説明

接続用部品用銅合金及び導電材料

【課題】表面粗面化した銅板材の最表面にCu−Sn合金被覆層とSn又はSn合金被覆層が形成された接続部品用導電材料。端子の小型化に対応して、さらに低挿入力でかつ電気的信頼性に優れた接続部品用導電材料を提供する。
【解決手段】銅板材の表面粗さについて、接続時の摺動方向に平行方向の算術平均粗さRaが0.5μm以上4.0μm以下、同方向の凹凸の平均間隔RSmが0.01mm以上0.3mm以下、スキューネスRskが0未満、突出山部高さRpkが1μm以下に調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として自動車・民生機器等の電気配線に使用されるコネクタ用端子やバスバー等の接続部品用導電材料に関し、特にオス端子とメス端子の挿抜に際しての摩擦や摩耗の低減及び使用に際しての電気的接続信頼性の兼備が求められる、接続部品用導電材料に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電気的信頼性が高く(低接触抵抗)、摩擦係数が低く、嵌合型コネクタ用端子として好適な接続部品用導電材料が記載されている。特許文献1の発明では、通常の銅合金板条より表面粗さを大きくした銅合金板条を母材として用い、母材表面にNiめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層をこの順に、又はCuめっき層及びSnめっき層をこの順に、あるいはSnめっき層のみを形成し、Snめっき層をリフロー処理して、Cuめっき層とSnめっき層から、あるいは銅合金母材とSnめっき層からCu−Sn合金層を形成するとともに、リフロー処理により平滑化したSnめっき層の間からCu−Sn合金層の一部を表面に露出させる(母材表面に形成された凹凸の凸の部分でCu−Sn
合金層の一部が露出する)。
【0003】
特許文献1においてリフロー処理後に形成された接続部品用導電材料は、表面被覆層として、Cu−Sn合金層及びSn層、又はNi層、Cu−Sn合金層及びSn層をこの順に有し、場合によっては母材表面とCu−Sn合金層の間、又はNi層とCu−Sn合金層の間にCu層が残留している。特許文献1では、最表面にCu−Sn合金層とSn層が形成され(Cu−Sn合金層の表面露出面積率が3〜75%)、平均の厚さが0.1〜3.0μm、Cu含有量が20〜70at%、Sn層の平均の厚さが0.2〜5.0μmと規定され、母材表面について少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.15μm以上で、全ての方向の算術平均粗さRaが4.0μm以下が望ましく、Cu−Sn合金層の表面露出間隔について少なくとも一方向において0.01〜0.5mmが望ましいことが記載されている。
【0004】
特許文献2には、特許文献1の下位概念に相当する接続部品用導電材料及びその製造方法が記載されている。そのめっき層構成及びリフロー処理後の被覆層構成自体は、特許文献1のものと同じである。特許文献2においてリフロー処理後に形成された接続部品用導電材料は、最表面にCu−Sn合金層とSn層が形成され(表面被覆層のうちCu−Sn合金層の表面露出面積率が3〜75%)、Cu−Sn合金層の平均の厚さが0.2〜3.0μm、Cu含有量が20〜70at%、Sn層の平均厚さが0.2〜5.0μm、材料表面の少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.15μm以上で、全ての方向の算術平均粗さRaが3.0μm以下と規定され、母材表面について少なくとも一方向の算術平均粗さRaが0.3μm以上で、全ての方向の算術平均粗さRaが4.0μm以下が望ましく、さらにCu−Sn合金層の表面露出間隔について少なくとも一方向において0.01〜0.5mmが望ましいことが記載されている。
【0005】
特許文献3には、基本的に特許文献1,2の技術思想を継承しながら、同時にはんだ付け性を改善した接続部品用導電材料及びその製造方法が記載されている。この発明において、めっき層構成及びリフロー処理後の被覆層構成自体は、特許文献1,2のものと基本的に同じであるが、この発明は特許文献1,2と異なり、Cu−Sn合金層が露出していない場合(最表面にSn層のみ)を含み得る。この出願においてリフロー処理後に形成された接続部品用導電材料は、表面被覆層のうちNi層の平均の厚さが3.0μm以下、Cu−Sn合金層の平均の厚さが0.2〜3.0μm、材料の垂直断面におけるSn層の最小内接円の直径[D1]が0.2μm以下、最大内接円の直径[D2]が1.2〜20μm、材料の最表点とCu−Sn合金層の最表点との高度差[Y]が0.2μm以下と規定され、さらに[D1]が0μmのとき(Cu−Sn合金層が一部露出し、最表面がCu-Sn合金層とSn層からなるとき)、材料表面におけるCu−Sn合金層の最大内接円の直径[D3]が150μm以下又は/及び材料表面におけるSn層の最大内接円直径[D4]が300μm以下が望ましいことが記載されている。
