説明

新規味覚改変ポリペプチドNAS、そのDNA及びその用途

本発明は、より優れた味覚改変機能を有する物質を見出し、該味覚改変物質の構造を決定すると共に、遺伝子レベルにおいても解明し、当該物質の一次構造、並びにこれをコードする遺伝子を取得するとともに、当該味覚改変物質を含むことを特徴とする新規な味覚改変組成物を提供することを目的とする。
すなわち、本発明は、下記の(A)、又は(B)に示すポリペプチドNAS、該ポリペプチドNASとポリペプチドNBSとからなり、味覚改変活性を有することを特徴とする二量体タンパク質ネオクリンを提供する。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、ポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチド

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規味覚改変ポリペプチドNAS、そのDNA及びその用途に関し、詳しくは、ポリペプチドNAS、その遺伝子、当該タンパク質を含有する味覚改変活性を有する二量体タンパク質ネオクリン、並びにネオクリンを含有する味覚改変組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
クルクリゴ・ラチフォリア(Curculigo latifolia)は、西マレーシアやタイ南部などに自生するユリ科に分類される植物であり、該植物に含有されるクルクリン同族体(アイソフォーム)(以下、クルクリンと称する。)は、これを食した後、水又は酸味物質を飲食すると、甘味を感じさせる味覚修飾物質として有用であるとされている。
【0003】
従来知られているクルクリンを構成するサブユニットとしては、クルクリンA、クルクリンB等がある。
クルクリンAについては、既に全アミノ酸配列が決定されている(例えば、特許文献1参照)。また、クルクリンBについても、全アミノ酸配列ならびに塩基配列が開示されており、クルクリンAとはアミノ酸組成において数個のアミノ酸が異なることが確認されている(例えば、特許文献2参照)。
これらのサブユニットは、いずれもホモダイマーとしてクルクリンを構成し、味覚修飾機能を有するとされていたが、これらの味覚修飾機能は食品に添加するには充分とは言えなかった。
【0004】
しかし、本発明において、クルクリンとは異なり、NAS及びNBSの2種の異なるアミノ酸配列を有するサブユニットからなるヘテロダイマー構造を取る新規な二量体タンパク質を見出すことに成功し、該タンパク質をネオクリンと命名し、その結果を開示した(例えば、非特許文献1参照)。なお、ネオクリンは食品に添加するに充分な味覚修飾機能を有することは、本発明で初めて確認された知見である。
【0005】
一方、ネオクリンの高効率生産を可能とするべく、NAS及びNBSの2種の異なるアミノ酸配列を有するサブユニットをコードする遺伝子を、原核生物である大腸菌において発現させた結果が開示されている(例えば、非特許文献2参照)。
しかし、この方法において、NAS及びNBSは、大腸菌菌体内にインクルージョンボディとして生産されるためと考えられるが、単に大腸菌で発現させただけでは味覚修飾活性を発揮できるような正しいNAS及びNBSのヘテロダイマーはほとんど生産されなかった。
そして、味覚修飾機能を発揮させるためには、上記インクルージョンボディを回収した後、塩化グアニジンなどの溶解剤を用いて溶解した後、再構成する操作が必要であった。このような試薬を用いる必要があることは、作業上の煩雑さや生産コスト面での不利があるばかりでなく、生産されたネオクリンを食品用途に用いる際には、安全性の面から工業生産には不向きであった。
【0006】
このような状況下、より実用性の高い、優れた味覚改変機能を有する物質の解明と、食品用途に耐えられる安全で効率的な生産方法の開発が求められていた。
【0007】
【特許文献1】特開平3−190899号公報
【特許文献2】特開平6−189771号公報
【非特許文献1】「バイオサイエンス・バイオテクノロジー・アンド・バイオケミストリー(Biosci.Biotechnol.Biochem.)」、68巻、6号、p.1403−1407、2004年
【非特許文献2】「フェブス・レターズ(FEBS Letters)」、573巻、p.135−138、2004年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、上記のように、より優れた味覚改変機能を有する物質を見出し、該味覚改変物質の構造を決定すると共に、遺伝子レベルにおいても解明し、当該物質の一次構造、並びにこれをコードする遺伝子を取得するとともに、当該味覚改変物質を含むことを特徴とする新規な味覚改変組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題に基づき、鋭意検討を重ねた結果、クルクリゴ・ラチフォリア(Curculigo latifolia)の果実抽出物中に、優れた味覚改変活性を有し、クルクリンとは異なりヘテロダイマー構造を取る新規な二量体タンパク質を見出すことに成功し、該タンパク質をネオクリンと命名した。
このネオクリンは、飲食物の酸味、苦味又はえぐ味を顕著に低減すると共に、飲食物の嗜好性を高めるような活性、すなわち味覚改変活性を有し、クルクリンの味覚修飾作用よりも格段に優れ、実用性に優れていることを見出した。
【0010】
すなわち、本発明者らはネオクリンを精製し、その構造を決定する過程で、ネオクリンは、従来知られていない新規サブユニットNAS(neoculin acidic subunit)と、クルクリンのサブユニットとして既知のクルクリンAやBといったサブユニットNBS(neoculin basic subunit)とのヘテロダイマーであることに着目した。
そこで、該新規サブユニットNASの構造解析を行った結果、NBSを構成する既知のクルクリンAやB同士の相同性と比較して、相同性の低い新規なポリペプチドを得ることができた。
そして、ポリペプチドNASをコードする遺伝子のDNAの解析を行い、ネオクリンを遺伝子レベルにおいて解明した結果、NASの成熟体タンパク質のほか、シグナルペプチド及び延長ペプチドを含む前駆体タンパク質(PNAS)の塩基配列をも見出した。
また、ネオクリンを実際に飲食物に添加して、味覚改変活性を有することを確認した。
更に、異種におけるネオクリンの発現系を検討した結果、NASまたはPNAS、及びNBSをコードする遺伝子を宿主において発現させ、菌体外に味覚修飾機能を有するヘテロダイマーとしてネオクリンを分泌生産させることを可能とする発現系を確立した。
本発明は係る知見に基づくものである。
【0011】
すなわち、請求項1に記載の本発明は、下記の(A)、又は(B)に示すポリペプチドNASである。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、下記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチド。
(a)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、クルクリンを構成するサブユニットとなりうるポリペプチド。
請求項2に記載の本発明は、マンノース/N−アセチルグルコサミン/フコース/キシロースの比が3/2/1/1で構成されるN結合型糖鎖が付加された請求項1に記載のポリペプチドNASである。
【0012】
請求項3に記載の本発明は、下記の(A)、又は(B)に示すポリペプチドNASをコードする遺伝子のDNAである。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、前記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチド。
請求項4に記載の本発明は、下記の(A)又は(B)に示すDNAである請求項3に記載の遺伝子のDNAである。
(A)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号70〜408からなる塩基配列を含むDNA。
(B)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号70〜408からなる塩基配列又は当該塩基配列の少なくとも一部から作成したプローブとなりうる塩基配列のDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、前記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチドをコードするDNA。
【0013】
請求項5に記載の本発明は、下記の(A)又は(B)に示すポリペプチドPNASである。
(A)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(B)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、プロセシングにより成熟体ポリペプチドNASとなった後に、前記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチド。
請求項6に記載の本発明は、マンノース/N−アセチルグルコサミン/フコース/キシロースの比が3/2/1/1で構成されるN結合型糖鎖が付加された請求項5に記載のポリペプチドPNASである。
【0014】
請求項7に記載の本発明は、下記の(A)又は(B)に示すポリペプチドPNASをコードする遺伝子のDNAである。
(A)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(B)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、プロセシングにより成熟体ポリペプチドNASとなった後に、前記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチド。
請求項8に記載の本発明は、下記の(A)又は(B)に示すDNAである請求項7に記載の遺伝子のDNAである。
(A)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号4〜477からなる塩基配列を含むDNA。
(B)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号4〜477からなる塩基配列又は当該塩基配列の少なくとも一部から作成したプローブとなりうる塩基配列のDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロセシングにより成熟体ポリペプチドNASとなった後に、前記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチドをコードするDNA。
【0015】
請求項9に記載の本発明は、請求項1又は2に記載のポリペプチドNASと前記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSとからなり、味覚改変活性を有することを特徴とする二量体タンパク質ネオクリンである。
請求項10に記載の本発明は、請求項9に記載の二量体タンパク質ネオクリンを有効成分として含有することを特徴とする味覚改変組成物である。
【0016】
請求項11に記載の本発明は、請求項3又は4記載のDNA、若しくは請求項7又は8に記載のDNAを構成する塩基配列を含む組換えベクターである。
請求項12に記載の本発明は、下記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSをコードする遺伝子のDNAを構成する塩基配列を含む組換えベクターである。
(a)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、クルクリンを構成するサブユニットとなりうるポリペプチド。
【0017】
請求項13に記載の本発明は、ベクターが、真核生物で機能するベクターである請求項11記載の組換えベクターである。
請求項14に記載の本発明は、ベクターが、真核生物で機能するベクターである請求項12記載の組換えベクターである。
請求項15記載の本発明は、ベクターが、糸状菌で機能するベクターである請求項11記載の組換えベクターである。
請求項16記載の本発明は、ベクターが、糸状菌で機能するベクターである請求項12記載の組換えベクターである。
請求項17記載の本発明は、ベクターが、麹菌で機能するベクターである請求項11記載の組換えベクターである。
請求項18記載の本発明は、ベクターが、麹菌で機能するベクターである請求項12記載の組換えベクターである。
