説明

新規セスキテルペン系化合物、その製造方法及び組成物

【課題】神経細胞の分化誘導活性及び/又は癌細胞の増殖抑制活性を有する新規化合物、その製造方法、及び該化合物を含有する医薬組成物もしくは食品組成物を提供する。
【解決手段】冬虫夏草から採取する新規セスキテルペン系化合物の製造方法、ならびに得られた化合物及びそれを用いた医薬組成物、食品組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経細胞の分化誘導活性及び/又は癌細胞の増殖抑制活性を有する新規セスキテルペン系化合物、その製造方法、及び該化合物を含有する医薬組成物もしくは食品組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
アルツハイマー病、老人性痴呆症、パーキンソン病、糖尿病性神経障害及びダウン症等の脳神経細胞の細胞死を伴う疾患に対して、種々の治療薬が開発されている。しかし、これらの治療薬は、病気の進行を遅らせるためのものであり、疾患そのものの治癒効果はなく、また種々の副作用も報告されている。また、直接その細胞を賦活することにより前記疾患を予防又は治療する薬剤は広く探索されているが、事実上有効な薬剤は未だ見出されていない。
【0003】
癌に対しては、従来より種々の抗癌剤や免疫増強剤が開発されている。なかでも、従来から用いられているキノコ由来の医薬品としてクレスチンが臨床使用されている。しかし、その免疫増強効果は、臨床上何人にも発現するわけではなく、また副作用として食欲不振、下痢、嘔吐等が認められるという問題点がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、神経細胞の分化誘導活性及び/又は癌細胞の増殖抑制活性を有する新規化合物、その製造方法、及び該化合物を含有する医薬組成物もしくは食品組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、冬虫夏草の一種であるハナサナギタケ(Isaria japonica)の栽培品の低級アルコール、アセトン、酢酸エチル、エーテル、又はクロロホルム等による抽出エキスより新規なセスキテルペン系化合物の単離精製に成功し、更にこれらの化合物が神経細胞の分化誘導活性及び/又は骨髄性白血病細胞の増殖抑制活性を有することを見出し、これらの知見をもとに本発明を完成させるに至った。
【0006】
本発明は、以下の化合物及び製造方法を提供する。即ち、
(1)式
【0007】
【化1】

