説明

曳糸性組成物およびそれを用いた睫毛用化粧料、毛髪用化粧料

【課題】透明性に優れた曳糸性組成物および、それを用いた睫毛用化粧料、毛髪用化粧料を提供する。本発明にかかる睫毛用化粧料はロングラッシュ効果および自然な仕上がり感に優れたものである。
【解決手段】(a)特定の構造式で表されるリジン誘導体変性シリコーンと、(b)シリコーン化プルランとを含有することを特徴とする曳糸性組成物。前記成分(a)リジン誘導体変性シリコーンと、(b)シリコーン化プルランの配合量の比((a)/(b))が2/5〜2/1であることを特徴とする曳糸性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は曳糸性組成物およびそれを用いた睫毛用化粧料、毛髪用化粧料、特にアミノ酸誘導体変性シリコーンを含む曳糸性組成物およびそれを用いた睫毛用、毛髪用化粧料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
成形性、作業性の観点から、化粧品、医薬部外品のみならず、塗料、樹脂などの各種分野で曳糸性を有する組成物の研究が行われている。曳糸性とは、例えば、棒状物の先端を曳糸性組成物中に浸した後、上方へ持ち上げた場合に糸を引くように伸ばすことができる特性である。これを各種用途に適用させるためには、目的に応じた曳糸性および適度な粘稠性が要求される。
【0003】
例えば曳糸性組成物の用途として睫毛用化粧料が挙げられる。この睫毛用化粧料は、睫毛を太く長くみせることで目元をはっきりさせる効果を有するものであり、その目的のために曳糸性成分を配合し、睫毛にボリューム感やロングラッシュ効果を付与することが図られる。具体的には曳糸性の水溶性高分子である高重合度ポリエチレングリコールを睫毛用化粧料に配合して睫毛のボリュームアップを図り、かつ長くみせようとする技術がある(例えば、特許文献1を参照)。
一方で、睫毛用化粧料に繊維を粘着性被膜形成剤と共に配合し、繊維を睫毛に塗布させて睫毛をボリュームアップさせる技術も種々開発されている(例えば、特許文献2を参照)。
【特許文献1】特開平11−79940号公報
【特許文献1】特表2004−517092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記曳糸性の水溶性高分子を配合した睫毛用化粧料は、ある程度のボリューム感が得られるものの、曳糸性は十分でなくロングラッシュ効果は十分満足できるものではなかった。また、効果の向上のために配合量を高めてしまうと、他の油性成分との相溶性が悪くなることに起因して透明感が低下し、その結果、美的効果が劣るものとなってしまう。
繊維を配合した睫毛用化粧料は、ロングラッシュ効果は高いものの、繊維が睫毛に過剰に塗布されると不自然な仕上がりになり、さらに繊維による光の散乱のためにツヤのある外観が得られない。また、被膜剤が固過ぎてしまうことによって繊維が目の下に粉状に落ちてしまう場合がある。
本発明は前述の事情に鑑みなされたものであり、その目的は、透明性に優れた曳糸性組成物、さらにそれを睫毛用化粧料に用いた場合には、繊維を配合しなくても睫毛を長く見せる効果に優れ、自然な仕上がり感を付与することが可能な睫毛用化粧料、そして毛髪用化粧料に用いた場合には、自由な形に髪をセットすることができ、髪型がくずれにくい毛髪用化粧料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記目的を達成するために、本発明者らが鋭意研究を行った結果、特定のリジン誘導体変性シリコーンとシリコーン化プルランを含む組成物において、透明性に優れた曳糸性粗組成物が得られ、それを睫毛用化粧料に用いた場合には、ロングラッシュ効果および自然な仕上がり感に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明の曳糸性組成物は、
(a)下記一般式(I)〜(III)のいずれかで表されるリジン誘導体変性シリコーンと、
(b)下記一般式(V)で表されるシリコーン化プルランとを含有することを特徴とする。
【化4】

