説明

改善された防弾製品を製造する方法

高エネルギー小銃弾などに対する抵抗性を改善した防弾性複合材料を製造する方法。本方法は、高靭性アラミド繊維網を含む少なくとも1つの繊維層を準備する工程を含む。この繊維層を熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする。コーティングした繊維層を少なくとも約1,500psi(10.3MPa)の圧力で成形する。好ましくは、複数の繊維層を使用し、その繊維層はそれぞれ、熱可塑性ポリウレタン樹脂マトリックス中で一方向に配置されたアラミド繊維で形成される。隣接する繊維層は、好ましくは互いに対して90°に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
発明の背景
発明の分野
本発明は、防弾製品、特にアラミド繊維材料から形成された防弾製品に関する。
【0002】
関連技術の説明
チョッキなどの防弾製品は当技術分野で知られている。これらの製品の多くは、アラミド繊維のような高靭性繊維をベースとしている。このような製品は優れた特性を有し、商業的な成功を収めているが、常に防身具(body armor product)のような防護具(armor product)の特性を改善する必要性が存在している。
【0003】
特に、高エネルギー小銃弾などに対する抵抗性を改善した防弾製品を提供することは望ましいであろう。
【0004】
発明の概要
本発明によれば、高エネルギー小銃弾などに対する抵抗性を改善した防弾性複合材料を製造する方法が提供され、該方法は、高靭性アラミド繊維網を含む少なくとも1つの繊維層を準備する工程と、該繊維層を熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、該繊維層を少なくとも約1,500psi(10.3MPa)の圧力で成形する工程とを含む。
【0005】
本発明はまた、高エネルギー小銃弾などに対する抵抗性を改善した防弾性複合材料を製造する方法を提供し、該方法は、高靭性アラミド繊維網を含む第1の繊維層を準備する工程と、該第1の繊維層を熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、高靭性アラミド繊維網を含む第2の繊維層を準備する工程と、該第2の繊維層を熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、該第1および第2の繊維層を少なくとも約1,500psi(10.3MPa)の圧力で成形する工程とを含む。
【0006】
さらに、本発明は、高エネルギー小銃弾などに対する抵抗性を改善した防弾性複合材料を製造する方法を提供し、該方法は、高靭性アラミド繊維網を含む第1の不織繊維層を準備する工程と、該第1の不織繊維層を熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、高靭性アラミド繊維網を含む第2の不織繊維層を準備する工程と、該第2の不織繊維層を熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、該第1および第2の不織繊維層が互いに対して配向されるように該第1および第2の不織繊維層を配置する工程と、該第1および第2の繊維層を少なくとも約1,500psi(10.3MPa)の圧力で成形する工程とを含む。
【0007】
本発明はさらに、防弾防身具の高エネルギー小銃弾などに対する抵抗性を改善する方法を提供し、該方法は、高靭性アラミド繊維網を含む第1の繊維層を準備する工程と、該第1の繊維層を熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、高靭性アラミド繊維網を含む第2の繊維層を準備する工程と、該第2の繊維層を熱可塑性のポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、該第1および第2の繊維層を少なくとも約1,500psi(10.3MPa)の圧力で成形して、成形品を形成する工程と、該成形品から防身具の少なくとも一部を形成する工程とを含む。
【0008】
驚くべきことに、複合アラミド繊維構造を形成するために熱可塑性ポリウレタン樹脂を使用して、高圧下で複合体を形成すると、その複合体は、高エネルギー小銃弾などに対する防弾性が改善されていることが発見された。これは、他の既知のコーティング樹脂を利用するアラミド複合体では類似の結果が得られていないので、特に予想外のことであった。
【0009】
発明の詳細な説明
本発明は、防弾性、特に高エネルギー小銃弾に対する防弾性を改善したアラミド繊維から形成された複合体に関する。これらの複合体は、軟質または硬質の防弾性防護具で特に有用である。例としては、防身具、ヘルメット、ブランケットなどが挙げられる。
【0010】
高エネルギー小銃弾は、エネルギーレベルが一般に約1500ジュール〜約3500ジュール、またはそれ以上である銃弾である。このような銃弾の例は、M80弾丸である(NATO弾丸、Dragnov LPSなどとも呼ばれる)。
【0011】
