説明

換気構造及び遮熱通気性部材

【課題】室内環境を良好に保ちつつ、換気効率を向上できる建物の換気構造及び通気性部材を提供する。
【解決手段】室内空間を通気性部材1で間仕切って形成され、かつ採光部2を有する緩衝空間4を備えた換気構造で室内を換気する。この換気構造は、緩衝空間4に形成された排気口3と、室内空間に形成された給気口7とを利用して自然換気を行う。前記排気口3の平均口径は30mm以下である。前記緩衝空間4の体積は、室内空間に対して1〜30体積%程度である。前記通気性部材1は、湿熱接着性繊維を含み、この湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された不織繊維構造体で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物(建築物又は建造物)を換気するための換気構造、換気方法及び遮熱通気性部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建物の換気の方法としては、自然換気、第一種機械換気、第二種機械換気、第三種機械換気が知られている。機械換気は、機械的に給気及び/又は排気を行う方法であるの対して、自然換気は、室内外の温度差や風圧といった自然エネルギーによって換気を行う方法である。このような自然換気は、省エネルギーであり、かつ故障も少ないという特徴を有する反面、条件によっては換気量が不足するといった欠点を有している。
【0003】
自然換気における欠点を解消するため、例えば、特開2004−308312号公報(特許文献1)には、屋内外の温度差を利用して、部屋の壁面に形成した一方の自然換気用の開口部から室内へ外気を取り入れるとともに、部屋の壁面に形成した他方の自然換気用の開口部から室内の空気を排出する自然換気システムが提案されている。このシステムでは、空気の入り口と出口となる2箇所の開口部を所定の面積でかつ所定の間隔をあけて設けることにより、室内の有害化学物質を有効に除去できるとともに、防犯上の問題も解決している。
【0004】
しかし、この自然換気システムでは、充分な換気を行うためには、開口部の面積を大きくせざるを得ない。さらに、開口部が幅広に形成されているため、雨水や雪などが室内に侵入し易い。
【0005】
自然換気のための開口部から雨水や雪が室内に侵入するのを防ぐ通風装置として、特開2005−57213号公報(特許文献2)には、分電盤や配電盤などの電気機器ボックスに適用される換気用の通風装置において、ボックスの外壁に設けられ、かつ防塵防虫用フィルターを備えた取付開口が、外面側から覆うルーバー板で覆われた装置が提案されている。
【0006】
しかし、この通風装置では、十分な換気を行うためには、開口部の面積を大きくする必要がある。従って、この装置を建物に適用する場合、窓以外に大きな通風装置を設置することになり、設置部位が限定されるとともに、高価な装置とならざるを得ない。
【0007】
なお、国際公開WO2007/116676号公報(特許文献3)には、湿熱接着性繊維を含む不織繊維集合体を高温水蒸気で加熱処理することにより、不織繊維構造を有し、かつ厚み方向に均一な接着率で湿熱接着性繊維が融着した硬質の成形体が製造されている。この文献には、前記硬質成形体が建材用ボードとして利用できることが記載されている。
【0008】
しかし、この文献には、換気構造及び換気構造に使用される部材のいずれについても記載されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2004−308312号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開2005−57213号公報(請求項1、段落[0001])
【特許文献3】国際公開WO2007/116676号公報(請求の範囲、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、室内環境を良好に保ちつつ、換気効率を向上できる建物の換気構造、換気方法及び通気性部材を提供することにある。
【0011】
本発明の他の目的は、太陽光の当たる室内の温度を過度に上昇させることなく、効率良く自然換気できる建物の換気構造、換気方法及び通気性部材を提供することにある。
【0012】
本発明のさらに他の目的は、小さい換気口でも効率良く自然換気できる建物の換気構造、換気方法及び通気性部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、室内空間を通気性部材で間仕切って形成した緩衝空間を利用すると、室内環境を良好に保ちつつ、換気効率を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
すなわち、本発明の換気構造は、室内空間が通気性部材で仕切られ、かつ採光部を有する緩衝空間を備えている。前記通気性部材は、湿熱接着性繊維を含み、この湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された不織繊維構造体で構成されていてもよい。前記不織繊維構造体は、下記(1)〜(7)の特性を有する不織繊維構造体で構成されていてもよい。
【0015】
(1)湿熱接着性繊維が、繊維表面において長さ方向に連続する湿熱接着性樹脂を含み、かつ前記湿熱接着性繊維が、エチレン単位の含有量が5〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体である
(2)見掛け密度が0.05〜3g/cmである
(3)通気度が5cm/(cm・秒)以上である
(4)熱貫流率が0.5〜15W/(m・K)である
(5)厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域における繊維接着率がいずれも3〜85%であり、かつ各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合が50%以上である
(6)少なくとも一方向における最大曲げ応力が0.05MPa以上であり、最大曲げ応力を示す曲げ量に対して1.5倍の曲げ量における曲げ応力が、最大曲げ応力に対して1/5以上である
(7)厚みが5〜15mmである。
【0016】
本発明の換気構造は、自然換気を行うための構造であり、採光部の上部に形成された排気口を有し、通気性部材を介して緩衝空間に隣接する室内空間の壁面下部に形成された給気口を有する構造であってもよい。前記排気口の平均口径は500mm以下であってもよい。前記緩衝空間の体積は、室内空間に対して1〜30体積%程度であってもよい。
【0017】
本発明には、室内空間を間仕切って採光部を有する緩衝空間を形成するための遮熱通気性部材であって、湿熱接着性繊維を含み、この湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された不織繊維構造体で構成されているとともに、通気度が10〜100cm/(cm・秒)であり、かつ熱貫流率が1〜10W/(m・K)である遮熱通気性部材も含まれる。さらに、本発明には、前記遮熱通気性部材を用いて建物を換気する方法も含まれる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、室内空間を通気性部材で間仕切って形成した緩衝空間を利用することにより、建物における室内環境を良好に保ちつつ、室内の換気効率を向上できる。詳しくは、充分な換気を行いながら、室内の温度が極度に上昇したり、室内の明度が大きく低下したり、換気により偏った気流が発生せずに、室内を快適な状態に保持できる。なお、特定の不織繊維構造体で構成された通気性部材を利用すると、高い遮音及び断熱効果も発現できる。
【0019】
特に、西日や夏場の太陽光が当たる室内の温度を過度に上昇させることなく、効率良く自然換気できるため、機械換気に比べて、エネルギーの節約となる。
【0020】
また、小さい換気口でも効率良く自然換気できるため、防水及び防犯のための手段を設ける必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】図1は、本発明の建物の換気構造の一例を示す概略斜視図である。
【図2】図2は、実施例におけるモデルルーム側面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[建物の換気構造]
