説明

方向性電磁鋼板

【課題】磁区細分化処理により鉄損を低減させた方向性電磁鋼板について、変圧器鉄心に積層して使用した場合に発生する騒音を効果的に低減することが可能な方向性電磁鋼板を提供する。
【解決手段】処理痕跡のない歪みを導入して磁区構造を変化させた方向性電磁鋼板において、磁束密度B8を1.92T以上とした上で、歪み導入処理前の平均磁区幅W0に対する歪み導入処理後の処理面の平均磁区幅Waの比をWa/W0<0.4とし、かつ非処理面の平均磁区幅Wbに対する該Waの比をWa/Wb>0.7とし、さらに歪み導入処理による処理面の磁区不連続部の平均幅Wcに対する非処理面の磁区不連続部の平均幅Wdの比をWd/Wc>0.8、かつWc<0.35mmとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変圧器などの鉄心材料に用いて好適な騒音特性に優れた方向性電磁鋼板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、主にトランスの鉄心として利用され、磁化特性に優れていること、特に鉄損が低いことが求められている。
そのためには、鋼板中の二次再結晶粒を(110)[001]方位(ゴス方位)に高度に揃えることや、製品中の不純物を低減することが重要である。
【0003】
しかしながら、結晶方位の制御や不純物の低減は、製造コストとの兼ね合い等で限界があることから、鋼板の表面に対して物理的な手法で不均一性を導入することにより、磁区の幅を細分化して鉄損を低減する技術、すなわち磁区細分化技術が開発されている。
たとえば、特許文献1には、最終製品板にレーザーを照射し、鋼板表層に線状の高転位密度領域を導入することにより、磁区幅を狭くして鉄損を低減する技術が提案されている。
【0004】
また、特許文献2には、電子ビームの照射により磁区幅を制御する技術が提案されている。この電子ビーム照射によって鉄損を低減する方法では、電子ビームの走査は磁場制御によって高速に行うことが可能である。したがって、レーザーの光学的走査機構に見られるような機械的な可動部がないことから、特に1m以上の広幅の連続したストリップに対して、連続かつ高速で電子ビームを照射しようとする場合に有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭57-2252号公報
【特許文献2】特公平06-072266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述のようにして磁区細分化処理を施した方向性電磁鋼板であっても、実機変圧器に組上げた場合には、実機トランスの騒音が大きくなる場合があった。
本発明は、上記の現状に鑑み開発されたもので、磁区細分化処理により鉄損を低減させた方向性電磁鋼板について、変圧器鉄心に積層して使用した場合に発生する騒音を効果的に低減することが可能な、騒音特性に優れた方向性電磁鋼板を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
変圧器の騒音は、電磁鋼板が磁化した時に生じる磁歪挙動が原因であることが知られている。例えば、3質量%程度のSiを含有する電磁鋼板は、一般に磁化した方向に鋼板が伸長する。従って、交流励磁された場合、磁化方向は零を挟んで正負方向の交番磁化となるため、鉄心は伸縮運動を繰り返し、その結果騒音が生じる。
【0008】
磁歪振動は磁化の正負方向に対して等価であるので、鋼板は交流励磁周波数の2倍の周期で振動することになり、50Hzで励磁した場合、磁歪振動の基本振動周波数は100Hzとなる。しかしながら、変圧器騒音の周波数解析を行うと、多くの倍音成分が含まれていて、基本周波数の100Hz成分よりも、200Hzから700Hz付近の周波数成分が強く、それらが騒音の絶対値を決めている場合が多い。
このような高周波成分が生じる要因は様々であり、鉄心の形状に基づく機械振動や積層鉄心を拘束している治具の振動など極めて複雑である。
【0009】
このような基本振動周波数の倍音成分のみならず、鋼板自身の磁歪振動に関していえば、例えば50Hzのサイン波で励磁した場合であっても、観察される磁歪振動には基本周波数の100Hz以外の倍音成分が含まれている。これは軟磁性材料の磁化過程を担う磁区の構造変化に依るものと考えられる。
【0010】
そこで、発明者らは、電子ビーム照射法で片面に磁区制御処理を行った方向性電磁鋼板の磁区構造に着目して、磁歪振動の挙動について検討を行った。
