説明

摺動部材用樹脂組成物及び摺動部材並びにハッチカバーの支承装置

【課題】乾燥摩擦、水中若しくは塩水中潤滑条件及び摺動面に水若しくは塩水が間欠的に作用する潤滑条件においても、優れた摩擦摩耗特性を発揮し得る摺動部材用樹脂組成物及び摺動部材並びにハッチカバーの支承装置を提供すること。
【解決手段】摺動部材用樹脂組成物は、ポリアリレート樹脂5〜15質量%、四ふっ化エチレン樹脂10〜25質量%、高分子量シリコーンポリマー0.5〜2質量%、無機質充填材0.5〜5質量%及び残部ポリアミド樹脂からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乾燥摩擦、水中若しくは塩水潤滑条件下又は水(雨水)若しくは塩水が間欠的に作用する潤滑条件下において優れた摩擦摩耗特性を発揮する摺動部材用樹脂組成物及び摺動部材並びにハッチカバーの支承装置に関する。
【背景技術】
【0002】
【特許文献1】特開2002−138196号公報
【特許文献2】特開2003−335940号公報
【特許文献3】特表平08−512008号公報
【特許文献4】実開平05−32284号公報
【特許文献5】実公昭53−41275号公報
【0003】
ポリアミド樹脂は、その優れた成形性、耐熱性、強靭性、耐薬品性、耐摩耗性などを具有することから、自動車、電気・電子部品、家庭電化製品などの広範な分野で使用されている。とくに、二硫化モリブデン、黒鉛あるいは四ふっ化エチレン樹脂などの潤滑充填剤を含有したポリアミド樹脂は、摩擦摩耗特性に優れ、相手材への攻撃性が軽減されることから、各種軸受、ギア、すべり板、ガイド部材等に使用されている。例えば、特許文献1には、ポリアミド樹脂を主成分とし、これにポリエチレン樹脂及びポリアリレート樹脂を含有した摺動部材が、また特許文献2には、ポリアミド樹脂を主成分とし、これにポリエチレン樹脂と炭化水素系ワックスと無機ウィスカを含有した摺動部材が開示されている。
【0004】
この特許文献1及び特許文献2に開示された摺動部材は、いずれも乾燥摩擦(無潤滑)条件下での使用において優れた摩擦摩耗特性を発揮するものである。
【0005】
また、ポリアミド樹脂を主成分とし、これに潤滑充填剤として四ふっ化エチレン樹脂と二硫化モリブデンとシリコーンオイルとを含有した摺動部材が船舶甲板上のハッチ開口部を覆うハッチカバーの支持装置に使用されている例がある。この用途の摺動部材は、乾燥摩擦、水若しくは塩水中潤滑条件又は摺動面に水(雨水)若しくは塩水が間欠的に作用する潤滑条件が交互に繰り返されといった厳しい条件下での使用となる。特許文献3においては、支持台に設けた盲孔にガラス繊維あるいはガラス粉が混合されたポリテトラフルオロエチレン樹脂を充填した摺動部材が開示されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記した船舶のアッパーデッキプレート(上甲板)上のハッチ(船倉)の開口部を覆うハッチカバーの支承装置に使用される摺動部材には、耐食性と摩擦摩耗特性(低摩擦性と耐摩耗性)及び耐衝撃性に優れていることが必要とされる。前記した摺動部材においては、乾燥潤滑においては優れた摩擦摩耗特性を発揮するが、水中若しくは塩水中の場合又は摺動面に水(雨水)若しくは塩水が間欠的に作用した場合、摩擦係数が急激に上昇し、摩耗量が増大するという問題がある。また、特許文献3に開示された摺動部材おいては、摺動部材に作用する衝撃荷重によって盲孔から該ポリテトラフルオロエチレン樹脂が抜け出すという問題がある。
【0007】
本発明は上記諸点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、乾燥摩擦、水中若しくは塩水中潤滑条件及び摺動面に水(雨水)若しくは塩水が間欠的に作用する潤滑条件においても、優れた摩擦摩耗特性を発揮し得る摺動部材用樹脂組成物及び摺動部材並びにハッチカバーの支承装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、ポリアミド樹脂に特定量のポリアリレート樹脂と四ふっ化エチレン樹脂と高分子量シリコーンポリマー及び無機質充填材を配合した樹脂組成物を成形して得られた摺動部材は、乾燥摩擦及び水あるいは塩水が間欠的に作用する摺動用途においても、優れた摩擦摩耗特性を発揮すると共に耐衝撃性及び耐食性を具有していることを見出した。
