説明

暖房便座、便座成形用シート材及び便座製造方法

【課題】発熱層8を合成樹脂層で被覆しても着座面2aを迅速に昇温できると共に発熱層8から誘導加熱コイル6までの距離を短くする。
【解決手段】コア層部5の表面に表層部4が設けられ、コア層部5の裏面に誘導加熱コイル6が設けられ、コア層部5は、樹脂製で表面から裏面までの厚み寸法T5が1.00〜4.00mmであり、表層部4は、熱可塑性合成樹脂製で厚み寸法T7が0.02〜0.80mmの被覆層7と、被覆層7が接合され、塑性変形可能な薄膜金属製で厚み寸法T8が0.01〜0.20mmの発熱層8と、内部に多数の気泡を閉じ込めた発泡倍率が3〜50倍の熱可塑性合成樹脂製で厚み寸法T9が0.10〜2.00mmの断熱層9とからなり、表層部4の表面からコア層部5の裏面までの厚み寸法T11を1.14〜7.01mmとした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘導加熱方式の暖房便座に関するものである。
【背景技術】
【0002】
誘導加熱方式の暖房便座には、着座面側から便器側へ向かって順番に、薄膜金属からなる発熱層と、発熱層を保温する発泡スチロール樹脂製の断熱層と、誘導加熱コイルとを設け、誘導加熱コイルへの通電で生じる磁気誘導作用で発熱層を発熱させて着座面を昇温するものがある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−345688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、発泡スチロール樹脂製の断熱層は、気泡が大きいために薄くすることが困難であり、厚くする必要がある。しかし、断熱層が厚くなると、発熱層から誘導加熱コイルまでの距離が長くなり、発熱層を効率良く発熱させることができない問題が生じる。
【0005】
また、薄膜金属からなる熱伝導性のよい発熱層は、着座して触れるときの違和感を使用者に与えないようにするために、合成樹脂層で被覆するのがよい。この被覆層については、着座面を迅速に昇温する目的を達成するために、厚みを薄くして、発熱層の発熱を迅速に着座表面へ伝達させる必要がある。
【0006】
本発明は、上記問題を解決するために、発熱層を合成樹脂層で被覆しても着座面を迅速に昇温できると共に、発熱層から誘導加熱コイルまでの距離を短くできる電磁誘導加熱方式の暖房便座、便座成形用シート材及び製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発熱層を合成樹脂層で被覆しても着座面を迅速に昇温できると共に発熱層から誘導加熱コイルまでの距離を短くできるようにするために請求項1記載の本発明が採用した手段は、着座荷重の支持を分担できるコア層部の表面に表層部が設けられ、コア層部の裏面に誘導加熱コイルが当接又は接近して設けられた誘導加熱式の暖房便座であって、前記コア層部は、樹脂製で前記表面から前記裏面までの厚み寸法が1.00〜4.00mmであり、前記表層部は、表面に着座面が形成され、熱可塑性合成樹脂製で厚み寸法が0.02〜0.80mmの被覆層と、被覆層が接合され、塑性変形可能な薄膜金属製で厚み寸法が0.01〜0.20mmの発熱層と、一方面に発熱層が接合され他方面にコア層部が接合され、内部に多数の気泡を閉じ込めた発泡倍率が3〜50倍の熱可塑性合成樹脂製で厚み寸法が0.10〜2.00mmの断熱層とからなり、表層部の表面からコア層部の裏面までの厚み寸法を1.14〜7.01mmとしたことを特徴とする誘導加熱式の暖房便座である。
【0008】
発熱層を合成樹脂層で被覆しても着座面を迅速に昇温できると共に発熱層から誘導加熱コイルまでの距離を短くすることができる暖房便座を製造し易くするために請求項2記載の本発明が採用した手段は、薄膜金属製の発熱層を有する暖房便座の表層部を成形するための便座成形用シート材であって、樹脂製で厚み寸法が0.02〜0.80mmの被覆層と、被覆層に接合され、塑性変形可能な薄膜金属製で厚み寸法が0.01〜0.20mmの発熱層と、発熱層に接合され、内部に多数の気泡を閉じ込めた発泡倍率が3〜50倍の熱可塑性合成樹脂製で厚み寸法が0.10〜2.00mmの断熱層とからなり、全体の厚み寸法を0.14〜3.01mmとしたことを特徴とする便座成形用シート材である。
