説明

摺動接点部材

【課題】 高い電気伝導度、熱伝導率を備えるだけでなく、潤滑性を有し、長期間にわたり性能を維持して使用可能な摺動接点部材を提供する。
【解決手段】 潤滑剤としてのポリテトラフルオロエチレンと、銀及び不可避不純物とを有し、該潤滑剤を0.3〜3.0質量%含有する接点材料からなり、相対密度が80%以上であることを特徴とする摺動接点部材とした。また前記接点材料は、さらに少なくともグラファイト、Ni、Cu、NiO、SnO2 、In23 、CuO、MoO3 、ZnO、TeO2 、Bi23 のうちいずれか1種以上の添加物を、合計して0.3〜10.0質量%含有し、該添加物及び前記潤滑剤の残部を前記銀及び不可避不純物とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動接点部材に関するものであり、例えばCTスキャン、新聞用輪転機等の回転部位において、信号伝達や装置駆動用電源の接触片として使用される摺動接点部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、摺動を伴う電気機器の摺動接点部材には、Ag−グラファイト、Ag−Cu、Pt−Ag−Cu、Au−Ag−Cu等、銀及び貴金属をベースとした材料が用いられていた(例えば特許文献1)。しかしながら、これらの材料を使用した摺動接点部材は、抵抗率が低く、電気伝導率が高い銀以外の材料がベースとして含まれるため、電気的摩耗が生じやすく、充分な使用期間が得られなかった。また特許文献1では、潤滑剤を直接含有させていないため、十分な潤滑性が得られない。
【0003】
このため、特許文献2及び特許文献3に開示されるように、摺動接点部材の材料として、抵抗率が低く、電気伝導率や熱伝導率が高い銅や銀をベースとした材料を用い、潤滑剤としてフッ素系潤滑油やポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」とする。)樹脂を用いることが検討されている。
【0004】
しかし特許文献2で用いられているフッ素系潤滑油は、潤滑油中にPTFE粉末を分散させたものであるが潤滑油との比重差によりPTFE粉末の沈殿が発生するなど均一分散が困難である。このためフッ素系潤滑油を用い、摺動接点部材を製造した場合には機械的摩耗が生じやすく、十分な使用期間が得られない。また同文献が開示する発明は、銅又は銀をベースとした材料を用いた摺動接点部材であるが、銅をベースとした材料を用いた場合には、銀をベースとした材料を用いた場合と比較すると、摺動接点部材の電気伝導率や熱伝導率が低くなり、電気的摩耗が生じやすくなる。
さらに特許文献3は、潤滑剤について検討した、低粘性のロウ質PTFEを用い、高温作用に適応可能とした自己潤滑メタル軸受けについての発明であるが、金属粉を高い温度で焼結することによって得られる本質的強度は得られない等、長期間にわたり性能を維持し、使用することが考慮されていない。
【特許文献1】特開昭59−56545号公報
【特許文献2】特開昭57−57419号公報
【特許文献3】米国特許3,273,977号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高い電気伝導度、熱伝導率を備えるだけでなく、潤滑性を有し、長期間にわたり性能を維持して使用可能な摺動接点部材を提供することを課題する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、請求項1に記載するように、潤滑剤としてのポリテトラフルオロエチレンと、銀及び不可避不純物とを有し、該潤滑剤を0.3〜3.0質量%含有する接点材料からなり、相対密度が80%以上であることを特徴とする摺動接点部材である。
【0007】
また請求項1記載の摺動接点部材は、請求項2に記載するように、前記接点材料が、さらに少なくともグラファイト、Ni、Cu、NiO、SnO2 、In23 、CuO、MoO3 、ZnO、TeO2 、Bi23 のうちいずれか1種以上の添加物を、合計して0.3〜10.0質量%含有し、該添加物及び前記潤滑剤の残部が前記銀及び不可避不純物であることが好ましい。
【0008】
また請求項2記載の摺動接点部材は、請求項3に記載するように、前記添加物が、CuO、MoO3 、ZnOのうちいずれか1種以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0009】
上記のように構成された本発明によれば、高い電気伝導度、熱伝導率、及び潤滑性を有し長期間にわたり性能を維持して使用可能な摺動接点部材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の摺動接点部材について、最良の実施形態を説明する。
本発明の摺動接点部材は、材料(以下、「接点材料」とする。)として、銀に対し、潤滑剤としてPTFE粉末を用いる。さらに必要に応じてグラファイト、Ni、Cu、NiO、SnO2 、In23 、CuO、MoO3 、ZnO、TeO2 、Bi23 を、好ましくはCuO、MoO3 、ZnOを添加する。
【0011】
ここで潤滑剤として用いるPTFEは、摺動接点部材に潤滑性を与えるため0.3〜3.0質量%の範囲で用いられる。0.3質量%未満の場合には、潤滑剤の作用である潤滑性が得られず、3.0質量%を超える場合には、機械的摩耗に対し極度の低下がみられるからである。
【0012】
また必要に応じ添加するグラファイト、Ni、Cu、NiO、SnO2 、In23 、CuO、MoO3 、ZnO、TeO2 、Bi23 は、単独で用いても、2種以上を合わせて用いてもよいが、合計して0.3質量%〜10.0質量%の範囲で添加することが好ましい。特にCuO、MoO3 、ZnOを用いることが好ましいが、この場合も同様に、単独で用いても、2種以上を合わせて用いてもよいが、合計して0.3質量%〜10.0質量%の範囲で添加することが好ましい。
これは上記添加成分が、全て、機械的摩耗及び耐アーク性、耐溶着性等の電気的摩耗に対して向上作用を示し、添加割合が0.3質量%未満ではこれらの作用が得られず、10.0質量%を超えると電気伝導度及び熱伝導度に低下傾向があり、接触抵抗の増加に伴う発熱量の増大により電気摩耗への効果が激減するためである。特にCuO、ZnOを用いることが好ましいのは、他の添加成分よりも、顕著な、機械的摩耗に対する向上作用を得ることができるためである。また特にMoO3 を用いることが好ましいのは、MoO3 が昇華しやすく、摺動時に発生しうるアークによる熱を、昇華熱として消費することができるためである。これにより、アークによって発生した熱またはアークの発生自体を抑制する効果が期待でき、電気的摩耗に対する向上作用がある。
【0013】
これらの接点材料を均一に混合し、圧力をかけることで成形し、これをさらに焼結させることで、相対密度が80%以上の摺動接点部材を得る。
相対密度が80%未満では接点材料としての機械的強度が得られず潤滑剤の潤滑性が損なわれるためである。
【実施例】
【0014】
以下、本発明の摺動接点部材について、実施例を示す。
Ag粉末(日本重金属工業(株)製)(一部、不可避不純物)に対し、表1に示す割合で、PTFE粉末(三井・デュポンフロロケミカル(株)製)及び粉末状のグラファイト(日本黒鉛工業(株)製)、Ni粉(インコリミテッド日本支社製)、Cu粉(福田金属箔粉工業(株)製)、NiO粉(純正化学(株)製試薬)、SnO2 粉(福田金属箔粉工業(株)製)、In23 粉(純正化学(株)製試薬)、CuO粉(純正化学(株)製試薬)、MoO3 粉(純正化学(株)製試薬)、ZnO粉(純正化学(株)製試薬)、TeO2 粉(純正化学(株)製試薬)、Bi23 粉(純正化学(株)製試薬)を添加し、接点材料を調製した。表1の割合は、質量%で記載し、空欄は0質量%を意味し、残部はAg粉末(一部、不可避不純物)である。なお「比」は、比較例である。
【0015】
【表1】

