説明

新規な、含フッ素化合物および含フッ素重合体

【課題】新規な、ペルフルオロ(2−アルキリデン−1,3−ジオキソラン)構造を有する化合物およびペルフルオロ(2−アルコキシメチレン−1,3−ジオキソラン)構造を有する化合物、ならびに、これらの化合物が重合したモノマー単位を含む新規な含フッ素重合体を提供する。
【解決手段】下式(a)で表される化合物、および該化合物が重合したモノマー単位を含む含フッ素重合体。ただし、Yは、炭素数1〜3のペルフルオロアルキル基または炭素数1〜3のペルフルオロアルコキシ基である。RF1、RF2、RF3およびRF4は、それぞれ独立に、フッ素原子、フルオロスルホニル基または式−QXで表される基である。Qは、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基または炭素数2〜6のペルフルオロ(アルキレンオキシアルキレン)基である。Xは、フッ素原子またはフルオロスルホニル基である。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な、ペルフルオロ(2−アルキリデン−1,3−ジオキソラン)構造を有する化合物およびペルフルオロ(2−アルコキシメチレン−1,3−ジオキソラン)構造を有する化合物ならびに、これらの化合物が重合したモノマー単位を含む新規な含フッ素重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
ペルフルオロ(1,3−ジオキソラン)構造を有する重合性の化合物としては、ペルフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)構造を有する化合物が知られている(特許文献1参照。)。該化合物が重合したモノマー単位を含む重合体は、非晶性、溶媒可溶性および低屈折率性等の性質を有する。
【0003】
またペルフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)構造とフルオロスルホニル基を有する重合性の化合物としては、本出願人による下式(z)で表される化合物が知られている(特許文献2参照)。該化合物を重合させて得た重合体は、食塩電解用のイオン交換膜、固体高分子型燃料電池用の固体高分子電解質等の材料として有用である。
【0004】
【化1】

【0005】
【特許文献1】特開平05−213929号公報
【特許文献2】国際公開第03/037885号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上のように、ペルフルオロ(1,3−ジオキソラン)構造を有する重合性の化合物における重合性基としては、1,3−ジオキソラン構造の2位を構成するペルフルオロメチレン(>C=CF)基が知られるだけであった。該ペルフルオロメチレン基中のフッ素原子を他の置換基に置換した化合物は、原料入手が困難であり合成できなかった。そのため該化合物の重合性等の物性も知られていない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、ペルフルオロ(2−アルキリデン−1,3−ジオキソラン)構造を有する新規化合物とペルフルオロ(2−アルコキシメチレン−1,3−ジオキソラン)構造を有する新規化合物とを見出した。そして、これらの化合物は重合性を有することを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は以下の発明を提供する。
[1]:下式(a)で表される化合物。
[2]:下式(a)で表される化合物が重合したモノマー単位を含む含フッ素重合体。
【0009】
【化2】

【0010】
ただし、Yは、炭素数1〜3のペルフルオロアルキル基または炭素数1〜3のペルフルオロアルコキシ基である。RF1、RF2、RF3およびRF4は、それぞれ独立に、フッ素原子、フルオロスルホニル基または式−QXで表される基である。Qは、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基または炭素数2〜6のペルフルオロ(アルキレンオキシアルキレン)基である。Xは、フッ素原子またはフルオロスルホニル基である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ペルフルオロ(1,3−ジオキソラン)構造を有する重合性の新規化合物および該化合物が重合したモノマー単位を含む含フッ素重合体が提供される。該含フッ素重合体は、非晶性を有し耐熱性に優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本明細書において、式(a)で表される化合物を化合物aと記す。他の化合物も同様に記す。またフルオロスルホニル基を単に−SOFとも記す。
【0013】
本発明は、下記化合物aを提供する(ただし、RF1、RF4、RF3、RF4およびYは前記と同じ意味である。以下同様。)。
【0014】
【化3】

