説明

数値制御工作機械の加工時間予測装置

【課題】加工時間の予測精度の向上と加工時間の予測するための処理時間を短縮することができる数値制御工作機械による加工時間の予測方法および予測装置を提供すること。
【解決手段】NC指令を解読するNC指令解読部10と、工具経路を細かい切片であるセグメントに分割するセグメントデータ生成部30と、セグメントデータを格納する中間メモリ40と、セグメントの接線方向の速度を求める速度制約処理部20と、速度制約処理部20によって求めた速度に基づいて各セグメントを工具が移動するのに要する時間を算出するセグメント移動時間算出部50と、各セグメントを移動する時間の総和を工具移動時間とする全移動時間算出部60と、を備えたNC指令によって工具が指定された経路を移動するのに要する時間を算出する加工時間予測装置1。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、数値制御工作機械の加工時間予測装置に関する。本発明における加工時間とは数値制御工作機械における工具の移動による加工時間をいう。
【背景技術】
【0002】
数値制御工作機械による加工時間を予め予測することは、工作機械を効率的に運用するために重要である。
【0003】
加工時間を予測するためには工具の移動速度が分かっていなければならない。例えば、実際の工具の速度を予測する手法として、特許文献1には、加工機の機種および加工モードの少なくとも一方に応じて設定された速度制御パラメータをデータベース化し、移動指令データをプログラムしたNCデータ(NC指令)を加工時間予測モジュールに入力し、選択された加工機の機種や加工モードに応じた速度制御パラメータを前記加工時間予測モジュールによって読み出し、読み出された速度制御パラメータと前記移動指令とに基づいて加工時間を予測する技術が開示されている。
【0004】
特許文献2には、工具軌跡を小さい間隔で分割した分割軌跡を求め、工具を指定された移動速度に従った速度で分割軌跡上を移動させてワークを加工するときの分割軌跡上の任意の位置の工具位置と各分割軌跡上における各軸方向の工具移動速度の時間変化とを軸制御データとして求め、軸制御データで指定された前記各軸方向の移動速度の時間変化から加工所要時間を算出する技術が開示されている。
【0005】
特許文献3には、NC工作機械(数値制御工作機械)の駆動用補間アルゴリズムと同じ補間アルゴリズムで工作機械に対する軸移動指令において指令された移動軌跡を補間し、前記軸移動指令において指令された移動軌跡の補間回数をカウントし、数値制御工作機械を駆動制御する際の補間周期と前記カウントした補間回数とを乗じて軸移動指令の軸移動時間を算出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−25945号公報
【特許文献2】特開2009−98981号公報
【特許文献3】特開2005−301440号公報
【特許文献4】特開2007−94936号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、加工時間を予測するためには工具の移動速度が分かっていなければならないが、加工中の工具の速度は、CNC(数値制御装置)による様々な速度制御の結果、一般に、NC指令(加工プログラム)で与えられる指令速度とCNCのパラメータに設定された加減速の加速度から予想される速度とは異なる。
【0008】
現在のCNCは、機械への衝撃を抑えてなめらかな工具の動きを実現するため、非常に短い周期で工具の移動速度を制御しているため、工具経路に沿って接線方向の工具の移動速度は時々刻々変化している。そのため、特許文献1に開示されているように、ブロック単位の速度を考える方法では、ブロック長よりも短い単位で変化する速度の効果を取り入れることができない。
【0009】
また、金型の加工のように時間のかかる加工では、予測した加工時間の精度に加えて予測に要する時間(処理時間)が短いことも重要である。特許文献2に開示される技術では、各軸毎の速度データを使用するために工具の動きを各軸の動作に分解する必要があるため計算に時間を要し、処理時間が長くなる。また、特許文献3に開示される方法では、CNCの補間処理を利用するため、NC指令の解読から補間までCNCのほとんどの機能を実行することになり、実際の加工に比べて処理時間を大幅に短縮することはできない。
【0010】
そこで本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、加工時間の予測精度の向上と加工時間の予測するための処理時間を短縮することができる数値制御工作機械による加工時間の予測方法および予測装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願の請求項1に係る発明は、NC指令によって工具が指定された経路を移動するのに要する時間を算出する装置であって、工具経路を細かい切片であるセグメントに分割する手段と、セグメントの接線方向の速度を求める速度算出手段と、前記速度算出手段によって求めた接線方向の速度に基づいて各セグメントを前記工具が移動するのに要する時間を算出するセグメント移動時間算出手段と、前記セグメント移動時間算出手段により算出された各セグメントを移動する時間の総和を工具移動時間として求める工具移動時間算出手段と、を備えたことを特徴とする加工時間予測装置である。
【0012】
請求項2に係る発明は、前記セグメントに分割する手段は、前記NC指令による指令速度に所定の係数または工具経路の曲率に基づいて決めた係数を乗じて工具の速度を求め、該工具の速度で工具が移動するとして工具経路を所定の時間間隔で分割し、分割された各区間をセグメントとする手段であることを特徴とする請求項1に記載の加工時間予測装置である。
請求項3に係る発明では、前記所定の時間間隔は可変であることを特徴とする請求項2に記載の加工時間予測装置である。
【0013】
請求項4に係る発明では、前記速度算出手段は、セグメントの始点から終点にかけてセグメントの接線方向の速度を算出する手段であって、各セグメント終点における速度を、隣り合うセグメントの速度差、加速度差、加加速度差、工具経路の曲率、速度算出に使用するセグメント数のうち少なくとも一つに基づいて決める終点速度算出手段と、セグメントの接線方向の接線加速度を前記NC指令によって駆動される軸方向の成分が各軸の最大加速度を超えない最大の値とする接線加速度算出手段と、セグメントの上限速度を指令速度に所定の係数を乗じた値と曲率に基づく所定の値とを比較して決める上限速度算出手段と、前記接線加速度算出手段により求めた接線加速度を用いて前記上限速度を超えないように、かつ、終点における速度が前記求めた速度を超えないようにセグメントの接線方向の速度である速度カーブを算出する速度カーブ算出手段と、を備えたことを特徴とする請求項1に記載の加工時間予測装置である。
【0014】
請求項5に係る発明では、前記速度カーブ算出手段は、予め用意した複数の速度カーブ算出手段のうちの1つの算出手段を選択し、該選択した算出手段により速度カーブを算出する手段を備えたことを特徴とする請求項4に記載の加工時間予測装置である。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、加工時間の予測精度の向上と加工時間を予測するための処理時間を短縮することができる数値制御工作機械による加工時間の予測装置を提供できる。つまり、請求項1の発明により、加工に要する時間を従来よりも正確に予測できるので、個々の加工で機械を使用する時間を事前にきめ細かく把握することが可能となり、機械の空き時間を少なくして効率的に運用でき、また、加工終了までの時間を従来よりも正確に予想できるので、生産計画を正確に立てることができる。請求項2の発明により、NC指令の指令速度で加工する場合の他に、速度オーバライドをかけた時の加工時間を求めることができる。請求項3の発明により、加工時間の予測値の精度との兼ね合いで処理時間を短縮できる。請求項4により、速度、加速度、加加速度、工具経路の曲率による速度制御がかかる場合にも、正確に加工時間を予測できる。請求項5の発明により、加工時間の予測値の精度との兼ね合いで処理時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】加工時間予測装置の機能ブロック図である。