本発明では、繊維は、その長さ寸法が幅および厚さという横方向寸法よりはるかに大きい細長体である。したがって、用語「繊維」は、規則的または不規則な断面を有するモノフィラメント、マルチフィラメント、リボン、ストリップ、ステープル、および他の形態の短繊維(チョップトまたはカット繊維)または不連続繊維などを包含する。用語「繊維」は、上記のいずれかの複数またはその組合せを包含する。ヤーンは、多くの繊維またはフィラメントからなる連続撚糸(strand)である。
【0012】
本発明で有用な繊維の断面は非常に多様である。これらは断面が、円形、平坦、または長方形であってもよい。これらはまた、フィラメントの直線軸または縦軸から突出する1つまたは複数の規則的または不規則な葉部(lobe)を有する不規則または規則的な多葉(multi−lobal)断面を有していてもよい。繊維が実質的に円形、平坦、または長方形断面を有することが特に好ましく、繊維が実質的に円形断面を有することが最も好ましい。
【0013】
本明細書では、用語「高靭性(tenacity)繊維」は、靭性が約7g/d以上である繊維を意味する。好ましくは、これらの繊維では、ASTM D2256によって測定した初期引張係数(initial tensile modulus)が少なくとも約150g/dであり、破壊エネルギーが少なくとも約8J/gである。好ましい繊維は、靭性が約10g/d以上であり、引張係数(tensile modulus)が約200g/d以上であり、破壊エネルギーが約20J/g以上である繊維である。特に好ましい繊維は、靭性が約16g/d以上であり、引張係数が約400g/d以上であり、破壊エネルギーが約27J/g以上である繊維である。これらの特に好ましい態様の中で、繊維の靭性が約22g/d以上であり、引張係数が約500g/d以上であり、破壊エネルギーが約27J/g以上である態様が最も好ましい。本明細書では、用語「初期引張係数」、「引張係数」、および「係数(modulus)」は、ヤーンについてはASTM 2256によって、またマトリックス材料についてはASTM D638によって測定した弾性率を意味する。
【0014】
アラミド繊維は当技術分野で知られている。本発明で有用である適切なアラミド繊維は、芳香族ポリアミド、具体的には米国特許第3,671,542号に記載されているものなどから形成され、その開示内容は、参照により本明細書と矛盾しない程度に本明細書に特に組み込まれる。好ましいアラミド繊維は、靭性が少なくとも約20g/dであり、初期引張係数が少なくとも約200g/dであり、破壊エネルギーが少なくとも約8J/gであり、特に好ましいアラミド繊維は、靭性が少なくとも約20g/dであり、初期引張係数が少なくとも約400g/dであり、破壊エネルギーが少なくとも約20J/gである。
【0015】
最も好ましいアラミド繊維は、靭性が少なくとも約23g/dであり、係数が少なくとも約500g/dであり、破壊エネルギーが少なくとも約30J/gである。例えば、中程度に高い係数および靭性値を有するポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)フィラメントは、防弾性複合体を形成するのに特に有用である。例としては、1000デニールのTwaron(登録商標)T2000(Teijin製)があげられる。他の例としては、初期引張係数500g/dおよび靭性22g/dであるKevlar(登録商標)29、ならびに初期引張係数1000g/dおよび靭性22g/dのKevlar(登録商標)49があり、両方ともdu Pontから入手可能である。ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)のコポリマー、具体的にはコポリ(p−フェニレンテレフタルアミド/3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド)なども使用することができる。商標名Nomex(登録商標)でdu Pontによって商業的に生産されているポリ(m−フェニレンイソフタルアミド)繊維も、本発明の実施において有用である。
【0016】
これらの繊維は、任意の適切なデニール、具体的には例えば約50デニール〜約3000デニール、より好ましくは約200デニール〜約3000デニール、さらにより好ましくは約650デニール〜約1500デニール、最も好ましくは約800デニール〜約1300デニールとすることができる。
【0017】
アラミド繊維は、少なくとも1層の繊維網に形成される。織布や編布のような他のタイプの布地を本発明で使用することができるが、繊維網は不織布であることが好ましい。織布の場合は、縦方向および横方向または他の方向で繊維が異なるヤーンを用いてこれらを織ることができる。
【0018】
好ましくは、防弾性複合体を調製するために使用される繊維網は少なくとも2層である。
【0019】
繊維の特に好ましい立体配置は、繊維が共通の繊維方向に沿って互いに実質的に平行になるように一方向に整列している網構造である。あるいは、繊維をランダムな方向にフェルト状にした不織布を使用することができる。
【0020】
