説明

新規な金属ストリップ

本発明は、片面または両面に緻密で硬質の耐摩耗性被膜を備えた被膜付き鋼ストリップ製品に関する。被膜の厚さは全厚で25μm以下、被膜の硬さは600HV以上、下地の鋼ストリップの引張強さは1200MPa以上である。被膜は電子ビーム蒸着法で形成することが望ましく、被膜は例えばAlであってよい。この被膜付き金属ストリップは、ひげ剃り道具、医療用具、一般用および工業用のナイフ、および鋸に適している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非常に硬質で緻密な被膜を備えた新規な鋼ストリップ材料に関する。本発明は更に、連続多段ロールプロセス(continuous roll-to-roll process)により下地の金属ストリップ表面に硬質で緻密な被膜を高い密着性で付与することにより上記の被膜付き鋼ストリップを製造する方法にも関する。本発明は特に、ひげ剃り道具、医療用具、一般用および工業用のナイフ、および鋸に適した高密着性の硬質被膜を備えた被膜付き鋼ストリップに関する。
【背景技術】
【0002】
被膜付き鋼製品には種々の用途がある。一例として、スライサー、彫刻刀、パンナイフ、肉切り包丁、ミキサーのブレード、狩猟や釣り用のナイフ、ポケットナイフなどの一般用ナイフ、および合成繊維、紙、プラスチックフィルム、織物、カーペットなどを切断する工業用ナイフのようなナイフの製造に用いられる。また、鋸や医療用具、外科用ナイフ(メス)としても用いられる。更に、髭剃り用のブレードやカッターなどのひげ剃り道具としても用いられる。以上はほんの一部の例に過ぎない。
【0003】
これらの用途ではいずれも、硬質で緻密な耐摩耗性被膜が適しているか、必要である。摩耗によって被膜が裂けたり割れたりする。これらの用途では更に、硬質で鋭利な刃先および切削表面を必要とする。加えて、上記列挙した用途の多くは、使用環境が腐食性であるため、表面の耐食性が必要である。
【0004】
コスト対策のために、連続多段ロールによる被覆プロセスを、望ましくは鋼ストリップの製造に組み込んだ形で行なうことが必要になっている。更に、品質面では、下地との密着性の高い緻密な被膜が有利である。コスト面からはもう一点、接合被膜を必要としないほどに高い密着性を持つ耐摩耗性被膜があれば更に有利である。
【0005】
緻密被膜が高密着性を有することは、最終製品の機能品質の上で必要である。密着性が低かったり、多孔質または粗い被膜であったりすると、例えば工業用のナイフや鋸の場合は、被膜が剥離し始めたり、粒子状あるいは小片状になって脱落したり、割れ発生といった問題が生じたりする。いずれにせよ、品質面でもコスト面でも許容できないことである。
【0006】
現在、被膜形成方法は何種類かあり、被膜のタイプも何種類かある。下記に例示する。
【0007】
◆ セラミクス被膜は、多くの場合Alから成り、これにTiOおよび/ZrOを添加することもある。通常このタイプの被膜は溶射で形成されている。溶射には通常、主な欠点が幾つかある。形成された被膜が粗いため、被覆後の表面に研磨などの後処理を施す必要がる。溶射被膜は普通は気孔率が高いので、薄くて緻密な被膜は通常は得られない。更に、溶射被膜は通常は厚さが大きい。厚くて粗い被膜は、使用中に割れ発生や表面からの粒子脱落の危険性が高い。多くの場合、セラミクス被膜の密着性を向上させるために、接合被膜としてニッケルやニッケル合金も用いることが必要になる。
【0008】
◆ 金属被膜は、多くの場合、純ニッケルや純Crから成るか、ニッケル・燐のような化合物の形である。これらのタイプの金属被膜は通常はめっき法、特に電解めっき法によって施される。電解めっき法には幾つかの欠点があり、主な欠点は、均一な膜厚を得ることが困難なこと、被膜の密着性が乏しいことである。更に、めっき法は環境適合性に欠けており、しばしば環境問題を起こしている。
【0009】
◆ 異種被膜の組み合わせとして、ニッケル被膜にSiCのような耐摩耗性粒子を含有させる方法がある。この方法にも幾つかの欠点があって、原理的に前述の電解めっき法による欠点があり、接合被膜としてニッケルはやはりかなりの程度必要であるため被膜コストが高い。
【0010】
