説明

操舵装置及び操舵制御装置

【課題】操舵フィーリングを向上させることができる操舵装置及び操舵制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】車両に設けられ操舵操作が可能である操舵部材5と、操舵部材5に対する操舵操作を補助するアクチュエータ9と、アクチュエータ9を制御し、操舵部材5の中立位置側からの切り込み操作に対応した当該操舵部材5の中立位置側への切り戻し操作を補助する戻し操作補助制御を実行可能であり、切り込み操作の際の操舵部材5の操舵量に応じて、当該戻し操作補助制御を実行する際の切り戻し操作時間を決定する操舵制御装置11とを備えることを特徴とするので、操舵フィーリングを向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵装置及び操舵制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の操舵装置、あるいは、操舵制御装置として、例えば、特許文献1にはモータが発生する操舵補助力をステアリング機構に伝達して操舵力を軽減させる電動パワーステアリング装置の制御装置が開示されている。この電動パワーステアリング装置の制御装置は、ステアリングシャフトの操舵角を検出する舵角センサと、ステアリングシャフトに加えられる操舵トルクを検出するトルクセンサと、車速を検出する車速検出手段と、操舵角、操舵角の舵角速度、操舵トルク及び車速に基づいてモータを制御する制御手段とを具備している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−099053号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上述のような特許文献1に記載の電動パワーステアリング装置の制御装置は、制御手段がハンドル戻し制御機能を有し、ハンドル戻し制御機能により操舵角に応じた操舵フィーリングを補正するものであるが、例えば、操舵フィーリングの更なる向上が望まれている。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであって、操舵フィーリングを向上させることができる操舵装置及び操舵制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明に係る操舵装置は、車両に設けられ操舵操作が可能である操舵部材と、前記操舵部材に対する操舵操作を補助するアクチュエータと、前記アクチュエータを制御し、前記操舵部材の中立位置側からの切り込み操作に対応した当該操舵部材の中立位置側への切り戻し操作を補助する戻し操作補助制御を実行可能であり、前記切り込み操作の際の前記操舵部材の操舵量に応じて、当該戻し操作補助制御を実行する際の切り戻し操作時間を決定する操舵制御装置とを備えることを特徴とする。
【0007】
また、上記操舵装置では、前記操舵制御装置は、前記戻し操作補助制御として、前記切り戻し操作時間の終了時点に前記操舵部材の中立位置に応じた目標戻し位置への前記切り戻し操作を完了させるものとすることができる。
【0008】
また、上記操舵装置では、前記操舵制御装置は、前記切り込み操作の際の前記操舵部材の操舵量として、前記切り込み操作の終了時点の前記操舵部材の操舵量、又は、前記切り込み操作に対応する前記切り戻し操作の開始時点の前記操舵部材の操舵量に基づいて、前記切り戻し操作時間を変更するものとすることができる。
【0009】
また、上記操舵装置では、前記操舵制御装置は、前記切り戻し操作が中断された後、前記切り戻し操作が再開された際には、当該再開された前記切り戻し操作の開始時点の前記操舵部材の操舵量に基づいて、前記切り戻し操作時間を変更するものとすることができる。
【0010】
また、上記操舵装置では、前記操舵制御装置は、前記切り戻し操作時間と、当該切り戻し操作時間に応じた切り戻し操作速度とに基づいて、前記戻し操作補助制御を実行し、前記切り戻し操作速度は、絶対値が前記切り戻し操作時間の経過に伴って増加し、ピークを経た後に減少する速度パターンであるものとすることができる。
【0011】
また、上記操舵装置では、前記切り戻し操作時間に対する前記切り戻し操作速度の前記速度パターンは、前記切り戻し操作速度の絶対値の最大値以外の極大値と極小値との偏差が予め設定される第1所定値以下であること、前記切り戻し操作時間の開始時点から終了時点までの当該切り戻し操作時間と前記切り戻し操作速度とに基づいた操作量が予め設定された第2所定値以上であること、前記操作量が予め設定された所定範囲内であること、前記切り戻し操作速度の絶対値の最大値と前記切り戻し操作時間の開始時点又は終了時点での前記切り戻し操作速度の絶対値との偏差が予め設定された第3所定値以上であること、前記切り戻し操作速度の絶対値が最大値となるピーク時点が前記切り戻し操作時間の開始時点と終了時点との中間時点を含む予め設定された所定期間内に位置すること、のうちの少なくとも1つの条件を満たすパターンであるものとすることができる。
【0012】
また、上記操舵装置では、前記切り戻し操作時間は、前記操舵部材の中立位置に対する前記戻し操作補助制御における前記操舵部材の目標戻し位置の許容範囲に基づいて変更されるものとすることができる。
【0013】
また、上記操舵装置では、前記切り戻し操作時間は、前記切り込み操作の切り込み操作時間に基づいて変更されるものとすることができる。
【0014】
また、上記操舵装置では、前記切り戻し操作時間は、前記車両の車速に基づいて変更されるものとすることができる。
【0015】
また、上記操舵装置では、前記切り戻し操作時間は、前記車両の走行状態に基づいて変更されるものとすることができる。
【0016】
上記目的を達成するために、本発明に係る操舵制御装置は、車両に設けられ操舵操作が可能である操舵部材に対する操舵操作を補助するアクチュエータを制御し、前記操舵部材の中立位置側からの切り込み操作に対応した当該操舵部材の中立位置側への切り戻し操作を補助する戻し操作補助制御を実行可能であり、前記切り込み操作の際の前記操舵部材の操舵量に応じて、当該戻し操作補助制御を実行する際の切り戻し操作時間を決定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る操舵装置、操舵制御装置は、操舵フィーリングを向上させることができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施形態1に係る操舵装置が搭載される車両の概略図である。
【図2】図2は、実施形態1に係る操舵装置の概略構成を表す模式的斜視図である。
【図3】図3は、実施形態1に係るEPS制御装置の概略構成を示す模式的ブロック図である。
【図4】図4は、切り戻し操作時間に関連してフィッツの法則を説明する模式図である。
【図5】図5は、実施形態1に係る切り戻し操作時間に関連してフィッツの法則における到達時間と操作距離と許容範囲との関係の一例を表す線図である。
【図6】図6は、実施形態1に係る切り戻し操作速度に関連してベル型曲線の速度パターンの一例を表す線図である。
【図7】図7は、実施形態1に係る切り戻し操作速度に関連してベル型曲線の速度パターンの条件を説明する模式的な線図である。
【図8】図8は、実施形態1に係る切り戻し操作速度に関連してベル型曲線の速度パターンの条件を説明する模式的な線図である。
【図9】図9は、実施形態1に係る切り戻し操作速度に関連してベル型曲線の速度パターンの条件を説明する模式的な線図である。
【図10】図10は、実施形態1に係る切り戻し操作速度に関連してベル型曲線の速度パターンの条件を説明する模式的な線図である。
【図11】図11は、実施形態1に係る切り戻し操作速度に関連してベル型曲線の速度パターンの条件を説明する模式的な線図である。
【図12】図12は、実施形態1に係るEPS制御装置による制御の一例を説明するフローチャートである。
【図13】図13は、実施形態1に係る操舵装置の動作を説明するタイムチャートである。
【図14】図14は、実施形態1に係る操舵装置の動作を説明するタイムチャートである。
【図15】図15は、実施形態2に係るEPS制御装置の概略構成を示す模式的ブロック図である。
【図16】図16は、実施形態2に係る切り戻し操作時間に関連してフィッツの法則関連式における切り戻し操作時間と操舵角度と運転状態係数との関係の一例を表す線図である。
【図17】図17は、実施形態2に係る抽出部によって抽出される単位挙動の一例を表す線図である。
【図18】図18は、実施形態2に係るEPS制御装置による制御の一例を説明するフローチャートである。
【図19】図19は、実施形態3に係るEPS制御装置の概略構成を示す模式的ブロック図である。
【図20】図20は、実施形態3に係る切り戻し操作時間に関連してフィッツの法則関連式における切り戻し操作時間と操舵角度と車速係数との関係の一例を表す線図である。
【図21】図21は、実施形態3に係るEPS制御装置による制御の一例を説明するフローチャートである。
【図22】図22は、実施形態4に係るEPS制御装置の概略構成を示す模式的ブロック図である。
【図23】図23は、実施形態4に係る切り戻し操作時間に関連してフィッツの法則関連式における切り戻し操作時間と操舵角度とSPI係数との関係の一例を表す線図である。
【図24】図24は、実施形態4に係るEPS制御装置による制御の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
【0020】
[実施形態1]
図1は、実施形態1に係る操舵装置が搭載される車両の概略図、図2は、実施形態1に係る操舵装置の概略構成を表す模式的斜視図、図3は、実施形態1に係るEPS制御装置の概略構成を示す模式的ブロック図、図4は、切り戻し操作時間に関連してフィッツの法則を説明する模式図、図5は、実施形態1に係る切り戻し操作時間に関連してフィッツの法則における到達時間と操作距離と許容範囲との関係の一例を表す線図、図6は、実施形態1に係る切り戻し操作速度に関連してベル型曲線の速度パターンの一例を表す線図、図7、図8、図9、図10、図11は、実施形態1に係る切り戻し操作速度に関連してベル型曲線の速度パターンの条件を説明する模式的な線図、図12は、実施形態1に係るEPS制御装置による制御の一例を説明するフローチャート、図13は、実施形態1に係る操舵装置の動作を説明するタイムチャート、図14は、実施形態1に係る操舵装置の動作を説明するタイムチャートである。
【0021】
本実施形態は、車両に適用され、例えば、フィッツの法則に沿ったベル型速度モデルを用いていわゆるハンドル戻し操作アシスト制御(戻し操作補助制御)を行うものである。そして、本実施形態は、これによって、例えば、ハンドル戻し操作時間(切り戻し操作時間)とハンドル戻し操作の速度軌跡(切り戻し操作速度の速度パターン)とが、人間の動作特性(例えば操作リズム)に合うようになることで、運転者がハンドル(操舵部材)に手を沿わせて自然にハンドル戻し操作を行うことができるようになり、これにより、操舵フィーリングを向上させるものである。
【0022】
具体的には、図1に示すように、本実施形態に係る操舵装置1は、車両2に搭載される。操舵装置1は、この車両2の操舵輪を操舵するための装置である。車両2は、車輪3として、左前輪3FL、右前輪3FR、左後輪3RL、右後輪3RRを備える。車両2は、走行用駆動源(原動機)、例えば、内燃機関4が発生させる動力が駆動輪である車輪3(例えば、左前輪3FL、右前輪3FR)に作用することで、車輪3の路面との接地面に駆動力[N]が生じ、これにより走行することができる。また、車両2は、運転者が操舵部材としてのハンドル(ステアリングホイール)5を回転操作することで操舵輪である車輪3(例えば、左前輪3FL、右前輪3FR)を操舵することができ、これにより、旋回することができる。
【0023】
なお、車両2は、内燃機関4で発生した動力が左前輪3FL、右前輪3FRに伝達され、左前輪3FL、右前輪3FRで駆動力を発生する、いわゆる前輪駆動車となっているが、左後輪3RL、右後輪3RRで駆動力を発生する後輪駆動や、全ての車輪3で駆動力を発生する四輪駆動など、前輪駆動以外の駆動形式であってもよい。また、走行用駆動源は、内燃機関4以外を使用してもよく、電動機を用いたり、内燃機関4と電動機との双方を用いたりしてもよい。
【0024】
そして、本実施形態の操舵装置1は、車両2の操舵力を電動機等の動力により補助するいわゆる電動パワーステアリング装置(EPS:Electronic Power Steering)である。操舵装置1は、運転者から操舵部材としてのハンドル5に加えられた操舵力に応じた操舵補助力を得られるように電動機等を駆動することにより、運転者のハンドル5に対する操舵操作(ステアリング操作)を補助する。
