説明

摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物及びそれを用いた摺動部材

【課題】 低摩擦係数、耐摩耗性、耐焼き付け性を付与しその効果が長期間持続するような摺動部材用組成物及びこれを用いた摺動部材を提供する。
【解決手段】 式1及び/又は式2で示される化合物を共重合したポリアミドイミド樹脂に固体潤滑剤を含有されてなることを特徴とする摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【化8】


(R1、R2は2価のアルキル基又はアリール基を表し、Xは水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、メタクリル基、フェノール性水酸基を表す。nは1以上の整数である。)
【化9】


(R3は1価のアルキル基又はアリール基を示す。R4は2価以上5価以下のアルキル基又はアリール基である。YはR4に含まれる炭素に結合しており、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、メタクリル基、フェノール性水酸基から選ばれる官能基を表す。nは1以上の整数であり、kは1以上4以下の整数を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物及びそれを用いた摺動部材に関する。本発明は、優れた低摩擦係数、耐摩耗性、耐焼き付け性を付与しその効果が長期間持続するという効果を奏するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂やフッ素樹脂、ポリアミドイミド樹脂に固体潤滑剤を配合した組成物をコーティングした摺動部材は知られており、例えば特許文献1には固体潤滑剤を含むフッ素樹脂をコーティングしたピストンスカートが開示されている。また、特許文献2にはポリアミドイミド又はポリイミド樹脂と固体潤滑剤を含有する潤滑被覆用組成物が開示されている。このように摺動部材の表面に潤滑被膜をコーティングすることで摺動部のなじみやスカッフィングを防止し、摩擦係数を低減している。
【0003】
摩擦係数の低減には固体潤滑剤の比率を増やすことが有効であるが固体潤滑剤が多い為に被膜自体が軟らかくなり過ぎて被膜の摩耗が多くなる問題が生じる。この問題を解決するために特許文献3では摩擦係数低減と耐摩耗性両立のためバインダーにも潤滑性を有するシリコーン変成ポリアミドイミド樹脂をバインダーにした摺動部材用樹脂組成物も開示されている。また、特許文献4にはo−トリジン構造を含有することで耐磨耗性、摩擦特性、耐焼き付け性を付与した摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物が開示されている。しかし、近年の自動車用摺動部材において、低燃費化を図る観点から潤滑膜の摩擦係数の低減、耐摩耗性の向上、及びこれら効果の長期持続性の要求を十分に満足するとはいえない。
【0004】
【特許文献1】特開昭54−162014号公報
【特許文献2】特開平5−59387号公報
【特許文献3】特開平8−92528号公報
【特許文献4】特開2003−306604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、低摩擦係数、耐摩耗性、耐焼き付け性を付与しその効果が長期間持続するような摺動部材用組成物及びこれを用いた摺動部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記目的を達成するために、鋭意検討を重ねた結果、本発明に到達した。即ち本発明は、以下の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物及びそれを用いた摺動部材である。
【0007】
(1)式1及び/又は式2で示される化合物を共重合したポリアミドイミド樹脂に固体潤滑剤を含有されてなることを特徴とする摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【化3】

(R1、R2は2価のアルキル基又はアリール基を表し、Xは水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、メタクリル基、フェノール性水酸基を表す。nは1以上の整数である。)
【化4】

