説明

放射線計測回路及びそれを用いた核医学診断装置

【課題】放射線計測時に電気的導通が良好な半導体放射線検出器の放射線計測回路と、この放射線計測回路を用いた核医学診断装置を提供する。
【解決手段】半導体素子Sの表面に形成した導電性薄膜の電極A,Cと、導電部材22,23と、を導電性接着材24により接着して、半導体放射線検出器21を構成する。放射線計測回路100は、半導体放射線検出器21、抵抗器41、コンデンサ43、前置増幅器45、高電圧電源27、制御手段30、電圧調整手段31、メカニカルリレー33、保護ダイオード48等を備える。メカニカルリレー33は、導電性接着材24の導通回復作業用の第1の高電圧以下の所定の第2の高電圧の状態のときに、オン・オフ動作をして、半導体放射線検出器21の導電性接着材24の導通回復作業を行なうが、保護ダイオード48があるために、オン・オフ動作に伴って発生する高電圧のために前置増幅器45が破損することはない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、結晶素子を機能素子として用いるために外部の電気回路と接続するための導電部材を電気的に接続した結晶素子組み立て体を半導体放射線検出器とし、その半導体放射線検出器における導電部材と結晶素子との電気的導通を良好に維持し、放射線検出信号を処理するための放射線計測回路と、この放射線計測回路を用いた核医学診断装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、放射線計測技術を医療分野に応用した装置として、ガンマカメラ、単光子放出型断層撮影装置〔SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)装置〕、及び陽電子放出型断層撮影装置〔PET(Positron Emission Tomography)装置〕のような核医学診断装置が知られている。これらの装置で使用されている放射線検出器は、シンチレータと光電子増倍管とを組み合わせたものがほとんどである。一方、放射線検出器としてシンチレータではなく、半導体を用いることが、例えば、特許文献1や特許文献2に記載されている。
このような半導体放射線検出器では、半導体素子の結晶に入射したγ線による光電効果で電子と正孔とが生成し、それを外部から印加した電圧により生じる電界で移動させて、電荷を外部に取り出すようになっており、この電荷量が放射線のエネルギーに比例するので、電荷量を正確に測定することで放射線のエネルギーを正確に知ることができる。そのため、半導体はシンチレータと光電子増倍管との組み合わせよりも正確に放射線のエネルギーを測定することができるという利点を有する。
また、半導体放射線検出器は、シンチレータと光電子増倍管との組み合わせよりも位置検出精度が良いという特徴を有している。
【0003】
ところで、放射線、とりわけγ線を検出するための半導体として、ガンマカメラ、SPECT装置、PET装置などの核医学診断装置で使用するγ線を感度よく測定するという点で、実効原子番号が大きく、又、取扱いの点で室温動作可能であるテルル化カドミウム(CdTe)やテルル化亜鉛カドミウム(CdZnTe)を使用する方法が知られている。ここで、シリコンやゲルマニウムも用いられるが、これらは、高エネルギーのγ線に対する感度が低いため、X線の検出に使用されることが多い。核医学診断に用いられる放射性物質としては、例えば、テクネチウム99mやフッ素18が知られており、これらの放射性物質から放出されるγ線のエネルギーは、141keVあるいは511keVであり、物質に対する透過力が高い。そのため、原子番号が大きい物質を放射線検出器に使用するほうが、γ線を多く吸収して放射線検出信号を出力するのに有利である。この点、CdTeやCdZnTeは、平均の原子番号が大きいのでγ線の吸収能力に優れているという利点を有する。
【0004】
CdTeやCdZnTeなどの半導体結晶を放射線検出器の放射線検出素子として使用する場合、半導体結晶にアノード電極とカソード電極を設ける。アノード電極とカソード電極には通常、導電性薄膜が用いられ、更に、アノード電極及びカソード電極を外部回路と接続するために導電部材がアノード電極及びカソード電極に接続される。このときCdTeやCdZnTeは、結晶が脆く、耐熱温度も180℃程度であることから、ハンダによりアノード電極及びカソード電極と導電部材を接続することは困難である。
ちなみに、電子部品をハンダで電気的に接続する場合、その耐熱温度は概ね250℃程度である。
従って、CdTeやCdZnTeの半導体結晶に蒸着やスパッタリングにより形成したアノード電極及びカソード電極と導電部材とを接続する場合には、接合部材として導電性接着材が用いられる。
【0005】
導電性接着材は、エポキシなどの樹脂バインダにフィラーと称される銀など導電性物質のフレークを配合したもので、樹脂の硬化処理時に樹脂が収縮することでフィラー同士が接触して導電性を発現させるものである。そのため、導電性接着材による接合は、例えば、ハンダと銅との接続関係などとは異なり、むしろ点接点に近いものである。
一方、CdTeやCdZnTe等の半導体結晶を用いた半導体放射線検出素子には、放射線計測時には通常、数十〜数百ボルト程度のバイアス電圧を印加し、そのとき半導体放射線検出素子にはナノアンペア前後の漏れ電流が流れ、例えば、γ線が入射したときには数十〜数百ナノアンペアのパルス電流信号が漏れ電流に重畳して一瞬流れる。
【0006】
実際に導電部材とCdTeの半導体結晶の対向する面にアノード電極及びカソード電極の導電性薄膜を形成し、それを単位としてアノード電極同士及びカソード電極同士を向き合わせ、アノード電極同士の間及びカソード電極同士の間に導電部材を介設し、アノード電極及びカソード電極と導電部材とは導電性接着材で接着して、前記単位を積層し、半導体放射線検出器を製作した。しかしながら、この製作した半導体放射線検出器を数ヶ月にわたって実験的に使用したところ、一部の半導体放射線検出器において、放射線検出信号(電荷信号)のノイズが増し、エネルギー分解能等の低下を生じた。
これは、長期間の使用により導電部材とアノード電極及びカソード電極とを接着している導電性接着材の収縮力の低下やフィラーの導電性物質の酸化などによって、導通が不安定になることに起因すると推察された。
【0007】
一方、放射線の入力によって、半導体放射線検出器に生じる電荷は、数フェムトクーロンから数十フェムトクーロンの微小なものであり、電流値としてはマイクロアンペアに満たない程度である。このため、このような弱い信号が導通性の不安定な部分を通過する際に、信号にひずみが生じる可能性があり、それが半導体放射線検出器の劣化として現われ、エネルギー分解能の低下に至るおそれもあった。
これに対し特許文献3には、通常の測定のときには導電性接着材に微小な電流を通電し、導電性接着材の導通改善のために大きな電流を流すときには、半導体放射線検出器を光源により照らし、増幅器にその電流が流れないように保護回路を介して接地側に流す技術が記載されている。
【0008】
【特許文献1】特開2004−317140号公報
【特許文献2】特開2005−1006644号公報