本発明の建物の換気構造は、室内空間が通気性部材で仕切られ、かつ採光部を有する緩衝空間を備えている。本発明では、採光部を通じて取り入れた光(日光など)により上昇した緩衝空間の温度と室温との温度差を利用して重力換気を行う。図1は、本発明の建物の換気構造の一例を示す概略斜視図である。なお、この図では、天井面及び一部の壁面を省略している。
【0023】
図1では、一辺2000〜3000mm程度の略立方体(正六面体)状の室内が、不織繊維構造体で形成された板状の通気性部材1によって緩衝空間4と居室5とに仕切られている。緩衝空間4の壁面には、採光部2として、ガラスで構成された引き違い窓が形成され、さらに採光部2の上部には排気口3が形成されている。居室5には、入退室のためのドア6と、ドアの下端と床との間に10mm程度の隙間を設けることにより、給気口7とが形成されている。緩衝空間4と居室5との体積比は、前者/後者=3/97〜10/90(例えば、5/95)程度である。
【0024】
通気性部材1を構成する不織繊維構造体は、湿熱接着性繊維が高温水蒸気で融着した硬質ボードであり、厚みが5〜20mm程度で、高い通気性を有している。
【0025】
緩衝空間2において、採光部2は、壁面に対して60〜70%程度の面積を占有している。さらに、排気口5は、採光部の面積に対して1/200〜1/400(例えば、1/300)程度の面積(口径75〜125mm(例えば、100mm)程度)を占有している。
【0026】
この換気構造では、採光部2を通じて太陽光が照射されると、緩衝空間4内の温度が上昇し、居室5の室温との温度差を生じる。この温度差により空気の膨張及び対流による空気の流れが発生し、高温の空気が緩衝空間4の上方に移動して排気口3より外部に排出される。一方、高温の空気の屋外への排気に伴って、居室5の低温の空気が通気性部材1を通じて緩衝空間2に供給されるとともに、給気口7から居室5に新たな空気が供給され、重力換気が行われる。さらに、居室5から緩衝空間4に供給された低温の空気は、緩衝空間4で暖められることにより、太陽光が照射している間、このような空気の循環が継続される。
【0027】
特に、通気性部材1は、前述の不織繊維構造体で構成されているため、高い断熱性を有しており、遮熱通気性部材として機能する。従って、緩衝空間4の温度の上昇に伴った居室5の室温の上昇を抑制できるとともに、居室5から緩衝空間4への空気の流れを作り出している。さらに、通気性部材1の断熱性により、緩衝空間の温度が上昇しても、居室5の室温の上昇は抑制されるため、夏期における居室を良好な状態に保持できる。
【0028】
通気性部材1は、高い通気性を有するとともに、フィルター機能を有しているため、緩衝空間4からの塵埃、虫、花粉などの侵入を抑制できる。また、通気性部材1は、緩衝空間4と居室5とを間仕切る壁面の略全体に亘り形成されているため、換気効率を向上できるともに、居室空間で偏った気流の発生が抑制されるため、居室を快適な状態に保持できる。さらに、通気性部材1は、採光部2の内側に形成されているため、防水や防犯を配慮する必要もない。
【0029】
排気口(又は排気孔)3は、採光部3の上部に形成されているため、高温の空気を屋外に効率良く排気できる。さらに、壁面の上部に形成されるとともに、口径が100mm程度と小さいため、排気口を軒下に形成することにより、特別な防水手段を設けなくても雨水の浸入を防止できる。
【0030】
給気口(又は給気孔)7は、壁面の下部に形成されているため、低温の空気を居室5に効率良く給気できる。
【0031】
本発明の換気構造では、緩衝空間の温度の上昇を利用するため、夏期や西日のように、太陽光からの熱エネルギーが大きく、緩衝空間の温度が高いほど、換気量も増加する。従って、排熱が要求される夏期の日射に対して特に有効である。さらに、冬期であっても、冷却された採光部(窓ガラス)と居室との間に、緩衝空間が存在するため、採光面からのコールドドラフトも防止できる。
【0032】
[緩衝空間]
緩衝空間は、室内を通気性部材で間仕切って形成され、採光部と通気性部材とで区画された空間であり、採光部を有し、かつ通気性部材を介して緩衝空間に隣接する空間(居室など)と実質的に通気性部材のみを通して通気可能であれば特に限定されない。
【0033】
緩衝空間の体積割合は、室内空間に対して0.1〜50体積%程度の範囲から選択でき、例えば、1〜30体積%、好ましくは2〜20体積%、さらに好ましくは3〜10体積%(特に5〜10体積%)程度である。緩衝空間の体積割合をこの範囲にすることにより、室内の状態を良好に保持しつつ、効率的な換気を行うことができる。
【0034】
さらに、採光部や室内空間の大きさにもよるが、一般家屋において、壁面に対して50〜70面積%程度の採光部が形成されている場合、採光部と通気性部材との間隔(距離)は、1〜2000mm程度の範囲から選択でき、緩衝空間内での気流を確保するため、例えば、3〜1000mm、好ましくは5〜500mm、さらに好ましくは7〜100mm(特に8〜50mm)程度である。本発明では、緩衝空間をこのような範囲にすることにより、緩衝空間の温度を迅速に上昇することでき、効率的に換気できる。さらに、この間隔を大きめ、例えば、300mm以上、好ましくは500〜100mm程度とすることにより、緩衝空間を縁側として利用することも可能である。
【0035】
(採光部)
採光部は、日光を透過可能であれば、開閉可能な窓に限定されず、開閉不能な窓や透明な壁面であってもよい。開閉可能な窓としては、例えば、引き違い窓、片引き窓、引き込み窓、両引き窓などが挙げられる。
【0036】
採光部は、緩衝空間の壁面のうち、通気性部材で構成された壁面を除く壁面に形成されていればよく、複数の壁面に形成されてもよいが、通常、最も面積の大きい壁面に形成される。また、採光部は、直達日射を採光するための窓に限定されず、天空日射を採光するための天窓であってもよい。さらに、採光部を形成する方位も特に限定されず、用途に応じて選択でき、例えば、西日による温度上昇を抑制する場合は、西側に形成すればよい。採光部の材質は、透明材であればよく、ガラスに限定されず、透明プラスチックであってもよい。
【0037】
採光部が壁面を占める面積は、例えば、10〜100%程度の範囲から選択できるが、緩衝空間の換気効率を向上させる点から、例えば、30〜99%、好ましくは40〜95%、さらに好ましくは50〜90%(特に60〜80%)程度である。
【0038】
(排気口)
排気口(排気孔)は、採光部と独立して別途設ける必要はなく、前記採光部が開閉可能な窓の場合、窓を部分的又は全体的に開けることにより、排気口の代わりとしてもよいが、防犯や防水などの点から、排気口を形成するのが好ましい。さらに、排気口に換気扇などを配設して機械換気してもよいが、省エネルギーの観点から、重力換気による自然換気が好ましい。
【0039】
排気口は、緩衝空間のうち、通気性部材で構成された室内空間を間仕切るための壁面以外の壁面、天井面又は床面に形成されていればよいが、暖められた空気を有効に屋外に排気できる点、防水及び防犯にも有効な点から、前記壁面の上部又は天井面(特に、前記壁面の上部)に形成されているのが好ましい。
【0040】
排気口の形状は、特に限定されず、円形状(真円、楕円、長円形状など)、多角形状(例えば、正方形状、長方形状など)、線状又はスリット状などが挙げられる。
【0041】
排気口の平均口径(異方形状の場合、長径と短径との平均口径)は、緩衝空間及び室内空間の大きさにもよるが、一般家屋の場合、500mm以下であってもよく、例えば、400mm以下(例えば、5〜400mm)、好ましくは10〜300mm、さらに好ましくは30〜200mm(特に50〜150mm)程度であってもよい。平均口径がこの範囲にあると、換気効率を充分に確保しながら、防犯及び防水に対しても有効である。排気口の数は、複数であってもよいが、簡便性の点から、通常、1個である。
【0042】
排気口には、塵埃、虫、花粉などの侵入を防ぐために、ネット状体(例えば、金網、プラスチック網など)、後述する通気材として使用可能な繊維構造体や多孔質体などをフィルターとして装着してもよい。
【0043】
(通気性部材)
通気性部材は、全面が通気性を有する材質(通気材)で形成されていてもよく、一部の面において通気材で形成されていてもよい。通気性部材の一部の面が通気質で形成されている場合、通気材の通気度にもよるが、通気性部材における通気材の占有面積は、例えば、50%以上(例えば、50〜100%)、好ましくは60%以上(例えば、60〜95%)、さらに好ましくは70%以上(例えば、70〜90%)程度である。
【0044】