(R3は1価のアルキル基又はアリール基を示す。R4は2価以上5価以下のアルキル基又はアリール基である。YはR4に含まれる炭素に結合しており、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、メタクリル基、フェノール性水酸基から選ばれる官能基を表す。nは1以上の整数であり、kは1以上4以下の整数を表す)
【0008】
(2)式1及び/又は式2で表される化合物の共重合量がポリアミドイミド樹脂100重量%のうち、0.1重量%以上30重量%以下であることを特徴とする(1)に記載の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【0009】
(3)式1及び/又は式2で表される化合物の分子量が1000以上13000以下であることを特徴とする(1)または(2)に記載の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【0010】
(4)ポリアミドイミド樹脂の対数粘度が0.3dl/g以上2.0dl/g以下であり、ガラス転移温度が200℃以上400℃以下であることを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【0011】
(5)固体潤滑剤が金属硫化物、フッ素化合物、及びグラファイトから選ばれる少なくとも1種以上であり、且つポリアミドイミド100重量部に対し5重量部以上500重量部以下含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【0012】
(6)固体潤滑剤が二硫化モリブデン及び/又は二硫化タングステンであり、且つポリアミドイミド100重量部に対し5重量部以上500重量部以下含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれかに記載の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【0013】
(7)フッ素化合物がポリテロラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド及びトリクロロトリフルオロエチレンの群から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする(5)に記載の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【0014】
(8)ポリアミドイミド樹脂100重量部に対して、さらに粒子径が0.1μm〜10μmの窒化珪素、アルミナ、炭化珪素、窒化ホウ素、ダイヤモンド、およびシリカからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を、5〜200重量部含有することを特徴とする(1)〜(7)のいずれかに記載の摺動部材用ポリアミドミド樹脂組成物。
【0015】
(9)ポリアミドイミド樹脂100重量部に対して、さらに多官能のエポキシ化合物、イソシアネート化合物及びメラミン化合物の群から選ばれる少なくとも1種以上を1〜30重量部含有することを特徴とする(1)〜(8)のいずれかに記載の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【0016】
(10)(1)〜(9)のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物を用いた摺動部材。
【発明の効果】
【0017】
本発明の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物を塗布した摺動部材は摩擦係数の低減、耐摩耗性に優れ、且つ十分な耐久性を有するため家電製品や自動車エンジンのピストンスカート等に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明を詳細に説明する。本発明に用いるポリアミドイミド樹脂は式1及び/又は式2で示される化合物を共重合することを特徴とする。
【化5】

(R1、R2は2価のアルキル基又はアリール基を表し、Xは水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、メタクリル基、フェノール性水酸基を表す。nは1以上の整数である。)
【化6】

(R3は1価のアルキル基又はアリール基を示す。R4は2価以上5価以下のアルキル基又はアリール基である。YはR4に含まれる炭素に結合しており、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、メタクリル基、フェノール性水酸基から選ばれる官能基を表す。nは1以上の整数であり、kは1以上4以下の整数を表す。)
【0019】
ここで特許文献3には式3の化合物を変性又は共重合することが開示されている。
【化7】

