説明

数値制御装置

【課題】測定対象物の計測作業をより簡易にでき得る数値制御装置を提供する。
【解決手段】3Dモデルを用いて干渉を検知する機能を有する数値制御装置は、その3Dモデルの位置情報が正確か否かの情報が属性情報として付与された構造体および移動体の3Dモデルに基づいて、これら3Dモデルの位置を演算する数値制御装置のシミュレーション部4'と、数値制御指令に基づいて、機械およびシミュレーション部を駆動するNC
装置部2'と、を備える。NC装置部2'は、前記3Dモデルの重なりが検知された場合に、当該重なりが生じた3Dモデルの位置情報が正確か否かを判断し、位置情報が正確と判断した場合は前記数値制御指令の実行中止を機械3およびシミュレーション部4'に指示し、前記位置情報が正確でないと判断した場合は警告を出力しつつ前記数値制御指令の実行続行を機械3およびシミュレーション部4'に指示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3Dモデルを有し、3Dモデルの重なりを検出することにより、干渉を検知するシミュレーション機能を持つ、数値制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、3Dモデルを用いて干渉を検知する数値制御装置が開示されている。この数値制御装置において、NC装置部は、工作機械およびシミュレーション部に軸移動指令を送出する。工作機械は、この軸移動指令に従い工作機械の移動体を軸移動制御する。シミュレーション部は、機械、治具、素材、工具など機械加工に関与する物品の3Dモデルを保持しており、軸移動指令に従い、移動体の3Dモデルを軸移動制御する。そして、移動体の3Dモデルとその他の3Dモデルとの3Dモデル空間上の重なりの有無をチェックする。チェックの結果、重なりがある場合は「干渉有り」と判断し、重なりが無い場合は「干渉無し」と判断する。「干渉有り」の場合には、3Dモデルの重なりの直前でシミュレーションおよび工作機械の駆動が止まるようになっている。
【0003】
また、従来から、工作機械等に設けられた計測装置により測定対象物の位置を計測する位置計測の技術が知られている。かかる技術においては、計測装置の接触体(例えばタッチセンサなど)が、素材、治具などの測定対象物に接触したとき、当該計測装置からセンサON信号が出力され、その時点での接触体の位置が、測定対象物の位置として計測される。
【0004】
このような従来技術の数値制御装置の構成ブロック図を図1に、数値制御装置における制御の流れのフローチャートを図3に示す。
【0005】
NC装置部2は、工作機械3およびシミュレーション部4に、センサ送り開始指令7,8を送る(S1)。工作機械3およびシミュレーション部4は、この指令7,8に従い動作する。具体的には、工作機械は、計測装置の接触体が測定対象物に徐々に近づくように、接触体および測定対象物を相対移動させる。また、シミュレーション部4も、機械、治具、素材、工具、接触体などの3Dモデルを用いて、実際の工作機械と同様に、3Dモデル空間上で軸移動制御を行う。
【0006】
この過程で、計測装置の接触体が測定対象物に接触すると、NC装置部2は、センサ信号受け部5からセンサON信号11を受け取る(S2においてYes)。センサON信号有りの場合、NC装置部2は、工作機械3およびシミュレーション部4それぞれに、センサ送り終了指令12,13を送り、処理を終了する(S6)。
【0007】
一方、NC装置部2が、センサON信号11を受信する前に、シミュレーション部4から干渉検知9の信号を受け取った場合(S3においてYes)、NC装置部2は干渉を検知したと判定する。
【0008】
この場合は、NC装置部2は、工作機械3、シミュレーション部4それぞれに一時停止指令14,15を送る(S4)。工作機械3、シミュレーション部4は、この指令に従い、動作を止める。
【0009】
一時停止指令の後は、グラフィックユーザインターフェース部(以下「GUI部」という)1を介して、ユーザからの指示がNC装置部2に送られる(S5)。ユーザからの指示10が、「センサ送り続行」の場合はステップS2に戻る。一方、ユーザからの指示10が「センサ送り中止」の場合は、工作機械3およびシミュレーション部4にセンサ送り終了指令12,13を送り、処理を終了する(S6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−195862号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところで、こうした、3Dモデルの重なりを検出することにより干渉を検知することができる数値制御装置では、3Dモデルの3Dモデル空間上での位置と、実際の機械に取り付けられている物品の位置と、が一致していることを前提に制御されている。しかし、3Dモデルの位置を正しく設定するためには、タッチセンサなどの計測装置を用いて予め物品の位置を計測しておく必要がある。
