説明

新規ペプチド、新規ペプチドの製造方法、及び抗酸化剤

【課題】 安価に製造可能で、優れた抗酸化能を示す新規ペプチド及びその製造方法、並びに新規ペプチドを有効成分とする抗酸化剤を提供する。
【解決手段】 H−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表される新規ペプチドとする。また、魚肉をプロテアーゼで加水分解処理して、H−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表される新規ペプチドを得るペプチドの製造方法とする。さらに、魚肉として、少なくともマグロ血合肉又はカツオ血合肉のいずれかを用い、プロテアーゼとして、バチルス属由来のプロテアーゼを用いる。また、H−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表される新規ペプチドを有効成分とする抗酸化剤とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なペプチドを提供するものであり、特に魚肉をプロテアーゼで加水分解して得られ、抗酸化能を有する下記式で表される新規ペプチド、新規ペプチドの製造方法、及び抗酸化剤に関する。
H−Leu−Phe−Pro−Lys−OH
【背景技術】
【0002】
従来から活性酸素は、糖尿病や動脈硬化といった生活習慣病やがんなど様々な病気の原因になることが知られている。また、活性酸素は皮膚のしわや白内障、認知症などの老化現象の原因になるとも言われている。
このため、健康に長生きするためには、活性酸素の影響から身を守ることが重要であり、近年、活性酸素や抗酸化物質についての研究が盛んに行われている。
【0003】
活性酸素とは、非常に不安定で強い酸化力をもつ物質であり、狭義にはヒドロキシラジカル(・OH)、一重項酸素()、スーパーオキシドアニオンラジカル(・O)、過酸化水素等(H)を指し、広義にはこれらにオゾンや一酸化窒素、二酸化窒素、過酸化脂質等が含まれる。
このうち、ヒドロキシラジカルは、最も反応性の強い活性酸素であり、スーパーオキシドアニオンラジカル、過酸化水素から生成する。また、一重項酸素も酸化力の強い活性酸素であり、共に人体で作られる酵素により無害化することはできない。
【0004】
抗酸化物質とは、このような活性酸素を無害化する物質であり、スカベンジャーとも呼ばれている。
スカベンジャーの代表例としては、SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)、カタラーゼ、グルタチオンがあり、それぞれスーパーオキシドアニオンラジカル、過酸化水素、ヒドロキシラジカルを消去する活性を有する。また、ビタミンC、ビタミンE等の各種ビタミン類、βカロテンなどのカロテノイド類、ポリフェノールなどにも活性酸素除去効果があり、これらを含む様々なドリンク剤やサプリメント等が開発されている。
【0005】
このように、人体に悪影響をもたらす活性酸素を除去して生活習慣病等に罹ることを防止するとともに、老化防止にも役立つと言われる抗酸化物質は、高齢化社会をむかえた現代において極めて有用である。
このため、高い機能性を有し、安価に提供可能な優れた抗酸化物質の提供が強く求められている。
【0006】
ここで、このような抗酸化物質に関する先行技術としては、例えば特許文献1に記載の抗酸化組成物を挙げることができる。
この先行技術によれば、卵黄タンパク質を加水分解することで、優れた抗酸化効果を有する組成物を得ることができるとされている。
【0007】
また、特許文献2に記載の抗酸化組成物によれば、L−プロリン及びカテキン類を使用することで、安全性と抗酸化力に優れた組成物を提供できるとされている。
さらに、特許文献3に記載の発酵豆科植物由来の抗酸化組成物によれば、発酵させた豆科植物から抗酸化組成物を抽出する際に、乳化剤を用いることで、従来の抗酸化組成物より抗酸化性を著しく向上できるとされている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−328919号公報
【特許文献2】特開2004−331724号公報
