説明

数値制御装置および加工方法

【課題】工作機械において工作物を高精度に加工でき、且つ加工時間を大幅に短縮できるNC装置および加工方法を提供する。
【解決手段】主軸7の回転速度Sと熱変位量Tとの関係を示すデータを予め測定して記憶している。これにより、工具73と工作物Wとの接触点Pnにおける主軸7の熱変位量Tnおよび基準熱変位量T0を求め、接触点Pnにおける加工誤差Tn0を求めることができる(ステップS1〜4)。そして、該加工誤差Tn0が工作物の許容誤差An内となるように、主軸7の回転速度Sn,SSnを決定し、NCプログラムに指令されている主軸7の回転基準速度S0およびテーブル3の送り基準速度F0を変更することができる(ステップS5〜9)。そして、以上の処理を同一の工具73による加工工程(一加工工程)内において加工部位ごとに行っているので、工作物の加工精度を高精度に維持しつつ、加工時間を従来よりも大幅に短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械を数値制御して工作物を加工する数値制御装置(以下、NC装置という)および加工方法に関し、特に、工具が装着されている主軸の回転速度を、同一の工具による加工工程内において加工部位によって変化させるNC装置および加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、工作機械のNC装置は、工具が装着されている主軸を一定の回転速度で回転させて工作物を加工している。しかし、例えば、回転軸が垂直方向を向いた工具により工作物の傾斜面を加工するときの工具と工作物との接触点における工具径は、工作物の垂直面を加工するときの工具と工作物との接触点における工具径よりも小さくなる場合がある。この場合、工作物の傾斜面を加工するときの加工速度は、工作物の垂直面を加工するときの加工速度よりも低下する。よって、工作物の全ての面を加工する際の加工速度を垂直面を加工するときの加工速度にすることにより、工作物の加工時間を短縮させることができる。このためには、加工速度と比例関係にある主軸の回転速度を変化させる必要がある。しかし、主軸の回転速度を変化させると、主軸に発生する熱量も変化して主軸の熱変位量が変動するため、加工精度が低下する傾向にある。
【0003】
そこで、例えば、特開2002−239872号公報(特許文献1)および特開平5−277894号公報(特許文献2)には、熱変位の補正機能を有するNC装置が記載されている。特許文献1記載のNC装置には、主軸回転速度を低速から高速まで複数に区分して割当てた異なる熱変位係数が予め設定されている。そして、NC装置は、数値制御プログラム(以下、NCプログラムという)上から主軸回転速度に応じて熱変位係数を変更することにより最適な熱変位補正を行う。これにより、高精度な加工を行うことができる。また、特許文献2記載のNC装置には、主軸回転数(主軸回転速度)に対応する各送り軸の位置等の補正値が予め記憶されている。そして、NC装置は、指令された主軸回転数に対応する補正値に基づいて各送り軸の位置等を補正する。これにより、高精度な加工を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−239872号公報
【特許文献2】特開平5−277894号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1および2記載のNC装置では、同一の工具による加工工程(一加工工程)を複数組み合わせた加工工程でなる工作物の加工において、一加工工程ごとに主軸回転速度を変化させて熱変位補正を行っているため、全加工工程における加工時間の短縮化を図ることができる。しかし、近年、工作物の加工においては、更なる加工時間の短縮化が望まれている。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、工作機械において工作物を高精度に加工でき、且つ加工時間を大幅に短縮できるNC装置および加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(NC装置)