【0009】
本発明は上記知見に基づき完成されたものであり、本発明の摺動部材用樹脂組成物は、ポリアリレート樹脂5〜15質量%、四ふっ化エチレン樹脂10〜25質量%、高分子量シリコーンポリマー0.5〜2質量%、無機質充填材0.5〜5質量%及び残部ポリアミド樹脂からなることを特徴とする。
【0010】
成分中の主成分をなすポリアミド樹脂は、脂肪族ポリアミド樹脂、中でもポリヘキサメチレンアジパミド(以下「ナイロン66」と略称する。)が好適である。ナイロン66は、吸水性が低く、高度な剛性、耐熱性、耐摩耗性を備え、かつ、弾性に優れた性能を持っており、海水などの金属にとって過酷な条件下でも、金属のように腐食することはない。
【0011】
成分中のポリアリレート樹脂(以下「PAR」と略称する。)は、芳香族二塩基酸またはその誘導体と二価フェノールまたはその誘導体との重縮合樹脂で、特に、テレフタル酸とイソフタル酸の混合酸とビスフェノールAとの重縮合樹脂で、下記式で表される繰り返し単位を有するものが好ましい。
【0012】
【化1】

【0013】
PARは、具体的にはユニチカ社製の「Uポリマー(商品名)」が挙げられる。このPARは、ポリアミド樹脂(ナイロン6)とのポリマーアロイの形態で使用されるのが好ましい。このポリマーアロイにおけるPARとポリアミド樹脂との組成比は、PARが10ないし70質量%であり、ポリアミド樹脂が90ないし30質量%であり、最も好ましくはPARが30ないし60質量%であり、ポリアミド樹脂が70ないし40質量%である。このポリマーアロイにおいては、ポリアミド樹脂のマトリックス中に1μm前後の粒子としてPARが分散しており、高度の耐衝撃性と耐熱性を有すると共に低温特性にも優れている。
【0014】
PARの配合量は5〜15質量%、好ましくは5〜10質量%である。配合量が5質量%未満ではポリマーアロイとしての効果が発揮されず、また15質量%を超えて配合すると耐摩耗性を低下させる。
【0015】
成分中の四ふっ化エチレン樹脂(以下「PTFE」と略称する。)は、低摩擦性の向上を目的として配合される。PTFEとしては潤滑用の低分子量PTFEが好ましい。この低分子量PTFEは、放射線照射などにより高分子量PTFE(モールディングパウダーまたはファインパウダー)を分解またはPTFEの重合時に分子量を調節して分子量を低下させたPTFEである。具体的には、三井デュポンフロロケミカル社製の「TLP−10F(商品名)」など、ダイキン工業社製の「ルブロンL−5(商品名)」など、旭硝子社製の「フルオン(登録商標)L169E(商品名)」など、喜多村社製の「KTL−8N(商品名)」などが挙げられる。このPTFEの配合量は10〜25質量%、好ましくは10〜15質量%である。配合量が10質量%未満では充分な低摩擦性を付与することができず、また25質量%を超えて配合すると強度低下及び耐摩耗性の低下を来たす。
【0016】
成分中の高分子量シリコーンポリマーは、特に水潤滑における初期なじみ性を向上させ、スティックスリップの発生を抑制する作用を発揮する。この高分子量シリコーンポリマーは、常温で固体状の分子間で架橋構造を有しないガム状シリコーンである。本発明で使用する高分子量シリコーンポリマー(以下「ガム状シリコーン」と略称する。)は、ジメチルポリシロキサンないしそのメチル基の一部が水素基、フェニル基、ハロゲン化フェニル基、フルオロエステル基等の1種または2種以上で置換されたものであり、常温での粘度が1,000,000cSt(センチストークス)以上の極めて高い粘度のものである。好ましくは常温での粘度が5,000,000cSt以上のガム状シリコーンが使用される。
