説明

放熱部材の製造方法、放熱部材

【課題】めっき法を用いて放熱板を製造する優れた製造方法を提供する。
【解決手段】銅基板をクロムめっき浴に浸漬してクロム層を形成した後に、クロム層に付着したクロムめっき液を洗浄する工程を行う。次に銅めっき浴に浸漬してクロム層上に銅層を形成する工程を行う。この工程を繰り返す結果、銅基板上にクロム層が積層され、さらにクロム層上に銅層が積層され、放熱板が製造される。その製造方法で製造された放熱板は、高密度・微細化が進む電子部品に適切に対応しえるものになりえて、安価で且つ工業的に優れたものになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体や基板などの電子部品等に搭載される放熱板(ヒートシンク)等の放熱部材及びその放熱部材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
放熱板は、半導体や電子基板などの冷却を必要とする電子部品にとって不可欠な部材である。放熱板(ヒートシンク)の材料として、銅とタングステン(Cu−W)、銅とモリブデン(Cu−Mo)、銅とクロム(Cu−Cr)の組み合わせがある。銅は一般に熱伝導性が良好な材料であるが、熱膨張が大きく精密電子素子の放熱板に使用するには膨張が問題となる。銅の膨張を制御するために金属の中でも熱膨張率が小さいクロム、モリブデン、タングステンが層状に配合することで横方向の熱膨張を抑制している。
これら合金は、二相分離することで銅の良熱伝導性とクロム、モリブデン、タングステンの低熱膨張性を相補的に兼ね備え、放熱板の材料として優れた性能を示す。放熱板の製造技術としては、下記特許文献1−5等に記載されるような鋳造、粉末冶金手法等の製造方法がよく知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4057162号公報
【特許文献2】特開2008−81762号公報
【特許文献3】特開2008−57032号公報
【特許文献4】特許第3321906号公報
【特許文献5】特開2005−330583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記製造方法の場合、粉末金属の混合、焼結、冷間圧延による層状構造化が必要であり、また通常液でのエッチングが不可能なためプレス成型・打抜き・切削による目的形状への加工が必要である。そのため、工程が多くて安価になりえず、工業的な製造方法として妥当でないことが多い。また、放熱板が機械加工により作製される場合、この手法では微細素子化のニーズに対応できていないので、高密度・微細化がさらに進行する電子部品に対しては、十分な対応ができない虞があった。
本発明は、上記した課題等を解決するためになされたものであり、めっき法を用いて放熱部材を製造するという、従来にない新規かつ優れた製造方法を提供することを目的としている。また、本発明の製造方法により製造される放熱部材は、高密度・微細化が進む電子部品に対し適切に対応しえるものになりえて、安価で且つ工業的に優れた製品になりえる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するため、本発明によれば、クロム層と銅層を有する放熱部材の製造方法において、クロムめっき浴に浸漬してクロム層を形成した後にクロム層に付着したクロムめっき液を洗浄する工程を行い、次に銅めっき浴に浸漬して前記クロム層上に銅層を形成する工程を行うことを特徴とする。
この製造方法は、放熱部材の銅層及びクロム層がめっき法で形成されるため、簡易な工程からなる製造方法である。また、銅めっき浴に浸漬する際にプロセス条件を調整することで、銅層の厚さを任意に制御することができる。同様に、クロムめっき浴に浸漬する際に、プロセス条件を調整することで、クロム層の厚さを任意に制御することができる。
また、前記放熱部材の製造方法において、次のように積層してもよい。即ち、「銅めっき浴に浸漬して銅層を形成した後に銅層に付着した銅めっき液を洗浄する工程を行い、次にクロムめっき浴に浸漬して前記銅層上にクロム層を形成した後にクロム層に付着したクロムめっき液を洗浄する工程を行い、次に銅めっき浴に浸漬して前記クロム層上に第2銅層を形成する工程」を行ってもよい。この工程を行うことで、銅層、クロム層、銅層の順番に積層した構造の放熱部材を簡単に製造することができる。
