説明

新規な神経栄養因子タンパク質およびその用途

本発明は新規な神経栄養因子タンパク質であるMANF2およびそれをコードする遺伝子配列を開示する。この分子は、MANF2依存性病態の治療、予防および/または診断に有用な広範にわたる療法の開発に有用である。本発明の分子は、更に一次ニューロンおよび中枢ニューロン、特に中枢神経系のドーパミン作動性ニューロン、のエフェクターおよび成長因子遺伝子としても有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して遺伝子工学の分野に関し、より詳細には、神経細胞、特にCNS(中枢神経系)のドーパミン作動性ニューロン、の成長因子および成長因子遺伝子に関する。
【背景技術】
【0002】
ニューロンの運命を調節するメカニズムの研究は、ニューロンの決定、分化と維持を理解するために重要である。第2に、ニューロン表現型の決定に重要な細胞外および細胞内調節因子の同定は、多くの神経変性疾患の処置における治療的重要性が考えられるため、少なからぬ注目を集めてきた。脊椎動物神経系の多様性を決定する細胞外シグナルの役割は広範囲わたり研究されてきた。成熟途上の神経系および成熟した神経系の制御に関る分泌因子の中で最も詳しく特徴付けられているものは、神経成長因子(NGF)ファミリーおよびグリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)ファミリーの神経栄養因子である(Bibel and Barde, 2000, Genes Dev 14:2919-2937、Airaksinen et al. 1999, Mol. Cell Neurosci 13:313-325、およびAiraksinen and Saarma 2002, Nat Rev Neurosci 2002 3:383-394に報告がある)。これらの神経栄養因子は、脊椎動物における特定ニューロン群の生存、分化と維持を促進する。後にこれらの神経栄養因子には、活動依存性シナプス可塑性の調節、神経突起伸張の促進、および組織損傷の際のニューロンの保護と修復を含む他の重要な機能を有することが明らかになった。
【0003】
発明の概要
本発明は、新規な神経栄養因子タンパク質であるMANF2とそれをコードする遺伝子配列を開示する。この分子は、MANF2依存性の病態の治療、予防および/または診断において有用な、多岐にわたる治療法や診断法の開発に有用となる。更に本発明の分子は、一次ニューロンおよび中枢ニューロンのエフェクターとしても有用である。
【0004】
近年、新規なヒト神経栄養因子である、中脳アストロサイト由来神経栄養因子(mesencephalic astrocyte-derived neurotrophic factor)(MANF、本願ではMANF1と命名)が同定され、培養した胎胚性中脳ドーパミン作動性ニューロンの生存を支えることが明らかとなった(国際特許出願 WO 01/19851)。MANF1は、他の公知のタンパク質ファミリーと有意な相同性を示さない20kDの分泌タンパク質である。MANF1のin vitroにおける性質は、パーキンソン氏病の処置に使用できること、そして他の神経変性疾患の処置にも使用できる可能性があることを示唆している。しかし、MANF1の広い発現パターン(Shridhar et al., 1996, Oncogene 12:1931-1939)は、MANF1の神経系以外の場所における未だ発見されていない機能や、他の色々な種類の細胞に対する影響の可能性を示唆している。
【0005】
従って、MANF1は、MANF1またはその活性に基づく治療用、予防用および診断用の薬剤の研究において潜在的に貴重な標的となる、重要な分子である。また、MANF1の代替またはMANF1と共に使用するためのホモログまたは他の関連分子を同定する必要性もある。
【0006】
本発明に至るまでの研究において、本発明者らは、MANF1に関連した新しい成長因子である、MANF2と命名した新規分子を発見した。
【0007】
よって、本発明の好ましい1つの態様は、図7に示した配列番号2のアミノ酸配列、あるいはその変異(mutation)、変異体(variants)または断片を含む、単離したタンパク質分子を含むものである。
【0008】
特に好ましい態様において本発明のMANF2分子は、図7に示した配列番号2のアミノ酸配列を含むもの、あるいは該アミノ酸配列の一部、断片、誘導体または類似体である。特に好ましい%類似性としては、約19〜20%と29〜30%が挙げられる。%類似性は図7に示した配列番号2のアミノ酸配列の全てまたは一部に対して、好ましくは少なくとも約30%、更に好ましくは少なくとも約40%、更に好ましくは少なくとも約50%、更に好ましくは少なくとも約60〜70%、更に好ましくは少なくとも約80〜95%である。
【0009】
本発明の別の好ましい態様においては、組み換え型分子を提供する。
【0010】
本発明は更に、図7に示した配列番号2のアミノ酸配列の一部に対応するペプチド断片あるいはその化学的同等物を企図する。本発明の単離分子または組み換え分子は天然にグリコシル化されているものでもよいし、また、本発明の単離分子または組み換え分子は、それが単離または合成された細胞に基づく改変グリコシル化パターンを有していてもよい。例えば、組み換え技術によって原核生物中で製造した場合、その分子はグリコシル化されていない。分子は、天然に見られる全長型、端部を除去した型、または他の誘導型でもよい。
【0011】
更に、任意に処方したMANF2ポリペプチド医薬組成物を開示する。本発明のポリペプチド組成物は、更に親水性の(例えば、薬学的に許容される)担体のような、許容される担体を含有してもよい。このような組成物は、MANF2依存性病態の処置に有用である。
【0012】
本発明の1つの好ましい態様は、MANF2に特異的に結合する抗体である。好ましい抗体は、ヒトに対して非免疫原性のモノクローナル抗体である。MANF2と結合する親和性が少なくとも10-6Mである抗体が好ましく、10-7Mのものがより好ましい。
【0013】
更に本発明は、診断薬として有用な、MANF2分子に対する抗体またはMANF2分子をコードする遺伝子に対する核酸プローブを企図する。
【0014】
更なる態様においては、MANF2抗体とMANF2を含有すると考えられる試料とを接触させ、それらが結合したかどうかを検出することを包含する、in vitroまたはin vivoでMANF2を検出するための方法を提供する。
【0015】
本発明には、哺乳動物のMANF2依存性障害を診断するためのキットや試薬も含まれる。このようなキットは、MANF2をコードする核酸配列内の変異の存在や不存在、MANF2ポリペプチドレベルおよび/またはMANF2抗体レベルの上昇や低下を検出するための試薬を包含する。変異の存在またはMANF2レベルの異常は、哺乳動物がMANF2依存性障害に罹患していることを意味する。キットは更にアプリケーターとその使用のための取扱説明書を包含する。
【0016】
上記に加え、本発明は、本願に記載した組み換え技術によるMANF2の製造に使用することのできる、MANF2をコードする、単離した核酸分子、発現ベクターおよび宿主細胞を提供する。単離した核酸分子とベクターは、トランスジェニック動物の製造と、MANF2障害を有する患者の処置を目的とした遺伝子療法的応用にも有用である。
【0017】
本発明のMANF2分子は、それ単独で、あるいはMANF1等の他の分子と組み合わせて、広範にわたる治療的および/または診断的応用に有用となる。従って本発明は、MANF2分子あるいはその一部、断片、誘導体、ホモログまたは類似体を、1種以上の薬学的に許容される担体および/または希釈剤と共に包含する医薬組成物にまで及ぶ。更に本発明は、図7に示した配列番号1の核酸配列、またはそれに対して少なくとも約15%、より好ましくは少なくとも約40%、更に好ましくは少なくとも約60〜79%、または更に好ましくは少なくとも約80〜95%の類似性を示す核酸配列を含有するベクター、およびそれを包含する宿主細胞にも及ぶ。
【0018】
1つの好ましい態様において、単離したMANF2ポリヌクレオチドは、図7に示した配列番号1または配列番号3の配列あるいはその相補鎖と少なくとも80%の配列同一性を有する。
【0019】
本発明はまた、配列番号2と少なくとも15%のアミノ酸類似性を有するが、少なくとも5%の不同性も有するタンパク質様分子をコードする、ゲノムクローンまたは部分ゲノムクローンも企図する。
【0020】
本発明はまた、家畜(例えば、ヒツジ、ブタ、ウマとウシ)、愛玩動物(例えば、イヌとネコ)、および実験用動物(例えば、マウス、ラット、ウサギとモルモット)などの他の哺乳動物のみならず、鳥類(例えば、家禽類)、魚類や爬虫類などの哺乳動物以外の動物から得られる相同分子とそのコード配列も企図する。最も好ましい態様においては、MANF2分子はヒト由来である。従って本発明は、MANF2分子をコードするヒトゲノム配列とその部分配列にも及ぶ。
【0021】
本発明の更に別の態様は、後述するMANF2分子をコードする核酸分子に関する。具体的には、本発明は、図7に示した配列番号1と実質的に同じヌクレオチド配列を含む核酸分子、上記ヌクレオチド配列の全体または一部と少なくとも15%の類似性を有する核酸分子、または図7に示した配列番号1のヌクレオチド配列の逆相補鎖と低いストリンジェンシーの条件でハイブリダイズ可能であるが、図7に示した配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも15%の類似性を有し、且つ少なくとも5%の不同性を示す核酸分子を提供する。
【0022】
ストリンジェンシーの程度を定義するために、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual(分子クローニング − 実験マニュアル)(New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989)の9.47〜9.51頁を適宜参照することができるが、この記載をもって本願に組み込まれたものとする。この文献に開示されている洗浄工程は高いストリンジンシーであると考えられる。本願において低いストリンジェンシーとは、4〜6×SSC/0.1〜0.5%(w/v)SDS中、37〜45℃で2〜3時間の条件である。ハイブリダイゼーションに関与する核酸の原料と濃度によるが、代わりとなる他のストリンジェンシーの条件も使用することができる。例えば、1〜4×SSC/0.25〜0.5%w/v SDS中、45℃で2〜3時間とする中度にストリンジェントな条件や、0.1〜1×SSC/0.1%w/v SDS中、60℃で1〜3時間とする高度にストリンジェントな条件も使用することができる。
【0023】
更に別の態様において本発明は、MANF2遺伝子を破壊したトランスジェニックなヒト以外の動物、あるいは図7に示した配列番号2または配列番号4の配列に対して少なくとも80%の配列同一性を有する外因性ポリヌクレオチド、または該ポリヌクレオチドの相補鎖を発現するトランスジェニックなヒト以外の動物である。
【0024】
別の態様においては、パーキンソン氏病やアルツハイマー病などの神経学的疾患を含む種々の病理の処置方法に本発明を使用することができる。
【0025】
別の態様においては、本発明は、MANF2ヌクレオチド配列について組織試料のスクリーニングを行うための方法である。
【0026】
本願に記載した方法や材料と類似したもの、または同等のものを、本発明を実施したり試験したりするために使用することができるが、以下に最適な方法と材料を記載する。下記の方法、材料および具体例は、説明のためにのみ記載したものであり、本発明を制限するものではない。
【0027】
発明の詳細な説明
国立医学図書館(National Library of Medicine)(NLM)のwwwサーバー内の国立バイオテクノロジー情報センター(National Center for Biotechnology Information)(NCBI)でBlastサーチ(Altschul et al. "Gapped BLAST(R) and PSI-BLAST: a new generation of protein database search programs(Gapped BLAST(R)とPSI-BLAST:新世代のタンパク質データベースサーチプログラム)", Nucleic Acids Res. 25 (1997): 3389-3402を参照)を行うことで、我々はMANF1と高い配列類似性を示す、いくつかのヒトとマウスのEST(expressed sequence tag)cDNAを同定した。しかし、明らかにMANF1ホモログである全長オープンリーディングフレームを含有するヒトESTはなく、その多くは挿入、欠失およびMANF1と全く相同性を示さない長さの異なる5’末端を有していた。
【0028】
我々は、MANF1と相同であるいくつかの部分ヒトEST cDNAクローンをまとめてコンティグとし、MANF1ホモログとなりうるものの全長cDNAをヒトおよびマウスからクローニングするためのプライマーを設計した(実施例1を参照)。驚くべきことに、RT−PCR法によって脳から全長マウスcDNAと全長ヒトcDNAをクローニングすることに成功し、マウスおよびヒトのMANF2と命名した(ヒトMANF2とマウスのMANF2の核酸配列およびアミノ酸配列については図7を参照)。
【0029】
ヒトMANF2 cDNAとマウスMANF2 cDNAは共に187アミノ酸のタンパク質をコードしている(図1と図2)。ヒトMANF1とヒトMANF2の全長アミノ酸配列の同一性、およびマウスMANF1とマウスMANF2の全長アミノ酸配列の同一性は、いずれも約65%である(表A参照)。MANF1タンパク質とMANF2タンパク質は共に8個の保存されたシステインからなるユニークなパターンを有する。バイオインフォマティックス解析によると、ヒトMANF2は、染色体10に位置する、4つのエクソンからなる比較的小さな遺伝子によってコードされている。ヒトMANF2タンパク質とマウスMANF2タンパク質の二次構造は、MANF1タンパク質と同様にαへリックス構造とランダムコイル構造がその大部分を占めている。更に、種々の生物のゲノムとEST配列のバイオインフォマティックス解析の結果は、哺乳動物は2種のMANF遺伝子を有し、魚類、両生類と鳥類は少なくとも1種のMANF遺伝子を有し、線虫であるCaenorhabditis elegansとショウジョウバエであるDrosophila melanogasterは1種のMANF遺伝子を有することを示唆している(図3と図4)。
【0030】
我々は、RT−PCR法によるMANF2 mRNAの発現も分析した。結果は、分析した全26種のヒト組織および8種の異なるヒト脳領域においてMANF2 mRNAは広範にわたるが、比較的低レベルで発現していることを示した。発現レベルは種々の組織の間で多少異なっていた。脳においては、成体の脳と比べて胎児の脳におけるMANF2 mRNAレベルが低かった(図5)。同様の結果が、マウスMANF2発現についても得られた。
【0031】
MANF2タンパク質が分泌されているかどうかを検討するために、V5タグとHisタグを付したヒトMANF2融合タンパク質をコードする発現構築物を作製し、COS−7細胞による発現と分泌を解析した。結果は、MANF2がグリコシル化および/または翻訳後プロセシング(開裂)の関与する可能性のある、20kDa以下の分泌タンパク質であることを示した(図6)。
【0032】
【表A】