【0008】
で表されるセスキテルペン系化合物。
(2)式
【0009】
【化2】

【0010】
で表されるセスキテルペン系化合物。
(3)式
【0011】
【化3】

【0012】
で表されるセスキテルペン系化合物。
(4)式
【0013】
【化4】

【0014】
で表されるセスキテルペン系化合物。
(5)式
【0015】
【化5】

【0016】
で表されるセスキテルペン系化合物。
(6)式
【0017】
【化6】

【0018】
で表されるセスキテルペン系化合物。
(7)上記(1)〜(4)のいずれかに記載の化合物を冬虫夏草から採取することを特徴とする、セスキテルペン系化合物の製造方法。
(8)上記(5)又は(6)に記載の化合物を上記(1)に記載の化合物から合成することを特徴とする、セスキテルペン系化合物の製造方法。
(9)上記冬虫夏草が、穀類、又は穀類及び酵母もしくはその抽出物を添加した培地で人工栽培されたものである、上記(7)に記載の製造方法。
(10)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の化合物と、医薬として許容できる担体を含む、神経細胞の分化誘導活性を有する医薬組成物。
(11)上記(4)に記載の化合物と、医薬として許容できる担体を含む、癌細胞の増殖抑制活性を有する医薬組成物。
(12)上記(1)〜(6)のいずれかに記載の化合物と、医薬として許容できる担体を含む、脳神経細胞の細胞死を伴う疾患の予防用及び/又は治療用の医薬組成物。
(13)上記(4)に記載の化合物と、医薬として許容できる担体を含む、癌の予防用及び/又は治療用の医薬組成物。
(14)冬虫夏草からの部分精製品を含有する医薬組成物であって、脳神経細胞の細胞死を伴う疾患及び/又は癌の予防用及び/又は治療用の医薬組成物。
(15)冬虫夏草からの部分精製品を含有する食品組成物であって、脳神経細胞の細胞死を伴う疾患及び/又は癌の予防及び/又は治療に有効な食品組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明の新規なセスキテルペン系化合物は、神経細胞の分化誘導活性及び/又は骨髄性白血病細胞の増殖抑制活性を有し、アルツハイマー病、老人性痴呆症、パーキンソン病、糖尿病性神経障害及びダウン症等の脳神経細胞の細胞死を伴う疾患及び/又は癌に対する予防及び/又は治療に有用である。
また、本発明は、前記化合物を含有する冬虫夏草を人工栽培を行うことで、前記化合物を効率的、安定的に大量に製造する方法を提供することができる。また、この冬虫夏草の栽培体より、抽出・精製を行うことで、前記化合物を効率良く回収する方法を提供することができる。更に、前記化合物を含有する組成物を製造することで、脳神経細胞の細胞死を伴う疾患及び/又は癌に対する予防用及び/又は治療用の医薬組成物及び/又は食品組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明を詳述する。
まず、上記(1)〜(4)に記載した本発明のセスキテルペン系新規化合物を、麦角菌科冬虫夏草属のキノコであるハナサナギタケ(Isaria japonica)から取得する方法について説明する。本化合物が取得される麦角菌科冬虫夏草属のキノコであるハナサナギタケは、日本、台湾、中国、ネパール等に分布し、発生時期は3〜11月である。ガの蛹、幼虫等に寄生して養分を摂取して増殖し、虫の死骸より淡黄色の子実体を発生する。上記(1)〜(4)に記載した本発明のセスキテルペン系化合物は、その子実体から抽出される。即ち、子実体乾燥物を、例えば、低級アルコール(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−ブタノールなど)、アセトン、酢酸エチル、エーテル、クロロホルム、又はクロロホルム−メタノール等に、例えば、室温で半日から3日浸漬する。得られた抽出エキスを減圧下濃縮し、得られた飴状のエキスを水に溶解後、酢酸エチル、エーテル、クロロホルム、アセトン、ヘキサン等で抽出する。得られた抽出物を通常の分離に用いられるシリカゲルクロマトグラフィーや分取薄層クロマトグラフィー、更には高速液体クロマトグラフィー等を組合わせて精製することにより、上記(1)〜(4)に示した本発明のセスキテルペン系新規化合物4種、即ち、化合物IJ−1、IJ−2、IJ−3及びIJ−4を、それぞれ無色針状結晶として単離精製することができる。
また、上記(1)に記載した化合物から、誘導体として、上記(5)又は(6)に記載したセスキテルペン系新規化合物を得ることができる。具体的には、上記で得られた化合物IJ−1に、無水酢酸を用いたアセチル化又は四酸化オスミウムによる酸化を行うことで、上記(5)及び(6)に示した本発明のセスキテルペン系新規化合物IJ−5及びIJ−6を取得することができる。
【0021】
得られたIJ−1、IJ−2、IJ−3、IJ−4、IJ−5及びIJ−6の1H NMR、13C NMRを図1〜図12に示した。またこれらのマススペクトルに関しては下記表1の通りである。
【0022】
【表1】

【0023】
これらの結果より、IJ−1、IJ−2、IJ−3、IJ−4、IJ−5及びIJ−6の構造を以下の構造であると決定した。
【0024】
IJ−1(上記(1)に記載した化合物)
【0025】
【化7】