【特許文献3】特開2006−70146号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載の抗酸化組成物は、過酸化脂質の発生を防止し、肌の保護、保湿効果に優れた使用感のよい化粧料に特化したものとなっている。このため、加工食品などに加えてその酸化を防止することに適切なものとは言えない。
また、特許文献2に記載の抗酸化組成物は、複数の異なる原料から有効成分を抽出し、これらを所定の割合に混合して得られるものであり、製造コストを低減することについては考慮されていない。このため、抗酸化物質を安価に提供することが難しいという問題がある。
【0010】
さらに、特許文献3に記載の抗酸化組成物は、発酵させた大豆胚芽などから製造するものであるが、特許文献2に記載の抗酸化組成物と同様に、製造コストを低減することについては考慮されていない。
このため、加工食品などの酸化を防止することの可能な、優れた抗酸化能を有する物質を、より安価に提供可能な技術の開発が求められていた。
【0011】
そこで、本発明者らは鋭意研究した結果、魚肉の缶詰などを製造する際に生じる、通常は飼料や肥料に加工される加工残渣に着目し、マグロやカツオの血合肉において抗酸化物質を探索して、優れた抗酸化能を示すペプチドを特定することに成功し、本発明を完成させた。
【0012】
本発明は、上記の事情にかんがみなされたものであり、魚肉をプロテアーゼで加水分解処理することにより得られる、H−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表される新規ペプチド、新規ペプチドの製造方法、及び抗酸化剤の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明の新規ペプチドは、H−Leu−Phe−Pro−Lys−OH(以下、LFPKと称する場合がある。)で表されるものとする。
このようなアミノ酸配列の新規ペプチドは、抗酸化能を有し、様々な加工食品の酸化抑止剤や、生体内物質の酸化が原因とされる疾病を予防するサプリメントの材料として好適に用いることができる。
【0014】
また、本発明のペプチドの製造方法は、魚肉をプロテアーゼで加水分解処理して、H−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表される新規ペプチドを得る方法である。
【0015】
また、原料に用いる魚肉としては、少なくともマグロ血合肉又はカツオ血合肉のいずれかを用いることが好ましい。
これらの血合肉には、本発明の新規ペプチドの由来タンパク質であるミオグロビンが豊富に含まれているため、新規ペプチドの収率を高めることが可能である。
【0016】
また、プロテアーゼとしては、バチルス属由来のプロテアーゼを用いることが好ましい。
例えば、バチルス属由来のサモアーゼやアロアーゼを用いることで、ミオグロビンを加水分解することにより、H−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表される新規ペプチドを適切に生成させることが可能となる。
【0017】
また、本発明の抗酸化剤は、H−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表される新規ペプチドを有効成分とするものとする。
H−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表される新規ペプチドは、上記の通り、抗酸化能を有するため、これを有効成分とすることで、優れた抗酸化剤を提供することが可能である。
また、H−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表される新規ペプチドを含む組成物は優れた抗酸化能を有し、例えば加工食品に添加する酸化防止剤や、抗酸化サプリメントなどの抗酸化剤として好適に利用することが可能である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、優れた抗酸化能を有するH−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表される新規ペプチドを提供することが可能となる。
また、当該ペプチドは、ミオグロビン由来のものであり、ミオグロビンは、マグロやカツオの加工残渣である血合肉に多く含まれているため、安価に製造することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