【0009】
発熱層を合成樹脂層で被覆しても着座面を迅速に昇温できると共に発熱層から誘導加熱コイルまでの距離を短くすることができる暖房便座を製造するために請求項3記載の本発明が採用した手段は、着座荷重の支持を分担できるコア層部の表面に表層部が設けられ、コア層部の裏面に誘導加熱コイルが当接又は接近して設けられた誘導加熱式の暖房便座の製造方法において、請求項2記載の便座成形用シート材を所定の大きさに切断する第1工程と、切断された便座成形用シート材を軟化温度にして真空成形方法又はプレス成形方法で表層部を成型する第2工程と、表層部をインサート成型装置の開いた金型のキャビテイに装填し、キャビテイを閉じた金型内へ溶融樹脂を射出して前記表面から前記裏面までの厚み寸法が1.00〜4.00mmのコア層部を成型する第3工程と、コア層部の裏面に誘導加熱コイルを当接又は接近して設ける第4工程とからなり、第1工程乃至第4工程をこの順番で行なうことを特徴とする誘導加熱式の暖房便座の製造方法である。
【0010】
発熱層を合成樹脂層で被覆しても着座面を迅速に昇温できると共に発熱層から誘導加熱コイルまでの距離を短くすることができる暖房便座を製造するために請求項4記載の本発明が採用した手段は、着座荷重の支持を分担できるコア層部の表面に表層部が設けられ、コア層部の裏面に誘導加熱コイルが当接又は接近して設けられた誘導加熱式の暖房便座の製造方法において、請求項2記載の便座成形用シート材を所定の大きさに切断する第1工程と、切断された便座成形用シート材を軟化温度にして真空成形方法又はプレス成形方法で表層部を成型する第2工程と、表層部の裏面に、樹脂で予め成型され前記表面から前記裏面までの厚みが1.00〜4.00mmのコア層部を接合して、表層部の表面からコア層部の裏面まで全体の厚み寸法を1.14〜7.01mmとした第3工程と、コア層部の裏面に誘導加熱コイルを当接又は接近して設ける第4工程とからなり、第1工程乃至第4工程をこの順番で行なうことを特徴とする誘導加熱式の暖房便座の製造方法である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の本発明に係る誘導加熱式の暖房便座は、発熱層を覆う合成樹脂製の被覆層の厚みが0.02〜0.80mmと非常に薄いため、発熱層で生じた熱が被覆層を短時間に伝達して着座面を迅速に昇温させることができ、また、表層部の表面からコア層部の裏面までの厚み寸法を最大で7.01mmに収められるので、発熱層から誘導加熱コイルまでの距離を短くできる。
【0012】
請求項2記載の本発明に係る便座成形用シート材は、熱可塑性合成樹脂製の被覆層及び断熱層並びに塑性変形可能な発熱層からなるため、軟化温度で塑性変形することで、一方面が合成樹脂層で被覆されると共に他方面が断熱層で覆われた薄膜金属製の発熱層を有する便座の表層部を容易に成形することができる。また、着座面となる被覆層の表面から断熱層の裏面までの厚み寸法を0.14〜3.01mmと非常に薄くしたので、便座成形用シート材を成型して得た表層部の裏面側にコア層部を介して誘導加熱コイルを設けたとき、発熱層から誘導加熱コイルまでの距離を短くすることが可能となる。
【0013】
請求項3記載の本発明に係る誘導加熱式の暖房便座の製造方法にあっては、切断された便座成形用シート材を軟化温度にして真空成形方法又はプレス成形方法で成型することで、発熱層を覆う合成樹脂製の被覆層の厚み寸法を0.02〜0.80mmと非常に薄くして、発熱層で生じた熱が被覆層を短時間に伝達して着座面を迅速に昇温させることができる便座の表層部を容易に得ることができると共に、この表層部をインサート成型装置のキャビテイに装填して、キャビテイを閉じた金型内へ溶融樹脂を射出して成型することで、表層部とコア層部とを接合した便座部分を容易に得ることができるため、便座の生産性を向上させることができる。また、表層部の表面からコア層部の裏面までの厚み寸法を最大で7.01mmに収められるので、発熱層から誘導加熱コイルまでの距離を短くできる暖房便座を製造することができる。
