説明

暗証カード

【課題】 視覚復号型暗号技術を用いて、複数のシェア画像から元となる画像を復元する際に、目視のみに頼らずに、正確な位置合わせができる暗証カードを提供することを課題とする。
【解決手段】 シェアカード(a)とシェアカード(b)にエンボス20を設け、両カードを重ね合わせる際に、エンボス同士の嵌合で位置合わせを行うことにより正確な位置合わせを可能とする。点状またはライン状のエンボスを一方のカードに設け、同エンボスと他方のカードの端面とを突き当てることにより位置合わせを行うことも可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常の状態では記録された画像が目視認識できない状態に隠蔽された形状情報が、復号用フィルタを重ね合わせることによって可視化される暗証カードに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ネットワークバンキングなどで、利用者に対し乱数表カードを与え、認証時には指定の位置に記されている番号を入力させることによってネットワーク上で認証する手法が用いられている。しかし、乱数表カードのみでは乱数表カードに記されている内容がそのまま認証に用いられるため盗み見や盗用などの可能性が避け難かった。そこで、さらなる機密性の向上のため、カード単体では内容が隠蔽されるが、利用者が何らかの手法を用いることで隠蔽された情報が可視化されるような技術が求められている。
【0003】
このような要求に対する技術の一つとして視覚復号型暗号技術がある。これは元となる画像情報を、不規則なパターンで構成される複数の画像(シェア画像と呼ぶ)に分散させることによって目視認識できない状態の画像に加工し、それらの画像を重ね合わせることによって元の画像情報が視認可能な状態に復元される技術である。
【0004】
図1は、視覚復号型暗号技術により、元画像10(例えば「T」という形状の画像)から、シェア画像A11とシェア画像B12を生成し、シェア画像A11とシェア画像B12を重ね合わせることで「T」の形状を視認可能な状態に復元する様子を示したものである。ここでは一例として、復元画像13の「T」の形状は黒ベタの画像で示されている。
【0005】
なお、視覚復号型暗号技術の原理やシェア画像の生成手段、それ自体については種々の方式のものが提案されている。その1つが例えば非特許文献1に詳しく解説されている。
また、特許文献1では、隠蔽層などに代わる秘密情報隠蔽手段として、視覚復号型暗号を用いた記録媒体と、その作成に関する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−154215号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】M.Naor andA.Shamir,"Visual Cryptography", Proc. of Eurocrypt'94 May 1994
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、視覚復号型暗号技術は、目視による手操作により復号が可能となる簡便さが利点であるが、一方で、複数のシェア画像を重ねて元の画像を復元するため、重ね合わせの位置精度には厳密さが伴うという弱点がある。例えば、図1の場合、重なりの僅かのずれがあっても、復元画像13の「T」の形状には白の部分が現われ、背景との濃淡差が小さくなるため、復元すべき画像と背景の判別が難しくなるという問題がある。
【0009】
そこで本発明は、視覚復号型暗号技術を用い2つのシェア画像から元となる画像を復元する際に、目視のみに頼らずに、正確な位置合わせができる暗証カードを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決する本発明は、
暗証コードの特定に用いる暗証カードにおいて、
当該暗証カードは第1のカードと可視透明性を有する第2のカードを組とし、
所定の暗証コードを視覚復号型秘密分散法により生成される第1および第2の暗号画像のうち、第1の暗号画像が前記第1のカードの所定位置に、第2の暗号画像が前記第2のカードの所定位置にそれぞれ形成され、かつ、前記第1および第2のカードに前記第1の暗号画像の上に前記第2の暗号画像を重ね合わせて元の暗証コードを視認可能に復号させる位置決め手段を設けたことを特徴とする。
【0011】
また、前記暗号画像は、マトリクス状に配列された複数の領域からなり、前記各領域にコード情報の一つが割り当てられていることを特徴とする。
さらに、前記第1のカードまたは第2のカードの少なくとも一方に、前記マトリクス状に配列された各領域のアドレスを示すアドレス情報を付したことを特徴とする。
なお、前記位置決め手段は、前記第1のカードまたは第2のカードの一方に設けたエンボスであって、一方のカードに設けたエンボスが他方のカードの端面を基準に位置決めするようにしたことを特徴とする。
【0012】
また、前記位置決め手段は、前記第1のカードおよび第2のカードの両方に設けたエンボスであって、カードを重ね合わせることでエンボス同士を嵌合させて位置決めすることもできる。
