説明

放射線硬化型インク組成物セット及び記録方法

【課題】重ね塗り印刷を行う際にブリーディング及びハジキを抑制し、且つインク滴の吐出安定性に優れ、且つ実用上及びコスト上の観点で簡易に画像を形成できる、放射線硬化型インク組成物セット及び記録方法を提供する。
【解決手段】第1重合性化合物及び第1光重合開始剤を含み、被着体に付着する放射線硬化型の第1インク組成物と、第2重合性化合物及び第2光重合開始剤を含み、少なくとも前記第1インク組成物から形成されるドットに付着する放射線硬化型の第2インク組成物と、を含有する放射線硬化型インク組成物セットであって、前記第1インク組成物及び前記第2インク組成物の吐出時の温度及び粘度が互いに同一であり、かつ、前記被着体への付着時における前記第1インク組成物の粘度が、前記ドットへの付着時における前記第2インク組成物の粘度よりも高い、放射線硬化型インク組成物セットである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線硬化型インク組成物セット及び記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、優れた耐水性、耐溶剤性や耐擦過性等を有する画像を形成するために、放射線硬化型インク組成物が使用されている。この放射線硬化型インク組成物は重合性化合物及び光重合開始剤を含む。そして、当該インク組成物を被記録媒体に塗布し、放射線の照射によりインク組成物中の重合性化合物を重合させてインクを固化することにより、画像が形成される(印刷が行われる)。ところが、上記の放射線硬化型インク組成物を複数種用いて多色印刷(重ね塗り印刷)を行うと、インク境界線における滲みや混色(以下、「ブリーディング(bleeding)」という。)が生じる場合がある。そこで、ブリーディングの発生を防止可能な、重ね塗り印刷による画像形成方法が検討されている。
【0003】
例えば、活性光線硬化型インクをインクジェット記録により記録材料上に吐出する画像形成方法において、活性光線の照射を2回以上に分け、インクの着弾(付着)後最初に照射する活性光線によるインクの硬化度を低くし、更に活性光線を照射してインクを完全に硬化させる技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4147943号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に開示の技術は、隣接して打ち込まれたインクのブリーディングを防止できるが、オーバーコートのようにインクが重ね塗られた界面での現象には言及していない。オーバコート時のにじみを防ぐために下地の硬化を強めると、下地において所望のドット径が得られなかったり、上塗りのインクの撥液(以下、「ハジキ」(repelling)という。)が発生するため画像の光沢性に劣るという問題があり重ね塗り印刷時におけるブリーディングとハジキの両立ができていないのが現状である。さらに、上記特許文献1に開示の技術は、インク滴の吐出安定性に劣るという問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、オーバーコートのような重ね塗り印刷を行う際にブリーディング及びハジキを抑制し、インク滴の吐出安定性に優れ、且つ、実用上及びコスト上の観点で簡易に画像を形成できる、放射線硬化型インク組成物セット及び記録方法を提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した。重ね塗り印刷においてブリーディングが発生する原因を検討した。その結果、重ね塗り印刷において先に付着した被着体上のインクの層(以下、「アンダーコート層」ともいう。)と後に付着したアンダーコート層上のインクの層(以下、「オーバーコート層」ともいう。)とが混和することにより、アンダーコート層のインクがオーバーコート層側に流れ込み、これによりブリーディングが生じることが分かった。特に重ね打ち印刷は、オーバコートに用いるようなクリアインクや、白インクを下地にするような場合に用いられ、色の混色が視認されやすい。
なお、本明細書における「被着体」とは、被記録媒体、又は被記録媒体の上方に既に形成されたドットを意味する。
【0008】
重ね塗り印刷においてハジキが発生する原因を検討した。上記特許文献1のように隣接したドットのブリーディングに関しては、放射線の照射を2回以上に分けて、先の照射による硬化の硬化度を低くし(以下、「仮硬化」という。)、後の照射により完全硬化させる(以下、「本硬化」という。)ことにより、ブリーディングの発生を防止することはできる。しかし、重ね塗り印刷時のブリーディングを防止する程度にまでアンダーコート層のインクが硬化すると、当該硬化によるアンダーコート層の変性によって、オーバーコート層のインクのハジキが発生することが分かった。またアンダーコート層のインクの硬化を強めすぎると濡れ広がる前に硬化し所望のドット径が得られないことも分かった。
【0009】
上記ブリーディング及びハジキの問題を解決すべく、更に研究を進めた結果、付着時において、第1インク組成物の粘度が第2インク組成物の粘度よりも高くなるように、インク組成物セットを設計すればよいことを見出した。これにより、より高粘度であるアンダーコート層の第1インク組成物がオーバーコート層側に流れ込むこと(ブリーディング)を防止できることを知見した。しかも、より低粘度であるオーバーコート層の第2インク組成物が濡れ広がり易くなるため、そのハジキが抑制され光沢性に優れた画像が形成されることを見出した。
しかしながら、上記のように粘度が異なるインクを同一ヘッドで印字したところ、一方の粘度を有するインクにおいては優れた吐出安定性を示すが、もう一方の粘度を有するインクにおいては吐出安定性が確保できないことが分かった。
【0010】
複数種のインク組成物の吐出時の粘度が異なると、吐出安定性を良好にするためには、ヘッドの供給部などの流路は、インクの種類ごとに、粘度に見合うように設計されなければならない。言い換えれば、インクの種類ごとに異なるヘッドが用いられなければならない。結果として、記録装置の構造が非常に複雑化するため、実用上もコスト上も改善の余地がある。
【0011】
本発明者らが、更に検討を重ねた結果、放射線硬化型インク組成物セットを構成する複数種の放射線硬化型インク組成物が、吐出時の温度で互いに同一の粘度となることで、インク滴の吐出安定性が良好になることを見出した。
なお、以下では、放射線硬化型インク組成物セット、放射線硬化型インク組成物、第1の放射線硬化型インク組成物、及び第2の放射線硬化型インク組成物を、それぞれ単に、インク組成物セット、インク組成物、第1インク組成物、及び第2インク組成物ともいう。
【0012】
即ち、インク組成物セットにおいて、複数種のインク組成物の粘度が、吐出時の温度で互いに同一であり、かつ、付着時の温度で、アンダーコート層を形成すべき第1インク組成物の粘度が、オーバーコート層を形成すべき第2インク組成物の粘度よりも高くなることが重要であることを見出した。
さらに、吐出時において、第1インク組成物の温度と第2インク組成物の温度とを互いに同一にすれば、各インク組成物の流路同士において単一の温度調節システムを設ければよいので、画像形成が非常に簡易化し、実用上もコスト上も優れることを見出した。また、上記のように同一加温吐出時の粘度が同一で、付着時の粘度が異なるようなインクの組み合わせがオリゴマー量を制御することにより達成できることを見出した。
以上より、吐出時及び付着時において、第1インク組成物及び第2インク組成物の温度及び粘度が上記の関係を全て満たす放射線硬化型インク組成物セットを用いて重ね塗り印刷を行うことにより、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
即ち、本発明は下記のとおりである。
[1]
第1重合性化合物及び第1光重合開始剤を含み、被着体に付着する放射線硬化型の第1インク組成物と、第2重合性化合物及び第2光重合開始剤を含み、少なくとも前記第1インク組成物から形成されるドットに付着する放射線硬化型の第2インク組成物と、を含有する放射線硬化型インク組成物セットであって、前記第1インク組成物及び前記第2インク組成物の吐出時の温度及び粘度が互いに同一であり、かつ、前記被着体への付着時における前記第1インク組成物の粘度が、前記ドットへの付着時における前記第2インク組成物の粘度よりも高い、放射線硬化型インク組成物セット。
[2]
前記第1重合性化合物は、前記第1インク組成物100質量%に対し、10質量%以上のオリゴマーを含み、前記第2重合性化合物は、前記第2インク組成物100質量%に対し、10質量%以下のオリゴマーを含む、[1]に記載の放射線硬化型インク組成物セット。
[3]
前記オリゴマーが多分岐オリゴマーである、[2]に記載の放射線硬化型インク組成物セット。