【図2】減速曲線の求め方を説明する図である。
【図3】工具経路に沿って測った距離と接線速度を説明する図である。
【図4】セグメント内部の速度カーブを説明する図である。
【図5】許容速度の求め方を説明する図である。
【図6】移動時間の計算のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図7】セグメント移動時間の計算のアルゴリズムを示すフローチャートである。
【図8】速度カーブを求める第2の方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態を図面と共に説明する。
本発明は、工具経路をセグメントとよぶ微小な切片に分割し、セグメントの始点から終点にかけて接線方向の速度の変化を表す速度カーブを求め、工具が求めた速度カーブに従って動くとしてセグメントを移動するのに要する時間を算出する。全工具経路を移動するのに要する時間は、セグメント毎の移動時間の総和で与えられる。
隣り合うセグメントの間の速度差、加速度の差、加加速度の差、工具経路の曲率、速度算出に用いるセグメントデータの数によって決まる速度に対する制約を取り入れて速度カーブを決めることにより、算出した加工時間の精度を向上させる。
工具の動作を各軸の動作に分解せず、接線方向の速度を扱う1次元の問題として処理できるので、処理時間を短縮する。更に、セグメントへの分割間隔を可変にすることにより、移動時間の予測値と予測値の精度の調整を可能にする。
図1は、本発明の一実施形態を説明するブロック図である。加工時間予測装置1は、NC指令解読部10、速度制約処理部20、セグメントデータ生成部30、中間メモリ(バッファメモリ)40、セグメント移動時間計算部50、全移動時間計算部60を含む。
【0018】
NC指令解読部10は、NC指令(加工プログラム)2を入力として受け取り、その内容を解読してNC指令(加工プログラム)2に記述されるブロック毎の指令データに分割してブロックデータを生成する。入力されるNC指令2は、CNC(数値制御装置)に入力されるものと同じであり、テキストファイルやCNCのプログラムメモリに記憶されたバイナリデータなど、その形式は問わない。
【0019】
ブロックデータは元のNC指令(加工プログラム)2を構成する各ブロックの指令内容を表したもので、ブロックの始点と終点の位置の情報、始点から終点までの経路の種類(直線、円弧など)と経路を決める情報(円弧の場合の中心位置など)、ブロックを移動する時の工具の速度情報が含まれる。
【0020】
速度制約処理部20は、大域速度制約処理部21、局所速度制約処理部22、および、データ量依存速度制約処理部23を含む。
大域速度制約処理部21は、NC指令(加工プログラム)2において指令される指令速度Vcと工具経路の曲率に応じて予め決められた速度Viaを比較し、小さい方の値を上限速度Vlimとする。指令速度Vcのデータと工具経路の曲率のデータはNC指令解読部10で生成されるブロックデータに基づく。工具経路の曲率に応じて予め決められた速度Viaのデータは図示しないメモリに記憶しておく。速度オーバライドがかかった状態での工具の移動時間を算出する場合は、指令速度Vcの代わりに指令速度Vcにオーバライドの比率を乗じた速度を用いる。局所速度制約処理部22とデータ量依存速度制約処理部23は、セグメントデータを利用するので、後述する。
【0021】
セグメントデータ生成部30はNC指令解読部10で生成されたブロックデータを受け取り、各ブロックの始点から終点までの工具経路をセグメントへ分割する。この分割方法は、指令速度Vcに所定の係数kまたは工具経路の曲率に基づいて決めた係数を乗じて分割速度Vdを決め、分割速度Vdに所定の時間τを乗じて得られる距離Vd・τを分割間隔として、ブロック始点から順次セグメントを切り出して行く。このようにして生成された個々のセグメントは工具経路の微小な切片である。セグメントの長さをLとすると、L=Vd・τで表すことができる。所定の時間τは補間周期ないしそれより長い時間とする。
【0022】
切り出された微小な切片は、セグメントデータとして中間メモリ(バッファ)40に蓄積(格納)される。中間メモリ40に蓄積(格納)されるセグメントデータは、セグメントの長さL、セグメントの方向(始点から終点に向かうベクトル)、前記上限速度と局所速度制約処理部22で求めたコーナ速度Vrを含む。
【0023】
局所速度制約処理部22は、セグメントデータ生成部30によって生成されたセグメントについて、隣り合うセグメントの間の速度差、加速度差、および、加加速度がそれぞれ予め設定された許容値以下に収まる速度の中で最大の速度を求め、その速度を隣り合うセグメントの接続点におけるコーナ速度Vrとする。なお、工具経路の曲率を大域速度制約処理部21で考慮する代わりに、局所速度制約処理部22で考慮してもよい。このようにして値が設定されたセグメントデータは、中間メモリ(バッファ)40に蓄積(格納)される。
【0024】
データ量依存速度制約処理部23は、セグメントデータの数によって決まる工具の移動速度に対する制約を取り入れて、算出した加工時間の精度を向上させるための手段である。これは、特許文献4に開示されているような先読み処理部によって読み込まれたデータ数によって速度に対する制約が決まることを、加工時間の予測装置において再現するために備わった処理部である。
データ量依存型速度制約処理部23は、中間メモリ(バッファ)40に蓄積された末尾のセグメント(最も後に生成されたセグメント)の終点で所定の速度Uaになるとして、中間メモリ(バッファ)40の先頭のセグメントへ向かって減速曲線と呼ぶ速度の変化を表す速度カーブU(t)を形成する。工具は速度カーブU(t)以上の速度では移動することはできないので、該U(t)を許容速度と称する。通常、所定の速度Uaは0とするが、有限の値でもよい。
【0025】
図2に減速曲線の一例を示す。s1が中間メモリ(バッファ)に蓄積されている先端のセグメントであり、s8が末端のセグメントを表す。つまり、図2の例では、s1〜s8のセグメントの中で、s8のセグメントが最も後に生成されたセグメントである。この場合は、末端のセグメントであるs8の終点で所定の速度Uaが0になるように先頭のセグメント(s1)に向かって減速曲線が形成されている。
【0026】
減速曲線の傾きは接線加速度αの大きさを表す。減速曲線と各セグメントの始点と終点を表す点線で切り取られた柱状の領域の面積が、そのセグメントの移動距離(L=Vd・τ)に等しい。
接線加速度αは、それを機械の駆動軸方向の成分に分解した時、各軸の許容加速度を超えない最大の値とする。つまり、急激な減速によって機械に損傷を与えないように減速する方向の加速度に制限が設けられていることに対応するものである。中間メモリ(バッファ)40の先頭のセグメント(s1)(最も前に生成されたセグメント)について、減速曲線によって決まるセグメントの終点における速度Unとコーナ速度Vrを比較し、小さい方をセグメント終点における速度Ueとする。
【0027】
セグメント移動時間計算部50は、中間メモリ(バッファ)40の先頭からセグメントデータを1つ取り出し、そのセグメントの移動に要する時間を計算する。セグメントの長さをLとし、セグメントの始点の時刻を0、時刻tにおける工具の移動速度である速度カーブをV(t)とすると、任意の1つのセグメントの移動に要する時間Tは数1式を満たす。速度カーブV(t)は図3に示されるように工具経路に沿って測った距離s(t)の時間微分を表す。
【0028】
【数1】