【0006】
一方、特許文献4〜6には、銅合金板条に打抜き加工を施した後、全体にSnめっきを施す、いわゆる後めっきを施すことにより、打抜き端面にもSnめっき層を形成し、打抜き加工の前に銅合金板条にSnめっきを施す(先めっき)場合に比べて、端子等のはんだ付け性を向上させることが記載されている。
【0007】
さらに、特許文献7、8には、後めっきが施される端子において、電気的信頼性が高く(低接触抵抗)、嵌合部の摩擦係数が低く、かつはんだ付け部のはんだ付け性を向上させることが記載されている。
特許文献7の発明では、端子成形加工時に嵌合部分のみ表面粗度を大きくし、Niめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層をこの順に、又はCuめっき層及びSnめっき層をこの順に、あるいはSnめっき層のみを形成し、Snめっき層をリフロー処理して、Cuめっき層とSnめっき層から、あるいは銅合金母材とSnめっき層からCu−Sn合金層を形成するとともに、リフロー処理により平滑化したSnめっき層の間からCu−Sn合金層の一部を表面に露出させる(母材表面に形成された凹凸の凸の部分でCu−Sn合金層の一部が露出する)。この際、めっき厚は全面同じとする。嵌合部においては、最表面にCu−Sn合金層とSn層が形成され(Cu−Sn合金層が表面に露出)ているため、はんだ濡れ性に問題があるが、嵌合部以外は凹凸が無いためCu−Sn合金層が露出しておらず(最表面にSn層のみ)、はんだ濡れ性は良好である。
【0008】
特許文献8の発明では、表面粗さの大きい銅合金材料に打ち抜き加工を施して端子素材を形成した後、Niめっき層、Cuめっき層及びSnめっき層をこの順に、又はCuめっき層及びSnめっき層をこの順に、あるいはSnめっき層のみを形成し、Snめっき層をリフロー処理して、Cuめっき層とSnめっき層から、あるいは銅合金母材とSnめっき層からCu−Sn合金層を形成するとともに、リフロー処理により平滑化したSnめっき層の間からCu−Sn合金層の一部を表面に露出させる(母材表面に形成された凹凸の凸の部分でCu−Sn合金層の一部が露出する)。この際、はんだ付け部のSnめっき層は厚く形成することで、はんだ付け部においてはCu−Sn合金層が表面に露出しておらず、はんだ濡れ性は良好である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許3926355号公報
【特許文献2】特許4024244号公報
【特許文献3】特開2007−258156号公報
【特許文献4】特開2004−300524号公報
【特許文献5】特開2005−105307号公報
【特許文献6】特開2005−183298号公報
【特許文献7】特開2008−269999号公報
【特許文献8】特開2008−274364号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1〜3及び特許文献7,8に記載された接続部品用導電材料は、電気的信頼性が高く(低接触抵抗)、摩擦係数が低く、嵌合型コネクタ用端子として好適である。それでも、端子の小型化、多極化による端子挿入力低減の要求は厳しく、端子の小型化に対応したさらなる低挿入力端子を実現できる材料を提供し、かつ電気的信頼性をさらに向上させることが求められている。
本発明は、このような要請に応えて、前記特許文献の技術をさらに改良し、端子の小型化に対応した低挿入力でかつ電気的信頼性に優れた接続部品用導電材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明に係る接続部品用銅板材は、その表面粗さが、接続時の摺動方向に平行方向の算術平均粗さRaが0.5μm以上4.0μm以下であり、同方向の凹凸の平均間隔RSmが0.01mm以上0.3mm以下、スキューネスRskが0未満、突出山部高さRpkが1μm以下であり、望ましくは同方向の突出谷部深さRvkが2μm以上15μm以下であることを特徴とし、最表面にCu−Sn合金被覆層とSn又はSn合金被覆層が形成され、接続部品用導電材料とされ、前記表面が相手材と摺接する。
