説明

新規なセスキテルペン

【課題】強い抗真菌活性を有し、副作用が少ない真菌感染症の治療に有用である化合物を提供すること。
【解決手段】一般式


「式中、Rは、ヒドロキシル基で置換されていてもよいC1−3アルキル基を;Rは、水素原子またはヒドロキシル基を示す。」で表される化合物またはその塩は、強い抗真菌活性を有し、抗真菌剤として有用である

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真菌病原体によって引き起こされる真菌感染症の治療に有用な新規なセスキテルペンに関する。
【背景技術】
【0002】
侵襲性カンジダ症などの重篤な深在性真菌症は、しばしば致死的疾患となる。本来、カンジダなどの真菌に対する宿主生体側の主要な防御機構は、好中球による非特異免疫によると考えられており、この防御機構が正常に機能している場合には真菌に感染する危険性は少ない。しかしながら、近年、この生体の免疫機能の低下をもたらす悪性腫瘍(特に急性白血病、悪性リンパ腫などの造血器系悪性腫瘍)およびエイズなどの基礎疾患を有する患者数の増加、制癌剤・免疫抑制剤などの繁用、抗菌抗生物質・ステロイドホルモンの多用、長期にわたる中心静脈栄養および静脈カテーテルの使用などにより深在性真菌症に罹患する危険が増大している(非特許文献1)。
このような深在性真菌症の治療を適用とした薬剤は、抗菌剤と比較してはるかに少なく、アムホテリシンB、フルシトシン、ミコナゾール、フルコナゾール、ホスフルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾールおよびミカファンギンなどにすぎない。
【0003】
一方で、カンジダ、クリプトコッカスおよびアスペルギルスなどの真菌病原体による日和見真菌感染症に対して、安全で有効な薬剤がますます必要とされている。
現在使用されている薬剤、たとえば、アムホテリシンBは、殺菌作用が非常に強いが、腎毒性などの副作用の問題があり、臨床使用には制約がある。フルシトシンは、耐性化などの問題がある。ミカファンギンは、クリプトコッカス属に活性を示さない。フルコナゾールおよびボリコナゾールなどのアゾールは、有効性と安全性の兼ね合いから、現在、最も多用されているが、真菌に対する殺菌作用は、アムホテリシンBよりも劣る(非特許文献2、3)。
【0004】
また、セスキテルペンが、知られている(特許文献1)。このセスキテルペンは、たとえば、真菌Acremonium strictumを栄養培地で培養し、セスキテルペンを培地から単離することにより製造することができる。しかし、セスキテルペンの物理的特性の記載はあるものの、抗真菌活性についての記載は、無い。
【0005】
【特許文献1】特表平8-504804号公報
【非特許文献1】臨床と微生物、1990年、第17巻、p.265−266
【非特許文献2】臨床と微生物、1994年、第21巻、p.277−283
【非特許文献3】臨床と微生物、2003年、第30巻、p.595−614
【非特許文献4】深在性真菌症の診断・治療ガイドライン、2003年、p.20、29、医歯薬出版株式会社
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
強い抗真菌活性を有し、副作用が少ない真菌感染症の治療に有用である化合物が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような状況下において、本発明者らは、鋭意検討を行った結果、神奈川県横浜市青葉区において採集した朽ち木より直接分離法によって分離されたTAMA116を培養することにより、一般式[1]
【化1】

「式中、Rは、ヒドロキシル基で置換されていてもよいC1−3アルキル基を;Rは、水素原子またはヒドロキシル基を示す。」で表される新規なセスキテルペンまたはその塩を製造できること、および、一般式[1]で表される新規なセスキテルペンまたはその塩が、強い抗真菌活性を有し、真菌感染症の治療に有用であることを見出し、本発明を完成した。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造法は、一般式[1]で表されるセスキテルペンの製造に有用であり、本発明のセスキテルペンは、強い抗真菌活性を有し、真菌感染症の治療に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明について詳述する。
本明細書において、特にことわらない限り、各用語は、次の意味を有する。
1−3アルキル基とは、メチル、エチル、プロピルまたはイソプロピル基を意味する。
脂肪族炭化水素類とは、ペンタン、ヘキサンまたはシクロヘキサンを意味する。
ハロゲン化炭化水素類とは、塩化メチレン、クロロホルムまたはジクロロエタンを意味する。