【0026】
IJ−2(上記(2)に記載した化合物)
【0027】
【化8】

【0028】
IJ−3(上記(3)に記載した化合物)
【0029】
【化9】

【0030】
IJ−4(上記(4)に記載した化合物)
【0031】
【化10】

【0032】
IJ−5(上記(5)に記載した化合物)
【0033】
【化11】

【0034】
IJ−6(上記(6)に記載した化合物)
【0035】
【化12】

【0036】
上述した本発明の製造方法においては、冬虫夏草自体を天然から大量に入手することが非常に難しく、また、冬虫夏草中の上記化合物IJ−1〜IJ−4の含有量が極微量であるため、その回収が困難である場合が多い。冬虫夏草の人工栽培方法としては種々提案されており、なかでも特開平10−42691号に示されるような、蚕の蛹成分を培地の主成分とする方法など、動物性成分を培地に含有させ、自然界と近い栄養状態を作り出すことで人工栽培する方法が多い。しかし、このような方法では、新規化合物は、極微量か、又は検出できない場合も多く、これを回収することが非常に困難である。
そこで、上述した本発明の製造方法は、上記冬虫夏草を、穀類、又は穀類及び酵母もしくはその抽出物を添加した培地で人工栽培する工程を、さらに含むことが好ましい。
【0037】
本発明に係わる冬虫夏草の人工栽培は、穀類、又は穀類及び酵母もしくはその抽出物を添加した培地で栽培することを特徴とする。まず、米、米糠、粟、麦等の穀類に、豆皮、おから等の豆類、サナギ粉、魚粉、煮干粉粉砕物等の動物粉、又は酵母もしくはその抽出物、のいずれか一つ又は複数を添加する。又は、おが屑、コーンコブ粉砕物等の培養基材に、穀類、又は穀類及び酵母もしくはその抽出物を加え、更に豆類、動物粉等を添加しても良い。このように冬虫夏草を穀類、又は穀類及び酵母もしくはその抽出物を添加した培地で人工栽培することで、上述した本発明の新規化合物IJ−1〜IJ−4、ひいては化合物IJ−5及びIJ−6を、効率よく取得することができる。
【0038】
上記人工栽培は、具体的には、上述した培地にハナサナギタケ等の冬虫夏草の種菌を接種する。その後、菌糸培養工程、菌掻き工程、芽出し工程、生育工程を経て冬虫夏草子実体の収穫が行われる。このようにして人工栽培した冬虫夏草の子実体から、前述した方法により、本発明のセスキテルペン系化合物を得ることができる。
【0039】
このようにして得られた本発明のセスキテルペン系化合物は、グリア細胞からの神経栄養因子を介した神経細胞の分化誘導活性及び/又は癌細胞の増殖抑制活性を有することを特徴とする。
【0040】
中枢神経系を構成する細胞には、神経細胞と、その周囲に存在するグリア細胞がある。グリア細胞は外的刺激により神経栄養因子などの様々な生理活性物質を分泌する。その中でも代表的なものとしてNGF(Nerve Growth Factor)がある。NGFは、神経細胞のモデルであるPC12(実施例4に記載)又はPC12h細胞を刺激して神経細胞様に分化せしめ、その細胞形態を4〜9日後に扁平にし、神経突起又は神経線維を伸展させる作用を有する。また、大脳のコリン作動神経に作用してその分化を誘導し、アセチルコリン合成を促進する。しかし、NGFはペプチドであるため血液−脳関門を通過することができず、NGFそのものを薬として用いるのは困難である。そこで、NGF作用を有する低分子化合物、又はグリア細胞からの様々な神経栄養因子の分泌を促進する低分子化合物の探索が行われてきた。本発明のセスキテルペン系化合物IJ−1、IJ−2、IJ−3、IJ−4、IJ−5及びIJ−6は、グリア細胞の神経栄養因子分泌を介した神経細胞の分化誘導活性を有する。更に、前記化合物IJ−1〜IJ−6はいずれも低分子であり、脳への到達が可能である。
【0041】
また、前記化合物のうち、エポキシド構造を有する化合物IJ−4は、骨髄性白血病細胞HL−60の増殖抑制能も有する。HL−60細胞は、癌細胞のアポトーシス研究によく利用されているが、エポキシド構造をもつ類似の既知物質(4-Acetyl-12,13-epoxy-9-trichothecene-3,15-diol)も、HL−60の増殖抑制、アポトーシス作用があることが報告されている(Gi-Su OH et al., Biol. Pharm. Bull., 24(7), 785(2001))。
【0042】
なお本発明のセスキテルペン系化合物IJ−1〜IJ−6は、上述した化学構造を有するものであれば上記効果を奏するものであって、上述した本発明の製造方法にて得られたものに限定されるものではない。
【0043】
本発明は、上記セスキテルペン系化合物IJ−1〜IJ−6から選ばれるいずれかと、医薬として許容できる担体とを含む、神経細胞の分化誘導活性を有する医薬組成物をも提供する。このような本発明の医薬組成物は、脳神経細胞の細胞死を伴う疾患の予防用及び/又は治療用の医薬組成物として有用である。なお上記「脳神経細胞の細胞死を伴う疾患」としては、例えば、アルツハイマー病、老人性痴呆症、パーキンソン病、糖尿病性神経障害及びダウン症等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0044】
また本発明は、上記セスキテルペン系化合物IJ−4と、医薬として許容できる担体とを含む、癌細胞の増殖抑制活性を有する医薬組成物を提供する。このような本発明の医薬組成物は、癌の予防用及び/又は治療用の医薬組成物として有用である。
【0045】
なお本明細書における「医薬として許容できる担体」は、添加剤も含む。