【0012】
前記接続部品用銅板材(母材)は、表面被覆層として、最表面にCu−Sn合金被覆層と、Sn又はSn合金被覆層(両者を合わせて以下Sn被覆層という)が形成される。この表面被覆層の具体的形態として、限定的ではないが、例えば、前記特許文献1〜3に記載されたように、Cu−Sn合金被覆層とSn被覆層がこの順に形成され、Cu−Sn合金被覆層の一部が最表面に露出しているものが望ましい。また、Sn被覆層はリフロー処理により平滑化されていることが望ましい。
【0013】
前記接続部品用銅板材の表面被覆層の一部として、前記接続部品用銅板材の表面と前記Cu−Sn合金被覆層の間にNi被覆層が形成されていてもよく、また、前記Ni被覆層と前記Cu−Sn合金被覆層の間にさらにCu被覆層が形成されていてもよい。さらに、前記接続部品用銅板材の表面とNi被覆層の間にCu被覆層が形成されていてもよい。
本発明において、接続部品用銅板材は、銅又は銅合金板条(板及び条)からなる。Sn被覆層、Cu被覆層、Ni被覆層はそれぞれSn、Cu、Ni金属のほか、Sn合金、Cu合金及びNi合金を含む。
【0014】
前記接続部品用導電材料は、銅板材からなる母材の表面(前記表面粗さを有する)に、前記特許文献1〜3に記載されているように、Cuめっき層と、Sn又はSn合金めっき層(両者を合わせて以下Snめっき層という)をこの順に形成した後、リフロー処理を行い、Cu−Sn合金被覆層とSn被覆層をこの順に形成することにより製造することができる。
前記Cu−Sn合金被覆層は、リフロー処理により、Cuめっき層とSnめっき層のCuとSnが相互拡散して形成されるが、その際にCuめっき層が全て消滅する場合と一部残留する場合の両方があり得る。Cuめっき層の一部が残留するとき、銅板材表面とCu−Sn合金被覆層の間にCu被覆層が形成される。Cuめっき層の厚さによっては、銅板材(母材)からもCuが供給される場合がある。
【0015】
銅板材(母材)表面に形成するCuめっき層の平均の厚さは1.5μm以下、Snめっき層の平均の厚さは0.3〜8.0μmの範囲が望ましい。Cuめっき層の平均の厚さは0.1μm以上が望ましい。
また、前記製造方法において、Cuめっき層を全く形成しない場合もあり得る。この場合、Cu−Sn合金被覆層のCuは銅板材(母材)から供給される。
【0016】
前記製造方法において、前記銅板材(母材)表面とCuめっき層の間に、Niめっき層を形成してもよい。この場合、Niめっき層の平均の厚さは3μm以下とし、Cuめっき層の平均の厚さは0.1〜1.5μmとするのが望ましい。前記銅板材(母材)表面とNiめっき層の間に、さらにCuめっき層を形成することもできる。
前記銅板材(母材)において、前記表面粗さにして前記表面被覆層を形成する領域は、母材の片面又は両面全体に及んでいてもよいし、片面又は両面の一部のみを占めているのでもよい。
また、本発明において、Cuめっき層、Snめっき層及びNiめっき層は、それぞれCu、Sn、Ni金属のほか、Cu合金、Sn合金及びNi合金を含む。
なお、本発明に関しては、リフロー処理後の表面めっき層を構成する各層について「被覆層」と表現し、リフロー処理前の表面めっき層を構成する各層について「めっき層」と表現している。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、端子の小型化に対応した低挿入力でかつ電気的信頼性に優れた接続部品用導電材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】実施例No.1の粗さ曲線(JISB0601)である。
【図2】その粗さ曲線から算出した振幅曲線である。
【図3】その粗さ曲線(JISB0671−1)から算出した負荷曲線である。
【図4】本発明に規定する表面粗さを得るための粗面化処理方法の一例を示す模式図である。
【図5】実施例における粗面化処理後の銅板材の平面図である。
【図6】実施例のNo.1試験片の表面SEM(組成像)である。
【図7】実施例における摩擦係数評価試験に用いる治具の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る接続部品用導電材料について、具体的に説明する。
