説明

新規フェニルアミノイソニコチンアミド化合物

本発明は、癌、再狭窄および炎症のような過剰増殖性疾患の治療のために、式(I)で示される新規化合物、その製造および使用を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物における癌および炎症性疾患のような過剰増殖性疾患の治療において有用な、一連の置換フェニルアミノイソニコチンアミド化合物に関する。哺乳動物、特にヒトにおける過剰増殖性疾患の治療におけるそのような化合物の使用、およびそのような化合物を含む医薬組成物も開示する。
【背景技術】
【0002】
Ras/Raf/MEK/ERK経路は、複数の細胞表面受容体から、遺伝子発現を調節する核の転写因子に信号を伝達する中枢信号変換経路である。この経路はMAPキナーゼ経路と呼ばれることが多い、すなわち、MAPKはマイトジェンにより活性化されたタンパクキナーゼ(mitogen-activated protein kinase)を表しており、この経路が、マイトジェン、サイトカインおよび成長因子により刺激され得ることを示唆している(Steelman et al.,Leukemia 2004,18,189−218)。刺激および細胞型に依存して、この経路は信号を伝達することができ、その結果、アポトーシスまたは細胞周期の進行が防止または誘発される。
【0003】
Ras/Raf/MEK/ERK経路は、細胞増殖およびアポトーシス防止において重要な役割を果たすことが示されている。悪性形質転換された細胞において、この経路の異常な活性化が一般的に観察される。Rasプロトオンコジーンが増幅すること、および突然変異が活性化されて恒常的活性Rasタンパクが発現されることが、ヒトの全ての癌の約30%において観察される(Stirewalt et al.,Blood 2001,97,3589−95)。
【0004】
Rasの突然変異した発癌性型が、結腸癌の50%および膵臓癌の90%以上、および多くの他のタイプの癌において見られる(Kohl et al.,Science 1993,260,1834−1837)。増殖および腫瘍形成へのRasの効果が、不死細胞系に報告されている(McCubrey et al.,Int J Oncol 1995,7,295310)。悪性黒色腫の60%以上において、bRaf突然変異が確認された(Davies,H et al.,Nature 2002,417,949−954)。
【0005】
Rasで検出された突然変異が高度である場合、この経路は、治療的介入にとって重要な対象であると前々から考えられていた(Chang et al.,Leukemia 2003,77,1263−93)。
【0006】
Ras/Raf/MEK/ERK信号伝達経路は、NF−κκB、CREB、Ets−1、AP−1およびc−Mycを含む下流の転写因子標的を介する増殖を調節することができる。ERKは、Ets−1、AP−1およびc−Mycを直接リン酸化し、それらを活性化することができる。あるいは、ERKは、下流のキナーゼ標的RSKをリン酸化および活性化することができ、次に、CREBのような転写因子をリン酸化および活性化する。これらの転写因子は、細胞周期の進行に重要な遺伝子、例えば、Cdk’s、cyclinsおよび成長因子、およびアポトーシス防止に重要な遺伝子、例えば、antiapoptotic Bcl−2およびサイトカインの発現を誘発する。全体としては、細胞を成長因子で処理するとERKが活性化し、その結果、増殖および、ある場合には、分化が生じる(Lewis et al.,Adv.Cancer Res,1998,74,49−139)。
【0007】
MEK遺伝子ファミリーは、MEK1、MEK2、MEK3、MEK4およびMEK5の5つの遺伝子からなる。この二重特異性キナーゼのファミリーは、セリン/スレオニンおよびチロシンキナーゼ活性の両方を有する。MEKの構造は、アミノ末端の負の調節領域とカルボキシ末端のMAPキナーゼ結合領域とからなり、これは、ERKの結合と活性化に必要である。調節MEK1領域が欠失する結果、恒常的MEK1およびERK活性化が生じる(Steelman et al.,Leukemia 2004,18,189−218)。
【0008】
MEK1は分子量44kDaの393−アミノ酸タンパクである(Crews et al.,Science 1992,258,478−80)。MEK1は胚発生期において穏やかに発現され、成人の組織において上昇し、脳組織において最も高水準で検出される。MEK1は、S218およびS222をリン酸化して活性化させ、これらの残基をアスパラギン酸(D)またはグルタミン酸(E)で置換して活性を向上させると共にNIH3T3細胞中にフォーカスを形成することを要求する(Huang et al.,Mol Biol Cell,1995,6,237−45)。初代培養細胞におけるMEK1の恒常的活性は老化を促進しp53およびp16INK4aを誘発するが、不死化細胞またはp53もしくはp16INK4aのいずれかを欠く細胞においては、逆のことが観察された(Lin et al.,Genes Dev,1998,12,3008−3019)。MEK1の恒常的活性は、p38 MAPK活性を負の方向に調節することにより、NF−κκB転写を阻害する(Carter et al.,J Biol Chem 2000,275,27858−64)。MEKの主な生理学的基質は、タンパクのERK(細胞外信号調節キナーゼ)またはMAPK(マイトジェン活性化タンパクキナーゼ)ファミリーの一員である。MEK1の異常発現が、多くの異なるタイプの癌において検出され、MEK1の突然変異型が、線維芽細胞、造血細胞および他の細胞型を形質転換する。
【0009】
MEK1の恒常的活性化の結果として、細胞が形質転換される。従って、MEK1は、増殖性および炎症性疾患における薬理学的介入のための有望なターゲットである(Lee et al.,Nature 1994,372,739−746(非特許文献1);Dudley et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.1995,92,7686−7689)。
【0010】
複数の研究において治療的利益の見込みのあるMEKの有用な阻害剤が開発された。例えば、低分子MEK阻害剤が、ヌードマウス異種移植片においてヒトの腫瘍の成長を阻害することが示された(Yeh,T.et al,Proceedings of the American Association of Cancer Research 2004,45,Abs 3889 and Lee,P.et al.,Proceedings of the American Association of Cancer Research 2004,45,Abs 3890)。MEK阻害剤は臨床試験も行われている、すなわち、ARRY142886(Wallace,E. et al,Proceedings of the American Association of Cancer Research 2004,45,Abs3891;Adjei,A.A.et al,Journal of Clinical Oncology 2008,26,2139−2146;Shannon,A.M.et al,Molecular Cancer Therapeutics 2007,6,3414S−3415S Part 2)、PD−0325901(Swanton C,Johnston S IDDB MEETING REPORT 2003,February 13−1; Haura,E.B.et al,Molecular Cancer Therapeutics 2007,6,3468S−3469S Part 2;LoRusso,P.A. et al,Molecular Cancer Therapeutics 2007,6,3469S−3470S Part2)、PD−184352(Waterhouse et al.,Proceedings of the American Society for Clinical Oncology 2003,22,Abs 816)、XL−518(Johnston,S.,Molecular Cancer Therapeutics 2007,6,3595S−3595S Part 2)、RDEA−119(2007 press release)およびRDEA−436(2008 press release)。
【0011】
MEK阻害剤として適した化合物は、US5,525,625(特許文献1)、WO98/43960、WO99/01421、WO99/01426、WO00/41505、WO00/42002、WO00/42003、WO00/41994、WO00/42022、WO00/42029、WO00/68201、WO01/68619、WO02/06213、WO03/077855、WO03/077914、WO2004/005284、WO2004/056789、WO2006/045514、WO2008/076415、WO2007/121269およびWO2007/121481にも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5525625号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Lee et al.,Nature 1994,372,739−746
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
哺乳動物における癌および炎症のようなMEKの過剰活性に係わる過剰増殖性疾患およびMEKカスケードにより修飾される疾患の治療において有用であり、それらの活性と、それらの可溶性、代謝クリアランスおよび生体利用性との両方について優れた薬理的特性を奏する、新規MEK阻害剤を提供することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0015】
結果として、本発明は、MEK阻害剤であって前記疾患の治療において有用である、新規置換フェニルアミノイソニコチンアミド化合物および医薬的に許容されるその塩、溶媒和物またはプロドラッグを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0016】
化合物は、
式(I)により定義される化合物、
式(I)
【0017】
【化1】

