説明

放射性同位体の識別のためのシステムおよび方法

【課題】空間内の脅威物質の存在を迅速かつ正確に決定するために、あらゆる利用可能な検出器デバイスから放射線のサインデータを分析する手法を提供すること。
【解決手段】関心のある1つ以上の物質の存在に関して、実質的に囲まれた空間を調べる検出器によって生成されるスペクトルデータを分析する方法であって、検出器の検出経路内にあると予想される物質を複数の物質群のうちの1つに分類することと、各物質群に対する、代表的なエネルギー対断面積の曲線を記述するデータを選択することと、関心のある物質に対するスペクトルデータを生成するために、物質群のうちの1つ以上と各関心のある物質の相互作用を計算することと、スペクトルデータのライブラリを生成することと、空間内の脅威物質の存在を決定するために、検出器によって生成されたスペクトルデータをスペクトルデータのライブラリと比較して分析することとを包含する、方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器の内側にあり得るか、または遮蔽され得る放射性物質を検出することに関する。
【背景技術】
【0002】
物質を目的地に輸送する目的の容器の内側に配置され得る物質の存在を検出することが可能な技術を開発する取り組みが進行中である。識別することが最も重要であり得る有害な物質の例は、放射性因子、爆発性因子、生体因子、および/または化学因子である。
【0003】
現在の放射性同位体の識別は、ピーク発見アルゴリズムとパターン適合アルゴリズムとに基づいている。これらの手法は、実験室と、一部の産業的用途(例えば、商業用原子炉)とにおいては充分であり得るが、これらの手法は、運送において、遮蔽された放射性同位体を検出する試みにおいては不充分である。なぜならば、主には、現在のアルゴリズムが、射出された放射線と周囲の物体との間の相互作用を説明するには充分ではないからである。同位体の識別ソフトウェアを開発する主な問題点は、2つの要素から成る。
【0004】
第1に、概して、遮蔽された放射性同位体の検出されるスペクトルは弱く、例えば、自然バックグランド放射線、および近隣の自然に放射性がある合法的な供給源(例えば、バナナ、猫のトイレ、医療用アイソトープ)から放射する放射線からのノイズの中に覆い隠される可能性がある。これらの弱いスペクトルは、分析することが困難である。なぜならば、この分野における研究の主な制限条件のうちの1つは、通商の流れが、検出プロセスによって必要以上には遅らせられないということである。従って、より強い信号を獲得するために使用されるより長い検出器の集積時間は、現実世界の用途においては実用的ではない。しかしながら、より強い信号を用いた場合でさえ、一部は危険であると考えられるものを含む遮蔽された放射性同位体が突き止められ得るということは、明らかではない。
【0005】
第2に、特定の放射性同位体の検出および識別は、周囲と放射線の相互作用に依存する。この環境相互作用は、概して、未知であり、結果として、放射性同位体の検出および識別のシナリオの最も困難な局面の1つとなる。現在使用されている分析手法は、容器または遮蔽された環境における脅威の放射性同位体物質を検出および識別する試みにおいて、周囲の物質の影響を無視している。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
必要とされているものは、空間内の脅威物質の存在を迅速かつ正確に決定するために、あらゆる利用可能な検出器デバイスから(スペクトルの形態で)放射線のサイン(signature)データを分析する手法である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
要するに、検出器によってモニタリングされる空間において、関心のある1つ以上の脅威物質の存在を決定するために、検出器デバイスによって生成されるスペクトルデータを分析するための、システムと方法とが提供される。関心のある脅威物質と非脅威物質とを含む、検出器の検出経路にあると予想される物質は、断面積の類似性に基づいて、複数の物質群のうちの1つに分類される。各物質群に対する、代表的なエネルギー対断面積の曲線を記述するデータは、それぞれの物質群における個々の物質の断面積から選択される。物質群(遮蔽する物質群)のうちの1つ以上と各関心のある物質(供給源)の相互作用が、それぞれの物質群に対する、代表的なエネルギー対断面積の曲線を使用して計算されることにより、関心のある物質に対するスペクトルデータの計算を生成する。このようにして、スペクトルデータのライブラリが、各供給源/遮蔽物質の組み合わせに対して計算された個々のスペクトルデータから構築される。検出器によって生成されたスペクトルデータが、スペクトルデータの計算のライブラリと比較して分析されることにより、空間内の脅威物質の存在を決定する。