接続部品用導電材料は、一般に、電気的信頼性、耐食性などを考慮し、Sn又はSn合金めっきが施されている。従来から使用されている接続部品用導電材料に施されるSnめっき層の平均厚さは約1μm程度である。銅母材上のSnめっきの場合、Snめっきと母材の銅との界面にCu−Sn合金被覆層が形成されるため、残るSnめっき層(Sn被覆層)の厚さは0.4μm程度である。Sn被覆層の厚さが0.4μmより薄くなると、耐熱信頼性(電気的特性)や耐食性が低下する。一方、Sn被覆層の厚さが厚くなると、端子接続時の挿入力が増加し作業性が低下する。
本発明の接続部品用導電材料はこの端子挿入力を低下させるため、最表面に硬いCu−Sn合金被覆層を露出させている。すなわち、最表面にCu−Sn合金被覆層とSn被覆層が存在する。
【0020】
上記接続部品用導電材料のめっき母材である銅板材は、上記のとおり特定の表面粗さを有する。この表面粗さは、特に説明の無い限りJISB0601、もしくはJISB0671で定義されたパラメータである。
接続時の摺動方向に平行方向の算術平均粗さRaが0.5μm以上4.0μm以下とした理由について述べる。算術平均粗さRaは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り、その抜き取り部分の平均線から測定曲線までの偏差の絶対値を合計し、平均した値を示すもので、疵や異物など特異な部分が測定値に及ぼす影響が小さく、安定した数値を示す。一般的に、表面粗さの大小はこの算術平均粗さRaの値の大小で示され、前記特許文献1,2でも、表面粗さは算術平均粗さRaで規定されている。なお、接続時の摺動方向に平行方向とは、嵌合型端子であれば端子挿入方向を意味する。図1に実施例で得られた粗さ曲線(JISB0601に基づく)の1つを示す。
【0021】
接続時の摺動方向に平行方向の算術平均粗さRaが0.5μm未満の場合、母材表面の凹凸が小さいため、Sn被覆層の厚さが0.4μmを超えると、同方向のスキューネスRskを0未満としたことにより最表面にCu−Sn合金被覆層が露出しなくなり、後述する測定方法で測定した摩擦係数が0.4を超える。同方向の算術平均粗さRaが0.5μm以上の場合、Sn被覆層の厚さが0.4μmを超え、0.7μmまで厚くしても摩擦係数は0.4以下が確保できる。一方、算術平均粗さRaが4.0μmを超えると、リフロー時の溶融Sn又はSn合金めっきの流動作用による材料表面の平滑化が困難となる。従って、同方向の算術平均粗さRaが0.5μm以上4.0μm以下とする。全ての方向の算術平均粗さRaが4.0μm以下であることが望ましい。
【0022】
接続時の摺動方向に平行方向の凹凸の平均間隔RSmが0.01〜0.3mmとした理由について述べる。凹凸の平均間隔RSmは、粗さ曲線からその平均線の方向に基準長さLだけ抜き取り、1つの山及びそれに隣り合う1つの谷に対応する平均線の長さの和を求め、平均値をミリメートルで表した値を示している。この凹凸の平均間隔RSmの値は前記の算術平均粗さRaを求めた粗さ曲線から求めることができる。銅板材表面の凹凸の平均間隔RSmはCu−Sn合金被覆層の露出間隔に直接反映する値であり、RSmが0.01mm未満の場合、Cu−Sn合金被覆層の露出間隔が狭くなり、高温環境下におけるCuの酸化が促進され接触抵抗の増大が起こる。凹凸の平均間隔RSmが0.3mmを超えると、Cu−Sn合金被覆層の露出間隔が広くなり、電気接点部の小さい小型端子における摩擦係数の増大が起こる。端子が小型になれば、それに伴い接点部の接触面積が小さく、Cu−Sn合金被覆層の露出間隔が広くなれば、その間のSn被覆層の部分に接触することになる。そのため、接触部はSn同士の摺動となって凝着が起こり、摩擦係数が増大する。従って、凹凸の平均間隔RSmを0.01以上、0.3mm以下とする。
【0023】
同方向のスキューネスRskが0未満とした理由について述べる。スキューネスRskは、粗さ曲線から算出した振幅曲線の平均線に対しての相対性を示す値である。このスキューネスRskの値は前記の算術平均粗さRaを求めた粗さ曲線から求めることができる。振幅曲線とは、粗さ曲線におけるすべての切断レベルと粗さ曲線がその切断レベルと等しくなる確率をグラフに表したものであり、確率が平均線に対して上に偏っている時はRsk<0に、下に偏っている時はRsk>0に、平均線と一致する時はRsk=0になる。算術平均粗さRaと凹凸の平均間隔RSmが上記規定範囲内である場合に、Rskが0以上(Rsk≧0)になると、凹の部分が広くなり、Sn被覆層の面積が広くなる。すなわち、接触部がSn同士の摺動となり、摩擦係数が増大する。従って、スキューネスRskを0未満(Rsk<0)とする。Rsk≧−3.00の範囲であれば後述する表面粗化方法で容易に達成できる。図2に図1に示す粗さ曲線から算出した振幅曲線を示す。この例では、確率が平均線(カットレベル50%の位置)より上方で大きくなっている。