【0033】
特に断りがない限り、全ての技術用語および科学用語は、本発明の属する分野の当業者が一般的に理解する意味と同じである。以下の定義は明確性を増すために記載した。
【0034】
「単離した」ものが分子である場合、この「単離した」という用語は、ある分子が本来存在する自然環境中の成分から同定され、分離および/または回収されたものであり、したがって、「人の手によって」天然の状態から改変されたものであることを意味する。例えば、単離したポリヌクレオチドは、ベクターや物質組成物の一部であってもよいし、また、細胞に含まれるものでもよく、ベクター、物質組成物、または特定の細胞はポリヌクレオチドが本来存在した環境ではないため、そのような場合も「単離した」ということができる。「単離した」という用語は、本発明のポリヌクレオチド配列の特性を示さないことが技術的にわかっているゲノムライブラリーやcDNAライブラリー、全細胞から得た全RNAまたはmRNA製品、ゲノムDNA製品(電気泳動で分離し、ブロットに転写したものも含まれる)、流れ負荷全細胞ゲノムDNA製品やその他の組成物を指すことはない。
【0035】
本発明で使用する「ポリヌクレオチド」は、図7に示した配列番号1、その断片または変異体(variant)をコードする核酸配列、あるいは図7に示した配列番号3に含まれる核酸配列またはその相補鎖を有する分子を意味する。例えば、ポリヌクレオチドは、全長cDNA配列の5’と3’の非翻訳領域およびコード領域を含むヌクレオチド配列のみならず、核酸配列の断片、エピトープ、ドメインおよび変異体を含有することができる。更に、本願における「ポリペプチド」は、本発明のポリヌクレオチドのコードするアミノ酸配列を有する分子と大まかに定義することができる。本願において「断片」という用語を核酸に用いた際には、通常は少なくとも約10ヌクレオチドの長さであり、典型的には少なくとも約20ヌクレオチドであり、より典型的なものは約20〜約50ヌクレオチドであり、好ましくは少なくとも約50〜約100ヌクレオチド、更に好ましくは少なくとも約100ヌクレオチド〜約300ヌクレオチド、更に好ましくは少なくとも約300〜約400ヌクレオチドであり、最も好ましい場合、核酸断片は約500ヌクレオチドを超える長さである。
【0036】
本願において「断片」という用語をポリペプチドに用いた際には、通常は少なくとも約7個の連続したアミノ酸であり、典型的には、少なくとも約15個の連続したアミノ酸、より典型的には少なくとも約30個の連続したアミノ酸、典型的には少なくとも約40個の連続したアミノ酸であり、好ましくは少なくとも約50個の連続したアミノ酸であり、より好ましくは少なくとも約60個の連続したアミノ酸である。最も好ましいペプチド断片の長さは約70個超の連続したアミノ酸である。
【0037】
「核酸分子」には、DNA分子(例えば、cDNAやゲノムDNA)、RNA分子(例えば、mRNA)、ヌクレオチド類似体を使用して作製したDNAやRNAの類似体、および誘導体、断片およびホモログが含まれる。核酸分子は一本鎖でも二本鎖でもよいが、二本鎖DNAを含むものが好ましい。
【0038】
「単離した核酸分子」は、核酸の天然原料に存在する他の核酸分子から分離したものである。単離した核酸は、核酸を誘導した生物のゲノムDNAにおいて、天然では核酸に隣接している配列(即ち、核酸の5’末端と3’末端に位置する配列)を含んでいないことが好ましい。例えば、単離したMANF2 DNA分子は、核酸を誘導した細胞/組織(例えば、脳、心臓、肝臓、脾臓など)のゲノムDNAにおいて天然では核酸に隣接しているヌクレオチド配列を含有してもよいが、その量は、種々の態様によって、約5kb、4kb、3kb、2kb、1kb、0.5kbまたは0.1kb未満である。更に、cDNA分子などの単離した核酸分子を組み換え技術で製造した場合には、他の細胞成分や培養液を実質的に含有しないことが可能であり、また化学合成した場合には、化学的前駆体や他の薬品を実質的に含有しないことも可能である。
【0039】
本発明の核酸分子、例えば、MANF2核酸分子や上述したこのヌクレオチド配列の相補鎖は、標準的な分子生物学の技術と本願に記載の配列情報を用いて単離することができる。目的のMANF2核酸配列の全部または一部分をハイブリダイゼーションプローブとして用いることで、標準的なハイブリダイゼーション技術およびクローニング技術によってMANF2分子を単離することができる(Ausubel et al., In Current protocols in Molecular Biology (分子生物学の最近のプロトコル), John Wiley and Sons, publishers, 1989、および前出のSambrook et al)。
【0040】
「類似体」とは、その構造が未変性化合物と類似しているが同一ではなく、特定の成分または側鎖が未変性化合物と異なる核酸配列またはアミノ酸配列である。類似体は合成したものでも、異なる進化学的起源に由来するものでもよく、野生型と比べて類似した代謝活性または反対の代謝活性を有するものである。
【0041】
誘導体または類似体は、以下に説明するように、修飾核酸またはアミノ酸を含有する限り全長でも、全長以外のものでもかまわない。本発明の核酸またはタンパク質の誘導体または類似体としては、本発明の核酸またはタンパク質と実質的に相同な領域を包含する分子が挙げられるが、これに限定されるものではない。実質的に相同な領域とは、同じ大きさの核酸またはアミノ酸配列同士の比較、または当業界で知られるコンピューターホモロジープログラムを用いて行ったアラインメントでアラインした配列との比較において、種々の態様にもよるが、少なくとも約70%、80%または95%の同一性(好ましくは80〜95%の同一性)を有するものか、あるいはそれをコードする核酸が、上述したタンパク質をコードする配列の相補鎖とストリンジェントな条件、中度にストリンジェントな条件、または低度にストリンジェントな条件でハイブリダイズ可能なものを意味する(前出のAusubel et al.)。
【0042】
「コードする」とは、遺伝子、cDNAやmRNAなどのポリヌクレオチド中の特定のヌクレオチド配列が、生物学的機構によって他のポリマーやマクロ分子の合成の際にテンプレートとして働くという固有の性質であり、他のポリマーやマクロ分子とは、定義されたヌクレオチド配列を有するもの(即ち、rRNA、tRNAとmRNA)、または定義されたアミノ酸配列及びそれに起因する生物学的特性を有するものである。従って、遺伝子は、遺伝子に対応するmRNAの転写と翻訳によって細胞または他の生物系の中でタンパク質が製造される場合には、タンパク質をコードしている。mRNA配列と同一であり、通常は配列表で提供されるヌクレオチド配列であるコード鎖と、遺伝子またはcDNAの転写のためのテンプレートとして用いられる非コード鎖は、共にタンパク質あるいはその遺伝子またはcDNAの他の産物をコードしていると言える。
【0043】
特に記載しない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」には、一群の縮重配列であって、同じアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列が含まれる。タンパク質とRNAをコードするヌクレオチド配列にはイントロンが含まれてもよい。
【0044】
遺伝子の「コード領域」は、遺伝子のコード鎖のヌクレオチド残基と遺伝子の非コード鎖のヌクレオチド残基とからなり、それぞれのヌクレオチド残基は、遺伝子の転写によって製造されるmRNA分子のコード鎖と相同または相補的である。
【0045】
mRNA分子の「コード領域」も、mRNA分子内のヌクレオチド残基からなるものであり、ヌクレオチド残基は、mRNA分子の翻訳の際にトランスファーRNA分子のアンチコドン領域と対合するもの、あるいは終止コドンをコードするものである。従って、コード領域は、mRNA分子のコードする成熟タンパク質には含まれないアミノ酸残基に対応するヌクレオチド残基(例えば、タンパク質排出シグナル配列のアミノ酸残基)を含んでいてもよい。
【0046】
「制御配列」とは、特定の宿主生物において、発現可能な状態に結合したコード配列の発現を可能とするDNA配列である。原核生物の制御配列には、プロモーター、オペレーター配列とリボゾーム結合部位が含まれる。真核細胞はプロモーター、ポリアデニル化シグナルとエンハンサーを使用する。
【0047】
「発現可能な状態に結合した核酸」とは、核酸が、他の核酸配列と機能的な関係を築くように配置されている状態をいう。例えば、プロモーターやエンハンサーがコード配列の転写に影響を与える場合、コード配列はプロモーターやエンハンサーに発現可能な状態で結合している。また、リボゾーム結合部位が翻訳を促進する位置に存在する場合、コード配列はリボゾーム結合部位に発現可能な状態で結合している。一般的に、「発現可能な状態で結合した」とは、結合した複数のDNA配列が連続していることを意味し、分泌用リーダー配列の場合は、連続し、読み取り相に含まれることを意味する。しかし、エンハンサーは連続していなくてもよい。結合は、適当な制限部位で連結することによって達成する。このような部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを一般的な用法に従って使用する。
【0048】
「ゲノムDNA」は、遺伝子と相同なヌクレオチド配列を有するDNA鎖である。例えば、染色体断片と哺乳動物mRNAから逆転写によって誘導したcDNAとは、共にゲノムDNAである。
【0049】
「オリゴヌクレオチド」は一連の連結したヌクレオチド残基を含むものであり、このようなオリゴヌクレオチドは、PCR反応や他の応用法に使用するのに十分な数のヌクレオチド塩基を有している。短いオリゴヌクレオチド配列をゲノム配列やcDNA配列に基づいて作製するか、そこから設計し、オリゴヌクレオチドと同一、類似または相補的なDNAまたはRNAを特定の細胞または組織について増幅、確認または存在を明らかにするために使用する。オリゴヌクレオチドは核酸の一部を含むものである。
【0050】
「変異体(variant)」とは、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドとは異なるが、その本質的な特性を維持するポリヌクレオチドまたはポリペプチドである。一般的に変異体は、全体的に非常に類似しており、多くの領域において、本発明のポリヌクレオチドまたはポリペプチドと同一である。
【0051】
「ストリンジェンシー」。ホモログ(即ち、ヒト以外の生物種から誘導したMANF2分子をコードする核酸)または他の関連配列(例えば、パラログ)は、当業界で周知の核酸ハイブリダイゼーションおよびクローニングの方法を用いて、特定のヒト配列の全部又は一部をプローブとした、低度、中度または高度のストリンジェンシーのハイブリダイゼーションで得ることができる。
【0052】
一本鎖DNAが相補的断片にハイブリダイズする特異性は反応条件の「ストリンジェンシー」によって決まる。二本鎖DNAを形成する傾向が低下するほど、ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは増加する。核酸ハイブリダイゼーション反応においては、特異的ハイブリダイゼーションが優先されるようにストリンジェンシー(高いストリンジェンシー)を選択することができ、例えば、ライブラリーから全長クローンを同定するために使用することができる。特異性の低いハイブリダイゼーション(低度のストリンジェンシー)は、関連するが同じではないDNA分子(相同であるが同一ではないもの)や区分を同定するために使用することができる。
【0053】
二本鎖DNAは次の特性に基づいて安定化される:(1)相補的塩基対の数、(2)塩基対の種類、(3)反応混合物の塩濃度(イオン強度)、(4)反応温度、そして(5)二本鎖DNAの安定性を低下させるホルムアミドのような特定の有機溶媒の存在。一般的に、プローブが長いほど完全なアニーリングに必要な温度は高くなる。一般的な方法は、温度を変化させることであり、即ち、相対温度が高ければよりストリンジェントな反応条件となる。前出のAusubel et al.には、ハイブリダイゼーション反応のストリンジェンシーに関する優れた説明がある。
【0054】
「ストリンジェントな条件下」でハイブリダイズするとは、少なくとも60%相同のヌクレオチド配列が互いにハイブリダイズした状態を維持するハイブリダイゼーションプロトコルを意味する。ストリンジェントな条件としては、一般的に一定のイオン強度における特定の配列の融解温度(Tm)よりも約5℃以下の条件を選択する(WO 01/70174、およびPCT/USO1/0904330)。低いストリンジェンシーである「低度にストリンジェントな条件」は、中度のストリンジェンシー条件(前出のSambrook)よりもストリンジェンシーの低い洗浄溶液とハイブリダイゼーション条件を使用することで、ポリヌクレオチドが標的となるMANF2標的配列の全長、断片、誘導体または類似体にハイブリダイズするようにする。低いストリンジェンシーのハイブリダイゼーション条件の一例として、35% ホルムアミド、5×SSC、50mM トリス−HCl(pH7.5)、5mM EDTA、0.02% PVP、0.02% フィコール、0.2% BSA、100mg/ml 変性サケ精子DNAおよび10%(wt/vol)硫酸デキストランを含む溶液中、40℃におけるハイブリダイゼーションと、それに続く、2×SSC、25mM トリス−HCl(pH7.4)、5mM EDTAと0.1% SDSを含む溶液を用いた、50℃で1回以上の洗浄が挙げられるが、これに限定されるものではない。その他の低いストリンジェンシーの条件としては、前出のAusubel et al.、Kriegler MP (1990) "Gene transfer and expression, a laboratory manual (遺伝子伝播と発現、実験マニュアル)" 、やShilo and Weinberg, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 78:6789-6792 (1981) に記載の、種間ハイブリダイゼーションの条件が挙げられる。
【0055】
cDNA、mRNA、またはゲノムDNAをテンプレートとし、適切なオリゴヌクレオチドプライマーを用いたPCR増幅技術によってMANF2を増幅することができる。こうして得た核酸を適当なベクターにクローニングし、DNA配列解析によって特徴付けることができる。更にMANF2配列に対応するオリゴヌクレオチドは、標準的な合成方法、例えば自動DNA合成装置によって製造することもできる。
【0056】
「プライマー」とは、指定したポリヌクレオチドテンプレートに特異的にハイブリダイズすることができ、相補的なポリヌクレオチドの合成開始点を提供することのできるポリヌクレオチドである。このような合成は、合成を誘導する条件下、即ち、ヌクレオチド、相補的なポリヌクレオチドテンプレート、そしてDNAポリメラーゼなどの合成用試薬の存在下にポリヌクレオチドプライマーが置かれた時に生じる。典型的なプライマーは一本鎖であるが、二本鎖でもよい。
【0057】
典型的なプライマーはデオキシリボ核酸であるが、種々の用途において、広範にわたる合成および天然のプライマーが有用である。テンプレートにハイブリダイズして合成開始点として機能するように設計されたプライマーはテンプレートと相補的であるが、テンプレートの配列を完全に反映する必要はない。このような場合、プライマーのテンプレートへの特異的なハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーション条件のストリンジェンシーに依存する。プライマーは、例えば発色性、放射性または蛍光性の成分で標識し、検出可能な成分として使用することができる。
【0058】
本願で使用する「ベクター」という用語は、外因性の核酸をコードする全てのプラスミドやウイルスを意味する。この用語には、ウイルス粒子や細胞への核酸の転送を助ける非プラスミド性や非ウイルス性の化合物、例えば、ポリリシン化合物なども含まれると理解されたい。ベクターは、所望のタンパク質またはその変異体(mutant)をコードする核酸を細胞に送達ための送達用ベヒクルとして適切なウイルスベクターでもよいし、同じ目的に適した非ウイルスベクターでもよい。DNAを細胞や組織に送達するためのウイルスベクターおよび非ウイルスベクターの具体例は当業界でよく知られており、例えば、Ma et al.(1997), Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 94: 12744-12746に記載されている。ウイルスベクターの例としては、組み換えワクシニアウイルス、組み換えアデノウイルス、組み換えレトロウイルス、組み換えアデノ随伴ウイルス、組み換えトリポックスウイルスなど(Cranage et al., 1986, EMBO J. 5.3057-3063、1994年8月18日公開の国際特許出願公報 W094/17810、1994年10月27日公開の国際特許出願公報 W094/23744)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。非ウイルスベクターの例としては、リポソーム、DNAのポリアミン誘導体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0059】
「プローブ」とは、種々の長さの核酸配列、好ましくはその特定の用途に応じて少なくとも約10ヌクレオチド(nt)、100nt、またはそれ以上(例えば、6000nt)のものである。プローブは、同一、類似または相補的な核酸配列を検出するためのものである。より長いプローブは、天然原料または組み換え原料から得ることができ、非常に特異的で、短いオリゴマープローブよりもハイブリダイズするのに時間がかかる。プローブは一本鎖でも二本鎖でもよく、PCR、膜によるハイブリダイゼーション技術、またはELISA様の技術において特異性を示すように設計することができる。プローブは、生物試料中の核酸分子にもハイブリダイズするので、染色体地図の作成、連鎖解析、組織の同定および/またはタイピング、ならびに種々の法医学的および診断的な本発明の方法に直ちに応用することができる。
【0060】
プローブは、最適には少なくとも12、25、50、100、150、200、250、300、350または400ヌクレオチドの連続したセンス鎖ヌクレオチド配列、アンチセンス鎖ヌクレオチド配列、あるいは目的のMANF2 DNA配列の自然突然変異体にハイブリダイズする、実質的に純粋な状態に精製されたオリゴヌクレオチドである。
【0061】
未変性の(native)MANF2 DNA配列の全長または部分は、以下に例示する類似した(相同な)配列を「釣り上げる」ために使用することができる(前出のAusubel et al.およびSambrook)。(1)全ての生物種(例えば、ヒト、マウス、ネコ、イヌ、細菌、ウイルス、レトロウイルス、酵母)のcDNAライブラリーから得られる、MANF2 cDNAの全長または断片、(2)細胞や組織から得られる、MANF2 cDNAの全長または断片、(3)生物種内に見られる変異体および(4)他の生物種のホモログや変異体。関連する遺伝子をコードする関連した配列を見つけるために、プローブは特徴的な配列または縮重を含んだ配列をコードするように設計することができる。配列は、未変性のMANF2配列に含まれるプロモーターエレメントやエンハンサーエレメントおよびイントロンを含むゲノム配列でもよい。
【0062】
ハイブリダイゼーションを検出するために、例えば、32Pや35Sなどの放射性核種、またはアビジン−ビオチン系を介してプローブにカップリングするアルカリホスファターゼなどの酵素標識でプローブを標識する。標識したプローブは、所望の生物種のcDNA、ゲノムDNAまたはmRNAのライブラリーから、MANF2に相補的な配列を有する核酸を検出するために使用する。このようなプローブは、対象から得た細胞試料中のMANF2レベルの測定(例えば、MANF2 mRNAレベルの検出またはゲノムMANF2内の変異または欠失の検出)などを用いて、MANF2の発現に誤りのある細胞または組織を同定するための診断キットの一部として使用することができる。
【0063】
「アンチセンス」とは、特にタンパク質をコードする二本鎖DNA分子の非コード鎖の核酸配列、または非コード鎖と実質的に相同な配列を意味する。ここで定義したように、アンチセンス配列はタンパク質をコードする二本鎖DNA分子の配列に相補的である。アンチセンス配列は、DNA分子のコード鎖のコード領域にのみ相補的である必要はない。アンチセンス配列は、タンパク質をコードするDNA分子のコード鎖上に特定された、コード配列の発現を調節する制御配列に相補的でもよい。
【0064】
「ホモログ」とは、他の生物種から誘導した特定遺伝子の核酸配列またはアミノ酸配列である。
【0065】
「相同核酸配列」または「相同アミノ酸配列」、あるいはこれらの変異体とは、ヌクレオチドレベルまたはアミノ酸レベルの相同性によって特徴付けられた配列を意味する。相同ヌクレオチド配列は、MANF2のアイソフォームをコードする配列である。アイソフォームは、例えば、RNAの選択的スプライシングの結果、同じ生物の異なる組織で発現されていることもある。また、異なる遺伝子がアイソフォームをコードすることもある。本発明において相同ヌクレオチド配列には、ヒト以外の生物種(脊椎動物を含むが、これに限定されるものではなく、例えば、カエル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマや他の生物も含む)のMANF2をコードするヌクレオチド配列も含まれる。相同ヌクレオチド配列には、更に本願で開示するヌクレオチド配列の天然に見られるアレル変異やその他の変異も含まれるが、これらに限定されるものではない。しかし、相同ヌクレオチド配列には、ヒトMANF2をコードするヌクレオチド配列そのものは含まれない。相同核酸配列には、目的のMANF2配列の保存性の高いアミノ酸置換をコードする核酸配列のみならず、MANF2生物活性を有するポリペプチドをコードする核酸配列も含まれる。
【0066】
MANF2の「パーセント(%)核酸配列同一性」とは、複数の配列のアライメントを行い、必要であれば、最大の配列同一性を達成するためのギャップを導入した後の候補配列に含まれる、特定MANF2と同一であるヌクレオチドのパーセントである。
【0067】
%核酸配列同一性を決定するためのアラインメントは、当業界で知られる様々な方法で達成することができる。例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、Megalign (DNASTAR)またはClustalX ソフトウエアのような、一般に入手可能なコンピューターソフトウエアを使用することができる。当業者は、比較する配列の全長にわたる最大のアラインメントを達成するために必要なアルゴリズムを含む、アラインメントの測定のための適切なパラメーターを決定することができる。
【0068】
BLASTのタンパク質サーチは、以下に示すパラメーターを用いたXBLASTプログラム(NCBIのウエブサイトでは“blastn”と称する)またはNCBIの“blastp”プログラムを用いて行うことができる: 予想値は10.0、BLOSUM 62 スコアのマトリックスは本願明細書に記載したタンパク質分子に相同なアミノ酸配列が得られる値。
【0069】
比較を目的としたギャップ有りのアラインメントを得るためには、Altschul et al.(1997, Nucleic Acids Res. 25: 3389-3402)に記載のGapped BLASTを使用することができる。代わりに、分子間のかけ離れた関連性および共通するパターンを共有する分子間の関連性を検出する反復サーチを行うために、PSI-BlastまたはPHI-Blastを使用することもできる。BLAST、Gapped BLAST、PSI-BlastおよびPHI-Blastのプログラムを使用する際には、それぞれのプログラム(例えば、XBLASTとNBLAST)の初期設定パラメーターを使用することができる。http ://www.ncbi.nlm.nih.govを参照。
【0070】
MANF2遺伝子の「オープンリーディングフレーム」(ORF)はMANF2をコードしている。ORFとは、通常は開始コドン(ATG)を有し、3つの「終止」コドン(TAA、TAGまたはTGA)のいずれか1つで終止するヌクレオチド配列である。しかし本発明においてORFは、開始コドンと終止コドンの有無にかかわらず、コード配列のいかなる部分でもかまわない。比類のない配列を得るためには、好ましくはMANF2−ORFは少なくとも50個のアミノ酸をコードしている。
【0071】
「組み換えポリヌクレオチド」とは、天然では連結していない配列を有するポリヌクレオチドを意味する。増幅または組み立てた組み換えポリヌクレオチドを、適切なベクターに導入し、このベクターを適切な宿主細胞の形質転換に使用することができる。
【0072】
組み換えポリヌクレオチドは、非コード機能部位(例えば、プロモーター、複製開始点、リボソーム結合部位など)としても機能しうる。
【0073】
「組み換えポリペプチド」は、組み換えポリヌクレオチドの発現によって製造されるものである。
【0074】
「ポリペプチド」とは、アミノ酸残基、関連した天然の構造変異体、およびその合成非天然類似体がペプチド結合で連結したポリマー、あるいは上記ポリマーに関連した天然の構造変異体、およびその合成非天然類似体である。合成ポリペプチドは、例えば、自動ポリペプチド合成装置で合成することができる。
【0075】
「タグ」ポリペプチドとは、目的のタンパク質にペプチド結合で連結することによって、目的タンパク質の位置決定、細胞抽出物からの精製、結合アッセイに使用するための固定、あるいは生物学的性質および/または機能の研究に使用することのできるタンパク質である。「タグ」エピトープを含有するキメラ(即ち、融合)タンパク質は、タグを結合する樹脂に固定化することができる。このようなタグエピトープと樹脂は、次に例示するように、当業界でよく知られている: 複数の連続したヒスチジン残基(His6)を包含するタグエピトープは、このエピトープを含むキメラタンパク質のニッケル−ニトリロトリ酢酸−アガロースによる単離を可能にし、赤血球凝集素(HA)タグエピトープは、このエピトープを含むキメラタンパク質が抗HA−モノクローナル抗体アフィニティーマトリックスと結合することを可能にし、mycタグエピトープは、このエピトープを含むキメラタンパク質が抗mycモノクローナル抗体アフィニティーマトリックスと結合することを可能にし、グルタチオン−S−トランスフェラーゼタグエピトープはグルタチオン−セファロースカラムと、このエピトープを含むタンパク質との結合を誘導し、そしてマルトース結合タンパク質(MBP)タグエピトープはマルトース−セファロースカラムと、このエピトープを含むタンパク質との結合を誘導する。このようなタグエピトープを含むタンパク質の製造方法は当業界でよく知られており、標準的な学術文献、例えば、前出のSambrook et al.やAusubel et al.に記載されている。また、タグエピトープに対する抗体は、例えば、ウエスタンブロット法、ELISAアッセイや細胞の免疫染色による融合タンパク質の検出と位置決定を可能にする。
【0076】
「抗体」という用語は最も広義で使用しており、特にモノクローナル抗体、多価特異性を有する抗体組成物、二重特異性抗体、ダイアボディおよび一本鎖分子のみならず、所望の生物活性を有する限り、抗体断片(例えば、Fab、F(ab’) とFv)もこの定義に含まれる。
【0077】
本願で使用する「モノクローナル抗体」という用語は、一群の実質的に相同な抗体から得られた抗体である、即ち、一群に含まれる個別の抗体は、微量しか存在しない天然で発生しうる変異を除けば、全て同一である。モノクローナル抗体は非常に特異的であり、単一の抗原部位に対するものである。更に、典型的には異なる決定基(エピトープ)に対する種々の抗体を含む従来の(ポリクローナル)抗体製品と比べて、それぞれのモノクローナル抗体は、抗原に存在する単一の決定基に対するものである。その特異性に加えモノクローナル抗体は、他の免疫グロブリンに汚染されていない培養ハイブリドーマで合成される点が有利である。「モノクローナル」という修飾語は、実質的に均一な抗体の一群から得られたものという抗体の性質を表しており、特定の方法で抗体を製造することが必要であると理解してはいけない。例えば、本発明で使用するモノクローナル抗体は、初めてKohler et al., Nature, 256: 495 (1975)に発表されたハイブリドーマ法、あるいは組み換えDNA法(例えば、米国特許第4,816,567号(Cabilly et al.)を参照)で製造することができる。「モノクローナル抗体」は、例えば、Clackson et al., Nature 352:624-628 (1991)とMarks et al., J. Mol. Biol., 222:581-597 (1991) に記載の技術を用いて、ファージ抗体ライブラリーから単離することもできる。
【0078】
本願におけるモノクローナル抗体には、特に「キメラ」抗体(免疫グロブリン)のみならず、所望の生物活性を有する限り、その断片も含まれる。キメラ抗体とは、その重鎖および/または軽鎖の一部が、特定の生物種から誘導した抗体の対応する配列と同一または相同であるか、あるいは特定の抗体クラスまたはサブクラスに属するが、鎖の残りは、別の生物種から誘導した抗体の対応する配列と同一または相同であるか、あるいは別の抗体クラスまたはサブクラスに属するものである(前出のCabilly et al.、Morrison et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 81:6851-6855 (1984))。
【0079】
「ヒト化」型の非ヒト(例えば、マウス)抗体とは、キメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、または非ヒト免疫グロブリンから誘導した最小配列を含むその断片(Fv、Fab、Fab’、F(ab’) や、抗体の他の抗原結合性サブ配列)である。大部分のヒト化抗体は、ヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)の相補性決定部位(CDR)内の残基を、所望の特異性、親和性と結合容量(capacity)を有するマウス、ラットまたはウサギなどの非ヒト動物種の抗体(ドナー抗体)の残基と置換したものである。場合によっては、ヒト免疫グロブリンのFvフレームワーク領域(FR)の残基を、対応する非ヒト残基と置換する。更に、ヒト化抗体は、レシピエント抗体にも、移入したCDRやフレームワーク配列にも存在しない残基を含んでいてもよい。このような修飾は、抗体の性能を更に改良し、最適化するために行われる。通常、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つ存在する可変ドメインの実質的に全てを含んでおり、可変ドメインにおいては、CDR領域の全てまたは実質的に全てが非ヒト免疫グロブリンに対応し、FR領域の全てまたは実質的に全てがヒト免疫グロブリン配列である。最適なヒト化抗体は、更に免疫グロブリン、典型的にはヒト免疫グロブリン、の定常領域(Fc)の少なくとも一部も含んでいる。詳細については、Jones et al., Nature, 321:522-525 (1986)、Reichmann et al., Nature, 332:323-329 (1988)、とPresta, Curr. Op. Struct. Biol., 2:593-596 (1992)を参照。ヒト化抗体には、霊長類化抗体も含まれ、このような抗体の抗原結合領域は、サルを目的の抗原で免疫して製造した抗体から誘導したものである。
【0080】
「サイトカイン」という用語は、1つの細胞集団が分泌し、細胞間伝達因子として他の細胞に働くタンパク質の総称である。このようなサイトカインの例としては、リンホカイン、モノカインおよび古典的なポリペプチドホルモンが挙げられる。サイトカインには、ヒト成長ホルモン、N−メチオニルヒト成長ホルモンおよびウシ成長ホルモンなどの成長ホルモン;パラ甲状腺ホルモン;チロキシン;インスリン;プロインスリン;リラクシン;プロリラクシン;卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)および黄体形成ホルモン(LH)などの糖タンパク質ホルモン;肝細胞成長因子;繊維芽細胞成長因子;プロラクチン;胎盤性ラクトジェン;腫瘍壊死因子αとβ;ミュラー管抑制物質;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮成長因子;インテグリン;トロンボポイエチン(TPO);NGF、NT−3、NT−4、NT−6、BDNF、CNTF、GDNF、アルテミン、ニュールツリン、ペルセフィン、AL−Iおよび他のeph受容体ファミリーのリガンドなどの神経栄養因子または神経成長因子;血小板誘導成長因子;TGF−αとTGF−βなどのトランスフォーミング成長因子(TGF);インスリン様成長因子−IとII;エリスロポイエチン(EPO)、骨誘導因子;インターフェロン−α、−βと−γなどのインターフェロン;マクロファージ−CSF(M−CSF)、顆粒球−マクロファージ−CSF(GM−CSF)および顆粒球−CSF(G−CSF)などのコロニー刺激因子(CSF);IL−1、IL−1α、IL−2、IL−3、IL−4、IL−5、IL−6、IL−7、IL−8、IL−9、IL−11とIL−12などのインターロイキン(IL);ならびにLIFやキットリガンド(KL)を含む他のポリペプチド因子が含まれる。本願で使用するように、サイトカインという用語には、天然の材料または培養組み換え細胞から得たタンパク質、および本来の配列からなるサイトカインの生物活性同等物が含まれる。更に、TrkA−IgGや他の可溶性キメラ受容体のような、サイトカイン活性を制御する遺伝子組み換え分子も含まれる。
【0081】
処置の対象となる「哺乳動物」とは、哺乳動物に分類される全ての動物であり、ヒト、飼育用および家畜用の動物、ならびに動物園用、スポーツ用および愛玩用の動物、例えば、イヌ、ウマ、ネコ、ウシなどが挙げられる。好ましくは、哺乳動物はヒトである。
【0082】
「生理学的に許容される」担体、賦形剤または安定化剤は、使用する容量および濃度において、それと接触する細胞または哺乳動物に対して毒性のないものである。多くの場合、生理学的に許容される担体は、水溶性のpH緩衝化溶液である。生理学的に許容される担体の例としては、リン酸、クエン酸や他の有機酸などのバッファー;アスコルビン酸などの酸化防止剤;低分子(約10残基未満の)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンや免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンやリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノースやデキストリンなどの単糖、二糖および他の炭水化物;EDTAなどのキレート化剤、マンニトールやソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成対イオン;および/またはTween、プルロニックやポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0083】
「生物活性を有するポリペプチド」とは、容量依存的または非依存的な特定の生物学的アッセイで測定した活性が、成熟型を含む本発明のポリペプチドの活性と類似しているが、必ずしも同一ではないポリペプチドである。容量依存性が存在する場合には、活性が本発明のポリペプチドと同一である必要はないが、しかし、容量依存性は、測定した活性について本発明のポリペプチドが示すものと実質的に類似していなければならない(即ち、候補ポリペプチドの活性は、本発明のポリペプチドよりも高いか、または本発明のポリペプチドの活性に対する活性低下率が約25分の1以下、好ましくは約10分の1以下、最も好ましくは約3分の1以下である)。
【0084】
「処置」とは、治療的処置と予防的または防御的処置の両方を意味する。処置の必要なものには、既に障害を有するもののみならず、障害の発生を防止すべきものが含まれる。
【0085】
本発明は、特許願 WO 01/19851に記載のあるMANF1に相同なタンパク質であるMANF2の発見に基づくものである。本願に記載した実験は、MANF2分子が187アミノ酸からなるタンパク質であり、分析した全ての組織で発現され、主に心臓、腎臓、肝臓、骨格筋、前立腺、胸腺および脳のいくつかの異なる領域で発現されていることを示した。特にMANF2タンパク質は、ニューロンを含む種々の組織に存在が認められ、この結果は、MANF2受容体含有細胞の増殖、成長、生存、分化、代謝または再生を刺激するために、MANF2アゴニストが使用可能であることを示している。
【0086】
1つの態様においては、本発明は、MANF2ポリペプチド、その生物活性断片、または抗原性断片を包含する精製タンパク質、あるいは上記ポリペプチドまたは断片からなる精製タンパク質を提供する。
【0087】
他の1つの態様においては、本発明は、MANF2タンパク質との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%であるアミノ酸配列を包含するタンパク質、あるいはこのようなアミノ酸配列からなるタンパク質にも関する。
【0088】
遺伝子コードには縮重が存在するために、図7に示した配列番号1のヌクレオチド配列に含まれるcDNAまたはその断片の核酸配列との同一性が少なくとも80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%または100%であるヌクレオチド配列を有する核酸分子の多くが、「機能的な活性を有する」ポリペプチドをコードすることを当業者は直ちに認識する。実際に、いずれのヌクレオチド配列の縮重変異体も全て同じポリペプチドをコードするので、多くの場合、多数の核酸分子が「機能的な活性を有する」ポリペプチドをコードすることは当業者には明らかである。更に当業界においては、上述の核酸分子が縮重変異体ではない場合でも、かなりの数の核酸分子が機能的な活性を有するポリペプチドをコードすると認められる。その理由は、タンパク質の機能に著しい影響を与える可能性が低いかまたは与えないと考えられるアミノ酸置換(例えば、1つの脂肪族アミノ酸が他の1つの脂肪族アミノ酸により置換される場合)について、当業者は熟知しているからである。これについては下記で詳細に説明する。
【0089】
例えば、表現形質に影響することのないアミノ酸置換を行うための指針がBowie et al., "Deciphering the Message in Protein Sequences: Tolerance to Amino Acid Substitutions (タンパク質配列のメッセージを解読する:アミノ酸置換の許容度)" Science 247:1306-1310 (1990) に開示されており、この論文の著者は、変更するアミノ酸配列の許容度を検討するための2つの主要な方法を示している。
【0090】
第1の方法は、進化の過程における自然淘汰によるアミノ酸置換の許容度を活用する。色々な生物種の有するアミノ酸配列を比較することで、保存されているアミノ酸を同定することができる。このような保存されているアミノ酸はタンパク質の機能に重要であると考えられる。一方、自然淘汰によってある位置のアミノ酸置換が許容されたということは、この位置のアミノ酸はタンパク質の機能にとって決定的ではないことを意味する。従って、アミノ酸置換を許容する位置のアミノ酸は、タンパク質の生物活性を維持しながら修飾することができる。
【0091】
MANF2の天然のアレル変異の他にも、MANF2ヌクレオチド配列のコードするMANF2ポリペプチドのアミノ酸配列に置換が生じるように、突然変異によってMANF2ヌクレオチド配列に変更を導入することもできる。ヌクレオチドの置換によって、MANF2ポリペプチドの配列中の「非必須」アミノ酸残基にアミノ酸置換を行うことができる。「非必須」アミノ酸残基とは、生物活性を変更することなくMANF2の野生型配列において変更することのできる残基であり、「必須」アミノ酸残基は、生物活性に必要なアミノ酸残基である。例えば、本発明のMANF2分子間で保存されているアミノ酸残基は、特に変更の影響を受けにくい部分であると予測される。同類置換が可能なアミノ酸は当業者にはよく知られている。有用な同類置換を表Bの「好ましい置換」の欄に示した。あるクラスのアミノ酸を、同じクラスの他のアミノ酸で置換した同類置換体も、化合物の生物活性を実質的に変更しない限り本発明の範囲内である。
【0092】
第2の方法では、遺伝子工学を用いてクローニングした遺伝子の特定の位置にアミノ酸の変化をもたらす変異を導入し、タンパク質の機能に重要な領域を同定する。例えば、部位特異的変異法やアラニンスキャニング変異法(分子内の全ての残基に対して単一アラニン変異を導入する方法)を用いることができる。Cunningham et al., Science 244:1081-1085 (1989) を参照。その結果として得られた変異分子について、次にその生物活性を試験する。同類アミノ酸置換(下記の表B参照)の他に、本発明の変異体には次の(i)〜(iv)の変異を有していてもよい:(i)1つまたはそれ以上の非同類アミノ酸残基であって、置換したアミノ酸残基が遺伝コードによってコードされているかコードされていないもの、(ii)置換基を有するアミノ酸残基による、1つまたはそれ以上のアミノ酸の置換、(iii)成熟ポリペプチドと、ポリペプチドの安定性および/または溶解性を向上する化合物(例えば、896Iポリエチレングリコール)などの他の化合物との融合、または(iv)ポリペプチドと、IgG Fc融合ペプチド、血清アルブミン(好ましくはヒト血清アルブミン)またはその断片や変異体、リーダー配列または分泌性配列、精製を容易にする配列などの付加的なアミノ酸配列との融合。このような変異ポリペプチドは、本願の開示に基づいて当業者が作製可能である。
【0093】
【表B】

