説明

新規な1,3−オキサチオラン−2−チオン化合物及びその製造方法と使用

本発明は、一般式(I):
【化1】


(式中、R及びRは、同一又は異なって、それぞれ1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルコキシ基、若しくはアリールオキシ又はアラルキルオキシ基を表す;Rは、R及びRと同一又は異なるか、又は脂肪族基、アミノ基、ハロゲン原子、芳香族又は複素芳香族基、若しくは芳香脂肪族又は複素芳香脂肪族基を表す;Rは、脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族及び複素芳香族基からなる群から選択される架橋基である;Rは、水素原子、脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族、複素芳香族、脂環式又は複素脂環式基である;あるいは、R及びRは、ケイ素原子への架橋基として機能する脂肪族又は複素脂肪族基により任意に置換されていてよい脂環式、複素脂環式、芳香族又は複素芳香族基を形成する;X及びYは、異なっており、酸素及び硫黄から選択される。)で示される1,3-オキサチオラン-2-チオン化合物及びそれらの混合物に関する。別の目的は、上記化合物の製造方法、1,3-オキサチオラン-2-チオンから合成される化合物、及び種々の被覆及び結合用途におけるその使用を提供することである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な種類の1,3-オキサチオラン-2-チオン中間体、それから製造される化合物、新規な1,3-オキサチオラン-2-チオンの製造方法、及び種々の金属材料又は非金属材料を被覆又は結合するための被覆剤、封止剤、プライマー及び接着促進剤としての又はこれら被覆剤、封止剤、プライマー及び接着促進剤における使用に関する。
【背景技術】
【0002】
耐腐食性及び湿分不感受性並びに改良された接着性を基材に与える為に、表面にプライマー及び他の被覆剤を供給することは、大いに必要である。更に、化合物は、そのような表面に化学的又は物理的に分子を選択的に確実に結合する改良可能性と併せて優れた硬化性を発揮するように、接着促進剤及び接着剤として機能する必要がある。このような目的に対して有力な候補となる化合物を提供する数々の試みがなされてきた。しかし、従来技術の化合物は、所望の特性全てを兼ね備えることがなく、いくつかの化合物は、湿気に敏感であり、修飾しやすく従って容易にカスタマイズできる可能性を持たず、あるいは大きい体積収縮などの欠点を有している。
【0003】
日本国特願平11−19117号は、特にコンクリート製造用の、複素環式オキサチオランチオン誘導体、m−キシリレンジアミン、エポキシ樹脂及びネオペンチルグリコールジグリシジルエーテルを含むプライマーを開示している。日本国特願平11−372469号には、類似の成分を含む防食性塗料組成物が記載されている。
【0004】
特願2000−234080号は、ジチオカーボネート並びにオキサゾリジン及び/又はケチミンを含む、急速硬化でき貯蔵安定な樹脂組成物を開示している。
【0005】
低温硬化性エポキシ樹脂組成物が、特願2001−259110号に記載されている。同出願に開示されている組成物は、オキサチオランチオン誘導体、ポリスルフィド−変性エポキシ樹脂、及びアミノ基からの少なくとも2つの活性水素原子を有する化合物を含んでいる。ジチオカーボネートを含む別のエポキシ樹脂組成物が、特開2000−273150号公報では繊維強化複合剤に使用するために記載され、特開2001−206934号公報では防食被覆、外装及び自動車塗装、粉体塗装に使用するため、プライマー及び構造接着剤として記載されている。
【0006】
しかし、上記のいずれの特許文献も、1つの分子の中に、ジチオカーボネート基、及び例えばシリル基のような更なる反応性基を含む化合物を記載していない。
【0007】
特開平11−246632号公報は、塗料、接着剤、インキ及び封止剤として使用するためのポリマー化合物に関し、このポリマー化合物は、共に重合のための反応性基としてビニル基を有する5員環ジチオカーボネート及びシランの共重合により調製される。同公開公報の発明の目的は、改良された硬さ、更に耐水性及び耐薬品性を有する表面塗膜を提供することである。しかしながら、これらの分子は重合体であり、単一分子単位に比べ、選択的変性能に限界がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の1つの目的は、従来技術の化合物の問題点を解決し、改良された体積収縮特性、向上された耐腐食特性、及び1つの分子中に異なる架橋性基、例えばチオール又はシロキシ基が存在することにより得られる向上された硬化能を有する、接着促進剤として適している重要な中間体を提供することである。
【0009】
本発明の別の目的は、多重架橋された又は多重架橋性塗料又はプライマーを形成する為の反応により選択的に変性される前又は後に、非常に多種類の異種表面材料に塗布できる、クロム化合物を含まない化合物を提供することである。
【0010】
この化合物は、いわゆるゾル−ゲル形成により硬化又は架橋できなければならない。そのようなゾル−ゲルは、金属又は非金属表面に接着又は化学的結合でき、塗布される更なる接着剤の接着性を向上できなければならない。適用領域は、ガラス及びシリコンウエハのような表面の処理から、金属及び合金の結合目的若しくは航空機の塗装にまで広がる。更に、表面の(前)処理、塗装及び結合、更には接着促進に関連する広範な用途に有用な化合物が提供されなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題は、下記の式で示される1,3-オキサチオラン-2-チオン化合物(シロキシ基結合環状ジチオカーボネート。以下では「cycDTC-Si」と略称することがある。)及びそれらの混合物の新規な群を提供することにより解決される:
式(I):
【化1】

(式中、
及びRは、同一又は異なって、それぞれ1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルコキシ基、若しくはアリールオキシ又はアラルキルオキシ基を表す。
は、R及びRと同一又は異なるか、又は脂肪族基、アミノ基、ハロゲン原子、芳香族又は複素芳香族基、若しくは芳香脂肪族又は複素芳香脂肪族基を表すか、若しくは1つ又はそれ以上のシロキシ基からなる。
は、脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族及び複素芳香族基からなる群から選択される架橋基である。
は、水素原子、脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族、複素芳香族、脂環式又は複素脂環式基である。
あるいは、R及びRは、ケイ素原子への架橋基として機能する脂肪族又は複素脂肪族基により任意に置換されていてよい脂環式、複素脂環式、芳香族又は複素芳香族基を形成する。
X及びYは、異なっており、酸素及び硫黄から選択される。)
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
上記一般式で示される化合物は、チオアルコキシシリル基を含む、即ちR、R及びRが、同一又は異なって、それぞれ1〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルコキシ基を表すのが好ましい。より好ましいのは、R、R及びRが、同一又は異なって、それぞれメトキシ又はエトキシ基を表す化合物である。
【0013】
ジアルコキシモノアルキルシリル基ではなくトリアルコキシシリル基が好ましいのは、トリアルコキシシリル基を用いるとゾル−ゲル形成能が増すからである。
【0014】
前駆体化合物が容易に入手できることから、メトキシ及びエトキシ基が好ましい。しかしながら、メトキシ基及びエトキシ基を含む化合物の使用には、更に実用的な理由がある。ゾル−ゲル形成を考慮すると、塗装工程での塗布可能性にとっては、ポットライフが非常に重大な問題となる。例えばより長いポットライフが望まれるなら、メトキシ基よりも、エトキシ基、更にはプロポキシ基が好ましい。
【0015】
基は、シリル基と環状ジチオカーボネート基との間の架橋基である。この基の選択は、本発明の化合物の機能にとって重要ではない。従って、場合によりヘテロ原子を含む、飽和又は不飽和の直鎖又は分岐基若しくは芳香族基のような広範な基が、架橋基の一部となり得る。一般に、架橋基は、シリル基と環状ジチオカーボネート基との間で真っ直ぐにつながった1〜12個の原子を含むが、これに限定されない。好ましくは、Rが水素原子である場合、R基は-(CH23OCH2-である。
【0016】
は、Rと共に環状基を形成することもできる。R及びRが環状基を形成する場合、通常、環には4〜8個の原子が含まれる。例えば6員シクロアルキル環が形成される場合、1,3-オキサチオラン-2-チオン基は、シリル基が直接、又は2-[3,4-(1,3-オキサチオラン-2-チオニル)シクロヘキシル]-エチルトリエトキシシラン又は2-[4,5-(1,3-オキサチオラン-2-チオニル)シクロヘキシル]-エチルトリエトキシシラン(実施例;化合物1c及び1c’)の場合のように別のスペーサを介して結合できる、1,3-ベンズオキサチオール-2-チオン基となる。即ち、R及びRが一緒になって-(CH2-CH2-CHRX-CH2)-(式中、Rは-CH2-CH2-である。)で示される基を形成する。
【0017】
更に本発明は、5員cysDTC-Siの製造方法も提供する。種々のcysDTC-Si化合物を、下記の図式1に従って、二硫化炭素とエポキシシランとを付加環化することにより合成することができる。
図式1
【化2】

【0018】
換言すれば、本発明は、
式(I):
【化3】

(式中、
及びRは、同一又は異なって、それぞれ1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルコキシ基、若しくはアリールオキシ又はアラルキルオキシ基を表す。
は、R及びRと同一又は異なるか、又は脂肪族基、アミノ基、ハロゲン原子、芳香族又は複素芳香族基、若しくは芳香脂肪族又は複素芳香脂肪族基を表す。
は、脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族及び複素芳香族基からなる群から選択される架橋基である。
は、水素原子、脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族、複素芳香族、脂環式又は複素脂環式基である。
あるいは、R及びRは、ケイ素原子への架橋基として機能する脂肪族又は複素脂肪族基により任意に置換されていてよい脂環式、複素脂環式、芳香族又は複素芳香族基を形成する。
X及びYは、異なっており、酸素及び硫黄から選択される。)
で示される化合物の製造方法であって、
式(II):
【化4】

(式中、R、R、R、R及びRは、式(I)の場合と同じである。)
で示されるエポキシ化合物を、触媒の存在下、二硫化炭素と反応させることを特徴とする製造方法を提供する。
【0019】
5員環中で必須原子S及びOが存在する位置(X及びYの位置)は、種々の因子、例えば、5員環の4位及び5位での置換パターン、触媒の選択、温度等の反応条件などに依存する。本発明での有用性を満足するには、両異性体が適している。
【0020】
触媒としては、種々のアルカリ金属ハロゲン化物、例えばナトリウム、カリウム及びリチウムの塩化物、沃化物及び臭化物を使用することができる。最も一般的に使用されるのは、ナトリウム及びリチウムの沃化物及び臭化物であり、エーテル(例えば環状エーテルであるテトラヒドロフラン)を溶媒として用いた場合に最も好ましい触媒は、選択率及び収率の観点から、臭化リチウムである。他の例は、塩化リチウム、沃化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、沃化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム及び沃化カリウムである。使用できるその他の触媒には、例えば酸化アルミニウム、酸化チタン、シリカ、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化鉛(II)等の酸化物が含まれる。
【0021】
反応は、溶媒を用いて又は用いずに、行うことができる。反応媒体としては、エーテル又は環状エーテル(例えばテトラヒドロフラン)に代えて又はと共に、種々の溶媒を使用することができる。使用可能な溶媒は、例えばケトン(例えばアセトン又はメチルエチルケトン)、アミド(例えばジメチルホルムアミド)、N-メチルピロリジン-2-オン、アルコール(例えばメタノール、エタノール、2-プロパノール)、ニトリル(例えばアセトニトリル、プロピオニトリル)、及びこれらの混合溶媒である。
【0022】
反応は、好ましくは、0〜100℃の温度及び1〜5気圧の圧力において行われる。より好ましくは、反応は、0〜50℃及び1〜2気圧の圧力において行われる。このような反応条件では、シリル基は影響を受けない。
【0023】
本発明の化合物は、巨視的に平坦な表面から小粒子までのあらゆる形状の、アルミニウム、チタン、鋼、金、銀、銅、種々の合金、ガラス、シリコーン等の種々の金属及び非金属の表面の前処理、表面被覆及び結合に特に有用である。
【0024】
本発明の化合物は、シリル部分のゾル−ゲル反応により、様々な物質の表面上に耐溶剤性層を容易に形成することができ、この場合、他のシリル化合物と組み合わせることもできる(図式2参照)。ゾル−ゲル反応の条件は、当業者には知られており、本発明の範囲を限定するものではないと考えられる。通常、このような反応は、酸又は塩基により開始される。ゲル−ゾル形成の為に最も一般的に使用される酸及び塩基は、無機酸(例えば塩酸及び硫酸)、有機酸(例えば酢酸及びp-トルエンスルホン酸)、無機塩基(例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム及びアンモニア)、有機塩基(例えばアミン)である。更に、米国特許第5,849,110号及び同第5,789,085号に、エポキシ−シランのゾル−ゲル形成の可能な機構がいくつか記載されている。
【0025】
水酸基、アミノ基、カルボキシル基、チオール基などの反応性基が処理する表面上に存在する場合、層は、表面に共有結合することができる。
【0026】
図式2
【化5】

