説明

改良水素化脱ろう触媒を使用する潤滑油基油の製造方法

ワックスを含有する潤滑油沸点範囲の供給流を、活性な金属酸化物と、第VIII族および第VIB族の金属から選択される少なくとも1種の水素化金属とを付着させた中細孔モレキュラーシーブを含有する水素化脱ろう触媒と接触させることによって、モータオイル用途の使用に適した基油に転化する、潤滑油基油の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油沸点範囲の供給流から潤滑油基油を製造する方法に関する。更に詳しくは、本発明は、ワックスを含有する潤滑油沸点範囲の供給流を、活性な金属酸化物と、第VIII族および第VIB族の金属から選択される少なくとも1種の水素化金属とを付着させた中細孔のモレキュラーシーブを含有する水素化脱ろう触媒と接触させることによって、モータオイル用途の使用に適した基油に転化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近まで、乗用車用潤滑油および商用車用潤滑油の規格は、最終製品の製造に使用される基油の特定の特性を向上させるための抗酸化剤、抗摩耗剤、洗浄剤および粘度調節剤などの添加剤に、より良好なものを使用することによって大きく向上した。1990年代に入ると、環境に対する関心の高まりとともに、基油そのものの性能に対する要求が増大してきた。低排出、低燃費などを通して、自動車の性能を向上させようとする装置メーカーの加速度的な取り組みから生まれてきた新たな要求に対し、添加剤のみでは対処できなくなってきたのにともない、潤滑油生成物自体の性能が急速に変化し始めた。北米では、過去10年にわたって、より厳しいILSAC、GF−1、GF2およびGF3規格のために、SAE5W−30油に対し、軽質基油の基油粘度指数(「VI」)を100から115に増大させることを要求している。VIは、実際の自動車の性能を支える特性である低温における粘度と揮発性を示すのに便利な指標である。このVI目標は、減圧蒸留、溶剤抽出および溶剤脱ろうという従来の分離法に基づく処理工程によって、殆どの原油から低収率でしか達成されない。ヨーロッパのACEA要求でも、同様の動向がある。
【0003】
水素化分解または溶剤抽出などの、従来の基油製造技術では、基油にそのような一段と高い品質を与えようとすれば、高圧高温、または、高い溶剤:油比および高い抽出温度といった厳しい運転条件が必要となる。いずれを選択しても、運転条件のために多額の費用がかかり、収率も低い。
【0004】
更に、温度が使用最低温度にまで低下しても流体を保持する潤滑油を製造するためには、殆どの潤滑油原料で、脱ろうを行わなければならない。脱ろうは、石油留分の中で容易に固化する炭化水素(即ちワックス)を分離または転化するプロセスである。潤滑油の沸点範囲を有するワックスおよびワックス様供給物の水素化脱ろう、および、そうしたプロセスに有用な触媒は、当技術分野ではよく知られている。一般に、これらのプロセスでは、モレキュラーシーブ成分と、第VIII族および/または第VIB族の金属から選択される成分とを含む触媒が使用される。
【0005】
油製品の性能に対する要求が増すにつれて、潤滑油基油の特性の向上に対する要求も増大する。この要求に応えるために、新規な様々な方法、活性、選択性および/または寿命特性が向上した触媒および触媒系の探求が現在行われている。このように、潤滑油市場においては、例えば低燃費、低排出などの、更に良好な性能への要求を満足するような潤滑油基油を製造することができる方法を提供することが要望されている。
【0006】
【特許文献1】米国特許第4,016,218号明細書
【特許文献2】米国特許第5,075,269号明細書
【非特許文献1】ダブリュー・エム・メイヤー(W.M.Maier)およびディー・エイチ・オルソン(D.H.Olson)著、「アトラス・オブ・ゼオライト・ストラクチャー・タイプス(Atlas of Zeorite Structure Types)」、ブッターワースズ(Butterworths)
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は潤滑油基油の製造方法に関する。本方法は、
