説明

撮像デバイス及びこれを用いた撮像管

【課題】本発明は、動作電圧を低減させる高感度光電変換膜を用いた撮像デバイス及びこれを用いた撮像管を提供することを目的とする。
【解決手段】透光性基板10と、
該透光性基板の一方の面に形成された導電膜11と、
該導電膜側に設けられた光電変換層22と、
該光電変換層の光電変換作用により生成された信号電荷を読み出す電荷読み出し手段30と、を有する撮像デバイス40であって、
前記光電変換層は、塩素を含有することを特徴とする撮像デバイス。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、撮像デバイス及びこれを用いた撮像管に関し、特に、光電変換層を有する撮像デバイス及びこれを用いた撮像管に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、セレン系非晶質半導体からなる光電変換膜に、約1×10V/m以上の高電界を印加すると、内部でアバランシェ増倍現象が発生することが知られている。そして、かかるアバランシェ増倍現象を利用した高感度撮像管が開示されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−123544号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】テレビジョン学会全国大会講演予稿集、33〜34頁、1989年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述のようなセレンを主成分とする光電変換膜を用いた高感度撮像管では、アバランシェ増倍現象を生じさせるために、約1×10V/m以上の高い電界を光電変換膜に印加する必要があるという問題があった。例えば、膜厚15μmの光電変換膜を使用する場合、約1500Vの電圧を必要とし、電圧印加により光電変換膜に白キズ等が発生し易くなる可能性があった。
【0006】
そこで、本発明は、動作電圧を低減させる高感度光電変換膜を用いた撮像デバイス及びこれを用いた撮像管を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、第1の発明に係る撮像デバイスは、透光性基板と、
該透光性基板の一方の面に形成された導電膜と、
該導電膜側に設けられた光電変換層と、
該光電変換層の光電変換作用により生成された信号電荷を読み出す電荷読み出し手段と、を有する撮像デバイスであって、
前記光電変換層は、塩素を含有することを特徴とする撮像デバイス。
【0008】
これにより、光電変換層の動作電圧を低下させることができ、光電変換層の長寿命化が可能となる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明に係る撮像デバイスにおいて、
前記光電変換層は、所定電界の印加により、アバランシェ増倍を発生することを特徴とする。
【0010】
これにより、アバランシェ増倍現象を低電圧で発生させることができ、高感度かつ高効率の撮像デバイスとすることができる。
【0011】
第3の発明は、第1又は第2の発明に係る撮像デバイスにおいて、
前記光電変換層は、セレン系非晶質半導体を主成分として構成されたことを特徴とする。
【0012】
これにより、最も利用されている材料から構成された光電変換層について、動作電圧を低減させることができる。
【0013】
第4の発明は、第1〜3のいずれかの発明に係る撮像デバイスにおいて、
前記光電変換層の前記塩素の含有量は、5ppm以上50ppm以下であることを特徴とする。
【0014】
これにより、微量の塩素の添加で動作電圧低減の大きな効果を上げることができる。
【0015】
第5の発明に係る撮像管は、第1〜4のいずれかの発明に係る撮像デバイスと、
該撮像デバイスを支持する筐体と、
該筐体の内部に収容され、前記撮像デバイスに電子ビームを照射する電子ビーム源と、を有することを特徴とする。
【0016】
これにより、動作電圧の低い撮像管とすることができ、撮像管を長寿命化することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光電変換層の動作電圧を低減させ、撮像デバイスの高効率化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る撮像デバイス40の一例を示した断面構成図である。
【図2】本発明の実施形態に係る撮像管の一例を示した図である。
【図3】本発明の実施例に係る撮像デバイスを用いた撮像管の電圧−電流特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための形態の説明を行う。
