説明

改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材、およびプリント回路基板用樹脂基板

【課題】既存のガラス繊維織物材料に比べて低い誘電率と低い誘電正接など優れた高周波特性を有する、改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材、およびプリント回路基板用樹脂基板の提供。
【解決手段】環状オレフィン共重合体(cyclic olefin copolymer)の主鎖に少なくとも一つの不飽和カルボキシル基を有するモノマーがグラフトされた、改質された環状オレフィン共重合体を溶融させてなる繊維から製造され、前記改質された環状オレフィン共重合体が2〜3の誘電率および0.002〜0.005の誘電正接を有することを特徴とする、改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材、およびプリント回路基板用樹脂基板に関する。より具体的には、プリント回路基板用資材である銅張積層板(Copper Clad Laminate:CCL)およびプリプレグ(Prepreg)などの機械的物性、特に剛性(Stiffness)を向上させるために高分子樹脂の内部に入る繊維織物強化材において、改質された環状オレフィン共重合体を用いて、既存のガラス繊維織物(Glass Fabric or Woven Glass)材料に比べて低い誘電率と低い誘電正接など優れた高周波特性が発現される、改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材、およびプリント回路基板用樹脂基板に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、情報化社会の渡来に伴って携帯電話、衛星放送、無線ネットワークなどの通信システムがデジタル化されており、情報量の増加に伴ってその伝送速度も益々速くなっている。これにより、通信機器および装置における動作周波数は高周波化する趨勢にある。
一方、高周波回路において絶縁材料の高誘電率は、伝送速度を低下させ、近隣信号との雑音を発生させるという問題があるうえ、信号の誘電体損失を大きくするという問題がある。これにより、多層プリント回路基板の材料も、電子システムの高周波に対応するために、さらにより低い誘電率を有する絶縁材料の開発が活発に行われている。
【0003】
銅張積層板やプリプレグなどのプリント回路基板用資材における絶縁層は、通常、ガラス繊維などを撚って、高い機械的強度および寸法安定性を有する織物の形に作った強化材と高分子樹脂とから構成される。
【0004】
このようなプリント回路基板用資材の製造方法は、一般に、ガラス繊維織物を未硬化状態の高分子樹脂に含浸し、半硬化状態に乾燥させて、多層プリント回路基板の層間接着のために用いられるプリプレグを製作し、その両面または片面に銅箔を熱間圧着によって付着させて片面または両面銅張積層板を製作する。
【0005】
最近使用されている高分子樹脂としては、既存の誘電率3.5以上のFR−4などのエポキシ樹脂に比べて低い誘電率を有するBT(Bismaleimide Triazine)樹脂、ポリフェニレンオキシド(PPO)樹脂、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Poly tetra Fluoro Ethylene)樹脂、液晶ポリマー(Liquid Crystal Polymer)などが挙げられるが、これらはプリント回路基板絶縁材への適用だけでなく、高分子樹脂の改質によって誘電率を低めて高周波電子回路に対応している。
【0006】
一方、ガラス繊維織物は、銅張積層板やプリプレグなどのプリント回路基板用資材において、たわみ強度などの機械的特性と熱、圧力などに対する寸法安定性を維持させて工程の進行を可能にする役割を行う。
【0007】
このようなガラス繊維織物は、直径約10μm程度のガラス繊維を60本程度撚り合わせてガラス糸を作った後、これを繊維に製織する。その代表的な例として、ガラス繊維織物の製造に主に用いられるEガラスの組成は、主成分SiO(約54.3重量%)とAl、MgO、B、CaO、Feなどの添加剤とから構成されている。
【0008】
このように強化材として用いるためのガラス繊維織物として、上述したEガラスの他に、ガラス製造会社を中心として、組成の開発によって誘電率および誘電正接を低める研究が進行中である。
