説明

放射線ビームの確認に用いる放射線感応シート

【課題】放射線ビームの位置や範囲を、明室下で目視により、明瞭かつ正確に短時間で確認する方法に用いられる簡便な放射線感応シートを提供する。
【解決手段】放射線感応シート10a・10bは、ハロゲン基とアセタール基との少なくともいずれかの基及び水酸基を有する高分子化合物と、呈色性の電子供与体有機化合物と、電子供与体有機化合物を呈色させる活性種生成有機化合物と、放射線吸収剤及び/又は放射線蛍光剤とが含まれた放射線呈色性組成物、又はポリアセチレン化合物とジアリールエテン化合物との少なくともいずれかが含まれた放射線呈色性組成物が、基材表面の少なくとも一部に付されており、放射線ビーム1の通過ライン上に載置される放射線感応シートであって、前記放射線ビーム1によって呈色する前記放射線呈色性組成物が、確認すべき前記放射線ビーム1の位置及び/又は範囲に応じ、それより広範囲に、前記基材表面へ付されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線を試料に照射して試料の物理化学的性質を調べたり、放射線診療や医療器滅菌を行ったりする際、放射線ビームの位置や照射範囲を目視によりその場で確認できる放射線感応シートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シンクロトロン放射光や放射線照射装置により得られる電離性放射線を、有機低分子化合物やタンパク質や無機化合物等の結晶試料に照射して、それらの回折、散乱、分光等により、物理的・化学的性質を調べたり、それらの原子構造や立体構造を決定したりする分析が行われる。又、放射線を照射して、X線診療や、γ線滅菌又は電子線滅菌も行われる。
【0003】
このような放射線のビームラインは、放射線源からの放射線のエネルギー量やビームの広がりを調整し、試料が置かれた実験ハッチへ、誘導される。例えば図5に示すように、シンクロトロン放射光において必要なエネルギー領域のX線のビームライン1は、ビームダクト(I)側に配置された第一結晶板2、第二結晶板3で反射し、スリット系を通して、実験ハッチ(II)側へ誘導され、さらに適切に入射角θが調整された第三結晶板5で反射し、試料6へ照射される。所望のエネルギー領域のX線を適切に試料へ照射するには、第二結晶板3及び第三結晶板5からのビームの位置を確認し調整しておく必要性がある。
【0004】
特許文献1に、電離放射線の監視に用いられる蛍光有機センサ材料が開示されている。直接目視できないX線等のビームの位置を確認するのに、このような蛍光有機センサ材料や、X線に感応して呈色するリナグラフのようなインジケータが用いられる。そのような例として、図6に示すようにビームライン1が通過すると推定される位置に、リナグラフ(kodak社製)21a・21bを予め載置し、X線を照射し、リナグラフ21a・21bの一部の呈色部位から、ビームライン1を推測する方法がある。しかし、一般のリナグラフは、X線照射によって褐色に淡くしか呈色しないため、照射位置と未照射位置との色差が小さく目視での確認が困難で誤認を生じ易い。しかも、リナグラフはX線に対し低感度であるため、例えばシンクロトロン放射光単色で利用するには呈色するのに例えば約30分も要してしまう。又、リナグラフは屋内光でも呈色してしまうため正確に光軸を確認したり微妙な入射角度や照射位置を調整したりするのに一時的に暗室で作業しなければならず、面倒である。
【0005】
リナグラフに代えて、オシログラフペーパや、ポラロイド フィルム(ポラロイド社の登録商標)を用いる方法も知られている。しかし、それらは、リナグラフよりX線感度が高い反面、載置位置からそれらを外し、現像する面倒な操作を必要とするため、その場で直ちに観察することができない。
【0006】
又、特許文献2に、放射線記録再生に用いられる蛍光板である放射線像変換パネルが開示されている。ビームラインの光軸を確認するのに、このような蛍光板も用いられる。そのような例として、図7に示すとおり、ビームライン1が通過すると推定される位置に、X線で蛍光を発する目盛付き蛍光板22a・22bを載置して、電荷結合素子(CCD)カメラ23a・23bで撮影するという方法も知られている。しかし、蛍光板やカメラを設置したりカメラで蛍光位置を読取ったりするのに時間がかかり面倒なうえ、蛍光板やカメラが高価で、汎用性がない。