好ましくは、不織布中の繊維の少なくとも約50重量%が高靭性アラミド繊維であり、より好ましくは、不織布中の繊維の少なくとも約75重量%が高靭性アラミド繊維であり、最も好ましくは、不織布中の実質的にすべての繊維が高靭性アラミド繊維である。ヤーンを、本質的に平行整列させていてもよく、あるいは撚ったり、オーバーラップさせたり、または絡ませてもよい。
【0021】
一方向に配置した繊維から形成された布地は、通常は一方向に伸びる1つの繊維層、および第1の層の繊維から別の方向(好ましくは、90°)に伸びる第2の繊維層を有する。個々の重ねの層が一方向に配置された繊維である場合、連続する重ねの層を、好ましくは互いに対して例えば0°/90°、0°/90°/0°/90°、もしくは0°/45°/90°/45°/0°の角度、または他の角度で回転させる。
【0022】
本発明の複合体の幾何形状を繊維の幾何形状によって特徴付けることは好都合である。適切な一配列は、繊維が共通の繊維方向に沿って互いに平行整列されている繊維層である(「一方向に整列された繊維網」と呼ばれる)。このような一方向に整列された繊維の連続する層を、前の層に対して回転させることができる。好ましくは、複合体の繊維層を交差して積み重ねる、すなわち各網層の一方向繊維の繊維方向を隣接する層の一方向繊維の繊維方向に対して回転させる。一例は、第2、第3、第4、および第5の層を第1の層に対して+45°、−45°、90°、および0°で回転させた5層の物品である。好ましい例としては、0°/90°で積み重ねた2層が挙げられる。このように回転させた一方向整列は、例えば米国特許第4,623,574号、第4,737,402号、第4,748,064号、および第4,916,000号に記載されている。
【0023】
一般に、本発明の繊維層は、好ましくは最初に繊維網を構築し、次いで網構造をマトリックス組成物でコーティングすることによって形成される。本明細書では、用語「コーティング」は、個々の繊維が、繊維を取り囲むマトリックス組成物の連続層、または繊維の表面上のマトリックス組成物の不連続層を有する繊維網を記述するために広義で使用する。前者の場合、繊維は完全にマトリックス組成物中に埋め込まれているといえる。本明細書では、用語「コーティング」と「含浸」を同義に使用する。繊維網は、様々な方法で構築することができる。一方向に整列された繊維の不織繊維網の好ましい場合では、マトリックス材料でコーティングされる前に、高靭性フィラメントのヤーン束がクリールから供給され、ガイドおよび1つまたは複数のスプレッダーバーにより、コリメーティングコーム(collimating comb)に導かれる。コリメーティングコームによって、フィラメントは同一平面上で実質的に一方向に整列する。
【0024】
本発明の方法は、最初に上述の繊維網層、好ましくは一方向網を形成する工程と、マトリックス組成物の溶液、分散液、または乳濁液を繊維網層に塗布する工程と、次いでマトリックスをコーティングした繊維網層を乾燥する工程とを含む。溶液、分散液、または乳濁液は、好ましくはフィラメントに噴霧することができるポリウレタン樹脂の水溶液である。あるいは、フィラメント構造に、水溶液、分散液、または乳濁液を浸漬することによって、またはロールコータなどによってコーティングすることができる。
【0025】
コーティングした後、コーティングした繊維層を乾燥用オーブンに通して、そこで、コーティングした繊維網層(ユニテープ(unitape))にマトリックス組成物中の水を蒸発させるのに十分な熱を与えてもよい。次いで、コーティングした繊維網を、紙またはフィルム基材とすることができる支持体ウェブ(carrier web)上に置いてもよく、あるいは繊維をマトリックス樹脂でコーティングする前に最初に支持体ウェブ上に置いてもよい。次いで、基材およびユニテープを、既知の方式で巻いて連続ロールにすることができる。
【0026】
ユニテープを別々のシートに切断し、最終用途複合体に形成するためのスタックに積み重ねることができる。前述のように、最も好ましい複合体は、連続する層の繊維方向が0°/90°となるように各層の繊維網が一方向に整列および配置されている複合体である。
【0027】
最も好ましい態様では、2つの繊維網層を0°/90°の立体配置で交差して積み重ね、次いで統合して、サブアセンブリ前駆体を形成する。2つの繊維網層は、好ましくは一方の網構造を、他方の網構造の幅に渡って0°/90°の向きで連続的に置くことができる長さに切断することによって連続的に交差して積み重ねることができる。繊維層を連続的に交差して積み重ねるための装置は、具体的には例えば米国特許第5,173,138号および第5,766,725号に記載されている装置などが知られている。次いで、得られた連続2プライ・サブアセンブリを巻いて、各重ね層の間に剥離材層をもつロールにすることができる。接触により、または熱を加えかつ無圧でもしくは比較的低い圧力をかけて、複合体の個々の薄層を互いに接着させることができる。
【0028】
前述のように、各層の高靭性繊維をマトリックス組成物でコーティングし、次いでマトリックス組成物/繊維の組合せを統合する。「統合する」は、マトリックス材料および繊維層を単一の一体型層に組み合わせることを意味する。統合は、乾燥、冷却、加熱、比較的低い圧力、またはそれらの組合せにより行うことができる。
