説明

新規なアンモニウム塩含有ポリマー、その製造方法およびそれを触媒に用いたエポキシ化合物の製造方法

【課題】新規なアンモニウム塩含有ポリマー、その製造方法およびそれを触媒に用いたエポキシ化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】一般式(A)で表されるポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩および一般式(B)で表されるポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩。一般式(A)および(B)において、R1は、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。R2は水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。表記化合物をN-1置換またはN,N-2置換アミノ基を有するポリスチレンと、ジメチル硫酸および硫酸を反応させる製造方法も提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なアンモニウム塩含有ポリマーであるアンモニウムアルキル硫酸塩およびアンモニウム硫酸水素塩を含有するポリマーおよびその製造方法、およびそれを触媒に用いたエポキシ化合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エポキシ化合物は農薬・医薬の中間体やレジスト材料、可塑剤、接着剤、塗料樹脂といった各種ポリマーの原料として化学工業をはじめ、各種の産業分野で幅広く用いられる有用な物質である。エポキシ化合物はオレフィン類のエポキシ化反応により簡便に製造される。従来、オレフィンのエポキシ化剤として安価である過酸が用いられてきたが(非特許文献1)、爆発性があり安全性に問題があるほか、酸化剤由来の酸が当量生成するため、装置の腐食などの問題が指摘されてきた。最近ではケトン触媒下におけるオキソンを酸化剤としたエポキシ化反応 (非特許文献2)が知られているが、触媒のケトンが非常に多く必要(オレフィン類に対し20-30モル%)であるほか、溶液中のpHや反応温度等の反応条件を厳密にコントロールする必要があるといった問題点がある。一方で過酸化水素水溶液は、安価で腐食性がなく、反応後の副生物は皆無又は水であるために環境負荷が小さく、工業的に利用可能な優れた酸化剤であることが知られている。
【0003】
過酸化水素水をエポキシ化剤としてオレフィン類からエポキシ化合物を製造する方法として、(1) 塩化第4級アンモニウム、リン酸類、タングステン金属塩の存在下、過酸化水素によりエポキシ化する方法 (特許文献1)、(2)有機レニウムオキシドを触媒として過酸化水素によりエポキシ化する方法 (特許文献2)、(3) 式Q3XW4O24 (式中、Qは70個までの炭素原子を含む第4級アンモニウムカチオンを表し、XはPまたはAsを表す)で示される触媒の存在下、過酸化水素水溶液によりオレフィンをエポキシ化する方法(特許文献3)、 (4)フルオロアルキルケトン触媒下、過酸化水素によりエポキシ化する方法 (非特許文献3)など多数知られている。しかしながらこれらの方法では触媒が反応溶液中で拡散するため一度使用した触媒を回収/再利用することがきわめて難しいほか、後処理・精製過程が煩雑になるといった問題がある。
【0004】
他方、触媒の回収、再利用を可能にするような触媒の固定化技術も積極的に進められている (非特許文献4、非特許文献5)。特にアンモニウム塩をポリマービーズに担持したポリマー担持アンモニウム塩を触媒として用いた相間移動反応に関する報告が多数なされており(非特許文献6、非特許文献7)様々な有機合成に利用されている。しかしながら上記ポリマー担持アンモニウム塩を触媒として用いたエポキシ化合物の製造方法はほとんど報告されていない。これはポリマー担持アンモニウム塩のほとんどがハロゲン化物、特に臭化物や塩化物であることに起因する(非特許文献8、非特許文献9)。相間移動反応を利用したエポキシ化反応においてハロゲンイオンが混入することにより反応が大きく阻害され、反応収率および触媒活性の低下につながることが指摘されている。そのため最近の相間移動反応を利用したエポキシ化反応では反応収率・触媒活性の向上のため、アンモニウムハロゲン化物を用いずにアンモニウム硫酸水素塩を用いることが有効とされている(特許文献4、非特許文献10、非特許文献11)。
【0005】
【特許文献1】特開2003-192679
【特許文献2】特開2001-25665
【特許文献3】特開平4-275281
【特許文献4】特願2005-143124
【非特許文献1】Chem. Ber., 1985, 118, 1267.
【非特許文献2】J. Org. Chem., 1998, 63, 2948.
【非特許文献3】Chem. Commun., 1999, 263.
【非特許文献4】Angew. Chem. Int. Ed. Engl., 1979, 18, 421.
【非特許文献5】Chem. Rev., 2003, 103, 3401.
【非特許文献6】Tetrahedron, 2004, 60, 4087.
【非特許文献7】Ind. Eng. Chem. Res., 2005, 44, 7098.
【非特許文献8】J. Am. Chem. Soc., 1975, 97, 5956.
【非特許文献9】Synlett, 2000, 807.
【非特許文献10】Organic Process Research & Development, 2004, 8, 524.
【非特許文献11】Chem. Commun., 2003, 1977.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、新規なポリマー担持アンモニウムアルキル硫酸塩およびポリマー担持アンモニウム硫酸水素塩を提供し、また、それらの製造方法およびそれを触媒に用いたエポキシ化合物の新規製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、新規なポリマー担持アンモニウムアルキル硫酸塩およびポリマー担持アンモニウム硫酸水素塩とそれらの製造方法について鋭意研究を重ねた結果、ポリマー担持アンモニウム硫酸水素塩については、ポリマー担持アンモニウムハロゲン化物を硫酸で処理することにより得られることを見出した。
本発明者は、更に研究を進めた結果、N−1置換またはN,N-2置換アミノ基を有するポリマーに対してジアルキル硫酸を作用させることによりアルキル化が容易に進行し、本発明の目的化合物であるアルキルポリマー担持アンモニウムメチル硫酸塩が1段階で簡便に得られることを見出した。またメチル化の反応処理過程において硫酸を添加するだけでポリマー担持アンモニウム硫酸水素塩を得ることをも見出した。また上記触媒に用いた効率的なエポキシ化合物の新規製造方法を見出し、本発明に至った。
【0008】
本発明は、例えば、以下の態様を包含する。
[1]アンモニウムアルキル硫酸塩またはアンモニウム硫酸水素塩を有することを特徴とするポリマー。
[2][1]中のアンモニウム塩が以下の構造式(A)で表されることを特徴とする請求項1に記載のポリマー。
【化1】