【0025】
本実施形態の操舵装置1は、図2に示すように、ハンドル5と、ステアリングシャフト(以下、特に断りのない限り「シャフト」と略記する。)6と、R&Pギア機構(以下、特に断りのない限り「ギア機構」と略記する。)7と、左右一対のタイロッド8と、アクチュエータとしてのEPS装置9と、状態検出装置10と、操舵制御装置としてのEPS制御装置11とを備える。
【0026】
ハンドル5は、回転軸線X1周り方向に回転操作可能な部材であり、車両2の運転席に設けられる。運転者は、回転軸線X1を回転中心としてこのハンドル5を回転操作することで操舵操作を行うことができる。運転者は、ハンドル5を回転操作することで車両2の操舵輪としての左前輪3FL及び右前輪3FRを操舵可能である。つまり、操舵装置1が搭載された車両2は、運転者によってこのハンドル5が操舵操作されることで、左前輪3FL、右前輪3FRが操舵(転舵)される。
【0027】
シャフト6は、ハンドル5の回転軸部をなすものである。シャフト6は、一端がハンドル5と連結され、他端がギア機構7と連結される。つまり、ハンドル5は、このシャフト6を介してギア機構7に接続される。シャフト6は、運転者によるハンドル5の回転操舵操作に伴って、このハンドル5と一体となって中心軸線周り方向に回転可能である。ここでは、シャフト6は、例えば、アッパシャフト、インタミシャフト、ロアシャフトなどの複数の部材に分割されている。
【0028】
ギア機構7は、シャフト6と一対のタイロッド8とを機械的に連結するものである。ギア機構7は、例えば、いわゆるラックアンドピニオン方式の歯車機構を有する。ギア機構7は、歯車機構の作用により、シャフト6の中心軸線周り方向の回転運動を一対のタイロッド8の左右方向(典型的には車両2の車幅方向に相当)の直線的な運動に変換する。
【0029】
一対のタイロッド8は、それぞれ基端部がギア機構7に連結され、先端部をなすタイロッドエンド12がナックルアーム(不図示)を介して各操舵輪、すなわち、左前輪3FL及び右前輪3FRに連結される。つまり、ハンドル5は、シャフト6、ギア機構7及び各タイロッド8等を介して左前輪3FL、右前輪3FRに連結される。
【0030】
EPS装置9は、運転者によるハンドル5に対する操舵操作を補助するアクチュエータである。EPS装置9は、運転者によりハンドル5に入力される操舵力(操舵トルク)を補助する操舵補助力(アシストトルク)を出力する。言い換えれば、EPS装置9は、車両2の操舵輪である左前輪3FL、右前輪3FRを電動機等によって駆動することで運転者の操舵操作を支援する。EPS装置9は、アシストトルクをシャフト6に作用させることで運転者の操舵操作をアシストする。さらに言えば、EPS装置9は、ハンドル5の操舵角度に応じてシャフト6に作用するトルクを調節可能である。ここでアシストトルクは、運転者によりハンドル5に入力される操舵力に相当する操舵トルクを補助するトルクである。
【0031】
ここでのEPS装置9は、電動機としてのモータ13と、減速機14とを有する。本実施形態のEPS装置9は、例えば、インタミシャフトなどのシャフト6にモータ13が設けられたコラムEPS装置であり、すなわち、いわゆるコラムアシスト式のアシスト機構である。
【0032】
モータ13は、電力が供給されることで回転動力(モータトルク)を発生させるコラムアシスト用電動モータであり、これにより、操舵補助力(アシストトルク)を発生するものである。モータ13は、減速機14等を介してシャフト6に動力伝達可能に接続され、減速機14等を介してシャフト6に操舵補助力を付与する。減速機14は、モータ13の回転動力を減速してシャフト6に伝達する。
【0033】
EPS装置9は、モータ13が回転駆動することにより、モータ13が発生させた回転動力が減速機14を介してシャフト6に伝達され、これにより操舵アシストを行う。このとき、モータ13が発生させた回転動力は、減速機14にて減速されトルクが増大されてシャフト6に伝達される。このEPS装置9は、後述のEPS制御装置11に電気的に接続され、モータ13の駆動が制御される。
【0034】
状態検出装置10は、操舵装置1が搭載される車両2の状態を検出するものであり、各種センサなどを含んで構成される。状態検出装置10は、EPS制御装置11と電気的に接続されており、相互に検出信号や駆動信号、制御指令等の情報の授受を行うことができる。状態検出装置10は、例えば、ハンドル5に作用するトルクを検出するトルクセンサ15、ハンドル5の回転角度である操舵角度を検出する操舵角度センサ16、操舵装置1が搭載される車両2の車速を検出する車速センサ17等を含む。
【0035】
EPS制御装置11は、EPS装置9の駆動を制御するものである。EPS制御装置11は、CPU、ROM、RAM及びインターフェースを含む周知のマイクロコンピュータを主体とする電子回路である。EPS制御装置11は、例えば、上述の状態検出装置10の種々のセンサやEPS装置9が電気的に接続される。EPS制御装置11は、種々のセンサからの検出結果に対応した電気信号が入力され、入力された検出結果に応じてEPS装置9に駆動信号を出力しその駆動を制御する。なお、このEPS制御装置11は、例えば、操舵装置1を搭載する車両2の各部を制御するECUと電気的に接続され、このECUを介して相互に検出信号や駆動信号、制御指令等の情報の授受を行う構成としてもよいし、あるいは、このECUと一体で構成されてもよい。
【0036】
EPS制御装置11は、例えば、トルクセンサ15により検出されたトルク等に基づいて、EPS装置9を制御し、EPS装置9がシャフト6に作用させるアシストトルクを調節する。EPS制御装置11は、EPS装置9のモータ13への供給電流であるアシスト電流を調節することでモータ13の出力を調節し、アシストトルクを調節する。ここでアシスト電流は、EPS装置9が要求される所定のアシストトルクを発生させることができる大きさの供給電流である。
【0037】
EPS制御装置11は、基本的には、トルクセンサ15により検出されたトルクに基づいて、操舵トルクに応じたアシストトルクをEPS装置9が発生するようにモータ13を制御する(アシスト制御)。このとき、操舵装置1は、運転者からハンドル5に入力された操舵トルクと、EPS制御装置11の制御によって操舵トルク等に応じてEPS装置9が発生させるアシストトルクとが、シャフト6に作用する。そして、操舵装置1は、シャフト6からギア機構7を介してタイロッド8に操舵力、操舵補助力が作用すると、このタイロッド8が操舵トルクとアシストトルクとに応じた大きさの軸力によって左右方向に変位し操舵輪である左前輪3FL、右前輪3FRが転舵される。またこのとき、EPS装置9からシャフト6に作用する操舵補助力(アシストトルク)は、このシャフト6と一体回転するハンドル5にも作用する。
【0038】
この結果、上記のように構成される操舵装置1は、運転者からハンドル5に入力される操舵力と、EPS装置9が発生させる操舵補助力とによって左前輪3FL、右前輪3FRを転舵することができ、これにより、運転者による操舵操作を補助することができ、操舵操作に際して運転者の負担を軽減することができる。
【0039】
そしてさらに、本実施形態のEPS制御装置11は、EPS装置9を制御し、戻し操作補助制御としてのハンドル戻し操作アシスト制御(以下、特に断りのない限り「ハンドル戻し制御」と略記する。)を実行可能である。このハンドル戻し制御は、ハンドル5を滑らかに中立位置側に戻す制御、さらに言えば、ハンドル5の中立位置側への切り戻し操作を補助する制御である。
【0040】
ここで、ハンドル5の中立位置とは、ハンドル5の操舵角度が0°となる位置である。つまり、上記ハンドル5の切り戻し操作とは、ハンドル5を中立位置に近づく側へ回転させる操舵操作であり、すなわち、ハンドル5の回転角度である操舵角度を0°側に戻す方向への操舵操作である。このハンドル5の切り戻し操作は、典型的には、ハンドル5の中立位置側からの切り込み操作に対応して行われる。ハンドル5の切り込み操作とは、ハンドル5を中立位置から離れる側へ回転させる操舵操作であり、すなわち、ハンドル5を中立位置側から左右いずれかの方向に回転させる操舵操作である。つまり、ハンドル5の切り込み操作は、ハンドル5の回転角度である操舵角度を0°側から左右いずれかの方向へ変更する操舵操作である。典型的には、ハンドル5の切り戻し操作は、切り込み操作によって所定の回転位置にあるハンドル5を中立位置側に戻す操舵操作である。
【0041】
EPS装置9は、ハンドル戻し制御においては、EPS制御装置11によってモータ13への供給電流(アシスト電流)が調節されることで、ハンドル戻しトルクを調整可能である。このハンドル戻しトルクは、ハンドル戻し制御においてハンドル5を中立位置に戻すために、EPS装置9がシャフト6、ひいては、ハンドル5に作用させるアシストトルクであり、モータ13への供給電流に応じて調節される。つまり、ハンドル戻しトルクは、ハンドル5の中立位置側への戻し方向へのアシストトルクである。ハンドル戻しトルクは、例えば、運転者が切り込み操作によってハンドル5を中立位置に対して右回転方向に操舵した場合には、ハンドル5を中立位置側に向かう左回転方向に回転させるトルクとなる。
【0042】
EPS制御装置11は、例えば、ハンドル5の操舵角度が中立位置近傍以外の場合で、かつ、運転者による切り戻し操作が行われている場合、あるいは、ハンドル5の操舵角度が中立位置以外の場合で、かつ、運転者によるハンドル5の操作がほぼない場合(操舵トルクが0近傍である場合)にハンドル戻し制御を実行する。EPS制御装置11は、ハンドル戻し制御では、ハンドル5を滑らかに中立位置に戻すために必要な大きさ、方向のハンドル戻しトルクに応じた供給電流をモータ13に供給し、EPS装置9に当該ハンドル戻しトルクを発生させる。これにより、EPS制御装置11は、運転者に対して自然にハンドル5の切り戻し操作を行わせることができ、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0043】
そして、本実施形態のEPS制御装置11は、切り込み操作の際のハンドル5の操舵角度に応じて、ハンドル戻し制御を実行する際の切り戻し操作時間を決定することで、操舵フィーリングの向上を図っている。言い換えれば、EPS制御装置11は、ハンドル5の操舵角度に応じた切り戻し操作時間に基づいて、EPS装置9を制御し、ハンドル5の中立位置側への切り戻し操作を補助するハンドル戻し制御を実行する。さらに言えば、EPS制御装置11は、切り戻し操作時間と、この切り戻し操作時間に応じた切り戻し操作速度とに基づいて、ハンドル戻し制御を実行する。
【0044】
ここで、切り戻し操作時間は、EPS装置9が運転者によるハンドル5の切り戻し操作を補助(アシスト)する時間(期間)である。切り戻し操作速度は、EPS装置9がハンドル5の切り戻し操作を補助する際の操作速度であり、EPS装置9が発生させるハンドル戻しトルクによって生じるハンドル5の操舵速度(角速度)である。また、ハンドル5の操舵角度は、ハンドル5の操舵量に相当し、典型的には、運転者による操舵操作おけるハンドル5の中立位置からの操作量に相当する。
【0045】
ここでは、EPS制御装置11は、ハンドル戻し制御として、切り戻し操作時間の終了時点にハンドル5の中立位置に応じた目標戻し位置への切り戻し操作を完了させる。つまり、EPS制御装置11は、切り戻し操作時間の終了時点でハンドル戻し制御を終了する。上記目標戻し位置は、ハンドル5の中立位置に対して許容できる誤差を見込んで所定の範囲内で設定される。
【0046】
また、EPS制御装置11は、例えば、切り戻し操作時間の途中で運転者がハンドル5の切り戻し操作を中断した場合にはこれを許容する。その後、EPS制御装置11は、再度、切り戻し操作が行われた際にはその時点での操舵角度に応じた切り戻し操作時間に基づいてハンドル戻し制御を行う。つまり、EPS制御装置11は、切り戻し操作が中断された後、切り戻し操作が再開された際には、この再開された切り戻し操作の開始時点の操舵角度に基づいて、切り戻し操作時間を変更する。
【0047】
より具体的には、EPS制御装置11は、図3に示すように、種々の処理を行う処理部18、車両2の各部を制御するコンピュータプログラムなどが格納された記憶部19及び車両2の各部を駆動する不図示の駆動回路、各種センサが接続される入出力部20を含んで構成され、これらが互いに接続され、互いに信号の受け渡しが可能になっている。そして、EPS制御装置11は、処理部18に機能概念的に、操作時間算出部21と、操作速度設定部22と、EPS制御部23と、判定部24とが設けられる。
【0048】