(式中、RおよびRは互いに同一でも異なっても良く、下記式(IV)で表される基を表し、xは1〜900の整数を表す。)
【化5】

(式中、Rは炭素数2〜30のアルキル基を表し、nおよびmは1〜20の整数を表す。)
【化6】

(式中、Rは水素原子または[(CHSiO]Si(CHNHCO基を意味する。)
【0006】
前記本発明にかかる曳糸性組成物において、(a)上記一般式(I)〜(III)のいずれかで表されるリジン誘導体変性シリコーンと(b)上記一般式(V)で表されるシリコーン化プルランの配合量比((a)/(b))が2/5〜2/1であることが好適である。
【0007】
前記本発明にかかる曳糸性組成物において、さらに(c)油分を含むことを特徴とする。
また、前記(c)油分の総重量の20質量%以上がシリコーン油であることが好適である。
【0008】
また、本発明は前記曳糸性組成物を用いた睫毛用化粧料を提供するものである。
また、本発明は前記曳糸性組成物を用いた毛髪用化粧料を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、特定のリジン誘導体変性シリコーンおよび特定のシリコーン化プルランを含む曳糸性組成物において、極めて優れた透明性を有し、それを睫毛用化粧料に用いた場合には、繊維を配合せずとも睫毛を長く見せる効果に優れ、自然な仕上がり感を付与することが可能である睫毛用化粧料、および髪を自由な形にセットすることができ、髪型がくずれにくい毛髪用化粧料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
本発明にかかる曳糸性組成物における「曳糸性」とは、棒状物の先端を該曳糸性組成物中に浸した後、上方へ持ち上げた場合に糸を引くように伸ばすことができる特性であり、目視で確認可能なものとする。
【0011】
(a)リジン誘導体変性シリコーン
本発明におけるリジン誘導体変性シリコーンは、下記一般式(I)〜(III)のいずれかで表される。
【化7】

(式中、RおよびRは互いに同一でも異なっても良く、下記式(IV)で表される基を表し、xは1〜900の整数を表す。)
【化8】

(式中、Rは炭素数2〜30のアルキル基を表し、nおよびmは1〜20の整数を表す。)
【0012】
上記化合物のうち、特に好ましい化合物は一般式(I)および(II)の構造において、xが50〜200、nおよびmが10、Rがエチル基もしくはイソブチル基である化合物である。
具体的には、下記式(VI)〜(IX)で表される構造を有する化合物である。
【化9】

【0013】
本発明にかかる曳糸性組成物を睫毛用化粧料または毛髪用化粧料に用いる場合、上記一般式(I)〜(III)で表されるリジン誘導体変性シリコーンの好適な配合量(実分)は、化粧料全体において1〜20質量%、より好ましくは3〜10質量%である。配合量が1質量%未満であると、十分な曳糸性が得られない場合がある。また、20質量%を超えると、のびが悪く、自然な仕上がり感に劣る場合がある。
【0014】
(b)シリコーン化プルラン
本発明にかかる曳糸性組成物に含まれるシリコーン化プルランは、下記一般式(V)で表される。
【化10】