(請求項1)本発明のNC装置は、工作機械における工具が装着されている主軸の回転速度を、同一の前記工具による加工工程内において加工部位によって変化させるNC装置であって、少なくとも前記工作機械を数値制御するためのNCプログラム、前記工具に関するデータ、前記工作物に関するデータ、および前記主軸の回転速度と熱変位量との関係を示すデータが予め記憶されている記憶手段と、前記工具に関するデータおよび前記工作物に関するデータに基づいて、前記工具と前記工作物との接触点を演算する接触点演算手段と、前記工具に関するデータに基づいて、算出した前記接触点における前記主軸の回転速度を演算する主軸回転速度演算部と、前記主軸の回転速度と熱変位量との関係を示すデータに基づいて、算出した前記主軸の回転速度と、前記NCプログラムに指令されている前記主軸の回転基準速度と、から前記主軸の熱変位量を演算する熱変位量演算手段と、前記NCプログラムに指令されている前記工作物の加工精度と、算出した前記主軸の熱変位量との大きさを比較する比較手段と、少なくとも前記主軸の熱変位量が前記工作物の加工精度の範囲内となるように、前記NCプログラムに指令されている前記主軸の回転基準速度を変更する主軸回転速度変更手段と、変更した前記主軸の回転速度に基づいて、前記NCプログラムに指令されている前記工具と前記工作物の相対基準送り速度を変更する送り速度変更手段と、前記主軸の回転基準速度および前記工具と前記工作物の相対基準送り速度が変更された前記NCプログラムに基づいて、前記工作物の加工を数値制御する加工制御手段と、を備える。
【0008】
(請求項2)前記NCプログラムに指令されている前記主軸の回転基準速度は、当該NCプログラムにより加工する際に使用する前記工具における最大径および前記工具の適正な加工速度に基づいて設定され、前記主軸回転速度演算部は、算出した前記接触点における前記工具の径および前記工具の適正な加工速度に基づいて、前記接触点における前記主軸の回転速度を演算するようにしてもよい。
【0009】
(請求項3)前記NCプログラムに指令されている前記主軸の回転基準速度は、当該NCプログラムにより加工する際に、前記工作物と接触する前記工具の接触範囲における最大径および前記工具の適正な加工速度に基づいて設定され、前記主軸回転速度演算部は、算出した前記接触点における前記工具の径および前記工具の適正な加工速度に基づいて、前記接触点における前記主軸の回転速度を演算するようにしてもよい。
【0010】
(加工方法)
(請求項4)本発明の加工方法は、工作機械における工具が装着されている主軸の回転速度を、同一の前記工具による加工工程内において加工部位によって変化させる加工方法であって、少なくとも前記加工を数値制御するためのNCプログラム、前記工具に関するデータ、前記工作物に関するデータ、および前記主軸の回転速度と熱変位量との関係を示すデータを予め記憶する記憶工程と、前記工具に関するデータおよび前記工作物に関するデータに基づいて、前記工具と前記工作物との接触点を演算する接触点演算工程と、前記工具に関するデータに基づいて、算出した前記接触点における前記主軸の回転速度を演算する主軸回転速度演算工程と、前記主軸の回転速度と熱変位量との関係を示すデータに基づいて、算出した前記主軸の回転速度と、前記NCプログラムに指令されている前記主軸の回転基準速度と、から前記主軸の熱変位量を演算する熱変位量演算工程と、前記NCプログラムに指令されている前記工作物の加工精度と、算出した前記主軸の熱変位量との大きさを比較する比較工程と、少なくとも前記主軸の熱変位量が前記工作物の加工精度の範囲内となるように、前記NCプログラムに指令されている前記主軸の回転基準速度を変更する主軸回転速度変更工程と、変更した前記主軸の回転速度に基づいて、前記NCプログラムに指令されている前記工具と前記工作物の相対送り基準速度を変更する送り速度変更工程と、前記主軸の回転基準速度および前記工具と前記工作物の相対送り基準速度が変更された前記NCプログラムに基づいて、前記工作物の加工を数値制御する加工制御工程と、を備える。
【発明の効果】
【0011】