【0027】
従って、前処理(又は被覆)された表面は、以下のような特性を有する:
前処理(又は被覆)された基材は、その表面上に環状ジチオカーボネート(cycDTC)を担持し、この環状ジチオカーボネートは、接着剤組成物中のアミンと反応することができる(図式3)。この開環反応により、チオール基が形成される。更にチオール基が、接着剤組成物中のエポキシドと反応する。これらの反応により、得られた接着剤の性能が向上する。加えて、前処理(又は被覆)された表面上に、種々のペプチド、核酸及び他の機能性分子を、これらとcycDTCとの反応により固定化できる。cycDTCとアミンとの非常に選択的な反応の故に、修飾された表面は、湿分に対して比較的不活性又は不感受性であり、従って、表面上にエポキシド及びイソシアネート基を担持した従来の基材に比べて、改良された長期安定性を有する。
【0028】
図式3
【化6】

【0029】
光潜在性アミンを用いて、前処理された表面上に光パターニングを行うことができる(図式4)。そのような光潜在性アミンの例はO-アシルオキシムである(特開2002−201256号参照)。その後、パターン化反応性表面は、ペプチド及び酵素を、それらのチオール基と表面のチオール基との酸化カップリングにより固定するのに使用することができる。
【0030】
表面チオール基は金、銀又は銅など様々な金属ナノ粒子の固定化のためにも用いることができ、固定化された粒子は、ナノサイズ電子デバイス用のナノスケール回路を形成できる。
【0031】
図式4
【化7】

【0032】
更に、cycDTC を担持した粒子(例えば、シリカゲル粒子、金属粒子、及び他の有機及び無機粒子)の前処理表面は、接着剤及び封止剤組成物中のアミンと反応することができる(図式5)。この反応により、表面と接着剤及び封止剤との間に共有結合が形成されて、接着剤及び封止剤の接着性能、特性が改良される。粒子は、アミンの捕捉材として使用することができる。加えて、粒子は、アミンとの反応により修飾することができ、適切に修飾された粒子は、カラムクロマトグラフィの固定相として使用することができる。
【0033】
図式5
【化8】

【0034】
他の応用分野では、cycDTC基を有する、液体オリゴシロキサン、架橋ポリシロキサン及び直鎖ポリシロキサンを利用する(図式6)。cycDTCのシロキサン部分のゾル−ゲル反応により、湿分の存在下で酸又は塩基により触媒されて、重合する。触媒としては、ゾル−ゲル反応に通常使用される種々の酸及び塩基試薬を使用することができる。他のシロキサンとの共重合も可能である(図式6)。しかしながら、図式6に記載されたシロキサンは省略してもよい。
【0035】
図式6
【化9】

【0036】
架橋(コ)オリゴマーは固体(モノリス又は粉体)であり、どのような溶媒にも不溶である。そのcycDTC部分は、上記のようにアミンと反応することができる。この反応に基づいて、架橋(コ)オリゴマーは、材料の前処理(又は被覆)について先に記載した表面結合類似物と同じ特性を有する。
【0037】
上記の反応を一般式:
SiR1'R2'R3'R6
で示される化合物の存在下で行う場合、この式中の基は、好ましくは以下の意味を有する:
1’及びR2’は、同一又は異なって、それぞれ1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルコキシ基、若しくはアリールオキシ又はアラルキルオキシ基を表す。
3’は、R1’及びR2’と同一又は異なるか、又は脂肪族基、アミノ基、ハロゲン原子、芳香族又は複素芳香族基、若しくは芳香脂肪族又は複素芳香脂肪族基を表す。
は、直鎖又は分岐脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族又は複素芳香族である。
【0038】
反応時間を変化させることにより、液体又は固体の生成物を選択的に得ることができる。一般に、短い反応時間では液体生成物が得られ、長い反応時間では固体生成物が得られる。多くの場合、常に出発化合物に依存するが、反応時間が5時間では液体生成物が生じる。反対に、例えば24時間を超える反応時間を採用すると、固体生成物を得ることができる。
【0039】
液体(コ)オリゴマーは、モノマーcycDTCよりも、揮発性が低く、高い粘度を有するので、モノマーcycDTCより容易に取り扱うことができる。得られた液体(コ)オリゴマーは、有機溶媒に可溶であり、種々の有機化合物と混和性である。
【0040】
液体(コ)オリゴマーをアミンにより処理すると、オリゴマーの側鎖中のcycDTC基の開環反応が起こり、オリゴシロキサン部分の後縮合反応により、架橋ポリシロキサンが生じる(図式7)。従って、オリゴマーは、接着剤、塗料及び封止剤に硬化性物質として適用できる。
【0041】
図式7
【化10】

【0042】
液体(コ)オリゴマーは、エポキシ樹脂と混和性であり、従って、エポキシ樹脂に加えて使用することができる。エポキシ−アミン硬化反応の為の添加剤として(コ)オリゴマーを使用すると(図式8)、体積収縮を小さくすることができる。モノマーcycDTC自体の添加も可能である。
【0043】
図式8
【化11】

【0044】
更に、アミンとcycDTCとの反応によりシロキシ基を有するモノマーチオールを調製することができる(図式9):
図式9
【化12】

【0045】
cycDTC-SiのcycDTC基は、式:NHR7R7' のアミン又はポリマーポリアミンと反応して、選択的に、チオール及びシロキシ基を有する対応チオウレタンを生成する(式中、R、R、R、R及びRは上記と同じである;R及びR7’は、同一又は異なって、水素原子、直鎖又は分岐脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族又は複素芳香族基である。)
ポリマーポリアミンを使用する場合、例えば数平均分子量200〜5000、好ましくは200〜1000のポリオキシアルキレンジアミン又はトリアミンなどが適している。
【0046】
このような反応により、種々のアミンを、対応するシロキシ基含有チオールに変性することができる。付加物のチオール基は、先に記載したような他のチオールと同様、例えば、酸化カップリング反応及びエポキシドとの反応に使用することができる。
【0047】
このように変性されたアミンは、シロキシ基のゾル−ゲル反応により、種々の物質表面の前処理及び被覆に使用することができる。得られる被覆層はチオール基を有し、チオール基は、例えばエポキシド、イソシアネート、イソチオシアネート、チオール及びカルボン酸誘導体と反応でき、接着性能を改良する。被覆層の物理的性質は、出発アミンを選択することにより制御することができる。
【0048】
更に、変性アミンは、硬化性物質として使用することができる。シロキシ部分のゾル−ゲル反応及びチオール基の酸化カップリングにより、高架橋度の強い硬化反応が生じる。
【0049】
そのような変性アミンの別の用途は、エポキシ及びウレタン接着剤、塗料及び封止剤のための硬化剤としての使用である。シロキシ部分は、硬化物の接着性能を向上し、機械的強度を増す。チオール基は、急速な硬化反応を確かにする。
【0050】
図式9に記載した反応に使用できる他の適当なアミンは、一般構造式:
R'HN-A-NHR''
(式中、R'及びR''は、相互に独立して、水素、脂肪族、複素脂肪族、脂環式、複素脂環式、芳香族又は複素芳香族基を表すか、若しくは、一緒になってアルキレン基、例えば-CH2CH2- を形成する。Aは、脂肪族、複素脂肪族、脂環式、複素脂環式、芳香族又は複素芳香族基である。)
で示される第1級又は第2級ジアミンである。このジアミンは、図式9'に示すように、2つの環式ジチオカーボネート化合物を開環する。特に好ましいジアミンは、Aが2〜20個の炭素原子を有し、場合により1個又はそれ以上のヘテロ原子(例えば酸素又は硫黄原子)を有する直鎖又は分岐アルキレン基である脂肪族ジアミン、又はアミノ基NHが脂環式基中に含まれる脂環式ジアミンである。基R'及びR''は、好ましくは1〜18個の炭素原子を有する脂肪族又は複素脂肪族基、より好ましくは1〜6個の炭素原子及び場合により1個又はそれ以上のヘテロ原子を有する直鎖又は分岐アルキル基である。ジアミンの例は、例えば下記表Aに示されている。
【0051】
生じたチオール基は、更に上記のあらゆるチオ基反応性化合物と反応することができる。イソシアネート及び/又はイソチオシアネート、特に一般式:B'-NCX(X=S又はO)で示されるモノイソシアネート及び/又はモノイソチオシアネート、及び式:XCN-B-NCX(X=S又はO)で示されるジイソシアネート及び/又はジイソチオシアネートとの反応が好ましく、これら反応は図式9'に示されている。
【0052】
図式9'
【化13】

【0053】
一般式:B'-NCXのモノイソシアネートの適当な例は、好ましくは芳香族モノイソシアネート、例えばフェニルイソシアネート、トリルイソシアネート及びナフタレンイソシアネートである。一般に、モノイソシアネートは芳香族モノイソシアネートに限られず、脂肪族、複素脂肪族、脂環式、複素脂環式、芳香脂肪族又は複素芳香脂肪族基を含むものであってもよい。モノイソチオシアネートの適当な例は、上記各モノイソシアネートのチオ類似体である。
【0054】
上記の反応で使用されるジイソシアネート及びジイソチオシアネートは、一般構造式:XCN-B-NCX(X=S又はO)を有する化合物であり、Bは、好ましくは脂肪族、脂環式又は芳香族基であり、特に4〜18個の炭素原子を有する脂環式又は芳香族基である。
【0055】
最も適したジイソシアネートは、例えば、1,5−ナフチレンイソシアネート、2,4−又は4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、水素化MDI(H12MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、ジ−及びテトラアルキレンジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート(TDI)の異性体、1−メチル−2,4−ジイソシアナトシクロヘキサン、1,6−ジイソシアナト−2,2,4−トリメチルヘキサン、1,6−ジイソシアナト−2,4,4−トリメチルヘキサン、1−イソシアナトメチル−3−イソシアナト−1,5,5−トリメチルシクロヘキサン、(IPDI)、テトラメトキシブタン−1,4−ジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサン−1,6−ジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート及びフタル酸−ビス−イソシアナトエチルエステルである。
【0056】
別のジイソシアネートは、例えば、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−ジイシソアナトブタン、1,12−ジイソシアナトドデカン及び二量体脂肪酸ジイソシアネートである。
【0057】
上記ジイソシアネートのいずれかに代えて又はこれに加えて、各ジイソチオシアネートを使用できる。
【0058】
特に適しているのは、ヘキサメチレンジイソシアネート及び1−イソシアナト−4−(4−イソシアナトベンジル)ベンゼンであり、以下の表Aにおいて脂肪族及び芳香族ジイソシアネートの例として示されている(R、R及びRはOCH3;Rは-CH2-O-(CH2)3-;プロピレン基はSi原子に結合、メチレン基は環状ジチオカーボネート基に結合;Rは水素)。
【0059】
【表1】

【0060】
ジアミン及びイソシアネートとの上記反応により得られたポリマーは、湿分に暴露された場合、アルコキシシリル基R、R及び/又はRの縮合反応により、効果的に架橋することができる。
【0061】
ゾル−ゲル形成によるシロキシ基の重合とは別に、カチオン性開始剤(例えば、トリフルオロメタンスルホン酸アルキルエステル、アルキルトリフレート、ルイス酸又は四塩化スズ)又は光潜在性開始剤(例えば、ジアリールヨードニウム塩)により開始されるcycDTC-Siの重合を行うことができ、これにより、側鎖にシロキシ基を有する対応ポリマーが得られる。そのようなポリマーも本発明の化合物である(図式10)。
【0062】
図式10
【化14】

【0063】
主鎖はポリ(ジチオカーボネート)からなり、これは高い屈折率を有する。ポリマーは、側鎖中のシロキシ基のゾル−ゲル反応により硬化することができる。得られた硬化物又は硬化被覆層は、光学材料として使用することができる。上記の反応では、cycDTC-Si の一部を従来のcycDTC に置き換えることができる。従来のcycDTCの用語は、市販のcycDTC、例えばcycDTC-OPh(即ち5-(フェノキシメチル)-1,3-オキサチオラン-2-チオン)などを包含する。
【0064】
加えて、ポリ(ジチオカーボネート)の生じ得る照射開始解重合に基づき、被覆された基材表面を部分的にのみ覆うマスクを使用して、物質表面で微小パターンを作成することができる(図式11)。そのような微小パターンは、フォトサーキットのような光電子素子に使用できる。
【0065】
図式11
【化15】

