説明

接触的還元及び酸化方法

有機及び無機化合物の酸化または還元のための接触的方法であって、酸化または還元条件下に、上記化合物を、銀または金で促進された活性触媒成分としてのニッケルからなる担持型触媒と接触させることを含み、この際、前記銀または金は、触媒中のニッケルの量に基づいて計算して0.001〜30重量%の量で存在する上記方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、接触的還元及び酸化方法、並びにこの方法に使用するための触媒に関する。詳しくは、本発明は、様々な接触的還元及び酸化反応に使用するための、銀もしくは金で促進されたニッケル触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルは、多くの反応に周知の触媒である。これらの反応の幾つかにおける主な問題は、ニッケルの高い反応性である。炭化水素の反応では、このような高い反応性により、表面上に炭素種が析出して、或る種の条件下に活性を破壊する(J.R. Rostrup-Nielsen, Steam Reforming Catalysts, Danish Technical Press Inc., Copenhagen 1975]。また、酸化反応では、酸化ニッケル類がしばしば生ずる。幾つかの場合には、ニッケル触媒は非常に多くの副生成物を形成することが確認されている。すなわち、選択性は、例えば白金などと比べると低い。
【0003】
ニッケル触媒で触媒した際に問題が多く、他方で例えば貴金属に基づく触媒の方が問題が少ない還元及び酸化反応の例を次に挙げる:
水素化及び脱水素化反応:
xy + H2 ←→ Cxy+2
同時的な水素の酸化を伴わない、水素雰囲気中での例えばCOの選択的酸化:
2CO + O2 → 2CO2
SO2の酸化:
2SO2 + O2 → 2SO3
COによるNOの還元
2NO +2CO → N2 + 2CO2
COメタン化:
CO + 3H2 → CH4 + H2
エタン水素化分解
26 + H2 → 2CH4
このような場合の通常の代替物は、例えば白金もしくはパラジウムの貴金属に基づく触媒を使用することである。これらの材料は比較的反応性が低く、それ故、表面汚染に関しては比較的問題が少ない。しかし、白金及びパラジウムは、ニッケルと比べるとかなり高額であり、それゆえ、ニッケルの表面性質を変性して、それが例えば白金もしくはパラジウムに似た反応性を示すようにできることが非常に望ましい。言い換えれば、このようなニッケルは、より“貴金属的な”挙動を示す。これは、多くの反応により安価な触媒を提供するという可能性を広げるものである。
【0004】
銀で促進されそしてそれ故に或る種の“貴金属的な”挙動を示すことが期待されるニッケル触媒は、他の目的では知られている。例えば米国特許第4,060,498号を参照されたい。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題の一つは、ニッケル触媒の反応性を変えて、そしてこれらに、より“貴金属的”な挙動を与えることによって、純粋なニッケル触媒と比べて、多くの酸化及び還元反応にとって触媒をより適したものとするために、ニッケル触媒を変性することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
それ故、銀もしくは金で促進された、活性触媒成分としてのニッケルからなる触媒が提供される。前記銀もしくは金は、有機及び無機化合物の酸化もしくは還元のための接触的プロセスに使用される触媒中のニッケルの量に基づいて計算して0.001〜30重量%の範囲の量で存在する。
【0007】
上記の観察に基づき、本発明の一般的な態様は、銀もしくは金で促進することによりニッケル触媒を変性することによってそれの触媒的性質を変化させて、その触媒の挙動をより“貴金属的”なものとし、そして例えば白金と同等の性質を有するようにする方法に関する。
【0008】
一部の還元及び酸化反応においては、純粋なニッケルを用いて得られるものと比べてより高い転化率または選択性が要求され、他方で、他の反応では、純粋なニッケルと比べて低減された転化率または選択性が望まれる。
【0009】
これは、本発明に従い、銀もしくは金で促進されたニッケル触媒を用いることによって達成することができる。反応のタイプに応じて、その反応性は上昇もしくは下降のいずれも示すことができる。これは、存在する促進剤原子が、触媒上の或る種の活性部位をブロックするからである。全ての活性部位がブロックされるわけではない。この現象は、他の系、例えば金で装飾されたルテニウムにも観察され得る(S. Dahl et al., Phys. Rev. Letters, 83(1999) 1814)。触媒毒化が重大な反応もしくは条件では、触媒毒性副反応の阻止が向上した活性を与える。このような副反応がそれほど問題ではない反応または条件では、促進剤原子の堆積の故に利用できる活性部位が少なくなるために、反応性の低下が観察される。白金は、上記反応において副反応が少ない点に特徴があり、それゆえ、上記促進されたニッケル触媒は、白金のそれと同等の性質を示す。