(請求項1)主軸の回転速度と熱変位量との関係を示すデータが予め記憶されているので、工具と工作物との接触点における主軸の回転速度を演算することにより、該接触点における主軸の熱変位量を求めることができる。一方、NCプログラムには主軸の回転基準速度が指令されているので、主軸の回転速度と熱変位量との関係を示すデータから主軸の基準熱変位量を求めることができる。そして、接触点における主軸の熱変位量と主軸の基準熱変位量との差は、接触点における加工誤差を表す。よって、該加工誤差がNCプログラムに指令されている工作物の加工精度内となるように、主軸の回転速度と熱変位量との関係を示すデータから主軸の回転速度を演算し、NCプログラムに指令されている主軸の回転基準速度を変更することができる。さらに、変更した主軸の回転速度に基づいて、NCプログラムに指令されている工具と工作物の相対送り基準速度を変更することができる。そして、以上の処理を同一の工具による加工工程(一加工工程)内において加工部位ごとに行っているので、工作物の加工精度を高精度に維持しつつ、加工時間を従来よりも大幅に短縮することができる。
【0012】
(請求項2)工具における最大径および工具の適正な加工速度に基づいて求めた主軸の回転基準速度を、接触点における工具の径および工具の適正な加工速度に基づいて求めた接触点における主軸の回転速度に変更している。これにより、同一の工具による加工工程(一加工工程)内において工具の加工速度を常に適正値として加工を行うことができるので、加工効率を向上させることができる。
【0013】
(請求項3)NCプログラムにより加工する際に、工作物と接触する工具の使用範囲における最大径および工具の適正な加工速度に基づいて求めた主軸の回転基準速度を、接触点における工具の径および工具の適正な加工速度に基づいて求めた接触点における主軸の回転速度に変更している。これにより、同一の工具による加工工程(一加工工程)内において工具の加工速度を常に適正値として加工を行うことができるので、加工効率を向上させることができる。また、実際の加工に即した主軸の回転速度となるので、加工精度をさらに高めることができる。
【0014】
(請求項4)本発明の加工方法によれば、上述したNC装置における効果と同様の効果を奏する。また、NC装置における他の特徴部分について、本発明の加工方法に同様に適用できる。そして、同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】NC装置を備えた立形マシニングセンタの正面図である。
【図2】NC装置の機能ブロック図である。
【図3】NC装置の処理を説明するためのフローチャートである。
【図4】NCプログラムに指令されている主軸の回転基準速度を求めるための工具の刃径を示す図である。
【図5】主軸の回転速度と熱変位量との関係を示すデータを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(1.NC装置を備えた工作機械の機械構成)
NC装置は、工作機械において工具が装着されている主軸の回転速度を、同一の工具による加工工程(一加工工程)内において加工部位によって変化させる装置である。工作機械の一例として、立形マシニングセンタを例に挙げ、図1を参照して説明する。
【0017】
図1に示すように、立形マシニングセンタ1は、ベッド2と、テーブル3と、コラム4と、スライダ5と、主軸ヘッド6と、主軸7と、自動工具交換装置8と、NC装置9とから概略構成される。
【0018】
ベッド2は、ほぼ矩形状からなり、床上に配置される。ただし、ベッド2の形状は矩形状に限定されるものではない。ベッド2上には、テーブル3および自動工具交換装置8が備えられている。また、ベッド2の後方側には、コラム4が立設されている。
【0019】
テーブル3は、矩形状からなり、ベッド2上に備えられた前後方向(Y軸方向)に延びるガイド部材31にY軸方向にスライド可能に設けられている。そして、ガイド部材31には、テーブル3をY軸方向にスライドさせるボールネジ機構32を有するテーブル用モータ33が備えられている。テーブル3上には、工作物Wが載置され磁気吸着されて固定される。
【0020】
コラム4は、ほぼ門形状からなり、ベッド2の後方側に立設されている。コラム4の脚部材41には、NC装置9が備えられ、コラム4の上部材42には、スライダ5が備えられている。
【0021】
