剥離力が50%未満」
【0064】
(作業性)
(タック性)
◎:「非常に優れたタック性を有している」
○:「良好なタック性を有している」
△:「ややベタツキ感があるあるいはやや付着力不足」
×:「ベタツキが見られるあるいはタック性が殆ど無い」
【0065】
(フロー性)
◎:「はみ出しが見られず、しかも、端部にベタツキがなく接着作業性が良好に実施でき使用中に必要個所以外に付着してしまうおそれがない」
○:「はみ出しがわずかに見られるか端部にややベタツキを感じるかのいずれかであるものの接着作業性に問題なく使用中に必要個所以外に付着してしまうおそれも低い」
△:「はみ出しが見られるか端部にベタツキを感じるかのいずれかであり接着作業性を低下させるか使用中に必要個所以外に付着して問題を生じるおそれがある」
×:「はみ出しが見られしかも端部にベタツキを感じ接着作業性を低下させるか使用中に必要個所以外に付着して問題を生じる可能性が高い」
【0066】
上記評価結果を表1に示す。
【表1】

【0067】
この表からも、エポキシ樹脂とポリアミド樹脂とが重量で(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=20/80〜80/20となる比率で含有されていることにより、接着剤を耐熱性、耐油性、耐加水分解性に優れたものとさせ得ることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】油浸モーター用層間絶縁紙の一例を示す断面図。
【図2】せん断接着力評価用試料を示す側面図ならびに上面図。
【図3】剥離力評価用試料を示す側面図ならびに上面図。
【図4】接着力評価方法を示す概略図。
【符号の説明】
【0069】
1:内層、2:ポリアミド樹脂層、3:表面層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ樹脂とポリアミド樹脂とを含有し、前記エポキシ樹脂とポリアミド樹脂が重量で(エポキシ樹脂/ポリアミド樹脂)=20/80〜80/20となる比率で含有されていることを特徴とする接着剤。
【請求項2】
前記エポキシ樹脂は、エポキシ当量450〜3300g/eqのビスフェノールAタイプのエポキシ樹脂であり、しかも、前記ポリアミド樹脂は、アミド基部位の少なくとも一部がメトキシメチル化されたメトキシメチル化ポリアミド樹脂である請求項1記載の接着剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の接着剤が用いられてなることを特徴とする接着シート。
【請求項4】
絶縁紙により絶縁される電気絶縁部の少なくとも一部が油に浸漬されている油浸機器に用いられる前記絶縁紙であって、
少なくとも一片のシート片が用いられて形成されており、しかも、前記シート片の表面どうしが請求項3に記載の接着シートにより接着されて形成されていることを特徴とする絶縁紙。
【請求項5】
全芳香族ポリアミドが表面に用いられており、油浸モーターの相間絶縁紙として用いられる請求項4記載の絶縁紙。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−211202(P2007−211202A)
【公開日】平成19年8月23日(2007.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−35024(P2006−35024)
【出願日】平成18年2月13日(2006.2.13)
【出願人】(000190611)日東シンコー株式会社 (104)
【Fターム(参考)】