a)潤滑油沸点範囲の供給流を、効果的な水素化脱ろう条件で運転される反応段で水素化脱ろう触媒と接触させて、潤滑油基油を製造する工程を含み、前記水素化脱ろう触媒が、
i)少なくとも1種の中細孔モレキュラーシーブ、
ii)希土類金属酸化物から選択される少なくとも1種の活性金属酸化物、および、
iii)第VIII族および第VIB族の金属から選択される少なくとも1種の水素化金属を含む
ことを特徴とするものである。
【0008】
本発明の一実施形態においては、水素化脱ろう触媒の少なくとも1種の活性金属酸化物は、第IIIB族希土類金属酸化物から選択される。
【0009】
更に別の実施形態においては、希土類金属酸化物はイットリアである。
【0010】
更に別の実施形態においては、水素化脱ろう触媒の、第VIII族および第VIB族金属から選択される少なくとも1種の水素化金属は、第VIII族貴金属から選択される。
【0011】
更に別の実施形態においては、水素化脱ろう触媒の、第VIII族および第VIB族金属から選択される少なくとも1種の水素化金属は、Pt、Pdおよびそれらの混合物から選択される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本方法は、潤滑油供給流を、効果的な水素化脱ろう条件で運転される反応段で水素化脱ろう触媒と接触させ、潤滑油基油を製造することを含む。水素化脱ろう触媒は、少なくとも1種の中細孔モレキュラーシーブ、希土類金属酸化物から選択される少なくとも1種の活性金属酸化物、および、第VIII族および第VIB族の金属から選択される少なくとも1種の水素化金属を含む。
【0013】
潤滑油供給流
本発明の使用に適した供給流は、潤滑油範囲で沸騰する、通常650°F(343℃)超の10%蒸留点(ASTM D86またはASTM 2887により測定)を有するワックス含有供給物であり、鉱物源、合成源またはこれら2つの混合物に由来するものである。適切な潤滑油供給流の例としては、ラフィネートなどの溶媒精製プロセスから得られる油、部分溶剤脱ろう油、脱瀝油、留出油、真空軽油、コーカーガスオイル、スラックワックス、フーツ油など、脱ろう油、オートマチックトランスミッション流体原料、フィッシャー・トロプシュワックスなどの供給源からのものが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。好ましい潤滑油原料は、ラフィネート、オートマチックトランスミッション流体原料および脱ろう油から選択されるものである。
【0014】
これらの供給流は、また、窒素および硫黄の不純物を高含量で含んでいてもよい。本方法では、供給物を基準にして0.2重量%までの窒素および3.0重量%までの硫黄を含有する供給物を使用することができる。ワックス含量の高い供給流は、通常、最大200またはそれ以上の高い粘度指数を有する。硫黄および窒素含量は、標準ASTM法のD5453およびD4629でそれぞれ測定することができる。
【0015】
水素化処理
一実施形態においては、潤滑油沸点範囲の供給流を、脱ろう触媒と接触させる前に、効果的な水素化処理条件で水素化処理することが好ましい。本明細書で用いられる効果的な水素化処理条件とは、潤滑油沸点範囲の供給流中に存在する硫黄不純物の少なくとも一部を除去し、それにより水素化処理された潤滑油沸点範囲の供給流を少なくとも製造するのに効果的な水素化処理条件と考えられるべきである。効果的な水素化処理条件の代表的なものとしては、100℃〜400℃の範囲の温度、50psig(446kPa)〜3000psig(20786kPa)の圧力、好ましくは50psig(446kPa)〜2500psig(17338kPa)の圧力が挙げられる。しかしながら、効果的な水素化処理条件および触媒は、本発明ではさほど重要ではなく、潤滑油沸点範囲の供給流から少なくとも一部の硫黄を除去するのに効果的な水素化処理条件であれば、いかなる条件でも使用することができる。また、いかなる水素化処理触媒も使用することができる。