[4]
第1重合成化合物及び第1光重合性開始剤を含む放射線硬化型の第1インク組成物を吐出して被着体に付着させる工程と、第2重合性化合物及び第2光重合性開始剤を含む放射線硬化型の第2インク組成物を、前記第1インク組成物の前記吐出時と同一の温度で、かつ、前記第1インク組成物の前記吐出時の粘度と同一の粘度で吐出して、前記第1インク組成物の前記付着時よりも低い粘度で前記第1ドットに付着させる工程と、付着した前記第1及び第2インク組成物によって形成される塗布層に放射線を照射することにより、塗布層を硬化する工程を含む、記録方法。
[5]
前記付着時における前記第1インク組成物及び前記第2インク組成物の温度が互いに同一であり、前記吐出時における前記第1インク組成物及び前記第2インク組成物の温度と、前記付着時における前記第1インク組成物及び前記放射線硬化型第2インク組成物の温度と、の差が、15〜30℃の範囲である、[4]に記載の記録方法。
[6]
前記第1インク組成物を吐出するプリンターヘッド及び前記第2インク組成物を吐出するプリンターヘッドのうち少なくともいずれかが、その吐出の際に25〜60℃の範囲で加温される、[4]又は[5]に記載の記録方法。
[7]
前記被着体が前記第1インク組成物の付着の際に10〜30℃の範囲で冷却される、[4]〜[6]のいずれかに記載の記録方法。
[8]
前記第1ドットの表面を硬化させる前記工程及び/又は前記第2ドットの表面を硬化させる前記工程において、2回以上前記放射線を照射して仮硬化及び本硬化を行い、且つ、前記仮硬化の際に照射する前記放射線による前記第1インク組成物及び/又は前記第2インク組成物の硬化度が5〜70%である、[4]〜[7]のいずれかに記載の記録方法。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】ラインプリンターの構成を示すブロック図である。
【図2】図1のラインプリンターの一態様における記録領域周辺の概略図である。
【図3】図1のラインプリンターの他の態様における記録領域周辺の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0016】
[記録装置構成]
本発明の一実施形態は、記録装置、即ちプリンターに係る。当該プリンターは重ね塗り印刷に用いられる。第1重合性化合物及び第1光重合開始剤を含みアンダーコート層を形成する第1インク組成物と、第2重合性化合物及び第2光重合開始剤を含みオーバーコート層を形成する第2インク組成物とを、この順で、被着体である被記録媒体に順次吐出して付着させ、放射線を照射し硬化させることで画像を形成する。
【0017】
上記のプリンターが画像を形成する際、それぞれの吐出時において、当該第1インク組成物及び当該第2インク組成物の温度及び粘度を互いに同一にする。これにより、重ね塗り印刷を行う際に、インクドットの吐出安定性が優れ、ブリーディングもハジキも生じず、かつ、実用上及びコスト上の観点で簡易に画像を形成できるという特性(以下、単に「特性」という。)。をより向上させることができる。
なお、第1インク組成物の温度と第2インク組成物の温度とが「同一」とは、設定温度に対する差が±2℃以内であることを意味する。一方、第1インク組成物の粘度と第2インク組成物の粘度とが「同一」とは、所望の粘度に対するばらつきが、±5%以内であることを意味する。
【0018】
通常、プリンターには、インク色ごとに異なる流路が設けられている。当該流路の入口はインクパックであり、当該流路の出口はプリンターヘッドのノズルにおけるインクメニスカス(インク液面)である。上記の流路の任意の箇所には、インクドットの吐出時の温度を制御するための温度調節システムが設けられる。当該温度調節システムは、プリンターヘッドノズル面の近傍に設けられることが好ましい。この場合、当該温度調節システムとインクの吐出部とが接近していることから、当該温度調節システムは吐出時のインクの温度を所望の範囲に制御することができる。
上記第1インク組成物及び上記第2インク組成物の吐出時の温度が異なる場合には、各インク組成物の流路ごとに異なる温度調節システムを設けなければならない。これに対し、上記第1インク組成物及び上記第2インク組成物の吐出時の温度が同一であると、単一の温度調節システムを1箇所に設ければよいこととなり、記録装置が簡素化されて、実用上及びコスト上の観点で簡易に画像を形成できる。さらにいえば、上記第1インク組成物及び上記第2インク組成物の吐出時の温度が互いに同一である場合に限り、単一のプリンターヘッドから第1インク組成物のドット及び第2インク組成物のドットの双方を吐出させることもできるため、記録装置を極めて簡素化することができる。
このような前提に基づき、本実施形態のプリンターを詳細に説明する。
【0019】
図1は、本実施形態で使用するラインプリンターの構成を示すブロック図である。図2は、図1のラインプリンターの一態様における記録領域周辺の概略図である。
【0020】
プリンターの種類として、ラインプリンター及びシリアルプリンターが挙げられる。これらの中でもラインプリンターにおいては、後述するように、被記録媒体を所定の方向(以下、「搬送方向」という。)に一度走査するだけで画像が形成される。そのため、ラインプリンターにおいては、シリアルプリンター等と比較して、異なる色のドットが隣接する可能性が高い。したがって、ラインプリンターにおいては、インクが重ね塗られた界面におけるハジキ、及びブリーディングが特に生じやすく、ハジキやブリーディングへの対策がより重要になる。
【0021】
それぞれの付着時に、アンダーコート層を形成する第1インク組成物の温度とオーバーコート層を形成する第2インク組成物の温度とは、通常同一となる。あるいは、それぞれの付着時の温度を、被記録媒体を冷却等することにより調整してもよい。そして、その温度において、第1インク組成物の粘度を第2インク組成物の粘度よりも高くする。これにより、ラインプリンターにおいても、ブリーディングが防止され、且つハジキがなく光沢性に優れた画像が形成される。
なお、上記の第1インク組成物及び第2インク組成物の具体的組成については後述する。
【0022】
プリンター1は、被記録媒体上に画像を形成する記録装置であり、外部装置であるコンピューター110と通信可能に接続されている。
ここで、本明細書における「被記録媒体上」とは、被記録媒体の表面上、及び、当該表面の上方に位置することを意味し、当該表面に隣接する場合であってもよく、隣接せずに当該表面に隣接するアンダーコート層に隣接する場合であってもよい。
【0023】
コンピューター110にはプリンタードライバーがインストールされている。プリンタードライバーは、表示装置(図示せず)にユーザーインターフェイスを表示させ、アプリケーションプログラムから出力された画像データを印刷データ(画像形成データ)に変換させるためのプログラムである。このプリンタードライバーは、フレキシブルディスクFDやCD−ROMなどの「コンピューターが読み取り可能な被記録媒体」に記録されている。又は、このプリンタードライバーは、インターネットを介してコンピューター110にダウンロードすることも可能である。なお、このプログラムは、各種の機能を実現するためのコードから構成されている。
そして、コンピューター110は、プリンター1に画像を形成させるため、当該画像に応じた印刷データをプリンター1に出力する。
【0024】
ここで、本明細書における「記録装置」とは、被記録媒体上に画像を形成する装置を意味し、例えばプリンター1が該当する。また、「記録制御装置」とは、記録装置を制御する装置を意味し、例えば、プリンタードライバーをインストールしたコンピューター110が該当する。
【0025】
本実施形態のプリンター1は、放射線の照射により硬化する放射線硬化型インク組成物を吐出することにより、被記録媒体上に画像を形成する装置である。放射線硬化型インク組成物は、重合性化合物及び光重合開始剤などを含み、放射線の照射に起因して重合反応が起こることにより硬化する。上記放射線としては、α線、β線、γ線、電子線、X線、紫外線(UV)、可視光線及び赤外線が挙げられる。中でも、X線等と比較し安全性面で放射線の取り扱いが比較的簡単なこと、可視光及び赤外線に反応するインク組成物については取り扱いの注意が煩雑なことから、紫外線(UV)が好ましい。
なお、放射線硬化型インク組成物の具体的組成については後述する。
【0026】
プリンター1は、少なくとも、アンダーコート層を形成する第1インク組成物とオーバーコート層を形成する第2インク組成物とを用いて、画像を形成する(印刷を行う)。第1インク組成物及び第2インク組成物の組み合わせとして、特に限定されないが、例えば、カラーインク同士の組み合わせ、カラーインク及びクリアインク、並びに白インク及びカラーインクが挙げられる。
