説明

放流落差を利用した処理水再利用システム

【課題】 排水等の処理水の放流落差を利用して、ろ過装置の原液供給及びろ過操作と、水車発電による動力源の回収を行う処理水再利用システムを提供する。
【解決手段】 ろ過槽3の給水管4を放流堰1に跨設して上部水槽Aに水没させて、処理水管18と洗浄排水管20を上部水槽Aの水位よりも低位置に配設し、槽底に立設した攪拌機17に配設したエアモータ16の排気管23を攪拌機17の羽根17a近傍のろ過槽3に接続し、放流堰1の越流水を受ける水受槽8に吸気エゼクタ10を設けたエゼクタ管9を垂下し、吸気エゼクタ10に連結した抽気管25を給水管4に接続したもので、水受槽8のエゼクタ管9が落水により負圧となり、吸気エゼクタ10のエゼクタ作用で給水管4に溜まる空気を吸引し、サイフォン作用により放流水を給水管4からろ過槽3に流入させ、機械攪拌と空気攪拌の相乗作用でろ材洗浄が容易となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、下水、し尿、集落排水、又は工場廃水等の汚水を排水処理設備で浄化し、その処理水を高度処理して工業用水等に利用する再利用システムに関し、詳しくは、処理水の放流堰を利用して、ろ過装置の原液供給と、ろ過操作、及び、動力源の回収を行う放流落差を利用した処理水再利用システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、下水処理場やし尿処理場の汚水は、沈殿等の濃縮と生物処理を行い、固液分離を行った分離水を殺菌消毒して河川や海に放流している。水資源の少ない我が国では、放流水を二次処理水として農業用水や工業用水としての活用が期待されている。近年、環境汚染がなく気象条件に左右されない発電設備として、河川、貯水池等の水の位置エネルギーを利用する小水力の水車発電装置が見直されており、水車発電装置に使用した水は通常放流している。例えば、浄水処理設備の電力の一部を賄う水力発電装置として、河川等から取水する導水管に水力発電装置と膜ろ過装置を設けた浄水処理設備が、特許文献1に開示してある。また、河川や貯水池等の放流堰に水車を設置してエゼクタの抽気作用を利用する自己サイフォン形水車発電機も特許文献2で、この特許出願人が提案している。そして、水よりも若干重い繊維ろ材を収納し、槽底に攪拌翼を垂設した下降流式ろ過機も、特許文献3に開示しており、比重が略0.9の繊維ろ材を収納し、槽底に攪拌翼を垂設した上向流式ろ過機も、特許文献4に開示してある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3632648号公報(請求項1、図1)
【特許文献2】特開2008−88896号公報(段落番号0011、図1)
【特許文献3】特開2000−126515号公報(段落番号0007、図1)
【特許文献4】特許第3109644号公報(段落番号0005、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の、河川や貯水池の水位差を利用する小水力の水車発電装置は、未利用エネルギーやクリーンな自然エネルギーを有効活用でき、環境負荷の低減と電力使用量の削減に寄与するものである。河川等から取水する導水管に水力発電装置と膜ろ過装置を設けた浄水処理設備は、原水の圧力を利用して、浄水処理を行ないながら電力を得ることができる利点があるが、下水処理場やし尿処理場で浄化した処理水は微細な浮遊物を含有し、膜ろ過装置では目詰まりが発生し、頻繁に洗浄する必要があり、早期に劣化する恐れがある。河川や貯水池等の放流堰に水車を設置してエゼクタの抽気作用を利用する自己サイフォン形水車発電機は、小さい水の落差を利用して、簡単な管構造でサイフォン作用を発生させて自動運転が可能となる。また、繊維ろ材を収納した密閉型ろ過槽は、ろ材の洗浄が容易であり、多くの微細浮遊物を含む処理水でも精密ろ過が行える利点がある。