(式中、Rは水素原子または[(CHSiO]Si(CHNHCO基を意味する。)
本発明にかかる曳糸性組成物において、上記シリコーン化プルランは、公知の製法により製造したものを用いることができる(例えば、特開平10−29910号公報)。
【0015】
本発明にかかる曳糸性組成物を睫毛用化粧料または毛髪用化粧料に用いる場合、上記シリコーン化プルランの好適な配合量(実分)は、化粧料全体において1〜20質量%、より好ましくは3〜10質量%である。配合量が1質量%未満であると、十分な曳糸性が得られない場合がある。また、20質量%を超えると、のびが悪く、自然な仕上がり感に劣る場合がある。
【0016】
さらに、本発明にかかる曳糸性組成物において、前記(a)リジン誘導体変性シリコーンおよび(b)シリコーン化プルランの配合量比((a)/(b))は2/5〜2/1であることが好ましい。このような配合量比であるときに、曳糸性組成物に適度な稠度を持った曳糸性および優れた透明性が得られる。また該曳糸性組成物を睫毛用化粧料に用いた場合には、のびが良く、かつロングラッシュ効果に優れたものとなる。
【0017】
(c)油分
本発明で用いる油分として、シリコーン油、炭化水素油、エステル油、脂肪酸類、高級アルコール、ロウ類、ワックス類、フッ素系油脂、動植物油脂類などの常温で液状の油分、ないし常温で固体、半固体の油分が適宜用いられる。具体的には、メチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等のシリコーン油、流動パラフィン、イソパラフィン、スクワラン、スクワレン等の炭化水素油、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸2−オクチルデシル、ミリスチン酸2−オクチルドデシル、2−エチルヘキサン酸セチル、2−エチルヘキサン酸2−エチルヘキシル、2−エチルヘキサン酸イソノニル、パルミチン酸2−エチルヘキシル、ステアリン酸2−ヘキシルデシル、イソステアリン酸エチル、イソステアリン酸イソプロピル、サリチル酸2−エチルヘキシル等のエステル油、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、マイクロクリスタリンワックス等のワックス類、オリーブ油、ツバキ油、マカデミアナッツ油、ヒマシ油等の油脂等が挙げられる。
本発明においては、上記油分の1種または2種以上を用いてもよい。
本発明にかかる曳糸性組成物に油分を配合する場合、好適な配合量は60質量%以上である。配合量が60質量%未満であると、適度な稠度、すなわち曳糸性が維持できず本発明においては好ましくない。
【0018】
さらに、上記油分の総重量のうち、シリコーン油が20質量%以上をしめることが好適である。シリコーン油を含むことにより、前記成分(a)リジン誘導体変性シリコーンおよび(b)シリコーン化プルランを含む曳糸性組成物において、油分との相溶性が良好になるため好ましい。さらに該曳糸性組成物を睫毛用化粧料に用いた場合には、揮発性のシリコーン油であると、睫毛に塗布した後に油分の大部分が揮発することによって流動性が低下し、ロングラッシュ効果が長時間維持されるため好ましい。
また、ここでいう「油分の総重量」とは、曳糸性組成物における油分の総重量、または曳糸性組成物を用いた睫毛用化粧料および毛髪用化粧料の全体における油分の総重量のことを意味する。
【0019】
ここで「揮発性」とは、常圧における沸点が60〜260℃の範囲である成分を意味するものとする。本発明で用いられる揮発性のシリコーン油としては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等の鎖状ポリシロキサン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン、ドデカメチルシクロヘキサシロキサン、テトラメチルテトラハイドロジェンシクロテトラシロキサン等の環状ポリシロキサン等が挙げられる。また、これらの商品例を挙げるとすると、例えば、KF96L−0.65、KF96L−1、KF96L−1.5、KF995、(信越化学工業)、SH200−1cs、SH200−1.5cs、SH200−2cs(東レダウコーニングシリコーン)、TSF404、TSF405、TSF4045(東芝シリコーン)等である。
【0020】
本発明において、前述の曳糸性組成物を睫毛用化粧料および毛髪用化粧料に用いることが可能である。特に睫毛用化粧料に用いた場合には、該化粧料に繊維を配合せずとも睫毛を長く太く見せる効果に優れたものとなる。該曳糸性組成物の特性を生かして、透明性に優れた自然な仕上がり感が得られる。
また、毛髪化粧料に用いた場合には、髪に「つや」「みずみずしさ」を与え、本発明にかかる曳糸性組成物の持つ滑らかで腰のある整髪性に優れたものが得られる。
本発明にかかる曳糸性組成物は、前記化粧料の他、塗料、表面処理剤等の各種製品の増粘剤としても用いることが可能である。
【0021】
本発明にかかる睫毛化粧料および毛髪化粧料には色材を配合することが可能である。色材は、一般にメーキャップ化粧料に用いられるものであれば特に制限されない。例えばタルク、マイカ、カオリン、シリカ、炭酸カルシウム、亜鉛華、二酸化チタン、赤酸化鉄、黄酸化鉄、黒酸化鉄、群青、紺青、カーボンブラック、低次酸化チタン、コバルトバイオレット、酸化クロム、水酸化クロム、チタン酸コバルト、オキシ塩化ビスマス、チタン−マイカ系パール顔料などの無機顔料;赤色201号、赤色202号、赤色204号、赤色205号、赤色220号、赤色226号、赤色228号、赤色405号、橙色203号、黄色205号、黄色4号、黄色5号、青色1号、青色404号、緑色3号などのジルコニウム、バリウム又はアルミニウムレーキなどの有機顔料;クロロフィル、β−カロチンなどの天然色素;染料等が挙げられる。これらの色材は1種又は2種以上を用いることができる。