(式中、R1は、炭素数1〜4のアルキル基またはアルケニル基から選ばれる基を表す。R2は水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。R3は炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。R2R3は、連結して環を形成していてもよい。R4は、水素又は炭素数1〜4のアルキルまたはアルケニル基から選ばれる基を表す)。
[3]前記アンモニウム塩が以下の構造式(B)で表されることを特徴とする[1]に記載のポリマー。
【化2】

(式中、R5は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基またはアルケニル基から選ばれる基を表す。R2は水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。R2R5は、連結して環を形成していてもよい。R4は、水素又は炭素数1〜4のアルキルまたはアルケニル基から選ばれる基を表す)。
[4]アンモニウム硫酸水素塩(R4=H)を有する[1]〜[3]のいずれかに記載のポリマーの製造法において、対応する4級アンモニウムハライドと硫酸を反応させることを特徴とするアンモニウム硫酸水素塩を有するポリマーの製造方法。
[5][1]〜[3]のいずれかに記載のアンモニウムアルキル硫酸塩(R4≠H)を有するポリマーの製造法において、N−1置換またはN,N-2置換アミノメチル基を有するポリマーと、ジアルキル硫酸を反応させることを特徴とするポリマー担持アンモニウムアルキル硫酸塩の製造方法。
[6][1]〜[3]のいずれかに記載のアンモニウム硫酸水素塩(R4=H)を有するポリマーの製造法において、ポリマー担持アンモニウムアルキル硫酸塩に対して、硫酸を反応させることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩の製造方法。
[7]6族金属化合物と、[1]〜[6]のいずれかに記載のアンモニウムアルキル硫酸塩またはアンモニウム硫酸水素塩を有することを特徴とするポリマーの存在下に、有機溶媒または無溶媒中で、オレフィン類と過酸化水素水とを反応させることを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。
[8]次の構造式(C)で表されるα−アミノメチルホスホン酸、
【化3】