この発明は、河川や貯水池等の放流落差を利用する自己サイフォン形水車発電機の技術を応用し、排水処理設備で浄化した処理水を放流堰の放流落差を利用して、更に高度処理を行うろ過装置を設置し、ろ過槽の原液供給とろ過操作、及びろ材洗浄と動力源の回収を行う放流落差を利用した処理水再利用システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ろ材を収納したろ過槽に排水処理場等の処理水を供給し、高度処理して再利用するろ過装置において、ろ過槽に接続した給水管を放流堰に跨設し、給水管の始端部を上部水槽に水没させてサイフォン状に形成し、ろ過槽の処理水管と洗浄排水管を上部水槽の水位よりも低位置に配設すると共に、放流堰の越流水を受ける水受槽を下部水槽に設置して、水受槽に吸気エゼクタを設けたエゼクタ管を垂下し、吸気エゼクタに連結した抽気管を給水管に接続したもので、放流堰の越流水が水受槽に流入すれば、水受槽に垂下したエゼクタ管が落水により負圧となり、吸気エゼクタのエゼクタ作用で給水管に溜まる空気を吸引し、サイフォン作用により放流水を給水管からろ過槽に流入させることができる。
放流堰を利用して、上部水槽に発電機を搭載した水車を垂設し、水車の吸出管を放流堰に跨設して下部水槽に水没し、水受槽の吸気エゼクタに連結する抽気管を分岐して吸出管に連結したもので、ろ過装置を始動させる吸気エゼクタの抽気作用を利用して、水車を始動させて水車発電を行うことができる。
下部水槽の近傍に設置するろ過装置は、ろ過槽の槽底に立設した攪拌機にエアモータを配設し、エアモータの排気管を攪拌機の羽根近傍のろ過槽に接続したもので、ろ材層を洗浄する時に、攪拌機でろ材を攪拌しながらエアモータの排気空気を噴出させるので、機械攪拌と空気攪拌の相乗作用による洗浄効果が得られ、低出力でろ材の再生が可能となる。
エアモータに圧縮空気を供給する駆動空気管に空気圧縮機を接続し、水車の発電機の給電線を空気圧縮機に接続して、駆動空気管に圧縮空気槽を付設したもので、水車の発電機を利用して空気圧縮機に送電し、エアモータへの圧縮空気の供給圧の脈動を防止しながら、攪拌機を駆動させることができる。ろ材層の攪拌洗浄不用時に圧縮空気を圧縮空気槽に蓄えることも可能となる
ろ過槽に収納するろ材を繊維ろ材とし、ろ過槽の頂部に排水処理水の給水管を垂下し、ろ過槽の下部に高度処理水を抜出す処理水管と、ろ過槽の適所に洗浄水給水管をそれぞれ接続したもので、放流堰の放流落差を利用してろ過装置の原液供給が行なわれ、圧縮性に富む繊維ろ材がろ材層ろ材間空隙率を減少させて微細な懸濁物質が捕捉除去し、高度処理を可能とする。ろ材層を攪拌すれば、繊維ろ材は分散・展開が容易であり、繊維隙間に保持された捕捉懸濁物質を簡単に剥離・脱落できる。洗浄動力が低減でき、洗浄時のろ材の劣化もなく、ろ材の耐久年数が長くなる。
ろ過槽を、浮上ろ材を収納した密閉式のろ過槽に構成し、ろ過槽の槽底に排水処理水を供給する給水管と、ろ過槽の頂部に高度処理水を抜出す処理水管を接続し、処理水管を分岐して洗浄水排水管を連結すれば、上向流によりろ材層を形成し、ろ材間空隙を効率良く充填することも可能となる。ろ材層の下方から攪拌すれば、ろ材の隙間に保持された捕捉懸濁物質は、簡単に剥離・脱落して、洗浄動力が低減できる。