上述した「クロムめっき浴と銅めっき浴とを交互に行う二浴繰り返しめっき法」により多層膜を作製する場合、クロムめっき浴および銅めっき浴の回数を設定することで、銅層及びクロム層の積層数を任意に設定できる。上記「二浴繰り返しめっき法」において、液濃度・電圧・電流等のプロセス条件を調整することで、層の厚さ、層状の間隔を任意に制御できる。
多数の放熱部材の基材として、銅製基材を用いて、マスキングを施した後に、二浴繰り返しめっき法で、クロム層、銅層、第2クロム層、第2銅層、・・という積層構造を作製し、その後、銅製基材をエッチング液で溶かすことで、多数の放熱部材を一度に製造することができる。
【0006】
また、別の「放熱部材の製造方法」の発明によれば、銅層とクロム層を有する放熱部材の製造方法において、銅とクロムとを含有した混合浴で、銅を析出して銅層を形成する銅析出工程を行い、次に前記混合浴でクロムを析出して前記銅層上にクロム層を形成するクロム析出工程を行うことを特徴とする。
この製造方法によれば、銅とクロムとを含有した混合浴で製造されるため、上記二浴繰り返しめっき法に比べて省スペースの製造方法となる。
また、前記放熱部材の製造方法において、次のように積層してもよい。即ち、「銅めっき液とクロムめっき液とを含む混合浴において、銅を析出して銅層を形成する銅析出工程を行い、次にクロムを析出して前記銅層上にクロム層を形成するクロム析出工程を行い、さらに銅を析出して銅層を前記クロム層上に形成する銅析出工程」を行ってもよい。
この工程を行うことで、銅層、クロム層、銅層の順番に積層した構造の放熱部材を簡単に製造することができる。この場合、銅層は微細なクロムを分散した銅リッチ層となる一方、クロム層は微細な銅を分散したクロムリッチ層になる。このプロセスにより製造された層は、銅単体からなる銅層及びクロム単体からなるクロム層より、熱伝導率及び熱膨張率等の点で優れていることがある。
このような銅とクロムとを含有した混合浴において、「クロム析出工程と銅析出工程とを交互に行う一浴内繰り返しめっき法」により多層膜を作製する場合、クロム析出工程と銅析出工程の回数を設定することで、銅層及びクロム層の積層数を任意に設定できる。上記「一浴内繰り返しめっき法」において、プロセス条件を調整することで、層の厚さ、層状の間隔を任意に制御することができる。
多数の放熱部材の基材として、銅製基材を用いてマスキングを施した後に、一浴内繰り返しめっき法で、クロム層、銅層、第2クロム層、第2銅層、・・という積層構造を作製し、その後、銅製基材をエッチング液で溶かすことで、多数の放熱部材を一度に製造することができる。
また、本発明の銅層とクロム層を有する放熱部材は、銅とクロムとを含有した混合浴で、銅を析出して形成される微細なクロムを分散した銅リッチ層と、前記混合浴でクロム析出して前記銅層上に形成される微細な銅を分散したクロムリッチ層と有することを特徴とする。
また、別の発明の銅層とクロム層を有する放熱部材は、銅めっき浴に浸漬して形成される銅層と、クロムめっき浴に浸漬して前記銅層上に形成されるクロム層と有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の製造方法によれば、放熱部材の銅層及びクロム層がめっき法で形成されるため、簡易な工程の製造方法であり、安価で且つ工業的に優れた方法である。また、マスキングの形状を目的とする形状に変えることで、微細化された高密度の形状となるように放熱部材を製造することができる。このような放熱部材は、搭載する電子機器の多様化、高性能化による発熱量アップに対しても、十分に対応可能なものとなる。
別の発明の製造方法によれば、銅とクロムとを含有した混合浴で製造されるため、上記二浴繰り返しめっき法に比べて、省スペースの製造方法となる。
また、本発明の放熱部材は、クロムリッチ層と銅リッチ層とを有するので、銅単体からなる銅層及びクロム単体からなるクロム層より、熱伝導率及び熱膨張率等の点で優れていることがある。