アルコール類とは、メタノール、エタノール、プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、2−メチル−2−プロパノール、ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、ヘキサノール、2−ヘキサノールまたは3−ヘキサノールを意味する。
エーテル類とは、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテルまたはジエチレングリコールジエチルエーテルを意味する。
エステル類とは、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピルまたは酢酸ブチルを意味する。
芳香族炭化水素類とは、ベンゼン、トルエンまたはキシレンを意味する。
HPLCとは、高速液体クロマトグラフィーを意味する。
【0010】
一般式[1]で表される化合物の塩としては、たとえば、ナトリウムおよびカリウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウムおよびマグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;アンモニウム塩;ならびにトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N,N−ジメチルアニリン、N−メチルピペリジン、N−メチルモルホリン、ジエチルアミン、ジシクロヘキシルアミン、プロカイン、ジベンジルアミン、N−ベンジル−β−フェネチルアミンおよびN,N’−ジベンジルエチレンジアミンなどの有機塩基との塩が挙げられる。
さらに、上記、塩の中で一般式[1]で表される化合物の好ましい塩としては、薬理学的に許容される塩が挙げられる。
【0011】
本発明の一般式[1]で表される化合物において、好ましい化合物としては、以下の化合物が挙げられる。
が、ヒドロキシル基で置換されていてもよいメチル基である化合物が好ましく、メチル基である化合物がより好ましい。
が、水素原子である化合物が好ましい。
【0012】
本発明の代表的化合物としては、たとえば、表1に記載の化合物が挙げられる。
【0013】
【表1】

【0014】
本発明化合物において、互変異性体、溶媒和物、水和物および種々の形状の結晶が存在する場合、これらの互変異性体、溶媒和物、水和物および種々の形状の結晶も使用することができる。
本発明化合物を医薬として用いる場合、通常、製剤化に使用される賦形剤、担体および希釈剤などの製剤補助剤を適宜混合してもよい。これらは常法にしたがって、錠剤、カプセル剤、散剤、シロップ剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、乳剤、液剤、粉体製剤、坐剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、貼付剤、軟膏剤または注射剤などの形態で経口または非経口で投与することができる。また投与方法、投与量および投与回数は、患者の年齢、体重および症状に応じて適宜選択することができる。通常、成人に対しては、経口または非経口(たとえば、注射、点滴および直腸部位への投与など)投与により、1日、0.01〜1000mg/kgを1回から数回に分割して投与すればよい。
【0015】
次に、本発明化合物の製造に用いられる菌株について説明する。
【0016】
1.菌株の単離
本発明に用いられるTAMA116は、2003年11月14日、神奈川県横浜市青葉区において採集した朽ち木より直接分離法によって分離された。
すなわち、滅菌したカップに湿らせた滅菌濾紙および朽ち木のサンプルを入れ、室温で1ヶ月間培養した。培養後、実体顕微鏡下でサンプル上に形成された胞子および分生子を分離し、培地に接種した。コンタミネーションの無いことを確認した後、菌体および分生子を10%グリセリン水溶液に懸濁し、−80℃で保存した。
【0017】
2.菌株の分類
2.1.形態観察
凍結ストックから起こしたTAMA116を三浦寒天培地(グルコース1g、リン酸二水素カリウム1g、硫酸マグネシウム7水和物0.2g、塩化カリウム0.2g、硝酸ナトリウム2g、粉末酵母エキスS(日本製薬)0.2g、寒天(和光純薬)20g、蒸留水1L)、麦芽エキス寒天培地(麦芽エキス(Difco)20g、寒天(和光純薬)20g、イオン交換水1L)およびオートミール寒天培地(Actino Medium No.3(和光純薬)23g、蒸留水1L)に三点植菌した。25℃、暗黒下で15日間培養した後、コロニーを観察した。
【0018】
2.1.1.肉眼的観察
三浦寒天培地で培養されたコロニーの直径は、60mm以上であった。コロニーは、薄く、ビロード状であった。中心ほど色が濃く、赤みがかった明黄色(10YR8/6-8/8)であった。裏面は、表面よりも若干白味がかっていた(10YR8/6-8/4)。コロニーの中程まで着色していたが、コロニーの外側は無色であった。