【0024】
同方向の突出山部高さRpkが1μm以下とした理由について述べる。突出山部高さRpkは、JISB0671−2に規定され、粗さ曲線のコア部の上にある突出山部の平均高さを示す値であり、JISB0671−1に規定された粗さ曲線から算出した負荷曲線から求められる。前記の算術平均粗さRaを求めた粗さ曲線(ただし、JISB0671−1の規定に基づいて処理する必要)から算出した負荷曲線から求めればよい。この突出山部は、RSmを定義するときの山のさらに上に突出している山部であり、図1を参照して説明すると、粗さ曲線の山自体に細かく突出山部が形成されているため、この突出山部の間隔は山(谷)の平均間隔であるRSmより狭くなる。リフローSnめっき後はこの部分にCu−Sn合金被覆層が形成され、摩擦係数を低下させる。しかし、突出山部高さRpkが1μmを越えると、Cu−Sn合金被覆層が材料表面に突出する高さが高くなり、突出したCu−Sn合金被覆層がエンボス表面のSn被覆層を削るため挿入力が高くなる。従って、突出山部高さRpkは1μm以下とする。望ましくは0.3μm以上、1μm以下であり、その場合、メス端子のエンボス径が1.0mmと小さく、Sn被覆層の厚さが0.7μmと厚い場合でも、後述する測定方法で測定した摩擦係数を0.4以下にすることができる。図3に図1に示す粗さ曲線から算出した負荷曲線を示す。
【0025】
同方向の突出谷部深さRvkが2〜15μmとした理由について述べる。突出谷部深さRvkは、JISB0671−2に規定され、粗さ曲線のコア部の下にある突出谷部の平均深さを示す値であり、粗さ曲線から算出した負荷曲線から求められる。突出山部高さRpkを求めた前記負荷曲線から求めることができる。この突出谷部の平均深さが深いと、リフロー時に溶融Snが流れ込み、表面にCu−Sn合金層を露出させた状態でSn被覆層の平均の厚さを厚くすることができる。すなわち、算術平均粗さRa、凹凸の平均間隔RSm、スキューネスRsk、及び突出山部高さRpkが上記規定範囲内のとき、突出谷部深さRvkが2以上の場合、Sn被覆層の厚さを1.0μmまで厚くしても摩擦係数が0.4以下にできる。一方、後述する表面粗化方法で15μmを超えるような突出谷部深さRvkとすると、銅板材の折れや変形が生じやすい。従って、突出谷部深さRvkは2〜15μmとする。
銅板材の表面粗さの測定にあたっては、銅板材表面上で端子相当幅の範囲を適宜選択し、その範囲内で接続時の摺動方向に平行方向に複数箇所測定し、算術平均粗さRaが最も大きく出る粗さ曲線を元に、表面粗さの各パラメータを求めるとよい。
【0026】
材料表面に形成する表面皮膜層は、特許文献1,2に記載された表面皮膜層構成を適用することができる。すなわち、Cu含有量が20〜70at%で平均の厚さが0.2〜3.0μmのCu−Sn合金被覆層と平均の厚さが0.2〜5.0μmのSn被覆層がこの順に形成され、Sn被覆層の表面に前記Cu−Sn合金被覆層の一部が露出し、その材料表面露出率が3〜75%である。また、前記Cu−Sn合金被覆層と母材の間にNi被覆層及びCu層を形成してもよい。
【0027】
表面粗化処理方法として、特許文献1、2には、イオンエッチング等の物理的方法、エッチングや電解研磨等の化学的方法、圧延(研磨やショットブラスト等により粗面化したワークロールを使用)、研磨、ショットブラスト等の機械的方法があり、生産性、経済性及び母材の表面形態の再現性に優れる方法としては、圧延や研磨が望ましいと記載されている。圧延で母材を粗面化処理する場合、表面を粗面化処理されたワークロールを用いて圧延し、ワークロールの表面形態を転写させる。しかし、実際にはこれらの方法で本発明に規定する表面粗さを実現するのは困難であった。例えば圧延による場合、細かい間隔で深い凹凸をワークロール表面の全面に均一に付けるには、高いコストが必要であり、また、ロールの磨耗や目詰まり等の問題もあり、銅板材の表面全面に、本発明に規定する表面粗さに対応する凹凸形状(深い溝を細かい間隔で形成)を均一に転写させることは困難なためである。
【0028】
