説明

搬送ロボット

【課題】高価な力センサや複雑な信号処理を不要にしつつ、吸着部材を適切な力で対象物に確実に押し付けた状態で対象物を吸着把持できる搬送ロボットを提供する。
【解決手段】
支持体5が取り付けられ、支持体を移動させるように動作する動作機構7と、吸着部材3を対象物に押し付けるために、吸着部材と支持体のうち吸着部材を移動方向前方側にして、吸着部材を対象物に向けて移動させる押付移動を動作機構に行わせる動作制御部11と、押付移動により吸着部材が対象物に押し付けられることで、吸着部材が弾性的に支持体側へ押し戻された量が所定量に達したかを検知する押付検知部9とを備える。押付検知部が、吸着部材の押し戻された量が所定量となったことを検知した時に、動作制御部は、押付移動を停止させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物を把持して搬送する搬送ロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
搬送ロボットは、対象物を吸着把持する吸着部材と、吸着部材を支持する支持体と、支持体が取り付けられる動作機構とを備える、動作機構は、例えば、複数の関節を有するロボットアームであり、ロボットアームの動作に伴って支持体が動作する。
【0003】
対象物を吸着把持する場合には、動作機構の動作により、対象物の上方位置まで支持体を移動させる。次いで、動作機構の動作により、支持体を下降させることで、吸着部材の吸着パッドを対象物に接触させ吸着把持を実行する。
【0004】
支持体の下降は、次のタイミングで停止させる。即ち、対象物との接触を検出した時に、支持体の下降を停止させる。または、吸着パッドが対象物に押し付けられることで吸着パッドに作用している力が所定値以上になったことを検出したら、支持体の下降を停止させる。このような制御は、例えば下記特許文献1に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−136965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、対象物との接触を検出する接触センサでは、吸着部材を対象物に押し付けている力を検出できないため、吸着部材が適切な力で対象物に押し付けられているかを確実に検出できない。
一方、吸着パッドに作用している力を検出する力センサは、高価である上に、力センサから出力される力検出信号の処理が複雑となる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、高価な力センサや複雑な信号処理を不要にしつつ、吸着部材を適切な力で対象物に確実に押し付けた状態で対象物を吸着把持できる搬送ロボットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明によると、対象物を把持して搬送する搬送ロボットであって、
対象物を吸着把持する吸着部材と、
前記吸着部材を支持する支持体と、
前記支持体が取り付けられ、前記支持体を移動させるように動作する動作機構と、
前記吸着部材を対象物に押し付けるために、前記吸着部材と支持体のうち前記吸着部材を移動方向前方側にして、前記吸着部材を対象物に向けて移動させる押付移動を前記動作機構に行わせる動作制御部と、
前記押付移動により、前記吸着部材が対象物に押し付けられることで、前記吸着部材が弾性的に前記支持体側へ押し戻された量が所定量に達したかを検知する押付検知部と、を備え、
前記押付検知部は、前記押し戻された量が前記所定量となったことを検知した時に、その旨の検知信号を前記動作制御部へ出力し、前記動作制御部は、該検知信号を受けると、前記押付移動を停止させる、ことを特徴とする搬送ロボットが提供される。
【0009】
上述した本発明の構成では、前記押付検知部は、前記押し戻された量が前記所定量となったことを検知した時に、その旨の検知信号を前記動作制御部へ出力し、前記動作制御部は、該検知信号を受けると、前記押付移動を停止させるので、吸着部材を、適切な力で対象物に確実に押し付けた状態で吸着を行える。従って、対象物を安定して吸着把持することができる。