また、前記第2の暗号画像は、前記第2のカードの、前記第1のカードと接する側の面に、鏡像として形成されるようにし、前記第1および第2の暗号画像が密着できることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明による暗証カードによれば、所定の組を対とするカードを用いて元の画像を復元する際に、当該カードに形成されたエンボスとカード端面、もしくはエンボス同士の嵌合を利用した位置決め手段により、正確な位置合わせが可能となる。さらに、位置あわせの際に、可視透明性を有するカードのシェア画像と他方のカードのシェア画像が形成された膜面同士を重ね合わせるようにすることで、カードの厚みの影響を受けることなく相互のシェア画像が重なり合うため、より一層視認性のよい画像を復元することができる。
また、マトリクス状に配列された領域に割り当てられるコード情報を視覚復号型秘密分散法による暗号画像とすることにより、単なる乱数表カードに止まらず、より高い機密性を有する暗証カードとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】視覚復号型暗号技術の概念図
【図2】暗証カードの外観図
【図3】エンボスによる位置合わせを示す図
【図4】嵌合による位置合わせを示す図
【図5】エンボス加工を示す図
【図6】重ね合わせたシェア画像の見え方を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図2〜6を用いて、本発明の詳細を説明する。
以下、第1のカードをシェアカード(a)、第2のカードをシェアカード(b)と呼ぶ。
図2は、本発明の暗証カードの外観図であり、乱数カードに適用した様態を示す。
図2(A)および(B)は、シェアカード(a)21と、シェアカード(b)22が組なった暗証カードを表わし、図2(C)は、シェアカード(a)21にシェアカード(b)22が所定の位置で重なり、復元画像が現われた状態を示す。
前記シェアカード(a)21は、マトリクス状に配された複数の暗号領域25と、各暗号領域25のアドレスを示すアドレス情報26が付されている。暗号領域25には視覚復号型秘密分散法に暗号化されたコード情報がシェア画像の形で配されている。また、シェアカード(b)22は2、シェアカード(a)21のシェア画像と対となるシェア画像が暗号領域27に配されている。
シェアカード(b)22は可視透明性を有するため、シェアカード(a)21に所定の位置に重ね合わせると、復元時の暗証カード23が示すように、アドレス情報26とともにコード情報28が視認でき、アドレスに対応するコード(図の例では数字)を読み取ることができる。
【0016】
図3は、エンボスによる位置合わせを示す図である。
図3(A)は、シェアカード(a)21にシェアカード(b)22を重ね合わせる様子を示し、シェアカード(a)21にエンボス20のような突起を設け、シェアカード(b)22の端面を合わせることにより、簡便に位置合わせを行うことを表わす。
図3(B)および(C)は図3(A)の平面図で表わしたエンボスの形態の例であり、図3(B)はライン状のエンボス、また、図3(C)は点状のエンボスによる位置合わせの様態を示している。
【0017】
図4は、嵌合による位置合わせを示す図である。
図4(D)はカード表面のエンボス20の配置を示し、図4(E)はエンボス部分の断面拡大図である。図4(E)のように、シェアカード(a)および(b)の位置合わせが、凹凸の嵌め合いで実現できるため、目視のみに頼ることなく、高い精度での位置合わせが可能となる。
【0018】
なお、嵌合のためのエンボスは図4(D)の位置に限らず多様なパターンが考えられるが、少なくとも2つ以上のエンボスが距離を持って配置されていればよい。
また、嵌合による位置合わせで良質な復元画像を得るには、エンボスの位置とシェア画像の位置の見当精度がカード加工上の問題となるが、このためには、エンボス加工を共加工(重ねて同時に加工)とすることが望ましい。例えば、図5に示すように、シェア画像(A)とシェア画像(B)を正確に位置出しし、重ね合わせの後、重ね合わせた状態でプレス加工によりエンボスを形成する、といった方法である。
【0019】
図5は、エンボス加工の一態様を模式的に示したものである。
基本構造は、雌型を兼ねた吸盤台51等にシェアカード(a)および(b)を重ねて固定し、雄型のプレス型でプレスすることにより両カードに同時にエンボスを形成する。エンボス形成に当たっては、上記のように、両カードの位置合わせが重要となるため、図5のエンボス加工では、シェアカード(a)にシェアカード(b)を正確に重ねるための位置制御機構を用いている。すなわち、同制御機構は、シェア画像(A)および(B)を精密に観察するカメラ55を持ち、カメラ55が撮影した画像からシェア画像(A)と(B)の位置の誤差を算出する画像処理装置53、さらに前記誤差を補正するよう二次元の制御を行うXY制御装置54を経て、シェアカード(b)のX方向を制御するX制御機構541およびY方向を制御するY制御機構542により、シェアカード(a)にシェアカード(b)を精密に重ね合わせることを可能とする。