【特許文献3】特開2007−139479号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献3に記載された技術では、光源により基板に多数配置されている半導体放射線検出器を一様に照射することが難しく、一様な高電流を各半導体放射線検出器の導電性接着材が使用されている部分に流すことが難しく、導電性接着材の良好な導通性維持に問題があった。
【0010】
そこで、本発明の目的は、放射線計測時に電気的導通が良好な、結晶素子組み立て体を半導体放射線検出器として用いた放射線計測回路と、この放射線計測回路を用いた安定な、エネルギー分解能に優れた核医学診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記した目的を達成するため、本願の第1の発明の放射線計測回路は、機能素子である結晶素子の表面に形成した導電性薄膜に対して、外部との電気的接続を行なうための2つの導電部材を設け、導電性粒子及びバインダで構成される導電性接着材により、導電性薄膜と導電部材とを接着して結晶素子組み立て体とし、結晶素子組み立て体に放射線が入射したときに発生した電荷を導電性接着材及び導電部材を経由して信号として取り出す半導体放射線検出器と、半導体放射線検出器からの信号を増幅及び整形する増幅器と、結晶素子組み立て体の一方の導電部材に高電圧を供給する高電圧電源と、高電圧電源と一方の導電部材との間に介設し、高電圧電源から供給される電圧を、放射線計測状態の所定の第1の高電圧に設定する電圧調整手段と、を備える放射線計測回路において、
更に、電圧調整手段の後段に配されたリレースイッチと、電圧調整手段とリレースイッチとを制御する制御手段と、を備え、
制御手段は、電圧調整手段において、高電圧電源からの高電圧を、導電性接着材の導通回復作業用の第1の高電圧以下の所定の第2の高電圧に設定させ、リレースイッチにおいて、オン・オフ動作をさせて、半導体放射線検出器の導電性接着材の導通回復作業を行なうことを特徴とする。
【0012】
本願の第2の発明の放射線計測回路は、機能素子である結晶素子の表面に形成した導電性薄膜に対して、外部との電気的接続を行なうための2つの導電部材を設け、導電性粒子及びバインダで構成される導電性接着材により、導電性薄膜と導電部材とを接着して結晶素子組み立て体とし、結晶素子組み立て体に放射線が入射したときに発生した電荷を導電性接着材及び導電部材を経由して信号として取り出す半導体放射線検出器と、半導体放射線検出器からの信号を増幅及び整形する増幅器と、結晶素子組み立て体の一方の導電部材に高電圧を供給する高電圧電源と、高電圧電源と一方の導電部材との間に介設し、高電圧電源から供給される電圧を、所定の高電圧に設定する電圧調整手段と、を備える放射線計測回路において、
更に、電圧調整手段の後段に配されたリレースイッチと、電圧調整手段と前記リレースイッチとを制御する制御手段と、結晶素子組み立て体の他方の導電部材に接続して信号として取り出す信号線の増幅器の手前に接続する所定の第1の静電容量を有する第1のコンデンサと、第1のコンデンサに直列に、半導体放射線検出器側に配設される第1の静電容量よりも十分に大きな所定の第2の静電容量を有する第2のコンデンサと、第1のコンデンサと第2のコンデンサとの間の、信号線の中間の接続点から保護ダイオードを介して接地する保護回路と、を備え、
制御手段は、電圧調整手段において、所定の高電圧に設定させ、リレースイッチにおいて、オン・オフ動作をさせて、半導体放射線検出器の導電性接着材の導通回復作業を行なうことを特徴とする。
【0013】
第1及び第2の発明によれば、制御手段がリレースイッチをオン・オフ動作させたときに流れる大きい電流によって、接着構造部分の導電性接着材の導電性粒子を再度結合したり、導電性接着材に形成された酸化膜を破壊したりすることができ、導電性接着材の導通性を安定化させることができる。
更に、第2の発明によれば、半導体放射線検出器の導電性接着材の導通回復作業時には、第2のコンデンサと保護回路により高電流が接地側に流され、放射線計測時には保護回路が動作しないように確実にできるので、増幅器側に送る放射線検出信号に保護回路による雑音が入らない。
【0014】
本願の第3の発明の核医学診断装置は、前記第1の発明又は前記第2の発明の放射線計測回路を用いたことを特徴とする。
第3の発明によれば、放射線計測のために半導体放射線検出器に所定の高電圧を印加した状態で、リレースイッチをオン・オフ動作させることで、導通不安定による故障発生を効果的に抑制することができ、長期間にわたって放射線検出の性能を維持することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、測定時に電気的導通が良好な、結晶素子組み立て体を半導体放射線検出器として用いた放射線計測回路と、この放射線計測回路を用いた安定な、エネルギー分解能に優れた核医学診断装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
《第1の実施形態》
次に、図を参照しながら本発明の好適な第1の実施形態であるPET装置(核医学診断装置)を例に、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
(半導体放射線検出器)
先ず、本実施形態で用いられる半導体放射線検出器の詳細な構成について説明する。
図1は本実施形態における半導体放射線検出器の1例の斜視図であり、(a)は、半導体放射線検出器を構成する単位の半導体放射線検出素子の模式斜視図であり、(b)は、半導体放射線検出素子を複数重ねて構成した半導体放射線検出器の斜視図であり、(c)は、半導体放射線検出器を配線基板に設置した状態を模式的に示した図である。
【0017】
半導体放射線検出器(結晶素子組み立て体)21は、半導体素子(結晶素子)Sの表面に、離間して2つの薄い膜状の電極(導電性薄膜)A,Cが形成された半導体放射線検出素子211と、前記電極A,Cにそれぞれ接続された導電部材22,23とから構成されている。
【0018】
半導体放射線検出素子211は、図1の(a)に示すように、板状の半導体材料によって構成された半導体素子Sに、その両側面の全面にわたって、スパッタリングや蒸着法等により薄い膜状の電極が形成されている。一方の面に形成された電極がアノード電極Aであり、他方の面に形成された電極がカソード電極Cである。
【0019】
半導体素子Sは、放射線と相互作用を及ぼして電荷を生成する領域であり、CdTe,CdZnTe,GaAs等のいずれかの単結晶で形成されている。又、カソード電極C、アノード電極Aは、白金(Pt)、金(Au)、インジウム(In)等のいずれかの材料が用いられる。半導体放射線検出器21では、半導体放射線検出素子211は、例えば、半導体素子SにCdTeを用い、Ptを主成分とするカソード電極C、Inを主成分とするアノード電極Aを用い、pn接合ダイオードを形成している。
なお、ここではアノード電極A、カソード電極Cの呼称は、半導体放射線検出器21として使用するときに印加される高電圧電源により、半導体素子S内で発生した電子が収集される側の電極をアノード電極A、正孔が収集される側の電極をカソード電極Cと称する。
半導体素子Sの厚さ(電極間距離)tは、0.2mm〜2.0mmが好ましい。