【0014】
請求項4記載の本発明に係る誘導加熱式の暖房便座の製造方法にあっては、切断された便座成形用シート材を軟化温度にして真空成形方法又はプレス成形方法で成型することで、発熱層を覆う合成樹脂製の被覆層の厚み寸法を0.02〜0.80mmと非常に薄くして、発熱層で生じた熱が被覆層を短時間に伝達して着座面を迅速に昇温させることができる便座の表層部を容易に得ることができると共に、表層部の裏面に予め成形されているコア層部を接合することで、表層部とコア層部とを接合した便座部分を容易に得ることができるため、便座の生産性を向上させることができる。また、表層部の表面からコア層部の裏面までの厚み寸法を最大で7.01mmに収められるので、発熱層から誘導加熱コイルまでの距離を短くできる暖房便座を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施の形態を示すものであり、本発明暖房便座1を備えた暖房便座装置20を一部破断して示す平面図である。
【図2】図1のII−II線で断面した本発明暖房便座1の側面図である。
【図3】図1のIII−III線で断面して拡大した本発明暖房便座1の端面図である。
【図4】図3の四角IVで囲まれた箇所を拡大した断面図である。、
【図5】本発明製造方法において真空成形方法で本発明暖房便座の表層部を成型している状態を中間省略して示す側面図である。
【図6】本発明製造方法において本発明暖房便座1のコア層部5を成型している状態を中間省略して示す側面図であって、(A)の右側の図は開いた金型25aのキャビテイ25a−1に表層部4を装填する前の状態を示し、(A)の左側の図はキャビテイ25a−1に表層部4を装填して金型25aを閉じた状態を示し、(B)の左側の図はキャビテイ25a−1に樹脂を射出してコア層部5を成型している状態を示し、(B)の右側の図はコア層部5を成型した後に金型25aを開いている状態を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明に係る誘導加熱式の暖房便座、便座成形用シート材及び誘導加熱式の暖房便座の製造方法(以下、「本発明暖房便座」「本発明便座成形用シート材」及び「本発明製造方法」と言う。)を本発明の実施の形態を示す図1乃至図6に基づいて説明する。
【0017】
本発明暖房便座1は、図1に示す如く、便座支持部21との組合せで誘導加熱式の暖房便座装置20を構成するものであり、便座支持部21に揺動自在に支持され、図示する伏倒状態(着座使用可能状態)から、図示は省略したが、手前側を上昇させた起立状態(男子小便使用可能状態)まで仰伏するようにしてある。本発明暖房便座1は、便座支持部21との間に一次側コイル22a及び二次側コイル22bの組合せからなる給電装置22が設けられ、便座2が伏倒位置に在るとき、対向接近する一次側コイル22aと二次側コイル22bの相互誘導作用により、便座支持部21の電源部(図示略)から後述する誘導加熱コイル6へ給電するようにしてある。本発明暖房便座1は、便座支持部21に対して着脱自在になっており、便座支持部21から分離して洗浄等の保守ができるようになっている。
【0018】
本発明暖房便座1は、図1乃至図3に示す如く、上面側に着座面2aを形成する上部2と、上部2の下面側開口部2bを覆蓋する底部3とを備え、上部2が厚肉部11と誘導加熱コイル6とからなる。本発明暖房便座1が洗浄可能な仕様の場合、底部3は、外部から上部2の内側へ水分が侵入しないように、下面側開口部2bを水密に覆蓋するようになっている。上部2の厚肉部11は、上面側に着座面2aを形成する表層部4と、着座面2aに使用者が着座したときに生じる着座荷重の支持を分担できる強度のあるコア層部5とからなり、コア層部5の表面に表層部4が設けられ、コア層部5の裏面に誘導加熱コイル6が当接又は接近して設けられている。上部2の厚肉部11は、表層部4の表面からコア層部5の裏面までの厚みT11を1.14〜7.01mmとしてある。
【0019】