【0018】
請求項19記載の本発明は、請求項11及び12記載の組換えベクター、請求項13及び14記載の組換えベクター、請求項15及び16記載の組換えベクター、又は、請求項17及び18に記載の組換えベクターを含む形質転換体である。
請求項20記載の本発明は、請求項19に記載の形質転換体を培養することを特徴とする請求項9に記載のネオクリンの製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、優れた味覚改変活性を有し、クルクリンとは異なりヘテロダイマー構造を取る新規な二量体タンパク質ネオクリンが提供され、当該タンパク質を用いて、食品等に実用可能な新規な味覚改変組成物を提供することが可能となった。
また、本発明により、当該タンパク質を構成するサブユニットのアミノ酸配列が提供され、このアミノ酸配列通りに、適当な合成方法によって当該タンパク質を提供することが可能となった。
さらには、本発明により、当該タンパク質をコードする遺伝子のDNAが提供されたことで、適当な宿主を選び、特に麹菌を宿主として、遺伝子工学技術を用いて効率的に当該タンパク質を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ネオクリン精製粉末を還元下又は非還元下でSDS−PAGEに供し、CBB染色した時の図である。
【図2】NAS及びNBSの精製粉末をSDS−PAGEに供し、CBB染色した時の図である。
【図3】S−カルボキシアミドメチル化NASのchymotrypsin消化ペプチドのHPLC溶出パターンの図である。
【図4】S−カルボキシアミドメチル化NASのendoproteinase Asp−N消化ペプチドのHPLC溶出パターンの図である。
【図5】S−カルボキシアミドメチル化NASのtrypsin消化により遊離したアミノ酸の定量分析の図である。
【図6】S−カルボキシアミドメチル化NAS(1nmol)のcarboxypeptidase A消化により遊離したアミノ酸の定量分析の図である。
【図7】NASのアミノ酸配列を示す。
【図8】NASに付加された糖鎖の糖組成分析から推定された糖鎖構造を示す。
【図9】クルクリンを還元下又は非還元下でSDS−PAGEに供し、CBB染色した時の図である。
【図10】NAS発現ベクターの作製法の概略を示した図である。
【図11】NBS発現ベクターの作製法の概略を示した図である。
【図12】形質転換株12株の培養液を、還元下でSDS−PAGEに供した後、ウェスタンブロッティング解析した結果を示した図である。
【図13】(a)フェニル疎水カラムクロマトグラフィーによる精製した際の溶出パターンと、(b)それぞれの分画を還元下又は非還元下でSDS−PAGEに供した後、ウェスタンブロッティング解析した結果を示した図である。
【図14】(a)ゲルろ過カラムクロマトグラフィーによる精製した際の溶出パターンと、それぞれの分画を還元下又は非還元下でSDS−PAGEに供した後、(b)CBB染色及び(c)ウェスタンブロッティング解析した結果を示した図である。
【符号の説明】
【0021】
図7において、4行目のNはN末端から決定したアミノ酸配列部分を示し、C1〜14はchymotrypsin消化から得られたペプチドのアミノ酸配列部分を示し、D1〜4は、endoproteinase Asp−N消化から得られたペプチドのアミノ酸配列部分を示し、T1〜4はtrypsin消化から得られたペプチドのアミノ酸配列部分を示す。また、←はC末端から得られた配列を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
(1)本発明の二量体タンパク質ネオクリン
本発明のネオクリンは、ポリペプチドNASと下記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSとからなり味覚改変活性を有することを特徴とする二量体タンパク質である。
(a)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、クルクリンを構成するサブユニットとなりうるポリペプチド。
ポリペプチドNAS(neoculin acidic subunit)については、下記の(2)で説明するように、本発明者らが初めて報告するタンパク質である。また、ポリペプチドNBS(neoculin basic subunit)とは、(a)又は(b)に示すポリペプチドを意味するが、これも後述の(2)で詳細に説明するように、具体的には、既知のクルクリンAやBといったクルクリンのサブユニットを意味する。
両者は、糖鎖を持つNASと糖鎖を持たないNBSが結合することにより安定なヘテロダイマーを形成する。
【0023】
本発明のネオクリンは、例えば、ユリ科に属する植物であるクルクリゴ・ラチフォリアから公知の分離・精製法を適切に組み合わせて取得できる。
例えば、実施例1の(1)に記載するように、凍結乾燥したクルクリゴ・ラチフォリアの果実をホモジナイズして得た粉末を大量の純水で抽出し、遠心分離によって上清を廃棄することにより、不要物を除去する。残った沈殿をpH2.0以下の酸性水溶液で抽出すると、ネオクリンが抽出液中に得られる。次いで、この抽出液を通常の処理方法(好ましくは非加熱処理)で中和、濃縮、脱塩、乾燥すると、十分に実用可能なタンパク質ネオクリンが得られる。
尚、下記の(2)で説明するポリペプチドNASを人工的に作成し、これに、ネオクリン或いは既知のクルクリンから抽出・精製して得られる、或いは人工的に合成して得られるポリペプチドNBSを結合させることによっても得ることができる。更に、下記の(6)で説明する製造方法によって得ることもできる。
【0024】
本発明のネオクリンは、味覚改変活性を有するものである。ここで、味覚改変活性とは、酸味、苦味又はえぐ味を顕著に低減すると共に、飲食物の嗜好性を高めるような活性を言う。すなわち、苦味を有する飲食物の苦味を抑える活性、えぐ味を有する飲食物のえぐ味を抑える活性、飲食物に甘味を付与する活性、酸味を呈する飲食物に甘味を付与する活性、酸味を呈する飲食物の酸味を抑える活性を意味する。
【0025】
(2)本発明のポリペプチドNAS
本発明のポリペプチドNASは、下記の(A)、又は(B)に示すポリペプチドである。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、下記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチド。
(a)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、クルクリンを構成するサブユニットとなりうるポリペプチド。
【0026】
本発明の(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、ポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを構成するサブユニットの1つとして本発明者らが初めて見出したものである。
ポリペプチドNBS(neoculin basic subunit)とは、前記したように、(a)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド、或いは(b)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個、好ましくは1〜5個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、クルクリンを構成するサブユニットとなりうるポリペプチドを意味する。このようなポリペプチドNBSとして、具体的には、配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド(クルクリンB)、該アミノ酸配列中73番目のトリプトファンをアスパラギンに置換してなるポリペプチド(クルクリンB´と称する。)、該アミノ酸配列中、28番目のリジン、73番目のトリプトファン、78番目のトリプトファン及び81番目のアスパラギンを、それぞれアスパラギン、アスパラギン、システイン、及びアラニンに置換してなるポリペプチド(クルクリンA)を挙げることができる。
【0027】
従って、本発明のポリペプチドNASは、(A)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドであってもよいが、該(A)ポリペプチドと実質的に同一のポリペプチド、すなわち(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個、好ましくは1〜5個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、ポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチドであっても良い。
【0028】
ポリペプチドNASは、ポリペプチドNBSとの結合力が増し、結果的に安定性の高いネオクリンを形成することができる点で、糖鎖が付加されてなることが好ましく、特に、N結合型糖鎖が付加されてなることが好ましい。ここでN結合型糖鎖とは、タンパク質の一次構造に存するアスパラギン残基に結合したN−アセチルグルコサミン(N-acetyl glucosamine)を基点として伸長する糖鎖構造の総称を意味する。
N結合型糖鎖の中でも、特に、マンノース(mannose)/N−アセチルグルコサミン(N-acetyl glucosamine)/フコース(fucose)/キシロース(xylose)の比が3/2/1/1で構成されるN結合型糖鎖であることが好ましい。具体的には、図8に示す構造からなる糖鎖配列を挙げることができる。尚、図8に示す構造の一部に付加、欠如、置換、又は修飾があってもよい。
尚、ポリペプチドNASにおけるN結合型糖鎖の結合部位は、N結合型糖鎖の結合特性を考慮すると、配列表の配列番号2記載のアミノ酸配列中81番目のアスパラギンであるものと推測される。
【0029】
本発明のポリペプチドNASは、ネオクリンを形成するサブユニットであるから、ネオクリンを含むクルクリゴ・ラチフォリアの果実から公知の分離・精製法を組み合わせて取得することができる。例えば、実施例1の(1)に記載した方法で所得したネオクリンを、実施例1の(2)及び(3)に記載するように公知のイオン交換クロマトグラフィー法を適切に組み合わせて精製すると共に、実施例2に記載するように、通常用いられる方法で陽イオン交換カラムに供すると、等電点が8.6であるポリペプチドNBSはカラムに吸着され、ポリペプチドNASは非吸着画分に得られる。この非吸着画分を通常用いられる方法で、陰イオン交換カラムに供すると、等電点が4.7であるポリペプチドNASはカラムに吸着されるので、これを溶出し、脱塩、乾燥すればよい。
また、下記の(4)に示すDNAを元にして遺伝子工学的手法を用いて得ることができる。
一方、上記(A)又は(B)に示すポリペプチドを、適当な合成方法、例えば、固相合成法、部分固相合成法、溶液合成法のほか、フルオレニルメチルオキシカルボニル法(Fmoc法)、t−ブチルオキシカルボニル法(tBoc法)等の化学合成法などによって製造することができる。また、(B)に示すポリペプチドは、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個、好ましくは1〜5個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含むアミノ酸配列となるように、例えば部位特異的変異法によって改変することによっても取得され得る。
【0030】
(3)本発明のポリペプチドPNAS
本発明のポリペプチドPNASは、下記の(A)又は(B)に示すポリペプチドである。
(A)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(B)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、プロセシングにより成熟体ポリペプチドNASとなった後に、前記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチド。
【0031】
ここで、(A)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、前記(2)において説明したポリペプチドNASのシグナルペプチド及び延長ペプチドを含むポリペプチドNASの前駆体として、本発明者らが始めて見出したものである。すなわち、(A)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドは、(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドの前駆体として植物細胞内で産生され、プロセシングによって、(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドとなるポリペプチドである。