【0066】
接着剤組成物及び封止剤組成物での使用について記載した本発明の化合物又はゾル−ゲルはいずれも、接着剤組成物及び封止剤組成物の全質量を基準に、好適には、20質量%まで、より好適には0.1〜10質量%、最も好適には1〜5質量%の濃度で、用いられる。
【0067】
製造例
別途記載しない限り、全ての試薬及び溶媒は、購入したままで使用した。エポキシ基を有するシランは、信越化学株式会社から購入した。他の試薬は、和光純薬工業株式会社から購入した。溶液NMRスペクトル(400 MHz 1H, δCHCL3 = 7.26 ppm; 100.6 MHz 13C, δCHCL3 = 77.00 PPM; 79.5 MHz 29Si, δTMS = 0.00 ppm)は、Varian NMR スペクトロメータ モデルUnity INOVA により測定した。固体NMRスペクトル(100.6 MHz 13C, δTMS = 0.00 ppm; 79.5 MHz 29Si, δTMS = 0.00 ppm)は、HPDEC(双極子カップリング)法を用いてBruker NMR スペクトロメータ モデルDSC400 により測定した。IRスペクトルは、JASCO FT/IR-460plusで得た。数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、ポリスチレン標準により較正した後溶離液としてテトラヒドロフランを0.6mL/分の流速で用いて、東ソーTSK ゲルスーパーHM-H スチロゲルカラム分子量分析(6.0mmφ×15cm)を備えた東ソークロマトラフモデルHLC-8120GPCにより行った、サイズ排除クロマトグラフィ(SEC)から推定した。SEM画像及び元素分析データは、SEM/EDX(日立SEM/EDX III タイプN, 堀場EX-7000)を用い、試料はスパッタ被覆せず、加速電圧25kVで測定した。
【0068】
本発明のcycDTC-Si の調製
異なるcycDTC-Si を調製する為の合成経路を、スキーム1及び2に示す。
(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン(X=メトキシ;75.6g、320ミリモル)及び臭化リチウム(1.38 g, 16.0 mmol)のテトラヒドロフラン(250 ml)中溶液に、二硫化炭素(29.2 g, 384 mmol)のテトラヒドロフラン(150 ml)中溶液を、0℃で滴下し、混合物を25℃で攪拌した。12時間後、揮発物を減圧下に除去し、残渣をジエチルエーテル(500 ml)に溶解し、飽和蒸留水(200 ml)で3回洗浄した。エーテル相を硫酸マグネシウムで乾燥し、濾過し、減圧下に濃縮した。残渣を真空で蒸留して、黄色油状物として5-(3-トリトキシシリルプロピルオキシメチル)-1,3-オキサチオラン-2-チオン(1a)(51.2 g, 164 mmol, 51%)を得た。
【0069】
Bp0.34 = 164℃; 1H-NMR(CDCl3, 20℃)5.23(m, 1H, -CH2-CH(-O-)-CH2-), 3.80 及び3.73(2dd, 2H, -S-CH2-CH(-O-)-), 3.69 及び3.60(2dd, 2H, -CH(-O-)-CH2-O-), 3.58(s, 9H, -Si-(OCH33), 3.53(t, 2H, -O-CH2-CH2-), 1.68(m, 2H, -CH2-CH2-CH2-), 0.67(m, 2H, -CH2-CH2-Si-)ppm;
13C-NMR(CDCl3, 20℃)211.9(-S-C(=S)-O-), 89.2(-CH2-CH(-O-)-CH2-), 73.8(-O-CH2-CH2-), 69.1(-CH(-O-)-CH2-O-), 50.4(-Si-(O-CH33), 36.0(-S-CH2-CH(-O-)-), 22.6(-CH2-CH2-CH2-), 5.0(-CH2-CH2-Si-)ppm;
29Si-NMR(CDCl3, 20℃)-42.0 ppm;
IR(neat)2941, 2840, 1456, 1440, 1346, 1231, 1192, 1080, 821 cm-1.
【0070】
同様の手順で、(3-グリシドキシプロピル)ジメトキシメチルシラン(X=Me)(10.0g、45.5ミリモル)から5-[3-(ジメトキシメチルシリル)プロピロキシメチル]-1,3-オキサチオラン-2-チオン(1b)(11.0 g, 37.2 mmol, 82 %)を得た。
Bp0.22 = 155℃; 1H-NMR(CDCl3, 20℃)5.23(m, 1H, -CH2-CH(-O-)-CH2-), 3.81 及び3.75(2dd, 2H, -S-CH2-CH(-O-)-), 3.70 及び3.61(2dd, 2H, -CH(-O-)-CH2-O-), 3.52(s, 6H, -Si-(OCH32), 3.51(t, 2H, -O-CH2-CH2-), 1.66(m, 2H, -CH2-CH2-CH2-), 0.65(m, 2H, -CH2-CH2-Si-), 0.13(s, 3H, -Si-CH3)ppm;
13C-NMR(CDCl3, 20℃)211.8(-S-C(=S)-O-), 89.2(-CH2-CH(-O-)-CH2-), 73.8(-O-CH2-CH2-), 69.0(-CH(-O-)-CH2-O-), 49.9(-Si-O-(CH32), 35.8(-S-CH2-CH(-O-)-), 22.5(-CH2-CH2-CH2-), 8.8(-CH2-CH2-Si-), -6.1(-Si-CH3)ppm;
29Si-NMR(CDCl3, 20℃)-1.4 ppm;
IR(neat)2937, 2870, 2834, 1455, 1440, 1346, 1259, 1231, 1192, 1085, 838, 802, 769 cm-1.
【0071】
【化16】

【0072】
同様にして、ジチオカーボネート1c(対応異性体1c'との混合物として得られる)を、スキーム2に示すように、合成できた。
【0073】
【化17】

【0074】
二硫化炭素(1.97 g, 29.3 mmol)のテトラヒドロフラン(20 ml)中溶液を、室温で一時間かけて、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン(EETS)(5.12 g, 20.8 mmol)及び臭化リチウム(0.907 g, 10.4 mmol)のテトラヒドロフラン(40 ml)中混合物に滴下した。生成した混合物を室温で3日間攪拌した。揮発物を減圧下に除去した後、残酸をジエチルエーテル(50 ml)に溶解した。溶液を、飽和塩化ナトリウム水溶液(100 ml)及び蒸留水(100 ml)で洗浄し、得られた有機層を硫酸マグネシウムで一晩乾燥した。溶液を濾過し、減圧下に濃縮し、残渣をクロロホルム(15 ml)に溶解し、分取GPCにより分画して、黄色油状物として、2-{3,4-(1,3-オキサチオラン-2-チオニル)シクロヘキシル}-エチルトリエトキシシラン(1c)及び2-{4,5-(1,3-オキサチオラン-2-チオニル)シクロヘキシル}-エチルトリエトキシシラン(1c')の混合物(1.37 g, 4.36 mmol, 21 %)を得た。1c : 1c' の比は、混合物の1H-NMR分析によれば、1:1であった。
【0075】
1H-NMR(CDCl3, 20℃)4.48(2t), 4.35-4.22(m), 4.05(2t), 3.88(2t), 3.74-3.52(m), 3.30-3.11(m), 2.41-0.82(m), 0.69-0.61(m)ppm;
13C-NMR(CDCl3, 20℃)212.4 及び212.2(-S-C(=S)-O-), 126.9 及び126.4(-CH(-S-)-CH(-O-)-CH2-), 53.1, 52.6, 51.8, 51.7, 50.5 及び50.4(-Si-O-(CH33), 36.7, 36.0, 35.7, 35.1, 32.9, 32.6, 32.1, 31.3, 31.2, 30.2, 29.3, 28.8, 28.7, 26.5, 25.2, 25.2, 23.9, 23.4, 6.1 及び6.0(-CH2-CH2-Si-)ppm;
29Si-NMR(CDCl3, 20℃)-41.0, -41.4, -41.4, -42.6 ppm;
IR(neat)2938, 2839, 2871, 1746, 1455, 1411, 1339, 1276, 1248, 1196, 1085, 1005, 973, 885, 804, 657 cm-1.
【0076】
アミンによるcycDTC-Si の開環
化合物1をアミンと反応させて、対応するチオールに変性した(スキーム 3)。シロキシ基は、反応により影響されなかった。
【0077】
【化18】