また、前記吸着部材が対象物に押し付けられる力が適切かどうかを、前記押し戻され量が所定量に達したかどうかにより判断するので、高価な力センサを省略でき、複雑な信号処理が不要になる。
【0010】
本発明の好ましい実施形態によると、前記吸着部材は、前記支持体に対し進退方向に移動可能に前記支持体に支持される進退移動部と、該進退移動部の先端に設けられ弾性変形する吸着パッドと、を有し、前記進退方向は、互いに逆向きの前進方向と後退方向を含み、
前記支持体には、前記進退移動部に前記前進方向に弾性力を付与する弾性機構が設けられ、
前記押付検知部は、
前記進退移動部が前記弾性力に抗して前記後退方向に後退した量と、前記吸着パッドが対象物に押し付けられることで前記後退方向に弾性変形した量との和、または、該後退した量を、前記押し戻された量として、前記所定量と比較し、該和または該後退した量が前記所定量に達したかを検知する。
【0011】
前記進退移動部の後退量は、(該後退量に応じて変化する、または、一定の)バネ定数による弾性変位量とみなすことができ、吸着パッドの弾性変形量も、(該弾性変形量に応じて変化する、または、一定の)バネ定数による弾性変位量とみなすことができるので、前記吸着部材を対象物に押し付ける押付力により、前記進退移動部の後退量と吸着パッドの弾性変形量とが一意に決まる。従って、前記後退量と前記弾性変形量との和または前記後退量のみが前記所定量となった時に、吸着パッドが適切に弾性圧縮されているように(例えば、対象物の表面形状に倣って適切に弾性変形しているように)、前記所定量を設定しておくことができる。これにより、吸着パッドの弾性変形量を直接計測しなくても、前記後退量と前記弾性変形量の和または前記後退量を計測することで、吸着パッドが適切に弾性圧縮されていることを検知できる。よって、より安定した状態で対象物を吸着把持できる。
【0012】
本発明の好ましい実施形態によると、前記吸着部材は、複数設けられ、
前記各吸着部材毎に、前記押付検知部が設けられ、
前記動作制御部は、所定数以上の前記押付検知部から前記検知信号を受けた時に、前記押付移動を停止させる。
【0013】
このように、前記動作制御部は、所定数以上の前記押付検知部から前記検知信号を受けた時に、前記押付移動を停止させるので、所定数の吸着部材が、適切な力で対象物に押し付けられた状態で吸着を行える。従って、一層安定した状態で対象物を吸着把持できる。
【0014】
また、前記動作制御部は、前記支持体を第1姿勢にした状態で、前記押付移動を前記動作機構に行わせても、所定数以上の前記押付検知部から前記検知信号を受けない場合には、前記支持体を第2姿勢に変更した状態で、前記押付移動を前記動作機構に行わせてもよい。
【0015】
このように、前記支持体を第1姿勢にした状態で、前記押付移動を前記動作機構に行わせても、前記所定数以上の前記吸着部材が適切な力で対象物に押し付けられない場合には、前記支持体を第2姿勢に変更した状態で、前記押付移動を前記動作機構に行わせる。これにより、所定数以上の前記吸着部材を、適切な力で対象物に押し付けられるようにできる確率を高めることができる。
【発明の効果】
【0016】
上述した本発明によると、高価な力センサや複雑な信号処理を不要にしつつ、吸着部材を適切な力で対象物に確実に押し付けた状態で対象物を吸着把持できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の第1実施形態による搬送ロボットを示す。
【図2】本発明の第1実施形態による搬送ロボットの動作制御を示すフローチャートである。
【図3】所定数以上の吸着部材が、所定量以上、押し戻された場合を示す。
【図4】所定数未満の数の吸着部材が、所定量以上、押し戻された場合を示す。
【図5】吸着部材をバネでモデル化した図である。