従って、NAS前駆体であるポリペプチドPNASは、(A)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドであっても良いが、該(A)ポリペプチドと実質的に同一のポリペプチド、すなわち(B)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個、好ましくは1〜5個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、プロセシングにより成熟体ポリペプチドNASとなった後に、ポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチドであっても良い。
尚、ポリペプチドNBSについては、前記(2)において説明した通りである。
【0032】
ポリペプチドPNASはプロセシングにより、シグナルペプチド部分(配列表の配列番号3記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号1〜22記載のアミノ酸配列からなる部分)、及び延長ペプチド(配列表の配列番号3記載のアミノ酸配列のうち、アミノ酸番号136〜158記載のアミノ酸配列からなる部分)が切断された後に得られるポリペプチドNASと、ポリペプチドNBSとの結合力を増加させ、結果的に安定性の高いネオクリンを形成させることができる点で、糖鎖が付加されてなることが好ましく、特に、N結合型糖鎖が付加されてなることが好ましい。N結合型糖鎖の中でも、特に、マンノース(mannose)/N−アセチルグルコサミン(N-acetyl glucosamine)/フコース(fucose)/キシロース(xylose)の比が3/2/1/1で構成されるN結合型糖鎖であることが好ましい。具体的には、図8に示す構造からなる糖鎖配列を挙げることができる。尚、図8に示す構造の一部に付加、欠如、置換、又は修飾があってもよい。
尚、ポリペプチドPNASにおけるN結合型糖鎖の結合部位は、N結合型糖鎖の結合特性を考慮すると、配列表の配列番号3記載のアミノ酸配列中103番目のアスパラギンであるものと推測される。
【0033】
このようなポリペプチドPNASは、ネオクリンを形成するサブユニットNASの前駆体であるから、下記の(4)に示すPNASをコードする遺伝子のDNAを元にして遺伝子工学的手法を用いて得ることができる。一方、上記(A)又は(B)に示すポリペプチドを、適当な合成方法、例えば、固相合成法、部分固相合成法、溶液合成法のほか、フルオレニルメチルオキシカルボニル法(Fmoc法)、t−ブチルオキシカルボニル法(tBoc法)等の化学合成法などによって製造することができる。また、(B)に示すポリペプチドは、配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個、好ましくは1〜5個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加又は逆位を含むアミノ酸配列となるように、例えば部位特異的変異法によって改変することによっても取得され得る。
【0034】
(4)本発明のDNA
本発明のDNAは、上記(2)で説明したポリペプチドNASをコードする遺伝子のDNA、及び、上記(3)で説明したポリペプチドPNASをコードする遺伝子のDNAである。
【0035】
すなわち、第一に、ポリペプチドNASをコードする遺伝子のDNAは、前記(2)において説明したポリペプチドNAS、詳しくは以下の(A)又は(B)に示すポリペプチドNASをコードする遺伝子のDNAである。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、前記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチド。
【0036】
このポリペプチドNASをコードする遺伝子のDNAは、具体的には、(A)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号70〜408からなる塩基配列を含むDNAとして得ることができるが、これと実質的に同一の塩基配列、すなわち、(B)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号70〜408からなる塩基配列又は当該塩基配列の少なくとも一部から作成したプローブとなりうる塩基配列のDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、ポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチドをコードするDNAとして得ることもできる。尚、ポリペプチドNBSについては、前記(2)において説明した通りである。
ここで、「ストリンジェントな条件」とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。この条件を明確に数値化することは困難であるが、一例を示せば、相同性が高いDNA同士、例えば90%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件、あるいは、通常のハイブリダイゼーションの洗浄条件、例えば0.1×SSCで0.1%SDSに相当する塩濃度にて65℃で洗浄が行われる条件などが挙げられる。
【0037】
このような、ポリペプチドNASをコードする遺伝子のDNAは、例えば、受粉から数週間後のクルクリゴ・ラチフォリアの果実から、mRNAを抽出し、逆転写ポリメラーゼ・チェーン・リアクション(RT−PCR)によってcDNAを合成し、ファージベクターにパッケージングする。これをファージに感染させcDNAライブラリーを得る。続いて、本発明によって明らかとなったポリペプチドNASのアミノ酸配列に基づいて作製したプローブをプラークハイブリダイゼーションさせて、目的とするDNAを特定し、回収して取得することができる。
一方、配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号70〜408からなる塩基配列に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプライマーに用いたPCRによって得ることもできるほか、市販されている種々のDNA合成装置によっても、上記(A)又は(B)に示すDNAを合成することができる。
また、(B)に示すDNAは、例えば配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号70〜408からなる塩基配列に、部位特異的変異導入法等を用いて、適宜置換、欠失、挿入、又は付加変異を導入することで得ることができる。また、既知の突然変異処理によっても取得することが可能である。
【0038】
また、第二に、ポリペプチドPNASをコードする遺伝子のDNAは、前記(3)において説明したポリペプチドPNAS、詳しくは以下の(A)又は(B)に示すポリペプチドPNASをコードする遺伝子のDNAである。
(A)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(B)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、プロセシングにより成熟体ポリペプチドNASとなった後に、前記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチド。
【0039】
このようなポリペプチドPNASをコードする遺伝子のDNAは、具体的には、(A)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号4〜477からなる塩基配列を含むDNAとして得ることができるが、これと実質的に同一の塩基配列、すなわち、(B)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号4〜477からなる塩基配列又は当該塩基配列の少なくとも一部から作成したプローブとなりうる塩基配列のDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロセシングにより成熟体ポリペプチドNASとなった後に、ポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチドをコードするDNAとして得ることもできる。尚、ポリペプチドNBSについては、前記(2)において説明した通りである。
「ストリンジェントな条件」については、ポリペプチドNASをコードする遺伝子のDNAの場合と同様である。
【0040】
このような、ポリペプチドPNASをコードする遺伝子のDNAは、例えば、受粉から数週間後のクルクリゴ・ラチフォリアの果実から、成熟体ポリペプチドNASの場合と同様にして取得することができる。また、該配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号4〜477に基づいて合成したオリゴヌクレオチドをプライマーに用いたPCRや、市販されている種々のDNA合成装置によっても、上記(A)又は(B)に示すDNAを合成することができる。
また、(B)に示すDNAは、例えば配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号4〜477からなる塩基配列に、部位特異的変異導入法等を用いて、適宜置換、欠失、挿入、又は付加変異を導入することで得ることができる。また、既知の突然変異処理によっても取得することが可能である。
【0041】
なお、本発明の2つのDNAが、塩基配列の調整要素及び当該遺伝子の構造部分を含んでも良いことは、言うまでもない。
【0042】
(5)本発明の味覚改変組成物
本発明の味覚改変組成物は、有効成分として、味覚改変活性を有する二量体タンパク質ネオクリンを含有することを特徴とするものである。ネオクリンについては、前記(1)において説明した通りである。
本発明の味覚改変組成物は、そのまま摂取してもよいが、野菜ジュース、グレープフルーツ等の果汁、すしネタ等各種料理用調味液をはじめとする飲食物又は薬剤等に適当量を配合して使用してもよい。この場合のネオクリンの配合量は、当該組成物が高度に精製されたネオクリン粉末を飲料に添加する場合を例に取ると、5〜5,000μg/ml、特に50〜500μg/mlが好ましい。
また、本発明の味覚改変組成物は、配合対象である飲食物又は薬剤等の性状に応じて、粉末状、溶液状、シート状、スプレー状、顆粒状、又は乳化物状等に加工して使用することができる。
【0043】
(6)本発明の二量体タンパク質ネオクリンの製造方法
本発明においては、ネオクリンを構成する2種のサブユニットであるNAS及びNBSをコードする各遺伝子、さらにはPNASをコードする遺伝子が同定されている。
そこで本発明においては、これらの遺伝子を高効率に発現させ、ネオクリンの工業生産を可能とするための宿主−ベクター系として、NASをコードする遺伝子のDNA又はPNASをコードする遺伝子のDNAを含む組換えベクターを提供すると共に、NBSをコードする遺伝子のDNAを含む組換えベクターを提供する。更に、本発明は、上記二種類の組換えベクターを組み合わせて含む形質転換体をも提供する。更にまた、本発明は、上記形質転換体を培養することを特徴とする味覚改変活性を有する二量体タンパク質ネオクリンの製造方法をも提供する。
【0044】
本発明において、宿主−ベクター系を利用してネオクリンを製造するためには、上記した本発明の2種類の組換えベクター、すなわち、NASをコードする遺伝子のDNA(すなわち、請求項3又は4記載のDNA)あるいはPNASをコードする遺伝子のDNA(すなわち、請求項7又は8記載のDNA)を含む組換えベクター、及び請求項11の(a)又は(b)に示すNBSをコードする遺伝子のDNAを含む組換えベクターを、宿主に同時に導入する必要がある。
これは、ネオクリンがNAS及びNBSという異なるサブユニットからなるヘテロダイマーであるので、NASとNBSの両方のサブユニットタンパク質が生産されることが必要だからである。
【0045】
このような本発明の組換えベクターは、NASをコードする遺伝子、或いはNBSをコードする遺伝子を発現させるためのプロモーター機能を含む発現調節機能を備えている必要がある。