また、別の発明の放熱部材の銅層及びクロム層の積層がめっき法で形成されるため、マスキングの形状を変えことで積層の形状を任意に変えることができ、複雑形状にも簡易工程で対応できる放熱部材を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】クロムめっき液中あるいは銅めっき液中のカソード分極曲線を示す図である。
【図2】クロムめっき液中あるいは銅めっき液に加えるパルスを示す図である。
【図3】銅基板上にクロム層、銅層、第2クロム層、第2銅層、・・という積層構造を製造した多層膜の実験結果を示した図である。
【図4】銅基板上にクロム層、銅層、・・という積層構造を、二浴繰り返しめっき法で製造した多層膜(上側)、一浴内繰り返しめっき法で製造した多層膜(下側)の概念図である。
【図5】銅基板上にクロム層、銅層を形成する際の工程を示す図である。
【図6】他の実施例の工程を示す図である。
【図7】二浴繰り返しめっき法を示す図である。
【図8】一浴内繰り返しめっき法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を具体化した実施の形態について説明する。最初に、二浴繰り返しめっき法を、図7を用いて説明する。二浴繰り返しめっき法は、クロムめっき浴用の浴槽1と銅めっき浴用の浴槽2を準備するほかに、浴槽1、2から引き上げた試料を洗う洗浄槽3を準備する。浴槽1には、クロムめっき浴用の水溶液が入っている。浴槽2には、銅めっき浴用の水溶液が入っている。浴槽1、2の水溶液内には、陰極用基板1a、2aと対極板1b、2bが取り付けられている。
銅めっき浴では、電気めっきにおいては、水溶液中にある銅イオンを還元して金属銅を形成させるために用いる銅めっき液が用いられるのに対し、クロムめっき浴では、水溶液中にあるクロムイオンあるいはクロム酸イオンを還元して金属クロムを形成させるために用いるクロムめっき液が用いられる。
なお、浴槽1のプロセス条件は、以下の通りである。
温度は、20℃〜80℃である。金属イオン濃度は、10g/L〜300g/Lである。pHは、−1〜10である。錯体種は、硫酸、塩酸、メタスルホン酸、シュウ酸、アンモニア、クエン酸、ピロリン酸である。電析電位は、水素基準電極に対して−3V〜0.3Vである。時間は、1分〜60分である。
浴槽2のプロセス条件は、以下の通りである。
温度は20℃〜90℃である。金属イオン濃度は、50g/L〜600g/Lである。pHは、−1〜10である。電析電位は、水素基準電極に対して−3V〜−0.5Vである。時間は、1分〜60分である。
浴槽2の銅めっき浴用の水溶液内で、陰極用基板2aと対極板2b間で導電することにより、銅めっきが行われる。また、浴槽1のクロムめっき浴用の水溶液内で、陰極用基板1aと対極板1b間で導電することにより、クロムめっきが行われる。
銅めっき及びクロムめっきを得るための浴槽1、2では、プロセス条件(温度、金属イオン濃度、pH、錯体種、電析電位、時間など)を変えることで、銅めっき膜及びクロムめっき膜の厚さ、膜形状(例えば平滑性、瘤状、樹脂状など)を制御することができる。
【0010】
浴槽1、浴槽2におけるめっきでは,浴をエアーバブリングや攪拌機により撹拌することで、より均一電着性を上げる。あるいは、対極板を複数個用い、試料用陰極の周りに配置して均一めっきを得る。浴槽1、浴槽2に亜鉛イオン、スズイオン、ニッケルイオンを添加して金属を共析させることもある。また、SiC、MnOなどセラミックス粒子を分散させてこれを共析させることもある。
そして、浴槽2において銅めっき浴に浸漬して銅層を形成した後に、銅層に付着した銅めっき液を洗浄槽3で洗浄する工程を行い、次に浴槽1においてクロムめっき浴に浸漬して前記銅層上にクロム層を形成する工程を行うことで、銅層とクロム層を順次積層する放熱板を製造することができる(図4参照)。銅層とクロム層の厚さを変えることで熱伝導性と熱膨張性をコントロールできる。
このような製造方法は、放熱板の銅層及びクロム層がめっき法で形成できるので、簡易な工程からなる。また、銅めっき浴に浸漬する際にプロセス条件を調整することで、銅層の厚さを任意に制御することができ、同様に、クロムめっき浴に浸漬する際に、プロセス条件を調整することで、クロム層の厚さを制御することができる。