【0094】
本発明の更なる態様は、アミノ酸置換を導入したアミノ酸配列を含むポリペプチドに関し、該ポリペプチドに含まれるアミノ酸配列は、本願で開示するポリペプチド配列に1〜50個のアミノ酸置換を導入したアミノ酸配列を有するポリペプチドのアミノ酸配列である。上記アミノ酸置換は40個以下が好ましく、30個以下がより好ましく、20個以下が更に好ましい。非常に好ましいポリペプチドは、そのアミノ酸配列が図7に示した配列番号2のMANF2ポリペプチド、その一部またはその補体(complement)のアミノ酸配列を包含し、1個以上であって、10個、9個、8個、7個、6個、5個、4個、3個、2個または1個以下のアミノ酸置換を有する。アミノ酸置換の数は少ないほど好ましい。
【0095】
好ましい態様においては、アミノ酸置換は同類置換である。
【0096】
特定の態様においては、本発明のポリペプチドは、図7に示した配列番号2の参照用アミノ酸配列の断片または変異体を含むか、あるいは断片または変異体からなるポリペプチドであって、上記断片または変異体は、参照用アミノ酸配列と比較して、1〜5個、5〜10個、5〜25個、5〜50個、10〜50個または50〜150個のアミノ酸残基の付加、置換および/または欠失を有する。
【0097】
1つの態様においては、MANF2ポリペプチドの製造に適した技術は当業界で広く知られており、そこにはポリペプチドの内因性原料からMANF2を単離する技術、(ペプチド合成装置を用いた)ペプチド合成法および組み換え技術(またはこれら技術の組み合わせ)が含まれる。
【0098】
1つの態様においては、単離した核酸分子はタンパク質をコードするヌクレオチド配列を含み、このタンパク質は、MANF2のアミノ酸配列と少なくとも約45%、好ましくは60%、より好ましくは70%、80%または90%、最も好ましくは約95%の相同性を有するアミノ酸配列を含むものである。
【0099】
他の態様においては、MANF2ポリペプチド変異体は、少なくとも以下の(1)〜(3)のいずれかを有する:(1)図7に示した配列番号2の全長未変性MANF2ポリペプチド配列と約80%の相同性を示すアミノ酸配列、(2)シグナルペプチドを欠いたMANF2ポリペプチド配列、または(3)全長MANF2ポリペプチド配列の他の断片。例えば、MANF2ポリペプチド変異体には、1つまたはそれ以上のアミノ酸残基を全長未変性アミノ酸配列のN末端またはC末端に付加したか、N末端またはC末端から欠失したMANF2ポリペプチドが含まれる。MANF2ポリペプチド変異体のアミノ酸配列は、全長未変性MANF2ポリペプチド配列と少なくとも約80%の同一性を有し、好ましくは少なくとも約81%の同一性、より好ましくは、少なくとも約82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%または98%の同一性を有し、少なくとも約99%の同一性を有することが最も好ましい。MANF2ポリペプチド変異体のアミノ酸配列は、全長MANF2ポリペプチド配列のシグナルペプチドや他の断片を欠失していてもよい。通常、MANF2変異体ポリペプチドの長さは少なくとも約10アミノ酸であり、一般的には少なくとも約20アミノ酸であり、より一般的には少なくとも約30、40、50、60、70、80、90、100または150アミノ酸、またはより長いものである。
【0100】
本発明の1つの態様においては、下記(a)〜(e)からなる群より選ばれるヌクレオチド配列を有するポリヌクレオチドを含む単離した核酸分子、あるいは上記ポリヌクレオチドからなる単離した核酸分子を提供する。(a)図7に示した配列番号1のヌクレオチド配列、(b)配列番号1の一部であって、成熟MANF2ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列、(c)生物活性を有するMANF2ポリペプチド断片をコードするヌクレオチド配列、(d)MANF2ポリペプチドの抗原性断片をコードするヌクレオチド配列、および(e)上記(a)、(b)、(c)および(d)のヌクレオチド配列に相補的なヌクレオチド配列。
【0101】
更に本発明は、遺伝コードの縮重ゆえに本発明のヌクレオチド配列とは異なる核酸分子であって、配列番号2または4のアミノ酸配列で表されるMANF2タンパク質と同じものをコードする核酸分子も包含する。
【0102】
更に、核酸分子の集団の中には、MANF2のアミノ酸配列を変化させる配列多型が存在してもよい。例えば、個体間の対立遺伝子変異はMANF2の遺伝的多型を示す。「遺伝子」と「組み換え遺伝子」という用語は、MANF2、好ましくは脊椎動物のMANF2をコードする読み枠(ORF)を含む核酸分子を意味する。このような天然の対立遺伝子変異は、典型的には1〜5%の変異をMANF2にもたらす。このようなヌクレオチド変異およびその結果であるMANF2アミノ酸配列の多型は天然の対立遺伝子変異の産物であり、MANF2の機能的活性を変化させないものである。このような変異および多型のそれぞれとその全てが本発明の範囲に含まれる。
【0103】
更に、ヒトのMANF2配列とは異なるヌクレオチド配列からなる他の生物種のMANF2の存在も考えられる。天然のアレル変異や本発明のMANF2 cDNAのホモログに対応する核酸分子は、MANF2との相同性に基づいて、cDNAから誘導したプローブをストリンジェントな条件下で相同MANF2配列にハイブリダイズさせることで単離することが可能である。
【0104】
「MANF2変異体ポリヌクレオチド」または「MANF2変異体核酸配列」とは、以下の(1)〜(3)のいずれかを有する活性MANF2をコードする核酸分子を意味する:(1)全長未変性MANF2をコードするヌクレオチド配列と少なくとも約80%の相同性を有するもの、(2)シグナルペプチドを欠失した全長未変性MANF2、または(3)全長MANF2の他の断片。通常、MANF2変異体ポリヌクレオチドは、全長未変性MANF2をコードする核酸配列と少なくとも約80%の同一性を有し、好ましくは少なくとも約81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%または98%の同一性を有し、少なくとも約99%の同一性を有することがより好ましい。MANF2変異体ポリヌクレオチドがシグナルペプチドを欠失した全長未変性MANF2をコードする時には、シグナル配列を有していても、有していなくてもよく、また、上記ポリヌクレオチドは他の断片を欠失した全長MANF2をコードするものでもよい。変異体には、未変性ヌクレオチド配列は含まれない。
【0105】
通常、MANF2変異体ポリヌクレオチドの長さは少なくとも約30ヌクレオチドであり、一般的には少なくとも約60、90、120、150、180、210、240、270、300または400ヌクレオチドであり、より一般的には少なくとも約500ヌクレオチド、またはより長いものである。
【0106】
本願で開示するヒトおよびマウスの配列をコードする哺乳動物MANF2のcDNA配列の構造とヌクレオチド配列は、他の哺乳動物からMANF2をコードしている遺伝子配列をクローニングすることを可能にした。本発明において特に興味深い点は、本願に開示した配列を用いてヒトMANF2分子のクローニングが可能な点である。MANF2をコードするDNAは、本願実施例で行ったように、MANF2 mRNAを有すると考えられ、検出可能なレベルで発現する組織から調製したいかなるcDNAライブラリーからも得ることができる。従って、MANF2 DNAは、例えば哺乳動物胎児の肝臓、脳、筋肉、腸および末梢神経から調製したcDNAライブラリーから容易に得ることができる。MANF2をコードする遺伝子は、ゲノムライブラリーまたはオリゴヌクレオチド合成によって得ることもできる。
【0107】
目的遺伝子またはそれにコードされているタンパク質を同定するように設計したプローブ(MANF2に対する抗体または約20〜80塩基からなるオリゴヌクレオチドなど)でライブラリーのスクリーニングを行う。選択したプローブによるcDNAまたはゲノムライブラリーのスクリーニングは、Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual (分子クローニング:実験マニュアル) New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press, 1989) の10〜12章に記載の標準的な方法、または上記Sambrook et al.のセクション14に記載のPCR法で行うことができる。
【0108】
MANF2のアミノ酸配列変異体は、適当なヌクレオチドの変化をMANF2 DNAに導入するか、または目的MANF2ポリペプチドを合成することで調製することができる。このような変異体は、図7の配列番号2または4に示したような、天然MANF2のアミノ酸配列の内部または末端の一方か両方に挿入、置換および/または特定の欠失を有する。好ましくは、このような変異体は、成熟配列の内部または末端の一方か両方に挿入および/または置換を有するか、あるいはMANF2のシグナル配列の内部または末端の一方か両方に挿入、置換および/または特定の欠失を有する。成熟配列とシグナル配列の両方に変異を有していてもよい。本願で定義した目的の生物活性を有する最終的な構築物が得られる限り、挿入、置換および/または特定の欠失を色々な組み合わせで用いることができる。
【0109】
上述したような未変性配列の変異体は、米国特許第5,364,934号に記載の同類および非同類変異に関する技術とガイドラインを元に作製することができる。このような方法には、オリゴヌクレオチドを介した(部位特異的)変異法、アラニンスキャニング変異法およびPCR変異法が含まれる。
【0110】
MANF2をコードする核酸(例えば、cDNAやゲノムDNA)を、更なるクローニング(DNAの増幅)や発現のために複製可能なベクターに挿入する。種々のベクターが入手可能である。一般的にベクター構成成分には、1つまたは複数の以下の成分が含まれるが、これらに限定されるものではない:シグナル配列、複製開始点、1つまたは複数のマーカー遺伝子、エンハンサー因子、プロモーターおよび転写停止配列。
【0111】
本発明のMANF2類は、直接的に組換えによって製造する以外にも、異種ポリペプチド(好ましくはシグナル配列や特定の開裂部位を成熟タンパク質またはポリペプチドのN末端に有する他のポリペプチド)との融合ポリペプチドとして製造することもできる。融合タンパク質は組み換え法によって容易に調製することができる。読み枠を合わせてMANF2をコードする核酸とMANF2をコードしない核酸とを融合することができるが、MANF2をコードしない核酸はMANF2のN末端、COOH末端または内部に融合させる。融合遺伝子は、自動DNA合成装置などの公知の方法で合成することもできる。MANF2融合タンパク質は全長MANF2のいかなる部分を含有していてもよく、生物活性部位をいくつも含有していてもよい。融合ポリペプチドは、発現の研究、細胞の位置決定、バイオアッセイおよびMANF2の精製に有用である。
【0112】
また、MANF2融合タンパク質は、PCR増幅法とアンカープライマーを用いて容易に製造することもできる。使用するアンカープライマーは、2つの連続した遺伝子断片の間に相補的なオーバーハングを調製するものであり、次いで増幅産物のアニーリングを行い、それを再増幅することでキメラ遺伝子配列を製造することができる(Ausubel et al., supra)。
【0113】
シグナル配列はベクターの構成要素でもよいし、ベクターに挿入するMANF2 DNAの一部でもよい。選択した異種シグナル配列は、宿主細胞によって認識および処理される(例えば、シグナルぺプチダーゼによって開裂される)ものが好ましい。MANF2の本来のシグナル配列を認識および処理することのない原核生物を宿主細胞とする場合には、例えば、アルカリホスファターゼのリーダー配列、ペニシリナーゼのリーダー配列および熱安定性II型エンテロトキシンのリーダー配列からなる群より選ばれる原核性シグナル配列で、MANF2シグナル配列を置換する。酵母による分泌のためには、本来のシグナル配列を、例えば、酵母インベルターゼのリーダー配列、α因子のリーダー配列(Saccharomyces属およびKluyveromyces属のα因子リーダー配列を含み、後者は1991年4月23日に発行された米国特許第5,010,182号に記載されている)、酸フォスファターゼのリーダー配列やCandida albicansグルコアミラーゼのリーダー配列(1990年4月4日に公開されたEP 362,179を参照)で置換することができる。哺乳動物細胞による発現においては、本来のシグナル配列(例えば、通常、ヒト細胞においてin vivoでMANF2の分泌を指示するMANF2プレ配列)で十分であるが、他の哺乳動物シグナル配列が適当な場合もある。他の哺乳動物のシグナル配列としては、他の動物のMANF2のシグナル配列や、同一または関連する生物種の分泌ポリペプチド用のシグナル配列が挙げられ、他にはウイルス性分泌用リーダー配列、例えば単純ヘルペスウイルスのgDシグナルも挙げられる。
【0114】
発現およびクローニングベクターは、通常、宿主生物によって認識されるプロモーターを含有し、発現可能な状態でMANF2核酸と連結している。ベクターの選択は、使用する生物または細胞と目的とするベクターの性質によって支配されている。ベクターは標的細胞中で1回複製するものでも、「自殺」ベクターでもよい。一般的に、ベクターはシグナル配列、複製開始点、マーカー遺伝子、エンハンサー因子、プロモーターおよび転写停止配列を包含する。各因子の選択については、ベクターを使用する生物に依存し、容易に決定することができる。上記因子のいくつかは特定条件下でのみ機能するもの(例えば、適切な条件下でのみ機能する誘導性または条件付プロモーター)である。
【0115】
ベクターは2種に大別することができる。1つはクローニングベクターであって、適切な宿主細胞における増殖に必要のない領域も有する複製プラスミドまたはファージであり、外来DNAを挿入することができるものである。外来DNAはベクターの一成分であるかのように複製し、増幅する。もう一方の発現ベクター(プラスミド、酵母または動物ウイルスゲノム)は、外来遺伝物質を宿主細胞または組織に導入し、外来DNAの転写と翻訳を行うためのものである。発現ベクターに導入したDNAは、宿主細胞に挿入遺伝子を転写するための指示を伝達するプロモーターなどの因子に発現可能な状態で連結している。いくつかのプロモーター、例えば、特定の因子に応答して遺伝子の転写を制御する誘導性プロモーター、は特に有用である。誘導性プロモーターに発現可能な状態で連結したMANF2またはそのアンチセンス構築物は、MANF2またはその断片、あるいはアンチセンス構築物の発現を制御することができる。典型的な誘導性プロモーターの具体例としては、α−インターフェロン、熱ショック、重金属イオン、グルココルチコイドなどのステロイド類(Kaufman RJ, "Vectors Used for Expression in Mammalian Cells (哺乳動物細胞における発現に用いるベクター)", "Methods in Enzymology, Gene Expression Technology (酵素学の方法、遺伝子発現技術)", David V. Goeddel ed., 1990, 185:487-511)やテトラサイクリンに応答するプロモーターが挙げられる。他の好ましい誘導性プロモーターとしては、構築物を導入する細胞にとって内因性ではないが、誘導性物質を細胞の外部から与えた時に応答するものが挙げられる。
【0116】
プロモーターは、構造遺伝子の開始コドンの上流(5’側)に位置する非翻訳配列(通常、約100〜1,000bp)であり、そこに発現可能な状態で連結した特定の核酸配列(例えばMANF2核酸配列)の転写と翻訳を制御するものである。このようなプロモーターは典型的には2つのクラス、誘導性と構成性、に大別することができる。誘導性のプロモーターは、培養条件の変化(例えば、栄養素の存在または不存在、または温度変化)に応じて、その制御下のDNAの転写レベルの増加を制御するプロモーターである。今では、種々の宿主細胞候補によって認識されるプロモーターが多数知られている。このようなプロモーターを発現可能な状態でMANF2をコードするDNAに連結する時には、プロモーターの原料となるDNAから制限酵素消化によってプロモーターを切り出し、単離したプロモーター配列をベクターに挿入する。本来のMANF2プロモーター配列と種々の異種プロモーターは共に、MANF2 DNAの直接的な増幅および/または発現に使用することができる。しかし、異種プロモーターは、通常、本来のMANF2プロモーターよりも高い転写率とMANF2の高収率を可能とするため、異種プロモーターが好ましい。原核細胞、真核細胞、酵母および哺乳動物の宿主細胞に用いるための種々のプロモーターが存在し、当業者に知られている。
【0117】
真核宿主細胞(酵母、真菌、昆虫、植物、動物、ヒトまたは他の多細胞生物から得た有核細胞)に用いる発現ベクターも、転写停止とmRNAの安定化に必要な配列を含有する。このような配列は、真核生物またはウイルスのDNAまたはcDNAの通常5’側、時には3’側の非翻訳領域から得られる。このような領域は、MANF2をコードするmRNAの非翻訳領域中のポリアデニル化断片として転写されるヌクレオチドセグメントを含有する。
【0118】
上で列挙した成分を1つまたは複数含有する適切なベクターの構築には、標準的な連結技術を用いる。必要なプラスミドが作製されるように、単離したプラスミドまたはDNA断片を開裂し、仕立て直し、再連結する。
【0119】
本発明を実施する際に特に有用なのは、MANF2をコードするDNAの一過性発現を哺乳動物細胞中で可能とする発現ベクターである。一般的に、一過性発現には宿主細胞内で効果的に複製することのできる発現ベクターを用い、宿主細胞が発現ベクターの複数のコピーを蓄積し、その結果として発現ベクターによってコードされている目的ポリペプチドを高レベルで合成する(前出のSambrook et al., pp. 16.17-16.22を参照)。適切な発現ベクターと宿主細胞を包含する一過性発現系は、クローニングしたDNAにコードされているポリペプチドの存在を簡単に同定するだけでなく、このようなポリペプチドを対象として目的とする生物学的特徴または生理的特徴についての迅速なスクリーニングを可能とする。従って、一過性発現系は、生物活性を有するMANF2類似体や変異体を同定するために、本発明において特に有用である。
【0120】
培地における脊椎動物細胞の増殖(組織培養)は、日常的な操作である。例えば、"Tissue Culture (組織培養)", Academic Press, Kruse and Patterson ed. (1973)を参照。有用な哺乳動物宿主細胞株としては、サル腎臓細胞株CV1をSV40で形質転換したもの(COS-7、ATCC CRL 1651)、チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaub et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA, 77:4216 (1980))、ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2)およびイヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34)が挙げられる。
【0121】
上述のMANF2製造用の発現ベクターまたはクローニングベクターで宿主細胞をトランスフェクトし、好ましくは形質転換し、プロモーターの誘導、形質転換体の選択または目的配列をコードする遺伝子の増幅に適当なように修飾した市販の栄養培地で培養する。
【0122】
トランスフェクションとは、コード配列が実際発現されるかどうかに関わりない、宿主細胞による発現ベクターの取り込みを意味する。通常の知識を有する当業者には、トランスフェクションのための方法が多数知られており、例えば、エレクトロポレーション法が挙げられる。トランスフェクションの成功は、通常、宿主細胞においてこのベクターが機能したことを示す何らかの指標が生じたことによって確認する。
【0123】
形質転換とは、核外因子または染色体導入物として複製可能なようにDNAを生体に導入することを意味する。使用する宿主細胞にもよるが、形質転換は各細胞に適した標準的な方法で行う。前出のSambrook et al.、セクション1.82に記載の塩化カルシウムを用いたカルシウム処理またはエレクトロポレーション法が、実質的に細胞壁のバリアを有する原核細胞や他の細胞に一般的に用いられている。
【0124】
哺乳動物細胞宿主系形質転換の一般的な特徴は、1983年8月16日発行の米国特許第4,399,216号に記載されている。酵母の形質転換は、典型的には、Van Solingen et al., J. Bact., 130:946 (1977)およびHsiao et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76:3829 (1979) の方法に準じて実施する。しかし、細胞にDNAを導入するための他の方法、例えば、核のマイクロインジェクション法、エレクトロポレーション法、細菌のプロトプラストを無傷の細胞と融合する方法、またはポリカチオン法(例えば、ポリブレン、ポリオルニチンなどを用いる方法)を実施することもできる。哺乳動物細胞を形質転換する種々の方法については、Keown et al., Methods in Enzymology, 185:527-537 (1990)およびMansour et al., Nature, 336:348-352 (1988) を参照されたい。
【0125】
本発明のMANF2ポリペプチドの製造に用いる原核細胞は、前出のSambrook et al.などに包括的に記載されている培地の中の適切なもので培養する。一般的に、哺乳動物培養細胞の生産性を最大にするための原理、方法、実践的技術については、"Mammalian Cell Biotechnology: a Practical Approach (哺乳動物細胞生物工学:実践的手法)", M. Butler ed. (IRL Press, 1991) に記載されている。
【0126】
遺伝子の増幅および/または発現は試料から直接測定することができ、例えば、本願で開示する配列に基づいた適切な標識プローブを用いた、公知のサザンブロット法、mRNAの転写を測定するためのノーザンブロット法(Thomas, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:5201-5205 (1980))、ドットブロット法(DNA解析)またはin situハイブリダイゼーション法によって測定することができる。種々の標識、最も一般的にはラジオアイソトープ、特に32Pを使用する。しかし、その他の技術、例えば、ポリヌクレオチドに標識を導入するためのビオチン修飾ヌクレオチドや、特定の二本鎖分子(二本鎖DNA、二本鎖RNA、DNA−RNAハイブリッド二本鎖またはDNA−タンパク質二本鎖など)を認識する抗体も使用可能である。
【0127】
遺伝子の発現は、組織切片の免疫組織的染色、培養細胞や体液のイムノアッセイといった免疫学的手法によって、遺伝子産物の発現を直接定量することもできる。免疫組織的染色技術においては、細胞試料を(典型的な方法では脱水と固定によって)調製し、細胞にカップリングされている遺伝子産物に特異的な標識抗体と反応させる。この場合の標識は、通常目視で検出可能な酵素標識、蛍光標識、発光標識などである。本発明での使用に適した特に感度の高い染色方法が、Hsu et al., Am. J. Clin. Path., 75:734-738 (1980) に記載されている。
【0128】
組み換え体の作製
