説明

損傷探知システム

【課題】FBG光ファイバセンサを用いた損傷探知システムにおいて、損傷を高精度に探知する。
【解決手段】ピエゾ素子から発振され構造用複合材料を伝搬する弾性波を光ファイバセンサの反射光の波長振動により検出することにより構造用複合材料の損傷を探知するシステムにおいて、波長振動を高感度に検出するために光ファイバセンサの反射光の出力端に並列接続された2つの光学フィルタを設ける。この2つの光学フィルタに係る通過域の中心74C,75Cを反射光の中心波長73Cの両側に固定して検出を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバセンサを用いた損傷探知システムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、航空機等の機体のような、素材に対する強度と軽量化の双方が要求される分野においては、このような要求に応えるために、CFRP等の複合材料の大幅な適用化が不可欠である。
このような複合材料の損傷、欠陥等の探知を行う装置として、特許文献1,2には、FBG(Fiber Bragg Grating)光ファイバセンサを用いた損傷探知装置が記載されている。光ファィバは、昨今では細径化(例えば、直径55[μm])が進んでおり、構造物に埋め込んでも、当該構造物の強度の低下をあまり生じないため、その設置に関して自由度が高いという利点を備えている。
【0003】
特許文献1記載の発明によれば、構造用複合材料の所定個所に固定配置されたピエゾ素子と、ピエゾ素子に信号を伝達する導線と、ピエゾ素子との間に構造用複合材料を構成する複合材料を挟んで固定配置されコア部に所定の波長光を反射するグレーティング部を有する光ファイバセンサと、コア部に光照射を行う光源と、グレーティング部からの反射光の特性を検出する特性検出手段とを用い、ピエゾ素子により加振し特性検出手段の出力の変化から損傷を探知する。また、特性検出手段としては、グレーティング部からの反射光の周波数特性を検出するスペクトラムアナライザが用いられる。
さらに、特許文献1記載の発明には、予め取得した正常な構造用複合材料による検出データとの比較を行うか、他の方法として、スペクトラムアナライザの検出する周波数分布による特定周波数の非振動時からの変動値に閾値を設定し、それ以下の場合は損傷ありと判定しても良い旨記載されている(段落0032)。
【0004】
特許文献1記載の発明にあっては、より高精度な損傷探知システムに対応できるスペクトラムアナライザの構成が望まれる。
【0005】
一方、特許文献2記載の発明は、スペクトラムアナライザに音響−光学チューンドフィルタを用いている。
【特許文献1】特開2005−98921号公報
【特許文献2】USP5493390(Fig.5A〜C)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献2記載の発明では、FBG光ファイバセンサが反射出力する反射光の中心波長に、フィルタの特性曲線のスロープ中心を固定し(Fig.5A,B)、加振時に反射光の中心波長の振動に伴って増減するフィルタ出力値の時間変化波形(Fig.5C)を損傷探知の基礎データとして取得する。従って、反射光の中心波長の変動を捕られるために、可能な限り半値幅(ピーク値の半分の値における幅)が小さく急峻な反射光の出力特性を有するFBG光ファイバセンサが必要となる。
【0007】
一方、高精度な検出を行うには、被検体に負荷する弾性波を高周波数化することが求められ、高周波化した弾性波を高感度に検出するためにFBG光ファイバセンサのセンサ長を短くすることが求められる。しかし、センサ長が短くなることでブロードを起こしセンサ出力の半値幅が広くなる。センサ出力の半値幅を広くすると、特許文献2記載の発明では、検出値の変化が小さくなり、反射光の波長変動が十分に捕らえきれず、高精度な損傷探知システムが構成できない。
【0008】
本発明は以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであって、光ファイバセンサを用いた損傷探知システムにおいて、損傷を高精度に探知することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以上の課題を解決するための請求項1記載の発明は、被検体に振動を加える加振装置と、