【0078】
化合物1とジエチルアミンとの反応
ジエチルアミン(1.05 g, 14.3 mmol)を化合物1a(0.855 g, 2.74 mmol)に室温で添加し、得られた混合物を室温で10分間攪拌した。過剰のジエチルアミンを減圧下に除去して、黄色油状物として、化合物2a(R=メトキシ, R1=R2=エチル; 0.898 g, 2.33 mmol, 85 %)を得た。
【0079】
1H-NMR(CDCl3, 20℃): 5.63(m, 1H, -CH2-CH(-O-)-CH2-), 3.82(q, 2H, -N-CH2-CH3), 3.78 及び3.68(2dd, 2H, -CH(-O-)-CH2-O-), 3.57(s, 9H, -Si-(OCH33), 3.50-3.43(m, 4H, -N-CH2-CH3 及び-O-CH2-CH2-), 2.92(m, 2H, -CH(-O-)-CH2-SH), 1.71-1.62(m, 2H, -CH2-CH2-CH2-), 1.44(t, 1H, -CH2-SH,), 1.25(t, 3H, -N-CH2-CH3), 1.18(t, 3H, -N-CH2-CH3), 0.69-0.66(m, 2H, -CH2-CH2-Si-)ppm;
13C-NMR(CDCl3, 20℃)186.0(-O-C(=S)-N-), 79.0(-CH2-CH(-O-)-CH2-), 73.2(-O-CH2-CH2-), 68.9(-CH(-O-)-CH2-O-), 50.3(-Si-(OCH33), 47.7 及び43.4(-N-CH2-CH3), 24.7(-CH(-O-)-CH2-SH), 22.6(-CH2-CH2-CH2-), 13.1 及び11.7(-N-CH2-CH3), 5.1(-CH2-CH2-Si-)ppm;
29Si-NMR(CDCl3, 20℃)-41.7 ppm;
IR(neat)2972, 2940, 2871, 2840, 2556(SH), 1506, 1429, 1316, 1283, 1244, 1174, 1087, 821, 792 cm-1.
【0080】
化合物1b(0.526 g, 1.77 mmol)とジエチルアミン(0.667 g, 9.12 mmol)を同様に反応させて、化合物2b(R=メチル, R1=R2=エチル; 0.523 g, 1.42 mmol, 80 %)を得た。
1H-NMR(CDCl3, 20℃)5.63(m, 1H, -CH2-CH(-O-)-CH2-), 3.82(q, 2H, -N-CH2-CH3), 3.77 及び3.68(2dd, 2H, -CH(-O-)-CH2-O-), 3.52(s, 6H, -Si-(OCH32), 3.50-3.42(m, 4H, -N-CH2-CH3 及び-O-CH2-CH2-), 2.92(m, 2H, -CH(-O-)-CH2-SH), 1.67-1.59(m, 2H, -CH2-CH2-CH2-), 1.44(t, 1H, -CH2-SH), 1.25(t, 3H, -N-CH2-CH3), 1.19(t, 3H, -N-CH2-CH3), 0.65-0.61(m, 2H, -CH2-CH2-Si-), 0.12(s, 3H, -Si-CH3);
13C-NMR(CDCl3, 20℃)186.0(-O-C(=S)-N-), 79.0(-CH2-CH(-O-)-CH2-), 73.5(-O-CH2-CH2-), 68.9(-CH(-O-)-CH2-O-), 50.0(-Si-(OCH32), 47.7 及び43.3(-N-CH2-CH3), 24.7(-CH(-O-)-CH2-SH), 22.7(-CH2-CH2-CH2-), 13.1 及び11.7(-N-CH2-CH3), 8.9(-CH2-CH2-Si), -6.0(-Si-CH3)ppm;
29Si-NMR(CDCl3, 20℃)-1.24 ppm;
IR(neat)2972, 2936, 2871, 2834, 2551(SH), 1508, 1429, 1350, 1317, 1283, 1244, 1173, 1086, 837, 801, 769 cm-1.
【0081】
化合物1aとベンジルアミンとの反応
ベンジルアミン(0.205 g, 1.91 mmol)を化合物1a(0.626 g, 2.00 mmol)に室温で加え、得られた混合物を室温で10分間攪拌した。得られた生成物をテトラヒドロフラン(10 ml)に溶解し、ヘキサン(200 ml)に注いで、油状物として、対応する付加物2c(R=メトキシ, R1=H, R2=CH2フェニル)及び対応する互変異性体2c'(R=メトキシ, R2=CH2フェニル)の混合物(0.711 g, 86 %)を得た。
【0082】
IR(neat)3268(NH), 3030, 2941, 2840, 2568(SH), 1742, 1658, 1524, 1455, 1401, 1344, 1247, 1182, 1079, 820, 699 cm-1; 29Si-NMR(CDCl3, 20℃)-41.7, -41.8 ppm;
2c: 1H-NMR(CDCl3, 20℃): 7.38-7.25(m, C6H5), 6.72(m, 付加物の-C(=S)-NH-CH2-), 5.60-5.57(m, -CH2-CH(-O-)-CH2-), 4.76-4.73(m, -NH-CH2-Ph), 3.82-3.62(m), 3.56(s, 付加物の-Si-(OCH3)3), 3.49-3.42(m), 2.91-2.88(m, -CH(-O-)-CH2-SH), 1.72-1.60(m, -CH2-CH2-CH2-), 1.49(t, 付加物の-CH2-SH), 0.69-0.64(m, -CH2-CH2-Si-)ppm; 13C-NMR(CDCl3, 20℃)189.3(付加物の-O-C(=S)-N-), 136.4(付加物のipso-Ph), 128.3(互変異性体のm-Ph), 128.3(付加物のm-Ph), 127.4, 127.3, 127.3, 127.2(o-Ph 及びp-Ph), 80.1(互変異性体), 78.7(付加物), 74.8, 73.4, 73.4, 72.7, 68.7, 68.6, 48.8, 31.9, 24.3, 23.4, 22.4, 22.3, 4.81, 4.79 ppm.
2c': この互変異性体は、混合物の1H-NMRスペクトルにおいて以下のシグナルで2cと区別された: 1H-NMR(CDCl3, 20℃)6.94(m, 互変異性体の-N=C-SH), 3.57(s, 互変異性体の-Si-(OCH3)3), 1.34(t, 互変異性体の-CH2-SH), 13C-NMR(CDCl3, 20℃): 188.3(互変異性体の-O-C(-SH)=N-), 136.6(互変異性体のipso-Ph),
【0083】
化合物1aとジベンジルアミンとの反応
ジベンジルアミン(2.28 g, 11.6 mmol)を室温で化合物1a(0.750 g, 2.00 mmol)に加え、得られた混合物を室温で15時間攪拌した。転化率は、1H-NMR分析により、52%と評価された。混合物の1H-NMR分析により、対応する付加物2d(R=メトキシ, R1=R2=CH2フェニル)の生成が確認された。
【0084】
1H-NMR(CDCl3, 20℃): 7.39-7.17(m, C6H5), 5.74-5.72(m, -CH2-CH(-O-)-CH2-), 5.13(s, -N-CH2-Ph), 4.68-4.57(dd, -N-CH2-Ph), 3.82-3.56(m), 3.55(s, -Si-(OCH33), 3.54-3.39(m), 2.92-2.86(m, -CH(-O-)-CH2-SH), 1.74-1.64(m, -CH2-CH2-CH2-), 1.34(t, -CH2-SH), 0.69-0.62(m, -CH2-CH2-Si-)ppm.
【0085】
化合物1aとピペラジンとの反応
ピペラジン(116 mg, 1.35 mmol)のTHF(2 mL)中溶液を、室温で化合物1a(828 mg, 2.65 mmol)に添加した。得られた混合物を室温で20時間攪拌した後、揮発物を減圧下で除去して粗化合物2eを得、次いで、これを1,4-フェニレンジイソシアネートと、以下に記載するように、反応させた(チオール基とジイソシアネートとの反応)。
【0086】
cycDTC-Si の分解後のチオール基の反応
チオール基とエポキシドとの反応
グリシジルフェニルエーテル(0.650 g, 4.33 mmol)と、化合物1a(1.25 g, 4.01 mmol)及びジエチルアミン(1.44 g 19.6 mmol)から調製した化合物2aとの混合物を、室温で6日間攪拌した(スキーム 4)。1H-NMR分析により化合物2aの完全な消費が確認された。得られた生成物をテトラヒドロフラン(20 ml)に溶解し、ヘキサン(200 ml)に注いで、油状物として粗生成物を得、これを、分取GPCにより分画して、3-(3-フェノキシ-2-ヒドロキシプロピルオキシ)-2-(N,N-ジエチルチオウレオキシ)-1-(3-トリメトキシ-シリルプロピルオキシ)プロパン(3)(0.345 g, 0.644 mmol, 16 %)を得た。
【0087】
1H-NMR(CDCl3, 20℃), 7.28(t, 2H, Ph(m-H)), 6.96(t, 1H, Ph(p-H)), 6.92(d, 2H, Ph(o-H)), 5.75-5.68(m, 1H, -CH2-CH(-O-)-CH2-), 4.20-4.13(m, 1H, -CH2-CH(OH)-CH2-), 4.08-3.66(m, 6H, -N-CH2-CH3, -CH(-O-)-CH2-O-, -CH(-OH)-CH2-O-), 3.56(s, 9H, -Si-(OCH33), 3.52-3.38(m, 4H, -N-CH2-CH3 及び-O-CH2-CH2-), 3.06-2.76(m, 4H, -CH(-O-)-CH2-S- 及び-CH(-OH)-CH2-S-), 1.71-1.63(m, 2H, -CH2-CH2-CH2-), 1.24(t, 3H, -N-CH2-CH3), 1.17(t, 3H, -N-CH2-CH3), 0.68-0.64(m, 2H, -CH2-CH2-Si-)ppm;
13C-NMR(CDCl3, 20℃)186.1(-O-C(=S)-N-), 158.4(Ph(ipso-C)), 129.4(Ph(m-C)), 121.0(Ph(p-C)), 114.5(Ph(o-C)), 77.9 及び77.8(-CH2-CH(-O-)-CH2-)73.3(-O-CH2-CH2-), 70.3 及び70.2(-CH(-O-)-CH2-O-), 69.7 及び69.6(-CH(-OH)-CH2-O-), 68.8 及び67.9(-CH2-CH(-OH)-CH2-), 50.4(-Si-(OCH33), 47.8 及び43.4(-N-CH2-CH3), 36.1 及び36.0(-CH(-O-)-CH2-S-), 22.7(-CH2-CH2-CH2-), 13.2 及び11.8(-N-CH2-CH3), 5.1(-CH2-CH2-Si-)ppm;
29Si-NMR(CDCl3, 20℃)-41.7 ppm;
IR(neat)3409(OH), 3060, 2966, 2940, 2872, 2839, 1651, 1599, 1587, 1506, 1457, 1430, 1379, 1362, 1350, 1316, 1284, 1245, 1173, 1084, 917, 819, 792, 756, 692 cm-1.
【0088】
【化19】

【0089】
チオール基とイソシアネートとの反応
【化20】

【0090】
フェニルイソシアネート(142 mg, 1.19 mmol)と、化合物1a(321 mg, 1.03 mmol)及びジエチルアミン(358 mg, 4.89 mmol)から調製した化合物2aとの混合物を、室温で1時間攪拌して、定量的に対応する付加物を得た。
1H-NMR(400 MHz, CDCl3): δ = 7.43-7.08(m, Ph 及び-C(=O)-NH-Ph, 6H), 5.83-5.77(m, CH2-CH(-O-)-CH2-, 1H), 3.81(q, -N-CH2-CH3, 2H), 3.76-3.66(dd, -CH(-O-)-CH2-O-, 2H), 3.57(s, Si-OCH3, 9H), 3.52-3.38(m, 6H), 1.71-1.65(m, -CH2-CH2-CH2-, 2H), 1.23 及び1.15(t, 6H, -CH2-CH3), 0.69-0.65(m, -CH2-CH2-Si-, 2H).
【0091】
チオール基とジイソシアネートとの反応
1,4-フェニレンジイソシアネート(222 mg, 1.39 mmol)の THF(4 ml)中溶液を、室温で、粗生成物2e(上記参照)に加えた。次いで、トリエチルアミン(14.4 mg, 0.142 mmol)を混合物に加えた。得られた混合物を、室温で40時間攪拌した。溶液をヘキサン(300 ml)に注いで、沈殿物としてポリマーを得、これを、ヘキサン(300 ml)中で再沈澱させて、更に精製した。その結果、粘性油状物として、収率85%でポリマー(993 mg)が単離された。
IR(neat)3516, 3447, 3273, 2942, 2838, 1686, 1655, 1607, 1556, 1515, 1487, 1437, 1297, 1229, 1155, 1081, 821, 776 cm-1;
1H-NMR(CDCl3, 20℃)7.32(br), 5.75(br), 4.24-3.65(br), 3.58(br, -Si-(OCH3)3), 3.43(br), 1.65(br, -CH2-CH2-CH2-), 0.65(br, -CH2-CH2-Si-); 13C-NMR(CDCl3, 20℃)186.7(-O-C(=S)-N-), 195.0(-S-C(=O)-N-), 134.3(Ph), 120.5(Ph), 78.3, 73.5, 70.1, 50.5, 48.3, 44.2, 30.7, 22.6(-CH2-CH2-CH2-), 5.2(-CH2-CH2-Si-);
29Si-NMR(CDCl3, 20℃)-41.8.
【0092】
得られたポリマーの応用
得られたポリマーをガラス表面上へキャストし、大気中室温で、24時間放置した。得られた塗膜層は、THF、クロロホルム及びDMFに不溶であった。
【0093】
2つのチオール基間の酸化カップリング反応
化合物2aのチオール基の酸化カップリング反応により、対応するジスルフィドを得た(スキーム 5): 化合物1a(1.89 g, 6.05 mmol)及びジエチルアミン(2.38 g 32.5 mmol)から上記の反応で調製した化合物2aを、酸素雰囲気中室温で8日間攪拌した。化合物2aの転化率は、1H-NMR分析により、68%と評価された。分取GPCにより粗混合物を分画して、ビス{3-(3-トリメトキシシリルプロピルオキシ)-2-(N,N-ジエチルチオウレオキシ)-プロパン}ジスルフィド(4)(0.078 g, 0.100 mmol, 3 %)を得た。
【0094】
1H-NMR(CDCl3, 20℃): 5.85-5.79(m, 2H, -CH2-CH(-O-)-CH2-), 3.83-3.72(m, 8H, -N-CH2-CH3 及び-CH(-O-)-CH2-O-), 3.57(s, 18H, -Si-(OCH3)3), 3.50-3.43(m, 8H, -N-CH2-CH3 及び-O-CH2-CH2-), 3.16-3.14(m, 4H, -CH(-O-)-CH2-S-), 1.69-1.62(m, 4H, -CH2-CH2-CH2-), 1.23(2t, 6H, -N-CH2-CH3), 1.17(2t, 6H, -N-CH2-CH3), 0.67-0.63(m, 4H, -CH2-CH2-Si-)ppm; 13C-NMR(CDCl3, 20℃)186.1(-O-C(=S)-N-), 77.4(-CH2-CH(-O-)-CH2-), 73.4(-O-CH2-CH2-), 69.9 及び69.8(-CH(-O-)-CH2-O-), 50.5(-Si-(OCH33), 47.8 及び43.5(-N-CH2-CH3), 39.6 及び39.5(-CH(-O-)-CH2-S-), 22.7(-CH2-CH2-CH2-), 13.3 及び11.9(-N-CH2-CH3), 5.2(-CH2-CH2-Si-)ppm;
29Si-NMR(CDCl3, 20℃)-41.7 ppm;
IR(neat)2966, 2939, 2872, 2839, 1507, 1429, 1316, 1283, 1245, 1173, 1087, 820, 792 cm-1.
【0095】
【化21】

【0096】
cycDTC-Siの開環後のシロキシ基のゾル−ゲル形成
化合物2のシロキシ基をゾル−ゲル反応に付した(スキーム 6): トリエチルアミン(5.00 mg, 0.049 mmol)及び水(37.6 mg, 2.09 mmol)を、化合物2a(0.530 g, 1.37 mmol)に加え、得られた混合物を、室温で1日攪拌した。揮発物を減圧下に除去した後、残渣をテトラヒドロフラン(100 ml)で洗浄して、テトラヒドロフランに不溶の成分として、化合物5a(0.199 g, 38 %)を得た。
13C-NMR(固体状(HPDEC), 20℃)188.5- 186.4(-O-C(=S)-N-), 175.4-165.5, 76.6-68.4, 58.7-30.3, 29.5-20.8, 19.6-5.5 ppm;
29Si-NMR(固体状(HPDEC), 20℃)-65.5- -71.8 ppm; IR(KBr)3445(OH 及びNH), 2976, 2933, 2879, 2523(SH), 1734, 1653, 1559, 1507, 1429, 1362, 1317, 1284, 1245, 1173, 1096, 1063, 1004, 800 cm-1.
【0097】
化合物2bの同様の反応により、対応する不溶性生成物5bを得た。
13C-NMR(固体状(HPDEC), 20℃)188.5- 170.0(-O-C(=S)-N- 及び-O-C(-SH)=N), 138.6-130.0, 124.4-118.3, 108.2-100.5, 77.6-61.6, 51.4-48.7, 48.6-23.3, 22.6-14.1, 9.6- -0.7 ppm;
29Si-NMR(固体状(HPDEC), 20℃)-68.6- -79.4 ppm;
IR(KBr)3295(NH), 3033, 2930, 2867, 2606(SH), 1735, 1653, 1550, 1502, 1455, 1416, 1346, 1269, 1215, 1181, 1104 1029, 738, 721, 695 cm-1.
【0098】
【化22】