通気性部材の形状は板状であるが、表面が平滑な板状に限定されず、通気面積を向上させる点から、蛇腹構造、プリーツ折り構造、エンボス構造などの表面形状を有していてもよく、さらに断熱性を向上させる点から、内部に空洞を有する形状、例えば、一方の横断面(厚み方向断面)形状がハニカム構造である中空形状などであってもよい。
【0045】
通気性部材は、開閉可能な戸としてもよく、例えば、引き違い戸、片引き戸、引き込み戸、両引き戸などが挙げられる。通気性部材の一部を通気材で形成する場合には、通気材で形成された部分を、前記開閉可能な戸としてもよい。通気性部材は通気材と非通気材との組み合わせであてもよく、非通気材としては、慣用の建材、例えば、無機板(例えば、石膏ボード、珪酸カルシウム板など)、金属板(例えば、アルミニウム板、ステンレススチール、鋼板など)、木質系ボード[例えば、無垢材、合板(積層木質ボード)、木質繊維ボード(MDF)など]、合成樹脂板[例えば、ポリエチレン板、ポリプロピレン板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニル樹脂板(塩ビ樹脂板)、ポリメタクリル酸メチル板(アクリル樹脂板)、ポリエステル板、ポリカーボネート樹脂板、ポリアミド樹脂板など]などで構成してもよい。また、これらの材質で構成された柱状物が、戸のフレームや桟材などとして使用されていてもよい。さらに、通気性部材に高度な透光性が要求される場合には、部分的にガラスや透明プラスチックなどの透明材で構成されていてもよい。
【0046】
通気材と非通気材との組み合わせにおいて、両者を固定(接合)する場合(例えば、通気材に対して、非通気材で枠や桟を形成して戸を形成する場合など)、両者の固定(接合)方法は、慣用の方法、例えば、接着剤又は粘着剤を用いる方法、固定具を用いる方法などであってもよい。
【0047】
接着剤又は粘着剤を用いる方法において、接着剤又は粘着剤は、慣用の接着剤又は粘着剤を利用できる。接着剤としては、デンプンやカゼインなどの天然高分子系接着剤、ポリ酢酸ビニルなどのビニル系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤などの熱可塑性樹脂系接着剤、エポキシ樹脂などの熱硬化性樹脂系接着剤などが挙げられる。粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤などの熱可塑性樹脂系粘着剤などが挙げられる。接着剤及び粘着剤は、使用箇所に応じて、異なる種類の接着剤又は粘着剤を使用してもよい。
【0048】
固定具を用いる方法としては、枠材を用いて両材の外側から固定する方法、釘、ビス、ボルトなどの係合手段を用いる方法、粘着テープを用いる方法、面ファスナーを用いる方法などが挙げられる。
【0049】
例えば、各種の通気材と非通気材とを組み合わせて固定して、慣用の障子戸のように、容易に開閉可能な引き違い戸を作製してもよい。
【0050】
通気性部材を構成する通気材は、室内の空気を緩衝空間に通気可能な通気度を有していればよく、例えば、フラジール形法による通気度が1cm/(cm・秒)以上[例えば、1〜300cm/(cm・秒)]であればよく、室内の温度を低く保持し、かつ高い換気量で換気できる点から、例えば、5〜200cm/(cm・秒)、好ましくは10〜100cm/(cm・秒)、さらに好ましくは15〜50cm/(cm・秒)[特に、20〜40cm/(cm・秒)]程度である。通気度が小さすぎると、十分な換気量が得られ難くなり、一方、通気度が大きすぎると、断熱効果が低下するため、緩衝空間度と室内空間との温度差を形成し難くなる。
【0051】
通気材の孔径は、前記通気度を充足すればよく、特に限定されないが、通気性部材のフィルターを発現する点から、通気材の平均孔径は、25メッシュ以下(径1mm以下)とするのが好ましく、2.5メッシュ以下とするのがさらに好ましい。25メッシュ以下とすれば、蚊などの虫の侵入を防止でき、2.5メッシュ以下とすれば、花粉の侵入を防止できる。
【0052】
このような通気度を有する通気材としては、例えば、繊維構造体、シート状成形体の多孔体が挙げられる。これらのうち、繊維構造体としては、例えば、合成繊維(例えば、オレフィン系繊維、アクリル系繊維、ビニル系繊維、ポリアミド繊維、ポリエステル繊維など)、半合成繊維(例えば、レーヨンなど)、天然繊維(例えば、綿、麻、絹など)、無機繊維(例えば、ガラス繊維、炭素繊維など)などの繊維で構成された織布又は不織布、編布、パルプや前記合成繊維で構成された紙類などが挙げられる。これらの通気材は、通気性を損なわない範囲で、複数の通気材を積層などにより組み合わせて使用してもよい。さらに、通気材は、さらに、市販の断熱材であるカーテン(遮光カーテンなど)、ハニカムサーモスクリーン、障子などであってもよい。
【0053】
通気材は、所定の断熱性を有しているのが好ましく、例えば、熱貫流率が30W/(m・K)以下、好ましくは0.1〜20W/(m・K)(例えば、0.5〜15W/(m・K))、さらに好ましくは1〜10W/(m・K)(特に2〜5W/(m・K))程度である。通気材の熱貫流率がこの範囲にあると、通気部材は、遮熱通気部材として、緩衝空間で上昇した温度が室内に伝導されるのが抑制され、室内を快適な空間に保持できるとともに、重力換気を促進し、換気効率も向上できる。すなわち、このような通気材を使用すると、換気及び断熱の相乗効果により室内空間の温度が低く保持される。
【0054】
(不織繊維構造体)
本発明では、前記通気材のうち、前記通気度及び熱貫流率を充足する繊維構造体として、湿熱接着性繊維を含み、この湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された不織繊維構造体が好ましい。
【0055】
このような不織繊維構造体は、湿熱接着性繊維を含み、かつ不織繊維構造を有する硬質な成形体である。さらに、本発明における不織繊維構造体は、前記湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定されており、前記通気性及び断熱性に加えて、繊維構造に特有の高い吸音性、衝撃吸収性を有するとともに、不織繊維構造を構成する繊維の配列と、この繊維同士の接着状態を調整することにより、通常の不織布では得られない曲げ挙動と軽量性とを両立し、さらに折れ難く、形態保持性をも同時に確保している。
【0056】
このような不織繊維構造体は、後述するように、前記湿熱接着性繊維を含むウェブに高温(過熱又は加熱)水蒸気を作用させて、湿熱接着性繊維の融点以下の温度で接着作用を発現し、繊維同士を部分的に接着させることにより得られる。すなわち、単繊維及び束状集束繊維同士を湿熱下、適度に小さな空隙を保持しながら、いわば「スクラム」を組むように点接着又は部分接着させて得られる。
【0057】
湿熱接着性繊維は、少なくとも湿熱接着性樹脂で構成されている。湿熱接着性樹脂は、高温水蒸気によって容易に実現可能な温度において、流動又は容易に変形して接着機能を発現可能であればよい。具体的には、熱水(例えば、80〜120℃、特に95〜100℃程度)で軟化して自己接着又は他の繊維に接着可能な熱可塑性樹脂、例えば、エチレン−ビニルアルコール共重合体などのビニルアルコール系重合体、ポリ乳酸などのポリ乳酸系樹脂、(メタ)アクリルアミド単位を含む(メタ)アクリル系共重合体などが挙げられる。さらに、高温水蒸気により容易に流動又は変形して接着可能なエラストマー(例えば、ポリオレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマーなど)などであってもよい。これらの湿熱接着性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、特に、エチレンやプロピレンなどのα−C2−10オレフィン単位を含むビニルアルコール系重合体、特に、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が好ましい。
【0058】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体において、エチレン単位の含有量(共重合割合)は、例えば、5〜60モル%(例えば、10〜60モル%)、好ましくは20〜55モル%、さらに好ましくは30〜50モル%程度である。エチレン単位がこの範囲にあることにより、湿熱接着性を有するが、熱水溶解性はないという特異な性質が得られる。エチレン単位の割合が少なすぎると、エチレン−ビニルアルコール系共重合体が、低温の蒸気(水)で容易に膨潤又はゲル化し、水に一度濡れただけで形態が変化し易い。一方、エチレン単位の割合が多すぎると、吸湿性が低下し、湿熱による繊維融着が発現し難くなるため、実用性のある強度の確保が困難となる。エチレン単位の割合が、特に30〜50モル%の範囲にあると、シート又は板状への加工性が特に優れる。