このように、上記例示した各方法は本発明には用いることができない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の第一の目的は、緻密な被膜と下地金属との密着性を高めた硬質耐摩耗性被膜付き金属ストリップを提供することである。
【0012】
本発明の第二の目的は、鋼ストリップの製造に組み込んだ連続多段ロールプロセスによりコスト効率の高い被膜を得ることである。
【0013】
本発明の第三の目的は、膜厚を極力均一化した被膜を得ることである。
【0014】
これらおよびその他の目的は請求項1による被膜付き鋼製品を提供することにより驚くべきことに達成される。更に望ましい実施形態は従属項に規定してある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
ひげ剃り道具、医療用具、一般用および工業用のナイフ、鋸に適した被膜は、緻密で耐摩耗性があり密着性が良い。
【0016】
これらの用途ではいずれもブレードの摩耗が発生する。上記の諸用途に適した被膜は、緻密で耐摩耗性があり密着性の高い被膜であり、硬質でありながら靭性が高くて、使用中の作業荷重および圧力に対抗でき、割れや剥ぎ取りが起きることがない。
【0017】
最終製品の摩耗を防止するためには、耐摩耗被膜を少なくとも1層被覆することが適当である。片面被覆でも両面被覆でも良い。片面被覆はコスト面から望ましく、適用できる場合には用いるべきである。使用条件が厳しいか使用期間が長いブレードの場合は、両面被覆が望ましい。そうしないと発生する問題としては、例えば被覆なし側のエッジに沿って塑性変形が起きたり、被覆なし側のエッジに沿って材料の堆積が起き、これが場合によっては剥ぎ取られて、コーターブレードのエッジから材料が局部的に剥ぎ取られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の方法は、薄くて硬質で緻密な耐摩耗性層に適しており、コスト面から、厚さは両側それぞれについて全厚で25μm以下、通常は全厚で20μm以下、望ましくは全厚で15μm以下、より望ましくは全厚で12μm以下、更に望ましくは10μm以下である。厚い被膜を形成する際には、コスト対特性を最適化するには、10層までの多層構造にして、個々の層の厚さを0.1〜15μm、望ましくは0.1〜10μm、より望ましくは0.1〜7μm、更に望ましくは0.1〜5μm、より以上に望ましくは0.1〜3μmとする。
【0019】
被膜は、処理対象物から作用する摩耗および剪断に耐えるために十分な耐摩耗性を有する必要があり、同時に、経済性と脆化の観点からは厚すぎてもいけない。
【0020】
被膜の形成速度は、2.5m/分以上、望ましくは5m/分以上、より望ましくは10m/分以上である。
【0021】
耐摩耗性を得るには、Al、TiO、ZrOまたはこれらの混合物から成り、望ましくはAlを主体とする、緻密な酸化物被膜を少なくとも1層形成する。所要特性に応じて、酸化物を混合した被膜とすることにより最適な硬さと靭性を得ることができる。それには、アルミニウム酸化物と選定した他の酸化物とを同時蒸着する。望ましくは、アルミニウム酸化物と他の酸化物として望ましくはTiOおよび/またはZrOとの同時蒸着である。多層構造を用いると、異種酸化物の層を混ぜて10層まで種々の酸化物層を組み合わせ、硬さと靭性を最適化することもできる。
【0022】
本発明の他の形態として、上述したように実質的に酸化物から成る耐摩耗性被膜に代えて、金属被膜等の緻密で硬質の被膜を用いることもできる。コストを極力低減するために単純で安価な被膜を選択するのであれば、実質的に純粋なCrなどの硬質金属被膜を用いることもできる。
【0023】
本発明のもう1つの形態として、遷移金属の炭化物および/または窒化物、例えばTiN、TiC、CrNの層を用いることもできるし、これらをAl、TiO、ZrOまたはこれら酸化物の混合物、望ましくはAlを主体とする酸化物、と組み合わせて用いることもできる。10層までの多層構造とし、種々の酸化物および窒化物の層を組み合わせると更に良好な最適の硬さおよび靭性を実現することができる。
【0024】