(R5、R6は2価の脂肪族基又は芳香族基、R7はアルキル、アリール基を示しlは2以上、m、nは1以上の整数を表す。)
式3の化合物は側鎖に長鎖のポリエステルを有しておりポリアミドイミド樹脂と混ざりやすく樹脂単体のフイルムは透明である。このため潤滑性を有する式3の成分が樹脂表面に現れにくく更に摩擦係数を低下させることは困難であった。これに対し式1及び式2の化合物はポリアミドイミド樹脂と混ざりにくく、樹脂単体のフイルムは不透明になる。その結果潤滑性を有する式1及び式2の成分が樹脂表面に現れやすく更に摩擦係数を低下させることが可能である。この式1または式2の化合物をポリアミドイミド樹脂に共重合するとき、2種の併用、単独のどちらで使用しても良い。共重合量はポリアミドイミド樹脂100重量%中、0.1重量%以上30重量%以下であるが、好ましくは0.5重量%以上20重量%以下、更に好ましくは1重量%以上10重量%以下である。30重量%を超えると耐摩耗性が悪くなる問題が生じ、0.1重量%未満の場合摩擦係数が高くなる問題が生じるおそれがある。また、式1及び式2の分子量は1000以上13000以下が望ましく、好ましくは2000以上10000以下が、更に好ましくは3000以上8000以下である。分子量1000未満ではポリアミドイミドに共重合しても相分離しないため摩擦係数が低下しないことがある。また、13000を超えるとポリアミドイミドに共重合することが困難になる場合がある。
【0020】
式1の具体例としては信越化学社製のX−22−161A、X−22−161B、KF−8012、KF−8008等の両末端ジアミンタイプ、X−22−163A、X−22−163B、X−22−163C等の両末端エポキシタイプ、X−22−162C、X−22−3701E、X−22−3710等の両末端カルボキシル基タイプ、KF−6001、KF−6002、KF−6003等の両末端水酸基タイプが挙げられる。また式2の具体例としてはX−22−176B、X−22−176D、X−22−176DX等の片末端2官能水酸基タイプが挙げられる。上記以外に末端官能基がチオール基、メタクリル基、フェノール性水酸基等が挙げられるが、反応性の点からアミノ基、水酸基、カルボキシル基が好ましい。また、式1と式2を比較すると式2を用いる方が摩擦係数低下の面から好ましい。
【0021】
式1及び/又式2を共重合したポリアミドイミド樹脂の製造方法は酸成分とイソシアネート成分から製造するイソシアネート法、或は酸クロリドとアミンから製造する酸クロリド法、酸成分とアミン成分から製造する直接法などの公知の方法で製造されが、製造コストの点からイソシアネート法が好ましい。
【0022】
本発明のポリアミドイミド樹脂の合成に用いられる酸成分としてトリメリット酸無水物を用いることが望ましいが、その一部を他の多塩基酸またはその無水物に置き換えることができる。例えば、ピロメリット酸、ビフェニルテトラカルボン酸、ビフェニルスルホンテトラカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビフェニルエーテルテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、プロピレングリコールビストリメリテート等のテトラカルボン酸及びこれらの無水物、シュウ酸、アジピン酸、マロン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジカルボン酸、ジカルボキシポリブタジエン、ジカルボキシポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)、ジカルボキシポリ(スチレン−ブタジエン)等の脂肪族ジカルボン酸。1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジカルボン酸、ダイマー酸等の脂環族ジカルボン酸。テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。これらの中ではトリメリット酸無水物、ピロメリット酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸無水物、エチレングリコールビストリメテートが好ましい。
【0023】
また、トリメリット酸化合物の一部をグリコールに置き換えてウレタン基を分子内に導入することもできる。グリコールとしてはエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール等のアルキレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等のポリアルキレングリコールや上記ジカルボン酸の1種又は2種以上と上記グリコールの1種又は2種以上とから合成される末端水酸基のポリエステル等が挙げられる。
【0024】
本発明のポリアミドイミド樹脂の合成に用いられるジアミン(ジイソシアネート)成分としては、フェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、キシリレンジアミン、トリレンジアミン、トリジン等の芳香族ジアミン及びこれらのジイソシアネート、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等の脂肪族ジアミン及びこれらのジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジアミン等の脂環族ジアミン及びこれらのジイソシアネート、が挙げられ、これらの中では反応性、耐摩耗性の点からフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、ベンジジン、キシリレンジアミン、トリレンジアミン、トリジン等の芳香族ジアミン及びこれらのジイソシアネートが好ましく、更に好ましくはフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、トリレンジアミン、トリジン及びこれらのジイソシアネートである。