【発明の効果】
【0006】
排水処理場等の放流堰の放流落差を利用して、ろ過槽に接続した給水管と、発電機を搭載した水車の吸出管を放流堰にそれぞれ跨設して、越流水を受ける水受槽の吸気エゼクタに連結する抽気管を水車の吸出管と水車の吸出管に接続してサイフォン作用を発生させるので、排水処理水が放流堰を越流すれば、水受槽の吸気エゼクタに抽気作用を発生させて、ろ過槽の給水管と水車の吸出管に留まる空気を排出し、ろ過槽のろ過操作と水車による発電を開始することができる。上部水槽の水位が低下してろ過装置と水車が停止しても、水位が上昇すれば吸気エゼクタに抽気作用が発生し、自動的にろ過装置と水車の作動が可能となる。下水処理場等の処理水を無駄に放流することなく微細浮遊物を分離して、高度処理水として工業用水等に有効に活用でき、同時に、回収した電力をろ過装置のろ材洗浄の動力源としても活用できる。ろ材層の攪拌洗浄不用時に圧縮空気を圧縮空気槽に蓄えることができ、電力を蓄電器に蓄えることも、付帯設備に流用することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】この発明に係わる放流落差を利用した処理水再利用システムのフローチャートである。
【図2】同じく、下部水槽の近傍に設置するろ過槽の縦断面図である。
【図3】同じく、下部水槽側に設置したろ過装置を作動させるフローチャートである。
【図4】同じく、上部水槽に垂設した水車を作動させるフローチャートである。
【図5】同じく、ろ過装置の他の実施例の上向流式の密閉ろ過装置の縦断面図である。
【図6】同じく、上向流式のろ過槽に収納する浮上ろ材の正面図及び側面図である。
【図7】同じく、他の実施例の浮上ろ材の側面図である
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施の形態を図面に基づき詳述すると、図1は放流落差を利用した処理水再利用システムのフローチャートであって、固液分離等を行った下水処理場等の処理水を貯水する上部水槽Aと、処理水を放流する下部水槽Bの間に放流堰1が配設してあり、下部水槽Bの近傍にろ過装置2を設置してある。ろ過装置2にろ過槽3が設置してあり、ろ過槽3の頂部に下水処理場等の処理水を供給する給水管4を接続し、ろ過槽3の給水管4をサイフォン状に形成し、管頂部4aを放流堰1に跨設して始端部4bを上部水槽Aに垂下してある。上部水槽Aに、発電機5を搭載した軸流型の水車6を垂設し、水車6に連結した吸出管7の管頂部7aを放流堰1に跨設して、後端部7bを下部水槽Bに垂下し、水車6と吸出管7をサイフォン状に形成してある。水車6の吸出管7の後端部7bは、上部水槽Aの水車6の吸込口6aより低い位置に開口して、下部水槽Bに水没させてある。放流堰1の越流水を受ける水受槽8が下部水槽Bに設置してあり、水受槽8の槽底から垂下したエゼクタ管9に吸気エゼクタ10を設けてある。上部水槽Aの排水処理水が放流堰1を越流すれば、上部水槽Aの排水処理水が水受槽8に流入して、エゼクタ管9を流下する。エゼクタ管9は落水で負圧となり、吸気エゼクタ10に抽気作用を発生させる。