摩耗力および剪断力に耐えるようにするためには、本発明の薄い被膜の硬さは600HV以上、望ましくは700HV以上、より望ましくは800HV以上、最も望ましくは900HV以上である。当然のことながら、被膜の硬さは最終製品の用途に要求事項に合わせて調整する。
【0025】
ストリップ幅400mmまでの場合は、個々の層の厚さ許容範囲は最大値±10%であえる。これは非常に厳しい許容範囲であり、使用時の精度と最終製品の品質にとって利点がある。めっきや溶射に比較してこれは非常に高い許容差である。例えば、めっきの場合は、ドッグボーン効果といわれる現象のためにめっき層の厚さが変動する。そのため層厚さは普通は±50%の変動をする。
【0026】
別途の接合被膜は必要ないが、靭性向上などの技術的な観点から必要がある場合には、ニッケル層を被膜中の一層として用いることもできる。ニッケルは高価なため、普通は非常に薄い層としてのみ用い、適当な厚さは0〜2μmであり、望ましくは0〜1μm、最も望ましくは0〜0.5μmである。しかし、いずれにせよニッケル層を下地層の隣接層とすることは無い。
【0027】
〔被覆対象とする下地材料の説明〕
被覆の下地材料は、対照用途に適した良好な基本的な機械強度を備えていなくてはならない。望ましくは、焼入れ性を有する鋼を焼入れ・焼き戻しした状態か、析出硬化鋼であって、最終処理状態での引張強さが1200MPa以上、望ましくは1300MPa以上、より望ましくは1400MPa以上、更に望ましくは1500MPa以上の鋼である。腐食環境で用いる被膜付き最終製品には、基本的な耐食性を付与するのに十分な量のCrを添加した鋼を用いる。この場合、Cr含有量は10質量%以上、望ましくは11質量%以上、より望ましくは12質量%以上である。
【0028】
上述の鋼種で作られた製品であって、熱間加工性が良好で薄く冷間圧延できるストリップの形であれば、本発明の被覆方法を適用できる。用いる鋼の性質として、成形工程、研削工程(グライディング)、シェービング工程、切削工程、研磨工程(ポリッシング)、スタンピング工程などを含む製造プロセスで、容易にひげ剃り用のブレードやカッターなどのひげ剃り道具、医療用具、一般用および工業用のナイフ、種々の鋸に作製できる必要がある。ストリップ下地材料の厚さは、普通は0.015mm〜5.0mm、望ましくは0.03mm〜3mm、より望ましくは0.03mm〜2mm、更に望ましくは0.03mm〜1.5mmである。当然のことながら、ストリップ下地材料の厚さは最終製品の用途に合わせる。ストリップ下地材料の幅は、被膜形成をスリット加工の前に行なうか後に行なうかによる。下地材料の幅は、1〜1500mm、望ましくは1〜1000mm、より望ましくは1〜500mm、更に望ましくは5〜500mmである。下地材料の長さは、10〜20000m、望ましくは100〜20000mである。
【0029】
〔被覆方法の説明〕
被覆媒体を被覆する方法としては、密着性の高い均一な連続被膜を形成できる方法であれば、種々の物理的あるいは化学的な蒸発堆積法を用いることができる。製膜法の例としては、化学蒸着法(CVD)や有機金属化学蒸着法(MOCVD)があるし、スパッタリングや蒸発を用いた物理蒸着法(PVD)であれば蒸発手段として抵抗加熱、電子ビーム加熱、誘導加熱、アーク抵抗加熱、レーザ加熱を用いた堆積方法があるが、本発明の製膜法としては特に電子ビーム蒸着法(EB)が望ましい。硬質で緻密な層から成る良質の被膜をより確実に製膜するために、EB蒸着法においてプラズマ励起を用いることもできる。
【0030】
本発明における必須の構成として、連続多段ロール加工(roll-to-roll)によるストリップ製造ラインに被覆工程を組み込んでいる。この構成を前提として、連続多段ロールプロセス内で電子ビーム蒸着(EB)を用いて硬質被膜を製膜する。多層構造が必要な場合には、数段のEB蒸着チャンバをインラインに組み込むことで実現できる。金属被膜の製膜は、1×10−2mbar以下の減圧雰囲気下で反応性ガスを添加せずに行なって、実質的に純粋な金属膜を得るようにする。金属酸化物の製膜は、減圧雰囲気下で反応ガスとして酸素源をチャンバ内に添加して行なう。酸素の分圧は1〜100×10−4mbarとする。他のタイプの被膜を製膜するには、例えばTiN、TiC、CrNといった遷移金属の炭化物および/または窒化物またはこれらと金属酸化物との混合物を製膜するには、所望の化合物が生成できるように反応性ガスの分圧について製膜中の条件を調節する。酸素源としては、反応性ガスとしてHO、O、O、望ましくはOを用いることができる。窒素源としては、反応性ガスとしてN、NH、N、望ましくはN、を用いることができる。炭素源としては、反応性ガスとして炭素含有ガスであればよく、例えばCH、C、Cなどを用いることができる。いずれの場合には、反応性EB蒸着プロセスをプラズマ励起することができる。