【0020】
導電部材22,23は、例えば、鉄−ニッケル合金、鉄−ニッケル−コバルト合金、クロム、タンタルのうちの少なくともひとつから形成される平板状の部材である。ここで、鉄−ニッケル合金としては、42アロイ(Fe58%、Ni42%)を用いることができ、鉄−ニッケル−コバルト合金としては、コバール(Fe54%、Ni29%、Co17%)を用いることができる。
【0021】
本実施形態では、導電部材22,23が半導体放射線検出素子211の各電極面を覆う大きさ、つまり、各電極面よりも大きく形成されている。
なお、導電部材22,23の大きさは、半導体放射線検出素子211と同じ大きさであっても差し支えない。また、導電部材22、23の厚さは、10μmから100μm程度で、主に50μm程度が望ましい。
【0022】
このような導電部材22,23は、半導体放射線検出素子211に取り付けられた状態で、図1の(c)に示すように、半導体放射線検出素子211よりも下側(配線基板20側)に垂下される突出部22a,23aを有する。突出部22a,23aは、半導体放射線検出器21を配線基板20に取り付ける固定部として機能し、配線基板20上に設けられたカソード電極C用の配線CPに突出部22aが接続され、配線基板20上に設けられたアノード電極A用の配線APに突出部23aが接続される。また、半導体放射線検出器21は、これらの突出部22a,23aによって、配線基板20上に非密着状態に、つまり、配線基板20との間に半導体放射線検出素子211が所定の隙間を有する状態に取り付けられる。
【0023】
このような導電部材22,23は、図2に示すように導電性接着材24により半導体放射線検出素子211に接着されて取り付けられる。ただし、図2では、半導体放射線検出器21を、単一の半導体放射線検出素子211で構成したもので模式的に簡略化して表示してある。
導電性接着材24としては、例えば、金属粉(銀)などの導電性粒子(フィラー)を有機高分子材料からなる絶縁性の樹脂バインダ(バインダ)中に分散したものが用いられる。通常、半導体放射線検出素子211と導電部材22,23とを導電性接着材24により接着する際には、導電性接着材24を硬化させるために、およそ120〜150℃の高温の熱処理にて行われる。このような成分の導電性接着材24は、樹脂の硬化処理時に樹脂が収縮することでフィラー同士が接触して導電性を発現する。
【0024】
本実施形態では、並列に配置された各半導体素子Sが前記の厚さt(0.2〜2.0mm)を有しており、また、カソード電極C及びアノード電極Aの厚みは高々数μm程度に設定される。半導体放射線検出器21は、複数の半導体放射線検出素子211におけるカソード電極C同士、アノード電極A同士が共通で接続されているため、どの半導体放射線検出素子211の半導体素子Sがγ線と相互作用を起こしたのかを判別しない構成となっている。
以上のような半導体放射線検出器21の構成は、半導体素子Sの厚さtを薄くして電荷の収集効率を高め、放射線検出信号の波高値の上昇速度を増大してエネルギー分解能を向上させると共に、半導体素子Sの並列配置により素通りしてしまうγ線の量を少なくして、半導体素子Sとγ線との相互作用を増やすためである(γ線のカウント数を増やすためである)。γ線のカウント数の増加は半導体放射線検出器21の感度を向上させることになる。
【0025】
(放射線計測回路)
次に、図2を参照しながら本実施形態の放射線計測回路について説明する。図2は本実施形態に係るPET装置に適用される放射線計測回路の構成と作用を説明するための原理説明のための模式図である。
なお、核医学診断装置には半導体放射線検出器21が多数組み込まれるが、その一つごとに放射線計測回路100が設けられるが、ここでは1つの放射線計測回路100で代表的に説明する。
【0026】
各半導体放射線検出器21の各半導体放射線検出素子211のアノード電極Aには高電圧電源27から、電圧調整手段31及びメカニカルリレー(リレースイッチ)33を介して+電圧が印加される。このとき、導電部材(一方の導電部材)23は高電圧電源27の+極と前記した配線APを介して接続される。
なお、高電圧電源27、電圧調整手段31、メカニカルリレー33や電圧調整手段31及びメカニカルリレー33を制御する制御手段30は、複数の放射線計測回路100に対して共通に設けられる。
【0027】
制御手段30は、マイクロコンピュータやメモリやその周辺回路を含む制御回路であり、前記したように電圧調整手段31やメカニカルリレー33をメモリに格納されたプログラムをマイクロコンピュータが実行することによって制御する。そして、制御手段30は、メカニカルリレー33の図示しないソレノイドを励磁するためのソレノイド駆動回路を含んでいる。制御手段30は、PET装置10(図4参照)の、例えば、PET撮像装置1内に組み込まれ、コンソール3(図4参照)からのPET装置10の起動操作、つまり、メカニカルリレー33をオン状態にして半導体放射線検出器21に放射線計測のための所定の後記する第1の高電圧を印加する。また、制御手段30は、自動的に、又はコンソール3(図4参照)から導通回復作業の制御コマンドを受けて、メカニカルリレー33をオフ状態にさせたまま、後記する第2の高電圧を半導体放射線検出器21に印加し、その後メカニカルリレー33をオン・オフ動作させて導通回復作業を行なわせる。
ちなみに、制御手段30は、内部にカレンダ・時計機能や導通回復作業を行なった日時等をメモリに記憶する機能を有している。
導通回復作業の詳細な制御の内容については、放射線計測回路100の作用説明の中で述べる。
【0028】
電圧調整手段31は、制御手段30に制御されて、高電圧電源27から供給される高電圧を所定の高電圧に設定するものである。電圧調整手段31は、PET装置10(図4参照)が起動されて、放射線計測状態とするときには、半導体放射線検出器21に所定の第1の高電圧、例えば、約500Vの電圧を印加するが、その際、半導体放射線検出器21や後記する前置増幅器(増幅器)45等を破損させることがないようにゆっくり昇圧して、前記した第1の高電圧に設定する。
また、電圧調整手段31は、制御手段30に制御されて、定期的に半導体放射線検出器21の導電性接着材24の導通回復作業をする場合には、所定の第2の高電圧に設定する。
このときも所定の第2の高電圧にゆっくり昇圧して行く。
この所定の第2の高電圧は、前記した第1の高電圧より低い、例えば、100〜200V程度の電圧である。
本実施形態では、高電圧電源27と電圧調整手段31とを区別してあるが、高電圧電源27そのものが制御手段に制御されて電圧を所定の高電圧に設定できる機能を有し、電圧調整手段31と一体のものでも良い。
【0029】
メカニカルリレー33は、通常の常時開(非通電時開)の電磁スイッチであり、制御手段30によってオン・オフ動作を制御される。
【0030】
図2に示すように半導体放射線検出器21の各半導体放射線検出素子211のカソード電極Cは1つの半導体放射線検出器21毎に用意される検出回路40に接続される。このとき、導電部材(他方の導電部材)22は前記した配線CPを介した信号線SC上のコンデンサ43に接続され、更にコンデンサ43の後段の前置増幅器45に接続される。前置増幅器45の後段には、ファースト系、スロー系等の信号処理回路が接続するが、特許文献2等に公知の技術であるので詳細な説明は省略する。