また、プリンター1は、上記のような2層の重ね塗り印刷だけでなく、3層以上の重ね塗り印刷によって画像を形成することもできる。例えば3層の重ね塗り印刷の場合、プリンター1は、アンダーコート層を形成する第1インク組成物と、第2インク組成物と、オーバーコート層を形成する第3インク組成物とを用いて、画像を形成する。その際、当該第2インク組成物の層は、上記第1インク組成物から見るとオーバーコート層に相当し、上記第3インク組成物から見るとアンダーコート層に相当する。第1、第2及び第3インク組成物の組み合わせとして、特に限定されないが、例えば、カラーインク同士の組み合わせ、カラーインク2層及びクリアインク、白インク及びカラーインク2層、並びに白インク、カラーインク及びクリアインクが挙げられる。隣接するカラーインクの層は、同じ色の層でも異なる色の層でもよい。
なお、上記のカラーインクとして、特に限定されないが、例えば、CMYKの4色の放射線硬化型インク組成物が挙げられる。上記のCMYKとは、シアン(C)、マゼンダ(M)イエロー(Y)及びブラック(K)の4色を意味する。
【0027】
本実施形態のプリンター1は、搬送ユニット20、ヘッドユニット30、照射ユニット40、検出器群50、及びコントローラー60を有する。外部装置であるコンピューター110から印刷データを受信したプリンター1は、コントローラー60によって各ユニット、即ち搬送ユニット20、ヘッドユニット30及び照射ユニット40を制御して、印刷データに従い、被記録媒体上に画像を形成する。コントローラー60は、コンピューター110から受信した印刷データに基づいて、各ユニットを制御し、被記録媒体上に画像を形成する。プリンター1内の状況は検出器群50によって監視されており、検出器群50は、検出結果をコントローラー60に出力する。コントローラー60は、検出器群50から出力された検出結果に基づいて、各ユニットを制御する。
【0028】
搬送ユニット20は、被記録媒体を搬送方向に搬送させるためのものである。この搬送ユニット20は、図2に示すように、例えば、上流側搬送ローラ23A及び下流側搬送ローラ23Bと、ベルト24とを有する。搬送モータ(図示せず)が回転すると、上流側搬送ローラ23A及び下流側搬送ローラ23Bが回転し、ベルト24が回転する。給紙ローラ(図示せず)によって給紙された被記録媒体は、ベルト24によって、記録可能な領域(ヘッドと対向する領域)まで搬送される。ベルト24が被記録媒体を搬送することによって、被記録媒体がヘッドユニット30に対して搬送方向に移動する。記録可能な領域を通過した被記録媒体は、ベルト24によって外部へ排紙される。
なお、搬送中の被記録媒体は、ベルト24に静電吸着又はバキューム吸着されている。また、ここでは、便宜上、「給紙」という文言を用いたが、本実施形態における被記録媒体としては、後述の被記録媒体を用いることができる。
【0029】
ヘッドユニット30は、被記録媒体に向けて放射線硬化型インク組成物を吐出するためのものである。ヘッドユニット30は、画像を形成するための放射線硬化型インク組成物として、少なくとも第1インク組成物及び第2インク組成物を吐出する。以下では、第1インク組成物としてカラーインク、第2インク組成物としてクリアインクを用いた場合の具体的態様を説明する。
【0030】
ヘッドユニット30は、搬送中の被記録媒体に対して各インクを吐出することによって、被記録媒体上にドットを形成し、画像を形成する。本実施形態のプリンター1はラインプリンターであり、ヘッドユニット30の各ヘッドは被記録媒体の幅相当のドットを一度に形成することができる。具体的には、図2に示すように、搬送方向の上流側から順に、ブラックインクヘッドK、シアンインクヘッドC、マゼンダインクヘッドM、イエローインクヘッドY及びクリアインクヘッドCLの各ヘッドが設けられている場合、各ヘッドが紙面の奥から手前方向(搬送方向と垂直な方向)に、被記録媒体の幅相当のドットを吐出できるように複数個配置されている。このように、上流側から各ヘッドを制御し、被記録媒体の幅に相当する一ライン中の必要な箇所でドットを形成することにより、被記録媒体を搬送方向に一度走査するだけで、画像を形成することができる。
なお、上記のブラックインクヘッドKはブラックの放射線硬化型インク組成物の吐出部である。上記のシアンインクヘッドCはシアンの放射線硬化型インク組成物の吐出部である。上記のマゼンダインクヘッドMはマゼンダの放射線硬化型インク組成物の吐出部である。上記のイエローインクヘッドYはイエローの放射線硬化型インク組成物の吐出部である。上記のクリアインクヘッドCLはクリア(無色透明)の放射線硬化型インク組成物の吐出部である。
【0031】
照射ユニット40は、被記録媒体上に付着した放射線硬化型インク組成物のドットに向けて放射線を照射するものである。被記録媒体上に形成されたドットは、照射ユニット40からの放射線の照射を受けることにより、硬化する。本実施形態における照射ユニット40は、図3に示すように、仮硬化用照射部42a〜42d及び本硬化用照射部44を備えてもよい。図3は、図1のラインプリンターの他の態様における記録領域周辺の概略図である。
【0032】
上述のように、本実施形態のプリンター1は、アンダーコート層を形成する第1インク組成物とオーバーコート層を形成する第2インク組成物との間の、吐出時及び付着時における温度及び粘度を所定の関係に調整する。これにより、本実施形態は、仮硬化を行わなくても、重ね塗り印刷の際に、ブリーディングを発生させず、さらにハジキも発生させず、インクドットの吐出安定性に優れ、且つ実用上及びコスト上の観点で簡易に画像を形成できることを特徴とする。本実施形態は、当該特徴に加えて、さらに仮硬化を行うことにより、ブリーディングの発生を一層防止することができる。
【0033】
仮硬化用照射部42a〜42dは、被記録媒体上に形成されたドットを仮硬化させるための放射線を照射する。ここで、仮硬化(ピニング)とは、インクの仮留めを意味し、ドット間の滲みの防止やドット径の制御のために行う硬化をいう。よって、ドット(液滴)の少なくとも一部、例えばドット表面が硬化されればよい。
【0034】
仮硬化用照射部42a〜42dは、それぞれ、ブラックインクヘッドK、シアンインクヘッドC、マゼンダインクヘッドM、及びイエローインクヘッドYの搬送方向下流側に設けられている。つまり、インク色ごとに仮硬化用照射部が設けられている。
【0035】
この仮硬化用照射部42a〜42dは、放射線照射の光源として発光ダイオード(LED:Light Emitting Diode)を備えている。LEDは入力電流の大きさを制御することによって、照射エネルギーを容易に変更することが可能である。仮硬化の放射線照射エネルギーに制限はなく、インク組成によっても異なるが、紫外線照射エネルギーとして好ましくは100mJ/cm2以下であり、より好ましくは10〜50mJ/cm2である。紫外線照射エネルギーが上記範囲内であると、ハジキが一層効果的に防止される。
【0036】
本硬化用照射部44は、被記録媒体上に形成されたドットをほぼ完全に硬化させるための放射線を照射する。本硬化用照射部44は、クリアインクヘッドCLよりも搬送方向下流側に設けられている。また、被記録媒体の幅方向における本硬化用照射部44の長さは被記録媒体の幅以上である。そして、本硬化用照射部44は、ヘッドユニット30の各ヘッドによって形成されたドットに放射線を照射する。
【0037】
本実施形態の本硬化用照射部44は、放射線照射の光源として、LED又はランプを備えている。当該ランプとして、特に限定されないが、例えば、メタルハライドランプ、キセノンランプ、カーボンアーク灯、ケミカルランプ、低圧水銀ランプ及び高圧水銀ランプが挙げられる。本硬化の放射線照射エネルギーに制限はなく、インク組成によっても異なるが、紫外線照射エネルギーとして好ましくは200mJ/cm2以上であり、仮硬化の紫外線照射エネルギーと比較して2〜200倍程度である。
【0038】
検出器群50には、ロータリー式エンコーダ(図示せず)や紙検出センサ(図示せず)等が含まれる。ロータリー式エンコーダは、上流側搬送ローラ23Aや下流側搬送ローラ23Bの回転量を検出する。ロータリー式エンコーダの検出結果に基づいて、被記録媒体の搬送量を検出することができる。紙検出センサは、給紙中の被記録媒体の先端の位置を検出する。
【0039】
コントローラー60は、プリンターの制御を行うための制御ユニット(制御部)である。コントローラー60は、インターフェイス部61と、CPU62と、メモリー63と、ユニット制御回路64とを有する。インターフェイス部61は、外部装置であるコンピューター110とプリンター1との間でデータの送受信を行う。CPU62は、プリンター全体の制御を行うための演算処理装置である。メモリー63は、CPU62のプログラムを格納する領域や作業領域等を確保するためのものであり、RAM、EEPROM等の記憶素子を有する。CPU62は、メモリー63に格納されているプログラムに従って、ユニット制御回路64を介して各ユニットを制御する。