【0099】
オリゴシロキサン、架橋ポリシロキサン及び環式ジチオカーボネート基を有するポリシロキサンの合成
・液体オリゴマーの合成
塩化水素−ジエチルエーテル複合体(HCl/ジエチルエーテル, 1M エーテル中, 0.15 ml, 0.15 mmol)を、室温で、化合物1a(0.722 g, 2.47 mmol)及び蒸留水(0.0660 g, 3.67 mmol)の混合物に加えた。得られた混合物を室温で5時間攪拌した後、揮発物を減圧下に除去した。残渣をTHF(30 mL)に溶解し、ヘキサン(400 mL)に注いだ。液体オリゴマー(ダイアグラム 6)(0.661 g)(Mn = 320, Mw = 1620 及びPDI = 5.1)を、黄色油状物として単離した。
【0100】
トリエチルアミン(0.0568 g, 0.561 mmol)の存在下、化合物1a(3.58 g, 11.4 mmol)及び蒸留水(0.311 g, 17.3 mmol)を同様に5時間反応させて、対応する液体オリゴマー(3.28 g, Mn = 400, Mw = 1150, 及びPDI = 2.9)を得た。
CH3COOH(0.0085 g, 0.142 mmol)の存在下、化合物1a(0.724 g, 2.32 mmol)及び蒸留水(0.065 g, 3.61 mmol)を同様に3日間反応させて、対応する液体オリゴマー(0.699 g, Mn = 530, Mw = 640, 及びPDI = 1.2)を得た。
【0101】
スペクトルデータ:
1H-NMR(CDCl3, 20℃)5.28(br, -CH2-CH(-O-)-CH2-), 3.82-3.68(br), 3.54(br), 3.48(s -Si-OCH3), 1.71(br, -CH2-CH2-CH2-), 0.70(br, -CH2-CH2-Si-)ppm.
13C-NMR(CDCl3, 20℃)212.3(br, -S-C(=S)-O-), 89.6(br, -CH2-CH(-O-)-CH2-), 73.9(br, -O-CH2-CH2-), 69.5(br, -CH(-O-)-CH2-O-CH2-), 50.9(小, -Si-OCH3), 36.0(-S-CH2-CH(-O-)-), 23.0(-CH2-CH2-CH2-), 8.6(-CH2-CH2-Si-)ppm.
29Si-NMR(CDCl3, 20℃)-50.3((CH3O-)2Si(-O-)(-CH2-)), -59.3(CH3O-)Si(-O-)2(-CH2-)), -67.9(-CH2-)Si(-O-)3)ppm.
IR(neat): 3427, 2932, 2868, 2810, 1731, 1650, 1439, 1410 1036, 903, 838, 762 cm-1.
【0102】
1H-NMRスペクトル中、 DTC 構造中の-S-CH2-CH(-O-)-に帰属される広いシグナルが5.28 ppm に観察された。13C-NMRスペクトルにより、-C(=S)-に属される広いシグナルが212.3 ppm に確認された。29Si-NMRスペクトル中、化合物1aに帰属される-42.0 ppmのシグナルは消失した。即ち、ゾル−ゲル縮合は、DTC基を損なうことなく、進行した。
【0103】
液体オリゴマーの後硬化
DTC-シラン1aのオリゴマー化により得た液体オリゴマー(1.0 g)をTHF(10 mL)に溶解し、ケイ酸塩ガラス上にキャストし、80℃で24時間加熱した。ガラス表面に固定された生成した層は、THF、クロロホルム及びDMFに不溶であった。
【0104】
液体オリゴマーとアミンとの反応
・ブチルアミンとの反応
【化23】

【0105】
液体オリゴマー(0.271 g, 0.867 mmol(DTC単位))(化合物1aから調製)のTHF(3.5 mL)中溶液に、ブチルアミン(0.0763 g, 1.04 mmol)を加え、得られた混合物を、室温で1時間、攪拌した。得られた不溶画分を濾過により集め、THF(30 mL)で洗浄し、真空中で乾燥した。不溶分(0.207 g, 0.537 mmol(DTC単位))の収率は、62%であった。
【0106】
トリエチルアミン, 1,2-ジアミノエタン及びN,N,N-トリス(アミノメチル)アミンとの反応
反応は、各成分の量を下記表に示すモル比に従って変更する以外は、ブチルアミンとの反応の場合と同様に行った。
【表2】

【0107】
・直鎖オリゴマー及びポリマーの合成
塩化水素−ジエチルエーテル複合体(HCl/ジエチルエーテル, 1M エーテル中, 0.125 ml, 0.125 mmol)を、室温で、化合物1b(0.732 g, 2.47 mmol)及び蒸留水(0.0681 g, 3.78 mmol)の混合物に加えた。得られた混合物を室温で24時間攪拌した後、揮発物を減圧下に除去した。残渣を、テトラヒドロフラン(30 ml)に溶解し、ヘキサン(400 ml)に注いだ。対応する直鎖ポリマー及びオリゴマー(0.679 g; ポリマー: Mn = 5680, Mw = 9630, PDI = 1.7; オリゴマー: Mn = 950, Mw = 1050, PDI = 1.1)を、黄色油状物として得た。
【0108】
トリエチルアミン(0.0110 g, 0.109 mmol)の存在下で、化合物1b(0.644 g, 2.17 mmol)及び蒸留水(0.0404 g, 2.24 mmol)を同様に反応させて、対応する直鎖ポリマー(Mn = 3520, Mw = 4230, PDI = 1.2)及びオリゴマー(Mn = 820, Mw = 1060, PDI = 1.3)の混合物0.699 gを得た。
【0109】
スペクトルデータ:
1H-NMR(CDCl3, 20℃)5.26(br, -CH2-CH(-O-)-CH2-), 3.86-3.59(br), 3.52-3.48(br), 1.82-1.66(br, -CH2-CH2-CH2-), 0.56-0.51(br, -CH2-CH2-Si-), 0.13-0.10(br, -Si-CH3)ppm.
13C-NMR(CDCl3, 20℃)212.3-212.0(-S-C(=S)-O-), 89.9-89.2(-CH2-CH(-O-)-CH2-), 74.4-74.3(-O-CH2-CH2-), 69.5-69.2(-CH(-O-)-CH2-OCH2-), 36.0(-S-CH2-CH(-O-)-), 23.1-23.0(-CH2-CH2-CH2-), 13.4-12.9(-CH2-CH2-Si-), -0.26- -0.73(-Si-CH3)ppm.
29Si-NMR(CDCl3, 20℃)-19.8, -22.1, -22.8 ppm.
IR(neat)3471, 2932, 2868, 2803, 1731, 1651, 1477, 1439, 1411, 1345, 1258, 1230, 1188, 1044, 914, 801 cm-1.
【0110】
NMRスペクトルの分析により、ポリマー及びオリゴマーはcycDTC 基を有していることが確認された。13C-NMRスペクトルにおいて、-O-CH3 に帰属される約49 ppm でのシグナルは観察されなかった。このことは、-Si-O-CH3 から -Si-OH への置換、及び下記の縮合が完全に進行したことを示している。生成物は、3つの29Si-NMR シグナルを、4 : 3 : 2 の積分比で-19.8, -22.1 及び-22.8 ppm に示した。この情報に基づき、環式三量体、環式四量体及びより高い重合度を有するオリゴマーのシグナルが、それぞれ-9, -20, 及び-22 ppmのあたりに観察されることが、予測される。従って、-19.8 ppm のシグナルは環式四量体に帰属された。更に、エーテル中でのゾル−ゲル反応により得られた生成物の29Si-NMRスペクトルには、-19.8 及び-22.1 ppm に、積分比2:1で2つのシグナルが現れた。溶液反応では、オリゴマーの生成がポリマーの生成よりも先であることが予測される。-22.1 及び-22.8 ppm のシグナルはそれぞれ、環式又は直鎖オリゴマー及び鎖状ポリマーに含まれるケイ素に合理的に帰属された。
【0111】
・架橋ポリシロキサンの合成
塩化水素−ジエチルエーテル複合体(HCl/ジエチルエーテル, 1M エーテル中, 0.15 ml, 0.15 mmol)を、室温で、化合物1a(0.763 g, 2.44 mmol)及び蒸留水(0.0700 g, 3.89 mmol)の混合物に加えた。得られた混合物を室温で24時間攪拌した後、揮発物を減圧下に除去した。残渣をCHCl3(100 ml)により洗浄して、不溶性黄色粉末として、架橋ポリシロキサン(0.504 g)を得た。
【0112】
トリエチルアミン(0.0100 g, 0.102 mmol)の存在下、化合物1a(0.796 g, 2.55 mmol)及び蒸留水(0.0600 g, 3.33 mmol)を同様に反応させて、対応する架橋ポリシロキサン(0.539 g)を得た。
【0113】
スペクトルデータ:
13C-NMR(固体状(HPDEC), 20 oC)208.6(-S-C(=S)-O-), 106.6(-CH2-CH(-O-)-CH2-), 86.4(-O-CH2-CH2-), 69.2(-CH(-O-)-CH2-OCH2-), 46.4(-Si-OCH3), 32.1(-S-CH2-CH(-O-)-), 19.1(-CH2-CH2-CH2-), 5.1(-CH2-CH2-Si-)ppm;
29Si(固体状(HPDEC), 20 oC)-57.4- -67.6 ppm;
IR(neat)3444(OH), 2937, 2866, 2804, 1731, 1650, 1441, 1345, 1234, 1193, 1099, 1038 cm-1.
【0114】
-C(=S)-に帰属される209 ppm のシグナルが、13C-NMRスペクトル中に、明瞭に観察された。開環した-C(=S)-に帰属されるべき180 ppm 近傍のシグナルは存在しなかった。29Si-NMRスペクトルは、非常に簡単であり、シロキサン基からポリシロキサン構造への高い転化率を示唆している。
【0115】
トリメトキシビニルシランとの共重合生成物の合成
化合物1a(1.02 g, 3.26 mmol)及びトリメトキシビニルシランの混合物に、蒸留水(0.168 g, 9.32 mmol)及びトリエチルアミン(32.2 mg, 0.318 mmol)を加えた。混合物を室温で18時間攪拌して、テトラヒドロフラン不溶架橋ポリシロキサン(0.860 g)及びテトラヒドロフラン可溶オリゴマー(0.228 g)を得た. この実施例に加えて、種々の原料比で共重合を行って、所定の組成を有する対応共重合体を得ることができる。
【0116】
グリシドキシトリメトキシシランとの共重合生成物の合成
化合物1a(0.949 g, 3.04 mmol)及びグリシドキシトリメトキシシラン(0.723 g, 3.06 mmol)の混合物に、蒸留水(0.165 g, 9.15 mmol)及びトリエチルアミン(30.1 mg, 0.297 mmol)を加えた。混合物を室温で18時間攪拌して、テトラヒドロフラン不溶架橋ポリシロキサン(1.13 g)を得た。
【0117】
化合物1aで製造した架橋ポリシロキサンの変性
ジエチルアミン(0.141 g, 1.93 mmol)を、化合物1aから製造した架橋ポリシロキサン(0.120 g, 0.384 mmol(cycDTC単位の量))に、室温で添加し、得られた混合物を、室温で10分間攪拌した。架橋ポリシロキサンの黄色は10分以内に消失した。これは、cycDTCが完全に消費されて、非環式チオウレタン及びチオール基を有する生成物が得られたことを示している。揮発物を減圧下に除去した後、残渣をCHCl3(100 ml)で洗浄して、濾過により、不溶性ジエチルアミン−変性生成物(0.128 g, 0.332 mmol(開環DTC単位の量), 86 %)を得た。
【0118】
スペクトルデータ:
13C-NMR(固体状(HPDEC), 20 oC)188.5-186.4(-O-C(=S)-N-), 175.4-165.5, 76.6-68.4, 58.7-30.3, 29.5-20.8, 19.6-5.5 ppm.
29Si-NMR(固体状(HPDEC), 20 oC)-55.2- -71.8 ppm.
IR(KBr)3445(OH), 2976, 2933, 2879, 2523(SH), 1734, 1653, 1559, 1507, 1429, 1362, 1317, 1284, 1245, 1173, 1096, 1063, 1004, 800 cm-1.
【0119】
13C-NMRスペクトル中、DTC基中の-C(=S)-に帰属される209 ppm のシグナルは消失し、一方、開環した-C(=S)-に帰属できる189 〜 186 ppmの広いシグナルが観察された。更に、cycDTC基の開環は、IRスペクトル中、2523 cm-1にチオールの吸収が存在することによっても確認された。29Si-NMRスペクトルは、化合物1aから製造された架橋ポリシロキサンのスペクトルとほとんど同じであった。これは、シロキサン骨格を損なうことなくDTC基の選択的反応が達成されたことを示している。
【0120】
cycDTC-Si のカチオン重合
化合物1a(0.760 g, 2.43 mmol)に、室温で、トリフルオロメタンスルホン酸メチル(24.9 mg, 0.152 mmol)を加え、混合物を室温で攪拌した。2日後、NMR分析により、環式ジチオカーボネート単位の完全な消費が確認された。13C-NMRスペクトルにおいて、新しいシグナルが172.5 ppmに現れたが、これは、非環式ジチオカーボネートのカルボニル炭素に帰属でき、対応する直鎖ポリ(ジチオカーボネート)の生成を示唆する。混合物をテトラヒドロフラン(5 ml)に溶解し、溶液をヘキサン(100 ml)に注いで、沈殿物として対応するポリマー(0.603 g)を得た。このポリマーを濾過により集め、真空で乾燥した。ポリマーをテトラヒドロフランに再溶解すると、直ちに、ポリマーの側鎖内のシロキシ部分の湿分開始ゾル−ゲル反応に起因する架橋により、不溶になった。
【0121】
cycDTC-Si 及び5-(フェノキシメチル)-1,3-オキサチオラン-2-チオン(即ちcycDTC-OPh)のカチオン共重合
【化24】