ヒト由来ではない組み換え細胞によってMANF2を製造した場合、得られたMANF2はヒト由来のタンパク質やポリペプチドを全く含まない。しかし、MANF2として実質的に均質な調製物を得るためには、製造したMANF2を組み換え細胞のタンパク質やポリペプチドから精製する必要がある。精製を行うには、まず、培地または細胞溶解物を遠心分離することで、そこから粒状の細胞片を取り除くことができる。次いで、適切な精製方法の例として以下に挙げる方法で、異物である可溶性のタンパク質やポリペプチドからMANF2を精製することができる。このような方法としては、イオン交換カラムによる分取、エタノール沈殿法、逆相HPLC、シリカ充填カラムを用いたクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング(chromatofocusing)、イムノアフィニティ法、エピトープタグ結合樹脂を用いる方法、SDS−PAGE、硫安沈殿法、Sephadex G-75などを用いたゲル濾過、およびIgGなどの異物を取り除くためのプロテインAセファロースカラムを用いる方法が挙げられる。
【0129】
アミノ酸残基が欠失、挿入または置換されたMANF2変異体は、変異によって生じた物性の実質的な変化にも考慮しながら、未変性MANF2配列と同様の方法で回収する。モノクローナル抗MANF2抗体結合樹脂(monoclonal anti-MANF2 resin)などのイムノアフィニティ樹脂をMANF2変異体中に残っている少なくとも1つのエピトープに結合させることにより、MANF2変異体を樹脂に吸収させることができる。
【0130】
変異体のアッセイは以下のようにして行うことができる。MANF2分子の免疫特性(例えば一定の抗体に対する親和性など)の変化は、競合的なイムノアッセイによって測定することができる。タンパク質やポリペプチドの物性(例えば酸化還元性、熱安定性、疎水性、タンパク質分解に対する感受性、担体との凝集傾向や多量体形成傾向など)の他の考えられる変化は、当業界で公知の方法でアッセイを行う。
【0131】
本発明は、異種ポリペプチドに融合したMANF2を含むキメラポリペプチドも包含する。キメラMANF2は、本発明で定義するMANF2変異体の1種である。1つの好ましい態様においては、キメラポリペプチドは、抗タグ抗体または抗タグ分子が選択的に結合可能なエピトープを提供するタグポリペプチドと、MANF2との融合物を包含する。このようなエピトープタグは、一般的にMANF2のアミノ末端またはカルボキシル末端に設けられる。エピトープタグを付したこのような形態のMANF2は、タグポリペプチドに対する標識抗体を用いてその存在を検出することが可能なので好ましい。また、エピトープタグを付与することで、抗タグ抗体を用いたアフィニティー精製でMANF2を容易に精製することが可能になる。抗体を用いたアフィニティー精製の方法および診断のためのアッセイに関しては後述する。
【0132】
タグポリペプチドとその抗体については、当業界においてよく知られている。例えば、インフルエンザHAタグポリペプチドとその抗体である12CA5(Field et al., Mol. Cell. Biol., 8:2159-2165 (1988))、c−mycタグとその抗体である8F9、3C7、6E10、G4、B7および9E10(Evan et al., Molecular and Cellular Biology, 5:3610-3616 (1985))、ならびに単純ヘルペスウイルスの糖タンパク質D(gD)タグとその抗体(Paborsky et al., Protein Engineering, 3(6):547-553 (1990))などである。その他のタグポリペプチドも開示されており、例えば、Flag ペプチド(Hopp et al., BioTechnology, 6:1204-1210 (1988))、KT3エピトープペプチド(Martin et al., Science, 255:192-194 (1992))、α−チューブリンエピトープペプチド(Skinner et al., J. Biol. Chem., 266:15163-15166 (1991))、およびT7遺伝子誘導タンパク質に由来するペプチドタグ(Lutz-Freyermuth et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:6393-6397 (1990))が挙げられる。タグポリペプチドを選択すれば、それに対する抗体を、本願で説明する方法によって作製することができる。C末端ポリヒスチジン配列タグが好ましい。ポリヒスチジン配列は、例えば、Lindsay et al., Neuron 17:571-574 (1996) に記載のNi−NTAクロマトグラフィーによってタグを付したタンパク質の単離を可能にする。
【0133】
エピトープタグを付したMANF2の構築と製造に適した一般的な方法は、上記した様々な方法と同様のものである。
【0134】
エピトープタグを付したMANF2は、抗タグ抗体を用いたアフィニティクロマトグラフィーにより簡便に精製することができる。アフィニティー抗体を結合させるマトリックスとしては大抵の場合アガロースが用いられるが、他のマトリックス(例えば、多孔性ガラスビーズ(controlled pore glass)やポリスチレンジビニルベンゼン)も使用可能である。エピトープタグを付したMANF2は、例えば緩衝液のpHやイオン強度を変化させたり、カオトロピックな物質を加えたりすることにより、アフィニティカラムから溶出させることができる。
【0135】
適切な免疫グロブリン定常ドメイン配列に結合したMANF2配列よって構築されるキメラ(イムノアドヘシン(immunoadhesins))は当業界でよく知られている: 文献に発表されたイムノアドヘシンとしては、以下のタンパク質との融合物が挙げられる。T細胞受容体(Gascoigne et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84: 2936-2940 (1987))、CD4*(Capon et al., Nature 337: 525-531 (1989)、Traunecker et al., Nature, 339: 68-70 (1989)、Zettmeissl et al., DNA Cell Biol USA, 9: 347-353 (1990) および Byrn et al., Nature, 344: 667-670 (1990))、TNF受容体(Ashkenazi et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 88: 10535-10539 (1991)、Lesslauer et al., Eur. J. Immunol., 27: 2883-2886 (1991) および Peppel et al., J. Exp. Med., 174:1483-1489 (1991))、およびIgEレセプターα*(Ridgway et al., J. Cell. Biol., 1 15:abstr. 1448 (1991))。文中のアスタリスク(*)は、受容体が免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーであることを示す。
【0136】
最も単純で簡単なイムノアドヘシン設計においては、「アドヘシン」タンパク質の結合領域を、免疫グロブリンのH鎖のヒンジ部とFc領域と組み合わせる。通常、本発明のMANF2−免疫グロブリンキメラを調製する場合は、MANF2をコードする核酸を、MANF2のC末端側に免疫グロブリンが結合するように、免疫グロブリン定常ドメイン配列のN末端をコードする核酸に融合させるが、N末端側に免疫グロブリンが結合するように核酸を融合することも可能である。
【0137】
概して、このような融合物では、コードされたキメラポリペプチドは、少なくとも免疫グロブリン H鎖の定常領域のヒンジドメイン、CH2ドメインおよびCH3ドメインを、機能的な活性を有する形態で保有する。定常ドメインのFc部位のC末端から融合することもできるし、H鎖のCH1ドメインのN末端の直前やL鎖の対応領域から融合することもできる。
【0138】
融合させる正確な位置は重要ではなく、融合に適した特定の位置もよく知られている。融合位置は、MANF2−免疫グロブリンキメラの生物活性、分泌特性または結合特性の最適化を目的として選択することができる。
【0139】
MANF2イムノアドヘシンを発現させる宿主細胞株の選択は、主に発現ベクターに依存する。他に考慮する点は、必要なタンパク質の量である。例えば、リン酸カルシウム法またはDEAE−デキストラン法(Aruffo et al., Cell, 61:1303-1313 (1990) および Zettmeissl et al., DNA Cell Biol. US, 9:347-353 (1990))を用いた一過性トランスフェクションでは、しばしばミリグラム単位のタンパク質を製造できる。より多量のタンパク質が望まれる場合には、宿主細胞株を安定なトランスフェクションに付した後でイムノアドヘシンを発現させればよく、例えば、ジヒドロ葉酸還元酵素をコードする更なるプラスミドの存在下でチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO細胞)に発現ベクターを導入する。
【0140】
抗体
MANF2核酸は、本発明で例示する組み換え技術によるMANF2ポリペプチドの調製に有用であり、このようにして得られるMANF2ポリペプチドは、後述する多様な用途を有する抗MANF2抗体の製造に用いることができる。
【0141】
免疫組織染色および/または体液試料のアッセイに有用な抗体は、モノクローナル抗体とポリクローナル抗体のいずれであってもよい。
【0142】
更に本発明には、MANF2またはその断片に特異的に結合する抗体が含まれる。本発明の1つの好ましい態様には、MANF2の生物活性を阻害する抗体も含まれる。上記の抗体は、MANF2レベルが関与する疾患に罹患した哺乳動物のMANF2レベルを測定するための診断アッセイにおいて、MANF2の同定に有用である。更に、MANF2に特異的に結合する抗体は、MANF2とその受容体との相互作用を遮断するのにも有用であるため、後述するように、MANF2関連疾患を処置するための治療枠においても有用である。
【0143】
MANF2タンパク質またはペプチドの全長配列またはペプチド断片に対するモノクローナル抗体は、公知のいかなるモノクローナル抗体調製法、例えば Harlow et al., (1988, "Antibodies, A Laboratory Manual (抗体、実験マニュアル)"、New York: Cold Spring Harbor)に記載の手法、を用いて調製してもよい。なお、抗MANF2モノクローナル抗体は、少なくとも次の4つの工程を含んでなるハイブリドーマ法を用いて調製することができる。(1)宿主または宿主のリンパ球を免疫する工程、(2)モノクローナル抗体を分泌する(または分泌能を有する)リンパ球を回収する工程、(3)不死化した細胞と該リンパ球を融合する工程、そして(4)所望の(抗MANF2)モノクローナル抗体を分泌する細胞を選択する工程。モノクローナル抗体は、従来のIg精製法、例えばプロテインAセファロース、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析、硫安沈殿法またはアフィニティクロマトグラフィーなどを用いて、培地や腹水液から単離または精製することができる(Harlow et al., supra)。
【0144】
マウス、ラット、モルモット、ハムスター、またはその他の適当な宿主を免疫して、免疫原に特異的に結合する抗体を製造するか、または製造能を有するリンパ球を誘導する。また、リンパ球はin vitroで免疫してもよい。
【0145】
ヒトの細胞が望ましい場合は、一般に、末梢血リンパ球を用いる。しかし、ヒト以外の哺乳動物由来の脾臓細胞またはリンパ球が好ましい。
【0146】
典型的な免疫原としては、MANF2またはMANF2融合タンパク質が挙げられる。
【0147】
本発明は更に、ヒト化抗MANF2抗体およびヒト抗MANF2抗体も包含する。
【0148】
ヒト化した非ヒト動物抗体とは、非ヒト動物Igから誘導した最小配列を含有するキメラIg、そのIg鎖または断片(例えば、抗体のFv、Fab、Fab’、F(ab’)またはその他の抗原結合性配列)である。
【0149】
一般的に、ヒト化抗体は、ヒト以外の動物原料から導入した1つ以上のアミノ酸残基を有する。このような非ヒトアミノ酸残基をしばしば「外来(import)」残基と称し、その残基は一般に「外来」可変ドメインから得たものである。ヒト化は、げっ歯類の相補性決定部位(CDR)またはCDR配列をヒト抗体の対応する配列に置換することで達成する(Jones et al., Nature 321:522-525 (1986)、Riechmann et al., Nature 332:323-327 (1988) および Verhoeyen et al., Science 239:1534-1536, (1988))。このような「ヒト化」抗体はキメラ抗体であり(米国特許第4,816,567号, 1989年)、それは完全なヒト可変ドメインに実質的には満たない部分が、ヒト以外の動物種の対応配列で置換されたものである。実際には、ヒト化抗体は、一般的に、ヒト抗体のCDR内の残基の一部、更に可能であればFR内の残基の一部が、げっ歯類抗体の相似性部位の残基によって置換されたものである。ヒト化抗体には、レシピエント抗体の相補性決定部位(CDR)の残基が、所望の特異性、親和性および結合容量を有するウス、ラット、ウサギなどの非ヒト動物種抗体(ドナー抗体)の残基と置換したヒトIg(レシピエント抗体)が含まれる。場合によっては、ヒトIg Fv断片のフレームワーク配列中の残基を、非ヒト動物種の対応する残基で置換する。ヒト化抗体は、レシピエント抗体中にも、あるいは外来CDR配列やフレームワーク配列中にも存在しない残基を包含してもよい。一般的に、ヒト化抗体は少なくとも1つ、典型的には2つ存在する可変ドメインの実質的に全てを含んでおり、可変ドメインにおいては、CDR領域の全てでなくとも大部分は非ヒト動物IgのCDR領域に相当し、FR領域の全てでなくとも大部分はヒトIgのコンセンサス配列である。最適なヒト化抗体は、典型的にはヒトIgのIg定常領域の少なくとも一部も含有する(Jones et al., supra および Presta LG, Curr Opin Biotechnol 3:394-398 (1992))。
【0150】
ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリー法(Hoogenboom et al., Nucleic Acids Res 19:4133-4137 (1991) および Marks et al., Biotechnology (NY) 10:779-83 (1991))やヒトモノクローナル抗体の調製法(Boerner et al., J. Immunol 147(1):86-95 (1991) および Reisfeld and Sell, "Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy(モノクローナル抗体と抗癌治療)" New York: Alan R. Liss, Inc., 1985)などの様々な方法によっても製造することができる。同様に、内因性Ig遺伝子が部分的にまたは完全に不活化されているトランスジェニック動物にヒトIg遺伝子を導入する方法も、ヒト抗体の合成に活用することができる。トランスジェニック動物を攻撃すると、ヒト抗体の製造が観察され、例えば遺伝子の再配列、アセンブリおよび抗体のレパートリーなどの事象が、ヒトに見られるものと全ての点において酷似していた(米国特許第5,545,807号, 1996年、米国特許第5,545,806号, 1996年、米国特許第5,569,825号, 1996年、米国特許第5,633,425号, 1997年、米国特許第5,661,016号, 1997年、米国特許第5,625,126号, 1997年、Fishwild et al., Nat Biotechnol 14:845-51 (1996)、Lonberg and Huszar, Int Rev Immunol 13:65-93 (1995)、Lonberg et al., Nature 368:856-9 (1994)およびMarks et al., Biotechnology (NY) 10:779-783 (1992))。
【0151】
1つの好ましい態様において、本発明は、少なくとも2つの異なる抗原に対する結合特異性を有する、モノクローナルな二重特異性抗体、好ましくはヒト抗体またはヒト化抗体を包含する。例えば、一方がMANF2に対する結合特異性で、他の一方は任意の抗原、好ましくは細胞表面タンパク質、受容体または受容体サブユニット、に対する結合特異性である。
【0152】
従来の方法では、二重特異性抗体の組換えによる製造は、2組のIgのH鎖とL鎖の共発現に基づいているが、その場合、二本のH鎖は異なる特異性を有している(Milstein and Cuello, Nature 305:537-540 (1983))。IgのH鎖とL鎖を任意に組み合わせることによって得られるハイブリドーマ(クワドローマ(quadroma))は、異なる10種の抗体分子の混合物を産生する可能性があるが、そのうち所望の二重特異性構造を有するのは1種だけである。所望の抗体はアフィニティクロマトグラフィーやその他の方法(WO 93/08829, (1993)およびTraunecker et al., Trends Biotechnol 9:109-113 (1991))によって精製することができる。
【0153】
二重特異性抗体を製造する(Suresh et al., Methods Enzymol. 121:210-228 (1986))には、所望の抗原抗体結合部位を有する可変ドメインをIg定常ドメイン配列に融合させる。好ましくは、ヒンジ部、CH2領域およびCH3領域の少なくとも一部を含有するIgのH鎖定常ドメインに融合させる。L鎖との結合に必要な部位を含む第1H鎖定常領域(CH1)が、融合物の少なくとも1つに含まれていることが好ましい。Ig H鎖融合物(および所望によりIg L鎖)をコードするDNAを、それぞれ別の発現ベクターに挿入し、適切な宿主生物にコトランスフェクトする。
【0154】
Fab断片を大腸菌から直接回収し、化学的にカップリングして二重特異性抗体を形成することもできる。例えば、完全にヒト化した二重特異性F(ab’)抗体を作製することができる(Shalaby et al., J Exp Med. 175: 217-225 (1992))。各Fab断片を大腸菌に別々に分泌させ、in vitroで化学的に直接カップリングして、二重特異性抗体を形成する。
【0155】
また、二重特異性抗体の断片を培養組み換え細胞から直接調製したり、単離したりするための様々な方法も報告されている。例えば、ロイシンジッパーモチーフを活用することができる(Kostelny et al., Immunol. 148:1547-1553 (1992))。Fosタンパク質とJunタンパク質から得たペプチドを、遺伝子融合によって2つの異なる抗体のFab部位に結合する。抗体のホモダイマーをヒンジ部で還元してモノマーに分離し、該モノマーを再び酸化して抗体のヘテロダイマーを形成する。この方法で抗体のホモダイマーを製造することもできる。
【0156】
「二重特異性抗体(diabody)」技術(Holliger et al., Proc Natl Acad Sci USA. 90:6444-6448 (1993))は、二重特異性抗体断片を製造するための別の方法を提供する。この断片は、同一鎖上で2つのドメインを対合させるには短すぎるリンカーを介して結合した、H鎖の可変ドメイン(VH)とL鎖の可変ドメイン(VL)を含有する。1つの断片のVHドメインとVLドメインを、別の断片の相補的なVLドメインおよびVHドメインに対合させ、2つの抗原結合部位を形成する。二重特異性抗体断片を製造するための別の方法は、1本鎖Fv(sFv)ダイマーを用いる方法である(Gruber et al., Immunol. 152:5368-5374 (1994))。また、2価を超える力価の抗体、例えば三重特異性抗体(Tutt et al., J lmmunol. 147:60-69 (1991))も考えられる。
【0157】
ポリクローナル抗体は、例えば、1種以上の免疫原を、所望によりアジュバントと共に注射することで、哺乳動物を宿主として製造することができる。概して、免疫原および/またはアジュバントを哺乳動物に対して複数回の皮下注射または腹腔内注射によって投与する。免疫原としては、MANF2またはMANF2融合タンパク質が挙げられる。
【0158】
アジュバントの例としては、フロイントの完全アジュバントおよびモノホスホリル脂質A合成トレハロースジコリノミコレート(monophosphoryl Lipid A synthetic-trehalose dicorynomycolate、MPL−TDM)が挙げられる。免疫応答を高めるには、MANF2宿主において免疫原性を示すタンパク質、例えばスカシ貝ヘモシアニン(KLH)、血清アルブミン、ウシ チログロブリンおよび大豆トリプシン阻害因子、に免疫原を結合させてもよい。抗体の製造手順は、上記したHarlow et al.に記載されている。その他にも、ポリクローナル抗体は、IgY分子を産生するニワトリで製造することもできる(Schade et al., "The production of avian (egg yolg) antibodies: IgY. The report and recommendations of ECVAM workshop (トリ(卵黄)抗体であるIgYの製造 ECVAMワークショップによる報告と推奨方法)"、Alternatives to Laboratory Animals NAILA. 24:925-934 (1996))。
【0159】
処置
MANF2またはMANF1の活性に関連する疾患や障害、またはMANF2/MANF1の反応性に益を得る疾患や障害の治療において、MANF2タンパク質およびMANF2遺伝子は、哺乳動物(特にヒト)に投与することを目的としたex vivoまたはin vivoにおける治療用途を有すると考えられる(WO 01/19851参照)。特にMANF2が適した疾患は、神経障害、好ましくは中枢神経系障害、パーキンソン氏病またはアルツハイマー病である。
【0160】
患者に対し、効果的な量の本発明のMANF2タンパク質、ペプチド断片または変異体を投与する。MANF2、MANF2作用物質、MANF2拮抗物質または抗MANF2抗体の投与を包含する治療方法も本発明の範囲内である。本発明はまた、適切な薬理学的担体に担持させた、MANF2タンパク質、そのペプチド断片または誘導体を含有する医薬組成物を提供する。MANF2タンパク質、そのペプチド断片または変異体の投与は、全身に行ってもよいし、局所的に行ってもよい。所望により、MANF1投与前または後のMANF2タンパク質投与、好ましくMANF2タンパク質とMANF1の同時(また混合物としての)投与も、本願で開示する方法に適応することができる。
【0161】