【図6】本発明の第2実施形態による搬送ロボットの動作制御を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明を実施するための最良の実施形態を図面に基づいて説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0019】
[第1実施形態]
【0020】
図1は、本発明の第1実施形態による搬送ロボット10を示す。図1(A)は正面図であり、図1(B)は図1(A)のB−B線矢視図である。図1に示すように、搬送ロボット10は、対象物Wを把持して搬送する装置であり、吸着部材3、支持体5、動作機構7、押付検知部9、および、動作制御部11を備える。
【0021】
吸着部材3は、対象物Wを吸着把持し、支持体5は、吸着部材3を支持する。動作機構7には、支持体5が取り付けられ、動作機構7は、支持体5を移動させるように動作する。動作制御部11は、前記吸着部材3を対象物Wに押し付けるために、吸着部材3と支持体5のうち吸着部材3を移動方向前方側にして、吸着部材3を対象物Wに向けて移動させる押付移動を動作機構7に行わせる。押付検知部9は、前記押付移動により、吸着部材3が対象物Wに押し付けられることで、吸着部材3が弾性的に支持体5側へ押し戻された量が所定量に達したかを検知する。押付検知部9は、前記押し戻された量が前記所定量となったことを検知した時に、その旨の検知信号を前記動作制御部11へ出力し、前記動作制御部11は、該検知信号を受けると、前記押付移動を停止させる。
【0022】
第1実施形態による搬送ロボット10の構成をより詳しく説明する。
【0023】
吸着部材3は、第1実施形態では、支持体5に対し前記進退方向に移動可能に支持体5に支持される進退移動部3aと、該進退移動部3aの前進方向先端に設けられ弾性変形する吸着パッド3bと、を有する。なお、進退方向は、互いに逆向きの前進方向と後退方向を含む。図1(A)において、左右方向は水平方向であり、上下方向は鉛直方向であり、前進方向は下降方向であり、後退方向は上昇方向である。
この例では、吸着パッド3bは、対象物Wを吸引吸着するパッドである。吸着パッド3bは、棒状の進退移動部3aの内部を通る吸引管に連通した複数の吸引開口13(図1(B)を参照)を前進方向先端面に有し、前記吸引管を通した吸引開口13からの吸引により対象物Wを把持する。吸引は、吸引管に接続された吸引源(例えば真空ポンプ)により実行される。
第1実施形態では、吸着パッド3bは、弾性変形可能な材料で形成される。好ましくは、吸着パッド3bは、弾性変形可能なゴムまたはスポンジにより形成される。
上述の構成を有する吸着部材3が複数設けられる。
【0024】
支持体5は、前記進退方向に移動可能に棒状の進退移動部3aを支持する。支持体5は、この例では、各吸着部材3毎に、進退方向における2箇所に設けられた支持ブッシュ15(軸受)を有する。各支持ブッシュ15は、対応する吸着部材3の進退移動部3aが進退方向に移動可能に進退移動部3aを支持する。また、図1(A)では、各吸着部材3の進退移動部3aは、進退方向と直交する方向に突出した係止部17を有する。この係止部17は、吸着部材3が最大前進位置となった時に(図1(A)の状態)、支持体5(この例では、上側の支持ブッシュ15)に係止され、これにより、吸着部材3が自重により鉛直下方(前進方向)に支持体5から落下することが防止される。
また、支持体5には、各吸着部材3毎に、該吸着部材3に前進方向に弾性力を付与する弾性機構21が設けられる。図1(A)の例では、弾性機構21は、支持体5(下側の支持ブッシュ15)と吸着部材3の係止部19との間に設けられたコイルバネである。なお、弾性機構21は、コイルバネ以外のものであってもよい。
また、支持体5は、各吸着部材3が進退方向に移動できないように各吸着部材3の進退方向位置を一定に保持するロック機構23を有する。このロック機構23は、各吸着部材3毎に設けられてよい。各ロック機構23は、例えば、ブレーキシュー23aと、該ブレーキシュー23aを対応する進退移動部3aに押すことで該吸着部材3の進退方向位置を一定に保持する作動部23bと、を有する。