操作時間算出部21は、ハンドル5の操舵角度に基づいてハンドル戻し制御を実行する際の切り戻し操作時間を算出するものである。操作時間算出部21は、典型的には、切り込み操作の際の操舵角度に基づいて切り戻し操作時間を算出する。本実施形態のEPS制御装置11は、いわゆるフィッツの法則(Fitts’s Law)を用いて、切り込み操作の際のハンドル5の操舵角度から切り戻し操作時間を設定する。
【0049】
ここで、フィッツの法則とは、マシンインタフェースにおける人間の動作特性をモデル化した法則であり、典型的には、操作点を目標点まで移動させる人間の動作において、操作点が目標点にたどり着くまでの時間は、目標点までの距離と目標点の大きさとによって定まる、という法則である。フィッツの法則式は、例えば、図4に示すように、開始点から目標点までの操作距離D、最終的な位置に対する誤差の許容範囲W、操作点を目標点に移動するために必要な到達時間tとの関数を用いて、数式(1)で表すことができる。典型的には、到達時間tは、動作を完了する平均時間に相当し、操作距離Dは、開始点から対象の中心(目標点)までの距離に相当し、許容範囲Wは、動きの方向に測った対象物の幅に相当する。図5は、このフィッツの法則式で定まる[到達時間t]と[操作距離D/許容範囲W]との関係の一例を表している。この図5に示すように、[到達時間t]は、[操作距離D/許容範囲W]の増加に伴って長くなる。
【0050】
【数1】

【0051】
本実施形態の操舵装置1におけるハンドル戻し制御に上記フィッツの法則を適用する場合、フィッツの法則式を表す数式(1)において、切り戻し操作時間が到達時間tに相当し、ハンドル5の中立位置(目標点)からの操作量に相当する操舵角度が操作距離Dに相当し、ハンドル5の中立位置に対する目標戻し位置の許容範囲が上記許容範囲Wに相当する。
【0052】
操作時間算出部21は、このフィッツの法則式を表す数式(1)を用いて、操舵角度と、中立位置に対する目標戻し位置の許容範囲とから、切り戻し操作時間を算出し、これをハンドル戻し制御に用いる切り戻し操作時間に決定する。目標戻し位置の許容範囲は、実車評価等に応じて予め設定しておけばよい。操作時間算出部21は、典型的には、切り込み操作の際の操舵角度として、切り込み操作の終了時点の操舵角度、又は、この切り込み操作に対応する切り戻し操作の開始時点の操舵角度に基づいて、切り戻し操作時間を算出する。これにより、操作時間算出部21は、操舵角度に応じて、さらに言えば、切り込み操作の際の操舵角度として、切り込み操作の終了時点の操舵角度、又は、対応する切り戻し操作の開始時点の操舵角度に応じて、切り戻し操作時間を変更することができる。この場合、切り戻し操作時間は、操舵角度の絶対値が相対的に大きい場合に相対的に長くなり、操舵角度の絶対値が相対的に小さい場合に相対的に短くなる。
【0053】
また、操作時間算出部21は、ハンドル戻し制御において要求される制御精度や操舵フィーリング等に応じて目標戻し位置の許容範囲を適宜変更した上で、切り戻し操作時間を算出することもできる。これにより、操作時間算出部21は、中立位置に対するハンドル戻し制御におけるハンドル5の目標戻し位置の許容範囲に基づいて切り戻し操作時間を変更することができる。この場合、切り戻し操作時間は、許容範囲が相対的に広い場合に相対的に短くなり、許容範囲が相対的に狭い場合に相対的に長くなる。
【0054】
したがって、操作時間算出部21は、上記のようにフィッツの法則式を表す数式(1)を用いて、ハンドル5の操舵角度と、目標戻し位置の許容範囲とから、切り戻し操作時間を算出することで、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を、人間の動作特性(例えば操舵リズム)に合った時間とすることができる。すなわち、操作時間算出部21は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を、制御対象となる切り戻し操作に対応する切り込み操作の終了時点、又は、制御対象となる切り戻し操作の開始時点の操舵角度に応じて、人間の動作特性に合わせた時間とすることができる。
【0055】
また、操作時間算出部21は、切り戻し操作が中断された後、切り戻し操作が再開された際には、この再開された切り戻し操作の開始時点の操舵角度に基づいて、フィッツの法則式を表す数式(1)を用いて、切り戻し操作時間を算出する。この結果、操作時間算出部21は、一旦中断された後に再開された切り戻し操作に対するハンドル戻し制御に用いる切り戻し操作時間も人間の動作特性に合った時間とすることができる。
【0056】
次に、操作速度設定部22は、操作時間算出部21が算出した切り戻し操作時間に基づいて切り戻し操作速度を設定するものである。操作速度設定部22は、切り戻し操作時間と、ハンドル5の操舵角度とに基づいて、切り戻し操作速度を設定する。典型的には、操作速度設定部22は、操作時間算出部21が算出した切り戻し操作時間の終了時点に、ハンドル5の中立位置に応じた目標戻し位置への切り戻し操作が完了するように、切り戻し操作速度を設定する。操作速度設定部22は、例えば、切り戻し操作速度を切り戻し操作時間で積分した値が、切り込み操作の終了時点、又は、切り戻し操作の開始時点の操舵角度に応じた操作量と同等になるように、切り戻し操作速度を設定する。これにより、EPS制御装置11は、切り戻し操作時間の終了時点にハンドル5の中立位置に応じた目標戻し位置への切り戻し操作を完了させることが可能となる。
【0057】
ここではさらに、操作速度設定部22は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作速度を、切り戻し操作時間の終了時点に切り戻し操作が完了し、かつ、絶対値が切り戻し操作時間の経過に伴って増加し、ピークを経た後に減少する速度パターンとすることが好ましい。言い換えれば、操作速度設定部22は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作速度を、絶対値が切り戻し操作時間に対して凸状となるような速度パターンとすることが好ましい。さらに言えば、操作速度設定部22は、図6に例示するように、切り戻し操作速度の速度パターンを、切り戻し操作速度の絶対値が最大値となるピーク時点tmaxが、切り戻し操作時間の開始時点t11と終了時点t12との間の中央部に位置する、いわゆる、ベル型曲線(Bell−Shaped Curve)の速度パターン(ベル型速度モデル)とすることがより好ましい。
【0058】
図6に例示するベル型曲線の速度パターンは、典型的には、いわゆる躍度(ジャーク)最小モデルに基づいた速度パターンである。このベル型曲線の速度パターンは、操舵操作等の運動における加速度の微分値である躍度が最小になる速度軌跡であり、人間が行っている滑らかな運動を理論的に表わした最適軌跡に相当する。躍度最小モデルにおいては、躍度の2乗を運動の開始から終了まで積分した量(評価関数)が最小になるような速度軌跡として、操舵操作等の運動を近似できる。この躍度最小モデルから得られる速度軌跡は、力の変化率がなるべく小さくなるような速度軌跡となり、力の変化がなるべく少ない滑らかな運動となる。このモデルから得られる速度パターン(速度軌跡)は、典型的には、速度が中点で最大となる上記のようなベル型曲線の速度パターンとなる。
【0059】
具体的には、操作速度設定部22は、切り戻し操作時間に対する切り戻し操作速度の速度パターンを、切り戻し操作時間の終了時点に切り戻し操作が完了し、かつ、下記に示す(A)〜(E)の5つの条件のうちの少なくとも1つの条件を満たすベル型曲線の速度パターンとすることが好ましい。

(A)切り戻し操作速度の絶対値の最大値以外の極大値と極小値との偏差が予め設定される第1所定値以下であること。

(B)切り戻し操作時間の開始時点から終了時点までの当該切り戻し操作時間と切り戻し操作速度とに基づいた操作量(操作移動量)が予め設定された第2所定値以上であること。

(C)上記操作量(操作移動量)が予め設定された所定範囲内であること。

(D)切り戻し操作速度の絶対値の最大値と切り戻し操作時間の開始時点又は終了時点での切り戻し操作速度の絶対値との偏差が予め設定された第3所定値以上であること。

(E)切り戻し操作速度の絶対値が最大値となるピーク時点が切り戻し操作時間の開始時点と終了時点との中間時点を含む予め設定された所定期間内に位置すること。

【0060】
図7に例示するように、条件(A)を満たす速度パターン50は、典型的には、第1所定値に応じた所定の深さを越える谷(ボトム)がない速度パターンとなる。言い換えれば、条件(A)を満たす速度パターン50は、極大値が2つある場合に、低い方の極大値に対して第1所定値に応じた所定比率Ca以下となる極小値(ボトム)が存在しない速度パターンとなる。第1所定値、あるいは、所定比率Caは、実車評価等に応じてハンドル戻し制御における切り戻し操作速度が滑らかな速度パターンとなるように予め設定しておけばよい。なお、図7中に示す速度パターン51は、切り戻し操作速度の絶対値の最大値以外の極大値と極小値との偏差が予め設定される第1所定値以下であること、という本条件(A)を満たさない速度パターンの一例を表している。
【0061】
図8に例示するように、条件(B)を満たす速度パターン52は、典型的には、切り戻し操作時間の開始時点から終了時点までの当該切り戻し操作時間と切り戻し操作速度とに基づいた操作量(操作移動量)、例えば、速度パターン波形の面積Sbが第2所定値に応じた閾値Cb以上となる速度パターンとなる。第2所定値、あるいは、閾値Cbは、実車評価等に応じてハンドル戻し制御における切り戻し操作速度が滑らかな速度パターンとなるように予め設定しておけばよい。
【0062】
図9に例示するように、条件(C)を満たす速度パターン53は、典型的には、速度パターン波形のピーク形状の鋭さが適正な鋭さである速度パターンとなる。条件(C)を満たす速度パターン53は、例えば、操作量(操作移動量)に相当する速度パターン波形の面積Scが予め設定された所定範囲に応じた下限値Ccminから上限値Ccmaxまでの範囲内である速度パターンである。また、さらに言い換えれば、条件(C)を満たす速度パターン53は、切り戻し操作時間の開始時点、終了時点、及び、切り戻し操作速度の絶対値の最大値に接するようにして形成される四角形Sに対して、操作量(操作移動量)に相当する速度パターン波形の面積Scが占める比率が、予め設定された所定範囲に応じた所定比率範囲内である速度パターンとなる。操作量(操作移動量)に対して設定される所定範囲、下限値Ccmin、上限値Ccmax、あるいは、所定比率範囲は、実車評価等に応じてハンドル戻し制御における切り戻し操作速度が滑らかな速度パターンとなるように予め設定しておけばよい。なお、図9中に示す速度パターン54は、面積Scが下限値Ccmin未満であり、本条件(C)を満たさない速度パターンの一例を表しており、この場合、速度パターン波形のピーク形状が鋭すぎる速度パターンとなる傾向にある。また、図9中に示す速度パターン55は、面積Scが上限値Ccmaxを超えて、本条件(C)を満たさない速度パターンの一例を表しており、この場合、速度パターン波形のピーク形状の鋭さが足りない速度パターンとなる傾向にある。
【0063】
図10に例示するように、条件(D)を満たす速度パターン56は、切り戻し操作時間の開始時点、終了時点での切り戻し操作速度の絶対値に対して、切り戻し操作速度の絶対値の最大値(ピーク)が十分に高い速度パターンとなる。条件(D)を満たす速度パターン56は、例えば、切り戻し操作時間の開始時点又は終了時点での切り戻し操作速度の絶対値のいずれか大きい方に対する切り戻し操作速度の絶対値の最大値の比率が、第3所定値に応じた所定比率Cd以上である速度パターンである。当該偏差に対して設定される第3所定値、あるいは、所定比率Cdは、実車評価等に応じてハンドル戻し制御における切り戻し操作速度が滑らかな速度パターンとなるように予め設定しておけばよい。
【0064】
図11に例示するように、条件(E)を満たす速度パターン57は、切り戻し操作速度の絶対値が最大値となるピーク時点が切り戻し操作時間の開始時点と終了時点との中央近傍に存在する速度パターンとなる。条件(E)を満たす速度パターン57は、例えば、切り戻し操作時間の開始時点を[0]、終了時点を[1]とした場合に、ピーク時点tmaxが[0.5]を中心とした所定期間Ce内に位置する速度パターンである。所定期間Ceは、実車評価等に応じてハンドル戻し制御における切り戻し操作速度が滑らかな速度パターンとなるように予め設定しておけばよい。なお、図11中に示す速度パターン58は、ピーク時点tmaxが所定期間Ceの外側に位置する速度パターンの一例を表している。
【0065】