当該「医薬として許容できる担体」としては、例えば、賦形剤(例えば、デンプン、ブドウ糖、果糖、ソルビトール、マンニトール、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、乳糖、ショ糖、ヒドロキシプロピルセルロース、炭酸マグネシウム、酸化マグネシウム、リン酸カルシウム、デキストリン)、結合剤(例えば、アラビアゴム、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ゼラチン、デキストリン、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、デンプン、ショ糖)、崩壊剤(例えば、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム、デンプン、ヒドロキシプロピルセルロース)、界面活性剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、大豆レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル)、滑沢剤(例えば、ケイ酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸ケイ酸マグネシウム、タルク)、希釈剤(例えば、水、食塩水、大豆油、ゴマ油、オリーブ油のような植物油)、軟膏基材(例えば、パラフィン、ラノリン、白色ワセリン)、矯味剤(例えば、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピルのようなパラオキシ安息香酸エステル類、安息香酸ナトリウム)、等張化剤(例えば、塩化ナトリウム、グリセリン、ブドウ糖、マンニトール)などの、当業者公知の種々のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0046】
本発明はまた、冬虫夏草からの「部分精製品」を用いて、脳神経細胞の細胞死を伴う疾患及び/又は癌の予防用及び/又は治療用の医薬組成物、あるいは、脳神経細胞の細胞死を伴う疾患及び/又は癌の予防及び/又は治療に有効な食品組成物を提供するものである。
【0047】
ここで、本明細書中における「部分精製品」とは、冬虫夏草子実体(キノコ)の乾燥物等から、例えば有機溶媒や熱水等で抽出した抽出エキス、及び抽出エキスを完全精製に至るまでの任意の純度まで精製したものをいう。「部分精製品」は、任意の純度の前記化合物IJ−1〜IJ−6から選ばれる少なくともいずれかを含有する。「部分精製品」の形態としては、水性液や、減圧濃縮し乾固させた固体、凍結乾燥品などの液状物や固形物の形態を挙げることができる。本発明の上記化合物が生理的に有害な溶媒中に存在するようにして上記医薬組成物又は食品組成物に用いる場合には、「部分精製品」は、乾燥させたものか、又はその乾燥物を生理的に許容できる溶媒中に溶解、懸濁又は乳化させたものを指す。
【0048】
本発明においては「部分精製品」そのものを用いて、上記医薬組成物(主に、経口用)とすることができる。また、上述した「医薬上許容される担体」や適宜の香料、色素等とともに用いて、ペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、ゼラチン等で被覆してカプセルに加工して利用することもできる。医薬組成物の形態として、当業者公知の種々の形態の医薬製剤、例えば、錠剤、顆粒剤、細粒剤、散剤、カプセル剤、丸剤、液剤、乳剤、懸濁剤、シロップ剤及びトローチ剤等の経口剤、並びに注射剤、点眼剤、エアゾール剤、経皮吸収剤及び坐剤等の非経口剤が挙げられる。注射剤の場合は、安定性の点から、バイアル等に充填後、冷凍し、通常の凍結乾燥処理により水分を除き、使用直前に凍結乾燥物から液剤を再調製することもできる。
【0049】
本発明の医薬組成物の投与量は、患者の年齢、体重、疾患の程度により異なるが、経口の場合、通常、成人1日当たり、前記化合物を単独又は複数で、1〜1,000mgを1日1回から数回に分けて服用するのが適当である。非経口の場合、通常、成人1日当たり、前記化合物を単独又は複数で、0.5〜500mgを1日1回から数回に分けて静注、皮下注射、筋肉注射するのが好ましい。
【0050】
本発明のセスキテルペン系化合物は、従来から用いられてきた生薬材料を原料とするもので、有効投与量での毒性は極めて低く、副作用はほとんど認められない。したがってこのような化合物を用いた本発明の医薬組成物は、ヒト、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ等の哺乳類に対し安全に投与することができる。
【0051】
また本発明においては、「部分精製品」そのものを用いて食品組成物とすることができる。また、「部分精製品」を、例えば、ジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、豆腐、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、フリカケ、育児用粉乳、ケーキ、パン、クッキー、スナック菓子等に含有させることもできる(このようにして得られた組成物も、本発明における「食品組成物」に含まれるものとする。)。あるいは、「部分精製品」を、デキストリン、乳糖、デンプン等の賦形剤などや、香料、色素等とともに、ペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、ゼラチン等で被覆してカプセルに加工して、健康食品や栄養補助食品等として利用してもよい。
【0052】
食品組成物における「部分精製品」の配合量は、食品や組成物の種類や状態により一律に規定しがたいが、通常、0.01〜50重量%、好ましくは0.1〜30重量%である。配合量が0.01重量%未満では経口摂取による効果が期待できない虞があり、50重量%を超えると食品の種類によっては風味を損なったり、当該食品を調製できなくなる虞がある。
【実施例】
【0053】
以下、本発明を更に詳細に説明するために実施例を記載するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
実施例1(本発明の新規化合物IJ−1〜IJ−4の抽出・精製)
ハナサナギタケ子実体を熱風で乾燥し、得られた乾燥子実体6.5kgを70%メタノール70Lに浸漬して室温で3日間抽出した。得られたメタノールエキス2.0kgを酢酸エチル−水で分配し、酢酸エチル可溶画分149gを得た。また、そのとき得られた水相を用いて、n−ブタノール−水で分配し、n−ブタノール可溶画分355gを得た。
【0054】
酢酸エチル可溶画分149gをシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、n−ヘキサン−酢酸エチル、酢酸エチル−メタノールの混合溶媒系で溶出を行った。得られた10画分のうち、酢酸エチル−メタノール(9:1)で溶出した画分5.9gを更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルム−メタノールの混合溶媒系で溶出を行った。得られた9画分のうち、クロロホルム−メタノール(20:1)で溶出した画分1.6gをシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、n−ヘキサン−酢酸エチルの混合溶媒系で溶出を行った。得られた7画分のうち、n−ヘキサン−酢酸エチル(1:1)で溶出した画分259mgをフラクションA、n−ヘキサン−酢酸エチル(1:4)で溶出した画分795mgをフラクションBとする。