【0025】
本発明に用いるポリアミドイミド樹脂はN,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、γ−ブチロラクトン等の極性溶剤中、60〜200℃に加熱しながら攪拌することで容易に製造することができる。この場合、必要に応じてトリエチルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン等のアミン類、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化セシウム等のハロゲン化金属、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等の有機塩基、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムの無機塩基を触媒として用いることもできる。触媒量は酸成分に対して0.1モル%以上10モル%以下が好ましく、更に好ましくは0.5モル%以上5モル%以下である。
【0026】
シリコーンの共重合の方法に特に制限は無いが、シリコーンを他原料と一括で仕込む方法、シリコーンを後から添加する方法、反応完了後にシリコーンを添加して共重合する方法が挙げられる。
【0027】
本発明に用いるポリアミドイミド樹脂はガラス転移温度が200℃以上400℃以下であることが望ましい。200℃以下では自動車の摺動部材に応用するには耐熱性に問題があることがある。また、400℃以上ではポリアミドイミドの溶解性が低くなり取扱が困難になる場合がある。また、対数粘度は0.3dl/g以上2.0dl/gが望ましく、好ましくは0.3dl/g以上1.5dl/gである。0.3dl/g未満では脆くなり耐摩耗性に問題が生じる場合がある。また2.0dl/gを超えるとポリアミドイミド樹脂溶液の粘度が高くなりハンドリングが困難になるおそれがある。
【0028】
本発明に用いられる固体潤滑剤としては二硫化モリブデンや二硫化タングステンなどの硫化物、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルブニルエーテル、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリブニリデンフルオライド、トリクロロトリフルオロエチレン等のフッ化物及びグラファイトであり、その配合量はポリアミドイミド樹脂100重量部に対して5〜500重量部、好ましくは10〜200重量部である。固体潤滑剤が5重量部未満では摩擦係数の低減効果及び耐焼き付け特性が十分発揮されないことがある。一方、500重量部を越えるとバインダー成分が少なくなりその結果耐摩耗性が不十分になる場合がある。
【0029】
本発明ではさらに耐磨耗剤を併用しても良い。耐摩耗剤としては、窒化珪素、窒化ホウ素、ダイヤモンド、シリカ等の1種又は2種以上であるが、その粒子径は0.1μm〜10μmでその配合量は5〜200重量部が好ましい。粒子径が0.1μm以下では耐摩耗性の向上効果が小さく、10μm以上では潤滑皮膜から固体潤滑剤が脱落しやすくなる。配合量が5重量部以下では耐摩耗剤の効果が十分発揮されず、200重量部を越えると摺動相手へのダメージが大きくなり、摩擦係数も大きくなる。
【0030】
また本発明の摺動部材用組成物の耐摩耗性を更に改良するためにポリアミドイミド樹脂を架橋、硬化させることができる。この硬化剤としては多官能エポキシ化合物、イソシアネート化合物、メラミン化合物等が挙げられ、これらの中では特に硬化性、得られた塗膜の摺動特性から多官能エポキシ化合物が好ましくビスフェノールA型、ビスフェノールF型フェノールノボラック型、フェノキシ型、ビフェノール型等が挙げられ、その中でもビスフェノールA型、フェノールノボラック型、ビフェノール型が硬化性、耐摩耗性から好ましい。これらの硬化剤の配合量は硬化剤にもよるが、ポリアミドイミド樹脂固形物100部に対して1〜30部、好ましくは3〜20部である。硬化剤の量が1部以下ではポリアミドイミド樹脂を硬化させるのに十分で無いため耐磨耗性を良くする効果が発揮されない。また、30部以上では塗膜が脆くなり逆に耐摩耗性が低下することがある。
【0031】
次に本発明の摺動部材用組成物の製造方法について説明する。本発明の摺動部材用組成物を調整するために用いられる溶剤は前記ポリアミドイミド樹脂の合成に用いられるアミド系溶剤の他、概アミド系溶剤の40%以下をトルエン、キシレン、ソルベッソ等の芳香族炭化水素、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトンで置き換えることができる。
【0032】
ポリアミドイミド樹脂、固体潤滑剤の他にレベリング剤、消泡材、カップリング材等の添加剤を加えてもよい。添加剤の量は全組成の5重量%以下が好ましい。
【0033】