(式中、R6 〜R9 はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基またはアリール基を表す)を添加することを特徴とする[7]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
[9]前記6族金属化合物が、モリブデン化合物またはタングステン化合物であることを特徴とする[7]または[8]に記載のエポキシ化合物の製造方法。
[10]無溶媒で反応を行う[7]〜[9]のいずれかに記載のエポキシ化合物の製造方法。
[11][1]〜[3]のいずれかに記載のアンモニウム硫酸水素塩(R4=H)を有するポリマーの製造法において、対応する4級アンモニウムクロライドと硫酸を反応させることを特徴とするアンモニウム硫酸水素塩を有するポリマーの製造方法。
【0009】
[12][8]に記載のα−アミノメチルホスホン酸が無置換のアミノメチルホスホン酸であることを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。
[13]上記式(式(A))のポリスチレン担持アンモニウム塩のR3(硫酸塩部分)が、水素またはメチル基であることを特徴とする、エポキシ化合物の製造方法。
[14]上記式(式(A))のポリスチレン担持アンモニウム塩中のR2、R3が少なくともどちらか一方が炭素数6以上であることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウムアルキル硫酸塩またはポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩。
[15]上記式(式(A))のポリスチレン担持アンモニウム塩中のR2、R3が両方ともが炭素数6以上であることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウムアルキル硫酸塩またはポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩。
[16]上記式(式(A))のポリスチレン担持アンモニウム塩中のR2、R3の少なくともどちらか一方が炭素数8〜14であることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウムアルキル硫酸塩またはポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩。
【0010】
[17]上記式(式(A))のポリスチレン担持アンモニウム塩中のR2、R3の両方ともが炭素数8〜14であることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウムアルキル硫酸塩またはポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩。
[18]上記式(式(B))のポリジアリルアミン担持アンモニウム塩中のR1、R2が少なくともどちらか一方が炭素数6以上であることを特徴とするポリジアリルアミン担持アンモニウムアルキル硫酸塩またはポリジアリルアミン担持アンモニウム硫酸水素塩。
[19]上記式(化(B))のポリジアリルアミン担持アンモニウム塩中のR1、R2が両方ともが炭素数6以上であることを特徴とするポリジアリルアミン担持アンモニウムアルキル硫酸塩またはポリジアリルアミン担持アンモニウム硫酸水素塩。
[20]上記式(化(B))のポリジアリルアミン担持アンモニウム塩中のR1、R2の少なくともどちらか一方が炭素数8〜14であることを特徴とするポリジアリルアミン担持アンモニウムアルキル硫酸塩またはポリジアリルアミン担持アンモニウム硫酸水素塩。
[21]上記式(化(B))のポリジアリルアミン担持アンモニウム塩中のR1、R2の両方ともが炭素数8〜14であることを特徴とするポリジアリルアミン担持アンモニウムアルキル硫酸塩またはポリジアリルアミン担持アンモニウム硫酸水素塩。
【発明の効果】
【0011】
本発明で得られる新規なアンモニウム塩含有ポリマーは2相系におけるエポキシ化反応に対し非常に有用な固定化触媒であるほか、エポキシ化合物の製造過程で触媒の回収/再利用が容易に行える新規手法が提供できる。上記アンモニウム塩含有ポリマーは低コストでの製造が可能であるだけでなく、ハロゲンイオンを全く排出しない合成経路にて製造することもできるため、触媒製造過程あるいはエポキシ化合物の製造過程においてハロゲンイオンの悪影響に対する負荷を大幅に低減できることも期待される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
(本発明のポリマー)
本発明のポリマーは、アンモニウムアルキル硫酸塩またはアンモニウム硫酸水素塩を有するポリマーである。
(好適なポリマー)
本発明において、好適なポリマーとしては、例えば、以下の一般式(A)で表されるポリスチレン担持アンモニウム水素硫酸塩、アンモニウムアルキル硫酸塩ならびに以下の一般式(B)で表されるポリジアリルアミン担持アンモニウム硫酸水素塩、アンモニウムアルキル硫酸塩が挙げられる。
【0013】
【化4】

(A)
【0014】
(式中、R1は、炭素数1〜4のアルキル基またはアルケニル基から選ばれる基を表す。R2は、炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。R3は水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。R23は、連結して環を形成していてもよい。R4は、水素又は炭素数1〜4のアルキルまたはアルケニル基から選ばれる基を表す)。
【0015】
【化5】