【0018】
(式中:
XはNHまたはO、
1水素、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、SHまたはHal、
2は水素、メトキシ、エトキシ、アセチレン、シアノ、SHまたはHal、
3およびR4は独立して水素、SHまたはHalから選択され、
5およびR6は独立してOH、SHまたはNH2から選択され、
HalはF、Cl、BrまたはIである。)、
および医薬的に許容されるその塩、溶媒和物、またはプロドラッグである。
【0019】
好ましいのは、式(I)の下位式(IA)、(IB)、(IC)、(ID)、(IE)、(IF)、(IG)および(IH)で示される化合物、および医薬的に許容されるその塩、溶媒和物またはプロドラッグである。
【0020】
下位式IAにおいて、
XはNH、
1はHal、メチルまたはエチル、
2は水素、Hal、メトキシまたはアセチレン、
3は水素またはHal、
4は水素またはHal、
5およびR6はOH、
HalはF、Cl、BrまたはIである。
【0021】
下位式IBにおいて、
XはNH、
1はHal、
2は水素またはHal、
3は水素またはHal、
4は水素またはHal、
5およびR6はOH、
HalはF、Cl、BrまたはIである。
【0022】
下位式ICにおいて、
XはNH、
1はF、Cl、メチルまたはエチル、
2は水素、I、Br、メトキシまたはアセチレン、
3は水素またはHal、
4は水素またはHal、
5およびR6はOH、
HalはF、Cl、BrまたはIである。
【0023】
下位式IDにおいて、
XはNH、
1はF、Cl、メチルまたはエチル、
2は水素、I、Br、メトキシまたはアセチレン、
3は水素またはF、
4は水素またはCl、
5およびR6はOHである。
【0024】
下位式IEにおいて、
XはNH、
1はFまたはCl、
2はIまたはBr、
3は水素またはF、
4は水素またはCl、
5およびR6はOHである。
【0025】
下位式IFにおいて、
XはNH、
1はFまたはCl、
2はIまたはBr、
3は水素またはF、
4は水素またはCl、
5およびR6はOHである。
【0026】
下位式IGにおいて、
XはNH、
1はFまたはCl、
2はIまたはBr、
3は水素、
4は水素、
5およびR6はOHである。
【0027】
および下位式IHにおいて、
XはNH、
1はF、
2はI、
3は水素またはF、
4は水素またはCl、
5およびR6はOHである。
【0028】
式(I)およびその下位式IA、IB、IC、ID、IE、IF、IGおよびIHで示される化合物のより好ましい群は、式(II)に相当する:
【0029】
【化2】

【0030】
(式中、R1、R2、R3およびR4は、式(I)またはその好ましい下位式IA、IB、IC、ID、IE、IF、IGまたはIHについて示した意味を有する。)。
【0031】
式(I)および/または式(II)で示される特に好ましい化合物として、下記化合物からなる群のもの、またはその医薬的に許容される塩、溶媒和物またはプロドラッグが挙げられる:
【0032】
【表1−1】