その結果、鉄損低減の観点からすれば、線状歪みの付与は片面処理のみで十分な効果を得られることが多かったが、変圧器騒音すなわち磁歪振動に関しては表裏面の磁区細分化効果の同一性が極めて重要であることが明らかとなった。
【0011】
また、磁区構造を表裏面から観察すると、処理面の磁区幅に対して、非処理面の磁区幅が必ずしも同じとなっていない場合があった。
そこで、表裏面で観察される磁区幅の比率と積層鉄心によるモデル変圧器の交流磁化時の騒音の周波数成分の関係について、鋭意検討を行った結果、表裏面で磁区幅に差違がある場合、磁化状態が板厚方向で異なるために磁区を分割する磁壁の運動が複雑となり、その結果、励磁周波数に対する高調波成分が磁壁運動の複雑さに応じて重畳してくることがわかった。その高調波成分が特に騒音スペクトルの可聴帯域にあることから騒音を大きくする要因となる。したがって、表裏面での磁区幅の差を小さくすることで、磁壁運動がもたらす磁歪振動の高周波成分が減少して、騒音が軽減されることの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
【0012】
すなわち、本発明の要旨構成は次のとおりである。
1.磁束密度B8が1.92T以上で、処理痕跡のない歪み導入により磁区構造を変化させた方向性電磁鋼板であって、歪み導入処理前の平均磁区幅W0に対する歪み導入処理後の処理面の平均磁区幅Waの比がWa/W0<0.4で、かつ非処理面の平均磁区幅Wbに対する該Waの比がWa/Wb>0.7で、しかも歪み導入処理による処理面の磁区不連続部の平均幅Wcに対する非処理面の磁区不連続部の平均幅Wdの比がWd/Wc>0.8で、かつWc<0.35mmであることを特徴とする方向性電磁鋼板。
【0013】
2.歪み導入処理が、電子ビーム照射であることを特徴とする前記1に記載の方向性電磁鋼板。
【0014】
3.歪み導入処理が、連続レーザー照射であることを特徴とする前記1に記載の方向性電磁鋼板。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、歪み導入により鉄損を低減した方向性電磁鋼板について、それを積層して変圧器とした場合に、従来に比べて、騒音を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体的に説明する。
変圧器騒音すなわち磁歪振動に関しては、素材結晶粒の磁化容易軸への集積度が高いほど振動振幅が小さくなり、特に騒音の抑制には、磁束密度B8を1.92T以上とすることが効果的である。この点、磁束密度B8が1.92Tに満たないと、磁化過程において励磁磁界と平行とするためには磁区の回転運動が必須となるが、この磁化回転が大きな磁歪を生じさせて変圧器の騒音を増大させる。
そこで、本発明では、対象とする方向性電磁鋼板としては、磁束密度B8が1.92T以上のものを用いることとした。
【0017】
また、本発明では、歪み導入により磁区構造を変化させるが、この歪み導入に際しては、処理面に歪みを導入した痕跡を残さないことが重要である。
ここに、処理痕跡のない方向性電磁鋼板とは、歪み導入処理により元来備わっていた張力コーティングが欠損することのない、すなわち再コートなどの後処置が必要となることがない表面状態の電磁鋼板のことである。歪み導入により局所的に張力コーティングが欠損した場合、本来コーティングによりもたらされていた応力の分布が不均一となるので鋼板の磁歪の振動波形は歪み、結果的に高調波成分が重畳することになるため、騒音低減には好ましくない。
なお、処理痕跡がある場合、再コートを行うが、導入された歪みが解消されることを避けて低温焼成されるために、張力コーティングの欠損前と同等の張力効果が得られるわけではなく、応力分布の不均一性を解消するには至らない。
【0018】
磁区幅に関しては、処理前の平均磁区幅W0、処理後の処理面の平均磁区幅Wa、処理後の非処理面の平均磁区幅Wbは、個々の結晶粒の磁区幅を面積率に応じて加重平均して求められる。
ここに、処理前後の平均磁区幅の比Wa/W0は0.4未満とする必要がある。処理前後の平均磁区幅の比Wa/W0が0.4以上では、磁区制御処理の効果自身が不十分であり、鋼板の鉄損低減が十分になされない。
【0019】
また、表裏面の平均磁区幅に関しては、その比Wa/Wbが0.7より大きいことが必要である。表裏面での磁区幅がWa/Wbで0.7を下回るほど、表裏面で磁区幅が異なる場合、鋼板が高調波成分を含まないサイン波で励磁している場合にも板厚方向で磁化状態が異なってしまい、高調波の成分が発生して変圧器の騒音を増大させる。
【0020】