前記厚肉部11のコア層部5は、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル(PET)、ABS又はポリアミド等の熱可塑性合成樹脂製からなり、加熱が必要な領域である着座面領域に対応する箇所における表面から裏面までの厚み寸法T5が1.00〜4.00mmの範囲で選択される。また、前記厚肉部11の表層部4は、図4に示す如く、表面が着座面2aとなる被覆層7と、被覆層7の裏面に接合した発熱層8と、一方面に発熱層8が接合され他方面にコア層部5が接合され断熱層9とからなる。前記厚肉部11のコア層部5と表層部4の間には、保護層10が設けられる場合がある。この保護層10は、コア層部5を射出成型するときに、射出する溶融樹脂で表層部4に損傷を与えないように部分的に設けられるものであり、ポリアミド又はポリエステル(PET)等の熱可塑性合成樹脂製で厚み寸法T10が0.02〜0.80mmの範囲で選択される。予め成形されているコア層部5を表層部4に接着剤で接合する場合には、保護層10は不要である。
【0020】
前記表層部4の被覆層7は、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル(PET)、ABS又はポリアミド等の熱可塑性合成樹脂製で厚み寸法T7が0.02〜0.80mmの範囲で選択される。発熱層8は、軟質のアルミニウム又は銅等の塑性変形可能な薄膜金属製で厚み寸法T8が0.01〜0.20mmの範囲で選択される。断熱層9は、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレン(PE)、ポリスチレン(PS)又ABS等の内部に多数の気泡を閉じ込めた発泡倍率が3〜50倍の熱可塑性合成樹脂製で厚み寸法T9が0.10〜2.00mmの範囲で、且つ熱伝導率が0.09w/mk以下となるように選択される。断熱層9は、例えば、ポリプロピレン(PP)の溶融ポリマーに炭酸ガスを浸透・分散させて、超臨界炭酸ガス発泡機でシート形成してたものであって、シート内部に5μm以下の微細気泡を含有させものを用いることができる。断熱層9は、層内に気泡を閉じ込めた独立気泡となっているため、厚み寸法T9が0.10〜2.00mmの範囲と薄くても、コア層部5を射出成型するときの溶融樹脂の射出圧力で押し潰されることもなく、また着座荷重で押し潰されることもなく、層厚みを維持することができる。
【0021】
前記被覆層7は、単一種類の熱可塑性合成樹脂膜のものや、複数種類の熱可塑性合成樹脂膜の組合せからなる複数層をドライラミネート(一方の合成樹脂製シート材に接着剤(二液硬化型)を塗布した後に乾燥させて他方の合成樹脂製シート材を貼合わせて接合)したものが用いられ、薄膜金属製の発熱層8の腐食を防止する必要があるときには、ガスバリヤー性に優れたポリアミドを含めるか、又は任意層の樹脂に塩化ビニリデン樹脂(PVDC)を塗着したものを含めるとよい。前記被覆層7と発熱層8との接合、及び発熱層8と断熱層9の接合は、ドライラミネートによる接着剤(二液硬化型)での接合、又はエクストルージョン式ラミネートによるポリエチレン(PE)樹脂による接合が選択される。被覆層7は、表面から発熱層8を透視できないように着色されることもある。
【0022】
前記誘導加熱コイル6は、図1に示す如く、導線を四角状等に巻き上げた薄い面状のものであって、複数個を直列に接続され、発熱層8との間の距離の違いに応じ導線の捲き数及び/又は平面積(外側の導線で囲まれた内側の面積)を調整して、発熱層8の発熱量を均等化してある。誘導加熱コイル6は、フレキシブルプリント基板(FPC)にエッチングして形成されたものや、コイル線を面状に巻回してフレキシブル板に接合したものが選択され、コア層部5の裏面に当接又は接近して設けられている。なお、本発明暖房便座1が洗浄可能な仕様の場合には、底部3で水密に覆蓋された上部2の密閉状態の内側の内圧の変動を押さえるために、上部2の内側に充填する発泡樹脂製の充填剤(図示略)で誘導加熱コイル6を固定して、コア層部5の裏面に誘導加熱コイル6を当接又は接近させるとよい。
【0023】