麦芽エキス寒天培地で培養されたコロニーの直径は、60mm以上であった。コロニーは、薄く、ビロード状ないしスライム状であった。中心から放射状に菌糸が発達していた。中心は、やや赤みがかった白色であった。コロニー表面は、全体的に明橙色(10YR8/10-7/12)であり、裏面も同様(10YR8/10-7/10)であった。
オートミール寒天培地で培養されたコロニーの直径は、60mm以上であった。コロニーは、ビロード状から羊毛状であり、各所に毛玉のように絡み合って発達した菌糸塊が認められた。コロニー表面は、全体的に明橙色(10YR8/8-7/12)であり、裏面も同様(10YR8/6-8/12)であった。
【0019】
2.1.2.顕微鏡観察
三浦寒天培地で培養されたコロニーを顕微鏡下で観察した。
分生子構造は、縄状菌糸から生ずるか寒天中に形成された。菌糸は、やわらかく、容易に切断可能であった。フィアライドは、主として単純なオルソ型であったが、一部に分岐(11.0-28.0×1.0-2.0μm)が認められた。
分生子は、フィアライド先端に塊状に形成され、その形状は、円筒形ないし楕円形であり、わずかにソーセージ形のものも認められた。分生子は、無色、平滑(3.5-8.0×1.5-3.0μm)であり、厚壁胞子は認められなかった。
菌糸および分生子は、コットンブルーで強く染まらなかった。
麦芽エキス寒天培地およびオートミール寒天培地で培養されたコロニーも同様であった。
【0020】
2.2.分類
上記観察で認められた本菌株の形態的特徴は、アクレモニウム・ストリクトゥム(Acremonium strictum)と矛盾しない。
本菌株をAcremonium sp. TAMA116と命名した。
【0021】
3.寄託
TAMA116は、独立行政法人 産業技術総合研究所 特許生物寄託センターに平成22年2月16日に受領番号FERM AP−21916として寄託されている。
【0022】
前記の説明は、本発明のセスキテルペンの製造に使用される菌株に関するものである。しかしながら、本発明はまた、前記の菌株の変異体をも包含する。菌株の変異体としては、自然選択によって得られる菌株および人工的突然変異によって得られる菌株が挙げられる。
人工的突然変異は、紫外線およびイオン化放射線の照射、ならびに、ナイトロジェンマスタード、亜硝酸、ニトロソグアニジンおよびN−メチル−N’−ニトロ−N−ニトロソグアニジンなどの化学的変異源物質の処理によって行うことができる。
【0023】
TAMA116は、新規に発見された株である。従って、本発明は、この微生物の生物学的に純粋な培養物も提供する。このような培養物は、他の微生物を実質的に含まない。
【0024】
本発明は、更に、本発明のセスキテルペンの製造法を提供する。
本発明のセスキテルペンの製造法は、(1)TAMA116、または、一般式[1]で表されるセスキテルペンまたはその塩を産生するTAMA116の変異株を、同化可能な炭素源、窒素源およびミネラル源を含む水性栄養培地中、好気的条件下で培養し、(2)前記セスキテルペンを醗酵ブロスから回収し、(3)前記セスキテルペンを精製および単離し、(4)所望により、前記セスキテルペンを医薬または動物薬として許容されるその塩に変換する、ことからなる。
【0025】
本発明のセスキテルペンは、たとえば、TAMA116を用いて、固体培地または液体培地中で、好気性醗酵することにより製造することができる。
固体培地および液体培地としては、たとえば、細菌、真菌および藻類の培養に通常使用される培地が挙げられる。
これらの培地に、必要に応じて、炭素源、窒素源およびミネラル源を添加することができる。
炭素源としては、たとえば、ブドウ糖、麦芽糖、澱粉、グリセロール、糖蜜、デキストリン、乳糖、蔗糖、果糖、カルボン酸、アミノ酸、グリセリド、アルコールまたは植物油が挙げられる。
窒素源としては、たとえば、大豆ミール、コーンティープリカー、ディスティラーズソリュブル、酵母エキス、綿実ミール、ペプトン、落花生ミール、麦芽エキス、糖蜜、カゼイン、アミノ酸混合物、アンモニア、尿素、アンモニウム塩または硝酸塩が挙げられる。
ミネラル源としては、たとえば、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、鉄、マグネシウム、亜鉛、ニッケル、コバルト、マンガン、バナジウム、クロム、カルシウム、銅、モリブデン、硼素、燐酸塩、硫酸塩、塩化物または炭酸塩のイオンを生成しうる一般的に用いられる塩が挙げられる。
これらの培地に緩衝液を加えることにより、pHを調整することができる。
これらの培地に消泡剤を添加することにより、過度の泡立ちを抑制することができる。消泡剤としては、たとえば、BY11−007(東レ・ダウコーニング)、SH200(東レ・ダウコーニング)またはKS−69(信越化学工業)が挙げられる。消泡剤は、一括または分割して添加することができる。