【0017】
ガム状シリコーンの配合量は0.5〜2質量%、好ましくは1〜1.5質量%である。そして、このガム状シリコーンは、主成分をなすポリアミド樹脂と予め混練して、ガム状シリコーンを高濃度に含有したポリアミド樹脂の形態で使用するのが好ましい。具体的には、東レ・ダウコーニング社製のシリコーンコンセントレートBY27シリーズが挙げられる。
【0018】
成分中の無機質充填材としては、カーボンブラック及び真球状無多孔質シリカ(非晶質二酸化ケイ素)のうちの少なくとも一つを使用するとよい。カーボンブラックは、水ないし塩水潤滑において摩擦係数を低下させる効果を発揮し、また真球状無多孔質シリカは耐摩耗性の向上に効果を発揮する。カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、オイルファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ガスファーネスブラックなどの一般的なカーボンブラック を挙げることができるが、とくにN吸着によるBET式表面積が850m/g以上のカーボンブラック 、例えばライオンアクゾ社製「ケッチェンブラック(商品名)」などは好適なものとして挙げられる。カーボンブラックとしての配合量は0.5〜3質量%が適当である。真球状無多孔質シリカは、平均粒径が0.2〜20μmの真球状粒子で、無多孔質であるため含水量が少なく、粒子同士の凝集も少ないため分散性が良好である。具体的には、AGCアスアイテック社製の「サンスフェア−NP(商品名)」など、アドマテックス社製の「アドマファイン(商品名)」などが挙げられる。この真球状無多孔質シリカとしての配合量は0.5〜2質量%が適当である。そして、この無機質充填材の配合量は0.5〜5質量%、好ましくは0.5〜3.5質量%である。配合量が0.5質量%未満では、低摩擦性の付与あるいは耐摩耗性の向上に効果が発揮されず、また5質量%を超えて配合すると低摩擦性を低下させる。
【0019】
本発明の摺動部材用樹脂組成物は、常法に従い、上記した各成分の所定量をヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ボールミル、タンブラーミキサー等の混合機によって混合することによって得られる。
【0020】
次に、本発明の摺動部材について説明する。本発明の摺動部材は、前記摺動部材用樹脂組成物を成形することによって形成される。摺動部材用樹脂組成物の成形方法としては、直接に射出成形機または押出成形機により摺動部材を成形する方法と、予め摺動部材用樹脂組成物のペレットを作製し、このペレットを射出成形機または押出成形機により成形して摺動部材を形成する方法のいずれであってもよい。
【0021】
本発明の摺動部材は、乾燥摩擦条件、水ないし塩水潤滑条件、あるいは水ないし塩水が間欠的に作用する潤滑条件下での摺動用途において優れた摩擦摩耗特性を発揮し得るすべり軸受、すべり軸受装置、すべり板等の摺動部材として使用される。
【0022】
船舶甲板上のハッチ開口部を覆う本発明のハッチカバーの支承装置は、ハッチ開口部周縁の船舶甲板上もしくはハッチカバーの下面側のいずれか一方に固定されたすべり板と、該ハッチ開口部周縁の船舶甲板上もしくはハッチカバーの下面側のいずれか他方に固定されたスライド部材とからなり、該スライド部材は摺動部材からなる。
【0023】
本発明において、摺動部材からなるスライド部材は、ハッチ開口部周縁の船舶甲板上もしくはハッチカバーの下面側のいずれか一方に固定されたホルダーの凹所に一方の端面を該ホルダーの凹所外に位置させて固定されている。
【0024】