(B)
【0016】
(式中、R5は、水素原子または炭素数1〜4のアルキル基またはアルケニル基から選ばれる基を表す。R2は水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。R3は、水素又は炭素数1〜4のアルキルまたはアルケニル基から選ばれる基を表す。R2R5は、連結して環を形成していてもよい。R4は、水素又は炭素数1〜4のアルキルまたはアルケニル基から選ばれる基を表す)
【0017】
(置換基の具体例)
前記R1、R2、R3、及びR5のアルキル、アルケニル基の具体例としては、メチル、エチル、プロピル、アリル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、シクロオクチル基等が挙げられる。
前記R1、R2、R3、及びR5の芳香族基の具体例としては、フェニル、p−トリル、p−エチルフェニル、p−プロピルフェニル、ベンジル基等が挙げられる。
また、R4のアルキル、アルケニル基としてはメチル、エチル、n−プロピル、アリル等が挙げられる。
【0018】
(合成方法)
本発明のポリマー(例えば、前記、一般式(A)、(B)で表されるポリマー担持アンモニウムアルキル硫酸塩またはポリマー担持アンモニウム硫酸水素塩)の合成法は特に制限されない。例えば、ポリマー担持アンモニウム硫酸水素塩の合成法としては、対応するポリマー担持アンモニウムハロゲン化合物を硫酸と反応させて、塩交換を行うことにより、本発明のポリマーを合成することができる。
【0019】
ただし、この方法ではハロゲンの混入を避けることが難しい傾向があるため、本方法により得られた生成物をエポキシ化反応の触媒として用いる場合には、活性は低くなる等の問題が生ずる場合がある。よって、このような場合には、塩交換反応を繰り返して行わなければならないという問題がある。
【0020】
(好適な合成方法;ハロゲンを殆ど含有しない方法)
このような問題を避ける合成方法としては、以下に示す方法を使用することが好ましい。
【0021】
(ポリマー担持アンモニウムアルキル硫酸塩の合成方法)
この方法においては、対応するN−1置換またはN,N-2置換アミノ基を有するポリマーと、ジアルキル硫酸を反応させる。
【0022】
この反応は、好ましくは反応溶媒の存在下で実施される。この場合の反応溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン等の有機溶媒中で行われる。また、これらの溶媒は単独または混合溶媒の形で使用される。
【0023】
反応温度は、90℃〜150℃の範囲の温度で行うことができる。この温度範囲以下の低温の場合には反応時間が遅くなり、この範囲を超えて高すぎる場合には、硫酸ジアルキルの分解反応が生じる。このようなことから、前記温度範囲は、100℃〜140℃の範囲であることが好ましい。反応時間は、通常は反応温度により左右されるため、一概に定めることは困難であるが、通常は8〜24時間で充分である。
【0024】
(ポリマー担持アンモニウム硫酸水素塩の合成方法)
更に、ハロゲンを殆ど含有しないポリマー担持アンモニウム硫酸水素塩を製造する方法としては、例えば、上記の方法で製造したポリマー担持アンモニウムアルキル硫酸塩と硫酸を反応させる方法が挙げられる。
【0025】
この反応は、好ましくは反応溶媒の存在下で実施される。この場合の反応溶媒は、ベンゼン、トルエン、キシレン、1,4−ジオキサン等の有機溶媒中で行われる。また、これらの溶媒は単独または混合溶媒の形で使用される。
【0026】
この反応に用いられる硫酸は1%〜100% (重量パーセント)の範囲のものを用いることが出来るが、好ましくは20%〜70%の範囲である。
【0027】
反応温度は、0℃〜100℃の範囲の温度で行うことができるが好ましくは20℃〜90℃の範囲である。反応時間は、通常は反応温度により左右される場合が多いため、一概に定めることは困難であるが、通常は2〜12時間で充分である。
【0028】
ポリマー担持アンモニウムアルキル硫酸塩を単離、精製しなくともN−1置換またはN,N-2置換アミノ基を有するポリマーと、ジメチル硫酸を反応させた後、後処理にて、硫酸を作用させることにより製造することも可能である。
【0029】
反応溶媒は、通常は特に必要無い。反応温度は、0℃〜100℃の範囲の温度で行うことができるが好ましくは20℃〜90℃の範囲である。
反応時間は、反応温度により左右される場合が多いため、一概に定めることは困難であるが、通常は2〜10時間で充分である。
【0030】
この反応に用いられる硫酸は1%〜100% (重量パーセント)の範囲のものを用いることができるが、好ましくは20%〜70%の範囲である。
【0031】
(架橋剤)
本発明のポリマーを反応触媒として用いた場合の回収の容易性を考えると、ジビニルベンゼンや多官能アクリレート等の架橋剤を加えて、重合することが望ましい。
【0032】
このように架橋剤を入れて重合したポリマーを触媒として用いる場合の粒度は一般的には50〜1500μmの範囲が有効であるが、細かくなりすぎると濾過処理時に目こぼれが生じ、回収のロスが大きくなる傾向がある。例えば、三菱化学(株)から販売されている「ダイアイオン」(商標)のカタログには、樹脂の粒度は300μ〜1180μとの記載もあり、好ましくは300〜1200μmの範囲である。
【0033】
また、同様にこれらの架橋ポリマーの細孔容積は、大きくすれば表面積を大きくして吸着効率を上げることができるが、交換が遅くなりすぎることも問題となるため、乾燥樹脂において0.1〜1.0ml/gの範囲、好ましくは0.3〜0.6ml/gの範囲である。
【0034】
なお、これらのポリマーは、例えばポリスチレンタイプのポリマーはオルガノ(株)、室町ケミカル(株)、三菱化学(株)、Argonaut Technologiesから、ジアリルアミンタイプのポリマーは日東紡(株)より市販されており、それらを直接用いても、それを変性して用いることも可能である。
【0035】
ここで用いることの出来るポリマーとしては、以下の構造式(D)で表されるモノマーをラジカル重合することにより得られる。
【化6】