【0015】
は、−CF基または−OCFCFCF基が好ましい。
F1、RF2、RF3およびRF4は、フッ素原子であるか、少なくとも1つの基が式−QXで表される基(ただし、QおよびXは前記と同じ意味である。以下同様。)(以下、該基を−QX基という。)であり残余の基がフッ素原子であるのが好ましい。
【0016】
における炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基は、式−(CF−で表される基(ただし、nは1〜6の整数を示す。以下同様。)が特に好ましい。
における炭素数2〜6のペルフルオロ(アルキレンオキシアルキレン)基は、炭素数2〜6のペルフルオロ(アルキレンオキシアルキレン)基が好ましく、−CFOCF−、−CFOCFCF−または−CFOCFCFCF−が特に好ましい。
は、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基が好ましく、式−(CF−で表される基が特に好ましい。この場合、より高いガラス転移点温度を有する含フッ素重合体が得られる。
【0017】
化合物aとしては、下記化合物a1が好ましい。
【0018】
【化4】

【0019】
化合物a1の具体例としては、下記の化合物が挙げられる。
【0020】
【化5】

【0021】
化合物aの製造方法としては、下記化合物dをフッ素化反応させて化合物cを得て、つぎに該化合物cとメタノールを反応させて下記化合物bを得て、つぎに該化合物bを分解反応させる方法が挙げられる。化合物dの入手方法は後述する。
【0022】
【化6】

【0023】
ただし、YはYと同一の基であるかフッ素化されてYとなる基である(以下同様。)。RはRF1に、RはRF2に、RはRF3に、RはRF4に、それぞれ対応する基であり、R〜RはRF1〜RF4と同一の基であるかフッ素化されてRF1〜RF4となる基である(以下同様。)。Rは炭素数1〜20のペルフルオロアルキル基または炭素数2〜20のエーテル性酸素原子を含有するペルフルオロアルキル基である(以下同様。)。
【0024】
Yは、フッ素化されてYとなる基であるのが好ましく、炭素数1〜3のアルキル基、炭素数2〜3のアルケニル基、炭素数1〜3のアルコキシ基または炭素数2〜3のアルケノキシ基であるのが好ましい。すなわち、炭素数1〜3のペルフルオロアルキル基であるYに対応するYは、炭素数1〜3のアルキル基または炭素数2〜3のアルケニル基であるのが好ましい。炭素数1〜3のペルフルオロアルコキシ基であるYに対応するYは、炭素数1〜3のアルコキシ基または炭素数2〜3のアルケノキシ基であるのが好ましい。
【0025】
〜Rは、それぞれフッ素化されてRF1〜RF4となる基であるのが好ましく、水素原子または式−Q−Hで表される基(ただし、Qは、Qと同一の基であるかフッ素化されてQとなる基である。以下同様。)または式−Q−SOFで表される基が好ましい。すなわち、フッ素原子であるRF1〜RF4にそれぞれ対応するR〜Rは、水素原子であるのが好ましい。式−Q−Fで表される基であるRF1〜RF4にそれぞれ対応するR〜Rは、式−Q−Hで表される基であるのが好ましい。式−Q−SOFで表される基であるRF1〜RF4にそれぞれ対応するR〜Rは、式−Q−SOFで表される基であるのが好ましい。
【0026】
Qは、フッ素化されてQとなる基であるのが好ましく、炭素数1〜6のアルキレン基または炭素数2〜6のアルキレンオキシアルキレン基がより好ましい。すなわち、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基であるQに対応するQは、炭素数1〜6のアルキレン基であるのが好ましい。炭素数2〜6のペルフルオロ(アルキレンオキシアルキレン)基であるQに対応するQは、炭素数2〜6のアルキレンオキシアルキレン基であるのが好ましい。
【0027】
は、−CFCF、−CF(CF)CFCF、−CF(CF、−CF(CF)O(CFF、−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCFCFが好ましい。
【0028】
前記製造方法における、フッ素化反応、化合物(c)とメタノールの反応および分解反応は、公知の方法を用いるのが好ましい。フッ素化反応と、化合物(c)とメタノールとの反応は、国際公開第03/037885号パンフレットに記載の方法を用いて行うのが好ましい。分解反応は、化合物bをアルカリ金属水酸化物水溶液中で処理してから行うのが好ましい。アルカリ金属水酸化物は、NaOHまたはKOHが好ましい。
【0029】
上記スキームの出発物質である化合物dは、公知の化合物であるか、または下記化合物gと下記化合物fをアセタール化反応させて下記化合物eを得て、つぎに該化合物eと式R−COFで表される化合物をエステル化反応させる方法を用いて入手できる。
【0030】
【化7】