ポリアミドイミド樹脂を溶解した溶液に固体潤滑剤及び耐摩耗剤を加え、ボールミルや3本ロールミル、サンドミル等を用いて分散させる。硬化剤の添加時期について特に制限は無いが、好ましくは最後に配合し攪拌する事で摺動部材用組成物を調整することができる。
【0034】
以下に本発明の摺動部材用組成物を用いて潤滑膜を形成させる方法について説明する。本発明の組成物を摺動部材に塗布する方法としてはスプレー法、ロールコート法デイップ法、スクリーン印刷法等が挙げられ、摺動部材の形状や潤滑皮膜の厚みによって選択することができる。塗布された摺動部材は乾燥及び硬化のため熱処理される。この熱処理は180〜200℃で20分〜100分の範囲が好ましい。熱処理が180℃で20分以下では塗膜に溶剤が残って摺動特性を発揮させないことがあり、200℃で100分以上ではそれ以上の効果が期待できないし、場合によっては固体潤滑剤の劣化を招きむしろ摺動特性を低下させることがある。
【実施例】
【0035】
以下、実施例で本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例で制限されるものではない。実施例で示される評価は以下の方法で測定した。
【0036】
1.対数粘度
ポリアミドイミド重合溶液からメタノールを用いて再沈殿、濾別、乾燥したポリアミドイミド樹脂0.5gを100mlのN−メチル−2−ピロリドンに溶解した溶液を用いて、ウベローデ粘度管で25℃において測定した。
【0037】
2.ガラス転移温度
ポリアミドイミド樹脂溶液をポリエステルフイルムに流延して半乾燥してフイルムを得た。そのフイルムを300mm×200mmの金枠に張付け200℃8時間乾燥し30μmのポリアミドイミド樹脂フイルムを得た。このフイルムを測定幅5mm、長さ15mmのポリアミドイミドフィルムをリガク製熱機械分析装置(PTC10A)を用い、引張り荷重法で重り2g、10℃/分の条件で測定した時のサンプル長変曲点をガラス転移温度とした。
【0038】
3.摩擦係数の測定
摺動部材用組成物を約20μmの厚みに塗布した焼き入れ鋼からなる平板状に粗さ約1μmRZの焼き入れ鋼からなる円筒材(外径25mm、内径20mm)の下端面を押し当て、油浴条件で平板を荷重98N、1000rpmで回転させながら測定した。
【0039】
4.摩耗量の測定
ファレックス社製のリングオンリング試験器を用い、摺動部材用組成物を塗布したブロックに粗さ約1μmRZの焼き入れ鋼からなる直径35mmの円筒を98Nの荷重で押しつけ、油浴下室温で30rpm、10分間摺動させた後皮膜の表面粗さを測定した結果から摩耗量を求めた。
【0040】
<ポリアミドイミド樹脂の合成例1>
窒素導入管と冷却装置の付いた4ツ口フラスコに無水トリメリット酸1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート1モル、KF6003(信越化学社製両末端水酸基ポリジメチルシロキサン、分子量5100)20g(0.004モル)、触媒としてフッ化カリウム0.01モル、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを仕込み固形分濃度30%で100℃2時間反応させた後、150℃で3時間反応させた。冷却し、固形分濃度が20%となるようN−メチル−2−ピロリドンで希釈した。得られたポリアミドイミド樹脂のシリコーン共重合量は仕込みより5%、対数粘度は0.62dl/g、ガラス転移温度は270℃であった。
【0041】
<ポリアミドイミド樹脂の合成例2>
窒素導入管と冷却装置の付いた4ツ口フラスコに無水トリメリット酸1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート1モル、X−22−176DX(信越化学社製片末端水酸基二官能ポリジメチルシロキサン、分子量3500)20g(0.006モル)、触媒としてフッ化カリウム0.01モル、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを仕込み固形分濃度30%で100℃2時間反応させた後、150℃で3時間反応させた。冷却し、固形分濃度が20%となるようN−メチル−2−ピロリドンで希釈した。得られたポリアミドイミド樹脂のシリコーン共重合量は仕込みより5%、対数粘度は0.60dl/g、ガラス転移温度は270℃であった。
【0042】
<ポリアミドイミド樹脂の合成例3>
窒素導入管と冷却装置の付いた4ツ口フラスコに無水トリメリット酸1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート1モル、KF6003(信越化学社製両末端水酸基ポリジメチルシロキサン、分子量5100)10g(0.002モル)、触媒として1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン0.01モル、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを仕込み固形分濃度30%で100℃2時間反応させた後、150℃で3時間反応させた。冷却し、固形分濃度が20%となるようN−メチル−2−ピロリドンで希釈した。得られたポリアミドイミド樹脂のシリコーン共重合量は仕込みより3%、対数粘度は0.64dl/g、ガラス転移温度は275℃であった。
【0043】
<ポリアミドイミド樹脂の合成例4>