信号線SCの、配線CPとコンデンサ43の中間点には、抵抗器41が接続され、抵抗器41の導電部材22と接続した反対側が接地される。更に、コンデンサ43に接続する信号線SCの半導体放射線検出器21側の接続点から、2つの保護ダイオード48,48をカソードとアノードとを互いに逆方向にして、並列に配置して、接地する。
【0031】
2つの保護ダイオード48,48は、導電性接着材24の導通回復作業時の過大な電流により生じる電圧が前置増幅器45に掛かって、前置増幅器45を破損させないようにする保護回路49を構成し、メカニカルリレー33に第2の高電圧が掛かっている状態で、メカニカルリレー33がオフ状態からオン状態になったときの電流及び、逆にその状態からメカニカルリレー33がオフ状態になったときの逆電流を接地側との間で流す役割をする。
ここで、保護ダイオード48,48が請求項に記載のダイオードに対応する。
【0032】
本実施形態では、高電圧電源27から前置増幅器45までを放射線計測回路100と称し、ファースト系、スロー系等の信号処理回路は含めないこととする。
ちなみに、抵抗器41は半導体放射線検出器21からの漏れ電流を逃がす役目と、電荷がコンデンサ43に長時間蓄積されるのを防ぐ役目と、を果たすものであり、通常10MΩ以上のものが使用される。
また、コンデンサ43は、半導体放射線検出器21からの漏れ電流が前置増幅器45に入らないようにするためのものである。
また、前置増幅器45の入力側端子と出力側端子の間には並列にコンデンサ46、抵抗器47が接続される。
【0033】
(放射線計測回路の放射線計測時の動作)
先ず、通常の放射線計測の場合について説明する。
ここで、制御手段30は、コンソール3から起動操作の制御コマンドを受けたとき、予めコンソール3により入力されメモリに記憶された、例えば、所定の曜日か否かをカレンダ・時計機能にもとづいて判定し、所定の曜日ではない場合は、メカニカルリレー33をオン状態にさせてから、電圧調整手段31を制御して放射線計測を行なう第1の高電圧にゆっくり昇圧し、半導体放射線検出器21に電圧を印加する。
半導体放射線検出器21にはこうして第1の高電圧が印加され、半導体放射線検出器21へのγ線の入射がなければ、半導体素子S内で発生するキャリアは極わずかであり、導電部材23から導電部材22へ、数ナノ〜数十ナノアンペア程度の漏れ電流が半導体放射線検出器21を流れる。この漏れ電流は抵抗器41を通って接地側へ流れる。
【0034】
γ線が半導体素子Sに入射するとキャリアが生成され、キャリアの電荷分だけ導電部材23から導電部材22へ半導体放射線検出器21を電流が流れる。電荷は信号線SCを介してコンデンサ43を充電し、放射線検出信号として前置増幅器45に伝えられ、その後、コンデンサ43に充電された電荷は抵抗器41を通って、放電される。
前記した放射線検出信号は微弱な信号であるため、前置増幅器45により増幅された後に、図示しないファースト系やスロー系の信号処理回路に入力される。スロー系の信号処理回路の中には波形整形器(特許文献2の図8のバンドパスフィルタ24dに対応)や波高分析器(特許文献2の図8のピークホールド回路24eに対応)が含まれ、波高分析器においてγ線のエネルギー分析が行なわれる。また、ファースト系の信号処理回路においてγ線検知(γ線検知タイミングの検出)が行なわれる。
【0035】
(放射線計測回路の導通回復作業時の動作)
次に、半導体放射線検出器21の導電性接着材24の導通回復作業の場合について説明する。
ここで、制御手段30は、コンソール3から起動操作の制御コマンドを受けたとき、予
めコンソール3により入力されメモリに記憶された、例えば、所定の曜日か否かをカレンダ・時計機能にもとづいて判定し、所定の曜日の場合は、メカニカルリレー33をオフ状態にしたまま、放射線計測を行なう第1の高電圧より低い第2の高電圧に先ず設定して、半導体放射線検出器21に電圧を印加する。その後、制御手段30は、メカニカルリレー33を、オフ状態からオン状態にする。
すると、半導体放射線検出器21にはナノ秒オーダーで急激に電圧が印加される。半導体放射線検出素子211は、数〜数十pF(ピコファラッド)の静電容量を有しており、一瞬であるが、数ミリアンペア以上の大きな充電電流が導電部材22,23それぞれの側の導電性接着材24に流れる。
この電流により導電性接着材24のフィラー同士の接触不良の回復や、フィラーの酸化膜が破壊され、接触不良が回復され、導通回復、導通の劣化防止を図ることができる。
【0036】
(保護回路の動作)
次に、保護回路49の動作について説明する。
放射線計測の状態では、半導体放射線検出器21の漏れ電流は前記したように通常数ナノアンペア、最大でも20ナノアンペア程度で、それが抵抗器41を介して接地側に流れる。この漏れ電流によりコンデンサ43の抵抗器41との接続側の端子には、抵抗器41に10MΩのものを用いた場合、最大で約0.2Vの電位が発生する。一方、通常の保護ダイオード48の動作電位は、0.4V程度であり、漏れ電流のみの状態や放射線検出信号が入った状態では保護ダイオード48はオフ状態を維持し、動作することは無いので信号線SCに雑音が入ることはない。
【0037】
導通回復作業のためメカニカルリレー33に第2の高電圧を掛けた状態で、メカニカルリレー33をオフ状態からオン状態にすると、コンデンサ43の保護回路49側の端子の電位は上がり、保護ダイオード48が動作して、過大な電流を接地側に逃がし、コンデンサ43や前置増幅器45に過大な電圧が掛かることは無い。
保護ダイオード48を2個、逆方向に並列に配置したリミッタ回路を用いることは、一般的に公知の技術である。例えば、文献「OPアンプ活用 100の実践ノウハウ」(松井邦彦 著、CQ出版社)に記載されている。
【0038】
ところが、リミッタ回路を使用すると、雑音が大幅に増加する場合がある。保護ダイオード48、48は、それ自身の漏れ電流が半導体放射線検出器21より小さくすることが可能でかつ静電容量が小さい、高周波ダイオードやPINダイオードを使用するのが好適である。
【0039】
なお、導電性接着材24の導通回復作業の後、制御手段30は、メカニカルリレー33をオン状態にし、電圧調整手段31を制御して、印加電圧をゆっくり第1の高電圧にまで昇圧する。そして、放射線計測の状態に移行する。
【0040】
ちなみに、前記した導通回復作業の頻度は1週間に一度としたが、それに限定されるものではない。制御手段30のメモリに記憶設定された所定の日数ごとに行なえば良い。また、制御手段30は、メモリに記憶されている前回の導通回復作業をした日から所定の日数が経過した場合も、導通回復作業を行なうようにしても良い。
【0041】
また、導通回復作業においては、メカニカルリレー33をオフ状態からオン状態に1度だけするとして説明したが、それに限定されるものではない。メカニカルリレー33をオフ状態からオン状態にした後、再度オフ状態にし、オン状態にしても良い。この回数は適宜、選定できるものである。
【0042】
(比較例の放射線計測回路)
次に、図3の比較例の放射線計測回路について説明する。