【0040】
[記録方法]
本発明の他の実施形態は、記録方法に係る。当該方法は、第1重合性化合物及び第1光重合開始剤を含む第1インク組成物と第2重合性化合物及び第2光重合開始剤を含む第2インク組成物とを被着体に向けて吐出して被着体上に付着させ、放射線を照射して硬化させることにより画像を形成するものであり、下記の各工程のようにドット形成の間の硬化工程を含んでもよい。
第1の工程は、第1インク組成物をヘッドから吐出して被着体に付着させる工程である。第2の工程は、付着した当該第1インク組成物によって形成される第1ドットに放射線を照射することにより、少なくとも当該第1ドットの表面を硬化させる工程である。第3の工程は、当該第2インク組成物をヘッドから吐出して第1ドットに付着させる工程である。第4の工程は、付着した当該第2インク組成物により形成される第2ドットに放射線を照射することにより、少なくとも当該第2ドットの表面を硬化させる工程である。
【0041】
ここで、ヘッドからの吐出時において当該第1インク組成物と当該第2インク組成物との間で温度及び粘度を互いに同一にする。これにより、重ね塗り印刷を行う際にインクドットの吐出安定性が優れたものとなることに加えて、実用上及びコスト上の観点で簡易に画像を形成できる。温度についてより詳細にいえば、上述のとおり、第1インク組成物及び第2インク組成物の温度を互いに同一にすることにより、単一の温度調節システムを1箇所に設ければよいため、記録方法が簡易化されて、実用上及びコスト上の観点で簡易に画像を形成できる。さらに詳細にいえば、第1インク組成物及び第2インク組成物の温度が互いに同一である場合に限り、単一のプリンターヘッドから第1インク組成物のドット及び第2インク組成物のドットの双方を吐出させることもできるため、記録方法を極めて簡易化することができる。
また、各インク組成物の付着時の温度は被記録媒体の温度に依存して、通常同一となるが、その温度における当該第2インク組成物の粘度を当該第1インク組成物の粘度よりも低くする。これにより、重ね塗り印刷を行う際にハジキ及びブリーディングの発生を効果的に防止できる。
【0042】
前記付着時における前記第1インク組成物及び前記第2インク組成物の温度が互いに同一であり、前記吐出時における前記第1インク組成物及び前記第2インク組成物の温度と、前記付着時における前記第1インク組成物及び前記第2インク組成物の温度との差が、15〜30℃の範囲であることが好ましい。より好ましくは20〜25℃の範囲である。上記温度差が15℃以上であると、第1インク組成と第2インク組成の温度粘度特性差により付着時の粘度の差が十分に得られる。一方、上記温度差が30℃以下であると、吐出時の温度を高くし過ぎなくて良く、ヘッドの耐久性を確保できる。
【0043】
上記第1インク組成物を吐出するプリンターヘッド及び上記第2インク組成物を吐出するプリンターヘッドのうち少なくともいずれかが、インク組成物を吐出する際に好ましくは25〜60℃の範囲で加温される。より好ましくは30〜50℃の範囲で加温される。加温温度が上記の範囲内であると、当該ヘッドの耐久性を良好なものとすることができ、且つヘッドから吐出するのに十分低粘度化できる。
【0044】
上記被記録媒体は、インク組成物の付着時に10〜30℃の範囲で冷却されることが好ましい。より好ましくは15〜25℃の範囲で冷却される。冷却温度が上記の範囲内であると、室温近辺であるため、被記録媒体の極端な温度制御による変形を防ぐことができる。
【0045】
上記第1インク組成物の第1ドット及び/又は上記第2インク組成物の第2ドットに放射線を照射する際、2回以上放射線を照射して仮硬化及び本硬化を行ってもよい。仮硬化の際に照射する放射線による当該インク組成物の硬化度、即ち当該インク組成物中の当該重合性化合物が硬化物へ転化する率は、好ましくは5〜70%であり、より好ましくは5〜40%であり、さらに好ましくは10〜20%である。硬化度が上記の範囲内であると、ブリーディングとハジキを両立できる。
以下、図1〜図3を参照しつつ、本実施形態をより具体的に説明する。
【0046】
まず、コントローラー60(図1)は、図2に示すように、被記録媒体がブラックインクヘッドKの下を通る際にブラックインクヘッドKからブラックインクを吐出させる。吐出されたブラックインクは被記録媒体に付着してドットを形成する。シアンインク、マゼンダインク及びイエローインクについても同様にドット形成を行う。
なお、図3に示すように、ブラックインクを吐出した後、被記録媒体が仮硬化用照射部42aを通る際に放射線を照射させ、ブラックインクヘッドKによって形成されたドットの仮硬化を行ってもよい。仮硬化を行う場合、カラーインクによるカラードットが色毎に形成された直後に、対応する仮硬化用照射部からそれぞれ放射線が照射される。シアンインク、マゼンダインク及びイエローインクについても同様に仮硬化を行ってもよい。
【0047】
次に、図2に示すように、クリアインクヘッドCLによって全面にクリアインクを塗布し、照射部において、被記録媒体上に形成されたドットに放射線を照射して硬化させる。
なお、図3に示すように、上記の仮硬化を行った場合、本硬化用照射部44によって、被記録媒体上に形成されたドットに放射線を照射して本硬化させることができる。
【0048】
上記の記録方法においては、インクジェット方式を用いることが好ましい。即ち、上述した放射線硬化型インク組成物を被記録媒体上に吐出し付着させることにより画像を形成する際、インクジェット記録方法を用いることができる。当該インクジェット記録方法として、従来より公知の方法を使用できる。これらの中でも特に、圧電素子の振動を利用して液滴を吐出させる方法、即ち電歪素子の機械的変形によりインクドットを形成するインクジェットヘッドを用いた記録方法を用いることにより、優れた品質の画像を形成することができる。
【0049】
このように、本実施形態によれば、重ね塗り印刷を行う際にハジキもブリーディングも生じず、インクドットの吐出安定性に優れ、且つ実用上及びコスト上の観点で簡易に画像を形成できる、記録方法を提供することができる。
【0050】
[放射線硬化型インク組成物セット]
本発明の他の一実施形態は、放射線硬化型インク組成物セットに係る。当該インク組成物セットは、第1重合性化合物及び第1光重合開始剤を含み、被着体に付着する第1インク組成物と、第2重合性化合物及び第2光重合開始剤を含み、少なくとも第1インク組成物から形成されるドットに付着する第2インク組成物とを含有する。
【0051】
ここで、それぞれの吐出時においては、当該第1インク組成物及び当該第2インク組成物の温度及び粘度が共に、互いに同一である。これにより、上述のとおり、重ね塗り印刷を行う際のインクドットの吐出安定性が優れたものとなることに加えて、実用上及びコスト上の観点で簡易に画像を形成できる。
【0052】
また、付着時においては、当該第1インク組成物の温度と当該第2インク組成物の温度とは通常同一であり、且つ当該第1インク組成物の粘度が当該第2インク組成物の粘度よりも高い。これにより、上述のとおり、重ね塗り印刷を行う際のハジキ及びブリーディングの発生を効果的に防止できる。
【0053】
上記の放射線硬化型インク組成物セットは、上述のとおり、第1インク組成物と第2インク組成物とを含有し、第1インク組成物はアンダーコート層を形成し、第2インク組成物はオーバーコート層を形成する。当該インク組成物セットが第1インク組成物及び第2インク組成物からなる場合、当該インク組成物セットは2層の重ね塗り印刷に使用される。第1及び第2インク組成物の組み合わせは、上述のとおりである。また、当該インク組成物セットが上記第2インク組成物の層をオーバーコートする第3インク組成物をさらに有する場合、当該インク組成物セットは3層の重ね塗り印刷に使用される。第1、第2及び第3インク組成物の組み合わせは、上述のとおりである。同様に、当該インク組成物セットが第nインク組成物をオーバーコートする第(n+1)インク組成物をさらに有する場合、当該インク組成物セットは(n+1)層の重ね塗り印刷に使用される(nは任意の整数)。
【0054】
以下、放射線硬化型インク組成物セットを構成する各インク組成物に含まれる成分を説明する。なお、下記の「インク組成物」は、第1、第2、第3、・・・第n及び第(n+1)インク組成物の各々を意味する。
【0055】
〔重合性化合物〕
本実施形態のインク組成物に用いられる重合性化合物は、後述する光重合開始剤の作用により放射線などの光の照射時に重合し、固化する化合物であれば、特に制限はない。例えば、単官能基、2官能基、及び3官能基以上の多官能基を有する種々のモノマー及びオリゴマーが使用可能である。
【0056】