【0008】
本発明はさらに以下の手段を提供する。
【0009】
(項目1)
関心のある1つ以上の物質の存在に関して、実質的に囲まれた空間を調べる検出器によって生成されるスペクトルデータを分析する方法であって、
a.該物質の断面積の類似性に基づいて、該検出器の検出経路内にあると予想される物質を複数の物質群のうちの1つに分類することと、
b.それぞれの物質群内の個々の物質の断面積から、各物質群に対する、代表的なエネルギー対断面積の曲線を記述するデータを選択することと、
c.該関心のある物質に対するスペクトルデータを生成するために、該それぞれの物質群に対する、該代表的なエネルギー対断面積の曲線を使用して、該物質群のうちの1つ以上と各関心のある物質の相互作用を計算することと、
d.各関心のある物質に対して計算された該スペクトルデータを含むスペクトルデータのライブラリを生成することと、
e.該空間内の脅威物質の存在を決定するために、該検出器によって生成された該スペクトルデータを該スペクトルデータのライブラリと比較して分析することと
を包含する、方法。
【0010】
(項目2)
上記(c)計算することは、様々な組み合わせおよび順列の上記物質群と上記各関心のある物質の相互作用を計算することを包含する、項目1に記載の方法。
【0011】
(項目3)
上記(c)計算することは、上記物質群のうちの1つ以上と上記各関心のある物質の相互作用における電子伝達の効果を計算することをさらに包含する、項目1に記載の方法。
【0012】
(項目4)
上記分析することに基づいて、上記空間内に存在することを決定された関心のある物質を識別することをさらに包含する、項目1に記載の方法。
【0013】
(項目5)
上記(a)分類することは、光子の断面積と中性子の断面積とのうちの1つ、または両方に基づいて、多数の物質群のうちの1つに物質を分類することを包含し、物質群の数は、実質的に、組み合わせられる該物質群の全てにおける物質の数よりも少ない、項目1に記載の方法。
【0014】
(項目6)
上記物質群の数は、10以下である、項目5に記載の方法。
【0015】
(項目7)
空間を調べる検出器によって生成されたスペクトルデータから、関心のある脅威物質が該空間内に存在するか否かを決定する方法であって、1つ以上の物質群と関心のある物質の相互作用を表すスペクトルデータのライブラリと比較して、該検出器からの該スペクトルデータを分析することを包含し、各物質の群は、該検出器の検出経路に存在することを予想される物質を含み、該物質は、類似する断面積を有する、方法。
【0016】
(項目8)
上記それぞれの物質群内の個々の物質の断面積から、該各物質群に対する、代表的なエネルギー対断面積の曲線を記述するデータを選択することと、上記スペクトルデータのライブラリを生成するために、該それぞれの物質群に対する該代表的なエネルギー対断面積の曲線を使用して、該物質群のうちの1つ以上と各関心のある物質との相互作用を計算することとをさらに包含する、項目7に記載の方法。
【0017】
(項目9)
上記各関心のある物質の上記相互作用を計算することは、様々な組み合わせおよび順列の上記物質群と該各関心のある物質の相互作用を計算することを包含する、項目8に記載の方法。
【0018】
(項目10)
上記各関心のある物質の上記相互作用を計算することは、上記物質群のうちの1つ以上と該各関心のある物質の相互作用における電子伝達の効果を計算することをさらに包含する、項目9に記載の方法。
【0019】
(項目11)
上記分析することに基づいて、上記空間内に存在することを決定された関心のある物質を識別することをさらに包含する、項目7に記載の方法。
【0020】
(項目12)
物質群の数は、実質的に、組み合わせられる該物質群の全てにおける物質の数よりも少ない、項目7に記載の方法。
【0021】
(項目13)
上記物質群の数は、10以下である、項目7に記載の方法。
【0022】
(項目14)
空間を調べる検出器によって生成されるスペクトルデータに基づいて、該空間における関心のある脅威物質の存在を決定するシステムであって、
a.1つ以上の物質群と関心のある放射性物質との相互作用を表すスペクトルデータのライブラリを格納するデータストレージであって、各物質群は、該検出器の検出経路に存在することを予想される物質を含み、該物質は、類似する断面積を有する、データストレージと、
b.該データストレージに結合された計算リソースであって、該計算リソースは、該スペクトルデータが該空間において関心のある物質の存在を示すか否かを決定するために、該スペクトルデータのライブラリと比較して該スペクトルデータを分析する、計算リソースと
を備えている、システム。
【0023】
(項目15)
上記データストレージ内の上記スペクトルデータのライブラリは、上記各物質群に対する代表的なエネルギー対断面積の曲線を記述するデータを使用して、該物質群のうちの1つ以上と各関心のある物質との相互作用を計算することから導き出される、項目14に記載のシステム。