図3の放射線計測回路110における半導体放射線検出器21は第1の実施形態のものと同じであるが接続が異なっている。カソード電極C側の導電部材22を接地し、アノード電極A側の導電部材23に、メカニカルリレー33及び抵抗器41を介して高電圧を印加する。そして、導電部材23から信号線SCが引き出され、コンデンサ43、前置増幅器45と直列に接続している。
第1の実施形態と同じ構成については、同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
【0043】
この放射線計測回路110からメカニカルリレー33を除いたものは、半導体放射線検出器21の導電部材22が接地電位であり、接続などの取り扱いが容易であることから従来からよく使用されるものである。
この場合、通常の放射線計測状態では、メカニカルリレー33はオン状態であり、半導体放射線検出器21の導電部材23には抵抗器41を介して所定の第1の高電圧が印加されている。また、コンデンサ43も充電されている。ここで、半導体素子Sにγ線が入射すると、半導体素子S内にキャリアが発生し、発生した電荷分だけ電流が導電部材23を通じて信号線SC側から接地側に流れ出す。この電流により、コンデンサ43に充電された電荷が流れ、放射線検出信号となり、前置増幅器45に伝わる。その後、コンデンサ43は、抵抗器41を介して高電圧電源27により再び充電される。
【0044】
しかし、抵抗器41が10MΩ程度、半導体放射線検出器21の静電容量が数〜数十pFであるため、メカニカルリレー33をオフ状態にして、印加電圧を前記した第2の高電圧にして、その後、メカニカルリレー33をオン状態にしても、高電圧を数ナノ秒オーダーで変化させて半導体放射線検出器21に掛けることはできない。
【0045】
また、メカニカルリレー33を信号線SC上に導電部材23と抵抗器41の信号線SCへの接続点との間に挿入することで、高電圧を数ナノ秒オーダーで変化させて半導体放射線検出器21に掛けることはできるが、今度は通常の放射線計測状態において常に半導体放射線検出器21からの放射線検出信号がメカニカルリレー33を経由することになり、信号に雑音が入ることになる。
【0046】
また、メカニカルリレー33を導電部材22と接地との間に挿入することもできるが、今度は導電部材22を常に接地状態に維持できないので、前記した接続の簡易性というこの放射線計測回路110の利点が得られなくなる。
【0047】
ちなみに、本実施形態では、メカニカルリレー33を常時開のものとしたが、メカニカルリレー33を常時閉タイプで、通常時は数μアンペア以下の電流が流れるものとした場合、カニカルリレー33の接点が酸化して固着する可能性があるので、接点固着を防止する点からも、PET装置10の運転の都度、メカニカルリレー33をオフ状態からオン状態に動作して、接点固着を防止することが望ましい。また、導通回復作業のために、例えば、週に1度の頻度で第2の高電圧状態でオフ状態からオン状態にするので、メカニカルリレー33の接点の導通性維持にも役立つ。
【0048】
(PET装置)
次に、本発明の核医学診断装置として好適な本実施形態に係わるPET装置を、図4から図6を参照しながら詳細に説明する。
図4は本実施形態の核医学診断装置として好適であるPET装置の構成を模式的に示した斜視図である。図5はPET撮像装置を模式的に示した斜視図である。図6の(a)は図5に示すPET撮像装置に用いられるユニット基板の正面図であり、(b)は同じくユニット基板の側面図である。
本実施形態のPET装置10は、図4に示すように、計測空間1aを有したPET撮像装置1、被検体(被検診者)Hを支持するベッドB、データ処理装置(コンピュータ等)2、並びに表示装置3a、や操作装置3b等有するコンソール3を備えている。PET撮像装置1は、図5に示すようにユニット基板Uを計測空間1aの周方向に多数配置しており、このようなPET撮像装置1において、被検体Hは、図4に示すように、長手方向に移動可能なベッドBに載せられて、ユニット基板Uによって取り囲まれる円柱状の計測空間1a内に挿入される。
【0049】
PET撮像装置1のユニット基板Uは、図5に示すように、ベッドBの長手方向(図中矢印Z方向)にも複数個配置される。ユニット基板Uは、図6に示すように、放射線検出領域(以下、検出領域という)20A、及び集積回路領域(以下、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)領域という)20Bを有する。検出領域20Aは複数の半導体放射線検出器21を備える。半導体放射線検出器21は、被検体H(図4参照)の体内から放出されるγ線を検出する。
【0050】
ASIC領域20Bは、検出されたγ線による放射線検出信号の波高値、検出時刻を計測するための集積回路(アナログASIC28、デジタルASIC29)を有しており、放射線検出信号の波高値や検出時刻を測定するようになっている。その集積回路は、放射線検出信号を処理する複数の信号処理装置を含んでいる。
【0051】
(PET撮像装置)
次に、PET撮像装置1における細部の説明を行う。
図5、図6に示す半導体放射線検出器21としては、図1で説明した半導体放射線検出器21を用いるものとする。このような半導体放射線検出器21は、図6の(a),(b)に示すように配線基板20上に、検出領域20AからASIC領域20Bに向かうY方向(PET撮像装置1の半径方向、図5参照)に6行(6ch)、Y方向と直交するX方向(PET撮像装置1の周方向、図5参照)に8列(8ch)、さらに、配線基板20の厚み方向であるZ方向(PET撮像装置1の奥行き方向、図5参照)に2面(2ch)配置(配線基板20の両面に配置)される。これにより、半導体放射線検出器21は、配線基板20の片面に合計48ch、その両面では合計96chが設置されることになる。
【0052】
本実施形態では、このような各半導体放射線検出器21のγ線の検出機能を維持するために、図2で説明した導電性接着材24の導通性を確保する前記した制御手段30、電圧調整手段31、メカニカルリレー33を備えている。このうち、制御手段30と電圧調整手段31は、ユニット基板Uを格納する図示しない筐体内に設置されている(例えば、特許文献2の図10に示された筐体30の高電圧装置PSの中に含まれる)。そして、メカニカルリレー33は、図6に示すように配線基板20の両面に各1個設置されている。
ユニット基板Uの各面に1個ずつ設置されたメカニカルリレー33は、それぞれの面に含まれる半導体放射線検出器21に対して、高電圧を印加する配線をオン・オフ制御する。
【0053】
(ユニット基板)
ユニット基板Uは、図5に示すように、半導体放射線検出器21の設置された面がPET撮像装置1の奥行き方向(Z方向)に向くように、PET撮像装置1に設けられた環状の支持部材(図示せず)に設置される。環状部材に設置された複数のユニット基板Uは、周方向に配置され、計測空間1aを取り囲むこととなる。そして、検出領域20Aが内側(計測空間1a側)に、ASIC領域20Bが外側に位置するように配置される。本実施形態では、複数のユニット基板Uが、PET撮像装置1の奥行き方向にも配置される。
【0054】