【0029】
工具の移動速度である速度カーブV(t)が、図4に示すように区分的に高々1次式で表されるとする。図4では1つのセグメントの中には加速区間、定速区間、および減速区間がある。ここで、Vsは区間の始点における速度、Veは区間の終点における速度である。V0はt=0の時の速度で、セグメントの始点における速度である。一番最初の動き出しのセグメントではV0=0であり、それ以降のセグメントではV0は1つ前のセグメントの終点の速度Ueに等しい。加速区間と減速区間の傾きはセグメントの接線加速度αから決まる。Vlimは大域速度制約処理部21で求めた上限速度である。
【0030】
工具の運動の状態は図4に示されるように、工具の移動速度が増加している加速状態、一定速度で推移している定速状態、速度が減少している減速状態のいずれかに分類される。実現される状態の判定(現実の工具の運動状態)と加速状態から定速状態への移行のような状態遷移の判定に、予め決めた評価関数を用いる。
【0031】
セグメント始点の速度V0は前記のように決まっているので、始点における初期状態を決め、状態遷移の判定と遷移による状態の更新を行うことにより、セグメント内部の速度カーブV(t)を決めることができる。速度カーブV(t)が決まると、数1式を用いて移動時間Tが求められる。なお、図4では、3つの状態が全て現れる場合を図示しているが、条件によって、加速状態のみ、定速状態と減速状態など、様々の速度変化の形態が現れる。
【0032】
評価関数は、工具の実際の速度に近い速度カーブV(t)を実現するものを採用する。例えば、特許文献4に記載されている現在の許容速度と加速後の速度を比較する方法では、時刻tにおける評価関数W(t)の値は数2式で表される。
【0033】
【数2】