【0024】
(項目16)
上記計算リソースが、さらに、上記空間内に存在することを決定された関心のある物質を識別する、項目14に記載のシステム。
【0025】
(項目17)
コンピュータ読み取り可能な媒体であって、該コンピュータ読み取り可能な媒体は、コンピュータによって実行されたときに、1つ以上の物質群と関心のある物質との相互作用を表すスペクトルデータのライブラリと比較して、スペクトルデータを分析することによって、コンピュータに、空間を調べる検出器によって生成された該スペクトルデータから、関心のある脅威物質が該空間内に存在するか否かを決定させる命令を格納し、各物質群は、該検出器の検出経路に存在することを予想される物質を含み、該物質は、類似する断面積を有する、コンピュータ読み取り可能な媒体。
【0026】
(項目18)
コンピュータによって実行されたときに、該コンピュータに、それぞれの物質群内の個々の物質の断面積から、該各物質群に対する、代表的なエネルギー対断面積の曲線に関するデータを選択することと、上記スペクトルデータのライブラリを生成するために、該それぞれの物質群に対する、該代表的なエネルギー対断面積の曲線を使用して、該物質群のうちの1つ以上と各関心のある物質との相互作用を計算することとを行なわせる命令をさらに含む、項目17に記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【0027】
(項目19)
上記相互作用を上記コンピュータに計算させる上記命令は、該コンピュータに、様々な組み合わせおよび順列の上記物質群と上記各関心のある物質との相互作用を計算させる命令を含む、項目18に記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【0028】
(項目20)
上記相互作用を上記コンピュータに計算させる上記命令は、該コンピュータに、上記物質群のうちの1つ以上と上記各関心のある物質との上記相互作用における電子伝達の効果をさらに計算させる命令を含む、項目19に記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【0029】
(項目21)
上記コンピュータに、上記空間内に存在することを決定された関心のある物質を識別させる命令をさらに含む、項目17に記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
(摘要)
わずかな数の物質群のそれぞれに対して、代表的な断面積を有する既知の放射性同位体のスペクトルの計算された相互作用を表す格納されたデータに対して、検出器デバイスによって生成された、放射線のサインデータ(すなわち、スペクトルデータ)を分析するための、システムと方法とが提供される。各物質群は、検出器の検出経路にあると予想される物質を含み、かつ、各物質群は、類似する断面積を示す。比較分析が、脅威物質に関して検出器から受信されたスペクトルデータから行なわれることにより、スペクトルデータが、取り調べられた空間において脅威物質の存在を示すか否かを決定する。システムと方法とは、どのような特定の検出器のタイプにも限定されず、そして、スペクトルデータを生成するあらゆる検出器と共に使用され得る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
放射線は、周知の方法で物体と相互作用する。任意の所与の経路に沿った単色光子の供給源からの放射強度Iは、元々の強度Iの分数として、次の関係:
【0031】
【数1】

によって与えられ、ここで、(本発明のコンテクストにおいては、光子または中性子のいずれかの)粒子が、密度ρと、(特定の粒子に依存するだけでなく、粒子が物質と相互作用するときには、粒子のエネルギーEにも依存する)相互作用に対する全断面積σと、粒子が移動する経路の長さxとを有する単一の物質を通って移動する。より一般的な関係が、複数の物質との相互作用に対して記述され得る。従って、放射線が(空気を含む)様々な物質を通って移動すると、検出されるスペクトル(サイン)は、弱められ(振幅が減少させられ)、スペクトルの様々なピークは、エネルギーを偏移させられる傾向にある。各スペクトル特徴は、残りのスペクトルから様々に影響され得る。従って、特定の放射性同位体の識別は、信号対雑音の条件の問題であるだけでなく、エンドユーザが利益を得る方法で、問題を有する放射線の相互作用を理解すること、モデリングすること、および符号化することをも含む。
【0032】