【0122】
cycDTC-OPh(1088.0 mg, 4.81 mmol)及びcycDTC-Si(646.5 mg, 2.07 mmol)(7:3)のクロロベンゼン(7 ml)中溶液に、トリフルオロメタンスルホン酸メチル(54.9 mg, 0.335 mmol)を加え、混合物を60℃で攪拌した。3時間後、混合物にトリエチルアミン(2 ml)を加えて、重合を停止した。揮発物を減圧下に除去し、残渣を1H-NMRで分析して、対応するコポリマーの生成を確認した。コポリマーのサイズ排除クロマトグラフィ(SEC)により、コポリマーの重量平均分子量(Mw)及び多分散指数(PDI)はそれぞれ、3460 g/mol 及び2.6 と評価された。
【0123】
応用例
シリケート(ガラス、石英)表面の被覆
cycDTC-Si による被覆(前処理)
平均粒径が55 μmである球状シリカゲル粒子(SP-120-40/60(ダイソー株式会社)をアセトンで数回洗浄して有機不純物を除去し、次いで、減圧下100℃で3時間乾燥した。無水ジメチルホルムアミド(100 ml)に分散したシリカゲル(10.30 g)に、化合物1a(10.30 g, 32.96 mmol)を加え、混合物を100℃で攪拌した。12時間後、混合物を、メンブランフィルタ(孔径0.8 μm)により濾過し、メタノールで2回洗浄し、更にソックスレー装置中無水テトラヒドロフランで12時間洗浄した。洗浄したシリカゲルを、減圧下60℃で5時間乾燥して、黄色粉末(cycDTC-SiO2)10.33 gを得た。
【0124】
【化25】

【0125】
生成物の特性は、SEM、EDX及び元素分析により行った。
得られたcycDTC-SiO2 のSEM写真により、原料のシリカゲル粒子の球形が保持されていることが確認された。下に示すEDXスペクトルでは、シグナルが2.30 keVに観察され、シリカゲル粒子の表面上に硫黄原子が存在することを示す。変性シリカゲルの元素分析により、硫黄含量は3.02 質量%であり、従って、化合物1aのシリカゲル表面上での固定度は0.472 mmol/gと計算された。
【化26】

【0126】
次の図は、固体29Si-NMRスペクトルを示す。このスペクトルでは、シリカゲルのケイ素原子に起因する1つの強いシグナルが-110 ppm 近傍に観察された。2つの弱いシグナルも-50 ppm 近傍に観察された。これらの弱いシグナルは、シリカゲルの表面に結合されたDTC単位のケイ素原子に帰属できた。このNMR分析は、シリカゲル表面上のDTC単位がダイアグラム 5 に示すようないくつかのモードで共有結合されていることを示唆している。シリカゲル上にcycDTC基が存在することは、C=S 結合に帰属される210 ppm 近傍にシグナルが存在する固体13C-NMRスペクトルにより確認された。
【0127】
【化27】

【0128】
ジェファミン(登録商標)-変性cycDTC-Siによる被覆:
第1工程:化合物1aによるジェファミン(登録商標)のシロキシ基含有チオールへの変性
アミンに対する化合物1の反応性に基づいて、ジェファミン(登録商標)、即ち鎖末端にアミノ基を有するポリエーテルを、チオール及び鎖末端にシロキシ基を有する対応ポリエーテルに変性した。手順をスキーム 7にまとめて示す。
【化28】

【0129】
化合物1a(0.950 g, 3.04 mmol)を、室温で、ジェファミン(登録商標)(Mn=400; 1.24 g, 3.09 mmol)に加え、得られた混合物を室温1日攪拌した。得られた油状物をテトラヒドロフランに溶解し、ヘキサン中に沈殿させて、粘性黄色油状物として、対応する変性ジェファミン(登録商標) 6(1.66 g, Mn = 1060, Mw = 1360, PDI = 1.3)を収率76%で得た。同様に、化合物1a(1.95 g, 6.24 mmol)とジェファミン(登録商標)(Mn=400; 1.32 g, 3.31 mmol)との反応により、粘性淡黄色油状物として、対応する変性ジェファミン(登録商標) 7(3.04 g, Mn = 1200, Mw = 1400, PDI = 1.2)を収率93%.で得た。
【0130】
化合物 6: 1H-NMR(CDCl3, 20℃): 6.41-5.60(br, -CH2-CH(-O-)-CH2-), 4.06-3.91(br), 3.56(s, -Si-(OCH3)3), 3.51-3.28(br), 3.17-3.07(br, -NH2), 2.90-2.83(br, -CH(-O-)-CH2-SH), 1.70-1.64(m, -CH2-CH2-CH2-), 1.20-1.10(br), 1.01(d, 末端-O-CH(-CH3)-CH2-), 0.69-0.65(br, -CH2-CH2-Si-)ppm;
13C-NMR(CDCl3, 20℃)165.5(-O-C(=S)-N-), 76.2-74.8(br), 73.6-71.6(br), 67.8, 50.4(-Si-(OCH3)3), 46.8, 46.3, 24.7(-CH(-O-)-CH2-SH), 22.6(-CH2-CH2-CH2-), 19.5(末端-O-CH(-CH3)-CH2-), 18.4-17.0(内部-O-CH(-CH3)-CH2-), 5.1(-CH2-CH2-Si-)ppm;
29Si-NMR(CDCl3, 20℃)-41.7 ppm;
IR(neat)3333(NH2), 2970, 2940, 2870, 1668, 1549, 1455, 1373, 1344, 1298, 1105, 926, 821 cm-1.
【0131】
化合物 7: 1H-NMR(CDCl3, 20℃): 5.58-5.57(-CH2-CH(-O-)-CH2-), 4.39(br), 4.06(br), 3.78-3.59(br), , 3.57(s, -Si-(OCH3)3), 3.56-3.38(br), 3.28-3.25(br), 3.17-3.11(br), 2.86(br), 1.72-1.65(br, -CH2-CH2-CH2-), 1.47(t, -CH2-SH,), 1.27-1.25(br, 末端-O-CH(-CH3)-CH2-), 1.21-1.10(br, 内部-O-CH(-CH3)-CH2-), 0.69-0.63(br, -CH2-CH2-Si-)ppm;
13C-NMR(CDCl3, 20℃)188.2-188.1(-O-C(=S)-N-), 79.6,(-CH2-CH(-O-)-CH2-), 78.3, 75.4-74.8(br), 73.7-72.7(br), 72.0-7.08(br), 68.9-68.8(-CH(-O-)-CH2-O), 67.7, 50.3(-Si-(OCH3)3), 25.4, 24.5-24.4(-CH(-O-)-CH2-SH), 22.6-22.5(-CH2-CH2-CH2-), 17.6-16.5(内部-O-CH(-CH3)-CH2-), 5.1-5.0(-CH2-CH2-Si-)ppm;
29Si-NMR(CDCl3, 20℃)-41.8 ppm;
IR(neat)3299(NH), 2969, 2938, 2870, 2841, 2555(SH), 1677, 1520, 1457, 1374, 1345, 1300, 1258, 1196, 1092, 927, 822 cm-1.
【0132】
第2工程:変性ジェファミン(登録商標)の硬化反応によるガラス表面の被覆
化合物1 とアミンとの付加物(スキーム 5 及びスキーム 6参照)のチオール及びシロキシ基の反応性に基づき、変性ジェファミン(登録商標) 6 及び7 を、ガラス表面の被覆に応用した(スキーム 8):
変性ジェファミン(登録商標) 6 をテトラヒドロフランに溶解し、ガラス板上に塗布した。テトラヒドロフランを冷蔵庫中でゆっくり蒸発させた後、ガラス板を50℃で24時間加熱した。得られたガラス板上の硬化物は、汎用有機溶媒、例えばテトラヒドロフラン、クロロホルム及びジメチルホルムアミドに不溶であり、これは、シロキシ基の縮合反応により、化合物6 の硬化反応が生じたことを示している。形成された硬化物は、シロキシ基とガラス表面との反応により、ガラス表面に共有結合しているものと考えることができる。化合物7 の同様の処理により、テトラヒドロフラン、クロロホルム及びジメチルホルムアミドに不溶である類似の被覆物質が得られた。表1に、形成された被覆物質の熱的特性を示す。被覆物質はチオール基を含み、チオール基が更にエポキシド、イソシアネート、及び他のチオール反応性基と反応して、被覆物質が更に変性(修飾)される。
【0133】
【化29】

【表3】

【0134】
エポキシドと組み合わせたジェファミン(登録商標)-変性cycDTC-Siによる被覆:
第1工程:変性ジェファミン7及びエポキシドの反応
【化30】

【0135】
ジェファミン(Mn = 400)(0.574 g, 1.44 mmol)及びDTC-Si(0.918 g, 2.94 mmol)から調製した変性ジェファミン7(スキーム 7に示す)に、ビスフェノールAジグリシジルエーテル(1.023 g, 3.01 mmol)及び2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(0.0320 g, 0.121 mmol)を加えた。得られた混合物を室温で1時間攪拌した。
【0136】
第2工程:第1工程で得たエポキシ樹脂生成物の硬化反応によるガラス表面の被覆
第1工程からの混合物をガラス表面にキャストし、120℃で1時間硬化した。得られた硬化樹脂は、汎用有機溶媒及び水に不溶であった。層の機械的靱性を、JIS-K5400の手順に従った鉛筆硬度により試験したところ、硬さ7Hであった。
【0137】
モノマーcycDTC-Si 又は対応の溶解性オリゴマーによるシリケート表面の更なる表面改質
第1工程:cycDTC-Si によるシリケート表面の被覆(前処理)
【化31】

【0138】
CycDTC-Si 又はその溶解性オリゴマーは、シリケート(ガラス又は石英)表面の被覆(又は前処理)用試薬として使用することができる。
【0139】
実施例I(被覆)
cycDTC-Si(1004 mg, 3.21 mmol)に、室温で、水(87.0 mg, 4.83 mmol)及びトリエチルアミン(174 mg, 0.172 mmol)を加えた。得られた混合物を室温で5時間攪拌した後、揮発画分を減圧下に除去した。次いで、残渣(=溶解性オリゴマー)をTHF(5 ml)に溶解し、石英板又はガラス板上にキャストした。THFをゆっくり蒸発除去した後、石英板又はガラス板を50〜80℃で24時間加熱して、cycDTC 基を有するポリシロキサン層で被覆された対応する板を得た。
【0140】
実施例II(表面の前処理)
cycDTC-Si(1004 mg, 3.21 mmol)のTHF 溶液(10 ml)に、室温で、水(87.0 mg, 4.83 mmol)及びトリエチルアミン(174 mg, 0.172 mmol)を加えた。得られた溶液に、石英板又はガラス板を室温で24時間浸漬し、THF で2回濯いだ。板を50℃で24時間加熱して、cycDTC 基を有するポリシロキサン層で前処理された板を得た。
【0141】
被覆又は前処理された板は、表面上にcycDTC 基を有しているので、下記のように変性(修飾)できる反応性表面を有している。
【0142】
第2工程:被覆(前処理)表面とアミンとの反応
ガラス板又は石英板上のcycDTC 基は容易にアミンと反応する。得られる表面は、cycDTCとアミンとの反応によって、SH基を有する。このSH基は、イソシアネート及びエポキシドのような求電子性試薬と更に反応することができる。
【0143】
実施例I:
cycDTC-被覆ガラスを、ジエチルアミン(5 ml)のTHF 溶液(50 ml)に浸漬して、cycDTC 基を対応するSH基含有付加物に変換した。被覆層中のSH基を、n-プロピルイソシアネート(5 ml)又はフェニルイソシアネート(5 ml)で処理して、SH基をキャップした。得られた被覆層は、THF、DMF及びクロロホルムのような有機溶媒に不溶であった。被覆層の機械的靱性を、JIS-K5400の手順に従った鉛筆硬度により試験したところ、硬さ6Bであった。
【0144】
実施例II:
cycDTC-被覆ガラスを、ジエチルアミン(5 ml)のTHF 溶液(50 ml)に浸漬して、cycDTC 基を対応するSH基含有付加物に変換した。被覆層中のSH基を、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール(53.0 mg, 0.200 mmol)の存在下、120℃で1時間、2,2-ビス(4-グリシドキシフェニル)プロパン(1407 mg, 4.13 mmol)で処理した。得られた被覆層は、THF、DMF及びクロロホルムのような有機溶媒に不溶であった。鉛筆硬さは4Hであった。
【0145】
実施例III:
基材が石英である場合、上記の反応は、UV-可視光分光分析により追跡することができる。cycDTC は、最大強度が280〜300 nmの範囲にある強い吸収を有する。アミンによる処理の後、この吸収は消失する。
【化32】