一方、特許文献7,8には、端子形状加工時に粗面化する技術が記載されている。すなわち、銅板材に打抜き加工を施し端子素材が帯状の連結部を介して長さ方向に連鎖状に連なった銅板材を形成するとともに、前記打抜き加工と同時にあるいは打抜き加工の前又は後に、前記銅板材にプレス加工を施し、端子素材板面(銅板材表面)の表面粗さを増大させる、というものである。特許文献7,8にはプレス加工の具体的手段についての記載はないが、例えば図4に示すように、押圧面にごく細かい凹凸が一定ピッチで形成された金型1をプレス機にセットし、該金型1で銅板材2の表面をプレスして、銅板材2の表面に前記押圧面の凹凸形状を転写する(凸部(刃先)を深く切り込ませる)ことにより、銅板材表面に本発明に規定する表面粗さを得ることができる。金型1の押圧面に細かい凹凸を付ける方法は、放電加工、研削加工、レーザー加工などがあり、必要とする寸法精度、加工形状により任意に選択できる。
【0029】
上記金型の押圧面の凸部が例えば平行線状に形成されていれば、上記粗面化処理により銅板材表面に、平行線状の細かい溝(粗さ曲線の谷)を深く形成することができる。また、後述する実施例の欄にも記載しているように、平行線状の溝が交差した格子状の溝を形成することもできる。リフロー時はその溝に溶融Snが流入し、固化して、図6にみられるような平行線状のSn被覆層が形成される。このように粗面化処理により平行線状に溝を形成する場合、溝の方向と端子挿入方向が一致しない(溝の方向と端子挿入方向が交差する)ことが望ましい。なお、銅板材表面にこのような溝を形成した場合、銅板材の算術平均粗さRaは、測定方向が溝と交差するとき大きく出る。また、平均粗さRaはその交差角度によって大きく変化しない。
【0030】
以下の実施例により、要点を絞り、さらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0031】
[Cu合金母材の作製]
本実施例においては、Cu中に1.8質量%のNi、0.40質量%のSi、1.1質量%のZn、0.10質量%のSnを含有し、ビッカース硬さ180、厚さ0.25mmtの銅合金条を製作した。
上記銅合金条から100mm×40mm(圧延長手方向×直角方向)の試験片を切り出し、ピン端子を成形する順送金型内の所定位置(ピン端子成形加工後の位置)に、押圧面に所定凹凸を付けたパーツを取り付け、1mmw×22mmLのピン端子形状を5mmピッチで成形加工すると同時に、各ピン端子の1mmw×10mmLの範囲に表面粗面化処理を行った。成形加工及び表面粗面化処理後の銅板材の概略図を図5に示す。図5において2が銅板材、3がピン端子部、両矢印の範囲が粗面化処理した部分である。凹凸形状の異なるパーツを用いること等により、種々の表面粗さを得ることができる。
但し、従来材であるNo.11については、特許文献1,2に倣い、表面を粗面化処理したワークロールを用いて圧延して銅板材の全面を粗面化した後、ピン端子形状に成形加工し、同じく従来材であるNo.12については、粗面化処理を一切しなかった。
【0032】
続いて、下記方法により表面粗さの測定を行った。測定した算術平均粗さRa、凹凸の平均間隔RSm、スキューネスRsk、及び突出山部高さRpkを表1に示す。また、No.1の粗さ曲線、振幅曲線、及び負荷曲線を図1〜3に示す。
[表面粗さ測定方法]
接触式粗さ計(株式会社東京精密製;サーフコム1400)を用いて、JIS B0601:2001、JIS B0671:2002に基づいて測定した。表面粗さ測定条件は、カットオフ値を0.8mm、基準長さを0.8mm、評価長さを4.0mm、測定速度を0.3mm/s、接触針先端半径を5μmRとして、測定はピン端子挿入方向に複数箇所で行い、算術平均粗さRaが最も大きく出る粗さ曲線を元に、表面粗さの各パラメータを求めた。なお、No.1〜10,13〜17の試験材について、評価長さ4.0mmが確保できる範囲で、ピン端子挿入方向以外でも算術平均粗さRaの測定を行った。その結果、これらの試験材において、算術平均粗さRaはどの方向でも、ピン端子挿入方向で測定した算術平均粗さRaの最大値とほぼ同等又はそれ以下であった。
【0033】
続いて、No.1〜17の銅板材に対し、Cuめっき及びSnめっきを施した後、280℃×10secのリフロー処理を行うことにより試験片を得た。Cuめっき層の平均厚さは0.15μmとし、Snめっき層の平均厚さを、0.7μm、1.0μm及び1.3μmに変化させ、リフロー後のSn被覆層の厚さそれぞれ、0.4μm、0.7μm、1.0μmとした。
実施例1(Sn被覆層の厚さ:0.7μm)の表面SEM(組成像)を図6に示す。図中の白色部がSn被覆層、黒色部がCu−Sn合金被覆層であり、最表面にCu−Sn合金被覆層とSn被覆層が形成されている(Cu−Sn合金被覆層がSn被覆層の間から露出)ことが分かる。この例では、平行線状のSn被覆層が直角に交差して格子状となっている。また、各Sn被覆層の方向は端子挿入方向に対し45°の角度に設定されている。No.2〜10,13〜17でも、平行線状のSn被覆層(格子状のSn被覆層を含む)が形成されている。
