説明

推定装置および推定方法

【課題】 電池モデルを用いて二次電池の内部状態を推定するとき、二次電池の温度に応じて、推定値が実測値からずれてしまうことがある。
【解決手段】 正極(113)および負極(111)の間に、電解液を含むセパレータ(112)が配置された二次電池(11)の状態を推定する推定装置であって、二次電池に設けられたセンサ(21〜23)による検出結果と、二次電池の内部状態を動的に推定できる電池モデルとを用いて、二次電池の内部状態を特定する状態値を逐次的に推定する状態推定部(31)を有する。状態推定部は、測定されたセパレータの屈曲度と、セパレータの厚さおよび二次電池の抵抗値の関係を示す実測値から算出されるセパレータの屈曲度との差又は比を用いて、電池モデルのモデル式で用いられる正極又は負極の屈曲度を補正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池モデルを用いて、二次電池の状態を推定する推定装置および推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電池モデルを用いて、二次電池の内部状態を推定する技術がある。電池モデルとしては、非特許文献1に記載された電池モデルを用いることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4265629号
【特許文献2】特開2003−346919号公報
【特許文献3】特開2010−060406号公報
【非特許文献1】グおよびワン(W.B.Gu and C.Y. Wang)著、「リチウムイオン電池の熱−電気化学結合モデリング(THERMAL-ELECTROCHEMICAL COUPLED MODELING OF A LITHIUMION CELL)」、ECS Proceeding Vol.99-25(1),2000、(米国)、電気化学学会(ECS)、2000年、pp743-762
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電池モデルを用いて二次電池の内部状態を推定するとき、二次電池の温度によっては、推定値が実測値から大きくずれてしまうことがある。特に、二次電池の温度が0℃よりも低いときには、推定値が実測値からずれやすくなってしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願第1の発明は、正極および負極の間に、電解液を含むセパレータが配置された二次電池の状態を推定する推定装置であって、二次電池に設けられたセンサによる検出結果と、二次電池の内部状態を動的に推定できる電池モデルとを用いて、二次電池の内部状態を特定する状態値を逐次的に推定する状態推定部を有する。状態推定部は、測定されたセパレータの屈曲度と、セパレータの厚さおよび二次電池の抵抗値の関係を示す実測値から算出されるセパレータの屈曲度との差又は比を用いて、電池モデルのモデル式で用いられる正極又は負極の屈曲度を補正する。
【0006】
本願第1の発明によれば、上述した屈曲度の差又は比を用いて、電池モデルのモデル式で用いられる正極又は負極の屈曲度を補正することにより、状態推定部によって推定される状態値を、実測値に近づけることができる。これにより、状態値の推定精度を向上させることができる。
【0007】
推定された現時点の状態値を用いることにより、二次電池が所定電力を現時点から継続的に充放電するときの二次電池の電圧挙動を推定することができる。状態値の推定精度を向上させることにより、電圧挙動の推定精度も向上させることができる。二次電池の電圧挙動を推定すれば、二次電池の充放電を制御することにより、二次電池が過電圧状態および過放電状態となるのを回避することができる。
【0008】
二次電池の温度が0℃よりも低いとき、正極又は負極の屈曲度を補正した値を用いて、状態値を推定することができる。正極又は負極の屈曲度を補正しないときには、二次電池の温度が0℃よりも低いときに推定される値(例えば、抵抗値)が実測値から大きくずれてしまうことがある。本発明のように屈曲度を補正すれば、二次電池の温度が0℃よりも低いときでも、推定される値が実測値からずれてしまうのを抑制することができる。
【0009】
測定されたセパレータの屈曲度としては、水銀ポロシメータを用いて測定された屈曲度を用いることができる。差又は比に関する情報は、メモリに記憶させておくことができる。これにより、状態推定部は、メモリに記憶された情報を用いて、状態値を推定することができる。