【0034】
数2式で、W(t)>0の時は加速可能な状態と判定される。ここで、V(t)は時刻tにおける速度、αは接線加速度(接線方向加速度)、U(t)は減速曲線を基に決めた時刻tにおける許容速度を表す。許容速度U(t)は、図5に示すように、減速曲線に沿って減速する時に時刻tまでに移動した距離だけ進んだ点において減速曲線が示す速度である。Δtは微小な時間であり、例えば1msecであるとする。後述の式のΔtも同様である。
【0035】
図6はセグメントデータを用いて移動時間を計算する手順を示すフローチャート、また、図7は1つのセグメントの移動時間の計算の手順を示すフローチャートである。以下、これらの図に基づいて計算方法を説明する。
【0036】
図6に示す処理は、所定の数のセグメントデータが生成され中間メモリ(バッファ)40に供給された時に開始される。以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSA100]変数の初期化を行う。すなわち、前セグメント終点の速度Ueを0に、また、移動時間を加算する変数Tを0に設定する。
●[ステップSA101]バッファの先頭からセグメントデータを1つ取り出し、図7に示すフローチャートの処理でそのセグメントの移動時間を計算する。
●[ステップSA102]前ステップで計算した時間をTに加算する。
●[ステップSA103]全てのセグメントの移動時間の計算が終了したか否かを判断し、終了していなければ、ステップSA104へ移行し、終了していれば、処理を終了する。
●[ステップSA104]セグメントデータを1つ生成してバッファに供給し、ステップSA101へ戻る。
【0037】
図7は、図6のステップSA101の移動時間を計算するフローチャートを示す。この方法は、セグメントを状態によって区間に分割し、区間毎に移動時間を求めて、その総和をセグメント移動時間とする。ここで、状態を表す以下の変数を導入する。Vs:区間の始点における速度、Ve:区間の終点における速度、time:セグメント始点から積算した移動時間、Rd:セグメントの残り距離とする。
【0038】
評価関数は、数3式を採用する。ただし、V(t)+αΔtは上限速度Vlimでクランプされる。
【0039】
【数3】

