説明

新規なコハク酸イミド化合物とその製造方法及び該化合物を含有した潤滑油添加剤、並びに該化合物を配合したディーゼルエンジン用潤滑油組成物

【課題】新しいタイプのコハク酸イミド化合物とその製造方法、該化合物を含有する潤滑油添加剤、SOXに対して優れた腐食摩耗防止性を示すディーゼルエンジン用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】酸化合物とポリアミンとの反応物であって、IRスペクトルにおいて、1640±10cm-1の吸光度ピーク(αピーク)及び1700±10cm-1の吸光度ピーク(βピーク)が存在し、かつαピークとβピークの強度比(αピークの強度/βピークの強度)が0.12以上であるコハク酸イミド化合物。その製造方法、該化合物を含有した潤滑油添加剤、潤滑油基油に、(A)過塩基性アルカリ土類金属のスルホネート、フェネート及びサリチレートからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物及び(B)上記のコハク酸イミド化合物を配合してなるディーゼルエンジン用潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規なコハク酸イミド化合物とその製造方法及び該化合物を含有した潤滑油添加剤並びに該化合物を配合したディーゼルエンジン用潤滑油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
コハク酸イミド化合物は、金属系清浄分散剤の酸中和作用を促進するためなどの目的で、金属系清浄分散剤と組み合わせて各種潤滑油の添加剤として使用されている。例えば、ディーゼルエンジン用潤滑油について述べると次の通りである。
【0003】
一般に、ディーゼルエンジンに使用される燃料は硫黄分が多いため、ディーゼルエンジン排ガスには多量のSOX (硫黄酸化物)が含まれている。このSOXは排ガス中の水分と反応して硫酸が生成する。生成した多量の硫酸は、ディーゼルエンジン用潤滑油の油膜を破断し、ディーゼルエンジンの構成材料を腐食させ摩耗させる。特に、船舶用2サイクルエンジンにおいては、シリンダーライナーやピストンリングが腐食摩耗の厳しい部分であり、この腐食摩耗を防止する能力を有することが、ディーゼルエンジン用潤滑油にとって非常に重要なことである。従来では、過塩基性の金属系清浄分散剤をある程度添加すれば、生成した硫酸はそれにより中和されるため、シリンダーライナーやピストンリングの腐食摩耗の問題は生じなかった。ところが、最近の陸上ディーゼルエンジンでは、排ガス対策として排ガスを循環させて再燃焼させるシステム(EGR)を装備しており、その結果排ガス中のSOXは従来のディーゼルエンジンよりも増加の傾向を示している。また、船舶用ディーゼルエンジンにおいても、最近では経費節減のために、硫黄分が多い低品質の燃料が多く用いられており、陸上ディーゼルエンジンと同様に、排ガス中のSOXは増加の傾向を示している。このような、多量のSOXが水分と反応して生成した多量の硫酸は、過塩基性の金属系清浄分散剤の量を単純に増加させただけでは、腐食摩耗を防止できる程度までに中和されることはない。それで、金属系清浄分散剤と無灰分散剤などの添加剤を組み合わせることにより、金属系清浄分散剤の酸中和作用を促進し、シリンダーライナーやピストンリングの腐食摩耗を防止する試みがなされている。例えば、特開平6−271885号公報の実施例には、Ca−サリチレートとビス型のアルケニルコハク酸イミドを含む添加剤が開示されているが、そこで使用されているアルケニルコハク酸イミドで酸中和作用を促進するには、さらにアミンモリブデンコンプレックスをも添加する必要があり、新しいタイプのコハク酸イミド化合物の開発が望まれている。
【0004】
一方、酸中和反応速度はシリンダーライナーやピストンリングの腐食摩耗と相関があることが知られており、潤滑油の酸中和反応速度を評価すれば、ディーゼルエンジン用潤滑油のシリンダーライナーやピストンリングの腐食摩耗防止能力を評価することができる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記観点からなされたもので、新しいタイプのコハク酸イミド化合物とその製造方法を提供し、及び該化合物を含有する潤滑油添加剤を提供し、更に多量のSOXが排出されるディーゼルエンジンに使用される潤滑油組成物であって、この多量に排出されるSOXに対して優れた腐食摩耗防止性を示すディーゼルエンジン用潤滑油組成物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前述した酸中和速度に着目して鋭意研究を重ねた結果、新しいタイプのコハク酸イミドを見出し本発明を完成したものである。すなわち、本願の第一の発明は、一般式(1)又は(2)で表される酸化合物とポリアミンとの反応物であって、IRスペクトルにおいて、1640±10cm-1の吸光度ピーク(αピーク)及び1700±10cm-1の吸光度ピーク(βピーク)が存在し、かつαピークとβピークの強度比(αピークの強度/βピークの強度)が0.12以上であるコハク酸イミド化合物である。
【0007】
【化1】