図2は下部水槽の近傍に設置するろ過槽であって、ろ過槽3にろ材流出防止用のスクリーン11が張設してあり、スクリーン11の上部にろ材層12を形成するろ過室13と、スクリーン11の下部にろ材層12で微細浮遊物を取り除いた高度処理水を流入させる集水室14を構成し、ろ過槽3の上端周部にろ材層12を攪拌洗浄した洗浄排水を越流させる排水トラフ15が配設してある。ろ過槽3の槽底にエアモータ16を配設した攪拌機17が立設してあり、攪拌機17の羽根17aをスクリーン11上部のろ過室13に突設させてある。ろ過槽3の集水室14に処理水管18と、給水管4から分岐させた洗浄水給水管19がろ過槽3に構成するろ過室13の側壁に接続してあり、ろ過槽3の上端周部の排水トラフ15に洗浄排水管20が接続してある。ろ過槽3に接続した処理水管18と洗浄排水管20の接続口18a、20aは、上部水槽Aに貯留する処理水をろ過装置2で処理する時の最低水位よりも低位置に開口してある。ろ材槽12を形成するろ材は、比重が水より重い公知のろ材を用いることができる。
図2に示すように、エアモータ16に連結した駆動空気管21に空気圧縮機22を連結してあり、エアモータ16に連結した排気管23を、ろ過槽3のろ過室13に突設した攪拌機17の羽根17a近傍に接続してある。空気圧縮機22に連結した駆動空気管21から分岐して圧縮空気槽24が配設してあり、エアモータ16に供給する圧縮空気圧の脈動を防止する。この発明の実施例では、排水トラフ15の上部を被覆してろ過槽3を密閉型としてあるが、処理水を供給する給水管4をろ過槽3の頂部に垂下して開放型としても良いものである。なお、ろ過槽3近傍の給水管4に給水弁V6と空気排出弁V33が設けてあり、ろ過槽3の集水室14に接続した処理水管18に処理水弁V7が設けてある。給水管4から分岐してろ過槽3に洗浄水を供給する洗浄水給水管19に給水弁V9と、ろ過槽3のろ材を洗浄した洗浄排水を排出する洗浄排水管20に排水弁V8が設けてある。
図3は下部水槽側に設置したろ過装置を作動させるフローチャートであって、水受槽8に垂下したエゼクタ管9の吸気エゼクタ10にエゼクタ弁V3を介装した抽気管25が接続してあり、抽気管25の後端部を給水管4の管頂部4aに上方から連結してある。給水管4の近傍の抽気管25に管頂部4aに滞留する空気を排出する抽気弁V4と、管頂部4aに上昇水を検知する満水検知器LS1を介装してある。ろ過槽3を稼動させる時には、抽気管25に介装したエゼクタ弁V3と抽気弁V4を開口し、上部水槽Aの処理水が放流堰1を越流して下部水槽Bの水受槽8に流入すれば、吸気エゼクタ10に抽気作用を発生させ、抽気管25から給水管4の管頂部4aに貯まる空気を排出し、上部水槽Aの処理水を給水管4に流入させて空気の排出を満水検知器LS1で検出する。給水管4の空気の排出によりサイフォン作用が発生し、給水弁V6を開放すれば、上部水槽Aの処理水がろ過槽3に供給されて、微細浮遊物を分離して高度処理が行なえる。上部水槽Aの水位が低下してろ過槽3のろ過作用が停止しても、再び水位が上昇して放流堰1を越流すれば、排水処理水が水受槽8に流入してエゼクタ管9の吸気エゼクタ10に抽気作用が発生し、水位の変動に係わらずろ過槽3の供給ポンプを不要として、自動運転が可能となる。なお、給水管4の管頂部4aにろ過装置2への供給流量を計測する流量計Q2と給水を停止させる真空破壊弁V32が設けてある。
図4は上部水槽に垂設した水車を作動させるフローチャートであって、エゼクタ管9の吸引作用を発生させる吸気エゼクタ10に接続した抽気管25が、エゼクタ弁V3の後方から分岐して、水車6の吸出管7の管頂部7aに上方から連結してある。水車6に連結した吸出管7の近傍の抽気管25に、管頂部7aに滞留する空気を排出する抽気弁V2を介装してある。なお、吸出管7の管頂部7aに水車6の揚水量を調整する流量調整弁V1と、水車6の排出流量を計測する流量計Q1、及び水車6を停止させる真空破壊弁V31が設けてある。水車9を稼動させる時には、抽気管25に介装したエゼクタ弁V3と抽気弁V2を開口し、上部水槽Aの処理水が水受槽8に流入すれば、吸気エゼクタ10に抽気作用を発生させて吸出管7の管頂部7aに貯まる空気が排出されて、吸出管7が負圧となる。同時に、水車6の空気も吸引されて負圧となり、水車6の内部の水が上昇して吸出管7に流入し、吸出管7の垂下させた後端部7bの液体移動によりサイフォン作用を発生させる。吸出管7のサイフォン作用により水車6を駆動し、水車6に連動連結した発電機5を作動させて発電を開始する。