【0022】
色材の配合量は適宜調整される。好ましくは0.1〜30質量%であり、さらに好ましくは3〜20質量%である。30質量%を超えて配合すると、付着性の点で好ましくない。0.1質量%未満では色材の効果が不十分となる場合がある。
【0023】
また、本発明にかかる睫毛化粧料および毛髪化粧料には前記必須成分以外の被膜形成樹脂を配合してもよい。具体的には、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリル酸アルキルなどのラテックス類、デキストリン、アルキルセルロースやニトロセルロースなどのセルロース誘導体、トリメチルシロキシケイ酸などが用いられる。これの樹脂は1種又は2種以上が選択して用いられる。
【0024】
また、本発明にかかる睫毛化粧料および毛髪化粧料には前記必須成分以外の多糖類および水溶性高分子を配合してもよい。水溶性高分子としては、多糖類、水溶性の天然高分子、半合成高分子、無機高分子等が挙げられる。
具体的には、多糖類としては、セルロース、デンプン、グリコーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチン、グアガム、ローカストビンガム、クインスシード、ガラクタン、アラビアガム、トラガントガム、キサンタンガム、デキストラン、サクシノグルカン、コンドロイチン硫酸、ムコイチン硫酸等が挙げられる。
【0025】
水溶性天然高分子としては、カラギーナン、グリチルリチン酸、キャロブガム、ペクチン、カラヤガム、アルゲコロイド(カッソウエキス)等の植物系高分子、デキストラン、ブルラン等の微生物系高分子、コラーゲン、アルブミン等の動物系高分子等が挙げられる。
水溶性の半合成高分子としては、カルボキシメチルデンプン、メチルヒドロキシプロピルデンプン等のデンプン系、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、結晶セルロース、メチルヒドロキシプロピルセルロース、セルロース硫酸Na、カルボキシメチルセスロースNa(CMC)、セルロース末等のセルロース系、アルギン酸Na、アルギン酸プロピレングリコールエステル等のアルギン酸系が挙げられる。
水溶性の合成高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルメチルエーテル等のビニル系、ポリエチレングリコール等のポリオキシエチレン系、ポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレン共重合体等の共重合系、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド、ポリエチルアクリレート等のアクリル系、ポリエチレンイミン、カチオンポリマー等が挙げられる。
水溶性の無機高分子としては、ベントナイト、ラポナイト、無水ケイ酸等が挙げられる。 これらの多糖類、水溶性高分子は1種又は2種以上が選択して用いられる。
【0026】
本発明にかかる睫毛用化粧料および毛髪用化粧料には、上記成分に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で通常化粧料、医薬部外品等に用いられる成分を配合することができる。このような成分としては、例えば、保湿剤、分散剤、防腐剤、香料、薬剤、紫外線吸収剤、増粘剤などが挙げられる。
本発明にかかる睫毛用化粧料および毛髪用化粧料の形態は、W/O乳化または油性の形態を好ましくとるが、この限りではない。
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。配合量については特に断りのない限り質量%を示す。
【実施例1】
【0027】
[製造例1]Nε−ラウロイル−L−リジンイソブチルエステル誘導体変性シリコーン
(1)20.1gのNε−ラウロイル−L−リジンを205mlのエタノ−ルに懸濁させた。反応溶液を氷冷後、乾燥塩化水素ガスを飽和になるまで導入し、6時間撹拌した。
次にエタノ−ルを留去後、250mlのジイソブチルエーテルを加え、吸引濾過後、精製水300mlを加えた。この溶液に精製水70mlに溶かしたモルホリン55gを撹拌しながらゆっくりと加え、析出した白色粉末をろ別した。得られた白色粉末は、n−ヘキサンから再結晶を行い、Nε−ラウロイル−L−リジンイソブチルエステル20.1gを得た。
(2)アジ化ナトリウム45.5gに精製水150gを加え、氷水中で冷却しながら、撹拌して完全に均一な溶液とした。ここに10−ウンデセノイルクロライド101.4gとアセトン150mlを混合した溶液を少しずつ、溶液の温度が10〜15℃の範囲になるように滴下した。添加終了後、12℃付近で1時間撹拌した。
次に溶液を分液ロートに移し、水層と有機層を分けた。有機層を60℃に維持した500mlのトルエンにゆっくりと加え、温度50〜60℃の範囲で3時間撹拌を行ったートルエンを留去後、減圧蒸留することで10−ウンデセノイルイソシアネート73.2gを得た。
(3)次式
【化11】