ホルダーの凹所とスライド部材の他方の端面との間には、シムプレートとゴムプレートのうちの少なくとも一方が介在されていてもよい。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、乾燥摩擦条件、水若しくは塩水中の潤滑条件又は水(雨水)若しくは塩水が間欠的に作用する潤滑条件においても、優れた摩擦摩耗特性を発揮し得る摺動部材用樹脂組成物及び摺動部材並びにハッチカバーの支承装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。実施例及び比較例で使用したポリアミド樹脂、PAR、PTFE、ガム状シリコーン及び無機質充填材を下記表1に示す。
【0027】
[表1]
<ポリアミド樹脂>
A−1:ナイロン66(東レ社製「アミランCM3001N(商品名)」)
<PAR(ポリアリレート樹脂)>
B−1:PAR50質量%とポリアミド樹脂(ナイロン6)50質量%とからなるポリ マーアロイ(ユニチカ社製「UポリマーAX−1500(商品名)」)
<PTFE(四ふっ化エチレン樹脂)>
C−1:ダイキン工業社製「ルブロンL−5(商品名)」
<ガム状シリコーン(高分子量シリコーンポリマー)>
D−1:ガム状シリコーン50質量%含有ナイロン66(東レ・ダウコーニング社製シ リコーンコンセントレートBY27−005)
<無機質充填剤>
E−1:カーボンブラック(ライオンアクゾ社製「ケッチェンブラック(商品名)」)
E−2:真球状無多孔質シリカ(AGCアスアイテック社製の「サンスフェア−NP
商品名)」)
<固体潤滑剤>
F−1:二硫化モリブデン(大東潤滑社製「二硫化モリブデンパウダー」)
<潤滑油>
G−1:シリコーン油(信越化学工業社製のジメチルシリコーン油 「FK96H(商
品名)」)
【実施例】
【0028】
実施例1〜2
ナイロン66(A−1)51〜71質量%と、PAR(B−1)10〜30質量部と、PTFE(C−1)15質量部と、ガム状シリコーン(D−1)3質量部及びカーボンブラック(E−1)1質量部をヘンシェル型ミキサーで混合して樹脂組成物を形成した後、該樹脂組成物をスクリュー押出機で溶融混練して押出成形し、ナイロン66:52.5〜72.5質量%、ナイロン6:5〜15質量%、PAR:5〜15質量%、PTFE:15質量%、ガム状シリコーン:1.5質量%及びカーボンブラック:1質量%からなるペレットを得た。ついで、このペレットを成形原料としてスクリューインライン式射出成形機に供給して成形し、縦横夫々30mm、厚さ3mmの板状成形物(摺動部材)を得た。
【0029】
実施例3〜4
ナイロン66(A−1)51.5〜71.5質量%と、PAR(B−1)10〜30質量部と、PTFE(C−1)15質量部と、ガム状シリコーン(D−1)3質量部及び真球状無多孔質シリカ(E−2)0.5質量部をヘンシェル型ミキサーで混合して樹脂組成物を形成した後、該樹脂組成物をスクリュー押出機で溶融混練して押出成形し、ナイロン66:53〜73質量%、ナイロン6:5〜15質量%、PAR:5〜15質量%、PTFE:15質量%、ガム状シリコーン:1.5質量%及び真球状無多孔質シリカ:0.5質量%からなるペレットを得た。ついで、このペレットを成形原料としてスクリューインライン式射出成形機に供給して成形し、縦横夫々30mm、厚さ3mmの板状成形物(摺動部材)を得た。
【0030】
実施例5〜7
ナイロン66(A−1)48.5〜71.5質量部と、PAR(B−1)10〜30質量部と、PTFE(C−1)15質量部と、ガム状シリコーン(D−1)2〜3質量部及びカーボンブラック(E−1)1〜3質量部及び真球状無多孔質シリカ0.5質量部をヘンシェル型ミキサーで混合して樹脂組成物を形成した後、該樹脂組成物をスクリュー押出機で溶融混練して押出成形し、ナイロン66:50〜72.5質量%、ナイロン6:5〜15質量%、PAR:5〜15質量%、PTFE:15質量%、ガム状シリコーン:1〜1.5質量%、カーボンブラック:1〜3質量%及び真球状無多孔質シリカ0.5質量%からなるペレットを得た。ついで、このペレットを成形原料としてスクリューインライン式射出成形機に供給して成形し、縦横夫々30mm、厚さ3mmの板状成形物(摺動部材)を得た。