光を反射するグレーディングが復数設けられ隣り合うグレーディング間の距離が変化すると反射光の波長域が変化するグレーティング部がコア部に形成され、前記被検体から伝達される弾性波に応じて前記波長域を振動させる光ファイバセンサと、
少なくとも前記波長域の振動域を含む程度以上に広帯域の光を前記コア部に入力する光源と、
前記光ファイバセンサの出力端に接続された2つの光学フィルタと、
前記加振装置による加振時に得られる前記2つの光学フィルタの出力値を演算処理する演算処理装置とを備え、
前記2つの光学フィルタに係る通過域は、前記波長域の振動域に懸かり、一方の通過域の中心波長が前記反射光の中心波長の振動中心の上域に固定され、他方の通過域の中心波長が前記反射光の中心波長の振動中心の下域に固定されていることを特徴とする損傷探知システムである。
【0010】
請求項2記載の発明は、前記光学フィルタは、アレイ導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)型光フィルタであることを特徴とする請求項1に記載の損傷探知システムである。
【0011】
請求項3記載の発明は、前記グレーティング部が形成された光ファイバセンサは、前記被検体から伝達される弾性波の波長の1/3以下のグレーティング部の長さが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の損傷探知システムである。
【0012】
請求項4記載の発明は、前記演算処理装置は、前記2つの光学フィルタから出力される一定期間の出力値の変化を解析して、前記被検体の損傷の規模に相当する値を算出することを特徴とする請求項1に記載の損傷探知システムである。
【0013】
請求項5記載の発明は、光を反射するグレーディングが復数設けられ隣り合うグレーディング間の距離が変化するとグレーティング部がコア部に形成された光ファイバセンサと、
前記波長域を含む広域帯の光を前記コア部に入力する光源と、
前記光ファイバの出力端に接続された2つの光学フィルタと、
前記2つの光学フィルタの出力値を演算処理する演算処理装置とを備え、
前記2つの光学フィルタに係る通過域は、前記波長の振動域に懸かり、一方の通過域の中心波長が前記反射光の中心波長の振動中心の上域に固定され、他方の通過域の中心波長が前記反射光の中心波長の振動中心の下域に固定されていることを特徴とする損傷探知システムである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、2つの光学フィルタに係る通過域は、反射光の波長の振動域に懸かるため、加振時に生じる反射光の波長振動に伴ってこの2つの光学フィルタの出力値が増減する。さらに、この2つの光学フィルタの通過域中心波長が反射光中心波長の振動中心の上下両域に配されて固定されているので、この2つの光学フィルタの出力値の増減は相反的に生じる。この相反的に増減する2つの出力値の相対的変化は、1つの出力値の変化に対して大きく生じるから、反射光の半値幅の拡大等により1つの出力値の変化が小さくなっても、この相反的に増減する2つの出力値の相対値をより大きな検出値として取得することができる。その結果、反射光の波長振動を感度良く捕らえることができ、高精度な損傷検知が可能になるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に本発明の一実施の形態につき図面を参照して説明する。以下は本発明の一実施形態であって本発明を限定するものではない。
【0016】
図1は、構造用複合材料Zの損傷探知を行う損傷探知システム10の概略構成図である。本実施形態では、構造用複合材料を被検体とする。
【0017】
図1に示すように、本実施形態の損傷探知システム10は、構造用複合材料Zの損傷探知を行うべき箇所の近傍において構造用複合材料Zの面部に貼着されるピエゾ素子21と、構造用複合材料Zの損傷探知を行うべき箇所の近傍に設置される光ファイバセンサ30と、ピエゾ素子21の制御装置41と、光ファイバセンサ30から得られる反射光の波長特性を検出するスペクトラムアナライザ42と、スペクトラムアナライザ42の出力値を演算処理する演算処理装置50とを備えている。なお、スペクトラムアナライザ42の電源装置43を図示した。
【0018】