で表されるSi−H化合物92.6gと10−ウンデセノイルイソシアネート7.4gをトルエン100gに加え、85℃に加温した後、白金ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体トルエン溶液(白金濃度0.3質量%)0.33gを加え、3時間撹拌したートルエンと余剰のイソシアネート化合物を減圧留去した後、新たにトルエン1000gとNε−ラウロイル−L−リジンイソブチルエステル10.5gを加え、90℃で6時間撹拌したートルエンを留去後、得られた透明ゴム状固体をヘキサン1000gに加熱溶解させ、熱ろ過した。ろ液からヘキサンを留去後、固体を得た。
次に得られた固体を細かく砕き、25℃のヘキサンでよく洗いながら吸引ろ過を行った後、減圧乾燥することで上記式(VI)で表される粉末状のリジン誘導体変成シリコーン(Nε−ラウロイル−L−リジンイソブチルエステル誘導体変性シリコーン)20.3gを得た。
【実施例2】
【0028】
続いて、本発明者らは、上記合成例に準じて各種リジン誘導体変性シリコーンを合成し、当該リジン誘導体変性シリコーンを配合した曳糸性組成物の評価を行った。各試験例の曳糸性組成物の配合組成と評価結果とを下記に併せて示す。
(b)成分として、シリコーン化プルラン(3−[トリス(トリメチルシロキサン)シリル]プロピルカルバド酸プルラン混合物、商品名:TSPL−30−D5、信越化学工業株式会社製。3−[トリス(トリメチルシロキサン)シリル]プロピルカルバド酸プルラン混合物を30%含有する。)を使用した。また(c)成分としてデカメチルシクロペンタシロキサン、ジメチルポリシロキサン、イソノナン酸イソノニルを使用した。
【0029】
評価基準は以下の通りである。
(1)官能評価:曳糸性
あらかじめ石鹸で洗浄した手の甲に、上記成分を含む試料を各1g塗布し、指を試料に押し付けた後に指を上方に引き離したときの曳糸性を、専門パネル(20名)の目視により評価した。評価基準は、きわめてよく伸びると感じた場合は3点、適度に伸びると感じた場合は2点、若干伸びると感じた場合は1点、伸びないと感じた場合は0点とし、その合計点を算出した。
◎:合計点が46点以上。
○:合計点が36点〜45点。
△:合計点が26点〜35点。
×:合計点が25点以下。
【0030】
(2)官能評価:透明性
サンプルを5mm厚になるように透明樹脂容器に流し込み、25℃にて容器下に置いたフォント88のTimes New Romanの文字の見える鮮明さを、専門パネル(20名)により評価した。
5点:非常に文字がハッキリと見え、鮮明度が非常に高い。
4点:文字がハッキリと見え、鮮明度が高い。
3点:文字が見えるが、鮮明度がやや劣る。
2点:かろうじて文字が見えるが、鮮明度に劣る。
1点:文字が読めず、不透明である。
これらの合計点を算出した。
◎:合計点が91点以上。
○:合計点が71〜90点。
△:合計点が41〜70点。
×:合計点が40点以下。
【0031】
本発明にかかる曳糸性組成物を用い睫毛用化粧料に関しては以下の項目についても評価した。
(3)塗布性
専門パネル(20名)により、睫毛に各試料(マスカラ)を塗布したときの、マスカラの塗布のしやすさを官能評価した。評価基準は極めて塗布しやすいと感じた場合には3点、適度に塗布しやすいと感じた場合には2点、塗布しにくいと感じた場合には1点、極めてぬりのばしにくく塗布しにくいと感じた場合には0点とし、その合計点を算出した。
○:合計点が41点以上。
△:合計点が26〜40点。
×:合計点が25点以下。
【0032】
(4)ロングラッシュ効果
専門パネル(20名)により、睫毛に各試料(マスカラ)を10回塗布し、塗布前後の睫毛の長さを目視により観察し、官能でロングラッシュ効果を評価した。評価基準は、睫毛が極めて長くなったと感じた場合には3点、適度に長くなったと感じた場合には2点、若干長くなったと感じた場合には1点、塗布前と変化を感じなかった場合には0点とし、その合計点を算出した。
○:合計点が41点以上。
△:合計点が26〜40点。
×:合計点が25点以下。
【0033】
(5)自然な仕上がり感
専門パネル(20名)により、睫毛に各試料(マスカラ)を10回塗布し、目視により自然な仕上がり感を評価した。評価基準は優れた自然な仕上がり感があると感じた場合には3点、適度な仕上がり感であると感じた場合には2点、あまり自然な仕上がり感ではないと感じた場合には1点、極めて不自然な仕上がり感であると感じた場合には0点とし、その合計点を算出した。
○:合計点が41点以上。
△:合計点が26〜40点。
×:合計点が25点以下。
【0034】
<リジン誘導体変性シリコーンの種類>
リジン誘導体変性シリコーンの適正について検討するために下記に示す各種リジン誘導体変性シリコーンを前述の製造例1に準じて合成し、それらを配合した組成物の評価を行った。その結果を下記表1に示す。
合成リジン誘導体変性シリコーンの構造
【化12】