【0007】
【特許文献1】特表平09−511055号公報
【特許文献2】特開2006−105596号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、放射線を試料に照射して試料の物理的・化学的性質を調べたり、放射線診療や医療器滅菌を行ったりする際、放射線のビームの位置や照射範囲を、明室下で目視により、明瞭かつ正確に、短時間で確認する方法に用いられる簡便な放射線感応シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記の目的を達成するためになされた特許請求の範囲の請求項1に記載の放射線感応シートは、ハロゲン基とアセタール基との少なくともいずれかの基及び水酸基を有する高分子化合物と、呈色性の電子供与体有機化合物と、電子供与体有機化合物を呈色させる活性種生成有機化合物と、放射線吸収剤及び/又は放射線蛍光剤とが含まれた放射線呈色性組成物、又はポリアセチレン化合物とジアリールエテン化合物との少なくともいずれかが含まれた放射線呈色性組成物が、基材表面の少なくとも一部に付されており、放射線ビームの通過ライン上に載置される放射線感応シートであって、前記放射線ビームによって呈色する前記放射線呈色性組成物が、確認すべき前記放射線ビームの位置及び/又は範囲に応じ、それより広範囲に、前記基材表面へ付されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の放射線ビーム確認方法は、ハロゲン基とアセタール基との少なくともいずれかの基及び水酸基を有する高分子化合物と、呈色性の電子供与体有機化合物と、電子供与体有機化合物を呈色させる活性種生成有機化合物と、放射線吸収剤及び/又は放射線蛍光剤とが含まれた放射線呈色性組成物、又はポリアセチレン化合物とジアリールエテン化合物との少なくともいずれかが含まれた放射線呈色性組成物を基材表面の少なくとも一部に付した放射線感応シートを、放射線ビームが通過するライン上に載置し、前記放射線ビームを照射し、それに応じ前記放射線感応シートの少なくとも一部の前記放射線呈色性組成物が呈色することによって前記放射線ビームの透過部位を表示して、放射線ビームの位置及び/又は照射範囲を確認することを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の放射線ビーム確認方法は、請求項2に記載されたもので、前記放射線呈色性組成物が、5〜50重量部の前記高分子化合物と、0.01〜50重量部の前記呈色性の電子供与体有機化合物と、0.1〜50重量部の前記活性種生成有機化合物と、0.1〜500重量部の放射線吸収剤及び/又は放射線蛍光剤とを含んでいることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の放射線ビーム確認方法は、請求項2に記載されたもので、前記放射線感応シートが、基材上に前記放射線呈色性組成物で塗布されてエネルギー領域1keV〜400MeVの前記放射線ビームで感応する呈色層を、前記露出させていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の放射線ビーム確認方法は、請求項2に記載されたもので、前記放射線感応シートが、厚さ5μm〜5mmのラベル、又は成型体であることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載の放射線ビーム確認方法は、請求項2に記載されたもので、前記放射線ビームが、X線、α線、β線、γ線、電子線、中性子線、陽子線及び重イオン線の何れかのビームであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の放射線ビーム確認方法によれば、低線量から高線量の放射線照射量に関わらず放射線感応シート上の放射線呈色性組成物の明瞭で迅速な呈色により、放射線ビームの透過部位の位置や範囲を目視可能に表示して短時間で簡便に確認することができる。しかも、放射線化学分析の試験毎に所望のエネルギー領域のX線を適切に取り出すため、その度に限られた試験時間内での光軸調整が必要であっても、僅か数分で光軸を調整でき、効率的である。さらに、明室で行うことができるため、放射線ビームラインの光軸の確認を行い易い。