【0009】
これに関連し、通常、銅張積層板およびプリプレグなどプリント回路基板用資材において強化材として用いられるガラス繊維織物の誘電率を低めるための従来の方法は、(1)ガラス繊維織物に用いられるガラス繊維の組成開発による方法と、(2)複合材料からなる繊維で強化材用繊維織物を製造する方法の2通りに大別される。
【0010】
まず、ガラス繊維織物に使用されるガラス繊維の組成の開発によって誘電率を低める方法について説明する。
誘電率を低めるために開発されたガラス組成およびその特性を、表1にまとめて示したが、現在プリント回路基板用資材のガラス繊維織物として最も多く適用されているEガラスの場合、6.6の高誘電率を持っているため、高周波回路用絶縁材料の強化材として不適である。一方、DガラスとQガラスの場合は、Eガラスと比較してそれぞれ4.7、3.9程度の低誘電率を有するものの、低い溶融特性により加工性が悪くてガラス繊維の表面に多くのスクラッチが発生し、内部に気泡が存在するという問題があるうえ、低い耐湿性により樹脂との接着力が劣ってプリント回路基板の信頼性が問題となる。
【0011】
表1.商用ガラス繊維の組成および主要特性

【0012】
上述したガラス組成の他に、誘電率を低めるためのガラスの組成関連文献を考察すると、特許文献1には50〜66重量%のSiO、10〜25重量%のAl、5〜15重量%のB、15重量%以下のMgO、5重量%以下のTiO、および15重量%以下のZnOの組成比を有し、Al/MgOの重量比が2〜2.5であるガラスであって、熱膨張率が1〜2.3ppm/Kであり、弾性係数が10Mpsi以上であり、約6以下の誘電率特性を有するガラス繊維組成物が開示されている。
【0013】
また、特許文献2には、50〜60重量%のSiO、10〜18重量%のAl、11〜25重量%のB、6〜14重量%のMgO、1〜10重量%のCaO、0〜10重量%のZnOの組成を有するガラス繊維組成物が開示されている。特許文献2によれば、生産性を高めるために、6重量%以上のMgOと10.5〜15重量%のMgO+CaO+ZnOを添加したが、MgOが容易に相分離されて誘電正接を高めるという問題点がある。
【0014】
特許文献3には、50.0〜65重量%のSiO、10.0〜18重量%のAl、1〜25重量%のB、0〜10重量%のCaO、0〜10重量%のZnO、1〜10重量%のSrO、および1〜10重量%のBaOの組成を有するガラス繊維組成物が開示されている。特許文献3によれば、誘電率を低めようとしたが、前記組成において溶融ガラスの粘度を低めて作業性を高めるために必須的に添加されなければならないBaOの誘電率が高いため、誘電率を低めるには限界があり、また溶解炉を腐食させるという問題点も存在する。
【0015】
一方、特許文献4には、50〜60重量%のSiO、10〜20重量%のAl、20〜30重量%のB、0〜5重量%のCaO、0〜4重量%のMgO、0〜0.5重量%のLiO+NaO+KO、0.5〜5重量%のTiOのガラス繊維組成で4.2〜4.5の誘電率を得ることができることが開示されている。
【0016】
この他にも、特許文献5および特許文献6には、作業性を保ちながら低い誘電率を有するガラス組成関連技術が開示されている。
【0017】
このように、上述した従来の技術に係るガラス繊維組成の場合、既存の誘電率6.6のEガラスからガラス組成の変更によって誘電率を低める方向への研究が行われた結果、誘電率を4程度にまで低めることができた。ところが、溶融特性の低下による加工性の問題により気孔および表面不良が発生するうえ、ガラスの主組成SiOの誘電率が3.9程度であって、その以下の誘電率を有するガラス繊維を組成の開発によって得ることには限界がある。
【0018】
次に、複雑材料からなる繊維で製造された強化材用繊維織物を用いてガラス繊維織物の誘電率を低めるための方法について説明する。例えば、特許文献7には、プリント回路基板用資材の強化材として用いられる繊維織物として、ガラス繊維、耐熱プラスチック繊維およびフッ素樹脂繊維を共に用いて製作された繊維織物が開示されているが、前記特許による繊維織物は、一定水準の機械的強度と耐熱性を保ち且つ低誘電率特性を有する。
【0019】
ところが、上述したような複合材料を用いた強化材の低誘電率化方法も、やはり限界があって、現在急速に行われている電子システムの高周波化への対応に難しさが多い。
【0020】