【0008】
(式中、Rは炭素数2〜15のオレフィン重合物から形成された数平均分子量200〜4000を有するアルケニル基又はアルキル基を示す。)
本願の第二の発明は、上記ポリアミンに対してモル比で2.0倍以上の上記の酸化合物を反応させることを特徴とする上記のコハク酸イミド化合物の製造方法である。
【0009】
本願の第三の発明は、上記コハク酸イミド化合物を含有することを特徴とする潤滑油添加剤である。本願の第四の発明は、潤滑油基油に、(A)過塩基性アルカリ土類金属のスルホネート、フェネート及びサリチレートからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物及び(B)上記のコハク酸イミド化合物を配合してなるディーゼルエンジン用潤滑油組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のコハク酸イミド化合物を配合したディーゼルエンジン用潤滑油組成物は、極めて速い酸中和速度を示し、多量に排出されるSOX に対して優れた腐食摩耗防止性を示し、特に船舶用2サイクルエンジンのシリンダー油として好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態を説明する。本願の第一の発明において、ポリアミンと反応させる酸化合物は、下記の一般式(1)又は(2)で表される。
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Rは炭素数2〜15のオレフィン重合物から形成された数平均分子量200〜4000を有するアルケニル基又はアルキル基を示す。)
この一般式(1)又は(2)中のRは炭素数2〜15のオレフィン重合物から形成された数平均分子量200〜4000を有するアルケニル基又はアルキル基を示すが、その数平均分子量は500〜3000が好ましく、700〜2300がより好ましい。好ましいアルケニル基はポリイソブテニル基である。
【0014】
該酸化合物のうちRがアルケニル基の場合、ポリイソブテンやエチレン−プロピレン共重合体を無水マレイン酸又はマレイン酸と反応することによって得ることができる。Rがアルキル基の場合には、前記のアルケニル基を水添することによって得ることができる。上記のコハク酸イミド化合物は、ポリアミンに対してモル比で2.0倍以上、好ましくは2.2倍以上の上記の酸化合物を反応させることによって得ることができる。このポリアミンの例としては、例えば、エチレンジアミン,プロピレンジアミン,ブチレンジアミン,ペンチレンジアミンなどの単一アルキレンジアミン、ジエチレントリアミン,トリエチレンテトラミン,テトラエチレンペンタミン,ペンタエチレンヘキサミン,ジブチレントリアミン,トリブチレンテトラミン,ペンタペンチレンヘキサミンなどのポリアルキレンポリアミンなどを挙げることができる。本発明のコハク酸イミド化合物は、IRスペクトルにおいて、1640±10cm-1の吸光度ピーク(αピーク)及び1700±10cm-1の吸光度ピーク(βピーク)が存在する。そのαピークとβピークの強度比(αピークの強度/βピークの強度)は0.12以上であり、0.15以上であるのがより好ましい。該強度比が0.12未満であると、酸中和効果が低減し好ましくない。
【0015】
なお、吸光度ピークの強度とは、バックグランドを差し引いた、そのピーク高さをいう。次に、本願の第三の発明は、上記コハク酸イミド化合物を含有することを特徴とする潤滑油添加剤である。潤滑油の種類によって異なるが、一般にコハク酸イミド化合物の割合は添加剤全量基準で、0.25〜40重量%である。
【0016】
更に、本願の第四の発明のディーゼルエンジン用潤滑油組成物は、潤滑油基油に、(A)過塩基性アルカリ土類金属のスルホネート、フェネート及びサリチレートからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物及び(B)上記のコハク酸イミド化合物を配合してなるディーゼルエンジン用潤滑油組成物である。本発明の潤滑油組成物における潤滑油基油として鉱油及び/又は合成油が用いられる。この鉱油や合成油については、一般に内燃機関用潤滑油の基油として用いられているものであればよく、特に制限はないが、100℃における動粘度が8〜35mm2/sの範囲にあるものが好ましく、10〜25mm2/sの範囲にあるものがより好ましい。基油の動粘度が35mm2/sより高いと燃費が悪化し、逆に、8未満であると蒸発性が高く、オイル消費が多くなり好ましくない。また、この基油の低温流動性の指標である流動点については特に制限はないが、通常−10℃以下であることが好ましい。
【0017】
このような鉱油,合成油は各種のものがあり、用途などに応じて適宜選定すればよい。鉱油としては、例えばパラフィン系鉱油,ナフテン系鉱油,中間基系鉱油などが挙げられ、具体例としては、溶剤精製または水添精製による軽質ニュートラル油,中質ニュートラル油,重質ニュートラル油,ブライトストックなどを挙げることができる。
【0018】
一方合成油としては、例えば、ポリα−オレフィン,α−オレフィンコポリマー,ポリブテン,アルキルベンゼン,ポリオールエステル,二塩基酸エステル,多価アルコールエステル,ポリオキシアルキレングリコール,ポリオキシアルキレングリコールエステル,ポリオキシアルキレングリコールエーテルなどを挙げることができる。これらの基油は、それぞれ単独で、あるいは二種以上を組み合わせて使用することができ、鉱油と合成油を組み合わせて使用してもよい。
【0019】
次に、潤滑油基油に配合される(A),(B)成分について説明する。
(A)成分
本発明の(A)成分は、従来金属系清浄分散剤として使用されている過塩基性アルカリ土類金属のスルホネート、フェネート及びサリチレートからなる群から選ばれる化合物である。これら化合物の好ましい全塩基価は100〜600mgKOH/g(JIS K−2501:過塩素酸法)である。全塩基価が100mgKOH/gより低いと、添加量を多くしないと効果が得られないため、経済的に不利である。一方、塩基価が600mgKOH/gを超えると、潤滑油中の灰分が増加し、長時間使用した場合多量のデポジットが生成するおそれがあり好ましくない。
【0020】
(A)成分として使用できる過塩基性アルカリ土類金属のスルホネートは、各種スルホン酸のアルカリ土類金属塩であり、通常、各種スルホン酸のアルカリ土類金属塩を炭酸化する方法により得られる。このスルホン酸としては、芳香族石油スルホン酸、アルキルスルホン酸、アリールスルホン酸、アルキルアリールスルホン酸等の各種スルホン酸が使用できる。これらのうち好適なものとして、具体的には、ドデシルベンゼンスルホン酸、ジラウリルセチルベンゼンスルホン酸、パラフィンワックス置換ベンゼンスルホン酸、ポリオレフィン置換ベンゼンスルホン酸、ポリイソブチレン置換ベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸などを挙げることができる。
【0021】
より好ましい過塩基性アルカリ土類金属のスルホネートとしては、次の一般式(3)または(4)に示される化合物にアルカリ土類金属の炭酸塩を付加させた化合物を挙げることができる。
【0022】
【化3】