【0016】
又、放射線感応シートの呈色部位に孔を開け、そこに有色のレーザーを照射して、放射線ビームの位置や範囲を目視可能に表示することにより、光軸の調整を簡便かつ正確に行うことができる。さらに、放射線感応シートが安価であるため、経済的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施例を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0018】
放射線ビーム確認方法には、図1で示される放射線感応シートが用いられる。感応性シートは、以下のようにして作製される。
【0019】
先ず、アセタール基及び水酸基を有する高分子化合物と、フルオラン類のような電子供与体有機化合物と、トリブロモエタノールのような活性種生成有機化合物と、放射線吸収剤、及び放射線蛍光体剤とが含まれる放射線呈色性組成物を調製する。次いで、その組成物を基材14のおもて面側上に塗布して、呈色層13を形成させる。呈色層13を粘着剤層12付きの透明被覆シール11で被覆し、放射線感応シート10を作製する。必要に応じ基材14のうら面側に粘着剤層15を介して剥離シート16を付す。
【0020】
放射線ビームの位置や照射範囲の確認方法は、図2に示すようにして行われる。
【0021】
先ず、シンクロトロン実験に必要な当該エネルギー領域のX線のビームライン1がビームダクト(I)側の第一結晶板2及び第二結晶板3で反射した後、通過するスリット4の開口部に、放射線感応シート10aを貼付する。実験ハッチ(II)側でそのX線ビームライン1の推定延長線上に、別な放射線感応シート10bを載置する。その後、X線を照射すると、X線はビームライン1に沿って、放射線感応シート10a・10bを透過する。放射線感応シート10a・10bはX線が透過した四角い部位17a・17bで、瞬時に、例えば黄色から明瞭な赤色に呈色する。
【0022】
X線の照射を止め、図3に示すように、透過部位17a・17bの四隅の対角線交点に、孔18a・18bを開ける。X線照射先側からその両孔18a・18bを通してX線照射元側へ向かって、赤色のレーザービーム19を照射すると、X線ビームライン1が、赤く目視できる。
【0023】
次いで、図4に示すように、入射角θを調整しつつ第三結晶板5を設置し、そこで反射するX線ビームライン1の推定延長線上に、別な放射線感応シート10c・10dを離して載置する。その後、X線を照射すると、X線はビームライン1に沿って、放射線感応シート10c・10dを透過する。放射線感応シート10c・10dはX線が透過した部位で、同様に瞬時に、例えば黄色から明瞭な赤色に呈色する。これにより第三結晶板5で反射したX線ビームライン光軸を確認できる。
【0024】
なお、放射線感応シートは、放射線呈色性組成物中の高分子化合物、電子供与体有機化合物、活性種生成有機化合物、放射線吸収剤、及び放射線蛍光体剤の各成分の種類及び配合比を調整することにより、呈色後の色相、色の濃淡及び呈色速度を調節することができる。
【0025】
この高分子化合物は、下記式(1)
【0026】
【化1】

【0027】
(上記式中、Xはハロゲン原子、−Rは水素原子、シアノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アセチルオキシ基で例示される脂肪族カルボニルオキシ基のようなアシルオキシ基、カルボキシル基、アリールオキシ基、アラルキル基、又はアラルキルオキシ基、を示し、l、m、nは任意の比率。)で示され、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい高分子化合物が挙げられる。l:m:nの比は、例えばそれらの繰返し単位を構成するモノマーの重量比で50〜99:1〜30:1〜20となる比であることが好ましい。