なお、図5の例では、説明の便に位置合わせのための検出対象にシェア画像を用いているが、カメラが撮影する対象はシェア画像に限るものではなく、見当合わせに用いるトンボのようなものであってもよい。
【0020】
図6は、シェア画像の重なり方による復元画像の見え方の違いを表わす図である。
図6(A)に示すシェアカード(a)21上のシェア画像(A)11に対し、図6(B1)に示すようにシェア画像(B)を重ねると、図6(C1)のように、斜め方向から見た復元画像は崩れたパターンとなる(C1画像)。
そこで、図6(B2)に示すように、シェア画像(A)とシェア画像(B)とを密着させるように重ね合わせると、斜め方向から見ても復元像は崩れることなく復元される(C2図)。
【0021】
シェアカード(b)は、携行性や堅牢性を確保しようとすると、一般のカードと同等の0.8mm程度を要す場合も考えられるため、特に乱数表のような用途の暗証カードでは、図6(B2)に示されるシェア画像(B)の配置は極めて有用である。
図6(B2)のように、シェア画像(B)をシェア画像(A)と密着するよう形成するには、シェア画像(B)のパターンを「鏡像」の形でシェアカード(b)上に形成することにより実現できる。
【0022】
以上により、組となるカードの位置合わせが容易で、かつ、見る方向によらず復元画像が視認しやすい暗証カードを提供することができる。
【0023】
本発明の暗証カードは上記各態様に限られるものではなく、以下のような種々に変形された態様も本発明に含まれる。
(1)本発明のカードに用いるカード基材としては、エンボス適性を有するものが好ましく、例えば、ポリ塩化ビニール樹脂、非結晶性ポリエチレンテレフタレート(PET−G)樹脂、ポリカーボネ−ト樹脂、ポリ乳酸樹脂などが挙げられる。
(2)本発明の暗証カードを構成する第1、第2のカードのうち、第1のカード(シェアカード(a))はキャッシュカード、クレジットカード、IDカードなど、ICや磁気記録部を備えた各種目的を有するカードであってもよい。また、上記第1のカードのカード基材は、透明であっても、不透明であってもよい。
(3)図2に示した暗証カードの様態においては、第1のカード(シェアカード(a))上にマトリクス状に配列した暗証領域25のアドレスを示すアドレス情報26を付したが、アドレス情報26は、第2のカード(シェアカード(b))上に設けるようにしてもよい。
(4)また、アドレス情報26は、何れの様態においても可視情報として設けたが、アドレス情報26もシェア画像にしてもよい。このようにすることで、第1のカード、第2のカードにはシェア画像のみが形成され、両カードを重ね合わせた時に初めて、アドレス情報と暗号情報が目視可能に復元されることになる。このような態様とすることで、一層セキュリティ性が増すことになる。
【符号の説明】
【0024】
10 元画像
11 シェア画像(A)
12 シェア画像(B)
13 復元画像
20 エンボス
21 シェアカード(a)
22 シェアカード(b)
26 アドレス情報
25,27 暗号領域
51 吸盤台
52 プレス型
55 カメラ



【特許請求の範囲】
【請求項1】
暗証コードの特定に用いる暗証カードにおいて、
当該暗証カードは第1のカードと可視透明性を有する第2のカードを組とし、
所定の暗証コードを視覚復号型秘密分散法により生成される第1および第2の暗号画像のうち、第1の暗号画像が前記第1のカードの所定位置に、第2の暗号画像が前記第2のカードの所定位置にそれぞれ形成され、かつ、前記第1および第2のカードに前記第1の暗号画像の上に前記第2の暗号画像を重ね合わせて元の暗証コードを視認可能に復号させる位置決め手段を設けたことを特徴とする暗証カード。
【請求項2】
前記暗号画像は、マトリクス状に配列された複数の領域からなり、前記各領域にコード情報の一つが割り当てられていることを特徴とする請求項1記載の暗証カード。
【請求項3】
前記第1のカードまたは第2のカードの少なくとも一方に、前記マトリクス状に配列された各領域のアドレスを示すアドレス情報を付したことを特徴とする請求項2記載の暗証カード。
【請求項4】
前記位置決め手段は、前記第1のカードまたは第2のカードの一方に設けたエンボスであって、一方のカードに設けたエンボスが他方のカードの端面を基準に位置決めするようにしたことを特徴とする請求項1〜3何れかに記載の暗証カード。
【請求項5】
前記位置決め手段は、前記第1のカードおよび第2のカードの両方に設けたエンボスであって、カードを重ね合わせることでエンボス同士を嵌合させて位置決めするようにしたことを特徴とする請求項1〜3何れかに記載の暗証カード。
【請求項6】
前記第2の暗号画像は、前記第2のカードの、前記第1のカードと接する側の面に、鏡像として形成されることを特徴とする請求項1〜5何れかに記載の暗証カード。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−15003(P2011−15003A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−155270(P2009−155270)
【出願日】平成21年6月30日(2009.6.30)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】