【0023】
(ここで、式中、R1,R2は、それぞれアルキル基、好ましくは炭素数20〜30のアルキル基であり、R ,R2は同じであっても異なってもよい。またMは、アルカリ土類金属、好ましくは、カルシウム、マグネシウム、バリウムを表わす。)
【0024】
【化4】

【0025】
(ここで、式中、R1,R2,Mは、それぞれ一般式(3)と同じである。また、R3はアルキレン基、好ましくは炭素数10〜40、さらに好ましくは炭素数20〜30のアルキレン基を表わす。)
また他の(A)成分である過塩基性アルカリ土類金属のフェネートは、アルキルフェノール又は硫化アルキルフェノールのアルカリ土類金属塩であり、通常、アルキルフェノールまたは硫化アルキルフェノールのアルカリ土類金属塩を炭酸化する方法により得られる。
【0026】
好ましい過塩基性アルカリ土類金属のフェネートとしては、次の一般式(5)または(6)に示される化合物にアルカリ土類金属の炭酸塩を付加させた化合物を挙げることができる。
【0027】
【化5】

【0028】
(ここで、式中、R4,R5は、それぞれアルキル基、好ましくは炭素数1〜40、さらに好ましくは炭素数5〜30のアルキル基であり、R4,R5は同じであっても異なってもよい。またMは、アルカリ土類金属、好ましくは、カルシウム、マグネシウム、バリウムを示し、xは1または2の整数である。)
【0029】
【化6】