ユニット基板Uの詳細構造を、図6の(a),(b)を用いて説明する。ユニット基板Uは、複数の半導体放射線検出器21が前記のように設置された検出領域20Aと、ASIC領域20Bとを備えている。ASIC領域20Bは、メカニカルリレー33、抵抗器41、コンデンサ43、アナログASIC28及びデジタルASIC29を有する。各半導体放射線検出器21から出力されたγ線の検出信号は、配線基板20内の図示しない多層配線により検出領域20A側からASIC領域20B側へ供給される。
【0055】
ASIC領域20Bは、図6の(a),(b)に示すように、デジタルASIC29が片面に1個設置され、アナログASIC28が4個ずつ両面に配置されている。ASIC領域20Bの両面には、抵抗器41、コンデンサ43が半導体放射線検出器21の数に対応した数だけ設置されている。
【0056】
また、これらの、抵抗器41、コンデンサ43、アナログASIC28及びデジタルASIC29を電気的に接続する複数の接続配線(図示せず)が、ASIC領域20B内に設けられている。アナログASIC28は、半導体放射線検出器21から出力されたアナログ信号(γ線検出信号)を処理する、特定用途向けICであるASIC(Application Specific Integrated Circuit)を意味し、LSI(Large Scale Integrated Circuit)の一種である。アナログASIC28は、個々の半導体放射線検出器21毎に信号処理回路を設けている。これらの信号処理回路は、対応する一つの半導体放射線検出器21から出力されたγ線の検出信号(放射線検出信号)を入力してγ線の波高値を求めるようになっている。
ちなみに、アナログASIC28は図2における前置増幅器45を含むファースト系、スロー系の信号処理回路である。
【0057】
回路の長さやγ線検出信号を伝送する配線の長さ(距離)は短い方が、静電容量が小さくなるため、ノイズの影響が少なくて好ましい。このため、本実施形態は、PET撮像装置1の半径方向において中心軸から外側に向かって、ユニット基板Uにおいて、半導体放射線検出器21、コンデンサ43、抵抗器41、アナログASIC28及びデジタルASIC29をこの順に配置している。この構成は、半導体放射線検出器21から出力された微弱なγ線検出信号をアナログASIC28の増幅器まで伝える配線の長さ(距離)を短くできる。このため、γ線の検出信号に対するノイズの影響が軽減される。
【0058】
半導体放射線検出器21のカソード電極C側は、検出回路40(図2参照)に接続されている。検出回路40は、抵抗器41、コンデンサ43、アナログASIC28を有し、半導体放射線検出器21に放射線が入射したときに流れる電流を検出するものである。
【0059】
(作用効果)
ところで、前記したように、半導体放射線検出器21から出力される放射線検出信号(電荷信号)は、カソード電極C側から導電性接着材24を介して導電部材22に出力される。放射線検出信号は、10MHz以上の高周波信号であるため、導電性接着材24に導通性のよくない部分が存在すると、その部分を検出信号が通過する際にひずみが生じてしまい、このことは雑音が増大することに等しい特性の劣化となって現れてしまう。
【0060】
次に、図1に示したような多層構造の半導体放射線検出器21において、一部の導電性接着材24の導電性が低下している場合の影響について図7を参照しながら説明する。
図7は放射線検出信号を波高分析してエネルギーウィンドのチャンネルごとの計数を示したグラフであり、横軸のエネルギーウィンドのチャンネル番号を示し、番号が大きいほど放射線検出信号が示す検出γ線のエネルギーの値が大きいことを示し、縦軸はエネルギーウィンドごとの計数である。
この図は、Cs137(セシウム137)から放射される662keVのγ線に対するものであり、単一のエネルギーのγ線に対して本来は曲線92に示すように、鋭いピークを示す計数分布を示すものである。
【0061】
ところが、ある1つの半導体放射線検出素子211と導電部材22,23との間の導電性接着材24の導電性が劣化していると、高抵抗を示すことになり、同じエネルギーのγ線が入射した他の半導体放射線検出素子211からの放射線検出信号(電荷信号)との間で放射線検出信号の波高値が異なってしまう。つまり、高抵抗を示す半導体放射線検出素子211からの放射線検出信号(電荷信号)は小さくなって、前置増幅器45に到達する。そして、図7の曲線91に示すように、導電性接着材24の導電性が劣化した半導体放射線検出素子211からの放射線検出信号の分布はピーク位置が低い番号のチャンネルのところに位置する分布を示し、導電性接着材24の導電性が良好な半導体放射線検出素子211からの放射線検出信号の分布はピーク位置が高い番号のチャンネルのところに位置する分布を示してその2つが重なった2つのピークを持つ分布となる。
このようにピークが2つに分かれた分布を得ることは、γ線のエネルギー識別能力が低くなったことを意味する。
【0062】
図2の放射線計測回路100において、図7の曲線91に示すようになった半導体放射線検出器21に対して、高電圧電源27からの電圧を電圧調整手段31により所定の第2の高電圧に設定して、メカニカルリレー33をオフ状態からオン状態にすると、その後の放射線計測状態において図7の曲線92に示すような良好な単一ピークを示す曲線に戻った。
メカニカルリレー33は、通常の電磁スイッチであり低価格で容易に入手可能なものである。
【0063】
なお、ユニット基板Uに設けるメカニカルリレー33の数は、各面に1個に限定されるものではなく、更に多くのメカニカルリレー33を設けても良い。また、図示しない筐体内に設けた制御手段30は、前記したように筐体内に格納されたユニット基板U上のメカニカルリレー33を同期させてオン・オフ動作させる必要は無く、ユニット基板ごとにずらしたりして、メカニカルリレー33のオン・オフ動作による高電圧電源27や電圧調整手段31に掛かる負担を軽減することが望ましい。
【0064】
以下に、本実施形態において得られる効果を説明する。
(1)γ線(放射線)が入射したときに発生する電荷による電流よりも大きい電流が、少なくとも導電性接着材24に流れるようにするための制御手段30とメカニカルリレー33を備えているので、メカニカルリレー33をオンにしたときにより流れる大きい電流によって、導電性接着材24の導電性粒子を再度結合したり、導電性接着材24に形成された酸化膜を破壊したりすることができ、導電性接着材24の導通性を安定化させることができる。
また、導電性接着材24の導通回復作業をするときには、放射線計測の場合よりも低い第2の高電圧で行なうので、前置増幅器45を破損することを防止できる。
(2)ユニット基板Uの配線基板20にメカニカルリレー33を設けるという必要最小限の追加構成で、エネルギー分解能に優れた核医学診断装置が得られる。
(3)定期的に放射線計測のための電圧印加前に制御手段30に制御されて、メカニカルリレー33よる第2の高電圧、例えば、100V〜200V程度の高電圧を半導体放射線検出器21にナノ秒オーダーで掛けることで、半導体放射線検出器21の故障発生を効果的に抑制することができ、長期間にわたって放射線の検出性能を維持することができる。