これらの様々な相互作用は、概して、理解されており、そして、(例えば、「MCNP」または「PENELOPE」として、当該分野において知られているMonte Carloコンピュータソフトウェアを使用して、)モデリングされ、充分に予想され得るが、これらの様々な相互作用は、(物質の特性を含む)幾何形状全体が特定されることを必要とする。幾何形状が定義されると、これらのソフトウェアのアルゴリズムは、Monte Carlo法と、広範囲の断面積ライブラリ(例えば、National Nuclear Data Center、the Radiation Safety Information Computational Center、およびNuclear Reaction Data Centersによって配信される「ENDF−VI」ライブラリ;該ライブラリは多量のコンピュータ格納空間を必要とし得る)とを使用することにより、特定の問題をシュミレーションする。物質と、物質の物理特性(例えば、密度)および特定の化学的組成と、問題における物質のそれぞれの位置および幾何形状の構成との全てが、充分に定義されない場合には、これらのソフトウェアアルゴリズムは、最適を下回る。
【0033】
本発明に従って、同位体識別アルゴリズムが提供され、該同位体識別アルゴリズムは、ユーザが(これまでに知られているか、または今後開発される任意の検出器から提供された)スペクトルデータを取り調べ、かつ、結果に基づいて確かな動作決定を行うことを可能にする。このアルゴリズムは、放射線と周囲の物体との間の相互作用を考慮に入れる。物理学において、断面積の概念は、粒子間の相互作用の可能性を表すために使用される。
【0034】
最初に、図1を参照すると、1つの動作環境の可能性が、本発明に従った同位体識別アルゴリズムに対して示されている。参照番号100によって示されたアルゴリズムは、1つ以上の計算リソース200によって実行されるコンピュータソフトウェアによって体現され得る。アルゴリズム100の実行は、以下で「全物質(gross material)」断面積データベース300と呼ばれるデータベースに格納された、アプリオリに決定された断面積データの使用を含む。計算リソース200は、実質的に囲まれた空間を調べる(interrogate)検出器210によって生成されるデータ上で動作する。アルゴリズム100は、任意の特定のタイプの検出器210との使用に限定されないが、それでもやはり、かかる検出器210の例は、珪素、ヨウ化ナトリウム、高純度ゲルマニウム、テルル化亜鉛カドミウム、四臭化トリウム(thorium tetrabromide)、ランタノイド、もしくはハロゲン化アクチノイド(actinide halides)、またはそれらの誘導体に基づいた検出器、または物理的「ゲーティング」もしくは飛行時間に基づいた検出器である。概して、検出器210は、スペクトルを生成する任意の検出器または検出器システムであり得る。計算リソース200は、上で述べられたように、ソフトウェア上で動作するコンピュータであり得るか、または特定用途向け集積回路、プログラマブル論理回路、適切なファームウェアを用いてプログラムされたデジタル信号プロセッサなどを備え得る。
【0035】
検出器210は、関心のある放射性の供給源物質、すなわち、脅威物質を含むか否かを決定するためにスキャニングまたは検査される容器10(1)、10(2)…、または他の本体と関連付けられる放射線を検出するように配置される。用語「容器」は、限定することなく、輸送容器、トラック、鉄道車両、木箱、およびハンドヘルドの容器などのより小さいサイズの容器を含むことを意味されている。検出器210が動作中に通常配置されるように、検出器210は、容器10(1)、10(2)などに対して配置される。検出器の特別な配置または構成は、本明細書に記述された手法を行うためには必要とされない。計算リソース200は、検出器210によって生成されたスペクトルデータを捕捉し、データベース300から導出されたスペクトルデータのライブラリと比較して、スペクトルデータ上でアルゴリズム100を実行することにより、各容器10(1)、10(2)などに放射性の脅威物質が存在するか否かを決定する。さらに、アルゴリズム100は、特定の脅威物質を識別し得る。このようにして、計算リソース200は、脅威物質が容器内に存在するか否かの示度を出力し、そして、特定の脅威物質を識別する情報とを出力する(可能性がある)。(ライブラリスペクトルとも呼ばれる)スペクトルデータのライブラリアは、図3に関して以下で記述される手法に従って計算される。
【0036】