(D)
【0036】
(式中、R5は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基またはアルケニル基から選ばれる基を表す。R2は水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。R2R5は、連結して環を形成していてもよい。R4は、水素又は炭素数1から4のアルキルまたはアルケニル基から選ばれる基を表す)。
本発明のポリマー担持アンモニウムアルキル硫酸塩およびポリマー担持アンモニウム硫酸水素塩の具体例について例示すると以下の化学式(1)〜(3)で示される化合物である。しかしながら、これらの化合物に限定されるものではない。
【0037】
【化7】

【0038】
(用途)
これら本発明のポリマーは、2相系におけるエポキシ化反応に対する反応性促進触媒として好適に使用することができる他、各種相間移動触媒としても使用できる。
【0039】
本発明のポリマーを2相系におけるエポキシ化反応に対する反応性促進触媒として用いる場合には、これらのポリマーに含まれる塩素量は重要であり、塩素量があまりに高いと触媒活性を低下させる傾向がある。そのため、塩素量としては1.9mmol/g以下に抑えることが望ましく、より好ましくは0.5mmol/g以下である。
【0040】
本発明のポリマーをエポキシ化触媒として用いる場合には、モリブデン、タングステンのような6族金属化合物及び過酸化水素水溶液と併用する必要がある。
本明細書に記載の6族金属化合物とは、長周期型周期表の新しい国際純正・応用化学連合(IUPAC)の表記法に基いて6族に帰属されている金属を含有する化合物を意味する。
【0041】
この場合に使用可能なモリブデン化合物としては、水中でモリブデン酸アニオンを生成する化合物であり、例えばモリブデン酸、三酸化モリブデン、三硫化モリブデン、六塩化モリブデン、リンモリブデン酸、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸カリウム二水和物、モリブデン酸ナトリウム二水和物等が挙げられるが、モリブデン酸、三酸化モリブデン、リンモリブデン酸が好ましい。
【0042】
使用可能なタングステン化合物としては、水中でタングステン酸アニオンを生成する化合物であり、例えばタングステン酸、三酸化タングステン、三硫化タングステン、六塩化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム二水和物、タングステン酸ナトリウム二水和物等が挙げられるが、タングステン酸、三酸化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸ナトリウム二水和物等が好ましい。これら6族金属化合物類は単独で使用しても、二種以上を混合使用しても良い。その使用量は基質のジオレフィン類に対して0.0001〜20モル%、好ましくは0.01〜10モル%の範囲から選ばれる。
【0043】
上記6族金属化合物を改質する目的でリン酸、ポリリン酸、アミノメチルホスホン酸、リン酸ナトリウムのような添加剤を使用できる。その中でも、以下の構造式(C)で表されるアミノメチルホスホン酸が好ましい。
【0044】
【化8】