また、組換えベクターは、該ベクターに導入したNAS遺伝子やNBS遺伝子が宿主菌内において発現して生産されるNASやNBSを、宿主菌体外に分泌生産させるための機能を備えていることが望ましい。具体的には、例えば、NASやNBSをコードする遺伝子のほかに、宿主が分泌するタンパク質、例えば、麹菌(アスペルギルス・オリゼなど)の場合、麹菌由来の分泌タンパク質α−アミラーゼをコードする遺伝子を適当なベクターに組み込み、NAS及びNBS、並びにα−アミラーゼの融合タンパク質として発現させることにより、宿主菌の菌体外に分泌生産させることができる。尚、アミラーゼの代わりに、グルコアミラーゼ(GlaA)を用いることもできる。
さらに、上述のようにして融合タンパク質として発現させる場合には、融合タンパク質をNASやNBS単独のタンパク質にするためのプロセシング機能も備えているのが望ましい。具体的には、例えば、麹菌のゴルジ体に存在するKEX2様プロテアーゼが認識するアミノ酸配列(Lys−Arg,Lys−Lys,Arg−Lys,Arg−Arg)をコードする塩基配列を利用して、該塩基配列をα−アミラーゼとNAS及びNBSとの間に組み込んでこれを発現させ、後でKEX2様プロテアーゼを作用させることにより、組換えベクターが産生した融合タンパク質からα−アミラーゼを単離し、NAS及びNBSの二量体タンパク質を得ることができる。
更に、上記のようにしてKEX2により切断する場合には、KEX2の認識配列付近の立体構造によって不正確になされることがあること、及び、ネオクリンはヘテロ2量体を形成し、切断部位付近の立体構造が複雑であると予想されることから、切断効率と切断の正確性の改良を行うことが好ましい。例えば、NAS及びNBSのN末端のAspの直前にGly、Ala、Serなどのように分子量が小さく、側鎖も小さいために立体障害を生じ難いアミノ酸を3残基程度挿入することができる。
このような一連の操作は、ベクター構築キット(Multisite Gateway Three-Fragment Vector Construction Kit;Invitrogen社製)を利用することにより、より簡便に行うことができる。すなわち、該キットを利用して、(a)5’エントリークローンの作製、(b)目的遺伝子エントリークローンの作製、(c)3’エントリークローンの作製、(d)3種類のエントリークローンとデスティネーション・ベクターとの組換え反応による組換えベクターの作製、の順でコンストラクションを行って、所望の組換えベクターを得ることができる。一方、常法に基づき、必要な遺伝子断片を切り出し、ベクター上の適切なサイトに導入することによっても、組換えベクターを作製することが可能である。
【0046】
本発明の組換えベクターの具体例としては、NASをコードする遺伝子を導入した組換えベクターとしてpgFa3GNaSJ(図10)、NBS遺伝子を導入した組換えベクターとしてpgFa3GNbTa(図11)などを挙げることができる。
一方、PNASをコードする遺伝子を導入する場合、例えば、pgFa3GNaSJ中のNASをコードする遺伝子、または、pgFa3GNbTa中のNBSをコードする遺伝子を、PNASをコードする遺伝子に代えたプラスミドが挙げられる。
【0047】
また、本発明の形質転換体について説明する。本発明の形質転換体は、上記二種類の組換えベクターが適当な宿主に組み込まれてなるものである。
本発明の組換えベクターの宿主としては、真核生物が望ましい。大腸菌等の原核生物を宿主とした場合は、背景技術の欄で既に述べたように、菌体内にタンパク質がインクルージョンボディとして生産されるために、これを味覚修飾活性を発揮できる正しいヘテロダイマーとするために、該インクルージョンボディを構成するポリペプチドNAS及びNBSを、塩化グアニジン等の溶解剤などを用いて一旦溶解した後、再構築(再構成)過程を経る必要があることから、好ましくない。これに対して、麹菌などの真核生物を宿主とすると、溶解剤などの試薬を用いる必要がない上に、再構築などの余分な過程を必要とせずに、味覚修飾活性を発揮することができるネオクリンとして分泌生産させることが可能である。
【0048】
本発明の組換えベクターを導入するための宿主としては、真核生物の中でも糸状菌が好ましく、その中でさらに好ましいのは麹菌である。また、麹菌の具体的なものとしては、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)が挙げられ、さらにその代表的なものとしてアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)NS4株が挙げられる。
このような形質転換体の例として、本発明者らは、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)NS4株にNAS及びNBSをコードする遺伝子の組換えベクターを導入して、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)NS−NAB2株を得た。このアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)NS−NAB2株は、日本国茨城県つくば市中央第6の独立行政法人特許生物寄託センターに、寄託番号FERM ABP−10209として寄託されている。
【0049】
本発明においては、上記形質転換体を培養することを特徴とする味覚改変活性を有する二量体タンパク質ネオクリンを製造することができる。
形質転換体の培養は、NASをコードする遺伝子とNBSをコードする遺伝子の発現割合が特定比率となるような条件で行うことが望ましい。発現量がどちらか一方に偏りがあると、ホモダイマーが形成されてNASとNBSからなるヘテロダイマーの生産割合が低くなり、ネオクリンの生産効率が低下する。
本発明においては、形質転換操作に用いるNASをコードする遺伝子とNBSをコードする遺伝子の割合を1:5の比率とした際に得られた形質転換体の中から、高い確率で高発現株を選抜できた。尚、高い生産効率を達成するためには、pH8.0前後の培地条件で培養を行うことが好ましい。
このようにして、本発明の組換えベクターや形質転換体味覚修飾活性を有するヘテロダイマーが効率的に生産可能である。
以下に、実施例を示す。
【実施例1】
【0050】
クルクリゴ・ラチフォリアの果実を、以下の手順に従い精製し、味覚改変活性を有する新規タンパク質の取得を試みた。
【0051】
(1)粗抽出液の調製
凍結乾燥したクルクリゴ・ラチフォリアの果実(表1の果実凍結乾燥粉末)約1kgに40リッターの純水を加え、15分間ホモジナイズした後、6,000rpmで20分間遠心分離を行い、上清(上清に味覚修飾活性は無い)を除去した。前述の操作を2回繰り返し、沈殿残渣を得た。
次に、この沈殿残渣に0.05N硫酸を20リッター加え、10分間ホモジナイズした後、6,000rpmで20分間遠心分離を行い、上清を回収した。この操作を2回繰り返した。沈殿に味覚修飾活性はない。
次に、この抽出液に1N水酸化ナトリウムを2リッター加え、中和して、活性物質を含む粗抽出液(表1の0.05N硫酸抽出液)を得た。
【0052】
(2)Amberlite IRC−50カラムによる精製
(1)で得た粗抽出液約40リッターを50mMリン酸緩衝液(pH5.5)で平衡化したAmberlite IRC−50カラム(オルガノ社製、直径8cm×30cm)に流し、吸着させた。続いて、50mMリン酸緩衝液(pH5.5)1リッターで洗浄後、1M塩化ナトリウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH5.5)1.5リッターで溶出したところ、味覚修飾活性を示す画分が得られた。この活性画分に60%飽和となるよう硫酸アンモニウムを添加し、活性物質を析出させ、6,000rpmで30分間遠心分離を行った。得られた沈殿は0.2N酢酸100mlに溶解し、活性物質溶液(表1のAmberlite IRC-50 Chromatography)として回収した。
【0053】
(3)Sephadex G−25カラムによる精製
(2)で得た活性物質溶液100mlを0.2N酢酸で平衡化したSephadex G−25カラム(Amersham Biosciences社製、直径8cm×30cm)に供し、脱塩した。この活性物質溶液を凍結乾燥することにより高度に精製されたネオクリン粉末(表1のSephadex G-25 Chromatography)が得られた。
上記の各精製ステップにおいて得られる物質のタンパク質含量、活性収率及び精製度を表1にまとめた。
【0054】
【表1】

【0055】
(4)精製結果の確認
前記の(1)〜(3)で得たネオクリン精製粉末2.5μgを、還元下又は非還元下でゲル濃度15%でSDS−PAGE後、CBB染色を行ったところ、図1に示す通り、非還元下で20kDaの位置に単一バンドが見られ、還元下では13kDa及び11kDaの位置に2本のバンドが見られた。このことから、得られたネオクリンが高度に精製されていることが確認でき、さらに、ネオクリンが13kDa及び11kDaのサブユニット各1個からなる2量体であることが確認できたので、それぞれをneoculin acidic subunit(NAS)、neoculin basic subunit(NBS)とした。
【0056】
(5)味覚修飾活性の確認
さらに、前記の(1)〜(3)で得たネオクリン精製粉末1.1mgを、6M尿素を含む10%アクリルアミドゲルを用いて、Native−PAGEを行った。得られたバンドを切り出し、ゲルから水で抽出した試料を凍結乾燥した。凍結乾燥後のサンプルを150μlの水に懸濁し、パネラー2名がそれぞれ50μlを口に含んだところ、当該サンプルが甘味を呈すること、さらに、サンプルを吐き出した後に口に含んだ0.02Mクエン酸の酸味が甘味に変換されていることを確認し、味覚改変活性を有することを確認した。
さらに、回収したサンプルのうち1000分の1量をSDS−PAGEに供して銀染色を行ったところ、20kDaの位置に単一バンドが見られ、味覚修飾活性本体がネオクリンであることが確認された。
【実施例2】
【0057】
実施例1において得られたネオクリンを、以下の手順に従い更に精製し、ネオクリンを構成する各サブユニットの解析を行った。
【0058】
(1)HiTrap SP Sepharose Fast Flowカラムによる精製
実施例1で得たネオクリン粉末100mgを20mlのバッファーA(8M尿素、30mM DTTを含む50mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5))に溶解し、全量をバッファーAで平衡化したHiTrap SP Sepharose Fast Flowカラム(Amersham Biosciences社製、直径1.6cm×2.5cm)に供した。続いて、バッファーA50mlで洗浄を行った。続いて、1M塩化ナトリウムを含むバッファーA50mlで溶出を行い、精製されたNBS画分を得た。また、洗浄画分70mlはイオン交換水中で透析により100mlとなった。
【0059】
(2)HiTrap SP Sepharose Fast Flowカラムによる2回目の精製
上記(1)で得られた洗浄画分100mlに8M尿素、30mM DTT、50mM酢酸緩衝液(pH4.5)を加え150mlとし(全て終濃度)、これをバッファーB(8M尿素、30mM DTTを含む50mM酢酸緩衝液(pH4.5))で平衡化したHiTrap SP Sepharose Fast Flowカラム(Amersham Biosciences社製、直径1.6cm×2.5cm)に供した。続いて、バッファーB50mlで洗浄後、1M塩化ナトリウムを含むバッファーB50mlで溶出を行った。また、洗浄画分200mlはイオン交換水中で透析により250mlとなった。
【0060】
(3)HiTrap DEAE Sepharose Fast Flowカラムによる精製
上記(2)で得られた洗浄画分250mlに8M尿素、30mM DTT、50mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0)を加え350mlとし(全て終濃度)、これをバッファーC(8M尿素、30mM DTTを含む50mMトリス−塩酸緩衝液(pH9.0))で平衡化したHiTrap DEAE Sepharose Fast Flowカラム(Amersham Biosciences社製、直径1.6cm×2.5cm)に供した。続いて、バッファーC50mlで洗浄後,1M塩化ナトリウムを含むバッファーC50mlで溶出を行ったところ、精製されたNAS画分を得た。
【0061】
(4)精製結果の確認