【0012】
しかし、この計測作業が完了するまでの間は、3Dモデルの位置と、実際の機械に取り付けられている物品の位置は一致していないため、上述の計測技術が利用できないケースがある。
【0013】
例えば、タッチセンサの進行方向に対して、測定対象物の3Dモデルが実物よりも手前にあったとする。この場合、工作機械においてタッチセンサを測定対象物に近づけたとき、実際には、タッチセンサが測定対象物に接触していないにも関わらず、3Dモデル空間上では、タッチセンサの3Dモデルと測定対象物の3Dモデルとの重なりが発生することがある。この場合、「センサON」信号よりも先に3Dモデルの「干渉検知」信号が発生し、結果として、一時停止になることがある。
【0014】
この場合、操作を続行するためには、測定対象物の属性情報を干渉検知の対象としないようにするなど、干渉検知の対象からはずす処理をユーザが行なう必要があり、操作が面倒であるという課題がある。また、定義した3Dモデルを役立てることができていないという課題がある。
【0015】
具体的に、この課題を図1、図3を参照して説明する。タッチセンサが近づく方向に対して、測定対象物の3Dモデルが実物よりも手前に有ると設定されているとき、タッチセンサが測定対象物に接触していないにも関わらず、NC装置部2がシミュレーション部4からの干渉検知9の信号を受け取る。これは、ステップS2におけるセンサONの判定において、センサON信号無しであり、かつ、ステップS3における干渉を検知する判定において、干渉を検知したと判定した場合である。このとき、NC装置部2は、工作機械3およびシミュレーション部4に、一時停止指令14,15を送る(S4)。この指令を受けて、工作機械3とシミュレーション部4は動作を止める処理を行なう。このような場合に計測作業を続ける為には、GUI部1からNC装置部2へ干渉検知を無効にするなどの、ユーザからの指示10を行なう必要がある(S5)。
【0016】
そこで、本発明では、こうした手間を低減でき得る数値制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の数値制御装置は、数値制御指令に基づき、機械構造物、工具、治具、加工物である構造体および移動体の位置を、当該構造体および移動体の3Dモデルを用いて演算し、前記3Dモデル同士の重なりを検出することにより干渉を検知する機能を有する数値制御装置において、前記3Dモデルの位置情報が正確か否かの情報が属性情報として付与された前記3Dモデルに基づいて、前記3Dモデルの位置を演算するシミュレーション部と、数値制御指令に基づいて、機械およびシミュレーション部を駆動する制御部と、を備え、前記制御部は、前記シミュレーション部により前記3Dモデルの重なりが検知された場合に、当該重なりが生じた3Dモデルの属性情報に基づき当該3Dモデルの位置情報が正確か否かを判断し、位置情報が正確と判断した場合は前記数値制御指令の実行中止を前記機械およびシミュレーション部に指示し、前記位置情報が正確でないと判断した場合は警告を出力しつつ前記数値制御指令の実行続行を前記機械およびシミュレーション部に指示する、ことを特徴とする。
【0018】
好適な態様では、前記機械が、不特定な位置に配置される前記構造体または移動体を対象とする測定対象物と接触することにより当該測定対象物の位置を測定し、当該測定結果を数値制御装置に出力するタッチセンサを有する場合に、前記制御部は、前記シミュレーション部により前記測定対象物の3Dモデルおよび前記タッチセンサの3Dモデルの重なりが検知された位置と、前記機械において実際に前記タッチセンサおよび前記測定対象物が接触した位置と、を比較し両位置が一致している場合、前記属性情報を前記位置情報が正確であることを示す内容に更新する。
【発明の効果】
【0019】