【0028】
又、下記式(2)
【0029】
【化2】

【0030】
(式(2)中、−R及び−Rは、同一又は異なり、水素原子、シアノ基、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アセトキシ基のような脂肪族カルボニルオキシ基、カルボキシル基、アリールオキシ基、アラルキル基、又はアラルコキシ基を示し、p、q、rは任意の比率。)で示され、ランダム共重合体であってもブロック共重合体であってもよい高分子化合物も挙げられる。p:q:rの比は、モル当量比で、5〜90:10〜50:1〜30であることが好ましい。
【0031】
これらの高分子化合物は、単独で用いられても、複数種混合して用いられてもよく、又、別な高分子化合物が混合されていてもよい。
【0032】
前記呈色性の電子供与体有機化合物は、通常無色又は淡色で、ブレンステッド酸、ルイス酸等の活性種、すなわち電子受容体の作用で発色する性質を有するものである。具体的には、トリフェニルメタンフタリド類例えばクリスタルバイオレットラクトン、マラカイトグリーンラクトン;フルオラン類例えば3−ジエチルアミノベンゾ−α−フルオラン、3−ジエチルアミノ−7−クロロフルオラン、3−ジエチルアミノ−7−ジベンジルアミノフルオラン、3,6−ジメトキシフルオラン;フェノチアジン類例えば3,7−ビスジメチルアミノ−10−(4’−アミノベンゾイル)フェノチアジン;インドリルフタリド類例えば3,3−ビス(1−エチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド、3,3−ビス(1−n−ブチル−2−メチルインドール−3−イル)フタリド;ロイコオーラミン類例えばN−(2,3−ジクロロフェニル)ロイコオーラミン、N−フェニルオーラミン;ローダミンラクタム類例えばローダミン−β−o−クロロアミノラクタム;ローダミンラクトン類例えばローダミン−β−ラクトン;インドリン類例えば2−(フェニルイミノエタンジリデン)−3,3’−ジメチルインドリン、p−ニトロベンジルロイコメチレンブルー、ベンゾイルロイコメチレンブルー;トリアリールメタン類例えばビス(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン、トリス(4−ジエチルアミノ−2−メチルフェニル)メタンが挙げられる。それらは、単独で用いられてもよく、複数種混合して用いられてもよい。
【0033】
前記活性種生成有機化合物は、放射線の照射により不可逆的に活性種が生じるもので、ハロゲン基を有する化合物例えば四臭化炭素、トリブロモエタノール、トリブロモメチルフェニルスルホンが挙げられる。
【0034】
前記放射線吸収剤は、バリウム、イットリウム、銀、スズ、ハフニウム、タングステン、白金、金、鉛、ビスマス、ジルコニウム、ユウロピウム、セリウムの金属、及びこれら金属を含む化合物例えばそれらの金属の硫酸塩、炭酸塩、硝酸塩が挙げられる。それらは、単独で用いられてもよく、複数種混合して用いられてもよい。
【0035】
前記放射線励起蛍光剤は、CaWO4、MgWO4、HfP207で示される塩、ZnS:Ag、ZnCdS:Ag、CsI:Na、CsI:Tl、BaSO4:Eu2+、Gd2O2S:Tb3+、La2O2S:Tb3+、Y2O2S:Tb3+、Y2SiO5:Ce、LaOBr:Tm3+、BaFCl:Eu2+、BaFBr:Eu2+で示される焼成物が挙げられる。ZnS:Agの焼成物は、硫化亜鉛を主成分とし、重金属賦活剤である銀を加えて焼成したものである。他の焼成物も同様にして得られる。それらは、単独で用いられてもよく、複数種混合して用いられてもよい。
【0036】
放射線呈色性組成物は、前記高分子化合物5〜50重量部と、前記呈色性の電子供与体有機化合物0.01〜50重量部と、前記活性種生成有機化合物0.1〜50重量部と、前記放射線吸収剤/放射線励起蛍光体0.1〜500重量部とを含んでいる。
【0037】