(4)導電性接着材24の導通性を維持することができるので、半導体放射線検出素子211をより薄く形成して積層することができ、半導体放射線検出器21としての性能及び感度の向上を両立させることが可能となる。PET撮像装置1では511keVのγ線を効率良く捕捉する必要があるが、そのためには、半導体放射線検出素子211を厚くしなければならない。しかし、半導体放射線検出素子211を厚くすると電子やホールの移動距離が長くなるため、エネルギー分解能や入射時刻の認識精度が悪化する。薄い半導体放射線検出素子211を多数積層できれば電子やホールの移動距離が短縮できるのでエネルギー分解能や入射時刻の認識精度が向上し、又半導体放射線検出素子211の体積占有率を大きく取れてかつ半導体放射線検出器21の体積も増大できるなどの利点があり、PET撮像装置1の性能を向上させることができる。
(5)半導体放射線検出器21は、互いに隣接する半導体放射線検出素子211のカソード電極C同士、又はアノード電極A同士が向かい合うように配置されるので、導電部材22,23を共用することができる。しかも、導電性接着材24の導通性を維持することができるので、カソード電極Cとアノード電極Aの電極間に安定した状態で電荷収集用の逆方向バイアス電圧を掛けることができる。
又、半導体放射線検出素子211の相互間に電気絶縁材を配置する必要がなく、半導体放射線検出素子211の稠密配置を実現することができる。これにより、感度が向上され、検査時間の短縮も図ることができる。
【0065】
《第2の実施形態》
次に、図1、図4から図6、及び図8を参照しながら本発明に係わる第2の実施形態のPET装置について説明する。
図8は第2の実施形態に係るPET装置に適用される放射線計測回路の構成と作用を説明するための原理説明のための模式図である。
本実施形態のPET装置10は、第1の実施形態と放射線計測回路100が図8に示す放射線計測回路100Aに代わっただけであり、他の構成は第1の実施形態と同じである。第1の実施形態と同じ構成については同じ符号を付し、重複する説明を省略する。
第2の実施形態における放射線計測回路100Aが、第1の実施形態における放射線計測回路100と異なる点は、信号線SCの抵抗器41(抵抗値R1、例えば、約100MΩ)との接続点とコンデンサ(第1のコンデンサ)43との間にコンデンサ(第2のコンデンサ)44を配置する点である。コンデンサ43の静電容量C1(第1の静電容量)が、例えば、約1000pFに対して、コンデンサ44の静電容量C2(第2の静電容量)は、例えば、10000pFとコンデンサ43の静電容量C1よりも十分に大きなものとする。
【0066】
第1の実施形態と同様に、2つの保護ダイオード48,48は、導電性接着材24の導通回復作業時の過大な電流により生じる電圧が前置増幅器45に掛かって、前置増幅器45を破損させないようにする保護回路49を構成し、メカニカルリレー33に第2の高電圧が掛かっている状態で、メカニカルリレー33がオフ状態からオン状態になったときの電流及び、逆にその状態からメカニカルリレー33がオフ状態になったときの逆電流を接地側との間で流す役割をする。
【0067】
第1の実施形態と異なるのは、コンデンサ44があるために、保護ダイオード48の電位は直流的には常に0Vに保たれることである。したがって、高温環境等の漏れ電流が大きくなるような場合に、抵抗器41に大きな電位差が発生しても、保護ダイオード48が動作して信号線SCに雑音が入ることはない。
放射線検出信号(荷電信号)は、コンデンサ44の静電容量C2が10000pFとコンデンサ43の静電容量C1に対して十分大きい値なので、交流動作としてそのままコンデンサ44を通過し、コンデンサ43に伝わる。そのため、コンデンサ44が放射線検出信号に悪影響を及ぼすことはない。
【0068】
以上、第2の実施形態によれば、第1の実施形態のところで説明した効果に加えて、第1の実施形態における放射線計測回路100よりも導通回復作業時にコンデンサ43や前置増幅器45を破損させる可能性が低くできる。
場合によっては、前記した第2の高電圧を第1の高電圧と同じ電圧に設定しても、コンデンサ43や前置増幅器45に高電圧が掛かることを防止でき、コンデンサ43や前置増幅器45の健全性上問題なく、導通回復作業を行なうことができる。その結果、制御手段30のプログラムを簡単化できる。
【0069】
なお、第1の実施形態及び第2の実施形態において、メカニカルリレー33を用いたがそれに限定されるものではない。半導体放射線検出器21に印加される高電圧に耐え、数ミリアンペアオーダーの電流を、ナノ秒オーダーで通電可能な半導体スイッチでも良い。
また、第1の実施形態及び第2の実施形態において、半導体放射線検出器21は図1に示したように、半導体放射線検出素子211を多層構造としたものとしたがそれに限定されるものではない。単一の半導体放射線検出素子211を単一の半導体放射線検出器21としても良い。
また、導電部材22,23は図1に示すように平板形状としたがその平面形状は図1に示されたものに限定されることは無く、一部を欠き取って、γ線を吸収する面積を低減するようにした平面形状でも良い。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明は、半導体放射線検出器21としてテルル化カドミウムあるいはテルル化亜鉛カドミウムを用いたPET装置、SPECT装置、ガンマカメラに好適である。これらの核医学診断装置では、被測定者に放射性薬剤を投与するため、途中で故障することが許されない。すなわち測定系に起因する故障を減らすことができるため、装置の使用途中に半導体放射線検出器21の一部が使用できなくなり診断画像の質が低下したり、装置が稼動できなくなったりするなどの事態を未然に防ぐことができる。その結果、核医学診断装置として信頼性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】第1の実施形態における半導体放射線検出器の1例の斜視図であり、(a)は、半導体放射線検出器を構成する単位の半導体放射線検出素子の模式斜視図であり、(b)は、半導体放射線検出素子を複数重ねて構成した半導体放射線検出器の斜視図であり、(c)は、半導体放射線検出器を配線基板に設置した状態を模式的に示した図である。
【図2】第1の実施形態に係るPET装置に適用される放射線計測回路の構成と作用を説明するための原理説明のための模式図である。
【図3】比較例の放射線計測回路の構成を説明する図である。
【図4】第1の実施形態の核医学診断装置として好適であるPET装置の構成を模式的に示した斜視図である。
【図5】PET撮像装置を模式的に示した斜視図である。
【図6】(a)は図5に示すPET撮像装置に用いられるユニット基板の正面図、(b)は同じくユニット基板の側面図である。
【図7】放射線検出信号を波高分析してエネルギーウィンドのチャンネルごとの計数を示したグラフである。
【図8】第2の実施形態に係るPET装置に適用される放射線計測回路の構成と作用を説明するための原理説明のための模式図である。
【符号の説明】
【0072】
1 PET撮像装置
1a 計測空間
2 データ処理装置
3 コンソール
3a 表示装置
3b 操作装置
10 PET装置
20 配線基板
20A 検出器領域
20B ASIC領域
21 半導体放射線検出器(結晶素子組み立て体)
22 導電部材(他方の導電部材)
23 導電部材(一方の導電部材)
