説明

方位検知装置

【課題】 地磁気などの検知する3軸の磁気センサと角速度検知部を用い、方位を精度良く求めることができる方位検知装置を提供する。
【解決手段】 初期姿勢のときのX0−Y0−Z0軸の三次元座標上で地磁気ベクトルを検知する。その後、角速度検知部で角速度を検知し、角速度を積分して積算し、X軸回りの角度変化量θpとY軸回りの角度変化量θrを求める。最新の座標点データが得られたときに、三次元座標をX軸回りに角度変化量θpだけ戻し、Y軸回りに角度変化量θrだけ戻すと、Z軸回りの回転角度、すなわち方位の変化角度αを算出できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直交する3方向のそれぞれに向けられた磁気センサで磁気ベクトルを検知する磁気検知部と、直交する2方向の角速度を検知する角速度検知部を用いて、磁気ベクトルとの相対的な方位を精度良く求めることができる方位検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
空間上で移動する物体の姿勢を検知するための検知装置として、地磁気ベクトルの向きを検知する方位センサと、移動体の角速度を検知するジャイロが使用されている。地磁気ベクトルを検知する方位センサは、3軸方向に向けられた磁気センサを有するものが一般的である。ジャイロは圧電素子などを使用して振動体を振動させ、コリオリ力による振動体の変位を検知する振動型のものが一般的に使用されている。
【0003】
しかし、方位センサは、地磁気ベクトルが微弱な磁気あり、また外部からの磁界がノイズとして重畳しやすいため、方位角の検知精度に限界がある。また、コリオリ力は振動体の振動速度に比例するものであるが、温度変化などによる振動体の振動速度の変化であるドリフトがそのまま角速度の誤差につながることになり、移動する物体の移動を精度良く検知することに限界がある。
【0004】
以下の特許文献1と特許文献2には、方位センサとジャイロとを併用した方位検出装置ならびに姿勢検出装置が開示されている。
【0005】
特許文献1に記載された方位検出装置は、磁気方位センサで検出される絶対的方位と、ジャイロで検出される相対的方位とを比較し、誤差の多い絶対的方位の検出値を相対的方位の検知出力で補正するというものである。
【0006】
特許文献2に記載された姿勢検出装置は、ジャイロセンサからの出力をハイパスフィルターに通過させ、地磁気センサの出力を微分してローパスフィルターに通過させ、両出力を合成して使用することで、応答速度の速いジャイロセンサとドリフトのない地磁気センサの双方の利点を利用するというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−126579号公報
【特許文献2】特開平9−203637号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1と特許文献2に記載された発明は、方位センサとジャイロの検知出力を補正し合い、または補完し合っているが、方位センサによる地磁気の検知方式と、ジャイロによる角速度の検知方式そのものに変更がない。そのため、方位センサでのノイズの重畳や、ジャイロの検知出力のドリフトの影響を効果的に除去することは難しい。
【0009】
本発明は上記従来の課題を解決するものであり、磁気を検知する磁気検知部と角速度検知部とを使用し、磁気ベクトルとの相対的な方位を精度よく検知できる方位検知装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、互いに直交するX軸とY軸およびZ軸が基準軸として決められた磁気検知部と、X軸回りの角速度とY軸回りの角速度を検知する角速度検知部と、演算部とを有し、
前記磁気検知部に、X軸が磁気の方向に向けられたときに検知出力の絶対値が極大値となるX軸センサと、Y軸が磁気の方向に向けられたときに検知出力の絶対値が極大値となるY軸センサ、およびZ軸が磁気の方向に向けられたときに検知出力の絶対値が極大値となるZ軸センサが搭載され、
前記演算部で、
(a)前記X軸センサと前記Y軸センサおよび前記Z軸センサの検知出力に基づいて、磁気ベクトルの向きを三次元座標上の座標点データとして求め、
(b)前記角速度検知部で検知されたX軸回りの角速度とY軸回りの角速度をそれぞれ積分して、初期姿勢を起点とするX軸回りの角度変化量θpおよびY軸回りの角度変化量θrを求め、