ここで、本明細書における「モノマー」とは、重量平均分子量が100〜3,000の分子を意味する。本明細書における「オリゴマー」とは、重量平均分子量が500〜20,000の分子を意味する。
【0057】
上述の温度粘度特性は、放射線硬化型インク組成物中のオリゴマー量に拠る。そのため、上記の放射線硬化型インク組成物セットが第1インク組成物及び第2インク組成物からなる場合、上記第1重合性化合物は、上記第1インク組成物100質量%に対し、10質量%以上のオリゴマーを含むことが好ましい。これに加えて、上記第2重合性化合物は、上記第2インク組成物100質量%に対し、10質量%以下のオリゴマーを含むことが好ましい。第1重合性化合物及び第2重合性化合物におけるオリゴマーの各含有量が上記範囲内であると、インク組成物の粘度を容易に調整することができる。より具体的には、吐出時における、第1インク組成物の粘度及び第2インク組成物の粘度を等しく調整した場合に、着弾時において容易に粘度差を得ることができる。上記第1重合性化合物は、上記第1インク組成物100質量%に対し、より好ましくは10質量%以上、さらに好ましくは15〜30質量%のオリゴマーを含むことが好ましい。一方、上記第2重合性化合物は、上記第2インク組成物100質量%に対し、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは3〜8質量%のオリゴマーを含むことが好ましい。
なお、放射線硬化型インク組成物セットが第3インク組成物を含む場合、即ち3層の重ね塗り印刷となる場合、各インク組成物中のオリゴマーの含有量は5質量%以下が好ましい。
【0058】
上記モノマーとしては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸及びマレイン酸等の不飽和カルボン酸やそれらの塩又はエステル、ウレタン、アミド及びその無水物、アクリロニトリル、スチレン、種々の不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、並びに不飽和ウレタンが挙げられる。
他の単官能モノマーや多官能モノマーとして、N−ビニル化合物を含んでいてもよい。N−ビニル化合物としては、N−ビニルフォルムアミド、N−ビニルカルバゾール、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、及びそれらの誘導体等が挙げられる。
【0059】
また、上記オリゴマーとしては、例えば、直鎖オリゴマーや多分岐オリゴマー等の上記のモノマーから形成されるオリゴマー、エポキシ(メタ)アクリレート、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレート、芳香族ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート及びポリエステル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0060】
上記で列挙したものの中でも(メタ)アクリル酸のエステル、即ち(メタ)アクリレートが好ましい。重合性化合物として(メタ)アクリレートを使用した場合、インクの硬化性、及び硬化膜の被着体への密着性を良好にすることができる。また、上記のオリゴマーの中では多分岐オリゴマーが好ましい。重合性化合物として多分岐オリゴマーを使用した場合、インク組成物の粘度を容易に調整することができる。ここで、多分岐オリゴマーとは、1分子中に複数の分岐鎖を有するオリゴマーを意味する。多分岐オリゴマーについては後述する。
なお、本明細書における「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びそれに対応するメタクリレートを意味し、「(メタ)アクリル」はアクリル及びそれに対応するメタクリルを意味する。
【0061】
上記(メタ)アクリレートのうち、単官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル−ジグリコール(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、ラクトン変性可とう性(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、及びイソボルニル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0062】
上記(メタ)アクリレートのうち、2官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール−トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのEO(エチレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO(プロピレンオキサイド)付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、及びポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0063】
上記(メタ)アクリレートのうち、3官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、EO変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、カウプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、及びカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0064】
これらの中でも、硬化時の塗膜(塗布層)の伸び性が高く、且つ低粘度であるため、インクジェット記録時の射出安定性が得られやすいという観点から、重合性化合物として、単官能(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。さらに塗布層の硬さが増すという観点から、単官能(メタ)アクリレートと2官能(メタ)アクリレートとを併用することがより好ましい。
【0065】
一方、上記の多分岐オリゴマーとして、特に限定されないが、例えば、デンドリマー、ハイパーブランチオリゴマー、スターオリゴマー及びグラフトオリゴマーが挙げられる。上記のデンドリマー、ハイパーブランチオリゴマー、スターオリゴマー及びグラフトオリゴマーとしては、従来より公知の化合物が使用可能である。これらの中でも、好ましくはデンドリマー及びハイパーブランチオリゴマーである。重合性化合物としてデンドリマーを使用した場合、放射線硬化型インク組成物の粘度を極めて容易に調整することができる。上記多分岐オリゴマーの中でも、より好ましくはハイパーブランチオリゴマーである。
【0066】
上記のハイパーブランチオリゴマーは、2個以上のモノマーが繰り返し単位として結合したオリゴマーに複数の官能基が結合したオリゴマーを指す。重合性化合物としてハイパーブランチオリゴマーを使用した場合、ハイパーブランチオリゴマーは一般に官能基を多数有しているため、放射線硬化型インク組成物の硬化速度を一層増大させることができ、靭性も一層良好にすることができる。上記の官能基の例としてアクリロイル基が挙げられ、アクリロイル基を官能基として有するハイパーブランチオリゴマーは、多官能基にも関わらず、低粘度を維持できるため、放射線硬化型インク組成物の粘度を極めて容易に調整することができる。アクリロイル基を官能基として有するハイパーブランチオリゴマーには、一分子中に有するアクリロイル基の数に応じて、ポリエステル6官能アクリレート、ポリエステル9官能アクリレートやポリエステル16官能アクリレート等が存在する。
アクリロイル基を官能基として有するハイパーブランチオリゴマーの市販品として、例えば、CN2300(ポリエステル6官能アクリレート)、CN2301(ポリエステル9官能アクリレート)及びCN2302(ポリエステル16官能アクリレート)(以上、サートマー(SARTOMER)社製)等が挙げられるが、特にCN2300とCN2301は異なる温度粘度特性を持つため、本発明に好適である。
【0067】
上記の重合性化合物は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。また、第1重合性化合物及び第2重合性化合物は互いに、同一の成分で構成されてもよく、異なる成分で構成されてもよいが、異なる温度粘度特性を得るには異なる化合物を用いるのが好適である。
【0068】
〔光重合開始剤〕