本発明暖房便座1は、発熱層8を覆う合成樹脂製の被覆層7の厚みT7が0.02〜0.80mmと非常に薄いため、発熱層8で生じた熱が被覆層7を短時間に伝達して着座面を迅速に昇温させることができ、また、厚肉部11の表層部4の表面から誘導加熱コイル6が設けられるコア層部5の裏面までの厚み寸法T11を最大で7.01mmに収められるので、発熱層8から誘導加熱コイル6までの距離を短くできる。
【0024】
前記薄膜金属製の発熱層8を有する表層部4は、予め成形された本発明便座成形用シート材13を用い、図5に示す真空成形方法又はプレス成形方法(図示略)で所定形状に成形される。便座成形用シート材13は、成形された表層部4の断面を示す図4の如く、熱可塑性合成樹脂製で厚み寸法T7が0.02〜0.80mmの被覆層7と、被覆層7に接合され、塑性変形可能な薄膜金属製で厚み寸法T8が0.01〜0.20mmの発熱層8と、発熱層8に接合され、内部に多数の気泡を閉じ込めた発泡倍率が3〜50倍の熱可塑性合成樹脂製で厚み寸法T9が0.10〜2.00mmの断熱層9との複数層からなり、全体の厚みT4を0.14〜3.01mmとしたものである。便座成形用シート材13は、被覆層7となる樹脂製シートと、発熱層8となる薄膜金属製シートと、断熱層9となる発泡樹脂製シートとを接合して成形されるものである。シートどうしの接合は、ドライラミネートによる接着剤(二液硬化型)での接合、又はエクストルージョン式ラミネートによるポリエチレン(PE)樹脂による接合が選択される。
【0025】
前記本発明便座成形用シート材13は、熱可塑性合成樹脂製の被覆層7及び断熱層9並びに塑性変形可能な発熱層8からなるため、軟化温度で塑性変形することで、一方面が合成樹脂層7で被覆されると共に他方面が断熱層9で覆われた薄膜金属製の発熱層8を有する暖房便座の表層部4を容易に成形することができる。また、着座面となる被覆層7の表面から断熱層9の裏面までの厚みT4を0.14〜3.01mmと非常に薄くしたので、本発明便座成形用シート材13を成型して得た表層部4の裏面側にコア層部5を介して誘導加熱コイル6を設けたとき、発熱層8から誘導加熱コイル6までの距離を短くすることが可能となる。
【0026】
(本発明製造方法の第1の実施の形態)
前記本発明便座成形用シート材13を用いて本発明暖房便座1を製造する本発明製造方法の第1の実施の形態の工程は、以下の通りである。
【0027】
第1工程:前記便座成形用シート材13を所定の大きさに切断することである。所定の大きさとは、次の第2工程で所定形状の表層部4を得ることができる大きさである。
【0028】
第2工程:図5に示す如く、所定の大きさに切断された便座成形用シート材13を軟化温度にして真空成形方法で表層部4を成型することである。この成型は、便座成形用シート材13の熱可塑性合成樹脂製の被覆層7及び断熱層9の軟化温度までヒータ(図示略)で加熱し、軟化温度を維持させたまま便座成形用シート材13を真空成形装置23の金型24に装填し、その後に金型24の吸引で便座成形用シート材13を成型面24aに圧着させて表層部4の所定形状とし、表層部4を形状維持できる温度まで冷却した後に脱型する。便座成形用シート材13の薄膜金属製の発熱層8は、金型24の吸引で便座成形用シート材13を成型面24aに圧着させるとき、塑性変形して表層部4の所定形状となる。成型された表層部4は、はみ出た余分な部分をカッター等で切除する。なお、表層部4の成型は、上記真空成形方法以外に、プレス成形方法で行なうことも可能である。プレス成形方法による成型は、図示は省略したが、切断された便座成形用シート材13を軟化温度までヒータ(図示略)で加熱し、軟化温度を維持させたまま便座成形用シート材13をフレス成型装置の固定金型に装填し、その後に移動金型を移動させて固定金型と移動金型で便座成形用シート材13を加圧成型して所定形状の表層部4とし、表層部4を形状維持できる温度まで冷却した後に脱型する。
【0029】