本実施形態では、加振装置の発振アクチュエータとしてピエゾ素子を用いるが、これに限定されず、発振アクチュエータは一定の弾性波が発振可能なものであればよい。また、外部からの衝撃等によって発生する弾性波を用いても良い。ここで、ピエゾ素子21は必要に応じて複数用いられる。
ピエゾ素子21は、外部から駆動電圧を印加されると、その厚さ方向に厚み変化を生じる。かかる性質を利用して、制御装置41は、任意のピエゾ素子21に対して駆動用のパルス電圧を印加し、構造用複合材料Zに瞬間的な振動を加える。
【0019】
光ファイバセンサ30は、FBG(Fiber Bragg Grating)光ファイバセンサであり、図2(a)の概略構成図に示すように、コア部32に所定の波長光を反射するグレーティング部33を有する光ファイバ34から構成されている。
光ファイバ34は、その一端部においてスペクトラムアナライザ42に接続されており、当該スペクトラムアナライザ42が有する光源により、所定範囲の波長帯域を網羅する照射光がコア部32に入射される。このスペクトラムアナライザ42から入射する光は、コア部32を伝搬してグレーティング部33でその一部の波長光のみが反射される。
【0020】
図2(b)は、コア部32の光進行方向における屈折率変化を示す線図であり、図中の範囲Lがグレーティング部33における屈折率を示している。
かかる図に示すように、グレーティング部33は、コア部32の屈折率を一定の周期で変化するように構成されている。グレーティング部33は、かかる屈折率の変化している境界部分で特定の波長の光のみ選択的に反射する。このグレーティング部33に振動によりひずみ等の外乱が加えられると格子間隔の変化(伸縮)に伴なって反射光の波長が変化する。
ここで、FBG光ファイバセンサの反射光の波長変化ΔλBは、コアの実効屈折率をn、グレーティング間隔をΛ、ポッケルス係数をP11,P12、ポアソン比をν、印加歪をε、ファイバ材の温度係数をα、温度変化をΔTとすると次式で表される(Alan D. Kersey, Fiber Grating Sensors”JOURNAL OF LIGHTWAVE TECHNOLOGY, Vol. 15, No. 8, 1997)。
【0021】
【数1】

【0022】
したがって、グレーティング部33に振動を生じると、グレーティング部33の歪み量εに変化を生じ、その結果、歪み量εに応じて反射光の波長が変動することとなる。振動がその振動源から良好に伝達されれば、グレーティング部33は大きく歪みを生じ、波長の変化量ΔλBは大きく変動することとなるし、振動がその振動源から良好に伝達されない場合は、グレーティング部33は小さく歪みを生じ、波長の変化量ΔλBは小さく変動することとなる。
【0023】
図3(a)に光ファイバセンサとこれに接続したスペクトラムアナライザ42の構成例を示す。図3(a)に示すように、スペクトラムアナライザ42は、光源61と、光サーキュレータ62と、AWGモジュール63と、光電変換器60とを備える。本構成例では、反射波長の異なる4つの光ファイバセンサ30a〜dが直列に設けられた光ファイバ34をスペクトラムアナライザ42に接続する。最少構成としては、光ファイバセンサ30は一つでよい。
【0024】
光源61は、光ファイバセンサ30a〜dの反射波長の振動域をすべて含む広帯域の光源である。弾性波により光ファイバセンサ30a〜dの反射波長が振動しても、常に完全な反射光が得られるようにするためである。
光サーキュレータ62は、光源61からの光を光ファイバセンサ30a〜d側へ進行させ、返ってきた光ファイバセンサ30a〜dからの反射光をAWGモジュール63の入力ポートP0へと導出する。光サーキュレータ62により導出された反射光は光ファイバ69によりAWGモジュール63の入力ポートP0に導入される。
【0025】
AWGモジュール63は、AWG基板64を有する。AWG基板64には、光導波路技術によりガラス基板上にモノリシック集積された光波回路が形成されている。AWG基板64上の光波回路は、入出力スラブ導波路65,66とアレイ導波路67と、出力導波路68とを有し、入力ポートP0に並列接続された通過域の異なる8つの光学フィルタを構成している。AWG基板64上の光波回路は、波長多重された入力光を分配して8つの光学フィルタに通すことより波長分離し、8つの出力ポートP1〜P8にパラレル出力する。但し、実用時の出力ポートは8つに限定されない。
【0026】