【0035】
【表1】

※1:商品名 レオパールKL、千葉製粉株式会社製
(製法)上記成分(1)〜(9)を90℃に加熱し、攪拌混合した後冷却し、各々の試料を得た。
【0036】
上記表1の結果から明らかなように、各種リジン誘導体変性シリコーンをシリコーン化プルランと組み合わせた試験例1〜4において、優れた曳糸性および透明性を有する組成物が得られた。
一方、試験例5のようにシリコーン化プルランを配合しないと、所望とする曳糸性は得られず、固いゲルの組成物であった。また、リジン誘導体変性シリコーンに変わり、増粘剤であるパルミチン酸デキストリンを配合すると(試験例6)、やや粘稠なゲルとなり、また透明性に欠くものであった。
次に、リジン誘導体変性シリコーンと従来の油性被膜形成剤とを組み合わせた組成物の評価を行った。その結果を下記表2に示す。
【0037】
【表2】

(製法)上記成分(1)〜(8)を90℃に加熱し、攪拌混合した後冷却し、各々の試料を得た。
【0038】
上記表2の結果から明らかなように、リジン誘導体変性シリコーンと従来の油性被膜形成剤とを組み合わせた試験例7〜9において、透明性が劣るものであり、また所望とする曳糸性が十分でなく、固いゲルが形成される結果となった。曳糸性を有する油性被膜剤であるイソステアリン酸アルミニウムを油分とを混合した試験例10においては、曳糸性はあるものの、本発明にかかる曳糸性組成物にみられる透明感に優れる曳糸性とは異なり、ややべたつき感の強いものであった。また極性油分であるエステル油との共存により、イソステアリン酸アルミニウムのゲル構造の破壊による安定性の低下が危惧されるため、曳糸性組成物を化粧料に用いた場合に、共に配合する成分が制限されるという欠点が存在する。
【0039】
以上の結果から、リジン誘導体変性シリコーンとシリコーン化プルランとの組み合わせにおいて、極めて優れた曳糸性および透明性を見出した本発明者らは、上記2成分の好適な配合量比の検討を実施した。その結果を下記表3に示す。
<リジン誘導体変性シリコーンとシリコーン化プルランの配合比>
【表3】

(製法)上記成分(1)〜(4)を90℃に加熱し、攪拌混合した後冷却し、各々の試料を得た。
【0040】
上記表3より明らかなように、前記(a)リジン誘導体変性シリコーン(VI)と(b)シリコーン化プルランの1種である3−[トリス(トリメチルシロキサン)シリル]プロピルカルバド酸プルラン混合物の配合量比は2/5〜2/1であるときに、曳糸性組成物の曳糸性が優れていることがわかる。この範囲を逸脱する試験例1は、適度な曳糸性にかけ非常に極めて高い流動性のため成形性が十分ではなく、一方試験例5は粘度が固くなりすぎて、糸を引くような滑らかな感触に欠けるものであった。
次に、本発明にかかる曳糸性組成物を利用した睫毛用化粧料において、共に配合する各種成分についての検討を行った。最初に成分(a)リジン誘導体変性シリコーンの好適な配合量の検討結果を下記表4に示す。
【0041】
<(a)リジン誘導体変性シリコーンの好適な配合量>
【表4】

※2:商品名 シリコーンKF6017、信越化学工業株式会社製
※3:商品名 エマレックスRWIS−320、日本エマルジョン株式会社製
(製法)成分(1)、(2)を含む油相部を90℃に加熱し攪拌して均一にする。水相部も90℃に加熱し、前記油相部に添加して乳化した後、室温まで冷却して各試料を得た。
【0042】
上記表4より明らかなように、試験例16ではリジン誘導体変性シリコーンの配合量が1質量%と少ないため、粘性が高く睫毛に塗布しにくいものである。また自然な仕上がり感に欠けるものである。さらに、試験例20はリジン誘導体変性シリコーンの配合量が多いために固いゲルとなってしまい睫毛用化粧料としては不適なものであった。
以上の結果から、本発明にかかる曳糸性組成物を睫毛用化粧料に用いた場合には、成分(a)リジン誘導体変性シリコーンの好適な配合量は3〜10質量%であることが分かる。
続いて、本発明にかかる曳糸性組成物を利用した睫毛用化粧料における、成分(b)シリコーン化プルランの好適な配合量の検討を行った。その結果を下記表5に示す。
【0043】
<(b)シリコーン化プルランの好適な配合量>
【表5】