【0031】
化合物gの具体例としては、CH(OH)CH(OH)、CH(OH)CH(OH)CH、CH(OH)CH(OH)CHCHSOF、CH(OH)CH(OH)(CHSOF等が挙げられる。化合物gは、公知の方法で合成できる原料であるか、または下記化合物iを酸化反応させて得るのが好ましい。
CR=CR (i)。
【0032】
化合物iとしては、下記化合物i−1が挙げられる。
CH=CH(CHSOF (i−1)
化合物i−1の製造方法としては、式CH=CH(CHBrで表される化合物をNaSO水溶液で処理して式CH=CH(CHSONaで表される化合物を得て、つぎに該化合物を2,2−ジフルオロ−1,3−ジメチルイミダゾリジンと反応させる方法が挙げられる。
【0033】
化合物fの具体例としては、CH(OH)C(O)CH、CH(OH)C(O)CHCH、CH(OH)C(O)CHCHCH、CH(OH)C(O)CHOCH、CH(OH)C(O)CHOCHCH、CH(OH)C(O)CHOCHCHCH、CH(OH)C(O)CHOCHCH=CH等が挙げられる。
【0034】
本発明の化合物のうちXが−SOFである化合物aにおける−SOFは、式−SO(O)で表される基を含む化合物a(ただし、Mは水素原子または対イオンを示す。以下同様。)に容易に変換できる。対イオンとしては、リチウム、ナトリウムまたはカリウムが好ましい。
【0035】
本発明の化合物aは、ペルフルオロ(1,3−ジオキソラン)構造の2位に重合性の不飽和基を有する特徴ある構造の重合性の化合物である。よって、本発明の化合物aを重合させることにより重合体を得ることができる。
【0036】
本発明は、化合物aが重合したモノマー単位を含む含フッ素重合体を提供する。
本発明の含フッ素重合体は、化合物aが単独重合したモノマー単位を含む単独重合体であってもよく化合物aと化合物a以外のモノマー(以下、コモノマーという。)が共重合したモノマー単位を含む共重合体であってもよい。単独重合体は化合物aに基づく下式(A)で表されるモノマー単位(以下、単位Aという。)からなる含フッ素重合体であり、共重合体は単位Aとコモノマーに基づくモノマー単位(以下、単位Bという。)を含む含フッ素重合体である。
【0037】
【化8】