【0025】
動作機構7は、例えば、図1(A)のように、3次元的に動作可能なアームであり、該アームの先端部に支持体5が取り付けられている。従って、アームの動作に伴って支持体5が動作する。図1(A)では、動作機構7(アーム)は、互いに連結された第1アーム部7aと第2アーム部7bなどから構成される。第1アーム部7aは、例えばシリンダ装置により構成されることで伸縮動作可能となっている。第1アーム部7aの先端(この例では、シリンダ装置のピストン先端)に、支持体5が固定されている。従って、図1(A)において、第1アーム部7aが伸縮動作することで、支持体5が上昇または下降する。また、第1アーム部7aは、例えばサーボモータ(図示せず)などにより、第1回転軸C1(図1(A)において紙面と直交する軸)を中心として第2アーム部7bに対し回転動作させられる。第2アーム部7bは、第1アーム部7aと同様に伸縮動作可能に構成されてよい。また、第2アーム部7bは、例えばサーボモータにより第2回転軸C2(図1(A)において、第2アーム部7bの中心軸と一致)を中心として回転動作させられる。このように、動作機構7(アーム)の動作は、第1アーム部7aと第2アーム部7bの伸縮動作および回転動作として行われる。なお、第2アーム部7bは、図示しない機構により3次元的に動作(移動)させられるものであってよい。
【0026】
押付検知部9は、図1の例では、移動部9aと移動量計測器9bとからなる。図1(A)において、移動部9aは吸収部材3に近接して配置される。移動部9aの先端は、進退方向において、吸収部材3の吸着パッド3bの先端(対象物Wとの接触面)と同じ位置にある。支持体5の動作により吸着部材3が対象物Wに押し付けられることで、吸着部材3が弾性的に押し戻されると、この押し戻され量と同じ量だけ、後退方向に移動部9aが押し戻される。このように移動部9aが押し戻されることは、移動部9aが、対象物Wに接触して対象物Wから押付力を受けることによりなされる。従って、移動量計測器9bは、移動部9aの押し戻され量を、吸着部材3の押し戻され量として検出する。移動部9aは、進退方向と直交する方向に突出した係止部(図示せず)を有する。この係止部は、移動部9aが最大前進位置となった時に(図1(A)の状態)、支持体5などに係止され、これにより、移動部9aが自重により鉛直下方(前進方向)に移動量計測器9bから落下することが防止される。なお、このような押付検知部9は、ポテンショメータ、リニアエンコーダ、光学センサまたは他の手段により構成することができる。
第1実施形態によると、押付検知部9が検出する吸着部材3の前記押し戻された量は、進退移動部3aが前記弾性力に抗して前記後退方向に後退した量と、吸着パッド3bが対象物Wに押し付けられることで前記後退方向に弾性変形した量との和である。
上述の構成を有する押付検知部9が複数設けられる。即ち、各吸着部材3毎に、押付検知部9が設けられ、各押付検知部9は、対応する吸着部材3が前記押付移動により対象物Wに押し付けられることで、該吸着部材3が弾性的に押し戻された量が前記所定量に達したかを検知し、当該押し戻された量が前記所定量に達したことを検知したら、その旨の検知信号を動作制御部11に出力する。
【0027】
動作制御部11は、第1アーム部7aと第2アーム部7bの伸縮動作や回転動作などにより、前記押付移動を動作機構7に行わせる。より具体的には、動作制御部11は、(1)第1アーム部7aを構成するシリンダ装置を伸縮させる制御、(2)第1アーム部7aを第1回転軸C1周りに回転駆動させるサーボモータの回転角制御、(3)第2アーム部7bを構成するシリンダ装置を伸縮させる制御、および、(4)第2アーム部7bを第2回転軸C2周りに回転駆動させるサーボモータの回転角制御の少なくともいずれかを行うことで、前記押付移動を動作機構7に行わせる。
動作制御部11は、所定数以上(好ましくは、2以上である所定数)の押付検知部9から前記検知信号を受けた時に、前記押付移動を停止させるように動作機構7を制御する。