このように、急激な電子機器の高周波化に伴い、誘電率と誘電正接が低い銅張積層板およびプリプレグなどプリント回路基板用資材に対する要求が益々大きくなっており、このような要求から、プリント回路基板業界では、既存のエポキシ樹脂の改質および高周波誘電特性が高い樹脂の適用、およびプリント回路基板用資材の強化材として用いられるガラス繊維織物のガラス組成を開発する方向へ電子機器の高周波化に対応する研究が盛んに行われているが、未だ満足すべき技術開発はなされていないのが実情である。
【特許文献1】米国特許4,582,748号明細書
【特許文献2】特開平6−219780号公報
【特許文献3】特開平7−10598号公報
【特許文献4】米国特許第5,958,808号明細書
【特許文献5】米国特許6,309,990−B2号明細書
【特許文献6】特開平10−102366号公報
【特許文献7】米国特許第4,937,132号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
そのため、本発明者は、このような問題点を解決するために広範囲な研究を鋭意重ねた結果、改質された環状オレフィン共重合体からなる繊維織物を用いて通常のプリント回路基板用資材の機械的特性および高周波特性を同時に向上させることができることを見出し、本発明の完成に至った。
【0022】
そこで、本発明の目的は、既存のガラス繊維織物材料に比べて低い誘電率と低い誘電正接など優れた高周波特性を有する、改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材を提供することにある。
【0023】
また、本発明の他の目的は、前記繊維織物強化材が含浸されたプリント回路基板用樹脂基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、環状オレフィン共重合体の主鎖に少なくとも一つの不飽和カルボキシル基を有するモノマーがグラフトされた、改質された環状オレフィン共重合体を溶融させてなる繊維から製造され、前記改質された環状オレフィン共重合体が2〜3の誘電率および0.002〜0.005の誘電正接を有することを特徴とする、改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材が提供される。
【0025】
ここで、前記繊維は、平均直径が5〜20μmであることが好ましい。
【0026】
一方、前記改質された環状オレフィン共重合体は、反応開始剤の存在下で、反応性押出法によって、前記環状オレフィン共重合体の主鎖に少なくとも一つの不飽和カルボキシル基を有するモノマーをグラフトさせて製造される。
【0027】
前記環状オレフィン共重合体のTmは、250〜400℃であることが好ましい。
前記モノマーは、好ましくは不飽和カルボン酸、エチレン系不飽和カルボン酸エステル、エチレン系不飽和カルボン酸無水物、およびこれらの混合物よりなる群から選ばれる。
【0028】
前記反応開始剤は、アシルペルオキシド、ジアルキルまたはアラルキルペルオキシド、ペルオキシ酸エステル、ヒドロペルオキシド、ケトンペルオキシド、アゾ化合物、およびこれらの混合物よりなる群から選ばれることが好ましい。
【0029】
また、本発明の他の観点によれば、絶縁樹脂と、上述したような本発明に係る強化材とを含むことを特徴とする、プリント回路基板用樹脂基板が提供される。
【0030】
ここで、絶縁樹脂は、好ましくはエポキシ樹脂、BT(Bismaleimide Triazine)樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、液晶ポリマー樹脂およびこれらの混合物よりなる群から選ばれる。
【発明の効果】
【0031】
上述したように、本発明に係る繊維織物強化材は、不飽和カルボキシル基がグラフトされた環状オレフィン共重合体を溶融させてなる繊維を用いることにより、既存のガラス繊維織物材料と同等またはそれ以上の機械的特性を与えることができ、低い誘電率と低い誘電正接など優れた高周波特性を発現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明をより具体的に説明する。
前述したように、本発明は、銅張積層板やプリプレグなどのプリント回路基板用資材において強化材として用いられる繊維織物の材料に関するもので、ポリオレフィンと共重合する環状オレフィンである環状オレフィン共重合体(Cyclic Olefin Copolymer:COC)を繊維織物の材料として使用することにより、既存のガラス繊維で製織された織物に比べて優れた機械的強度および寸法安定性を維持しながら、誘電率を60%程度低めることが可能な繊維織物強化材およびプリント回路基板用樹脂基板を提供する。