本明細書で用いられる「水素化処理」という用語は、主として硫黄や窒素などのヘテロ原子の除去に対して活性を有する適切な触媒の存在下で、水素を含有する処理ガスを使用する方法であることに留意されたい。本発明の使用に適した水素化処理触媒は、従来の水素化処理触媒のいかなるものであってもよく、表面積の大きい担体材料、好ましくはアルミナ上に、第VIII族の少なくとも1種の金属、好ましくはFe、CoおよびNi、より好ましくはCoおよび/またはNi、特に好ましくはCoと、第VI族の少なくとも1種の金属、好ましくはMoおよびW、より好ましくはMoとを含むものが挙げられる。同一反応容器中で2種以上の水素化処理触媒を使用することは、本発明の範囲に含まれる。第VIII族金属は、通常、2〜20重量%の範囲の量で存在し、好ましくは4〜12%である。第VI族金属は、通常、5〜50重量%の範囲の量で存在し、好ましくは10〜40重量%であり、より好ましくは20〜30重量%である。「担体上に」とは、パーセントが担体の重量に基づくものであることを意味している。例えば、担体が100グラムの重量であれば、20重量%の第VIII族金属は、20グラムの第VIII族金属が担体上に存在することを意味する。この実施形態では、潤滑油沸点範囲の供給流の水素化処理は、前述したように、効果的な水素化処理条件で運転される水素化処理反応段で進行する。潤滑油沸点範囲の供給流は、前述したように、水素化処理反応段で水素化処理触媒と接触し、気体反応生成物を含む水素化処理生成物が少なくとも生成され、液体反応生成物は水素化処理された潤滑油沸点範囲の供給流を含む。水素化処理された生成物は全て、後述の水素化脱ろう工程に送られる。しかしながら、水素化処理生成物は、気体反応生成物と、水素化処理された潤滑油沸点範囲の供給流を含む液体反応生成物に分離することが好ましい。本発明において分離方法はさほど重要ではなく、例えば、ストリッピング、ノックアウトドラムなどにより行うことができる。好ましくはストリッピングである。水素化処理された潤滑油沸点範囲の供給流は、その後、後述のように水素化脱ろう反応段で水素化脱ろう触媒と接触する。
【0016】
水素化処理反応段は、1つもしくはそれ以上の固定層反応器または反応ゾーンを含むことができ、それらの各反応器または各反応ゾーンは、同一の水素化処理触媒の1つまたはそれ以上の触媒層を含むことができる。他のタイプの触媒層を使用することもできるが、固定層が好ましい。そのような他のタイプの触媒層としては、流動層、沸騰層、スラリー層および移動層が挙げられる。脱硫反応は一般に発熱反応であるので、反応器または反応ゾーンの間で、あるいは、同一の反応器または反応ゾーン内の触媒層の間で、中間冷却または加熱が行われる。水素化処理過程で発生した熱の一部を回収することができる。この熱回収のオプションが利用できない場合には、冷却水または冷却空気などの冷却ユーティリティを使用して、あるいは、急冷水素流を使用して、従来の冷却を行ってもよい。このようにして、最適反応温度をより容易に維持することができる。
【0017】
水素化脱ろう触媒
前述したように、本発明で使用される水素化脱ろう触媒は、少なくとも1種の中細孔モレキュラーシーブを含む。本発明で使用される脱ろう触媒での使用に適した中細孔モレキュラーシーブは、シリコアルミノホスフェート(SAPO)などの酸性金属シリケート、および一次元10員環ゼオライト、即ち10員環を含む一次元チャネルを有する中細孔ゼオライトから選択することができる。モレキュラーシーブはゼオライトであることが好ましい。
【0018】
少なくとも1種のモレキュラーシーブとして有用なシリコアルミノホスフェート(SAPO)は、知られているSAPOのいかなるものであってもよい。好ましいSAPOとしては、SAPO−11、SAPO−34およびSAPO−41が挙げられる。
【0019】