【0031】
良好な密着性を確保するために、種々のタイプの清浄化工程を用いる。まず、下地材料の表面の残留油分は被覆工程の効率や被膜の密着性および品質を劣化させるので、適切な方法で全ての油分を除去する清浄化を行なう。その上で、通常の鋼表面には必ず存在する自然酸化膜も除去しなくてはならない。そのために、被膜形成前に予備処理を行う。したがって、連続多段ロール加工ラインの最初の製造工程として、最初の被膜層の密着性を確保するために、金属ストリップ表面をイオンエッチングで処理することが望ましい(図3を参照)。
【実施例】
【0032】
本発明の2つの実施例を以下に詳細に説明する。実施例1(図1)は被膜1、2を下地3のストリップ幅全体に施した例である。下地材料は種々の鋼であって良く、例えば焼入れ性のある炭素鋼または焼入れ性のあるCrステンレス鋼であってよい。実施例2(図2)は被膜4を鋼ストリップ5に施したものであり、鋼ストリップ5は被覆工程の前にスリット加工とエッジ加工を施してある。被覆工程において、主面7、8と狭い側面9、10の全てを被覆し、引き掻き用または切削用のエッジ11、12を完全に被膜で覆ってある。側面9、10は比較的狭い方の主面7と同時に被覆した方がよい。ここで説明する実施例は本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0033】
下地材料は、硬化性を発現する下記組成を用いる。
【0034】
○ 焼入れ性のある炭素鋼の組成は、0.1〜1.5質量%、0.001〜4質量%Cr、0.01〜1.5質量%Mn、0.01〜1.5質量%Si、1質量%以下Ni、0.001〜0.5質量%N,残部Feであり、
○ 焼入れ性のあるクロム鋼としては、0.1〜1.5質量%C、10〜16質量%Cr、0.001〜1質量%Ni、0.001〜1.5質量%Mn、0.01〜1.5質量%Si、3質量%以下Mo、0.001〜0.5質量%N、残部Feであり、
○ 析出硬化性のある鋼の組成は、0.001〜0.3質量%C、10〜16質量%Cr、4〜14質量%Ni、0.1〜1.5質量%Ti、0.01〜1.0質量%Al、0.01〜6質量%Mo、0.001〜4質量%Cu、0.001〜0.3質量%N、0.01〜1.5質量%Mn、0.01〜1.5質量%Si、残部Feである。
【0035】
〔実施例1〕
本実施例で用いる下地材料の化学組成はサンドビック内部規格20C2および13C26であり、実質的には下記の公称組成である。
【0036】
サンドビック20C2: 1.0質量%C、1.4質量%Cr、0.3質量%Si、0.3質量%Mn
サンドビック13C26: 0.7質量%C、13質量%Cr、0.4質量%Si、0.7質量%Mn
先ず、上記化学組成の下地材料を通常の冶金製鋼法により製造する。得られた鋼を熱間圧延により中間サイズにまで圧下した後、パス間の再結晶工程を多数回行なう冷間圧延により、最終厚さ0.2mm、最大幅400mmにする。得られたストリップ鋼を焼入れおよび焼き戻しして所要の機械強度レベルすなわち本発明による1200MPa以上の強度レベルにする。次に、圧延および焼入れ時の残留油分を適切な方法で除去して下地材料の表面を清浄化する。その後、デコイリング設備で始まる連続プロセスラインで被覆処理を行う。連続多段ロールプロセスラインの最初の工程は、真空チャンバまたは入口真空ロックに続いてエッチチャンバがあり、その中でイオンエッチングを行なって下地材料表面の薄い酸化層を除去する。次に、ストリップはEB蒸着チャンバ(1個または複数個)に入り、その中で酸化物の堆積を行う。本実施例の場合はAlを堆積する。通常、酸化物層は通常は厚さ0.1〜25μmに堆積させるが、用途によって望ましい厚さが決まる。本実施例では1個のEB蒸着チャンバを用いて厚さ2μmに堆積させる。EB蒸着後に、被膜付きストリップ材料は出口真空チャンバまたは出口真空ロックを通って、コイラに巻き取られる。もし必要ならば、この被膜付きストリップ材料に、例えばスリット加工およびエッジ処理を行って、最終用途に適した最終寸法とエッジ状態に仕上げる。EB蒸着を用いて連続被覆プロセスで、例えばナイフ用ブレードのエッジに沿って付加的な被膜を施せれば有利であるが、他のプロセスを用いても良い。仕上げブレードのエッジに沿って施す付加的な被膜は、ストリップ材料に施した被膜と同じタイプであることが望ましい。