ここで、図2を参照すると、アルゴリズム100が扱う問題の性質が、さらに詳細に記述される。検出器210が通常の動作中に名目上配置されるように、検出器210は、容器10(1)、10(2)などの壁12からある程度離れた距離に配置され得る。壁12はまた、検出器210と(有限でありかつ境界のある)空間14との間の一部の遮蔽デバイスまたはバリアを表し得、該空間14は、有害な放射性物質の存在および識別のためにスキャニングされる。検出器210と空間14との間に、互いから間隔を空けられたいくつかの壁、または互いに間隔を空けられていないいくつかの壁が存在し得るということが理解されるべきである。壁のない一部の用途が存在し得、その場合、壁を考慮に入れる必要はない。本明細書において記述された手法は、壁12のある用途と壁12のない用途との両方において働く。図2に示された例において、脅威物質を含まないか、または取り込んでいない対象20、対象22、および対象24が、空間14に存在するが、対象30は、検出および識別される有害な放射性同位体の脅威物質を含むか、または取り込む。対象20、22、24、および30は、空間14内に任意の構成で緊密に、またはゆるやかに詰め込まれている。検出器と壁14との間の媒体は、空気、水、水蒸気、またはこれらの物質もしくは別の物質の任意の組み合わせであり得る。
【0037】
本発明に従って、「全物質」の断面積データが、検出器の検出経路に存在することが予想される物質に対して使用される。これは、空間14に存在し、壁12に存在し、および壁12と検出器210との間の媒体に存在する可能性のある物質を含む。一実施形態において、光子の断面積データが単独で使用される。別の実施形態において、中性子の断面積が使用される。さらに別の実施形態において、予想される物質に対する光子の断面積データと中性子の断面積データとの両方が使用される。
【0038】
ここで、図3に参照が行われ、図3は、プロセス80の流れ図を示し、該プロセス80は、スペクトルデータのライブラリを生成するために、アルゴリズム100の実行に先立って、オフラインで実行されるものであり、該スペクトルデータのライブラリと比較して、検出器210によって出力されるスペクトルデータが分析される。82において、プロセス80は、物質の断面積データの類似性に基づいて、検出器の検出経路に存在することが予想される全ての物質を、物質の断面積データの類似性に基づいて少数(10個以下)の所謂「全物質群」に分類することによって開始する。概して、物質群の数は、組み合わせられる群の全てにおける物質の数よりも実質的に少ない。記述の手法の利点が達成されない非常に多くの物質群を有することと、アルゴリズム100が信頼できるほど正確ではないような物質群がほとんど存在しないこととの間のトレードオフが存在する。検出器の検出経路における物質群はまた、本明細書において「遮蔽物質群」と呼ばれる。例えば、第1の物質群は金属であり得、第2の物質群はセラミックであり得、第3の物質群は有機物質であり得るなどである。アルゴリズム100の目的のために考慮される全ての物質が、これらの物質群のうちの1つに類別され、該物質群は、関心のある脅威の供給源物質ではない物質と、関心のある脅威の供給源物質とを含む。次に、84において、全断面積が、その物質群における各物質に対して既知の断面積データまたは利用可能な断面積データを使用して、各物質群に対して選択されることによりその物質群に対する代表的なエネルギー対断面積の曲線を生成する。例えば、図4は、(エネルギーの関数として)5種類の金属物質に対する全光子の断面積データのプロット図の部分を示す。これらの金属物質に対する光子の断面積のプロット図の形状の類似性が、図4から極めて明らかである。このように、これらの金属物質は、同じ物質群(例えば、指定された金属)に分類される。繰り返すために、82において、物質の収集のために断面積データが評価され、物質が断面積の類似性に基づいて分類される。84において、群が確立されると、郡内の物質のうちの1つが「代表的な」物質として選択され、その物質に対する断面積対エネルギーの曲線が、その物質群に対する「代表的な」断面積対エネルギーの曲線として使用される。物質群に対する代表的な物質が、本明細書において「全物質」としても呼ばれる。図4は、5種類だけの金属物質に対する断面積データのプロット図を示す。しかしながら、多数の金属物質が、光子の断面積データの同様なプロット図を有し得るということが理解されるべきである。同様に、物質は、(エネルギーの関数として)物質の中性子の断面積データによって類別され得る。従って、一実施形態において、物質が、光子固有の物質群と中性子固有の物質群とのうちの1つまたは両方に分類され得る。
【0039】
次に、86において、各関心のある供給源物質(すなわち、各放射性同位体)に対して、計算が行われ、該計算は、物質群に対する代表的なエネルギー対断面積の曲線に対するデータを使用して、様々な組み合わせおよび順列(順序)で、物質群の1つ以上と各供給源との相互作用を計算する。例えば、ウランが関心のある供給源物質である場合には、代表的な物質群に対する代表的なエネルギー対断面積の曲線を使用して、(様々な組み合わせおよび順列で)物質群のうちの所望の1つ以上とウランとの相互作用をモデリングする計算が行われることにより、様々な組み合わせおよび順列で物質群のうちの1つ以上の存在に関して検出器によって検出されるように、ウランに対するスペクトルデータの計算を生成する。これらの計算において、電子伝達の効果は、電子伝達モデルに対する公知の計算手法のうちの任意のもの、例えば、MCNPおよびPENELOPEを使用して、(光子の断面積または中性子の断面積のいずれかを)考慮に入れられる。これらの計算は、各関心のある供給源に対して行われ、結果として生じるスペクトルデータは、関心のある供給源に対するスペクトルデータのライブラリを生成するために格納される。