(製法)上記成分(1)〜(10)を90℃に加熱し、攪拌混合した後冷却し、各々の試料を得た。
【0044】
上記表5より明らかなように、試験例21ではシリコーン化プルランの配合量が1質量%と少ないため、曳糸性組成物が得られず、睫毛に塗布したときのロングラッシュ効果がみられない。さらに、試験例25はシリコーン化プルランが多いために粘性が高く睫毛に塗布しにくいものであり、睫毛用化粧料としては不適なものであった。
以上の結果から、本発明にかかる曳糸性組成物を睫毛用化粧料に用いた場合には、成分(b)シリコーン化プルランの好適な配合量は3〜10質量%であることが分かる。
次に、本発明にかかる曳糸性組成物を利用した睫毛用化粧料における油分の検討を行った。その結果を下記表6に示す。
【0045】
<油分の種類>
【表6】

※4:特開2005−344076 実施例7の化合物
(製法)上記成分(1)〜(12)を90℃に加熱し、攪拌混合した後冷却し、各々の試料を得た。
【0046】
上記表6の結果から明らかなように、本発明にかかる睫毛用化粧料において油分として揮発性シリコーン油が配合されていないと、透明感のある自然な仕上がりに欠けるものであった。また、睫毛に塗布した後に、該化粧料の固化が十分になされず、睫毛をこすると化粧持ちの点で問題が残るものであった。
また、揮発性シリコーン油が配合されていても、油分全体に占める揮発性シリコーン油の割合が低いと(試験例30)、前述と同様に化粧落ちの点で若干問題があった。
以上の結果から、本発明にかかる曳糸性組成物を用いた睫毛用化粧料においては、油分として揮発性シリコーン油を含むことが好ましく、油分の総量において揮発性シリコーン油が60%以上を占めることがより好ましいことが明らかである。
さらに、本発明者らは本発明にかかる睫毛用化粧料と、従来からロングラッシュ効果のために繊維を配合した睫毛用化粧料とを比較検討した。その結果を下記表7に示す。
【0047】
【表7】

(製法)上記成分(1)〜(11)を90℃に加熱し、攪拌混合した後冷却し、各々の試料を得た。
【0048】
上記表7の結果から明らかなように、本発明にかかる睫毛用化粧料は繊維を配合せずともロングラッシュ効果に優れていることが分かる。繊維を配合した試験例32にでは、自然な仕上がり感および塗布性が劣るものである。また、繊維配合の化粧料を塗布すると、時間の経過とともに、繊維落ちにより目の下の汚れが気になり、目の中へ入り込む可能性も危惧されるという問題がある。
以上の結果より、本発明にかかる曳糸性組成物を用いた睫毛用化粧料は、繊維を配合しなくても睫毛を長く見せる効果に優れ、塗布性、自然な仕上がり感も良好であることが明らかである。
【実施例3】
【0049】
以下、本発明にかかる曳糸性組成物を用いた化粧料の実施例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例3−1:W/Oマスカラ
(1)リジン誘導体変性シリコーン(VII) 6.0 質量%
(2)3−[トリス(トリメチルシロキサン)シリル] 6.0
プロピルカルバド酸プルラン混合物
(3)ジメチルポリシロキサン(6mPa・s) 2.0
(4)デカメチルシクロペンタシロキサン 10.0
(5)軽質イソパラフィン 7.0
(6)トリメチルシロキシケイ酸 10.0
(7)メチルポリシロキサンエマルション 適量
(商品名:BY22-080 cosmetic emulsion、東レダウコーニング株式会社製)
(8)ジオレイン酸ポリエチレングリコール 2.0
(9)ジイソステアリン酸ジグリセリル 2.0
(10)1,3−ブチレングリコール 4.0
(11)炭酸水素ナトリウム 0.2
(12)酢酸DL−α−トコフェロール 0.1
(13)パラオキシ安息香酸エステル 適量
(14)デヒドロ酢酸ナトリウム 適量
(15)黒酸化鉄 7.0
(16)海藻エキス 0.1
(17)ベントナイト 1.0
(18)ジメチルジステアリルアンモニウムヘクトナイト 6.0
(19)ポリ酢酸ビニルエマルション 30.0
(商品名:ビニブラン S−40、日信化学工業株式会社製)
(20)精製水 残部
(製法)(製法)成分(1)、(2)を含む油相部を90℃に加熱し攪拌して均一にする。水相部も90℃に加熱し、前記油相部に添加して乳化した後、室温まで冷却してマスカラ容器に充填した。
【0050】
実施例3−2:油性マスカラ
(1)リジン誘導体変性シリコーン(VII) 5.0 質量%
(2)3−[トリス(トリメチルシロキサン)シリル] 5.0
プロピルカルバド酸プルラン混合物
(3)メチルハイドロジェンポリシロキサン 1.0
(4)デカメチルシクロペンタシロキサン 40.0
(5)軽質イソパラフィン 残量
(6)トリメチルシロキシケイ酸 15.0
(7)ポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)
メチルポリシロキサン共重合体 2.0
(下記一般式(1)において、m=400、n=10、x=3、y=19、z=19、R=H分子量約55,000のもの。)
【化13】