【0026】
TAMA116を用いる醗酵は、20〜35℃、好ましくは、23〜30℃で行うことができる。
本発明化合物を産生するのに好適な培地のpHの範囲は、5.0〜8.5、好ましくは、6.0〜7.5である。
【0027】
小規模の醗酵は、以下の手順で行うことができる。
好適な量の培地をフラスコに入れ、高圧蒸気滅菌などの公知の滅菌技術により滅菌する。次いで、TAMA116の菌体および/または胞子を添加し、フラスコをゆるく綿栓する。約25℃で、10〜30日間、静置または回転振盪して醗酵させる。
【0028】
大規模の醗酵は、攪拌器および曝気手段を備えたタンク中で行うことが好ましい。
好適な量の培地をタンクに加え、高圧蒸気滅菌などの公知の滅菌技術により滅菌する。次いで、TAMA116の菌体および/または胞子を添加し、20〜35℃で、5〜20日間、攪拌および/または曝気しながら醗酵させる。
【0029】
発酵の間、本発明のセスキテルペンの生産量は、たとえば、HPLC法によって監視することができる。
本発明のセスキテルペンは、醗酵終了後、菌糸体中に主に見出される。
醗酵ブロスからの回収は、たとえば、有機溶媒を用いる抽出などの公知の方法で行うことができる。具体的には、醗酵ブロスに有機溶媒を添加し、混合した後、不溶物を除くことにより本発明のセスキテルペンを含有する溶液を得ることができる。
有機溶媒としては、脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、アルコール類、エーテル類、エステル類または芳香族炭化水素類が挙げられ、アルコール類が好ましく、ブタノールがより好ましい。
不溶物の除去は、静置、濾過および遠心分離などによって行えばよい。
【0030】
本発明のセスキテルペンの精製および単離は、たとえば、ゲル濾過、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、HPLC、濃縮、沈殿または結晶化などの公知の方法ならびにそれらを組合せることによって行うことができる。たとえば、シリカゲルカラムクロマトグラフィーによって、粗製物を得た後、HPLCによって精製物を得ることができる。
【0031】
次に、本発明化合物の有用性を以下の試験例で説明する。
【0032】
試験例1:抗真菌作用
真菌に対する感受性試験は、微量液体希釈法を用いて行った。
被験物質として、表1に記載の化合物1、2および3を用いた。
感受性試験に用いる培地は、終濃度0.165mol/Lモルホリンプロパンスルホン酸(MOPS)および1.0mol/L水酸化ナトリウムにてpH7.0に調整したRPMI1640(RPMI/MOPS)を用いた。
被験物質を滅菌水に溶解し、96ウエルの丸底プレート上で、0.1mLのRPMI/MOPSを用いて2倍段階希釈した。サブロー寒天培地にて35℃一晩培養したカンジダアルビカンス(Candida albicans)TIMM1623を滅菌生理食塩水に懸濁した。細胞数を生物顕微鏡で計数し、接種菌液(2×103cells/mL)をRPMI/MOPSで調製後、その0.1mLを各ウエルに分注し、最終的に所定の濃度の被験物質、培地および菌体が含まれるマイクロプレートを作製した。そのプレートを35℃で48時間培養した。培養終了後、630nmの吸光度を自動分光光度計で測定した。被験物質非添加の発育対照に比べ50%の生育阻害が認められる最も低い濃度をIC50とした。
化合物1、2および3は、いずれも真菌の生育を阻害した。特に、化合物1のIC50は、0.5mg/Lであった。
【実施例】
【0033】
次に、本発明を実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
混合溶媒における混合比は、容量比である。
特に記載のない場合、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにおける担体は、関東化学株式会社、SilicaGel60(Spherical)、63-210μmである。
各実施例において各略号は、以下の意味を有する。
DMSO:ジメチルスルホキシド
【0034】
実施例1(培養)
150mL容ポリフラスコに押し麦(協和精麦)10gおよびYTPsolution(0.2%粉末酵母エキスS(日本製薬)、0.1%酒石酸ナトリウム、0.1%リン酸二水素一カリウム)10mLを加え、高圧蒸気滅菌した。0.0005%Tween80/生理的食塩水5mLに懸濁したTAMA116の胞子懸濁液を添加後、混合し、25℃で21日間静置培養した。
同様の操作で、フラスコ330本を培養した。
【0035】
実施例2(培養)