【0037】
本実施例で説明した最終製品すなわち被膜付き20C2ストリップ材料および被膜付き13C26ストリップ材料は、ストリップ厚さが0.2mm、Alの薄い被膜の厚さが2μmであり、被膜層の密着性が非常に良好であるため、工業用ナイフの製造に特に適している。
【0038】
図3に、上記の連続多段ロール電子ビーム蒸着プロセスを示す。この製造ラインの最初の部分はアンコイラ13が真空チャンバ14内に配置されており、その次はインライン・イオンエッチングチャンバ15であり、次いで一連のEB蒸着チャンバ16があり、必要なEB蒸着チャンバの個数は1個から10個であり、これは多層構造の被膜の必要に応じて変わる。EB蒸着チャンバ16はいずれもEBガン17と蒸発用の水冷銅坩堝18とを備えている。次いで、出口真空チャンバ19の中にストリップ材料のリコイラ20が配置されている。真空チャンバ14および19はそれぞれ入口真空ロックシステムおよび出口真空ロックシステムに置き換えることができる。その場合、アンコイラ13およびコイラ20は外部に配置される。
【0039】
〔実施例2〕
本実施例で用いる下地材料の化学組成はサンドビック内部規格20Cであり、実質的には下記の公称組成である。
【0040】
サンドビック20C: 1.0質量%C、0.2質量%Cr、0.3質量%Si、0.4質量%Mn
先ず、上記化学組成の下地材料を通常の冶金製鋼法により製造する。得られた鋼を熱間圧延により中間サイズにまで圧下した後、パス間の再結晶工程を多数回行なう冷間圧延により、最終厚さ0.45mm、最大幅400mmにする。得られたストリップ鋼を焼入れおよび焼き戻しして所要の機械強度レベルすなわち本発明による1200MPa以上の強度レベルにする。その後、ストリップをスリット加工して最終的なブレード用の幅のほぼ2倍の幅にする。スリット加工後のストリップのエッジを、例えばシェービング加工、研削、研磨によりエッジ処理し、所望のコーターブレード用に適した状態および形状に仕上げる。その後、実施例1と全く同様に被覆処理を行う(図3参照)。最終製品は図2に示した被膜付きストリップであり、被膜の材質および厚さは実施例1と同じである。この被膜付きストリップを中央部の切断線6に沿ってスリット加工して、2枚の被膜付きストリップにすると、個々のストリップは仕上げブレードに適した寸法および形状になっている。後は必要な最終長さに切断すれば完成である。
【0041】
本実施例で説明した最終製品は、スリット加工とエッジ処理を済ませた被膜付きストリップ材料であり、ストリップ厚さが0.45mm、スリット加工した最終幅が100mmで、非常に密着性の良い厚さ2μmの薄いアルミニウム酸化物被膜を備えている。この製品を最終用途に応じて必要な長さに切断すれば、更に処理を施す必要なく用いることができる。個々の顧客の要望に応じて、更にエッジ処理やエッジへの被膜付加あるいは研磨などを行うこともできる。被膜付加は、EB蒸着を用いて連続被覆プロセスで、この仕上げブレードのエッジに沿って行なうことが望ましいが、他のプロセスを用いても良い。
【0042】
被膜付き鋼製品の用途は緻密で耐摩耗性を持つ被膜が適した用途であり、例えば、鋏、剪定鋏、料理用具およびベーカリー用具、左官道具、こて類、医療用具、外科用ナイフ、ひげ剃りブレードやカッター、フラッパー・バルブ、打ち抜き型、鋸、および種々の一般用ナイフとしてスライサー、彫刻刀、パンナイフ、肉切り包丁、ミキサーブレード、狩猟および釣り用のナイフ、ポケットナイフなど、および工業用ナイフとして合成繊維、紙、プラスチックフィルム、織物、カーペットなどの切断用ナイフがある。
【0043】