【0033】
通常の環状オレフィン共重合体において環状オレフィンと共重合するポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど、CとHから構成されている全ての高分子)は、機械的、電気的物性に優れて様々な用途に用いられている。特に、その構造が単純で且つ加工性に優れるため、フィルムや容器、ビニールバックなどの製造に多用されており、押出や射出などの高分子加工分野の研究にも広く用いられている。
【0034】
このようなポリオレフィンの中でも、分子量が数百万以上となる超高分子量ポリエチレンの場合、優れた機械的物性、特に延伸などによって高分子鎖に方向性を与えると、数十〜数百GPaの強い機械的物性を示して銅張積層板およびプリプレグなどプリント回路基板用資材の強化材として使われ、その機械的強度を高めることができる。
【0035】
これに対し、ポリエチレンまたは超高分子量ポリオレフィンは、電気的に非極性を持つので、ナイロン、ポリエステル、アルミニウム、鉄、紙および木材などの極性基材だけでなく、同種のポリオレフィンとの相溶性および接着性にも優れないため、その使用が制限されてきた。
【0036】
このため、本発明では、環状オレフィン共重合体の主鎖に少なくとも一つの不飽和カルボキシル基を有するモノマーをグラフトさせた、改質された環状オレフィン共重合体を繊維織物の材料として使用することにより、樹脂との接着性を向上させることができる。
【0037】
前記改質された環状オレフィン共重合体は、好ましくは反応開始剤の存在下で低コストの高分子合成法である反応性押出法によって、親水性基を持つように改質することにより、製造される。
【0038】
前記改質された環状オレフィン共重合体の製造の際、反応物として使われる環状オレフィン共重合体は、好ましくは溶融温度(Melting Point:Tm)250〜400℃の化合物であることがよく、例えばノルボルネン、エチレンなどを重合単位で含有する化合物を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。ここで、前記環状オレフィン共重合体のTmが250℃未満の場合には、基板の積層工程の際に繊維織物強化材が融けて変形が大きくなり、前記環状オレフィン共重合体のTmが400℃超過の場合には、繊維を製作するときの温度が高くなって加工性が低下するという問題点が発生する。
【0039】
前記改質反応の際に使用されるグラフトモノマーは、好ましくは不飽和カルボン酸、エチレン系不飽和カルボン酸エステル、エチレン系不飽和カルボン酸無水物、およびこれらの混合物よりなる群から選ばれる。
【0040】
さらに好ましくは、前記グラフトモノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリン酸、マレイン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸系;グリシジルメタクリレート、メチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、モノエチルマレエート、ジエチルマレエート、ジ−n−ブチルマレエートなどのエチレン系不飽和カルボン酸エステル系;および無水マレイン酸、5−ノルボルネン−2,3−無水物、ナディックアンハイドライド(Nadic anhydride)などのエチレン系不飽和カルボン酸無水物系が使用される。
最も好ましくは、前記グラフトモノマーとしては、メチルメタクリレートまたは無水マレイン酸が使用される。
【0041】
一方、前記反応性溶融法によってグラフトモノマーを環状オレフィン共重合体にグラフトさせるために使用される反応開始剤としては、アシルペルオキシド、ジアルキルまたはアラルキルペルオキシド、ペルオキシエステル、ヒドロペルオキシド、ケトンペルオキシド、アゾ化合物、およびこれらの混合物よりなる群から選ばれる。
【0042】