切り戻し操作速度の速度パターンは、(A)〜(E)の5つの条件のうちの複数の条件を満たすパターンであることがより好ましい。操作速度設定部22は、切り戻し操作時間に対する切り戻し操作速度の速度パターンを、切り戻し操作時間の終了時点に切り戻し操作が完了し、かつ、上記に示す(A)〜(E)の5つの条件のすべてを満たすパターンとすることが最も好ましい。これにより、操作速度設定部22は、切り戻し操作速度の速度パターンを、切り戻し操作時間の終了時点に切り戻し操作が完了する速度パターンで、かつ、上記のような適切なベル型曲線の速度パターンとすることができる。
【0066】
したがって、操作速度設定部22は、上記のように切り戻し操作速度の速度パターン(速度軌跡)をベル型曲線の速度パターンとすることで、ハンドル戻し制御における切り戻し操作速度の速度パターンを、人間の動作特性に合った速度パターンとすることができる。すなわち、操作速度設定部22は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作速度の速度パターンを、切り戻し操作時間に応じて、切り戻し操作時間の終了時点に切り戻し操作が完了する速度パターンで、かつ、人間の動作特性に合わせてハンドル5を滑らかに中立位置側に戻すことができる速度パターンとすることができる。
【0067】
そして、EPS制御部23は、操作時間算出部21が算出した切り戻し操作時間と、操作速度設定部22が設定した切り戻し操作速度とに基づいて、EPS装置9を制御するものである。EPS制御部23は、操作時間算出部21が算出した切り戻し操作時間と、操作速度設定部22が設定した切り戻し操作速度とに基づいて、モータ13への目標の供給電流(アシスト電流)を算出する。モータ13への目標の供給電流は、上記のようにして算出、設定した切り戻し操作時間及び切り戻し操作速度を実現できる値に設定される。そして、EPS制御部23は、算出した目標の供給電流に基づいてモータ13に電流を供給して、ハンドル戻し制御を実行する。これにより、EPS装置9は、切り戻し操作時間の終了時点に切り戻し操作が完了し、かつ、そのときの切り戻し操作速度の速度パターンがベル型曲線の速度パターンとなるハンドル戻しトルクを発生させる。
【0068】
判定部24は、操舵装置1での制御における種々の判定を行うものである。
【0069】
次に、図12のフローチャートを参照してEPS制御装置11による制御の一例を説明する。なお、これらの制御ルーチンは、数百μsないし数十ms毎の制御周期で繰り返し実行される(以下、同様。)。
【0070】
まず、EPS制御装置11の判定部24は、状態検出装置10による種々の検出結果に基づいて、ハンドル切り戻し操作判定を行い、運転者によってハンドル5の切り戻し操作が行われたか否かを判定する(ST1)。判定部24は、例えば、トルクセンサ15が検出する操舵トルクTと、操舵角度センサ16が検出した操舵角度の微分値に相当する操舵速度ωとに基づいて、運転者によるハンドル5の切り戻し操作を判定することができる。典型的には、判定部24は、T×ω<0(|ω|≧予め設定された所定値)を満たす場合に、運転者によってハンドル5の切り戻し操作が行われたと判定することができる。なお、判定部24は、これに限らず、操舵角度センサ16が検出した操舵角度θに基づいてハンドル切り戻し操作判定を行ってもよい。この場合、判定部24は、操舵角度θの絶対値が増加、あるいは一定に保持された状態から減少に転じた場合(つまり、操舵速度ωの正負が反転した場合)に、運転者によってハンドル5の切り戻し操作が行われたと判定することができる。
【0071】
EPS制御装置11は、判定部24によって、ハンドル5の切り戻し操作が行われていないと判定された場合(ST1:No)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0072】
EPS制御装置11の操作時間算出部21は、判定部24によって、ハンドル5の切り戻し操作が行われたと判定された場合(ST1:Yes)、操舵角度センサ16が検出した操舵角度に基づいて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を算出する(ST2)。操作時間算出部21は、フィッツ(Fitts)の法則式を表す数式(1)を用いて、切り込み操作の終了時点の操舵角度、又は、切り込み操作に対応する切り戻し操作の開始時点の操舵角度に基づいて、切り戻し操作時間を算出する。
【0073】
次に、EPS制御装置11の操作速度設定部22は、ST2で操作時間算出部21が算出した切り戻し操作時間に基づいて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作速度の速度パターンを、切り戻し操作時間の終了時点に切り戻し操作が完了する速度パターンで、かつ、ベル型曲線の速度パターンとし、これをベル型目標速度として算出する(ST3)。
【0074】
そして、EPS制御装置11のEPS制御部23は、ハンドル切り戻し操作速度アシスト演算として、ST2で操作時間算出部21が算出した切り戻し操作時間と、ST3で操作速度設定部22が算出したベル型目標速度とに基づいて、モータ13への目標の供給電流(アシスト電流)を算出し、算出した目標の供給電流に基づいてモータ13に電流を供給し(ST4)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0075】
次に、図13、図14のタイムチャートを参照して操舵装置1の動作の一例を説明する。なお、図13は、横軸を時間軸、縦軸を操舵角度(中立位置からの操作量)としている。図14は、横軸を時間軸、縦軸を切り戻し操作速度としている。
【0076】
例えば、図13の実線L11は、時点t21から時点t22までの切り込み操作時間T11で運転者によってハンドル5の切り込み操作が行われた後、操舵角度が一定で保持され、その後、時点t23にてハンドル5の切り戻し操作が開始された場合を例示している。この場合、上記のように構成される操舵装置1は、EPS制御装置11(操作時間算出部21)が切り込み操作の終了時点t22、又は、切り戻し操作の開始時点t23の操舵角度D1に応じて、上記のようにフィッツの法則式を表す数式(1)を用いて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間T12を算出する。この場合のハンドル戻し制御における切り戻し操作時間T12は、時点t23から時点24までの期間である。
【0077】
一方、例えば、図13の一点鎖線L12は、時点t21から時点t22までの切り込み操作時間T11で運転者によってハンドル5の切り込み操作が行われた後、さらなる切り増し操作が時点t23まで行われ、その後、時点t23にてハンドル5の切り戻し操作が開始された場合を例示している。この場合、上記のように構成される操舵装置1は、EPS制御装置11(操作時間算出部21)が切り込み操作の終了時点であり、かつ、切り戻し操作の開始時点でもあるt23の操舵角度D2に応じて、上記のようにフィッツの法則式を表す数式(1)を用いて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間T13を算出する。この場合のハンドル戻し制御における切り戻し操作時間T13は、時点t23から時点25までの期間であり、切り戻し操作時間T12より長い期間である。
【0078】
この結果、本実施形態の操舵装置1は、ハンドル5の操舵角度に応じて、ハンドル戻し制御を実行する際の切り戻し操作時間を、人間の動作特性に合わせた時間に適切に変更、決定することができる。そして、操舵装置1は、EPS制御装置11が、ハンドル5の操舵角度に応じて変更された切り戻し操作時間に基づいて、この切り戻し操作時間の終了時点でハンドル5の中立位置に応じた目標戻し位置への切り戻し操作を完了させる。
【0079】
したがって、操舵装置1は、図14中に実線L21に例示すように、例えば、ハンドル5の操舵角度に応じて人間の動作特性に合わせて変更した時点t31から時点t32までの切り戻し操作時間T21にてハンドル戻し制御を行うことができる。よって、操舵装置1は、例えば、図14中に点線L22に例示すように、ハンドル5の操舵角度に応じて切り戻し操作時間を設定せずに、単純に固定的に設定された切り戻し操作速度でハンドル戻し制御を行うような場合と比較して、運転者の感覚に対して不自然にハンドル戻し制御が長く行われてしまったり(点線L22では時点t33までハンドル戻し制御が行われている。)、逆に不自然にハンドル戻し制御が短くなったりすることを防止することができ、これにより、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0080】
そしてこのとき、操舵装置1は、図14中に実線L21に例示すように、EPS制御装置11(操作速度設定部22)が切り戻し操作時間T21に対する切り戻し操作速度の速度パターンを、切り戻し操作時間の終了時点に切り戻し操作が完了する速度パターンで、かつ、ベル型曲線の速度パターンとする。これにより、操舵装置1は、切り戻し操作時間の終了時点に切り戻し操作が完了する速度パターンで、かつ、人間の動作特性に合わせてハンドル5を滑らかに中立位置側に戻すことができる速度パターンでハンドル戻し制御を行うことができる。よって、操舵装置1は、例えば、図14中に一点鎖線L23に例示すように、切り戻し操作における切り戻し操作速度が、運転者の感覚に対して急すぎたり、逆に遅すぎたりして不自然になることを抑制することができ、これにより、操舵フィーリングをさらに向上させることができる。
【0081】
つまり、上記の操舵装置1は、人間の動作特性にあった切り戻し操作時間、及び、切り戻し操作速度で、運転者のハンドル5の切り戻し操作を補助することができ、切り込み操作の際の操舵角度に応じた操舵フィーリングとすることができる。より具体的には、本実施形態の操舵装置1は、フィッツの法則に沿ったベル型速度モデルでハンドル戻し制御を行うことができ、操舵フィーリングを良好にすることができる。
【0082】
また、操舵装置1は、切り戻し操作が中断された後、切り戻し操作が再開された際には、EPS制御装置11(操作時間算出部21)がこの再開された切り戻し操作の開始時点の操舵角度に基づいて、フィッツの法則式を表す数式(1)を用いて、切り戻し操作時間を算出する。よって、この操舵装置1は、一旦中断された後に再開された切り戻し操作に対しても、人間の動作特性にあった切り戻し操作時間、及び、切り戻し操作速度で、運転者のハンドル5の切り戻し操作を補助することができ、操舵フィーリングを良好にすることができる。
【0083】
以上で説明した実施形態に係る操舵装置1によれば、車両2に設けられ操舵操作が可能であるハンドル5と、ハンドル5に対する操舵操作を補助するEPS装置9と、EPS装置9を制御し、ハンドル5の中立位置側からの切り込み操作に対応した当該ハンドル5の中立位置側への切り戻し操作を補助するハンドル戻し制御(戻し操作補助制御)を実行可能であり、切り込み操作の際のハンドル5の操舵角度に応じて、このハンドル戻し制御を実行する際の切り戻し操作時間を決定するEPS制御装置11とを備える。したがって、操舵装置1、EPS制御装置11は、切り込み操作の際の操舵角度に応じて人間の動作特性にあったハンドル戻し制御を行うことができるので、人間の動作特性(操舵リズム)にのっとって運転者のハンドル5の切り戻し操作を補助することができ、これにより、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0084】
[実施形態2]
図15は、実施形態2に係るEPS制御装置の概略構成を示す模式的ブロック図、図16は、実施形態2に係る切り戻し操作時間に関連してフィッツの法則関連式における切り戻し操作時間と操舵角度と運転状態係数との関係の一例を表す線図、図17は、実施形態2に係る抽出部によって抽出される単位挙動の一例を表す線図、図18は、実施形態2に係るEPS制御装置による制御の一例を説明するフローチャートである。実施形態2に係る操舵装置、操舵制御装置は、切り戻し操作時間が切り込み操作の切り込み操作時間に基づいて変更される点で実施形態1とは異なる。その他、上述した実施形態と共通する構成、作用、効果については、重複した説明はできるだけ省略するとともに、同一の符号を付す(以下で説明する実施形態も同様である。)。
【0085】
図15に示す本実施形態の操舵装置201は、操舵制御装置としてのEPS制御装置211を備える。本実施形態のEPS制御装置211は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を、対応する切り込み操作の切り込み操作時間に基づいて変更する。
【0086】