前記角度変化量θpとθrを用いて、前記(a)の検知出力を補正することを特徴とするものである。
【0011】
例えば、前記(b)の次に、
(c)測定時の座標点データを得たときに、それまでの前記角度変化量θpおよび前記角度変化量θrだけ三次元座標を戻し、戻した三次元座標上での座標点データと初期姿勢のときに得られた初期座標点データとから、Z軸回りの磁気ベクトルの相対的な角度変化量αを求めることができる。
【0012】
本発明の方位検知装置は、角速度検知部の検知出力を、X軸回りとY軸回りの角度変化量を求めるための補正値として使用する。例えば、角度変位量を、座標点データの基準となる三次元座標を初期姿勢に戻すために使用している。そのため、角速度検知部のドリフトが方位の検知に影響を与えにくい。方位が磁気ベクトルの検知出力に基づいて検知されるため、高精度な方位検知が可能になる。
【0013】
なお、本明細書でのX軸とY軸およびZ軸は、互に直交する相対的な軸を意味しているのであり、空間内での軸の絶対的な向きを種別しているものではない。
【0014】
本発明は、前記X軸センサと前記Y軸センサおよび前記Z軸センサで地磁気を検知することで、地磁気の方位に対する角度変化量αが求められる。
【0015】
または、X軸センサと前記Y軸センサおよび前記Z軸センサで、地磁気以外に外部から与えられる磁気ベクトルを検知し、この磁気ベクトルを基準とした姿勢の変化を検知するために使用することも可能である。
【0016】
本発明は、初期姿勢のときの初期座標点データをメモリに記憶し、前記(c)で戻した三次元座標上での座標点データと、メモリに記憶されていた初期座標点データとから、角度変位量αが求められる。
【0017】
また、本発明は、前記(c)で戻した三次元座標上での座標点データのX座標およびY座標と、初期座標点データのX座標およびY座標とから、前記角度変化量αが求められるものである。
【0018】
本発明は、前記角速度検知部として、コリオリ力を検知してX軸回りの角速度を検知する振動型のX軸ジャイロと、コリオリ力を検知してY軸回りの角速度を検知する振動型のY軸ジャイロとが設けられているものを使用できる。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、磁気検知部が磁気ベクトルを検知する機能と、角速度検知部が運動時の角速度を検知する機能のそれぞれの本質的な機能を生かすことができ、また双方の検知部の欠点を補完して、方位の検知を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態の方位検知装置の回路ブロック図、
【図2】磁気検知部に設けられたX軸センサとY軸センサおよびZ軸センサの配置を示す説明図、
【図3】角速度検知部のX軸ジャイロとY軸ジャイロの配置を示す説明図、
【図4】地磁気ベクトルの検知動作を示す三次元座標の説明図、
【図5】X軸とY軸回りの角度変化量を示す説明図、
【図6】X軸の角度変化量とY軸の角度変化量を戻した三次元座標で方位の変化量を検知する演算を示す説明図、
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1に示す本発明の実施の形態の方位検知装置1は、地磁気の方位を検知するものであり、方位の検知出力に基づいて姿勢の検知も行うことができる。
【0022】
方位検知装置1には、地磁気を検知する磁気検知部2と、角速度を検知する角速度検知部11が設けられている。
【0023】
方位検知装置1は、磁気検知部2と角速度検知部11において、X軸とY軸およびZ軸が共通の向きで決められている。方位検知装置1は携帯用機器などに搭載され、X軸とY軸およびZ軸の直交関係を維持したまま、空間内で自由に移動できる。
【0024】
図2に示すように、磁気検知部2には、X軸センサ3がX軸に沿って固定され、Y軸センサ4がY軸に沿って固定され、Z軸センサ5がZ軸に沿って固定されている。X軸センサ3とY軸センサ4およびZ軸センサ5は、いずれもGMR素子で構成されている。GMR素子は、Ni−Co合金やNi−Fe合金などの軟磁性材料で形成された固定磁性層および自由磁性層と、固定磁性層と自由磁性層との間に挟まれた銅などの非磁性導電層とを有している。固定磁性層の下に反強磁性層が積層され、反強磁性層と固定磁性層との反強結合により、固定磁性層の磁化が固定されている。
【0025】