【0010】
本願第2の発明は、正極および負極の間に、電解液を含むセパレータが配置された二次電池の状態を推定する推定方法であって、二次電池に設けられたセンサによる検出結果と、二次電池の内部状態を動的に推定できる電池モデルとを用いて、二次電池の内部状態を特定する状態値を逐次的に推定する。ここで、測定されたセパレータの屈曲度と、セパレータの厚さおよび二次電池の抵抗値の関係を示す実測値から算出されるセパレータの屈曲度との差又は比を用いて、電池モデルのモデル式で用いられる正極又は負極の屈曲度を補正する。本願第2の発明においても、本願第1の発明と同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】電池システムの構成を示す図である。
【図2】単電池の構成を示す図である。
【図3】電池モデルを説明する図である。
【図4A】1つのセパレータを用いたときの単電池の構成を示す概略図である。
【図4B】2つのセパレータを用いたときの単電池の構成を示す概略図である。
【図4C】3つのセパレータを用いたときの単電池の構成を示す概略図である。
【図5】セパレータの数と、単電池の抵抗との関係を示す図である。
【図6】単電池の温度と、単電池の抵抗との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例1】
【0013】
図1は、本実施例の電池システムの構成を示す図である。
【0014】
組電池10は、直列に接続された複数の単電池11を有する。単電池11としては、ニッケル水素電池やリチウムイオン電池といった二次電池を用いることができる。組電池10を構成する単電池11の数は、組電池10の要求出力などを考慮して、適宜設定することができる。本実施例では、複数の単電池11が直列に接続されているが、組電池10には、並列に接続された複数の単電池11が含まれていてもよい。
【0015】
電圧センサ21は、組電池10の端子間電圧を検出し、検出結果を電池ECU(Electronic Control Unit)30に出力する。組電池10を構成する複数の単電池11は、直接に接続されているため、電圧センサ21による検出電圧を、組電池10を構成する単電池11の数で割れば、単電池11の電圧Vbが得られる。なお、各単電池11に対して電圧センサ21を設ければ、電圧センサ21の検出電圧が単電池11の電圧Vbとなる。
【0016】
電流センサ22は、組電池10に流れる充放電電流Ibを検出し、検出結果を電池ECU30に出力する。ここで、充電電流Ibを正の値とし、放電電流Ibを負の値としている。温度センサ23は、組電池10の温度Tbを検出し、検出結果を電池ECU30に出力する。センサ21〜23は、組電池10(単電池11)に対して設けられており、組電池10(単電池11)の内部状態を推定するための情報を取得するセンサである。
【0017】
負荷24は、リレー25a,25bを介して組電池10と接続されており、組電池10からの電力を受けて動作する。負荷24は、制御装置26からの制御信号(動作指令)を受け、動作指令に応じた動作を行う。リレー25a,25bは、制御装置26からの制御信号を受けることにより、オンおよびオフの間で切り替わる。
【0018】
組電池10を車両に搭載したときには、負荷24として、モータ・ジェネレータを用いることができる。モータ・ジェネレータは、組電池10から供給された電気エネルギを、車両を走行させるための運動エネルギに変換する。また、モータ・ジェネレータは、車両の制動時に発生する運動エネルギを電気エネルギに変換する。モータ・ジェネレータによって生成された電気エネルギは、組電池10に蓄えることができる。
【0019】
組電池10およびモータ・ジェネレータの間の電流経路には、インバータや昇圧回路を配置することができる。インバータを用いれば、モータ・ジェネレータとして、交流モータを用いることができる。昇圧回路を用いれば、組電池10の出力電圧を昇圧することができる。インバータや昇圧回路は、負荷24に含まれる。
【0020】
電池ECU30は、状態推定部31および挙動推定部32を有する。状態推定部31および挙動推定部32は、電池ECU30が所定のプログラムを実行することによって実現される機能ブロックに相当する。状態推定部31は、電圧センサ21、電流センサ22および温度センサ23の検出結果を取得し、後述する電池モデルに基づいて、単電池11の内部状態を示す状態推定値(状態値に相当する)を所定周期で算出する。状態推定値としては、後述するように、単電池11の充電状態(SOC:State of Charge)、単電池11の内部温度、リチウムイオンの濃度分布、電位分布等がある。