【0146】
cycDTC-Si 及びcycDTC-OPhからカチオン共重合で調製した共重合体(合成は先に記載)によるシリケート表面の更なる表面変性
【化33】

【0147】
第1工程:共重合体によるシリケート表面の被覆(前処理)
共重合体をTHF(7ml)に溶解し、ガラス板(1.5 cm × 4 cm)上にキャストした。ガラス板を、50℃で24時間加熱して、共重合体により恒久的に被覆した対応するガラス板を得た。被覆層は、THF、DMF及びクロロホルムのような有機溶媒に不溶であった。両層の機械的靱性を、JIS-K5400の手順に従った鉛筆硬度により試験したところ、硬さ4Bであった。
【0148】
第2工程
被覆したガラス板を、トリフルオロメタンスルホン酸のジクロロメタン溶液(1M)に、室温で24時間浸漬した。共重合体層は徐々に分解し、オリゴマーの混合物がジクロロメタン溶液中に見出された(NMR 及びSECによる)。このような分解は、被覆されたガラス板を還流しているベンジルアミンのTHF 溶液(1M)により24時間処理した場合に起こった。
【0149】
チタン合金の被覆及び結合
第1工程:チタン合金試験片に適用する為のゾル−ゲルプライマーの調製
実施例1a
1.水500 mlを1000 mlフラスコに入れ、pH値を7〜8に調節した。攪拌しながら、5-(3-トリメトキシシリルプロピルオキシメチル)-1,3-オキサチオラン-2-チオン(1a)46.02 gを添加し、混合物を30分間膨潤させた。
2.氷酢酸7.3 ml及びジルコニウム(IV)プロピレートの70 % 溶液(w/v)10 mlを、攪拌しながら、脱イオン水17 mlで希釈した。その後、脱イオン水300 mlを、攪拌しながら加え、pH値を約5に調節した。
3.工程2で得た混合物を、攪拌しながら、工程1で得た混合物に加えた。次いで、工程2で使用したフラスコを脱イオン水200 mlで洗浄し、洗浄水は、その後、合わせた混合物に加えた。得られた混合物を30分間放置した。
【0150】
実施例1b
5-(3-トリメトキシシリルプロピルオキシメチル)-1,3-オキサチオラン-2-チオン46.02 gを、5-(3-トリメトキシシリルプロピルオキシメチル)-1,3-オキサチオラン-2-チオン23.0 g 及び(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン18.2 gの混合物に置き換えた以外は、実施例1aの場合と同じ方法で調製を実施した。
【0151】
比較例1
5-(3-トリメトキシシリルプロピルオキシメチル)-1,3-オキサチオラン-2-チオン(1a)を(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン34 mlに置き換えた以外は、実施例1aの場合と同じ方法で調製を実施した。
【0152】
第2工程:浸漬試験によるチタン合金試験片の前処理
チタン合金試験片(Ti6Al4V)の清浄
実験のため、チタン引張剪断試験片(寸法:100×25×1.6 mm)を使用した。
まず、チタン合金試験片を、Turco 5578(Henkel Surface Technologies Corporation販売のアルカリ性清浄剤)の500 g/l水溶液に、95℃で5分間浸した(上記濃度は、約50%(w/v)の水酸化アルカリに相当する)。次に、チタン合金試験片を、脱イオン水で2分間濯いだ。
【0153】
第3工程:実施例1a、1b 及び比較例1 のゾル−ゲル組成物のチタン合金試験片への適用
チタン合金片を、攪拌しながら室温で2分間、実施例1a、1b 及び比較例1のゾル−ゲル組成物それぞれに浸した。続いて、過剰のゾル−ゲルを、5秒間流し落とした。試験片を、空気循環オーブン中で、60℃で30分間乾燥した。こうして下塗りした試験片に加え、ゾル−ゲルで下塗りしていないチタン合金試験片を、対照例として使用した。表2に、異なる前処理手順の概略を示す。
【0154】
【表4】

【0155】
第4工程:前処理したチタン合金試験片の結合
試験片A、B 及びD を接合するために、フィルム接着剤 Loctite(登録商標) EA 9696(Henkel KGaA, デュッセルドルフ、ドイツ)を使用した。接着剤の硬化は、120℃で90分間行った。接合された試験片を、浸漬試験 Iにより試験した。
試験片A、B 及びCを接合するために、接着剤 Terokal-5070MB-25-ビスフェノールAに基づくエポキシ樹脂接着剤(Henkel Teroson GmbH, ハイデルベルグ, ドイツから入手可能)を使用した。接着剤の硬化は、170℃で30分間行った。接合された試験片を、浸漬試験 IIにより試験した。
【0156】
浸漬試験I
60℃での老化の評価−Loctite(登録商標) EA 9696で結合した試験片
老化を評価するために、試験片A、B 及びDからの接合体を、60℃で脱イオン水に浸漬し、異なる期間、即ち、それぞれ0、720 及び1440時間、保持した。浸漬試験の結果は、表3に示す。
【0157】
【表5】

【0158】
清浄化前処理のみに対応する試験片Aは、ゾル−ゲルにより前処理した試験片B 及びDに比べ、720時間及び1440時間において、引張剪断強さ及び破壊パターンの結果が劣っていた。これらの結果は、本発明の環式ジチオカーボネートを用いて調製したゾル−ゲル(ゾル−ゲルB)が、結合/浸漬試験において接着特性を顕著に向上することを、明らかに示している。更に、強化された引張剪断強さ及び改良された破壊パターンは、本発明の化合物に基づく実施例1aのゾル−ゲルが、湿潤及び高温環境での貯蔵条件においても、チタン合金表面に対する優れた下塗りとして機能することを、明白に示している。
【0159】
浸漬試験II
70℃での老化の評価−Terokal-5070MB-25で結合した試験片
老化を評価するために、試験片A、B 及びDからの接合体を、70℃で脱イオン水に浸漬し、異なる期間、即ち、それぞれ0、21、42 及び63日間、保持した。浸漬試験の結果は、表4に示す。
【0160】
【表6】

【0161】
試験片A(清浄化前処理のみ)は、ゾル−ゲルで前処理した試験片C 及びDに比べ、引張剪断強さ及び破壊パターンの長期間特性において、劣っていた。試験片C 及びDの間の差も、なお目立つが、浸漬試験Iの場合より小さい。これは、試験片Cの前処理に、5-(3-トリメトキシシリルプロピルオキシメチル)-1,3-オキサチオラン-2-チオン及び18.2 g(3-グリシドキシ-プロピル)トリメトキシシラン両者の組み合わせを使用したことによると考えられる。
【0162】
アルミニウム合金の被覆及び結合
第1工程:アルミニウム合金試験片に適用する為のゾル−ゲルプライマーの調製
実施例2
1.水500 mlを1000 mlフラスコに入れ、pH値を7〜8に調節した。攪拌しながら、5-(3-トリメトキシシリルプロピルオキシメチル)-1,3-オキサチオラン-2-チオン(1a)23.0 g及び(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン18.2 gを加え、混合物を30分間攪拌した。
2.氷酢酸7.3 ml及びジルコニウム(IV)プロピレートの70 % 溶液(w/v)10 mlを、攪拌しながら、脱イオン水17 mlで希釈した。その後、脱イオン水300 mlを、攪拌しながら加え、pH値を約5に調節した。
3.工程2で得た混合物を、攪拌しながら、工程1で得た混合物に加えた。次いで、工程2で使用したフラスコを脱イオン水200 mlで洗浄し、洗浄水は、その後、合わせた混合物に加えた。得られた混合物を30分間放置した。
【0163】
比較例2
5-(3-トリメトキシシリルプロピルオキシメチル)-1,3-オキサチオラン-2-チオン23.0 g及び(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン18.2 gを、(3-グリシドキシプロピル)トリメトキシシラン34 mlに置き換えた以外は、実施例2の場合と同じ方法で調製を実施した。
【0164】
第2工程:浸漬試験の為のアルミニウム試験片の前処理
アルミニウム試験片の清浄(アルミニウム6016 及びアルミニウム2024)
最初の工程で、アルミニウム試験片を、Ridoline(登録商標) 1580 の6%水溶液(Henkel KGaA、デュッセルドルフ、ドイツから販売のアルカリ性脱脂剤)に、60℃で5分間浸漬した。2番目の工程で、アルミニウム試験片を、水で2分間、2回濯いだ。
【0165】
アルミニウム試験片の脱酸素
アルミニウム6016試験片を、Deoxidizer 4902(硫酸及び二フッ化アンモニアに基づく脱酸素剤、Henkel KgaA、デュッセルドルフ、ドイツ)の1%溶液により、室温で2分間、脱酸素し、次いで、蒸留水により2回濯いだ。
【0166】
アルミニウム2024試験片を、硝酸の15 %溶液を用い、5-秒酸洗い法により脱酸素し、次いで、蒸留水により2回濯いだ。
【0167】
第3工程:実施例2 及び比較例2 のゾル−ゲル組成物のアルミニウム試験片への適用
清浄化及び脱酸素したアルミニウムシートを、攪拌しながら室温で2分間、実施例2 及び比較例2 のゾル−ゲル組成物それぞれに浸した。続いて、過剰のゾル−ゲルを、5秒間流し落とした。試験片を、空気循環オーブン中で、60℃で30分間乾燥した。表5に、異なる前処理手順の概略を示す。
【0168】
【表7】

【0169】
第4工程:前処理したアルミニウム試験片の結合
試験片A、B 及びCを接合するために、接着剤 Terokal-5070MB-25-ビスフェノールAに基づくエポキシ樹脂接着剤(Henkel Teroson GmbH, ハイデルベルグ, ドイツから入手可能)を使用した。接着剤の硬化は、170℃で30分間行った。接合された試験片を、浸漬試験 IIの条件下で試験した。
浸漬試験II
70℃での老化の評価−Terokal-5070MB-25で結合した試験片
老化を評価するために、試験片E、F 及び Gからの接合体を、70℃で脱イオン水に浸漬し、異なる期間、即ち、それぞれ0、21、42 及び63日間、保持した。浸漬試験の結果は、表6に示す。
【0170】
【表8】

【0171】
試験片A(清浄化前処理のみ)は、ゾル−ゲルで前処理した試験片C 及びDに比べ、引張剪断強さ及び破壊パターンの長期間特性において、劣っていた。試験片C 及びDの間の差も、なお目立つが、浸漬試験Iの場合より小さい。これは、試験片Cの前処理に、5-(3-トリメトキシシリルプロピルオキシメチル)-1,3-オキサチオラン-2-チオン及び18.2 g(3-グリシドキシ-プロピル)トリメトキシシラン両者の組み合わせを使用したことによると考えられる。
【0172】
接着剤中の接着促進剤としての本発明の環式ジチオカーボネートの使用
【0173】
アルミニウム基材(Al 6016; 100×25×0.8mm)を、Alodine 2040(ヘキサフルオロチタン酸に基づく、クロムフリー不動態化剤、Henkel KGaA、デュッセルドルフ、ドイツから入手可能)により前処理した。アルミニウム基材を、本発明の化合物を含まない基礎組成物、及び化合物1aを含む接着剤を用いて、結合した。硬化条件は、120℃で60分の加熱を含んでいた。続いて、老化を、次に記載するキャタ−プラズマ試験により評価した。接合体を、脱イオン水でしめらせた脱脂綿で包んだ。次いで、綿で包んだ接合体を、更にアルミニウムフォイルで包み、ポリエチレンフィルム内に溶着した。このように包んだ試験片を、それぞれ70℃で168時間及び336時間貯蔵した。湿潤条件での老化後、-25℃で16時間、冷保存した。接合体を室温で包みから出し、引張剪断強さを測定した。結果を表7に示す。
【0174】
【表9】

【0175】
エポキシ−アミン硬化反応の為の接着剤としての液体オリゴマーの使用
ビスフェノールAジグリシジルエーテル(0.023 g)、及び製造セクションに記載した液体オリゴマー(Mn = 560, PDI = 2.06; 0.260 g)を、脱気及び攪拌しながら、混合した。この混合物に、Jeffamine(予め0℃に冷却; 0.786 g)を加え、混合物を、減圧下で脱気しながら、15℃未満で30分間混合した。得られた混合物を、1 ml容のメスフラスコに写した。混合物1 mlの質量に基づき、「硬化前」のエポキシ組成物の密度を計算した。次いで、混合物1.61 gを、シリコーン型(6.0 mm×60mm×70mm)に写し、120℃で1時間硬化して、プレート状硬化樹脂1.59 gを得た。その密度を、電子式密度計により測定した。密度に基づき、体積の変化率は、式:
【数1】

に従って、-4.4%と計算された。液体オリゴマーを用いない参照実験について観察された体積変化は、-6.1%であった。下記のスキームにより、この実験を説明することができる。
【化34】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