好ましくは、前記アシルペルオキシドとしては、ベンゾイルペルオキシドがあり、前記ジアルキルまたはアラルキルペルオキシドとしては、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、クミルブチルペルオキシド、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキサン、ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼンなどがある。また、前記ペルオキシエステルの例としては、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ブチルジ(ペルフタレート)、ジアルキルペルオキシモノカーボネート、ペルオキシジカーボネート、t−ブチルペルベンゾエート、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ジ(ペルベンゾエート)、t−ブチルペルオクトエート(t-butyl peroctoate)などがあり、前記ヒドロペルオキシドの例としては、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メタンヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどがあり、前記ケトンペルオキシドの例としては、シクロヘキサノンペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシドなどがあり、前記アゾ化合物系としては、アゾビスイソブチロニトリルなどがある。
最も好ましくは、前記反応開始剤としては、ジクミルペルオキシドが使用される。
【0043】
上述したように改質された環状オレフィン共重合体は、主鎖のエチレン部分に、親水性機能基として−COOHまたは−COOCHなどの少なくとも一つの不飽和カルボキシル基を有するモノマーがグラフトされて導入されることにより、優れた接着特性を持つ。
【0044】
また、前記改質された環状オレフィン共重合体は、誘電率が約3以下と低く、約0.005以下の誘電正接を有するなど電気的特性に優れるうえ、透明な光学的特性を持つ。
【0045】
材料的限界と実際製造上の経済性対比効率性を考慮するとき、好ましくは、本発明で使用される改質された環状オレフィン共重合体は、2〜3の誘電率および0.002〜0.005の誘電正接を有する。前記改質された環状オレフィン共重合体の誘電率が上記の範囲を超過する場合には、基板絶縁材料の誘電率を低めて、高周波信号の伝送の際に発生する信号間干渉を減らす効果を十分得ることができない。また、誘電正接が上記の範囲を超過する場合には、信号の損失を減らす効果が低下して好ましくない。
【0046】
しかも、前記改質された環状オレフィン共重合体の分子量および構造、並びにポリオレフィンと環状オレフィンの重合比を使用の目的に応じて適切に調節することにより、ガラス転移温度を400℃以上まで高めることができるため、プリント回路基板用資材において強化材用材料として適用するに際して必須的に要求される耐熱性を確保することができる。
【0047】
一方、上述した特性を持つように改質された環状オレフィン共重合体は、溶融加工法によって加工してフィラメントに製作し、これから得られた複数の繊維を糸に製作し、さらに前記糸を編んで本発明に係る繊維織物強化材を得る。
【0048】
ここで、前記改質された環状オレフィン共重合体からなる繊維は、平均直径が5〜20μmとなるように製作されることが、繊維を撚って糸を作り、さらにこれを織物に製織する工程の側面で好ましい。
【0049】
前述した本発明に係る、改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物は、高周波用プリント回路基板資材の強化材として用いて、通常のプリント回路基板用絶縁樹脂に含浸させて基板を製作する場合、既存の通常の強化材を用いて製作した基板に比べてより低い誘電率および誘電正接など優れた誘電特性を発現させることができる。
【0050】
また、樹脂の種類によっては、より低い誘電率を持つ樹脂、例えば液晶ポリマー樹脂と共に使用する場合、約2.5以下の誘電率を持つ銅張積層板およびプリプレグ資材の開発が可能である。
【0051】
前記絶縁樹脂は、特に限定されず、好ましくはエポキシ樹脂、BT(Bismaleimide Triazine)樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、液晶ポリマー樹脂およびこれらの組み合わせよりなる群から選ばれる。
【実施例】
【0052】
以下、下記実施例によって本発明をより具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。
実施例1.