【0028】
次に、上述の構成を有する搬送ロボット10の動作制御について説明する。この動作制御は、動作制御部11に実行される。図2は、この動作制御を示すフローチャートである。
【0029】
ステップS1において、動作制御部11が、動作機構7の動作を制御して、図1(A)のように、支持体5を水平姿勢にして対象物Wの上方に位置させる。
ステップS2において、動作制御部11は、動作機構7に前記押付移動させる。この例では、第1アーム部7aを伸長させることで、支持体5を下降させる。
ステップS3において、動作制御部11は、各押付検知部9からの前記検知信号に基づいて、所定数以上の吸着部材3の前記押し戻された量が所定量となったかどうかを判断する。即ち、動作制御部11は、所定数以上の押付検知部9から前記検知信号を受けたら、ステップS4へ進み、そうでない場合には、ステップS6へ進む。図1(B)のように、吸着部材3(吸着パッド3b)が合計9つある場合には、前記所定数を例えば4つにする。この場合、図3のように、すべての(9つの)吸着部材3の前記押し戻された量が所定量に達しており、すべての押付検知部9から前記検知信号が出力された場合には、ステップS4へ進む。一方、図4のように、最も右の列にある吸着部材3だけ、前記押し戻された量が所定量に達している場合には、所定数(4つ)以上の吸着部材3の前記押し戻された量が所定量に達していないとして、ステップS6へ進む。
ステップS4において、動作制御部11は、前記押付移動(この例では、支持体5の下降)を停止させるように動作機構7を制御を行う。図1(A)の例では、第1アーム部7aの伸長を停止する制御を行う。その後、ステップS5へ進む。
ステップS5において、動作制御部11が、各進退移動部3aのロック機構23の作動部23bにロック作動信号を出力することで、各ロック機構23が、対応する進退移動部3aをロックする。これにより、各進退移動部3aの支持体5に対する進退方向位置が一定に保持される。これとともに、ステップS5では、動作制御部11が、各吸着パッド3bによる対象物Wの吸引を開始させることで、各吸着パッド3bが対象物Wを吸着把持する。その後、動作機構7の動作により、対象物Wが搬送される。
ステップS6では、前記押し戻された量が許容限界値に達したかどうかを判断する。即ち、各押付検知部9は、対応する吸着部材3の前記押し戻された量を計測しており、該押し戻された量が前記許容限界値に達したと判断したら、エラー信号を出力する。動作制御部11は、いずれかの押付検知部9から前記エラー信号を受けたら、エラーであるとして、前記押付移動(この例では、支持体5の下降)を終了させ、エラー信号を受けない場合には、ステップS2へ戻り、ステップS2において、動作制御部11は、動作機構7に前記押付移動(この例では、支持体5の下降)を継続させる。なお、許容限界値は、前記所定量よりも大きい値である。
【0030】
上述の制御方法により、所定数以上の吸着部材3の前記押し戻された量が所定量に達するまで、前記押付移動(支持体5の下降)を継続する。ただし、いずれかの吸着部材3の前記押し戻された量が許容限界値に達したら、過大な力が発生するとしてエラー信号を出力して、前記押付移動を終了させる。
【0031】
上述の第1実施形態の搬送ロボット10によると、以下の効果(A)〜(D)が得られる。
【0032】
(A)押付検知部9は、前記押し戻された量が前記所定量となったことを検知した時に、その旨の検知信号を動作制御部11へ出力し、動作制御部11は、該検知信号を受けると、前記押付移動を停止させるので、吸着部材3を、適切な力で対象物Wに確実に押し付けた状態で吸着を行える。従って、対象物Wを安定して吸着把持することができる。
【0033】
(B)また、吸着部材3が対象物Wに押し付けられる力が適切かどうかを、前記押し戻され量が所定量に達したかどうかにより判断するので、高価な力センサを省略でき、複雑な信号処理が不要になる。
【0034】