【0038】
本発明の含フッ素重合体は全モノマー単位に対して単位Aを、0モル%超100モル%以下含むのが好ましく、0.1モル%〜90モル%含むのがより好ましく、10〜40モル%含むのが特に好ましい。本発明の含フッ素重合体が単位Bを含む場合、含フッ素重合体は全モノマー単位に対して単位Bを、0モル%超100モル%未満含むのが好ましく、99.9モル%〜10モル%含むのがより好ましく、90〜60モル%含むのが特に好ましい。
【0039】
コモノマーは、フッ素原子を含まないコモノマーであっても、フッ素原子を含むコモノマーであってもよい。
【0040】
フッ素原子を含むコモノマーの具体例としては、CH=CHF、CH=CF、CF=CFCl、CF=CF、式CF=CF−Wで表される化合物(ただし、Wは1価含フッ素有機基である。以下同様。)、式CH=CH−Wで表される化合物、ペルフルオロ(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール)またはペルフルオロ(2−メチレン−1,3−ジオキソラン)が挙げられる。
【0041】
式CF=CF−Wで表される化合物の具体例としては、CF=CFCF、CF=CFCFBr、CF=CFCFI、CF=CFOCF、CF=CFOCFCFCF、CF=CFCFOCFCFCF、CF=CFOCFCF=CF、CF=CFOCFCFCF=CF、CF=CFOCFCFOCF=CF、CF=CFCFCFSOF、CF=CFOCFCFSOF、CF=CFOCFCF(CF)OCFCFSOF等が挙げられる。
【0042】
式CH=CH−Wで表される化合物の具体例としては、CH=CHCFCFCFCF、CH=CHCFCFCFCFH、CH=CHCFCFCFCFBr、CH=CHCFCFCFCFI等が挙げられる。
【0043】
フッ素原子を含まないコモノマーの具体例としては、CH=CH、CH=CHCl、CH=CHBr、CH=CHI、CH=CHCH、CH=CHCHCl、CH=CHCHBr、CH=CHCHI等が挙げられる。
【0044】
化合物aの重合は、重合開始剤の存在下に行うのが好ましい。重合開始剤は、重合の最初から添加してもよく、重合の途中から添加してもよい。重合開始剤は、モノマーの総量に対して0.0001〜3質量%を用いるのが好ましく、0.001〜1質量%を用いるのが特に好ましい。
【0045】
重合開始剤は、ラジカル重合開始剤が好ましい。ラジカル重合開始剤としては、2,2−アゾビス(2−アミジノプロパン)2塩酸塩、4,4−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、2,2−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、1,1−アゾビス(1−シクロヘキサンカルボニトリル)等のアゾ化合物、ジイソプロピルペルオキシジカーボネート、ベンゾイルペルオキシド、ペルフルオロノナノイルペルオキシド、メチルエチルケトンペルオキシド、ジイソプロピルペルオキシド、(CFCFCFCOO)、(CCOO)、((CHCO)等の有機ペルオキシド、K、(NH等の無機ペルオキシドが挙げられる。
【0046】
また化合物aの重合は、連鎖移動剤の存在下に行ってもよい。連鎖移動剤としては、アルコール類(メタノール、エタノール等。)、クロロフルオロハイドロカーボン類(1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1−ジクロロ−1−フルオロエタン等。)、ハイドロカーボン類(ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン等。)、ヨードフルオロハイドロカーボン類(1,4−ジヨードペルフルオロブタン、1−ブロモ−4−ヨードペルフルオロブタン等。)が挙げられる。
【0047】
化合物aの重合における圧力(ゲージ圧)は、0MPa超20MPa以下が好ましく、0.3MPa以上5MPa以下が特に好ましい。また化合物aの重合における温度は、0℃以上100℃以下が好ましく、10℃以上80℃以下が特に好ましい。
【0048】
化合物aの重合方法としては、溶液重合法、乳化重合法、懸濁重合法、塊状重合法等の公知の重合方法が挙げられる。
【0049】
本発明の含フッ素重合体の分子量は、5×10〜1×10が好ましい。また本発明の含フッ素重合体のTは、100℃〜400℃が好ましい。Tとは、フローテスター(島津製作所製CFT−500D)を用い、ノズル(長さ1mm、内径1mm)中に30kg/cmの加圧下、重合体を100mm/秒の流量で溶融流出させた際の温度である。
【0050】
本発明の含フッ素重合体は、低屈折率性、撥水撥油性、透明性、耐熱性、機械的強度等の物性に優れる。本発明の含フッ素重合体は、光学材料(たとえば光導波路材料、光ファイバー材料、ペリクル材料、発光素子封止材料、レンズ材料等。)、電子材料(たとえば半導体層間絶縁膜、高周波素子保護膜、ディスプレイ表面保護膜等。)、撥水撥油材料(たとえばオイルシール剤等。)として有用である。
【0051】
また本発明の含フッ素重合体のうち、−SOFを含む化合物aが重合したモノマー単位を含む含フッ素重合体は、イオン交換膜(食塩電解用のイオン交換膜等。)または固体高分子型燃料電池用の固体高分子電解質として好適であり、含フッ素重合体の軟化温度が高いため120℃以上で運転される固体高分子型燃料電池用の固体高分子電解質として特に好適である。この場合、該含フッ素重合体は、−SOFを加水分解または対イオンを含むアルカリ性水溶液中で処理して式−SO(OM)で表される基を含む重合体に変換し、つぎに強酸水溶液中で処理してスルホン酸基を含む重合体に変換するのが好ましい。
【0052】
−SOFを含む化合物aとしては、下記化合物a1Sが好ましい。
【0053】
【化9】