【0045】
(式中、R6 〜R9 はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基またはアリール基を表す)
【0046】
特にこの中でもR1 、R2 およびR3が水素であるアミノメチルホスホン酸自体が好ましい。
【0047】
(エポキシ化合物の製造法)
本発明に従うエポキシ化合物の製造法において、反応は通常、30〜100℃の範囲で、好ましくは50〜90℃の範囲で行われる。
【0048】
本発明の製造法における反応時間は、反応温度により左右される場合が多いため、一概に定めることは困難であるが、通常は30分〜12時間の範囲で、好ましくは1〜6時間の範囲で行われる。
【0049】
エポキシ化に用いる原料のオレフィン化合物としては、シクロオレフィン骨格、特にシクロヘキセン骨格を持つものをエポキシ化する際に高い性能が発現される。
【0050】
次に、本発明を実施例により詳細に説明する。
【0051】
以下に述べる実施例は本発明の理解を容易にするために代表的な化合物の一例をあげたものであり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0052】
下記実施例に記載されているポリスチレン担持アンモニウムアルキル硫酸塩およびポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩の構造決定は元素分析ならびに赤外吸収スペクトル(IR)にて同定した。
【0053】
製造された化合物(1)〜(3)は、前記で示した化合物(1)〜(3)に対応するものであり、その物性値としては、融点、元素分析、赤外吸収スペクトル(IR)の順にそれぞれ記した。
【0054】
(装置)
実施例において、装置は以下のものを使用した。
融点測定装置:METTLER FP90(温度制御ユニット)、METTLER FP82HT(試料台)
元素分析装置:CE INSTRUMENTS EA1110(CHN/CHNS分析)
赤外分光装置:JASCO FT/IR-60
【0055】
実施例1
内容積30mlのガラス製容器中に、以下の化学式(E)
【0056】
【化9】

【0057】
で表されるN,N-ジオクチルアミノメチル基を有するポリスチレン (Argonaut Technologies, 800257, PS-Clに塩基性条件下でジオクチルアミンを作用させてできた化合物。アミン担持量 1.56 mmol / g) 0.70 gをトルエン (6 ml)に懸濁 させ、室温にてゆっくりとジメチル硫酸 (10.6 mmol, 1.34 g)を滴下した。その後140℃に昇温し9時間攪拌した。反応溶液を90℃まで下げた後、過剰のジメチル硫酸を処理するため水2 mlを加え、90℃にて7時間攪拌した。反応溶液を室温まで戻し吸引ろ過を行い、得られた固形物をトルエン、水およびジエチルエーテルにて洗浄した後、真空乾燥 (1 mm Hg) を12時間行ったところ、黄褐色の目的生成物を得た。収量0.774g。
【0058】
目的生成物の構造式は、ポリスチレン担持アンモニウムメチル硫酸塩(1)であることを以下の結果から確認した。
【0059】
融点: ca. 247℃(分解)
元素分析:C, 76.90%; H, 8.91%; N, 1.77%; S, 3.79% (実測値)
:C, 75.76%; H, 9.24%; N, 1.87%; S, 4.29% (計算値)
IR (KBr, pellet)νmax 1604, 1454, 1222, 1012, 833, 757, 694 cm-1.
【0060】
実施例2
内容積30 mlのガラス製容器中に以下の化学式 (E)
【0061】
【化10】

【0062】
で表されるN,N-ジオクチルアミノメチル基を有するポリスチレン (Argonaut Technologies, 800257, PS-Clに塩基性条件下でジオクチルアミンを作用させてできた化合物。アミン担持量 1.34 mmol / g) 0.81 gをトルエン (7.5 ml)に懸濁 させ、室温にてゆっくりとジメチル硫酸 (10.6 mmol, 1.34 g)を滴下した。その後140℃に昇温し12時間、続けて90℃にて15時間攪拌した。反応溶液を90℃まで下げた後、過剰のジメチル硫酸を処理するため水3 mlを加え、90℃にて15時間攪拌した。反応溶液を室温まで戻した後、65%硫酸水溶液 4mlを加え室温にてさらに12時間攪拌した。吸引ろ過を行い、得られた固形物を水およびジエチルエーテルによる洗浄した後、真空乾燥 (1 mm Hg) を12時間行ったところ、黄褐色の目的生成物を得た。収量0.868 g。
【0063】
目的生成物の構造式は、ポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩(2)であることを以下の結果から確認した。
融点:ca. 260℃(分解)
元素分析:C, 78.72%; H, 8.83%; N, 1.54%; S, 3.26% (実測値)
:C, 77.58%; H, 8.72%; N, 1.66%; S, 3.80% (計算値)
IR (KBr, pellet)νmax 1600, 1454, 1218, 1010, 862, 817, 746, 698 cm-1.
【0064】
実施例3
内容積30 mlのガラス製容器中に以下の化学式 (F)
【0065】
【化11】