X軸センサ3は、地磁気のX方向に向く成分を検知するものであり、固定磁性層の磁化の向きがX軸に沿うPX方向に固定されている。自由磁性層の磁化の向きは地磁気の向きに反応する。自由磁性層の磁化の向きがPX方向と平行になるとX軸センサ3の抵抗値が極小になり、自由磁性層の磁化の向きがPX方向と逆向きになるとX軸センサ3の抵抗値が極大になる。また、自由磁性層の磁化の向きがPX方向と直交すると、抵抗値が前記極大値と極小値との平均値となる。
【0026】
図1に示す磁場データ検知部6では、X軸センサ3と固定抵抗とが直列に接続され、X軸センサ3と固定抵抗との直列回路に電圧が与えられており、X軸センサ3と固定抵抗との間の電圧がX軸の検知出力として取り出される。X軸センサ3にX方向に向く磁界が与えられていないとき、またはPXに対して直交する磁界が与えられているときに、X軸の検知出力が中点電圧となる。
【0027】
磁気検知部2の全体を傾け、X軸センサ3の固定磁性層の磁化の固定方向PXを地磁気ベクトルVと同じ向きにするとX軸センサ3に与えられる磁界成分が極大値となる。このときのX軸の検知出力は、前記中点電位に対してプラス側の極大値となる。逆に、X軸センサ3の固定磁性層の磁化の固定方向PXを地磁気ベクトルVと反対に向けると、X軸センサ3に与えられる逆向きの磁界成分が極大値となる。このときのX軸の検知出力は、前記中点電圧に対してマイナス側の極大値となる。
【0028】
Y軸センサ4とZ軸センサ5も、それぞれ固定抵抗とが直列に接続され、Y軸センサ4またはZ軸センサ5と固定抵抗との直列回路に電圧が与えられており、各センサと固定抵抗との間の電圧がY軸またはZ軸の検知出力として取り出される。
【0029】
Y軸センサ4の固定磁性層の磁化の固定方向PYを地磁気ベクトルVと同じ向きにすると、Y軸の検知出力は、中点電圧に対してプラス側の極大値になる。Y軸センサ4の固定磁性層の磁化の固定方向PYを地磁気ベクトルVと反対に向けると、Y軸の検知出力は、中点電圧に対してマイナス側の極大値となる。同様に、Z軸センサ5の固定磁性層の磁化の固定方向PZを地磁気ベクトルVと同じ向きにすると、Z軸の検知出力は、中点電圧に対してプラス側の極大値になる。Z軸センサ5の固定磁性層の磁化の固定方向PZを地磁気ベクトルVと反対に向けると、Z軸の検知出力は、中点電圧に対してマイナス側の極大値となる。
【0030】
地磁気ベクトルVの大きさが一定であれば、X軸センサ3とY軸センサ4およびZ軸センサ5からの検知出力は、いずれもプラス側の極大値の絶対値と、マイナス側の極大値の絶対値とが同じである。
【0031】
X軸センサ3としては、地磁気ベクトルの向きによってプラス側の検知出力とマイナス側の検知出力が得られ、プラス側の検知出力の極大値とマイナス側の検知出力の極大値とで絶対値が同じになれば、GMR素子以外の磁気センサで構成することもできる。例えば、X軸に沿ってプラス側の磁界強度のみを検知できるホール素子またはMR素子と、マイナス側の磁界強度のみを検知できるホール素子またはMR素子を組み合わせて、X軸センサ3として使用してもよい。これは、Y軸センサ4とZ軸センサ5においても同じである。
【0032】
図1に示すように、磁場データ検知部6で検知されたX軸とY軸およびZ軸の検知出力は、演算部8に与えられる。演算部8は、A/D変換部とCPUおよびクロック回路などから構成されている。演算部8のクロック回路の計測時間に応じて、磁場データ検知部6で検知されたX軸とY軸およびZ軸の検知出力が、短いサイクルで間欠的にサンプリングされて演算部8に読み出される。それぞれの検知出力は、演算部内に設けられた前記A/D変換部によってディジタル値に変換される。
【0033】
演算部8を構成するCPUにはメモリ7が接続されている。メモリ7には、演算処理のためのソフトウエアがプログラミングされて格納されている。演算部8の演算処理は前記ソフトウエアによって実行される。
【0034】
ディジタルデータに変換されたX軸の検知出力とY軸の検知出力およびZ軸の検知出力は、演算部8で演算処理され、図4または図6に示すX−Y−Zの三次元座標上の座標点データDに変換されて、演算部8内に設けられたデータバッファ(バッファメモリ)に格納される。クロック回路と同期して短いサイクルでサンプリングされて演算された前記座標点データDが、データバッファに順に格納されて保持される。
【0035】