(1)及び(3)で得られたNBS画分及びNAS画分をそれぞれ透析後、凍結乾燥し、精製粉末を得た。これらの精製粉末を10μg用いてSDS−PAGEを行ったところ、図2に示すように、NAS画分、NBS画分のそれぞれについて、13kDa、11kDaの部分に単一バンドが見られ、各サブユニットが精製されていることが確認された。
【実施例3】
【0062】
実施例2において得られたネオクリンを構成するNAS画分のアミノ酸配列を、以下の手順に従い解析した。
【0063】
(1)N末端アミノ酸配列解析
実施例2(1)〜(3)で得られた精製NAS粉末70μgを二次元電気泳動に供し、電気泳動後のゲルをポリビニリデンジフルオライド(PVDF)膜と重ねて上下に電流を流すことにより転写した。転写したPVDF膜を、SYPRO Ruby protein blot stain(Molecular Probes社製)で染色後、通常の方法でバンドを切り出し、アミノ酸シーケンサー(HP G1005A Protein Sequencing System)によりN末端アミノ酸配列を決定した。すなわち、N末端部分の遊離アミノ基にフェニルイソチオシアネート(PITC)を反応させ、フェニルチオカルバミル誘導体(PTCアミノ酸)とし、次いでトリフルオロ酢酸によってアニリノチアゾリノン−アミノ酸として遊離させ、さらに酸性下で安定なフェニルチオヒダントイン(PTHアミノ酸)に変換して分析するものである。これによりN末端より40残基のアミノ酸配列が決定された。
【0064】
(2)内部アミノ酸配列解析
(i)S−カルボキシアミドメチル化
実施例2(1)〜(3)で得られた精製NAS粉末10mgを6M尿素、20mM DTTを含む500mMトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)100mlに溶解した。この溶液を50℃、1時間静置した。ヨードアセトアミド100mgを添加して混合し、暗所、かつ室温で45分間振盪した。反応液を透析後、凍結乾燥させ、S−カルボキシアミドメチル化したNASを得た。
【0065】
(ii)chymotrypsinによる断片化
上記(i)で得られたS−カルボキシアミドメチル化NASのchymotrypsin消化を、0.1Mトリス−塩酸緩衝液(pH8.0)中で37℃、16時間行った。タンパク質濃度は0.2mg/mlで、酵素:基質比は1:20とした。反応停止には100℃で3分間処理した。
【0066】
(iii)endoproteinase Asp−Nによる断片化
上記(i)で得られたS−カルボキシアミドメチル化NASのendoproteinase Asp−N消化を、0.01%SDSを含む50mMリン酸緩衝液(pH8.0)中で37℃、16時間行った。タンパク質濃度は1.0mg/mlで、酵素:基質比は1:100とした。反応停止には100℃で3分間処理した。
【0067】
(iv)trypsinによる断片化
上記(i)で得られたS−カルボキシアミドメチル化NASのtrypsin消化を、2M尿素を含む0.1M炭酸アンモニウム緩衝液(pH8.5)中で37℃、24時間行った。タンパク質濃度は0.2mg/mlで、酵素:基質比は1:20とした。反応停止には100℃で3分間処理した。
【0068】
(v)ペプチドの分離及び配列解析
上記(ii)〜(iv)の操作で得られたchymotrypsin消化ペプチド、endoproteinase Asp−N消化ペプチド及びtrypsin消化ペプチドを、TSKgel ODS−80TsQAカラム(東ソー社製、直径4.6mm×15cm)を用いたHPLCによって分離した。各ペプチドは0.05%トリフルオロ酢酸を含むアセトニトリルの直線濃度勾配溶出法で溶出した。
220nmの吸収によって検知されたchymotrypsin消化ペプチドのHPLC溶出パターンを図3に、同様にして検知されたendoproteinase Asp−N消化ペプチドのHPLC溶出パターンを図4に、trypsin消化ペプチドのHPLC溶出パターンを図5に、それぞれ示す。
220nmの吸収によって検知され、分取されたペプチドは乾燥後、アミノ酸シーケンサー(Procise 491cLC Protein Sequencing System又はProcise 492HT Protein Sequencing System)により内部アミノ酸配列を解析した。
【0069】
(3)C末端アミノ酸配列解析
上記(2)(i)で得られたS−カルボキシアミドメチル化NAS 1nmolのcarboxypeptidase A消化を、0.15%SDSを含む50mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)中で25℃で行った。タンパク質濃度は5mg/mlで、酵素:基質比は1:40とし、反応開始直後と6時間反応後にサンプリングした。反応停止には反応液に等量の10%トリクロロ酢酸を添加し、0℃、30分静置後、遠心分離して上清を回収した。
上清にある遊離したアミノ酸をPTC化し、TSKgel ODS−80TsQAカラム(東ソー社製、直径4.6mm×15cm)を用いたHPLCによって定量分析した。結果を図6に示す。
図6の結果に示すように、Asn、Leu、及びSer以外のアミノ酸は遊離されなかった。Carboxypeptidase Aは、ProまたはArgを遊離する活性が著しく低いことから、C末端から4番目のアミノ酸はProまたはArgと推定され、NASのC末端配列はC末端側からNLSP/Rであることが確認された。
【0070】
(4)一次構造の決定
以上の方法により決定されたアミノ酸配列は、配列表の配列番号2及び図7に示す通りである。尚、図7において、4行目のNはN末端から決定したアミノ酸配列部分を示し、C1〜14はchymotrypsin消化から得られたペプチドのアミノ酸配列部分を示し、D1〜4は、endoproteinase Asp−N消化から得られたペプチドのアミノ酸配列部分を示し、T1〜4はtrypsin消化から得られたペプチドのアミノ酸配列部分を示す。また、←はC末端から得られた配列を示す。
【実施例4】
【0071】
実施例2において得られたネオクリンを構成するNBS画分のアミノ酸配列を、実施例3と同様の手順に従い解析した。
その結果、NBSのアミノ酸配列は、配列表の配列番号6に示すアミノ酸配列からなり、特開平6−189771公報において既に開示されているポリペプチドであるクルクリンBのアミノ酸配列とほぼ完全に一致したが、C末端にGlyが付加されており、クルクリンBのアミノ酸残基数114よりも1残基長かった。
【実施例5】
【0072】
実施例2において得られたネオクリンを構成するNAS画分の糖鎖修飾について、以下の手順に従い解析した。
すなわち、糖鎖付加コンセンサス配列を有するペプチド、すなわち、実施例3(2)(ii)で得た精製NASのchymotrypsin消化ペプチドC1を回収し、ABEE糖組成分析キットプラスS(ホーネンコーポレーション社製)を用いて、糖鎖の糖組成を分析した。
具体的には、シアル酸の遊離処理をしてから、還元糖に変換し、引き続き、酸加水分解により、糖タンパク質糖鎖中に含まれるグリコシド結合を全て切断し、単糖に遊離した。生じた単糖は標識化をした後、TSKgel ODS−80TsQAカラム(東ソー社製、直径4.6mm×7.5cm)を用いたHPLCで分離し、305nmの吸収で検出し、分析した。
分析の結果、NASに付加された糖鎖の糖組成は、マンノース/N−アセチルグルコサミン/フコース/キシロースがほぼ3/2/1/1の比であった。この結果、及び植物に一般的に見られる糖鎖構造を参考に推定されたNASに付加された糖鎖構造を図8に示す。
【実施例6】
【0073】
ネオクリンを構成するNASをコードする遺伝子を、以下の手順に従いクローニングした。
【0074】
(1)cDNAライブラリーの作成
材料には、クルクリゴ・ラチフォリアの果実(日本新薬(株) 山科植物資料館から提供された)を用いた。受粉4〜8週後の果実約20.6gを液体窒素によって凍結し、解凍しないように粉砕した。このようにして得た粉末20.6gを試料として、mRNA Purification Kit(Amersham Bioscience社製)を用いてPoly(A)+mRNAを抽出した。
抽出したmRNA約4.5μgからcDNA Synthesis Kit(Amersham Bioscience社製)を用いてcDNAライブラリーを作成した。cDNAはEcoRIアダプター連結でλZAPIIベクター(Stratagene社製)に挿入した。これをGigapack III Gold Packaging Extract(Stratagene社製)を用いてファージにパッケージングし、大腸菌XL1−Blue MRF´に感染させたところ、約1.2×10個のプラークから成るライブラリーを得た。
【0075】
(2)プローブの作成
凍結乾燥処理したクルクリゴ・ラチフォリアの果実20mgを材料とし、DNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN社製)を用いてゲノムDNAを抽出した。特開平6−189771号公報で開示されているNBSのアミノ酸配列を元に配列表の配列番号4に記載のNC1Sプライマー、及び配列表の配列番号5に記載のNC1Aプライマーを合成し、抽出したゲノムDNAを鋳型としてPCR反応(94℃,3分,42℃,3分、72℃,3分を1サイクル、94℃,30秒、42℃,30秒、72℃,1分を50サイクル)を行ったところ、NASの一部をコードする469bpのDNA断片が得られた。このDNA断片をプローブとして使用した。
【0076】
(3)プラークハイブリダイゼーション
(1)で得たライブラリーのうち、2x10個のプラークをナイロンメンブレンに移してDNAを固定した後、(2)で作成したプローブを用い、65℃でハイブリダイゼーションを行った。洗浄は0.1xSSC,0.1%SDSを用い65℃で行った。その結果、約100個のプラークがプローブとハイブリダイズした。強いシグナルを示す25個のプラークについて、2次スクリーニングを行い、シングルプラークに分離した。
【0077】
(4)塩基配列の決定
(3)で得たシングルプラークファージをヘルパーファージとXL1−Blue MRF´に共感染させin vivo excisionすることでλZAPIIベクターからインサートcDNAを含むpBluescriptII SK(−)を切り出した。cDNAの塩基配列をジデオキシ法により決定した。
その結果、決定された塩基配列は配列表の配列番号1に示すとおりであった。配列表の配列番号1に示す塩基配列のうち、塩基番号70〜408からなる塩基配列がコードするポリペプチドのアミノ酸配列は、実施例4で得られたNASのアミノ酸配列(配列表の配列番号3記載のアミノ酸配列)と一致していた。
また、配列表の配列番号1に示す塩基配列のうち、塩基番号4〜477からなる部分には、NASのアミノ酸配列を含むオープンリーディングフレーム(ORF)が見出された。このことから、NASはシグナルペプチド及び延長ペプチドを含む前駆体ペプチド(PNAS)の形で産生されることが確認された。塩基番号4〜477からなる塩基配列がコードするPNASのアミノ酸配列は、配列表の配列番号3に記載するとおりである。
【実施例7】
【0078】
ネオクリンを添加した野菜ジュースを、以下の手順に従い調製し、その味覚改変活性を評価した。
細かく切った新鮮なほうれん草135g、ピーマン65g、セロリ65g、及びレモン汁25gに水300mlを加えてミキサーで5分間懸濁し、これを孔計0.1mmのナイロンメッシュでろ過して、約400mlの野菜ジュースを得た。この野菜ジュース100mlに実施例1の精製ネオクリン粉末を50mg添加したものを高濃度添加野菜ジュース、10mg添加したものを低濃度添加野菜ジュースとし、無添加野菜ジュースを対照サンプルとして、パネラー4名により官能評価を行った。評価点は無添加野菜ジュースの苦味、えぐ味、及び甘味をそれぞれ0点とし、それぞれの味において、顕著に増強された時を2点、増強された時を1点、顕著に低減された時を−2点、低減された時を−1点とした。評価結果の平均値を表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
表2の結果から、本発明のネオクリンは、苦味及びえぐ味を顕著に低減すると共に、甘味を付与することにより食品の嗜好を高める効果があることが確認された。
【実施例8】
【0081】
ネオクリンを添加したグレープフルーツ果汁を、以下の手順に従い調製し、その味覚改変活性を評価した。
グレープフルーツ果汁100mlに実施例1の精製ネオクリン粉末を10mg添加したものを高濃度添加サンプル、5mg添加したものを低濃度添加サンプルとし、無添加グレープフルーツ果汁を対照サンプルとして、パネラー4名により官能評価を行った。評価点は対象サンプルの苦味、酸味、及び甘味をそれぞれ0点とし、それぞれの味において、顕著に増強された時を2点、増強された時を1点、顕著に低減された時を−2点、低減された時を−1点とした。評価結果の平均値を表3に示す。