【0029】
他の態様では、連続する層が0°/90°/0°/90°の向きに配置されている4プライ・サブアセンブリを形成する。
【0030】
最終用途複合体を形成する準備ができたとき、ロールを解き、剥離材を剥がす。次いで、完成形状を形成し、マトリックス樹脂を硬化するために、本明細書の下記に述べるように、多層サブアセンブリを別々のシートにスライスし、多層に積み重ね、次いで成形する。
【0031】
繊維層中の繊維の樹脂マトリックスは、熱可塑性ポリウレタン樹脂である。ポリウレタン樹脂は、ホモポリマーでも、コポリマーでもよく、本発明では、これらの樹脂の1つまたは複数のブレンドも使用することができる。このような樹脂は当技術分野で知られており、市販されている。好ましくは、このような樹脂は、使いやすくするため水溶液系で提供される。これらの樹脂は、通常は水溶液、分散液、または乳濁液として利用することができ、固形成分が約20重量パーセント〜約80重量パーセント、より好ましくは約40重量パーセント〜約60重量パーセントであり、残りの重量が水である。このような樹脂組成物は、本発明の譲受人に譲渡された同時係属中の米国特許出願第11/213,253号に開示されている。充填剤などのような通常の添加剤を樹脂組成物に含めることができる。
【0032】
複合体層中の樹脂マトリックス材料対繊維の割合は、最終用途に応じて非常に多様である。ポリウレタン樹脂は、固形分換算で、各複合体層の好ましくは約1重量パーセント〜約40重量パーセント、より好ましくは約10重量パーセント〜約30重量パーセント、最も好ましくは約15重量パーセント〜約28重量パーセントをなす。
【0033】
同じ熱可塑性ポリウレタン樹脂を、好ましくは繊維層の少なくとも2層、より好ましくは繊維層のすべての層において使用する。
【0034】
本発明の方法は、本発明のこのような複合材料を形成する工程を含む。このような複合材料は、高圧下で統合することによって個別の薄層から形成することができる。本発明で用いられる圧力は、少なくとも約1500psi(10.3MPa)、より好ましくは少なくとも約2000psi(13.8MPa)、さらにより好ましくは少なくとも約2500psi(17.2MPa)、最も好ましくは少なくとも約3000psi(20.7MPa)である。本発明で用いられる圧力は、好ましくは約1500psi(10.3MPa)〜約4000psi(27.6MPa)である。本発明の方法で有用な典型的な温度は、例えば約75°F〜約320°F(24℃〜160℃)の温度、より好ましくは約150°F〜約305°F(66℃〜152℃)の温度、最も好ましくは約220°F〜約270°F(104℃〜132℃)の温度である。
【0035】
複合体構造を任意の適切な成形装置で成形して、所望の構造に形成することができる。このような装置としては例えば、高圧成形を行う液圧プレスが挙げられる。一態様では、個別の繊維層を成形プレス中で積み重ね、これらの層を上記の温度および高圧下で適切な時間、たとえば約0.5分〜約30分間、より好ましくは約10分〜約20分間成形する。
【0036】
複合材料中の層の数は、具体的な最終用途に依存する。最も好ましくは、互いに対して90°に配置して、単一構造に統合された2つの繊維層から、各複合体を形成する。前述のように、あるいはこのような単一構造の2組から、合計4つの繊維層が使用されている複合体を形成することができる。この場合、2プライ・統合構造2つを互いに統合して、4プライ・サブアセンブリを形成する。
【0037】
複合体から形成された物品で使用されたその複合体の層の数は、物品の最終的用途に応じて異なる。例えば、所望の製品を成形するために使用される2プライ・サブアセンブリが、少なくとも約40層、好ましくは少なくとも約150層、より好ましくは約40層〜約400層の範囲で積層されたものである。成形品は、任意所望の形状をもつことができる。チョッキなどで使用するため、好ましくは層を比較的平坦な立体形状に成形する。同様に、防弾パネルでは、層を好ましくは実質的に平坦な立体形状に成形する。ヘルメットなどのような他の物品では、層を最終製品の所望の形状に成形する。これらの成形品は成形条件に応じて所望の硬質または軟質の防護具として使用することができる。
【0038】
これらの成形品を他の硬質物品、軟質物品、および/または成形された物品と組み合わせて、特に望ましい防弾性および他の特性を得ることができる。このような物品は、本発明で使用するのと同じまたは異なるマトリックス樹脂を使用して、アラミドおよび/または他の高靭性繊維から、あるいは他の材料から形成することができる。
【0039】