【0040】
状態の判定は、以下のa)〜c)の条件によって行う。
a)0≦W(t)、かつ、V(t)<上限速度Vlimのときは加速
b)0≦W(t)、かつ、V(t)=上限速度Vlimのときは定速
c)W(t)<0のときは減速
【0041】
以下、各ステップに従って説明する。
●[ステップSB100]セグメント始点での値を設定する。つまり、Us=Ue(前セグメント終点における速度)、Rd=L(セグメントの長さ)、time=0に設定する。Ueは、図6のステップSA100によって最初のセグメントではUe=0に初期化されている。
●[ステップSB101]評価関数によって現在の状態を判定する。区間の始点における速度Vs、図5に示す速度曲線から求めた区間の始点における許容速度U0と接線加速度αを評価関数に代入し、上記の判定条件を適用して決める。
●[ステップSB102]評価関数を使って次の状態遷移が発生するポイントを決める。例えば、現在の状態が加速状態であれば、以下のように計算する。区間の始点から時間tが経過すると、速度は、数4式で表される。
【0042】
【数4】

【0043】
許容速度U(t)は、数5式から求める。
【0044】
【数5】

【0045】
状態遷移ポイントまでの時間T’は、数6式から求める。ただし、Vlim<Vs+αTの場合はVlim=Vs+αtとなるtを状態遷移ポイントまでの時間T’とする。
【0046】
【数6】

【0047】
現在の状態が定速状態であれば、速度はVlimなので、許容速度がU(t)=Vlimを満足する点が状態遷移ポイントである。状態遷移ポイントまでの経過時間をT’とすると、状態遷移ポイントまでに進む距離はVlim・T’であるので、数7式がなりたつ。
【0048】
【数7】