スライダ5は、コラム4の上部材42の前面に形成された案内面43に沿って左右方向(X軸方向)に移動可能に設けられている。そして、スライダ5をX軸方向に移動させるボールネジ機構51を有するスライダ用モータ52が、コラム4の上部材42に備えられている。
【0022】
主軸ヘッド6は、スライダ5の前面に形成された案内面53に沿って上下方向(Z軸方向)に移動可能に設けられている。そして、主軸ヘッド6をZ軸方向に移動させるボールネジ機構61を有する主軸ヘッド用モータ62が、スライダ5に備えられている。
【0023】
主軸7は、主軸ヘッド6に上下方向(Z軸方向)に延在し、かつZ軸回りで回転可能に支持されている。そして、主軸7をZ軸回りで回転させるギヤ機構71を有する主軸用モータ72が、主軸ヘッド6に内蔵されている。主軸7の下端には、工作物Wを加工する工具73が着脱可能に装着されている。つまり、工具73は、主軸ヘッド6に対して、Z軸回りに回転可能に取り付けられている。
【0024】
自動工具交換装置8には、図略の複数種の工具73が備えられている。そして、自動工具交換装置8は、主軸7との間で工具73を自動的に交換可能に構成されている。
【0025】
NC装置9は、主軸用モータ72等を駆動制御して工具73をZ軸回りに回転させ、且つ、テーブル用モータ33、スライダ用モータ52および主軸ヘッド用モータ62等を駆動制御して工作物Wと工具73とをX軸方向、Y軸方向およびZ軸方向に相対移動することにより工作物Wの加工の制御を行う。
【0026】
(2.NC装置の構成)
次に、NC装置9について、図2の機能ブロック図を参照して説明する。
NC装置9は、入力部91と、記憶部92と、工具接触点演算部93と、主軸回転速度演算部94と、熱変位量演算部95と、比較部96と、主軸回転速度変更部97と、送り速度変更部98と、加工制御部99とを備えて構成される。
【0027】
入力部91は、タッチパネル等の入力手段を備え、加工に必要なNCプログラムや工具73に関するデータ、工作物Wに関するデータ、および主軸7の回転速度Sと熱変位量Tとの関係を示すデータ等を入力して記憶部92に記憶する。
【0028】
工具接触点演算部93は、記憶部92から読込んだ工具73に関するデータおよび工作物Wに関するデータに基づいて、工具73と工作物Wとの接触点Pn(n=1,2,・・・)を演算する。nは、工具73と工作物Wとが相対移動したときを表している。
【0029】
主軸回転速度演算部94は、記憶部92から読込んだ工具73に関するデータに基づいて、接触点Pnにおける主軸7の回転速度Sn(n=1,2,・・・)を演算する。
具体的には、主軸7の回転速度Sn(min−1)は、Vを工具73の加工速度(m/min)、Dn(n=1,2,・・・)を接触点Pnにおける工具73の刃径(mm)とした場合、次式(1)で表される。なお、工具73の加工速度(m/min)は、工具73の材質によって予め規定されている適正値(上限値)であり、本例では固定値となる。
Sn=1000V/πDn・・・(1)
【0030】
熱変位量演算部95は、主軸回転速度演算部94から入力される主軸7の回転速度Snと、記憶部92から読込んだNCプログラムに指令されている主軸7の回転基準速度S0と、記憶部92から読込んだ主軸7の回転速度Sと熱変位量Tとの関係を示すデータとに基づいて求めた基準熱変位量T0および接触点Pnでの熱変位量Tn(n=1,2,・・・)により、接触点Pnにおける加工の加工誤差Tn0(n=1,2,・・・)を演算する。
具体的は、接触点Pnにおける加工の加工誤差Tn0は、接触点Pnでの熱変位量Tnと基準熱変位量T0との差で表される。
【0031】
比較部96は、熱変位量演算部95から入力される接触点Pnにおける加工誤差Tn0と、記憶部92から読込んだNCプログラムに指令されている接触点Pnにおける許容誤差An(n=1,2,・・・)との大小を比較する。なお、加工精度であれば許容誤差Anに限定されるものではなく、公差等を比較対象としてNCプログラムに指令するようにしてもよい。
【0032】
主軸回転速度変更部97は、比較部96から入力される比較結果に基づいて、記憶部92から読込んだNCプログラムに指令されている主軸7の回転基準速度S0を、算出した主軸7の回転速度Snもしくは後述するSSn(n=1,2,・・・)に変更する。