8つの出力ポートP1〜P8に対応する各光学フィルタの通過域を図3(b)のスペクトル図に示す。例えば図3(b)で、中心波長λ2の反射波長を有する光学ファイバセンサ30bの反射光入力分布70が通過域71に重なる部分に相当する反射光を一の光学フィルタが通過させ出力ポートP3へ出力すると共に、これに並行して通過域72に重なる部分に相当する反射光を他の光学フィルタが通過させ出力ポートP4へ出力する。同様にして反射中心波長λ1の光学ファイバセンサ30aには出力ポートP1,P2が、反射中心波長λ3の光学ファイバセンサ30cには出力ポートP5,P6が、反射中心波長λ4の光学ファイバセンサ30dには出力ポートP7,P8がそれぞれ対応し、同様の原理で波長分離が可能である。上述したように最少構成としては、光ファイバセンサ30は一つでよく、この場合、光学フィルタは2つで足りる。
【0027】
代表して、1つの光ファイバセンサ30からの反射光に対する処理内容を図4を参照して説明する。
図4(b)に示すように、光ファイバセンサ30からの反射光の入力分布73Tが現れる。ピエゾ素子21による加振時には、ピエゾ素子21を発振源とする弾性波が構造用複合材料Zを伝搬し、光ファイバセンサ30は構造用複合材料Zから伝達される弾性波に応じて出力する反射光の波長を振動させる。この波長の振動を図示すると図4(a)の入力波73Wとなる。
この波長の振動により、図4(b)に示す反射光入力分布73Tは、上位、下位に交互にシフトして微小に振動し、波長の値は増減を繰り返す。
このような波長振動において、図中73Cは、反射光入力分布73Tの中心波長の振動中心である。一方の光学フィルタの通過域75Tの中心波長75Cは振動中心73Cの上域に固定されている。また、他方の光学フィルタの通過域74Tの中心波長74Cは振動中心73Cの下域に固定されている。
また、中心波長75C及び中心波長74Cは、振動中心73Cから反射光の波長振動の振幅以上に離れた位置に固定されている。
さらに、反射光入力分布73Tの静止時において、上位の通過域75Tの下位側のスロープ75T−1は、反射光入力分布73Tの上位側のスロープ73T−1に交わり、上位の通過域75Tと反射光入力分布73Tとは波長振動の振幅以上の幅で重なる。
同様に、反射光入力分布73Tの静止時において、下位の通過域74Tの上位側のスロープ74T−1は、反射光入力分布73Tの下位側のスロープ73T−2に交わり、下位の通過域74Tと反射光入力分布73Tとは波長振動の振幅以上の幅で重なる。
反射光入力分布73Tに対し以上の位置関係に通過域75T及び通過域74Tを固定することにより、反射光の波長振動を高感度に検出することができる。
上位の光学フィルタは反射光入力分布73Tが通過域75Tに重なる部分に相当する反射光を通過させて出力する。同様に、下位の光学フィルタは反射光入力分布73Tが通過域75Tに重なる部分に相当する反射光を通過させて出力する。
【0028】
したがって、反射光の波長の値が増加して反射光入力分布73Tが上位にシフトすると、通過域75Tを有する上位の光学フィルタの出力値は増加し、通過域74Tを有する下位の光学フィルタの出力値は減少する。逆に、反射光の波長の値が減少して反射光入力分布73Tが下位にシフトすると、通過域75Tを有する上位の光学フィルタの出力値は減少し、通過域74Tを有する下位の光学フィルタの出力値は増加する。
そのため、反射光の中心波長の変化が図4(a)に示す入力波73Wにより振動する時、通過域75Tを有する上位の光学フィルタの出力値は、図4(c)に示す出力波75Wを生成し、通過域74Tを有する下位の光学フィルタの出力値は、図4(c)に示す出力波74Wを生成する。図4(c)に示すように、出力波74Wと出力波75Wは逆位相の波動となる。
【0029】
以上の原理により、図3に示すスペクトラムアナライザ42は、加振時に8つの出力ポートP1〜P8それぞれに光波を出力し、これらを光電変換器60により電気信号に変化して外部出力する。スペクトラムアナライザ42の出力は、図示しないインターフェースを介してA/D変換されて演算処理装置50に入力される。
【0030】
演算処理装置50は、図5に示すように、プログラムに従い演算処理を行うCPU51と、各種の処理及び制御を行うためのプログラムを記憶するROM52と、各種の処理において一時的にデータ等を格納する作業領域となるRAM53と、制御装置41とデータの送受を図るインターフェース54と、スペクトラムアナライザ42からのデータを入力するインターフェース55と、演算結果の表示データを表示モニタ56に適正なフォーマットの画像信号に変換して表示モニタ56に出力する画像出力インターフェース57と、上記各構成間での各種指令又はデータの伝送を行うデータバス58とを備えている。