【0031】
比較例1
ナイロン66(A−1)79質量%と、PTFE(C−1)20質量%及び二硫化モリブデン1質量%をヘンシェル型ミキサーで混合して樹脂組成物を形成した後、該樹脂組成物をスクリュー押出機で溶融混練して押出成形し、ペレットを得た。ついで、このペレットを成形原料としてスクリューインライン式射出成形機に供給して成形し、縦横夫々30mm、厚さ3mmの板状成形物(摺動部材)を得た。
【0032】
比較例2
ナイロン66(A−1)77質量%と、PTFE(C−1)20質量%と、二硫化モリブデン(F−1)1質量%及びシリコーン油(G−1)2質量%をヘンシェル型ミキサーで混合して樹脂組成物を形成した後、該樹脂組成物をスクリュー押出機で溶融混練して押出成形し、ペレットを得た。ついで、このペレットを成形原料としてスクリューインライン式射出成形機に供給して成形し、縦横夫々30mm、厚さ3mmの板状成形物(摺動部材)を得た。
【0033】
前記実施例1〜7及び比較例1〜2で得た板状成形物(摺動部材)について、つぎのスラスト回転試験及び平面往復層試験により摺動特性を評価した。
【0034】
スラスト回転試験
表2に記載の条件で摩擦係数及び摩耗量を測定した。摩擦係数については、試験を開始してから1時間経過後以降試験終了までの摩擦係数の変動値を示し、摩耗量については、試験時間(8時間)終了後の寸法変化量で示した。試験結果を表4ないし表6に示す。
【0035】
[表2]
面圧 24.5MPa(250kgf/cm
速度 1.0m/min
試験時間 8hr
相手材 ステンレス鋼板(SUS304:JIS-G-4304)
摩擦環境(潤滑)(1)無潤滑(大気中) (2)塩水濃度3%の塩水中
試験方法 板状成形物(摺動部材)を大気中あるいは塩水中に固定しておき、相 手材になるSUS304製の円筒ブッシュを板状成形物(摺動部材) の上からその表面に所定の荷重(面圧)で押し付けながら、円筒ブッ シュを回転させるスラスト回転試験。
【0036】
平面往復動試験
表3に記載の条件で摩擦係数及び摩耗量を測定した。摩擦係数については、試験を開始してから1時間経過後以降試験終了までの摩擦係数の変動値を示し、摩耗量については、試験時間(100時間)終了後の寸法変化量で示した。試験結果を表4ないし表6に示す。
【0037】
[表3]
面圧 24.5MPa(250kgf/cm
速度 0.2m/min
ストローク ±10mm
試験時間 100hr
相手材 ステンレス鋼板(SUS316:JIS-G-4304)
摩擦環境(潤滑)(1)無潤滑(大気中) (2)水中
試験方法 相手材になるSUS316製のすべり板を大気中あるいは水中に固定 しておき、板状成形物(摺動部材)をすべり板の表面に所定の荷重( 面圧)で押し付けながら、板状成形物(摺動部材)をすべり板の表面 に沿って往復動させる平面往復動試験。





















【0038】
【表4】



















【0039】
【表5】



















【0040】
【表6】

【0041】
以上の試験結果から、実施例と比較例の摺動部材とを比較すると、とくに摩擦環境が塩水でのスラスト回転試験及び水中での平面往復動試験において、特に摩耗量に大きな差が生じているのがわかる。実施例の摺動部材においては、摩擦環境の相違による摺動特性の変動は小さく、あらゆる摩擦環境条件においても優れた摺動特性を発揮するものである。
【0042】
次に、コンテナ船等の船舶の上甲板上に開口するハッチ開口部を覆うハッチカバーの支承装置について説明する。
【0043】