Tm300℃の環状オレフィン共重合体(以下、「COC」という)100重量部に対して20重量部のメチルメタクリレートと10重量部のジクミルペルオキシドを約25℃の温度で攪拌した後、2軸押出機に投入した。これを約300℃の押出温度で約15分間押し出し、熱キシレンに溶解させた後、冷アセトンに沈澱させて不純物を除去した。これから得た沈澱物を約60℃の温度で乾燥させて、モノマーがグラフトされたCOC(以下、「GRA−COC」という)を得た。これから製造されたGRA−COCは、2.8の誘電率および0.003の誘電正接を示した。
【0053】
次に、前記GRA−COCを溶融させて直径約10μmの繊維状に製作した後、これを多数本撚り合わせて糸を作り、これから得られた糸をさらに厚み約170μmの織物に製造した。
【0054】
実施例2.
Tm300℃のCOC100重量部に対して20重量部の無水マレイン酸と10重量部のジクミルペルオキシドを約25℃の温度で攪拌した後、2軸押出機に投入した。これを約300℃の押出温度で約15分間押し出し、熱キシレンに溶解させた後、冷アセトンに沈澱させて不純物を除去した。これから得た沈澱物を約60℃の温度で乾燥させて、モノマーがグラフトされたGRA−COCを得た。これから製造されたGRA−COCは、2.7の誘電率および0.003の誘電正接を示した。
【0055】
次に、前記GRA−COCを溶融させて直径約10μmの繊維状に製作した後、これを多数本撚り合わせて糸を作り、これから得られた糸をさらに厚み約170μmの織物に製造した。
【0056】
実施例3.
Tm300℃のCOC100重量部に対して20重量部のメチルメタクリレートと10重量部のベンゾイルペルオキシドを約25℃の温度で攪拌した後、2軸押出機に投入した。これを約300℃の押出温度で約15分間押し出し、熱キシレンに溶解させた後、冷アセトンに沈澱させて不純物を除去した。これから得た沈澱物を約60℃の温度で乾燥させて、モノマーがグラフトされたGRA−COCを得た。これから製造されたGRA−COCは、2.6の誘電率および0.003の誘電正接を示した。
【0057】
次に、前記GRA−COCを溶融させて直径約10μmの繊維状に製作した後、これを多数本撚り合わせて糸を作り、これから得られた糸をさらに厚み約170μmの織物に製造した。
【0058】
実施例4.
Tm300℃のCOC100重量部に対して20重量部のメタクリル酸と10重量部のベンゾイルペルオキシドを約25℃の温度で攪拌した後、2軸押出機に投入した。これを約300℃の押出温度で約15分間押し出し、熱キシレンに溶解させた後、冷アセトンに沈澱させて不純物を除去した。これから得た沈澱物を約60℃の温度で乾燥させて、モノマーがグラフトされたGRA−COCを得た。これから製造されたGRA−COCは、2.9の誘電率および0.004の誘電正接を示した。
【0059】
次に、前記GRA−COCを溶融させて直径約10μmの繊維状に製作した後、これを多数本撚り合わせて糸を作り、これから得られた糸をさらに厚み約170μmの織物に製造した。
【0060】
上述した本発明の実施例によって製造された繊維織物を強化材として製作されたエポキシ銅張積層板と、既存のガラス繊維織物を強化材として製作されたエポキシ銅張積層板とのたわみ強度および誘電特性を比較するために、下記のような方法で試料片を準備した(実施例5〜8および比較例1)。
【0061】
実施例5.
95重量%の2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパンプレポリマー{2,2-bis(4-cyanatophenyl)propane prepolymer}、5重量%のビスフェノールA型エポキシ樹脂に0.01重量%の鉄(III)アセチルアセトナートを添加した後、メチルエチルケトンに溶解させてエポキシワニスを準備した。
【0062】
次に、前記エポキシワニスに、実施例1で得られた繊維織物を含浸させた後、約140℃の温度で7分間乾燥させてプリプレグを製作した。
【0063】
その後、前記プリプレグの両面に厚さ約18μmの銅箔をレイアップし、真空高温プレスを用いて約40kg/cmの圧力、約175℃の温度で2時間積層して両面銅張積層板を製作した。
【0064】
これから製作された銅張積層板の試料片に対する電気的特性および機械的特性の測定結果は、表2に示したとおりである。
【0065】
実施例6.