このように、本発明のストリップ材料は、ひげ剃り用のブレードやカッターのようなひげ剃り道具、および外科用薄刃ナイフのような医療用具にも適している。下地材料の厚さはこれらの用途では比較的薄く、通常は0.015〜0.75mm、普通は0.015〜0.6mm、望ましくは0.03〜0.45mmである。被膜の厚さもできるだけ薄くすることが望ましく、通常は0.1〜5μm、普通は0.1〜3μm、望ましくは0.1〜2μm、更に望ましくは0.1〜1μmである。この場合、ストリップ材料の厚さに対する被膜の厚さは小さいことが望ましく、通常は0.01%〜7%、望ましくは0.01〜5%である。
【0044】
この場合の一実施形態として、下地材料の硬化処理あるいは焼入れ・焼き戻し処理の前に被膜を施してもよい。この場合、硬質で緻密な被膜は、処理温度として最低でも400℃以上、望ましくは800℃以上、更に望ましくは950℃以上の温度で、本発明による引張強さすなわち1200MPa以上の引張強さを得るために通常用いられる保持時間耐えなくてはならない。上記処理後に、薄層の性質は本発明による範囲に維持されていなくてはならず、すなわち被膜は密着性良好、硬質、緻密で耐摩耗性を備え、硬さが600HV以上、通常は700HV以上、望ましくは800HV以上、より望ましくは900HV以上である。
【0045】
更に例示すれば、ひげ剃りブレード用のストリップ材料の典型的な寸法は、厚さが0.15mm以下、通常は0.10mm以下、ストリップ幅が400mm程度であり、被膜厚さが5μm以下、通常は約1μm以下、あるいは更に薄い。
【0046】
本発明によるストリップ材料は、種々の一般用および工業用のナイフおよび鋸用としても適している。この用途の場合には下地材料の厚さは比較的厚く、通常は0.1〜5mm、普通は0.2〜3mmである。しかし被膜はできるだけ薄く、被膜総厚さが通常は0.1〜10μm、普通は0.1〜5μm、望ましくは0.1〜3μm、更に望ましくは0.1〜2μmである。この場合、ストリップ材料の厚さに対する被膜の厚さの比率は小さいことが望ましく、通常は0.001%〜7%であり、望ましくは0.01〜5%である。
【0047】
この場合の一実施形態として、下地材料の硬化処理あるいは焼入れ・焼き戻し処理の前に被膜を施してもよい。この場合、硬質で緻密な被膜は、処理温度として最低でも400℃以上、望ましくは800℃以上、更に望ましくは950℃以上の温度で、本発明による引張強さすなわち1200MPa以上の引張強さを得るために通常用いられる保持時間耐えなくてはならない。上記処理後に、薄層の性質は本発明による範囲に維持されていなくてはならず、すなわち被膜は密着性良好、硬質、緻密で耐摩耗性を備え、硬さが600HV以上、通常は700HV以上、望ましくは800HV以上、より望ましくは900HV以上である。
【0048】
上述した実施例1、2は、同様の形でひげ剃りブレードおよび/または外科用薄ナイフおよび/または一般用および工業用のナイフおよび/または鋸に適用できる。そのために上記各実施例ではこれらの用途に適した被覆方法および下地材料を説明した。唯一の相違点は硬化処理または焼入れ・焼き戻し処理の順序であるが、これは上述したように被膜によって変えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】図1は、本発明の一つの実施形態による金属ストリップの横断面模式図である。
【図2】図2は、本発明の第二の実施形態による金属ストリップの横断面模式図である。
【図3】図3は、本発明による被膜付き金属ストリップ材料を製造するための製造ラインの模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
片面または両面に緻密で硬質の耐摩耗性被膜を備えた被膜付き鋼ストリップにおいて、
上記被膜は上記鋼ストリップ下地の表面に直接形成されており、該被膜の厚さは全厚で25μm以下、該ストリップの厚さに対する該被膜の厚さの比率は0.001〜7%、該被膜の硬さは600HV以上、該鋼ストリップ下地の引張強さは1200MPa以上であることを特徴とする被膜付き鋼ストリップ。
【請求項2】
請求項1において、上記鋼ストリップ下地の厚さが0.015mm〜5.0mmであることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項3】