【0033】
【表1−2】

【0034】
二つの構造がその間の「+」サインと共に示される場合、二つの光学異性体の1:1ラセミ混合物であることを示す。
【0035】
本発明の化合物は、プロドラッグ化合物の状態であり得る。「プロドラッグ化合物」は、例えば、各々が酵素的または無酵素的に行われる酸化、還元、加水分解等により、生体内において生理学的条件下に本発明の生物学的活性化合物に転化される誘導体を意味する。プロドラッグの例は、本発明の化合物のアミノ基がアシル化、アルキル化またはリン酸化されたもの、例えば、エイコサノイルアミノ、アラニルアミノ、ピバロイルオキシメチルアミノ、またはヒドロキシル基がアシル化、アルキル化、リン酸化もしくはホウ酸エステルに転化されたもの、例えば、アセチルオキシ、パルミトイルオキシ、ピバロイルオキシ、スクシニルオキシ、フマリルオキシ、アラニルオキシ、またはカルボキシル基がエステル化もしくはアミド化されたもの、またはスルフヒドリル基がキャリア分子とジスルフィド橋を形成したもの、例えば、薬剤を選択的にターゲットおよび/または細胞の細胞質に送達するペプチドである。これらの化合物は、本発明の化合物から、よく知られている方法に従って製造することができる。プロドラッグの他の例は、本発明の化合物のカルボキシレートが、例えば、アルキル−、アリール−、コリン−、アミノ、アシルオキシメチルエステル、リノレノイル−エステルに転化されている化合物である。本発明の化合物の代謝産物も、本発明の範囲内に含まれる。
【0036】
本発明の化合物またはそれらのプロドラッグの互変異性、例えば、ケト−エノール互変異性が起こる場合、個々の型、例えば、ケトまたはエノール型が、別々に、および一緒になって任意の比の混合物として権利請求される。同じことが、立体異性体、例えば、光学異性体、シス/トランス異性体、配座異性体などにあてはまる。
【0037】
要すれば、異性体を、当該分野でよく知られている方法、例えば、液体クロマトグラフィーにより分離することができる。同じことが、例えば、キラル固定相を用いることにより、光学異性体に適用される。さらに、光学異性体は、それらをジアステレオマーに転化することにより単離することができる、すなわち、エナンチオマーとして純粋な補助化合物とカップリングさせ、続いて、得られるジアステレオマーを分離し、補助残基を開裂させることにより単離することができる。あるいは、光学的に純粋な出発材料を用いる立体選択的合成から、本発明の化合物の任意の光学異性体を得ることができる。
【0038】
本発明の化合物は、医薬的に許容される塩または溶媒和物の状態であり得る。「医薬的に許容される塩」という用語は、無機の塩基または酸、および有機の塩基または酸を含む医薬的に許容される非毒性の塩基または酸から調製される塩を意味する。本発明の化合物が一種または二種以上の酸性または塩基性基を含む場合、本発明は、それらの対応する医薬的にまたは毒物学的に許容される塩、特に、それらの医薬的に利用可能な塩も含む。すなわち、酸性基を含む本発明の化合物は、塩の状態で存在することができ、本発明に従って、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩またはアンモニウム塩として用いることができる。そのような塩のより的確な例として、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、または、例えばエチルアミン、エタノールアミン、トリエタノールアミンもしくはアミノ酸のような有機アミンとのまたはアンモニアとの塩が挙げられる。塩基性基、すなわちプロトン化し得る基を一種または二種以上含む本発明の化合物は、塩の状態で存在することができ、本発明に従って、無機または有機酸とのそれらの付加塩の状態で用いることができる。適切な酸としては、例えば、塩化水素、臭化水素、リン酸、硫酸、硝酸、メタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、シュウ酸、酢酸、酒石酸、乳酸、サリチル酸、安息香酸、蟻酸、プロピオン酸、ピバル酸、ジエチル酢酸、マロン酸、コハク酸、ピメリン酸、フマル酸、マレイン酸、リンゴ酸、スルファミン酸、フェニルプロピオン酸、グルコン酸、アスコルビン酸、イソニコチン酸、クエン酸、アジピン酸、および、当業者に知られている他の酸が挙げられる。本発明の化合物が、酸性基と塩基性基とを同時に分子内に含む場合、本発明は、前記塩型に加えて、分子内塩またはベタイン(両性イオン)も含む。それぞれの塩は、当業者に知られている一般的方法により、例えば、それらを溶媒または分散剤中で有機または無機の酸または塩基に接触させることにより、または、他の塩とのアニオン交換またはカチオン交換により得ることができる。本発明は、生理学的適合性が低いために薬剤中に用いるのに直接適してはいないが例えば化学反応のためのまたは医薬的に許容される塩の調製のための中間体として用いることができる、本発明の化合物の全ての塩も含む。
【0039】
さらに、本発明は、医薬的に許容されるキャリアと共に、有効成分としての本発明の化合物、そのプロドラッグ化合物、またはその医薬的に許容される塩もしくは溶媒和物を含む医薬組成物に関する。
【0040】
「医薬組成物」は、一種または二種以上の有効成分、および、キャリアを構成する一種または二種以上の不活性成分、並びに、それら成分の任意の二種またはそれ以上の組合せ、錯体もしくは集合から、それら成分の一種または二種以上の解離から、またはそれら成分の一種または二種以上の他のタイプの反応または相互作用から、直接または間接的に生じる任意の生成物を意味する。従って、本発明の医薬組成物は、本発明の化合物と医薬的に許容されるキャリアとを混合することにより作られる組成物を包含する。
【0041】
本発明の医薬組成物は、本発明の一種または二種以上のさらなる化合物、またはプロドラッグ化合物もしくは他のMEK阻害剤のような、一種または二種以上の他の化合物を有効成分としてさらに含んでよい。これら医薬組成物としては、経口投与、直腸投与、局所投与、非経口投与(皮下、筋肉内および静脈内を含む)、眼内投与(眼球)、肺投与(鼻孔吸入または口腔吸入)、または鼻腔投与に適した組成物が挙げられるが、所定の場合における最適の経路は、治療される症状の性質および重症度、および有効成分の性質に依存する。これらは、単位剤型として提供されることが好都合であり、製薬学の分野でよく知られている方法により調製され得る。
【0042】
一つの態様において、前記化合物および医薬組成物は、癌、例えば、脳腫瘍、肺癌、扁平上皮癌、膀胱癌、胃癌、膵臓癌、乳癌、頭部癌、頸部癌、腎癌、腎臓癌、卵巣癌、前立腺癌、結腸直腸癌、食道癌、精巣癌、婦人科癌、甲状腺癌、黒色腫、血液悪性腫瘍、例えば、急性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、慢性骨髄性白血病、骨髄細胞白血病、または他のタイプの固形もしくは液状腫瘍の治療のためのものである。もう一つの態様において、前記医薬組成物は、非癌性過剰増殖性疾患、例えば、皮膚の良性過形成(例えば乾癬)、再狭窄、多発性嚢胞腎、または前立腺疾患(例えば前立腺肥大(BPH))の治療のためのものであり、炎症性および自己免疫性疾患、例えば、関節リウマチ、クローン病、喘息、潰瘍性大腸炎、過敏性腸症候群、多発性硬化症、紅斑性狼瘡および他の疾患の治療のためのものでもある。もう一つの態様において、前記医薬組成物は、MEK/ERK経路の上方調節を特徴とする遺伝状態、例えば、コステロ症候群、ヌーナン症候群、カルディオファシオクタニアス(CFC:cardiofaciocutaneous)症候群および他の疾患の治療のためのものである。
【0043】
本発明は、哺乳動物におけるMEKの過剰活性に係わる過剰増殖性疾患およびMEKカスケードにより媒介される疾患、または、癌や炎症のような異常増殖により媒介される疾患の治療のための薬剤を調製するための、本発明の化合物の使用にも関する。
【0044】
本発明は、治療有効量の本発明の化合物または医薬的に許容されるその塩、プロドラッグもしくは水和物、および医薬的に許容されるキャリアを含んでなる、哺乳動物における膵炎または腎臓病(腎疾患により誘発される増殖性糸球体腎炎および糖尿病を含む)または疼痛を治療するための化合物または医薬組成物にも関する。
【0045】
本発明は、治療有効量の本発明の化合物または医薬的に許容されるその塩、プロドラッグもしくは水和物、および医薬的に許容されるキャリアを含んでなる、哺乳動物における未分化胚芽細胞の転移を防止するための化合物または医薬組成物にも関する。
【0046】
本発明は、治療有効量の本発明の化合物または医薬的に許容されるその塩、プロドラッグもしくは水和物、および医薬的に許容されるキャリアを含んでなる、哺乳動物における脈管形成または血管形成に関する疾患を治療するための化合物または医薬組成物にも関する。
【0047】
一つの態様において、前記化合物または医薬組成物は、腫瘍血管新生、慢性炎症性疾患、例えば、関節リウマチ、炎症性腸疾患、アテローム性動脈硬化症、皮膚疾患、例えば、乾癬、湿疹および強皮症、糖尿病、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、加齢(性)黄斑変性症、血管腫、神経膠腫、黒色腫、カポジ肉腫、および、卵巣癌、乳癌、肺癌、膵臓癌、前立腺癌、結腸癌および扁平上皮癌からなる群より選択される疾患を治療するためのものである。
【0048】
本発明は、治療有効量の本発明の化合物または医薬的に許容されるその塩、プロドラッグもしくは水和物を哺乳動物に投与することを含んでなる、哺乳動物における過剰増殖性疾患を治療するための使用にも関する。一つの態様において、前記使用は、癌、例えば、脳腫瘍、肺癌、扁平上皮癌、膀胱癌、胃癌、膵臓癌、乳癌、頭部癌、頸部癌、腎癌、腎臓癌、卵巣癌、前立腺がん、結腸直腸癌、食道癌、精巣癌、婦人科癌または甲状腺癌の治療に関する。もう一つの態様において、前記使用は、非癌性過剰増殖性疾患、例えば、皮膚の良性過形成(例えば乾癬)、再狭窄、または前立腺疾患(例えば前立腺肥大(BPH))の治療に関する。
【0049】
本発明は、分裂抑制剤、アルキル化剤、代謝拮抗物質、挿入抗生物質、成長因子抑制剤、血管新生阻害剤、細胞周期抑制剤、酵素阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、生物反応修飾物質、抗ホルモン、血管形成阻害剤、および抗アンドロゲンまたは免疫調節物質からなる群より選択される抗腫瘍薬と組み合わせて、治療有効量の本発明の化合物または医薬的に許容されるその塩、プロドラッグもしくは水和物を哺乳動物に投与することを含んでなる、哺乳動物における過剰増殖性疾患を治療するための使用にも関する。
【0050】
本発明は、治療有効量の本発明の化合物または医薬的に許容されるその塩、プロドラッグもしくは水和物を哺乳動物に投与することを含んでなる、哺乳動物における膵炎もしくは腎臓疾患または疼痛を治療するための使用にも関する。本発明は、治療有効量の本発明の化合物または医薬的に許容されるその塩、プロドラッグもしくは水和物を哺乳動物に投与することを含んでなる、哺乳動物における未分化胚芽細胞の転移を防止するための使用にも関する。
【0051】
本発明は、治療有効量の本発明の化合物または医薬的に許容されるその塩、プロドラッグもしくは水和物を哺乳動物に投与することを含んでなる、哺乳動物における脈管形成または血管形成に係わる疾患を治療するための使用にも関する。一つの態様において、前記方法は、腫瘍血管新生、慢性炎症性疾患、例えば、関節リウマチ、アテローム性動脈硬化症、炎症性腸疾患、皮膚疾患、例えば、乾癬、湿疹および強皮症、糖尿病、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、加齢(性)黄斑変性症、血管腫、神経膠腫、黒色腫、カポジ肉腫、および、卵巣癌、乳癌、肺癌、膵臓癌、前立腺癌、結腸癌および扁平上皮癌からなる群より選択される疾患を治療するためのものである。本発明の方法に従って、本発明の化合物またはその化合物の医薬的に許容される塩、プロドラッグおよび水和物で治療することができる患者としては、例えば、乾癬、再狭窄、アテローム性動脈硬化、BPH、肺癌、骨肉種、慢性骨髄単球性白血病、膵臓癌、皮膚癌、頭部および頸部の癌、皮膚または眼内黒色腫、子宮癌、卵巣癌、直腸癌、肛門部の癌、胃癌、結腸癌、乳癌、精巣癌、婦人科腫瘍(例えば、子宮肉腫、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌または外陰癌)、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系癌(例えば、甲状腺、副甲状腺または副腎の癌)、軟組織の肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、慢性または急性白血病、小児の固形腫瘍、リンパ球性リンパ腫、膀胱癌、腎臓または尿管の癌(例えば、腎細胞癌、腎盂癌)、または中枢神経系の新生物(例えば、中枢神経系原発リンパ腫、脊髄軸腫瘍、脳幹グリオーマまたは下垂体腺腫)を有すると診断された患者が挙げられる。
【0052】
本発明は、哺乳動物における異常細胞成長を阻害するための化合物または医薬組成物であって、所定量の本発明の化合物または医薬的に許容されるその塩もしくは溶媒和物もしくはプロドラッグを、所定量の他の抗癌治療薬と共に含んでなり、その化合物、塩、溶媒和物またはプロドラッグの量とその化学治療薬の量とが一緒になって異常細胞成長の阻害に効果的であることを特徴とする化合物または医薬組成物にも関する。現在、当該分野において多くの抗癌治療薬が知られている。一つの態様において、抗癌治療薬は、分裂抑制剤、アルキル化剤、代謝拮抗物質、挿入抗生物質、成長因子抑制剤、細胞周期抑制剤、酵素阻害剤、トポイソメラーゼ阻害剤、生物反応修飾物質、抗ホルモン、血管形成阻害剤および抗アンドロゲンからなる群より選択される化学治療薬である。もう一つの態様において、抗癌治療薬は、ベバシズマブ、CD40−特異的抗体、chTNT−1/B、デノスマブ、ザノリムマブ、IGF1R−特異的抗体、リンツズマブ、エドレコロマブ、WX G250、リツキシマブ、チシリムマブ、トラスツズマブおよびセツキシマブからなる群より選択される抗体である。
【0053】
本発明は、さらに、哺乳動物における異常細胞成長を阻害するまたは過剰増殖性疾患を治療する方法であって、放射線治療薬と組み合わせて、所定量の本発明の化合物または医薬的に許容されるその塩もしくは溶媒和物もしくはプロドラッグを哺乳動物に投与することを含んでなり、その化合物、塩、溶媒和物またはプロドラッグの量が、放射線治療薬と組み合わせて、哺乳動物における異常細胞成長の阻害または過剰増殖性疾患の治療において効果的であることを特徴とする方法に関する。放射線治療薬を投与する技術は当該分野で知られており、これらの技術を、明細書に記載の組合せ療法において用いることができる。この組合せ治療における本発明の化合物の投与は、明細書に記載のように決めることができる。本発明の化合物は、異常細胞の成長を阻害および/または殺す目的で、異常細胞を放射線での治療に対してより感受性にすることができると考えられる。
【0054】
従って、本発明は、さらに、哺乳動物において異常細胞を放射線での治療に感受性にする方法であって、所定量の本発明の化合物または医薬的に許容されるその塩もしくは溶媒和物もしくはプロドラッグを哺乳動物に投与することを含んでなり、その量が異常細胞を放射線治療に対して感受性にするのに効果的であることを特徴とする方法に関する。この方法における化合物、塩または溶媒和物の量は、ここに記載のそれら化合物の有効量を調べるための手段に従って決めることができる。本発明は、所定量の本発明の化合物または医薬的に許容されるその塩または溶媒和物、そのプロドラッグ、または同位体で標識されたその誘導体、および、抗血管形成剤、信号伝達阻害剤および抗増殖剤から選択される所定量の一種または二種以上の物質を含んでなる哺乳動物における異常細胞成長を阻害するための方法にも関する。
【0055】
実際の使用において、本発明の化合物を有効成分として、従来の医薬配合技術に従って医薬キャリアと組み合わせて緊密混合することができる。キャリアは、例えば、経口または非経口(静脈内を含む)のような投与に要望される製剤型に依存して、種々の形状を取ってよい。経口投与型の組成物の調製において、例えば水、グリコール、オイル、アルコール、香味剤、防腐剤、着色剤などのようないかなる通常の医薬媒体を用いてもよい。経口液状製剤の場合、任意の通常の医薬媒体を用いてよく、例えば、懸濁液、エリキシルおよび溶液;または、キャリア、例えば、澱粉、糖類、微結晶性セルロース、希釈剤、造粒剤、潤滑剤、バインダー、崩壊剤などを用いてよい。経口固形製剤の場合、組成物は、例えば、粉末、硬質および軟質カプセル、および錠剤のような形状をとってよく、固形経口製剤が、液状製剤よりも好ましい。
【0056】
その投与の容易性故に、錠剤およびカプセルが最も有利な経口投与単位型であり、その場合、明らかに固形医薬キャリアが用いられる。要すれば、錠剤を、標準的水性または非水性技術により被覆してよい。そのような組成物および製剤は、少なくとも0.1%の活性化合物を含むべきである。これらの組成物中の活性化合物の百分率はもちろん変化してよく、単位の重量の約2%〜約60%の間が好都合である。そのような治療に有用な組成物中の活性化合物の量は、有効投与量が得られるような量である。活性化合物は、例えば液状ドロップまたはスプレーとして、鼻腔内投与することもできる。
【0057】
錠剤、ピル、カプセル等は、バインダー、例えばトラガカントガム、アカシア、コーンスターチまたはゼラチン;賦形剤、例えばリン酸ジカルシウム;崩壊剤、例えばコーンスターチ、じゃがいも澱粉、アルギン酸;潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウム;および甘味料、例えばスクロース、ラクトースまたはサッカリンを含んでもよい。投与単位型がカプセルの場合、前記タイプの材料に加えて、脂肪油のような液状キャリアを含んでよい。
【0058】
種々の他の材料が、被覆として、または、投与単位の物理的形状を変化させるために存在してよい。例えば、錠剤をシェラック、糖類またはその両方で被覆してよい。シロップまたはエリキシルは、有効成分に加えて、甘味料としてのスクロース、防腐剤としてのメチルおよびプロピルパラベン、および染料および香味料、例えば、チェリーまたはオレンジフレーバーを含んでよい。
【0059】
本発明の化合物は、非経口的に投与してもよい。ヒドロキシ−プロピルセルロースのような界面活性剤と適切に混合された水中で、これら活性化合物の溶液または懸濁液を調製することができる。グリセロール中で、液状ポリエチレングリコール中で、および油中のそれらの混合物の中で分散液を調製することもできる。貯蔵および使用の一般的条件下において、これらの製剤は、微生物の成長を防止するために防腐剤を含む。
【0060】
注入性用途に適した医薬型としては、滅菌注入性溶液または分散液の即時調製のための滅菌水性溶液または分散液、および滅菌粉末が挙げられる。全ての場合、剤型は無菌でなくてはならず、注入が容易である程度に流体でなくてはならない。これは、製造および貯蔵の条件下に安定でなくてはならず、細菌および真菌のような微生物の汚染作用に対して保護されなくてはならない。キャリアは、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコールおよび液状ポリエチレングリコール)、それらの適当な混合物、および植物油を含む溶媒または分散媒であり得る。
【0061】
哺乳動物、特にヒトに、有効量の本発明の化合物を提供するために、いかなる適当な投与経路を用いてもよい。例えば、経口、直腸、局所、非経口、眼内、肺、鼻孔などを用いてよい。投与型としては、錠剤、トローチ、分散液、懸濁液、溶液、カプセル、クリーム、軟膏、エアロゾル等が挙げられる。好ましくは、本発明の化合物は経口投与される。
【0062】
用いられる有効成分の有効投与量は、用いられる特性の化合物、投与方式、治療される状態、および治療される症状の重症度に依存して変わり得る。そのような投与量は、当業者により容易に確認することができる。
【0063】
本発明の化合物が適用される癌、炎症または他の増殖性疾患を治療または予防する場合、本発明の化合物を、動物の体重1kg当たり約0.01mg〜約100mgの一日容量で投与、好ましくは、毎日一回の服用とすれば、概して満足できる結果が得られる。大部分の大型哺乳動物にとって、合計日容量は約0.1mg〜約1000mg、好ましくは約0.2mg〜約50mgである。70kgの成人ヒトの場合、合計日容量は、通常、約0.2mg〜約200mgである。この投与方式を、最適治療反応を提供するように調節することができる。
【0064】
本発明は、
(a)有効量の本発明の化合物または生理学的に許容されるその塩、溶媒和物またはプロドラッグ、および
(b)有効量のさらなる医薬有効成分
の別々のパックからなるセット(キット)にも関する。
【0065】
このセットは、適切な容器、例えば、箱、個々の瓶、袋またはアンプルを含む。このセットは、例えば、別々のアンプルを含み、各アンプルは、有効量の本発明の化合物および/または医薬的に利用可能なその誘導体、溶媒和物および立体異性体(任意の割合のそれらの混合物を含む)、および有効量のさらなる医薬有効成分を、溶解または凍結乾燥された状態で含む。
【0066】
本出願で現れる略号は以下の如くである。
【0067】
(略号)
【0068】
【表2−1】