第3工程:第2工程で得た表層部4を、図6に示す如く、インサート成型装置25の開いた固定金型25aのキャビテイ25a−1(図6(A)の右側参照)に装填し、次に、移動金型25bを前進移動させてキャビテイ25a−1を閉じ(図6図(A)の左側参照)、その後に閉じた金型25bと表層部4の間の空間へ溶融樹脂を射出し、加熱が必要な領域である着座面領域に対応する箇所における表面から裏面までの厚み寸法T5(図4参照)が1.00〜4.00mmのコア層部5を成型(図6(B)の左側参照)し、その後に移動金型25bを後退移動させ(図6(B)の右側参照)、最後に、表層部4とコア層部5が一体となっている厚肉部11を固定金型25aから脱型することである。コア層部5は、射出成型するときに、表層部4に自着して強力に接合されることになる。なお、表層部4が射出する高圧の溶融樹脂で損傷を受ける場合には、損傷を受ける可能性のある表層部4の箇所に、予めシートからなる保護層10が配置される。
【0030】
第4工程:脱型して得られた厚肉部11のコア層部5の裏面に、誘導加熱コイル6を当接又は接近して設け、図2及び図3に示す如く、本発明暖房便座1の上部2を得る。誘導加熱コイル6は、コア層部5の裏面に対する接着剤による接着又は粘着テープによる粘着で所定位置に固定配置される。なお、上部2の内側に充填する発泡樹脂製の充填剤(図示略)で誘導加熱コイル6を固定して、コア層部5の裏面に誘導加熱コイル6を当接又は接近させることもある。
【0031】
本発明製造方法の第1の実施の形態は、第1工程乃至第4工程の順番で行なわれる。
【0032】
本発明製造方法の第1の実施の形態にあっては、切断された便座成形用シート材13を軟化温度にして真空成形方法又はプレス成形方法で成型することで、発熱層8を覆う合成樹脂製の被覆層7の厚み寸法T7を0.02〜0.80mmと非常に薄くして、発熱層8で生じた熱が被覆層7を短時間に伝達して着座面2aを迅速に昇温させることができる本発明暖房便座1の表層部4を容易に得ることができると共に、この表層部4をインサート成型装置25のキャビテイ25a−1に装填して、移動金型25bでキャビテイ25a−1を閉じた金型25a,25b内の充填空間へ溶融樹脂を射出してコア層部5を成型することで、表層部4とコア層部5とを接合した便座部分(厚肉部)11を容易に得ることができるため、便座1の生産性を向上させることができる。また、厚肉部11の表層部4の表面から誘導加熱コイル6が設けられるコア層部5の裏面までの厚み寸法T11を最大で7.01mmに収められるので、発熱層8から誘導加熱コイル6までの距離を短くできる本発明暖房便座1の生産性を向上させることができる。
【0033】
(本発明製造方法の第2の実施の形態)
前記本発明便座成形用シート材13を用いて本発明暖房便座1を製造する本発明製造方法の第2の実施の形の各工程は、以下の通りである。
第1工程及び第2工程は、前記第1の実施の形態の第1工程及び第2工程と同一である。
【0034】
第3工程:表層部の裏面に、熱可塑性合成樹脂で予め成型され、加熱が必要な領域である着座面領域に対応する箇所における表面から裏面までの厚み寸法T5が1.00〜4.00mmのコア層部5を接着剤等で接合して、表層部4の表面からコア層部5の裏面まで全体の厚み寸法T11を1.14〜7.01mmとすることである。
【0035】
第4工程は、前記第1の実施の形態の第4工程と同一である。本発明製造方法の第2の実施の形態は、第1工程乃至第4工程の順番で行なわれる。
【0036】
本発明製造方法の第2の実施の形態にあっては、切断された便座成形用シート材13を軟化温度にして真空成形方法又はプレス成形方法で成型することで、発熱層8を覆う合成樹脂製の被覆層7の厚み寸法T7を0.02〜0.80mmと非常に薄くして、発熱層8で生じた熱が被覆層7を短時間に伝達して着座面2aを迅速に昇温させることができる本発明暖房便座1の表層部4を容易に得ることができると共に、表層部4の裏面に予め成形されているコア層部5を接着剤で接合することで、表層部4とコア層部5を接合した便座部分を容易に得ることができるため、本発明暖房便座1の生産性を向上させることができる。また、厚肉部11の表層部4の表面から誘導加熱コイル6が設けられるコア層部5の裏面までの厚み寸法T11を最大で7.01mmに収められるので、発熱層8から誘導加熱コイル6までの距離を短くできる本発明暖房便座1の生産性を向上させることができる。