疾患や医学的障害において、神経細胞および/または神経細胞の軸索突起の生存や機能に欠陥が生じた場合、それは神経障害とみなされる。そのような神経障害は、以下に挙げる病態の結果として起こるものである。(a)傷害部位近傍の軸索突起および/または神経細胞本体の変性を引き起こす身体的傷害、(b)発作などの虚血症、(c)癌の化学療法薬(例えば、シスプラチン)およびエイズの化学療法薬(例えば、ジデオキシシチジン(ddC))などの神経毒素との接触、(d)糖尿病や腎臓機能障害などの慢性代謝障害、および(e)パーキンソン氏病、アルツハイマー病、および筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの、特定の神経群の変性を伴う神経変性疾患。即ち、神経障害を起こす病態の中には、パーキンソン氏病、アルツハイマー病、筋萎縮性側索硬化症、発作、糖尿病性多発神経炎、中毒性神経炎、および神経系への物理的損傷が含まれる。物理的損傷には、脳や脊髄の物理的傷害や、上肢、手や身体の他の部位における圧挫傷や切り傷などがあり、例えば、発作などで生じる神経系の一部における血流の一時的または永続的な停止も含まれる。
【0162】
神経障害、特に抹消神経障害の処置におけるMANF2の使用が考えられる。「抹消神経障害」とは、末梢神経系を冒す障害であり、最も多くの場合、運動神経障害、知覚神経障害、感覚運動神経障害または自律神経障害の1種または組み合わせである。抹消神経障害の示す多様な形態は、同等に多数の独自の原因にそれぞれ帰することができる。例えば、抹消神経障害には、遺伝に起因するもの、全身疾患によってもたらされるもの、および毒性のある薬剤によって誘導されるものがある。糖尿病性抹消神経障害、遠位感覚運動神経障害、および自律神経障害(消化管の運動性低下や膀胱の弛緩など)が例示できるが、これらに限定されるものではない。全身疾患に関連する神経障害の具体例としては、ポストポリオ症候群やAIDS関連神経障害が挙げられ、遺伝性神経障害の具体例としては、シャルコー・マリー・トゥース病、レフサム病、無βリポタンパク血症、タンジール病、クラッペ病、異染性白質ジストロフィー、ファブリー病およびデジュリーヌ・ソッタス病が挙げられ、毒性のある薬剤によって誘導される神経障害の具体例としては、ビンクリスチン、シスプラチン、メトトレキセート、3’−アジド−3’−デオキシチミジンなどの化学療法薬による処置によって生じるものが挙げられる。これと同様に、ニューロトリミンの拮抗物質には、過剰な神経活動を特徴とする疾患における用途が期待される。
【0163】
アルツハイマー病は、前脳基底部に存在するコリン作動性ニューロンの損失の拡大を含む、脳に広がった神経変性によって特徴付けられる。前脳基底部のコリン作動性ニューロンの損失は、アルツハイマー病患者における認知記憶障害と空間記憶障害の一因である(Gilmor et al., 1999、およびLehericy et al. 1993)。アルツハイマー病患者におけるコリン作動性機能の回復と調節は、この疾患の処置方法の候補である(Sramek and Cutler, 1999、およびMufson et al., 1998)。他の種類の神経細胞がこの疾患に関与している可能性もある。
【0164】
パーキンソン氏病を患う患者には、運動機能障害や認知機能障害といった疾病兆候の最も初期の兆しが見られた時点で、神経変性の進行を止めるために処置を施すことができる。また、MANF2培養細胞を後期疾患の患者に投与することによって、神経系の破壊を遅らせることも考えられる。
【0165】
更に、本発明においては、MANF2製剤をパーキンソン氏病の処置に一般的に使用されている神経療法薬と組み合わせて投与することによって、2つの処置の相乗作用が発生し、単一の療法を受けている患者よりも、組み合わせ療法を受けている患者の方がより顕著な改善が見られると考えられる。
【0166】
プラミペクソール(ミラペックス)とレボドーパは、初期パーキンソン氏病(PD)の運動性症候の処置に効果的な薬剤である。In vitroの研究と動物による研究は、プラミペクソールはドーパミンニューロンを保護し、レボドーパはドーパミンニューロンを保護または破壊することを示唆している。ニューロイメージング手法は、PD患者におけるドーパミンニューロン変性の潜在的な他覚的バイオマーカーを提供する。パーキンソン氏病患者において発現が低レベルになっている神経伝達物質であるコエンザイムQ10も、PDの処置に使用されている。レボドーパは、レボドーパ(L-dopa)の副作用を和らげるために、カルビドーパなどの他の薬剤と組み合わせることができる。単独あるいは組み合わせてパーキンソン氏病の処置に使用する他の薬剤としては、シネメットやセレギリン(エルデプリルの名称で販売)が挙げられ、これらは初期のパーキンソン氏病症状をいくらかは緩和する。アマンタジン(シンメトレル)は、抗パーキンソン氏病効果も提供する抗ウイルス薬であり、レボドーパをシネメットと組み合わせた際の「治療ウインドウ」を拡大するために頻繁に使用されている。
【0167】
上記神経療法の前、後、または同時にMANF2で処置することは、神経療法薬の効果を増強し、その結果、個体の必要とする薬剤の量を減少させ、複数または多量の神経療法薬によって生じる望ましくない副作用を低下させると考えられる。
【0168】
MANF2遺伝子は筋肉細胞で発現されている。従って、本発明は、筋肉細胞障害の処置方法であって、このような処置を必要とする患者に本発明の化合物を投与することを包含する方法を提供する。このような処置の恩恵を受ける筋肉細胞障害としては、以下の種類の進行性筋肉ジストロフィーが挙げられるが、これらに限定されるものではない:デュシェンヌ型筋ジストロフィー、ベッカー型筋ジストロフィー、エメリー・ドレイフス型筋ジストロフィー、ランドゥジー−デジェリン型筋ジストロフィー、肩甲上腕筋ジストロフィー、肢帯型筋ジストロフィー、フォン・グレーフェ−フックスジストロフィー、眼咽頭筋ジストロフィー、筋緊張性ジストロフィーおよび先天性筋ジストロフィー。更に、上述した分子は、先天性ミオパシー(中心コアミオパシー、ネマリンミオパシー、中心核病および先天性筋線維タイプ不均等症)および後天性ミオパシー(毒性ミオパシー、炎症性ミオパシー)の処置にも使用することができる。更に本発明は、筋肉細胞障害の処置方法であって、患者に有効量のMANF2タンパク質またはその活性領域を投与することを包含する方法を提供する。
【0169】
タンパク質の発現または活性の調節を達成するための遺伝子操作も特に本発明が企図する手法である。例えば、タンパク質の投与を検討している場合、目的タンパク質がin vivoで製造されるようにするための、遺伝子治療用ベクターの投与も考えられる。(例えば、抗体や小分子阻害剤による)タンパク質の阻害を検討している場合、ノックアウト技法やアンチセンス療法などの遺伝子技術によるin vivoにおけるタンパク質発現の阻害も考えられる。
【0170】
目的のトランスジーンを動物内に導入する時は、適切であればいかなるベクターを用いてもよい。公知文献に開示されたベクターの例としては、例えばレンチウイルスベクター(ただしこれに限定されない)などの非増殖性レトロウイルスベクター(Kim et al., J. Virol., 72(1): 811-816 (1998); Kingsman & Johnson, Scrip Magazine, October, 1998, pp. 43-46.)、アデノウイルスベクター(例えば、米国特許第5,824,544号、米国特許第5,707,618号、米国特許第5,792,453号、米国特許第5,693,509号、米国特許第5,670,488号、米国特許第5,585,362号、Quantin et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89: 2581-2584 (1992)、Stratford-Perricadet et al., J. Clin. Invest., 90: 626-630 (1992)およびRosenfeld et al., Cell, 68: 143-155 (1992)を参照)、レトロウイルスベクター(例えば、米国特許第5,888,502号、米国特許第5,830,725号、米国特許第5,770,414号、米国特許第5,686,278号、米国特許第4,861,719号を参照)、アデノ随伴ウイルスベクター(例えば、米国特許第5,474,935号、米国特許第5,139,941号、米国特許第5,622,856号、米国特許第5,658,776号、米国特許第5,773,289号、米国特許第5,789,390号、米国特許第5,834,441号、米国特許第5,863,541号、米国特許第5,851,521号、米国特許第5,252,479号およびGnatenko et al., J. Investig. Med., 45: 87-98 (1997)を参照)、アデノウイルスとアデノ随伴ウイルスとのハイブリッドベクター(例えば、米国特許第5,856,152号を参照)またはワクシニアウイルスベクターまたはヘルペスウイルスベクター(例えば、米国特許第5,879,934号、米国特許第5,849,571号、米国特許第5,830,727号、米国特許第5,661,033号 および 米国特許第5,328,688号を参照)、リポフェクチン仲介遺伝子導入系(BRL製)、リポソームベクター(例えば、米国特許第5,631,237号 "Liposomes comprising Sendai virus proteins (センダイウイルスタンパク質を包含するリポソーム)")、およびこれらの組み合わせである。なお上記文献の記載は全て本明細書に組み込まれているものとする。また、好ましい態様においては、非増殖性アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクターおよびレンチウイルスを用いる。
【0171】
ウイルスベクターを用いる態様において好ましいポリヌクレオチドは、目的の標的組織における発現を促進する適切なプロモーターとポリアデニル化配列を含んでいる。本発明の多様な用途において哺乳動物細胞による発現に適したプロモーター/エンハンサーとしては、例えば、サイトメガロウイルスのプロモーター/エンハンサー(Lehner et al., J. Clin. Microbiol., 29:2494-2502 (1991) および Boshart et al., Cell, 41:521-530 (1985));ラウス肉腫ウイルスのプロモーター(Davis et al., Hum. Gene Ther., 4:151 (1993));シミアンウイルス40のプロモーター、レトロウイルスの長い末端反復配列(LTR)、ケラチン14のプロモーターおよびαミオシンH鎖プロモーターが挙げられる。
【0172】
遺伝子治療用途においては、例えば欠損遺伝子の代わりに、治療に有効な遺伝子産物のin vivo合成を行うために遺伝子を細胞内に導入する。「遺伝子治療」には、単一の治療によって永続効果が得られる従来の遺伝子治療と、治療に有効なDNAまたはmRNAを1回または繰り返して投与することを含む遺伝子治療剤の投与との両方がある。アンチセンスRNAとアンチセンスDNAはin vivoにおいて特定の遺伝子の発現を阻害するための治療物質として用いることができる。短いアンチセンスオリゴヌクレオチドは、細胞膜による取り込みが限定されるためその細胞内濃度が低いにも関らず、細胞内に導入されて阻害剤として働くことが明かになっている(Zamecnik et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83:41434146 (1986))。オリゴヌクレオチドは、例えば、負の電位を帯びたリン酸ジエステル基を、電位を帯びていない基で置換するといった修飾によって、取り込み量を高めることができる。
【0173】
生細胞に核酸を導入する際に利用可能な方法はいろいろある。使用する方法は、核酸をin vitroの培養細胞に導入するか、あるいは目的宿主内の細胞にex vivoまたはin vivoで導入するかによって異なる。In vitroでの哺乳動物細胞への核酸導入に適した方法としては、リポソームを利用する方法(Nicolau and Sene, Biochim. Biophys. Acta, 721:185-190 (1982)、Fraley, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 76:3348-3352 (1979)、Felgner, Sci. Am., 276(6):102-6 (1997) および Felgner, Hum. Gene Ther., 7(15):1791-3, (1996))、エレクトロポレーション法(Tur-Kaspa, et al., Mol. Cell Biol., 6:716-718, (1986) および Potter, et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 81:7161-7165, (1984))、直接マイクロインジェクション法(Harland and Weintraub, J. Cell Biol., 101:1094-1099 (1985))、細胞融合、DEAE−デキストラン法(Gopal, Mol. Cell Biol., 5:1188-1190 (1985))、リン酸カルシウム沈殿法(Graham and Van Der Eb, Virology, 52:456-467 (1973)、Chen and Okayama, Mol. Cell Biol., 7:2745-2752, (1987) および Rippe, et al., Mol. Cell Biol., 10:689-695 (1990))、細胞の超音波処理法(Fechheimer, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 84:8463-8467 (1987))、高速マイクロプロジェクタイルを用いた遺伝子ボンバードメント法(gene bombardment using high velocity microprojectiles)(Yang, et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:9568-9572 (1990))などが挙げられる。現在、in vivo遺伝子導入法として好ましい方法としては、ウイルス(概してレトロウイルス)ベクターによるトランスフェクションおよびウイルスコートタンパク質−リポソームを介したトランスフェクション(Dzau et al., Trends in Biotechnology, 11:205-210 (1993))などが挙げられる。状況によっては、細胞表面膜タンパク質または標的細胞に特異的な抗体、あるいは標的細胞に提示された受容体に対するリガンドなどの標的細胞をターゲティングする物質を、核酸材料と共に用いることが望ましい。リポソームを用いる場合、エンドサイトーシスに関与する細胞表面膜タンパク質に結合するタンパク質をターゲティングおよび/または取り込みの促進に用いてもよく、そのようなタンパク質としては、特定の細胞種に対して屈性を示すキャプシッドタンパク質やその断片、サイクリングの際に内在化するタンパク質に対する抗体、および細胞内局在化をターゲットとして細胞内半減期を延ばすタンパク質などが挙げられる。なお、受容体を介したエンドサイトーシスに関する技術については、例えば、Wu et al., J. Biol. Chem., 262: 4429-4432 (1987) および Wagner et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 87:3410-3414 (1990)に開示されている。現在までに公知の遺伝子標識および遺伝子治療のプロトコルに関する文献としては、Anderson et al., Science, 256:808-813 (1992)を参照されたい。
【0174】
本発明の具体的な態様においては、発現構築物(また、実際には上記のペプチド)は、リポソームに封入されていてもよい。リポソームは、リン脂質二重膜および内部の水性媒体を特徴とする小胞状の構造体である。多重層リポソームは、水性媒体で隔てられた複数の脂質層を有する。このようなリポソームは、リン脂質を過剰量の水溶液に懸濁すると自然に形成される。脂質成分は、自己再配列を経て閉鎖構造を形成し、脂質二重層の間に水とそれに溶解した溶質を封入する(Ghosh and Bachhawat, "In Liver Diseases, Targeted Diagnosis And Therapy Using Specific Receptors And Ligands (肝臓病における、特異的な受容体とリガンドを用いる標的診断および治療法)", Wu, G., Wu, C., ed., New York: Marcel Dekker、pp. 87-104 (1991))。陽イオンリポソームにDNAを添加すると、位相変化(topological transition)が生じて、リポソームは光学的に複屈折性を示す液晶性凝縮小球となる(Radler, et al., Science, 275(5301):810-4, (1997))。このようなDNA−脂質複合体は、遺伝子治療や遺伝子デリバリーに用いる非ウイルスベクターとなる可能性がある。
【0175】
また本発明においては、「リポフェクション」法を含む様々な市販のアプローチも考えられる。本発明のある態様においては、リポソームは赤血球凝集性のウイルス(HVJ、即ち、センダイウイルス)と複合体を形成していてもよい。これにより、細胞膜との融合が容易になり、リポソームに封入されたDNAが細胞へ入り込むのを促進することが報告されている(Kaneda, et al., Science, 243: 375-378 (1989))。他の態様においては、リポソームは、細胞核の非ヒストン染色体タンパク質(HMG−1)(Kato, et al., J. Biol. Chem., 266:3361-3364 (1991))との複合体として、またはHMG−1と共に使用してもよい。更に他の態様においては、リポソームは、HVJおよびHMG−1の両方との複合体を形成するか、または3種を共に使用してもよい。In vitroおよびin vivoにおいて核酸の導入と発現に有効に用いることができる発現構築物は、本発明に適用可能である。
【0176】
治療用遺伝子をコードする核酸を細胞内に送達するのに用いることができる他のベクター送達システムとしては、受容体仲介送達ベヒクルが挙げられる。このようなシステムは、ほぼ全ての真核細胞に見られる受容体仲介エンドサイトーシスによる巨大分子の選択的な取り込みを利用する。種々の受容体は細胞種特異的に分布するため、このようなシステムを用いた送達は高い特異性を示す(Wu and Wu (1993), supra)。
【0177】
本発明の他の1つの態様においては、発現構築物は、単に裸の組み換えDNAまたはプラスミドからなるものでもよい。構築物の導入は、物理的または化学的に細胞膜を透過させる上記のいずれの方法によって行ってもよい。これはin vitroでの導入に特に適するが、in vivoでの使用に適用してもよい。Dubensky, et al., Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 81:7529-7533 (1984)には、ポリオーマウイルスのDNAをリン酸カルシウム沈殿物の形態で成体マウスおよび新生マウスの肝臓と脾臓に注射して、能動的なウイルス複製および急性感染に成功したことが報告されている。Benvenisty and Neshif, Proc. Nat. Acad. Sci. USA, 83:9551-9555 (1986)にも、リン酸カルシウム沈殿したプラスミドの腹腔内直接投与がトランスフェクトした遺伝子の発現をもたらすことが報告されている。
【0178】
裸のDNA発現構造物を細胞に導入するための本発明の他の1つの態様では、粒子衝突法が使用できる。この方法は、DNAで被覆したマイクロプロジェクタイルが細胞膜を貫通し、細胞を殺すことなく細胞内に侵入するほどの高速に加速する技術によるものである(Klein, et al., Nature, 327:70-73 (1987))。小さい粒子を加速するための装置がいくつか開発されている。そのような装置の1つは、高圧放電を用いて電流を発生させ、その結果として原動力を提供する技術に基づくものである(Yang, et al., Proc. Natl. Acad. Sci USA, 87:9568-9572 (1990))。使用するマイクロプロジェクタイルは、タングステンや金のビーズのような、生物学的に不活性な物質からなる。
【0179】
当業者は、in vivoex vivoの状況下で、どのように遺伝子送達を適用するかを認識している。ウイルスベクターに関しては、通常、ウイルスベクターの原液を調製する。ウイルスの種類と達成可能な力価により、1×104、1×105、1×106、1×107、1×108、1×109、1×1010、1×1011または1×1012の感染性粒子を患者に送達する。リポソームまたはその他の非ウイルス性の処方物(formulation)についても、相対的な取り込み効率を比較することにより、同様の数値が外挿できる。薬学的に許容される組成物となる処方物については後述する。
【0180】
様々な細胞種に対する様々な投与方法が考えられる。実用的には、いかなる細胞、組織または器官の種類に関しても、全身送達(systemic delivery)が考えられる。他の態様においては、種々の直接的、局所的そして部分的なアプローチを用いることができる。例えば、細胞、組織または器官に発現ベクターまたはタンパク質を直接注射することができる。
【0181】
また、別の態様においては、ex vivoの遺伝子治療が考えられる。Ex vivoの態様においては、細胞を患者から取り出し、少なくともある程度の期間にわたり、体外で維持する。この期間中に、取り出した細胞に治療を施し、その後、細胞を患者の体内に再導入する。
【0182】
本発明はまた、MANF2の活性化に対する拮抗物質(例えば、MANF2アンチセンス核酸および中和抗体など)を提供する。内因性MANF2活性のレベルが増加しているか、または過剰である哺乳動物にMANF2拮抗物質を投与することが考えられ、そのようなMANF2レベルの増加が病理学的な障害を引き起こす状況で投与することが好ましい。
【0183】
医薬用および治療用の組成物と処方物
本発明のMANF2核酸分子、MANF2ポリペプチドおよび抗MANF2抗体(活性化合物)ならびにそれらの誘導体、断片、類似体およびホモログは、医薬組成物に組み込むことができる。
【0184】
そのようなMANF2組成物は、保存を目的として、望ましい純度を有するMANF2核酸分子、MANF2タンパク質またはMANF2抗体を、所望により、生理的に許容される担体、賦形剤または安定剤("Remington's Pharmaceutical Sciences (レミントンの薬理科学)", 第16版, Osol, A.編集, (1980))と混合し、凍結乾燥した固体または水溶液の形態に調製する。許容される担体、賦形剤または安定剤は、使用する用量および濃度においてレシピエントに非毒性である。その例としては、リン酸、クエン酸やその他の有機酸などのバッファー;アスコルビン酸などの酸化防止剤;低分子量(約10残基未満の)ポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチンおよび免疫グロブリンなどのタンパク質;ポリビニルピロリドンなどの親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンやリシンなどのアミノ酸;グルコース、マンノースやデキストリンなどの単糖、二糖およびその他の炭水化物;EDTAなどのキレート剤;マンニトールおよびソルビトールなどの糖アルコール;ナトリウムなどの塩形成対イオン;および/またはTween、プルロニックおよびポリエチレングリコール(PEG)などの非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0185】