(式中、
及びRは、同一又は異なって、それぞれ1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルコキシ基、若しくはアリールオキシ又はアラルキルオキシ基を表す。
は、R及びRと同一又は異なるか、又は脂肪族基、アミノ基、ハロゲン原子、芳香族又は複素芳香族基、若しくは芳香脂肪族又は複素芳香脂肪族基を表す。
は、脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族及び複素芳香族基からなる群から選択される架橋基である。
は、水素原子、脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族、複素芳香族、脂環式又は複素脂環式基である。
あるいは、R及びRは、ケイ素原子への架橋基として機能する脂肪族又は複素脂肪族基により任意に置換されていてよい脂環式、複素脂環式、芳香族又は複素芳香族基を形成する。
X及びYは、異なっており、酸素及び硫黄から選択される。)
で示される1,3-オキサチオラン-2-チオン化合物及びそれらの混合物。
【請求項2】
、R及びRが、同一又は異なって、それぞれ1〜4個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルコキシ基を表す請求項1に記載の1,3-オキサチオラン-2-チオン化合物。
【請求項3】
、R及びRが、同一又は異なって、メトキシ又はエトキシ基を表す請求項1又は2に記載の1,3-オキサチオラン-2-チオン化合物。
【請求項4】
が-(CH2)3OCH2-であり、かつRが水素原子であるか、又はR及びRが一緒になって-(CH2-CH2-CHRX-CH2)-(式中、Rは-CH2-CH2-である。)で示される基を形成する請求項1〜3のいずれかに記載の1,3-オキサチオラン-2-チオン化合物。
【請求項5】
式(I):
【化2】

(式中、
及びRは、同一又は異なって、それぞれ1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルコキシ基、若しくはアリールオキシ又はアラルキルオキシ基を表す。
は、R及びRと同一又は異なるか、又は脂肪族基、アミノ基、ハロゲン原子、芳香族又は複素芳香族基、若しくは芳香脂肪族又は複素芳香脂肪族基を表す。
は、脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族及び複素芳香族基からなる群から選択される架橋基である。
は、水素原子、脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族、複素芳香族、脂環式又は複素脂環式基である。
あるいは、R及びRは、ケイ素原子への架橋基として機能する脂肪族又は複素脂肪族基により任意に置換されていてよい脂環式、複素脂環式、芳香族又は複素芳香族基を形成する。
X及びYは、異なっており、酸素及び硫黄から選択される。)
で示される化合物の製造方法であって、
式(II):
【化3】

(式中、R、R、R、R及びRは、式(I)の場合と同じである。)
で示されるエポキシ化合物を、触媒の存在下、二硫化炭素と反応させることを特徴とする製造方法。
【請求項6】
触媒が、塩化リチウム、臭化リチウム、沃化リチウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、沃化ナトリウム、塩化カリウム、臭化カリウム及び沃化カリウムからなる群から選択される少なくとも1種のアルカリ金属ハロゲン化物である請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
触媒が、臭化リチウムである請求項5又は6に記載の製造方法。
【請求項8】
反応を、有機溶媒又は有機溶媒混合物の存在下に行う請求項5〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
有機溶媒が、鎖状又は環式エーテル、アミド、アルコール、ニトリル、ケトン又はこれらの混合物である請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
式(IIIa)又は(IIIb):
【化4】

(式中、
及びRは、同一又は異なって、それぞれ1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルコキシ基、若しくはアリールオキシ又はアラルキルオキシ基を表す。
は、R及びRと同一又は異なるか、又は脂肪族基、アミノ基、ハロゲン原子、芳香族又は複素芳香族基、若しくは芳香脂肪族又は複素芳香脂肪族基を表す。
は、脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族及び複素芳香族基からなる群から選択される架橋基である。
は、水素原子、脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族、複素芳香族、脂環式又は複素脂環式基である。
あるいは、R及びRは、ケイ素原子への架橋基として機能する脂肪族又は複素脂肪族基により任意に置換されていてよい脂環式、複素脂環式、芳香族又は複素芳香族基を形成する。)
で示され、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物を、式:
HNR7R7'
(式中、R及びR7’は、同一又は異なって、水素原子、直鎖又は分岐脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族又は複素芳香族基である。)
で示されるアミン、又はポリマーポリアミンと反応させることにより得られる化合物。
【請求項11】
ポリマーポリアミンが、200〜5000、好ましくは200〜1000の数平均分子量を有する、ポリオキシアルキレンジアミン又はポリオキシアルキレントリアミンである請求項10に記載の化合物。
【請求項12】
式(IV):
【化5】

(式中、
及びRは、同一又は異なって、それぞれ1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルコキシ基、若しくはアリールオキシ又はアラルキルオキシ基を表す。
は、R及びRと同一又は異なるか、又は脂肪族基、アミノ基、ハロゲン原子、芳香族又は複素芳香族基、若しくは芳香脂肪族又は複素芳香脂肪族基を表す。
は、脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族及び複素芳香族基からなる群から選択される架橋基である。
は、水素原子、脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族、複素芳香族、脂環式又は複素脂環式基である。
あるいは、R及びRは、ケイ素原子への架橋基として機能する脂肪族又は複素脂肪族基により任意に置換されていてよい脂環式、複素脂環式、芳香族又は複素芳香族基を形成する。
nは2〜1000である。)
で示され、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物の1種又はそれ以上のカチオン重合により得られるポリマー化合物。
【請求項13】
式:SiR1'R2'R3'R6
(式中、
1’及びR2’は、同一又は異なって、それぞれ1〜6個の炭素原子を有する直鎖又は分岐アルコキシ基、若しくはアリールオキシ又はアラルキルオキシ基を表す。
3’は、R1’及びR2’と同一又は異なるか、又は脂肪族基、アミノ基、ハロゲン原子、芳香族又は複素芳香族基、若しくは芳香脂肪族又は複素芳香脂肪族基を表す。
は、直鎖又は分岐脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族又は複素芳香族である。)
で示される更なるシリル化合物の存在下又は不存在下での、請求項1〜4、10、11及び12のいずれかに記載された化合物の1種又はそれ以上の酸触媒又は塩基触媒反応により得られる、液体又は固体のゾル−ゲル生成物。
【請求項14】
請求項13に記載の液体ゾル−ゲル生成物とアミン及び/又はエポキシ化合物との反応により得られる固体ゾル−ゲル生成物。
【請求項15】
チオール基の酸化カップリングによる請求項10又は11に記載の化合物若しくは請求項13又は14に記載のゾル−ゲル生成物の反応により得られる、ジスルフィド基含有化合物又はゾル−ゲル生成物。
【請求項16】
表面被覆、表面前処理及び材料結合における、請求項13〜15のいずれかに記載の液体ゾル−ゲル生成物の使用。
【請求項17】
表面又は材料が、ガラス、シリコーン、純金属又は合金である請求項16に記載の使用。
【請求項18】
金属が、アルミニウム、チタン、銅、鋼、金及び銀からの金属である、及び/又は合金がこれら金属の1種又はそれ以上を含む請求項17に記載の使用。
【請求項19】
表面が、巨視的に平らな表面又は小粒子の表面である請求項16〜18にいずれかに記載の使用。
【請求項20】
液体ゾル−ゲル生成物をその後に硬化して、架橋ゾル−ゲルにより被覆された粒子、架橋ゾル−ゲルにより被覆された巨視的に平らな表面、又は結合された材料の間に架橋ゾル−ゲルを含む結合複合体を製造する請求項16〜19にいずれかに記載の使用。
【請求項21】
被覆された粒子が、カラムクロマトグラフィ用固定相粒子であるか、アミン結合用捕捉粒子である請求項20に記載の使用。
【請求項22】
被覆された巨視的に平らな表面が、シリコンウエハ表面である請求項20に記載の使用。
【請求項23】
請求項12に記載のポリマー化合物の光学材料としての使用。
【請求項24】
請求項1〜4のいずれかに記載の1,3-オキサチオラン-2-チオン化合物、請求項10又は11に記載のチオウレタン化合物、請求項12に記載のポリマー化合物、若しくは請求項13又は15に記載の液体ゾル−ゲル生成物の、接着剤組成物における使用。
【請求項25】
該化合物又はゾル−ゲル生成物が、20質量%まで、好ましくは0.1〜10質量%、最も好ましくは1〜5質量%の濃度で存在する請求項24に記載の使用。
【請求項26】
チオール基が、エポキシド、イソシアネート、イソチオシアネート、チオール及びカルボン酸誘導体からなる群から選択される化合物とさらに反応された請求項10に記載の化合物。
【請求項27】
更に、エポキシ化合物、好ましくはビスフェノールAジグリシジルエーテルと反応された請求項11に記載の化合物。
【請求項28】
加熱による請求項13に記載の液体ゾル−ゲル生成物の反応により得られる固体ゾル−ゲル生成物。
【請求項29】
請求項1〜4のいずれかに記載の1,3-オキサチオラン-2-チオン化合物を、式:
R'HN-A-NH-R''
(式中、R'及びR''は、同一又は異なって、水素原子、又は脂肪族、複素脂肪族、脂環式、複素脂環式、芳香族及び複素芳香族基から選択される基であるか、若しくは一緒になって1〜6個の炭素原子を有するアルキレン基を形成する。
Aは、脂肪族、複素脂肪族、脂環式、複素脂環式、芳香族及び複素芳香族基から選択される2価の基である。)
で示されるジアミンと反応させることにより得られる式(V):
【化6】

で示される化合物。
【請求項30】
請求項29に記載の式(V)で示される化合物を、モノイソシアネート、モノイソチオシアネート、ジイソシアネート及びジイソチオシアネート、並びに所望により湿分と反応させることにより得られるポリマー化合物。
【請求項31】
イソシアネート及び/又はイソチオシアネートが、フェニルイソシアネート、トリルイソシアネート、ナフチレンイソシアネート、1,5−ナフチレンイソシアネート、1,5−ナフチレンジイソシアネート、2,4−又は4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、水素化MDI(H12MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)、4,4’−ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、ジ−及びテトラアルキレンジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジベンジルジイソシアネート、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、トルエンジイソシアネート(TDI)の異性体、1−メチル−2,4−ジイソシアナトシクロヘキサン、1,6−ジイソシアナト−2,2,4−トリメチルヘキサン、1,6−ジイソシアナト−2,4,4−トリメチルヘキサン、1−イソシアナトメチル−3−イソシアナト−1,5,5−トリメチルシクロヘキサン、(IPDI)、テトラメトキシブタン−1,4−ジイソシアネート、ブタン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサン−1,6−ジイソシアネート(HDI)、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート及びフタル酸−ビス−イソシアナトエチルエステル、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,4−ジイシソアナトブタン、1,12−ジイソシアナトドデカン、二量体脂肪酸ジイソシアネート及び1−イソシアナト−4−(4−イソシアナトベンジル)ベンゼン;並びにこれらに対応するチオシアネートからなるモノ−及びジイソシアネート並びにモノ−及びジイソチオシアネートの群から選択される請求項30に記載のポリマー化合物。
【請求項32】
式(V)で示される化合物と湿分との反応、並びにイソシアネート及び/又はイソチオシアネートとの反応を任意の順序で行う請求項30又は31に記載のポリマー化合物。
【請求項33】
式(V)で示される化合物を最初にイソシアネート及び/又はイソチオシアネートと反応させ、次いで湿分と反応させる請求項32に記載のポリマー化合物。
【請求項34】
架橋ゾル−ゲルを、更に、環式ジチオカーボネート基を切断しながらアミンにより処理し、所望により、更に、生じたチオ基をイソシアネート、イソチオシアネート又はエポキシドにより変性する請求項20に記載の使用。
【請求項35】
式:
【化7】

(式中、R及びRは請求項12の場合と同じ意味であり、Rは、水素原子、脂肪族、複素脂肪族、芳香脂肪族、複素芳香脂肪族、芳香族、複素芳香族、脂環式又は複素脂環式基であり、これらの基は、酸素、硫黄又はNHによりR基に結合されている。)
で示される構造を更に有し、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物の1種又はそれ以上と、式:
【化8】

(式中、R、R及びRは前記と同じ意味である。)
で示される化合物とのカチオン共重合により得られる請求項12に記載のポリマー化合物。
【請求項36】
は-CH2-であり、Rは水素原子であり、Rはフェノキシ基である請求項35に記載のポリマー化合物。
【請求項37】
場合により被覆又は処理の後にポリマー化合物の主鎖の分解を含む、表面被覆又は表面処理における、請求項36に記載のポリマー化合物の使用。

【公表番号】特表2007−502306(P2007−502306A)
【公表日】平成19年2月8日(2007.2.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−523571(P2006−523571)
【出願日】平成16年8月10日(2004.8.10)
【国際出願番号】PCT/EP2004/008932
【国際公開番号】WO2005/016939
【国際公開日】平成17年2月24日(2005.2.24)
【出願人】(391008825)ヘンケル・コマンディットゲゼルシャフト・アウフ・アクチエン (309)
【氏名又は名称原語表記】HENKEL KOMMANDITGESELLSCHAFT AUF AKTIEN
【住所又は居所原語表記】40191 Dusseldorf,Henkelstrasse 67,Germany
【Fターム(参考)】