【0059】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体におけるビニルアルコール単位のケン化度は、例えば、90〜99.99モル%程度であり、好ましくは95〜99.98モル%、さらに好ましくは96〜99.97モル%程度である。ケン化度が小さすぎると、熱安定性が低下し、熱分解やゲル化によって安定性が低下する。一方、ケン化度が大きすぎると、繊維自体の製造が困難となる。
【0060】
エチレン−ビニルアルコール系共重合体の粘度平均重合度は、必要に応じて選択できるが、例えば、200〜2500、好ましくは300〜2000、さらに好ましくは400〜1500程度である。重合度がこの範囲にあると、紡糸性と湿熱接着性とのバランスに優れる。
【0061】
湿熱接着性繊維の横断面形状(繊維の長さ方向に垂直な断面形状)は、一般的な中実断面形状である丸型断面や異型断面[偏平状、楕円状、多角形状など]に限定されず、中空断面状などであってもよい。湿熱接着性繊維は、少なくとも湿熱接着性樹脂を含む複数の樹脂で構成された複合繊維であってもよい。複合繊維は、湿熱接着性樹脂を少なくとも繊維表面の一部に有していればよいが、接着性の点から、繊維表面において長さ方向に連続する湿熱接着性樹脂を有するのが好ましい。湿熱接着性樹脂の被覆率は、例えば、50%以上、好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0062】
湿熱接着性樹脂が表面を占める複合繊維の横断面構造としては、例えば、芯鞘型、海島型、サイドバイサイド型又は多層貼合型、放射状貼合型、ランダム複合型などが挙げられる。これらの横断面構造のうち、接着性が高い構造である点から、湿熱接着性樹脂が繊維の全表面を被覆する構造である芯鞘型構造(すなわち、鞘部が湿熱接着性樹脂で構成された芯鞘型構造)が好ましい。芯鞘型構造は、他の繊維形成性重合体で構成された繊維の表面に湿熱接着性樹脂をコーティングした繊維であってもよい。
【0063】
複合繊維の場合、湿熱接着性樹脂同士を組み合わせてもよいが、非湿熱接着性樹脂と組み合わせてもよい。非湿熱接着性樹脂としては、非水溶性又は疎水性樹脂、例えば、ポリオレフィン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリウレタン系樹脂、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。これらの非湿熱接着性樹脂は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0064】
これらの非湿熱接着性樹脂のうち、耐熱性及び寸法安定性の点から、融点が湿熱接着性樹脂(特にエチレン−ビニルアルコール系共重合体)よりも高い樹脂、例えば、ポリプロピレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、特に、耐熱性や繊維形成性などのバランスに優れる点から、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂が好ましい。
【0065】
ポリエステル系樹脂としては、ポリC2−4アルキレンアリレート系樹脂などの芳香族ポリエステル系樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなど)、特に、PETなどのポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましい。ポリエチレンテレフタレート系樹脂は、エチレンテレフタレート単位の他に、他のジカルボン酸(例えば、イソフタル酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、フタル酸、4,4′−ジフェニルジカルボン酸、ビス(カルボキシフェニル)エタン、5−ナトリウムスルホイソフタル酸など)やジオール(例えば、ジエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなど)で構成された単位を20モル%以下程度の割合で含んでいてもよい。
【0066】
ポリアミド系樹脂としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド10、ポリアミド12、ポリアミド6−12などの脂肪族ポリアミドおよびその共重合体、芳香族ジカルボン酸と脂肪族ジアミンとから合成された半芳香族ポリアミドなどが好ましい。これらのポリアミド系樹脂にも、共重合可能な他の単位が含まれていてもよい。
【0067】
湿熱接着性樹脂と非湿熱接着性樹脂(繊維形成性重合体)とで構成された複合繊維の場合、両者の割合(質量比)は、構造(例えば、芯鞘型構造)に応じて選択でき、湿熱接着性樹脂が表面に存在すれば特に限定されないが、例えば、湿熱接着性樹脂/非湿熱接着性樹脂=90/10〜10/90、好ましくは80/20〜15/85、さらに好ましくは60/40〜20/80程度である。湿熱接着性樹脂の割合が多すぎると、繊維の強度を確保し難く、湿熱接着性樹脂の割合が少なすぎると、繊維表面の長さ方向に連続して湿熱接着性樹脂を存在させるのが困難となり、湿熱接着性が低下する。この傾向は、湿熱接着性樹脂を非湿熱接着性繊維の表面にコートする場合においても同様である。
【0068】
湿熱接着性繊維の平均繊度は、用途に応じて、例えば、0.01〜100dtex程度の範囲から選択でき、好ましくは0.1〜50dtex、さらに好ましくは0.5〜30dtex(特に1〜10dtex)程度である。平均繊度がこの範囲にあると、繊維の強度と湿熱接着性の発現とのバランスに優れる。
【0069】
湿熱接着性繊維の平均繊維長は、例えば、10〜100mm程度の範囲から選択でき、好ましくは20〜80mm、さらに好ましくは25〜75mm程度である。平均繊維長がこの範囲にあると、繊維が充分に絡み合うため、繊維構造体の機械的強度が向上する。
【0070】
湿熱接着性繊維の捲縮率は、例えば、1〜50%、好ましくは3〜40%、さらに好ましくは5〜30%程度である。また、捲縮数は、例えば、1〜100個/25mm、好ましくは5〜50個/25mm、さらに好ましくは10〜30個/25mm程度である。
【0071】
不織繊維構造体は、前記湿熱接着性繊維に加えて、さらに非湿熱接着性繊維を含んでいてもよい。非湿熱接着性繊維としては、前記複合繊維を構成する非湿熱接着性樹脂で構成された繊維の他、セルロース系繊維(例えば、レーヨン繊維、アセテート繊維など)などが挙げられる。これらの非湿熱接着性繊維は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの非湿熱接着性繊維は、目的の特性に応じて選択でき、レーヨンなどの半合成繊維と組み合わせると、相対的に高密度で強度の大きい成形体が得られる一方、ポリエステル系繊維やポリアミド系繊維などの疎水性繊維と組み合わせると、繊維間の空隙が増大し、かつ融着していない繊維が増加するため、柔軟性や吸音性の高い成形体が得られる。
【0072】
湿熱接着性繊維と非湿熱接着性繊維との割合(質量比)は、通気性部材の種類や用途に応じて、湿熱接着性繊維/非湿熱接着性繊維=100/0〜20/80(例えば、99/1〜20/80)、好ましくは100/0〜50/50(例えば、95/5〜50/50)、さらに好ましくは100/0〜70/30程度である。湿熱接着性繊維の割合が少なすぎると、硬度の確保が困難となり、成形体としての取り扱い性の保持が困難となる。
【0073】
繊維構造体(又は繊維)は、さらに、慣用の添加剤、例えば、安定剤(銅化合物などの熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、分散剤、増粘剤、微粒子、着色剤、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、潤滑剤、結晶化速度遅延剤、滑剤、抗菌剤、防虫・防ダニ剤、防カビ剤、つや消し剤、蓄熱剤、香料、蛍光増白剤、湿潤剤、可塑剤などを含有していてもよい。これらの添加剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの添加剤は、構造体表面に担持されていてもよく、繊維中に含まれていてもよい。
【0074】