ここで、上述したフィッツの法則式は、運転者の運転状態に応じて変わる傾向にある。一定の操作量(操作距離)に対する操作時間(到達時間)は、例えば、運転者が素早く操作を行った場合には相対的に短くなる傾向にある。一方、一定の操作量に対する操作時間は、運転者がゆっくり操作を行った場合には相対的に長くなる傾向にある。そして、フィッツの法則においては、運転者の運転状態がほぼ同等である場合、操作量と操作時間との関係は、概ね運転者の運転状態に応じた特定のフィッツの法則関連式によって定まる傾向にある。
【0087】
このフィッツの法則関連式は、例えば、操作点を目標点に移動するために必要な到達時間t、開始点から目標点までの操作距離D、運転者の運転状態に応じた運転状態係数aとの関数を用いて、数式(2)で表すことができる。数式(2)において、「X」は、実車評価等に応じて定まる適合値である。また、運転状態係数aは、運転者の運転状態が相対的に素早い操作をする状態にある場合に相対的に小さくなり、運転者の運転状態が相対的に遅い操作をする状態にある場合に相対的に大きくなる。
【0088】
【数2】

【0089】
本実施形態の操舵装置201におけるハンドル戻し制御に、上記フィッツの法則関連式を適用する場合、フィッツの法則式を適用する場合と同様に、切り戻し操作時間が到達時間tに相当し、ハンドル5の中立位置(目標点)からの操作量に相当する操舵角度が操作距離Dに相当する。
【0090】
図16は、数式(2)のフィッツの法則関連式で定まる[切り戻し操作時間(≒到達時間)]と[操舵角度≒操作距離(中立位置からの操作量)]と[運転状態係数a]との関係の一例を表している。この図16に示すように、[切り戻し操作時間]は、[操舵角度]の増加に伴って長くなると共に、[運転状態係数a]の増加に伴って長くなる。したがって、切り戻し操作時間は、運転者の運転状態が相対的に素早い操作をする状態にある場合に短くなり、運転者の運転状態が相対的に遅い操作をする状態にある場合に相対的に長くなる。
【0091】
EPS制御装置211は、ハンドル戻し制御を行う際の運転者の運転状態に応じてフィッツの法則関連式を選択し、選択したフィッツの法則関連式に基づいて、操舵角度から切り戻し操作時間を算出する。そしてここでは、EPS制御装置211は、ハンドル戻し制御を行う際の運転者の運転状態として、ハンドル戻し制御の制御対象となる切り戻し操作に対応する運転者の切り込み操作に基づいた運転者の運転状態に応じて、切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式を選択する。なお、上記フィッツの法則関連式は、例えば、数式(2)に示したような数式モデルや図16に示したようなマップ形式で記憶部19に予め記憶されている。
【0092】
具体的には、EPS制御装置211は、処理部18に機能概念的に、操作時間算出部21と、操作速度設定部22と、EPS制御部23と、判定部24とに加えて、さらに抽出部225と、選択部226とが設けられる。
【0093】
抽出部225は、切り戻し操作前の切り込み操作中の切り込み操作速度の速度パターンから、上述のベル型曲線の速度パターンに適合するものを抽出するものである。ベル型曲線の速度パターンは、一定のリズムで1つの操作を終わらせる場合の速度パターンに相当する。逆に言えば、通常、操作速度の速度パターンは、運転者が一定の操作リズム、言い換えれば、一定の運転状態で操作を行った場合にはベル型曲線の速度パターンになる一方、何らかの外乱要因等で操作リズムが瞬時的に変化した場合には、ベル型が崩れて、非ベル型曲線の速度パターンとなる傾向にある。このときの非ベル型曲線の速度パターンは、外乱要因等が影響したものであるため、運転者の運転状態が正確に反映されている速度パターンとはいえない傾向にある。
【0094】
ここでは、抽出部225は、切り込み操作中の切り込み操作速度の速度パターンから非ベル型曲線の速度パターンを切り分けて、ベル型曲線の速度パターンをなす切り込み操作速度の速度パターンを抽出することで上記のような外乱要因を排除する。そして、このEPS制御装置211は、後述するように、抽出部225が切り込み操作中の切り込み操作速度の速度パターンから抽出したベル型曲線の速度パターンにおける運転者の運転状態に応じて、ハンドル戻し制御を行う。
【0095】
具体的には、抽出部225は、まず、運転者の切り込み操作を1つの動作に応じた単位挙動に区切る。抽出部225は、切り込み操作における切り込み操作速度の速度パターンの波形の区切りを認識し、切り込み操作における単位挙動を検出する。運転者の運転操作は、典型的には、上述で説明したようにベル型曲線の速度パターンを有する単位挙動が組み合わされて構成され、各挙動の時間は、運転者の運転状態に応じたフィッツの法則関連式にのっとった基本的な操作リズム(操舵リズム)に従う傾向にある。
【0096】
ここでは、抽出部225は、切り込み操作における単位挙動を検出するための区切り認識の条件として、例えば、切り込み操作速度やその絶対値、切り込み操作速度の速度パターンの波形等に基づいた種々の条件を用いて、切り込み操作速度の速度パターンの波形の区切りを認識し、切り込み操作速度の速度パターンから自動で切り込み操作における単位挙動を検出すればよい。
【0097】
そして、抽出部225は、切り込み操作速度の速度パターンの波形の区切りを認識し、検出した単位挙動における切り込み操作速度の速度パターンが、ベル型曲線の速度パターンの適合条件を満たすか否かを判定し、ベル型曲線の速度パターンに沿っているかを判定する。ベル型曲線の速度パターンとしての適合条件は、上記で説明した(A)〜(E)の5つの条件を応用して用いればよい。ただしこの場合、切り戻し操作にかえて切り込み操作に適用する。抽出部225は、単位挙動における切り込み操作速度の速度パターンが、(A)〜(E)の5つの条件のうちの少なくとも1つの条件を満たした場合、好ましくは複数の条件を満たした場合、最も好ましくは5つの条件のすべてを満たした場合に、ベル型曲線の速度パターンに沿っているものと判定する。そして、抽出部225は、切り込み操作中の切り込み操作速度の速度パターンから、このベル型曲線の速度パターンに適合した単位挙動における切り込み操作速度の速度パターンを抽出する。
【0098】
この場合、抽出部225は、(A)〜(E)の条件の判定に必要となる操作速度の速度パターンの波形形状情報(例えば、波形の開始点、ピーク高さ、ピーク位置、ボトムの有無等)を常時更新するようにしておくと効率的である。また、抽出部225は、切り込み操作時間の開始時点から終了時点までの当該切り込み操作時間と切り込み操作速度とに基づいた操作量(操作移動量)を速度パターン波形の面積を積分計算することによって算出すればよい。なお、抽出部225は、これに限らず、操作変位のデータ、典型的には、操舵角度センサ16が検出した操舵角度(中立位置からの操作量)に基づいて、操作の開始時点での操舵角度と終了時点での操舵角度との差を計算することによって上記操作量(操作移動量)を算出してもよい。
【0099】
図17は、抽出部225によって、操作速度の速度パターンから抽出された単位挙動の一例を表す線図である。図17は横軸を時間軸、縦軸を操舵角度(中立位置からの操作量)、操作速度としている。本図中、太線部分は区切りとして認識された点を表している。
【0100】
図17の例では、切込み操作における単位挙動として、断続的に4回のベル型曲線の速度パターンの単位挙動A1、A2、A3、A4が検出され、その後に、この切込み操作に対応する切り戻し操作における単位挙動として、断続的に3回のベル型曲線の速度パターンの単位挙動B1、B2,B3が検出されている。上記のように抽出された単位挙動における切り込み操作速度の速度パターンは、ベル型曲線の速度パターンであり、したがって、各単位挙動の操作速度と操舵角度(中立位置からの操作量)との関係は、運転状態に応じた特定のフィッツの法則関連式にのっとった関係となっている。
【0101】
次に、選択部226は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式を選択するものである。選択部226は、抽出部225によって切り込み操作から抽出された単位挙動におけるベル型曲線の速度パターン(以下、単に「抽出ベル型速度パターン」という場合がある。)にあらわれる運転者の運転状態に応じたフィッツの法則関連式(あるいはこれに応じたマップ、以下同様。)を選択することで、以降で行われるハンドル戻し制御に運転者の運転状態を反映させる。
【0102】
より具体的に言えば、選択部226は、切り戻し操作がなされる直前の最後の切り込み操作の単位挙動(例えば図17の例で言えば単位挙動A4)における抽出ベル型速度パターンに基づいて、運転状態に応じたフィッツの法則関連式を選択する。
【0103】
選択部226は、抽出部225によって抽出された抽出ベル型速度パターンそのものを用いてもよいが、ここでは、抽出された抽出ベル型速度パターンに近い基準ベル型速度パターンを用いる。選択部226は、記憶部19に記憶されている複数種類の基準ベル型速度パターンの中から、波形の幅やピーク等に応じて、抽出ベル型速度パターンと一致度が高い基準ベル型速度パターンを選択する。これにより、選択部226は、運転者の運転状態に応じたフィッツの法則関連式の選択に際して、さらに外乱要因等の影響を抑制することができる。
【0104】
選択部226は、選択した基準ベル型速度パターンから基準切り込み操作時間、及び、基準操作量を算出する。基準切り込み操作時間は、基準ベル型速度パターンの横軸の長さ、すなわち、基準ベル型速度パターンに応じた操作の開始時点から終了時点までの時間に相当する。この基準切り込み操作時間は、切り戻し操作がなされる直前の最後の切り込み操作の単位挙動における切り込み操作時間に応じた時間となる。基準操作量は、基準ベル型速度パターン波形の面積(基準切り込み操作速度を基準切り込み操作時間で積分した値)に相当する。ここで算出された基準切り込み操作時間と基準操作量との関係は、基本的には運転者の運転状態に応じた特定のフィッツの法則関連式にのっとった関係となっている。
【0105】
選択部226は、算出した基準切り込み操作時間と基準操作量とを、人間の操作リズムに応じた数式(2)に示したフィッツの法則関連式に当てはめることで、例えば、数式(2)に示したフィッツの法則関連式を用いて基準切り込み操作時間と基準操作量とから運転状態係数aを算出する。そして、選択部226は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式として、算出した運転状態係数aに応じたフィッツの法則関連式を選択する。このようにして選択されたフィッツの法則関連式は、切り戻し操作がなされる直前の最後の切り込み操作の切り込み操作時間に応じた式であり、さらに言えば、最後の切り込み操作の際の運転者の運転状態に応じた式となる。言い換えれば、選択部226は、切り戻し操作がなされる直前の最後の切り込み操作の切り込み操作時間、さらに言えば、最後の切り込み操作の際の運転者の運転状態に応じて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式を切り替えることができる。
【0106】
操作時間算出部21は、選択部226が選択したフィッツの法則関連式を用いて、切り込み操作の終了時点の操舵角度、又は、切り込み操作に対応する切り戻し操作の開始時点の操舵角度に基づいて、切り戻し操作時間を算出し、これをハンドル戻し制御に用いる切り戻し操作時間に決定する。操作速度設定部22は、操作時間算出部21が算出した切り戻し操作時間に基づいて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作速度の速度パターンを、切り戻し操作時間の終了時点に切り戻し操作が完了する速度パターンで、かつ、ベル型曲線の速度パターンとして設定する。そして、EPS制御部23は、操作時間算出部21が算出した切り戻し操作時間と、操作速度設定部22が設定した切り戻し操作速度の速度パターンとに基づいて、モータ13への目標の供給電流(アシスト電流)を算出し、算出した目標の供給電流に基づいてモータ13に電流を供給して、ハンドル戻し制御を実行する。
【0107】
次に、図18のフローチャートを参照してEPS制御装置211による制御の一例を説明する。
【0108】
まず、EPS制御装置211の抽出部225は、操舵角度センサ16が検出した操舵角度の微分値に相当する切り込み操作速度(操舵速度)を読み込む(ST31)。
【0109】