150mL容ポリフラスコに粉砕した大豆(非焙煎)10gおよびBMsolution(0.25%塩化ナトリウム、0.32%炭酸カルシウム、0.2%粉末酵母エキスS(日本製薬)、2%グルコース、0.25%金属塩溶液(Fe、Zn、Mn、Cu、Co、Mo含有))20mLを加え、高圧蒸気滅菌した。0.0005%Tween80/生理的食塩水5mLに懸濁したTAMA116の胞子懸濁液を添加後、混合し、25℃で21日間静置培養した。
同様の操作で、フラスコ330本を培養した。
【0036】
実施例3(培養)
150mL容ポリフラスコにMV8solution20mL(7.5%マルトース、20%V8ジュース(キャンベル)、0.1%きな粉、0.3%L−プロリン、1.62%2−モルホリノエタンスルホン酸一水和物水溶液(pH6.5))を加え、高圧蒸気滅菌した。スラントに生育させたTAMA116の菌体および胞子を直接接種し、25℃、225rpmで14日間回転振盪培養した。
【0037】
実施例4(培養)
150mL容ポリフラスコにコーンミール(日本製粉)1gおよびSCsolution20mL(8%スクロース、0.1%酵母エキス(DIFCO))を加え、高圧蒸気滅菌した。スラントに生育させたTAMA116の菌体および胞子を直接接種し、25℃、225rpmで14日間回転振盪培養した。
【0038】
実施例5(抽出)
フラスコ1本あたりブタノール25mLを添加後、混合し、25℃、225rpmで30分間回転振盪抽出を行った後、室温にて一昼夜静置抽出を行った。濾過により固形分を除去し、濾液を遠心分離した。実施例1のフラスコ330本を処理し、ブタノール溶液1.1Lを得た。
【0039】
実施例6(精製)
実施例5で得られたブタノール溶液1.1Lを濃縮乾固した。得られた残留物をクロロホルムおよびメタノール(6:4)の混液20mLに溶解し、シリカゲル12gを加えた後、減圧下で溶媒を留去し、予めクロロホルムで平衡化したシリカゲルカラム(容積500mL)に付した。該カラムをクロロホルム:メタノール=1:0(500mL)、クロロホルム:メタノール=20:1(500mL)、クロロホルム:メタノール=10:1(500mL)、クロロホルム:メタノール=4:1(500mL)、クロロホルム:メタノール=2:1(500mL)、クロロホルム:メタノール=1:1(500mL)、クロロホルム:メタノール=0:1(500mL)で順に展開し、500mLずつ分画した。目的物を含む画分を減圧下で溶媒を留去し、粗製物6.5gを得た。
得られた粗製物3.56gをクロロホルムおよびメタノール(8:2)の混液10mLに溶解し、シリカゲル3.56gを加えた後、減圧下で溶媒を留去し、予めクロロホルムで平衡化したシリカゲルカラム(容積160mL)に付した。該カラムをクロロホルム:メタノール=1:0(320mL)、クロロホルム:メタノール=20:1(960mL)、クロロホルム:メタノール=0:1(320mL)で順に展開し、160mLずつ分画した。目的物を含む画分を回収した。
同様の操作で、残りの粗製物2.94gを精製した。
目的物を含む画分を合わせ、減圧下で濃縮乾固し、目的物を含む部分精製物3.19gを得た。得られた部分精製物をHPLCカラム(CAPCELLPACK MGIIC18、30×150mm、Shiseido社)で分離した。すなわち、部分精製物3.19gをDMSO5mLに溶解し、試料溶液とした。この試料溶液500μLを、予め、アセトニトリル:0.1%ギ酸水溶液=92:8で平衡化したカラムに注入後、アセトニトリル:0.1%ギ酸水溶液=92:8で溶出した(流速:15mL/分)。検出波長210nmで溶出液をモニターしながら、保持時間15〜17分の画分を分取した。また、この画分と類似のUVスペクトルを示す保持時間8〜9分の画分および保持時間9〜10分の画分をそれぞれ分取した。
残りの試料溶液についても同様の操作を行った。
得られたそれぞれの画分について、減圧下で溶媒を留去後、酢酸エチルで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。脱脂綿でろ過後、減圧下で溶媒を留去した。
保持時間15〜17分の画分から、化合物1(1.54g)を得た。
保持時間8〜9分の画分から、化合物2を含む部分精製物104mgを得た。
保持時間9〜10分の画分から、化合物3を含む部分精製物43.9mgを得た。
化合物2を含む部分精製物104mgをHPLCカラム(CAPCELLPACK SG120、20×250mm、Shiseido社)で分離した。すなわち部分精製物104mgをDMSO900μLに溶解し、試料溶液とした。この試料溶液300μLを予めアセトニトリル:水=60:40で平衡化したカラムに注入後、アセトニトリル:水=60:40で溶出した(流速:15mL/分)で溶出した。検出波長254nmで溶出液をモニターしながら、保持時間10〜12分の画分と保持時間14〜16分の画分を分取した。得られたそれぞれの画分について、減圧下で溶媒を留去後、酢酸エチルで抽出し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。脱脂綿でろ過後、減圧下で溶媒を留去した。