【0021】
状態推定値は、所定周期が経過するたびに、更新される。電池モデルは、単電池11の内部状態を動的に推定するものである。状態推定部31が算出した状態推定値は、挙動推定部32の処理で用いられる。
【0022】
挙動推定部32は、状態推定部31が算出した状態推定値を用いて、所定の演算処理を行うことにより、単電池11を所定電力で継続的に充放電した場合における予測情報を生成する。予測情報としては、単電池11の充電又は放電を所定電力で継続的に行ったときに、予測される充電可能時間又は放電可能時間がある。
【0023】
充電可能時間とは、充電を継続的に行うことができる時間であり、単電池11の現時点の電圧Vbが、予め定められた上限電圧Vmaxに到達するまでの時間である。放電可能時間とは、放電を継続的に行うことができる時間であり、単電池11の現時点の電圧Vbが、予め定められた下限電圧Vminに到達するまでの時間である。上限電圧Vmaxおよび下限電圧Vminは、単電池11の最高定格電圧および最低定格電圧や、負荷24の動作可能な電圧などに基づいて、適宜設定することができる。
【0024】
充電可能時間又は放電可能時間を予測するときには、単電池11の電圧挙動を予測することができる。単電池11の電圧挙動を予測するときには、例えば、入出力電力が一定であることを考慮して、後述する電池モデル式(1)〜(15)を単純化したものを用いることができる。
【0025】
挙動推定部32が生成した予測情報は、制御装置26に出力される。予測情報を生成する周期は、状態推定値を算出する周期よりも短くすることができる。これにより、状態推定値が更新されるまでの間に、少なくとも1つの予測情報が生成される。
【0026】
制御装置26は、外部から入力された負荷24の動作要求に基づいて、負荷24の動作指令を生成する。ここで、制御装置26は、電池ECU30(挙動推定部32)から取得した予測情報に基づいて、単電池11の過充電又は過放電が発生しないように、単電池11の充放電を制限することができる。具体的には、制御装置26は、予測された単電池11の電圧挙動から、単電池11の過充電(又は過放電)が発生するおそれがあると判断したとき、単電池11の充電(又は放電)を制限することができる。ここで、制御装置26は、例えば、単電池11の入力電力(又は出力電力)の上限値を下げることができる。
【0027】
予測情報(充電可能時間又は放電可能時間)を用いることにより、将来において、単電池11が過充電状態又は過放電状態となるのを回避することができる。また、予測情報に基づいて単電池11の充放電を制御することにより、単電池11の入出力性能を最大限に発揮させることができる。さらに、放電可能時間が比較的、短ければ、単電池11の出力電力を予め低下させたり、放電可能時間が比較的、長ければ、単電池11の出力電力を予め増加させたりすることができる。
【0028】
メモリ33には、各種の情報が記憶されている。電池ECU30は、メモリ33に記憶されたプログラムに基づいて、動作することができる。
【0029】
次に、単電池11の構成と、状態推定部31で用いられる電池モデルについて説明する。
【0030】
図2は、単電池11の構成を示す概略図である。単電池11は、負極111と、セパレータ112と、正極113とを有する。セパレータ112は、負極111および正極113の間に位置しており、電解液を含んでいる。
【0031】
負極111および正極113のそれぞれは、球状の活物質114の集合体で構成された層を有している。単電池11を放電するとき、負極111の活物質114の界面上では、リチウムイオンLi+および電子e-を放出する化学反応が行われる。また、正極113の活物質114の界面上では、リチウムイオンLi+および電子e-を吸収する化学反応が行われる。
【0032】
負極111は、銅などで形成された集電板115を有しており、集電板115は、単電池11の負極端子116と電気的に接続されている。正極113は、アルミニウムなどで形成された集電板117を有しており、集電板117は、単電池11の正極端子118と電気的に接続されている。負極111および正極113の間でのリチウムイオンLi+の授受によって、単電池11の充放電が行われ、充電電流Ib(>0)または放電電流Ib(<0)が生じる。