【0054】
スルホン酸基を含む重合体としては、化合物a1Sを重合させて含フッ素重合体を得て、該重合体を前記の方法により処理してSOF基をSOH基に変換する事により得た重合体が好ましい。該重合体としては、下記モノマー単位を含む重合体が挙げられる。
【0055】
【化10】

【実施例】
【0056】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
ジクロロペンタフルオロプロパンをR−225、CFClCFCHClFをR−225cb、CClFCClFをR−113、ガスクロマトグラフィーをGC、F(CFOCF(CF)−で表される基をR−、テトラメチルシランをTMS、テトラフルオロエチレンをTFE、と記す。純度はGC分析によるピーク面積比から求めた。反応収率は、ニトロベンゼンを内部標準としたH−NMRまたはヘキサフルオロベンゼンを内部標準とした19F−NMRより求めた。
【0057】
[例1]化合物a11の製造例
【0058】
【化11】

【0059】
[例1−1]エステル化反応による化合物d11の製造例
温度計、滴下ロート、および撹拌機を備えたフラスコを氷浴下で冷却し、化合物e11(45g)、NaF(21.9g)およびR−225(100g)を投入した。つぎにフラスコの内温を10℃以下に保持しながら、式R−COFで表される化合物(103.6g)を滴下しながらフラスコ内を撹拌した。つづいて内温を25℃にして、さらに12時間撹拌した。
【0060】
フラスコ内容液を加圧ろ過して得たろ液を濃縮して、R−225と未反応の化合物e11を除去した濃縮液を得た。濃縮液をR−225で希釈して、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、イオン交換水で3回ずつ、順に洗浄した。
【0061】
つづいて濃縮液を硫酸マグネシウム粉末で脱水してから、エバポレーターで濃縮して粗生成物を得た。粗生成物を減圧蒸留して、103℃/1.53kPa(絶対圧)の留分(100.0g)を得た。留分を分析した結果、標記化合物(純度97.6%、収率75.4%)の生成を確認した。化合物d11のNMRデータを以下に示す。
【0062】
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):0.95(6H),1.46〜1.79(4H),3.47〜3.61(1H),4.00〜4.48(4H)。
19F−NMR(282.6MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−80.0〜−80.7(1F),−81.8(3F),−82.4(3F),−86.2〜−87.0(1F),−130.1(2F),−132.2(1F)。
【0063】
[例1−2]化合物c11の製造例
オートクレーブ(ニッケル製、内容積3000mL)を用意し、オートクレーブのガス出口に、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。
【0064】
オートクレーブにR−113(1600g)を加え、25℃に保持しながら撹拌した。そのままオートクレーブに、窒素ガスを25℃で1時間吹き込んでから、窒素ガスで20%体積に希釈したフッ素ガス(以下、20%フッ素ガスと記す。)を流速18.3L/hにて1時間吹き込んだ。つぎに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例1−1で得た留分(79.9g)をR−113(800g)に溶解した溶液を23.2時間かけて注入した。
【0065】
つぎに、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧して、ベンゼン濃度が0.01g/mLのR−113溶液(50mL)を25℃から40℃にまで加熱しながら注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。
【0066】
さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間、撹拌を続けた。つぎに反応器内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間、吹き込んだ。オートクレーブの内容物をNMRで分析した結果、化合物c11(収率94%)の生成を確認した。化合物c11のNMRデータを以下に示す。
【0067】
19F−NMR(282.6MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−76.6〜−77.1(1F),−79.1〜−81.3(8F),−81.8〜−82.1(6F),−85.1〜−86.9(3F),−119.2(1F),−123.5〜−129.4(4F),−130.1(2F),−132.1(1F)。
【0068】
[例1−3]化合物a11の製造例