なお、不織繊維構造体は、難燃性が要求される場合、難燃剤を添加するのが効果的である。難燃剤は、慣用の無機系難燃剤や有機系難燃剤を使用でき、汎用され且つ難燃効果の高いハロゲン系難燃剤やリン系難燃剤であってもよいが、ハロゲン系難燃剤は燃焼時のハロゲンガスの発生に伴う酸性雨の問題を有し、リン系難燃剤は加水分解によるリン化合物流出に伴う湖沼の富栄養化の問題を有している。従って、本発明では、難燃剤としては、これらの問題を回避し、高い難燃性を発揮できる点から、ホウ素系難燃剤及び/又はケイ素系難燃剤を用いるのが好ましい。
【0075】
ホウ素系難燃剤としては、例えば、ホウ酸(オルトホウ酸、メタホウ酸など)、ホウ酸塩[例えば、四ホウ酸ナトリウムなどのアルカリ金属ホウ酸塩、メタホウ酸バリウムなどのアルカリ土類金属塩、ホウ酸亜鉛などの遷移金属塩など]、縮合ホウ酸(塩)(ピロホウ酸、四ホウ酸、五ホウ酸、八ホウ酸又はこれらの金属塩など)などが挙げられる。これらのホウ素系難燃剤は、含水物(例えば、含水四ホウ酸ナトリウムであるホウ砂など)であってもよい。これらのホウ素系難燃剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0076】
ケイ素系難燃剤としては、例えば、ポリオルガノシロキサンなどのシリコーン化合物、シリカやコロイダルシリカなどの酸化物、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、アルミノケイ酸マグネシウムなどの金属ケイ酸塩などが挙げられる。
【0077】
これらの難燃剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの難燃剤のうち、ホウ酸やホウ砂などのホウ素系難燃剤を主成分とするのが好ましい。特に、ホウ酸とホウ砂とを組み合わせるのが好ましく、両者の割合(質量比)は、ホウ酸/ホウ砂=90/10〜10/90、好ましくは60/40〜30/70程度である。ホウ酸及びホウ砂は、水溶液として難燃加工に供してもよく、例えば、水100質量部に対して、ホウ酸を10〜35質量部及びホウ砂を15〜45質量部程度加えて溶解させて水溶液に調製してもよい。
【0078】
難燃剤の割合は、不織繊維構造体の用途に応じて選択すればよく、例えば、不織繊維構造体の全質量に対して、例えば、1〜300質量%、好ましくは5〜200質量%、さらに好ましくは10〜150質量%程度であり、経済性などの点から、1〜30質量%(特に1〜15質量%)程度であってもよい。
【0079】
難燃化の方法としては、慣用のディップ−ニップ加工と同様にして、繊維構造体に難燃剤を含有する水溶液やエマルジョンを含浸又は噴霧した後に乾燥させる方法、繊維紡糸時に二軸押出機などで難燃剤を混練した樹脂を押出して紡糸し、この繊維を用いる方法などを使用できる。
【0080】
(不織繊維構造体の特性)
不織繊維構造体において、高い硬度(形態安定性)を有するとともに、吸音性と軽量(低密度)性とをバランスよく備えた不織繊維構造を有するためには、前記不織繊維のウェブを構成する繊維の配列状態及び接着状態が適度に調整されている必要がある。すなわち、繊維ウェブを構成する繊維が、概ね繊維ウェブ(不織繊維)面に対して平行に配列しながら、お互いに交差するように各繊維が配列して交点で融着しているのが好ましい。特に、高い形態安定性が要求される繊維構造体は、交点以外の繊維が略平行に並んでいる部分において、数本〜数十本程度で束状に融着した束状融着繊維を形成していてもよい。これらの繊維が、単繊維同士の交点、束状繊維同士の交点、又は単繊維と束状繊維との交点において融着した構造を部分的に形成することにより、「スクラム」を組んだような構造(繊維が交点部で接着し、網目のように絡み合った構造、又は交点で繊維が接着し隣接する繊維を互いに拘束する構造)とし、目的とする曲げ挙動や表面硬度などを発現させることができる。本発明では、このような構造が、繊維ウェブの面方向及び厚み方向に沿って概ね均一に分布するような形態とするのが望ましい。本発明では、繊維が振動可能な構造に保持されているため、優れた吸音性を示すとともに、交点での融着により、優れた機械的特性も有している。従って、通気性部材からの屋外の騒音に対しても遮音効果を示し、室内空間を快適な状態に保持できる。
【0081】
ここでいう「概ね繊維ウェブ面に対し平行に配列している」とは、局部的に多数の繊維が厚み方向に沿って配列している部分が繰り返し存在するようなことがない状態を示す。より具体的には、構造体の繊維ウェブにおける任意の断面を顕微鏡観察した際に、繊維ウェブでの厚さの30%以上に亘り、厚み方向に連続して延びる繊維の存在割合(本数割合)が、その断面における全繊維に対して10%以下(特に5%以下)である状態をいう。
【0082】
さらに、不織繊維構造体において、不織繊維構造を構成する繊維が前記湿熱接着性繊維の融着による繊維接着率は3〜85%、好ましくは5〜60%、さらに好ましくは5〜50%程度である。本発明では、このような範囲で繊維が接着されているため、繊維構造体が高い通気性と断熱性とを有している。
【0083】
本発明における繊維接着率は、後述する実施例に記載の方法で測定できるが、不織繊維断面における全繊維の断面数に対して、2本以上接着した繊維の断面数の割合を示す。従って、繊維接着率が低いことは、複数の繊維同士が融着する割合(集束して融着した繊維の割合)が少ないことを意味する。
【0084】
本発明では、さらに、不織繊維構造を構成する繊維は、各々の繊維の接点で接着しているが、できるだけ少ない接点数で大きな曲げ応力を発現するためには、この接着点が、厚み方向に沿って、繊維構造体表面から内部(中央)、そして裏面に至るまで、均一に分布しているのが好ましい。接着点が表面又は内部などに集中すると、優れた機械的特性及び成形性を確保するのが困難となるだけでなく、接着点の少ない部分における形態安定性が低下する。
【0085】
従って、繊維構造体の厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域における繊維接着率がいずれも前記範囲にあるのが好ましい。さらに、各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)(繊維接着率が最大の領域に対する最小の領域の比率)が、例えば、50%以上(例えば、50〜100%)、好ましくは55〜99%、さらに好ましくは60〜98%(特に70〜97%)程度である。本発明では、繊維接着率が、厚み方向において、このような均一性を有しているため、繊維の接着面積が低いにも拘わらず、硬さや曲げ強度、耐折性や靱性も優れている。特に、曲げ強度が高いため、通気性部材の表裏面の間で生じる温度差による反りも抑制できる。
【0086】
繊維接着率は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、不織繊維構造体の断面を拡大した写真を撮影し、所定の領域において、接着した繊維断面の数に基づいて簡便に測定できる。しかし、束状に繊維が融着している場合には、各繊維が束状に又は交点で融着しているため、特に密度が高い場合には、繊維単体として観察することが困難になり易い。この場合、例えば、湿熱接着性繊維で構成された鞘部と繊維形成性重合体で構成された芯部とで形成された芯鞘型複合繊維で、繊維構造体が接着されている場合には、融解や洗浄除去などの手段で接着部の融着を解除し、解除前の切断面と比較することにより繊維接着率を測定できる。
【0087】
繊維構造体は、靱性及び曲げ応力が高く、優れた曲げ挙動を示すことも特徴の一つである。本発明では、この曲げ挙動を表すため、JIS K7017「繊維強化プラスチック−曲げ特性の求め方」に準じて、サンプルを徐々に曲げたときに生ずるサンプルの反発力を測定し、最大応力(ピーク応力)を曲げ応力として表し、曲げ挙動の指標として用いた。すなわち、この曲げ応力が大きいほど硬い構造体であり、さらに測定対象物が破壊するまでの曲げ量(変位)が大きい程よく曲がる構造体である。
【0088】
繊維構造体は、少なくとも一方向(好ましくは全ての方向)における最大曲げ応力が0.05MPa以上であり、好ましくは0.1〜30MPa、さらに好ましくは0.15〜20MPa(特に0.2〜10MPa)程度であってもよい。この最大曲げ応力が小さすぎると、板状で使用したときに自重やわずかな荷重により簡単に折れ易い。また、最大曲げ応力が高すぎると、硬くなり過ぎて、応力のピークを過ぎて折り曲げると折れて破損し易くなる。
【0089】