放射線呈色性組成物は、前記高分子化合物を溶剤に溶解させて媒体とし、インキや塗料にして用いてもよい。媒体は、高分子化合物5〜50重量部に対し、溶剤50〜95重量部を含むことが好ましい。
【0038】
溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、アセトン、2−ブタノン、シクロヘキサン、イソホロン、メチルエチルケトン、4−メチル−2−ペンタノン、エチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、2−へキサン、イソオクタン、ソルベントナフサ、メチレンクロライド、プロピレンクロライド、エチレンクロライド、クロロホルム、ジクロルエタン、1,1,2−トリクロルエタン、四塩化炭素、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロルベンゼン、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、酢酸が挙げられる。その他の溶剤であっても高分子化合物を溶解させるものはすべて使用可能である。それらは、単独で用いられてもよく、複数種混合して用いられてもよい。
【0039】
放射線呈色性組成物は、消泡剤、界面活性剤、凝固剤のような添加剤を含んでいてもよい。
【0040】
放射線感応シートは、プラスチック製又は紙製の基材へ放射線呈色性組成物を塗布した厚さが5μm〜5mmのラベルであってもよく、放射線呈色性組成物を成形した成型体であってもよく、放射線呈色性組成物をマイクロカプセルや樹脂又はガラス製の蓋付容器や封管に封入して被ばく体に貼付したり載置したりする成型体であってもよい。
【0041】
中でも、放射線感応シートは、プラスチック製又は紙製の基材でできたラベルであることが好ましい。このようなラベルであると、放射線ビームの透過部位に孔を開け易い。ポラロイドフィルム、蛍光板では、このような使用をすることは、物理的に、又、経済的に、不可能である。
【0042】
この放射線ビームの位置や照射範囲の確認方法の放射線感応シートの呈色のメカニズムは以下のように推察される。まず放射線感応シートの放射線呈色性組成物中の放射線吸収剤が、放射線感応シートに照射された放射線を吸収・散乱し、光電効果、コンプトン効果、電子を放出した電子対生成の現象を起こす。放射線励起蛍光剤でも同様な現象とともに蛍光リン光発光現象を起こす。これら現象により活性種生成有機化合物から電子受容性を有する活性種が生成され、混在している呈色性の電子供与体有機化合物の電荷移動を誘発する。すると電子供与体化合物は、その電子密度が変化するため呈色し、これにより放射線感応シートが呈色する。
【0043】
この呈色した放射線感応シートは、瞬時に、不可逆的に呈色し、経時的に退色せず、しかも色相が変化しないため、放射線ビームの位置や照射範囲の確認の際に、誤認を生じず、又確認を示す証拠として、ノートや帳簿類に長期間保存できる。そのメカニズムの詳細は不明だが、高分子化合物の水酸基が放射線照射によって水素イオン等の電子受容体を生じさせ、呈色した電子供与体化合物を安定化させるため、退色しなくなるものと考えられる。特に高分子化合物中の水酸基は、ハロゲン基又はアセタール基が共存することで、水素イオン等の電子受容体をより一層生成させ易くする。
【0044】
この放射線感応シートは、エネルギー領域1keV〜400MeVの広範囲の放射線量を表示でき、従来よりも低線量で明瞭に呈色する。その詳細は不明であるが、高分子化合物が、呈色した電子供与体有機化合物を安定化させ、又、組成物中に比較的多量に含まれているため低線量でも明瞭な呈色を引き起こすためと考えられる。
【0045】
なお、放射線感応シートが有する放射線呈色性組成物として、高分子化合物と、呈色性の電子供与体有機化合物と、活性種生成有機化合物と、放射線吸収剤や放射線蛍光体剤とを有する例について説明したが、呈色させるために、組成物中に、電子供与体有機化合物や活性種生成有機化合物に代えて、ポリアセチレン化合物やジアリールエテン化合物をその電子供与体有機化合物に相当する量だけ、含んでいてもよい。高分子化合物及び放射線吸収剤や放射線蛍光体剤を含んでいることが好ましいが、含んでいなくてもよい。