図1に示すように、この発明の実施例では、発電機5の給電線39が空気圧縮機22に接続してあり、水車6を利用して空気圧縮機22に送電し、圧縮空気槽24で圧縮空気圧の脈動を防止しながら、空気圧縮機22からろ過槽3に配設したエアモータ16を駆動して、攪拌機17を作動させることができる。ろ材層12の攪拌洗浄不用時に圧縮空気を圧縮空気槽24に蓄えることができ、電力を蓄電器に蓄えることも、付帯設備に流用することも可能となる、上部水槽Aの水位が低下して水車6の稼動が停止しても、再び上部水槽Aの水位が上昇して放流堰1を越流すれば、処理水が水受槽8に流入してエゼクタ管9の吸気エゼクタ10に抽気作用が発生し、水位の変動に係わらず水車6の自動運転が可能となる。高水位側の上部水槽Aに水車6を垂設すれば、高水位側の上部水槽Aと低水位側の下部水槽Bに水位差が少なくても、低水位側に吸出管7の後端部7bを水没させてサイフォン作用を起すことができ、低落差で利用できる。
図5はろ過装置の他の実施例の上向流式密閉ろ過装置であって、密閉型のろ過槽26に浮上ろ材を収納して処理水を上向流で供給し、ろ過槽26の上半部にろ材層27を形成してある。ろ過槽26の槽底に給水管28と、頂部に集水ノズル29を配設した処理水管30を連結してあり、上部水槽Aの排水処理水を槽底から給水し、ろ材層27で微細浮遊物を分離した高度処理水を頂部から抜き出す。ろ過槽26の槽底にエアモータ31を配設した攪拌機32が立設してあり、攪拌機32の羽根32aをろ材層27の下方近傍に突設させてある。エアモータ31に駆動空気管33が接続してあり、エアモータ31に連結した排気管34と、給水管28から分岐させた洗浄水給水管35が、攪拌機32の羽根32a近傍のろ過槽26の側壁にそれぞれ接続してある。分岐させた給水管28と洗浄水給水管36にそれぞれ給水弁V6、V9を介装してある。処理水管30から洗浄排水管36を分岐してあり、処理水管30と洗浄排水管36に処理水弁V7と排水弁V8を介装してある。ろ過槽26に接続した処理水管30は、上部水槽Aに貯留する処理水をろ過槽26で処理する時の最低水位よりも低位置に開口してある。
図6は、上向流式ろ過槽に収納する浮上ろ材の正面図と側面図であって、図5に示すろ過槽26にろ材層27を形成するろ材は、本願発明の実施例ではポリエステル、ナイロンの芯糸37aと押え糸37bに固定した放射状短繊維の花糸37cで比重が水よりも軽いモールろ材37を構成してある。ろ材層12を形成するモールろ材37は、モールろ材37、37間の空隙を効率良く平均的に充填して、ろ材層形成時のろ材間空隙率を減少させる。ろ過槽3に圧入される処理水が、ろ材層12を圧縮してモールろ材37、37間の空隙率をさらに減少させ、モールろ材37、37間の空隙を優先的に通過する処理水中の懸濁物質をろ材間充填短繊維の花糸37cによって捕捉、除去する。このモールろ材37は、洗浄時の花糸37cの脱落が非常に少ないため、ろ材の耐久性も高く、安定したろ過運転が長期にわたり可能となる。