図4または図6に示すように、磁気検知部2が地球上のいずれかの場所に置かれると、磁気検知部2のX軸センサ3から地磁気の検知出力xが得られ、Y軸センサ4から地磁気の検知出力yが得られ、Z軸センサ5から地磁気の検知出力zが得られる。演算部8では、前記各検知出力x,y,zに基づいて、地磁気ベクトルVの向きが、三次元座標上の座標点データD(x,y,z)として求められる。座標点データD(x,y,z)はサンプリング周期毎に次々と得られ、データバッファに順に格納されていく。
【0036】
図4または図6に示すように、座標点データD(x,y,z)は、三次元座標の基準原点Oを中心とする球面座標G上の点として現れる。球面座標Gの半径は、X軸方向とY軸方向およびZ軸方向での地磁気の検出強度の極大値の絶対値に比例する。したがって、球面座標Gの半径は、地磁気ベクトルVの絶対値に応じて変化する。
【0037】
図3に示すように、角速度検知部11には、X軸ジャイロ12とY軸ジャイロ13が設けられている。X軸ジャイロ12とY軸ジャイロ13は振動型ジャイロであり、微細な寸法のMEMSで構成されている。角速度検知部11で設定されているX軸とY軸は、図2に示す磁気検知部2で設定されているX軸およびY軸と同じ向きである。
【0038】
X軸ジャイロ12に設けられた振動子12aは、圧電素子などでVx方向へ振動させられる。方位検知装置1が、X軸回りの角速度ωxを持つと、振動子12aにコリオリ力による振動Fxが発生する。この振動Fxの成分は、振動子12aに設けられた電極とこれに対向する固定電極との静電容量の変化などから検知される。振動Fxは図1に示す検知回路14によって検知され、検知回路14において、X軸回りの角速度ωxが算出される。
【0039】
Y軸ジャイロ13は、振動子13aがVy方向へ振動させられ、Y軸回りの回転運動によるコリオリ力が、振動子13aの振動Fyとして検知される。検知回路14では、振動Fyの検知出力から、Y軸回りの角速度ωyが算出される。
【0040】
検知回路14で算出されたX軸回りの角速度ωxは、図1に示す積分計算部15に与えられ、時間によって積分されて、X軸回りの回転角に変換される。同様に、検知回路14で算出されたY軸回りの角速度ωyも積分計算部15において時間で積分されてY軸回りの回転角に変換される。積分計算部15で積分されたX軸回りの回転角とY軸回りの回転角は、それぞれ演算部8に与えられA/D変換部でディジタルデータに変換され、演算部8内のメモリに蓄積されていく。
【0041】
方位検知装置1が空間内で自由に運動すると、X軸回りの回転角が正方向と負方向に刻々と変化し、Y軸回りの回転角が正方向と負方向に刻々と変化する。演算部8では、メモリに蓄積されたX軸回りの回転角が積算され、図5に示すように、X軸回りの合計の角度変化量θpが算出される。同様に、メモリに蓄積されたY軸回りの回転角が積算されて、Y軸回りの合計の角度変化量θrが算出される。
【0042】
次に、方位検知装置1による方位の検知動作を説明する。
この方位検知装置1は、電源が投入された直後または使用を開始するときに、キャリブレーションが行なわれる。キャリブレーションは、方位検知装置1を搭載した携帯機器のディスプレイに表示される指示などに基づいて行われる。キャリブレーションは、使用者が方位検知装置1を任意の方向へ数回だけ回転させることで行われる。
【0043】
演算部8では、キャリブレーションにおいて次々に得られてデータバッファに格納される座標点データDの中からいくつかをサンプリングする。少なくとも3個の座標点データDを得ることで、座標点データDの回転軌跡に一致する円を特定できる。この円が複数個求められ、それぞれの円の中心を通り且つ円を含む平面に垂直な中心線が求められる。複数の中心線の交点を求めると、この交点が、演算部8で設定されるX−Y−Zの三次元座標の基準原点Oとなるように補正される。
【0044】
前記キャリブレーションの直後に、初期姿勢の設定および記憶が行われる。初期姿勢の設定と記憶は、前記ディスプレイに表示される指示などにしたがって行われる。使用者は、キャリブレーションの直後に、図4に示すように、方位検知装置1で決められているZ軸を重力の方向に向ける初期姿勢を設定する。例えば、携帯機器のディスプレイを地面と水平な姿勢にすることで、Z軸が重力の方向に向けられる。
【0045】
図4には、方位検知装置1が初期姿勢に設定されたときの三次元座標が、X0軸とY0軸およびZ0軸で示されている。このとき、X軸センサ3とY軸センサ4およびZ軸センサ5で検知された地磁気ベクトルVの向きが、X0−Y0−Z0軸の三次元座標上で初期座標点データDa(xa,ya,za)として得られる。初期姿勢が設定された後に、使用者がいずれかの操作釦を押すと、演算部8において、初期姿勢での地磁気ベクトルVの向きを検知した初期座標点データDa(xa,ya,za)がメモリに記憶される。