【0030】
(ここで、式中、R4,R5,M,xは、それぞれ一般式(5)と同じである。)
さらにその他の(A)成分である過塩基性アルカリ土類金属のサリチレートは、アルキルサリチル酸のアルカリ土類金属塩であり、通常、炭素数8〜18のα−オレフィンでフェノールをアルキル化し、次いでコルベシュミット反応でカルボキシル基を導入した後、複分解し、炭酸化する方法により得られる。
【0031】
具体的には、次の式(7)に示される化合物にアルカリ土類金属の炭酸塩を付加させた化合物が過塩基性アルカリ土類金属のサリチレートとして使用できる。
【0032】
【化7】

【0033】
(ここで、式中、R6,R7は、それぞれアルキル基、好ましくは炭素数1〜40、さらに好ましくは炭素数5〜30のアルキル基であり、R6,R7は同じであっても異なってもよい。またMは、アルカリ土類金属、好ましくは、カルシウム、マグネシウム、バリウムを示し、xは1または2の整数である。)
アルキルサリチル酸の具体的例としては、ドデシルサリチル酸,ドデシルメチルサリチル酸,テトラデシルサリチル酸,ヘキサデシルサリチル酸,オクタデシルサリチル酸,ジオクチルサリチル酸などを挙げることができる。
【0034】
以上のスルホネート,フェネート,サリチレートのアルカリ土類金属としては、カルシウム,バリウム,マグネシウム等が挙げられるが、効果の点でカルシウムが好ましい。本発明においては、上記(A)成分は一種用いてもよく、二種以上を用いてもよい。また、その配合量は、組成物全量基準で、5〜40重量%の範囲が好ましく、10〜30重量%の範囲がより好ましい。5重量%未満では、(B)成分との相乗効果による酸中和効果が不十分な場合があり、40重量%を超えても、配合量に相当する効果の向上がみられない場合がある。
【0035】
(B)成分
前記のコハク酸イミド化合物を(B)成分として使用するが、一種用いてもよく、二種以上を用いてもよい。また、その配合量は、組成物全量基準で、0.1〜3重量%の範囲が好ましく、0.3〜2重量%の範囲がより好ましい。0.1重量%未満では、(A)成分との相乗効果による酸中和効果が不十分な場合があり、3重量%を超えても、配合量に相当する効果の向上がみられない場合がある。
【0036】
なお、本発明の組成物の全塩基価は、30〜150mgKOH/g(JISK−2501:過塩素酸法)の範囲に調整しておくのが好ましい。より好ましくは、40〜100mgKOH/gの範囲である。全塩基価が30mgKOH/g未満であると酸中和性が劣り、全塩基価が150mgKOH/gより高いと潤滑油中の灰分が増加し、長時間使用した場合多量のデポジットが生成するおそれがある。
【0037】
また、本発明の組成物はその全窒素原子濃度が、10〜200重量ppmの範囲に調整しておくのが好ましく、20〜100重量ppmの範囲がより好ましい。全窒素原子濃度が、10重量ppm未満であると酸中和効果が劣り、200重量ppmより高いと潤滑油が酸化劣化する過程でスラッジが生成しやすくなるおそれがある。
【0038】
本発明の組成物は、潤滑油基油に上記(A)及び(B)成分を配合することにより得られるが、通常潤滑油の物性向上のために、酸化防止剤,粘度指数向上剤,金属不活性剤,流動点降下剤,耐摩耗剤,消泡剤,極圧剤などの添加剤を適宜配合することもできる。このような添加剤は様々なものがあるが、特に制限はなく、従来から知られている各種添加剤が使用できる。酸化防止剤としては、例えばアルキル化ジフェニルアミン,フェニル−α−ナフチルアミンなどのアミン系化合物、2,6−ジ−t−ブチルフェノール,4,4’−メチレンビス−(2,6−ジ−t−ブチルフエノール)などのフェノール系化合物を挙げることができ、これらは、通常、組成物全量基準で、0.05〜2重量%の割合で使用される。粘度指数向上剤としては、例えばポリメチルメタクリレート系,ポリイソブチレン系,エチレン−プロピレン共重合体系,スチレン−イソプレン共重合体系,スチレン−ブタジエン水添共重合体系などを挙げることができ、これらは、通常、組成物全量基準で、0.5〜30重量%の割合で使用される。金属不活性剤としては、ベンゾトリアゾール,チアジアゾール,アルケニルコハク酸エステルなどを挙げることができ、これらは、通常、組成物全量基準で、0.005〜1重量%の割合で使用される。流動点降下剤としては、ポリアルキルメタクリレート,ポリアルキルスチレンなどを挙げることができ、これらは、通常、組成物全量基準で、0.01〜1重量%の割合で使用される。耐摩耗剤としては、MoDTP,MoDTCなどの有機モリブデン化合物、ZnDTPなどの有機亜鉛化合物、アルキルメルカプチルボレートなどの有機ホウ素化合物、グラファイト,二硫化モリブデン,硫化アンチモン,ホウ素化合物,ポリテトラフルオロエチレンなどの固体潤滑剤系耐摩耗剤などを挙げることができ、これらは、通常、組成物全量基準で、0.1〜3重量%の割合で使用される。消泡剤としては、ジメチルポリシロキサン,ポリアクリレートなどを挙げることができ、通常、組成物全量基準で、0.0005〜1重量%の割合で使用される。極圧剤としては、硫化油脂,ジアリルジスルフィドなどを挙げることができ、通常、組成物全量基準で、0.1〜15重量%の割合で使用される。