【0010】
触媒中に組み込まれる銀もしくは金の量は、ニッケルのエッジ表面積(edge surface area)に依存する。銀もしくは金促進ニッケル触媒は、可溶性ニッケル塩を含む溶液及び銀もしくは金促進剤の塩を含む溶液でキャリア材料を同時にもしくは続けて含浸処理することによって製造することができる。
【0011】
ニッケルの性質を銀もしくは金で変性するためには、銀もしくは金をニッケル表面上に位置させなければならない。幾つかの場合には、これは、例えば米国特許第4,060,498号に記載のように、ニッケル及び銀前駆体の両方を含む溶液でキャリアを同時含浸処理することによって達成することができる。しかし、この特許は水蒸気改質用の触媒しか扱っていない。
【0012】
部分的に被覆されたニッケル表面を達成するための他の方法は連続的含浸によるものである。この方法では、先ず、キャリアをニッケル前駆体で含浸処理し、か焼及び還元し、次いで銀前駆体で含浸処理する。次いで、ニッケル表面原子を還元するかまたは堆積させる際に加えられた還元剤の助けにより、銀をニッケル表面に位置させる。このような方法は、J. Margitfalvi, S. Szabo, F. NagyによってSupported Bimetallic Catalysts Prepared by Controlled Surface Reactions(制御された表面反応によって製造された担持型バイメタル触媒), Studies in Surface Science and Catalysis(表面化学及び触媒作用の研究), Vol.27, Chapter 11, Elsevier 1986に更に記載されている。金の堆積は、米国特許第5,997,835号に記載のように、類似の方法で行うのがよい。ただし、前記の米国特許も水蒸気改質しか扱っていない。
【0013】
適当な前駆体は、塩、例えば塩化物、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩またはシュウ酸塩である。
【0014】
ニッケル表面への銀もしくは金の堆積を確実にする他の方法は、還元されたニッケル触媒への銀もしくは金の化学蒸着を使用することである。適当な前駆体としては、銀用としては銀(I)−(β−ジケトナト)錯体、及び金用には金(III)−(β−ジケトナト)錯体などが挙げられる。
【0015】
キャリア材料は、従来通り、炭素、アルミナ、マグネシア、チタニア、シリカ、ジルコニア、ベリリア、トリア、ランタニア、酸化カルシウム及びこれらの化合物または混合物から選択される。好ましい材料は、アルミナ、チタニア、及びマグネシウムアルミニウムスピネルからなる。
【0016】
このようにして得られる促進されたNi触媒は、上に記載したような様々な接触的反応に使用することができる。このような反応は以下にも例示される。それゆえ、より高額な白金触媒の代用となることができる。
【0017】
本発明を以下の例において更に説明する。触媒中でのニッケル及び銀もしくは金の濃度は全て重量%(wt%)で表す。
【実施例】
【0018】
例1
ベンゼンの水素化:
MgAl24スピネルキャリアを、硝酸ニッケル、次いで硝酸銀で連続的に含浸処理することによって、ニッケル17重量%及び銀0.3重量%からなる銀促進ニッケル触媒を製造した。前記銀前駆体で含浸処理する前に、硝酸ニッケルを分解させた。乾燥後、得られた触媒ペレットを反応器に装入し、そして大気圧下に水素流中で500℃に加熱することによって活性化した。ベンゼンをシクロヘキサンに転化する際に生じた副生成物の量を以下の条件で測定した。
触媒サイズ,μm :150〜300
触媒量,g :0.1
不活性材料のサイズ,μm :150〜300
不活性材料の量,g :0.1
温度,℃ :300
圧力,barg :11
供給ガス組成,Nl/h:
2 :6
ガス状のベンゼン :0.6
炭素基準で計算してベンゼンの転化率及び副生成物の収率を以下の表に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
上記表に示した結果は、銀促進ニッケル触媒における副生成物の形成の顕著な減少、並びにより高い転化率を示している。
【0021】
例2
選択的CO酸化
例1と同様にして、ニッケル17重量%及び銀2.455重量%からなる銀促進ニッケル触媒サンプルを製造した。乾燥後、得られた触媒ペレットを反応器に装入し、そして大気圧下に水素流中で570℃に加熱する間に活性化した。CO及びH2の酸化に対する活性を、以下の条件で測定した。
触媒サイズ,μm :150〜300
触媒量,mg :50
温度,℃ :60
全流量,Nl/h :1.8
供給ガス組成,体積%:
CO :0.5
2 :0.5
2 :4.4
Ar :94.6
純粋なNi及びAg促進Ni触媒のCO2及びH2Oへの転化率を表2に示す。
【0022】
【表2】