本実施形態における放射線硬化型インク組成物に含まれる重合開始剤は、放射線などの光のエネルギーによって、ラジカルやカチオンなどの活性種を生成し、上記重合性化合物の重合を開始させるものであれば特に制限されない。ラジカル重合開始剤やカチオン重合開始剤を使用することができ、中でもラジカル重合開始剤を使用することが好ましい。ラジカル重合開始剤を使用することにより、カチオン重合の場合のような湿度による重合阻害を受けないため、印字環境を選ばないという有利な効果が得られる。
なお、カチオン重合開始剤として、特に限定されないが、例えば、化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物が用いられる(有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメ−ジング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187〜192ページ、技術情報協会、「光硬化技術」、2001年に紹介されている光酸発生剤)。本実施形態に好適な化合物例として、まず、ジアゾニウム、アンモニウム、ヨ−ドニウム、スルホニウム等の芳香族オニウム化合物のB(C654-,PF6-,AsF6-,SbF6-,CF3SO3-塩を挙げることができる。対アニオンとしてボレート化合物を持つものが、酸発生能力が高いため、好ましい。また、スルホン酸を発生するスルホン化物、ハロゲン化水素を光発生するハロゲン化物、及び鉄アレン錯体も好適に挙げられる。カチオン重合開始剤の市販品として、例えばUV1−6992(トリフェニルスルフォニウム塩、ダウケミカル社(The Dow Chemical Company)製)等が挙げられる。
【0069】
上記のラジカル重合開始剤としては、例えば、芳香族ケトン類、アシルホスフィン化合物、芳香族オニウム塩化合物、有機過酸化物、チオ化合物、ヘキサアリールビイミダゾール化合物、ケトオキシムエステル化合物、ボレート化合物、アジニウム化合物、メタロセン化合物、活性エステル化合物、炭素ハロゲン結合を有する化合物、及びアルキルアミン化合物が挙げられる。
【0070】
ラジカル重合開始剤の具体例としては、アセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、べンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4'−ジメトキシベンゾフェノン、4,4'−ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド、2,4−ジエチルチオキサントン及びビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキシドが挙げられる。
【0071】
ラジカル重合開始剤の市販品としては、例えば、IRGACURE 651(2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン)、IRGACURE 184(1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン)、DAROCUR 1173(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン)、IRGACURE 2959(1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン)、IRGACURE 127(2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]フェニル]−2−メチル−プロパン−1−オン}、IRGACURE 907(2−メチル−1−(4−メチルチオフェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン)、IRGACURE 369(2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1)、IRGACURE 379(2−(ジメチルアミノ)−2−[(4−メチルフェニル)メチル]−1−[4−(4−モルホリニル)フェニル]−1−ブタノン)、DAROCUR TPO(2,4,6−トリメチルベンゾイル−ジフェニル−フォスフィンオキサイド)、IRGACURE 819(ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド)、IRGACURE 784(ビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム)、IRGACURE OXE 01(1.2−オクタンジオン,1−[4−(フェニルチオ)−,2−(O−ベンゾイルオキシム)])、IRGACURE OXE 02(エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−,1−(O−アセチルオキシム))、IRGACURE 754(オキシフェニル酢酸、2−[2−オキソ−2−フェニルアセトキシエトキシ]エチルエステルとオキシフェニル酢酸、2−(2−ヒドロキシエトキシ)エチルエステルの混合物)(以上、チバ・ジャパン社(Ciba Japan K.K.)製)、DETX−S(2,4−ジエチルチオキサントン)(日本化薬社(Nippon Kayaku Co., Ltd.)製)、Lucirin TPO、LR8893、LR8970(以上、BASF社製)、及びユベクリルP36(UCB社製)などが挙げられる。
【0072】
上記光重合開始剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、第1光重合開始剤及び第2光重合開始剤は互いに、同一の成分で構成されてもよく、異なる成分で構成されてもよい。
【0073】
〔色材〕
本実施形態における放射線硬化型インク組成物は、色材をさらに含んでもよい。上記色材は、顔料及び染料のうち少なくとも一方である。
【0074】
(顔料)
本実施形態において、色材として顔料を用いることにより、放射線硬化型インク組成物の耐光性を向上させることができる。顔料は、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。
【0075】
無機顔料としては、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャネルブラック等のカーボンブラック(C.I.ピグメントブラック7)類、酸化鉄、酸化チタンを使用することができる。
【0076】
また、有機顔料として、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、アゾレーキ、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料、染料キレート(例えば、塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等)、染色レーキ(塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ)、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。上記顔料は1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0077】
また、カラーインデックスに記載されていない顔料であっても水に不溶であればいずれも使用できる。
【0078】
(染料)
本実施形態において、色材として染料を用いることができる。染料としては、特に限定されることなく、酸性染料、直接染料、反応性染料及び塩基性染料が使用可能である。上記染料として、例えば、C.I.アシッドイエロー17,23,42,44,79,142、C.I.アシッドレッド52,80,82,249,254,289、C.I.アシッドブルー9,45,249、C.I.アシッドブラック1,2,24,94、C.I.フードブラック1,2、C.I.ダイレクトイエロー1,12,24,33,50,55,58,86,132,142,144,173、C.I.ダイレクトレッド1,4,9,80,81,225,227、C.I.ダイレクトブルー1,2,15,71,86,87,98,165,199,202、C.I.ダイレクドブラック19,38,51,71,154,168,171,195、C.I.リアクティブレッド14,32,55,79,249、C.I.リアクティブブラック3,4,35が挙げられる。
【0079】
また、上記の放射線硬化型インク組成物は、色材を含まないクリアインクにも適用可能である。
【0080】
また、上記顔料は、後述する分散剤又は界面活性剤中に分散させて用いることができる。
【0081】
〔その他の成分〕
本実施形態における放射線硬化型インク組成物は、上記に挙げた成分以外の成分を含んでもよい。当該成分として、特に限定されないが、例えば、分散剤、界面活性剤及び重合禁止剤が挙げられる。