次に、抽出部225は、種々の条件を用いて切り込み操作速度の速度パターンの波形の区切りを認識し、切り込み操作速度の速度パターンから自動で切り込み操作における単位挙動を検出し、ベル型速度パターン可否判定を行い、切り込み操作の単位挙動における切り込み操作速度の速度パターンがベル型曲線の速度パターンの適合条件を満たすか否かを判定する(ST32)。抽出部225は、切り込み操作の単位挙動における切り込み操作速度の速度パターンがベル型曲線の速度パターンの適合条件を満たさないと判定した場合(ST32:No)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0110】
抽出部225は、ベル型速度パターン可否判定にて、切り込み操作の単位挙動における切り込み操作速度の速度パターンがベル型曲線の速度パターンの適合条件を満たすと判定した場合(ST32:Yes)、切り込み操作中の切り込み操作速度の速度パターンから、このベル型曲線の速度パターンに適合した単位挙動における切り込み操作速度の速度パターンを抽出する。そして、EPS制御装置211の選択部226は、抽出された抽出ベル型速度パターンに近い基準ベル型速度パターンを選択する(ST33)。
【0111】
次に、選択部226は、選択した基準ベル型速度パターンから基準切り込み操作時間、及び、基準操作量を算出する(ST34)。
【0112】
そして、選択部226は、算出した基準切り込み操作時間と基準操作量とから運転状態係数aを算出して、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式として、算出した運転状態係数aに応じたフィッツの法則関連式を選択する(ST35)。
【0113】
次に、EPS制御装置211の操作時間算出部21は、操舵角度センサ16が検出した操舵角度に基づいて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を算出する(ST36)。操作時間算出部21は、選択部226が選択したフィッツの法則関連式を用いて、切り込み操作の終了時点の操舵角度、又は、切り込み操作に対応する切り戻し操作の開始時点の操舵角度に基づいて、切り戻し操作時間を算出する。
【0114】
次に、EPS制御装置211の操作速度設定部22は、ST36で操作時間算出部21が算出した切り戻し操作時間に基づいて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作速度の速度パターンを、切り戻し操作時間の終了時点に切り戻し操作が完了する速度パターンで、かつ、ベル型曲線の速度パターンとし、これをベル型目標速度として算出する(ST37)。
【0115】
次に、EPS制御装置211の判定部24は、状態検出装置10による種々の検出結果に基づいて、ハンドル切り戻し操作判定を行い、運転者によってハンドル5の切り戻し操作が行われたか否かを判定する(ST38)。EPS制御装置211は、判定部24によって、ハンドル5の切り戻し操作が行われていないと判定された場合(ST38:No)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0116】
EPS制御装置211のEPS制御部23は、判定部24によって、ハンドル5の切り戻し操作が行われたと判定された場合(ST38:Yes)、ハンドル切り戻し操作速度アシスト演算として、ST36で操作時間算出部21が算出した切り戻し操作時間と、ST37で操作速度設定部22が算出したベル型目標速度とに基づいて、モータ13への目標の供給電流(アシスト電流)を算出し、算出した目標の供給電流に基づいてモータ13に電流を供給し(ST39)、現在の制御周期を終了し、次の制御周期に移行する。
【0117】
上記のように構成された操舵装置201は、切り戻し操作がなされる前の切り込み操作の切り込み操作時間(ここでは、切り込み操作時間に応じた基準切り込み操作時間)に基づいて、切り込み操作での運転者の運転状態に応じて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式を選択し、選択したフィッツの法則関連式を用いて切り戻し操作時間を算出する。これにより、操舵装置201は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を、切り込み操作の切り込み操作時間に基づいて変更することができる。この結果、操舵装置201は、切り戻し操作がなされる前の切り込み操作の際の運転者の運転状態にのっとって運転者のハンドル5の切り戻し操作を補助することができる。これにより、例えば、操舵装置201は、運転者が比較的に素早く切り込み操作を行って切り込み操作速度が比較的に速かった場合には、切り戻し操作速度を比較的に高くし、運転者のハンドル5の切り戻し操作も同じように比較的に素早い操作となるように補助することができる。また逆に、操舵装置201は、運転者が比較的にゆっくりと切り込み操作を行って切り込み操作速度が比較的に遅かった場合には、切り戻し操作速度を比較的に低くし、運転者のハンドル5の切り戻し操作も同じように比較的にゆっくりとした操作となるように補助することができる。例えば、操舵装置201は、切り込み操作時間が短く、切り込み操作速度が高い場合には、素早く中立位置に戻るように運転者のハンドル5の切り戻し操作をアシストできる一方、切り込み操作時間が長く、切り込み操作速度が低い場合には、ゆっくりと中立位置に戻るように運転者のハンドル5の切り戻し操作をアシストすることができる。
【0118】
また、操舵装置201は、切り戻し操作が中断された後、切り戻し操作が再開された際には、EPS制御装置211(操作時間算出部21)が上記のようにして選択されたフィッツの法則関連式を継続して用いて、再開された切り戻し操作の開始時点の操舵角度に基づいて、切り戻し操作時間を算出する。よって、この操舵装置201は、一旦中断された後に再開された切り戻し操作に対しても、切り込み操作の際の運転者の運転状態にあった切り戻し操作時間、及び、切り戻し操作速度で、運転者のハンドル5の切り戻し操作を補助することができ、操舵フィーリングを良好にすることができる。
【0119】
以上で説明した実施形態に係る操舵装置201、EPS制御装置211は、切り込み操作の際の操舵角度に応じて人間の動作特性にあったハンドル戻し制御を行うことができるので、人間の動作特性(操舵リズム)にのっとって運転者のハンドル5の切り戻し操作を補助することができ、これにより、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0120】
そして、以上で説明した実施形態に係る操舵装置201、EPS制御装置211によれば、切り戻し操作時間は、切り込み操作の切り込み操作時間に基づいて変更される。したがって、この操舵装置201、EPS制御装置211は、切り戻し操作がなされる前の切り込み操作の際の運転者の運転状態にのっとって運転者のハンドル5の切り戻し操作を補助することができ、これにより、操舵フィーリングをさらに向上させることができる。
【0121】
[実施形態3]
図19は、実施形態3に係るEPS制御装置の概略構成を示す模式的ブロック図、図20は、実施形態3に係る切り戻し操作時間に関連してフィッツの法則関連式における切り戻し操作時間と操舵角度と車速係数との関係の一例を表す線図、図21は、実施形態3に係るEPS制御装置による制御の一例を説明するフローチャートである。実施形態3に係る操舵装置、操舵制御装置は、切り戻し操作時間が車両の車速に基づいて変更される点で実施形態1、2とは異なる。
【0122】
図19に示す本実施形態の操舵装置301は、操舵制御装置としてのEPS制御装置311を備える。本実施形態のEPS制御装置311は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を、車両2の車速に基づいて変更する。
【0123】
本実施形態の操舵装置301は、下記の数式(3)で表すフィッツの法則関連式を用いてハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を算出する。数式(3)において、「t」は操作点を目標点に移動するために必要な到達時間、「D」は開始点から目標点までの操作距離、「X」は、実車評価等に応じて定まる適合値、「b」は車速に応じた車速係数である。車速係数bは、車両2の車速が相対的に高い場合に相対的に小さくなり、車両2の車速が相対的に低い場合に相対的に大きくなる。なお、この車速係数bは、上述の運転者の運転状態、あるいは、運転状態係数aとも相関しており、この運転状態係数aと連動するパラメータ、あるいは、運転状態係数aの代替的なパラメータとしてみることもできる。例えば、この車速係数bが相対的に小さい場合(すなわち、車両2の車速が相対的に高い場合)には運転者が相対的に素早い操作をする運転状態である傾向にあり、この車速係数bが相対的に大きい場合(すなわち、車両2の車速が相対的に低い場合)には運転者が相対的に遅い操作をする運転状態である傾向にある。
【0124】
【数3】

【0125】
本実施形態の操舵装置301におけるハンドル戻し制御に、上記フィッツの法則関連式を適用する場合、フィッツの法則式を適用する場合と同様に、切り戻し操作時間が到達時間tに相当し、ハンドル5の中立位置(目標点)からの操作量に相当する操舵角度が操作距離Dに相当する。
【0126】
図20は、数式(3)のフィッツの法則関連式で定まる[切り戻し操作時間(≒到達時間)]と[操舵角度≒操作距離(中立位置からの操作量)]と[車速係数b]との関係の一例を表している。この図20に示すように、[切り戻し操作時間]は、[操舵角度]の増加に伴って長くなると共に、[車速係数b]の増加に伴って長くなる。したがって、切り戻し操作時間は、車速が相対的に高い場合に短くなり、車速が相対的に低い場合に相対的に長くなる。
【0127】
EPS制御装置311は、ハンドル戻し制御を行う際の車速に応じてフィッツの法則関連式を選択し、選択したフィッツの法則関連式に基づいて、操舵角度から切り戻し操作時間を算出する。なお、上記フィッツの法則関連式は、例えば、数式(3)に示したような数式モデルや図20に示したようなマップ形式で記憶部19に予め記憶されている。
【0128】
具体的には、EPS制御装置311は、処理部18に機能概念的に、操作時間算出部21と、操作速度設定部22と、EPS制御部23と、判定部24とに加えて、さらに車速読込部325と、選択部326とが設けられる。
【0129】
車速読込部325は、車速センサ17が検出した車両2の車速を読み込むものである。
【0130】
選択部326は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式を選択するものである。選択部326は、車速読込部325が読み込んだ車両2の車速に応じてフィッツの法則関連式(あるいはこれに応じたマップ、以下同様。)を選択することで、以降で行われるハンドル戻し制御に車両2の車速を反映させる。
【0131】
より具体的に言えば、選択部326は、例えば、車両2の車速に所定の係数を乗算して、当該車速に応じた車速係数bを算出する。そして、選択部326は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式として、算出した車速係数bに応じたフィッツの法則関連式を選択する。このようにして選択されたフィッツの法則関連式は、車両2の車速に応じた式となる。言い換えれば、選択部326は、車両2の車速に応じてハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式を切り替えることができる。
【0132】
操作時間算出部21は、選択部326が選択したフィッツの法則関連式を用いて、切り込み操作の終了時点の操舵角度、又は、切り込み操作に対応する切り戻し操作の開始時点の操舵角度に基づいて、切り戻し操作時間を算出し、これをハンドル戻し制御に用いる切り戻し操作時間に決定する。操作速度設定部22は、操作時間算出部21が算出した切り戻し操作時間に基づいて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作速度の速度パターンを、切り戻し操作時間の終了時点に切り戻し操作が完了する速度パターンで、かつ、ベル型曲線の速度パターンとして設定する。そして、EPS制御部23は、操作時間算出部21が算出した切り戻し操作時間と、操作速度設定部22が設定した切り戻し操作速度の速度パターンとに基づいて、モータ13への目標の供給電流(アシスト電流)を算出し、算出した目標の供給電流に基づいてモータ13に電流を供給して、ハンドル戻し制御を実行する。
【0133】
次に、図21のフローチャートを参照してEPS制御装置311による制御の一例を説明する。
【0134】
まず、EPS制御装置311の車速読込部325は、車速センサ17が検出した車両2の車速を読み込む(ST41)。
【0135】