保持時間10〜12分の画分から、化合物2(31mg)を得た。
保持時間14〜16分の画分から、化合物3(8mg)を得た。
【0040】
【化2】

化合物1
性状:黄褐色油状物
溶解性:ジメチルスルホキシド、メタノール、クロロホルムに可溶
分子式:C24H30O4
分子量:382
UV吸収スペクトル(λmax(nm),(logε)):
256(4.40),361(3.85),390(3.18,sh) in MeOH
257(4.38),359(3.78) in MeOH-0.01mol/L HCl
262(4.38),338(3.76),386(3.84) in MeOH-0.01mol/L NaOH
1H-NMR(500MHz,CDCl3)δ値:2.31(1H,dd,J=14.5,10.5Hz,H-2),2.62(1H,d,J=14.5Hz,H-2),4.91(1H,ddd,J=15.8,10.5,2.5Hz,H-3),5.16(1H,dd,J=15.8,1.4Hz,H-4),1.75(1H,dd,J=13.0,4.5Hz,H-6),2.17(1H,dd,J=13.0,12.5Hz,H-6),5.05(1H,dd,J=12.5,4.5Hz,H-7),2.12(1H,dd,J=12.0,7.0Hz,H-9),2.27(1H,dd,J=12.5,12.0Hz,H-9),1.35(1H,dd,J=12.5,12.5Hz,H-10),1.55-1.65(1H,m,H-10),1.94(1H,dd,J=10.5,8.0Hz,H-11),4.79(1H,d,J=10.5Hz,H-12),6.96(1H,s,H-15),6.91(1H,s,H-18),4.89(1H,d,J=13.4Hz,H-20),4.96(1H,d,J=13.4Hz,H-20),1.26(3H,s,H-21),1.04(3H,s,H-22),0.97(3H,s,H-23),1.60(3H,s,H-24)
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ値:86.6(C-1),43.0(C-2),119.1(C-3),143.7(C-4),38.3(C-5),41.6(C-6),123.6(C-22),136.1(C-8),37.9(C-9),28.1(C-10),40.4(C-11),84.0(C-12),121.2(C-13),158.7(C-14),110.9(C-15),166.0(C-16),173.2(C-17),113.0(C-18),151.9(C-19),75.0(C-20),22.5(C-21),29.9(C-22),24.1(C-23),17.0(C-24)
【0041】
【化3】

化合物2
性状:褐色ワックス
溶解性:ジメチルスルホキシド、メタノール、クロロホルムに可溶
分子式:C24H30O5
分子量:398
UV吸収スペクトル(λmax(nm),(logε)):
257(4.31),361(3.75),390(3.03,sh) in MeOH
206(3.78),257(4.30),359(3.70) in MeOH-0.01mol/L HCl
262(4.34),338(3.73),386(3.80) in MeOH-0.01mol/L NaOH
1H-NMR(500MHz,CDCl3)δ値:
2.32(1H,dd,J=15.0,10.0Hz,H-2),2.64(1H,d,J=15.0Hz,H-2),4.95(1H,m,H-3),5.14(1H,dd,J=16.5,0.5Hz,H-4),2.03(2H,d,J=8.5Hz,H-6),5.06(1H,t,J=8.5Hz,H-7),2.14(1H,dd,J=12.5,6.5Hz,H-9),2.28(1H,dd,J=12.5,12.5Hz,H-9),1.39(1H,m,H-10),1.65(1H,m,H-10),1.92(1H,dd,J=10.5,8.5Hz,H-11),4.79(1H,d,J=10.5Hz,H-12),6.94(1H,s,H-15),6.91(1H,s,H-18),4.89(1H,d,J=13.6Hz,H-20),4.97(1H,d,J=13.6Hz,H-20),1.27(3H,s,H-21),1.11(3H,s,H-22),3.48(1H,d,J=10.5Hz,H-23),3.65(1H,d,J=10.5Hz,H-23),1.62(3H,s,H-24)