具体的には、図5の工程図に示されるように、銅基板の洗浄、マスクキングを行った後に、クロムめっき浴での成膜、洗浄、銅めっき浴での成膜、洗浄を行う。そして、クロムめっき浴での成膜、洗浄、銅めっき浴での成膜、洗浄を繰り返し行うことで、銅基板上に、クロム層、銅層、第2クロム層、第2銅層、・・が積層される。クロムめっき浴と銅めっき浴とを交互に行う二浴繰り返しめっき法の場合、クロムめっき浴および銅めっき浴の回数を設定することで、銅層及びクロム層の積層数を設定することできる。
このように「銅めっき浴に浸漬して銅層を形成した後に銅層に付着した銅めっき液を洗浄する工程を行い、次にクロムめっき浴に浸漬して前記銅層上にクロム層を形成した後にクロム層に付着したクロムめっき液を洗浄する工程を行い、次に銅めっき浴に浸漬して前記クロム層上に第2銅層を形成する工程を行い、次に・・」を行うことで、銅層、クロム層、銅層・・の順番に積層した構造の放熱板を簡単に製造することができる。その後、銅基板をエッチング液で溶かすことで、多数の放熱板を一度に製造することができる。
次に、一浴繰り返しめっき法(一浴パルスめっき法ともいう)を、図8を用いて説明する。一浴繰り返しめっき法では、銅とクロムとを含有した混合浴用の槽4で、クロムを析出してクロム層を形成するクロム析出工程を行い、次に前記混合浴で銅を析出して前記クロム層上に銅層を形成する銅析出工程を行う。
混合浴用の槽4の水溶液内には、陰極基板5、対極基板6、参照電極7が配置されている。混合浴用の槽4の側方には、混合浴用の槽4から引き上げた試料を洗う洗浄槽5を設けている。パルス電解では、2つの電位に設定する。この場合、電位の基準として参照電極が必要となる。陰極基板と対極とに電流を流し、電位が設定値になるように電源でコントロールする。2つの電位に設定するパルス電解法では、例えば、図1の電位Aと電位Bの2つの電位に交互に設定する。設定電位Aでは、曲線(1)で示される銅の析出電流値が大きく、曲線(2)のクロムの析出電流値は小さくなり、銅が多い膜が得られる。一方、設定電位Bでは、逆にクロムの析出電流値が大きくなりクロムが多い膜が得られる。
銅とクロムとを含有した混合浴用の槽4で、銅を析出して銅層を形成する銅析出工程を行い、次にクロムを析出して銅層上にクロム層を形成するクロム析出工程を行うことで、銅層とクロム層を積層した放熱板を製造することができる。
【0011】
浴槽4のプロセス条件は、以下の通りである。
溶液は,銅イオン濃度、10g/L〜300g/Lとクロムイオン濃度50g/L〜600g/Lを含み、他に硫酸、塩酸、メタスルホン酸、シュウ酸、アンモニア、クエン酸、ピロリン酸のひとつないし複数を加える。水酸化物イオンを加えてpHを−1〜10にする。温度は20℃〜90℃である。電析電位は、水素基準電極に対して−3V〜0.3Vである。
混合浴用の槽4では、プロセス条件(温度、金属イオン濃度、pH、錯体種、電析電位、時間など)を変えることで、銅めっき膜及びクロムめっき膜の厚さ、膜形状(例えば平滑性、瘤状、樹脂状など)を制御することができる。
浴槽3のプロセス条件の変更についても例示してください。浴槽1、浴槽2におけるめっきでは,浴をエアーバブリングや攪拌機により撹拌することで、より均一電着性を上げる。あるいは、対極板を複数個用い、試料用陰極の周りに配置して均一めっきを得る。浴槽1、浴槽2に亜鉛イオン、スズイオン、ニッケルイオンを添加して金属を共析させることもある。また、SiC、MnOなどセラミックス粒子を分散させてこれを共析させることもある。
この場合、銅層は微細なクロムを分散した銅リッチ層(Cu rich層)となる一方、クロム層は微細な銅を分散したクロムリッチ層(Cr rich層)になる。このプロセスにより製造された銅リッチ層及びクロムリッチ層は、銅単体からなる銅層及びクロム単体からなるクロム層より、熱伝導率及び熱膨張率等の点で優れている。例えば、クロム層に少量の銅を分散させることで、より熱伝導性があがる。
なお、クロムリッチ層はクロム層において30モル%以下の金属銅を含有するものをいう。銅とクロムは原子レベルでは混合しないため数マイクロメータ程度の金属クロムが銅マトリックス中に分散した形となる。銅リッチ層は銅層において30モル%以下の金属クロムを含有するものをいう。銅とクロムは原子レベルでは混合しないため数マイクロメータ程度の金属銅がクロムマトリックス中に分散した形となる。