【0049】
現在の状態が減速状態であれば、局所速度制約処理部22で求めたセグメント終点の速度をUeとして、状態遷移ポイントまでの時間T’ は式8式を満たす。状態遷移ポイントに到達した後は速度をUeに保つ。
【0050】
【数8】

【0051】
●[ステップSB103]状態遷移ポイントまでの時間T’を用いて区間の始点から状態遷移ポイントまでに移動する距離を計算する。加速区間の場合、数9式で表される。
【0052】
【数9】

【0053】
定速区間では、数10式で表される。
【0054】
【数10】

【0055】
減速区間では、数11式で表される。
【0056】
【数11】

【0057】
●[ステップSB104]状態遷移ポイントがセグメント終点の手前にあるか否か判断する。Rd<Dであれば状態遷移ポイントへ到達する前にセグメント終点に到達する。
●[ステップSB105]状態遷移ポイントが終点より手前にある場合の処理で、状態遷移ポイントまでの移動時間をtimeに加算し、現区間の終点の状態を次の区間の始点になるようにVsとRdを更新して、ステップSB101に戻って処理を繰り返す。更新された値は、現区間の終点の速度をVeとすると、Vs=Ve,Rd=Rd−Dとなる。
●[ステップSB106]セグメント終点が状態遷移ポイントより手前にある場合の処理で、区間の始点から終点までの移動時間Teをtimeに積算して終了する。
加速区間の場合、Teは数12式から求める。
【0058】
【数12】

【0059】
定速区間の場合は、数13式から求める。
【0060】
【数13】

【0061】
減速区間の場合は、数14式から求める。
【0062】
【数14】

【0063】
この手順により、各区間の移動時間がtimeに積算され、処理が終了した時にtimeがセグメントの移動時間を保持している。
全移動時間計算部60では、前記timeに保持されている値を全移動時間とする。
本発明の一実施例の説明では、セグメントの始点から終点にかけて接線加速度を一定としたが、速度算出手段はこれに限定されるものではない。例えば、接線加速度αが速度vに依存し、その関係が線型でα=v・h+kであり、hとkは定数と表されるとすると、数15式の式が成り立つ。
【0064】
【数15】

【0065】
数1式の積分は解析的に求まるので、数15式で表される速度で表される工具の移動時間を求めることができる。
【0066】
一実施例でセグメントへの分割に用いた時間τの値を選択できるようにすることにより、分割の時間間隔を可変にできる。これによって請求項3に記述した加工時間予測装置を実現できる。処理時間はセグメントの数に関係するので、分割の時間間隔を大きくすることにより、処理時間を削減できる。
【0067】
速度算出手段については、上述した本発明の一実施形態の方法よりも簡易化された実施形態として、評価関数を使わずに、速度カーブV(t)を以下のアルゴリズムで構成する手法を採用してもよい。
セグメント始点の速度をV0、局所速度制約処理部22で求めたセグメント終点の速度をUe、接線加速度をαとする。評価関数を使わないので、局所速度制約処理部22で求めたコーナ速度Vrが、セグメント終点の速度Ueとして扱われる。
1)V0≦Ueの場合
始点から終点への接線加速度αで一様に加速した時の終点の速度をVfとする。
Vf≦Ueの場合、接線加速度αで一様に減速する直線を速度カーブとする(図8(a)参照)。
【0068】
Ue<Vfの場合は、速度がUeに到達後、一定速度で推移する折れ線を速度カーブとする(図8(b))。
2)Ue<V0の場合
始点から終点へ接線加速度αで一様に減速した時の終点の速度をVfとする。
Ue≦Vfの場合は、接線加速度αで一様に減速する直線を速度カーブとする(図8(c))
Vf<Ueの場合は、速度がUeに到達後、一定速度で推移する折れ線を速度カーブとする(図8(d))。
【0069】
このような速度カーブの算出方法を複数用意し、その中の1つを選択可能にすることに
より、請求項5に記載の加工時間予測装置を実現できる。
【0070】
評価関数は、この実施例で採用したものに限る必要はない。CNCの速度制御によって
決まる実施の速度を近似的に再現するものであれば、採用することができる。また、前記
のように、評価関数をあからさまに用いない手法でもよい。
【0071】
本発明に係る加工時間予測装置は、独立した装置である必要はない。請求項1〜5に記載した装置を構成する手段をCNCに搭載し、CNC自体を加工時間予測装置1とする構成も可能である。
【0072】
なお、図1では明示していないが、工具停止指令がなされたときの停止時間を加算する加算部や、補助機能実行時間計算部を含むようにしてもよい。補助機能実行時間計算部はMコードなどの移動指令以外の命令の実行時間を計算するものである。
【符号の説明】
【0073】
1 加工時間予測装置
2 NC指令
10 NC指令解読部
20 速度制約処理部
30 セグメントデータ生成部
40 中間メモリ
50 セグメント移動時間計算部
60 全移動時間計算部
Vr コーナ速度
Vc 指令速度
Vd 分割速度
Vs 区間の始点における速度
Ve 区間の終点における速度
Via 工具経路の曲率に応じて予め決められた速度
Vlim 上限速度
τ 所定の時間
k 所定の係数
Vd・τ 分割間隔
V(t) 速度カーブ
T セグメント毎の移動時間を積算した時間
T’ 状態遷移ポイントまでの時間
W(t) 評価関数
α 接線方向の加速度
U(t) 許容速度
Un 減速曲線によって決まるセグメント終点における速度
Us セグメント始点における速度
Ue セグメント終点における速度
U0 セグメントの区間の開始点における許容速度
L セグメントの長さ
time セグメント始点から積算した移動時間
Rd セグメントの残り距離