【実施例】
【0039】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
実施例1〜3及び比較例1,2
数平均分子量1000のポリイソブテニル基を有するポリイソブテニルコハク酸無水物とテトラエチレンペンタミン又はペンタエチレンヘキサミンを第1表に示す割合で反応させてコハク酸イミド化合物を製造し、基油として100℃における動粘度20mm2/sの鉱油85.5重量%にコハク酸イミド化合物0.5重量%、全塩基価500(JIS K−2501:過塩素酸法)のCa−スルホネート14.0重量%を配合し実施例及び比較例のディーゼルエンジン用潤滑油組成物を調製した。これら実施例と比較例の組成物につき、下記の要領で酸中和反応速度の評価及び安定性試験を行った。その結果を第1表に示す。
【0040】
(1)酸中和反応速度の評価法
枝付き1リットルの丸底フラスコに、供試油として実施例及び比較例の組成物100g入れ、供試油が200℃になったら濃度35.9Nの硫酸1ミリリットルを添加し攪拌する。下記の反応式(1)のように酸中和反応により炭酸ガスが発生する。
CaCO3+H2SO4 → CaSO4+H2O+CO2 ↑ ・・・(1)
発生した炭酸ガスによる圧力変動(硫酸添加30秒後の系内の圧力上昇)から酸中和反応速度を評価する。圧力上昇値が大きいほど、腐食摩耗を抑制できると評価される。
(2)安定性試験
実施例及び比較例のディーゼルエンジン用潤滑油組成物を1ケ月間放置し、透明度をチェックした。
○・・・透明 ×・・・曇り有り
【0041】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明のコハク酸イミド化合物を配合したディーゼルエンジン用潤滑油組成物は、極めて速い酸中和速度を示し、多量に排出されるSOX に対して優れた腐食摩耗防止性を示し、特に船舶用2サイクルエンジンのシリンダー油として好適である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑油基油に、
(A)過塩基性アルカリ土類金属のスルホネート、フェネート及びサリチレートからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物及び
(B)一般式(1)又は(2)で表される酸化合物とポリアミンとの反応物であって、IRスペクトルにおいて、1640±10cm-1の吸光度ピーク(αピーク)及び1700±10cm-1の吸光度ピーク(βピーク)が存在し、かつαピークとβピークの強度比(αピークの強度/βピークの強度)が0.12以上であるコハク酸イミド化合物
を配合してなるディーゼルエンジン用潤滑油組成物。
【化1】

(式中、Rは炭素数2〜15のオレフィン重合物から形成された数平均分子量200〜4000を有するアルケニル基又はアルキル基を示す。)
【請求項2】
(B)成分のコハク酸イミド化合物のαピークとβピークの強度比(αピークの強度/βピークの強度)が0.15以上である請求項1に記載のディーゼルエンジン用潤滑油組成物。
【請求項3】
組成物全量基準で、(A)成分が5〜40重量%、(B)成分が0.1〜3重量%である請求項1または2に記載のディーゼルエンジン用潤滑油組成物。
【請求項4】
船舶用ディーゼルエンジン用である請求項1〜3のいずれかに記載のディーゼルエンジン用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2008−260946(P2008−260946A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−129715(P2008−129715)
【出願日】平成20年5月16日(2008.5.16)
【分割の表示】特願平9−296810の分割
【原出願日】平成9年10月29日(1997.10.29)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】