従来技術では、計測作業が完了するまでは、3Dモデルの位置が不確かであるため、実際にタッチセンサが接触していなくても3Dモデルの干渉を検知してしまうことがあった。この場合、ユーザが、測定対象物を干渉検知から外す指示や、干渉を無視して続行する指示の操作をしなければ、継続してタッチセンサを測定対象物に近づけることはできなかった。一方、本発明によれば、3Dモデルの位置が正確か否かの属性情報が付与されているため、干渉を検知しても、当該3Dモデルの位置が不確かであればタッチセンサを移動させることができる。これにより、ユーザの操作を減らすことができ、操作性が改善できる。
【0020】
なお、従来技術では、干渉を検知した際、ユーザが測定対象物を干渉検知から外す指示や、干渉を無視して続行する指示の操作をしていたため、3Dモデルが不確かであることが明確であった。一方、本発明では、3Dモデルに付与された属性が「位置情報が不確か」である場合には、そのまま操作を継続できる為、3Dモデルの位置情報が不確かであることがわかりにくいと思われる。これを回避する為、干渉を検知し、3Dモデルに付与された属性が「不確か」である場合には、アラームを表示する。これにより、3Dモデルの位置情報が不確かであることをユーザは認識することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来技術における数値制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態における数値制御装置の構成を示すブロック図である。
【図3】従来技術における位置計測処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】本実施形態における位置計測処理の流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。図2は、本発明の実施形態である数値制御装置の構成ブロック図であり、図4は、当該数値制御装置の制御の流れを示すフローチャートである。なお、以下では、従来技術(図1、図3)と同様の要素については、同じ符号を付し、その説明は適宜、省略する。
【0023】
機械データ格納部6’には、機械、治具、素材、工具、タッチセンサなど、機械加工に関与する物品の3Dモデルが保存されている。この各3Dモデルには、予め、当該3Dモデルの位置情報が「正確」または「不確か」という位置情報に関する属性値が付与されている。また、NC装置部2’は、機械3およびシミュレーション部4’の駆動を制御する制御部に相当するもので、当該NC装置部2’には、「許容値」が与えられている。
【0024】
測定対象物の位置計測を行う場合、NC装置部2’は、工作機械3およびシミュレーション部4’それぞれにセンサ送り開始指令7,8を送る(S1)。この指令に従い工作機械3、シミュレーション部4’は動作する。具体的には、工作機械3は、タッチセンサが測定対象物に徐々に近づくように両者を相対移動させる。また、シミュレーション部4’は、実際の工作機械と同様に動くように、3Dモデル空間上で軸移動制御を開始する。ただし、この3Dモデル空間上で軸移動制御は、実際の機械での軸移動制御よりも、先行して行う。これは、3Dモデル空間上で干渉を検知した場合に、実際の機械において干渉が検知される前に、当該機械の駆動を停止し、現実での干渉を確実に防止するためである。
【0025】
NC装置部2’は、計測装置のタッチセンサが測定対象物に接触した際に、センサ信号受け部5からセンサON信号11を受け取ると、「センサON信号有り」と判定をする(S2)。「センサON信号有り」の場合は、NC装置部2’は、工作機械3およびシミュレーション部4’に、センサ送り終了指令12,13を送り、従来どおり処理を終了する(S6)。
【0026】
また、NC装置部2’がシミュレーション部4から干渉検知9の信号を受け取った場合、干渉を検知したと判定する(S3)。一方、ステップS3において干渉を検知したと判定しない場合は、ステップS2へ戻る。
【0027】
ここで、ステップS2において「センサON信号無し」の状態で、干渉を検知した場合(ステップS2でNo、ステップS3でYesの場合)、シミュレーション部4’は、機械データ格納部6’から測定対象物の3Dモデルに付与された、属性値18を取得し、NC装置部2’に送信する(S10)。
【0028】
属性値18を取得したNC装置部2’は、当該属性値が、位置が「正確」または「不確か」のいずれであるかを判定する(S11)。属性値が「正確」である場合、NC装置部2’は、工作機械3およびシミュレーション部4’に、センサ送り終了指令12,13を送り、処理を終了する(S6)。
【0029】