具体的には、図5の工程図に示されるように、銅基板の洗浄、マスクキングを行った後に、銅・クロムを含むめっき浴中パルスめっきによる成膜を行う。そして、銅とクロムとを含有した混合浴において、クロム析出工程と銅析出工程とを交互に行う一浴内繰り返しめっき法を行う場合、クロム析出工程と銅析出工程の回数を適宜設定することで、銅層及びクロム層の積層数を任意に設定できる。その際、プロセス条件を調整することで、層の厚さ、層状の間隔を任意に制御することができる。このように銅基材を用いてマスキングを施した後に、一浴内繰り返しめっき法で、クロム層、銅層、第2クロム層、第2銅層、・・という積層構造を作製し、その後、銅製基材をエッチング液で溶かすことで、多数の放熱板を一度に製造することができる。
上記した実施の態様において、放熱部材を構成する放熱板は電子機器と接触させ、電子部品から出る熱を放熱板に伝導させて熱の発散を促進し、目的とする電子部品等の温度が上がることで性能劣化することを防ぐ板をいうが、必ずしも均一な板状である必要はなく、電子機器に対応させた形状に形成されていてもよい。
また、銅層は、金属銅が層状に形成された部位をいうが、必ずしもすべての層が均一な層である必要はない。同様に、クロム層は、金属クロムが層状に形成された部位をいうが、必ずしもすべての層が均一な層である必要はない。
【実施例】
【0012】
次に、一浴パルスめっき法の実施例について説明する。
この実施例では、50g/L硫酸銅と10g/L硫酸と平滑剤を含む温度50℃の銅めっき浴および300g/Lクロム酸と10g/L硫酸を含むクロムめっき浴を建浴する。70μmの厚さの銅箔を陰極基板とし、対極には白金板、参照電極にAg/AgCl(飽和KCl)を用いる。クロムめっき液中あるいは銅めっき液中におけるカソード分極曲線を図1に示す。図1中の曲線(1)の銅浴では−0.4Vから銅が析出をはじめ、−1Vより低い電位では銅イオンの拡散限界電流10A/dmの電流が流れる。この拡散限界電流の値は浴中にある銅イオン量を上げれば増加する。一方、図1中の曲線(2)のクロム浴では、−1Vからクロムの析出が始まる。−1V以下の電位では、析出の電流がおおきくなる。
このような銅とクロムの析出の電流挙動、電流効率が把握することにより、銅とクロムをともに含む溶液中からの定電位めっきにおいて銅−クロム合金中の各成分の比率を推定できる。銅の電流がクロムの電流より大きな電位Aにおいてめっきを施すと銅めっきには10A/dm(2価の銅イオンの還元)の電流が使われ、クロムめっきには1A/dm(6価のクロムイオンの還元)の電流が使われる。その結果が得られる。銅めっき層中には微細なクロム結晶が3.2mol%分散する。逆にクロムの析出電流が大きな電位Bにおいてめっきをすると銅めっきには10A/dmの電流が使われクロムめっきには250A/dmの電流が使われる。その結果10mol%の銅が分散したクロム層が得られる。図2に示すように電位Aと電位Bとの電位で一定時間ずつめっきを行うことで、Cuが少量分散したCrめっき層とCrが少量分散したCuめっき層の二層構造めっきとなる。
【0013】
次に、二浴繰り返しめっき法の実施例について説明する。
この実施例においては、250g/L硫酸銅と30g/L硫酸とを含む温度50℃の銅めっき浴および300g/Lクロム酸と10g/L硫酸を含むクロムめっき浴を建浴する。70μmの厚さの銅箔を陰極基板とし、対極には白金板を用いる。
カソード電極面積5cmの銅箔基板を水洗する。▲1▼クロムめっき液に浸し、2Aの電流で20分間クロムめっきを施す。その後、基板を取り出し水洗する。▲2▼銅めっき液に浸し、0.25Aの電流で10分間銅めっきを施す。その後、基板を取り出し水洗する。▲1▼▲2▼の操作を4回繰り返す。最後に表層に▲1▼によりクロム層をめっきする。この一連のめっきにより、図3に示すCu/Crの多層膜が得られる。めっき厚さは銅が10μm程度、クロムが3μm程度である。それぞれの膜厚は印加電流密度とめっき時間により自由に変えることができる。