【0033】
図3は、状態推定部31で用いられる電池モデルを説明する概念図である。図3に示す電池モデルでは、単電池11の負極111および正極113のそれぞれにおいて、各活物質114でのリチウムイオンLi+の挙動が共通であるものと仮定している。したがって、負極111および正極113のそれぞれについて、代表的に1個の活物質114n,114pを規定する。
【0034】
単電池11の放電時には、活物質114nの表面における電極反応により、活物質114n内のリチウム原子Liが、電子e-の放出によりリチウムイオンLi+となってセパレータ112中の電解液に放出される。一方、活物質114pの表面における電極反応では、電解液中のリチウムイオンLi+が活物質114pに移動して電子e-を吸収する。これにより、活物質114pの内部にリチウム原子Liが取り込まれる。活物質114nからのリチウムイオンLi+の放出と、活物質114pでのリチウムイオンLi+の取り込みとによって、正極113の集電板117から負極111の集電板115に向けて電流(放電電流)が流れる。
【0035】
単電池11の充電時には、活物質114nの表面における電極反応により、電解液中のリチウムイオンLi+が活物質114nに取り込まれる。また、活物質114pの表面における電極反応により、電解液にリチウムイオンLi+が放出される。これにより、負極111の集電板115から正極113の集電板117に向けて電流(充電電流)が流れる。
【0036】
電池モデルでは、充放電時における活物質114p,114nの表面における電極反応と、活物質114p,114nの内部におけるリチウムイオンLi+の拡散(球体の活物質114p,114nの径方向における拡散)と、電解液中のリチウムイオンLi+の拡散と、単電池11の各部位での電位分布とをモデリングする。
【0037】
本実施例における電池モデル(一例)は、以下に説明する電池モデル式(1)〜(15)により表される。
【0038】
表1は、電池モデル式(1)〜(15)で用いられる変数および定数の一覧表を示す。状態推定部31によって算出される状態推定値は、表1に示すように、電池の内部温度T、各電位、リチウムイオン濃度などの変数である。
【0039】
【表1】

【0040】
下記式(1)〜(3)は、電極(負極111や正極113の活物質114)における電気化学反応を示す式であり、バトラー・ボルマーの式と呼ばれる。式(1)において交換電流密度i0は、非特許文献1に記載されているように、活物質114の界面におけるリチウムイオン濃度の関数で与えられる。式(1)に示す過電圧ηは、式(2)で表される。式(2)に示す開放電圧Uは、式(3)で表される。
【0041】
【数1】

【0042】
電解液中のリチウムイオン濃度の保存則に関する式として、下記式(4)が成立する。下記式(5)は、電解液中での実効拡散係数の定義を示す。下記式(6)に示すように、反応電流jLiは、電極(負極111や正極113)の単位体積あたりの活物質114の表面積asと、式(1)に示す輸送電流密度inとの積で表される。なお、反応電流jLiの電極全体での体積積分は、電流値Ibに対応する。
【0043】
【数2】

【0044】
下記式(7)および式(8)は、活物質114中でのリチウムイオン保存則を示す。式(7)は、球体である活物質114中での拡散方程式を示し、式(8)は、電極(負極111や正極113)の単位体積あたりの活物質114の表面積asを示す。
【0045】
【数3】

【0046】
電解液中での電荷保存則によれば、電解液中での電位を、下記式(9)〜(11)で表すことができる。式(10)は、実効イオン伝導率κeffを示し、式(11)は、電解液中での拡散導電係数κDeffを示す。
【数4】

【0047】
活物質114での電荷保存則によれば、活物質114中での電位を、下記式(12)および下記式(13)から求めることができる。
【数5】

【0048】
下記式(14)および下記式(15)は、熱エネルギの保存則を示す。これにより、充放電現象による単電池11の内部への局所的な温度変化を解析することが可能となる。
【数6】

【0049】
電池モデル式(1)〜(15)は、非特許文献1の記載に基づくものであり、各モデル式の詳細な説明については、非特許文献1を援用する。
【0050】