(C)図5のように、押付力Fが対象物Wから吸着部材3に作用した場合、進退移動部3aの後退量は、一定のバネ定数k1による弾性変位量とみなすことができ、吸着パッド3bの弾性変形量も、(該弾性変形量に応じて変化する)バネ定数k2による弾性変位量とみなすことができるので、進退移動部3aの後退量と吸着パッド3bの弾性変形量とは、押付力Fにより一意に決まる。従って、前記後退量と前記弾性変形量との和が前記所定量となった時に、吸着パッド3bが適切に弾性圧縮されているように(例えば、対象物Wの表面形状に倣って適切に弾性変形しているように)、前記所定量を設定しておくことができる。これにより、吸着パッド3bの弾性変形量を直接計測しなくても、吸着パッド3bが適切に弾性圧縮されていることを検知できる。よって、より安定した状態で対象物Wを吸着把持できる。
【0035】
(D)所定数以上の吸着部材3の前記押し戻された量が所定量となったことを検知した時に、前記押付移動を停止させるので、所定数の吸着部材3が、適切な力で対象物Wに押し付けられた状態で吸着を行える。従って、一層安定した状態で対象物Wを吸着把持できる。
【0036】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態による搬送ロボット10を説明する。第2実施形態による搬送ロボット10は、以下で述べる内容が、第1実施形態による搬送ロボット10と異なる。第2実施形態による搬送ロボット10の他の点は、第1実施形態による搬送ロボット10と同じであってよい。具体的には、第2実施形態では、動作制御部11による動作機構7の制御が異なり、他の点は第1実施形態と同じであってよい。
【0037】
第2実施形態によると、動作制御部11は、支持体5を第1姿勢にした状態で、前記押付移動を動作機構7に行わせても、所定数以上の押付検知部9から前記検知信号を受けない場合には、支持体5を第2姿勢に変更した状態で、前記押付移動を動作機構7に行わせる。
【0038】
図6は、第2実施形態による動作制御部11による制御を示すフローチャートである、図6に基づいて、第2実施形態について詳しく説明する。
【0039】
ステップS11において、動作制御部11が、動作機構7の動作を制御して、水平面に対する支持体5の姿勢を第1姿勢(例えば、水平姿勢)に設定して、支持体5を対象物Wの上方(即ち、真上)に位置させる。
ステップS12において、動作制御部11は、直前のステップS11またはステップS17で設定した姿勢を支持体5が維持するように、動作機構7に前記押付移動させる。この例では、第1アーム部7aを伸長させることで、直前のステップS11またはステップS17で設定した姿勢のまま、支持体5を下降させる。
ステップS13において、動作制御部11は、各押付検知部9からの前記検知信号に基づいて、所定数以上の押付検知部9が、前記押し戻された量が所定量となったかどうかを判断する。即ち、動作制御部11は、所定数以上の押付検知部9から前記検知信号を受けたら、ステップS14へ進み、そうでない場合には、ステップS16へ進む。
ステップS14において、動作制御部11は、前記押付移動(この例では、支持体5の下降)を停止させるように動作機構7を制御を行う。図1(A)の例では、第1アーム部7aの伸長を停止する制御を行う。その後、ステップS15へ進む。
ステップS15において、動作制御部11が、各進退移動部3aのロック機構23の作動部23bにロック作動信号を出力することで、各ロック機構23が、対応する進退移動部3aをロックする。これにより、各進退移動部3aの支持体5に対する進退方向位置が一定に保持される。これとともに、ステップS15では、動作制御部11が、各吸着パッド3bによる対象物Wの吸引を開始させることで、各吸着パッド3bが対象物Wを吸着把持する。その後、動作機構7の動作により、対象物Wが搬送される。