しばしば一次元10員環ゼオライトと呼ばれる、本明細書で使用される脱ろう触媒での使用に適した中細孔ゼオライトは、知られているもののいかなるものでもよい。本明細書で使用される中細孔ゼオライトは、非特許文献1中で中細孔ゼオライトとして記載されているゼオライトのいかなるものでもよい。ゼオライトは多孔質の結晶物質であり、中細孔ゼオライトは、一般に、5〜7オングストロームの細孔径を有するものと定義され、n−ヘキサン、3−メチルペンタン、ベンゼンおよびp−キシレンなどの分子を自由に吸収する。中細孔ゼオライトに対してよく使われる別の分類としては、特許文献1に記載されている制限指数(Constraint Index)試験が挙げられ、前記文献は参照により本明細書に援用するものとする。中細孔ゼオライトの制限指数は、改質剤を含まず、触媒の拡散性を調節するための処理を行う前の、ゼオライトのみの状態で、通常、1〜12である。好ましい一次元10員環ゼオライトは、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−57、ZSM−48およびフェリエライトである。より好ましくは、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−48およびZSM−57である。特に好ましくはZSM−48である。ZSM−48の特に好ましい合成方法は、特許文献2に記載されているものである。
【0020】
中細孔モレキュラーシーブは、適切な多孔質のバインダー材もしくはマトリックス材と組み合わせることが好ましい。そのような材料の例としては、クレー、シリカおよび/またはアルミナなどの金属酸化物などの、活性および不活性な材料が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。複合化可能な天然クレーの例としては、サブベントナイトや、デキシー(Dixie)、マクナミー(MacNamee)、ジョージア(Georgia)およびフロリダ(Florida)クレーとしてよく知られているカオリンなどの、モンモリロナイトおよびカオリンの族からのクレーが挙げられるが、特にこれらに限定されるものではない。主な鉱物成分がハロイサイト、カオリナイト、ディッカイト、ナクライトまたはアナウキサイトである他のものも使用することができる。クレーは、もともとの混合されたままの状態で使用することもできるし、あるいは、か焼、酸処理または化学的改質を行った後に少なくとも1種のモレキュラーシーブと組み合わせることもできる。多孔質のマトリックス材またはバインダー材は、シリカ、アルミナまたはカオリンクレーの少なくとも1種を含むことが好ましい。バインダー材はアルミナを含むことがより好ましい。脱ろう触媒中のモレキュラーシーブの量は、触媒を基準にして10〜100重量%であり、好ましくは35〜100重量%である。そのような触媒は、スプレードライ、押し出しなどの方法によって製造することができる。脱ろう触媒は、硫化した形態で、または硫化していない形態で使用してよいが、硫化した形態で使用することが好ましい。
【0021】
本発明で使用される水素化脱ろう触媒は、また、希土類金属酸化物から選択される少なくとも1種の活性な金属酸化物を含む。本明細書で用いられる「希土類金属酸化物」とは、周期律表の57〜71の原子番号で表される元素、および、原子番号39であるが、多くの適用において希土類金属に類似の挙動を示すイットリウムを含む金属酸化物をいう。少なくとも1種の活性な金属酸化物は、イットリウムを含む周期律表の第IIIB族希土類金属の酸化物から選択することが好ましく、イットリアであることがより好ましい。
【0022】
少なくとも1種の活性な金属酸化物は、有効であると知られている任意の方法によって、前記中細孔モレキュラーシーブに取り込むことができる。適切な取り込み手段の例としては、特にこれらに限定されるものではないが、初期湿潤(incipient wetness)法、イオン交換法、金属酸化物前駆体をモレキュラーシーブおよびバインダーと機械的に混合する方法、または、これらの組み合わせが挙げられる。好ましい方法は、初期湿潤法である。
【0023】
中細孔モレキュラーシーブに取り込む、即ち付着させる活性金属酸化物の量は、触媒を基準にして0.1重量%超である。混合される金属酸化物の量は、好ましくは0.1重量%〜10重量%の範囲であり、より好ましくは0.5重量%〜8重量%の範囲であり、特に好ましくは1重量%〜4重量%の範囲である。
【0024】