この曲げ量(変位)とそれによる曲げ応力との相関を見ると、最初、曲げ量の増加とともに応力も増加し、例えば、略直線的に増加する。本発明における繊維構造体において、測定サンプルが固有の曲げ量に到達すると、その後は徐々に応力が低くなる。すなわち、曲げ量を横軸、応力を縦軸としてグラフにすると、曲げ量と応力とは、上に凸の放物線状にカーブを描く相関関係を示す。本発明における繊維構造体は、最大曲げ応力(曲げ応力のピーク)を超えて、さらに曲げようとした場合においても、急激な応力降下を生じることなく、いわゆる「粘り(又は靱性)」を有することも特徴の一つである。本発明では、このような「粘り」を表す指標として、曲げ応力のピーク時の曲げ量(変位)を超えた状態において残っている曲げ応力を用いることができる。すなわち、本発明における繊維構造体は、最大曲げ応力を示す曲げ量の1.5倍の変位まで曲げた時の応力(以下、「1.5倍変位応力」と称することがある)が、最大曲げ応力(ピーク応力値)の1/10以上を維持しており、好ましくは3/10以上(例えば、3/10〜1)、さらに好ましくは5/10以上(例えば、5/10〜9/10)程度維持していてもよい。このような特性を有する繊維構造体は、換気時の圧力による変形が抑制される。
【0090】
繊維構造体は、繊維間に生ずる空隙により高い軽量性を確保できる。また、これらの空隙は、独立した空隙ではなく連続しているため、高い通気性を有している。このような構造は、樹脂を含浸する方法や、表面部分を密に接着させてフィルム状構造を形成する方法など、これまでの一般的な硬質化手法では製造することが極めて困難な構造である。
【0091】
すなわち、不織繊維構造体は低密度であり、具体的には、見掛け密度は、例えば、0.05〜0.3g/cm、好ましくは0.06〜0.25g/cm、さらに好ましくは0.07〜0.2g/cm(特に0.08〜0.15g/cm)程度であり、例えば、0.1〜0.25g/cm程度であってもよい。見かけ密度が低すぎると、軽量ではあるものの、曲げ硬さが低下し、逆に高すぎると、硬さは確保できるものの、軽量性及び通気性が低下する。
【0092】
不織繊維構造体の目付は、例えば、50〜10000g/m程度の範囲から選択でき、好ましくは100〜8000g/m、さらに好ましくは300〜6000g/m(特に500〜3000g/m)程度である。目付が小さすぎると、硬さを確保することが難しく、また、目付が大きすぎると、ウェブが厚すぎて湿熱加工において、高温水蒸気が充分にウェブ内部に入り込めず、厚み方向に均一な構造体とするのが困難になる。
【0093】
不織繊維構造体の厚みは、特に限定されないが、1〜100mm程度の範囲から選択でき、例えば、1〜50mm、好ましくは2〜30mm、さらに好ましくは3〜20mm(特に15〜15mm)程度である。厚みが薄すぎると、断熱性が低下するとともに、硬さの確保が難しくなり、厚すぎると、通気性が低下し、質量が重くなるため、取扱性が低下する。
【0094】
不織繊維構造体は、透光性にも優れており、特に、前記密度、目付及び厚みを調整することにより、高い透光性を実現することもできる。さらに、本発明の不織繊維構造体は、透光性だけでなく、透過光の拡散性に優れており、具体的には、不織繊維構造体の一方の面に対して垂直に入射し、他方の面を透過する光において、他方の面の法線に対して平行な方向における透過光強度(法線とのなす角が0°における透過光強度)に対する前記法線に対して45°の方向における透過光強度(法線とのなす角が45°における透過光強度)の比(45°透過光強度/平行透過光強度)が50%以上(例えば、50〜85%)、好ましくは55〜85%、さらに好ましくは60〜80%程度である。すなわち、本発明の不織構造体は、透過光に対して拡散性を有しているため、室内空間の明度を均質にできるとともに、日光を和らげる効果を有する。
【0095】
本発明における構造体は、広い周波数域に亘り優れた吸音性能を示す。具体的には、本発明における構造体は、音として感知できる周波数の範囲(10〜20000Hz程度)に対して吸音性を示し、特に、100〜10000Hz程度の周波数を有する音に対して吸音性を示す。従って、換気を行いながら、屋外からの騒音も遮音できる。
【0096】
本発明における構造体は、通気性に優れるため、構造体に他の建材(化粧フィルムや戸のフレームなど)を貼着する場合、構造体と他の建材との間の空気が構造体を通して抜けることにより、他の建材貼付後の建材の浮き、剥がれを回避できる。また、貼り付けた建材の接着剤が表面の構成繊維に貼り付くとともに、繊維空隙に楔の如く入り込むため、強固な接着を実現できる。
【0097】
さらに、本発明における不織繊維構造体は、前述の如く、繊維接着点を厚み方向に均一に有するため、良好な形態保持性も有している。すなわち、通常の繊維構造体では、バインダーなどにより必要な曲げ硬さを確保できたとしても、基本的に繊維同士の接着が少ないため、例えば5mm角程度の小片にカットした場合、わずかな外力により構造体を構成する繊維が離脱し、最終的には繊維毎に細分化されてしまう。これに対し、本発明における繊維構造体は、繊維同士が緻密にかつ均一に接着しているため、小片にカットした場合でも繊維単位に細分化されず、充分に形態を保持できる。これは構造体を切断した際の発塵性が小さいことも意味している。
【0098】
(不織繊維構造体の製造方法)
不織繊維構造体の製造方法では、まず、前記湿熱接着性繊維を含む繊維をウェブ化する。ウェブの形成方法としては、慣用の方法、例えば、スパンボンド法、メルトブロー法などの直接法、メルトブロー繊維やステープル繊維などを用いたカード法、エアレイ法などの乾式法などを利用できる。これらの方法のうち、メルトブロー繊維やステープル繊維を用いたカード法、特にステープル繊維を用いたカード法が汎用される。ステープル繊維を用いて得られたウェブとしては、例えば、ランダムウェブ、セミランダムウェブ、パラレルウェブ、クロスラップウェブなどが挙げられる。これらのウェブのうち、束状融着繊維の割合を多くする場合には、セミランダムウェブ、パラレルウェブが好ましい。
【0099】
次に、得られた繊維ウェブは、ベルトコンベアにより次工程へ送られ、次いで過熱又は高温蒸気(高圧スチーム)流に晒されることにより、不織繊維構造を有する硬質な成形体が得られる。すなわち、ベルトコンベアで運搬された繊維ウェブは、蒸気噴射装置のノズルから噴出される高速高温水蒸気流の中を通過する際、吹き付けられた高温水蒸気により繊維同士が三次元的に接着される。特に、本発明における繊維ウェブは通気性を有しているため、高温水蒸気が内部にまで浸透し、略均一な融着状態を有する構造体を得ることができる。
【0100】
不織繊維構造体は、具体的には、温度70〜150℃、好ましくは80〜120℃、さらに好ましくは90〜110℃程度の高温水蒸気を、前記繊維ウェブに対して、圧力0.1〜2MPa、好ましくは0.2〜1.5MPa、さらに好ましくは0.3〜1MPa程度、処理速度200m/分以下、好ましくは0.1〜100m/分、さらに好ましくは1〜50m/分程度で噴射する方法により得られるが、詳細な製造方法については、国際公開WO2007/116676号公報(特許文献3)に記載の製造方法を利用できる。
【0101】
得られた不織繊維構造体は、通常、板状又はシート状成形体として得られ、切断加工などにより利用されるが、必要に応じて慣用の熱成形により二次成形してもよい。熱成形としては、例えば、圧縮成形、圧空成形(押出圧空成形、熱板圧空成形、真空圧空成形など)、自由吹込成形、真空成形、折り曲げ加工、マッチドモールド成形、熱板成形、湿熱プレス成形などが利用できる。
【0102】
不織繊維構造体(成形体)は、前記繊維で構成されたウェブから得られる不織繊維構造を有しており、その形状は建造物の構造に応じて選択でき、通常、シート状又は板状である。
【0103】
(給気口)
一般家屋では室内空間が完全に密閉されていないため、室内に空気を供給するための給気口(吸気口)を設けなくても本発明の換気構造を形成できるが、換気効率を向上させる点から、給気口を設けるのが好ましい。
【0104】
給気口は、室内空間のうち、通気性部材で構成された緩衝空間との間仕切りの役割を有する壁面以外の部位、例えば、壁面、天井面又は床面に形成されていればよく、窓やドアを部分的又は全体的に開けることにより給気口の代わりとしてもよい。さらに、低温の空気を有効に吸気できる点などから、前記壁面の下部又は床面(特に、前記壁面の下部)に形成されているのが好ましい。例えば、室内にドアがある場合は、ドアの下端と床との間に隙間を設けて給気口としてもよい。さらに、給気口の配設位置は、排気口に対して、室内空間の略対角線上に形成すると、換気において室内の空気が効率良く循環する。
【0105】