【0023】
表2に示されるように、ニッケル触媒はCOの酸化にはほぼ不活性であり、H2の酸化には全く不活性である。ニッケル触媒を銀で変性することで、本発明に従い反応性が高まり、そしてCOからCO2への選択的酸化を可能にする。
【0024】
例えば、前記触媒は、PEM燃料電池のための燃料として用いられる改質物ガスのクリーンアップに使用することができる。
【0025】
例3
SO2酸化
例1と同様にして、チタニア(TiO2)キャリアを連続的に含浸処理することによって、ニッケル4重量%及び銀0.2重量%からなる銀促進ニッケル触媒サンプルを製造した。また、 [Au(NH3)4](NO3)3をAu前駆体として使用して、例1と同様にして、スピネルキャリア上にニッケル17重量%及び金0.3重量%からなる金促進ニッケル触媒サンプルを製造した。乾燥後、得られた触媒ペレットを反応器中に装入し、そしてSO2酸化に対する活性を、大気圧下に以下の条件で測定した。
触媒サイズ,mm×mm :TiO2キャリアの場合は9×3
:MgAl24キャリアの場合は4.5×4.5
触媒量,g :1.66〜4.75
温度,℃ :380

供給ガス組成,Nl/h:
SO2 :0.7
2 :7
2 :92.3
活性度を表3に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
上記の表から示されるように、本発明の趣旨の通りに、純粋なニッケル触媒と比較して、銀促進ニッケル触媒及び金促進ニッケル触媒の双方の場合に酸化活性に顕著な改善が観察された。
【0028】
例4
NO還元
例1と同様にして、ニッケル16重量%及び銀0.577重量%からなる銀促進ニッケル触媒サンプルを製造した。乾燥後、得られた触媒ペレットを反応器に装入し、そして大気圧下に水素流中で500℃に加熱する間に活性化した。COによるNOの還元に対する活性を以下の条件で測定した。
触媒サイズ,μm :150〜300
触媒量,g :0.5
温度,℃ :200
全流量 :2.4Nl/h
供給ガス組成、体積ppm:
CO :2850体積ppm
NO :2850体積ppm
バランス :He
上記触媒のNO転化率を表4に示す。
【0029】
【表4】

【0030】
表4に示されるように、ニッケル触媒の活性は、本発明に従い銀で促進することによって顕著に改善される。これは、例えば、ガソリン廃ガス触媒として使用することができる。
【0031】
例5
COメタン化
例1と同様にして、ニッケル17重量%及び銀3重量%からなる銀促進ニッケル触媒サンプルを製造した。乾燥後、得られた触媒ペレットを反応器中に装入し、そして大気圧下に水素流中で500℃に加熱する間に活性化した。COメタン化に対する活性を、以下の条件において大気圧下に測定した。
触媒サイズ,μm :150〜300
触媒量,g :0.1
温度,℃ :250
供給ガス組成,Nl/h:
CO :0.13
2 :13.0
活性を表5に示す。
【0032】
【表5】

【0033】
表5から明らかな通り、COからCH4の転化に対する反応性は、本発明に従いニッケル含有触媒を銀で変性することによって強く低減される。
【0034】
上記触媒は、例えばメタノール合成や、水性ガスシフト反応のような、COのメタン化が望ましくない反応において使用することができる。
【0035】
例6
エタンの水素化分解
ニッケル0.9重量%及び銀0.1重量%からなる銀促進ニッケル触媒サンプルを、硝酸ニッケル及び硝酸銀をスピネルキャリア上に、ニッケル含有触媒(1重量%)と一緒に同時含浸させることによって製造した。乾燥後、得られた触媒ペレットを反応器中に装入し、そして大気圧下に水素流中で500℃に加熱する間に活性化した。エタンの水素化分解に対する活性を、以下の条件で大気圧下に測定した。
触媒サイズ,μm :150〜300
触媒量,g :0.1
温度,℃ :325
供給ガス組成,Nl/h:
26 :0.12〜0.21
2 :0.90〜1.80
He :4.0〜4.1
次の速度式:
反応速度 = k・P(エタン)・(P(水素))-0.5
(p(x)は、成分xの圧力である)が、実験結果の優れた記述を与えることが判明した。速度定数kで表した活性度を以下の表6に示す。
【0036】
【表6】

【0037】
表6から明らかな通り、C26からCH4への転化に対する反応性は、本発明に従いニッケル含有触媒を銀で変性することによって大きく低減される。
【0038】
上記触媒は、C−C結合水素化分解が望ましくない反応、例えば例1に記載したような水素化反応に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機及び無機化合物を酸化または還元するための接触的方法であって、酸化または還元条件下に、有機または無機化合物を、銀または金で促進された活性触媒成分としてのニッケルからなる担持型触媒と接触させることを含み、この際、前記銀または金は、触媒中のニッケルの量に基づいて計算して0.001〜30重量%の量で存在する、上記方法。
【請求項2】
接触的方法が脱水素化である、請求項1の方法。
【請求項3】
接触的方法がSO2の酸化である、請求項1の方法。
【請求項4】
接触的方法がCOによるNOの還元である、請求項1の方法。
【請求項5】
接触的方法がCOのメタン化である、請求項1の方法。
【請求項6】
接触的方法が水素化である、請求項1の方法。
【請求項7】
接触的方法がエタンの水素化分解である、請求項1の方法。
【請求項8】
担体が、アルミナ、チタニア、またはマグネシウムアルミニウムスピネルである、請求項1の方法。

【公表番号】特表2007−501699(P2007−501699A)
【公表日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−522973(P2006−522973)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008957
【国際公開番号】WO2005/016503
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(590000282)ハルドール・トプサー・アクチエゼルスカベット (50)
【Fターム(参考)】