【符号の説明】
【0037】
1…本発明暖房便座、2…上部、2a…着座面、2b…下面開口部、3…底部、4…表層部、5…コア層部、6…誘導加熱コイル、7…被覆層、8…発熱層、9…断熱層、10…保護層、11…厚肉部、13…本発明便座成形用シート材、20…暖房便座装置、21…便座支持部、23…真空成形装置、24…金型、24a…成型面、25…インサート成型装置、25a…固定金型、25a−1…キャビテイ、25b…移動金型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座荷重の支持を分担できるコア層部の表面に表層部が設けられ、コア層部の裏面に誘導加熱コイルが当接又は接近して設けられた誘導加熱式の暖房便座であって、
前記コア層部は、樹脂製で前記表面から前記裏面までの厚み寸法が1.00〜4.00mmであり、
前記表層部は、表面に着座面が形成され、熱可塑性合成樹脂製で厚み寸法が0.02〜0.80mmの被覆層と、被覆層が接合され、塑性変形可能な薄膜金属製で厚み寸法が0.01〜0.20mmの発熱層と、一方面に発熱層が接合され他方面にコア層部が接合され、内部に多数の気泡を閉じ込めた発泡倍率が3〜50倍の熱可塑性合成樹脂製で厚み寸法が0.10〜2.00mmの断熱層とからなり、
表層部の表面からコア層部の裏面までの厚み寸法を1.14〜7.01mmとした
ことを特徴とする誘導加熱式の暖房便座。
【請求項2】
薄膜金属製の発熱層を有する暖房便座の表層部を成形するための便座成形用シート材であって、
樹脂製で厚み寸法が0.02〜0.80mmの被覆層と、被覆層に接合され、塑性変形可能な薄膜金属製で厚み寸法が0.01〜0.20mmの発熱層と、発熱層に接合され、内部に多数の気泡を閉じ込めた発泡倍率が3〜50倍の熱可塑性合成樹脂製で厚み寸法が0.10〜2.00mmの断熱層とからなり、
全体の厚み寸法を0.14〜3.01mmとした
ことを特徴とする便座成形用シート材。
【請求項3】
着座荷重の支持を分担できるコア層部の表面に表層部が設けられ、コア層部の裏面に誘導加熱コイルが当接又は接近して設けられた誘導加熱式の暖房便座の製造方法において、
請求項2記載の便座成形用シート材を所定の大きさに切断する第1工程と、
切断された便座成形用シート材を軟化温度にして真空成形方法又はプレス成形方法で表層部を成型する第2工程と、
表層部をインサート成型装置の開いた金型のキャビテイに装填し、キャビテイを閉じた金型内へ溶融樹脂を射出して前記表面から前記裏面までの厚み寸法が1.00〜4.00mmのコア層部を成型する第3工程と、
コア層部の裏面に誘導加熱コイルを当接又は接近して設ける第4工程とからなり、
第1工程乃至第4工程をこの順番で行なう
ことを特徴とする誘導加熱式の暖房便座の製造方法。
【請求項4】
着座荷重の支持を分担できるコア層部の表面に表層部が設けられ、コア層部の裏面に誘導加熱コイルが当接又は接近して設けられた誘導加熱式の暖房便座の製造方法において、
請求項2記載の便座成形用シート材を所定の大きさに切断する第1工程と、
切断された便座成形用シート材を軟化温度にして真空成形方法又はプレス成形方法で表層部を成型する第2工程と、
表層部の裏面に、樹脂で予め成型され前記表面から前記裏面までの厚みが1.00〜4.00mmのコア層部を接合して、表層部の表面からコア層部の裏面まで全体の厚み寸法を1.14〜7.01mmとした第3工程と、
コア層部の裏面に誘導加熱コイルを当接又は接近して設ける第4工程とからなり、
第1工程乃至第4工程をこの順番で行なう
ことを特徴とする誘導加熱式の暖房便座の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−162072(P2010−162072A)
【公開日】平成22年7月29日(2010.7.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−4715(P2009−4715)
【出願日】平成21年1月13日(2009.1.13)
【出願人】(000000479)株式会社INAX (1,429)
【Fターム(参考)】