図7は他の実施例の浮上ろ材であって、比重が0.7〜1.0で3〜50mmの複合繊維を融着したろ材を使用している。この繊維ろ材38は、合成樹脂性の繊度が18〜65デニールの第一フィラメント38aと、繊度が3〜10デニールの第二フィラメント38b、及び繊度が1.5〜6デニールの第三フィラメント38cを混綿してウエッブを熱融着させて、空隙率を概略95%に形成してある。この繊維ろ材38でろ材層27を形成してあり、ろ過運転時にろ材が目詰りしてきた時には、ろ過圧力の上昇に対抗して細いフィラメントで形成される空隙を太いフィラメントが確保し、この作用も合せて長時間の運転を可能とする。目詰まりして洗浄するに当たっても、あるいは、ろ材層27を形成した場合でも、その空隙が均一であり洗浄再生を容易となる。浮上ろ材は、粒状のろ材でも使用が可能であり、比重が0.05で粒径が0.5〜2.0mmφの発泡ポリスチレンで構成した粒状の発泡ろ材を使用すれば、空隙率は少なくなるが、ろ過槽26に流入する処理水のゆるやかな上昇流でろ材層27が形成され、攪拌機32を作動させながら、エアモータ31の排気圧縮空気を攪拌機32の羽根32a近傍に供給すれば、撹拌洗浄により容易に拡散され、捕捉された微細粒子をろ材層27から分離排出できる。
【実施例】
【0009】
実施例1
図1の処理水再利用システムにおいて、処理場に設置したろ過装置を作動させる手順を説明すると、上部水槽Aの処理水が満水となり、放流堰1を越流して下部水槽Bに設置した水受槽8に流入すれば、エゼクタ管9を流下する落水で負圧が生じ、吸気エゼクタ10に抽気作用を発生せて抽気管25の空気を吸引できる。上記の状況において、ろ過装置の単独運転開始は、先ず、
(1)ろ過運転開始時
a.ろ過槽3に付設する処理水管18の処理水弁V7、洗浄排水管20の排水弁V8、洗浄水給水管19の給水弁V9と、給水管4の管頂部4aに設けた真空破壊弁V32、及びろ過槽3近傍の給水管4に設けた空気排出弁V33を閉止し、
b.吸気エゼクタ10に接続した抽気管25のエゼクタ弁V3と、給水管4の抽気弁V4、ろ過槽3近傍の給水管4の給水弁V6を開放する。
c.受水槽8が放流堰1の越流水を受水すると、
d.放流水が流下するエゼクタ管9の落水により負圧となり、吸気エゼクタ10の抽気作用を開始し、給水管4の管頂部4aに貯まる空気を吸引する。
e.給水管4の管頂部4aに設けた満水検知器LS1で空気排出完了を検知して、
f.ろ過槽3の処理水弁V7を開放すると、処理水の放流を開始する。
g.給水管4の抽気弁V4と、抽気管25のエゼクタ弁V3を閉止すれば、
h.ろ過装置2で微細浮遊物を処理した高度処理水の放流運転が可能となる。
(2)洗浄排水時
a.ろ過槽3の給水弁V6と処理水弁V7を開放し、
b.抽気管25のエゼクタ弁V3と給水管4の抽気弁V4、ろ過槽3の洗浄排水弁V8と洗浄給水弁V9、及び給水管4の真空破壊弁V32と空気排出弁V33を閉止した
c.ろ過槽3の処理水の高度処理を継続運転中において、
d.ろ過槽3の給水弁V6と、処理水弁V7を閉止し、
e.ろ過槽3の洗浄排水弁V8と、洗浄給水弁V9を開放する。
f.エアモータ16の駆動弁V21と、給水管4の空気排出弁V33を開放すれば、
g.攪拌機17の回転と共に、エアモータ16の排気空気による攪拌洗浄が開始できる洗浄の相乗効果が得られる。
(3)洗浄排水終了後の通常のろ過運転
a.ろ過槽3の洗浄排水弁V8と洗浄給水弁V9、エアモータ16の駆動弁V21と、給水管4の空気排出弁V33を開放し
b.抽気管25のエゼクタ弁V3と給水管4の抽気弁V4、ろ過槽3の給水弁V6と、処理水弁V7、給水管4の管頂部4bの真空破壊弁V32を閉止した
c.洗浄排水運転中において、