【0055】
フラクションAをODSカラムクロマトグラフィーに付し、アセトニトリル−水の混合溶媒系で溶出を行い、アセトニトリル−水(1:20)で溶出した画分より、化合物IJ−1(103mg)を得た。
【0056】
また、フラクションBをODSカラムクロマトグラフィーに付し、アセトニトリル−水の混合溶媒系で溶出を行った。得られた6画分のうち、アセトニトリル−水(1:20)で溶出した画分260mgを更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルム−メタノールの混合溶媒系で溶出を行い、クロロホルム−メタノール(50:1)で溶出した画分より化合物IJ−2(9.5mg)を、クロロホルム−メタノール(40:1)で溶出した画分より、化合物IJ−3(282.5mg)を得た。
【0057】
ブタノール可溶画分355gをシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、酢酸エチル−メタノールの混合溶媒系で溶出を行った。得られた5画分のうち、酢酸エチルで溶出した画分5.3gを更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルム−メタノールの混合溶媒系で溶出を行った。得られた8画分のうち、クロロホルム−メタノール(50:1)で溶出した画分320mgをODSカラムクロマトグラフィーに付し、アセトニトリル−水の混合溶媒系で溶出を行った。得られた6画分のうち、アセトニトリル−水(1:100)で溶出した画分98mgを更にシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルム−メタノールの混合溶媒系で溶出を行い、クロロホルム−メタノール(50:1)で溶出した画分より、化合物IJ−4(52mg)を得た。
【0058】
得られた化合物IJ−1、IJ−2、IJ−3及びIJ−4の1H NMR、13C NMRのスペクトルを、それぞれ図1〜図8に示す。マススペクトルは、上記表1のとおりであった。
【0059】
実施例2(化合物IJ−5(化合物IJ−1の誘導体)の合成)
上記実施例1で得られた化合物IJ−1(2.8mg)をピリジン(0.5mL)に溶かし、無水酢酸(0.1mL)、4,4−ジメチルアミノピリジン(2.0mg)を加えた。室温で8時間攪拌後、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルム−メタノール(49:1)で溶出した画分より化合物IJ−5(2.6mg)を得た。
得られた化合物IJ−5の1H NMRと13C NMRのスペクトルを、それぞれ図9、図10に示す。マススペクトルは、上記表1のとおりであった。
【0060】
実施例3(化合物IJ−6(化合物IJ−1の誘導体)の合成)
上記実施例1で得られた化合物IJ−1(5.5mg)を水−アセトン−アセトニトリル(1:1:1)の混合溶媒(1.0mL)に溶かし、4%四酸化オスミウム水溶液(0.1mL)、4−メチルモルホリン−N−オキシド(5.0mg)を加えた。室温で2時間攪拌後、溶媒を留去し、残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィーに付し、クロロホルム−メタノール(19:1)で溶出した画分より化合物IJ−6を得た。
得られた化合物IJ−6の1H NMRと13C NMRのスペクトルを、それぞれ図11、図12に示す。マススペクトルは、上記表1のとおりであった。
【0061】
実施例4(本発明の新規化合物の神経細胞に対する作用)
1321N1アストロサイトーマ細胞はグリア細胞の一種であるアストロサイトが癌化したものであり、アストロサイトと同様に外部からの刺激により神経栄養因子を分泌する。また、神経細胞のモデルであるPC12細胞は、ラット副腎髄質由来褐色細胞腫より樹立された細胞株(親クロム細胞腫細胞)であり、神経成長因子(NGF)に応答して神経突起を伸展し、神経細胞様に変化する。これらの細胞をポリリジン又はコラーゲンで細胞接着面をコーティングしたプラスチック製の培養フラスコ又はシャーレの中で静置培養し、新規化合物IJ−1〜IJ−6の神経突起伸展作用、即ち神経細胞の分化誘導活性について検討した。1321N1アストロサイトーマ細胞に関しては、5(v/v)%牛胎児血清を含んだダルベッコ変法イーグル培地中で、37℃、5%二酸化炭素混有空気(水蒸気飽和)中でpH7.2〜7.4で培養した。PC12細胞に関しては、10(v/v)%牛胎児血清及び5(v/v)%馬血清を含んだダルベッコ変法イーグル培地中で、37℃、5%二酸化炭素混有空気(水蒸気飽和)中でpH7.2〜7.4で培養した。
【0062】
本発明の新規化合物IJ−1〜IJ−6(実施例1〜3記載の方法によりそれぞれ調製)を、ジメチルスルホキシドに溶解し、ミリポアフィルター(0.2μm)にて濾過滅菌後、PC12細胞培養液に最終濃度10nMになるように添加した。分化誘導の陽対照は、ホルボール 12−ミリステート 13−アセテート(PMA)をジメチルスルホキシドに溶解させ、最終濃度100nMになるように添加した。35mmシャーレに細胞を約2万個ずつ1321N1アストロサイトーマ細胞を分注し、翌日細胞が容器に付着したことを確認し、試料を添加した。2日後その培養上清を取り、あらかじめ培養しておいたPC12細胞の培養用培地と交換した。PC12細胞を2日間培養後、位相差顕微鏡により形態観察を行い、その分化の程度を評価した。その評価方法は、個々の細胞について、全く変化していないものを0点、細胞体の直径と同程度の突起伸展が見られるものを1点、細胞体の2〜3倍の突起伸展が見られるものを2点、非常に長い突起伸展やシナプス形成が見られるものを3点とし、100個の細胞について得られた点数の平均値を細胞分化の指標とした。この結果を表2に示した。また、化合物IJ−1、IJ−3及びIJ−4の場合の細胞の形態(位相差光学顕微鏡像)の写真を図13に示した。表2に示すように、IJ−1〜IJ−6いずれの場合にも神経突起の伸展が見られた。図13の化合物IJ−1、IJ−3及びIJ−4についても同様の結果を示した。
【0063】
【表2】