温度計および滴下漏斗を備えたフラスコに、例1−2で得た内容物(89g)およびNaF(15.1g)を投入して、フラスコ内温を0℃以下に保持しながら撹拌した。内温を10℃以下に保持して撹拌しながら、滴下漏斗からメタノール(9.7g)を滴下した。滴下終了後、更に25℃で1時間撹拌した。
【0069】
つぎにフラスコ内溶液を加圧ろ過して得たろ液を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で2回、イオン交換水で1回ずつ洗浄した。さらに硫酸マグネシウム粉末で脱水してからエバポレーターで濃縮して粗生成物を得た。この粗生成物を減圧蒸留して66.0℃/16.0kPa(絶対圧)の留分(35.9g)を得た。
【0070】
温度計を備えたフラスコに、この留分およびフェノールフタレインを投入した。つぎに10質量%の水酸化ナトリウムメタノール溶液(29g)をフラスコに滴下して、赤色に呈色した溶液を得た。溶液をエバポレーターで濃縮してから、80℃で16時間乾燥を行い、白色固形物(35.2g)を得た。
【0071】
塔頂部からドライアイストラップと液体窒素で冷却したトラップを順に備えたフラスコに、白色固形物(34.9g)を投入しフラスコ内を減圧して350℃まで加熱すると、それぞれのトラップに液体が留出した。
【0072】
ドライアイストラップに留出した液体(26.0g)を、スピニングバンド蒸留装置を用いて蒸留し、88.3℃/101.3kPa(絶対圧)の留分(14.0g)を得た。留分を分析した結果、化合物a11の生成を確認した(純度99.1%、収率58%)。化合物a11のNMRデータを以下に示す。
【0073】
19F−NMR(282.6MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−68.2(3F),−81.2(3F),−81.4〜−82.0(1F),−88.2〜−88.7(1F),−123.7〜−125.3(1F),−126.3(1F),−127.8〜−128.9(1F),−187.2(1F)。
【0074】
[例2]化合物a11の重合例
[例2−1]化合物a11の重合例(その1)
オートクレーブ(ハステロイ製、内容積30mL)に、ペルフルオロ過酸化ベンゾイル(21.9mg)、化合物(a11)(4.0g)およびR−225cb(2.58g)を仕込み、液体窒素による冷却下でオートクレーブ内を充分に脱気した。
【0075】
つぎに、減圧下のオートクレーブにTFE(0.5g)を導入して80℃に昇温して重合を開始した。オートクレーブの内圧は0.25MPa(ゲージ圧)を示し、重合中はその圧力を一定に保持した。そのままオートクレーブ内を5時間、撹拌し、オートクレーブ内のガスをパージして重合反応を終了させた。
【0076】
R−225cbで希釈したオートクレーブ内容物をn−ヘキサン中に添加し、凝集した粗重合体をろ過により回収した。粗重合体をR−225cb中で撹拌してから、再度、n−ヘキサン中に添加して凝集した重合体を回収し、80℃にて、12時間、減圧乾燥して化合物a11が重合したモノマー単位とTFEが重合したモノマー単位を含む重合体A11(0.15g)を得た。
【0077】
フローテスタ(島津製作所社製、CFT−500A)とノズル(長さ1mm、内径1mm)を用い、30kg/cmの押出し圧力の条件で重合体A11の溶融押出し試験を行った結果、重合体A11が溶融し始めた温度は200℃であった。溶融19F−NMRより求めた重合体A11中の全単位に対する化合物a11に基づく単位の割合は11.0モル%であった。
【0078】
[例2−2]化合物a11の重合例(その2)
オートクレーブ(ハステロイ製、内容積30mL)に、ペルフルオロ過酸化ベンゾイル(32.2mg)および化合物a11(14.47g)を仕込み、液体窒素による冷却下でオートクレーブ内を充分に脱気した。
【0079】
つぎに、減圧下のオートクレーブにTFE(0.61g)を導入して80℃に昇温して重合を開始した。オートクレーブの内圧は0.18MPa(ゲージ圧)を示し、重合中はその圧力を一定に保持した。そのままオートクレーブ内を6.6時間、撹拌し、オートクレーブ内のガスをパージして重合反応を終了させた。
【0080】
R−225cbで希釈したオートクレーブ内容物をn−ヘキサン中に添加し、凝集した粗重合体をろ過により回収した。粗重合体をR−225cb中で撹拌してから、再度、n−ヘキサン中に添加して凝集した重合体を回収し、80℃にて、12時間、減圧乾燥して化合物a11が重合したモノマー単位とTFEが重合したモノマー単位を含む重合体A12(0.13g)を得た。
【0081】
例2−1と同様の方法を用いて 重合体A12の溶融押出し試験を行った結果、重合体A12が溶融し始めた温度は150℃であった。溶融19F−NMRより求めた重合体A12中の全単位に対する化合物a11に基づく単位の割合は17モル%であった。
【0082】
[例3]化合物a12の製造例
【0083】
【化12】