図1及び2において、符号1はコンテナ船、2は船側外板(アウターシェル)、3はアッパーデッキプレート(上甲板)、4はロンジバルクヘッド(縦通隔壁)、5はハッチ(船倉)、6はハッチ5の開口部5aの周縁を囲繞してアッパーデッキプレート3上に立設されたハッチコーミング、6aはハッチコーミング6を形成するハッチコーミングスカートプレート、6bはハッチコーミング6を形成すると共にハッチコーミングスカートプレート6aの端面に水平状に一体に連設されたハッチコーミングトッププレート、7はハッチ5の開口部5aを覆うハッチカバー、8はハッチカバー7をハッチコーミング6のハッチコーミングトッププレート6b上において移動可能に支承するハッチカバーの支承装置、9はコンテナ船1のハッチ5内及びハッチカバー7の上面に積載されたコンテナを示す。
【0044】
図9は、従来のハッチカバーの支承装置を示し、ハッチカバー7のハッチカバートッププレート7aの周縁部に垂設されたハッチカバースカートプレート7bの側面に突設されたブラケット7cに上部ライナL1が取付けられ、一方、ハッチコーミングトッププレート6bの上に下部ライナL2が取付けられていて、上部ライナL1の下面が下部ライナL2の上面に直接接触して、ハッチカバー7が支持されるような構成となっている。
【0045】
上記従来のハッチカバーの支承装置では、ハッチカバー7を支承する上部ライナL1と下部ライナL2とがいずれも鋼製であるため、船舶の航行中は、ハッチカバー7とハッチコーミング6との間の船体のねじれによる相対変位が生じると、上部ライナL1と下部ライナL2とは若干摺動するものの、両者間の摩擦係数が大きいため相対変位を充分吸収しきれず、航海中に繰り返し発生する船体変位がハッチカバー7の形状変化を繰り返し惹起することとなり、ついにはハッチカバー7に部分的に破損を発生させる原因になる。
【0046】
図10は、図9に示すハッチカバーの支承装置の改良に係る支承装置であり、ハッチカバースカートプレート7bの内側に摩擦係数の低い材料からなる上部ライナL1が固着される一方、滑らかな表面をもつ下部ライナL2がハッチコーミングトッププレート6b上に上部ライナL1と常時接触可能に固着されている構成となっている。そして、上部ライナL1は、非鉄金属(銅合金)若しくは非金属(合成樹脂)又は熱可塑性樹脂などの摩擦係数の低い材質のもので構成されており、下部ライナL2は、ステンレスプレート又は上部ライナL1と同材質のもので構成され、上部ライナL1の底面積より広い範囲にわたって張設されている。
【0047】
上記改良された支承装置においては、摩擦係数の低い材料からなる上部ライナL1と平滑な表面の下部ライナL2とで摺動面が形成されていて、ハッチカバー7が自由に移動できるので、ハッチコーミング6の変位、すなわち船体の変位がハッチカバー7に伝わらず、その結果、船体の変位に起因するハッチカバースカートプレート7bなどの破損を防止できるものである。しかしながら、この支承装置においても、摩擦係数の低い材料からなる上部ライナL1と平滑な表面の下部ライナL2とで形成された摺動面は、乾燥摩擦条件下、水中若しくは塩水中摩擦条件下又は水若しくは塩水が摺動摩擦面に間欠的に作用するような摩擦条件下においても摺動特性の変動が小さく、あらゆる摩擦環境条件においても優れた摺動特性を発揮するものでなければハッチカバー7の円滑な移動を行わせることができず、あらゆる摩擦環境条件においても優れた摺動特性を発揮する支承装置が望まれている。
【0048】
図2から図5に示すハッチカバー7の支承装置8は、ハッチコーミングトッププレート6b上に固定された金属製の基台8aと、基台8aに固定された横断面方形状の凹所8bを有する直方体状の金属製のホルダー8cと、凹所8bに嵌合保持され、一方の端面が該凹所8b外に位置して配されたスライド部材8dと、ハッチコーミングトッププレート6bと対面するハッチカバー7のハッチカバーボトムプレート7dの下面7eに固定されたステンレス鋼製のすべり板8eとからなる。ハッチカバー7は、ハッチコーミングトップトッププレート6b上に形成されたスライド部材8dと、ハッチカバー7の下面7eに固定された金属製のすべり板8eとのすべり接触によってハッチコーミングトッププレート6b上に移動可能に支承されている。
【0049】