【0040】
図5は、86における計算がモデリングしていることを図形で描く。特に、(存在が空間14において検出される)各関心のある供給源物質に対して、86における相互作用の計算は、検出器210が、関心のある供給源物質と検出器210との間の様々な組み合わせおよび順列で、関心のある供給源物質が物質群のうちの1つ以上と共に空間に存在するかどうかを生成するスペクトルデータをモデリングする。この計算は、各関心のある物質の供給源に対して行われる。図5は、この概念を例示するために単純化され、検出経路に存在し得る様々な物質のそれぞれに対する概略的な幾何形状と組み合わせとを示す。この方法で、環境に対する供給源スペクトル応答の様々な供給源スペクトル依存度が、データベース300に組み込まれ得る。
【0041】
図6に示された流れ図に目を向けると、ここで、アルゴリズム100が詳細に記述される。図6は、流れ図内の機能が、「オンライン」で行われるということを示しており、これは、これらの機能が、データベース300がライブラリの計算スペクトルデータを用いて構成された後と、検出イベントが行われた後とに行われる機能であるということを示すことを意図している。110において、検出イベントの間に検出器によって生成されたデータが捕捉される。次に、120において、一般的に遭遇される物質の断面積パターンを、脅威物質と関連付けられる断面積パターンから選別し、それにより検出器によって出力されたスペクトルデータが脅威物質の存在を示すか否かを決定するために、かつ、その脅威物質を識別するために、スペクトルデータが、図3に関して上に記述されたように生成されたスペクトルデータのライブラリと比較して分析される。この分析は、検出器によって出力されるスペクトルデータに基づいて脅威物質の存在を決定し、かつ、脅威物質を識別するために、現在公知のあらゆるスペクトルパターン適合アルゴリズム、または今後開発されるあらゆるスペクトルパターン適合アルゴリズムを使用することを含み得る。
【0042】
130において、サインがサインデータ内に存在するか否かが決定され、該サインデータは、120において行われた分析に基づいて、空間14内の脅威物質の存在を示す。存在する場合には、プロセスは、134へ続き、存在しない場合には、プロセスは、132へ続く。132において、非脅威の信号または非脅威の示度が、(可能である場合には)検出された非脅威の放射線物質を識別する情報と共に生成されるか、または信号または警告は生成されない。134において、脅威の警告信号が、(可能である場合には)検出された脅威物質を識別する情報と共に生成される。次に、ユーザは、脅威物質を特定し、かつ、隔離させるためにスキャニングされている容器、または他の本体をより徹底的に調べることを選び得る。140において、次の検出イベントに対する準備が行われる。すなわち、別の容器、または関心のある本体の別の部分に対する準備が行われる。
【0043】
132および134における結果は、計算リソース200(図1)における実行アプリケーションの中で表示され得るか、または警告を提供するために、他のハードウェアに送信され得る。さらなる出力は、誤差の測定値と、他の補助的な情報、例えば、相互作用的なプロット図、イメージ、表面、または他のカスタマイズされた視覚化とを含み得る。
【0044】
アルゴリズム100を実装するソフトウェアは、任意の適切なコンピュータ言語で書き込まれ得る。一例において、アルゴリズム100は、Interactive Data Language(IDL)と、ENVIとして知られるソフトウェア環境とを使用して書き込まれ、Interactive Data Language(IDL)と、ENVIとの両方が、ITT Corporationによって市販されている。ENVIは、IDLで書き込まれており、マルチスペクトルデータセットおよびハイパースペクトルデータセットの処理、活用、および分析に対する事実上の標準規格となっている。アルゴリズム100に対するソフトウェアは、ENVIソフトウェアパッケージに「プラグイン」として実装され得るが、(例えば、検出器システムの一部分として)大規模なシステムへの組み込みを可能にする他の手法を使用して実装され得る。
【0045】
本明細書において記述されたシステムおよび方法は、本発明の精神または本質的な特性を逸脱することなく、他の形式において体現され得る。従って、上記の実施形態は、あらゆる点において、例示と考えられるべきであり、限定することを意味するとして考えられるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、本発明の実施形態に従った容器スキャニングシステムを示すブロック図である。