【0084】
[例3−1]化合物d12の製造例
温度計、滴下ロート、および撹拌機を備えたフラスコを氷浴下で冷却し、化合物e21(104g)、NaF(70.1g)およびR−225(300g)を投入した。つぎにフラスコの内温を10℃以下に保持しながら、式R−COFで表される化合物(245g)を滴下しながらフラスコ内を撹拌した。つづいて内温を25℃にして、さらに12時間撹拌した。
【0085】
フラスコ内容液を加圧ろ過して得たろ液を濃縮して、R−225と未反応の化合物(e21)を除去した濃縮液を得た。濃縮液をR−225で希釈して、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、イオン交換水で3回ずつ、順に洗浄した。
【0086】
つづいて濃縮液を硫酸マグネシウム粉末で脱水してから、エバポレーターで濃縮して粗生成物を得た。粗生成物を減圧蒸留して、86℃/0.3kPa(絶対圧)の留分(128.9g)を得た。留分を分析した結果、標記化合物(純度98.9%、収率56.9%)の生成を確認した。化合物d12のNMRデータを以下に示す。
【0087】
H−NMR(300.4MHz、溶媒:CDCl、基準:TMS)δ(ppm):1.58(3H),3.25(3H),4.04〜4.11(3H),4.20〜4.56(3H),5.17〜5.29(2H),5.80〜6.00(1H)。
19F−NMR(282.6MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−80.0〜−80.7(1F),−81.8(3F),−82.5(3F),−86.4〜−86.9(1F),−130.1(2F),−132.2(1F)。
【0088】
[例3−2]化合物c12の製造例
オートクレーブ(ニッケル製、内容積3000mL)を用意し、オートクレーブのガス出口に、20℃に保持した冷却器、NaFペレット充填層、および−10℃に保持した冷却器を直列に設置した。また−10℃に保持した冷却器から凝集した液をオートクレーブに戻す液体返送ラインを設置した。
【0089】
オートクレーブにR−113(1600g)を加え、25℃に保持しながら撹拌した。そのままオートクレーブに、窒素ガスを25℃で1時間吹き込んでから、20%フッ素ガスを流速23.0L/hにて1時間吹き込んだ。つぎに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら、例4−1で得た留分(70.4g)をR−113(560g)に溶解した溶液を16.6時間かけて注入した。
【0090】
つぎに、20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながらオートクレーブの内圧を0.15MPa(ゲージ圧)まで加圧して、ベンゼン濃度が0.01g/mLのR−113溶液(38mL)を25℃から40℃にまで加熱しながら注入し、オートクレーブのベンゼン溶液注入口を閉めた。
【0091】
さらに20%フッ素ガスを同じ流速で吹き込みながら1時間、撹拌を続けた。つぎに反応器内の圧力を大気圧にして、窒素ガスを1時間、吹き込んだ。オートクレーブの内容物をNMRで分析した結果、化合物c12(収率89%)の生成を確認した。化合物c12のNMRデータを以下に示す。
【0092】
19F−NMR(282.6MHz、溶媒:CDCl、基準:CFCl)δ(ppm):−77.5〜−78.0(1F),−79.7〜−81.6(5F),−82.0〜−82.5(11F),−84.5〜−87.5(5F),−122.9(1F),−130.3(4F),−132.1(1F)。
【0093】
[例3−3]化合物a12の製造例