【0064】
実施例5(本発明の新規化合物の骨髄性白血病細胞に対する作用)
ヒト白血病細胞HL−60は、前骨髄性白血病由来の癌細胞株(原ATCC株CCL−240、浮遊細胞)であり、好中球、マクロファージに分化できる能力を持ち、分化及びアポトーシス研究に多用される。この細胞をシャーレの中で静置培養し、新規化合物IJ−1、IJ−3及びIJ−4を添加して、該細胞に対する増殖抑制能について検討した。培養液は、RPMI 1640培地に10(v/v)%牛胎児血清を含み、37℃、5%二酸化炭素混有空気(水蒸気飽和)中でpH7.2〜7.4に保った。
【0065】
24穴プレート(浮遊細胞用)を用い、8〜20万細胞/mlになるように、1ml/穴の細胞懸濁液を接種し、細胞培養2〜3日目に、希釈した試料を10μl/穴で添加した。本発明の新規化合物IJ−1、IJ−3及びIJ−4(実施例1記載の方法により調製)は、ジメチルスルホキシドに溶解・希釈し、ミリポアフィルター(0.2μm)にて濾過滅菌後、HL−60細胞培養液に最終濃度が0.1〜100μg/mlになるように添加した。負対照には、希釈液ジメチルスルホキシド10μl/穴を添加した。
【0066】
培養1日後、細胞懸濁液15μl/穴を取り、培地で10倍に希釈した。この細胞希釈液のATP活性をATPアナライザー(東亜電波工業製)で測定した。また、細胞形態を顕微鏡で観察した。細胞がつぶれて、培養液中に顆粒が散乱しているものを、細胞増殖抑制+(有り)、細胞形態がきれいで変化しないものを、−(無し)とした。
【0067】
各試料は、n=3穴でATP活性を測定し、平均と標準偏差を求めた。無添加(DMSOのみ)の平均値を100とし、各試料の平均値と標準偏差値を算出し、T−検定法を用いて、無添加に対する有意差を求めた。p<0.05を有意差有りとした。
【0068】
表3に示すように、IJ−1及び3には、10μg/mlの濃度で、HL−60に対する増殖抑制は見られなかったが、エポキシド構造を有するIJ−4は、10μg/mlの濃度で、増殖抑制能を示した。
【0069】
【表3】