MANF2核酸分子、MANF2タンパク質またはMANF2抗体は、例えば、コアセルベーション法で調製したマイクロカプセル(例えば、ヒドロキシメチルセルロースまたはゼラチンのマイクロカプセル)や界面重合法により調製したマイクロカプセル(例えば、ポリメチルメタクリレートマイクロカプセル)、コロイダルドラッグデリバリーシステム(colloidal drug delivery systems)(例えば、リポソーム、アルブミン小球体、マイクロエマルジョン、ナノ粒子およびナノカプセル)またはマクロエマルジョンに封入してもよい。このような手法は前出の「レミントンの薬理科学」に記載されている。
【0186】
MANF2核酸分子、MANF2タンパク質またはMANF2抗体の投与は、公知の方法に従って行えばよく、例えば、個々の態様に関して上記した方法や、静脈、腹腔内、脳内、筋内、眼内、動脈内または病巣内への注射や点滴などの一般的な方法、あるいは以下に述べる徐放システムなどの公知の方法で行うことができる。MANF2核酸分子、MANF2タンパク質またはMANF2抗体は、点滴により継続的に投与するか、または大量瞬時投与する。一般的には、疾患が許せば、MANF2核酸分子、MANF2タンパク質またはMANF2抗体を部位特異的送達用に処方して投与すべきである。投与は継続的または断続的に行うことができる。また、投与は、流量が一定のまたは流量をプログラムできる埋め込み型のポンプ、あるいは断続的な注射により行うことができる。本発明の核酸分子は、ベクターに挿入し、遺伝子治療用ベクターとして用いることができる。遺伝子治療用ベクターは、例えば静脈注射や局所投与(Nabel and Nabel, 米国特許第5,328,470号, 1994年)、または定位注射(stereotactic injection)(Chen et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91:3054-3057 (1994))により対象生物に送達することができる。遺伝子治療用ベクターの医薬用製剤は、許容される希釈剤を含んでいてもよいし、または遺伝子送達ベヒクルを包埋した徐放性マトリックスを包含していてもよい。
【0187】
また、完全な遺伝子送達ベクターを無傷の状態で組み換え細胞から製造することができる場合、例えば、レトロウイルスベクターを用いる場合には、医薬用製剤は遺伝子送達システムを産生する1つ以上の細胞を包含していてもよい。
【0188】
適当な徐放性製剤の例としては、タンパク質を含有する、固体の疎水性ポリマーからなる半透性マトリックスが挙げられ、このようなマトリックスは成形品(フィルムやマイクロカプセルなど)の形態をとっている。徐放性マトリックスの具体例としては、ポリエステル、Langer et al., J. Biomed. Mater. Res., 15:167-277 (1981) および Langer, Chem. Tech., 12:98-105 (1982)に記載のあるヒドロゲル、ポリビニルアルコール、ポリラクチド(米国特許第3,773,919号およびEP 58,481)または非分解性エチレン酢酸ビニル(Langer et al., supra)が挙げられる。
【0189】
徐放性MANF2組成物には、リポソームに封入されたMANF2核酸分子、MANF2タンパク質またはMANF2抗体も含まれる。MANF2核酸分子、MANF2タンパク質またはMANF2抗体を含有するリポソームは、それ自体公知である次の方法によって調製する:Epstein et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82:3688-3692 (1985)、Hwang et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77:4030-4034 (1980)、EP 52,322、EP 36,676、EP 88,046、EP 143,949、EP 142,641、米国特許第4,485,045号および第4,544,545号;ならびにEP 102,324。通常、リポソームは、小さい(約200〜800オングストロームの)単膜型のものであり、脂質含量の約30mol%超がコレステロールであり、その組成は、MANF2核酸分子、MANF2タンパク質またはMANF2抗体を用いた治療の効果が最適となるように調整したものである。
【0190】
エチレン酢酸ビニルや乳酸−グリコール酸などのポリマーが、100日にわたって分子を放出することを可能にする一方、特定のヒドロゲルはタンパク質をより短期間で放出する。封入されたタンパク質が体内に長期間残存すると、37℃で湿気にさらされることによって変性したり凝集したりすることがあり、結果として生物活性が失われたり、免疫原性に変化が生じることがある。関連するメカニズムに基づいて、タンパク質を安定化させる合理的な方法を考案することが可能である。例えば、凝集のメカニズムがチオール−ジスルフィド相互交換(thio-disulfide interchange)による分子間S−S結合の形成であると分かったら、タンパク質のスルフヒドリル残基の修飾、酸性溶液の凍結乾燥、水分量の制御、適切な添加剤の使用および特定のポリマーマトリックス組成物の開発により、安定化を達成することもできる。
【0191】
半透性の、移植可能な膜状装置は、特定の環境において薬物を送達するのに有用な手段である。例えば、可溶性MANF2、キメラまたは抗体を分泌する細胞を上記の装置に封入し、患者、例えば、パーキンソン氏病を患う患者の脳に移植することができる。米国特許第4,892,538号(Aebischer et al.)、米国特許第5,011,472号(Aebischer et al.)、米国特許第5,106,627号(Aebischer et al.)、PCT出願 WO 91/10425、PCT出願 WO 91/10470、Winn et al., Exper. Neurology, 113:322-329 (1991)、Aebischer et al., Exper Neurology, 111:269-275 (1991)、および Tresco et al., ASAIO, 38:17-23 (1992)を参照されたい。
【0192】
したがって、本発明は、神経の損傷またはその他のMANF2反応性細胞の損傷を予防または治療する方法であって、特定の病態に対して必要とされるMANF2、MANF2作用物質またはMANF2拮抗物質を分泌する細胞を、治療を必要とする患者の体内へ移植することを包含する方法に関する。また、本発明は、本願に記載した神経の損傷または細胞の損傷を予防または治療するために移植する装置であって、半透膜とそこに封入されたMANF2(あるいは特定の病態に対して必要とされる作用物質または拮抗物質)を分泌する細胞とを包含し、該半透膜はMANF2(あるいはその作用物質または拮抗物質)に対して透過性であるが、細胞にとって有害な患者由来の因子に対しては不透性である装置に関する。MANF2を製造するようにex vivoで形質転換した患者自身の細胞は、所望により、上記のようなカプセル封入を行うことなく、患者に直接移植することができる。生細胞の膜封入の方法は当業者にはよく知られたものであり、封入細胞の調製と封入細胞の患者への移植は過剰な(under)実験を行わずとも実施可能である。
【0193】
したがって、本発明には、神経の損傷を予防または治療する方法であって、MANF2またはMANF2抗体を産生する能力を天然に有する細胞、または生物工学的に分泌するようにした細胞を、治療を必要とする患者の体内に移植することを包含する方法が含まれる。患者がヒトの場合、分泌されたMANF2またはMANF2抗体は、可溶性のヒト成熟MANF2であることが好ましい。移植物は、非免疫原性であるか、免疫原性の移植細胞が免疫系により認識されるのを防ぐものであるか、またはこの両方であることが好ましい。CNSに送達するのに好ましい移植部位は、脊髄の脳脊髄液である。
【0194】
治療に用いるMANF2核酸分子、MANF2タンパク質またはMANF2抗体の効果的な量は、例えば、治療目的、投与経路および患者の状態に依存する。従って、治療を行う専門家は投与量の力価を測定し、最適な治療効果が達成されるように投与経路を調整することが必要となる。典型的には、臨床医は、所望の効果を発揮する投与量に達するまでMANF2タンパク質またはMANF2抗体を投与する。全身療法における典型的な1日の投与量は、上記の要因により異なるが、約1μg/kgから10mg/kg超である。もう1つの一般的な投与法としては、MANF2核酸分子、MANF2タンパク質またはMANF2抗体を処方し、組織中で効果的であるが過剰に毒性にならないMANF2レベルを達成する投与量を、標的部位または標的組織に送達する。可能であれば、連続的な点滴、徐放的な放出、局所的な投与、MANF2発現細胞の移植または経験的に定めた頻度の注射によってこの組織内濃度を維持するべきである。この治療の経過は、公知のアッセイによって簡単にモニターすることができる。
【0195】
ウイルス送達または非ウイルス送達したMANF2ポリヌクレオチドの効果は、当業界で知られるパーキンソン氏病の数々の動物モデルによって試験することができる。例えば、最も広範に使用されているパーキンソン氏病の動物モデルは、ドーパミン作動性ニューロンの神経変性を、通常は毒素の投与によって複製したものである。マウスまたはラットの黒質への6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA)の一側性注射は、反対側大脳半球にわずかな変化しかもたらさずに、同側線条体と黒質緻密部における神経細胞消失を生じる。同様に、メタマンフェタミン誘導性神経毒性はドーパミン作動性ニューロンとセロトニン作動性ニューロンの神経変性をもたらし、ヒトの病態に非常に近い状態と当業者に考えられている。治療薬の効果は、アポモルヒネ誘導性回転行動を用いた行動結果によって評価することができる。
【0196】
別のパーキンソン氏病モデルは、神経毒であるN−メチルー4−フェニル−1,2,3,6−テトラヒドロピリジン(MPTP)を使用して構築したものである。MPTPをマウス、ラット、サルなどの哺乳動物に投与する。サルへのMPTPの投与は、黒質緻密部および線条体におけるドーパミン作動性ニューロンおよびセロトニン作動性ニューロンの消失のみならず、無動症や硬直した姿勢などのヒトパーキンソン氏病患者に見られるものと類似した行動発現を発生させる。例えば、米国特許第6,362,319号を参照。この文献の記載は、本願に組み込まれたものとする。
【0197】
上述したパーキンソン氏病の動物モデルとは対照的に、生まれながらにドーパミン作動性細胞の数が徐々に減少するマウスの血統が多数入手可能である。例えば、相同組み換えによって作製したD2受容体欠失マウスの行動的特徴は、パーキンソン氏病に苦しむ患者のそれと似ている(Fitzgerald et al. (1993) Brain Res. 608:247-258)。第2の例は、中脳のドーパミン作動性ニューロン数が経時的に40%まで徐々に減少するウイーバー変異マウスである(Verina et al. (1997) Exp. Brain Res. 113:5-12、Adelbrecht et al. (1996) Mol. Brain Res. 43:291-300、およびMitsumoto et al. (1994) Science 265:1107-1110)。
【0198】
本願の実施例では、SauerとOertelの部分PDモデル(Sauer and Oertel, Neuroscience (1994) 59:401-415)を使用した。このモデルでは、DAニューロンの進行性後退変性を6−OHDAの線条体内注射によって誘導し、変性は損傷後1〜2週間で始まり、8〜16週間にわたって継続する。このDAニューロンの進行性減損は、よりPDの疾病過程との類似性が高く、内側前脳束を破壊するためにより急激なDAニューロンの変性を起こす完全なモデルよりも治療研究用の動物モデルとして適切である。後に詳細に説明する実験においては、ベクターを注射する前のラットは一定した行動障害を示していた。アポモルヒネ誘導性回転の出現は、通常、線条体のドーパミン含量の90%以下の減損を意味する(Hudson et al., Brain Res. (1993) 626:167-174)。しかし、PD患者と動物モデルの研究は、提唱されているドーパミンレベルよりも多くの生存DAニューロンが存在する可能性を示している(Javoy-Agid et al., Neuroscience (1990) 38:245-253、Feamley and Lees, Brain (1991) 114:2283-2301、およびSchulzer et al.. Brain (1994) 117:509-516)。ここで使用しているモデルでは、損傷から4週間後には損傷を受けた側の黒質(SN)のCTB陽性ニューロン数は、反体側の値の28.9%だった。この結果は、フルオロゴールド(FG)による逆行性標識を用いた過去の研究において、損傷を受けたSN内のFG陽性細胞数が28.8%(損傷後35日目)(Kozlowski et al., Exp. Neurol. (2000) 166:1 15)または34%(損傷後4週間目)(Sauer and Oertel, Neuroscience (1994) 59:401-415)だった結果と一致した。更に、CTB標識ニューロンの大部分はTH陽性であり、これは黒質線条体の突起がAAVベクター注入時には無傷で残存していたことを示唆している。特定の理論に拘束されるものではないが、このような無傷の黒質線条体突起の残存部とDAニューロンは、MANF2遺伝子送達後の再生と機能回復のための基質として働く可能性がある。
【0199】
他の神経変性疾患の動物モデルについても報告があり、PD以外の神経変性障害の処置におけるウイルス送達性MANF2ポリヌクレオチドの治療効果を評価する上で有用である。例えば、Martin et al. (1995) Brain Res. 683:172-178 にはてんかんの動物モデルが記載されており、Matheson et al. (1997) NeuroReport 8:1739-1742とOppenheim et al. (1995) Nature 373:344-346には、身体外傷による神経変性のモデルが記載されており、そしてSagot et al. (1996) J. Neurosci. 16:2335-2341には、動物における運動ニューロン変性のモデルが記載されている。
【0200】
診断
本発明はまた、生物学的試料中のMANF2またはそのアレル変異を検出するために用いる診断用のまたは予後判定用のキットに関する。このキットは、上述したMANF2依存性病態を診断するための手段、あるいはMANF2の変異または機能不全が介在する病態に関する個体の疾病素質を評価するための手段を提供する。このキットは、生物学的試料中のMANF2ポリペプチドまたはMANF2核酸(例えばmRNA)を検出することができる標識化合物を含んでいてもよい。キットはまた、MANF2遺伝子またはそのアレル変異の少なくとも一部分に特異的にハイブリダイズすることができる核酸プライマーまたはプローブを含んでいてもよい。キットは適当な容器に入れることができ、該キットを使用するための説明書を含むことが好ましい。
【0201】
受容体の精製
本発明の更に別の態様においては、MANF2やMANF2類似体を、MANF2に結合する受容体のアフィニティー精製に用いることができる。MANF2は、精製のための好ましいリガンドである。簡単に言えば、この技術は以下の工程を包含する。(a)精製すべきMANF2受容体が、支持体に固定化したMANF2上に選択的に吸着される条件下で、該MANF2受容体の原料を固定化したMANF2に接触させ、(b)固定化したMANF2とその支持体を洗浄して、吸着されていない物質を取り除き、そして(c)固定化したMANF2に吸着しているMANF2受容体分子を溶出バッファーで溶出して、MANF2受容体分子を得る。アフィニティー精製の特に好ましい態様においては、MANF2は不活性で多孔性のマトリックスまたは樹脂(例えば、臭化シアンと反応させたアガロース)に共有結合している。ここで特に好ましいのは、プロテインAカラムに固定化したMANF2イムノアドヘシンである。次に、MANF2受容体を含む溶液を、クロマトグラフィー材料に流す。MANF2受容体はカラムに吸着し、溶出条件(例えば、pHまたはイオン強度)を変えることによってMANF2受容体を溶出させる。
【0202】
MANF2に結合する分子を同定するための好ましい手法は、固相(例えば、アッセイプレートのウェル)に付着したキメラMANF2(例えば、エピトープタグを付したMANF2やMANF2イムノアドヘシン)を用いる方法である。所望により標識した(例えば、放射線標識した)候補分子の、固定化したMANF2への結合を測定することができる。代わりに、125Iで標識し、結合に対するMANF1との競合を測定することもできる。
【0203】
トランスジェニック動物の作製
MANF2をコードする核酸、好ましくはヒト以外の生物種(例えばマウスやラット)のMANF2タンパク質をコードする核酸は、トランスジェニック動物または「ノックアウト」動物の作製に用いることができ、作製した動物は、治療に有用な試薬の開発やスクリーニングに役立てることができる。トランスジェニック動物(マウスなど)とは、トランスジーンを含有する細胞を有する動物であり、そのトランスジーンは、出生前段階、例えば胚の段階で該動物またはその祖先に導入したものである。トランスジーンは、トランスジェニック動物の発生の出発点となる細胞のゲノムに組み込まれるDNAである。1つの態様においては、確立された技術を用いてMANF2をコードするヒトおよび/またはマウスのcDNA、あるいはその適当な配列を、MANF2をコードするゲノムDNAのクローニングに用い、得られたゲノム配列を、MANF2をコードするDNAを発現する細胞を有するトランスジェニック動物の作製に用いることができる。トランスジェニック動物(特にマウスなど)の作製法は当業界では既に一般的なものとなっており、例えば米国特許第4,736,866号および米国特許第4,870,009号に開示されている。典型的には、組織特異的エンハンサーを用いたMANF2トランスジーンの導入のために特定の細胞を標的とすることにより、所望の治療効果の実現につながると考えられる。胚発生期に生殖細胞系列にMANF2をコードするトランスジーンが導入されており、トランスジーンの複製物を内包するトランスジェニック動物は、MANF2をコードするDNAの発現増加の与える効果を調べるために用いることができる。このような動物は、例えばMANF2関連疾患からの保護を与えると考えられる試薬のための実験動物として使用することができる。本発明のこのような態様に基づけば、試薬で動物を処置することによって、疾患の発病率がトランスジーンを有する未処置の動物の発病率と比べて低下することは、疾患に対するの治療的介入の可能性を意味する。
【0204】
トランスジーンが5’側にイントロンを含有し、かつそのイントロンが天然のイントロンである場合、トランスジーンがより効率的に発現されることが今ではよく知られている(Brinster et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA 85:836-840 (1988) および Yokode et al., Science 250:1273-1275 (1990))。
【0205】
生まれてきたトランスジェニックな動物(transgenic offspring)は、マイクロインジェクトしたトランスジーンの動物ゲノムへの組み込みを立証することで同定できるが、トランスジーンの組み込みは、テール部の短い部分からDNAを調製し、トランスジーンの存在をサザンブロット法(即ち、「テールブロット(Tail Blots)法」)で分析することが好ましい。プローブとして好ましいのは、マウスゲノムには存在せず、トランスジーン特有の配列として存在するトランスジーン融合構築物(transgene fusion construct)の一部分である。また、トランスジーン内のコドンの天然配列を、同じペプチドをコードする異なる配列で置換することにより、DNAおよびRNAの解析の際に同定可能な特有の領域が得られる。この方法で同定されたトランスジェニック「ファウンダー」マウスを正常なマウスと交配してヘテロ個体を得、得られたヘテロ個体を戻し交配することでトランスジェニックマウスの系統を創生する。そして、系統が確立されホモ個体が現れるまで、各世代のマウスのテールブロットを行う。産生に成功したファウンダーマウスおよびその系統は、系統間でマウスゲノムに挿入されたトランスジーンの位置やコピー数が異なるため、トランスジーンの発現レベルには幅広い多様性が見られる。確立された各系統から選択した動物を生後2ヶ月の時点で殺し、トランスジーンの発現を、肝臓、筋肉、脂肪、腎臓、脳、肺、心臓、脾臓、生殖腺、副腎および腸由来のRNAのノーザンブロット法により分析する。
【0206】
「ノックアウト」動物の作製
また、MANF2の非ヒトホモログは、MANF2「ノックアウト」動物(即ち、内因性MANF2遺伝子と動物の胚細胞に導入した改変ゲノムMANF2 DNAとの相同組み換えの結果、MANF2をコードする遺伝子が欠陥を有するかまたは改変されている動物)の作製に用いることもできる。例えば、マウスのMANF2 cDNAを用い、確立された手法でゲノムMANF2 DNAをクローニングすることが可能である。ゲノムMANF2 DNAの一部を欠損させたり、他の遺伝子(例えば組み込みをモニターするのに使うことのできる選択的マーカーをコードする遺伝子)などで置換したりすることが可能である。典型的には、ベクターには数キロベースの非改変隣接DNA配列が(5’末端と3’末端の両方に)含まれている(相同組み換えベクターに関する記載については、Thomas and Capecchi, Cell 51:503 (1987)等を参照)。ベクターを胚性幹細胞系に(エレクトロポレーション法などで)導入し、導入したDNAが内因性DNAと相同組み換えした細胞を選択する(例えば、Li et al., Cell 69:915 (1992)を参照)。続いて、選択した細胞を(マウスなどの)動物の胚盤胞に注入し、凝集キメラ(aggregation chimera)を形成する(Bradley, "Teratocarcinomas and Embryonic Stem Cells: A Practical Approach (奇形癌と胚性幹細胞:実践的アプローチ)", E. J. Robertson編 (IRL, Oxford, 1987), pp. 113-152等を参照)。その後、偽妊娠した適切な代理母動物にキメラ胚を移植し、「ノックアウト」動物が生まれるようにキメラ胚を出産日まで育てる。胚細胞に相同組み換えDNAを有する子孫は標準的な手法で同定することができ、また、全細胞が相同組み換えDNAを有する動物を交配するために用いることができる。ノックアウト動物は、ヒトの神経学的な障害や欠陥を模倣する能力によって特徴付けることができる。
【0207】
同等物
本明細書中ではある特定の態様を詳細に開示しているが、これはあくまで説明を目的として実例を挙げたにすぎず、添付の請求項に定義する本発明の請求の範囲を限定するものではない。特に、本発明者らは、請求項で定義した本発明の精神および範囲を逸脱することなく、本発明に多様な置き換え、変更および修飾をなし得ることを意図している。出発物質とする核酸、目的のクローン、ライブラリーの種類などの選択は、本明細書に開示する態様についての知識を有する当業者には慣例的な事項であると考える。本発明の他の態様、効果および改良に関しては、添付の請求の範囲内に含まれるものとする。
【0208】
本発明を概ね説明したが、以下の実施例に参照することで発明をより容易に理解することができる。しかし、以下の実施例は本発明を説明するためのものであり、限定するものではない。