スライド部材8dは、PAR5〜15質量%、PTFE10〜25質量%、ガム状シリコーン0.5〜2質量%、無機質充填材0.5〜5質量%及び残部ポリアミド樹脂からなる摺動部材用樹脂組成物を射出成形することによって形成される摺動部材からなる。
【0050】
スライド部材8dを形成する摺動部材は、前記した摩擦環境の相違、すなわち乾燥摩擦条件下、水中若しくは塩水中摩擦条件下又は水(雨水)若しくは塩水が摺動摩擦面に間欠的に作用するような摩擦条件下においても摺動特性の変動は小さく、あらゆる摩擦環境条件においても優れた摺動特性を発揮するものであることから、ハッチカバー7の支承装置8のスライド部材8dに適用することにより、船舶の航行中は、ハッチカバー7とハッチコーミング6との間の船体のねじれによる相対変位が生じても、ハッチカバー7は、スライド部材8dとハッチカバー7の下面7eに固定された金属製のすべり板8eとのすべり接触によってハッチコーミングトッププレート6b上を移動可能に支承されているので、航海中に繰り返し発生する船体の変位がハッチカバー7に伝わらず、その結果、船体の変位に起因するハッチカバー7などの破損を防止できるものである。
【0051】
図6及び図7は、ハッチカバー7の支承装置8の他の実施の形態を示すものであり、この支承装置8は、凹所8bにおいてホルダー8cの凹所底面8fと凹所8bに一方の端面を凹所8b外に位置させて嵌合保持されたスライド部材8dとの間にシムプレート11及びゴムプレート12の少なくとも一方を介在させたものである。シムプレート11は、スライド部材8dの高さ方向の調整プレートとして作用し、またゴムプレート12は、すべり板8eの表面の不陸を補正するものであり、ゴムプレート12の弾性変形によりスライド部材8dとすべり板8eとの円滑な摺動接触面を確保することができる。
【0052】
図8は、ハッチカバー7の支承装置8の更に他の実施の形態を示すものであり、この支承装置8は、ハッチコーミングトッププレート6b上に固定されたすべり板8eと、ハッチコーミングトッププレート6bと対面するハッチカバー7の下面7eに固定された金属製の基台8aと、基台8aに固定された凹所8bを有する直方体状の金属製のホルダー8cと、一方の端面を凹所8b外に位置させて凹所8bに嵌合保持されたスライド部材8dとからなる。ハッチカバー7は、ハッチカバー7の下面7eに固定されたホルダー8cの凹所8bに嵌合保持されたスライド部材8dと、ハッチコーミングトップトッププレート6b上に固定された金属製のすべり板8eとのすべり接触によってハッチコーミングトッププレート6b上に移動可能に支承されている。この支承装置8においては、スライド部材8dの下面がすべり板8eとの摺動面となるため、該摺動面上への塵埃等異物の堆積を生じることはない。
【0053】
この支承装置8においても、スライド部材8dは、PAR5〜15質量%、PTFE10〜25質量%、ガム状シリコーン0.5〜2質量%、無機質充填材0.5〜5質量%及び残部ポリアミド樹脂からなる摺動部材用樹脂組成物を射出成形することによって形成される摺動部材からなる。
【0054】
本発明の摺動部材用樹脂組成物及び摺動部材は、相手材との摺動において、摺動面の環境条件の変化、すなわち乾燥摩擦条件下、水中若しくは塩水中摩擦条件下又は水(雨水)若しくは塩水が摺動摩擦面に間欠的に作用するような摩擦条件下においても摺動特性の変動は小さく、あらゆる摩擦環境条件においても優れた摺動特性を発揮する。そして、摺動特性に優れた摺動部材をハッチカバーの支承装置のスライド部材に適用した場合、同様に摺動面の環境条件の変化に対しても優れた摺動特性を発揮し、コンテナ船などの船舶の航行中にハッチカバーとハッチコーミングとの間の船体のねじれによる相対変位が生じても、ハッチカバーは、スライド部材と金属製のすべり板とのすべり接触によってハッチコーミングトッププレート上を移動可能に支承されているので、航海中に繰り返し発生する船体の変位がハッチカバーに伝わらず、その結果、船体の変位に起因するハッチカバーなどの破損を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】コンテナを積載したコンテナ船の断面図である。