<1.原料魚肉>
本発明の新規ペプチドの原料としては、主にクロマグロ、ミナミマグロ、ビンナガ、キハダ、メバチ、カツオ等を用いることが好ましい。
また、これらの魚肉のうち、食品加工において、非食部として飼料や肥料に加工されている血合肉を用いることがより好ましい。
特に、本発明のH−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表されるアミノ酸配列からなる新規ペプチドは、ミオグロビンに由来したものであり、血合肉にはミオグロビンが多く含まれるため、血合肉を用いることによって、高い収率を得ることができる。
【0020】
<2.プロテアーゼ(蛋白質分解酵素)>
本発明で使用するプロテアーゼとしては、特に限定されるものではなく、例えば、バチルス属の微生物由来である「サモアーゼ(大和化成株式会社)」、「アロアーゼAP−10(ヤクルト薬品工業株式会社)」、「オリエンターゼ90N(エイチビイアイ株式会社)」、「プロテアーゼN(天野エンザイム株式会社)」等の市販されているものが使用でき、目的とするペプチドの生成効率が良いという観点において、「サモアーゼ(大和化成株式会社)」がより好ましく用いられる。
これらのプロテアーゼを用いてタンパク質を加水分解することにより、本発明の新規ペプチドを生成することができ、これを単離することが可能となる。
【0021】
<3.新規ペプチド及びこれを含む組成物の製造方法>
(1)H−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表される新規ペプチドを単離する場合
(A)血合肉の酵素処理工程
血合肉のpHを調整した後、プロテアーゼを添加して、血合肉におけるタンパク質の加水分解を行う。
酵素処理時のpH、温度の範囲としては、使用する酵素の至適条件に応じて適宜決定すればよいが、例えば「サモアーゼ(大和化成株式会社)」を用いる場合、pH6.0〜9.0、温度60〜80℃とすることが好ましく、特にpH6.5、温度70℃とすることが好ましい。
【0022】
(B)酵素失活工程
次に、得られた加水分解処理物を加熱して、プロテアーゼを失活させる。
(C)固液分離工程
プロテアーゼを失活させた後、濾過により固液分離を行い、濾液を得る。
【0023】
(D)エタノール沈殿処理工程
次に、濾液にエタノールを添加してタンパク質を沈殿させ、遠心分離機もしくは濾過により沈殿を除去し、濃縮乾固する。
このときのエタノール濃度は20〜99%(v/v)とすることが好ましく、特に70%(v/v)とすることが好ましい。
【0024】
(E)強酸性陽イオン交換樹脂処理工程
次に、濃縮乾固して得られたサンプルをリン酸緩衝液に溶解させて陽イオン交換樹脂にアプライし、本発明の新規ペプチド等を吸着させる。そして、塩基性水溶液を用いて塩基性画分を溶出させ、得られた画分を濃縮乾固する。
溶出液は特に限定されるものではないが、例えば、0.01〜10%(v/v)のアンモニア水溶液を用いることが好ましく、5%(v/v)のアンモニア水溶液を用いることがより好ましい。
【0025】
(F)固相抽出処理工程
次に、得られたサンプルを水に溶解させて、ODSカートリッジにアプライし、有機溶媒で溶出して濃縮乾固する。
溶出液は特に限定されるものではないが、例えば、10〜99%(v/v)のメタノール水溶液を用いることが好ましく、50%(v/v)のメタノール水溶液を用いることがより好ましい。
【0026】
(G)逆相クロマトグラフィー処理工程
次に、得られたサンプルを逆相系の高速液体クロマトグラフィーに供し、本発明の新規ペプチド(LFPK)を含む画分を単離する。
その条件としては、使用する充填剤、カラムサイズにより異なるため、特に限定されるものではないが、逆相系カラムにサンプルをインジェクションした後、アセトニトリルやメタノールなどの有機溶媒を用いて溶出させる。
【0027】
例えば、次の条件において、高速液体クロマトグラフィーに供することができる。
カラム 日本ウォーターズ(株)Sun Fire C18 4.6×150mm
検出 220nm
流速 1ml/min
溶出 0.1%トリフルオロ酢酸水溶液(TFAaq):アセトニトリル(ACCN)=90:10→80:20(15min)