「二浴繰り返しめっき法」および「一浴パルスめっき法」により作製した放熱板の断面の概念図を図4に示す。「二浴繰り返しめっき法」では、純度の高い銅層とクロム層を交互にけいせいできる。層の厚さと総数は、電解時間と繰り返し回数により自由に変えることができる。「二浴繰り返しめっき法」では、銅を分散したクロム層と、クロムを分散した銅層を交互に形成できる。分散量、分散体の大きさは、パルス時間、設定電位、浴中の銅・クロムイオン濃度によりコントロールできる。
「二浴繰り返しめっき法」および「一浴パルスめっき法」、それぞれのめっき法の工程を図5に示す。基板には導電性を確保したなるべく薄い銅を用いる。二浴繰り返しめっき法」では、洗浄後、クロムめっきを行う。その後洗浄し、銅めっきを行う。これを所定回数繰り返し、洗浄後、乾燥させる。「一浴パルスめっき法」では、基板を洗浄後、パルスめっきを行い、洗浄、乾燥する。
複雑形状の小型放熱板を作製する一つの工程として図6のような工程が考えられる。即ち、銅基板の洗浄をした後に、レジストを塗布し、電極形状を決める。銅・クロムを含むめっき浴中パルスめっきによる成膜を行うことで、レジストのない部分にめっきが形成される。その後洗浄し、レジストを有機溶媒等で除去する。銅基板をエッチュングにより溶かすことでめっき物は個々のものに分離させる。これを洗浄、乾燥する。
以上、本発明は上述した実施例、発明を実施するための形態に記載された発明に限定されるわけではなく、実施例、発明を実施するための形態に記載された発明から容易に創作できる変形例についても本発明を適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0014】
本発明の放熱部材は、半導体や基板などの電子部品等に搭載されることで、熱を発散する役割を果たすことができるが、熱伝導性に優れる銅と熱膨張率の小さいクロムをめっき法で複合させることにより、優れた放熱性と低い熱膨張率を有するため、放熱部材を搭載する電子機器の多様化、高性能化による発熱量アップに対しても、十分に対応可能なものとなり、また、放熱部材の製造方法は、従来の放熱部材の製造方法より、安価で且つ工業的に優れた方法になるので、産業上の利用可能性は大きいものとなる。
【符号の説明】
【0015】
1・・銅めっき浴の槽、 2・・クロムめっき浴の槽、 4・・混合浴用の槽 Cr layer・・クロムめっき層(クロム層)、 Cu layer・・銅めっき層(銅層) Cr rich layer・・クロムリッチ層、 Cu rich layer・・銅リッチ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロム層と銅層を有する放熱部材の製造方法において、
クロムめっき浴に浸漬してクロム層を形成した後にクロム層に付着したクロムめっき液を洗浄する工程を行い、次に銅めっき浴に浸漬して前記クロム層上に銅層を形成する工程を行うことを特徴とする放熱部材の製造方法。
【請求項2】
銅層とクロム層を有する放熱部材の製造方法において、
銅とクロムとを含有した混合浴で、クロムを析出してクロム層を形成するクロム析出工程を行い、次に前記混合浴で銅を析出して前記クロム層上に銅層を形成する銅析出工程を行うことを特徴とする放熱部材の製造方法。
【請求項3】
銅層とクロム層を有する放熱部材において、
銅とクロムとを含有した混合浴で、銅を析出して形成される微細なクロムを分散した銅リッチ層と、
前記混合浴でクロムを析出して前記銅層上に形成される微細な銅を分散したクロムリッチ層とを有することを特徴とする放熱部材。
【請求項4】
銅層とクロム層を有する放熱部材において、
銅めっき浴に浸漬して形成される銅層と、
クロムめっき浴に浸漬して前記銅層上に形成されるクロム層と有することを特徴とする放熱部材。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2010−226065(P2010−226065A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−97438(P2009−97438)
【出願日】平成21年3月21日(2009.3.21)
【出願人】(599137323)
【Fターム(参考)】