【0031】
損傷探知システム10は、損傷探知の対象となる構造用複合材料Zに設置したピエゾ素子21により構造用複合材料Zに対して振動を付加すると共に、光ファイバセンサ30により検出される振動波の伝搬状態から、光ファイバセンサ30の近傍に損傷が発生しているか否かを探知する。そのために、演算処理装置50は、ROM52に記憶された各種のプログラムをRAM53を用いてCPU51が処理することで各種の機能を実行する。以下、演算処理装置50が実行する各種の機能について説明する。
【0032】
CPU51は、ROM52に格納されたプログラムに従い、ピエゾ素子21について駆動用パルス電圧を印加するように制御装置41の動作制御を行う。ピエゾ素子21が複数ある場合は、選択するピエゾ素子21としては、いずれのものでも良いが、例えば、振動の発生源とした場合に、光ファイバセンサ30のグレーティング部33までの間に構造用複合材料Zの損傷を生じやすい部分が存在するようなピエゾ素子を選択することが望ましい。
【0033】
CPU51は、ROM52に格納されたプログラムに従い、駆動用パルス電圧を印加し、ピエゾ素子21による加振中の一定期間にスペクトラムアナライザ42から8並列で出力される出力波データを取得しRAM53に記憶する処理を行う。
CPU51は、ウェーブレット変換による出力波の解析を行う。
すなわち、CPU51は、相反する一対の出力波データを対象にして、式(1)で定義されるDI値を算出する。なお、出力ポートP1,P2を出力元とする2つの出力波データ、出力ポートP3,P4を出力元とする2つの出力波データ、出力ポートP5,P6を出力元とする2つの出力波データ、出力ポートP7,P8を出力元とする2つの出力波データのそれぞれが相反する一対の出力波データとなる。
【0034】
【数2】

【0035】
このDI値は、被検体の損傷の規模に相当する値となる。さらにいえば、このDI値は、被検体の損傷の増大に従って増大する値であり、DI値の大小により損傷の大小を評価できる。図6に、既知の損傷に対してDI値を計測した結果に基づき、損傷の長さに対するDI値をプロットしたグラフを示す。図6に示すように、このDI値は、損傷が長くなるに従って大きな値を示す。
CPU51は、DI値や、DI値に基づく情報を表示モニタ56に表示出力し、システムオペレータに、損傷の有無、規模、箇所等を知るために有効な情報を与える。
例えば、図6に示すように、予め閾値76をRAM53等に記憶させることにより設定しておき、CPU51は、算出したDI値と閾値76との大小判断処理を行い、DI値が閾値76を超えていれば、損傷の発生を表示モニタ56に出力するシステムとする。
検出・演算結果の表示形態は、最も単純にはDI値を数値で表示する構成でも有効であるが、上記の閾値処理により損傷の有無を表示し、また、損傷の有無のみならず、損傷の規模、損傷発生箇所等を表示する便宜の良い表示形態を構成すると良い。
【0036】
(光ファイバセンサとピエゾ素子(加振源)の配置)
図7に示す光ファイバセンサ30mとピエゾ素子21mの配置のように、光ファイバセンサ及びピエゾ素子等の加振源は、できるだけ光ファイバセンサにおける弾性波の伝搬方向と光ファイバセンサの光軸が一致するように配置することが好ましい。これにより、光ファイバセンサは、伝搬される弾性波を高感度に感知することできる。
同図に示す光ファイバセンサ30nとピエゾ素子21nの組み合わせは、光ファイバセンサにおける弾性波の伝搬方向に対し光ファイバセンサの光軸が90°に交わり、最も感度を悪くする配置であり、このような組み合わせでの使用を避けるべきである。
【0037】
以下に、光ファイバセンサの指向性試験を開示する。
図8に示すように、構造用複合材料Zに固定された光ファイバセンサ30の光軸77に対し、様々な位置にピエゾ素子21を配置して発振させた時のスペクトルアナライザ42の出力波を得た。θ=0°,45°,90°の場合に得られた波形をそれぞれ図9(a)(b)(c)に示す。また、θ=0°, ±30°, ±45°, ±60°, ±90°の場合に得られた出力波の最大値を図10のグラフに示した。
【0038】