そして、選択部326は、車速読込部325が読み込んだ車速に基づいて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式として、車速に応じたフィッツの法則関連式を選択する(ST42)。
【0136】
次に、EPS制御装置311の操作時間算出部21は、操舵角度センサ16が検出した操舵角度に基づいて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を算出する(ST36)。操作時間算出部21は、選択部326が選択したフィッツの法則関連式を用いて、切り込み操作の終了時点の操舵角度、又は、切り込み操作に対応する切り戻し操作の開始時点の操舵角度に基づいて、切り戻し操作時間を算出する。以降の処理は、上述の実施形態で説明したST37からST39の処理と同様の処理であるので、説明を省略する。
【0137】
上記のように構成された操舵装置301は、車両2の車速に応じて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式を選択し、選択したフィッツの法則関連式を用いて切り戻し操作時間を算出する。これにより、操舵装置301は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を車両2の車速に基づいて変更することができる。この結果、操舵装置301は、車両2の車速に応じた人間の動作特性にのっとって運転者のハンドル5の切り戻し操作を補助することができる。これにより、例えば、操舵装置301は、車速が相対的に高い場合(例えば、運転者が相対的に素早い操作をする運転状態である傾向にある場合)には、切り戻し操作速度を比較的に高くし、運転者のハンドル5の切り戻し操作を、比較的に素早い操作となるように補助することができる。また逆に、操舵装置301は、車速が相対的に低い場合(例えば、運転者が相対的に遅い操作をする運転状態である傾向にある場合)には、切り戻し操作速度を比較的に低くし、運転者のハンドル5の切り戻し操作を、比較的にゆっくりとした操作となるように補助することができる。つまり、操舵装置301は、車速が高い場合には、素早く中立位置に戻るように運転者のハンドル5の切り戻し操作をアシストできる一方、車速が低い場合には、ゆっくりと中立位置に戻るように運転者のハンドル5の切り戻し操作をアシストすることができる。
【0138】
以上で説明した実施形態に係る操舵装置301、EPS制御装置311は、切り込み操作の際の操舵角度に応じて人間の動作特性にあったハンドル戻し制御を行うことができるので、人間の動作特性(操舵リズム)にのっとって運転者のハンドル5の切り戻し操作を補助することができ、これにより、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0139】
そして、以上で説明した実施形態に係る操舵装置301、EPS制御装置311によれば、切り戻し操作時間は、車両2の車速に基づいて変更される。したがって、この操舵装置301、EPS制御装置311は、車両2の車速に応じた人間の動作特性にのっとって運転者のハンドル5の切り戻し操作を補助することができ、これにより、操舵フィーリングをさらに向上させることができる。
【0140】
[実施形態4]
図22は、実施形態4に係るEPS制御装置の概略構成を示す模式的ブロック図、図23は、実施形態4に係る切り戻し操作時間に関連してフィッツの法則関連式における切り戻し操作時間と操舵角度とSPI係数との関係の一例を表す線図、図24は、実施形態4に係るEPS制御装置による制御の一例を説明するフローチャートである。実施形態4に係る操舵装置、操舵制御装置は、切り戻し操作時間が車両の走行状態に基づいて変更される点で実施形態1、2、3とは異なる。
【0141】
図22に示す本実施形態の操舵装置401は、操舵制御装置としてのEPS制御装置411を備える。本実施形態のEPS制御装置411は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を、車両2の走行状態に基づいて変更する。本実施形態のEPS制御装置411は、車両2の走行状態に応じて変化するパラメータとして、運転者意図の汲み取り指標であるスポーツ度SPIに基づいて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を変更する。
【0142】
ここで、スポーツ度SPIは、車両2の走行状態を表す指標であり、例えば、車両2の車体に作用する複数方向の加速度から定まる合成加速度(合力加速度)に応じた指標である。スポーツ度SPIは、合成加速度が大きくなるほど大きな値になる。すなわち、ここでの車両2の走行状態は、車両2の前後加速度、横加速度、ヨーイングやローリングの加速度、あるいはこれらを合成した加速度で表される状態である。例えば、車両2を目標とする速度で走行させたり、目標とする方向に進行させたりすることにより、あるいは路面などの走行環境の影響を受けて車両2の挙動を元の状態に戻したりする場合に、車両2の車体に複数方向の加速度が生じるのが一般的であることから、ここでのスポーツ度SPIは、走行環境や運転指向をある程度反映していると考えられる。
【0143】
本実施形態の操舵装置401は、下記の数式(4)で表すフィッツの法則関連式を用いてハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を算出する。数式(4)において、「t」は操作点を目標点に移動するために必要な到達時間、「D」は開始点から目標点までの操作距離、「X」は、実車評価等に応じて定まる適合値、「c」はスポーツ度SPIに応じたSPI係数である。SPI係数cは、スポーツ度SPIが相対的に大きい場合に相対的に小さくなり、スポーツ度SPIが相対的に小さい場合に相対的に大きくなる。なお、このSPI係数cは、上述の運転者の運転状態、あるいは、運転状態係数aとも相関しており、この運転状態係数aと連動するパラメータ、あるいは、運転状態係数aの代替的なパラメータとしてみることもできる。例えば、このSPI係数cが相対的に小さい場合(すなわち、スポーツ度SPIが相対的に大きい場合)にはスポーツ走行指向が強く運転者が相対的に素早い操作をする運転状態である傾向にあり、このSPI係数cが相対的に大きい場合(すなわち、SPIが相対的に小さい場合)には、スポーツ走行指向ではない通常走行指向が強く運転者が相対的に遅い操作をする運転状態である傾向にある。
【0144】
【数4】

【0145】
本実施形態の操舵装置401におけるハンドル戻し制御に、上記フィッツの法則関連式を適用する場合、フィッツの法則式を適用する場合と同様に、切り戻し操作時間が到達時間tに相当し、ハンドル5の中立位置(目標点)からの操作量に相当する操舵角度が操作距離Dに相当する。
【0146】
図23は、数式(4)のフィッツの法則関連式で定まる[切り戻し操作時間(≒到達時間)]と[操舵角度≒操作距離(中立位置からの操作量)]と[SPI係数c]との関係の一例を表している。この図23に示すように、[切り戻し操作時間]は、[操舵角度]の増加に伴って長くなると共に、[SPI係数c]の増加に伴って長くなる。したがって、切り戻し操作時間は、スポーツ度SPIが相対的に大きい場合に短くなり、スポーツ度SPIが相対的に小さい場合に相対的に長くなる。
【0147】
EPS制御装置411は、ハンドル戻し制御を行う際のスポーツ度SPIに応じてフィッツの法則関連式を選択し、選択したフィッツの法則関連式に基づいて、操舵角度から切り戻し操作時間を算出する。なお、上記フィッツの法則関連式は、例えば、数式(4)に示したような数式モデルや図23に示したようなマップ形式で記憶部19に予め記憶されている。
【0148】
具体的には、EPS制御装置411は、処理部18に機能概念的に、操作時間算出部21と、操作速度設定部22と、EPS制御部23と、判定部24とに加えて、さらにSPI算出部425と、選択部426とが設けられる。
【0149】
SPI算出部425は、運転者意図の汲み取り指標であるスポーツ度SPIを算出するものである。スポーツ度SPIは、典型的には、複数方向の加速度(好ましくはその絶対値)を合成して得られる指標であり、走行方向に対する挙動に大きく関係する加速度である前後加速度と横加速度を合成した加速度がその一例である。スポーツ度SPIは、例えば、前後加速度と横加速度との二方向の加速度の絶対値を合成した加速度、あるいは、各加速度の二乗の和の平方根で表される加速度等を用いることができる。スポーツ度SPIは、例えば、前後加速度Gx、横加速度Gyを用いた場合には[SPI=(Gx2+Gy21/2]で算出することができる。本実施形態の状態検出装置10は、車両2の車体に作用する前後加速度及び横加速度を検出する加速度センサ418も含んで構成される。ここでは、SPI算出部425は、この加速度センサ418が検出した前後加速度、横加速度に基づいて、上記の式を用いてスポーツ度SPIを算出する。
【0150】
なお、SPI算出部425は、上記のようにして算出されるスポーツ度SPIに対して種々の補正処理を行ってもよい。上記のようにして算出されるスポーツ度SPIは、車両2の走行中における各瞬間毎に、各方向の加速度が求められ、その加速度に基づいて算出される指標、いわゆる瞬時SPIである。これに対して、SPI算出部425は、スポーツ度SPIに対して補正処理を行って、例えば、上記瞬時SPIを増大させる方向に車両2の走行状態が変化することにより直ちに増大させられ、かつ、瞬時SPIを低下させる方向に車両2の走行状態が変化した場合にはその走行状態の変化に対して遅れて低下させられるように構成される指標、いわゆる指示SPIを算出し、これを実際に用いるスポーツ度SPIとしてもよい。この指示SPIは、瞬時SPIの極大値に設定され、例えば、時間の経過等に応じた所定の条件が成立するまで、従前の値を維持するように構成される。この場合、指示SPIは、増大側には迅速に変化し低下側には相対的に遅く変化することとなる。
【0151】
選択部426は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式を選択するものである。選択部426は、SPI算出部425が算出したスポーツ度SPIに応じてフィッツの法則関連式(あるいはこれに応じたマップ、以下同様。)を選択することで、以降で行われるハンドル戻し制御にスポーツ度SPIを反映させる。
【0152】
より具体的に言えば、選択部426は、例えば、SPI算出部425が算出したスポーツ度SPIに所定の係数を乗算して当該スポーツ度SPIに応じたSPI係数cを算出する。そして、選択部426は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式として、算出したSPI係数cに応じたフィッツの法則関連式を選択する。このようにして選択されたフィッツの法則関連式は、スポーツ度SPIに応じた式となる。言い換えれば、選択部426は、スポーツ度SPIに応じてハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式を切り替えることができる。
【0153】
操作時間算出部21は、選択部426が選択したフィッツの法則関連式を用いて、切り込み操作の終了時点の操舵角度、又は、切り込み操作に対応する切り戻し操作の開始時点の操舵角度に基づいて、切り戻し操作時間を算出し、これをハンドル戻し制御に用いる切り戻し操作時間に決定する。操作速度設定部22は、操作時間算出部21が算出した切り戻し操作時間に基づいて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作速度の速度パターンを、切り戻し操作時間の終了時点に切り戻し操作が完了する速度パターンで、かつ、ベル型曲線の速度パターンとして設定する。そして、EPS制御部23は、操作時間算出部21が算出した切り戻し操作時間と、操作速度設定部22が設定した切り戻し操作速度の速度パターンとに基づいて、モータ13への目標の供給電流(アシスト電流)を算出し、算出した目標の供給電流に基づいてモータ13に電流を供給して、ハンドル戻し制御を実行する。
【0154】
次に、図24のフローチャートを参照してEPS制御装置411による制御の一例を説明する。
【0155】
まず、EPS制御装置411のSPI算出部425は、運転者意図の汲み取り指標であるスポーツ度SPIを算出する(ST51)。SPI算出部425は、加速度センサ418が検出した前後加速度、横加速度に基づいて、上記の式を用いてスポーツ度SPIを算出する。
【0156】
そして、選択部426は、SPI算出部425が算出したスポーツ度SPIに基づいて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式として、スポーツ度SPIに応じたフィッツの法則関連式を選択する(ST52)。