人の体形どおりに形成するのを容易し、着用を容易にするために、1つまたは複数のプラスチックフィルムを複合体中に加え、異なる複合体層が互いに滑り合うようにすることができる。これらのプラスチックフィルムを、通常は各複合体の片面または両面に結合してもよい。任意の適切なプラスチックフィルム、具体的にはポリオレフィン類で製造したフィルムなどを使用することができる。このようなフィルムの例は、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)フィルム、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)フィルム、ポリエステルフィルム、ナイロンフィルム、ポリカーボネートフィルムなどである。これらのフィルムは、任意の所望の厚さとすることができる。典型的な厚さは、約0.1ミル〜約1.2ミル(2.5μm〜30μm)、より好ましくは約0.2ミル〜約1ミル(5μm〜25μm)、最も好ましくは約0.3ミル〜約0.5ミル(7.5μm〜12.5μm)である。LLDPEフィルムが最も好ましい。これらのフィルムを各サブアセンブリの一部として形成してもよく、あるいはフィルムを、成形型に入れるときにサブアセンブリ間に挿入してもよい。フィルムは、サブアセンブリおよび/または最終成形製品の片面または両面に設けることができる。
【0040】
様々な構築物が、耐衝撃性および防弾性物品中で使用される繊維強化複合体として知られている。これらの複合体は、銃弾、榴散弾および破片などのような発射体の高速衝撃による貫通に対して様々な程度の抵抗性を示す。このような構築物の例は、例えば米国特許第6,268,301号、第6,248,676号、第6,219,842号、第5,677,029号、第5,471,906号、第5,196,252号、第5,187,023号、第5,185,195号、第5,175,040号、および第5,167,876号に開示されている。
【0041】
本発明の一態様では、チョッキもしくは他の防身具、または他の物品を、通常通りに複合材料の複数層で形成する。これらの層は、一緒に積層しないことが好ましいが、個別の重ねの層が互いに対して滑り合わないように縫い合わせてもよい。例えば、層のそれぞれの角をかがり縫いしてもよい。あるいは、層をまとめてポケットまたは他のカバーリングに入れてもよい。
【0042】
下記の実施例は、本発明をより完全に理解するために提示されているが、限定するものではない。本発明の原理を説明するために記載した特定の技術、条件、材料、割合、および報告データは、例示であって、本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。別段の記述のない限り、百分率はすべて、重量による。
【0043】
実施例
実施例1
1000デニールおよび靭性26g/dのアラミド繊維層(Teijin製のTwaron(登録商標)T2000)から、2プライ・不織複合体を形成した。このアラミド繊維をクリールから櫛掛け装置に通して、一方向網を形成することによって、ユニテープを調製した。次いで、繊維網を支持体ウェブ上に置き、繊維をマトリックス樹脂でコーティングした。樹脂は、熱可塑性ポリウレタン樹脂の分散液、すなわち製造業者によって、23℃における比重が1.05g/cc、および23℃における粘度が40cpsであると表示されている複数のポリウレタン樹脂水性分散液のコポリマーミックス(樹脂40%〜60%)であった。
【0044】
次いで、複合材料を形成する準備として、コーティングした繊維網をオーブンに通して、組成物中の水を蒸発させ、ローラーに巻き取り、そこから支持体ウェブを剥がした。得られた構造には、16重量パーセントのポリウレタン樹脂が含まれていた。このようにして、一方向繊維プリプレグの連続ロールを2本調製した。2つのこのようなユニテープを90°で交差して積み重ね、統合して、同一の2つのアラミド繊維薄層を有する積層体を形成した。この材料からなる12インチ×12インチ(30.5cm×30.5cm)のパネルを使用して、多層複合体構造を形成した。
【0045】
2プライ・構築物の合計270層を、液圧プレスのマッチドダイ成形型に入れ、240°F(115.6℃)、成形圧力1500psi(10.3MPa)で20分間成形した。形成された積層体は、実質的に平坦な立体形状であった。成形した後、積層体を室温まで放冷した。
【0046】
4プライ・複合体の多層の防弾性を判定した。銃弾はNATO弾丸(M80弾丸とも呼ばれる)であり、そのサイズは7.62mm×51mmであった。この発射体は高エネルギー小銃弾である。NIJ Standard NIJ 0101.04に従って、防弾性を判定した。下記の表1に、結果を示す。
【0047】
射撃パックで止まった、または射撃パックを貫通した6〜10対の銃弾の平均に基づいて、V50計算値を得た。V50速度は、発射体の貫通確率が50%である速度である。
【0048】
比較例2
成形圧力が500psi(3.4MPa)であった以外は、実施例1を繰り返した。再び、同じタイプの銃弾を用いて試料の防弾性を試験した。その結果を下記の表1に示す。
【0049】
実施例3
合計315層の複合体を使用してパネルを形成した以外は、実施例1を繰り返した。再び、同じタイプの銃弾を用いて試料の防弾性を試験した。その結果を下記の表1に示す。
【0050】
比較例4
成形圧力が500psiであった以外は、実施例3を繰り返した。再び、同じタイプの銃弾を用いて試料の防弾性を試験した。その結果を下記の表1に示す。
【0051】
実施例5
合計360層の複合体を使用してパネルを形成した以外は、実施例1を繰り返した。再び、同じタイプの銃弾を用いて試料の防弾性を試験した。その結果を下記の表1に示す。
【0052】
比較例6