窒素導入管と冷却装置の付いた4ツ口フラスコに無水トリメリット酸1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート1モル、X−22−176DX(信越化学社製片末端水酸基二官能ポリジメチルシロキサン、分子量3500)40g(0.011モル)、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを仕込み固形分濃度30%で100℃2時間反応させた後、150℃で3時間反応させた。冷却し、固形分濃度が20%となるようN−メチル−2−ピロリドンで希釈した。得られたポリアミドイミド樹脂のシリコーン共重合量は仕込みより10%、対数粘度は0.53dl/g、ガラス転移温度は265℃であった。
【0044】
<ポリアミドイミド樹脂の合成例5>
窒素導入管と冷却装置の付いた4ツ口フラスコに無水トリメリット酸1モル、o−トリジンジイソシアネート0.5モル、ジフェニルメタンジイソシアネート0.5モル、X−22−176DX(信越化学社製片末端水酸基二官能ポリジメチルシロキサン、分子量3500)40g(0.011モル)、触媒としてフッ化カリウム0.01モル、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを仕込み固形分濃度30%で100℃2時間反応させた後、150℃で3時間反応させた。冷却し、固形分濃度が20%となるようN−メチル−2−ピロリドンで希釈した。得られたポリアミドイミド樹脂のシリコーン共重合量は仕込みより10%、対数粘度は0.83dl/g、ガラス転移温度は300℃であった。
【0045】
<ポリアミドイミド樹脂の合成例6(特開平8−92528合成例1)>
窒素導入管と冷却装置の付いた4ツ口フラスコに無水トリメリット酸1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート1モル、Byk−370(BYK−chemie社:OH基含有ポリエステル変性ポリシロキサン固形分濃度25%)を71g、N−メチル−2−ピロリドン830gを仕込み、攪拌しながら約30分で120℃に昇温し、5時間反応を行った後冷却して反応停止した。得られたポリアミドイミド樹脂のシリコーン共重合量は仕込みより5%、対数粘度は0.57dl/g、ガラス転移温度は280℃であった。
【0046】
<ポリアミドイミド樹脂の合成例7>
窒素導入管と冷却装置の付いた4ツ口フラスコに無水トリメリット酸1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート0.93モル、X−22−176DX(信越化学社製片末端水酸基二官能ポリジメチルシロキサン、分子量3500)10g(0.011モル)、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを仕込み固形分濃度30%で100℃2時間反応させた後、150℃で3時間反応させた。冷却し、固形分濃度が20%となるようN−メチル−2−ピロリドンで希釈した。得られたポリアミドイミド樹脂のシリコーン共重合量は仕込みより3%、対数粘度は0.23dl/g、ガラス転移温度はフイルムが脆く測定できなかった。
【0047】
<ポリアミドイミド樹脂の合成例8>
窒素導入管と冷却装置の付いた4ツ口フラスコに無水トリメリット酸1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート1.04モル、X−22−176DX(信越化学社製片末端水酸基二官能ポリジメチルシロキサン、分子量3500)180g(0.051モル)、触媒としてフッ化カリウム0.01モル、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを仕込み固形分濃度30%で100℃2時間反応させた後、150℃で3時間反応させた。冷却し、固形分濃度が20%となるようN−メチル−2−ピロリドンで希釈した。得られたポリアミドイミド樹脂のシリコーン共重合量は仕込みより34%、対数粘度は0.58dl/g、ガラス転移温度は240℃であった。
【0048】
<ポリアミドイミド樹脂の合成例9>
窒素導入管と冷却装置の付いた4ツ口フラスコに無水トリメリット酸1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート0.98モル、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを仕込み固形分濃度30%で100℃2時間反応させた後、150℃で3時間反応させた。冷却し、固形分濃度が20%となるようN−メチル−2−ピロリドンで希釈した。得られたポリアミドイミド樹脂のシリコーン共重合量は仕込みより0%、対数粘度は0.58dl/g、ガラス転移温度は290℃であった。
【0049】
<ポリアミドイミド樹脂の合成例10>
窒素導入管と冷却装置の付いた4ツ口フラスコに無水トリメリット酸1モル、ジフェニルメタンジイソシアネート0.99モル、X−22−176F(信越化学社製片末端水酸基二官能ポリジメチルシロキサン、分子量14000)20g(0.001モル)溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを仕込み固形分濃度30%で100℃2時間反応させた後、150℃で3時間反応させたがシリコーン成分が分離してフラスコの壁に付着しており、共重合が困難であった。
【0050】
【表1】