【0033】
送り速度変更部98は、主軸回転速度変更部97から入力される変更した主軸7の回転速度SnもしくはSSnに基づいて、テーブル3の送り速度(工具73と工作物Wとの相対送り速度)Fn(n=1,2,・・・)を演算し、記憶部92から読込んだNCプログラムに指令されているテーブル3の送り基準速度(工具73と工作物Wとの相対送り基準速度)F0を、算出したテーブル3の送り速度Fnに変更する。
具体的には、テーブル3の送り速度Fn(mm/min)は、fを工具73の一刃送り(mm/tooth)、Nを工具73の刃数、Snを接触点Pnにおける主軸7の回転速度(min−1)とした場合、次式(2)で表される。よって、テーブル3の送り速度Fnは、主軸7の回転速度Snから演算することができる。
Fn=fNSn・・・(2)
【0034】
加工制御部99は、変更された主軸7の回転速度Snおよびテーブル3の送り速度Fnが指令されているNCプログラムに従って、工作機械1を数値制御して工作物Wを加工する。
【0035】
(3.NC装置の動作)
次に、NC装置9の動作について、図3を参照して説明する。なお、記憶部92には、加工に必要なNCプログラムや工具73に関するデータ、工作物Wに関するデータ、および主軸7の回転速度Sと熱変位量Tとの関係を示すデータ等が入力部91を介して予め記憶されているとする。
【0036】
ここで、NCプログラムには、同一の工具73による加工工程(一加工工程)ごとに主軸7の回転基準速度S0が指令されている。この主軸7の回転基準速度S0は、変更の対象となる回転速度である。
【0037】
図4に示すように、NCプログラムに指令されている主軸7の回転基準速度S0は、該NCプログラムにより加工する際に使用する工具73の刃73aにおける最大刃径Damax(図4(A)参照)、もしくは該NCプログラムにより加工する際に、工作物Wと接触する工具73の刃73aの接触範囲eにおける最大径Dbmax(図4(B)参照)、および工具73の材質によって予め規定されている適正値(上限値)である加工速度V(m/min)に基づいて上述した式(1)により設定される。
【0038】
また、NCプログラムには、同一の工具73による加工工程(一加工工程)ごとにテーブル3の送り基準速度F0が指令されている。このテーブル3の送り基準速度F0は、変更の対象となる送り送度である。テーブル3の送り基準速度F0(mm/min)は、上述の式(2)により設定される。よって、テーブル3の送り基準速度F0は、主軸7の回転基準速度S0から演算することができる。
【0039】
工具73に関するデータとは、例えば、工具73の種類、刃73aの径や長さ等の形状寸法、材質、工具73の材質によって予め規定されている適正値(上限値)である加工速度V等のデータである。工作物Wに関するデータとは、例えば、素材の形状寸法、材質等のデータおよび加工品の形状寸法、加工精度(許容誤差An、公差、面粗さ等)等のデータである。主軸7の回転速度Sと熱変位量Tとの関係を示すデータは、例えば、図5に示すようなデータであり、予め測定されてデータベース化されている。
【0040】
図3に示すように、入力部91から加工に必要なNCプログラムが指定されると、記憶部92から読込んだ工具73の刃73aの径や長さ等の形状寸法データおよび工作物Wの素材の形状寸法や加工品の形状寸法データに基づいて、工具73と工作物Wとの接触点P1を演算する(ステップS1)。そして、記憶部92から読込んだ工具73の刃73aの径や長さ等の形状寸法データに基づいて、上述した式(1)により接触点P1における主軸7の回転速度S1を演算する(ステップS2)。
【0041】
算出した主軸7の回転速度S1と、記憶部92から読込んだNCプログラムに指令されている主軸7の回転基準速度S0と、記憶部92から読込んだ主軸7の回転速度Sと熱変位量Tとの関係を示すデータとに基づいて、基準熱変位量T0および接触点P1における熱変位量T1を求め、接触点P1における熱変位量T1と基準熱変位量T0との差である加工誤差T10を演算する(ステップS3)。
【0042】