本発明での使用に適した水素化脱ろう触媒には、また、第VIII族および第VIB族金属から選択される少なくとも1種の水素化金属が含まれる。従って、本発明での使用に適した水素化脱ろう触媒は2機能性である。第VIII族および第VIB族金属から選択される少なくとも1種の水素化金属は、金属性の水素化成分として機能する。第VIII族金属は、好ましくは第VIII族の貴金属から選択されるものであり、より好ましくはPt、Pdおよびこれらの混合物から選択されるものであり、Ptが特に好ましい第VIII族金属である。好ましい第VIB族金属としては、モリブデンおよびタングステンが挙げられる。特に好ましい実施形態においては、少なくとも1種の水素化金属は、第VIII族金属から選択され、好ましい第VIII族金属などは前記のとおりである。
【0025】
少なくとも1種の水素化金属は、少なくとも1種の活性金属酸化物が中細孔モレキュラーシーブに付着する前もしくは付着した後に、好ましくは付着した後に、中細孔モレキュラーシーブに取り込まれる、即ち付着される。少なくとも1種の水素化金属は、また、有効であると知られている任意の方法で、上記の活性金属酸化物含有中細孔モレキュラーシーブに取り込ませることができる。適切な取り込み方法の例としては、特にこれらに限定されるものではないが、初期湿潤法、イオン交換法、金属酸化物前駆体をモレキュラーシーブおよびバインダーと機械的に混合する方法、または、これらの組み合わせが挙げられる。好ましい方法は、初期湿潤法である。
【0026】
金属酸化物含有中細孔モレキュラーシーブに取り込む、即ち付着させる、少なくとも1種の水素化金属の量は、触媒を基準にして0.1〜30重量%である。少なくとも1種の水素化金属の量は、好ましくは0.2重量%〜25重量、より好ましくは0.5重量%〜20重量%、特に好ましくは0.6〜20重量%の範囲である。
【0027】
水素化脱ろう
本発明の一実施形態においては、潤滑油沸点範囲の供給流は、効果的な水素化脱ろう条件の反応段で上記水素化脱ろう触媒と接触する。本発明で使用される水素化脱ろう触媒を含有する反応段は、それぞれ1つもしくはそれ以上の同一もしくは相異なる触媒層を含むことができる、1つもしくはそれ以上の固定層反応器または反応ゾーンを含むことができる。他のタイプの触媒層を使用することもできるが、固定層が好ましい。そのような他のタイプの触媒層としては、流動層、沸騰層、スラリー層および移動層が挙げられる。反応器、反応ゾーンの間、または、同一の反応器内の触媒層の間で、中間冷却または中間加熱を行うことができる。発生した熱の一部は、回収することもできる。このような熱の回収を行うことができない場合には、冷却用の水または空気などの冷却ユーティリティ、あるいは、急冷用水素流を使用して、従来の冷却を行ってもよい。このようにして、最適反応温度をより容易に維持することができる。前記したような水素化処理を行うならば、脱ろう触媒を含む反応段はしばしば第2反応段と呼ばれることに注意すべきである。
【0028】
ここで使用される効果的な水素化脱ろう条件としては、温度250℃〜400℃、好ましくは275℃〜350℃、圧力791〜20786kPa(100〜3000psig)、好ましくは1480〜17338kPa(200〜2500psig)、液空間速度0.1〜10hr−1、好ましくは0.1〜5hr−1、水素処理ガス比45〜1780m/m(250〜10000scf/B)、好ましくは89〜890m/m(500〜5000scf/B)が挙げられる。
【0029】
本発明者らは、上記のような水素化脱ろう触媒を使用する本発明により、現在利用可能な商業的脱ろう法と比較して、収率が高くなり、粘度指数(「VI」)のより良好な潤滑油沸点範囲生成物が提供されることを見出した。収率の上昇は、しばしば収率クレジットと呼ばれるが、供給物を基準にして10%のオーダーであり、VIの上昇は、しばしばVIクレジットと呼ばれるが、1〜5VIポイントのオーダーである。
【0030】
以上の説明は、本発明の好ましい実施形態に対するものである。当業者であれば、本発明の趣旨を実行するために、同様の効果を有する他の実施形態が考案されることは認識するであろう。
【0031】
以下の実施例は、本発明の一段と向上した効果を示すものであるが、本発明をいかなる方法をもっても限定するものではない。