給気口の形状は、特に限定されず、円形状(真円、楕円、長円形状など)、多角形状(例えば、正方形状、長方形状など)、線状又はスリット状などが挙げられる。ドアの隙間として給気口を形成する場合、給気口の形状は、通常、スリット状又は線状である。
【0106】
給気口の平均口径(異方形状の場合、長径と短径との平均口径)は、室内空間の大きさにもよるが、一般家屋の場合、500mm以下であってもよく、例えば、400mm以下(例えば、5〜400mm)、好ましくは10〜300mm、さらに好ましくは30〜200mm(特に50〜150mm)程度であってもよい。平均口径がこの範囲にあると、室内の状態を良好に保持しつつ、換気効率を充分に確保できる。特に、給気口の形状が線状又はスリット状の場合、幅が100〜1000mm(特に300〜800mm)程度であり、線径(スリット厚み)が1〜30mm(特に5〜20mm)程度であってもよい。給気口の数は、複数であってもよいが簡便性の点から、通常、1個である。
【0107】
給気口にも、必要に応じて、ネット状体(例えば、金網、プラスチック網など)、通気材として使用可能な繊維構造体や多孔質体などをフィルターとして装着してもよい。
【実施例】
【0108】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。実施例における各物性値は、以下に示す方法により測定した。なお、実施例中の「部」及び「%」はことわりのない限り、質量基準である。
【0109】
(1)エチレン−ビニルアルコール系共重合体のメルトインデックス(MI)
JIS K6760に準じて、190℃、21.2N荷重の条件下、メルトインデクサーを用いて測定した。
【0110】
(2)目付(g/m
JIS L1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて測定した。
【0111】
(3)厚み(mm)、見掛け密度(g/cm
JISL1913「一般短繊維不織布試験方法」に準じて厚さを測定し、この値と目付けの値とから見かけ密度を算出した。
【0112】
(4)通気度
JIS L1096に記載の一般織物試験方法のうち、A法(フラジール形法)に準じ、布帛の通気性測定機((株)東洋精機製作所製、フラジール・パーミヤメーター)を用いて、圧力125Paの条件下、100cmの大きさのサンプルについて通気度を測定した。
【0113】
(5)曲げ応力
JIS K7017に記載の方法のうちA法(3点曲げ法)に準じて測定した。このとき、測定サンプルは25mm幅×80mm長のサンプルを用い、支点間距離を50mmとし、試験速度を2mm/分として測定を行った。本発明では、この測定結果チャートにおける最大応力(ピーク応力)を最大曲げ応力とした。なお、曲げ応力の測定は、MD方向及びCD方向について測定した。すなわち、MD方向の測定では、測定サンプルの長辺に対しウェブ流れ方向(MD)が平行となるように測定サンプルを採取して測定し、一方、CD方向の測定では、測定サンプルの長辺に対しウェブ幅方向(CD)が平行となるように測定サンプルを採取して測定した。
【0114】
(6)1.5倍変位応力
曲げ応力の測定において、最大曲げ応力(曲げピーク応力)を示す曲げ量(変位)を超え、さらにその変位の1.5倍の変位まで曲げつづけた時の応力を、1.5倍変位応力とした。
【0115】
(7)繊維接着率
走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、構造体断面を100倍に拡大した写真を撮影した。撮影した構造体の厚み方向における断面写真を厚み方向に三等分し、三等分した各領域(表面、内部(中央)、裏面)において、そこに見出せる繊維切断面(繊維端面)の数に対して繊維同士が接着している切断面の数の割合を求めた。各領域に見出せる全繊維断面数のうち、2本以上の繊維が接着した状態の断面の数の占める割合を以下の式に基づいて百分率で表わした。なお、繊維同士が接触する部分には、融着することなく単に接触している部分と、融着により接着している部分とがある。但し、顕微鏡撮影のために構造体を切断することにより、構造体の切断面においては、各繊維が有する応力によって、単に接触している繊維同士は分離する。従って、断面写真において、接触している繊維同士は、接着していると判断できる。
【0116】
繊維接着率(%)=(2本以上接着した繊維の断面数)/(全繊維断面数)×100
但し、各写真について、断面の見える繊維は全て計数し、繊維断面数100以下の場合は、観察する写真を追加して全繊維断面数が100を超えるようにした。なお、三等分した各領域についてそれぞれ繊維接着率を求め、その最大値に対する最小値の割合(最小値/最大値)も併せて求めた。
【0117】
(8)換気性能
恒温室にモデルルームを設置して、各種の通気性部材を用いて換気性能を評価した。図2は、このモデルルーム側面の模式図である。
【0118】
モデルルームは、外周壁及び屋根(天井壁)が、厚み100mmの断熱材(ダウ加工(株)製、「スタイルホーム」)で構成されており、緩衝空間14と温度測定室15と前室18とに区画されている。
【0119】
前記緩衝空間14は、部屋サイズが、W(幅)2200mm、D(奥行き)100mm、H(高さ)2400mmであり、緩衝空間の前面の外壁面には、ガラス窓12が形成されている。このガラス窓12は、複層ガラスで構成された引き違い窓であり、測定中は、閉鎖して施錠した。緩衝空間14と温度測定室15とは、通気性部材11で間仕切られ、通気性部材11は、W2000mm、H2000mmの通気材で構成された通気部11aを有している。なお、通気性部材11は、通気部11a以外から空気の流れが生じないように、接合部の隙間には粘着テープを貼着した。また、ガラス窓12の上部には、直径100mmの円形の排気口13が形成されている。さらに、ガラス窓12の外部の前面には、模擬太陽10が設置されている。模擬太陽10は、ガラス窓を垂直に照射できるように、赤外線ランプ30個(横10列×縦3列)を模擬太陽全体の平面サイズがW1950、H1150mmとなるように間隔をあけて並設した。ガラス窓12と模擬太陽10との距離(間隔)は500mmとした。
【0120】
前記温度測定室15は、部屋サイズが、W2200mm、D2200mm、H2400mmであり、温度測定室15と前室18との間には、W(幅)760mm、H(高さ)2100mmのドア16が設置されている。ドアの下端と床との間には、高さ10mmの隙間(アンダーカット)を設けて給気口17を形成し、両室間の換気が可能な構造となっている。
【0121】
前室18は、部屋サイズが、W2200mm、D2300mm、H2400mmである。
【0122】
さらに、熱電対を恒温室、緩衝空間14の中央部、温度測定室15の中央部に設置した。このようなモデルルームにおいて、恒温室の設定温度を30℃とし、模擬太陽10を照射し、模擬太陽の照射開始から4時間後の温度を測定した。
【0123】
また、風速計を排気口13の内部に設置し、模擬太陽10の照射を開始してから4時間後の排気口における風速を測定し、排気口の断面積と風速との積から換気量を求めた。
【0124】
(比較例1)
通気性部材を取り除いて、模擬太陽を4時間照射して、換気性能を測定した結果を表1に示す。
【0125】
【表1】

【0126】
(不織繊維構造体の製造例)
湿熱接着性繊維として、芯成分がポリエチレンテレフタレート、鞘成分がエチレン−ビニルアルコール共重合体(エチレン含有量44モル%、ケン化度98.4モル%)である芯鞘型複合ステープル繊維((株)クラレ製、「ソフィスタ」、繊度3dtex、繊維長51mm、芯鞘質量比=50/50、捲縮数21個/25mm、捲縮率13.5%)を準備した。
【0127】
この芯鞘型複合ステープル繊維を用いて、カード法により目付を調整したカードウェブを作製し、このウェブを複数枚重ねて所定の目付を有するカードウェブとした。
【0128】
このカードウェブを、50メッシュ、幅500mmのステンレス製エンドレスネットを装備したベルトコンベアに移送した。尚、このベルトコンベアの金網の上部には同じ金網を有するベルトコンベアが装備されており、それぞれが同じ速度で同方向に回転し、これら両金網の間隔を任意に調整可能なベルトコンベアを使用した。
【0129】
次いで、下側コンベアに備えられた水蒸気噴射装置ヘカードウェブを導入し、この装置から0.4MPaの高温水蒸気をカードウェブの厚み方向に向けて通過するように(垂直に)噴出して水蒸気処理を施し、不織繊維構造を有する硬質成形体を得た。この水蒸気噴射装置は、下側のコンベア内に、コンベアネットを介して高温水蒸気をウェブに向かって吹き付けるようにノズルが設置され、上側のコンベアにサクション装置が設置されていた。また、この噴射装置のウェブ進行方向における下流側には、ノズルとサクション装置との配置が逆転した組合せである噴射装置がもう一台設置されており、ウェブの表裏両面に対して蒸気処理を施した。