【0082】
上記の分散剤として、特に限定されないが、例えば、高分子分散剤などの顔料分散液を調製するのに慣用されている分散剤、味の素ファインテクノ(株)製のアジスパーシリーズ、アビシア(株)製のソルスパーズシリーズ、BYKChemie社製のディスパービックシリーズ、楠本化成(株)製のディスパロンシリーズ等が挙げられる。上記高分子分散剤として、特に限定されないが、例えば、ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン、ビニル系ポリマー及びコポリマー、アクリル系ポリマー及びコポリマー、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、アミノ系ポリマー、含珪素ポリマー、含硫黄ポリマー、含フッ素ポリマー、並びにエポキシ樹脂等のうち一種以上を主成分とするものが挙げられる。
【0083】
上記の界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤として、ポリエステル変性シリコーンやポリエーテル変性シリコーンを用いることができ、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン又はポリエステル変性ポリジメチルシロキサンを用いることが特に好ましい。具体例としては、BYK−347、BYK−348、BYK−UV3500、3510、3530、3570(ビックケミー・ジャパン社(BYK Japan KK)製)を挙げることができる。
【0084】
上記の重合禁止剤としては、特に限定されないが、例えば、IRGASTAB UV10及びUV22(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社(Ciba Specialty Chemicals Inc.)製)などを用いることができる。重合禁止剤を添加することにより、放射線硬化型インク組成物の保存安定性が向上する。
【0085】
さらに、上記の放射線硬化型インク組成物は、重合促進剤、スリップ剤、浸透促進剤及び湿潤剤(保湿剤)、並びにその他の添加剤を含んでもよい。当該その他の添加剤としては、例えば定着剤、防黴剤、防腐剤、酸化防止剤、放射線吸収剤、キレート剤、pH調整剤及び増粘剤が挙げられる。
【0086】
なお、被記録媒体としては、非吸収性であれば特に制限はないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリプロピレン、ポリエチレンなどの樹脂材料を用いることができる。また、これらの被記録媒体の表面に処理層(コート層)などを有していてもよい。
【0087】
[放射線硬化型インク組成物セットの物性]
吐出時において、上記第1インク組成物の温度と上記第2インク組成物の温度とは互いに同一である。その際の温度は、好ましくは25〜60℃であり、好ましくは30〜50℃である。当該温度が上記の範囲内であると、温度設定できない場合と比較し高粘度インクの吐出が可能となり、また過剰に高温ではないためヘッドの寿命を長期間保つことができる。
【0088】
吐出時において、上記第1インク組成物の粘度と上記第2インク組成物の粘度とは同一である。その際の、温度を40℃としたときの粘度は、好ましくは3〜30mPa・sであり、好ましくは10〜15mPa・sである。当該粘度が上記の範囲内であると、吐出安定性を良好に保つことができ、かつ粘度も極端に低くないことから、インクの設計のマージンも広いという有利な効果が得られる。
【0089】
付着時において、上記第1インク組成物の温度と上記第2インク組成物の温度とは同一である。その際の温度は、好ましくは10〜30℃であり、より好ましくは15〜25℃である。当該温度が上記の範囲内であると、室温近辺であるため、被記録媒体の極端な温度制御による変形を防ぐことができる。
【0090】
付着時において、アンダーコート層を形成する上記第1インク組成物の粘度はオーバーコート層を形成する上記第2インク組成物の粘度よりも高い。このような関係の下で、温度を20℃としたときの上記第1インク組成物の粘度は、好ましくは30mPa・s以上、より好ましくは35mPa・s以上、さらに好ましくは35〜70mPa・sである。一方、温度を20℃としたときの上記第2インク組成物の粘度は、好ましくは35mPa・s未満、より好ましくは30mPa・s未満、さらに好ましくは25mPa・s以下、さらにより好ましくは15〜25mPa・sである。アンダーコート層の第1インク組成物の粘度が上記範囲内であると、オーバーコート層側に流れ込むこと(ブリーディング)を一層防止でき、且つ硬化によるアンダーコート層の変性を防止してオーバーコート層の第2インク組成物のハジキを一層防止できる。一方、オーバーコート層の第2インク組成物の粘度が上記範囲内であると、第2インク組成物が一層濡れ広がり易くなるため、ハジキがなく光沢性に一層優れた画像を形成できる。
【0091】
本実施形態において、吐出時の第1インク組成物の粘度と第2インク組成物の粘度とを互いに同一にするには、単一の温度調節システムを用いて、それぞれのインク組成物を吐出する一又は二以上のプリンターヘッドを加温等して温度を変化させ、それぞれのインク組成物の吐出時の粘度を同一に制御し且つその温度における粘度が同一になるようにインク組成物を調整する方法を用いればよい。
また、付着時の第1インク組成物の粘度を第2インク組成物の粘度よりも高くするには、被記録媒体の温度を変化させ、それぞれのインク組成物の付着時の粘度を制御し、且つインク組成物における各成分の種類や組成を調整することでそれぞれのインク組成物の付着時の粘度を制御する方法を用いればよい。
なお、インク組成物における各成分の種類や組成を調整する際には、上記温度粘度特性を考慮に入れると調整が容易となる。即ち、インク組成物の温度粘度特性は、そこに含まれる各成分の温度粘度特性にある程度依存するため、温度粘度特性の傾きを大きくするには、温度粘度特性の傾きが大きな成分を添加したり、その配合割合を高くすればよい。また、温度粘度特性の全体を高くするには、粘度の高い成分を添加したり、その配合割合を高くすればよい。
【0092】
このように、本実施形態によれば、重ね塗り印刷を行う際にハジキもブリーディングも生じず、インクドットの吐出安定性に優れ、且つ実用上及びコスト上の観点で簡易に画像を形成できる、放射線硬化型インク組成物セットを提供することができる。
【実施例】
【0093】
以下、本実施形態を実施例及び比較例によってさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0094】
[材料]
実施例及び比較例において使用した材料は、下記に示すとおりである。
〔顔料〕
・C.I.ピグメントブラック−7(東洋インキ製造社(TOYO INK MFG. CO., LTD.)製)
・C.I.ピグメントブルー−15:3(東洋インキ製造社製)
・C.I.ピグメントバイオレット−19(東洋インキ製造社製)
・C.I.ピグメントイエロー−180(東洋インキ製造社製)
〔分散剤〕
・ポリオキシアルキレンポリアルキレンポリアミン
〔光重合開始剤〕
・Irgacure 184(チバ・ジャパン社製)
・Darocure TPO(チバ・ジャパン社製)
・UV1−6992(ダウケミカル社製)
〔重合性化合物〕
・CN2300(ハイパーブランチオリゴマー、サートマー社製)
・CN2301(ハイパーブランチオリゴマー、サートマー社製)
・CN550(ポリエーテルアクリレートオリゴマー、サートマー社製)
・SR355(4官能モノマー、サートマー社製)
・SR256(単官能モノマー、サートマー社製)
【0095】
・P−4(下記化学式P−4に示すデンドリマー、重量平均分子量約1,620)
【化1】

【0096】
・P−10(下記化学式P−10に示すハイパーブランチオリゴマー、重量平均分子量8,000)
【化2】

【0097】
・P−16(下記化学式P−16に示すハイパーブランチオリゴマー、重量平均分子量12,000)
【化3】

【0098】
なお、上記のP−10及びP−16を表す化学式中の数値はモル%を意味する。また、上記のP−4、P−10及びP−16の製造方法はそれぞれ、特開2006−282764号公報に記載された例示化合物P−4、例示化合物P−10及び例示化合物P−16の製造方法と同様である。
【0099】
・OXT−221(3,7−ビス(3−オキセタニル)−5−オキサ−ノナン、東亜合成社(TOAGOSEI CO., LTD.)製)
・セロキサイド2021A(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ダイセル・サイテック社(DAICEL-CYTEC Company LTD.)製)
〔被記録媒体〕