【0016】
この接点材料をボールミルにて均一混合し、8t/cm2 の成形圧力をかけ、成形体を得た。この成形体を、大気中で300℃にて2時間焼成し、摺動接点部材を得た。
【0017】
この摺動接点部材を5.4mm×8.0mm×2.0mmの大きさにし、Be−Cu板バネに半田付けした。このBe−Cu板バネ上の摺動接点部材に対して、4Nの接触力で、リング材(硬質Agメッキが施された真鍮(外径φ1000、内径φ850))を回転速度75rpmで1000万回転(比較例は500万回転)させたときの、摺動接点部材の摩耗量(mm)を表2に示した。なお「比」は、比較例である。
【0018】
【表2】

【0019】
表2からわかるように、実施例のNo1〜36の摺動接点部材は、摩耗量が1.36mm以下であり、機械的強度を備え、長期間にわたり性能を維持して使用可能である。特に添加成分として、CuO、ZnOを用いたNo1〜3、No16〜18、No28〜30は、摩耗量がより少なく、より機械的強度を備え、より長期間にわたり性能を維持して使用可能である。
一方、比較例のPTFE粉末未使用の摺動接点部材は、実施例に対し回転数が半減しているにも拘わらず、摩耗量が1.42mmと、機械的強度が不十分であり、長期間にわたり性能を維持して使用するに問題がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑剤としてのポリテトラフルオロエチレンと、銀及び不可避不純物とを有し、該潤滑剤を0.3〜3.0質量%含有する接点材料からなり、相対密度が80%以上であることを特徴とする摺動接点部材。
【請求項2】
前記接点材料は、さらに少なくともグラファイト、Ni、Cu、NiO、SnO2 、In23 、CuO、MoO3 、ZnO、TeO2 、Bi23 のうちいずれか1種以上の添加物を、合計して0.3〜10.0質量%含有し、該添加物及び前記潤滑剤の残部が前記銀及び不可避不純物であることを特徴とする請求項1に記載の摺動接点部材。
【請求項3】
前記添加物が、CuO、MoO3 、ZnOのうちいずれか1種以上であることを特徴とする請求項2に記載の摺動接点部材。

【公開番号】特開2006−4864(P2006−4864A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182527(P2004−182527)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(594111292)三菱マテリアルシ−エムアイ株式会社 (54)
【Fターム(参考)】