例えば、図5に示す主軸7の回転速度Sと熱変位量Tとの関係を示すデータから、算出した主軸7の回転速度S1が20000(min−1)であるときの熱変位量T1は16μmとなる。また、NCプログラムに指令されている主軸7の回転基準速度S0が10000(min−1)であるときの基準熱変位量T0は8μmとなる。よって、接触点P1における加工誤差T10は、熱変位量T1と基準熱変位量T0との差8μmとなる。
【0043】
そして、記憶部92からNCプログラムに指令されている接触点P1における許容誤差A1を読込み、接触点P1における加工誤差T10と許容誤差A1との大小を比較する(ステップS4,5)。接触点P1における加工誤差T10が許容誤差A1以下であると判断したときは、算出した主軸7の回転速度S1で加工しても加工寸法は許容範囲内になるので、記憶部92から読込んだNCプログラムに指令されている主軸7の回転基準速度S0を回転速度S1に変更する(ステップS6)。
【0044】
一方、ステップS4において、接触点P1における加工誤差T10が許容誤差A1を超えていると判断したときは、主軸7の回転速度Sと熱変位量Tとの関係を示すデータから、加工誤差T10と許容誤差A1とが等しくなる主軸7の回転速度SS1を読込む(ステップS7)。この読込んだ主軸7の回転速度SS1で加工しても加工寸法は許容範囲内になるので、記憶部92から読込んだNCプログラムに指令されている主軸7の回転基準速度S0を回転速度SS1に変更する(ステップS8)。
【0045】
そして、変更した主軸7の回転速度S1もしくはSS1に基づいてテーブル3の送り速度F1を上述した式(2)により演算し、記憶部92から読込んだNCプログラムに指令されているテーブル3の送り基準速度F0を算出したテーブル3の送り速度F1に変更する(ステップS9)。そして、NCプログラムの同一の工具73による加工工程(一加工工程)における変更処理が完了したか否かを判断し(ステップS10)、変更処理が完了していないと判断したときは、ステップS1に戻って次の接触点P2を演算して上述の処理を繰り返す。一方、ステップS9において、変更処理が完了したと判断したときは、変更された主軸7の回転速度Snおよびテーブル3の送り速度Fnが指令されているNCプログラムに従って、工作機械1を数値制御して工作物を加工する(ステップS11)。
【0046】
(4.NC装置による処理の効果)
主軸7の回転速度Sと熱変位量Tとの関係を示すデータを予め測定して記憶している。これにより、工具73と工作物Wとの接触点Pnにおける主軸7の熱変位量Tnおよび基準熱変位量T0を求め、接触点Pnにおける加工誤差Tn0を求めることができる。そして、求めた加工誤差Tn0が工作物の許容誤差An内となるように、主軸7の回転速度Sn,SSnを決定し、NCプログラムに指令されている主軸7の回転基準速度S0およびテーブル3の送り基準速度F0を変更することができる。そして、以上の処理を同一の工具73による加工工程(一加工工程)内において加工部位ごとに行っているので、工作物Wの加工精度を高精度に維持しつつ、加工時間を従来よりも大幅に短縮することができる。
【符号の説明】
【0047】
1:立形マシニングセンタ、 2:ベッド、 3:テーブル、 4:コラム
5:スライダ、 6:主軸ヘッド、 7:主軸、 8:自動工具交換装置
9:NC装置、 71:工具、 W:工作物
91:入力部、 92:記憶部、 93:工具接触点演算部
94:主軸回転速度演算部、 95:熱変位量演算部、 96:比較部
97:主軸回転速度変更部、 98:送り速度変更部、 99:加工制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械における工具が装着されている主軸の回転速度を、同一の前記工具による加工工程内において加工部位によって変化させる数値制御装置であって、
少なくとも前記工作機械を数値制御するための数値制御プログラム、前記工具に関するデータ、前記工作物に関するデータ、および前記主軸の回転速度と熱変位量との関係を示すデータが予め記憶されている記憶手段と、
前記工具に関するデータおよび前記工作物に関するデータに基づいて、前記工具と前記工作物との接触点を演算する接触点演算手段と、