d.エアモータ16の駆動弁V21と、給水管4の空気排出弁V33を閉止し、ろ過槽3の洗浄排水弁V8と、洗浄給水弁V9を閉止する。
e.ろ過槽3の給水弁V6と処理水管18の処理水弁V7を開放すれば、通常高度処理水の放流運転が可能となる。
(4)ろ過装置単独運転停止時
a.ろ過槽3の給水弁V6と、処理水弁V7を開放し、
b.抽気管25のエゼクタ弁V3と給水管4の抽気弁V4、ろ過槽3の洗浄排水管20の排水弁V8と洗浄水給水管19の洗浄給水弁V9、エアモータ16の駆動弁V21、及び給水管4の空気排出弁V33と給水管4の管頂部4aの真空破壊弁V32を閉止した
c.通常放流運転中において、
d.ろ過槽3の給水弁V6と、処理水弁V7を閉止して、
e.給水管4の真空破壊弁V32を開放する。
f.給水管の真空破壊により、ろ過槽3への給水を停止することにより、運転を停止できる。
【0010】
実施例2
図1の処理水再利用システムにおいて、処理場に設置した水車を作動させる手順を説明すると、
1)水車6の吸出管7の流量調整弁V1と抽気弁V2、及び抽気管25のエゼクタ弁V3を開放する。
2)受水槽8が放流堰1の越流水を受水すると、
3)放流水が流下するエゼクタ管9の落水により負圧となり、吸気エゼクタ10の抽気作用を開始し、吸出管7の頂部に貯まる空気を吸引し、サイフォンを形成して水車放流発電運転を開始する。
【0011】
実施例3
図1に示す、放流落差を利用した処理水再利用システムにおいて、水車運転中におけるろ過装置の運転開始は、
a.水車6の吸出管7の管頂部7aの抽気弁V2と、抽気管25のエゼクタ弁V3と給水管4の抽気弁V4、ろ過槽3の給水弁V6と処理水弁V7、ろ過槽3の洗浄排水弁V8と洗浄水の給水弁V9、水車6の真空破壊弁V31、及び給水管4の真空破壊弁V32を閉止し、水車6の吸出管7の流量調整弁V1を開放した
b.水車単独運転中において、
c.水車6の吸出管7の管頂部7aの抽気弁V2、及び、給水管4の給水弁V6と抽気弁V4を開放する。
d.水車6の吸出管7の吸気圧力により、ろ過槽3の給水管4内の空気は抽気される。
e.給水管4の満水検知器LS1で空気排出完了を検知して、
f.ろ過槽3の給水弁V6と処理水弁V7を開放すれば、通常高度処理水の放流を開始する。
g.水車6の吸出管7の抽気弁V2と給水管4の抽気弁V4を閉止することにより、水車放流発電運転と、通常高度処理水の放流運転が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0012】
この発明に係わる放流落差を利用した処理水再利用システムは、排水処理場等の放流堰の放流落差を利用して、ろ過槽の給水管と、発電機を搭載した水車の吸出管を放流堰にそれぞれ跨設し、ろ過槽の攪拌機を駆動するエアモータに空気圧縮機を配設すると共に、越流水を受ける水受槽の吸気エゼクタに連結する抽気管を水車の吸出管と水車の吸出管に接続してサイフォン作用を発生させるもので、下水等の排水処理水が放流堰を越流すれば、ろ過槽のろ過操作と水車による発電を開始することができ、上部水槽の水位が低下してろ過装置と水車が停止しても、水位が上昇すれば吸気エゼクタに抽気作用が発生して自動的にろ過装置と水車の作動が可能となる。従って、下水処理場等の処理水を無駄に放流することなく微細浮遊物を分離して、高度処理水として工業用水等に有効に活用でき、同時に、回収した電力をろ過装置のろ材洗浄の動力源としても活用できる。ろ材層の攪拌洗浄不用時に圧縮空気を圧縮空気槽に蓄えることができ、電力を蓄電器に蓄えることも、付帯設備に流用することも可能となる、
【符号の説明】
【0013】