【0034】
なお、Cuめっき層、Snめっき層及びSn被覆層の平均厚さの測定方法は下記のとおりである。
[Cuめっき層の平均の厚さ測定方法]
ミクロトーム法にて加工したリフロー処理前の試験材の断面をSEM(走査型電子顕微鏡)を用いて10,000倍の倍率で観察し、画像解析処理によりCuめっきの平均の厚さを算出した。
[Snめっき層の平均の厚さ測定方法]
蛍光X線膜厚計(セイコーインスツルメンツ株式会社;SFT3200)を用いて、リフロー処理前の試験材のSnめっきの平均の厚さを算出した。測定条件は、検量線にSn/母材の単層検量線を用い、コリメータ径をφ0.5mmとした。
【0035】
[Sn被覆層の平均の厚さ測定方法]
まず、蛍光X線膜厚計(セイコーインスツルメンツ株式会社;SFT3200)を用いて、試験材のSn被覆層の膜厚とCu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚の和を測定した。その後、p−ニトロフェノール及び苛性ソーダを成分とする水溶液に10分間浸漬し、Sn被覆層を除去した。再度、蛍光X線膜厚計を用いて、Cu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚を測定した。測定条件は、検量線にSn/母材の単層検量線を用い、コリメータ径をφ0.5mmとした。得られたSn被覆層の膜厚とCu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚の和から、Cu−Sn合金被覆層に含有されるSn成分の膜厚を差し引くことにより、Sn被覆層の平均の厚さを算出した。
【0036】
続いて、得られた試験片について、摩擦係数評価試験を下記の要領で行った。その結果を、表1に示す。なお、表1の摩擦係数のエンボス1.5の欄はメス試験片の半球の内径が1.5mmのときの摩擦係数、エンボス1.0の欄はメス試験片の半球の内径が1.0mmのときの摩擦係数を記載している。
[摩擦係数評価試験]
嵌合型接続部品における電気接点のインデント部の形状を模擬し、図7に示すような装置を用いて評価した。まず、各試験材(No.1〜17)から切り出したピン端子形状のオス試験片4を水平な台5に固定し、その上に、No.12の母材を使用し、端子成形加工せず平板形状でめっき加工(Cu:0.15μm、Sn:1.0μm、リフロー処理)した材料から切り出した半球加工材(内径をφ1.5mm及びφ1.0mmとした)のメス試験片6をおいて被覆層同士を接触させた。続いて、メス試験片6に3.0Nの荷重(錘7)をかけてオス試験片4を押さえ、横型荷重測定器(アイコーエンジニアリング株式会社;Model−2152)を用いて、オス試験片4を端子挿入方向に水平方向に引っ張り(摺動速度を80mm/minとした)、摺動距離5mmまでの最大摩擦力F(単位:N)を測定した。摩擦係数を下記式(1)により求めた。なお、8はロードセル、矢印は摺動方向である。
摩擦係数=F/3.0 …(1)
【0037】
【表1】

【0038】
表1に示すようにNo.1〜7,13〜16は、表面粗さに関して本発明に規定する要件を満たし、エンボス1.5では、Sn被覆層の厚さが0.7μmでも摩擦係数は0.4未満であり、優れた特性を示す。
このうち、No.1〜5,7,13,14は、突出山部高さRpkが0.3〜1μmの範囲内であり、凹凸の平均間隔RSmで表現されている山部の上にさらに表面に突出した部分が存在するため、エンボス1.0でもSn被覆層厚さ0.7μmの摩擦係数が0.4未満と低い値を示している。なお、No.6は、凹凸の平均間隔RSmが0.29mmと比較的広く、エンボス1.0におけるSn被覆層厚さ0.7μmの摩擦係数が0.55と高くなった。
【0039】
一方、No.8は、算術平均粗さRaが0.32μmと表面の凹凸が小さいため、Sn被覆層の厚さが0.7μmのときの摩擦係数が大きい。No.9は、算術平均粗さRaが小さく、更に凹凸の平均間隔RSmも大きいため、Sn被覆層の厚さが0.4μmでも摩擦係数が大きくなっている。No.10は、凹凸の平均間隔RSmが大きいため、摩擦係数が大きくなっている。No.11は従来例であり、算術平均粗さRa、凹凸の平均間隔RSmとも規定を満たしているが、スキューネスRskが+側であるため、エンボス1.5でもSn被覆層の厚さが0.7μmの摩擦係数が大きい。No.12も従来例であり、算術平均粗さRaが小さいため、摩擦係数が大きい。