【0046】
なお、方位検知装置1と共に加速度センサが搭載されている携帯機器では、キャリブレーションが完了し、三次元座標の基準原点Oが補正されたときに、加速度センサによって重力の向きが解るため、方位検知装置1を搭載した携帯機器などを所定の姿勢に設定しなくても、初期姿勢の設定と記憶を行うことができる。すなわち、キャリブレーションが完了して三次元座標の基準原点Oが補正されたときに、演算部8で設定される三次元座標のZ0軸の向きを重力方向に向く補正を自動的に行なうことができる。さらに、補正後のX0−Y0−Z0座標で得られた初期座標点データDa(xa,ya,za)を、自動的にメモリに記憶させることも可能である。
【0047】
初期姿勢の設定と記憶が完了した後に、方位検知装置1を搭載した携帯機器などを空間内で自由に動かすと、方位検知装置1に設定されているX−Y−Z軸の三次元座標が、図4に示す初期姿勢のときのX0−Y0−Z0軸の三次元座標に対して各方向へ傾くことになる。ただし、積分計算部15では、X軸ジャイロ12とY軸ジャイロ13で検出されて刻々と変化するX軸回りの角速度とY軸回りの角速度がそれぞれ積分されて回転角に変換され、さらに、演算部8で、前記回転角が積算されて、X軸回りの角度変化量θpとY軸回りの角度変化量θrが算出されている。この角度変化量θpとθrは、図4に示す初期姿勢が設定された後の、初期姿勢を起点とするX軸回りとY軸回りの回転角の合計を意味している。
【0048】
したがって、磁場データ検知部6で検知されて球面座標G上の座標点データDとして認識される地磁気ベクトルVの方位の検出や、地磁気ベクトルVと方位検知装置1との相対的な移動量などを、積分された角度変化量θpとθrを使用して補正することが可能である。
【0049】
方位検出における補正方法の一例を以下に説明する。
演算部8では、積分された角度変化量θpとθrの値が得られているときに、三次元座標の向きを、X軸回りに角度変化量θpだけ戻し、Y軸回りに角度変化量θrだけ戻す演算が行われる。この演算は、一定時間を空けて定期的に行われ、または、新たな座標点データDが取得される度に行われる。図5に示すように、この演算により、三次元座標のX−Yの平面座標を、図4に示す初期姿勢のときのX0−Y0の平面座標と同じ面に戻すことができる。
【0050】
ただし、Z軸回りの角度変化量は積算しておらずZ軸回りの角度変化量を加味していないので、三次元座標の向きを、X軸回りに角度変化量θpだけ戻し、Y軸回りに角度変化量θrだけ戻した時点で、Z軸周りの角度変化量だけが残る。図5には、角度変化量θp,θrだけ三次元座標を戻した後のX−Y座標の座標軸をX1軸とY1軸で示している。X1軸とY1軸は、初期姿勢のときのX0軸とY0軸から角度αだけ回動している。この角度αが、初期姿勢を起点とした方位検知装置1と地磁気ベクトルVとの方位角の変化量である。
【0051】
図6には、X軸回りに角度変化量θpだけ戻し、Y軸回りに角度変化量θrだけ戻した後の三次元座標がX1−Y1−Z0軸で示されている。この三次元座標X1−Y1−Z0で得られた最新の座標点データをDb(xb,yb,za)とする。この座標点データDbと、図4に示す初期姿勢のときに得られた初期座標点データDa(xa,ya,za)とでは、Z軸座標(za)が同じである。最新の座標点データDbのX−Y座標成分(xb,yb)と初期座標点データDaのX−Y座標成分(xa,ya)とから、地磁気ベクトルVの方位の変化角αを求めることができる。
【0052】
演算部8では、以下の数1に示す行列式で演算を行うことで、X軸回りに角度変化量θpだけ戻し、Y軸回りに角度変化量θrだけ戻したあとの三次元座標上での座標点データDb(xb,yb,za)を演算することができる。
【0053】
数1のxθ,yθ,zθは、測定時点すなわち、三次元座標が任意に傾いたときに得られる最新の座標点データDθ(xθ,yθ,zθ)であり、この値を行列式に代入することで、座標点データDb(xb,yb,za)を得ることができる。この座標点データDb(xb,yb,za)と、初期座標点データDa(xa,ya,za)とから方位の変化角αを求めることができる。
【0054】
【数1】

【0055】