【0066】
で表されるN,N-ジオクチルアミノメチル基を有するポリスチレン(Argonaut Technologies, 800257, PS-Clに塩基性条件下でジドデシルアミンを作用させてできた化合物。アミン担持量 1.60 mmol / g) 0.250 gをトルエン (6 ml)に懸濁させ、室温にてゆっくりとジメチル硫酸 (10.6 mmol, 1.34 g)を滴下した。その後140℃に昇温し4時間、続けて125℃にて15時間攪拌した。反応溶液を90℃まで下げた後、過剰のジメチル硫酸を処理するため水2 mlを加え、90℃にて8時間攪拌した。反応溶液を室温まで戻した後、65%硫酸水溶液 2mlを加え室温にてさらに15時間攪拌した。吸引ろ過を行い、得られた固形物を水、エタノールおよびヘキサンによる洗浄をした後、真空乾燥 (1 mm Hg) を12時間行ったところ、茶褐色の目的生成物を得た。収量0.278 g。
【0067】
目的生成物の構造式は、ポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩(4)であることを以下の結果から確認した。
融点: 268℃(分解)
【0068】
元素分析:C, 76.06%; H, 8.74%; N, 1.63%; S, 3.75% (実測値)
:C, 75.72%; H, 8.17%; N, 1.94%; S, 4.43% (計算値)
IR (KBr, pellet)νmax 1604, 1473, 1209, 1056, 863, 736, 669 cm-1.
【0069】
実施例4
実施例2で得られたポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩(2)(30.0mg, アンモニウム担持量1.02mmol/g)、タングステン酸ナトリウム2水和物 (Na2WO4・2H2O, 16.4mg, 0.050mmol)、アミノメチルホスホン酸(NH2CH2PO3H2, 3.3mg, 0.030mmol)を入れた内容積10mlのガラス製容器中に30%過酸化水素水溶液 (670 mg, 5.9mmol)を加え、室温にて10分撹拌を行った。その後cis-シクロオクテン(441mg, 4.0mmol)を混合し室温にて10分反応させ、続いて85°Cまで昇温し3.5時間撹拌した。反応終了後、室温まで冷却させた。固形物を濾過した後、酢酸エチルにて有機層を抽出した。得られた溶液をガスクロマトグラフィーにて測定したところ、生成物として1,2-エポキシシクロオクタンが91%の収率で得られていることが確認された。原料であるcis-シクロオクテンの転化率は94%であった。
【0070】
実施例5
実施例4で回収したポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩(2)(21.0mg, アンモニウム担持量1.02mmol/g)、タングステン酸ナトリウム2水和物(Na2WO4・2H2O, 11.5mg, 0.035mmol)、アミノメチルホスホン酸(NH2CH2PO3H2, 2.3mg, 0.021mmol)を入れた内容積10mlのガラス製容器中に30%過酸化水素水溶液 (470mg, 4.2mmol)を加え、室温にて10分撹拌を行った。その後cis-シクロオクテン(309mg, 2.8mmol)を混合し室温にて10分反応させ、続いて85°Cまで昇温し3.5時間撹拌した。反応終了後、室温まで冷却させた。固形物を濾過した後、酢酸エチルにて有機層を抽出した。得られた溶液をガスクロマトグラフィーにて測定したところ、生成物として1,2-エポキシシクロオクタンが92%の収率で得られていることが確認された。原料であるcis-シクロオクテンの転化率は96%であった。
【0071】
比較例1
以下の化学式 (G)
【0072】
【化12】