【図2】ハッチカバーの支承装置を示す断面図である。
【図3】支承装置のホルダーとスライド部材とを示す斜視図である。
【図4】図3のIV−IV線矢視断面図である。
【図5】図3のV−V線矢視断面図である。
【図6】支承装置のホルダーとスライド部材の他の形態を示す断面図である。
【図7】図6のVII−VII線矢視断面図である。
【図8】ハッチカバーの支承装置の他の形態を示す断面図である。
【図9】従来のハッチカバーの支承装置を示す断面図である。
【図10】従来のハッチカバーの支承装置を示す断面図である。
【符号の説明】
【0056】
1 コンテナ船
2 船側外板(アウターシェル)
3 アッパーデッキプレート(上甲板)
4 ロンジバルクヘッド(縦通隔壁)
5 ハッチ(船倉)
5a 開口部
6 ハッチコーミング
6a ハッチコーミングスカートプレート
6b ハッチコーミングトッププレート
7 ハッチカバー
8 支承装置
8a 基台
8b 凹所
8c ホルダー
8d スライド部材
8e すべり板
9 コンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアリレート樹脂5〜15質量%、四ふっ化エチレン樹脂10〜25質量%、高分子量シリコーンポリマー0.5〜2質量%、無機質充填材0.5〜5質量%及び残部ポリアミド樹脂からなることを特徴とする摺動部材用樹脂組成物。
【請求項2】
ポリアミド樹脂は、ポリヘキサメチレンアジパミド及びポリカプロラクタムである請求項1に記載の摺動部材用樹脂組成物。
【請求項3】
四ふっ化エチレン樹脂は、低分子量四ふっ化エチレン樹脂である請求項1又は2に記載の摺動部材用樹脂組成物。
【請求項4】
高分子量シリコーンポリマーは、常温での粘度が1,000,000cSt(センチストークス)以上の架橋構造を有しないガム状シリコーンポリマーである請求項1から3のいずれか一項に記載の摺動部材用樹脂組成物。
【請求項5】
無機質充填材は、カーボンブラック及び真球状無多孔質シリカの少なくとも一つが使用される請求項1から4のいずれか一項に記載の摺動部材用樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の摺動部材用樹脂組成物を成形してなることを特徴とする摺動部材。
【請求項7】
船舶の上甲板上に開口するハッチの開口部を覆うハッチカバーの支承装置であって、ハッチの開口部の周縁に該開口部を囲繞して立設されたハッチコーミングもしくは該ハッチコーミングに対面するハッチカバーの下面側のいずれか一方に固定されたすべり板と、該ハッチの開口部の周縁に該開口部を囲繞して立設されたハッチコーミングもしくは該ハッチコーミングに対面するハッチカバーの下面側のいずれか他方に固定されたスライド部材とからなり、該スライド部材は請求項6に記載の摺動部材からなるハッチカバーの支持装置。
【請求項8】
スライド部材は、ハッチ開口部周縁の船舶甲板上もしくはハッチカバーの下面側のいずれか一方に固定されたホルダーの凹所に一方の端面をホルダーの凹所外に位置させて嵌合保持されている請求項7に記載のハッチカバーの支承装置。
【請求項9】
ホルダーの凹所と該凹所に嵌合保持されたスライド部材との間には、シムプレートとゴムプレートのうちの少なくとも一方が介在されている請求項8に記載のハッチカバーの支承装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−53326(P2010−53326A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−222944(P2008−222944)
【出願日】平成20年8月30日(2008.8.30)
【出願人】(000103644)オイレス工業株式会社 (384)
【Fターム(参考)】