【0069】
【表2−2】

【0070】
本発明の化合物は、適切な材料を用いて、以下のスキームおよび実施例の手順に従って調製することができ、さらに、以下の具体例により例示される。さらに、当該分野における通常の知識と組み合わせて、ここに記載の手順を利用することにより、ここに特許請求している本発明のさらなる化合物を容易に調製することができる。しかしながら、実施例に示される化合物は、本発明と考えられる唯一の種類を形成すると解釈すべきでない。これらの実施例は、さらに、本発明の化合物の調製のための詳細を説明する。当業者は、以下の調製手順の条件およびプロセスを変化させてこれらの化合物を調製し得ることを、容易に理解する。
【0071】
本発明の化合物は、通常、前述のような医薬的に許容される塩の状態で単離される。単離された塩に対応するアミン非含有塩基は、水性炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムのような適当な塩基を用いて中和し、遊離されたアミン非含有塩基を有機溶媒中に抽出し、続いて蒸発させることにより発生させることができる。このように単離されたアミン非含有塩基は、有機溶媒中に溶解し、次に適当な酸を添加し、続いて、蒸発、沈殿または結晶化することにより、さらに、別の医薬的に許容される塩に転化することができる。
【0072】
本発明の化合物の調製の説明を、以下のスキームに示す。スキーム中に特記しなければ、変化させたものは、前述と同じ意味を有する。
【0073】
本発明は、以下に記載のスキームおよび実施例に従って、式(I)、(II)および下位式IA〜IHで示される化合物、および表1に記載の化合物を製造するための方法にも関する。
【0074】
スキーム1
スキーム1は、式(I)で示される全ての実施例2.1〜2.20の合成のために用いられる一般的合成経路を示す。第1の工程は、置換アニリン(11)と3−フルオロ−イソニコチン酸またはその誘導体(12)との間の、それぞれの酸中間体(13)を提供するための、縮合反応である。酸中間体を、順次、適切なアミンまたはアルコールと反応させて、それぞれアミドまたはエステル(14)を提供した。保護基(例えばアセトニド基など)が存在する場合、最後に適切な脱保護工程が含まれて、化合物(15)を得た。
【0075】
【化3】