【0020】
図1は、本発明の実施形態に係る撮像デバイス40の一例を示した断面構成図である。図1において、本実施形態に係る撮像デバイス40は、透光性基板10と、導電膜11と、光電変換素子20と、電荷読み出し手段30とを備える。光電変換素子20は、正孔注入阻止層21と、光電変換層22と、電子ビームランディング層23とから構成される。また、電荷読み出し手段30は、電荷読み出し電極31と、電荷読み出し装置32とから構成される。
【0021】
透光性基板10は、光を透過する基板であり、本実施形態に係る撮像デバイス40の撮像面を構成する。透光性基板10は、光を透過することができれば、種々の材料から構成されてよく、例えば、透明な樹脂、ガラス等から構成されてもよい。
【0022】
導電膜11は、透明な電極を構成する膜であり、例えば、ITO(Indium Tin Oxide、酸化インジウムスズ)等から構成されてもよい。導電膜11は、透光性基板10の撮像面の反対側に形成される。また、本実施形態に係る撮像デバイス40が、撮像管に用いられる場合には、導電膜11は陽極を構成し、正電圧が印加される。
【0023】
導電膜11は、例えば、透光性基板1の一方の面に、スパッタ蒸着法により、酸化インジウムを主体として形成されてよい。
【0024】
光電変換素子20は、入力された光を電気信号に変換する素子である。光電変換素子20は、正孔注入阻止層21と、光電変換層22と、電子ビームランディング層23とを備える。
【0025】
正孔注入阻止層21は、導電膜11から光電変換層22に正孔が注入され、暗電流が流れるのを阻止するために設けられた層である。正孔注入阻止等21は、例えば、酸化セリウムで構成されてもよい。なお、正孔注入阻止層21は、必ず必要な構成要素ではなく、必要に応じて設けられてよい。正孔注入阻止層21は、例えば、導電膜11の上に、真空蒸着法により形成されてよい。
【0026】
光電変換層22は、入射した光を電気信号に変換する層である。これにより、光の情報を電気信号の情報に変換し、撮像対象物を撮像する。光電変換層22は、光が入射したときに信号電荷を生成し、発生した信号電荷を読み取ることにより、入射した光の強度を検出することができる。
【0027】
光電変換層22は、カルコゲナイド系物質からなるカルコゲナイド感光体を主成分として構成されてよい。カルコゲナイド感光体は、6族元素セレン(Se)、テルル(Te)を主成分とする光導電性材料を意味する。カルコゲナイド感光体には、6族元素のみからなるSe、Se−Teと、5族及び6族から構成されるAs−Se、As−Teがある。
【0028】
光電変換層22は、塩素を含有して構成されてよい。つまり、上述のカルコゲナイド系物質に、塩素が添加されて構成されてよい。例えば、光電変換層22は、セレンを主成分として、5〜50ppm程度、好ましくは10ppm以上25ppm以下の微量の塩素(Cl)を含有して構成されてよい。塩素を含有することにより、光電変換層22の動作電圧を低減させることができる。なお、この点については、実施例を用いて後述する。
【0029】
光電変換層22は、例えば、正孔注入層21又は導電膜11の上に、真空蒸着法により、セレンを主体とした非晶質半導体で形成するとともに、その際、同時蒸着法などにより、セレンに対し5〜50ppm程度の微量の塩素添加を行うようにして形成してよい。
【0030】
電子ビームランディング層23は、撮像デバイス40が撮像管に用いられた場合に、電子ビームが照射されるターゲットとなる層である。電子ビームランディング層23に電子ビームが照射されたときに、光電変換層22で発生した信号電荷が電流となって流れ、流れる電流を電荷読み出し手段30で読み取ることにより、信号電荷を検出することができる。電子ビームランディング層23は、例えば、三硫化アンチモン(Sb)から構成されてよい。
【0031】
電荷読み出し手段30は、光電変換層22で光の入力により発生した信号電荷が、電子ビームランディング層への電子ビームの照射により電流として流れたときに、当該電流を読み取るための手段であり、電荷読み出し電極31と、電荷読み出し装置32とを有する。電荷読み出し電極31は、導電膜11に流れ込んだ電流を引き出すための電極である。電荷読み出し装置32は、電荷読み出し電極31に流れた電流を測定し、光電変換層22で発生した信号電荷を検出し、光の入力情報を取得する。
【0032】
図2は、本発明の実施形態に係る撮像管の一例を示した図である。本実施形態に係る撮像管は、図1に示した撮像デバイス40が利用されて構成されている。図2において、本実施形態に係る撮像管は、透光性基板10と、導電膜11と、光電変換素子20と、電荷読み取り手段30からなる撮像デバイス40と、筐体50と、インジウムリング60と、メッシュ電極70と、電子ビーム源80とを有する。