【0046】
ポリアセチレン化合物として、例えば、ジアセチレン化合物、より具体的にはジアセチレン基を有するカルバゾール類が挙げられる。
【0047】
ジアリールエテン化合物として、アルキル基やアルコキシ基やハロゲン基やアリール基やヘテロアリール基のような置換基で置換されていてもよいアリール基を1、2位に有するジアリールペルフルオロシクロペンテンで例示されるジアリールエテン類;アルキル基やアルコキシ基やハロゲン基やアリール基やヘテロアリール基のような置換基で置換されていてもよいヘテロアリール基を1、2位に有するジヘテロアリールペルフルオロシクロペンテン、より具体的には、1,2−ビス[2−メトキシ−5−フェニル−3−チエニル]ペルフルオロシクロペンテンのようなジヘテロアリールエテン類が挙げられる。
【実施例】
【0048】
放射線感応シートを試作し、それを用いて、本発明を適用する放射線ビームの位置を2箇所で求めて光軸を確認する方法の実施の例を、以下に示す。
【0049】
高分子化合物である塩化ビニル・酢酸ビニル・ビニルアルコールの共重合体を、溶媒であるトルエン/エタノール(1:1)に溶解させて、25%溶液の媒体を調製した。その媒体100重量部に、呈色性の電子供与体としてフルオラン類である2−(2−クロロアニリノ)−6−ジブチルアミノフルオランの10重量部、活性種生成有機化合物としてトリブロモエタノールの10重量部、放射線吸収剤として臭化セシウムの20重量部を混合して、放射線呈色性組成物をインクとして得た。
【0050】
図1に示すように、うら面に粘着剤層15と剥離シート16とが付されたポリエチレンフィルム製基材14に、得られた組成物を層状に塗布し、乾燥させ呈色層13とした。水分等の影響を回避するため、粘着剤層12を介して透明なプラスチックフィルム11でこの呈色層13を被い、6cm四方に切断し、対のX線感応シート10を作製した。
【0051】
図2に示す通り、ビームダクト(I)と実験ハッチ(II)とを仕切るスリット4の開口部を塞ぐように、一枚のX線感応シート10aを、貼付した。そこから離れた位置で実験ハッチ(II)内に櫓(不図示)を組み、そこに別な一枚のX線感応シート10bを設置した。
【0052】
エネルギー30keVのX線を2分間照射すると、X線感応シート10a・10bが、X線ビームの透過部位17a・17bで四角く、黄色から赤色に、呈色した。
【0053】
図3に示す通り、透過部位17a・17bの夫々の四隅から対角線を引き、その交点に孔18a・18bを開けた。開けた両孔18a・18bに、630nmのレーザービームを照射することによって、第二結晶板3からのX線ビームラインに相当する光軸を、目視で確認することができた。
【0054】
確認できた第二結晶板3からのビームライン光軸上に、第三結晶板5を設置し、その入射角度θを調整した。
【0055】
図4に示すとおり、第三結晶板5で反射するX線ビームライン1の推定延長線上に、X線感応シート10c・10dを設置し、同様に、X線ビームライン光軸を調整した。
その後、図5に示す通り、所望の適切な位置に試料6を設置し、放射線化学分析を行うことができた。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の放射線感応シートを用いた放射線ビーム確認方法は、X線診断、放射線治療、γ線・電子線滅菌等の線量バリデーションデータ取得の際の放射線二次元検出、さらに放射線化学分析による構造解析の際の最適測定条件の設定に、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明を適用する放射線ビーム確認方法に用いられる放射線感応シートの断面図である。
【0058】
【図2】本発明を適用する放射線ビーム確認方法によって、放射線感応シートの呈色で放射線ビームの透過部位を表示している実施途中を示す概要図である。
【0059】
【図3】本発明を適用する放射線ビーム確認方法によって、レーザービームで放射線ビームラインを表示している実施途中を示す概要図である。
【0060】