【0076】
スキーム2
スキーム2は、好ましいアミンジオール中間体またはそのジオール保護類似体の合成を示す。この合成は、ラセミ体シクロヘクス−2−エノール(16)から、まずアセチル化で始まる。次に、(17)のアセチル基を、トロスト配位子(トロスト配位子)の存在下におけるカリウムフタルイミドとのパラジウム触媒反応において立体特異的に置換(Trost et al. in J.Am.Chem.Soc.1994、116、4089−4090に記載)して、化合物(18)を得る。次に、二重結合を四酸化オスミウムで処理することによりsyn−ジヒドロキシル化してジオール(19)を得、続いて、フタルイミド基を直接除去する(それによりアミン27を得る)、またはまずジオールをアセトニド(20)として保護し次にフタルイミド基を除去してアミン(21)を得た。
【0077】
【化4】

【0078】
スキーム3
スキーム3において、ラセミ体アミノジオールの合成を示す。(1)Nishikawa,N; Asai,M; Ohyabu,N; Isobe,M;J.Org.Chem.1988、188−192.および(2)Donohoe,J.T.; Blades,K; Moore,P.R.; Waring,M.J.; Winter,J.J.G.; Helliwell,M.; Newcombe,N.J.; Stemp,G;J.Org.Chem.2002、7946−7956に記載のように、合成は、ラセミ体シクロヘクス−2−エノール(16)のオーヴァーマン転移で始まり(トリクロルアセチミデート中間体を介して)、トリクロルアセトアミド(22)を得、次に、四酸化オスミウムで処理することによりsyn−ジヒドロキシル化されてジオール23−26を得る。得られる4種のアミノジオール(23−26)のジアステレオマー混合物を、アキラルクロマトグラフィーにより2種のラセミ対(23/24および25/26)に分離し、次に脱保護して対応するラセミ体アミノジオール(27/28および29/30)を得ることができる。
【0079】
【化5】

【実施例】
【0080】
以下に示す実施例は、本発明の特定の態様を説明することを意図しており、明細書の範囲または特許請求の範囲を制限することを決して意図していない。
【0081】
(1)分析
以下の2法を用いてLC/MS分析を行った。
【0082】
(方法A):Discovery C18,5μm,3×30mmカラムを使用、流量は400μL/分、サンプルループは5μl、移動相(A):0.1%蟻酸を含む水、移動相(B):0.1%蟻酸を含むメタノール、保持時間は分で示す。方法の詳細:(I)UV/Visダイオードアレイ検出器G1315B(Agilent製)およびFinnigan LCQ Duo MS検出器を備えるQuaternary Pump G1311A(Agilent製)において、ESI+モードで、254および280nmでUV検出し、3.2分線形グラジエントにおけるグラジエント15−95%(B)で実行、(II)95%(B)で1.4分保持、(III)0.1分線形グラジエントにおいて95%から15%(B)に低下、(IV)15%(B)で2.3分保持。
【0083】
(方法B):Waters Symmetry C18,3.5μm,4.6×75mmカラムを使用、流量は1ml/分、サンプルループは10μl、移動相(A):0.05%TFAを含む水、移動相(B):0.05%TFAを含むACN、保持時間は分で表す。方法の詳細:(I)UV/Visダイオードアレイ検出器G1315B(Agilent製)およびAgilent G1956B(SL)MS検出器を備えるBinary Pump G1312A(Agilent製)において、ESI+モードで、254および280nmでUV検出し、10分線形グラジエントにおけるグラジエント20−85%(B)で実行、(II)85%(B)で1分保持、(III)0.2分線形グラジエントにおいて85%から20%(B)に低下、(IV)20%(B)で3.8分保持。
【0084】
(キラルHPLC分析)
Agilent 1100 Seriesシステムにおいてダイセル化学工業製のChiralPak AD−Hカラム(250×4.6mm)を用いてキラルHPLC分析を行った。この方法において、注入体積は5.0μLとし、100%メタノールを25℃で流量1ml/分で15分間流し、254および280nmでUV検出を行った。
【0085】
(分取HPLC)
Waters Atlantis dC18 OBD(登録商標)10μM(30×250mm)カラムまたはWaters Sunfire Prep C18 OBD 10μM(30×250mm)カラムを用いて、分取HPLCを行った。これらカラムは、サンプルループ(10mL)およびISCO UA−6 UV/Vis検出器を備えるWaters Prep LC 4000システムにおいて、流量60mL/分で用いた。移動相は、(A)水および(B)HPLC級のアセトニトリルを含む2つの溶媒貯留器から引き出した。典型的分取操作で線形グラジエントを用いた(例えば、0−60%溶媒Bにて60分間)。
【0086】
(2)化学的合成
(2.1)酢酸シクロヘクス−2−エニル(17)
【0087】
【化6】

【0088】
2−シクロヘキセン−1−オール(16)(45.5mmol、5.02mL)をピリジン(0.27mol、22mL)中に含む溶液に、0℃で、無水酢酸を滴下し、反応混合物を0℃で0.5時間攪拌した。氷浴を除去し、混合物を室温で一晩攪拌した。混合物をEtOAcで希釈し、HCl(1N)、飽和NaHCO3および塩水で洗い、減圧下に濃縮して粗生成物17を6g(94%)得、これを、さらに精製することなく次の工程で用いた。TLCでは、5%H2SO4/EtOHを加えた20%EtOAc/ヘキサンを使用し、(16)のRfは0.4、(17)のRfは0.8であった。
【0089】
(2.2) 2−[(1R)−シクロヘクス−2−エン−1−イル]−1H−イソインドール−1,3(2H)−ジオン(18)
【0090】
【化7】

【0091】
無水DCM(40mL)中にカリウムフタルイミド(160mmol、29.6g)、N,N'−(1S,2S)−シクロヘキサン−1,2−ジイルビス[2−(ジフェニルホスフィノ)ベンズアミド](トロスト配位子)(6mmol、4.14g)、[Pd(p−アリル)Cl]2(2mmol、0.73g)およびテトラヘキシルアンモニウムブロミド(216mmol、94g)を含む混合物に、N2雰囲気下に、無水DCM40mL中の酢酸2−シクロヘキセン−1−イル(17)(13g、粗物)を加えた。混合物を、周囲温度で一晩攪拌した。次に、反応液を水(250ml)で急冷し、DCM(3×250ml)で抽出した。有機層を併せ、塩水(400ml)で洗い、Na2SO4で乾燥し、濃縮して粗生成物を黄色油状物として得た。MeOHから再結晶して、生成物9.024gを得た(純度:HPLCによると100%、収率:50%)。母液を、フラッシュクロマトグラフィー(10%EtOAc/ヘキサン)により精製して、化合物18を8.8g得た(純度:HPLCによると86%、収率:48%)。NMRおよびMSのデータは、公表論文に一致する:Trost,B.M.; Bunt,R.C.; J.Am.Chem.Soc.1994、4089−4090。
【0092】
(2.3) 2−[(1R,2S,3R)−2,3−ジヒドロキシシクロヘキシル]−1H−イソインドール−1,3(2H)−ジオン(19)
【0093】
【化8】

【0094】
2−[(1R)−シクロヘクス−2−エン−1−イル]−1H−イソインドール−1,3(2H)−ジオン(18)(19.9mmol、4.53g)および4−メチルモルホリン−N−オキシド(60mmol、7.01g)をアセトン/水(4:1、62.5mL)中に含む懸濁液に、四酸化オスミウム(0.2mmol、50mg)を加えた。反応液を4時間攪拌した。混合物を濃縮し、飽和亜硫酸ナトリウム(40mL)を加えた。次に、これを、迅速に、EtOAcで3回抽出した。併せた有機層を水および塩水で洗い、MgSO4で乾燥し、濃縮して粗生成物を白色固形物として得た(4.94g、収率:95%)。キラルHPLC[8.53分間]。分析データは、公表データに一致した(Donohoe,J.T.;et al.,J.Org.Chem.,2002,67,7946−7956)。
【0095】
(2.4) 2−[(3aS,4R,7aR)−2,2−ジメチルヘキサヒドロ−1,3−ベンゾジオキソール−4−イル]−1H−イソインドール−1,3(2H)−ジオン(20)
【0096】
【化9】