【0033】
透光性基板10、導電膜11、光電変換素子20及び電荷読み取り手段30については、本実施形態に係る撮像デバイス40において説明したので、同様の構成要素に同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0034】
筐体50は、撮像デバイス40を固定支持するとともに、電子ビーム源80を収容する容器である。筐体50は、例えば、図2に示すように、試験管のような形状に構成されてもよい。そして、撮像管全体としては、筐体50の開口部を塞ぐように撮像デバイス40が備えられ、内部に電子ビーム源を収容した構成としてもよい。筐体50は、種々の材料で構成され得るが、例えば、ガラス管から構成されてもよい。
【0035】
インジウムリング60は、筐体50の開口部に、撮像デバイス40をシールして固定支持するための固定支持部材である。これにより、撮像デバイス40を固定支持するとともに、筐体50の内部をシールし、真空状態とすることが可能となる。
【0036】
メッシュ電極70は、ターゲット面である電子ビームランディング層23への電子ビームの照射を調整するための電極である。
【0037】
電子ビーム源80は、電子ビームを電子ビームランディング層23に照射し、電荷読み出し手段30において、光電変換層22で発生した信号電荷の読み出しを可能にする手段である。電子ビーム源80は、種々の構成を有してよいが、例えば、電子放出源をアレイ状に配置した電子放出アレイとして構成されてもよい。
【0038】
このように、本実施形態に係る撮像デバイス40を用いることにより、撮像管を構成することができる。なお、図2においては、本実施形態に係る撮像デバイス40を撮像管に適用する例を挙げて説明したが、光電変換層22の蓄積電荷を読み出す方式であれば、他の形式の撮像装置にも適用することができる。
【実施例】
【0039】
図3は、本発明の実施例に係る撮像デバイスを用いた撮像管の電圧−電流特性を示した図である。本実施例に係る撮像管は、図1及び図2に示した本実施形態に係る撮像デバイス及び撮像管と同様に構成した。なお、以下の説明において、本実施形態に係る撮像デバイス及び撮像管に対応する構成要素については、同一の参照符号を付し、その説明を量略する。
【0040】
本実施例に係る撮像デバイス40を、以下のように形成した。まず、直径18mmの透光性基板10の片面に、スパッタ蒸着法により、酸化インジウムを主体とする直径14mm、膜厚10〜30nmの導電膜11を形成した。次に、導電膜11の上に、真空蒸着法により、直径14mm、膜厚5〜30nmの酸化セリウムからなる正孔注入阻止層21を形成した。次に、正孔注入阻止層21の上に、真空蒸着法により、直径14mm、膜厚4μmのセレンを主体とし、非晶質半導体からなる光電変換層22を形成した。その際、同時蒸着法により、セレンに対して、2.5ppm、5.0ppm、10.0ppm、25.0ppm、50.0ppmの5通りのパターンで塩素の添加を行った。次に、三硫化アンチモンを蒸着し、直径14mm、膜厚0.1μmの電子ビームランディング層23を形成し、図1に示した撮像デバイス40を形成した。
【0041】
次に、以上のようにして形成した撮像デバイス40の透光性基板10と、電子ビーム源80やメッシュ電極70等を内蔵した筐体50とを、インジウムリング60でシールし、内部を真空封止して、図2に示した撮像管を構成した。
【0042】
図3は、このようにして構成した本実施例に係る撮像管の電圧−電流特性を示しており、横軸が透光性基板10上の導電膜11を介して光電変換デバイス20に印加した電圧、縦軸が電荷読み出し手段30で読み出された出力信号電流(Signal current)及び暗電流(Dark current)の値を示している。
【0043】
図3において、曲線A1は、塩素を2.5ppm含有する本実施例に係る撮像管の信号電流特性を示し、曲線A2は、塩素を2.5ppm含有する本実施例に係る撮像管の暗電流特性を示している。曲線B1は、塩素を5.0ppm含有する本実施例に係る撮像管の信号電流特性を示し、曲線B2は、塩素を5.0ppm含有する本実施例に係る撮像管の暗電流特性を示している。曲線C1は、塩素を10.0ppm含有する本実施例に係る撮像管の信号電流特性を示し、曲線C2は、塩素を10.0ppm含有する本実施例に係る撮像管の暗電流特性を示している。曲線D1は、塩素を25ppm含有する本実施例に係る撮像管の信号電流特性を示し、曲線D2は、塩素を25ppm含有する本実施例に係る撮像管の暗電流特性を示している。曲線E1は、塩素を50.0ppm含有する本実施例に係る撮像管の信号電流特性を示し、曲線E2は、塩素を50.0ppm含有する本実施例に係る撮像管の暗電流特性を示している。曲線F1は、塩素を含有しない従来例に係る撮像管の信号電流特性を示し、曲線F2は、塩素を含有しない従来例に係る撮像管の暗電流特性を示している。