【0070】
実施例6(新規化合物の製造方法)
割麦150g、乾燥ビール酵母30g、及び水300mlを混合し、121℃で15分間、高圧蒸気滅菌器にて殺菌してから室温になるまで放置し、その後無菌状態で、滅菌容器に培地を充填し、試験区とした。ハナサナギタケの菌糸を接種し、24℃、湿度90%以上、21日間培養する。菌糸が覆った培地の表面を菌掻き処理を行い、子実体の発生を促した後、食用キノコを栽培する時に使用する施設内において、18℃、湿度90%以上、光照射を行って子実体を発生させる。この環境下で更に20〜40日栽培した後、子実体を収穫し、乾燥させる。対照区として、おが屑150g、サナギ粉30g、グルコース3g、及び水300mlを混合した培地で同様に試験を行った。得られた子実体より30%メタノールにてエキスを抽出した後、酢酸エチル−水で分配した。また、その時得られた水相をn−ブタノール−水で分配し、n−ブタノール可溶画分を得、更にシリカゲルクロマトグラフィーに付し、酢酸エチルで溶出した。得られたこれらの粗精製物を、ガスクロマトグラフィーにて分析し、新規化合物の総含有量を求めた。子実体湿重量及び新規化合物総量を表4に示した。
【0071】
【表4】