【0097】
2−[(1R,2S,3R)−2,3−ジヒドロキシシクロヘキシル]−1H−イソインドール−1,3(2H)−ジオン(19)(50.0g、191.4mmol)および2,2−メトキシプロパン(500mL、4.07mol)をアセトン(500mL)中に含む溶液に、触媒量のp−トルエンスルホン酸を加え、得られる反応混合物を室温で3時間攪拌した。反応液を、飽和Na2CO3溶液を用いて急冷してpHを10に調節し、溶媒を除去した。水(750mL)を残渣に加え、酢酸エチルで抽出した(2×750、500mL)。有機層を併せ、Na2SO4で乾燥し、濃縮して所望の生成物を白色固形物として得た(55.8g、収率:96.8%)。LC/MS[方法B:rt:6.16分;m/z:302(M+1)]。
【0098】
(2.5) (3aS,4R,7aR)−2,2−ジメチルヘキサヒドロ−1,3−ベンゾジオキソール−4−アミン(21)
【0099】
【化10】

【0100】
エタノール(500mL)中に2−[(3aS,4R,7aR)−2,2−ジメチルヘキサヒドロ−1,3−ベンゾジオキソール−4−イル]−1H−イソインドール−1,3(2H)−ジオン(20)(191.4mmol、50.0Og)およびヒドラジン(308.4mmol、15.0mL)を含む混合物を、4時間還流した。反応はHPLCでモニターした。HPLC分析は、反応が完了しなかったことを示した(86%転化)。さらなるヒドラジン3mLを反応混合物に加え、2時間還流した。反応液を0℃に冷却し、濾過した。フィルターケーキをIPAで洗い、乾燥して所望の生成物21を得た(9.52g、収率:21%、重量純度:NMRにより84%)。濾液を濃縮し、残渣をIPA(約200mL)に取り込んだ。副生物が結晶化し、濾過により取り出し、濾液から揮発分を除去し、乾燥して所望の生成物21の第二産物を得た(28.46g、収率:64%)。TLC(80%MeOH/EtOAcと酢酸1滴、ニンヒドリン軽度浸漬)。
【0101】
(2.6) 3−[(2−フルオロ−4−ヨードフェニル)アミノ]イソニコチン酸
【0102】
【化11】

【0103】
無水テトラヒドロフラン(80mL)中に2−フルオロ−4−ヨードフェニルアミン(20.0g、84.38mmol)を含む混合物を、不活性雰囲気下に−65℃に冷却してから、内部温度を−55℃より低温に維持する割合で1.0Mリチウムビス(トリメチルシリル)アミド(255mL、255mmol)をゆっくり添加した。最終的添加後、濃スラリーを30分間攪拌し、次に、3−フルオロ−イソニコチン酸(8.0g、56.69mmol)で処理した。混合物を室温で4日間攪拌し、次に、水性の2.0N水酸化ナトリウム(1000ml)および酢酸エチル (250ml)に注ぎ込んだ。層を分離し、有機層を再び水性水酸化ナトリウム(2×1000ml)で抽出した。併せた水性フラクションのpHを、濃塩酸で2に調節し、それにより固形分を沈殿させた。材料を濾過し、水(300ml)で洗い、高減圧下に40℃で18時間乾燥して生成物(19.05g、53.19mmol、94%)を黄色固形物として得た。
【0104】
(2.7) N−[(3aS,4R,7aR)−2,2−ジメチルヘキサヒドロ−1,3−ベンゾジオキソール−4−イル]−3−[(2−フルオロ−4−オドフェニル)アミノ]イソニコチンアミド(31)
【0105】
【化12】

【0106】
3−[(2−フルオロ−4−ヨードフェニル)アミノ]イソニコチン酸(10.46g、29.2mmol)、(3aS,4R,7aR)−2,2−ジメチルヘキサヒドロ−1,3−ベンゾジオキソール−4−アミン(21)(5.00g、29.2mmol)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(4.41g、29.2mmol)およびEDCI(5.6g、29.2mmol)をDMF(100mL)中に含む懸濁液を、室温で一晩攪拌した。反応液を水(150mL)で急冷し、酢酸エチル(150mL)で抽出した。乳濁液が形成され、これを集め、濾過し、濾液を有機層に組み合わせた。有機層を飽和NaHCO3溶液(150mL)および水(2×150mL)および塩水で洗い、Na2SO4で乾燥し、濃縮して褐色泡状物を得た。粗生成物を、IPAから結晶化することにより精製した。母液を濃縮し、フラッシュクロマトグラフィーにより精製して所望の生成物を得た(12g、収率:80%)。LC/MS[方法A: rt:7.35分; m/z: 512(M+1)]。
【0107】
(2.8) (N−[(1R,2S,3R)−2,3−ジヒドロキシシクロヘキシル]−3−[(2−フルオロ−4−ヨードフェニル)アミノ]イソニコチンアミド)(8)
【0108】
【化13】

【0109】
ジエチルエーテル中の2M HClの17.62mLを、N−[(3aR,4S,7aS)−2,2−ジメチルヘキサヒドロ−1,3−ベンゾジオキソール−4−イル]−3−[(2−フルオロ−4−ヨードフェニル)アミノ]イソニコチンアミド(31)(6.65mmol、3.15g)をMeOH(64mL)中に含む褐色溶液に添加し、得られる反応混合物を室温で5時間攪拌した。反応混合物を約30mLまで濃縮すると、黄色固形物が形成され、それを濾過して塩酸塩としての生成物を得た。その塩にMeOH10mLを加え、水酸化アンモニウムをpH10になるまで添加した。白色固形物が形成され、固形物(1.83g、収率:58%)を濾過により集め、水で洗った。濾液を濃縮して、第二産物を白色固形物として得た(0.56g、収率:18%)。LC/MS[方法B: rt: 5.83分; m/z: 472(M+1)]。キラルHPLC[7.06分]。
【0110】
(2.9) 2,2,2−トリクロロ−N−シクロヘクス−2−エン−1−イルアセトアミド(22)
【0111】
【化14】

【0112】
2−シクロヘキセン−1−オール(16)(18g、0.183mol)を無水ジクロロメタン(275ml)中に含む溶液に、DBU(41.88g、0.275mol)を加え、混合物を−20℃に冷却した。この溶液に、トリクロロアセトニトリル(47.66g、0.330mol)を滴下した。反応液を、−20℃で3時間攪拌し、塩化アンモニウム水溶液で急冷した。有機相を分離し、炭酸カリウムで乾燥した。溶媒を減圧下に除去して、中間体シクロヘクス−2−エン−1−イル 2,2,2−トリクロロエタンイミドエートを得た。これをトルエン(100ml)に溶解し、炭酸カリウム(30g)で処理した。混合物を12時間還流した。冷却後、混合物をセライトを通して濾過し、濾液を蒸発させて化合物(22)9g(20%)を固形物として得た。LC/MS:実測質量(m/z,MS,242.9)。方法:A−0.1% HCOOH、B−ACN(70%)、流量−0.8ml/分。カラム:GENESIS C18 50×4.6mm 3U。Rt(分):1.645:1H NMR(CDCl3、400MHz) δ1.64−1.74(3H,m),1.96−2.12(3H,m),4.46−4.47(1H,m),5.64−5.67(1H,m),5.97−5.6.01(1H,m),6.59(1H,bs)。
【0113】
(2.10) 2,2,2−トリクロロ−N−[(1RS,2SR,3RS)−2、3−ジヒドロキシシクロヘキシル]アセトアミド(23と24とのラセミ混合物)
【0114】
【化15】

【0115】
2,2,2−トリクロロ−N−シクロヘクス−2−エン−1−イルアセトアミド(22)(4.5g、0.0182mol)およびN−メチルモルホリン−N−オキシド(7.5g、0.055mol)をアセトン(100ml)中に含む溶液に、水(25ml)を加え、続いて、触媒量の四酸化オスミウム(0.1g、固形)を加える。反応混合物を室温で14時間攪拌し、亜硫酸ナトリウムの飽和溶液(20ml)で急冷した。混合物をさらに20分間攪拌し、次に、溶媒を減圧下に除去し、残渣を、溶離液として石油エーテル/酢酸エチル(3/7)を用いるクロマトグラフィーにより精製して、ラセミジオール3.3g(60%)を固形物として得た。LC/MS:実測質量(m/z,−MS,275.8)。方法:A−0.1% HCOOH、B−ACN(70%)。流量−0.8ml/分。カラム:GENESIS C18 50×4.6mm 3U。Rt(分):0.695: 1H NMR(CDCl3、400MHz) δ1.31−1.70(6H,m),3.87−3.92(2H,m),4.00−4.10(1H,m),7.68(1H,bs)。
【0116】
(2.11) (1RS,2SR,3RS)−3−アミノシクロヘキサン−1,2−ジオール.HCl(27と28とのラセミ混合物)
【0117】
【化16】