上記の方位の演算では、方位検知装置1を地磁気ベクトルVの向きを検知するためだけに機能させ、角速度検知部11を角速度を検知するためだけに機能させているため、磁気検知部2のノイズや、角速度検知装置の温度特性のドラフトを互いに補完し合って、精度の良い方位の変化を求めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明の方位検知装置は、3軸の磁気センサからの座標点データと角速度検知部で得られた角速度を使用して、方位の変化や姿勢の変化を算出することができる。よって、地磁気の方位計として使用できる。さらに地磁気以外の外部磁界の磁気ベクトルの動きを検知する装置として使用可能である。例えば磁気検知装置を固定し、外部の磁気ベクトルがどの方向でどのような運動をしているかの検知も可能である。また、携帯用のゲーム装置の姿勢検知や、ゲーム装置用の入力装置の姿勢検知や、ロボットの腕や関節などの姿勢の変化を検知する検知部として使用することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 方位検知装置
2 磁気検知部
3 X軸センサ
4 Y軸センサ
5 Z軸センサ
6 磁場データ検知部
7 メモリ
8 演算部
11 角速度検知部
12 X軸ジャイロ
13 Y軸ジャイロ
14 検知回路
15 積分計算部
Da 初期姿勢の座標点データ
Db X軸回りの角度変化量とY軸回りの角度変化量を復元したときの座標点データ
X0−Y0−Z0 初期姿勢の三次元座標
X1−Y1−Z0 軸回りの角度変化量とY軸回りの角度変化量を復元したときの三次元座標
V 地磁気ベクトル
θp,θr 角度変化量

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに直交するX軸とY軸およびZ軸が基準軸として決められた磁気検知部と、X軸回りの角速度とY軸回りの角速度を検知する角速度検知部と、演算部とを有し、
前記磁気検知部に、X軸が磁気の方向に向けられたときに検知出力の絶対値が極大値となるX軸センサと、Y軸が磁気の方向に向けられたときに検知出力の絶対値が極大値となるY軸センサ、およびZ軸が磁気の方向に向けられたときに検知出力の絶対値が極大値となるZ軸センサが搭載され、
前記演算部で、
(a)前記X軸センサと前記Y軸センサおよび前記Z軸センサの検知出力に基づいて、磁気ベクトルの向きを三次元座標上の座標点データとして求め、
(b)前記角速度検知部で検知されたX軸回りの角速度とY軸回りの角速度をそれぞれ積分して、初期姿勢を起点とするX軸回りの角度変化量θpおよびY軸回りの角度変化量θrを求め、
前記角度変化量θpとθrを用いて、前記(a)の検知出力を補正することを特徴とする方位検知装置。
【請求項2】
前記(b)の次に、
(c)測定時の座標点データを得たときに、それまでの前記角度変化量θpおよび前記角度変化量θrだけ三次元座標を戻し、戻した三次元座標上での座標点データと初期姿勢のときに得られた初期座標点データとから、Z軸回りの磁気ベクトルの相対的な角度変化量αを求める請求項1記載の方位検知装置。
【請求項3】
前記X軸センサと前記Y軸センサおよび前記Z軸センサで地磁気を検知することで、地磁気の方位に対する角度変化量αが求められる請求項1または2記載の方位検知装置。
【請求項4】
初期姿勢のときの初期座標点データをメモリに記憶し、前記(c)で戻した三次元座標上での座標点データと、メモリに記憶されていた初期座標点データとから、角度変位量αが求められる請求項1ないし3のいずれかに記載の方位検知装置。
【請求項5】
前記(c)で戻した三次元座標上での座標点データのX座標およびY座標と、初期座標点データのX座標およびY座標とから、前記角度変化量αが求められる請求項1ないし4のいずれかに記載の方位検知装置。
【請求項6】
前記角速度検知部に、コリオリ力を検知してX軸回りの角速度を検知する振動型のX軸ジャイロと、コリオリ力を検知してY軸回りの角速度を検知する振動型のY軸ジャイロとが設けられている請求項1ないし5のいずれかに記載の方位検知装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−185868(P2011−185868A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53534(P2010−53534)
【出願日】平成22年3月10日(2010.3.10)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【Fターム(参考)】