請求項1または2において、上記鋼ストリップ下地が、焼入れ性を有する炭素鋼、焼入れ性を有するクロムステンレス鋼、析出硬化性ストリップ鋼のいずれかであることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれか1項において、上記被膜が実質的にAlから成ることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項5】
請求項1から3までのいずれか1項において、上記被膜がAlとTiOおよび/またはZrOとの混合物から成り、主成分がAlであることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項6】
上記被膜が、上記被膜が実質的にクロムから成る金属被膜であることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項7】
請求項1から3までのいずれか1項において、上記被膜が遷移金属炭化物または遷移金属窒化物、望ましくはTiN、TiC、またはCrN、またはこれらの混合物から成ることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項8】
請求項1から7までのいずれか1項において、上記ストリップ下地の厚さに対する上記被膜の厚さの比率が0.01〜7%であることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項9】
請求項1から8までのいずれか1項において、上記被膜が10層までの多層構造を持つことを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項10】
請求項9において、個々の単独層が厚さ0.1〜15μmであることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項11】
請求項10において、上記被膜が、個々の単独層がAl、TiO、またはZrOまたはこれらの混合物のいずれかから成る多層構造を持ち、必要があればTiNおよびTiCのような窒化物または炭化物の層も組み合わせ、更に必要があればCrのような金属被膜とも組み合わせることを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項12】
請求項11において、上記被膜が厚さ2μm以下のニッケル層を少なくとも更に含み、該ニッケル層は上記鋼ストリップ下地には隣接していないことを特徴とする鋼ストリップ。
【請求項13】
請求項1から12までのいずれか1項記載の被膜付き鋼ストリップの製造方法であって、ストリップ製造ラインに組み込んだ連続多段ロールプロセスにおいて、エッチチャンバをインラインで備えた電子ビーム蒸発法を用いて、2.5m/分以上の速度で上記鋼ストリップを製造することを特徴とする鋼ストリップの製造方法。
【請求項14】
請求項1から12までのいずれか1項記載の被膜付き鋼ストリップで作られていることを特徴とするひげ剃り用のブレードまたはカッターのようなひげ剃り道具。
【請求項15】
請求項1から12までのいずれか1項記載の被膜付き鋼ストリップで作られていることを特徴とする一般用ナイフ、工業用ナイフ、外科用ナイフのようなナイフ。
【請求項16】
請求項1から12までのいずれか1項記載の被膜付き鋼ストリップで作られていることを特徴とする手鋸、工業用鋸のような鋸。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2007−502364(P2007−502364A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523159(P2006−523159)
【出願日】平成16年8月9日(2004.8.9)
【国際出願番号】PCT/SE2004/001172
【国際公開番号】WO2005/014877
【国際公開日】平成17年2月17日(2005.2.17)
【出願人】(505277521)サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ (284)
【Fターム(参考)】