電池モデル式(1)〜(15)を、活物質114p,114nおよび電解液中の各点において、境界条件を適宜設定した差分方程式を逐次解くことにより、単電池11の状態推定値(表1に示す変数)を算出することができる。そして、単電池11の内部反応を反映した電池状態の時間推移を推定することができる。ここで、各活物質114p,114nの内部におけるリチウムイオン濃度は、活物質114p,114nの半径rの関数として表される。活物質114p,114nの周方向では、リチウムイオン濃度は一様なものとして扱う。
【0051】
上述した電池モデルにおいて、単電池11のSOCは、活物質114n内のリチウム原子の数から求められる。また、活物質114p,114nの内部におけるリチウムイオンの濃度分布を推定することにより、過去の充放電履歴を反映した電池状態を推定することができる。
【0052】
例えば、単電池11の現時点のSOCが同一であっても、充電により現時点のSOCとなった後に放電する場合と、放電により現時点のSOCとなった後に更に放電する場合とでは、単電池11の出力電圧の低下の挙動が異なる。すなわち、前者の場合には、後者の場合と比較して、単電池11の出力電圧が相対的に低下し難くなる。リチウムイオンの濃度分布を推定することにより、このような現象(電圧挙動)を予測することができる。
【0053】
具体的には、単電池11を充電した直後において、活物質114n内のリチウムイオン濃度は、活物質114nの表面側で相対的に高くなる。単電池11を放電した直後において、活物質114n内リチウムイオン濃度は、活物質114nの表面側で相対的に低下する。このため、活物質114n内におけるリチウムイオンの濃度分布を反映することにより、上述した予測を行うことができる。
【0054】
上述したように、電池モデルを用いることにより、単電池11の状態推定値を算出でき、状態推定値から予測情報を生成することができる。ここで、単電池11の温度が0℃よりも高いときには、予測情報としての電圧挙動は、実測値に沿って変化しやすい。一方、単電池11の温度が0℃よりも低いときには、予測情報としての電圧挙動が、実測値から外れやすいことがある。
【0055】
本実施例では、上述した電池モデル式で用いられる、負極111および正極113の屈曲度τを補正している。補正を行う前の屈曲度τとしては、予め測定された固定値が用いられる。屈曲度τを補正する方法について、以下に説明する。屈曲度τは、下記式(16)で表される。
【0056】
【数7】

【0057】
式(16)において、κは、電解液の導電率であり、εは、セパレータ112の空孔率であり、κeffは、セパレータ112に含まれる電解液の導電率である。導電率κeffは、導電率κよりも低くなる。
【0058】
まず、図4A〜図4Cに示すように、負極111および正極113の間に配置されるセパレータ112の数を異ならせながら、単電池11の抵抗を測定する。図4Aでは、負極111および正極113の間に、1つのセパレータ112を配置している。図4Bでは、負極111および正極113の間に、2つのセパレータ112を配置している。図4Cでは、負極111および正極113の間に、3つのセパレータ112を配置している。
【0059】
図4A〜図4Cに示すセパレータ112は、同一の構造を有しており、図4A〜図4Cに示す構成では、セパレータ112の数だけが異なっている。セパレータ112の数を変えることにより、負極111および正極113の間隔が変化する。すなわち、負極111および正極113の間に位置するセパレータ112の合計の厚さが変化する。図4A〜図4Cに示す例では、セパレータ112の数を、1〜3の間で変化させているが、これに限るものではない。セパレータ112の数は、適宜設定することができる。
【0060】
図4A〜図4Cに示す構成では、セパレータ112の数を異ならせているが、セパレータ112の厚さを異ならせてもよい。具体的には、厚さの異なる複数のセパレータ112を用意しておき、各セパレータ112を負極111および正極113の間に配置することもできる。厚さの異なる複数のセパレータ112では、厚さだけが異なっており、他の構成などは同一である。
【0061】
図4A〜図4Cに示す単電池11をそれぞれ用い、所定条件において、単電池11の抵抗を測定する。抵抗を測定する条件には、単電池11の温度およびSOCや、充電又は放電の時間などがあり、所定条件として、これらのパラメータが所定値に設定される。ここで、単電池11の温度は、0℃よりも低い値に設定される。単電池11に所定の電流を流して、単電池11の電圧を測定すれば、単電池11の抵抗を求めることができる。