1 放流堰
3、26 ろ過槽
4、28 給水管
4b 始端部
5 発電機
6 水車
7 吸出管
8 水受槽
9 エゼクタ管
10 吸気エゼクタ
16 エアモータ
17、32 攪拌機
17a、32a 羽根
18、30 処理水管
20、36 洗浄排水管
19、35 洗浄水給水管
21、33 駆動空気管
22 空気圧縮機
23、34 排気管
24 圧縮空気槽
25 抽気管
39 給電線
A 上部水槽
B 下部水槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ろ材を収納したろ過槽(3)に排水処理場等の処理水を供給し、高度処理して再利用するろ過装置において、ろ過槽(3)に接続した給水管(4)を放流堰(1)に跨設し、給水管(4)の始端部(4b)を上部水槽(A)に水没させてサイフォン状に形成し、ろ過槽(3)の処理水管(18)と洗浄排水管(20)を上部水槽(A)の水位よりも低位置に配設すると共に、放流堰(1)の越流水を受ける水受槽(8)を下部水槽(B)に設置して、水受槽(8)に吸気エゼクタ(10)を設けたエゼクタ管(9)を垂下し、吸気エゼクタ(10)に連結した抽気管(25)を給水管(4)に接続したことを特徴とする放流落差を利用した処理水再利用システム。
【請求項2】
上記上部水槽(A)に発電機(5)を搭載した水車(6)を垂設し、水車(6)の吸出管(7)を放流堰(1)に跨設して下部水槽(B)に水没し、水受槽(8)の吸気エゼクタ(10)に連結する抽気管(25)を分岐して吸出管(7)に連結したことを特徴とする請求項1に記載の放流落差を利用した処理水再利用システム。
【請求項3】
上記ろ過槽(3)の槽底に立設した攪拌機(17)にエアモータ(16)を配設し、エアモータ(16)の排気管(23)を攪拌機(17)の羽根(17a)近傍のろ過槽(3)に接続したことを特徴とする請求項1または2に記載の放流落差を利用した処理水再利用システム。
【請求項4】
上記エアモータ(16)に連結した駆動空気管(21)に空気圧縮機(22)を接続し、水車(6)の発電機(5)の給電線(39)を空気圧縮機(22)に接続して、駆動空気管(21)に圧縮空気槽(24)を付設したことを特徴とする請求項3に記載の放流落差を利用した処理水再利用システム。
【請求項5】
上記ろ過槽(3)に繊維ろ材を収納し、ろ過槽(3)の頂部に排水処理水の給水管(4)を垂下し、ろ過槽(3)の下部に処理水管(18)と、ろ過槽(3)の適所に洗浄水給水管(19)をそれぞれ接続したことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の放流落差を利用した処理水再利用システム。
【請求項6】
上記ろ過槽を、浮上ろ材を収納した密閉型のろ過槽(26)に構成し、ろ過槽(26)の槽底に給水管(28)と、ろ過槽(26)の頂部に処理水管(30)を接続し、処理水管(30)を分岐して洗浄水排水管(36)を連結したことを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の放流落差を利用した処理水再利用システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−162482(P2010−162482A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−7108(P2009−7108)
【出願日】平成21年1月16日(2009.1.16)
【出願人】(000197746)株式会社石垣 (116)
【Fターム(参考)】