一方、属性値が「不確か」である場合、NC装置部2’は、GUI部1に第1のアラーム表示17を指示し(S12)、計測装置で計測されたタッチセンサの現在位置を取得する(S13)。ステップS13の処理の後、センサON信号の判定を行い(S14)、「センサON信号有り」の場合は、干渉検知した位置からの移動量が0かどうかを判定する(S15)。
【0030】
ステップS15の判定において移動量が0の場合は、NC装置部2’はシミュレーション部4’へ属性値を「正確」に変更する指令19を送る。この指令を受けたシミュレーション部4’は、機械データ格納部6’に属性値を「正確」に変更する指令20を送る(S16)。その後、NC装置部2’は、工作機械3およびシミュレーション部4’に、センサ送り終了指令12,13を送り(S6)、処理を終了する。
【0031】
ステップS15において、干渉検知した位置からの移動量が0でない場合、NC装置部2’は、工作機械3およびシミュレーション部4’に、センサ送り終了指令12,13を送り(S6)、処理を終了する。
【0032】
ステップS14において「センサON信号無し」の場合は、現在位置を取得する(S17)。続いて、NC装置部2’は、ステップS17にて取得した位置と、ステップS13にて取得した位置と、の差により算出される距離、つまり、干渉検知した位置からの移動量が許容値より大きいかどうかを判定する(S18)。
【0033】
干渉検知した位置からの移動量が許容値より大きい場合、NC装置部2’は、GUI部1へ第2のアラーム表示21を指示する(S19)。そして、その後、工作機械3およびシミュレーション部4’に、センサ送り終了指令12,13を送り(S6)、処理を終了する。一方、干渉検知した位置からの移動量が許容値より大きくない場合にはステップS14に戻り、再度、ステップS14〜S18の処理を繰り返す。
【符号の説明】
【0034】
1 GUI部、2,2’ NC装置部、3 工作機械、4,4’ シミュレーション部、5 センサ信号受け部、6,6’ 機械データ格納部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
数値制御指令に基づき、機械構造物、工具、治具、加工物である構造体および移動体の位置を、当該構造体および移動体の3Dモデルを用いて演算し、前記3Dモデル同士の重なりを検出することにより干渉を検知する機能を有する数値制御装置において、
前記3Dモデルの位置情報が正確か否かの情報が属性情報として付与された前記3Dモデルに基づいて、前記3Dモデルの位置を演算するシミュレーション部と、
数値制御指令に基づいて、機械およびシミュレーション部を駆動する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記シミュレーション部により前記3Dモデルの重なりが検知された場合に、当該重なりが生じた3Dモデルの属性情報に基づき当該3Dモデルの位置情報が正確か否かを判断し、位置情報が正確と判断した場合は前記数値制御指令の実行中止を前記機械およびシミュレーション部に指示し、前記位置情報が正確でないと判断した場合は警告を出力しつつ前記数値制御指令の実行続行を前記機械およびシミュレーション部に指示する、
ことを特徴とする数値制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の数値制御装置であって、
前記機械が、不特定な位置に配置される前記構造体または移動体を対象とする測定対象物と接触することにより当該測定対象物の位置を測定し、当該測定結果を数値制御装置に出力するタッチセンサを有する場合に、
前記制御部は、前記シミュレーション部により前記測定対象物の3Dモデルおよび前記タッチセンサの3Dモデルの重なりが検知された位置と、前記機械において実際に前記タッチセンサおよび前記測定対象物が接触した位置と、を比較し両位置が一致している場合、前記測定対象物の属性情報を前記位置情報が正確であることを示す内容に更新する、
ことを特徴とする数値制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−83821(P2012−83821A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227238(P2010−227238)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000149066)オークマ株式会社 (476)
【Fターム(参考)】