95重量%の2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパンプレポリマー、5重量%のビスフェノールA型エポキシ樹脂に0.01重量%の鉄(III)アセチルアセトナートを添加した後、メチルエチルケトンに溶解させてエポキシワニスを準備した。
【0066】
次に、前記エポキシワニスに、実施例2で得られた繊維織物を含浸させた後、約140℃の温度で7分間乾燥させてプリプレグを製作した。
【0067】
その後、前記プリプレグの両面に厚さ約18μmの銅箔をレイアップし、真空高温プレスを用いて約40kg/cmの圧力、約175℃の温度で2時間積層して両面銅張積層板を製作した。
【0068】
これから製作された銅張積層板の試料片に対する電気的特性および機械的特性の測定結果は、表2に示したとおりである。
【0069】
実施例7.
95重量%の2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパンプレポリマー、5重量%のビスフェノールA型エポキシ樹脂に0.01重量%の鉄(III)アセチルアセトナートを添加した後、メチルエチルケトンに溶解させてエポキシワニスを準備した。
【0070】
次に、前記エポキシワニスに、実施例3で得られた繊維織物を含浸させた後、約140℃の温度で7分間乾燥させてプリプレグを製作した。
【0071】
その後、前記プリプレグの両面に厚さ約18μmの銅箔をレイアップし、真空高温プレスを用いて約40kg/cmの圧力、約175℃の温度で2時間積層して両面銅張積層板を製作した。
【0072】
これから製作された銅張積層板の試料片に対する電気的特性および機械的特性の測定結果は、表2に示したとおりである。
【0073】
実施例8.
95重量%の2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパンプレポリマー、5重量%のビスフェノールA型エポキシ樹脂に0.01重量%の鉄(III)アセチルアセトナートを添加した後、メチルエチルケトンに溶解させてエポキシワニスを準備した。
【0074】
次に、前記エポキシワニスに、実施例4で得られた繊維織物を含浸させた後、約140℃の温度で7分間乾燥させてプリプレグを製作した。
【0075】
その後、前記プリプレグの両面に厚さ約18μmの銅箔をレイアップし、真空高温プレスを用いて約40kg/cmの圧力、約175℃の温度で2時間積層して両面銅張積層板を製作した。
【0076】
これから製作された銅張積層板の試料片に対する電気的特性および機械的特性の測定結果は、表2に示したとおりである。
【0077】
比較例1.
95重量%の2,2−ビス(4−シアナトフェニル)プロパンプレポリマー、5重量%のビスフェノールA型エポキシ樹脂に0.01重量%の(III)アセチルアセトナートを添加した後、メチルエチルケトンに溶解させてエポキシワニスを準備した。
【0078】
次に、前記エポキシワニスに、厚み約170μmのガラス繊維織物(Eガラス/Nittobo G/F社、7628)を含浸させた後、約140℃の温度で7分間乾燥させてプリプレグを製作した。
【0079】
その後、前記プリプレグの両面に厚さ約18μmの銅箔をレイアップし、真空高温プレスを用いて約40kg/cmの圧力、約175℃の温度で2時間積層して両面銅張積層板を製作した。
【0080】
これから製作された銅張積層板の試料片に対する電気的特性および機械的特性の測定結果は、表2に示したとおりである。
【0081】


表2.繊維織物の種類による両面銅張積層板の特性比較

【0082】
前記表2に示すように、GRA−COCからなる繊維織物を強化材として用いて製作された両面銅張積層板(実施例5〜8)は、誘電率が3.1〜3.6、誘電正接が0.009〜0.013であって、機械的特性の大きい低下なしに、既存の材料で製作された両面銅張積層板に比べてさらに優れた電気的特性を示すことが分かった。
【0083】
以上、本発明を具体的な実施例によって詳細に説明したが、これらの実施例は本発明を具体的に説明するためのものある。本発明に係る改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材、およびプリント回路基板用樹脂基板は、これらの実施例に限定されるものではない。なお、当該分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかである。
本発明の単純な変更例ないし修正例は全て本発明の領域に属するもので、本発明の具体的な保護範囲は特許請求の範囲によって明確になるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状オレフィン共重合体の主鎖に少なくとも一つの不飽和カルボキシル基を有するモノマーがグラフトされた、改質された環状オレフィン共重合体を溶融させてなる繊維から製造され、前記改質された環状オレフィン共重合体が2〜3の誘電率および0.002〜0.005の誘電正接を有することを特徴とする、改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材。