【図4】本発明を適用する放射線ビーム確認方法によって、放射線感応シートの呈色で放射線ビームの透過部位を表示している別な実施途中を示す概要図である。
【0061】
【図5】本発明を適用する放射線ビーム確認方法によって、確認すべき放射線ビームラインを示す概要図である。
【0062】
【図6】本発明を適用外の放射線ビーム確認方法の実施途中を示す概要図である。
【0063】
【図7】本発明を適用外の別な放射線ビーム確認方法の実施途中を示す概要図である。
【符号の説明】
【0064】
1は放射線ビームライン、2は第一結晶板、3は第二結晶板、4はスリット、5は第三結晶板、6は試料、10・10a・10b・10c・10dは放射線感応シート、11は透明被覆シール、12は粘着剤層、13は呈色層、14は基材、15は粘着剤層、16は剥離シート、17a・17bは透過部位、18a・18bは孔、19はレーザービーム、21a・21bはリナグラフ、22a・22bは蛍光板、23a・23bはCCDカメラ、(I)はビームダクト、(II)は実験ハッチである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハロゲン基とアセタール基との少なくともいずれかの基及び水酸基を有する高分子化合物と、呈色性の電子供与体有機化合物と、電子供与体有機化合物を呈色させる活性種生成有機化合物と、放射線吸収剤及び/又は放射線蛍光剤とが含まれた放射線呈色性組成物、又はポリアセチレン化合物とジアリールエテン化合物との少なくともいずれかが含まれた放射線呈色性組成物が、基材表面の少なくとも一部に付されており、放射線ビームの通過ライン上に載置される放射線感応シートであって、前記放射線ビームによって呈色する前記放射線呈色性組成物が、確認すべき前記放射線ビームの位置及び/又は範囲に応じ、それより広範囲に、前記基材表面へ付されていることを特徴とする放射線感応シート。
【請求項2】
ハロゲン基とアセタール基との少なくともいずれかの基及び水酸基を有する高分子化合物と、呈色性の電子供与体有機化合物と、電子供与体有機化合物を呈色させる活性種生成有機化合物と、放射線吸収剤及び/又は放射線蛍光剤とが含まれた放射線呈色性組成物、又はポリアセチレン化合物とジアリールエテン化合物との少なくともいずれかが含まれた放射線呈色性組成物を基材表面の少なくとも一部に付した放射線感応シートを、放射線ビームが通過するライン上に載置し、前記放射線ビームを照射し、それに応じ前記放射線感応シートの少なくとも一部の前記放射線呈色性組成物が呈色することによって前記放射線ビームの透過部位を表示して、放射線ビームの位置及び/又は照射範囲を確認することを特徴とする放射線ビーム確認方法。
【請求項3】
前記放射線呈色性組成物が、5〜50重量部の前記高分子化合物と、0.01〜50重量部の前記呈色性の電子供与体有機化合物と、0.1〜50重量部の前記活性種生成有機化合物と、0.1〜500重量部の放射線吸収剤及び/又は放射線蛍光剤とを含んでいることを特徴とする請求項2に記載の放射線ビーム確認方法。
【請求項4】
前記放射線感応シートが、基材上に前記放射線呈色性組成物で塗布されてエネルギー領域1keV〜400MeVの前記放射線ビームで感応する呈色層を、前記露出させていることを特徴とする請求項2に記載の放射線ビーム確認方法。
【請求項5】
前記放射線感応シートが、厚さ5μm〜5mmのラベル、又は成型体であることを特徴とする請求項2に記載の放射線ビーム確認方法。
【請求項6】
前記放射線ビームが、X線、α線、β線、γ線、電子線、中性子線、陽子線及び重イオン線の何れかのビームであることを特徴とする請求項2に記載の放射線ビーム確認方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−102055(P2008−102055A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285783(P2006−285783)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【出願人】(591106462)茨城県 (45)
【Fターム(参考)】