【0073】
で表されるポリスチレン担持アンモニウム塩化物 (25.2 mg, アンモニウム担持量1.19 mmol / g)、タングステン酸ナトリウム2水和物 (Na2WO4・2H2O, 26.4 mg, 0.080 mmol)、アミノメチルホスホン酸 (NH2CH2PO3H2, 4.5 mg, 0.040 mmol) を入れた内容積10 mlのガラス製容器中に30%過酸化水素水溶液 (680 mg, 6.0 mmol)を加え、室温にて10分撹拌を行った。その後cis-シクロオクテン (441 mg, 4.0 mmol)を混合し室温にて10分反応させ、続いて85°Cまで昇温し3.5時間撹拌した。反応終了後、室温まで冷却させた。固形物を濾過した後、酢酸エチルにて有機層を抽出した。
【0074】
得られた溶液をガスクロマトグラフィーにて測定したところ、反応はほとんど進行しておらず、生成物として1,2-エポキシシクロオクタンが10%の収率で得られている事が確認された。原料であるcis-シクロオクテンの転化率は18%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニウムアルキル硫酸塩またはアンモニウム硫酸水素塩を有することを特徴とするポリマー。
【請求項2】
前記アンモニウム塩が以下の構造式(A)で表されることを特徴とする請求項1に記載のポリマー。
【化1】

(式中、R1は、炭素数1〜4のアルキル基またはアルケニル基から選ばれる基を表す。R2は水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。R3は炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基又は原子を表す。R2R3は、連結して環を形成していてもよい。R4は、水素又は炭素数1〜4のアルキルまたはアルケニル基から選ばれる基を表す)。
【請求項3】
前記アンモニウム塩が以下の構造式(B)で表されることを特徴とする請求項1に記載のポリマー。
【化2】

(式中、R5は水素原子または炭素数1〜4のアルキル基またはアルケニル基から選ばれる基を表す。R2は水素原子または炭素数1〜12の鎖状、炭素数3〜8の環状のアルキル基、炭素数6〜12の芳香族基から選ばれる基を表す。R2R5は、連結して環を形成していてもよい。R4は、水素又は炭素数1〜4のアルキルまたはアルケニル基から選ばれる基を表す)。
【請求項4】
アンモニウム硫酸水素塩(R4=H)を有する請求項1〜3のいずれかに記載のポリマーの製造法において、対応する4級アンモニウムハライドと硫酸を反応させることを特徴とするアンモニウム硫酸水素塩を有するポリマーの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれかに記載のアンモニウムアルキル硫酸塩(R4≠H)を有するポリマーの製造法において、N−1置換またはN,N-2置換アミノメチル基を有するポリマーと、ジアルキル硫酸を反応させることを特徴とするポリマー担持アンモニウムアルキル硫酸塩の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれかに記載のアンモニウム硫酸水素塩(R4=H)を有するポリマーの製造法において、ポリマー担持アンモニウムアルキル硫酸塩に対して、硫酸を反応させることを特徴とするポリスチレン担持アンモニウム硫酸水素塩の製造方法。
【請求項7】
6族金属化合物と、請求項1〜6のいずれかに記載のアンモニウムアルキル硫酸塩またはアンモニウム硫酸水素塩を有することを特徴とするポリマーの存在下に、有機溶媒または無溶媒中で、オレフィン類と過酸化水素水とを反応させることを特徴とするエポキシ化合物の製造方法。
【請求項8】
次の構造式(C)で表されるα−アミノメチルホスホン酸、
【化3】

(式中、R6 〜R9 はそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜18のアルキル基またはアリール基を表す)を添加することを特徴とする請求項7に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項9】
前記6族金属化合物が、モリブデン化合物またはタングステン化合物であることを特徴とする請求項7または8に記載のエポキシ化合物の製造方法。
【請求項10】
無溶媒で反応を行う請求項7〜9のいずれかに記載のエポキシ化合物の製造方法。

【公開番号】特開2008−94916(P2008−94916A)
【公開日】平成20年4月24日(2008.4.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−276493(P2006−276493)
【出願日】平成18年10月10日(2006.10.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)【国等の委託研究の成果に係る記載事項】 国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成18年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「有害化学物質リスク削減基盤技術研究開発(非フェノール系樹脂原料を用いたレジスト材料の開発)」に係る委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】