ステップS16では、前記押し戻された量が許容限界値に達したかどうかを判断する。即ち、各押付検知部9は、対応する吸着部材3の前記押し戻された量を計測しており、該押し戻された量が前記許容限界値に達したと判断したら、姿勢変更信号を動作制御部11に出力する。動作制御部11は、いずれかの押付検知部9から前記姿勢変更信号を受けたら、過大な力が発生するとして、ステップS17へ進み、そうでない場合には、ステップS12へ戻り、ステップS12において、動作制御部11は、動作機構7に前記押付移動(この例では、支持体5の下降)を継続させる。なお、許容限界値は、前記所定量よりも大きい値である。
ステップS17では、動作制御部11は、動作機構7を制御して、水平面に対する支持体5の姿勢を別の姿勢に設定して、支持体5を対象物Wの上方(即ち、真上)に位置させる。例えば、第1回転軸C1回りに第1アーム部7aを所定角だけ回転させることで、支持体5の姿勢を別の姿勢に設定する。なお、これにより、支持体5の位置が対象物Wの真上からずれるので、動作制御部11は、動作機構7を動作させて、支持体5を、設定した別の姿勢にした状態で、支持体5を対象物Wの真上に位置させる。次いで、ステップS12へ戻る。
【0040】
上述の制御方法により、所定数以上の吸着部材3の前記押し戻された量が所定量に達するまで、支持体5の下降を継続する。ただし、いずれかの吸着部材3の前記押し戻された量が許容限界値に達したら、支持体5の姿勢を別の姿勢に変更して、前記押付移動を再び行う。このように、所定数以上の吸着部材3の前記押し戻された量が所定量に達するまで、支持体5の姿勢を別の姿勢に変更して前記押付移動を行うことを繰り返す。
【0041】
ステップS17をさらに詳しく説明する。
【0042】
ステップS17を行う時に、所定の初期回転角度から第1回転軸C1回りに第1アーム部7aをm×θだけ回転させることで、支持体5の姿勢を別の姿勢に設定してよい。ここで、mは所定範囲内(例えば、−3から+3まで)の整数であり、θは単位回転角である。mの値を、ステップS17を行う度に変更する。即ち、mの値を、ステップS17において未だ選択されていない整数に変更して、新たなステップS17を行う。このようにして、ステップS17を行う度に、mの値を変更し、変更したmによりステップS17を行ってよい。この場合、ステップS17の他の点は、上述と同じであってよい。
【0043】
代わりに、ステップS17で支持体5を別の姿勢に設定する時に、第1回転軸C1回りにおける第1アーム部7aの回転と、第2回転軸C2回りにおける第2アーム部7bの回転とを組み合わせて行ってよい。この場合、ステップS17を行う時に、所定の初期回転角度から第1回転軸C1回りに第1アーム部7aをm×θだけ回転させ、所定の初期回転角度から第2回転軸C2回りに第2アーム部7bをn×θだけ回転させることで、支持体5の姿勢を別の姿勢に設定してよい。ここで、mとnは所定範囲内(例えば、−3から+3まで)の整数であり、θとθは単位回転角である。なお、ステップS17を行う度に、mとnの一方または両方を変更して行う。この場合、mとnの値の組み合わせとして、未だ選択されていない組み合わせを選択して、新たなステップS17を行う。このようにして、mとnの多数の組み合わせについて、ステップS17を繰り返し行ってよい。この場合、ステップS17の他の点は、上述と同じであってよい。
【0044】
上述の第2実施形態の搬送ロボット10によると、上述の効果(A)〜(D)に加えて次の効果(E)が得られる。
【0045】
(E)支持体5を第1姿勢にした状態で、前記押付移動を動作機構7に行わせても、所定数以上の吸着部材3が適切な力で対象物Wに押し付けられない場合には、支持体5を第2姿勢に変更した状態で、前記押付移動を動作機構7に行わせる。これにより、所定数以上の吸着部材3を、適切な力で対象物Wに押し付けられるようにできる確率を高めることができる。
【0046】
本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更を加え得ることは勿論である。
【0047】