【0044】
図3において、従来例に係る撮像管の信号電流特性曲線F1に比較して、本実施例に係る撮像管の信号電流特性曲線C1、D1、E1は、極めて低い電圧から信号電流が上昇していることが分かる。具体的には、従来例の特性曲線F1においては、電圧が400V付近で信号電流が大きく上昇し始めるが、本実施例の特性曲線C1においては110〜120V付近、特性曲線D1においては60〜70V付近、特性曲線E1においては30〜40V付近から信号電流の上昇が見られる。このように、本実施例に係る撮像管においては、撮像デバイス40の動作電圧を、従来よりも大幅に低減させることができる。
【0045】
なお、塩素を50ppm添加した本実施例に係る撮像管においては、暗電流特性曲線B2が高い値を示しているが、光電変換層22を構成する材料の調整、正孔注入阻止層21等の条件を種々変更することにより、暗電流を低下させることが可能となると考えられる。よって、光電変換層22の塩素の含有量は、5ppm以上50ppm以下で動作電圧を低下できる効果が得られるが、その中でも10ppm以上25ppm以下であることが好ましい。
【0046】
本実施例に係る撮像管によれば、微量の塩素を含有する光電変換層22を有する撮像デバイスを用いることにより、光電変換素子20に印加する電圧を低減させることができ、光電変換素子20の長寿命化が可能となる。
【0047】
以上、本発明の好ましい実施例について詳説したが、本発明は、上述した実施例に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、上述した実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、撮像デバイス及び撮像管を含む種々の撮像装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 透光性基板
11 導電膜
20 光電変換素子
21 正孔注入阻止層
22 光電変換層
23 電子ビームランディング層
30 電荷読み出し手段
31 読み出し電極
32 電荷読み出し装置
40 撮像デバイス
50 筐体
60 インジウムリング
70 メッシュ電極
80 電子ビーム源

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基板と、
該透光性基板の一方の面に形成された導電膜と、
該導電膜側に設けられた光電変換層と、
該光電変換層の光電変換作用により生成された信号電荷を読み出す電荷読み出し手段と、を有する撮像デバイスであって、
前記光電変換層は、塩素を含有することを特徴とする撮像デバイス。
【請求項2】
前記光電変換層は、所定電界の印加により、アバランシェ増倍を発生することを特徴とする請求項1に記載の撮像デバイス。
【請求項3】
前記光電変換層は、セレン系非晶質半導体を主成分として構成されたことを特徴とする請求項1又は2に記載の撮像デバイス。
【請求項4】
前記光電変換層の前記塩素の含有量は、5ppm以上50ppm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の撮像デバイス。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の撮像デバイスと、
該撮像デバイスを支持する筐体と、
該筐体の内部に収容され、前記撮像デバイスに電子ビームを照射する電子ビーム源と、を有することを特徴とする撮像管。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−160564(P2012−160564A)
【公開日】平成24年8月23日(2012.8.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−18991(P2011−18991)
【出願日】平成23年1月31日(2011.1.31)
【出願人】(000004352)日本放送協会 (2,206)
【出願人】(591053926)財団法人エヌエイチケイエンジニアリングサービス (169)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】