【0062】
次に、図5に示すように、セパレータ112の数(厚さ)と、単電池11の抵抗とを座標軸とした座標系において、測定された抵抗値とセパレータ112の数との関係をプロットする。図5に示す座標系において、複数のポイント(測定値)をプロットすることにより、近似直線Lを得ることができる。
【0063】
式(16)に示す導電率κeffは、図5に示す近似直線Lの傾きから求めることができる。導電率κeffは、抵抗率の逆数である。抵抗率は、下記式(17)から求めることができる。
【0064】
【数8】

【0065】
ここで、ρは抵抗率[Ω・cm]であり、Rは、単電池11の抵抗値[Ω]である。Aは、セパレータ112の面積[cm2]であり、Dは、セパレータ112の合計の厚さ[cm]である。1つのセパレータ112を用いたとき、厚さDは、セパレータ112自体の厚さとなる。図4Bおよび図4Cに示すように、複数のセパレータ112を重ねたときには、厚さDは、セパレータ112自体の厚さに、セパレータ112の数を乗算した値となる。面積Aおよび厚さDは、予め測定しておくことができる。
【0066】
R/Dの値は、図5に示す近似直線Lの傾きとなる。R/Dの値に対して、面積Aを乗算すれば、抵抗率ρが求められる。抵抗率ρの逆数を算出すれば、導電率κeffが求められる。導電率κeffを求めれば、式(16)から、屈曲度τを求めることができる。
【0067】
一方、負極111、正極113およびセパレータ112の屈曲度τは、水銀ポロシメータを用いて測定することができる。セパレータ112の屈曲度τとしては、水銀ポロシメータを用いて取得した屈曲度τS1と、上述したように式(16)から算出される屈曲度τS2と、がある。
【0068】
ここで、水銀ポロシメータを用いて測定された負極111および正極113の屈曲度をτn1,τP1とする。また、セパレータ112の屈曲度τS2に対応する負極111および正極113の屈曲度をτn2,τP2とする。屈曲度τS1,τS2の比率から、下記式(18)および式(19)に示すように、負極111および正極113における屈曲度τn2,τP2を算出することができる。
【数9】

【0069】
式(18)および式(19)から算出された屈曲度(補正された屈曲度)τn2,τP2は、上述した電池モデル式(5)および電池モデル式(10)に示す屈曲度τとして用いられる。
【0070】
本実施例では、式(18)および式(19)に示すように、屈曲度τS1,τS2の比率から、屈曲度τn2,τP2を算出しているが、これに限るものではない。例えば、屈曲度τS1,τS2の差分Δτから、屈曲度τn2,τP2を算出することができる。具体的には、屈曲度τn1,τP1に対して、屈曲度τS1,τS2の差分Δτを加算して、屈曲度τn2,τP2を求めることができる。また、負極111および正極113に応じて、屈曲度τS1,τS2の差分Δτに重み付けを行い、重み付けを行った差分Δτを屈曲度τn1,τP1に加算することもできる。
【0071】
本実施例では、負極111および正極113における屈曲度τn1,τP1を補正しているが、これに限るものではない。具体的には、屈曲度τn1,τP1のうち、少なくとも一方の屈曲度を補正するだけでもよい。
【0072】
屈曲度τS1,τS2の比率又は差分に関する情報は、メモリ33に記憶することができる。電池ECU30(状態推定部31)は、メモリ33から、屈曲度τS1,τS2の比率又は差分に関する情報を取得して、負極111および正極113における屈曲度τn1,τP1を補正することができる。
【0073】
図6は、単電池11の温度と、単電池11の抵抗との関係を示す図である。単電池11の抵抗には、測定値としての抵抗(測定抵抗)と、計算値としての抵抗がある。計算値としての抵抗には、屈曲度τn1,τP1を補正せずに電池モデル式から算出される抵抗(第1計算抵抗)と、屈曲度τn1,τP1を補正して電池モデル式から算出される抵抗(第2計算抵抗)とがある。第1計算抵抗および第2計算抵抗は、予測される電圧挙動と、電流値とから算出される。第1計算抵抗および第2計算抵抗の算出方法は、屈曲度の補正に関して異なっているだけであり、他の算出工程は同一である。
【0074】
図6に示すように、単電池11の温度が低下するにつれて、第1計算抵抗は、測定抵抗からずれてしまう。特に、単電池11の温度が0℃よりも低いときには、第1計算抵抗は、測定抵抗から大きくずれてしまう。