この場合、8.1分前後にLFPKを含む画分を得ることができる。
【0028】
このようにして単離した本発明の新規ペプチド(LFPK)は、優れた抗酸化能を有し、例えば加工食品に添加する酸化防止剤や、抗酸化サプリメントなどの抗酸化剤として好適に利用することが可能である。
【0029】
(2)工業的量産方法(本発明の新規ペプチドを含む組成物の製造方法)
次に、本発明の新規ペプチドを含む組成物の工業的量産方法について説明する。
まず、(A)血合肉の酵素処理工程、及び(B)酵素失活工程については、上述した新規ペプチドの単離の場合と同様の工程により行うことができる。
【0030】
(C)活性炭処理工程
次に、酵素を失活させた処理物に、活性炭を添加し、タンパク質を除去するとともに、脱色、脱臭を行う。
このとき、タンパク質の除去、脱色及び脱臭を効果的に行う観点から、添加する活性炭としては、例えば賦活精製された活性炭、例えばフタムラ化学株式会社製 太閤活性炭A等を用いることが好ましい。
【0031】
また、同様の観点から、このような活性炭を、酵素処理液に含まれる固形量の0.1〜30%の比率で添加することが好ましい。
さらに、以上の効果を十分に得るために、活性炭処理工程は、10〜100℃で1時間以上行うことが好ましい。
その後、濾過等により活性炭を除去することにより、処理物を得ることができる。処理物は必要に応じて、適宜、濃縮・希釈等により濃度調整しても良い。
【0032】
(D)噴霧乾燥処理工程
次に、活性炭処理工程により得られた処理物を噴霧乾燥して、新規ペプチド(LFPK)を含む組成物を得る。このようにして得られた本発明の新規ペプチドを含む組成物は優れた抗酸化能を有し、例えば加工食品に添加する酸化防止剤や、抗酸化サプリメントなどの抗酸化剤として好適に利用することが可能である。
【0033】
<4.用途>
本発明の新規ペプチドは、実施例において後述するように、ヒドロキシラジカル消去能や一重項酸素消去能などの抗酸化能を備えている。
このため、例えば缶詰、菓子、飲料など、一般的な加工食品への酸化抑止剤として好適に用いることが可能である。
また、一般的に、生体内物質の酸化が原因とされる疾病、例えば癌、糖尿病、動脈硬化、神経疾患等に対する予防効果も期待することができる。
さらに、これらの効果を期待したサプリメントの形態で提供することも好ましい。
【実施例】
【0034】
(実施例1)
<新規ペプチドを含む供試サンプルの作成>
(1)キハダマグロ血合肉約60gに水90mlを加え、pH6.5に調整した後、サモアーゼ(サモアーゼPC10;大和化成株式会社)を0.6g添加し、70℃にて16時間加水分解処理を行った。
(2)次に、加水分解処理物を、100℃にて10分間加熱し、サモアーゼを失活させた。
【0035】
(3)サモアーゼ失活後、得られた処理物を濾過に供し、濾液に70%になるようにエタノールを添加してタンパク質を沈澱させ、遠心分離機(Ex−126 ;株式会社トミー精工製)にて沈澱を除去した後、濃縮乾固した。
このとき、遠心分離は、3000G、10分間の条件で行った。また、濃縮乾固は、エバポレーターにより行った。
【0036】
(4)次に、陽イオン交換樹脂(UBK503;三菱化学株式会社製)8.0gを30分間水洗し、100mlの0.5MHClにて30分間攪拌した。また、pHが6になるまで水洗を繰り返し、100mlの0.5MNaOHにて30分間攪拌した。さらに、pHが6になるまで水洗を繰り返し、樹脂をカラムに充填した。そして、0.5MHClを100ml通液した後、pHが6になるまで水を通液した。更にこのカラムにリン酸緩衝液(pH5.0)を100ml通液し、平衡化を行った。
【0037】
(5)次に、リン酸緩衝液10mlに上記濃縮乾固したサンプルを溶解させた。
そして、このリン酸緩衝液をカラムにアプライし、本発明の新規ペプチドを含む各種ペプチドを樹脂に吸着させた。
さらに、カラムに水100mlを通液して樹脂を洗浄した後、5%NH3AQ100mlにて塩基性画分を溶出させ、得られた画分を濃縮乾固した。
【0038】
(6)次に、予めODSカートリッジ(Vac3cc;Waters社製)に、100%メタノール5mlを通液させ、さらに水5mlを通液させた。また、上記陽イオン交換により得られた濃縮乾固したサンプルを水に溶解させた。そして、この溶液を、ODSカートリッジにアプライした。