【0157】
次に、EPS制御装置411の操作時間算出部21は、操舵角度センサ16が検出した操舵角度に基づいて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を算出する(ST36)。操作時間算出部21は、選択部426が選択したフィッツの法則関連式を用いて、切り込み操作の終了時点の操舵角度、又は、切り込み操作に対応する切り戻し操作の開始時点の操舵角度に基づいて、切り戻し操作時間を算出する。以降の処理は、上述の実施形態で説明したST37からST39の処理と同様の処理であるので、説明を省略する。
【0158】
上記のように構成された操舵装置401は、車両2の走行状態、ここでは、車両2の走行状態に応じて変化するパラメータであるスポーツ度SPIに応じて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式を選択し、選択したフィッツの法則関連式を用いて切り戻し操作時間を算出する。これにより、操舵装置401は、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を車両2の走行状態に応じて変化するスポーツ度SPIに基づいて変更することができる。この結果、操舵装置401は、スポーツ度SPIに応じた人間の動作特性にのっとって運転者のハンドル5の切り戻し操作を補助することができる。これにより、例えば、操舵装置401は、スポーツ度SPIが相対的に大きく、言い換えれば、合成加速度が大きく、例えば、スポーツ走行指向が強い場合(運転者が相対的に素早い操作をする運転状態である傾向にある場合)には、切り戻し操作速度を比較的に高くし、運転者のハンドル5の切り戻し操作を、比較的に素早い操作となるように補助することができる。また逆に、操舵装置401は、スポーツ度SPIが相対的に小さく、言い換えれば、合成加速度が小さく、例えば、スポーツ走行ではない通常走行指向が強い場合(運転者が相対的に遅い操作をする運転状態である傾向にある場合)には、切り戻し操作速度を比較的に低くし、運転者のハンドル5の切り戻し操作を、比較的にゆっくりとした操作となるように補助することができる。つまり、操舵装置401は、スポーツ度SPIが大きくスポーツ走行指向が強い場合には、素早く中立位置に戻るように運転者のハンドル5の切り戻し操作をアシストできる一方、スポーツ度SPIが小さく通常走行指向が強い場合には、ゆっくりと中立位置に戻るように運転者のハンドル5の切り戻し操作をアシストすることができる。
【0159】
以上で説明した実施形態に係る操舵装置401、EPS制御装置411は、切り込み操作の際の操舵角度に応じて人間の動作特性にあったハンドル戻し制御を行うことができるので、人間の動作特性(操舵リズム)にのっとって運転者のハンドル5の切り戻し操作を補助することができ、これにより、操舵フィーリングを向上させることができる。
【0160】
そして、以上で説明した実施形態に係る操舵装置401、EPS制御装置411によれば、切り戻し操作時間は、車両2の走行状態に基づいて変更される。したがって、この操舵装置401、EPS制御装置411は、車両2の走行状態に応じた人間の動作特性にのっとって運転者のハンドル5の切り戻し操作を補助することができ、これにより、操舵フィーリングをさらに向上させることができる。
【0161】
なお、以上の説明では、EPS制御装置411は、車両2の走行状態に応じて変化するパラメータとして、運転者意図の汲み取り指標であるスポーツ度SPIに基づいて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を変更するものとして説明したがこれに限らない。EPS制御装置411は、車両2の走行状態として、スポーツ度SPIにかえて、例えば、他のアクチュエータの設定モード、ナビゲーション装置や周辺環境情報取得装置等から取得する車両2の走行周辺環境情報(例えば、車両2の現在位置情報や地図情報(道路勾配情報、路面状態情報、道路形状情報、制限車速情報、道路曲率情報等)、インフラ情報(信号情報、工事・交通規制情報、渋滞情報、緊急車両情報)、車両2の前方を走行する前方車両に関する情報(速度情報、現在位置情報等))等、あるいは、運転者の操作によって切り替え可能なモード切替スイッチ等に基づいて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間を変更するによる選択でもよい。すなわち、EPS制御装置411は、他のアクチュエータの設定モード、車両2の走行周辺環境情報、あるいは、運転者の操作によって切り替え可能なモード切替スイッチ等に基づいて、ハンドル戻し制御における切り戻し操作時間の算出に用いるフィッツの法則関連式を切り替えるようにしてもよい。この場合であっても、操舵装置401、EPS制御装置411は、車両2の走行状態に応じた人間の動作特性(操舵リズム)にのっとって運転者のハンドル5の切り戻し操作を補助することができ、これにより、操舵フィーリングをさらに向上させることができる。
【0162】
なお、上述した本発明の実施形態に係る操舵装置、操舵制御装置は、上述した実施形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された範囲で種々の変更が可能である。本実施形態に係る操舵装置、操舵制御装置は、以上で説明した各実施形態の構成要素を適宜組み合わせることで構成してもよい。
【0163】
以上の説明では、操舵制御装置は、いわゆるフィッツの法則を用いて、切り込み操作の際の操舵部材の操舵角度から切り戻し操作時間を算出するものとして説明したが、これに限らない。操舵制御装置は、切り込み操作の際の操舵部材の操舵角度に応じて切り戻し操作時間を決定するものであればよく、切り戻し操作時間を、種々の手法を用いて切り込み操作の際の操舵部材の操作量に応じて操舵部材を滑らかに中立位置に戻すことができる時間として算出すればよい。
【0164】
以上の説明では、操舵制御装置は、切り戻し操作時間に対する切り戻し操作速度の速度パターンを、いわゆる、ベル型曲線の速度パターンとするものとして説明したがこれに限らない。
【0165】
以上の説明では、操舵装置は、コラムアシスト式のコラムEPS装置を示したがこれに限らず、例えば、ピニオンアシスト式、ラックアシスト式のいずれの方式にも適用可能である。
【0166】
以上で説明した操舵装置、操舵制御装置は、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置に適用してもよい。この場合、操舵装置は、操舵部材(例えば、ハンドル5)と操舵輪とが機構的に分離された構成をなす。そして、ステアバイワイヤ方式の操舵装置は、運転者により操舵部材が操作されると、この操舵部材の操作量をセンサ等によって検出し、検出した操作量に基づいて操舵制御装置が操舵アクチュエータを駆動して操舵輪に所定の転舵力を付与することで、操舵輪を転舵させる。以上で説明した操舵装置、操舵制御装置は、このようなステアバイワイヤ方式の操舵装置に適用した場合であっても、操舵部材に対する操舵操作を補助するアクチュエータ(例えば、上記操舵アクチュエータと兼用される)を制御し、操舵部材の中立位置側からの切り込み操作に対応した当該操舵部材の中立位置側への切り戻し操作を補助する戻し操作補助制御を実行可能であり、切り込み操作の際の操舵部材の操舵角度に応じて、当該戻し操作補助制御を実行する際の切り戻し操作時間を決定することで、操舵フィーリングを向上させることができる。
【符号の説明】
【0167】
1、201、301、401 操舵装置
2 車両
3 車輪
4 内燃機関
5 ハンドル(操舵部材)
9 EPS装置(アクチュエータ)
10 状態検出装置
11、211、311、411 EPS制御装置(操舵制御装置)
21 操作時間算出部
22 操作速度設定部
23 EPS制御部
24 判定部
225 抽出部
226、326、426 選択部
325 車速読込部
425 SPI算出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられ操舵操作が可能である操舵部材と、
前記操舵部材に対する操舵操作を補助するアクチュエータと、
前記アクチュエータを制御し、前記操舵部材の中立位置側からの切り込み操作に対応した当該操舵部材の中立位置側への切り戻し操作を補助する戻し操作補助制御を実行可能であり、前記切り込み操作の際の前記操舵部材の操舵量に応じて、当該戻し操作補助制御を実行する際の切り戻し操作時間を決定する操舵制御装置とを備えることを特徴とする、
操舵装置。
【請求項2】
前記操舵制御装置は、前記戻し操作補助制御として、前記切り戻し操作時間の終了時点に前記操舵部材の中立位置に応じた目標戻し位置への前記切り戻し操作を完了させる、
請求項1に記載の操舵装置。
【請求項3】
前記操舵制御装置は、前記切り込み操作の際の前記操舵部材の操舵量として、前記切り込み操作の終了時点の前記操舵部材の操舵量、又は、前記切り込み操作に対応する前記切り戻し操作の開始時点の前記操舵部材の操舵量に基づいて、前記切り戻し操作時間を変更する、
請求項1又は請求項2に記載の操舵装置。
【請求項4】
前記操舵制御装置は、前記切り戻し操作が中断された後、前記切り戻し操作が再開された際には、当該再開された前記切り戻し操作の開始時点の前記操舵部材の操舵量に基づいて、前記切り戻し操作時間を変更する、
請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の操舵装置。
【請求項5】
前記操舵制御装置は、前記切り戻し操作時間と、当該切り戻し操作時間に応じた切り戻し操作速度とに基づいて、前記戻し操作補助制御を実行し、
前記切り戻し操作速度は、絶対値が前記切り戻し操作時間の経過に伴って増加し、ピークを経た後に減少する速度パターンである、
請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の操舵装置。
【請求項6】
前記切り戻し操作時間に対する前記切り戻し操作速度の前記速度パターンは、前記切り戻し操作速度の絶対値の最大値以外の極大値と極小値との偏差が予め設定される第1所定値以下であること、前記切り戻し操作時間の開始時点から終了時点までの当該切り戻し操作時間と前記切り戻し操作速度とに基づいた操作量が予め設定された第2所定値以上であること、前記操作量が予め設定された所定範囲内であること、前記切り戻し操作速度の絶対値の最大値と前記切り戻し操作時間の開始時点又は終了時点での前記切り戻し操作速度の絶対値との偏差が予め設定された第3所定値以上であること、前記切り戻し操作速度の絶対値が最大値となるピーク時点が前記切り戻し操作時間の開始時点と終了時点との中間時点を含む予め設定された所定期間内に位置すること、のうちの少なくとも1つの条件を満たすパターンである、
請求項5に記載の操舵装置。
【請求項7】
前記切り戻し操作時間は、前記操舵部材の中立位置に対する前記戻し操作補助制御における前記操舵部材の目標戻し位置の許容範囲に基づいて変更される、
請求項1乃至請求項6のいずれか1項に記載の操舵装置。
【請求項8】
前記切り戻し操作時間は、前記切り込み操作の切り込み操作時間に基づいて変更される、
請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の操舵装置。
【請求項9】
前記切り戻し操作時間は、前記車両の車速に基づいて変更される、
請求項1乃至請求項8のいずれか1項に記載の操舵装置。
【請求項10】
前記切り戻し操作時間は、前記車両の走行状態に基づいて変更される、
請求項1乃至請求項9のいずれか1項に記載の操舵装置。
【請求項11】
車両に設けられ操舵操作が可能である操舵部材に対する操舵操作を補助するアクチュエータを制御し、前記操舵部材の中立位置側からの切り込み操作に対応した当該操舵部材の中立位置側への切り戻し操作を補助する戻し操作補助制御を実行可能であり、前記切り込み操作の際の前記操舵部材の操舵量に応じて、当該戻し操作補助制御を実行する際の切り戻し操作時間を決定することを特徴とする、
操舵制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【公開番号】特開2013−14271(P2013−14271A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149575(P2011−149575)
【出願日】平成23年7月5日(2011.7.5)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】