実施例
【実施例1】
【0209】
RT−PCR法による、MANF2 cDNAのクローニングとMANF2 mRNAの発現解析
我々は、RT−PCR法によって、マウス脳細胞(プライマーとしてm-MANF2-ATGとm-MANF2-STOP-delを使用)およびヒト脳細胞(プライマーとしてh-MANF2-ATGとh-MANF2-STOP-delを使用)からマウスとヒトの全長cDNAをクローニングすることができた。マウス全RNAはRNA抽出キット(Ambion製)を用いて単離し、ヒトRNAはClontechから入手した。種々の組織から得た、オリゴ(dT)(Promega製)でプライミングした全RNA(5μg)またはポリ(A)+RNA(1μg)をテンプレートとして用い、逆転写酵素(SuperscriptII、Invitrogen製)で一本目のcDNA鎖を合成した。
【0210】
マウスMANF2(m−MANF2)とヒトMANF2(H−MANF2)のクローニングと発現解析に使用したプライマーは以下の通りである。

m-MANF2-ATG
ACC ATG CGG TGC ATC AGT CCA ACT GC (配列番号5)

m-MANF2-int-as
CTC ATG GGA CGA GTG ACT TCT CC (配列番号6)

m-MANF2-STOP
GTC AGA GCT CCG TTT GGG GGT ATA TC (配列番号7)

m-MANF2-STOP-del
GAG CTC CGT TTG GGG GTA TAT C (配列番号8)

h-MANF2-ATG
ACC ATG TGG TGC GCG AGC CCA GTT GC (配列番号9)

h-MANF2-int-as
GCA CAC TCA TTG GGC GAG TGA CTT C (配列番号10)

h-MANF2-stop
GAT CAG AGC TCT GTT TTG GGG TGT GTC (配列番号11)

h-MANF2-stop-del
GAG CTC TGT TTT GGG GTG TGT C (配列番号12)
【0211】
テンプレートとして1/10のRT反応混合物および0.25単位の熱安定性DNAポリメラーゼ(Dynazyme、Finnzymes Ltd製)を含む25μl容量の反応系で、ExpandTM Long DistanceまたはGC-rich PCR System(いずれもRoche製)のいずれかのキットを取扱説明書に従って使用し、PCR反応を行った。DNAは以下の条件で増幅した:94℃(2分)、そして94℃(40秒)、55℃(40秒)、72℃(60秒)を35サイクル。全てのプライマーの組み合わせについて、アニーリング温度は55℃とし、サイクル数は30〜35とした。増幅したRT−PCR産物を1.5%アガロースゲルで展開し、pCRIIベクターおよびpcDNA3-His-V5ベクター(Invitrogen製)にクローニングし、シークエンシングによって確認した。
【実施例2】
【0212】
細胞培養
COS−7細胞を、10%ウシ胎児血清(Gibco製)を含有するダルベッコの変性イーグル培地(DMEM)で培養した。Fugene 6(Roche製)のトランスフェクションプロトコルを用いて、細胞にヒトまたはマウスのMANF2全長cDNAを含有するpcDNA3.1(Invitrogen製)発現ベクターをトランスフェクトした。12時間後に培地を除去し、無血清のDMEMで置換した。48時間後に細胞を回収し、細胞からタンパク質抽出物を調製した。分泌タンパク質(培地)は濃縮した。タンパク質抽出物をポリアクリルアミドゲルで展開し、V5抗体(Invitrogen製)を用いたウエスタンブロットで分析した。
【実施例3】
【0213】
In situハイブリダイゼーション
RNAプローブを合成する前に、pCRIIベクター内のマウスMANF2の全長cDNAを線状化した。一本鎖RNAプローブを、50μCiの[35S]−UTPとT3ポリメラーゼまたはT7ポリメラーゼを使用して、in vitroで転写した。DNA分解酵素で消化した後、プローブを沈殿させ、50% ホルムアミドを含む10mM DTT溶液に再懸濁した。マウス脳の矢状断切片および冠状断切片をクリオスタットで切り出し、埋設用スライドに移した。切片を乾燥し、4% パラホルムアルデヒドで固定し、50% ホルムアミド、0.3M NaCl、10mM トリス、10mM NaPO4(pH6.8)、5mM EDTA、1×デンハルト溶液、10% 硫酸デキストラン、10mM DTT、1mg/ml tRNAおよび特異的なプローブを含むバッファー中でハイブリダイズさせた。ハイブリダイゼーションは50℃で一晩行った。洗浄は、50% ホルムアミドを含む2×SSC中、37℃で行い、続いて、RNA分解酵素による消化を実施した。スライドをX線フィルムに暴露するか、またはKodak NTB-2エマルジョンに浸し、14〜30日後に現像した。
【実施例4】
【0214】
In situハイブリダイゼーションによるMANF2発現の解析

プローブ
pCRII-TOPO TAベクター(Invitrogen製)にクローニングした全長MANF2 cDNAを用いて、アンチセンスcRNAプローブおよび対照センスcRNAプローブを作製した。適切な酵素でプラスミドを線状化し、35S標識UTP(Amersham製)およびSP6またはT7転写システム(Promega製)を用いたin vitroの転写法で、35S標識プローブを作製した。取り込まれなかったヌクレオチドをSephadex G-50(NICKカラム、Pharmacia Biotech製)を用いたゲル濾過で除去した。プローブをエタノール沈殿し、ハイブリダイゼーションバッファー(60% 脱イオンホルムアミド(FA)、0.3M NaCl、20mM トリス−HCl(pH8.0)、5mM EDTA、10% 硫酸デキストラン、1×デンハルト溶液、100mM ジチオスレイトール、0.5mg/ml 酵母tRNA)に終濃度が32,000〜36,000cpm/μlとなるように溶解した。
【0215】
組織試料
出生後NMRIマウスの脳(P1、P5、P10と成体)をドライアイス上のTissue-Tekにマウントし、−70℃で保存した。凍結組織から冠状断切片をクリオスタットで切り出した。マウス胚(E11、E12、E15)と成体マウス精巣を4%パラホルムアルデヒド(PFA)中、4℃で一晩固定し、エタノールの希釈系列で脱水し、トルエンで清浄化し、パラフィンに包埋した。矢状断切片を切り出した後、シリル化処理済のスライドガラスに接着した。
【0216】
In situハイブリダイゼーション
凍結切片(融解し、風乾したもの)を、4% PFAを使用して室温で15分間固定し、PBSですすいだ。次に、プロテネーズK(1μg/ml、Sigma製)で処理し、すすいだ後、4% PFAで再固定した。切片をPBSですすいだ後、50% FAを含む2×SSCで10分間インキュベートし、水ですすぎ、アセチル化してから、50% FAを含む2×SSCに10分間浸漬した。52℃、1.5〜2時間の条件下で切片とハイブリダイゼーションバッファーのプレハイブリダイゼーションを行い、52℃でプローブ(120〜150μl)とのハイブリダイゼーションを一晩行った。
【0217】
パラフィン切片をキシレンで脱パラフィンし、濃度の漸減するエタノール系列(純エタノール、94%、70%、50%と30%)で加水し、4% PFAで固定した。スライドをPBSですすぎ、プロテネーズK(20μg/ml、Sigma製)で処理し、PBSですすいだ後、4% PFAで再固定した。アセチル化のために、切片に0.1M トリエタノールアミン(pH8.0)と無水酢酸(2.5ml/L)を加えた。l0分間インキュベートした後、スライドをPBSですすぎ、濃度の漸増するエタノール系列で脱水し、風乾した。プローブ(120〜150μl)を各スライドにアプライし、加湿チャンバー内、52℃でハイブリダイゼーションを一晩行った。
【0218】
ハイブリダイゼーションの後、切片を10mM DTTを含む5×SSCを用いて50℃で30分間洗浄し、次に2×SSC、30mM DTTと50% FAの溶液を用いて55℃で30分間洗浄し(低いストリンジェンシーの洗浄)、37℃のNTEバッファー(0.5M NaCl、5mM EDTA、10mM トリス(pH8.0))で10分間のすすぎを3回行い、リボヌクレアーゼA(20μg/ml)で30分間処理した後、すすいだ。2回目の低いストリンジェンシーの洗浄を行い、切片を2×SSCと0.1×SSCでそれぞれ15分間すすぎ、エタノール系列(0.3M 酢酸アンモニウムを含む、30%、60%、80%と95%のエタノールおよび純エタノール)で脱水し、風乾した後、X線フィルムに5〜6日間暴露した。スライドをNTB−2エマルジョン(Kodak製)に浸し、5〜6週間暴露した後に現像した。切片はヘマトキシリンで対比染色しPermountで包埋した。
【実施例5】
【0219】
Sf9昆虫細胞による組み換えMANF2タンパク質の製造
推定シグナル配列なしのヒトMANF2 cDNAを、N末端ミツバチメリチン分泌シグナルとC末端V5−6×Hisタグの読み枠を合わせながら、pMIB/V5-His発現ベクター(InsectSelect system、Invitrogen製)にクローニングした。抗生物性の抗真菌薬(Gibco製)を含むSF−900 II培地(Gibco製)で培養したSf9細胞を6穴プレート(9×105細胞/ウエル)に植え付け、細胞が付着したら、6μlのCellfectin試薬(Invitrogen製)を用いて2μgのプラスミドをトランスフェクトした。28℃で48時間後には、細胞を1:5にわけ、一晩付着させた後、ブラストシチジンS(50μg/ml、Invitrogen製)を添加した。ポリクローナルな細胞株(Sf9−hMANF2)を形成するために、耐性コロニーをコンフルエントになるまで培養した。安定な細胞を、l0μg/mlブラストシチジンで維持した。組み換えMANF2の培養液への分泌は、マウスモノクローナル抗V5抗体(1:5000、Invitrogen製)によるウエスタンブロッティングで確認した。
【0220】
Sf9−hMANF2細胞の懸濁培養を対数増殖期の付着細胞で開始した。1×106細胞/mlの細胞を、10μg/ml ジェンタマイシンと10μg/ml ブラストシチジンSを含むSF−900 II培地に植えつけた。28℃、120rpmの条件で培養細胞を増殖させ、密度が約2×l06細胞/mlに達したら、対数増殖を維持するために継代培養した。
【0221】
培地からのMANF2タンパク質の精製
タンパク質の産生のために、Sf9−hMANF2懸濁培養細胞(250ml容)を対数増殖期終了まで4〜6日間培養した。細胞を1200rpmでl0分の遠心分離で除去し、MANF2を1Lの清浄化培地から4℃で精製した。
【0222】
工程1. 遠心分離によるニッケル−セファロース精製
Hisタグを付したタンパク質の結合条件を調節するために、培地をPBSで希釈(1:2)し、終濃度が5mMとなるようにイミダゾール(Sigma製)を添加した。Chelating Sepharose Fast Flow(Pharmacia Biotech製)に0.1M NiCl2をチャージし、洗浄後、1ゲル等量のPBSに再懸濁した。50mlの培地につき、1mlのNi−セファローススラリーを添加し、サンプルのエンド−オーバー−エンド回転を4℃で1時間継続した。ゲルを500×gで2分の遠心分離で析出させ、0.5M KClと5mMイミダゾールを含むPBSで4回洗浄した。ゲル容量と等量の0.5Mイミダゾールを含むPBS(pH7.4)を用いてタンパク質を溶出した。溶出液をまとめ、YM-10 Centriconフィルター装置(Millipore製)で終容量が50〜100μlになるように濃縮した。一部を15%ゲルによるSDS−PAGEで流し、クーマシー染色で可視化した。
【0223】
工程2. HiTrap Chelating HP カラム(5ml、Pharmacia Biotech製)をニッケルでチャージし、バインディングバッファー(20mM リン酸ナトリウム,pH7.4)で平衡化した。工程1で得たサンプルを5mlのバインディングバッファーで希釈し、カラムにアプライした。20mM リン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)中の0.5M イミダゾールと0.5M NaClによる溶出を、流速0.8ml/分の直線グラジエント(0〜100%)で行った。画分(1ml)を回収し、抗V5抗体によるウエスタンブロッティングで解析した。MANF2を含有する画分をYM−10フィルターで100μlまで濃縮した。PBS(1ml)を添加し、更に終容量が50μlになるまで更に濃縮した。
【実施例6】
【0224】
組み換えヒトMANF2タンパク質のN末端シークエンシングと質量分析
COS−7細胞を3枚の9cmシャーレに植え付け、Fugene 6試薬(Roche製)を用いて10μgのhMANF2-pcDNA3.1をトランスフェクトした。24時間後に培地を無血清DMEMで交換し、細胞を更に48時間インキュベートした。培養液(24ml)を回収し、組み換えMANF2を精製工程1と同様に精製した(上記参照)。
【0225】
工程1で得た溶出液(総容量500μl)の内の250μlを逆相クロマトグラフィーに用いた。0.1%トリフルオロ酢酸(TFA)溶液に加えたサンプルをC1カラム(1mm×20mm、Pharmacia Biotech製)にアプライし、0.1% TFA中の0〜100%アセトニトリルグラジエントで溶出した。3μgのMANF2を含有する分離ピークを回収し、12% SDS−PAGEゲルに流し、PVDF膜にブロットした。ブロットを染色し、MANF2を含有するバンドを切り出し、抽出してN末端のシークエンシングに付した。
【0226】
組み換えヒトMANF2の分子質量をQ−TOFエレクトロスプレー解析で決定した。サンプルの一部をペプチド断片に消化し、断片の質量をQ−TOFで決定した。
【0227】
COS−7細胞の産生した組み換えヒトMANF2のN末端のシークエンシングは、成熟タンパク質の予測配列(QEAGG...)におけるN末端グルタミン(Q)が環状ピログルタミン酸に修飾されていたために失敗したと考えられる。MANF2ペプチド断片の質量分析は、26位と27位のアミノ酸の間でシグナル配列が開裂したことを立証した。タンパク質は3つまたは4つのシステイン架橋を有することもわかった。
【0228】
Sf9−hMANF2安定細胞株のMANF2も同様に解析した。N末端配列組み換えタンパク質が正しいことが確認できた。質量分析によると、成熟タンパク質において8個の保存されたシスチンは4つのシステイン架橋を形成する。
【実施例7】
【0229】
組み換えMANF2タンパク質の生物活性