【請求項2】
前記繊維は、平均直径が5〜20μmであることを特徴とする、請求項1に記載の改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材。
【請求項3】
前記改質された環状オレフィン共重合体は、反応開始剤の存在下で、反応性押出法によって、前記環状オレフィン共重合体の主鎖に少なくとも一つの不飽和カルボキシル基を有するモノマーをグラフトさせて製造されたものであることを特徴とする、請求項1に記載の改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材。
【請求項4】
前記環状オレフィン共重合体のTmは、250〜400℃であることを特徴とする、請求項1に記載の改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材。
【請求項5】
前記モノマーは、不飽和カルボン酸、エチレン系不飽和カルボン酸エステル、エチレン系不飽和カルボン酸無水物、およびこれらの混合物よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材。
【請求項6】
前記モノマーは、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリン酸、マレイン酸、フマル酸、グリシジルメタクリレート、メチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、モノエチルマレエート、ジエチルマレエート、ジ−n−ブチルマレエート;および無水マレイン酸、5−ノルボルネン−2,3−無水物、ナディックアンハイドライド、およびこれらの混合物よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項5に記載の改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材。
【請求項7】
前記反応開始剤は、アシルペルオキシド、ジアルキルまたはアラルキルペルオキシド、ペルオキシエステル、ヒドロペルオキシド、ケトンペルオキシド、アゾ化合物、およびこれらの混合物よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項3に記載の改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材。
【請求項8】
前記反応開始剤は、ベンゾイルペルオキシド、ジ−t−ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、クミルブチルペルオキシド、1,1−ジ−t−ブチルペルオキシ−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ−t−ブチルペルオキシヘキサン、ビス(t−ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン、t−ブチルペルオキシピバレート、t−ブチルジ(ペルフタレート)、ジアルキルペルオキシモノカーボネート、ペルオキシジカーボネート、t−ブチルペルベンゾエート、2,5−ジメチルヘキシル−2,5−ジ(ペルベンゾエート)、t−ブチルペルオクトエート、t−ブチルヒドロペルオキシド、p−メタンヒドロペルオキシド、ピナンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド、シクロヘキサノンペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、アゾビスイソブチロニトリル、およびこれらの混合物よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項7に記載の改質された環状オレフィン共重合体を用いた繊維織物強化材。
【請求項9】
絶縁樹脂と、請求項1〜8のいずれか1項に記載の強化材とを含んでなることを特徴とする、プリント回路基板用樹脂基板。
【請求項10】
前記絶縁樹脂は、エポキシ樹脂、BT(Bismaleimide Triazine)樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリテトラフルオロエチレン樹脂、液晶ポリマー樹脂、およびこれらの混合物よりなる群から選ばれることを特徴とする、請求項9に記載のプリント回路基板用樹脂基板。

【公開番号】特開2006−307405(P2006−307405A)
【公開日】平成18年11月9日(2006.11.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−51598(P2006−51598)
【出願日】平成18年2月28日(2006.2.28)
【出願人】(591003770)三星電機株式会社 (982)
【Fターム(参考)】