成形圧力が500psiであった以外は、実施例5を繰り返した。再び、同じタイプの銃弾を用いて試料の防弾性を試験した。その結果を下記の表1に示す。
【0053】
【表1】

【0054】
上記のデータからわかるように、実施例1に従ってマトリックス樹脂としてポリウレタンコポリマーを使用し、複合体を高圧(2500psi(17.2MPa))で成形すると、比較例1に従って同じマトリックス樹脂を使用するが低圧で成形した場合よりも防弾性が実質的に良好である。この結果は、実施例に示すように層の数を270から315、360に増加させた場合にも一貫していた。さらに、本発明に従って形成した層の数がより少ない複合体を使用した場合に、低圧下で成形した層の数がより多い場合と同様の防弾性が得られることがわかる。その結果、防弾性を犠牲にすることなく、高圧下で成形した複合体の重量を低減することができる。
【0055】
比較例7〜9
比較例7では、マトリックス樹脂がKraton(登録商標)D1107スチレン−イソプレン−スチレン・ブロックコポリマー熱可塑性エラストマーであり、複合体層の樹脂含有量が20重量%であった以外は、実施例1を繰り返した。合計250層の2プライ・プレアセンブリを使用して、250°F(121.1℃)、成形圧力200psi(1.4MPa)で30分間成形して、試験用パネルを形成した。MIL−STD−662−Fに従って、同じタイプの銃弾を使用して、試料の防弾性を試験した。下記の表2に、結果を示す。
【0056】
比較例8では、成形圧力が2000psi(13.8MPa)であった以外は、比較例7を繰り返した。同じタイプの銃弾を用いて試料の防弾性能を試験し、その結果を下記の表2に示す。
【0057】
比較例9では、成形圧力が4000psi(27.6MPa)であった以外は、比較例7を繰り返した。同じタイプの銃弾を用いて試料の防弾性能を試験した。その結果を下記の表2に示す。
【0058】
【表2】

【0059】
表2から、スチレン−イソプレン−スチレン・マトリックス熱可塑性エラストマー樹脂を有する複合体を使用して、成形圧力を上げた場合に、防弾性は実質的には改善されなかったことがわかる。したがって、高圧下で形成され、ポリウレタンマトリックスを利用する複合体の場合に見られた防弾性の実質的な改善は、熱可塑性エラストマーマトリックス樹脂を使用した複合体の場合には見られない。
【0060】
比較例10および11
比較例10では、マトリックス樹脂がエポキシビニルエステル樹脂(Derkane 411)であった以外は、比較例7を繰り返した。また、複合体層の樹脂含有量は、20重量%であった。合計250層の2プライ・プレアセンブリを使用して、200°F(93.3℃)、成形圧力200psi(1.4MPa)で30分間成形して、試験用パネルを形成した。同じタイプの銃弾を用いて、試料の防弾性を試験した。その結果を下記の表3に示す。
【0061】
比較例11では、成形圧力が889psi(6.1MPa)であった以外は、比較例10を繰り返した。同じタイプの銃弾を用いて、試料の防弾性能を試験した。その結果を下記の表3に示す。
【0062】
【表3】

【0063】
表3の比較例10および11も同様に、別の通常のマトリックス樹脂(エポキシビニルエステル)を使用する複合体において成形圧力を上げても、防弾性の実質的な改善が得られないことを示す。
【0064】
比較例12および13
比較例12では、層の全数が36であった以外は、比較例10を繰り返した。9mmのフルメタルジャケット付き拳銃用銃弾を用いて、試料の防弾性能を試験した。成形圧力は、この場合も200psi(1.4MPa)であった。下記の表4に、防弾性の結果を示す。
【0065】
比較例13では、成形圧力が889psi(6.1MPa)であった以外は、比較例12を繰り返した。9mmのフルメタルジャケット付き拳銃用銃弾を用いて、試料の防弾性能を試験した。その結果を下記の表4に示す。
【0066】
【表4】

【0067】
比較例12および13も同様に、層の数が低減されている別の通常のマトリックス樹脂(エポキシビニルエステル)を使用する複合体において成形圧力を上げても、防弾性の実質的な改善が得られないことを示す。拳銃用銃弾の場合、より高い圧力では、防弾性の改善は見られない。
【0068】
実施例14
本発明のアラミド防弾性材料を試験して、その構造特性を判定した。成形圧力が1500psi(10.3MPa)であった以外は同様の条件下で、実施例1と同様に同じサイズのパネルを形成した。合計45層を成形し、パネルから1インチ(2.54cm)×6インチ(15.24cm)の試料を切り出した。構造特性をASTM D790に従って判定した。その結果を下記の表5に示す。
【0069】
比較例15
成形圧力が150psi(1.0MPa)であった以外は、実施例14を繰り返した。構造特性を、ASTM D790に従って判定した。その結果を下記の表5に示す。
【0070】
【表5】

【0071】
表5からわかるように、高圧下で成形された、本発明のポリウレタン・マトリックス樹脂を使用するアラミド繊維複合体は、低圧下で成形された同様の複合体よりも強靭である。したがって、本発明は、防弾性および機械的諸特性を改善したアラミド繊維複合体を提供する。