【0118】
2,2,2−トリクロロ−N−[(1RS,2SR,3RS)−2,3−ジヒドロキシシクロヘキシル]アセトアミド(23と24)(2.3g)および5M水性HCl(30ml)の混合物を10時間還流し、減圧下に蒸発させて表記化合物1.2g(86%)を粘ちょう液体として得た。MS:質量(m/z,MS,131.9)。HPLC>98%。方法:A−水、B−ACN。流量0.8ml/分。カラム:C18 XDB,250×4.6mm,SC/276。Rt(分)2.715: 1H NMR(CD3OD,400MHz) δ1.43−1.91(6H,m),2.98−3.02(1H,m),3.31−3.42(1H,m),3.84(1H,m)。
【0119】
(2.12) N−[(1SR,2RS,3SR)−2,3−ジヒドロキシシクロヘキシル]−3−フルオロ−5−[(2−フルオロ−4−ヨードフェニル)イソニコチンアミド(2)
【0120】
【化17】

【0121】
3−フルオロ−5−(2−フルオロ−4−ヨードフェニルアミノ)−イソニコチン酸(119mg、0.32mmol)および1,1’−カルボニルビス(1H−イミダゾール)(67mg、0.41mmol)をDMSO(2ml)中に懸濁させた。混合物を、室温で一晩(12時間)攪拌した。次に、3−アミノシクロヘキサン−1,2−ジオール(ラセミ体27/28)(40mg、0.31mmol)およびトリエチルアミン(0.07ml、0.49mmol)を加えた。混合物を室温でさらに6時間攪拌した。反応完了時、反応混合物を、水性水酸化ナトリウム(1ml、1.0M)で処理し、室温で4時間攪拌した。溶液を、濃HClを用いてpH7に中和した。次に、混合物を回転蒸発させて大部分の水を除去した。得られる混合物を、分取HPLCにより精製して生成物(2)を得た。LC/MS[方法A:rt: 4.89分;m/z:490(M+1)]。
【0122】
(2.13) N−[(1SR,2RS,3SR)−2,3−ジヒドロキシシクロヘキシル]−3−[(2−フルオロ−4−ヨードフェニル)アミノ] イソニコチンアミド(3)
【0123】
【化18】

【0124】
3−(2−フルオロ−4−ヨードフェニルアミノ)−イソニコチン酸(300mg、0.84mmol)および1,1’−カルボニルビス(1H−イミダゾール)(177mg、1.1mmol)をDMSO(4ml)中に懸濁させた。混合物を、室温で一晩(12時間)攪拌した。次に、3−アミノシクロヘキサン−1,2−ジオール(ラセミ27/28)(110mg、0.84mmol)を加えた。混合物を室温でさらに12時間攪拌した。混合物を分取HPLCにより分離して、2つの生成物、すなわちラセミアミド(3)とラセミエステル(4)とを得た。LC/MS[方法A:rt:6.01分;m/z:472(M+1)]。キラルHPLC[7.10分、13.12分]。
【0125】
(2.14) 3−フルオロ−5−(2−フルオロ−4−ヨードフェニルアミノ)−イソニコチン酸(1RS,2SR,3RS)−3−アミノ−2−ヒドロキシ−シクロヘキシルエステル(4)
【0126】
【化19】

【0127】
実施例2.13を参照されたい。LC/MS[方法A:rt:4.53分;m/z:472(M+1)]。
【0128】
(2.15) 2−クロロ−N−((1RS,2SR,3RS)−2,3−ジヒドロキシシクロヘキシル)−5−(2−フルオロ−4−ヨードフェニルアミノ)−イソニコチンアミド(1)
【0129】
【化20】

【0130】
2−クロロ−5−(2−フルオロ−4−ヨードフェニルアミノ)−イソニコチン酸(75mg、0.19mmol)および1,1’−カルボニルビス(1H−イミダゾール)(40mg、0.25mmol)をDMSO(2.5ml)中に懸濁させた。混合物を室温で一晩(12時間)攪拌した。次に、3−アミノシクロヘキサン−1,2−ジオール(ラセミ27/28)(32mg、0.19mmol)およびトリエチルアミン(0.05ml、0.38mmol)を加えた。混合物を室温で一晩攪拌した。混合物を分取HPLCにより精製して生成物を得た。LC/MS[方法B:rt:5.359分;m/z:506(M+1)]。
【0131】
(2.16) 3−(4−ブロモ−2−フルオロ−フェニルアミノ)−N−((1RS,2SR,3RS)−2,3−ジヒドロキシシクロヘキシル)−イソニコチンアミド(5)
【0132】
【化21】

【0133】
(1)の一般的手順により調製。LC/MS[方法B:rt:5.602分;m/z: 425(M+1)]。
【0134】
(2.17) 3−(4−ブロモ−2−クロロ−フェニルアミノ)−N−((1RS,2SR,3RS)−2,3−ジヒドロキシシクロヘキシル−イソニコチンアミド(6)
【0135】
【化22】

【0136】
(1)の一般的手順により調製。LC/MS[方法B:rt:6.163分;m/z: 441(M+1)]。
【0137】
(2.18) N−((1R,2S,3R)−2,3−ジヒドロキシシクロヘキシル)−3−(2−フルオロ−フェニルアミノ)−イソニコチンアミド(10)
【0138】
【化23】

【0139】
密閉管に、(N−[(1R,2S,3R)−2,3−ジヒドロキシシクロヘキシル]−3−[(2−フルオロ−4−ヨードフェニル)アミノ]イソニコチンアミド)(8)(42mg、0.09mmol)、ホウ水素化ナトリウム(34mg、0.89mmol)、二塩化パラジウム(7.9mg、0.04mmol)、水酸化ナトリウム(17.8mg、0.45mmol)およびTHF−水(1:1、3ml)を仕込んだ。混合物を室温で2日間攪拌した。混合物を濾過し、濾液を濃縮した。得られる残渣をフラッシュクロマトグラフィーに付して生成物を得た。LC/MS[方法A:rt:0.43分;m/z:346(M+1)]。
【0140】
(2.19) 3−(4−ブロモ−2−フルオロフェニルアミノ)−N−((1R,2S,3R)−2,3−ジヒドロキシシクロヘキシル)イソニコチンアミド(9)
【0141】
【化24】

【0142】
ジオールのラセミ混合物の代わりにキラル的に純粋な3−アミノシクロヘキサン−1,2−ジオール(27)を用いた以外は、(1)の一般的手順により調製。LC/MS[方法B:rt:5.19分;m/z:426.1(M+1)]。
【0143】
(2.20) N−((1S,2R,3S)−2,3−ジヒドロキシシクロヘキシル)−3−(2−フルオロ−4−ヨードフェニルアミノ)イソニコチンアミド(7)
【0144】
【化25】

【0145】
ジオールのラセミ混合物の代わりにキラル的に純粋な3−アミノシクロヘキサン−1,2−ジオール(28)を用いた以外は、(1)の一般的手順により調製。LC/MS[方法A:rt:4.54分;m/z:472.3(M+1)]。
【0146】
(3)生物学的活性
(3.1)MEK−1酵素アッセイ(LANCE−HTRF)
本発明の化合物の活性は、以下の手順により決めることができる:ヒトMEK1キナーゼ活性の阻害を、均一蛍光系アッセイによりモニターした。このアッセイは、MEK1によるERK1のリン酸化についてプローブへの時間分解蛍光共鳴エネルギーの転移を用いる。このアッセイは、低体積96穴マイクロタイタープレートで行う。合計体積15μlで、化合物を、2OmM TRIS/HCl、10mM MgCl2、100μM NaVO4、1mM DTTおよび0.005% Tween 20(pH7.4)を含む緩衝液を用いて、100nM MEK1、15μM ATPおよび300nM ERK2と一緒にインキュベートする。2時間後、50mM EDTAおよび0.05% BSAを含む緩衝液中の5nM ユーロピウム−抗−PY20(Perkin Elmer製)および50nM 抗−GST−アロフィコシアニン(CisBio製)を添加し、反応液を暗部で1時間インキュベートする。時間分解した蛍光を、励起波長340nmおよび発光波長665nmとしてLJL−Analyst(Molecular Devices製)を用いて測定する。DMSOの最終濃度は2%である。化合物の阻害性能を評価するために、表1に示すようにIC50−価を決めた。
【0147】
(3.2) 腫瘍細胞増殖アッセイ(ATP Lite)
マウス結腸C26、ヒト黒色腫A375およびヒト膵臓MiaPaCa−2細胞を、96穴コーニングホワイトプレート(Corning white plates)(C26については1500細胞/穴、A375およびMiaPaCa−2については2000細胞/穴)に配し、5%CO2中、37℃で一晩培養する。阻害剤を100%DMSO中に連続的に希釈し、続いて、細胞に添加して最終的濃度を0.25%DMSOとする。細胞成長培地(C26およびMiaPaCa−2については、10%ウシ胎児血清および2mMグルタミンを含むDMEM、A375については、10%ウシ胎児血清および2mMグルタミンを含むRPMI)中で試験化合物の存在下に、細胞を4日間インキュベートした。細胞増殖を、ATP lite細胞増殖キット(Packard製)を用いて定量化した。細胞増殖の阻害を表1に示す。2−5欄は、ヒト子宮内膜細胞の50%細胞死(IC50、μM単位)を誘発するのに必要な化合物の濃度を示している。
【0148】
【表3】