【実施例】
【0032】
実施例1−触媒の調製
比較用触媒−触媒A
65部のZSM−48結晶(Si/Al〜200/l)を35部の擬ベーマイトアルミナとともに押し出して比較用基本触媒を調製した。押し出し後、押出物を空気中で121℃で乾燥させ、その後、窒素中538℃でか焼してゼオライト中の有機テンプレートを分解した。分解後、押出物を1NのNHNO硝酸塩で交換してナトリウムを除去し、その後、121℃の追加乾燥工程を行った。第2乾燥工程の後、触媒を空気中538℃でか焼し、NH型のZSM−48のH型への変換、および、窒素分解後に触媒上に残る残留炭素の除去を行った。その後、H型の押出物に、硝酸テトラアムミン白金および水を使用して初期湿潤法により、0.6重量%のPtを含浸させた。含浸後、121℃で触媒を再度乾燥させて過剰の水を除去し、その後、360℃で緩和な空気か焼を行い、金属塩を分解して白金酸化物とした。
【0033】
本発明の使用に適した触媒−触媒B
上記基本触媒と同様にして、1重量%のイットリウムを含有するZSM−48触媒を調製したが、硝酸テトラアムミン白金を含浸する前に、H型の押出物に初期湿潤法により硝酸イットリウムの硝酸塩(1重量%イットリウム)を含浸させた。その後、空気流中、538℃でイットリウム含有触媒をか焼し、硝酸イットリウムを分解してイットリウム酸化物とした。か焼後、イットリウム含有ZSM−48押出物に、硝酸テトラアムミン白金および水を使用して初期湿潤含浸法により、0.6重量%のPtを含浸させた。Pt含浸後、得られた触媒を再度121℃で乾燥させて過剰の水を除去し、その後、360℃で緩和な空気か焼を行い、金属塩を分解して白金酸化物とした。
【0034】
実施例2−触媒の使用
上記実施例1の触媒AおよびBを別々に使用し、予め水素化処理した150Nスラックワックス(ガスクロマトグラフィーによれば、硫黄5重量ppm、窒素4重量ppm、平均沸点420℃)を脱ろうした。触媒Aおよび触媒Bの両者とも、下記の同一のプロセス条件で使用した。
【0035】
触媒Aおよび触媒Bを2つの別の実験に使用し、それぞれ、温度325℃、圧力1000psig(6996kPa)、液空間速度1hr−1、および水素処理ガス比2500scf/bbl(445m/m)を含む同一の脱ろう条件を使用した。150Nスラックワックス供給物の脱ろうは、炭化水素供給物および水素の同時供給が可能な単純な垂直管型反応器中で実施した。これらの実験結果を図1、図2、図3および図4に示す。
【0036】
図1は、本発明、即ち触媒Bを使用する方法において、触媒Aを使用する水素化脱ろう方法に対して予想を超える改善がみられたことを示している。図1に示すように、本発明の予想を超える改善の1つは、−20℃の一定の流動点において、同一の水素化脱ろう条件で、触媒Aを使用する水素化脱ろう法では、供給物基準で49重量%の収率を与えるのに対し、触媒Bを使用する水素化脱ろう法、即ち本発明の方法では、供給物基準で59重量%の収率を与えることである。
【0037】
図2は、本発明の更に別の予想を超える改善を示す。図2は、本発明では、触媒Aを使用する水素化脱ろう法で生成された生成物に比べて粘度指数(「VI」)が2〜5VIポイント高い生成物が生成されることを示している。
【0038】
図3および図4は、比較したとき、本発明の別の予想を超える改善を示す。図3は、本発明、即ち触媒Bのような触媒を使用する方法では、5日より前に定常化し、本発明では、5〜23日の通油日数にわたって、一定の流動点において82%の収率(370℃+高真空(Hi−Vac)収率と定義されるもの)が得られることを示している。しかしながら、図4は、同一の脱ろう条件を用いるが触媒Aを使用する水素化脱ろう法では、定常化に非常に長い時間を要することを示している。図4に示すように、触媒Aを使用する水素化脱ろう法では、75+日の通油日数の後でさえ、定常状態に達していない。更に、この方法では、触媒Bを使用する水素化脱ろう法の高い370℃+高真空(Hi−Vac)収率に達していない。
【0039】