【0072】
従って、本発明は、高圧下で成形した場合に、低圧下で成形した構造に比べて、防弾性、たとえば高エネルギー小銃弾に対する防弾性を改善したアラミド複合体防弾性構造を製造する方法を提供することがわかる。さらに、他のマトリックス樹脂の使用では、同じ改善は見られない。
【0073】
このように本発明をかなり詳細に説明したが、このような詳細な説明は厳密に固執する必要はなく、さらなる変更および修正はすべて、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲内に入ることを自ずと当業者に示唆することが理解されよう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高エネルギー小銃弾などに対する抵抗性を改善した防弾性複合材料を製造する方法であって、
高靭性アラミド繊維網を含む少なくとも1つの繊維層を準備する工程と、
該繊維層を熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、
該繊維層を少なくとも約1,500psi(10.3MPa)の圧力で成形する工程と、
を含んでなる、前記方法。
【請求項2】
それぞれが高靭性アラミド繊維網を含む少なくとも2つの繊維層を準備し、そして、該繊維層をそれぞれ熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、該繊維層を少なくとも約1,500psi(10.3MPa)の圧力で成形する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記繊維層を少なくとも約2000psi(13.8MPa)の圧力で成形する、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記繊維層を少なくとも約3000psi(20.7MPa)の圧力で成形する、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記繊維層を約75°F〜約260°F(24℃〜127℃)の温度で成形する、請求項2に記載の方法。
【請求項6】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の量が、複合材料の全重量の約1重量パーセント〜約40重量パーセントである、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記熱可塑性ポリウレタン樹脂の量が、複合材料の全重量の約10重量パーセント〜約30重量パーセントである、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
隣接する繊維層が互いに交差して積み重ねられている、請求項2に記載の方法。
【請求項9】
前記繊維層のそれぞれが、前記繊維が各層において一方向に配置されている不織布を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
隣接する繊維層が、前記不織繊維層が各層において一方向に配置されている前記繊維である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記繊維層が互いに90°で交差して積み重ねられている、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記繊維層の少なくとも1つと接触している少なくとも1つのプラスチックフィルムをさらに含む、請求項2に記載の方法。
【請求項13】
高エネルギー小銃弾などに対する抵抗性を改善した防弾性複合材料を製造する方法であって、
高靭性アラミド繊維網を含む第1の繊維層を準備する工程と、
前記第1の繊維層を第1の熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、
高靭性アラミド繊維網を含む第2の繊維層を準備する工程と、
前記第2の繊維層を第2の熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、
前記第1および第2の繊維層を少なくとも約1,500psi(10.3MPa)の圧力で成形する工程と、
を含む、前記方法。
【請求項14】
前記繊維層のそれぞれが不織布を含む、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記第1および第2の繊維層のそれぞれの前記繊維が各層において一方向に配置されている、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記繊維層が互いに90°で交差して積み重ねられている、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記繊維層を少なくとも約2000psi(13.8MPa)の圧力で成形する、請求項14に記載の方法。
【請求項18】
前記繊維層を少なくとも約3000psi(20.7MPa)の圧力で成形する、請求項14に記載の方法。
【請求項19】
前記繊維層を約75°F〜約260°F(24℃〜127℃)の温度で成形する、請求項14に記載の方法。