θ=0°、すなわち、光ファイバセンサ30における弾性波の伝搬方向に光ファイバセンサ30の光軸が一致する場合は、最大値3[mV]という比較的大きい出力波が得られた。θ=0°の値をピークとして、θ=±30°では低下は激しくないもの、θ=±45°では低下は激しくなった。θ=±90°、すなわち、振動の伝搬方向に光ファイバセンサ30の光軸が直交する場合は、最大値0.1〜0.3[mV]と、θ=0°のピーク値に対し著しく低下した。
【0039】
図8に示すような単純な構造であれば、光ファイバセンサ30の光軸77の延長上に加振源とするピエゾ素子21を配置すれば、光ファイバセンサにおける弾性波の伝搬方向と光ファイバセンサの光軸との角度をほぼ0°にすることができる。
しかし、実際の構造中では、弾性波の伝搬が複雑になるため、次の(1)〜(3)のようにして最適な配置を実現することが好ましい。
(1)まず、損傷を検知したい部分及び形状をモデル化する。
(2)次に、汎用ソフトウエアPZFLEX上で、構造の任意の位置にピエゾ素子を設置する。さらに数値解析により、ピエゾ素子から弾性波が送られた場合の波の伝搬方向及び圧力分布を求める。
(3)(2)の結果を基に、圧力の最も高くなる位置に、弾性波が進んでくる方向とは平行に光ファイバセンサを配置する。
【0040】
(光ファイバセンサのセンサ長を決定する方法)
弾性波を取得するためには、最適なセンサ位置の他、最適なセンサ長を設定する必要がある。弾性波の波長と、これを受振する光ファイバセンサ30のセンサ長(又はグレーディング部の長さ)との関係に依存して光ファイバセンサの弾性波検出感度が異なるからである。
そこで、弾性波を受振する光ファイバセンサ30の反射光スペクトルを理論的にシュミレーションし、光ファイバセンサ30の弾性波を検出するための最適なセンサ長を解析的に求める。
例えばセンサ長10[mm]の場合に弾性波を受信する光ファイバセンサ30の反射光スペクトルを理論的にシミュレーションすると、図11に示すような結果が得られる。図11(a)は弾性波波長を10[mm]とした場合、図11(b)は弾性波波長を30[mm]とした場合、図11(c)は弾性波波長を70[mm]とした場合の解析結果である。この解析結果から、弾性波の波長が30[mm]以上の場合、各時間における応答周波数のピークが現れている。従って、弾性波波長はセンサ波長の3倍程度は確保すべきである事が確認できる。すなわちセンサ長は、弾性波波長の1/3程度であれば弾性波が精度良く検出可能であることが明らかとなった。
一方、複合材料に射ち込む弾性波の周波数fを300[kHz]とすると、図13より弾性波の伝搬速度vはS0波(構造中を伝達する波のモードの一つで対称波、図12(a)参照)が6[km/sec]、A0波(構造中を伝達する波のモードの一つで非対称波、図12(b)参照)が2[km/sec]となり、そのときの弾性波の波長λはλ=v/fよりS0波が20[mm]、A0波が6[mm]と計算できる。先の結果からこの波長の1/3をセンサ長と考えると,S0波の検出にはセンサ長を7[mm]以下、A0波の検出にはセンサ長を2[mm]以下にする必要がある。
0波及びA0波の検出を感度良好に行うため、最適なセンサ長を2[mm]以下に設定する。但し、センサ長を短くするとセンサによる反射光のスペクトル形状がブロードになり、センサ感度が低下する傾向にあるので、1〜2[mm]のセンサ長を選択すると良い。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態に係る損傷探知システムの概略構成図である。
【図2】光ファイバセンサの概略構成図(a)、及び光進行方向におけるグレーティング部の屈折率変化を示す線図(b)である。
【図3】光ファイバセンサとこれに接続したスペクトラムアナライザの構成図(a)、及び8つの光学フィルタの通過域を示すスペクトル図(b)である。
【図4】光学フィルタに対する入力波波形(a)、2つの光学フィルタの通過域を示すスペクトル図(b)及び光学フィルタの出力波波形(c)である。
【図5】本発明の一実施形態に係る損傷探知システムの制御系を示すブロック図である。
【図6】損傷の長さとDI値の関係を示すグラフである。
【図7】光ファイバセンサとピエゾ素子が埋め込まれたスキン/ストリンガ構造の斜視図である。
【図8】光ファイバセンサの指向性試験用試料の平面図である。
【図9】光ファイバセンサの指向性試験により得られたスペクトルアナライザの出力波波形図である。