24 導電性接着材
27 高電圧電源
30 制御手段
31 電圧調整手段
33 メカニカルリレー(リレースイッチ)
40,40A 検出回路
41 抵抗器
43 コンデンサ(第1のコンデンサ)
44 コンデンサ(第2のコンデンサ)
45 前置増幅器(増幅器)
48 保護ダイオード(ダイオード)
49 保護回路
100,100A 放射線計測回路
211 半導体放射線検出素子
A アノード電極(導電性薄膜)
AP,CP 配線
C カソード電極(導電性薄膜)
H 被検体
S 半導体素子(結晶素子)
SC 信号線
U ユニット基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
機能素子である結晶素子の表面に形成した導電性薄膜に対して、外部との電気的接続を行なうための2つの導電部材を設け、導電性粒子及びバインダで構成される導電性接着材により、前記導電性薄膜と前記導電部材とを接着して結晶素子組み立て体とし、前記結晶素子組み立て体に放射線が入射したときに発生した電荷を前記導電性接着材及び前記導電部材を経由して信号として取り出す半導体放射線検出器と、
前記半導体放射線検出器からの信号を増幅及び整形する増幅器と、
前記結晶素子組み立て体の一方の導電部材に高電圧を供給する高電圧電源と、
前記高電圧電源と前記一方の導電部材との間に介設し、前記高電圧電源から供給される電圧を、放射線計測状態の所定の第1の高電圧に設定する電圧調整手段と、
を備える放射線計測回路において、
更に、
前記電圧調整手段の後段に配されたリレースイッチと、
前記電圧調整手段と前記リレースイッチとを制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記電圧調整手段において、前記高電圧電源からの高電圧を、前記導電性接着材の導通回復作業用の前記第1の高電圧以下の所定の第2の高電圧に設定させ、
前記リレースイッチにおいて、オン・オフ動作をさせて、
前記半導体放射線検出器の前記導電性接着材の導通回復作業を行なうことを特徴とする放射線計測回路。
【請求項2】
更に、
前記結晶素子組み立て体の他方の導電部材に接続して前記信号として取り出す信号線の前記増幅器の手前に接続する所定の第1の静電容量を有する第1のコンデンサと、
前記信号線の前記第1のコンデンサに直列に、前記半導体放射線検出器側に配設される前記第1の静電容量よりも十分に大きな所定の第2の静電容量を有する第2のコンデンサと、
前記第1のコンデンサと前記第2のコンデンサとの間の、前記信号線の接続点からダイオードを介して接地する保護回路と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載の放射線計測回路。
【請求項3】
機能素子である結晶素子の表面に形成した導電性薄膜に対して、外部との電気的接続を行なうための2つの導電部材を設け、導電性粒子及びバインダで構成される導電性接着材により、前記導電性薄膜と前記導電部材とを接着して結晶素子組み立て体とし、前記結晶素子組み立て体に放射線が入射したときに発生した電荷を前記導電性接着材及び前記導電部材を経由して信号として取り出す半導体放射線検出器と、
前記半導体放射線検出器からの信号を増幅及び整形する増幅器と、
前記結晶素子組み立て体の一方の導電部材に高電圧を供給する高電圧電源と、
前記高電圧電源と前記一方の導電部材との間に介設し、前記高電圧電源から供給される電圧を、所定の高電圧に設定する電圧調整手段と、
を備える放射線計測回路において、
更に、
前記電圧調整手段の後段に配されたリレースイッチと、
前記電圧調整手段と前記リレースイッチとを制御する制御手段と、
前記結晶素子組み立て体の他方の導電部材に接続して前記信号として取り出す信号線の前記増幅器の手前に接続する所定の第1の静電容量を有する第1のコンデンサと、
前記第1のコンデンサよりも前記半導体放射線検出器側の前記信号線に配設される前記第1の静電容量よりも十分に大きな所定の第2の静電容量を有する第2のコンデンサと、
前記第1のコンデンサと前記第2のコンデンサとの間の、前記信号線の中間の接続点から保護ダイオードを介して接地する保護回路と、
を備え、
前記制御手段は、
前記電圧調整手段において、前記所定の高電圧に設定させ、
前記リレースイッチにおいて、オン・オフ動作をさせて、
前記半導体放射線検出器の前記導電性接着材の導通回復作業を行なうことを特徴とする放射線計測回路。
【請求項4】
前記リレースイッチはメカニカルリレーで構成されたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の放射線計測回路。
【請求項5】
機能素子である結晶素子の表面に形成した導電性薄膜に対して、外部との電気的接続を行なうための2つの導電部材を設け、導電性粒子及びバインダで構成される導電性接着材により、前記導電性薄膜と前記導電部材とを接着して結晶素子組み立て体とし、前記結晶素子組み立て体に放射線が入射したときに発生した電荷を前記導電性接着材及び前記導電部材を経由して信号とし取り出す半導体放射線検出器と、
前記半導体放射線検出器からの信号を増幅及び整形する増幅器と、
前記結晶素子組み立て体の一方の導電部材に高電圧を供給する高電圧電源と、
前記高電圧電源と前記一方の導電部材との間に介設し、前記高電圧電源から供給される電圧を、放射線計測状態の所定の第1の高電圧に設定する電圧調整手段と、
を備える放射線計測回路において、
更に、
前記電圧調整手段の後段に配された半導体スイッチと、
前記電圧調整手段と前記半導体スイッチとを制御する制御手段と、
を備え、
前記制御手段は、
前記電圧調整手段において、前記高電圧電源からの高電圧を、前記導電性接着材の導通回復作業用の前記第1の高電圧以下の所定の第2の高電圧に設定させ、
前記半導体スイッチにおいて、オン・オフ動作をさせて、
前記半導体放射線検出器の前記導電性接着材の導通回復作業を行なうことを特徴とする放射線計測回路。
【請求項6】
更に、
前記結晶素子組み立て体の他方の導電部材に接続して前記信号として取り出す信号線の前記増幅器の手前に接続する所定の第1の静電容量を有する第1のコンデンサと、
前記信号線の前記第1のコンデンサに直列に、前記半導体放射線検出器側に配設される前記第1の静電容量よりも十分に大きな所定の第2の静電容量を有する第2のコンデンサと、
前記第1のコンデンサと前記第2のコンデンサとの間の、前記信号線の接続点からダイオードを介して接地する保護回路と、
を備えることを特徴とする請求項5に記載の放射線計測回路。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか1項に記載された放射線計測回路を用いることを特徴とする核医学診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−128212(P2009−128212A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−304162(P2007−304162)
【出願日】平成19年11月26日(2007.11.26)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】