【0082】
【表3】

【0083】
表3の結果から、本発明品のネオクリンは、苦味を顕著に低減すると共に、酸味を抑制し、甘味を付与することにより食品の嗜好を高める効果があることが確認された。
【実施例9】
【0084】
ネオクリンを添加した寿司ネタ用調味液を、以下の手順に従い調製し、その味覚改変活性を評価した。尚、ここでいう寿司ネタ用調味料とは、生のまま、又は一旦加熱処理した寿司用の寿司ネタに予め塗布したり、浸漬したりして寿司ネタを調味するための調味料である。
寿司ネタ用調味料の組成は、表4に示す通りとした。尚、寿司ネタ用調味料は、使用時は寿司ネタの種類、量に応じて適宜、水で希釈して用いるため、本実施例においては2倍希釈して用いた。
【0085】
【表4】

【0086】
希釈済寿司ネタ用調味液100mlに、実施例1の精製ネオクリン粉末11.3mgを添加してネオクリン添加調味液を得た。このネオクリン添加調味液に海老を20分間浸漬して海老の寿司ネタ(ネオクリン添加サンプル)を得た。一方、ネオクリン粉末を添加しないままの希釈済寿司ネタ用調味液にも同様に海老を浸漬して海老の寿司ネタ(対照サンプル)を得た。パネラー4名が、ネオクリン添加サンプル及び対照サンプルを各一尾ずつ食することにより、各サンプルのえぐ味の強さを評価した。その結果、ネオクリン添加サンプルは、対照サンプルに比べて、えぐ味が顕著に抑制されることが確認された。
【実施例10】
【0087】
ネオクリンの味覚改変活性とクルクリンの味覚修飾活性とを、以下の手順で比較した。
【0088】
(1)クルクリンの調製
まず、特開平6−189771号公報の実施例1〜12において開示されている方法により、クルクリンBを発現させた。
その後、クルクリンBを発現している形質転換大腸菌を超音波発生装置により破壊した懸濁液を、50mM塩化ナトリウムを含む25mMリン酸緩衝液(pH6.8)を用いて遠心分離により4回洗浄した。これを8M尿素、10mM DTTを含む500mMトリス塩酸緩衝液(pH9.5)に溶解し、37℃で2.5時間還元した。この溶液に、10倍量の8M尿素、0.11M酸化型グルタチオンを含む500mMトリス塩酸緩衝液(pH8.5)を添加し、室温で3時間静置し、タンパク質をグルタチオン化した。このグルタチオン化タンパク質に、10倍量の4mMシステインを含む50mMトリス塩酸緩衝液(pH9.0)を添加し、4℃で2日間反応させた後、0.1M塩化ナトリウムを含む50mMリン酸緩衝液(pH6.8)に透析することでホモダイマーを形成させた。その後、凍結乾燥することで、クルクリンBのホモダイマーであるクルクリン粉末を得た。
【0089】
クルクリンBがホモダイマーを形成していることは、SDS−PAGEで確認した。すなわち、クルクリン粉末10μgを、ゲル濃度15%でSDS−PAGE後、CBB染色を行ったところ、図9に示す通り、非還元下で約20kDaの位置に単一バンドが見られ、還元下では約11kDaの位置に1本のバンドが見られることを確認した。該ホモダイマー、クルクリンを用いて以下の官能検査を行った。
【0090】
(2)味覚改変活性及び味覚修飾活性の比較
実施例1で得た精製ネオクリンを、30、50、75、100μg/mlの各濃度となるように、また、(1)で得たクルクリンを、100μg/mlとなるように、水に溶解した。100μg/mlクルクリン溶液500μlを口に含み、溶液を吐き出した後、0.1%(v/v)酢酸を口に含んだ時の甘さを基準として、各濃度のネオクリン溶液500μlを口に含み、溶液を吐き出した後、0.1%(v/v)酢酸を口に含んだ時の甘さをパネラー3名で評価した。その際、クルクリン溶液時の甘さに比べて、同等の甘味の時は0点、やや甘味が強い時は1点、甘味が強い時は2点、著しく甘味が強い時は3点、やや甘味が弱い時は−1点、甘味が弱い時は−2点、著しく甘味が弱い時は−3点とした。評価結果の平均値を表5に示す。
【0091】
【表5】

【0092】
表5の結果から、ネオクリンの有する味覚改変活性は、クルクリンの味覚修飾活性よりも著しく強いことが確認された。
【実施例11】
【0093】
NASをコードする遺伝子のDNAを含むベクターとNBSをコードする遺伝子のDNAを含むベクターを用いて麹菌でのネオクリンの発現を確認した。
麹菌の一種であるアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)などの糸状菌を用いた異種タンパク質生産では、宿主分泌タンパク質との融合タンパク質として発現することにより、大量に生産することが可能である。また、ゴルジ体に局在するプロテアーゼであるKEX2の切断配列を融合部位に挿入することで、目的のタンパク質のみを分泌させることができる(例えば、「アプライド・アンド・エンバイロメンタル・マイクロバイオロジー(Appl.Environ.Microbiol.)」、63巻、p488−497、1997年参照)。
本実施例ではアスペルギルス・オリゼで最も大量に分泌されるタンパク質であるα−アミラーゼをキャリアーにして、NASをコードする遺伝子とNBSをコードする遺伝子を発現させて、ネオクリンの生産をおこなった。
発現の手順は、以下に示す通りとした。
【0094】
(1)組換えベクターの作製
ベクター構築キット(Multisite Gateway Three-Fragment Vector Construction Kit;Invitrogen社製)を使用して組換えベクター(pgFa3GNaSJ及びpgFa3GNbTa)を作製した。
このキットを用いた方法は、(a)5’エントリークローンの作製、(b)目的遺伝子エントリークローンの作製、(c)3’エントリークローンの作製、(d)3種類のエントリークローンとデスティネーション・ベクターとの組換え反応による発現ベクターの作製、の順でコンストラクションを行うものである。
具体的には、以下に示すような手順及び条件にて実施した。
【0095】
(a)5’エントリークローンの作製
馬橋らの方法(例えば、2004年日本農芸化学会要旨集、p.24、2004年参照)に従って、5‘エントリークローン(pg5’PFa)を作製した。
すなわち、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)RIB40株(独立行政法人酒類総合研究所にRIB No.40として保存され、入手可能)のゲノムを鋳型とし、配列表の配列番号7に示す塩基配列からなるプライマー1(5’−GGGGACAACTTTGTATAGAAAAGTTGATGCATTTCATGGTGTTTTGATCATT−3’、但し下線はattBサイト配列を示す)と、配列表の配列番号8に示す塩基配列からなるプライマー2(5’−GGGGACTGCTTTTTTGTACAAACTTGTCGAGCTACTACAGATCTTGCTA−3’、但し下線はattBサイト配列を示す)とを使用したPCRを行って、amyBプロモーター及びそのORFの配列を増幅した。
【0096】
PCRによって得られた増幅断片を、ドナーベクターpDONR P4−P1R(Invitrogen社製)にattBサイトとattPサイトの組換え反応(BP組換え反応)を利用して導入し、5’エントリークローン(以下、pg5’PFaと称する)を得た。その後、pg5’PFaを大腸菌DH5α株に導入し、得られたコロニーを増殖させた後、プラスミドを抽出した。
【0097】
(b)目的遺伝子エントリークローンの作製
目的遺伝子のうち、NASをコードする遺伝子のエントリークローン(pgE3GNa)は、以下のようにして作製した。すなわち、NASをコードする遺伝子のcDNAクローンのうち、NASの成熟領域(23Asp〜135Asnをコードする部分、配列表の配列番号1記載の塩基配列のうち、塩基番号70〜408からなる部分)を鋳型とし、N末端の前にKEX2切断配列(Lys−Arg)及び3残基のGlyを付加して設計された配列表の配列番号9に示す塩基配列からなるプライマー3(5’−GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCTCTAAACGTGGGGGGGGGGACAGTGTCCTGCTCTCC−3’、但し下線はattBサイト配列を示す)と、C末端の後に終止コドンを含む塩基配列を付加して設計された配列表の配列番号10に示す塩基配列からなるプライマー4(5’−GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTTTAATTAAGACTGCGGCACCC−3’、但し、下線はattBサイト配列を示す)とを使用したPCRを行った。
PCRによって得られた増幅断片を、ドナーベクターpDONR221(Invitrogen社製)にBP組換え反応を利用して導入し、NASをコードする遺伝子のエントリークローン(以下、pgE3GNaと称する)を得た。その後、pgE3GNaを大腸菌DH5α株に導入し、得られたコロニーを増殖させた後、プラスミドを抽出した。
【0098】
NASをコードする遺伝子のエントリークローン(pgE3GNb)についても、基本的には上記NASをコードする遺伝子の場合と同様に行った。すなわち、NBSをコードする遺伝子のcDNAクローンのうち、NBSの成熟領域(23Asp〜137Glyをコードする部分、配列表の配列番号17記載の塩基配列のうち塩基番号67〜411からなる部分)を鋳型とし、N末端の前にKEX2切断配列及び3残基のGlyを付加して設計された配列表の配列番号11に示す塩基配列からなるプライマー5(5’−GGGGACAAGTTTGTACAAAAAAGCAGGCTCTAAACGTGGGGGGGGGGACAGTGTCCTGCTCTCCG−3’、但し下線はattBプライマー配列)と、C末端の後に終止コドンが入る配列を付加して設計された配列表の配列番号12に示す塩基配列からなるプライマー6(5’−GGGGACCACTTTGTACAAGAAAGCTGGGTTTATCCACCATTAACACGGCG−3’、但し下線はattBプライマー配列)とを使用したPCRを行った。
PCRによって得られた増幅断片を、ドナーベクターpDONR221(Invitrogen社製)にBP組換え反応を利用して導入し、NBSをコードする遺伝子のエントリークローン(以下、pgE3GNbと称する)を得た。その後、pgE3GNbを大腸菌DH5α株に導入し、得られたコロニーを増殖させた後、プラスミドを抽出した。
【0099】
(c)3’エントリークローンの作製
馬橋らの方法(例えば、2004年日本農芸化学会要旨集、p.24、2004年参照)に従って、3’エントリークローン(pg3’sCJ及びpg3’Ta)を作製した。
まず、amyBターミネーター及びAsperugillus nidulansのsC遺伝子を組み込んだ3’エントリークローンは、以下のようにして得た。すなわち、pgDSN(amyBターミネーター及びAsperugillus nidulansのATPスルフリラーゼ(sC)遺伝子の配列(配列表の配列番号18に記載の塩基配列)を組み込んであるプラスミド)を鋳型とし、配列表の配列番号13に示したプライマー7(5’−GGGGACAGCTTTCTTGTACAAAGTGGGTGATCTGTAGTAGCTCGTGAA−3’、但し下線はattBプライマー配列を示す)と、配列表の配列番号14に示したプライマー8(5’−GGGGACAACTTTGTATAATAAAGTTGGATCTTGGATATAAAAATCCAAATATG−3’、但し、下線はattBプライマー配列を示す)を使用しPCRを行って、amyBターミネーター及びAsperugillus nidulansのsC遺伝子の配列を増幅した。
PCRによって得られた増幅断片を、ドナーベクターpDONRP2R−P3(Invitrogen社製)にBP組換え反応を利用して導入し、3’エントリークローン(以下、pg3’sCJと称する)を得た。その後、pg3’sCJを大腸菌DH5α株に導入し、得られたコロニーを増殖させた後、プラスミドを抽出した。
【0100】
また、amyBターミネーターのみを持つ3’エントリークローン(pg3’Ta)は、上記pg3’sCJと同様の手順で得た。
すなわち、配列表の配列番号18に記載の塩基配列を鋳型として、配列表の配列番号15に示す塩基配列からなるプライマー9(5’−GGGGACAGCTTTCTTGTACAAAGTGGGATCTGTAGTAGCTCGTGAAG−3’、但し下線はattBプライマー配列を示す)と、配列表の配列番号10に示す塩基配列からなるプライマー10(5’−GGGGACAACTTTGTATAATAAAGTTGTTTCCTATAATAGACTAGCGTGC−3’、但し下線はattBプライマー配列を示す)を使用し、PCRを行った。