例えば、上述の各実施形態では、押付検知部9が検出する吸着部材3の前記押し戻された量は、進退移動部3aが前記弾性力に抗して支持体5に対し前記後退方向に後退した量と、吸着パッド3bが対象物Wに押し付けられることで前記後退方向に弾性変形(圧縮)した量との和であったが、本発明はこれに限定されない。即ち、吸着部材3が対象物Wに押し付けられる押付力により、前記後退した量と前記弾性変形した量とが一意に決まれば、押付検知部9が検出する吸着部材3の前記押し戻された量は、前記後退した量であってもよい。この場合、押付検知部9は、進退移動部3aの前記後退した量を検出できるように構成、配置される。これにより、押付検知部9は、前記後退した量を、前記押し戻された量として、前記所定量と比較し、該後退した量が前記所定量に達したかを検知する。この構成において、本発明の他の点は、上述の第1実施形態または第2実施形態と同じであってよい。
【符号の説明】
【0048】
3 吸着部材、3a 進退移動部、3b 吸着パッド、
5 支持体、7 動作機構、7a 第1アーム部、
7b 第2アーム部、9 押付検知部、9a 移動部、
9b 移動量計測器、10 搬送ロボット、11 動作制御部、
13 吸引開口、15 支持ブッシュ、17 係止部、
19 係止部、21 弾性機構、23 ロック機構、
23a ブレーキシュー、23b 作動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象物を把持して搬送する搬送ロボットであって、
対象物を吸着把持する吸着部材と、
前記吸着部材を支持する支持体と、
前記支持体が取り付けられ、前記支持体を移動させるように動作する動作機構と、
前記吸着部材を対象物に押し付けるために、前記吸着部材と支持体のうち前記吸着部材を移動方向前方側にして、前記吸着部材を対象物に向けて移動させる押付移動を前記動作機構に行わせる動作制御部と、
前記押付移動により、前記吸着部材が対象物に押し付けられることで、前記吸着部材が弾性的に前記支持体側へ押し戻された量が所定量に達したかを検知する押付検知部と、を備え、
前記押付検知部は、前記押し戻された量が前記所定量となったことを検知した時に、その旨の検知信号を前記動作制御部へ出力し、前記動作制御部は、該検知信号を受けると、前記押付移動を停止させる、ことを特徴とする搬送ロボット。
【請求項2】
前記吸着部材は、前記支持体に対し進退方向に移動可能に前記支持体に支持される進退移動部と、該進退移動部の先端に設けられ弾性変形する吸着パッドと、を有し、前記進退方向は、互いに逆向きの前進方向と後退方向を含み、
前記支持体には、前記進退移動部に前記前進方向に弾性力を付与する弾性機構が設けられ、
前記押付検知部は、
前記進退移動部が前記弾性力に抗して前記後退方向に後退した量と、前記吸着パッドが対象物に押し付けられることで前記後退方向に弾性変形した量との和、または、該後退した量を、前記押し戻された量として、前記所定量と比較し、該和または該後退した量が前記所定量に達したかを検知する、ことを特徴とする請求項1に記載の搬送ロボット。
【請求項3】
前記吸着部材は、複数設けられ、
前記各吸着部材毎に、前記押付検知部が設けられ、
前記動作制御部は、所定数以上の前記押付検知部から前記検知信号を受けた時に、前記押付移動を停止させる、ことを特徴とする請求項1または2に記載の搬送ロボット。
【請求項4】
前記動作制御部は、前記支持体を第1姿勢にした状態で、前記押付移動を前記動作機構に行わせても、前記所定数以上の前記押付検知部から前記検知信号を受けない場合には、前記支持体を第2姿勢に変更した状態で、前記押付移動を前記動作機構に行わせる、ことを特徴とする請求項3に記載の搬送ロボット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−188483(P2010−188483A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−36647(P2009−36647)
【出願日】平成21年2月19日(2009.2.19)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【Fターム(参考)】