【0072】
実施例7(本発明の新規化合物の製造方法)
培地は、No.1(米120g、コーンコブ粉砕物30g、煮干粉砕物30g)、No.2(割麦120g、コーンコブ粉砕物30g、煮干粉砕物30g)、No.3(割麦120g、おが屑30g、煮干粉砕物30g)、No.4(コーンコブ粉砕物100g、ビール酵母30g、麦粉50g)、No.5(コーンコブ粉砕物50g、酵母エキス30g、割麦100g)、No.6(割麦120g、酵母エキス30g、コーンコブ粉砕物30g)、No.7(割麦160g、酵母エキス10g、コーンコブ粉砕物10g)、No.8(割麦120g、酵母エキス15g、豆皮15g、コーンコブ粉砕物30g)、No.9(割麦50g、サナギ粉30g、コーンコブ粉砕物100g)、No.10(割麦50g、サナギ粉15g、酵母15g、コーンコブ粉砕物100g)を使用し、水300mlを加えて、実施例6と同様に培地を作成し、栽培を行い比較した。子実体乾燥重量及び新規化合物総量を表5に示した。
【0073】
【表5】

【0074】
実施例8(本発明の新規化合物を含む固形組成物の製造)
実施例1の方法により、適当な純度まで精製した部分精製品(固形物)に、倍量の重量のコーンスターチを加え、均一になるまで混合・練合する。この練合物を乾燥機にて60〜70℃で24時間乾燥する。乾燥物をミキサーにて粉砕して粉末とした。この粉末は、医薬組成物又は食品組成物として利用できるものである。
【0075】
実施例9(本発明の新規化合物を含む固形組成物の製造)
実施例1の方法により、適当な純度まで精製した部分精製品(水性液)を、デキストリン及びグアガムの混合物に噴霧して顆粒を形成した。この顆粒は、実施例8と同様に医薬組成物又は食品組成物として利用できるものである。
【0076】
実施例10(本発明の新規化合物を含む液状組成物の製造)
実施例1の方法により、適当な純度まで精製した部分精製品(固形物)150mg、精製大豆油125g、ミツロウ15mg及びビタミンE10mgを窒素ガス雰囲気下で約40℃に加温し、十分に混合し、均質な液状物とした。これをカプセル充填機に供給して1粒内容量300mgのゼラチンカプセル製剤を試作した。この製剤は、実施例8と同様に医薬組成物又は食品組成物として利用できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明のセキステルペン系新規化合物IJ−1の1H NMRのスペクトルである。
【図2】本発明のセキステルペン系新規化合物IJ−1の13C NMRのスペクトルである。
【図3】本発明のセキステルペン系新規化合物IJ−2の1H NMRのスペクトルである。
【図4】本発明のセキステルペン系新規化合物IJ−2の13C NMRのスペクトルである。
【図5】本発明のセキステルペン系新規化合物IJ−3の1H NMRのスペクトルである。
【図6】本発明のセキステルペン系新規化合物IJ−3の13C NMRのスペクトルである。
【図7】本発明のセキステルペン系新規化合物IJ−4の1H NMRのスペクトルである。
【図8】本発明のセキステルペン系新規化合物IJ−4の13C NMRのスペクトルである。
【図9】本発明のセキステルペン系新規化合物IJ−5の1H NMRのスペクトルである。
【図10】本発明のセキステルペン系新規化合物IJ−5の13C NMRのスペクトルである。
【図11】本発明のセキステルペン系新規化合物IJ−6の1H NMRのスペクトルである。
【図12】本発明のセキステルペン系新規化合物IJ−6の13C NMRのスペクトルである。
【図13】本発明の新規化合物IJ−1、IJ−3及びIJ−4のPC12細胞に対する効果を示した位相差光学顕微鏡像の写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】

【化1】

で表されるセスキテルペン系化合物。
【請求項2】

【化2】

で表されるセスキテルペン系化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の化合物を冬虫夏草から採取することを特徴とする、セスキテルペン系化合物の製造方法。
【請求項4】
上記冬虫夏草が、穀類、又は穀類及び酵母もしくはその抽出物を添加した培地で人工栽培されたものである、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の化合物と、医薬として許容できる担体を含む、神経細胞の分化誘導活性を有する医薬組成物。
【請求項6】
請求項2に記載の化合物と、医薬として許容できる担体を含む、癌細胞の増殖抑制活性を有する医薬組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の化合物と、医薬として許容できる担体を含む、脳神経細胞の細胞死を伴う疾患の予防用及び/又は治療用の医薬組成物。
【請求項8】
請求項2に記載の化合物と、医薬として許容できる担体を含む、癌の予防用及び/又は治療用の医薬組成物。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の化合物を含有する食品組成物であって、脳神経細胞の細胞死を伴う疾患の予防及び/又は治療に有効な食品組成物。
【請求項10】
請求項2に記載の化合物を含有する食品組成物であって、癌の予防及び/又は治療に有効な食品組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2007−70364(P2007−70364A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326040(P2006−326040)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【分割の表示】特願2002−52140(P2002−52140)の分割
【原出願日】平成14年2月27日(2002.2.27)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(390034142)ホクト株式会社 (14)
【Fターム(参考)】