【0130】
なお、水蒸気噴射ノズルの孔径は0.3mmであり、ノズルがコンベアの幅方向に沿って1mmピッチで1列に並べられた蒸気噴射装置を使用した。加工速度は3m/分であり、ノズル側とサクション側の上下コンベアベルト間の間隔(距離)を、厚み5〜20mmの成形体が得られるように調整した。ノズルはコンベアベルトの裏側にベルトとほぼ接するように配置した。
【0131】
得られた不織繊維構造体(成形体)は、ボード状の形態を有し、一般的な不織布に比べて非常に硬く、曲げ応力ピークを超えても破壊せず、極端な応力の低下もなかった。さらに、形態保持性試験を行っても形状の変化はなく、質量も減少せず、きわめて良好な結果が得られた。
【0132】
(実施例1)
前記製造例で得られた表2に示す特性を有する不織繊維構造体を通気材として用いて、模擬太陽を4時間照射して、換気性能を測定した結果を表2に示す。
【0133】
【表2】

【0134】
表2の結果から、緩衝空間の温度が上昇したため、重力換気が促進された結果、通気性部材があっても換気量は通気性部材を設けない比較例1と同じであった。また、室温と外気温との差は8.1℃で比較例1よりも7.7℃低かった。
【0135】
(実施例2)
前記製造例で得られた表3に示す特性を有する不織繊維構造体を通気材として用いて、模擬太陽を4時間照射して、換気性能を測定した結果を表3に示す。
【0136】
【表3】

【0137】
表3の結果から、緩衝空間の温度が上昇したため、重力換気が促進された結果、換気量は通気性部材を設けない比較例1よりも大きかった。また、室温と外気温との差は7.7℃で比較例1よりも8.1℃低かった。
【0138】
(実施例3)
前記製造例で得られた表4に示す特性を有する不織繊維構造体を通気材として用いて、模擬太陽を4時間照射して、換気性能を測定した結果を表4に示す。
【0139】
【表4】

【0140】
表4の結果から、緩衝空間の温度が上昇したため、重力換気が促進された結果、換気量は通気性部材を設けない比較例1と同じであった。また、室温と外気温との差は5.6℃で比較例1よりも10.2℃低かった。
【0141】
(実施例4)
前記製造例で得られた表5に示す特性を有する不織繊維構造体を通気材として用いて、模擬太陽を4時間照射して、換気性能を測定した結果を表5に示す。
【0142】
【表5】

【0143】
表5の結果から、緩衝空間の温度が上昇したため、重力換気が促進された結果、通気度の小さな通気性部材であっても一定の換気量を示した。また、室温と外気温との差は6.8℃で比較例1よりも9.0℃低かった。
【0144】
(実施例5)
前記製造例で得られた表6に示す特性を有する不織繊維構造体を通気材として用いて、模擬太陽を4時間照射して、換気性能を測定した結果を表6に示す。
【0145】
【表6】

【0146】
表6の結果から、緩衝空間の温度が上昇したため、重力換気が促進された結果、通気度の小さな通気性部材であっても一定の換気量があった。また、室温と外気温との差は4.6℃で比較例1よりも11.2℃低かった。
【0147】
(実施例6)
市販の障子紙[通気度5.4cm/(cm・秒)]を通気材として用いて、模擬太陽を4時間照射して、換気性能を測定した結果を表7に示す。
【0148】
【表7】

【0149】
表7の結果から、緩衝空間の温度が上昇したため、重力換気が促進された結果、通気度の小さな通気性部材であっても一定の換気量があった。また、室温と外気温との差は14.1℃で比較例1よりも1.7℃低かった。
【0150】
(実施例7)
市販のハニカムサーモスクリーン[セイキ販売(株)製、スタンダードタイプ、標準仕様、色相S−01、通気度42cm/(cm・秒)]を通気材として用いて、模擬太陽を4時間照射して、換気性能を測定した結果を表8に示す。
【0151】
【表8】

【0152】
表8の結果から、緩衝空間の温度が上昇したため、重力換気が促進された結果、一定の換気量があった。また、室温と外気温との差は10.8℃で比較例1よりも5℃低かった。
【0153】
(実施例8)
市販の遮光カーテン[通気度36cm/(cm・秒)]を通気材として用いて、模擬太陽を4時間照射して、換気性能を測定した結果を表9に示す。
【0154】
【表9】

【0155】
表9の結果から、緩衝空間の温度が上昇したため、重力換気が促進された結果、一定の換気量があった。また、室温と外気温との差は14.3℃で比較例1よりも1.5℃低かった。
【0156】
(比較例2)
実施例3で使用した不織繊維構造体(厚み10mm、密度0.1g/cm)の表面をポリエチレンフィルムで完全に覆い、通気度をなくして、模擬太陽を4時間照射して、換気性能を測定した結果を表10に示す。
【0157】
【表10】

【0158】
表10の結果から、緩衝空間の温度が上昇したが、通気度がないので、換気量は非常に小さかった。また、室温と外気温との差は8.5℃で比較例1よりも7.3℃低かった。さらに、実施例3よりも2.1℃高く、通気性のある部材の方が室温が低いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0159】
本発明の換気構造は、各種の建物(建築物又は建造物)、例えば、一般住宅(一戸建て、集合住宅など)、工場、ビルディング、病院、学校、体育館、文化会館、公民館などに有用である。
【符号の説明】
【0160】
1,11…通気性部材
2,12…採光部
3,13…排気口
4,14…緩衝空間
5…居室
15…温度測定室
6,16…ドア
7,17…給気口
10…模擬太陽
18…前室

【特許請求の範囲】
【請求項1】
室内空間が通気性部材で仕切られ、かつ採光部を有する緩衝空間を備えている建物の換気構造。
【請求項2】
通気性部材が、湿熱接着性繊維を含み、この湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された不織繊維構造体で構成されている請求項1記載の換気構造。
【請求項3】
不織繊維構造体が、下記(1)〜(7)の特性を有する不織繊維構造体で構成されている請求項2記載の換気構造。
(1)湿熱接着性繊維が、繊維表面において長さ方向に連続する湿熱接着性樹脂を含み、かつ前記湿熱接着性繊維が、エチレン単位の含有量が5〜60モル%であるエチレン−ビニルアルコール共重合体である
(2)見掛け密度が0.05〜3g/cmである
(3)通気度が5cm/(cm・秒)以上である
(4)熱貫流率が0.5〜15W/(m・K)である
(5)厚み方向の断面において、厚み方向に三等分した各々の領域における繊維接着率がいずれも3〜85%であり、かつ各領域における繊維接着率の最大値に対する最小値の割合が50%以上である
(6)少なくとも一方向における最大曲げ応力が0.05MPa以上であり、最大曲げ応力を示す曲げ量に対して1.5倍の曲げ量における曲げ応力が、最大曲げ応力に対して1/5以上である
(7)厚みが5〜15mmである
【請求項4】
自然換気を行うための構造であり、採光部の上部に形成された排気口を有し、通気性部材を介して緩衝空間に隣接する室内空間の壁面下部に形成された給気口を有する請求項1〜3のいずれかに記載の換気構造。
【請求項5】
排気口の平均口径が500mm以下である請求項4記載の換気構造。
【請求項6】
緩衝空間の体積が、室内空間に対して1〜30体積%である請求項1〜5のいずれかに記載の換気構造。
【請求項7】
室内空間を間仕切って採光部を有する緩衝空間を形成するための遮熱通気性部材であって、湿熱接着性繊維を含み、この湿熱接着性繊維の融着により繊維が固定された不織繊維構造体で構成されているとともに、通気度が10〜100cm/(cm・秒)であり、かつ熱貫流率が1〜10W/(m・K)である遮熱通気性部材。
【請求項8】
請求項7記載の遮熱通気性部材を用いて建物を換気する方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−236200(P2010−236200A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−83115(P2009−83115)
【出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(307046545)クラレクラフレックス株式会社 (50)
【Fターム(参考)】