温度計および滴下漏斗を備えたフラスコに、例3−2で得た内容物(35.1g)およびNaF(4.0g)を投入して、フラスコ内温を0℃以下に保持しながら撹拌した。内温を10℃以下に保持して撹拌しながら、滴下漏斗からメタノール(5.3g)を滴下した。滴下終了後、更に25℃で1時間撹拌した。
【0094】
つぎにフラスコ内溶液を加圧ろ過して得たろ液を、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和食塩水で2回、イオン交換水で1回ずつ洗浄した。さらに硫酸マグネシウム粉末で脱水してからエバポレーターで濃縮して粗生成物を得た。この粗生成物を減圧蒸留して61℃/2.67kPa(絶対圧)の留分(8.7g)を得た。
【0095】
温度計を備えたフラスコに、この留分およびフェノールフタレインを投入した。つぎに10質量%の水酸化ナトリウムメタノール溶液(8.3g)をフラスコに滴下して、赤色に呈色した溶液を得た。溶液をエバポレーターで濃縮してから、80℃で16時間乾燥を行い、白色固形物(10.4g)を得た。
【0096】
塔頂部からドライアイストラップと液体窒素で冷却したトラップを順に備えたフラスコに、白色固形物(9.5g)を投入しフラスコ内を減圧して350℃まで加熱するとトラップに化合物a12(GC純度27.5%)とペルフルオロ(2−メチレン−4−メチル−1,3−ジオキソラン)(GC純度55.8%)を含む粗液(3.27g)を得た。化合物a12のNMRデータを以下に示す。
【0097】
19F−NMR(282.6MHz、溶媒:CDCl、基準:ヘキサフルオロベンゼン)δ(ppm):−80.5〜−80.6(3F),−81.7(3F),−86.2〜−86.3(2F),−87.7〜−88.9(2F),−129.0(1F),−130.0(2F),−130.3〜−131.0(1F)。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の化合物aは、重合性の化合物として有用である。本発明の化合物が重合したモノマー単位を含む含フッ素重合体は、光学材料、電子材料、撥水撥油材料、イオン交換膜用材料、固体高分子型燃料電池用電解質材料等として有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下式(a)で表される化合物。
【化1】

ただし、Yは、炭素数1〜3のペルフルオロアルキル基または炭素数1〜3のペルフルオロアルコキシ基である。RF1、RF2、RF3およびRF4は、それぞれ独立に、フッ素原子、フルオロスルホニル基または式−QXで表される基である。Qは、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基または炭素数2〜6のペルフルオロ(アルキレンオキシアルキレン)基である。Xは、フッ素原子またはフルオロスルホニル基である。
【請求項2】
下式(a)で表される化合物が重合したモノマー単位を含む含フッ素重合体。
【化2】

ただし、Yは、炭素数1〜3のペルフルオロアルキル基または炭素数1〜3のペルフルオロアルコキシ基である。RF1、RF2、RF3およびRF4は、それぞれ独立に、フッ素原子、フルオロスルホニル基または式−QXで表される基である。Qは、炭素数1〜6のペルフルオロアルキレン基または炭素数2〜6のペルフルオロ(アルキレンオキシアルキレン)基である。Xは、フッ素原子またはフルオロスルホニル基である。

【公開番号】特開2006−290779(P2006−290779A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112100(P2005−112100)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】