s(t) 工具経路に沿って測った距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
NC指令によって工具が指定された経路を移動するのに要する時間を算出する装置であって、
工具経路を細かい切片であるセグメントに分割する手段と、
セグメントの接線方向の速度を求める速度算出手段と、
前記速度算出手段によって求めた接線方向の速度に基づいて各セグメントを前記工具が移動するのに要する時間を算出するセグメント移動時間算出手段と、
前記セグメント移動時間算出手段により算出された各セグメントを移動する時間の総和を工具移動時間として求める工具移動時間算出手段と、
を備えたことを特徴とする加工時間予測装置。
【請求項2】
前記セグメントに分割する手段は、前記NC指令による指令速度に所定の係数または工具経路の曲率に基づいて決めた係数を乗じて工具の速度を求め、該工具の速度で工具が移動するとして工具経路を所定の時間間隔で分割し、分割された各区間をセグメントとする手段であることを特徴とする請求項1に記載の加工時間予測装置。
【請求項3】
前記所定の時間間隔は可変であることを特徴とする請求項2に記載の加工時間予測装置。
【請求項4】
前記速度算出手段は、セグメントの始点から終点にかけてセグメントの接線方向の速度を算出する手段であって、各セグメント終点における速度を、隣り合うセグメントの速度差、加速度差、加加速度差、工具経路の曲率、速度算出に使用するセグメント数のうち少なくとも一つに基づいて決める終点速度算出手段と、
セグメントの接線方向の接線加速度を前記NC指令によって駆動される軸方向の成分が各軸の最大加速度を超えない最大の値とする接線加速度算出手段と、
セグメントの上限速度を指令速度に所定の係数を乗じた値と曲率に基づく所定の値とを比較して決める上限速度算出手段と、
前記接線加速度算出手段により求めた接線加速度を用いて前記上限速度を超えないように、かつ、終点における速度が前記求めた速度を超えないようにセグメントの接線方向の速度である速度カーブを算出する速度カーブ算出手段と、
を備えたことを特徴とする請求項1に記載の加工時間予測装置。
【請求項5】
前記速度カーブ算出手段は、予め用意した複数の速度カーブ算出手段のうちの1つの算出手段を選択し、該選択した算出手段により速度カーブを算出する手段を備えたことを特徴とする請求項4に記載の加工時間予測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−93975(P2012−93975A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−241060(P2010−241060)
【出願日】平成22年10月27日(2010.10.27)
【出願人】(390008235)ファナック株式会社 (1,110)
【Fターム(参考)】