PCRによって得られた増幅断片を、ドナーベクターpDONRP2R−P3(Invitorogen社製)にBP組換え反応によって導入し、3’エントリークローン(以下、pg3’Taと称する)を得た。その後、大腸菌DH5α株に導入して得られたコロニーを増殖させた後、プラスミドを抽出した。
【0101】
(d)3種類のエントリークローンとデスティネーション・ベクターとの組換え反応による発現ベクターの作製
NASをコードする遺伝子のDNAを導入した組換えベクター、すなわちNAS発現ベクター(以下、pgFa3GNaSJと称する)は、以下のようにして作製した。
すなわち、上述の(a)で得られたpg5’PFaと、(b)で得られたpgE3GNaと、(c)で得られたpg3’sCJの3種類のエントリークローンを、デスティネーション・ベクターpDESTR4−R3(Invitrogen社製)と混合し、LR Clonase Plus Enzyme Mixを加え、attLサイトとattRサイトの組換え反応(LR組換え反応)を行った。その結果得られる組換えベクターを大腸菌DH5α株に導入して形質転換し、得られたコロニーを増殖させた後、目的の組換えベクターとして、pgFa3GNaSJを抽出した。
このようなpgFa3GNaSJの作製過程及び構造の概略を、図10に示した。
【0102】
NBSをコードする遺伝子のDNAを導入した組換えベクター、すなわちNBS発現ベクター(以下、pgFa3GNbTaと称する)は、以下のようにして作製した。
すなわち、上述の(a)で得られたpg5’PFaと、(b)で得られたpgE3GNbと、(c)で得られたpg3’Taの3種類のエントリークローンを、デスティネーション・ベクターpDESTR4−R3(Invitrogen社製)と混合し、LR Clonase Plus Enzyme Mixを加え、LR組換え反応を行った。その結果得られる組換えベクターを大腸菌DH5α株に導入して形質転換し、得られたコロニーを増殖させた後、目的の組換えベクターとしてpgFa3GNbTaを抽出した。
このようなpgFa3GNbTaの作製過程及び構造の概略を、図11に示した。
【0103】
このようにして得られた組換えベクター(pgFa3GNaSJ及びpgFa3GNbTa)は、以下に示す3つの特徴をもつ。
まず、第一の特徴は、キャリアータンパク質としてα−アミラーゼを用い、NAS及びNBSとα−アミラーゼとの融合タンパク質を発現させるべく、α−アミラーゼをコードする遺伝子を、NAS及びNBSをコードする遺伝子と共に導入したことである。
タンパク質を、本来の由来生物以外の異種を宿主として生産する場合、特に宿主としてアスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)を用いた報告としては、宿主の分泌タンパク質であるグルコアミラーゼ(GlaA)をキャリアーとして用い、その結果、生産量が増加したという報告がある(「バイオサイエンス・バイオテクノロジー・アンド・バイオケミストリー(Biosci.Biotechnol.Biochem.)」、58巻、5号、p.895−899、1994年)。しかし、他の分泌タンパク質をキャリアーとして用いることは検討されていない。今回、本発明者らは、アスペルギルス・オリゼが最も大量に分泌する酵素であるα−アミラーゼを用い、分泌経路での異種タンパク質の安定化及び生産量の増加を試みた。
【0104】
第二の特徴は、α−アミラーゼとNAS又はNBSとの連結部分に、KEX2の認識配列(Lys−Arg)を導入したことである。
麹菌のゴルジ体中には、KEX2様のプロテアーゼが存在する。KEX2プロテアーゼとは、塩基性アミノ酸対(Lys−Lys、Lys−Arg、Arg−Lys、及びArg−Arg:KEX2の認識配列)を認識し、そのC末端を切断するセリンプロテアーゼである。つまり、これらのKEX2の認識配列を持つタンパク質が小胞体(ER)からゴルジ体へと移行すると、ゴルジ体内でKEX2様プロテアーゼにより切断される。従って、KEX2の認識配列を導入することにより、融合タンパク質であるα−アミラーゼとNAS又はNBSとの間が切断され(プロセシング)、NAS又はNBSを単独で得ることができる。
【0105】
第三の特徴は、切断効率が改良された点である。
上記したKEX2による切断は、KEX2の認識配列付近の立体構造によって不正確になされることがある。ネオクリンはヘテロ2量体を形成し、切断部位付近の立体構造が複雑であることが予想されたため、NAS及びNBSのN末端のAspの直前に3残基のGlyを挿入して、切断効率と切断の正確性の改良を行った。
【0106】
(2)形質転換体の作製
形質転換はプントらの方法(「メソッズ・イン・エンザイモロジー(Methods Enzymol.)」、216巻、p.447−457、1992年)の方法を改変して、以下のようにして行った。
【0107】
(a)プロトプラストの調製
PDプレート(1リッターの水に対して39gのポテトデキストロース(ニッスイ社製)を溶解しオートクレーブした後、滅菌済みプレートに分注)に、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)NS4株(sC,niaD)を滅菌した竹串に塗布し、7日間30℃でインキュベーションして分生子を生育させた。
これを100mlのDPY液体培地(2%Dextrin、1%Polypeptone、0.5%Yeast extract、0.5%KHPO、0.05%MgSO・7H2O、pH5.5)に、竹串で掻き入れ30℃、200rpmで20時間振とう培養した後、滅菌したミラクロス(Calbiochem社製)で菌体を回収し、滅菌水で洗浄した。
10mlのSol−1(1%Yatalase(宝酒造社製)、0.6M (NHSO、50mM Maleate buffer、pH5.5)を入れたL字管に菌体を移し、30℃で3時間やさしく振とうしプロトプラスト化した。
【0108】
(b)発現ベクターの導入−適当量の発現ベクターを共形質転換と栄養要求培地による選択と形質の安定化
得られたプロトプラストをミラクロスに通し菌体残渣を除去し、等量のSol−2(1.2M Sorbitol、50mM CaCl、35mM NaCl、10mM Tris−HCl、pH7.5)を加え、2000rpm、4℃、break offで遠心した。
沈殿をSol−2で2回洗浄後、200μlのSol−2に1×10cell/mlになるようにSol−2に懸濁した。
【0109】
NAS導入プラスミドを2μg、NBS導入プラスミドを10μgずつ加え、30分氷上でインキュベートした。250μl、250μl、850μlと段階的にSol−3(60%PEG4000、50mM CaCl、10mM Tris−HCl、pH7.5)を加え、やさしく混合し20分室温放置した。5〜10mlのSol−2を加えて遠心後、500μlのSol−2に懸濁した。
【0110】
懸濁液を予め分注し保温しておいた5mlのTop Agar(1.2M Sorbitol入り)に加え、下層培地(MSプレート;1.2 M Sorbitol、0.2% NHCl、0.1%(NHSO、0.05%KCl、0.05% NaCl、0.1% KHPO、0.05%MgSO・7HO、0.002% FeSO・7HO、2%glucose、1.5%Agar、pH5.5)に流し込んだ。
その後、パラフィルムをまき空気穴を開け30℃で3〜5日インキュベートした。得られたコロニーをMプレート(0.2% NHCl、0.1%(NHSO、0.05% KCl、0.05% NaCl、0.1% KHPO、0.05% MgSO・7HO、0.002% FeSO・7HO、2%glucose、1.5%Agar、pH5.5)に3回植えついで形質を安定させた。1プレートにつき30株の形質転換体が得られた。
【0111】
(3)ネオクリン生産株の選抜
(a)DPY液体培地(pH8.0)による小スケールでの生産と培養液の回収
上記(2)形質転換体の作製で得られた形質転換体12株をMプレートに塗布し、30℃で2〜4日インキュベートした。オートクレーブした竹串で分生子を掻き取り20mlのDPY液体培地(pH8.0)(DPY液体培地(pH5.5)の試薬の組成のうち、0.5%KHPOを0.5%KHPOに替え、1M NaOH溶液でpHを8.0に調整)を入れた100mlフラスコで30℃、200rpmで3日間振とう培養した。培養液から菌体をミラクロスで分離し回収した。
【0112】
(b)生産株の選抜とウェスタンブロッティング解析
回収した培養液を還元下でSDS−PAGE(15%アクリルアミド)に供した後、PVDF膜(Millipore社製)に転写しウェスタンブロッティング解析を行った。
転写終了後の膜を5%スキムミルクを含むTBSTに浸し、60分室温でゆるやかに振とうさせた。2.5mlの5%スキムミルクを含むTBSTに0.5μlの抗ネオクリン抗体を1次抗体として加えプラスチックバッグに入れ室温で60分放置した。TBSTで膜を10分ずつ3回洗浄したのち、5%スキムミルクを含むTBSTに2.5μlのアルカリフォスファターゼ結合抗ウサギIgG抗体(Sigma社製)を2次抗体として加えプラスチックバッグに入れ室温で60分放置した。TBSTで膜を10分ずつ3回洗浄したのち、10mlの反応液(0.1M Tris−HCl(pH9.5)、5mM MgCl、0.1M NaCl)に、基質として66μlのNBTと33μlのBCIPを加え、これを遮光条件で数分間反応させ発色させた。その結果を図12に示した。
【0113】
その結果、クルクリゴ果実から精製したネオクリン標品の分子量と、形質転換体により産生された2つのサブユニットのバンドの割合(図12の矢印)を考慮して12株の形質転換体の中から#2株を選抜した。ここに選択された#2株は、アスペルギルス・オリゼ(Aspergillus oryzae)NS−NAB2株と命名され、日本国茨城県つくば市中央第6の独立行政法人特許生物寄託センターに、寄託番号FERM ABP−10209として寄託されている。
【0114】
(4)大量培養
(a)分生子の回収
上記(3)ネオクリン生産株の選抜で得られた形質転換体(#2株)の分生子を、PDプレートに竹串で塗りつけ30℃で3〜7日間インキュベートした。分生子が成長したプレートに10mlの0.01%Tween80溶液を注ぎ滅菌スポイト(Sarstedt社製)で分生子を掻き取った。
これを15mlファルコンに回収し、1分間激しく攪拌したのち、滅菌したミラクロスで菌体残渣を取り除いた。4℃で4000rpm、5分間遠心した後、上清を捨て10mlの0.01%Tween80溶液を加え攪拌した。同じ操作をもう1度繰り返した後、4℃で4000rpm、5分遠心し、上清を捨て沈殿を1mlの滅菌水に溶解した。回収液のうち数μlを水で10倍程度に希釈しトーマ血球計算版を用いて分生子の数を計測した。
【0115】
(b)DPY液体培地(pH8.0)での大量振とう培養
DPY液体培地(pH8.0)を120mlずつ、500mlフラスコに加えたものを5つ用意した。それぞれに分生子を1×10cell/lとなるように加え、30℃、200rpmで72時間振とう培養した。培養液から菌体をミラクロスで分離し約400mlを回収した。
【0116】
(5)組換えネオクリンの精製
(a)硫安分画
上記(4)の大量培養で回収した培地に、飽和硫安濃度が60%になるように硫安を加えたのち30分インキュベートした。10000rpm、4℃、30分間遠心し沈殿を回収した。
【0117】
(b)フェニル疎水カラムクロマトグラフィーによる精製
硫安分画して得られた沈殿をBufferA(3M NaCl、20mM Acetate−Na、pH5.0)に溶解したのち、BufferAに対して1晩透析した。回収後、溶液を0.45μmフィルターでろ過したものをサンプルとした。
カラムはHIC PH−814(20×150mm)(Shodex社製)を用い、0〜20分まではBufferA、20〜90分の間はBufferAに対してBufferB(20mM Acetate−Na、pH5.0)を、0から100%のグラジェント、さらに、90〜110分まではBufferBを移動相として、流速3.0ml/minの条件で、フェニル疎水カラムクロマトグラフィーによる分画(検出;280nm)を行った(図13(a))。得られた画分(Fr.1〜5)を電気泳動した後、ウェスタンブロッティング解析したところ(図13(b))、組換えネオクリン(NASとNBSのヘテロダイマー)は、Fr.1に溶出し、Fr.2〜5では主にNASのホモダイマーと見られるバンドが検出された。Fr.1を回収し、さらに精製を進めた。(図13)。
【0118】
(c)ゲルろ過カラムクロマトグラフィーによる精製