【図2】図2は、本発明の実施形態に従った検出器がより分けなければならない、一般的に遭遇される物質の例を例示する概略図である。
【図3】図3は、本発明の実施形態に従った識別手法で使用されるデータを生成する、オフラインのデータ収集および分析の段階を例示する流れ図である。
【図4】図4は、本発明の分離および識別のプロセスの一部分として使用される金属物質群に対する、エネルギーの関数としての光子の断面積のプロット図である。
【図5】図5は、図3に描かれたプロセス中に行なわれる計算を描いている図である。
【図6】図6は、本発明の実施形態に従った、識別手法を例示する流れ図である。
【符号の説明】
【0047】
10(1)、10(2) 容器
12 壁
14 空間
20、22、24および30 対象
100 同位体識別アルゴリズム
200 計算リソース
210 検出器
300 「全物質」断面積データベース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
関心のある1つ以上の物質の存在に関して、実質的に囲まれた空間を調べる検出器によって生成されるスペクトルデータを分析する方法であって、
a.該物質の断面積の類似性に基づいて、該検出器の検出経路内にあると予想される物質を複数の物質群のうちの1つに分類することと、
b.それぞれの物質群内の個々の物質の断面積から、各物質群に対する、代表的なエネルギー対断面積の曲線を記述するデータを選択することと、
c.該関心のある物質に対するスペクトルデータを生成するために、該それぞれの物質群に対する、該代表的なエネルギー対断面積の曲線を使用して、該物質群のうちの1つ以上と各関心のある物質との相互作用を計算することと、
d.各関心のある物質に対して計算された該スペクトルデータを含むスペクトルデータのライブラリを生成することと、
e.該空間内の脅威物質の存在を決定するために、該検出器によって生成された該スペクトルデータを該スペクトルデータのライブラリと比較して分析することと
を包含する、方法。
【請求項2】
前記(c)計算することは、様々な組み合わせおよび順列の前記物質群と前記各関心のある物質との相互作用を計算することを包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記(c)計算することは、前記物質群のうちの1つ以上と前記各関心のある物質との相互作用における電子伝達の効果を計算することをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記分析することに基づいて、前記空間内に存在することを決定された関心のある物質を識別することをさらに包含する、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記(a)分類することは、光子の断面積と中性子の断面積とのうちの1つ、または両方に基づいて、多数の物質群のうちの1つに物質を分類することを包含し、物質群の数は、実質的に、組み合わせられる該物質群の全てにおける物質の数よりも少ない、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記物質群の数は、10以下である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
空間を調べる検出器によって生成されたスペクトルデータから、関心のある脅威物質が該空間内に存在するか否かを決定する方法であって、1つ以上の物質群と関心のある物質の相互作用を表すスペクトルデータのライブラリと比較して、該検出器からの該スペクトルデータを分析することを包含し、各物質の群は、該検出器の検出経路に存在することを予想される物質を含み、該物質は、類似する断面積を有する、方法。
【請求項8】
前記それぞれの物質群内の個々の物質の断面積から、該各物質群に対する、代表的なエネルギー対断面積の曲線を記述するデータを選択することと、前記スペクトルデータのライブラリを生成するために、該それぞれの物質群に対する該代表的なエネルギー対断面積の曲線を使用して、該物質群のうちの1つ以上と各関心のある物質との相互作用を計算することとをさらに包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記各関心のある物質の前記相互作用を計算することは、様々な組み合わせおよび順列の前記物質群と該各関心のある物質との相互作用を計算することを包含する、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記各関心のある物質の前記相互作用を計算することは、前記物質群のうちの1つ以上と該各関心のある物質との相互作用における電子伝達の効果を計算することをさらに包含する、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記分析することに基づいて、前記空間内に存在することを決定された関心のある物質を識別することをさらに包含する、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