(7)次に、ODSカートリッジを10%メタノール水溶液5mlで洗浄した後、50%メタノール水溶液(v/v)5mlで溶出を行った。そして、得られた溶出液を濃縮乾固したものを、供試サンプルとした。
【0039】
<供試サンプルからの新規ペプチドの精製>
(1)上記のようにして得られた供試サンプルを、下記の分析条件にて逆相クロマトグラフィーに供し、分画を行った。その結果を図1に示す。

【0040】
図1において、第4,14,15番目のピークをそれぞれ、ピークA,B,Cとしている。以下、ピークBの画分を用いて精製を行った。
すなわち、ピークBの画分を、以下の条件でさらに2回逆相クロマトグラフィーに供して、当該ピークにおけるペプチドを分離した。その結果を図2に示す。
【0041】

【0042】

【0043】
(実施例2)
<分離精製した新規ペプチドのアミノ酸配列解析>
(1)塩酸加水分解によるアミノ酸組成分析
実施例1によりピークBの画分から得られた精製ペプチドを塩酸で加水分解し、当該ペプチドに含まれるアミノ酸成分の割合を分析した。その結果を図3に示す。
同図に示される通り、ピークBのペプチドのアミノ酸組成比はLeu:Phe:Lys:Pro=1:1:1:1であった。
【0044】
(2)マススペクトルの計測
実施例1によりピークBの画分から得られた精製ペプチドのマススペクトルを測定した。その結果を図4に示す。
同図に示される通り、ピークBの〔M+H〕は504であった。
【0045】
(3)N末端から5サイクルまでのアミノ酸配列解析
実施例1によりピークBの画分から得られた精製ペプチドを試料として、プロテインシークエンサーにより、N末端から5サイクルまでのアミノ酸配列を解析した。その結果を図5に示す。
同図に示される通り、ピークBにおけるペプチドのアミノ酸配列は、Leu−Phe−Pro−Lys(LFPK)であった。この結果は、上記アミノ酸組成比及びマススペクトルの測定結果と整合性の取れるものである。
【0046】
以上のことから、ピークBにおけるペプチドは、H−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表されることが判明した。また、当該ペプチドは、先行技術文献等に見あたらず、新規なものであった。
【0047】
(実施例3)
<由来原料ごとの新規ペプチドの収率分析>
本発明の新規ペプチドについて、由来原料ごとの収率の違いを比較した。
原料としては、キハダ血合肉、カツオ血合肉、ビンナガ血合肉、キハダ普通肉(赤身肉)を用いた。また、新規ペプチドの抽出、精製は、実施例1に示す方法と同様の方法で行った。その結果を図6に示す。
【0048】
図6に示される通り、血合肉を原料とした場合の新規ペプチドの収率は、キハダ普通肉を原料とした場合に比較して、約2〜4.5倍高いことが明らかになった。
この結果から、本発明の新規ペプチドの原料としては、キハダマグロ、カツオ、ビンナガの血合肉がより有効であることが確認された。
【0049】
(試験例1)
<ヒドロキシラジカル(・OH)消去能の分析>
本発明の新規ペプチド(LFPK)の抗酸化能を確認するため、以下のように、ヒドロキシラジカル(・OH)消去活性について試験を行った。
【0050】
(1)試験管に92mM5,5ジメチル−1−ピロリン−N−オキサイド(DMPO)20μl、0.1mMジエチレントリアミンペンタ酢酸(DETAPAC)水溶液25μl、0.2mM硫酸鉄(II)水溶液50μl、及び0.1mMリン酸緩衝液(pH7.4)を混合し、この溶液に0.5%(w/w)のペプチド水溶液30μlを添加した。また、この溶液に水30μlを添加したものを対照とした。
【0051】
(2)次いで、1mM過酸化水素水50μlを加えて混合し、ESR測定用特殊偏平セルに吸い取り、ESR装置(JES−FR30;日本電子株式会社製)にセットした。
そして、過酸化水素水50μlを加えてから正確に40秒後にシグナルの測定を行った。シグナル強度は、Mn2+のシグナルを対照とした相対値とした。その結果を図7に示す。
(3)同図に示される通り、本発明の新規ペプチド(LFPK)は、ヒドロキシラジカル消去能を有していることが確認された。
【0052】
(試験例2)
<一重項酸素()消去能の分析>