歪み導入による磁区不連続部平均幅とは、歪みにより局所的に磁区構造が乱れた箇所の幅であり、一般的には圧延方向に平行な磁区構造がとぎれたり、不連続になっている部分を指す。処理面での磁区不連続部の平均幅Wcおよび非処理面での磁区不連続部の平均幅Wdの比がWd/Wc>0.8を満たさない場合、すなわち表裏面での不連続部の幅が大きく異なるということは、鋼板の板厚方向で磁化状態に差違が生じて磁歪振動波形が歪むことになり、やはり変圧器騒音を増大させる。
また、Wc<0.35mmを満たさない場合、局所的に乱れた磁区構造の影響のため十分な鉄損低減効果が得られない。
いずれにしても、歪みが板厚方向に十分均一に導入されることが、変圧器騒音の低減には有効であり、磁束密度が高く、処理痕跡がなく、磁区幅の低減効果が大きくかつ表裏面でその差違が小さいことが必要があり、どの条件が欠けても変圧器の騒音を十分に低減させることはできない。
【0021】
処理痕跡のない歪み導入処理としては、電子ビーム照射や連続レーザー照射などが適している。照射方向は圧延方向を横切る方向、好適には圧延方向に対して60〜90°の方向で、3〜15mm程度の間隔で照射することが好ましい。ここで、処理痕跡を与えず、鋼板の非処理面側まで十分な歪み導入を行なうためには、電子ビームの場合、低い加速電圧で大電流とするのがよく、5〜50kVの加速電圧、0.5〜100mAの電流、ビーム径は0.01〜0.5mmを用いて点状あるいは線状に施すのが効果的である。
一方、連続レーザーの場合、パワー密度はレーザー光の走査速度に依存するが100〜5000W/mm2の範囲が好ましい。また、パワー密度は一定とし、変調を行ってパワー密度を周期的に変化させる手法も有効である。励起源としては半導体レーザー励起のファイバーレーザー等が有効である。特にレーザーのビーム径を0.02mm程度まで絞り、破線状すなわち連続線が一定間隔でとぎれるような照射を行うと、小径による歪み導入部の面積減少を点ではなく線で補うことが可能となる。ビーム径が小さいために磁区不連続部の幅Wc、Wdを小さく、かつ差を小さくすることができ、さらに磁区幅WaおよびWbも小さく、かつ差を小さくすることができる。
【0022】
なお、Qスイッチタイプのパルスレーザー等は、処理痕跡が残るために、局所的に欠損したコーティング張力が不均一な磁歪振動を招いてしまう。また、プラズマジェット照射は、処理痕跡はないものの、処理面と非処理面とで磁区幅や磁区不連続部幅の差違が大きくなるため、本発明の好適範囲内に収めることが難しい。
【0023】
次に、本発明に従う方向性電磁鋼板の製造条件に関して具体的に説明する。
本発明において、方向性電磁鋼板用スラブの成分組成は、二次再結晶が生じる成分組成であればよい。
【0024】
また、インヒビターを利用する場合、例えばAlN系インヒビターを利用する場合であればAlおよびNを、またMnS・MnSe系インヒビターを利用する場合であればMnとSeおよび/またはSを適量含有させればよい。勿論、両インヒビターを併用してもよい。この場合におけるAl、N、SおよびSeの好適含有量はそれぞれ、Al:0.01〜0.065質量%、N:0.005〜0.012質量%、S:0.005〜0.03質量%、Se:0.005〜0.03質量%である。
さらに、本発明は、Al、N、S、Seの含有量を制限した、インヒビターを使用しない方向性電磁鋼板にも適用することができる。
この場合には、Al、N、SおよびSe量はそれぞれ、Al:100 質量ppm以下、N:50 質量ppm以下、S:50 質量ppm以下、Se:50 質量ppm以下に抑制することが好ましい。
【0025】
本発明の方向性電磁鋼板用スラブの基本成分および任意添加成分について具体的に述べると次のとおりである。
C:0.08質量%以下
Cは、熱延板組織の改善のために添加をするが、0.08質量%を超えると製造工程中に磁気時効の起こらない50質量ppm以下までCを低減することが困難になるため、0.08質量%以下とすることが好ましい。なお、下限に関しては、Cを含まない素材でも二次再結晶が可能であるので特に設ける必要はない。
【0026】
Si:2.0〜8.0質量%
Siは、鋼の電気抵抗を高め、鉄損を改善するのに有効な元素であるが、含有量が2.0質量%に満たないと十分な鉄損低減効果が達成できず、一方、8.0質量%を超えると加工性が著しく低下し、また磁束密度も低下するため、Si量は2.0〜8.0質量%の範囲とすることが好ましい。
【0027】
Mn:0.005〜1.0質量%
Mnは、熱間加工性を良好にする上で必要な元素であるが、含有量が0.005質量%未満ではその添加効果に乏しく、一方1.0質量%を超えると製品板の磁束密度が低下するため、Mn量は0.005〜1.0質量%の範囲とすることが好ましい。