培養ドーパミンニューロン
ドーパミンニューロンの調製には、E14ラットまたはE13マウスの中脳底板を解剖した。組織を0.5% トリプシンを含むHBSSを用いて、37℃で20分間消化した。トリプシン活性は、胎児ウシ血清(FCS)の添加でブロックした。DnaseI(1mg/ml)を添加し、シリコン処理済のガラスピペットでサンプルを粉砕した。細胞を完全培地(10% HC−3、0.6% グルコース(Sigma製)と1×Glutamax I(Gibco製)を含むDMEM−F12)で2回洗浄し、カバーガラス当たり150.000細胞となるように、ポリ−L−オルニチン/ラミニンでコートしたカバーガラスに細胞を植えつけた。次の日にはタンパク質因子を添加し、細胞を6日間培養した。4%PFAを含むPBSを用いて培養細胞を室温で10分間固定し、PBSで3回洗浄し、氷冷アセトンを用いて−20℃で15分の固定後処理を行い、洗浄した。固定した培養細胞を10% HSを含むPBSを用いて室温で1時間ブロッキングし、ヒツジ抗チロシンヒドロキシラーゼ(TH)抗体(1:200、Chemicon International製)による処理を4℃で一晩行った。培養細胞をPBSで3回洗浄し、二次抗体であるCy3抗ヒツジ抗体(1:500)による処理を室温で45分間行った。培養細胞を洗浄し、マウント用メジウムでマウントした。
【0230】
培養後根ガングリオンニューロン
DRGニューロンの調製には、1% トリプシンを含むHBSSを用いて、E16マウスの組織を37℃で45分消化した。組織を培養ドーパミンニューロンと同様に処理し、単離した細胞を完全培地(SATO添加Ham’s F14培地)に植えつけた。細胞はタンパク質因子有りまたは無しの条件で6日間培養し、細胞数を計測した。
【実施例8】
【0231】
実験計画
全てのラットに定位マイクロインフュージョンを2回施した。具体的には、1回目には、ベヒクル(4μl)、MANF2(10μg)またはGDNF(10μg)のいずれかを注入し、6時間後にはそれぞれの動物に6−OHDA(8μg)を左尾状核の同じ部位に投与した。前頂と硬膜に対する左線条体における座標は、PaxinosとWatsonのアトラス(Paxinos and Watson, 1997, The rat brain in stereotaxic coordinates (ラット脳の定位座標), Academic press, San Diego)によるとA/P +1.0、L/M +2.7、D/V −4だった。この研究は、以下のグループからなるものである: 線条体 PBS+6−OHDA、線条体 GDNF+6−OHDA、および線条体 MANF2+6−OHDA。
【0232】
回転行動
損傷から2週間後と4週間後に行動試験を実施した。D−アンフェタミン(フィンランド国、ヘルシンキ、University Pharmacy製)投与(2.5mg/kgを腹腔注射)の30分前には、ラットを試験チャンバーに慣らしておいた。完全な(360°の)同側性回転および反対側性回転の数を2時間にわたり記録した。損傷に対する累計同側性回転数は右回転の数から左回転の数を引くことで算出した。
【0233】
免疫組織化学
損傷から4週間後には、過剰量のペントバルビトールナトリウム(90mg/kgを腹腔注射)(フィンランド国、Orion Pharma製)でラットを麻酔し、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、続いて4% パラホルムアルデヒドを含む0.1M リン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)による心臓内還流を行った。脳を取り出し、4時間の固定後処理を行い、20% ショ糖含有リン酸ナトリウムバッファー中、4℃で保存した。40μm厚の連続した環状断凍結切片をスライド式ミクロトームで切り出した。6セットの切片を凍結保護溶液(0.5M PB、30% グリセリンと30% エチレングリコール)に回収し、免疫組織学的処理を行うまで−20℃で保存した。浮動性切片をTH−免疫組織学のために処理した。PBSで3回すすいだ後、3% H22/10% メタノール/PBS中で内因性ペロキシダーゼ活性の抑制処理を5分間行った。PBSで3回すすいだ後、切片を正常ウマ血清(NHS)/0.3% Triton X-100 を含むPBSとプレインキュベートすることで非特異的な染色をブロックした。その後、切片1:2000に希釈したビオチン化マウス−抗TH抗体(カリフォルニア州、テメクラ、Chemicon製)と共に室温で一晩インキュベートした。続いて、1:200に希釈したビオチン化ウマ抗マウス抗体(BA2001、Vector製)とのインキュベーション、およびElite ABC Vectastainキット(Vector Laboratories製)を用いたアビジン−ビオチンペルオキシダーゼ複合体とのインキュベーションを行った。DABを発色団として使用し、反応を可視化した。
【0234】
形態解析
SN細胞数
光学フラクショネーター(Optical fractionator)法を解像原理と公平な計測規則(West et al.,1991, Anat. Rec. 231, 482-497、Mouton et al. 2002, Brain Res. 956, 30-35)と組み合わせて使用する、公平なステレオロジーによる細胞計数法で、黒質緻密部(SNpc)のTH陽性細胞数を計測した。SNpcの全体を、Olympus BX51顕微鏡に装着したStereo Investigator(ドイツ国、MicroBrightField製)のプラットフォーム上で解析した。容量解析のために、それぞれの動物について、内側の尾状核(MTN)が存在する(A/P軸は−5.3)SNpcの中央部から3つの切片を選択した。光学フラクショネーターによる推定は、個別の脳サンプルに関する計数誤差がx%未満となるように最適化した。それぞれの参照空間は低倍率(4×)で輪郭をとり、細胞は高倍率(60×、油浸)の対物レンズを用いて計数した。
【0235】
結果
オスのウイスターラットでは、線条体への1回のMANF2注射(10μg)が黒質線条体路におけるドーパミン作動性神経の6−ヒドロキシドーパミン(6−OHDA、8μg)誘導変性を防止した。麻酔下でラットに2回の定位マイクロインフュージョンを施した。具体的には、1回目には、ベヒクル(PBS、4μl、対照群)またはMANF2(10μg、処置群)を投与し、6時間後にはそれぞれの動物に6−OHDA(8μg)を左尾状核の同じ部位に投与した。前頂と硬膜に対する左線条体における座標は、PaxinosとWatsonのアトラス(Paxinos and Watson, 1997, The rat brain in stereotaxic coordinates (ラット脳の定位座標), Academic press, San Diego)によるとA/P +1.0、L/M +2.7、D/V −4だった。
【0236】
行動試験は全てのラットについて2回行った。損傷から2週間後と4週間後には、同側性(損傷した側への)回転行動を誘導するためにD−アンフェタミンを投与し(2.5mg/kgを腹腔注射)、行動を2時間にわたり記録した。損傷の2週間後には、対照群においてアンフェタミン(2.5mg/kgを腹腔注射)は顕著な同側性回転行動誘導した。一方、処置群(6−OHDA処理の前にMANF2で処置)においては、同側性回転数の増加は見られなかった。損傷の4週間後には、MANF2はアンフェタミン誘導性の同側性回転を著しく逆転させることができ、免疫組織学的研究も神経栄養因子によるDA細胞の顕著な防御効果を示した。行動試験の結果を図16に示した。
【0237】
TH免疫組織化学 損傷の4週間後には、2回目の行動試験に続いて、過剰量のペントバルビトールナトリウム(90mg/kg)でラットを麻酔し、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、続いて4% パラホルムアルデヒドを含む0.1M リン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)による心臓内還流を行った。浮動性切片をTH−免疫組織学のために処理した。光学フラクショネーター法を解像原理と公平な計測規則(West et al.,1991, Anat. Rec. 231, 482-497、Mouton et al. 2002, Brain Res. 956, 30-35)と組み合わせて使用する、公平なステレオロジーによる細胞計数法で、黒質緻密部(SNpc)のTH陽性細胞数を計測した。SNpcの全体を、Olympus BX51顕微鏡に装着したStereo Investigator(ドイツ国、MicroBrightField製)のプラットフォーム上で解析した。対照群と処置群における、黒質緻密部のTH陽性細胞数の減少はそれぞれ30%と4%だった。結果の図表によるまとめを図17に示した。
【0238】
尾状核から黒質へのMANF2の逆行性輸送がオスのウイスターラットで観察された。ヨウ素化MANF2の尾状核への注射を定位注射で行った。その24時間後には、過剰量のペントバルビトールナトリウム(90mg/kg)でラットを麻酔し、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)、続いて4% パラホルムアルデヒドを含む0.1M リン酸ナトリウムバッファー(pH7.4)による心臓内還流を行った。脳を取り出し、1mm厚の環状断切片を切り出した。直径3mmのサンプルを尾状核、前頭皮質、海馬状隆起および黒質から抜き出した。抜き出したサンプルの放射活性をガンマ線計測器(Perkin Elmer製)で測定した。脳のいくつかは40mmの冠状断に切り出し、X線フィルムを用いたオートラジオグラフィーに切片を付した。
【0239】
考察
年齢と関連のある神経変性障害であるパーキンソン氏病では、黒質のドーパミン作動性ニューロンが徐々に失われてゆく。神経栄養因子は変性脳疾患の処置における顕著な治療可能性を有している。ニューロンの変性を遅らせるか逆行させる、あるいは神経の損傷を回復させる神経栄養因子は、創薬の潜在的な標的分子である。グリア細胞株誘導神経栄養因子(GDNF)は、ドーパミン作動性ニューロンの、これまでに報告されている最も強力な標的誘導性栄養因子である(Lin et al., 1993, Science 260, 1130-2)。ヒトパーキンソン氏病患者の被殻へのGDNFの送達は、臨床上の改善をもたらした(Gill et al., 2003, Nat. Med. 9, 589-95)が、Amgenからのより最近のデータは、副作用の深刻な危険性を示している。この結果は、神経変性疾患の処置のための新規神経栄養因子の探索が有効であることを保証している。
【0240】
我々の発見は、MANF2が進化的に保存されている初めての神経栄養因子である可能性を示している。MANF2は、パーキンソン氏病のラット6−OHDAモデルにおいて、GDNFと同等に効率よく、そして場合によってはより選択的に脳ドーパミン作動性ニューロンをin vivoで救済することができる。ラット成体の尾状核への6−OHDA送達の6時間前にMANF2を1回注射することは、損傷から2週間後と4週間後のアンフェタミン誘導性同側性回転行動を顕著に減少させ(図16を参照)、ほとんど完全に黒質のチロシンヒドロキシラーゼ陽性細胞を救済した(図17)。
【0241】
MANF2には、治療用タンパク質またはパーキンソン氏病治療用薬剤の開発の基盤としての大きな可能性がある。MANF2は、いくつかの中枢ニューロンのエフェクターとしても有用であり、いくつかの神経変性障害ならびに神経学的および精神学的疾患のための薬剤として考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0242】
【図1】Homo sapiensのMANF1とMANF2アミノ酸配列のアラインメント。アラインメントはClustalXプログラムで作製した。同一のアミノ酸残基をアスタリクスで示し、アミノ酸残基の物理化学的特徴に基づく高い類似性を二重のコロンで示し、類似性を点で示した。シグナル配列には下線を引いた。二次構造のαへリックスモチーフはMANF1とMANF2との間で保存されており、配列の上に記した。更に8個の保存されたシステインにも記し(囲い)を付した。
【図2】Homo sapiensとMus musculusのMANF2アミノ酸配列のアラインメント。図中の記号については図1を参照。
【図3】選択した生物のMANFアミノ酸配列のアラインメント。配列は国立バイオテクノロジー情報センターのwwwサーバー(http://www.ncbi.nlm.nih.gov)でBlastサーチを行うことで入手した。いくつかの場合、使用した配列はゲノム配列から組み立て、また、別の他の場合は、重複する発現配列タグから組み立てた。
【図4】選択した生物のMANFファミリータンパク質の系統樹。
【図5】種々の組織におけるヒトMANF2発現のRT−PCR法による解析。全長ヒトMANF2遺伝子を増幅するプライマー(h-MANF2-atgとh-MANF2-stop-del)をDynazyme DNAポリメラーゼ(Finnzymes製)およびDynazyme 10×バッファーと共にPCRに使用した。PCR反応の総容量は25μlだった。アニーリング温度を55℃、伸張時間を30秒として、合計35サイクルのPCRを行った。図5Cにおいては、プライマーとしてh-MANF2-atgとh-MANF2-int-asを使用した。 図5Aのレーン: 1 副腎、2 骨髄、3 胎児脳、4 成体脳、5 小脳、6 結腸、7 心臓、8 腎臓、9 胎児肝臓、10 成体肝臓、11 肺、12 乳腺、13 筋肉、14 膵臓。 図5Bのレーン: 1 胎盤、2 前立腺、3 唾液腺、4 小腸、5 脊髄、6 脾臓、7 胃、8 睾丸、9 胸腺、10 甲状腺、11 気管、12 子宮、13 水。 図5Cのレーン: 1 海馬状隆起、2 視床、3 小脳扁桃、4 脳梁、5 小脳、6 尾状核、7 大脳皮質、8 黒質、9 胎児脳、10 脳、11 水。
【図6】COS−7細胞の発現した、組み換えヒトMANF2タンパク質と組み換えマウスMANF2タンパク質の解析。C末端6−ヒスチジンタグとV5タグを有する全長ヒトまたはマウスMANF2遺伝子を含有する発現構築物は、終止コドンを含まない全長コード領域cDNAをpcDNA3.1発現ベクター(Invitrogen製)にクローニングすることで作製した。10%FCSと抗生物質を添加したDMEMで培養したCOS−7細胞を35mmプレートに植え付け、約70%コンフルエントまで成長したら、4μgのプラスミドでトランスフェクトした。トランスフェクションから24時間後には無血清培地で培地交換した。トランスフェクションの72時間後に細胞と培養上清を回収した。15%変性SDS−PAGEゲルからタンパク質をナイロンメンブランにブロッティングし、5%BSAを含むTBS−Tween(0.1%)でブロッキングし、マウス抗V5抗体(希釈率は1:5000)とHRP結合ヤギ抗マウス免疫グロブリン二次抗体(希釈率は1:2000)を用いたECL法で検出した。レーン1 ヒトMANF2遺伝子をコードする発現ベクターでトランスフェクトした細胞の細胞融解物、レーン2 ヒトMANF2遺伝子をコードする発現ベクターでトランスフェクトした細胞の培養上清、レーン3 マウスMANF2遺伝子をコードする発現ベクターでトランスフェクトした細胞の細胞融解物、レーン4 マウスMANF2遺伝子をコードする発現ベクターでトランスフェクトした細胞の培養上清。
【図7】Homo sapiensとMus musculusの、MANF2アミノ酸配列と核酸配列。
【図8】In situハイブリダイゼーションによる、P10マウス脳におけるMANF2 mRNAの発現。冠状断切片をセンスcRNAプローブ(A,C)およびアンチセンスcRNAプローブ(B,D,E,F)とハイブリダイズさせ、暗視野照明および明視野照明の下で撮影した。対照センス実験と比べて、MANF2 mRNAは主として視床と海馬状隆起に発現が観察された。Fは、視床に局在する銀粒子である。出生後の脳および成体の脳におけるMANF2 mRNAの発現パターンは、MANF1 mRNAの発現と比べてより制限されており、MANF1よりも発現レベルが低い。マウスの胚発生の際には、in situハイブリダイゼーション測定によって検出可能なレベルでのMANF2 mRNA発現はなかった。CTXは大脳皮質、Thは視床、Hcは海馬状隆起。スケールバーは1mm。
【図9】In situハイブリダイゼーションで検出された、成体マウス睾丸の精細管におけるMANF2 mRNA発現。切片をセンスcRNAプローブ(A)およびアンチセンスcRNAプローブ(B,C,D)とハイブリダイズさせ、暗視野照明および明視野照明の下で撮影した。AとBのスケールバーは500μm、CとDのスケールバーは100μm。
【図10】COS−7細胞由来の組み換えMANF2タンパク質は、in vitroにおいてE16マウス後根ガングリオン(DRG)ニューロンの生存を促進する。pcDNA3.1に入れたマウスMANF2、pcDNA3.1に入れたMANF1またはGFP(pGreenLantern、Gibco製)で一過性にトランスフェクトしたCOS−7細胞の培養上清を回収し、濃縮した。MANF2タンパク質およびMANF1タンパク質を100ng/mlの濃度で培養神経細胞にアプライした。細胞は6日間培養し、生存ニューロン数を計測した。レーン NGF(100ng/ml)、 因子の添加なし、 COS−7/GFP、 COS−7/マウスMANF1、 COS−7/マウスMANF2。
【図11】COS−7細胞の産生した組み換えMANF2タンパク質は、in vitroにおいてE14ラットドーパミンニューロンの生存を促進する。pcDNA3.1に入れたマウスまたはヒトMANF2、pcDNA3.1に入れたマウスまたはヒトMANF1、あるいはGFP(pGreenLantern、Gibco製)で一過性にトランスフェクトしたCOS−7細胞の培養上清を回収し、濃縮した。生存促進効果を試験するために、MANFタンパク質を100ng/mlの濃度で培養ドーパミン細胞にアプライした。GFPでトランスフェクトした細胞の培養上清およびGDNF(100ng/ml)を負の対照と正の対照として使用した。細胞は6日間培養し、固定し、抗TH抗体で染色した。ヒトMANF1とマウス MANF1と同様に、ヒトMANF2とマウスMANF2は共にドーパミン作動性ニューロンの生存を促進した。。パネルAとBにおけるレーン: 因子の添加なし、 GDNF、 COS−7/GFP、 COS−7/ヒトMANF1、 COS−7/マウスMANF1、 COS−7/ヒトMANF2、 COS−7/マウスMANF2。
【図12】Sf9細胞の産生した組み換えMANF2タンパク質は、in vitroにおいてE13マウスドーパミンニューロンの生存を促進する。ヒト MANF2を分泌する安定なSf9細胞株を確立し、MANF2タンパク質を条件培地から精製した。ドーパミンニューロンを因子の添加ありと添加なしの条件でそれぞれ6日間培養し、固定し、抗TH抗体で染色した。実験を繰り返しても同等の結果が得られた。レーン GDNF(100ng/ml)、 因子の添加なし、 MANF2(l000ng/ml)、 MANF1(100ng/ml)。
【図13】Sf9−hMANF2安定細胞株からのMANF2タンパク質の精製。 A.タンパク質の分泌を示す、抗V5抗体によるウエスタンブロット。 B.レーン1は精製工程1の後の試料、レーン2は精製工程2の後の試料。
【図14】COS−7細胞培養上清からのMANF2タンパク質の精製。 A.精製工程1の後の、Hisタグを付したマウスMANF2(レーン1)とHisタグを付したヒトMANF2(レーン2)。pcDNA3.1に入れたマウスMANF2またはヒト MANF2でCOS−7細胞を一過性にトランスフェクトし、培養液を回収し、Hisタグを付したタンパク質をNi−セファロースと共に沈殿させ、イミダゾールで溶出した。溶出液の一部(10または20μl)を15% SDS−PAGEゲルで流し、タンパク質をクーマシー染色で染めた。 B.逆相クロマトグラフィーで精製し、PVDF膜にブロットした組み換えMANF1タンパク質(レーン1)と組み換えMANF2タンパク質(レーン2)。
【図15】ヒトMANF2タンパク質分泌シグナルの開裂部位。本来のシグナル配列を含む組み換えMANF2タンパク質をCOS−7細胞で製造した。精製タンパク質をトリプシンによる消化に付し、ペプチド断片をQ−TOF質量分析法で分析した。この分析によって、シグナル配列開裂部位は26位と27位のアミノ酸の間に存在することを確認した。
【図16】MANF2: 行動試験。6−OHDA送達の6時間前に行った、成体ラットの尾状核への単一のMANF2注射は、損傷から2週間後および4週間後のアンフェタミン誘導性の同側回転行動を著しく減少した。
【図17】形態解析。6−OHDA送達の6時間前に行った、成体ラットの尾状核への単一のMANF2注射は、黒質のチロシンヒドロキシラーゼ陽性細胞をほぼ完全に救済した。
【配列表フリーテキスト】
【0243】
配列番号5: オリゴヌクレオチドプライマー
配列番号6: オリゴヌクレオチドプライマー
配列番号7: オリゴヌクレオチドプライマー
配列番号8: オリゴヌクレオチドプライマー
配列番号9: オリゴヌクレオチドプライマー
配列番号10: オリゴヌクレオチドプライマー
配列番号11: オリゴヌクレオチドプライマー
配列番号12: オリゴヌクレオチドプライマー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
図7に示した配列番号2のアミノ酸配列を含むポリペプチドをコードするヌクレオチド配列を包含する、単離精製した核酸。
【請求項2】
図7に示した配列番号1のヌクレオチド配列を含む、単離精製した核酸。
【請求項3】
図7に示した配列番号1のヌクレオチド配列、そのホモログ、またはそれらの断片を含む組み換えヌクレオチド配列を包含する、単離精製した核酸。
【請求項4】
発現制御配列に発現可能な状態に連結した請求項2の核酸を包含し、MANF2ポリペプチドまたはその変異体をコードしうる発現構築物。
【請求項5】
請求項4の発現構築物で形質転換またはトランスフェクトした宿主細胞。
【請求項6】
ポリヌクレオチドで形質転換またはトランスフェクトした宿主細胞であって、該ポリヌクレオチドはヒト ヌクレオチド配列を含有するヌクレオチド鎖を含み、該ヒト ヌクレオチド配列は、図7に示した配列番号1の配列に相補的な非コード鎖を含むDNAと以下のハイブリダイゼーション条件下においてハイブリダイズすることを特徴とする宿主細胞。
(a)50%ホルムアミド、5×SSPE、5×デンハルト溶液、0.1%SDSと0.1mg/ml 変性サケ精子DNAを含む溶液中、42℃で20時間の条件下でフィルターを用いたハイブリダイゼーションを行い、そして
(b)該フィルターの洗浄を、1×SSCと0.1%SDSを含む洗浄液を用い、室温で30分間を2回、そして65℃で30分間を2回行う。
【請求項7】
図7に示した配列番号2のアミノ酸配列を含む、単離精製したMANF2ポリペプチド。
【請求項8】
発現可能な状態にプロモーター配列と関連付けられた、MANF2ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを含有する請求項5の宿主細胞を、該ポリペプチドをコードする核酸配列が発現されるように培養し、そして
該宿主細胞または該宿主細胞を培養した培地から該ポリペプチドを単離する
ことを包含する、請求項7のMANF2ポリペプチドを製造する方法。
【請求項9】
請求項7の単離精製したMANF2ポリペプチドまたはその抗原性断片で哺乳動物を免疫することを包含する、抗体の製造方法。
【請求項10】
請求項7の単離精製したMANF2ポリペプチドまたはその抗原性断片を用いた抗原。
【請求項11】
請求項9の方法で製造した抗体。
【請求項12】
検出可能な標識で標識した、請求項11に記載の抗体。
【請求項13】
− 容器、および
− 該容器に入っている、MANF2遺伝子またはそのアレル変異を検出しうる化合物、好ましくは標識されている化合物
を包含することを特徴とする、生物学的試料中のMANF2またはそのアレル変異の存在を検出するための、複数の試薬からなるキット。
【請求項14】
該化合物がプライマーまたはプローブであることを特徴とする、請求項13に記載のキット。
【請求項15】
該化合物が請求項11の抗体であることを特徴とする、請求項13に記載のキット。
【請求項16】
MANF2の変異または機能不全が介在する病態について、疾病素質を評価するための、請求項13または14に記載のキット。
【請求項17】
該キットを用いるための説明書を更に包含する、請求項16に記載のキット。
【請求項18】
ヒトまたはマウスのMANF2遺伝子をトランスジーンとして有する、トランスジェニックなヒト以外の動物。
【請求項19】
MANF2遺伝子またはそのホモログの発現を妨害するトランスジーンまたは挿入配列を有する、トランスジェニックなヒト以外の動物。
【請求項20】
MANF2核酸分子、MANF2タンパク質、MANF2ペプチド断片、MANF2作用物質、MANF2拮抗物質または抗MANF2抗体を包含する、医薬化合物。
【請求項21】
薬学的に有効な量の請求項20の医薬化合物を、処置を必要とする患者に投与することを特徴とする、MANF2依存性病態の処置方法。
【請求項22】
該患者が、抹消神経障害を発症しているか、または発症する危険性のある患者であることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項23】
該抹消神経障害が全身性疾患と関連するものであることを特徴とする、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
該患者が、アルツハイマー病を発症しているか、または発症する危険性のある患者であることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項25】
該患者が、パーキンソン氏病を発症しているか、または発症する危険性のある患者であることを特徴とする、請求項21に記載の方法。
【請求項26】
以下の工程を包含する、MANF2に結合する受容体をアフィニティー精製する方法。
(a)精製すべきMANF2受容体が、支持体に固定化したMANF2上に選択的に吸着される条件下で、MANF2受容体の原料を、固定化したMANF2に接触させ、
(b)固定化したMANF2とその支持体を洗浄して、吸着されていない物質を取り除き、そして
(c)固定化したMANF2に吸着しているMANF2受容体分子を溶出バッファーで溶出して、MANF2受容体分子を得る。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2009−519028(P2009−519028A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545024(P2008−545024)
【出願日】平成17年12月14日(2005.12.14)
【国際出願番号】PCT/FI2005/050461
【国際公開番号】WO2007/068784
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(502010321)
【Fターム(参考)】