(8)ヒマシ油 2.0
(9)キャンデリラロウ 5.0
(10)イソステアリン酸 3.0
(11)オレイン酸 1.0
(12)トリ2−エチルヘキサン酸グリセリル 2.0
(13)ムクロジエキス 0.1
(13)カラスムギエキス 0.1
(14)テトラデセン 0.1
(15)ポリエチレン 5.0
(16)マイクロクリスタリンワックス 5.0
(製法)上記成分(1)〜(16)を90℃に加熱し、攪拌混合した後冷却し、マスカラ容器に充填した。
【0051】
実施例3−3:毛髪用化粧料(ヘアワックス)
(1)リジン誘導体変性シリコーン(VII) 5.0 質量%
(2)3−[トリス(トリメチルシロキサン)シリル] 5.0
プロピルカルバド酸プルラン混合物
(3)ジメチルポリシロキサン(6mPa・s) 10.0
(4)メチルフェニルポリシロキサン 5.0
(5)高重合メチルポリシロキサン 10.0
(6)ポリオキシプロピレン(40)ブチルエーテル 残余
(7)サラシミツロウ 10.0
(8)モクロウ 5.0
(9)カルナウバロウ 1.0
(10)親油型モノステアリン酸グリセリン 8.0
(11)自己乳化型モノステアリン酸グリセリン 10.0
(12)香料 適量
(製法)上記成分(1)〜(12)を90℃に加熱し、攪拌混合した後冷却して目的の毛髪用化粧料を得た。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)下記一般式(I)〜(III)のいずれかで表されるリジン誘導体変性シリコーンと、
(b)下記一般式(V)で表されるシリコーン化プルランとを含有することを特徴とする曳糸性組成物。
【化1】

(式中、RおよびRは互いに同一でも異なっても良く、下記式(IV)で表される基を表し、xは1〜900の整数を表す。)
【化2】

(式中、Rは炭素数2〜30のアルキル基を表し、nおよびmは1〜20の整数を表す。)
【化3】

(式中、Rは水素原子または[(CHSiO]Si(CHNHCO基を意味する。)
【請求項2】
請求項1に記載の曳糸性組成物において、(a)上記一般式(I)〜(III)のいずれかで表されるリジン誘導体変性シリコーンと、(b)上記一般式(V)で表されるシリコーン化プルランの配合量の比((a)/(b))が2/5〜2/1であることを特徴とする曳糸性組成物。
【請求項3】
請求項1または2に記載の曳糸性組成物において、さらに(c)油分を含むことを特徴とする曳糸性組成物。
【請求項4】
請求項3に記載の曳糸性組成物において、(c)油分の総重量の20質量%以上がシリコーン油であることを特徴とする曳糸性組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の曳糸性組成物を基剤として含有する睫毛用化粧料。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載の曳糸性組成物を基剤として含有する毛髪用化粧料。

【公開番号】特開2007−314655(P2007−314655A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−145216(P2006−145216)
【出願日】平成18年5月25日(2006.5.25)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】