【0028】
上記の基本成分以外に、磁気特性改善成分として、次に述べる元素を適宜含有させることができる。
Ni:0.03〜1.50質量%、Sn:0.01〜1.50質量%、Sb:0.005〜1.50質量%、Cu:0.03〜3.0質量%、P:0.03〜0.50質量%、Mo:0.005〜0.10質量%およびCr:0.03〜1.50質量%のうちから選んだ少なくとも1種
Niは、熱延板組織を改善して磁気特性を向上させるために有用な元素である。しかしながら、含有量が0.03質量%未満では磁気特性の向上効果が小さく、一方1.5質量%を超えると二次再結晶が不安定になり磁気特性が劣化する。そのため、Ni量は0.03〜1.5質量%の範囲とするのが好ましい。
また、Sn、Sb、Cu、P、MoおよびCrはそれぞれ磁気特性の向上に有用な元素であるが、いずれも上記した各成分の下限に満たないと、磁気特性の向上効果が小さく、一方、上記した各成分の上限量を超えると、二次再結晶粒の発達が阻害されるため、それぞれ上記の範囲で含有させることが好ましい。
【0029】
なお、上記成分以外の残部は、製造工程において混入する不可避的不純物およびFeである。
【0030】
次いで、上記した成分組成を有するスラブは、常法に従い加熱して熱間圧延に供するが、鋳造後、加熱せずに直ちに熱間圧延してもよい。薄鋳片の場合には熱間圧延しても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に進んでもよい。
さらに、必要に応じて熱延板焼鈍を施す。この時、ゴス組織を製品板において高度に発達させるためには、熱延板焼鈍温度として800〜1100℃の範囲が好適である。熱延板焼鈍温度が800℃未満であると、熱間圧延でのバンド組織が残留し、整粒した一次再結晶組織を実現することが困難になり、二次再結晶の発達が阻害される。一方、熱延板焼鈍温度が1100℃を超えると、熱延板焼鈍後の粒径が粗大化しすぎるために、整粒した一次再結晶組織の実現が極めて困難となる。
熱延板焼鈍後は、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施した後、再結晶焼鈍を行い、焼鈍分離剤を塗布する。焼鈍分離剤を塗布した後に、二次再結晶およびフォルステライト被膜の形成を目的として最終仕上げ焼鈍を施す。
【0031】
最終仕上げ焼鈍後には、必要に応じて平坦化焼鈍を行って形状を矯正することが有効である。なお、本発明では、平坦化焼鈍前または後に、鋼板表面に絶縁コーティングを施す。ここに、この絶縁コーティングは、本発明では、鉄損低減のために、鋼板に張力を付与できるコーティング(以下、張力コーティングという)を意味する。なお、張力コーティングとしては、シリカを含有する無機系コーティングや物理蒸着法、化学蒸着法等によるセラミックコーティング等が挙げられる。
【0032】
そして、本発明は、上述した張力コーティング後の方向性電磁鋼板に対して、その表面に電子ビームまたは連続レーザーを照射することにより、磁区細分化を施すものである。
【実施例】
【0033】
実施例1
Si:3質量%を含有する最終板厚:0.23mmに圧延された冷延板を、脱炭・一次再結晶焼鈍した後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、二次再結晶過程と純化過程を含む最終焼鈍を施し、フォルステライト被膜を有する方向性電磁鋼板を得た。この際、二次再結晶焼鈍に用いる焼鈍分離剤に添加する副剤を変更して、磁束密度B8値を1.90〜1.95Tの範囲で変化させた。
ついで、50%のコロイダルシリカとリン酸マグネシウムコートを塗布し、850℃で焼付けて、張力コーティングを形成した。
その後、鋼板を0.1Paの真空槽に入れ、加速電圧は40kVの一定とする一方、ビーム電流を1〜10mAの範囲で変化させて、圧延方向と直角方向に電子ビームを片面に照射した。電子ビーム照射前後の鋼板について、ビッター法により磁区観察を処理面、非処理面について行い、処理面および非処理面の平均磁区幅、磁区不連続部平均幅を計測した。また、照射痕跡については、光学顕微鏡観察により絶縁被膜が欠損して地鉄が裸出しているか否かを判断した。
【0034】
得られた試料を幅:100mm、短辺:300mm、長辺:500mmの台形を基本にした斜角材に剪断して積層し、約21kgの三相変圧器を作製した。積層方法は2枚ずつ5段のステップラップ方式とし、コンデンサマイクロフォンを使用して1.7T、50Hz励磁における騒音を測定した。聴間補正としてAスケール補正を行った。