このように、図1、図2、図3および図4は、本発明が、予想を超える急速な定常化時間と、従来のZSM−48をベースとする水素化脱ろう触媒を使用する方法より高い生成物収率および高い生成物VIとを有する水素化脱ろう方法を提供することを示している。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明によるZSM−48触媒を使用して150Nスラックワックスを水素化脱ろうして得られた潤滑油基油の流動点と収率の関係を、従来のZSM−48ベースの水素化脱ろう触媒を使用した場合と比較して示すグラフである。
【図2】本発明によるZSM−48触媒を使用して150Nスラックワックスを水素化脱ろうして得られた潤滑油生成物の流動点と粘度指数の関係を、従来のZSM−48ベースの水素化脱ろう触媒を使用した場合と比較して示すグラフである。
【図3】本発明における、一定の流動点での収率と通油時間との関係を示すグラフである。
【図4】従来のZSM−48水素化脱ろう触媒を使用した場合の、一定の流動点での収率と通油時間との関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油の製造方法であって、
a)潤滑油沸点範囲の供給流を、効果的な水素化脱ろう条件で運転される反応段で水素化脱ろう触媒と接触させて、潤滑油基油を製造する工程
を含み、
前記水素化脱ろう触媒は、
i)少なくとも1種の中細孔モレキュラーシーブ、
ii)希土類金属酸化物よりなる群から選択される少なくとも1種の活性金属酸化物、および、
iii)第VIII族および第VIB族の金属よりなる群から選択される少なくとも1種の水素化金属
を含むことを特徴とする潤滑油基油の製造方法。
【請求項2】
潤滑油基油の製造方法であって、
a)ラフィネートなどの溶媒精製プロセスから得られる油、部分溶剤脱ろう油、脱瀝油、留出油、真空軽油、コーカーガスオイル、スラックワックス、フーツ油など、脱ろう油、オートマチックトランスミッション流体原料、フィッシャー・トロプシュワックスなどの供給源から得られるものよりなる群から選択される、潤滑油沸点範囲の供給流を、表面積の大きい担体材料上に少なくとも1種の第VIII族金属と少なくとも1種の第VI族金属とを含む水素化処理触媒と、効果的な水素化処理条件で運転される水素化処理反応段において、水素含有処理ガスの存在下で接触させて、気体反応生成物および水素化処理された潤滑油沸点範囲の供給流を含む液体反応生成物を含む水素化処理生成物を少なくとも製造する工程;
b)前記水素化処理生成物を、前記気体反応生成物と、水素化処理された潤滑油沸点範囲の供給流を含む前記液体反応生成物に分離する工程;および
c)前記水素化処理された潤滑油沸点範囲の供給流を、効果的な水素化脱ろう条件で運転される水素化脱ろう反応段において水素化脱ろう触媒と接触させて、潤滑油基油を製造する工程であって、前記水素化脱ろう触媒は、
i)酸性金属シリケートおよびゼオライトよりなる群から選択される少なくとも1種の中細孔モレキュラーシーブ、
ii)希土類金属酸化物よりなる群から選択される少なくとも1種の活性金属酸化物、および、
iii)第VIII族および第VIB族の金属よりなる群から選択される少なくとも1種の水素化金属
を含む工程
を含むことを特徴とする潤滑油基油の製造方法。
【請求項3】
前記潤滑油原料は、ASTM D86またはASTM 2887による測定で650°F(343℃)超の10%蒸留点を有し、鉱物源、合成源またはこれら2つの混合物に由来することを特徴とする請求項1または2に記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項4】
前記潤滑油原料は、潤滑油原料を基準にして0.2重量%以下の窒素および潤滑油原料を基準にして3.0%以下の硫黄を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項5】
前記中細孔モレキュラーシーブは、酸性金属シリケートおよびゼオライトから選択されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項6】