【0149】
(3.3) 生体内(インビボ)効能研究(マウス異種移植片モデル)
雄ヌード(nu/nu)マウスに、Colo−205、A375または MiaPaCa2のようなヒト腫瘍細胞系の特定数の細胞を、右前肢の上部で皮下注射した。細胞を移植してから1週間後、腫瘍をキャリパーを用いて測定した。腫瘍の長さ(l)および幅(w)を測定し、腫瘍体積を式:l×w2/2により計算した。動物を、各群の平均腫瘍体積が150−200mm3となるように幾つかの群に仕分けし、化合物での処理を開始した(0日目と表示)。0、4、6、8、10、12および14日目に、各動物について、腫瘍体積および体重を測定した。腫瘍の体積および体重%を、変数の双方向繰り返し測定分析(Two−Way Repeated Measures Analysis of Variance:RM−ANOVA)および、それに続く、処理群平均のFisher’sポストホック多重ペアワイズ比較により分析した。この態様の化合物はこれらの腫瘍モデルにおいて効果的であり、腫瘍退化または腫瘍を含む、投与量依存的腫瘍成長阻害が得られた。例えば、化合物(9)は、経口経路により毎日1.5mg/kg投与した場合、Colo−205異種移植片モデルにおいて98.5%腫瘍成長阻害を提供した。化合物(8)は、同じモデルにおいて、経口経路により1日50μg/kg投与した場合、100.69%腫瘍成長阻害(TGI)を提供し、一日150μg/kg投与した場合、115.33%腫瘍成長阻害を提供した。MiaPaCa2モデルにおいては、化合物(8)は、一日33μg/kgの場合、100.97% TGIを提供し、一日50μg/kgの場合、110.74% TGIを提供した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)で示される化合物、および医薬的に許容されるその塩、溶媒和物またはプロドラッグ:
【化1】

(式中:
XはNHまたはO、
1は水素、メチル、エチル、n−プロピル、i−プロピル、SHまたはHal、
2は水素、メトキシ、エトキシ、アセチレン、シアノ、SHまたはHal、
3およびR4は独立して水素、SHまたはHalから選択され、
5およびR6は独立してOH、SHまたはNH2から選択され、
HalはF、Cl、BrまたはIである。)。
【請求項2】
詳しく示されていない基が、請求項1の式(I)について示した意味を有するが、以下の下位式(IA)、(IB)、(IC)、(ID)、(IE)、(IF)、(IG)および(IH)により示される請求項1に記載の化合物、および医薬的に許容されるその塩、溶媒和物またはプロドラッグ:
下位式IAにおいて、
XはNH、
1はHal、メチルまたはエチル、
2は水素、Hal、メトキシまたはアセチレン、
3は水素またはHal、
4は水素またはHal、
5およびR6はOH、
HalはF、Cl、BrまたはIである、
下位式IBにおいて、
XはNH、
1はHal、
2は水素またはHal、
3は水素またはHal、
4は水素またはHal、
5およびR6はOH、
HalはF、Cl、BrまたはIである、
下位式ICにおいて、
XはNH、
1はF、Cl、メチルまたはエチル、
2は水素、I、Br、メトキシまたはアセチレン、
3は水素またはHal、
4は水素またはHal、
5およびR6はOH、
HalはF、Cl、BrまたはIである、
下位式IDにおいて、
XはNH、
1はF、Cl、メチルまたはエチル、
2は水素、I、Br、メトキシまたはアセチレン、
3は水素またはF、
4は水素またはCl、
5およびR6はOHである、
下位式IEにおいて、
XはNH、
1はFまたはCl、
2はIまたはBr、
3は水素またはF、
4は水素またはCl、
5およびR6はOHである、
下位式IFにおいて、
XはNH、
1はFまたはCl、
2はIまたはBr、
3は水素またはF、
4は水素またはCl、
5およびR6はOHである、
下位式IGにおいて、
XはNH、
1はFまたはCl、
2はIまたはBr、
3は水素、
4は水素、
5およびR6はOHである、
および、下位式IHにおいて、
XはNH、
1はF、
2はI、
3は水素またはF、
4は水素またはCl、
5およびR6はOHである。
【請求項3】
式(II)
【化2】


の請求項1または2に記載の化合物、および医薬的に許容されるその塩、溶媒和物またはプロドラッグ(式中、R1、R2、R3およびR4は、式(I)またはその下位式IA、IB、IC、ID、IE、IF、IGまたはIHについて示した意味を有する。)。
【請求項4】
化合物が以下の化合物からなる群より選択される請求項1に記載の化合物、および医薬的に許容されるその塩、溶媒和物またはプロドラッグ:
【表1−1】

【表1−2】

【請求項5】
医薬的に許容されるキャリアと共に、有効成分として、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物、または医薬的に許容されるその塩、溶媒和物またはプロドラッグを含む医薬組成物。
【請求項6】
薬剤としての使用するための、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物、または医薬的に許容されるその塩、溶媒和物またはプロドラッグ。
【請求項7】
哺乳動物における、MEKの過剰活性に係わる過剰増殖性疾患およびMEKカスケードにより修飾される疾患を治療するための、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物、または医薬的に許容されるその塩、溶媒和物またはプロドラッグ。
【請求項8】
前記疾患が、癌、炎症、膵炎または腎臓疾患、疼痛、皮膚の良性過形成、再狭窄、前立腺疾患、脈管形成または血管形成に係わる疾患、腫瘍血管新生;乾癬、湿疹および強皮症から選択される皮膚疾患;糖尿病、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、加齢性黄斑変性症、血管腫、神経膠腫、黒色腫およびカポジ肉腫からなる群より選択される、請求項7に記載の化合物、または医薬的に許容されるその塩、溶媒和物またはプロドラッグ。
【請求項9】
哺乳動物における、MEKの過剰活性に係わる過剰増殖性疾患およびMEKカスケードにより修飾される疾患の治療用の薬剤を調製するための、請求項1〜4のいずれかに記載の化合物、または医薬的に許容されるその塩、溶媒和物またはプロドラッグの使用。
【請求項10】
前記疾患が、癌、炎症、膵炎または腎臓疾患、疼痛、皮膚の良性過形成、再狭窄、前立腺疾患、脈管形成または血管形成に係わる疾患、腫瘍血管新生;乾癬、湿疹および強皮症から選択される皮膚疾患;糖尿病、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、加齢性黄斑変性症、血管腫、神経膠腫、黒色腫およびカポジ肉腫からなる群より選択される、請求項9に記載の使用。
【請求項11】
請求項1〜4のいずれかに記載の化合物または医薬的に許容されるその塩、溶媒和物またはプロドラッグを被検体に投与することを含んでなる、哺乳動物におけるMEKの過剰活性に係わる過剰増殖性疾患およびMEKカスケードにより修飾される疾患を治療する方法。
【請求項12】
前記疾患が、癌、炎症、膵炎または腎臓疾患、疼痛、皮膚の良性過形成、再狭窄、前立腺疾患、脈管形成または血管形成に係わる疾患、腫瘍血管新生;乾癬、湿疹および強皮症から選択される皮膚疾患;糖尿病、糖尿病性網膜症、未熟児網膜症、加齢性黄斑変性症、血管腫、神経膠腫、黒色腫およびカポジ肉腫からなる群より選択される、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
(a)有効量の請求項1〜4のいずれかに記載の化合物または医薬的に許容されるその塩、溶媒和物またはプロドラッグと、
(b)有効量のさらなる薬剤有効成分との
別々のパックからなるセット(キット)。

【公表番号】特表2011−529963(P2011−529963A)
【公表日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−522112(P2011−522112)
【出願日】平成21年7月27日(2009.7.27)
【国際出願番号】PCT/US2009/051817
【国際公開番号】WO2010/017051
【国際公開日】平成22年2月11日(2010.2.11)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】