計測された変圧器騒音を、鋼板の磁束密度B8、照射痕跡の有無および磁区構造の諸パラメータと併せて、表1に整理して示す。ここに、変圧器騒音が40.0 dBA以下であれば、騒音は小さいといえる。
【0035】
【表1】

【0036】
同表に示したとおり、No.2,6,9の発明例はいずれも、40.0 dBA以下という低い騒音値が得られている。
これに対し、照射痕跡や処理前後の磁区幅比、表裏面差の相違など一つでも本発明範囲を外れた比較例については、いずれも満足のいく騒音値が得られていない。また、B8が1.92T未満の場合(No.1)も満足する騒音が得られなかった。
なお、表1において、処理痕跡が「有り」とされたNo.3,7,10は、電子ビームの照射条件(この場合はビーム電流値)が適正範囲を超えて高かった場合である。
【0037】
実施例2
Si:3質量%を含有する最終板厚:0.23mmに圧延された冷延板を、脱炭・一次再結晶焼鈍した後、MgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布し、二次再結晶過程と純化過程を含む最終焼鈍を施し、フォルステライト被膜を有する方向性電磁鋼板を得た。この際、一次再結晶焼鈍温度を変更して磁束密度B8値を1.91〜1.94Tの範囲で変化させた。
ついで、60%のコロイダルシリカとリン酸アルミニウムからなる絶縁コートを塗布し、800℃で焼付けて、張力コーティングを形成した。
その後、圧延方向と直角方向に連続ファイバーレーザーを照射する磁区細分化処理を片面に施した。その際、パワー密度の変調を行い、その変調のデューティー比と最大、最小パワー値を変更することで種々の条件で照射を行った。レーザー照射前後の鋼板について、ビッター法により磁区観察を処理面、非処理面について行い、処理面および非処理面の平均磁区幅、磁区不連続部平均幅を計測した。また、照射痕跡については、光学顕微鏡観察により絶縁被膜が欠損して地鉄が裸出しているか否かを判断した。
【0038】
得られた試料を幅:100mm、短辺:300mm、長辺:500mmの台形に斜角剪断して積層し、約18kgの単相変圧器を作製した。積層方法は2枚ペアの交互積みとした。コンデンサマイクロフォンを使用して1.7T、50Hz励磁における騒音を測定した。聴間補正としてAスケール補正を行った。
計測された変圧器騒音を、鋼板の磁束密度B8、照射痕跡の有無および磁区構造の諸パラメータと併せて、表2に整理して示す。ここに、変圧器騒音が35.0 dBA以下であれば、騒音は小さいといえる。
【0039】
【表2】

【0040】
同表に示したとおり、No.3,6,10の発明例はいずれも、35.0 dBA以下という低い騒音値が得られている。
これに対し、照射痕跡や処理前後の磁区幅比、表裏面差の相違など一つでも本発明範囲を外れた比較例については、いずれも満足のいく騒音値が得られていない。また、B8が1.92T未満の場合(No.2)も満足する騒音が得られなかった。
なお、表2において、処理痕跡が「有り」とされたNo.7,9は、連続レーザーの照射条件(この場合はパワー密度)が適正範囲を超えて高かった場合である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁束密度B8が1.92T以上で、処理痕跡のない歪み導入により磁区構造を変化させた方向性電磁鋼板であって、歪み導入処理前の平均磁区幅W0に対する歪み導入処理後の処理面の平均磁区幅Waの比がWa/W0<0.4で、かつ非処理面の平均磁区幅Wbに対する該Waの比がWa/Wb>0.7で、しかも歪み導入処理による処理面の磁区不連続部の平均幅Wcに対する非処理面の磁区不連続部の平均幅Wdの比がWd/Wc>0.8で、かつWc<0.35mmであることを特徴とする方向性電磁鋼板。
【請求項2】
歪み導入処理が、電子ビーム照射であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。
【請求項3】
歪み導入処理が、連続レーザー照射であることを特徴とする請求項1に記載の方向性電磁鋼板。

【公開番号】特開2012−36442(P2012−36442A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−177629(P2010−177629)
【出願日】平成22年8月6日(2010.8.6)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【Fターム(参考)】