前記酸性金属シリケートは、SAPO−11、SAPO−34およびSAPO−41から選択されるシリコアルミノホスフェート(SAPO)であることを特徴とする請求項5に記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項7】
前記中細孔モレキュラーシーブは、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35、ZSM−57、ZSM−48およびフェリエライトから選択されるゼオライトであることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項8】
前記中細孔モレキュラーシーブは、適切な多孔質のバインダーまたはマトリックス材と、バインダー1部に対してゼオライトが15部未満の量で複合化されており、
前記バインダーまたはマトリックス材は、アルミナ、シリカ、チタニア、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、炭素、ジルコニア、珪藻土、ランタニド酸化物(酸化セリウム、酸化ランタン、酸化ネオジム、酸化イットリウムおよび酸化プラセオジムを含む)、クロミア、酸化トリウム、ウラニア、ニオビア、タンタラ、酸化スズ、酸化亜鉛並びに燐酸アルミニウムよりなる群から選択される
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項9】
前記適切な多孔質のバインダーまたはマトリックス材はアルミナであり、前記活性金属酸化物は、イットリアを含む周期律表の第IIIB族の希土類金属酸化物から選択されることを特徴とする請求項9に記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項10】
前記少なくとも1種の活性金属酸化物と前記少なくとも1種の水素化金属は、初期湿潤法、イオン交換法、金属酸化物前駆体を前記中細孔モレキュラーシーブおよびバインダーと機械的に混合する方法、並びにこれらの組み合わせから選択される方法によって、中細孔モレキュラーシーブ上に付着されていることを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項11】
前記少なくとも1種の活性金属酸化物は、触媒を基準にして0.1重量%を超える量が、中細孔モレキュラーシーブ上に付着されていることを特徴とする請求項1〜10のいずれかに記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項12】
前記少なくとも1種の水素化金属は、第VIII族金属よりなる群から選択されることを特徴とする請求項1〜11のいずれかに記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項13】
前記少なくとも1種の水素化金属は、触媒を基準にして0.1〜30重量%の範囲の量が、中細孔モレキュラーシーブ上に付着されていることを特徴とする請求項1〜12のいずれかに記載の潤滑油基油の製造方法。
【請求項14】
前記効果的な水素化脱ろう条件は、温度250℃〜400℃、圧力791〜20786kPa、液空間速度0.1〜10hr−1および水素処理ガス比45〜1780m/mを含むことを特徴とする請求項1〜13のいずれかに記載の潤滑油基油の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2008−512512(P2008−512512A)
【公表日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−530335(P2007−530335)
【出願日】平成17年8月26日(2005.8.26)
【国際出願番号】PCT/US2005/031060
【国際公開番号】WO2006/028881
【国際公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【出願人】(390023630)エクソンモービル リサーチ アンド エンジニアリング カンパニー (442)
【氏名又は名称原語表記】EXXON RESEARCH AND ENGINEERING COMPANY
【Fターム(参考)】