【0051】
<摺動部材用組成物の調整及び摺動特性の評価>
合成例1〜8のポリアミドイミド樹脂を表2に示す割合で配合し、ディゾルバーで30分分散を行なった後、3本ロールミルで分散を行った。摩擦、摩耗性を測定するテストピースの摺動面を脱脂して表面の汚れ、油分を除いた後、表2の組成物を乾燥後で約20μmの厚みになるよう塗布し、熱風オーブン中200℃で100分間焼き付けを行った。摩耗量と摩擦係数の値を表2に示す。
【0052】
【表2】

【0053】
表2より明らかなように、実施例1〜5は、比較例1〜5に比べて、摩耗量や摩耗係数が優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物を塗布した摺動部材は摩擦係数の低減、耐摩耗性に優れ、且つ十分な耐久性を有するため家電製品や自動車エンジンのピストンスカート等に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式1及び/又は式2で示される化合物を共重合したポリアミドイミド樹脂に固体潤滑剤を含有されてなることを特徴とする摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【化1】

(R1、R2は2価のアルキル基又はアリール基を表し、Xは水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、メタクリル基、フェノール性水酸基を表す。nは1以上の整数である。)
【化2】

(R3は1価のアルキル基又はアリール基を示す。R4は2価以上5価以下のアルキル基又はアリール基である。YはR4に含まれる炭素に結合しており、水酸基、アミノ基、カルボキシル基、エポキシ基、チオール基、メタクリル基、フェノール性水酸基から選ばれる官能基を表す。nは1以上の整数であり、kは1以上4以下の整数を表す。)
【請求項2】
式1及び/又は式2で表される化合物の共重合量がポリアミドイミド樹脂100重量%のうち、0.1重量%以上30重量%以下であることを特徴とする請求項1に記載の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項3】
式1及び/又は式2で表される化合物の分子量が1000以上13000以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項4】
ポリアミドイミド樹脂の対数粘度が0.3dl/g以上2.0dl/g以下であり、ガラス転移温度が200℃以上400℃以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項5】
固体潤滑剤が金属硫化物、フッ素化合物、及びグラファイトから選ばれる少なくとも1種以上であり、且つポリアミドイミド100重量部に対し5重量部以上500重量部以下含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項6】
固体潤滑剤が二硫化モリブデン及び/又は二硫化タングステンであり、且つポリアミドイミド100重量部に対し5重量部以上500重量部以下含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項7】
フッ素化合物がポリテロラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド及びトリクロロトリフルオロエチレンの群から選ばれる少なくとも1種以上であることを特徴とする請求項5に記載の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項8】
ポリアミドイミド樹脂100重量部に対して、さらに粒子径が0.1μm〜10μmの窒化珪素、アルミナ、炭化珪素、窒化ホウ素、ダイヤモンド、およびシリカからなる群から選ばれる少なくとも1種以上を、5〜200重量部含有することを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の摺動部材用ポリアミドミド樹脂組成物。
【請求項9】
ポリアミドイミド樹脂100重量部に対して、さらに多官能のエポキシ化合物、イソシアネート化合物及びメラミン化合物の群から選ばれる少なくとも1種以上を1〜30重量部含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の摺動部材用ポリアミドイミド樹脂組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれかに記載のポリアミドイミド樹脂組成物を用いた摺動部材。

【公開番号】特開2006−16561(P2006−16561A)
【公開日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−197781(P2004−197781)
【出願日】平成16年7月5日(2004.7.5)
【出願人】(000003160)東洋紡績株式会社 (3,622)
【Fターム(参考)】