【実施例2】
【0040】
実施例1で用いたNo.4,5,7、13,14のほか、新たにNo.17について、実施例1と同様の手順で成形加工、粗面化処理、めっき及びリフロー処理を行って試験片を作製し、続いて同様の手順で表面粗さ(突出谷部深さRvkを含む)、Sn被覆層の厚さ、及び摩擦係数を測定した。No.4とNo.17及びNo.5とNo.14は、算術平均粗さRa、凹凸の平均間隔RSm、スキューネスRsk、及び突出山部高さRpkはほぼ同等で、突出谷部深さRvkが異なる。また、No.4,5,7、13,14,17について、下記要領で高温放置後の接触抵抗を測定した。その結果を、表2に示す。
[高温放置後の接触抵抗評価試験]
各試験材に対し、大気中にて160℃×120hr及び500hrの熱処理を行った後、接触抵抗を四端子法により、開放電圧20mV、電流10mA、無摺動の条件にて測定した。
【0041】
【表2】

【0042】
表2に示すように、No.4,5,7、13,14,17において、算術平均粗さRa、凹凸の平均間隔RSm、スキューネスRsk、及び突出山部高さRpkはすべて規定を満たしているため、Sn被覆層厚さ0.7μmでの摩擦係数は0.4未満で低い数値を示している。その中で、特にNo.4,5,7,13は突出谷部深さRvkが規定範囲内であり、Sn被覆層厚さ1.0μmでも摩擦係数が0.4未満と低い値を示している。
一方、No.14、17は、突出谷部深さRvkが規定範囲外であり、Sn被覆層厚さ1.0μmでの摩擦係数が0.4以上となる。そして、No.14,15において160℃×500hr加熱後の接触抵抗を1.0mΩ未満にするためには、Sn被覆厚さを1.0μm以上にする必要があり、低い摩擦係数と高い接触信頼性を両立させられないが、Rvkが規定範囲内のNo.4,5,7,13では、Sn被覆厚さを1.0μmとして低い摩擦係数と高い接触信頼性の両方を満足させることができる。
【符号の説明】
【0043】
1 金型
2 銅板材
3 ピン端子部
4 オス試験片
5 台
6 メス試験片
7 錘
8 ロードセル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最表面にCu−Sn合金被覆層とSn又はSn合金被覆層が形成される接続部品用銅板材において、その表面粗さが、接続時の摺動方向に平行方向の算術平均粗さRaが0.5μm以上4.0μm以下であり、同方向の凹凸の平均間隔RSmが0.01mm以上0.3mm以下、スキューネスRskが0未満、突出山部高さRpkが1μm以下であることを特徴とする接続部品用銅板材。
【請求項2】
さらに同方向の突出谷部深さRvkが2μm以上15μm以下であることを特徴とする請求項1に記載された接続用部品用銅板材。
【請求項3】
ピン端子形状に打抜き加工されたものであることを特徴とする請求項1又は2に記載された接続用部品用銅板材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載された接続部品用銅板材の表面に、Cu−Sn合金被覆層とSn又はSn合金被覆層がこの順に形成され、Cu−Sn合金被覆層の一部が最表面に露出していることを特徴とする接続部品用導電材料。
【請求項5】
前記接続部品用銅板材の表面と前記Cu−Sn合金層の間にNi被覆層を有することを特徴とする請求項4に記載された接続用部品用導電材料。
【請求項6】
前記Ni被覆層と前記Cu−Sn合金層の間にさらにCu被覆層を有することを特徴とする請求項5に記載された接続用部品用導電材料。
【請求項7】
前記接続部品用銅板材の表面と前記Ni被覆層の間にさらにCu被覆層を有することを特徴とする請求項5又は6に記載された接続用部品用導電材料。
【請求項8】
前記Sn被覆層がリフロー処理により平滑化されていることを特徴とする請求項4〜7のいずれかに記載された接続用部品用導電材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−204617(P2011−204617A)
【公開日】平成23年10月13日(2011.10.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−73199(P2010−73199)
【出願日】平成22年3月26日(2010.3.26)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【出願人】(393017111)神鋼リードミック株式会社 (16)
【Fターム(参考)】