フェニル疎水カラムクロマトグラフィーによる精製で得られたFr.1画分を水に対して透析後、凍結乾燥したのち少量の水に溶解したものをサンプルとした。
カラムはTSK−GEL G3000SW(7.5×300mm)(TOSOH社製)を用い、0.5M NaCl、50mM Acetate−Na、pH5.0を移動相として、流速1.0ml/minの条件で、ゲルろ過カラムクロマトグラフィーによる分画(検出;280nm)を行った(図14(a))。
Fr.1〜4を個々に回収し、それぞれを水に対して透析後、凍結乾燥したのち少量の水に溶解した。これを還元条件又は非還元条件の下で電気泳動(SDS−PAGE)し、CBB染色(図14(b))及びウェスタンブロッティング解析(図14(c))を行った結果、組換えネオクリンはFr.3及びFr.4に溶出し低ることが明らかとなった。
【0119】
Fr.1〜4のうち、Fr.3(レーン3)とFr.4(レーン4)には還元条件下のSDS−PAGEにおいて、約13kDaの位置にNASとみられるスメアなバンド(図14(b)の黒矢印)が見られ、また、約11kDaの位置にNBSとみられるバンド(図14(b)の白矢印)が検出された。
また、非還元条件下のSDS−PAGEにおいては、約20kDaの位置にヘテロダイマーとみられるバンドが検出された(図14(b)中の黒矢尻)。
尚、Fr.3には目的タンパク質であるネオクリン以外の不純タンパク質(ウェスタンブロッティング解析では検出されない)が多量に含まれていた。一方、Fr.4はネオクリンタンパク質の含量が高いことが明らかになった。
【0120】
更に、Fr.4の還元条件下のSDS−PAGEにおける13kDa及び11kDaの位置のバンド(図14中、左下図のレーン4の矢印)についてPVDF膜に転写したのちアミノ末端配列を解析したところ、13kDaの位置のバンドのタンパク質はGly−Gly−Gly−Asp−Ser−Val−Leu−Leu−Serであり、また、11kDaの位置のバンドのタンパク質はGly−Gly−Gly−Asp−Asn−Val−Leu−Leu−Serであって、これらはそれぞれ、KEX2による切断効率を高めるためにN末端に付加した3つのGlyに続く、配列表の配列番号2記載のアミノ酸配列のアミノ酸番号1〜6部分、配列表の配列番号6記載のアミノ酸配列のアミノ酸番号1〜6部分に該当していたことから、NAS及びNBSを意味していることが分かった。このことから、いずれも正確な位置でプロセシングされた組換えネオクリンが得られたことが明らかとなった。
【0121】
(6)組換えネオクリンの味覚改変活性確認
精製した組換えネオクリンを0.3mg/mlの濃度で水に溶解し、味覚改変活性評価をおこなった。
0.02Nのクエン酸を200μl味わって酸味を感じたのち、20μlの組換えネオクリン溶液を味わい舌になじませた。その後、再度クエン酸を200μlを味わったところ、酸味の抑制と甘味が感じられ味覚修飾活性が確認された。
これは同濃度の標品(0.3mg/ml)と同程度の比活性であり、組換えネオクリンを味わった後10分後にクエン酸を味わってもその活性は維持されていた。また水を摂取しても甘味は感じられおよそ60分程度にわたってその活性は確認できた。
以上の結果から、NASをコードする遺伝子のDNAを含むベクターとNBSをコードする遺伝子のDNAを含むベクターを用いることにより、麹菌による味覚修飾活性を持ったネオクリンの発現が可能であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0122】
本発明により、優れた味覚改変活性を有し、クルクリンとは異なりヘテロダイマー構造を取る新規な二量体タンパク質ネオクリンが提供され、当該タンパク質を用いて、食品等に実用可能な新規な味覚改変組成物を提供することが可能となった。
また、本発明により、当該タンパク質を構成するサブユニットのアミノ酸配列が提供され、このアミノ酸配列通りに、適当な合成方法によって当該タンパク質を提供することが可能となった。
さらには、本発明により、当該タンパク質をコードする遺伝子のDNAが提供されたことで、適当な宿主を選び、特に麹菌を宿主として、遺伝子工学技術を用いて効率的に当該タンパク質を提供することが可能となった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)、又は(B)に示すポリペプチドNAS。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、下記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチド。
(a)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、クルクリンを構成するサブユニットとなりうるポリペプチド。
【請求項2】
マンノース/N−アセチルグルコサミン/フコース/キシロースの比が3/2/1/1で構成されるN結合型糖鎖が付加された請求項1に記載のポリペプチドNAS。
【請求項3】
下記の(A)、又は(B)に示すポリペプチドNASをコードする遺伝子のDNA。
(A)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(B)配列表の配列番号2に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、下記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチド。
(a)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、クルクリンを構成するサブユニットとなりうるポリペプチド。
【請求項4】
下記の(A)又は(B)に示すDNAである請求項3に記載の遺伝子のDNA。
(A)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号70〜408からなる塩基配列を含むDNA。
(B)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号70〜408からなる塩基配列又は当該塩基配列の少なくとも一部から作成したプローブとなりうる塩基配列のDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、下記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチドをコードするDNA。
(a)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、クルクリンを構成するサブユニットとなりうるポリペプチド。
【請求項5】
下記の(A)又は(B)に示すポリペプチドPNAS。
(A)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(B)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、プロセシングにより成熟体ポリペプチドNASとなった後に、下記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチド。
(a)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、クルクリンを構成するサブユニットとなりうるポリペプチド。
【請求項6】
マンノース/N−アセチルグルコサミン/フコース/キシロースの比が3/2/1/1で構成されるN結合型糖鎖が付加された請求項5に記載のポリペプチドPNAS。
【請求項7】
下記の(A)又は(B)に示すポリペプチドPNASをコードする遺伝子のDNA。
(A)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(B)配列表の配列番号3に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、プロセシングにより成熟体ポリペプチドNASとなった後に、下記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチド。
(a)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、クルクリンを構成するサブユニットとなりうるポリペプチド。
【請求項8】
下記の(A)又は(B)に示すDNAである請求項7に記載の遺伝子のDNA。
(A)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号4〜477からなる塩基配列を含むDNA。
(B)配列表の配列番号1に記載の塩基配列のうち、塩基番号4〜477からなる塩基配列又は当該塩基配列の少なくとも一部から作成したプローブとなりうる塩基配列のDNAと、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつ、プロセシングにより成熟体ポリペプチドNASとなった後に、下記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSと共に味覚改変活性を有する二量体ネオクリンを形成しうるポリペプチドをコードするDNA。
(a)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、クルクリンを構成するサブユニットとなりうるポリペプチド。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のポリペプチドNASと下記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSとからなり、味覚改変活性を有することを特徴とする二量体タンパク質ネオクリン。
(a)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、クルクリンを構成するサブユニットとなりうるポリペプチド。
【請求項10】
請求項9に記載の二量体タンパク質ネオクリンを有効成分として含有することを特徴とする味覚改変組成物。
【請求項11】
請求項3又は4記載のDNA、若しくは請求項7又は8に記載のDNAを構成する塩基配列を含む組換えベクター。
【請求項12】
下記の(a)又は(b)に示すポリペプチドNBSをコードする遺伝子のDNAを構成する塩基配列を含む組換えベクター。
(a)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチド。
(b)配列表の配列番号6に記載のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸の置換、欠失、挿入、付加、又は逆位を含むアミノ酸配列からなり、かつ、クルクリンを構成するサブユニットとなりうるポリペプチド。
【請求項13】
ベクターが、真核生物で機能するベクターである請求項11記載の組換えベクター。
【請求項14】
ベクターが、真核生物で機能するベクターである請求項12記載の組換えベクター。
【請求項15】
ベクターが、糸状菌で機能するベクターである請求項11記載の組換えベクター。
【請求項16】
ベクターが、糸状菌で機能するベクターである請求項12記載の組換えベクター。
【請求項17】
ベクターが、麹菌で機能するベクターである請求項11記載の組換えベクター。
【請求項18】
ベクターが、麹菌で機能するベクターである請求項12記載の組換えベクター。
【請求項19】
請求項11及び12記載の組換えベクター、請求項13及び14記載の組換えベクター、請求項15及び16記載の組換えベクター、又は、請求項17及び18に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
【請求項20】
請求項19に記載の形質転換体を培養することを特徴とする請求項9に記載のネオクリンの製造方法。


【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate


【国際公開番号】WO2005/073372
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【発行日】平成19年9月13日(2007.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−517476(P2005−517476)
【国際出願番号】PCT/JP2005/001068
【国際出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(398065531)株式会社ミツカングループ本社 (157)
【Fターム(参考)】