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ値:86.6(C-1),43.5(C-2),120.2(C-3),140.6(C-4),43.9(C-5),36.4(C-6),123.3(C-7),137.1(C-8),37.8(C-9),28.8(C-10),40.8(C-11),84.2(C-12),121.5(C-13),158.8(C-14),111.2(C-15),166.3(C-16),173.3(C-17),113.1(C-18),151.9(C-19),75.3(C-20),22.7(C-21),24.5(C-22),67.4(C-23),17.3(C-24)
【0042】
【化4】

化合物3
性状:褐色ワックス
溶解性:ジメチルスルホキシド、メタノール、クロロホルムに可溶
分子式:C24H30O5
分子量:398
UV吸収スペクトル(λmax(nm),(logε)):
256(4.19),360(3.56),390(3.12) in MeOH
256(4.20),360(3.56) in MeOH-0.01N HCl
261(4.19),339(3.57),389(3.62) in MeOH-0.01N NaOH
1H-NMR(500MHz,CDCl3)δ値:2.30(1H,dd,J=15.0,10.0Hz,H-2),2.69(1H,d,J=15.0Hz,H-2),4.87(1H,ddd,J=16.0,10.0,2.5Hz,H-3),5.22(1H,dd,J=16.0,1.5Hz,H-4),1.87(1H,dd,J=12.1,5.5Hz,H-6),2.17(1H,dd,J=12.1,11.5Hz,H-6),5.50(1H,dd,J=11.5,5.5Hz,H-7),4.33(1H,d,J=7.0Hz,H-9),1.76(1H,d,J=15.0Hz,H-10),2.00(1H,ddd,J=15.0,7.0,7.0Hz,H-10),2.09(1H,dd,J=10.5,7.0Hz,H-11),4.82(1H,d,J=10.5Hz,H-12),6.98(1H,s,H-15),6.90(1H,s,H-18),5.02(1H,d,J=13.5Hz,H-20),5.06(1H,d,J=13.5Hz,H-20),1.32(3H,s,H-21),1.08(3H,s,H-22),0.99(1H,s,H-23),1.55(3H,s,H-24),4.23(1H,br,OH)
13C−NMR(100MHz,CDCl3)δ値:87.5(C-1),43.2(C-2),118.9(C-3),143.5(C-4),39.1(C-5),41.0(C-6),121.7(C-7),138.1(C-8),72.2(C-9),33.6(C-10),35.6(C-11),83.3(C-12),119.8(C-13),159.0(C-14),111.1(C-15),166.7(C-16),173.3(C-17),112.9(C-18),150.6(C-19),75.1(C-20),23.0(C-21),29.6(C-22),24.1(C-23),16.4(C-24)
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のセスキテルペンは、強い抗真菌活性を有し、真菌感染症の治療に有用であり、本発明の製造法は、真菌感染症の治療に有用なセスキテルペンの製造に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式
【化1】

「式中、Rは、ヒドロキシル基で置換されていてもよいC1−3アルキル基を;Rは、水素原子またはヒドロキシル基を示す。」で表される化合物またはその塩。
【請求項2】
が、ヒドロキシル基で置換されていてもよいメチル基である請求項1に記載の化合物またはその塩。
【請求項3】
が、メチル基、Rが、水素原子である請求項1に記載の化合物またはその塩。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物またはその塩を含有する抗真菌剤。
【請求項5】
TAMA116、または、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物またはその塩を産生する変異株の生物学的に純粋な培養物。
【請求項6】
TAMA116、または、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物またはその塩を産生する変異株を、炭素源、窒素源およびミネラル源中で培養することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物またはその塩の製造法。

【公開番号】特開2011−195458(P2011−195458A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60537(P2010−60537)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(000003698)富山化学工業株式会社 (37)
【Fターム(参考)】