【請求項20】
前記第1および第2の熱可塑性ポリウレタン樹脂の量が、前記層のそれぞれの全重量の約1重量パーセント〜約40重量パーセントである、請求項16に記載の方法。
【請求項21】
前記第1および前記第2の熱可塑性ポリウレタン樹脂が同じポリウレタン樹脂である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記ポリウレタン樹脂が複数のポリウレタン樹脂のコポリマーミックスを含む、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
前記第1および第2の繊維層中の前記繊維の靭性が少なくとも約20g/dである、請求項21に記載の方法。
【請求項24】
前記第1および第2の繊維層中の前記繊維が、約200デニール〜約3000デニールである、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記繊維層の少なくとも1つと接触している少なくとも1つのプラスチックフィルムをさらに含む、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
請求項13に記載の方法で形成された物品。
【請求項27】
高エネルギー小銃弾などに対する抵抗性を改善した防弾性複合材料を製造する方法であって、
高靭性アラミド繊維網を含む第1の不織繊維層を準備する工程と、
前記第1の不織繊維層を第1の熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、
高靭性アラミド繊維網を含む第2の不織繊維層を準備する工程と、
前記第2の不織繊維層を第2の熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、
前記第1および第2の不織繊維層を、前記第1および第2の不織繊維層が互いに対して配向されているように配置する工程と、
前記第1および第2の繊維層を少なくとも約1,500psi(10.3MPa)の圧力で成形する工程と、
を含む、前記方法。
【請求項28】
前記繊維層を少なくとも約2000psi(13.8MPa)の圧力で成形し、前記第1および第2の繊維層のそれぞれの前記繊維が各層において一方向に配置され、前記繊維層が互いに90°で交差して積み重ねられている、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記第1および第2の熱可塑性ポリウレタン樹脂の量が、前記層のそれぞれの全重量の約10重量パーセント〜約30重量パーセントである、請求項28に記載の方法。
【請求項30】
請求項29に記載の方法で形成された物品。
【請求項31】
防弾防身具の高エネルギー小銃弾などに対する抵抗性を改善する方法であって、
高靭性アラミド繊維網を含む少なくとも第1の繊維層を準備する工程と、
前記第1の繊維層を第1の熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、
高靭性アラミド繊維網を含む少なくとも第2の繊維層を準備する工程と、
前記第2の繊維層を第2の熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、
前記第1および第2の繊維層を少なくとも約1,500psi(10.3MPa)の圧力で成形して、成形品を形成する工程と、
前記成形品から該防身具の少なくとも一部を形成する工程と、
を含む、前記方法。
【請求項32】
それぞれの繊維層が高靭性アラミド繊維網を含む少なくとも約40対の繊維層のそれぞれを、熱可塑性ポリウレタン樹脂でコーティングする工程と、前記繊維層を少なくとも約1,500psi(10.3MPa)の圧力で成形して、前記成形品を形成する工程とを含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
前記繊維層が不織布を含み、該繊維層の繊維が各層において一方向に配置され、前記繊維層が互いに90°で交差して積み重ねられている、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
前記繊維層の少なくとも1つと接触している少なくとも1つのプラスチックフィルムをさらに含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
請求項34に記載の方法で形成された防弾防護物品。

【公表番号】特表2009−527717(P2009−527717A)
【公表日】平成21年7月30日(2009.7.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−555526(P2008−555526)
【出願日】平成19年2月16日(2007.2.16)
【国際出願番号】PCT/US2007/062341
【国際公開番号】WO2008/063682
【国際公開日】平成20年5月29日(2008.5.29)
【出願人】(500575824)ハネウェル・インターナショナル・インコーポレーテッド (1,504)
【Fターム(参考)】