本発明の新規ペプチド(LFPK)の抗酸化能を確認するため、以下のように、一重項酸素()消去活性について試験を行った。なお、以下の試験において、試薬の希釈及び調製は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)を用いて行った。
【0053】
(1)試験管に50mMリボフラビン溶液150μl、及び0.2M2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリドン塩酸塩(TMPD)50μlを混合し、この溶液に0.025%(w/w)のペプチド溶液300μlを添加、混合した。また、この溶液にPBS300μlを添加、混合したものを対照とした。
【0054】
(2)次いで、この溶液をESR測定用特殊偏平セルに吸い取り、紫外線照射灯(MODEL UVG−11;ULTRA−VIOLET PRODUCT社)を用いて254nmの紫外線を1cmの距離から7分間照射した後、ESR装置(JES−FR30;日本電子株式会社製)にセットして、シグナルの測定を行った。シグナル強度は、Mn2+のシグナルを対照とした相対値とした。その結果を図8に示す。
(3)同図に示される通り、本発明の新規ペプチド(LFPK)は、一重項酸素消去能を有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の新規ペプチド及びこれを含む抗酸化剤は、一般的な加工食品への酸化抑止剤として好適に用いることが可能である。また、生体内物質の酸化が原因とされる疾病、例えば癌、糖尿病、動脈硬化、神経疾患等に対する予防効果を期待したサプリメントの材料として用いることも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】本発明の実施例1における供試サンプルの逆相クロマトグラフィー分析結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例1のピークBの逆相クロマトグラフィー分析結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例2のピークBのアミノ酸組成分析結果を示す図である。
【図4】本発明の実施例2のピークBのマススペクトル分析結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例2のピークBのアミノ酸配列解析結果を示す図である。
【図6】本発明の実施例3における由来原料ごとのペプチド収量を示す図である。
【図7】本発明の試験例1におけるヒドロキシラジカル消去能の分析結果を示す図である。
【図8】本発明の試験例2における一重項酸素消去能の分析結果を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
H−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表されることを特徴とする新規ペプチド。
【請求項2】
魚肉をプロテアーゼで加水分解処理して、H−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表される新規ペプチドを得ることを特徴とするペプチドの製造方法。
【請求項3】
前記魚肉として、少なくともマグロ血合肉又はカツオ血合肉のいずれかを用いることを特徴とする請求項2記載のペプチドの製造方法。
【請求項4】
前記プロテアーゼとして、バチルス属由来のプロテアーゼを用いることを特徴とする請求項2又は3記載のペプチドの製造方法。
【請求項5】
H−Leu−Phe−Pro−Lys−OHで表される新規ペプチドを有効成分とすることを特徴とする抗酸化剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2009−91305(P2009−91305A)
【公開日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−264347(P2007−264347)
【出願日】平成19年10月10日(2007.10.10)
【出願人】(390033145)焼津水産化学工業株式会社 (80)
【出願人】(591273960)はごろもフーズ株式会社 (7)
【Fターム(参考)】