物質群の数は、実質的に、組み合わせられる該物質群の全てにおける物質の数よりも少ない、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記物質群の数は、10以下である、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
空間を調べる検出器によって生成されるスペクトルデータに基づいて、該空間における関心のある脅威物質の存在を決定するシステムであって、
a.1つ以上の物質群と関心のある放射性物質との相互作用を表すスペクトルデータのライブラリを格納するデータストレージであって、各物質群は、該検出器の検出経路に存在することを予想される物質を含み、該物質は、類似する断面積を有する、データストレージと、
b.該データストレージに結合された計算リソースであって、該計算リソースは、該スペクトルデータが該空間において関心のある物質の存在を示すか否かを決定するために、該スペクトルデータのライブラリと比較して該スペクトルデータを分析する、計算リソースと
を備えている、システム。
【請求項15】
前記データストレージ内の前記スペクトルデータのライブラリは、前記各物質群に対する代表的なエネルギー対断面積の曲線を記述するデータを使用して、該物質群のうちの1つ以上と各関心のある物質との相互作用を計算することから導き出される、請求項14に記載のシステム。
【請求項16】
前記計算リソースが、さらに、前記空間内に存在することを決定された関心のある物質を識別する、請求項14に記載のシステム。
【請求項17】
コンピュータ読み取り可能な媒体であって、該コンピュータ読み取り可能な媒体は、コンピュータによって実行されたときに、1つ以上の物質群と関心のある物質との相互作用を表すスペクトルデータのライブラリと比較して、スペクトルデータを分析することによって、コンピュータに、空間を調べる検出器によって生成された該スペクトルデータから、関心のある脅威物質が該空間内に存在するか否かを決定させる命令を格納し、各物質群は、該検出器の検出経路に存在することを予想される物質を含み、該物質は、類似する断面積を有する、コンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項18】
コンピュータによって実行されたときに、該コンピュータに、それぞれの物質群内の個々の物質の断面積から、該各物質群に対する、代表的なエネルギー対断面積の曲線に関するデータを選択することと、前記スペクトルデータのライブラリを生成するために、該それぞれの物質群に対する、該代表的なエネルギー対断面積の曲線を使用して、該物質群のうちの1つ以上と各関心のある物質との相互作用を計算することとを行なわせる命令をさらに含む、請求項17に記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項19】
前記相互作用を前記コンピュータに計算させる前記命令は、該コンピュータに、様々な組み合わせおよび順列の前記物質群と前記各関心のある物質との相互作用を計算させる命令を含む、請求項18に記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項20】
前記相互作用を前記コンピュータに計算させる前記命令は、該コンピュータに、前記物質群のうちの1つ以上と前記各関心のある物質との前記相互作用における電子伝達の効果をさらに計算させる命令を含む、請求項19に記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。
【請求項21】
前記コンピュータに、前記空間内に存在することを決定された関心のある物質を識別させる命令をさらに含む、請求項17に記載のコンピュータ読み取り可能な媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−54387(P2010−54387A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220550(P2008−220550)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【出願人】(505194077)アイティーティー マニュファクチャリング エンタープライジーズ, インコーポレイテッド (114)
【Fターム(参考)】