【0075】
一方、第2計算抵抗は、測定抵抗に沿った値となる。このように、電池モデル式を用いて単電池11の内部状態を推定するときには、負極111および正極113における屈曲度τn1,τP1を補正することにより、計算抵抗を測定抵抗に沿った値に近づけることができる。特に、単電池11の温度が0℃よりも低いときには、測定抵抗に沿った計算抵抗を得ることができ、単電池11の内部状態を推定する精度を向上させることができる。すなわち、状態推定部31による状態推定値の推定精度を向上させることができるとともに、挙動推定部32による予測情報の推定精度を向上させることができる。
【符号の説明】
【0076】
10:組電池 11:単電池
111:負極 112:セパレータ
113:正極 114:活物質
115,117:集電板 116:負極端子
118:正極端子 21:電圧センサ
22:電流センサ 23:温度センサ
24:負荷 25a,25b:リレー
26:制御装置 30:電池ECU
31:状態推定部 32:挙動推定部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極および負極の間に、電解液を含むセパレータが配置された二次電池の状態を推定する推定装置であって、
前記二次電池に設けられたセンサによる検出結果と、前記二次電池の内部状態を動的に推定できる電池モデルとを用いて、前記二次電池の内部状態を特定する状態値を逐次的に推定する状態推定部を有し、
前記状態推定部は、測定された前記セパレータの屈曲度と、前記セパレータの厚さおよび前記二次電池の抵抗値の関係を示す実測値から算出される前記セパレータの屈曲度との差又は比を用いて、前記電池モデルのモデル式で用いられる前記正極又は前記負極の屈曲度を補正することを特徴とする推定装置。
【請求項2】
前記状態推定部によって推定された現時点の前記状態値を用いて、前記二次電池が所定電力を現時点から継続的に充放電するときの前記二次電池の電圧挙動を推定する挙動推定部を有することを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
測定された前記セパレータの屈曲度は、水銀ポロシメータを用いて測定された屈曲度であることを特徴とする請求項1又は2に記載の推定装置。
【請求項4】
前記状態推定部は、前記二次電池の温度が0℃よりも低いときに、前記正極又は前記負極の屈曲度を補正した値を用いて、前記状態値を推定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1つに記載の推定装置。
【請求項5】
前記差又は前記比に関する情報を記憶するメモリを有することを特徴とする請求項1から4のいずれか1つに記載の推定装置。
【請求項6】
正極および負極の間に、電解液を含むセパレータが配置された二次電池の状態を推定する推定方法であって、
前記二次電池に設けられたセンサによる検出結果と、前記二次電池の内部状態を動的に推定できる電池モデルとを用いて、前記二次電池の内部状態を特定する状態値を逐次的に推定し、
測定された前記セパレータの屈曲度と、前記セパレータの厚さおよび前記二次電池の抵抗値の関係を示す実測値から算出される前記セパレータの屈曲度との差又は比を用いて、前記電池モデルのモデル式で用いられる前記正極又は前記負極の屈曲度を補正することを特徴とする推定方法。
【請求項7】
推定された現時点の前記状態値を用いて、前記二次電池が所定電力を現時点から継続的に充放電するときの前記二次電池の電圧挙動を推定することを特徴とする請求項6に記載の推定方法。
【請求項8】
水銀ポロシメータを用いて、前記セパレータの屈曲度を測定することを特徴とする請求項6又は7に記載の推定方法。
【請求項9】
前記二次電池の温度が0℃よりも低いときに、前記正極又は前記負極の屈曲度を補正した値を用いて、前記状態値を推定することを特徴とする請求項6から8のいずれか1つに記載の推定方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−51150(P2013−51150A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−189083(P2011−189083)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】