【図10】図8に示すθと、スペクトルアナライザの出力波の最大値との関係を示すグラフである。
【図11】センサ長が10mmの場合の反射スペクトル応答解析結果を示す3D図である。
【図12】構造中を伝達する波のモード、S0波の平面図(a)とA0波の平面図(b)である。
【図13】CFRP直交積層板([0/90]、厚さ1mm)を伝搬する弾性波の周波数と伝搬速度との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0042】
10 損傷探知システム
21 ピエゾ素子
30 光ファイバセンサ
32 コア部
33 グレーティング部
42 スペクトラムアナライザ
50 演算処理装置
63 AWGモジュール
64 AWG基板
65,66 入出力スラブ導波路
67 アレイ導波路
68 出力導波路
P0 入力ポート
P1〜P8 出力ポート
70,73T 反射光入力分布
71,72,74T,75T 通過域
73C 振動中心

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に振動を加える加振装置と、
光を反射するグレーディングが復数設けられ隣り合うグレーディング間の距離が変化すると反射光の波長域が変化するグレーティング部がコア部に形成され、前記被検体から伝達される弾性波に応じて前記波長域を振動させる光ファイバセンサと、
少なくとも前記波長域の振動域を含む程度以上に広帯域の光を前記コア部に入力する光源と、
前記光ファイバセンサの出力端に接続された2つの光学フィルタと、
前記加振装置による加振時に得られる前記2つの光学フィルタの出力値を演算処理する演算処理装置とを備え、
前記2つの光学フィルタに係る通過域は、前記波長域の振動域に懸かり、一方の通過域の中心波長が前記反射光の中心波長の振動中心の上域に固定され、他方の通過域の中心波長が前記反射光の中心波長の振動中心の下域に固定されていることを特徴とする損傷探知システム。
【請求項2】
前記光学フィルタは、アレイ導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)型光フィルタであることを特徴とする請求項1に記載の損傷探知システム。
【請求項3】
前記グレーティング部が形成された光ファイバセンサは、前記被検体から伝達される弾性波の波長の1/3以下のグレーティング部の長さが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の損傷探知システム。
【請求項4】
前記演算処理装置は、前記2つの光学フィルタから出力される一定期間の出力値の変化を解析して、前記被検体の損傷の規模に相当する値を算出することを特徴とする請求項1に記載の損傷探知システム。
【請求項5】
光を反射するグレーディングが復数設けられ隣り合うグレーディング間の距離が変化するとグレーティング部がコア部に形成された光ファイバセンサと、
前記波長域を含む広域帯の光を前記コア部に入力する光源と、
前記光ファイバの出力端に接続された2つの光学フィルタと、
前記2つの光学フィルタの出力値を演算処理する演算処理装置とを備え、
前記2つの光学フィルタに係る通過域は、前記波長の振動域に懸かり、一方の通過域の中心波長が前記反射光の中心波長の振動中心の上域に固定され、他方の通過域の中心波長が前記反射光の中心波長の振動中心の下域に固定されていることを特徴とする損傷探知システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−232371(P2007−232371A)
【公開日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−50481(P2006−50481)
【出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度、経済産業省、「次世代部材創製・加工技術開発プロジェクト 航空機主/尾翼BOX構造の損傷モニタリングシステムの開発」委託研究、産業再生法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000005348)富士重工業株式会社 (3,010)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】