・PETフィルム PET50(K2411)PA−T1 8LK リンテック株式会社
【0100】
[実施例1〜3、比較例1〜3]
〔紫外線硬化型インク組成物の製造〕
まず、顔料分散液を調製した。下記表1に種類及び配合量を質量部で記載した顔料及び分散剤を混合撹拌した。得られた混合物を、サンドミル(安川製作所株式会社製)を用いて、ジルコニアビーズ(直径1.5mm)と共に6時間分散処理を行った。その後、ジルコニアビーズをセパレータで分離することにより、実施例及び比較例で使用する顔料分散液を得た。
【0101】
次に、アンダーコート層を形成する、紫外線硬化型の第1インク組成物(CMYKのカラーインク)と、オーバーコート層を形成する、紫外線硬化型の第2インク組成物(クリアインク)とを製造した。上記で得られた顔料分散液に、下記表1に記載した重合性化合物及び光重合開始剤を調合した後、スターラーを用いてこれらの材料を混合攪拌した。このようにして、紫外線硬化型の第1インク組成物及び紫外線硬化型の第2インク組成物を得た。
【0102】
〔紫外線硬化型インク組成物の吐出時及び付着時における温度及び粘度の測定、並びに記録物の製造〕
ラインプリンターを用いて、膜厚10μmとなるように紫外線硬化型第1インク組成物をPETフィルム上に吐出して塗布しアンダーコート層を作成した。その際、吐出時における当該第1インク組成物の温度はラインプリンターに設けられた温度調節システムにより40℃に調整し、付着時における当該第1インク組成物の温度は20℃になるようにした。吐出時及び着弾時における温度は、ヘッドノズル面に付随したサーミスタ及び被記録物媒体上の表面温度から見積もり、吐出時及び着弾時における粘度は、それぞれの温度における粘度を別途レオメータ(Physica社製、MCR-300)を用い測定して見積もった。
【0103】
続いて速やかに、上記のラインプリンターを用いて、膜厚10μmとなるように紫外線硬化型第2インク組成物を上記のアンダーコート層上に吐出して塗布しオーバーコート層を作成した。その際、吐出時における当該第2インク組成物の温度はラインプリンターに設けられた温度調節システムにより40℃に調整し、付着時における当該第2インク組成物の温度は20℃になるようにした。上記と同様の方法により、吐出時及び付着時における温度及び粘度を測定し、見積もった。
【0104】
その後、アンダーコート層及びオーバーコート層を、共にメタルハライドランプで(照射エネルギー:200mJ/cm2)本硬化した。このようにして、PETフィルム上に、カラーインク及びクリアインクがこの順に重ね塗り印刷された記録物を製造した。
【0105】
[表1]

【0106】
[表2]

上記の表1及び表2中、「C」はシアンインク、「M」はマゼンダインク、「Y」はイエローインク、「K」はブラックインク、「Cl」はクリアインクを意味する。これらのうち、「C」、「M」、「Y」及び「K」は第1インク組成物としてアンダーコート層を形成し、「Cl」は第2インク組成物としてオーバーコート層を形成した。
また、吐出時(40℃)の粘度(mPa・s)中、Aは15mPa・s以上であり、Bは10mPa・s以上15mPa・s未満であり、Cは5mPa・s以上10mPa・s未満であり、Dは5mPa・s未満であることを意味する。一方、付着時(20℃)の粘度(mPa・s)中、Aは35mPa・s以上であり、Bは30mPa・s以上35mPa・s未満であり、Cは25mPa・s以上30mPa・s未満であり、Dは25mPa・s未満であることを意味する。
【0107】
〔記録物におけるブリーディング及び埋まりの評価〕
(1.ブリーディングの評価)
上記記録物のオーバーコート層におけるカラーインク(第1インク組成物)の滲みの有無を目視で観察して評価した。観察結果を下記表3に示す。ここで、評価基準は下記のとおりである。
A:滲み無し、
B:滲み有り。
【0108】
(2.埋まりの評価)
上記記録物をオーバーコート層側から見たときに、アンダーコート層のカラーインク(第1インク組成物)が観察されるか否かにより、埋まりを評価した。観察結果を下記表3に示す。ここで、評価基準は下記のとおりである。
A:アンダーコート層のカラーインクは見えず、オーバーコート層の表面形状も平坦であった、
B:アンダーコート層のカラーインクは見えないが、オーバーコート層の表面形状に凹凸があった、
C:アンダーコート層のカラーインクがむき出して見えた。
なお、埋まりの評価結果が良好であるほど、オーバーコート層を形成するクリアインク(第2インク組成物)のハジキがより少なく光沢性により優れる。
【0109】
[表3]

【0110】
上記の結果より、比較例1〜3の放射線硬化型インク組成物セットと比較して、実施例1〜3の放射線硬化型インク組成物セットを用いることにより、ブリーディング及びハジキの発生を防止できることを見出した。なお、実施例1〜3のインク組成物セットは、吐出時において、第1インク組成物及び第2インク組成物の温度及び粘度が共に互いに同一であって、且つ、付着時において、第1インク組成物及び第2インク組成物の温度が同一であり粘度は第1インク組成物の方がより高い。
【符号の説明】
【0111】
1 プリンター、20 搬送ユニット、23A 上流側搬送ローラ、23B 下流側搬送ローラ、24 ベルト、30 ヘッドユニット、40 照射ユニット、42a 仮硬化用照射部、42b 仮硬化用照射部、42c 仮硬化用照射部、42d 仮硬化用照射部、44 本硬化用照射部、50 検出器群、60 コントローラー、110 コンピューター。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1重合性化合物及び第1光重合開始剤を含み、被着体に付着する放射線硬化型の第1インク組成物と、第2重合性化合物及び第2光重合開始剤を含み、少なくとも前記第1インク組成物から形成されるドットに付着する放射線硬化型の第2インク組成物と、を含有する放射線硬化型インク組成物セットであって、
前記第1インク組成物及び前記第2インク組成物の吐出時の温度及び粘度が互いに同一であり、
かつ、前記被着体への付着時における前記第1インク組成物の粘度が、前記ドットへの付着時における前記第2インク組成物の粘度よりも高い、放射線硬化型インク組成物セット。
【請求項2】
前記第1重合性化合物は、前記第1インク組成物100質量%に対し、10質量%以上のオリゴマーを含み、
前記第2重合性化合物は、前記第2インク組成物100質量%に対し、10質量%以下のオリゴマーを含む、請求項1に記載の放射線硬化型インク組成物セット。
【請求項3】
前記オリゴマーが多分岐オリゴマーである、請求項2に記載の放射線硬化型インク組成物セット。
【請求項4】
第1重合成化合物及び第1光重合性開始剤を含む放射線硬化型の第1インク組成物を吐出して被着体に付着させる工程と、
第2重合性化合物及び第2光重合性開始剤を含む放射線硬化型の第2インク組成物を、前記第1インク組成物の前記吐出時と同一の温度で、かつ、前記第1インク組成物の前記吐出時の粘度と同一の粘度で吐出して、前記第1インク組成物の前記付着時よりも低い粘度で前記第1ドットに付着させる工程と、
付着した前記第1及び第2インク組成物によって形成される塗布層に放射線を照射することにより、塗布層を硬化する工程を含む、記録方法。
【請求項5】
前記付着時における前記第1インク組成物及び前記第2インク組成物の温度が互いに同一であり、
前記吐出時における前記第1インク組成物及び前記第2インク組成物の温度と、前記付着時における前記第1インク組成物及び前記放射線硬化型第2インク組成物の温度と、の差が、15〜30℃の範囲である、請求項4に記載の記録方法。
【請求項6】
前記第1インク組成物を吐出するプリンターヘッド及び前記第2インク組成物を吐出するプリンターヘッドのうち少なくともいずれかが、その吐出の際に25〜60℃の範囲で加温される、請求項4又は5に記載の記録方法。
【請求項7】
前記被着体が前記第1インク組成物の付着の際に10〜30℃の範囲で冷却される、請求項4〜6のいずれか1項に記載の記録方法。
【請求項8】
前記第1ドットの表面を硬化させる前記工程及び/又は前記第2ドットの表面を硬化させる前記工程において、2回以上前記放射線を照射して仮硬化及び本硬化を行い、且つ、前記仮硬化の際に照射する前記放射線による前記第1インク組成物及び/又は前記第2インク組成物の硬化度が5〜70%である、請求項4〜7のいずれか1項に記載の記録方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−184610(P2011−184610A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−52812(P2010−52812)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】