前記工具に関するデータに基づいて、算出した前記接触点における前記主軸の回転速度を演算する主軸回転速度演算部と、
前記主軸の回転速度と熱変位量との関係を示すデータに基づいて、算出した前記主軸の回転速度と、前記数値制御プログラムに指令されている前記主軸の回転基準速度と、から前記主軸の熱変位量を演算する熱変位量演算手段と、
前記数値制御プログラムに指令されている前記工作物の加工精度と、算出した前記主軸の熱変位量との大きさを比較する比較手段と、
少なくとも前記主軸の熱変位量が前記工作物の加工精度の範囲内となるように、前記数値制御プログラムに指令されている前記主軸の回転基準速度を変更する主軸回転速度変更手段と、
変更した前記主軸の回転速度に基づいて、前記数値制御プログラムに指令されている前記工具と前記工作物の相対基準送り速度を変更する送り速度変更手段と、
前記主軸の回転基準速度および前記工具と前記工作物の相対基準送り速度が変更された前記数値制御プログラムに基づいて、前記工作物の加工を数値制御する加工制御手段と、を備える数値制御装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記数値制御プログラムに指令されている前記主軸の回転基準速度は、当該NCプログラムにより加工する際に使用する前記工具における最大径および前記工具の適正な加工速度に基づいて設定され、
前記主軸回転速度演算部は、算出した前記接触点における前記工具の径および前記工具の適正な加工速度に基づいて、前記接触点における前記主軸の回転速度を演算する数値制御装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記数値制御プログラムに指令されている前記主軸の回転基準速度は、当該数値制御プログラムにより加工する際に、前記工作物と接触する前記工具の接触範囲における最大径および前記工具の適正な加工速度に基づいて設定され、
前記主軸回転速度演算部は、算出した前記接触点における前記工具の径および前記工具の適正な加工速度に基づいて、前記接触点における前記主軸の回転速度を演算する数値制御装置。
【請求項4】
工作機械における工具が装着されている主軸の回転速度を、同一の前記工具による加工工程内において加工部位によって変化させる加工方法であって、
少なくとも前記工作機械を数値制御するための数値制御プログラム、前記工具に関するデータ、前記工作物に関するデータ、および前記主軸の回転速度と熱変位量との関係を示すデータを予め記憶する記憶工程と、
前記工具に関するデータおよび前記工作物に関するデータに基づいて、前記工具と前記工作物との接触点を演算する接触点演算工程と、
前記工具に関するデータに基づいて、算出した前記接触点における前記主軸の回転速度を演算する主軸回転速度演算工程と、
前記主軸の回転速度と熱変位量との関係を示すデータに基づいて、算出した前記主軸の回転速度と、前記数値制御プログラムに指令されている前記主軸の回転基準速度と、から前記主軸の熱変位量を演算する熱変位量演算工程と、
前記数値制御プログラムに指令されている前記工作物の加工精度と、算出した前記主軸の熱変位量との大きさを比較する比較工程と、
少なくとも前記主軸の熱変位量が前記工作物の加工精度の範囲内となるように、前記数値制御プログラムに指令されている前記主軸の回転基準速度を変更する主軸回転速度変更工程と、
変更した前記主軸の回転速度に基づいて、前記数値制御プログラムに指令されている前記工具と前記工作物の相対送り基準速度を変更する送り速度変更工程と、
前記主軸の回転基準速度および前記工具と前記工作物の相対送り基準速度が変更された前記数値制御プログラムに基づいて、前記工作物の加工を数値制御する加工制御工程と、を備える加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−232385(P2012−232385A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−103507(P2011−103507)
【出願日】平成23年5月6日(2011.5.6)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】